特許第6206711号(P6206711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206711
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/08 20060101AFI20170925BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20170925BHJP
   C08L 61/34 20060101ALI20170925BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20170925BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C08L25/08ZBP
   C08L67/04
   C08L61/34
   C08L101/16
   C08J3/24 Z
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-201487(P2013-201487)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-67665(P2015-67665A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】庄司 賢人
(72)【発明者】
【氏名】野々川 大吾
(72)【発明者】
【氏名】福喜多 剛
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−116785(JP,A)
【文献】 特開2005−247888(JP,A)
【文献】 特開2008−144025(JP,A)
【文献】 特開2008−050427(JP,A)
【文献】 特表2008−504404(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/120722(WO,A1)
【文献】 特開2010−090187(JP,A)
【文献】 特開2011−084704(JP,A)
【文献】 特開2012−201818(JP,A)
【文献】 特開2013−163757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/00 − 25/18
C08L 67/00 − 67/08
C08L 101/16
C08J 3/00 − 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンメタクリル酸共重合体(A)と、ポリ乳酸(B)と、エポキシ化オイル(C)と前記スチレンメタクリル酸共重合体以外のスチレン系樹脂(D)を含有することを特徴とするスチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化オイル(C)が、エポキシ化大豆油又はエポキシ化亜麻仁油である請求項1記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
スチレンメタクリル酸共重合体(A)とポリ乳酸(B)とエポキシ化オイル(C)とが反応してなる化合物(E)を含むものである請求項1又は2記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記化合物(E)が、ポリ乳酸(B)中のカルボキシ基と、エポキシ化オイル(C)中のエポキシ基の一部とを反応させた後、更にスチレンメタクリル酸共重合体(A)を反応系に加えて残りのエポキシ基とスチレンメタクリル酸共重合体(A)中のカルボキシ基を反応させて得られるブロック共重合体である請求項3記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレンメタクリル酸共重合体以外のスチレン系樹脂(D)が、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン又は多分岐状ポリスチレンである請求項1〜4の何れか1項記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
(1)ポリ乳酸(B)とエポキシ化オイル(C)とを溶融混練する工程、
(2)(1)の工程の後、スチレンメタクリル酸共重合体(A)を加えて更に溶融混練する工程、
(3)(2)の工程の後、更にポリ乳酸(B)と前記スチレンメタクリル酸共重合体以外のスチレン系樹脂(D)を加えて溶融混練する工程
