【実施例】
【0070】
[実施例1]2−ヨード−4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼンの合成
【0071】
【化22】
【0072】
窒素置換した30ml三口フラスコに2,2−6,6−テトラメチルピペリジン(Aldrich社製)0.15ml(0.87mmol)とTHF(関東化学株式会社製)2.0mlを入れて0℃に冷却した。これにn−BuLi(三津和化学薬品社製)0.60ml(1.5M、0.87mmol)をゆっくり滴下し0℃で30分撹拌した。反応溶液を−78℃に冷却し、後述する方法で合成した4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼン 100mg(0.44mmol)をTHF 2.0mlに溶かして得た溶液をゆっくり滴下した。−78℃で1時間撹拌した後に、ヨウ素(ナカライテスク株式会社製)122mg(0.87mmol)のTHF溶液 2.0mlをゆっくり滴下し−78℃で2時間撹拌した。その後室温まで昇温し、室温で1時間撹拌した後に水 3.0ml加え反応を停止させた。反応溶液を濃縮後、ジエチルエーテルで三回抽出し、有機相を1N HCl水溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水を用いてこの順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=95/5)で精製し、目的物60mg(収率38%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 7.73 (d、 J = 8.4 Hz、 1H)、 7.87 (dd、 J = 8.4 Hz、 J = 1.5 Hz、 1H)、 8.29 (d、 J = 1.5 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl
3): δ = -150.0 (quintet、 J = 150.6 Hz、1F)、 -168.1 (d、 J = 150.6 Hz、 4F)
【0073】
<4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼンの合成>
冷却管、CaCl
2チューブ、および撹拌装置を備えた500mlのフラスコを準備した。フラスコ内に、1−フルオロ−4−ペンタフルオロスルファニルベンゼン 73.4g(0.33mol、UBE America Inc.社製)、NaCN 32.5g(0.66mol)(Sigma−Aldrich社製)、乾燥DMSO(Sigma−Aldrich社製)300mlを仕込んだ。フラスコ内温度を100〜105℃に昇温し合計で47時間加熱した。GC分析による転化率は約75%であった。
【0074】
反応混合物を過剰の水で失活させCH
2Cl
2で抽出した。CH
2Cl
2相を濃縮し、残留物をHex(ヘキサン)/CH
2Cl
2混合液に溶かし、さらにNa
2SO
4で乾燥した。ろ過後、ろ液を濃縮して、黄色の粗生成物61.0gを得た。室温にて粗生成物を最小量のメタノールに溶かし、真空乾燥した。得られた最終生成物は、白色の結晶であり、収量は36.14gであり、GC分析による純度は95%であった。MSおよびNMRにて最終生成物が4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼンであることを確認した。
【0075】
[実施例2]4−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0076】
【化23】
【0077】
窒素置換した30mlナスフラスコに実施例1で得た2−ヨード−4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼン 200mg(0.56mmol)、シアン化銅(キシダ化学株式会社製)151mg(1.7mmol)を入れ、さらにジメチルホルムアミド(関東化学株式会社製)5.0mlを入れて溶解させた。これを110℃に加熱し5時間撹拌した。その後室温まで冷却し、飽和アンモニア水を加えジエチルエーテルで抽出し、有機相を飽和塩化アンモニア水、飽和食塩水を用いてこの順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物62mg(収率43%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 7.98 (d、 J = 8.7 Hz、 1H)、 8.15 (d、 J = 8.7 Hz、 1H)、 8.20 (s、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl
3): δ = -151.6 (quintet、 J = 151.4 Hz、1F)、 -168.1 (d、 J = 151.4 Hz、 4F)
【0078】
[実施例3]2,6−ジヨード−4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼンの合成
【0079】
【化24】
【0080】
