(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線板は、その自在に屈曲できる性質を活かしてハードディスクの読み書きヘッドやプリンターヘッドなどの電子機器の可動部の屈曲を要する配線部分、液晶ディスプレイ装置内のわずかな隙間を通す配線部分などに広く用いられている。
使用するフレキシブル配線板は、一般的に銅層と樹脂フィルム層とからなる積層構造のフレキシブルな銅張積層板(銅張積層板:Flexible Copper Clad Laminationとも称す)に対して、サブトラクティブ法やセミアディティブ法を用いて配線加工することで作製されている。
【0003】
配線加工法の一つであるサブトラクティブ法とは、銅張積層板の銅層を化学エッチング処理して配線以外の不要部分を除去する方法である。
具体的には、銅張積層板の銅層の表面にフォトレジスト層を成膜した後、このフォトレジスト層にパターニング処理を施すことにより導体配線として残したい部分以外の銅層の表面を露出させ、この銅層の露出部分を、銅を溶かすエッチング液を用いて選択的に除去することで導体配線を形成し、その後水洗するものである。
【0004】
一方、セミアディティブ法とは、銅張積層板の銅層の表面に配線の形状となるように銅めっき層を設けた後、不要な銅層と下地金属層を化学エッチングで除去する方法である。
具体的には、銅層の表面に配線の形状に開口したフォトレジスト膜を成膜した後、銅層の開口した箇所に配線として必要な膜厚まで銅めっきを施して銅めっき層を設け、フォトレジスト除去後、化学エッチングにより不要な銅層と下地金属層を除去し、その後水洗するものである。
【0005】
サブトラクティブ法やセミアディティブ法を用いて配線加工の後、必要に応じ、配線に錫めっき等を施し、錫めっき後、必要な個所にソルダーレジストを塗布し硬化させてソルダーレジスト膜を形成しフレキシブル配線板が完成する。
完成したフレキシブル配線板には半導体素子などの電子部品が実装されて回路装置となる。
【0006】
ところで、フレキシブル配線板の製造は、温度や湿度が制御されたクリーンルーム内等で行われている。このようなフレキシブル配線板を製造する過程で、フォトレジストの現像工程や除去工程、化学エッチング、錫めっき等の湿式処理が行われ、この湿式処理中の雰囲気では湿度が変化することから、クリーンルーム内の湿度は45%RH〜65%RHで管理が行われているが、フレキシブル配線板の製造に用いられる銅張積層板は、銅層と樹脂フィルム基材の積層体であり、このうち樹脂フィルム基材、とりわけポリイミドフィルムは湿度変化により膨張収縮が起こり、この膨張収縮による寸法変動が問題となっている。
即ち、フレキシブル配線板の配線ピッチの微細化によりフレキシブル配線板と半導体素子などの電子部品とを接続する際の配線パターンとの位置合わせに係わり、半導体素子の多ピン化の進展に従い要求される精度に対応することが厳しくなってきている。
【0007】
そこで、特許文献1では銅張積層板の一方の表面に補強板を剥離可能な有機物層を介して貼り合わせ、次いで補強板が貼り合わされていない面に回路パターンを形成してから、可撓性フィルムを補強板から剥離する回路基板の製造方法の技術が開示されている。しかしながら、補強板を張り合わせる工程、剥離する工程などの製造工程の増加や、接着に用いた有機物質による汚染などの問題が生じ易く、要求される精度に対応したフレキシブル配線板が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1]銅張積層板
フレキシブル配線板の製造に用いられる銅張積層板は、接着剤を用いて電解銅箔や圧延銅箔をベース層である絶縁性の樹脂フィルムに接着した「銅箔/接着剤層/樹脂フィルム」からなる3層構造の銅張積層板(以下、3層銅張積層板とも称する)と、銅層若しくは銅箔と樹脂フィルム基材とが直接接合した「銅層若しくは銅箔/樹脂フィルム」からなる2層構造の銅張積層板(以下、2層銅張積層板とも称する)とに分類することができる。
【0016】
上記2層銅張積層板は更に3種類に大別することができる。