を有することを特徴とするスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記工程(1)におけるポリ乳酸(B)と、エポキシ化オイル(C)の使用割合が、ポリ乳酸(B)中のカルボキシ基/エポキシ化オイル(C)中のエポキシ基で表されるモル比として1/1.1〜1/20の範囲である請求項6記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記工程(2)におけるスチレンメタクリル酸共重合体(A)の使用割合が、(1)の工程において、ポリ乳酸(B)中のカルボキシ基全量がエポキシ化オイル(C)中のエポキシ基と反応した場合の理論残存エポキシ基のモル数に対して、スチレンメタクリル酸共重合体(A)中のカルボキシ基のモル数が0.1〜150倍の範囲になるように用いるものである請求項6又は7記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記工程(3)におけるポリ乳酸(B)の使用割合が、工程(2)の後の理論質量に対して0.5〜5.0倍の範囲である請求項6〜8の何れか1項記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記工程(3)における前記スチレンメタクリル酸共重合体以外のスチレン系樹脂(D)の使用割合が、工程(2)の後の理論質量に対して0.5〜10.0倍の範囲である請求項6〜9の何れか1項記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂とポリ乳酸とエポキシ化オイルを含有したスチレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生分解性を有する各種ポリマーを含有したプラスチック製品を使用することは、環境保護の観点から、植物由来原料の使用が石油資源節約の観点から好ましいことが一般消費者にも認識されるようになり、工業製品にも生分解性ポリマー、植物由来ポリマーを原料とする試みが広く行われてきている。
【0003】
特にポリ乳酸は、植物由来かつ生分解性を有するポリマーであり、かつ生分解性ポリマーの中でも、比較的高い融点と強靭性、透明性、耐薬品性を兼ね備えている点から、実用上優れたポリマーと認識されている。
【0004】
一方、スチレン系樹脂は、成形加工性に優れ、剛性などの実用物性に優れている。そこで、これら樹脂の特長をそれぞれ生かす検討がなされている。例えば、特定のスチレン系樹脂とポリ乳酸とを配合し、流動性の確保及び機械物性の改良を行う検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、スチレン系樹脂とポリ乳酸の相溶性は非常に悪く、単純に配合・溶融混合しただけでは、市場が求める物性やそれぞれの樹脂特性を活かした製品設計をすることは困難である。前記特許文献1では、芳香族ビニル単量体と不飽和カルボン酸化合物の共重合体からなるスチレン系樹脂を、汎用のスチレン系樹脂と組み合わせて用いることで、相溶性を向上させうることが記載されているが、当該組成物の流動性や機械的物性は、実用レベルに達するものではなく、さらなる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−050427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、スチレン系樹脂及びポリ乳酸の有するそれぞれの有用性を損なうことなくこれらを併用してなるスチレン系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、スチレンメタクリル酸共重合体とこれ以外のスチレン系樹脂とポリ乳酸とエポキシ化オイルを含有することで分散性不良を解決し、成形性、強度、耐熱性及び耐油性等に優れるスチレン系樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、スチレンメタクリル酸共重合体とポリ乳酸とエポキシ化オイルとスチレンメタクリル酸共重合体以外のスチレン系樹脂とを含有することを特徴とするスチレン系樹脂組成物及び製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、成形性、機械的強度及び耐油性等が良好である。また、植物由来の樹脂を配合することで環境負荷低減することができ、各種汎用成形体に使用することも可能となり、環境保護の観点から好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられるスチレンメタクリル酸共重合体(A)は、スチレン系モノマーとメタクリル酸との共重合体であり、共重合形式はブロックであってもランダムであっても良い。後述のポリ乳酸(B)との分散性(相溶化)の観点から、メタクリル酸成分由来の含有率が2〜20質量%であることが好ましく、特に5〜15質量%であることがより好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン及びその誘導体;例えばスチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレン等のアルキルスチレン、フロロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨードスチレン等のハロゲン化スチレン、更にニトロスチレン、アセチルスチレン、メトキシスチレン等が挙げられ、単独でも2種以上を併用してもよい。これらの中でも、汎用性に優れる点からスチレンモノマーを使用することが好ましい。
【0011】
