特許第6206915号(P6206915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特許6206915-模擬視界シミュレーション装置 図000002
  • 特許6206915-模擬視界シミュレーション装置 図000003
  • 特許6206915-模擬視界シミュレーション装置 図000004
  • 特許6206915-模擬視界シミュレーション装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206915
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】模擬視界シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/497 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   G01S7/497
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-222611(P2013-222611)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-83949(P2015-83949A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】金 奉根
(72)【発明者】
【氏名】角 保志
(72)【発明者】
【氏名】松本 吉央
【審査官】 公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−023600(JP,U)
【文献】 特開平08−219945(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0111011(US,A1)
【文献】 角 保志, 外2名,屋外環境シミュレータによるビジョン安全センサの性能評価,第31回日本ロボット学会学術講演会 2013年 The 31st Annual Conference of the Robotics Society of Japan,日本,2013年 9月 4日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48− 7/51
G01S 17/00−17/95
G01W 1/18
G01M 11/00
A63J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験空間内に擬似雪片を降下させ、センサによる物体の判別性能を評価するため、あるいは、悪天候による視程低下を模擬的に再現するための模擬視界シミュレーション装置であって、
前記試験空間の底部に設けた擬似雪片貯留部から、前記擬似雪片を空気流とともに吸い込む吸引パイプと、
前記吸引パイプの末端に接続され、前記試験空間の天井面に沿って配置された排出パイプと、
前記排出パイプの末端に接続され、その入口端から出口端に到るまで、内面に複数本の螺旋状フィンが円周方向に均等に形成された擬似雪片旋回部と、
前記螺旋状フィンと同数のチューブからなるチューブ体とを備え、
前記チューブの入口端のそれぞれは、前記擬似雪片旋回部において、隣り合う螺旋状フィン間で均等に分配された前記擬似雪片を取り込むよう、前記擬似雪片旋回部の出口端に正対向するよう配置され、
前記チューブのそれぞれは、取り込んだ擬似雪片が、前記試験空間内において均一に降下するよう、その先端に設けられた噴出口の向きが選定されていることを特徴とする模擬視界シミュレーション用装置。
【請求項2】
前記擬似雪片旋回部は、前記排出パイプ末端との接続部から前記出口端に向けて、徐々に内径が縮径する逆裁頭円錐形であることを特徴とする請求項1に記載の模擬視界シミュレーション用装置。
【請求項3】
前記チューブ体は、その基端部に放射状のリブを備えており、前記チューブが前記リブから前記噴出口に向けて延出するよう一体成形されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された模擬視界シミュレーション装置。
【請求項4】
前記リブが、前記螺旋状フィンの末端と整合するよう配置されていることを特徴とする請求項3に記載された模擬視界シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCDカメラ、レーザーレーダ、赤外線距離センサ等、視界により影響を受けるセンサを試験するための模擬視界シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