即ち、樹脂フィルムの表面に下地金属層と銅層を順次めっきして形成した銅張積層板(通称メタライジング基板)、銅箔に樹脂フィルムのワニスを塗って絶縁層を形成した銅張積層板(通称キャスト基板)、および銅箔に樹脂フィルムをラミネートした銅張積層板(通称ラミネート基板)の3種類である。
【0017】
これらのうち、メタライジング基板は銅層の薄膜化が可能であり、且つ樹脂フィルムと銅層や下地金属層との界面の平滑性が高いため、キャスト基板やラミネート基板あるいは3層銅張積層板と比較して配線ピッチの微細化に適している。キャスト基板やラミネート基板あるいわ3層銅張積層板では、樹脂フィルム等と銅箔の界面のアンカー効果による密着性を向上のため、銅箔の表面うち樹脂フィルム側の表面粗さを粗くしているので、樹脂フィルムと銅箔の界面の平滑性は望めない。そのため、本発明に係るフレキシブル配線板の製造方法では、メタライジング基板を配線加工することが望ましい。
【0018】
[2]メタライジング基板
図1はメタライジング基板(銅張積層板6)の一例を示す模式断面図である。
ポリイミドフィルムを用いた樹脂フィルム基材1の少なくとも片面に、樹脂フィルム基材1側から順に、下地金属層2、銅薄膜層3、および銅電気めっき層4が積層され、銅層5は銅薄膜層3と銅電気めっき層4とから構成されている。
【0019】
ここで、下地金属層2は樹脂フィルム基材1と銅層5との密着性や耐熱性などの信頼性を確保するものである。従って、下地金属層2の材質は、ニッケル、クロム、またはこれらの合金の何れか1種とするのが好ましい。特に、密着強度や配線作製時のエッチングしやすさを考慮すると、ニッケル・クロム合金が適している。
【0020】
下地金属層2に用いるニッケル・クロム合金は、その組成が、クロム15質量%以上22質量%以下が望ましく、これにより優れた耐食性や耐マイグレーション性が得られる。このうち、20質量%クロムのニッケル・クロム合金はニクロム合金として流通しており、マグネトロンスパッタリング法のスパッタリングターゲットとして容易に入手可能である。また、ニッケルを含む合金には、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、コバルト等を添加しても良い。さらに、クロム濃度の異なる複数のニッケル・クロム合金の薄膜を積層して、ニッケル・クロム合金に関して濃度勾配を有する下地金属層を成膜しても良い。
【0021】
下地金属層2の膜厚は、3〜50nmが望ましい。
この下地金属層2の膜厚が3nm未満では、ポリイミドフィルムからなる樹脂フィルム基材1と銅層5との密着性を保てず、耐食性や耐マイグレーション性で劣るおそれがある。一方、下地金属層2の膜厚が50nmを超えると、サブトラクティブ法やセミアディティブ法で配線加工する際に下地金属層2の十分な除去が困難な場合が生じる。
このように下地金属層2の除去が不十分な場合は、配線間のマイグレーション等の不具合が懸念される。
【0022】
銅薄膜層3は、主に銅で構成され、その膜厚は、10nm〜1μmが望ましい。銅薄膜層3の膜厚が10nm未満では、後述する銅電気めっき層4を電気めっき法で成膜する際の導電性の確保が困難になり、電気めっきの際の外観不良に繋がる。銅薄膜層3の膜厚が1μmを超えても2層銅張積層板の品質上の問題は生じないが、生産性が低下する問題を生じることから1μm以下が望ましい。
【0023】
銅電気めっき層4の膜厚は12μm以下が望ましく、銅電気めっき層4の膜厚が12μmを超えると配線ピッチ50μm以下のフレキシブル配線板への化学エッチング配線加工(サブトラクティブ法の配線加工)が困難となる。また、2層構造の銅張積層板をセミアディティブ法で配線加工する場合は、銅層の膜厚(銅薄膜層と銅電気めっき層の合計の膜厚)はセミアディティブ法の加工での導電性を確保するために1μm以上あればよい。
【0024】
樹脂フィルム基材1に使用するポリイミドフィルムは、芳香族ポリイミドフィルムを用いる。
