特許第6206977号(P6206977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206977ペンタフルオロスルファニルフタロシアニン誘導体およびその中間体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206977
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ペンタフルオロスルファニルフタロシアニン誘導体およびその中間体
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/22 20060101AFI20170925BHJP
   C07C 381/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C07D487/22CSP
   C07C381/00
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-549905(P2014-549905)
(86)(22)【出願日】2013年11月29日
(86)【国際出願番号】JP2013082136
(87)【国際公開番号】WO2014084331
(87)【国際公開日】20140605
【審査請求日】2016年7月5日
(31)【優先権主張番号】61/731,132
(32)【優先日】2012年11月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】飯田 紀士
(72)【発明者】
【氏名】徳永 恵津子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 記庸
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−041137(JP,A)
【文献】 特開平04−039361(JP,A)
【文献】 特開平05−222047(JP,A)
【文献】 特開2002−316989(JP,A)
【文献】 特開2002−309119(JP,A)
【文献】 特開2004−137184(JP,A)
【文献】 特開2014−065670(JP,A)
【文献】 特開2014−051452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/22
C07C 381/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
(式中、Mは水素原子、金属元素、半金属元素、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物であり、
Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、またはトリフルオロメチル基である)
で表される、フタロシアニン誘導体。
【請求項2】
前記Rが水素原子である、請求項1に記載のフタロシアニン誘導体。
【請求項3】
前記Rが、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、またはトリフルオロメチル基である、請求項1に記載のフタロシアニン誘導体。
【請求項4】
前記Rがトリフルオロメチル基、フェノキシ基、またはフェニルチオ基である、請求項1に記載のフタロシアニン誘導体。
【請求項5】
一般式(2):
【化2】
(式中、Halはハロゲン原子であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはシアノ基である)
で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体。
【請求項6】
一般式(3):
【化3】
(式中、Rは、水素原子、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、またはトリフルオロメチル基である)
で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体。
【請求項7】
般式(3):
【化4】
(式中、Rは、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、またはトリフルオロメチル基である)
で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体と
水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物と、を加熱する工程を含む、請求項1に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法。
【請求項8】
一般式(2):
【化5】
(式中、Halはハロゲン原子であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはシアノ基である)
で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体のHalをシアノ基に変換し(ただし、Xがハロゲン原子である場合は、HalまたはXのいずれか一方をシアノ基に変換し)、かつXをRに変換する(ただしXとRがともに水素原子である場合を除く)工程により、一般式(3)で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を得る工程をさらに含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
(A1)一般式(2a):
【化6】
(式中、Halはハロゲン原子である)で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体のHalをシアノ基に変換して、一般式(3a):
【化7】
で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を得る工程、および
(B)前記ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体と、水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物と、を加熱する工程を含む、請求項2に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法。
【請求項10】
(A2)一般式(2b):
【化8】
(式中、Halはハロゲン原子である)で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体の一方のHalをシアノ基に変換し、他方のHalをR’に変換して、一般式(3b):
【化9】
(式中、R’は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、またはトリフルオロメチル基である)で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を得る工程、および
(B)前記ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体と、水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物と、を加熱する工程を含む、請求項3に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法。
【請求項11】
(A3)一般式(2c):
【化10】
(式中、Halはハロゲン原子である)で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体のHalをR’に変換して、一般式(3c):
【化11】
(式中、R’は、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、またはトリフルオロメチル基である)で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を得る工程、および
(B)前記ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体と、水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物と、を加熱する工程を含む、請求項3に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペンタフルオロスルファニルフタロシアニン誘導体その中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
フタロシアニンは青および緑色の顔料として利用されてきた。またフタロシアニンは、その優れた物理学的な性質から電荷発生剤、光磁気ディスク用色素として利用されている機能性色素でもある。さらにフタロシアニンは、光線力学的治療の光増感剤、非線型光学材料等、さまざまな分野での応用が期待されている。しかしフタロシアニン誘導体は一般に有機溶媒への溶解性が悪いという問題を抱える。そこで、特許文献1、非特許文献1および2には、溶解性の向上を目的としたトリフルオロメチル基を導入したフタロシアニンが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−41137号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Barkanova、 S. V.; Iodko、 S. S.、 Kaliya、 O. L.; Kondratenko、 N. V.; Luk’yanets、 E. A.; Oksengendler、 I. G.; Tomilova、L. G.; Yagupol’skii、 L. M.; Zhurnal Organicheskoi Khimii、 1979、15(8)、1770-1773.