本発明で使用するスチレンメタクリル酸共重合体(A)の流動性としては、加工特性の観点から、1〜20g/10min.(230℃、37.3N)の範囲にあることが好ましい。
【0012】
本発明で用いるポリ乳酸(B)は、例えば、とうもろこしやイモ類などから得たでんぷんを糖化して、更に乳酸菌により乳酸を得て、次に乳酸を環化反応させてラクチドとし、これを開環重合して得られる、一般的に入手可能なポリ乳酸(B)を用いることができる。また、石油からラクチドを合成し、これを開環重合して得たポリ乳酸でも、あるいは石油から乳酸を得て、これを直接脱水縮合して得たポリ乳酸を用いても良い。
【0013】
また、ポリ乳酸を構成する乳酸は、L−乳酸とD−乳酸を混合して用いることもできるが、得られる組成物を成形体としたときの当該成形体の耐熱性に優れる点から、L−乳酸もしくはD−乳酸の何れか一方の異性体からなるものであることが好ましく、具体的には、D体含有率(原料として用いる乳酸全体質量に対するD−乳酸の割合)が3.0%以下であるものが好ましい。
【0014】
さらに、ポリ乳酸(B)には、主たる構成モノマーであるD−乳酸およびL−乳酸以外に他の成分が共重合されても良い。他の共重合成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができる。このような共重合成分は、全単量体成分中、通常0〜30モル%の含有量とすることが好ましく、さらに0〜10モル%であることがより好ましい。
【0015】
ポリ乳酸(B)の分子量や分子量分布は、実質的に成形加工が可能であれば特に限定されないが、重量平均分子量としては、好ましくは1万〜40万、より好ましくは4万〜20万の範囲である。
【0016】
エポキシ化オイル(C)のエポキシ変性に供されるオイル成分は、特に限定されるものではないが、本発明で得られる組成物を食品包装材として好適に用いることができる観点より、天然由来のオイル成分であることが好ましく、牛脂、豚脂、魚等の動物油や、植物油等が挙げられる。
【0017】
植物油は、通常、脂肪酸とグリセリンとの間でのトリエステル(トリグリセリド)である脂肪酸トリグリセリドを主成分とするものであり、脂肪酸成分としてオレイン酸、リノレン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸(炭素−炭素二重結合を主鎖中に有する脂肪酸)を含むものである。この、炭素−炭素結合を、一般的には過酸(ペルカルボン酸)またはその他のペルオキシ化合物を用いて容易にエポキシ化することができる。
【0018】
植物油としては例えば、脱水ひまし油、桐油、亜麻仁油、ひまわり油、ローズヒップ油、荏油等の乾性油や、大豆油、菜種油、サフラワー油、綿実油、胡麻油、トウモロコシ油等の半乾性油が挙げられる。これらの中でも、亜麻仁油または大豆油が好ましい。すなわち、エポキシ化植物油として、亜麻仁油をエポキシ変性して得られるエポキシ化亜麻仁油、または大豆油をエポキシ変性して得られるエポキシ化大豆油が好ましい。亜麻仁油および大豆油は、出発原料として安定性が高く、また、構造中に比較的多くの炭素−炭素二重結合を有することによる。
【0019】
エポキシ化オイルとしては、市販されているものをそのまま使用することができ、例えば、エポキシ化大豆油としては株式会社ADEKA製「アデカサイザーO−130P」、日油株式会社製「ニューサイザー510R」、花王株式会社製「カポックスS−6」、DIC株式会社製「エポサイザーW−100−EL」等、エポキシ化アマニ油として株式会社ADEKA製「アデカサイザーO−180A」、日油株式会社製「ニューサイザー512」、DIC株式会社製「エポサイザーW−109」等が挙げられる。
【0020】
本発明で用いる、前記スチレンメタクリル酸共重合体以外のスチレン系樹脂(D)としては、スチレン系モノマーの単独重合体やスチレン系モノマーと共重合可能なビニル系モノマー(メタクリル酸を除く)との共重合体、ゴム変性スチレン系樹脂等が挙げられる。
【0021】
前記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレンの他に、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、ο−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt−ブチルスチレン又はブロモスチレン、クロロスチレン、及びインデンなどが挙げられる。特に、スチレンの単独重合体を用いることが好ましい。
【0022】
前記スチレン系モノマーと共重合可能なビニル系モノマー(メタクリル酸を除く)としては、各種アクリル酸エステルや、特開2003−292707号公報等で提供されている多分岐状マクロモノマー等が挙げられる。
【0023】
前記ゴム変性スチレン系樹脂としては、スチレン系樹脂のマトリクス中にゴム状重合体の粒子が分散してなる樹脂が挙げられ、ゴム状重合体の存在下で、前述のスチレン系モノマーを重合させることにより製造することができる。
【0024】