ポリイミドフィルムの熱的特性は、芳香族酸無水物と芳香族ジアミンとによるイミド化合物により支配されるので、本発明に係るフレキシブル配線板の製造方法では、ポリイミドフィルムが、芳香族ジアミンと3,3‘−4,4−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるイミド化合物を含有している必要がある。芳香族ジアミンは、パラフェニレンジアミン等のジアミノベンゼンが挙げられる。
このイミド結合をもつポリイミドフィルムには「ユーピレックス(登録商標 宇部興産株式会社製)」が知られている。「ユーピレックス(登録商標)」フィルムは市場で容易に入手することができる。
【0025】
ポリイミドフィルムの厚みは、柔軟性とフィルムとして形状が保てる厚みであればよく、厚み10μm〜50μmが望ましい。
【0026】
次に、メタライジング基板の製造方法の一例としては、樹脂フィルムとして用いるポリイミドフィルムの少なくとも一方の表面にスパッタリング法などの乾式めっき法で下地金属層を成膜し、下地金属層の表面に乾式めっき法で銅薄膜層を成膜する。下地金属層と銅薄膜層が成膜された銅薄膜層付樹脂フィルム基材の銅薄膜層の表面に、硫酸銅水溶液中で電気めっき法などの湿式めっき法で銅電気めっきを成膜する。以下、メタライジング基板の製造方法を説明する。
【0027】
[3]メタライジング基板の製造方法(乾式めっき部分)
長尺のポリイミドフィルムに下地金属層や銅薄膜層を成膜するには、
図2に示すロール・ツー・ロールスパッタリング装置を用いればよい。
この
図2に示すロール・ツー・ロールスパッタリング装置10は、直方体状のチャンバー12内にその構成要素のほとんどを収納した構造になっている。チャンバー12の形状は
図2の直方体形状に限られるものではなく、10
−4Pa〜1Pa程度の減圧状態を維持できるのであれば円筒形状等の他の形状でもよい。
【0028】
このチャンバー12内に、長尺ポリイミドフィルムからなる樹脂フィルム基材F1が引き出される巻出ロール13、樹脂フィルム基材F1の搬送に追従して回転するフリーロール11a、11b、樹脂フィルム基材F1を外周面に巻き付けて冷却するキャンロール14、マグネトロンカソード式のスパッタリングカソード15a、15b、15c、15d、キャンロール14に隣接して設けられた前フィードロール16aおよび後フィードロール16b、張力センサーを備えたテンションロール17a、17b、下地金属層および銅薄膜層が成膜された樹脂フィルム基材F2をロール状に巻き取る巻取ロール18が設けられている。
【0029】
これらのうち、巻出ロール13、キャンロール14、前フィードロール16a、および巻取ロール18には回転駆動手段であるサーボモータが備わっている。更に巻出ロール13および巻取ロール18の各々は、パウダークラッチ等によるトルク制御によって搬送中の樹脂フィルム基材の張力バランスを保っている。フリーロール11a、11b、キャンロール14、およびテンションロール17a、17bは、外周面が硬質クロムめっきで仕上げられている。
【0030】
キャンロール14の内部にはチャンバー12の外部から供給される冷媒や温媒が循環しており、これによりキャンロール14の外周面を略一定の温度に調整することができる。このキャンロール14の外周面に対向してスパッタリングカソード15a〜15dが配置されている。キャンロール14の外周面の幅方向におけるスパッタリングカソード15a〜15dの寸法は、樹脂フィルム基材F1の幅よりも大きいのが好ましい。
【0031】
さらに、ポリイミドフィルムは吸湿しやすいことから、乾式めっきの前に減圧雰囲気下で加熱乾燥することが望ましい。
【0032】
[4]メタライジング基板の製造方法(湿式めっき部分)
上記乾式めっき法で銅薄膜層が成膜された銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2は、次に湿式めっき法により銅電気めっき層の成膜が行われる。
湿式めっき法を行う装置としては、例えば硫酸銅などのめっき浴中にて不溶性アノードを用いて電気めっきを行う装置を挙げることができる。なお、使用する銅めっき浴の組成は、通常用いられるプリント配線板用のハイスロー硫酸銅めっき浴でも良い。
【0033】