窒素置換した100mlナスフラスコに2,2−6,6−テトラメチルピペリジン 1.47ml(8.73mmol)とTHF 10mlを入れて0℃に冷却した。これにn−BuLi 6.42ml(1.36M、8.73mmol)をゆっくり滴下し0℃で30分撹拌した。反応溶液を−78℃に冷却し4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼン 500mg(2.18mmol)をTHF 5.0mlに溶かして得た溶液をゆっくり滴下した。−78℃で1時間撹拌した後に、ヨウ素 2.43mg(9.60mmol)のTHF溶液 5.0mlをゆっくり滴下し−78℃で2時間撹拌した。その後室温まで昇温し、室温で1時間撹拌した後に水 6.0ml加え反応を停止させた。反応溶液を濃縮後、酢酸エチルで三回抽出し、有機相を1N HCl水溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水を用いてこの順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=95/5)で精製し、目的物840mg(収率80%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 8.24 (s、 2H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl
3): δ = -150.8 (quintet、 J = 160.4 Hz、1F)、 -167.7 (d、 J = 160.4 Hz、 4F)
【0081】
[実施例4]3−ヨード−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0082】
【化25】
【0083】
窒素置換した50mlナスフラスコに実施例3で得た2,6−ジヨード−4−ペンタフルオロスルファニルシアノベンゼン 500mg(1.04mmol)、シアン化銅 140mg(1.56mmol)を入れ、さらにジメチルホルムアミド(関東化学株式会社製)10mlを加えて溶解させた。これを110℃に加熱し5時間撹拌した。その後室温まで冷却し、飽和アンモニア水を加え酢酸エチルで抽出し、有機相を飽和塩化アンモニア水、飽和食塩水を用いてこの順に洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物87mg(収率22%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 8.17 (d、 J = 1.65 Hz、 1H)、 8.50 (d、 J = 1.65 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl
3): δ = -152.27 (quintet、 J = 159 Hz、1F)、 -167.72 (d、 J = 159 Hz、 4F)
【0084】
[実施例5]3−トリフルオロメチル−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0085】
【化26】
【0086】
アルゴン置換した試験管に実施例4で得た3−ヨード−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 50mg(0.132mmol)、後述の方法で合成したヤゴロフスキー試薬106mg(0.263mmol)、銅(ナカライテスク株式会社製)25mg(0.395mmol)を入れ、さらにN,N−ジメチルホルムアミド1.0 mlを加え溶解させた。これを60℃で一晩加熱、撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し水を加え酢酸エチルで抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させ濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物35mg(収率83%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 8.38 (s、 1H)、 8.39 (s、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl
3): δ = -62.73 (s、3F)、 -153.2 (quintet、 J = 161.8 Hz、 1F)、 -167.8 (d、 J = 161.8 Hz、 4F)
【0087】
<ヤゴロフスキー試薬の合成法>
ヤゴロフスキー試薬は以下の二段階で合成した。
【0088】
【化27】
【0089】
アルゴン置換した100mlナスフラスコにトリフルオロメチルスルホン酸ナトリウム 4.5g(29mmol)を入れ、トリフルオロメタンスルホン酸 15.4ml(174mmol)をゆっくり滴下した。室温で5分撹拌後、ベンゼン 3.9ml(43.5mmol)をゆっくり滴下し、60℃三時間撹拌した。反応後、0℃に冷却し水をゆっくり加えて反応を停止し塩化メチレンで三回抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物4.6g(収率81%)を得た。
【0090】
【化28】
【0091】
窒素置換した300mlナスフラスコに第1段階で合成した原料4.5g(23.1mmol)とベンゼン61.7ml(695mmol)を加え0℃に冷却した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物 19ml(116mmol)をゆっくり滴下し0℃で一時間撹拌した。反応終了後、水をゆっくり加え反応を停止させ塩化メチレンで三回抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し得られた粗生成物を混合溶媒(ヘキサン/酢酸エチル=8/2)で再結晶し、ヤゴロフスキー試薬5.0g(収率54%)を得た。
1H NMR (300MHz, CD
3COCD
3): d 8.43 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 8.13 (t, J =7.5 Hz, 1H), 8.00 (t, J = 8.1 Hz, 2H).
19F NMR (282 MHz、CD
3COCD
3): d -51.0 (s, 3F), -78.5 (s, 3F).