【非特許文献2】Oksengendler、 I. G.; Kondratenko、 N. V.; Luk’yanets、 E. A.; Yagupol’skii、 L. M. Zhurnal OrganicheskoiKhimii、 1977、13(7)、1554-1558.
【非特許文献3】Alexandre A. P.; QingpingT.; Richard C. L.; J. Org. Chem. 2002、 67、 9276-9287.
【非特許文献4】Cheng-Pan、 Z.; Zong-Ling、 W.; Qing-Yun、 C.; Chun-Tao、 Z.; Yu-Cheng、 G.; Ji-Chang、 X.; Angew. Chem. Int. Ed. 2011、 50、 1896-1900.
【非特許文献5】Gujadhur、 R.; Venkataraman、 D.; Synth. Commun. 2001、 31、 2865-2879.
【非特許文献6】Kwong、 F. Y.; Buchwald、 S. L.; Org. Lett、 2002、 4、 3517-3520.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のとおり、フタロシアニンに対して、有機溶媒への溶解性を向上させる試みがなされてきたが、いまだ溶解性は十分なレベルには到達していない。かかる状況を鑑み、本発明は、有機溶媒への溶解性に優れたフタロシアニン誘導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、従来のトリフルオロメチル基より嵩高く溶解性に優れた含フッ素官能基であるペンタフルオロスルファニル基をフタロシアニンに導入することで前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、前記課題は、以下の本発明により解決される。
[1]一般式(1):
【0007】
【化1】
(式中、Mは水素原子、金属元素、半金属元素、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物であり、
Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、またはトリフルオロメチル基である)
で表される、フタロシアニン誘導体。
[2]前記Rが水素原子である、[1]に記載のフタロシアニン誘導体。
[3]前記Rが、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、またはトリフルオロメチル基である、[1]に記載のフタロシアニン誘導体。
[4]前記Rがトリフルオロメチル基、フェノキシ基、またはフェニルスルフィド基である、[1]に記載のフタロシアニン誘導体。
[5]一般式(2):
【0008】
【化2】
(式中、Halはハロゲン原子であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはシアノ基である)
で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体。
[6]一般式(3):
【0009】
【化3】
(式中、Rは、水素原子、アルキルエーテル、アリールエーテル、アルキルスルフィド、アリールスルフィド、またはトリフルオロメチル基である)
で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体。
[7](A)一般式(3):
【0010】
【化4】
(式中、Rは、水素原子、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、またはトリフルオロメチル基である)
で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を準備する工程、および
(B)前記ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体と、水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物と、を加熱する工程を含む、[1]に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法。
[8]前記工程(A)が、
一般式(2):
【0011】
【化5】
(式中、Halはハロゲン原子であり、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはシアノ基である)
で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体のHalをシアノ基に変換し、かつXをRに変換する工程により、一般式(3)で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を準備する工程である、[7]に記載の製造方法。
[9](A1)一般式(2a):
【0012】
【化6】
(式中、Halはハロゲン原子である)で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体のHalをシアノ基に変換して、一般式(3a):
【0013】
【化7】
で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を準備する工程、および
(B)前記ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体と、水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物と、を加熱する工程を含む、[2]に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法。
[10](A2)一般式(2b):
【0014】
【化8】
(式中、Halはハロゲン原子である)で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体の一方のHalをシアノ基に変換し、他方のHalをR’に変換して、一般式(3b):
【0015】
【化9】
(式中、R’は、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、またはトリフルオロメチル基である)で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を準備する工程、および
(B)前記ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体と、水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物と、を加熱する工程を含む、[3]に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法。