視界により影響を受けるセンサとして、例えば、生活支援ロボットには、CCDカメラ等のセンサが搭載されている。生活支援ロボットが人間と安全に空間を共有し、移動及び作業を実行するためには、CCDカメラ等のセンサ、センサ群によって、適切かつ確実に周囲の環境を認識できることが要求される。そのために、様々な環境下で、こうしたセンサ、センサ群が、安全面の要件を満たす性能を発揮できるかどうかを評価するための試験方法・手順に関する国際規格策定が検討されている。
【0003】
国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission,IEC)は、非接触の人検知装置であるESPE(Electro-Sensitive Protective Equipment,電気的検知保護設備)の安全規格としてIEC61496シリーズを開発・発行している。
これらの規格では、センサの検出能力や耐久性等とともに、周囲温度や湿度、電気的ならびに機械的妨害、外乱光に対する光干渉、センサの光学窓の汚染妨害などについて、その要求事項と試験方法について記載されている。規格に準拠したセンサは、規定の環境にさらされても、正常運転を続けること、あるいは、危険側故障を起こさないことが求められている。
【0004】
しかしながら、これらの規格は、工場等における労働者の安全確保を目的とした規格であるため、環境条件として専ら屋内が想定されており、雨や雪などの自然環境下での気象条件については考慮されていない。ロボット等に搭載されるセンサの安全面等での基準を策定するには、自然環境下での試験は極めて重要であるが、試験に適した自然環境を再現することが非常に困難であり、大規模な施設が必要となる等、試験の実施には困難が伴う。
そのため、模擬降雪装置を利用して、試験空間内に、悪天候下での視界を再現できる人工降雨装置・人工降雪装置等を利用することが現実的である。
【0005】
特許文献1には、氷ブロックを任意の圧下力で圧下する自動圧下機構と、圧下状態の氷ブロックを受けこれに相対回転させる刃により切削して砕氷片を作りこれを落下させる自動砕氷機構と、砕氷片を受けてこれを一様に分布落下させる自動ふるい機構と、分布落下する砕氷片を自由落下させ模擬降雪として観測する降雪筒と、降雪筒内を落下する砕氷片の一部を融解して模擬湿雪を作る熱処理機構と、模擬湿雪を受けて模擬降雪量を測定する測定機構を備えた模擬湿雪降雪実験装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−253405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の模擬湿雪降雪実験装置は、氷ブロックを切削して砕氷片に、赤外線レーザーを照射して、模擬湿雪を製造することを前提としている。このため、高価な設備を必要とし、しかも、一定の容積が必要な試験空間内に、擬似雪片を均一に降雪させることはできない。
そこで、擬似雪片を使用して、試験空間の天井部に沿うように複数の排出パイプを設置し、各パイプに擬似雪片噴出口を開口させ、天井部全体から圧縮空気とともに擬似雪片を噴出させることが考えられる。
【0008】
しかし、このような模擬降雪装置では、複数の排出パイプのそれぞれに擬似雪片を均等に分配するのが非常に困難である。そのため、各排出パイプ毎に擬似雪片供給部、吸引部を設ける必要がある。さらに、個々の擬似雪片排出パイプにおいても、上流側から下流側に向うにつれ風量が圧縮空気の圧力によって変化するため、上流側の開口と下流側の開口のそれぞれで、均一な量の擬似雪片を噴出させるよう、各開口端から噴出される擬似雪片の量を均等化することも必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の模擬視界シミュレーション装置では、圧縮空気とともに擬似雪片を送給する際、旋回流を発生させ、噴出口を備えた複数のチューブに、擬似雪片を均等に分配し、各噴出口の向きを選定することにより、試験片の周辺の空間において、擬似雪片が均等に降下するようにした。
より具体的には、本発明の模擬視界シミュレーション装置は、試験空間内に擬似雪片を降下させ、センサによる物体の判別性能を評価するため、あるいは、悪天候による視程低下を模擬的に再現するための模擬視界シミュレーション装置であって、前記試験空間の底部に設けた擬似雪片貯留部から、前記擬似雪片を空気流とともに吸い込む吸引パイプと、前記吸引パイプの末端に接続され、前記試験空間の天井面に沿って配置された排出パイプと、前記排出パイプの末端に接続され、その入口端から出口端に到るまで、内面に複数本の螺旋状フィンが円周方向に均等に形成された擬似雪片旋回部と、前記螺旋状フィンと同数のチューブからなるチューブ体とを備え、前記チューブの入口端のそれぞれは、前記擬似雪片旋回部