前記ゴム状重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などを使用できるが、ポリブタジエンまたはスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン−ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体は一種もしくは二種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
【0025】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム含有量は、得られる成形体の機械的強度と耐熱性とのバランスの観点より、5〜15質量%が好ましく、より好ましくは6〜14質量%である。
【0026】
ゴム粒子径としては、得られる成形体の機械的強度と外観のバランスの観点より、0.5〜5.0μm、好ましくは0.7〜4μm、より好ましくは1.0〜3.0μmである。ゴム変性スチレン系樹脂は、ゴム状重合体の存在下で撹拌機付きの反応機でスチレン系モノマーを重合させて得られるが、ゴム粒子径は、撹拌機の回転数、用いるゴム状重合体の分子量などで調整することが出来る。
【0027】
ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は特に制限されるものではないが、ゴム状重合体の存在下、スチレン系単モノマー(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、または反応途中で懸濁重合に移行する塊状−懸濁重合、またはゴム状重合体ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体とスチレン系モノマー及び必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器または槽型反応器と複数の槽型反応器を直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0028】
ゴム変性スチレン系樹脂のトルエン不溶分の膨潤指数としては、得られる成形体の衝撃強度に優れる観点より、8.0〜14.0であり、且つトルエン不溶分中のゴム含有量に対するトルエン不溶分の質量比(トルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量)が1.5〜4.0であることが好ましい。この膨潤指数は、より好ましくは9.0〜13.0、更に好ましくは9.5〜12.5であり、トルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量の比はより好ましくは2.0〜3.5、更に好ましくは2.5〜3.5である
【0029】
スチレンメタクリル酸共重合体(A)とポリ乳酸(B)とエポキシ化オイル(C)と、スチレン系樹脂(D)の混錬については、乾燥させたスチレンメタクリル酸共重合体(A)とポリ乳酸(B)にエポキシ化オイル(C)をドライブレンドした後、更にスチレン系樹脂(D)をブレンドして押出機を用いて調整することが可能である。
【0030】
さらに分散性や物性を向上させる手段として、スチレンメタクリル酸共重合体(A)とポリ乳酸(B)とエポキシ化オイル(C)を反応してなる化合物(E)が含まれるものがより好ましい。
【0031】
前記化合物(E)を得る方法としては、下記の方法(工程)が挙げられる。
【0032】
工程(1):乾燥させたポリ乳酸(B)〔末端変性されていないもの(カルボキシル基残存)〕とエポキシ化オイル(C)とをドライブレンドし、溶融混錬機にてポリ乳酸(B)のカルボキシル基とエポキシ化オイル(C)のエポキシ基を反応させる。
工程(2):工程(1)の工程で得られた反応混合物に、乾燥させたスチレンメタクリル酸共重合体(A)をドライブレンドし、工程(1)で得られた反応混合物に残存するエポキシ基とスチレンメタクリル酸共重合体(A)のカルボキシル基とを反応させる。
【0033】
上記化合物(E)を得る条件として、ポリ乳酸(B)とエポキシ化オイル(C)の使用割合が、ポリ乳酸(B)中のカルボキシル基/エポキシ化オイル(C)中のエポキシ基で表せるモル比として1/1.1〜1/20であることが好ましい。カルボキシ基量が多いと次工程で反応させるエポキシ基が不足することになり、また、カルボキシ量が少ないと化合物(D)を効率よく得ることができにくくなるからである。尚、各モル数は、各物質の分子量、添加量、ポリ乳酸のカルボキシ基数、エポキシ化オイルの1分子中のエポキシ基数を用いて求めた。
【0034】
上記化合物(E)を好適に得られる条件としては、工程(1)において、ポリ乳酸(B)中のカルボキシ基全量がエポキシ化オイル(C)中のエポキシ基と反応した場合の理論残存エポキシ基のモル数に対して、スチレンメタクリル酸共重合体(A)中のカルボキシ基のモル数が0.1〜150倍の範囲になるように用いることが好ましい。この範囲であれば、スチレンメタクリル酸共重合体(A)のカルボキシル基のモル数とエポキシ基との反応効率が高められ、また、分子間架橋を抑制し、ゲル化を防止することができる。尚、モル数については、スチレンメタクリル酸共重合体(A)については、添加量、スチレンメタクリル酸共重合体内のメタクリル酸比率、スチレンメタクリル酸共重合体の分子量より求めた。工程(1)における理論残存エポキシ基のモル数については、工程(1)で加えたエポキシ化オイルのエポキシ基総モル数からポリ乳酸のカルボキシ基の総モル数を引いたものである。