[11](A3)一般式(2c):
【0016】
【化10】
(式中、Halはハロゲン原子である)で表されるハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体のHalをR’に変換して、一般式(3c):
【0017】
【化11】
(式中、R’は、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、またはトリフルオロメチル基である)で表されるペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を準備する工程、および
(B)前記ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体と、水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物と、を加熱する工程を含む、[3]に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により有機溶媒への溶解性に優れたフタロシアニン誘導体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例8で得たフタロシアニン誘導体のUV/Visスペクトル
図2】実施例9で得たフタロシアニン誘導体のUV/Visスペクトル
図3】実施例10で得たフタロシアニン誘導体のUV/Visスペクトル
図4】実施例11で得たフタロシアニン誘導体のUV/Visスペクトル
図5】比較用フタロシアニン誘導体のUV/Visスペクトル
図6】実施例8で得たフタロシアニン誘導体の蛍光スペクトル
図7】実施例9で得たフタロシアニン誘導体の蛍光スペクトル
図8】実施例10で得たフタロシアニン誘導体の蛍光スペクトル
図9】実施例11で得たフタロシアニン誘導体の蛍光スペクトル
図10】比較用フタロシアニン誘導体の蛍光スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「〜」は両端の値を含む。
【0021】
1.フタロシアニン誘導体
フタロシアニンとは、4つのフタル酸イミドが窒素原子で架橋された構造をもつ環状化合物である。本発明においてフタロシアニン誘導体とは、フタロシアニンまたは置換基が導入されたフタロシアニンをいう。
【0022】
本発明のフタロシアニン誘導体は、一般式(1)で表される。
【0023】
【化12】
【0024】
Mは水素原子、金属元素、半金属元素、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物である。
【0025】
金属元素とは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ランタノイド系金属、アクチノイド系金属元素である。その具体例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、モリブデン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スズ、ランタン、ウランなどが挙げられる。
【0026】
半金属元素とは、金属と非金属の中間の性質を有する元素であり、例えば、ホウ素、ケイ素、砒素、ゲルマニウム、鉛などが挙げられる。
【0027】
金属酸化物とは、前記金属元素の酸化物である。その具体例として、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化ランタン、酸化ウランなどが挙げられる。
【0028】
半金属酸化物とは、前記半金属元素の酸化物である。その具体例として、ホウ素酸化物、ケイ素酸化物、砒素酸化物、ゲルマニウム酸化物、鉛酸化物などが挙げられる。
【0029】
金属水酸化物とは、前記金属元素の水酸化物である。その具体例には、水酸化アルミニウム、水酸化インジウム、水酸化タリウムなどが挙げられる。
【0030】
半金属水酸化物とは、前記半金属元素の水酸化物である。その具体例には、ホウ素水酸化物、ケイ素水酸化物、砒素水酸化物、ゲルマニウム水酸化物、鉛水酸化物などが挙げられる。
【0031】
金属ハロゲン化物とは前記金属元素のハロゲン化物であり、半金属ハロゲン化物とは前記半金属元素のハロゲン化物である。その具体例には、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物が挙げられる。
【0032】
Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、またはトリフルオロメチル基である。アルキル基は、フタロシアニン誘導体の有機溶媒への溶解性を損なわない限り特に限定されないが、炭素数が1〜5の鎖状または分岐状のアルキル基が好ましい。アリール基もフタロシアニン誘導体の有機溶媒への溶解性を損なわない限り特に限定されないが、炭素数が6〜12の芳香族基が好ましく、フェニル基がより好ましい。アリール基は、炭素数1〜3の分岐状または直鎖状の置換基を有していてもよい。
【0033】
Rのうち、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、またはトリフルオロメチル基をR’と表すことがある。
【0034】
以下に、本発明のフタロシアニン誘導体のいくつかの態様を示す。
【0035】
【化13】
【0036】
フタロシアニン誘導体1bのうち、好ましい態様は以下のとおりである。
【0037】
【化14】
【0038】
本発明のフタロシアニン誘導体は、有機溶媒に対して優れた溶解性を示し、溶液状態において凝集しにくく溶解安定性も有する。当該有機溶媒は特に限定されないが、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、n−ブチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ヘプタン、ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、シメン、メシチレン、ジイソプロピルベンゼン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アミノエタノール、N,N−ジメチルアミノエタノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。中でも、N,N−ジメチルアミノエタノールが最も好ましい。
【0039】
本発明のフタロシアニン誘導体には四種類の構造異性体が存在するが、本発明のフタロシアニン誘導体は、これらの異性体を含む。また、本発明のフタロシアニン誘導体は塩を形成する場合があり、さらには水和物、溶媒和物として存在する場合があるが、本発明のフタロシアニン誘導体は、塩体、水和物、および溶媒和物を含む。