において、隣り合う螺旋状フィン間で均等に分配された前記擬似雪片を取り込むよう、前記擬似雪片旋回部の出口端に正対向するよう配置され、前記チューブのそれぞれは、取り込んだ擬似雪片が、前記試験空間内において均一に降下するよう、その先端に設けられた噴出口の向きが選定されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、擬似雪片旋回部により、擬似雪片が各チューブのそれぞれに均等に分配されるので、各チューブ先端の噴出口の向きを選定することにより、擬似雪片を試験片の周辺の空間に均等に降下させることができ、空気流の流速や擬似雪片の形状などにより、特定の気象条件における視界を簡単に再現することが可能となる。
しかも、試験室の天井部に排出パイプを1本設けるだけで、1基のエアコンプレッサーにより試験片の周辺に擬似雪片を均等に降下させることが可能となるので、試験設備の低コスト化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施例による模擬降雪装置を備えた試験設備の全体構造を示す図である。
図2図2は、本実施例による擬似雪片降雪装置の基本構造を示す図である。
図3図3は、本実施例による擬似雪片降雪装置の擬似雪片旋回部を示す図である。
図4図4は、本実施例による擬似雪片降雪装置のノズル部の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本実施例による模擬降雪装置を備えた試験設備の全体構造を示すものである。
一般的には、3mの距離で人間の存在を認識できれば、安全が確保されるとしていることから、この模擬降雪装置は、図1に示すように、幅4m、奥行き1m、高さ1.5mの試験室1の内部に、側壁から1mのところに、人間を模した試験片2を設置し、擬似雪片噴射部3から擬似雪片4を降雪させた状態で、3m離れた窓5から、ロボット等に搭載されるセンサ6により、試験片2の存在を確実に視認できるか否かを試験する。なお、センサ6としては、CCDカメラ、ステレオカメラ、レーザー測距装置、赤外線測距装置など様々なものが含まれる。
なお、本実施例では、ステンレスフレームに、ビニールシートで天井面、側壁を覆うことで試験室1を製作した。
【0014】
ここで、試験空間内において、試験片2周囲の擬似雪片による反射の影響をも再現するため、所定の降雪量の程度が再現されるよう、擬似雪片4の降下量を、試験片2の周辺の空間内に均等に分配して降下させることが必要となる。
【0015】
図2は、そのための擬似雪片降雪装置の基本構造を説明する図である。
図1に示すような試験空間の床面には、逆裁頭円錐形の擬似雪片貯留部7が設けられ、擬似雪片4が貯留されている。擬似雪片貯留部7の中央部には、貯留した擬似雪片4の直上面に位置するよう、吸引パイプ8の先端が配置されている。吸引パイプ8の外周には、圧縮空気噴出部9が設けられており、吸引パイプ8の内部において、エアコンプレッサー10からの圧縮空気を上方に向けて噴出するようにしている。なお、エアコンプレッサー10は、ボールバルブなどの風量調節機能、圧力調節機能を備えたもので、シミュレーションを行う視界条件に応じて擬似雪片4の噴出量を調整できるようになっている。
【0016】
擬似雪片4としては、発泡ビーズなどの樹脂素材を用いるが、互いに接触したり、衝突することにより静電気が発生して塊となったり、試験装置の側壁に付着するのを防止するため、表面に静電気防止処理を行うことが好ましい。また、擬似雪片4は、比重や粒径により空気中に滞留する時間や、反射量が異なるため、実際に発生する降雪時の視界が再現できるよう、樹脂材料の材質や形状が選定される。本実施例では、粒径が1mm〜3mm程度の球状の樹脂製発泡ビーズを使用した。
【0017】
吸引パイプ8は、試験室1の側壁に沿って天井部まで上昇し、本実施例では、天井面に沿って、試験片2の直上付近までパイプが延設されている。本実施例では、天井部に到るまでを吸引パイプ8、その上端から天井面に沿い、後述する擬似雪片噴射部3までを排出パイプ11と称する。
【0018】
擬似雪片噴射部3から噴射された擬似雪片4は、再び、裁円錐状の擬似雪片貯留部7に回収され、試験期間中、擬似雪片貯留部7の中央部における擬似雪片高さをほぼ一定に維持することができる。これにより、吸引パイプ8から吸引される擬似雪片4の量が変動するのを防止することができる。もちろん、裁円錐状の擬似雪片貯留部7の上端外縁を、試験室1の側壁まで延出させ、噴出された擬似雪片の全量を回収できるようにしてもよい。
【0019】
次に、擬似雪片噴射部3の構造について説明する。