【0092】
[実施例6]3−フェノキシ−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0093】
【化29】
【0094】
アルゴン置換した試験管に実施例4で得た3−ヨード−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 38mg(0.10mmol)、フェノール(Aldrich社製)10.4mg(0.11mmol)、炭酸セシウム(キシダ化学株式会社製)48.9mg(0.15mmol)を入れ、さらにN−メチルピロリドン(Aldrich社製)1.0mlを加えて溶解させ、室温にて撹拌した。一時間撹拌後に水を加えてジエチルエーテルで三回抽出し、有機相を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥させた。当該有機相を濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物28mg(収率81%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 7.14 (d、 J = 8.1 Hz、 2H)、 7.36-7.41 (m、 2H)、 7.51 (d、 J = 8.4 Hz、 1H)、 7.55 (d、 J = 2.0 Hz、 1H)、 7.81 (d、 J = 2.0 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl
3): δ = -151.7 (quintet、 J = 150.8 Hz、1F)、 -168.3 (d、 J = 150.8 Hz、 4F)
【0095】
[実施例7]3−チオフェノキシ−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリルの合成
【0096】
【化30】
【0097】
アルゴン置換した10mlナスフラスコに実施例4で得た3−ヨード−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 80mg(0.21mmol)、炭酸カリウム(ナカライテスク株式会社製)24mg(0.23mmol)、ヨウ化銅(和光純薬工業株式会社製)2.0mg(5mol%)、イソプロパノール(和光純薬工業社製)2.0mlを加えアルゴンを用いて脱気を三回行い、エチレングリコール(ナカライテスク株式会社製)24μl(0.42mmol)、チオフェノール(東京化成工業株式会社製)24μl(0.23mmol)を加え室温で撹拌した。三時間撹拌後、水を加えジエチルエーテルで三回抽出した。有機相を1Mの水酸化ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥した。濃縮された粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=9/1)で精製し、目的物56mg(収率74%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 7.36 (d、 J = 1.4 Hz、 1H)、 7.52-7.61 (m、 5H)、 7.82 (d、 J = 1.4 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl
3): δ = -151.6 (quintet、 J = 151.8 Hz、1F)、 -168.5 (d、 J = 150.6 Hz、 4F)
【0098】
[実施例8]テトラキス(ペンタフルオロスルファニル)亜鉛フタロシアニンの合成
【0099】
【化31】
【0100】
窒素置換した10mlナスフラスコに実施例2で得た4−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 51mg(0.20mmol)、塩化亜鉛(ナカライテスク株式会社製)9.1mg(0.066mmol)を入れ、さらにN,N−ジメチルアミノエタノール(東京化成工業株式会社製)を加えて溶解させ140℃に加熱し一晩撹拌した。室温まで冷却後、1Mの塩酸水溶液を加え沈殿した結晶をろ取し、水、ジエチルエーテル、ヘキサンを用いてこの順に洗浄した。結晶をデシケーターで減圧乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=7/3)で精製し目的物5.2mg(収率10%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 非対称体8.40〜9.42 (m、 3H)、 対称体8.10 (d、 J = 8.4 Hz、 1H)、 8.25 (s、 1H)、 8.39 (d、 J = 8.4 Hz、 1H)
19F NMR (282 MHz、 d-acetone) : δ = 非対称体-144.3 (quintet、 J = 147.9 Hz、 1F)、 -164.3 (d、 J = 147.9 Hz、 4F)、 対称体-147.2 (quintet、 J = 149.5 Hz、 1F)、 -166.5 (d、 J = 149.5 Hz、 4F)
MALDI-TOF calculated forC
32H
12F
20N
8S
4Zn [M-H
+]
- 1079.9 found 1082.11
【0101】
[実施例9]α−テトラキス(トリフルオロメチル)−β−テトラキス(ペンタフルオロスルファニル)亜鉛フタロシアニンの合成
【0102】
【化32】
【0103】
窒素置換したアンプル管に実施例5で得た3−トリフルオロメチル−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 27mg(0.0826mmol)、塩化亜鉛 3.8mg(0.0275mmol)を入れ封管し230℃で加熱した。5時間加熱後室温まで冷却しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=8/2)で精製し目的物3.8mg(収率10%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 8.83〜8.87 (m、 4H)、 9.81〜10.15 (m、 4H)