【0040】
本発明のフタロシアニン誘導体の製造方法は後述する。
【0041】
2.ハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体
ハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体は、一般式(2)で表される。
【0042】
【化15】
【0043】
Halはハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、合成が容易であるという観点から、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が好ましく、ヨウ素原子がより好ましい。
【0044】
Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはシアノ基である。ここでのハロゲン原子に関しても前述のとおり、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が好ましく、ヨウ素原子がより好ましい。Xがハロゲン原子である場合、Halと同種である必要はない。
【0045】
後述するとおり、本発明のハロゲン含有ペンタフルオロスルファニルベンゼン誘導体(以下、簡潔に「ハロゲン含有誘導体」ともいう)は、本発明のフタロシアニン誘導体の原料として有用である。この観点から、ハロゲン含有誘導体の好ましい態様は以下のとおりである。
【0046】
【化16】
【0047】
ハロゲン含有誘導体2aおよび2bは、ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼンとハロゲン源とを、アルキルリチウム存在下で反応させることにより得られる(非特許文献3参照)。さらに、ハロゲン含有誘導体2bをシアン化物と反応させるとハロゲン含有誘導体2cが得られる。以下に反応スキームを示す。
【0048】
【化17】
【0049】
本反応で使用できる有機リチウム化合物としてはn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビストリメチルシリルアミド、リチウム2、2、6、6−テトラメチルピペリジドが挙げられる。反応性の観点から、リチウム2、2、6、6−テトラメチルピペリジドが好ましい。またハロゲン源としては、分子状ハロゲン、N−ハロゲンスクシンイミド、N−ハロゲンサッカリンを使用できる。反応性の観点から、ハロゲン源は、Cl、I、Br等の分子状ハロゲンが好ましく、Iがより好ましい。
【0050】
使用するハロゲン源の量により、ハロゲン含有誘導体2a、2bを選択的に合成できる。すなわち、ハロゲン源が過剰であると、ハロゲン含有誘導体2bが合成できる。
【0051】
本反応においては、溶媒としてテトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル類が使用でき、取扱性等からテトラヒドロフランが特に好ましい。反応温度は、−20℃〜−78℃とできるが、−78℃程度が好ましい。
【0052】
ハロゲン含有誘導体2bとシアン化物との反応において使用できるシアン化物としては特に限定されないが、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化銅、シアン化亜鉛、トリメチルシリルシアニド等が挙げられる。反応性の観点からシアン化銅が好ましい。この反応において使用できる溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンが挙げられるが、取扱性等の点からジメチルホルムアミドが好ましい。この反応は0℃から溶媒の沸点までの温度において行うことができるが、好ましくは50〜200℃である。
【0053】
3.ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体
ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルとは、フタロニトリルにSF基が導入された化合物である。本発明において、ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体とは、ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル、または当該化合物にSF基以外の基が導入された化合物であり、一般式(3)で表される。本発明のペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体を以下、簡潔に「フタロニトリル誘導体」ともいう。
【0054】
【化18】
【0055】
Rは、水素原子、アルキルエーテル、アリールエーテル、アルキルスルフィド、アリールスルフィド、またはトリフルオロメチル基である。アルキル基およびアリール基については、フタロシアニン誘導体で述べたとおりである。フタロニトリル誘導体の具体的な態様を以下に示す。
【0056】
【化19】
【0057】
R’はアルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルスルフィド基、アリールスルフィド基、またはトリフルオロメチル基である。
【0058】
後述するとおり、本発明のフタロニトリル誘導体は、本発明のフタロシアニン誘導体の原料として有用である。この観点から、フタロニトリル誘導体3bのうち、好ましい態様は以下のとおりである。
【0059】
【化20】
【0060】
式中、Rbは、炭素数1〜3の鎖状または分岐状アルキル基である。nはRbの個数を示し、0〜5の整数である。Rbが過度に存在すると反応性が低下することがあるので、nは0〜2が好ましく、0〜1がより好ましく、0がさらに好ましい。同様に、Rbが嵩高いと反応性が低下することがあるので、Rbが存在する場合、Rbはメチル基が好ましい。
【0061】
フタロニトリル誘導体3aは、前述のハロゲン含有誘導体2aをシアン化物と反応させることで得られる。反応条件等は、ハロゲン含有誘導体の節で述べたとおりである。
【0062】
フタロニトリル誘導体3bは、前述のハロゲン含有誘導体2cのハロゲン原子をR’に変換することで得られる。例えば、ヤゴロフスキー(Yagupolskii)試薬と反応させればフタロニトリル誘導体3b−1(非特許文献4参照)が、フェノール類と反応させるとフタロニトリル誘導体3b−2(非特許文献5参照)が、チオフェノール類と反応させるとフタロニトリル誘導体3b−3(非特許文献6参照)が製造できる。
【0063】
4.フタロシアニン誘導体の製造方法
本発明のフタロシアニン誘導体は、
(A)一般式(3)で表されるフタロニトリル誘導体を準備する工程、および