図3には、かかる電気めっき装置の一具体例として、ロール・ツー・ロール電気めっき装置20(以下電気めっき装置20とも称する。)が示されている。
この電気めっき装置20は、下地金属層と銅薄膜層を成膜して得られた銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2をロール・ツー・ロールで連続的に搬送することで電気めっき槽21内のめっき液28への浸漬状態と非浸漬状態とを繰り返し、めっき液28に浸漬している間に電気めっきにより金属薄膜の表面に銅電気めっき層を成膜するものである。これにより所定の膜厚の銅層が形成された2層構造の銅張積層板Sを作製することができる。なお、銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2の搬送速度は、数m〜数十m/分の範囲が好ましい。
【0034】
具体的に説明すると、銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2は、巻出ロール22から巻き出され、給電ロール26aを経て、電気めっき槽21内のめっき液28に浸漬される。めっき液28内に入った銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2は、反転ロール23により搬送方向が反転された後、めっき液面28aより上に引き上げられる。反転ロール23での反転の直前および直後の搬送経路を走行する銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2に対向する位置にはそれぞれアノード24aおよびアノード24bが設けられている。各アノードは給電ロールとの間で電圧が印加されるようになっており、例えば給電ロール26a、アノード24a、めっき液、銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2および電源により電気めっき回路が構成される。これにより銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2の表面に電気めっき処理が施される。
【0035】
即ち、11個の給電ロール26a〜26kおよび10個の反転ロール23により銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2にはめっき液28への浸漬状態と非浸漬状態とが複数回(
図3では合計10回)繰り返され、これにより銅薄膜層付樹脂フィルム基材F2の銅薄膜層上に徐々に銅層が成膜され、2層構造の銅張積層板を形成していく。最終の反転ロール23で搬送方向が反転せしめられた2層構造の銅張積層板Sは給電ロール26kを経た後、巻取ロール29に巻き取られる。なお、各アノードを構成する不溶性アノードには導電性セラミックで表面をコーティングした公知のものを使用することができる。
【0036】
電気めっき槽21の外部には、めっき液28に銅イオンを供給する機構が設けられている。このめっき液28への銅イオンの供給は、酸化銅水溶液、水酸化銅水溶液、炭酸銅水溶液等で供給するのが好ましい。あるいは、めっき液中に微量の鉄イオンを添加して、無酸素銅ボールを溶解して銅イオンを供給する方法でもよい。
【0037】
電気銅めっき中における電流密度は、アノード24aから搬送方向下流に進むにつれて電流密度を段階的に上昇させ、アノード24qから24tで最大の電流密度となるようにするのが好ましい。このように電流密度を上昇させることで、銅層の変色を防ぐことができる。
また、銅層の膜厚が薄い場合に電流密度が高いと銅層の変色が起こりやすいため、めっき中の電流密度は0.1〜8A/dm
2が望ましい。この電流密度が8A/dm
2より高くなると銅電気めっき層の外観不良が発生するおそれがある。
銅電気めっき層が成膜されて、2層銅張積層板のメタライジング基板が得られ、そのメタライジング基板は、配線加工に適した幅にスリッターで裁断される。
【0038】
[5]フレキシブル配線板の製造方法の概要
配線ピッチが微細化されたフレキシブル配線板の製造方法としては、サブトラクティブ法として以下のものが知られている。