19F NMR (282 MHz、 d-acetone): δ = -59.22〜 -61.68 (m、 12F)、 -146.65 〜- 147.81 (m、 4F)、 -164.52 〜 -166.71 (m、 16F)
MALDI-TOF calculated forC
36H
8F
32N
8S
4Zn[M-H
+]
-1354.1 found 1352.05
【0104】
[実施例10]α−テトラキス(フェノキシ)−β−テトラキス(ペンタフルオロスルファニル)亜鉛フタロシアニンの合成
【0105】
【化33】
【0106】
アルゴン置換したアンプル管に実施例6で得た3−フェノキシ−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 24mg(0.069mmol)、塩化亜鉛 3.1mg(0.023mmol)を加え、封管し220℃に加熱した。4時間加熱した後、室温まで冷却し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Benzene/AcOEt=9/1)で精製し目的物4.7mg(収率14%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 7.01〜7.47 (m、 20H)、 7.54〜9.70 (m、 8H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl
3): δ = -144.3〜-145.9 (m、 4F)、 -163.8〜-165.0 (m、 20F)
MALDI-TOF calculated forC
56H
28F
20N
8O
4S
4Zn[M-H
+]
-1448.01 found 1447.88
【0107】
[実施例11]α−テトラキス(チオフェノキシ)−β−テトラキス(ペンタフルオロスルファニル)亜鉛フタロシアニンの合成
【0108】
【化34】
【0109】
アルゴン置換したアンプル管に実施例7で得た3−チオフェノキシ−5−ペンタフルオロスルファニルフタロニトリル 25mg(0.069mmol)、塩化亜鉛 3.1mg(0.023mmol)を加え230℃に加熱した。三時間加熱したのち、室温まで冷却しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hex/AcOEt=8/2)で精製し目的物14mg(収率41%)を得た。
1H NMR (300MHz、 CDCl
3): δ = 7.50〜7.77 (m、 20H)、7.87 (br、 8H)
19F NMR (282 MHz、 CDCl
3): δ = -146.4〜-147.5 (m、 4F)、 -165.8〜-166.6 (m、 16F)
MALDI-TOF calculated forC
56H
28F
20N
8S
8Zn[M-H
+]
-1511.92 found 1511.54
【0110】
図1〜
図4に、上記実施例8〜11で得た本発明のフタロシアニン誘導体の塩化メチレン中でのUV/Visスペクトルを示す。比較のため、特許文献1に記載のトリフルオロメチルフタロシアニンの塩化メチレン中でのUV/Visスペクトルを
図5に示す。各ピークの波長およびモル吸光係数の値を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
ペンタフルオロスルファニルフタロシアニン(実施例8)のスペクトルは、トリフルオロメチルフタロシアニンのスペクトル(比較)とほぼ同じであり、ペンタフルオロスルファニル基が優れた凝集抑制効果を持つことが分かった。しかしながらトリフルオロメチルフタロシアニン(比較)は有機溶媒への溶解性が悪くカラムクロマトグラフィーによる精製はできなかった。一方、実施例8で得たペンタフルオロスルファニルフタロシアニンは高い濃度まで有機溶媒に溶解するので精製を容易に行うことができた。すなわちペンタフルオロスルファニル基によってトリフルオロメチル基では達成できなかった溶解性の向上に成功した。
【0113】
さらに実施例9で得たトリフルオロメチル−ペンタフルオロスルファニルフタロシアニンは、実施例8で得たフタロシアニン以上に溶解性、凝集抑制が高いことが分かった。これらの効果は置換基の嵩高さおよびフッ素原子の脂溶性の高さ、フッ素原子間の静電気的な反発によると考えられる。
【0114】
フェノキシ基、チオフェノキシ基を導入した実施例10および11で得たフタロシアニン誘導体ではQ帯のピークが大きくレッドシフトしている。特にフェノキシ基を導入したフタロシアニン誘導体では730nm付近に小さなピークが表れているが、ピリジンの添加により一つのピークに戻っているのでこれはプロトン化によると考えられる。フタロシアニンのUV/Visスペクトルにおいてはα位の置換基が大きな効果を及ぼすので、本発明においても、α位に導入された電子供与性基の効果が大きく影響したと考えられる。
【0115】
図6〜
図9に、上記実施例8〜11で得た本発明のフタロシアニン誘導体の塩化メチレン中での蛍光スペクトルを示す。比較のため、特許文献1に記載のトリフルオロメチルフタロシアニンの塩化メチレン中での蛍光スペクトルを
図10に示す。各ピークの波長および蛍光量子収量の値を表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
フッ素が導入されたフタロシアニン誘導体は比較的高い蛍光量子収率を有する。特に実施例9で得たトリフルオロメチル−ペンタフルオロスルファニルフタロシアニンはピリジンを添加した場合、0.84と非常に大きな蛍光量子収率を有する。この傾向は含フッ素官能基を持つフタロシアニンに共通していることからフッ素の効果と推察される。一方、電子求引性基であるペンタフルオロスルファニル基と電子供与性基であるフェノキシ基、もしくはチオフェノキシ基を有する実施例10および11で得たフタロシアニン誘導体は、蛍光量子収率が下がる傾向にある。この理由は、電子供与性基と電子求引性基間で電子の移動が起こったためと思われる。この二つのフタロシアニン誘導体はいずれも非対称系の異性体が存在しており、電子の流れが一定方向に定まっていないため蛍光量子収率はゼロにならず中程度の値となると考えられる。