(B)当該ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル誘導体と、水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物と、を加熱する工程
を含む方法によって製造できる。
以下に、反応スキームを示す。
【0064】
【化21】
【0065】
(1)工程(A)
本工程では、既に述べたようにして一般式(3)で表されるフタロニトリル誘導体を準備する。
【0066】
(2)工程(B)
本工程では、一般式(3)で表されるフタロニトリル誘導体と、水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物とを加熱して、一般式(1)で表される、フタロシアニン誘導体を得る。
【0067】
水素、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属水酸化物、半金属水酸化物、金属ハロゲン化物、または半金属ハロゲン化物を、便宜上「中心成分」ともいう。
【0068】
本工程における反応条件は、通常、フタロシアニンを製造する際の条件であればよい。例えば、一般式(3)で表されるフタロニトリル誘導体と、中心成分のモル比は、3:1〜5:1であればよい。加熱する温度は、180〜250℃が好ましい。
【0069】
本反応は、無溶媒条件下封管して反応を行うことが製造容易性から好ましいが、溶媒中で行なってもよい。使用できる溶媒としては、限定されないが、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、n−ブチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ヘプタン、ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、シメン、メシチレン、ジイソプロピルベンゼン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アミノエタノール、N,N−ジメチルアミノエタノール等のアルコール系溶媒;超臨界二酸化炭素、イオン性液体が挙げられる。
【実施例】
【0070】
[実施例1]2−ヨード−4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼンの合成
【0071】
【化22】
【0072】
窒素置換した30ml三口フラスコに2,2−6,6−テトラメチルピペリジン(Aldrich社製)0.15ml(0.87mmol)とTHF(関東化学株式会社製)2.0mlを入れて0℃に冷却した。これにn−BuLi(三津和化学薬品社製)0.60ml(1.5M、0.87mmol)をゆっくり滴下し0℃で30分撹拌した。反応溶液を−78℃に冷却し、後述する方法で合成した4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼン 100mg(0.44mmol)をTHF 2.0mlに溶かして得た溶液をゆっくり滴下した。−78℃で1時間撹拌した後に、ヨウ素(ナカライテスク株式会社製)122mg(0.87mmol)のTHF溶液 2.0mlをゆっくり滴下し−78℃で2時間撹拌した。その後室温まで昇温し、室温で1時間撹拌した後に水 3.0ml加え反応を停止させた。反応溶液を濃縮後、ジエチルエーテルで三回抽出し、有機相を1N HCl水溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水を用いてこの順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=95/5)で精製し、目的物60mg(収率38%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 7.73 (d、 J = 8.4 Hz、 1H)、 7.87 (dd、 J = 8.4 Hz、 J = 1.5 Hz、 1H)、 8.29 (d、 J = 1.5 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl3): δ = -150.0 (quintet、 J = 150.6 Hz、1F)、 -168.1 (d、 J = 150.6 Hz、 4F)
【0073】
<4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼンの合成>
冷却管、CaClチューブ、および撹拌装置を備えた500mlのフラスコを準備した。フラスコ内に、1−フルオロ−4−ペンタフルオロスルファニルベンゼン 73.4g(0.33mol、UBE America Inc.社製)、NaCN 32.5g(0.66mol)(Sigma−Aldrich社製)、乾燥DMSO(Sigma−Aldrich社製)300mlを仕込んだ。フラスコ内温度を100〜105℃に昇温し合計で47時間加熱した。GC分析による転化率は約75%であった。
【0074】
反応混合物を過剰の水で失活させCHClで抽出した。CHCl相を濃縮し、残留物をHex(ヘキサン)/CHCl混合液に溶かし、さらにNaSOで乾燥した。ろ過後、ろ液を濃縮して、黄色の粗生成物61.0gを得た。室温にて粗生成物を最小量のメタノールに溶かし、真空乾燥した。得られた最終生成物は、白色の結晶であり、収量は36.14gであり、GC分析による純度は95%であった。MSおよびNMRにて最終生成物が4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼンであることを確認した。
【0075】
[実施例2]4−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0076】
【化23】
【0077】
窒素置換した30mlナスフラスコに実施例1で得た2−ヨード−4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼン 200mg(0.56mmol)、シアン化銅(キシダ化学株式会社製)151mg(1.7mmol)を入れ、さらにジメチルホルムアミド(関東化学株式会社製)5.0mlを入れて溶解させた。これを110℃に加熱し5時間撹拌した。その後室温まで冷却し、飽和アンモニア水を加えジエチルエーテルで抽出し、有機相を飽和塩化アンモニア水、飽和食塩水を用いてこの順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物62mg(収率43%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 7.98 (d、 J = 8.7 Hz、 1H)、 8.15 (d、 J = 8.7 Hz、 1H)、 8.20 (s、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl3): δ = -151.6 (quintet、 J = 151.4 Hz、1F)、 -168.1 (d、 J = 151.4 Hz、 4F)
