特許第6206905号(P6206905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6206905-3次元繊維構造体 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206905
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】3次元繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20170925BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20170925BHJP
   D04H 1/732 20120101ALI20170925BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20170925BHJP
   H01M 4/96 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   B32B5/26
   D04H1/4374
   D04H1/732
   B32B5/24 101
   !H01M4/96 M
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-122402(P2013-122402)
(22)【出願日】2013年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-240123(P2014-240123A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2016年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】朴 載赫
(72)【発明者】
【氏名】明渡 純
(72)【発明者】
【氏名】池田 直
(72)【発明者】
【氏名】狩野 旬
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−079750(JP,A)
【文献】 特開平07−142068(JP,A)
【文献】 特開平11−170414(JP,A)
【文献】 特開平08−117646(JP,A)
【文献】 特開昭58−132157(JP,A)
【文献】 特開昭58−144181(JP,A)
【文献】 特開2002−035646(JP,A)
【文献】 米国特許第04532173(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
D04H 1/00−18/04
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体を備える基材層と、
前記基材層の中まで炭素繊維が打ち込まれて形成された複合層と、
前記基材層上で炭素繊維同士が摩擦力で絡み合って結合して積み上がった炭素繊維層と、
を備える3次元繊維構造体。
【請求項2】
前記炭素繊維は、前記基材層に対して垂直方向に打ち込まれ、かつ前記基材層の繊維間の距離は、30μm〜150μmであり、かつ前記複合層での前記繊維間の距離は、5〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の3次元繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に短繊維を吹き付けることにより、基材に対して垂直な3次元構造を有した3次元繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、短繊維に結着成分を付与して、この短繊維を基材に結着固定した繊維構造体が知られている。このような繊維構造体は、電気・電子・化学用途、土木・建築用途、自動車・航空機用途等に用いることができる可能性を有しているが、その多孔質繊維構造の表面積または密度が低い点において大きな課題とされてきた。
【0003】
繊維構造体の製作方法としては、加熱加圧方法、機械式加工植毛方法、静電電気植毛方法などが利用されている。
【0004】
加熱加圧方法として、例えば、炭素長繊維または短繊維を抄造後、有機高分子で結着させ、これを高温で焼成することにより有機高分子を炭素化させたシート状の多孔質基材とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
静電電気植毛方法として、例えば、接着剤層を有する網状または格子状基材に、静電気力を利用してパイルを植え付けるフロック加工が知られており(例えば、特許文献2参照。)、より具体的には、独立発泡プラスチックの片面または両面に接着剤を塗布して炭素繊維の短繊維を連続式電気植毛することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
また、植毛用パイルの散布装置として、粉体塗料と同様に、植毛用パイルを散布ガンによって接着剤層を設けた被植毛物に対して散布する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−228086号公報
【特許文献2】特表2010−512999号公報
【特許文献3】特開2004−350519号公報
【特許文献4】特開平08−117646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の加熱加圧方法、機械式加工植毛方法、静電電気植毛方法などを利用して作成した繊維構造体は、植毛する短繊維の高密度化及び多表面積化が困難であった。本発明者らはこのような現状に鑑み、短繊維をより高密度で植毛した3次元繊維構造体を開発すべく研究を行って、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の3次元繊維構造体は、基材に短繊維を吹き付けることにより同短繊維を基材に結合させて成る3次元繊維構造体であって、基材は、ゲル状の固体または空隙を有する多孔質体であって、固体の表面または空隙部分に短繊維を刺し込ませることにより、短繊維を基材に結合させて成るものである。
【0010】
また、本発明の3次元繊維構造体は、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)多孔質体が不織布であること。