【0035】
化合物(E)とポリ乳酸(B)、スチレン系樹脂(D)を加えて溶融混錬する場合の質量比率としては、化合物(E)の理論質量に対して、ポリ乳酸(B)が0.5〜5.0倍であることが好ましく、化合物(E)の理論質量に対して、スチレン系樹脂(D)が0.5〜10.0倍の範囲であることが好ましい。全体質量に対する化合物(E)の割合がこの範囲であれば、分散性が向上し、得られる成形体の機械特性が良好となる。
【0036】
樹脂の混合順序についても特に制限はなく、例えば、化合物(E)を単離した後、ポリ乳酸(B)、スチレン系樹脂(D)をドライブレンドし、更に溶融混練機に供する方法や、予めスチレン系樹脂(D)と単離した化合物(E)、ポリ乳酸(B)と単離した化合物(E)とを溶融混練したマスターバッチを作製した後、このマスターバッチとスチレン系樹脂(D)やポリ乳酸(B)とを溶融混練する方法であってもよい。化合物(E)を溶融混練機から取り出すことなく、未反応成分を含む状態で、スチレン系樹脂(D)やポリ乳酸(B)を添加する方法であってもよい。
【0037】
また、必要に応じて、その他の添加剤を同時に溶融混練する方法や、予めスチレンメタクリル酸共重合体(A)やポリ乳酸(B)とその他の添加剤を溶融混練したマスターバッチを作製した後、このマスターバッチとスチレン系樹脂(D)及びポリ乳酸(B)とを溶融混練する方法を用いても良い。
【0038】
また、各成分を溶融混練する時の温度は180℃〜260℃の範囲であることが好ましく、化合物(E)を工程中で効率よく生成できる観点、及びポリ乳酸(B)の熱による劣化を防ぐ観点、及びポリ乳酸(B)とスチレン系樹脂(D)の混練性の観点から、各成分を溶融混練する時の温度は190℃〜240℃の範囲であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明では、スチレンメタクリル酸共重合体(A)、ポリ乳酸(B)、エポキシ化オイル(C)やスチレン系樹脂(D)、及び化合物(E)を上記の配合割合で用いるものであるが、必要に応じてそのほかの樹脂や各種添加剤を併用してスチレン系樹脂組成物としてもよい。
【0040】
各種添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、熱安定化剤などが挙げられる。
【0041】
得られたスチレン系樹脂組成物は、特にスチレン系樹脂(D)とポリ乳酸(B)との相溶性が向上し、優れた成形性を有し、得られる成形体の機械物性が良好である。そのため、射出成形、シート押出成形、発泡成形、真空成形、ブロー成形などの成形方法を用いることが可能である。また、各種用途に用いることができる。具体的には、電気・電子機器用部品、自動車用部品、包装用途、日用雑貨などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。特に断りのない限り、部及び%はいずれも質量基準である。
【0043】
尚、原料、中間原料、得られたスチレン系樹脂組成物の物性等については以下の方法で測定し、評価した。
【0044】
(1)分子量測定〔スチレンメタクリル酸共重合体、ポリ乳酸、スチレン系樹脂(ポリスチレン(GPPS)及び多分岐状ポリスチレン)〕
高速GPC HLC−8220(東ソー株式会社製)、カラム(TSK−GELGMHXL×2)を使用し、サンプル5mgを10gのTHFに溶解した溶液を装置に注入(200μL)し、流量:1ml/分(THF)、恒温槽温度:40℃、RI検出器にて測定した。
【0045】
(2)分散状態(相溶性)観察
サンプルを切り出し、ウルトラミクロトームで断面を作製したものを、光学顕微鏡にて確認した。分散性良好を○、分散性ほぼ良好を△、分散性不良を×とした。
【0046】
(3)曲げ試験
測定サンプル(形状:幅10mm、厚さ:2.0mm)を曲げ試験機(インストロン社)で測定した。(条件:スパン比:40mm、速度:2.0mm/分)75MPa未満のものを×、75MPa以上80Mpa未満のものを△、80MPa以上のものを○とした。
【0047】
(4)耐油性
スチレン系樹脂組成物を熱版プレス機(230℃)にて、厚み100μmのシートを作製し、100×20mmの短冊に切り出し、直径90mmの紙管に巻きつけ、食用油(ホワイトF−2:不二精機株式会社製)を塗布し、60℃の恒温装置で静置し、1時間後のクラック状況を確認した。クラックが入ったものを×、一部クラックが入ったものを△、変化がないものを○とした。
【0048】
スチレンメタクリル酸共重合体(A)としては、(A−1):スチレン/メタクリル酸=90/10(質量%)、重量平均分子量(Mw):320,000、流動性:2.5g/10min.(230℃、37.3N)及び(A−2):スチレン/メタクリル酸=98/2(質量%)、重量平均分子量(Mw):300,000、流動性:4.5g/10min.(230℃、37.3N)を使用した。