【0078】
[実施例3]2,6−ジヨード−4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼンの合成
【0079】
【化24】
【0080】
窒素置換した100mlナスフラスコに2,2−6,6−テトラメチルピペリジン 1.47ml(8.73mmol)とTHF 10mlを入れて0℃に冷却した。これにn−BuLi 6.42ml(1.36M、8.73mmol)をゆっくり滴下し0℃で30分撹拌した。反応溶液を−78℃に冷却し4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼン 500mg(2.18mmol)をTHF 5.0mlに溶かして得た溶液をゆっくり滴下した。−78℃で1時間撹拌した後に、ヨウ素 2.43mg(9.60mmol)のTHF溶液 5.0mlをゆっくり滴下し−78℃で2時間撹拌した。その後室温まで昇温し、室温で1時間撹拌した後に水 6.0ml加え反応を停止させた。反応溶液を濃縮後、酢酸エチルで三回抽出し、有機相を1N HCl水溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水を用いてこの順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=95/5)で精製し、目的物840mg(収率80%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 8.24 (s、 2H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl3): δ = -150.8 (quintet、 J = 160.4 Hz、1F)、 -167.7 (d、 J = 160.4 Hz、 4F)
【0081】
[実施例4]3−ヨード−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0082】
【化25】
【0083】
窒素置換した50mlナスフラスコに実施例3で得た2,6−ジヨード−4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼン 500mg(1.04mmol)、シアン化銅 140mg(1.56mmol)を入れ、さらにジメチルホルムアミド(関東化学株式会社製)10mlを加えて溶解させた。これを110℃に加熱し5時間撹拌した。その後室温まで冷却し、飽和アンモニア水を加え酢酸エチルで抽出し、有機相を飽和塩化アンモニア水、飽和食塩水を用いてこの順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物87mg(収率22%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 8.17 (d、 J = 1.65 Hz、 1H)、 8.50 (d、 J = 1.65 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl3): δ = -152.27 (quintet、 J = 159 Hz、1F)、 -167.72 (d、 J = 159 Hz、 4F)
【0084】
[実施例5]3−トリフルオロメチル−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0085】
【化26】
【0086】
アルゴン置換した試験管に実施例4で得た3−ヨード−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 50mg(0.132mmol)、後述の方法で合成したヤゴロフスキー試薬106mg(0.263mmol)、銅(ナカライテスク株式会社製)25mg(0.395mmol)を入れ、さらにN,N−ジメチルホルムアミド1.0 mlを加え溶解させた。これを60℃で一晩加熱、撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し水を加え酢酸エチルで抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させ濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物35mg(収率83%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 8.38 (s、 1H)、 8.39 (s、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl3): δ = -62.73 (s、3F)、 -153.2 (quintet、 J = 161.8 Hz、 1F)、 -167.8 (d、 J = 161.8 Hz、 4F)
【0087】
<ヤゴロフスキー試薬の合成法>
ヤゴロフスキー試薬は以下の二段階で合成した。
【0088】
【化27】
【0089】
アルゴン置換した100mlナスフラスコにトリフルオロメチルスルホン酸ナトリウム 4.5g(29mmol)を入れ、トリフルオロメタンスルホン酸 15.4ml(174mmol)をゆっくり滴下した。室温で5分撹拌後、ベンゼン 3.9ml(43.5mmol)をゆっくり滴下し、60℃三時間撹拌した。反応後、0℃に冷却し水をゆっくり加えて反応を停止し塩化メチレンで三回抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物4.6g(収率81%)を得た。
【0090】
【化28】
【0091】
窒素置換した300mlナスフラスコに第1段階で合成した原料4.5g(23.1mmol)とベンゼン61.7ml(695mmol)を加え0℃に冷却した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物 19ml(116mmol)をゆっくり滴下し0℃で一時間撹拌した。反応終了後、水をゆっくり加え反応を停止させ塩化メチレンで三回抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し得られた粗生成物を混合溶媒(ヘキサン/酢酸エチル=8/2)で再結晶し、ヤゴロフスキー試薬5.0g(収率54%)を得た。
1H NMR (300MHz, CD3COCD3): d 8.43 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 8.13 (t, J =7.5 Hz, 1H), 8.00 (t, J = 8.1 Hz, 2H).
19F NMR (282 MHz、CD3COCD3): d -51.0 (s, 3F), -78.5 (s, 3F).