配線加工に適した幅に裁断されたメタライジング基板には、銅層の表面にフォトレジスト膜を形成し、このフォトレジスト膜を露光、現像して所望のパターンを形成する。次に、こうして形成されたフォトレジストパターンをマスクとして、露出した銅層を化学エッチングして、フォトレジストパターンと略相似形状の銅層と下地金属層からなる配線パターンを形成する。次いでフォトレジスト層をアルカリ溶液等により剥離除去した後、配線パターン間に残存する下地金属層をエッチング除去することにより、配線パターンが形成される。配線パターンを形成した後に、錫めっきを施し、ソルダーレジスト膜が形成されてフレキシブル配線板となる。
【0039】
[6]フォトレジスト膜形成工程
フォトレジスト膜を形成するフォトレジスト膜形成工程は、液状のフォトレジストをスクリーン印刷など公知の塗布方法で銅層表面に塗布され、塗布後、加熱乾燥される。液状フォトレジストの乾燥条件は、温度100℃〜150℃であり時間として5分以上である。
なお、フォトレジスト膜はドライフィルムタイプのフォトレジスト(ドライフィルム)を銅層の表面にラミネートしてもよい。ドライフィルムレジストをラミネートする場合は公知のラミネート方法で、温度100℃〜150℃で数秒以上加圧密着される。瞬間的ではあるが、ドライフィルムレジストのラミネートでも銅張積層板には加熱される熱処理が行われる。
【0040】
[7]露光工程
フォトレジスト膜形成工程の次は露光工程である。銅張積層板の銅層の表面に形成されたフォトレジスト膜は、露光工程においては、銅層に配線パターンを形成するために、所定パターンからなるフォトマスクを介して紫外線をフォトレジストに照射し、露光部を形成する。
【0041】
[8]現像工程
露光工程の次は現像工程である。露光されたフォトレジストは、現像工程においては、露光領域を現像液で溶解除去し、開口部を有するフォトレジストパターンが形成される。現像液は、例えば、温度30℃〜50℃の炭酸ナトリウム水溶液やトリエタノールアミン水溶液等のアルカリ溶液をシャワー噴射して行われる。
【0042】
[9]化学エッチング工程
現像工程の次は化学エッチング工程である。フォトレジストパターンが形成された後、この化学エッチング工程で、銅張積層板は配線パターンに加工される。
エッチング液は銅層や下地金属層がエッチングできる組成が望ましい。使用するエッチング液としては、例えば、塩化第二銅水溶液や塩化第二鉄水溶液が用いられる。処理条件としては、例えば、温度が40〜50℃、シャワー圧力が0.1〜0.7MPa、処理時間が20〜120秒という条件でエッチング液を噴射してエッチング処理が行われる。このとき、下地金属層も同時にエッチング除去される。また、必要に応じて過マンガン酸塩水溶液などの下地金属層除去剤をシャワー噴射して下地金属層除去工程を加えてもよい。
【0043】
この化学エッチング工程を経て配線パターンが形成されると、フォトレジストパターンはフォトレジスト剥離工程で剥離される。フォトレジスト剥離工程においては、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液で、フォトレジストパターンが溶解除去される。フォトレジスト除去工程の後、水洗による薬液除去の後、エアーナイフ等の液切により乾燥される。化学エッチング工程とフォトレジスト剥離工程は連続して行われる。フォトレジスト剥離工程を経て次工程の錫めっき工程へ移る。
【0044】
[10]錫めっき工程
錫めっき工程においては、化学エッチング工程により形成された銅層の配線の表面上に、公知の無電解錫めっき法で、錫めっき層が形成される。錫めっき工程の後水洗による薬液除去の後、エアーナイフ等の液切により乾燥される。乾燥後は次工程のソルダーレジスト膜形成工程へ移る。
【0045】
[11]ソルダーレジスト膜形成工程
ソルダーレジスト膜形成工程は、スクリーン印刷により、所定パターンのソルダーレジストを配線パターン上に印刷する。ソルダーレジストには、ポリイミド系(日立化成工業株式会社製:SN−9000)やウレタン系(日本ポリテック株式会社製:NPR−3300)のものが使用可能であり、いずれも加熱により硬化するソルダーレジストである。