(2)不織布と、基材に短繊維を吹き付ける吹付装置を1000Pa以下の減圧環境下として、不織布に短繊維を20〜300m/secの速度で吹き付けること。
(3)吹付装置による短繊維の吹き付け方向を、不織布の面方向と直交する方向とすること。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材に短繊維を高密度で吹き付けた3次元繊維構造体とすることができ、高密度で多表面積の3次元繊維構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施例の3次元繊維構造体の拡大断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の3次元繊維構造体は、基材に短繊維を吹き付けることにより同短繊維を基材に結合させて成る3次元繊維構造体である。
【0014】
基材としては、ゲル状の固体または空隙を有する多孔質体であることが望ましく、空隙を有する多孔質体としては、具体的には、繊維ウェブ、シート、ペーパー、多孔状発泡体、不織布などの多孔状、網状または格子状の物体であることが望ましい。
【0015】
短繊維は、繊維状としたセラミックス、炭素、金属、ガラス、樹脂などであればよい。短繊維の「短」とは基材のサイズと比較して短いということであり、基材における最大長の寸法よりも短い繊維体を「短繊維」と呼ぶこととするが、現実的には、長くても2〜3cm以下であり、望ましくは1cm以下である。
【0016】
短繊維は、吹付装置を用いて基材に吹き付けられており、吹付装置は、噴射ノズルとキャリヤガスとともに短繊維を噴射ノズルから吹き出し可能としている。基材と吹付装置とは、1000Pa以下に減圧可能としたチャンバ内で、吹付装置の噴射ノズルを基材に向けて配置し、チャンバ内を1000Pa以下に減圧した減圧環境下として、基材への短繊維の吹き付けを行っている。
【0017】
特に、噴射ノズルは、短繊維の吹き付け方向を基材の面方向と直交する方向としており、基材はX−Yテーブルなどの移動手段によって、繊維の吹き付け方向と直交する方向に移動可能とすることによってスキャニングを行い、面状に吹き付け可能としている。なお、基材ではなく噴射ノズルを移動させてスキャニングを行い、短繊維を基材に面状に吹き付け可能としてもよい。
【0018】
特に、基材がフェルトなどの不織布で、短繊維がカーボン繊維であって、吹き付けを行った場合、吹き付けられたカーボン繊維は、不織布の空隙部分に刺し込まれるとともに不織布の繊維と短繊維とが絡み合って強固に結合し、基材に対して垂直に植毛した3次元構造をもつ多孔質繊維構造体となった3次元繊維構造体とすることができる。
【0019】
また、基材がゲル状の固体のように空隙を有していない場合であっても、ゲルに短繊維を刺し込んで植毛またはコーティングするこができる。
【0020】
なお、短繊維を基材に吹き付ける速度としては、20〜300m/secであることが好ましく、望ましくは、50〜150m/secである。
【0021】
このように、ゲル状の固体の表面または多孔質体の空隙部分に短繊維を刺し込ませることにより短繊維を基材に結合させて3次元繊維構造体とすることにより、短繊維の高密度化及び多表面積化を図ることができる。
【実施例1】
【0022】
基材としては、厚み2mmのカーボンフェルト(商品名:TMIL 2F)を使用し、短繊維としては、東レ株式会社の炭素ミルドファイバー 直径7μm、長さ:150μm(商品名:トレカMLD-1000)を使用した。
【0023】
吹付装置は、N2ガスをキャリヤガスとし、キャリヤガスと短繊維と混合するとともにキャリヤガスを5L/minで幅0.4mm、長さ10mmのリット型ノズルから吹き出し可能とし、10pa程度までに真空を引いたチャンバ内の基材に対してスキャンしながら吹き付けた。吹付装置の噴射ノズルの先端から基材までの距離は15mmとし、噴射ノズルは基材に対して垂直で位置させた。ノズルのスキャン速度は1秒間で1mm、スキャン数は往復1回とした。
【0024】
本発明で形成した3次元繊維構造体の断面を図1に示す。3次元繊維構造体は、下層側からカーボンフェルトの基材層、短繊維がカーボンフェルト基材層の中まで打ち込まれることで形成された複合層、そして、カーボンフェルトの基材上で短繊維同士が摩擦力で絡み合って結合して積み上がった短繊維層で構成した3層構造となっている。中間の複合層は約0.6mmの厚みで、上層の積み上がった短繊維層は、0.6mmであった。吹き付けた短繊維は、基材に対して垂直方向に打ち込まれた3次元構造を有していることを分かる。
【0025】
3次元繊維構造体では、基材であるカーボンフェルトの炭素繊維間の距離が30〜150μm程度であることに比べ、中間の複合層での炭素繊維間の距離は5〜50μmとなり、約3倍以上短くなっている。即ち、単位体積当に対して、3倍以上の高い密度や超多表面積が実現している。
【0026】
噴射ノズルのスキャン速度、スキャン数、キャリヤガスの量などを制御することで、3次元繊維構造体では、基材で構成される基材層と、その基材に打ち込まれることで形成された複合層の2層構造とすることもできる。さらに、基材の厚みや形状を選択することで、複合層のみで構成した3次元繊維構造体とすることもできる。
【実施例2】
【0027】
基材としては、厚み2mmのカーボンフェルト(商品名:TMIL 2F)を使用し、短繊維としては、東レ株式会社の炭素ミルドファイバー 直径7μm、長さ:150μm(商品名:トレカMLD-1000)を使用した。
【0028】
吹付装置は、0.4MPaの高圧N2ガスをキャリヤガスとし、キャリヤガスと短繊維と混合するとともにキャリヤガスを5L/minで幅0.4mm、長さ10mmのリット型ノズルから吹き出し可能とし、10pa程度までに真空を引いたチャンバ内の基材に対してスキャンしながら吹き付けた。
【0029】
本実施例では、吹付装置の噴射ノズルの先端から基材までの距離は30mmとし、噴射ノズルは基材に対して垂直で位置させた。ノズルのスキャン速度は1秒間で1〜2mm、スキャン数は往復2回とした。
【0030】
実施例1と同一の構造体の3次元繊維構造体を実現した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の3次元繊維構造体は、電極材、断熱材、耐熱材、消臭材・抗菌材・防黴材、電磁波シールド材、繊維強化プラスチックのバース基材などの用途に用いることができる。
図1