【0049】
ポリ乳酸(B)としては、流動性10g/10min(190℃、21.2N)、D体:1.4モル%、重量平均分子量:180,000、末端未変性(カルボキシ基残存)原料を使用した。
【0050】
エポキシ化オイル(C)としては、エポキシ化大豆油としてDIC株式会社製「エポサイザーW−100−EL」(分子量:933)、エポキシ化アマニ油としてDIC株式会社製「エポサイザーW−109」(分子量:975)を使用した。
【0051】
スチレン系樹脂(D)としては、(D−1):ポリスチレン(GPPS)重量平均分子量(Mw):320,000、流動性:1.5g/10min.(200℃、49N)、(D−2):多分岐状ポリスチレン〔製品名:ハイブランチ HP−500M(DIC株式会社製))重量平均分子量(Mw):270,000、流動性:2.8g/10min.(200℃、49N)及び(D−3):ゴム変性ポリスチレン(HIPS):流動性:2.0g/10min.(200℃、49N)、樹脂中のゴム成分含有量7%を使用した。
【0052】
ゴム変性ポリスチレン(HIPS)の合成方法については、下記の通りである。
スチレンモノマー90部、トルエン10部、ブタジエンゴムを6部、t−ブチルパーオキシベンゾエートを300ppm(モノマー比)加え、攪拌式の反応槽において、130℃で1.5時間、140℃〜180℃で3.5時間反応させ、未反応のモノマー及びトルエンを230℃、真空度70〜30Torr.で除去し、精製することで得た。
【0053】
参考例1(化合物E−1の合成)
工程(1):ラボプラストミル〔ミキサー(R−60)(東洋精機)、以下、ラボプラストミルは全て同じ〕に乾燥させたポリ乳酸:50g、エポサイザーW−100−EL:0.1gを加えて(カルボキシル基/エポキシ基のモル比=1/1.15)、210℃、30分溶融混錬した。
【0054】
工程(2):ラボプラストミルに工程(1)で得られた反応混合物:0.212g、スチレンメタクリル酸共重合体(A−1):50gを加えて(工程(1)の理論残存エポキシ基モル数/スチレンメタクリル酸共重合体のカルボキシ基モル数=1/85.7)、210℃、30分溶融混錬し、化合物E−1を含む混合物を得た。
【0055】
参考例2(化合物E−2の合成)
工程(1):ラボプラストミルに乾燥させたポリ乳酸:50g、エポサイザーW−100−EL:0.3gを加えて(カルボキシル基/エポキシ基のモル比=1/3.46)、210℃、30分溶融混錬した。
【0056】
工程(2):ラボプラストミルに工程(1)で得られた反応混合物:0.212g、スチレンメタクリル酸共重合体(A−1):50gを加えて(工程(1)の理論残存エポキシ基モル数/スチレンメタクリル酸共重合体のカルボキシ基モル数=1/5.4)、210℃、30分溶融混錬し、化合物E−2を含む混合物を得た。
【0057】
参考例3(化合物E−3の合成)
工程(1):ラボプラストミル乾燥させたポリ乳酸:50g、エポサイザーW−109:0.15gを加えて(カルボキシル基/エポキシ基のモル比=1/3.32)、210℃、30分溶融混錬した。
【0058】
工程(2):ラボプラストミルに工程(1)で得られた反応混合物:0.53g、スチレンメタクリル酸共重合体(A−1):50gを加えて(工程(1)の理論残存エポキシ基モル数/スチレンメタクリル酸共重合体のカルボキシ基モル数=1/2.3)、210℃、30分溶融混錬し、化合物E−3を含む混合物を得た。
【0059】
参考例4(化合物E−4の合成)
工程(1):ラボプラストミルに乾燥させたポリ乳酸:50g、エポサイザーW−109:0.45gを加えて(カルボキシル基/エポキシ基のモル比=1/9.97)、210℃、30分溶融混錬した。
【0060】
工程(2):ラボプラストミルに工程(1)で得られた反応混合物:0.53g、スチレンメタクリル酸共重合体(A−1):50gを加えて(工程(1)の理論残存エポキシ基モル数/スチレンメタクリル酸共重合体のカルボキシ基モル数=1/0.6)、210℃、30分溶融混錬し、化合物E−4を含む混合物を得た。
【0061】
参考例5(化合物E−5の合成)
工程(1):ラボプラストミル〔ミキサー(R−60)(東洋精機)、以下、ラボプラストミルは全て同じ〕に乾燥させたポリ乳酸:50g、エポサイザーW−100−EL:0.1gを加えて(カルボキシル基/エポキシ基のモル比=1/1.15)、210℃、30分溶融混錬した。
【0062】
工程(2):ラボプラストミルに工程(1)で得られた反応混合物:0.212g、スチレンメタクリル酸共重合体(A−2):50gを加えて(工程(1)の理論残存エポキシ基モル数/スチレンメタクリル酸共重合体のカルボキシ基モル数=1/17.1)、210℃、30分溶融混錬し、化合物E−5を含む混合物を得た。
【0063】
実施例1
スチレンメタクリル酸共重合体(A−1):15g、ポリ乳酸(B):15g、エポキシ化大豆油:0.1g、スチレン系樹脂(D−1):15gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で15分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0064】