ソルダーレジスト印刷の後、ソルダーレジストは加熱硬化される。ソルダーレジストの加熱硬化条件は、温度100℃〜150℃の範囲に加熱される。
ソルダーレジスト硬化工程の後、フレキシブル配線板の製品として完成する。そして、必要に応じて電子部品の実装しやすい大きさに裁断される。
【0046】
[12]フレキシブル配線板の製造工程での湿度管理
フレキシブル配線板を製造する一連の工程のフォトレジスト膜形成工程、露光工程、現像工程、化学エッチング工程、錫めっき工程、ソルダーレジスト膜形成工程のそれぞれの工程では、長尺の銅張積層板がロール・ツー・ロールで搬送される。その各工程の処理速度(単位時間に処理できるフレキシブル配線板の数)が異なるので、フォトレジスト膜形成工程、露光工程、現像工程、化学エッチング工程、錫めっき工程、ソルダーレジスト膜形成工程を分離して行うことが望ましい。
【0047】
フレキシブル配線板の製造工程は、複数の工程で構成されることがあり、複数のクリーンルームに分かれて製造されることが多い。フォトレジスト膜形成工程や露光工程等は遮光等の関係上、エッチング工程等からは別個のクリーンルームで行われることが多い。
この別個のクリーンルームでは、それぞれの湿度が均等になっているとは限らず、また、同一のクリーンルーム内でも場所によっては湿度が異なることがある。さらに、フレキシブル配線板の製造工程で、銅張積層板を別のクリーンルームへ移動させる場合や、クリーンルーム内での移動で、銅張積層板が置かれる雰囲気の湿度が変化することもある。
【0048】
一方、銅張積層板は、湿度が変化すると膨張収縮を行い、湿度が変化してから一定時間経過するまでは、寸法が変動する。このような寸法の変動は、一定の時間が経過すれば、その変動は止まり、その寸法変動が止まる時間は、ポリイミドフィルムの種類により異なっている。
これらのことからすれば、フレキシブル配線板の製造過程で、銅張積層板を移動させた場合、移動前後の湿度変化による銅張積層板の寸法変動を考慮する必要がある。
【0049】
ただし、一定時間経過すれば、銅張積層板は寸法変動が止まるので、寸法変動が止まるまで、銅張積層板を移動先に放置すればよい。移動先では、銅張積層板は一定の寸法変化率なので、その寸法変化率を見込んで加工すれば、量産時の寸法のばらつきが少なく寸法精度が高いフレキシブル配線板を作製することが可能になる。
【0050】
銅張積層板の、一定時間放置することで、銅張積層板の寸法変化率が一定になることを、フレキシブル配線板の製造方法に応用するならば、たとえば、フォトレジスト膜形成工程で、フォトレジストを加熱乾燥させた後に、一定の湿度の下で一定時間放置してから次の露光工程へ進まないと、銅張積層板の寸法変化(寸法の伸び)によりフォトレジストパターンの間隔が変動して、再現性良く配線パターンを形成することができなくなる。
【0051】
また、湿度変化後の銅張積層板を一定時間以上、室温に放置すれば、銅張積層板の寸法は変化しないことから、熱処理後の各工程間の滞留時間をある一定時間にすればよいことも意味する。このことは、銅張積層板の寸法変動を抑制するために長時間にわたって工程を滞留させたりする必要はないことを意味する。
【0052】
銅張積層板のポリイミドフィルムに芳香族ジアミンと3,3‘−4,4−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるイミド化合物を含有しているならば、湿度が±5RH%の範囲で変化するごとに放置時間を9時間以上とすればよい。
すなわち芳香族ジアミンと3,3‘−4,4−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるイミド化合物を含有しているポリイミドフィルムを用いた銅張積層板の放置される環境の湿度が5%変化するごとに9時間以上放置すれば、銅張積層板の寸法変化は、一定の寸法変化率のままで変動せず、この湿度変化は、加湿、除湿とも同様である。
また、湿度を10%RH変化させたならば、湿度変化5RH%の際の2倍の18時間放置すれば寸法の変化は、一定の寸法変化率のままで変動しない。