擬似雪片噴射部3は、図3に示すような、ラッパ状に拡開する円筒状の擬似雪片旋回部12を備えており、その拡開側端部(図3において上方)に形成した嵌合部13に、天井面に沿ってその中央部付近まで延設された排出パイプ11の末端が結合されている。擬似雪片旋回部12の内周面には、嵌合部13の下方から徐々に縮径する基端部20(図3において下方)に向けて、所定の高さを有する、螺旋状のフィン14が内周面に設けられている。
【0020】
擬似雪片旋回部12の基端部20外周には、図4に示されるように、ノズル部15の基端部16が外嵌されている。基端部16の上面には、擬似雪片旋回部12の内周面に形成したフィン14と同数の8本のチューブ17からなるチューブ体18が一体成形されている。各チューブ17の垂直断面は、中心角略45°の扇形形状をしており、内部に擬似雪片4が通過する通路が形成されている。
【0021】
なお、図4は、チューブ体18の構造を分かりやすく説明したもので、この実施例では、ノズル部15の基端部16が、天井面に沿う擬似雪片旋回部12と連続するように結合されているので、各チューブ17の先端に形成された噴射口から、擬似雪片4が試験片2の周囲に均等に降下するように、各チューブの17の長さや噴射口の向きが選定されている。
【0022】
図4において、各チューブ17の下端は、基端部16の上面8本の放射状のリブ19を形成するよう一体成形されており、このリブ19は、擬似雪片旋回部12の下端に嵌合されたとき、8本のフィン14の末端と整合するよう形状が定まられている。このため、各チューブ17の下端と擬似雪片旋回部12の基端部20が正しく位置決めされるよう、双方にマークや、互いに嵌合する凹部、凸部が形成されている。
【0023】
擬似雪片噴射部3の作用について説明する。
図2に示したように、エアコンプレッサー10により、擬似雪片貯留部7に貯留された擬似雪片4は、吸引パイプ8の末端から吸い込まれる。その後、試験空間の天井部に到り、排出パイプ11を経て、擬似雪片旋回部12に導入される。
擬似雪片4は、その自重により、排出パイプ11の内部において、下方を流れることになるが、擬似雪片旋回部12内周に形成された螺旋状のフィン14によりその下流側(図2において下方側)に向けて、強力な旋回流が形成されることになる。
この旋回流により擬似雪片4に遠心力が作用するが、擬似雪片旋回部12の内周面が徐々に縮径しているため、基端部20に到るまでに、隣り合うフィン14の間に均等に分散されることになる。
その結果、各チューブ17の下端に形成されるリブ19に到るまでに、擬似雪片4が均等に分配され、各チューブ17にほぼ同数の擬似雪片4が導入されるので、各チューブ17の先端に設けられた噴出口から、試験室1内の試験片周辺に同数の擬似雪片4が噴出されることになる。
【0024】
各チューブ17は、エアコンプレッサー10の風量に合わせて、各噴出口から噴出される擬似雪片4が、試験片2の周辺に均等に降下するよう、その先端の噴出口の向きが設定されており、シミュレーションを行う視界条件に応じて最適なものを選択する。なお、各チューブ17の先端の向きを自由に調節できるよう調節機構を設けたり、チューブ17自体をフレキシブルな材質で形成してもよい。各チューブ17の先端に設けられた噴出口から同数の擬似雪片が噴出されるため、調整を簡単に行うことが可能となる。
また、各チューブ17の先端の噴出口の形状によっても、擬似雪片4の空間内における降下密度を調整することが可能である。
【0025】
なお、実施例では、試験室1に擬似雪片噴射部3を1ユニット設けているが、試験室1の容積や、シミュレーションを行う視界条件によっては複数のユニットを設けるようにしても良い。
また、雨天、降雪、濃霧等、実施の気象条件に応じて、それぞれの視界条件が再現できるよう、予め、実験結果を比較し、エアコンプレッサー10の風量や、使用する擬似雪片などを選択できるよう、対応マップを作成することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、エアコンプレッサー1基で、しかも、試験室の天井部に配設させる排出パイプを1本設けるという低コストの設備により、試験片の周辺に擬似雪片を均一に降下させることが可能となり、低コストの設備で様々な視界条件を正確に再現することが可能になるので、模擬視界シミュレーション装置として広く採用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0027】
1 試験室
2 試験片
3 擬似雪片噴射部
4 擬似雪片
5 窓
6 センサ
7 擬似雪片貯留部
8 吸引パイプ
9 圧縮空気噴出部
10 エアコンプレッサー
11 排出パイプ
12 擬似雪片旋回部
13 排出パイプとの嵌合部
14 螺旋状のフィン
15 ノズル部
16 ノズル部の基端部
17 チューブ
18 チューブ体
19 リブ
20 擬似雪片旋回部の基端部
図1
図2
図3
図4