実施例2
ポリ乳酸(B):15g、スチレン系樹脂(D−1):15g、参考例1で得られた化合物(E−1)を含む混合物:15gをドライブレンドし、を用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0065】
実施例3
ポリ乳酸(B):6.5g、スチレン系樹脂(D−1):32.5g、参考例1で得られた化合物(E−1)を含む混合物:6.5gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0066】
実施例4
ポリ乳酸(B):15g、スチレン系樹脂(D−1):15g、参考例1で得られた化合物(E−2)を含む混合物:15gをドライブレンドし、を用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0067】
実施例5
ポリ乳酸(B):6.5g、スチレン系樹脂(D−1):32.5g、参考例1で得られた化合物(E−2)を含む混合物:6.5gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0068】
実施例6
ポリ乳酸(B):15g、スチレン系樹脂(D−1):15g、参考例1で得られた化合物(E−3)を含む混合物:15gをドライブレンドし、を用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0069】
実施例7
ポリ乳酸(B):6.5g、スチレン系樹脂(D−1):32.5g、参考例1で得られた化合物(E−3)を含む混合物:6.5gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0070】
実施例8
ポリ乳酸(B):15g、スチレン系樹脂(D−1):15g、参考例1で得られた化合物(E−4)を含む混合物:15gをドライブレンドし、を用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0071】
実施例9
ポリ乳酸(B):6.5g、スチレン系樹脂(D−1):32.5g、参考例1で得られた化合物(E−4)を含む混合物:6.5gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0072】
実施例10
ポリ乳酸(B):15g、スチレン系樹脂(D−1):15g、参考例1で得られた化合物(E−5)を含む混合物:15gをドライブレンドし、を用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0073】
実施例11
ポリ乳酸(B):6.5g、スチレン系樹脂(D−1):32.5g、参考例1で得られた化合物(E−5)を含む混合物:6.5gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0074】
実施例12
ポリ乳酸(B):15g、スチレン系樹脂(D−2):15g、参考例1で得られた化合物(E−5)を含む混合物:15gをドライブレンドし、を用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0075】
実施例13
ポリ乳酸(B):15g、スチレン系樹脂(D−3):15g、参考例1で得られた化合物(E−5)を含む混合物:15gをドライブレンドし、を用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0076】
比較例1
スチレンメタクリル酸共重合体(A−1):15g、ポリ乳酸(B):15g、スチレン系樹脂(D−1):15gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で15分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0077】
比較例2
ポリ乳酸(B)25g、スチレン系樹脂(D−1):25gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0078】
比較例3
ポリ乳酸(B)25g、スチレン系樹脂(D−2):25gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0079】
比較例4
ポリ乳酸(B)25g、スチレン系樹脂(D−3):25gをドライブレンドし、ラボプラストミルを用いて230℃で10分混錬して、スチレン系樹脂組成物を得た。
【0080】
比較例5
スチレン系樹脂(D−1)について、上記樹脂組成物と同様の評価を行った。
【0081】
比較例6
スチレン系樹脂(D−2)について、上記樹脂組成物と同様の評価を行った。
【0082】
比較例7
スチレン系樹脂(D−3)について、上記樹脂組成物と同様の評価を行った。
【0083】
評価結果を表1〜3に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】