【0053】
このように銅張積層板の一定の寸法変化率で止まっていれば、露光工程で用いるフォトマスクなどを、その寸法変化率を考慮して設計すれば、配線ピッチが50μm以下の微細化した配線パターンにも対応でき、寸法精度が高いフレキシブル配線板を作製することが可能になるので、電子部品を接続する際の電子部品と配線パターンとの位置合わせ問題も是正可能となる。
また、フォトレジスト膜形成工程と露光工程以外でも、銅張積層板の寸法変動が止まっていれば、フレキシブル配線板の寸法精度を高くすることができる。
【0054】
これまで、サブトラクティブ法を例に本発明に係るフレキシブル配線板の製造方法を説明してきたが、セミアディティブ法で配線加工する際も本発明のフレキシブル配線板の製造方法を適用すればよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0056】
図2のロール・ツー・ロールスパッタリング装置10を用いて芳香族ジアミンと3,3‘−4,4−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるイミド化合物を含有している厚み35μmの長尺のポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)V1」の表面にスパッタリング法により厚み25nmのクロムを20質量%含むニッケル−クロム合金からなる下地金属層と、その下地金属層の表面に厚み100nmの銅薄膜層を成膜して、銅薄膜層付樹脂フィルム基材を得た。得られた銅薄膜層付樹脂フィルム基材の銅薄膜層の表面に
図3の電気めっき装置20を使用して厚み8μmの銅電気めっき層を成膜して実施例1に係る銅張積層板を作製した。
【0057】
得られた銅張積層板をIPC−TM−650 2.2.4規格に規定されるMethod Aに準拠してMD方向(銅張積層板の長手方向)の寸法変化率を測定した。
試料の外寸をMD方向×TD方向(銅張積層板の幅方向)が20cm×16cmであることと、試料のMD方向とTD方向に略平行となるように両方向に6cm間隔で寸法変化測定用の位置穴を開けたことと、湿度変化前後の寸法変化率を測定した以外は同規格に準拠して測定を行った。
【0058】
まず、試料を温度23℃湿度50%RH下に放置した後、温度一定のまま湿度を55%RH変化させ、その変化させた湿度に48時間放置し、その間の0時間(湿度変化直
前)、1、3、6、9、24、48時間経過後の湿度変化前に対するMD方向の寸法変化率を測定した。その結果を表1に示す。
【実施例2】
【0059】
試料を湿度55%RHから60%HRに変化させた以外は実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0060】
試料を湿度60%RHから65%HRに変化させた以外は実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【実施例4】
【0061】
試料を湿度65%RHから60%HRに変化させた以外は実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1から4より、試料が放置される湿度を変化させてから9時間以上放置すれば、寸法変化率が一定になることがわかる。このことは、9時間以上放置すれば、その湿度の下では銅張積層板の寸法はそれ以上変化しないことを示唆している。
これらの結果から、銅張積層板の周辺湿度を±5%RHの範囲で変化させた直後に、化学エッチングしたフレキシブル配線板と9時間経過後に化学エッチングしたフレキシブル配線板では0.001%の寸法の違いが生じることとなる。幅12cmのフレキシブル配線板であれば、1.2μmだけ寸法がずれることとなり、寸法が1.2μmずれると配線ピッチが40μmのフレキシブル配線板では、配線幅は20μmであり半導体素子など電子部品との接続は困難な場合が考えられる。さらに湿度の変化が±10%RHの範囲ならば寸法のずれは倍の2.4μmとなり、電子部品との接続の困難さはさらに増す。