【0092】
[実施例6]3−フェノキシ−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0093】
【化29】
【0094】
アルゴン置換した試験管に実施例4で得た3−ヨード−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 38mg(0.10mmol)、フェノール(Aldrich社製)10.4mg(0.11mmol)、炭酸セシウム(キシダ化学株式会社製)48.9mg(0.15mmol)を入れ、さらにN−メチルピロリドン(Aldrich社製)1.0mlを加えて溶解させ、室温にて撹拌した。一時間撹拌後に水を加えてジエチルエーテルで三回抽出し、有機相を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させた。当該有機相を濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物28mg(収率81%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 7.14 (d、 J = 8.1 Hz、 2H)、 7.36-7.41 (m、 2H)、 7.51 (d、 J = 8.4 Hz、 1H)、 7.55 (d、 J = 2.0 Hz、 1H)、 7.81 (d、 J = 2.0 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl3): δ = -151.7 (quintet、 J = 150.8 Hz、1F)、 -168.3 (d、 J = 150.8 Hz、 4F)
【0095】
[実施例7]3−チオフェノキシ−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0096】
【化30】
【0097】
アルゴン置換した10mlナスフラスコに実施例4で得た3−ヨード−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 80mg(0.21mmol)、炭酸カリウム(ナカライテスク株式会社製)24mg(0.23mmol)、ヨウ化銅(和光純薬工業株式会社製)2.0mg(5mol%)、イソプロパノール(和光純薬工業社製)2.0mlを加えアルゴンを用いて脱気を三回行い、エチレングリコール(ナカライテスク株式会社製)24μl(0.42mmol)、チオフェノール(東京化成工業株式会社製)24μl(0.23mmol)を加え室温で撹拌した。三時間撹拌後、水を加えジエチルエーテルで三回抽出した。有機相を1Mの水酸化ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥した。濃縮された粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物56mg(収率74%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 7.36 (d、 J = 1.4 Hz、 1H)、 7.52-7.61 (m、 5H)、 7.82 (d、 J = 1.4 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl3): δ = -151.6 (quintet、 J = 151.8 Hz、1F)、 -168.5 (d、 J = 150.6 Hz、 4F)
【0098】
[実施例8]テトラキス(ペンタフルオロスルファニル)亜鉛フタロシアニンの合成
【0099】
【化31】
【0100】
窒素置換した10mlナスフラスコに実施例2で得た4−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 51mg(0.20mmol)、塩化亜鉛(ナカライテスク株式会社製)9.1mg(0.066mmol)を入れ、さらにN,N−ジメチルアミノエタノール(東京化成工業株式会社製)を加えて溶解させ140℃に加熱し一晩撹拌した。室温まで冷却後、1Mの塩酸水溶液を加え沈殿した結晶をろ取し、水、ジエチルエーテル、ヘキサンを用いてこの順に洗浄した。結晶をデシケーターで減圧乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=7/3)で精製し目的物5.2mg(収率10%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 非対称体8.40〜9.42 (m、 3H)、 対称体8.10 (d、 J = 8.4 Hz、 1H)、 8.25 (s、 1H)、 8.39 (d、 J = 8.4 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 d-acetone) : δ = 非対称体-144.3 (quintet、 J = 147.9 Hz、 1F)、 -164.3 (d、 J = 147.9 Hz、 4F)、 対称体-147.2 (quintet、 J = 149.5 Hz、 1F)、 -166.5 (d、 J = 149.5 Hz、 4F)
MALDI-TOF calculated forC32H12F20N8S4Zn [M-H+- 1079.9 found 1082.11
【0101】
[実施例9]α−テトラキス(トリフルオロメチル)−β−テトラキス(ペンタフルオロスルファニル)亜鉛フタロシアニンの合成
【0102】
【化32】
【0103】
窒素置換したアンプル管に実施例5で得た3−トリフルオロメチル−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 27mg(0.0826mmol)、塩化亜鉛 3.8mg(0.0275mmol)を入れ封管し230℃で加熱した。5時間加熱後室温まで冷却しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=8/2)で精製し目的物3.8mg(収率10%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 8.83〜8.87 (m、 4H)、 9.81〜10.15 (m、 4H)
19F NMR (282 MHz、 d-acetone): δ = -59.22〜 -61.68 (m、 12F)、 -146.65 〜- 147.81 (m、 4F)、 -164.52 〜 -166.71 (m、 16F)
MALDI-TOF calculated forC36H8F32N8S4Zn[M-H+]-1354.1 found 1352.05
【0104】
[実施例10]α−テトラキス(フェノキシ)−β−テトラキス(ペンタフルオロスルファニル)亜鉛フタロシアニンの合成
【0105】
【化33】
【0106】
アルゴン置換したアンプル管に実施例6で得た3−フェノキシ−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 24mg(0.069mmol)、塩化亜鉛 3.1mg(0.023mmol)を加え、封管し220℃に加熱した。4時間加熱した後、室温まで冷却し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Benzene/AcOEt=9/1)で精製し目的物4.7mg(収率14%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 7.01〜7.47 (m、 20H)、 7.54〜9.70 (m、 8H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl3): δ = -144.3〜-145.9 (m、 4F)、 -163.8〜-165.0 (m、 20F)
MALDI-TOF calculated forC56H28F20N8O4S4Zn[M-H+]-1448.01 found 1447.88
【0107】
[実施例11]α−テトラキス(チオフェノキシ)−β−テトラキス(ペンタフルオロスルファニル)亜鉛フタロシアニンの合成
【0108】
【化34】
【0109】
アルゴン置換したアンプル管に実施例7で得た3−チオフェノキシ−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 25mg(0.069mmol)、塩化亜鉛 3.1mg(0.023mmol)を加え230℃に加熱した。三時間加熱したのち、室温まで冷却しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=8/2)で精製し目的物14mg(収率41%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl3): δ = 7.50〜7.77 (m、 20H)、7.87 (br、 8H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl3): δ = -146.4〜-147.5 (m、 4F)、 -165.8〜-166.6 (m、 16F)
MALDI-TOF calculated forC56H28F20N8S8Zn[M-H+]-1511.92 found 1511.54
【0110】
図1図4に、上記実施例8〜11で得た本発明のフタロシアニン誘導体の塩化メチレン中でのUV/Visスペクトルを示す。比較のため、特許文献1に記載のトリフルオロメチルフタロシアニンの塩化メチレン中でのUV/Visスペクトルを図5に示す。各ピークの波長およびモル吸光係数の値を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
ペンタフルオロスルファニルフタロシアニン(実施例8)のスペクトルは、トリフルオロメチルフタロシアニンのスペクトル(比較)とほぼ同じであり、ペンタフルオロスルファニル基が優れた凝集抑制効果を持つことが分かった。しかしながらトリフルオロメチルフタロシアニン(比較)は有機溶媒への溶解性が悪くカラムクロマトグラフィーによる精製はできなかった。一方、実施例8で得たペンタフルオロスルファニルフタロシアニンは高い濃度まで有機溶媒に溶解するので精製を容易に行うことができた。すなわちペンタフルオロスルファニル基によってトリフルオロメチル基では達成できなかった溶解性の向上に成功した。
【0113】
さらに実施例9で得たトリフルオロメチル−ペンタフルオロスルファニルフタロシアニンは、実施例8で得たフタロシアニン以上に溶解性、凝集抑制が高いことが分かった。これらの効果は置換基の嵩高さおよびフッ素原子の脂溶性の高さ、フッ素原子間の静電気的な反発によると考えられる。
【0114】
フェノキシ基、チオフェノキシ基を導入した実施例10および11で得たフタロシアニン誘導体ではQ帯のピークが大きくレッドシフトしている。特にフェノキシ基を導入したフタロシアニン誘導体では730nm付近に小さなピークが表れているが、ピリジンの添加により一つのピークに戻っているのでこれはプロトン化によると考えられる。フタロシアニンのUV/Visスペクトルにおいてはα位の置換基が大きな効果を及ぼすので、本発明においても、α位に導入された電子供与性基の効果が大きく影響したと考えられる。
【0115】
図6図9に、上記実施例8〜11で得た本発明のフタロシアニン誘導体の塩化メチレン中での蛍光スペクトルを示す。比較のため、特許文献1に記載のトリフルオロメチルフタロシアニンの塩化メチレン中での蛍光スペクトルを図10に示す。各ピークの波長および蛍光量子収量の値を表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
フッ素が導入されたフタロシアニン誘導体は比較的高い蛍光量子収率を有する。特に実施例9で得たトリフルオロメチル−ペンタフルオロスルファニルフタロシアニンはピリジンを添加した場合、0.84と非常に大きな蛍光量子収率を有する。この傾向は含フッ素官能基を持つフタロシアニンに共通していることからフッ素の効果と推察される。一方、電子求引性基であるペンタフルオロスルファニル基と電子供与性基であるフェノキシ基、もしくはチオフェノキシ基を有する実施例10および11で得たフタロシアニン誘導体は、蛍光量子収率が下がる傾向にある。この理由は、電子供与性基と電子求引性基間で電子の移動が起こったためと思われる。この二つのフタロシアニン誘導体はいずれも非対称系の異性体が存在しており、電子の流れが一定方向に定まっていないため蛍光量子収率はゼロにならず中程度の値となると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10