特許第6207138号(P6207138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6207138-空気二次電池用電極の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207138
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】空気二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20170925BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20170925BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20170925BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H01M4/04 A
   H01M4/66 A
   H01M4/80 C
   H01M12/08 K
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-197553(P2012-197553)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-53198(P2014-53198A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年7月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】古志野 伸能
(72)【発明者】
【氏名】金村 聖志
【審査官】 光本 美奈子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−028640(JP,A)
【文献】 特開平06−187977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02 − 4/98
H01M 12/06 − 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通した空孔を有するとともに炭素原子を含む多孔質導電体と、前記空孔内に充填された金属及び/又は該金属化合物と、を有する空気二次電池用電極の製造方法であって、
分子を含む溶液と無機微粒子と混合する工程と、
得られた混合物に含まれる高分子への加熱処理と、前記無機微粒子の除去と、を行って多孔質導電体を形成する工程と、
前記多孔質導電体の空孔内へ、金属及び/又は金属化合物を導入する工程と、を有する空気二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
連通した空孔を有するとともに炭素原子を含む多孔質導電体と、前記空孔内に充填された金属及び/又は該金属化合物と、を有する空気二次電池用電極の製造方法であって、
多孔質導電体前駆体となる高分子を含む溶液と無機微粒子と混合する工程と、
得られた混合物から前記無機微粒子を除去して多孔質導電体前駆体を形成する工程と、
前記多孔質導電体前駆体を加熱処理して多孔質導電体を得る工程と、
前記多孔質導電体の空孔内へ、金属及び/又は金属化合物を導入する工程と、を有する空気二次電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質導電体前駆体を形成する工程は、前記高分子と前記無機微粒子との混合物を、前記無機微粒子は溶解するが前記高分子は溶解しない溶液に浸漬する工程を含む請求項2に記載の空気二次電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質導電体を形成する工程は、前記混合する工程で得られた混合物を加熱処理した後、前記無機微粒子を除去して多孔質導電体を形成する工程を含む請求項1に記載の空気二次電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記無機微粒子はシリカ粒子であって、
前記多孔質導電体を形成する工程は、前記混合物の加熱処理後、得られた処理物をフッ化水素水溶液またはアルカリ水溶液に浸漬する工程を含む請求項4に記載の空気二次電池用電極の製造方法。
【請求項6】
前記高分子を含む溶液と無機微粒子とを混合する工程は、前記無機微粒子の三次元規則配列体を形成する工程と、
前記三次元規則配列体を構成する前記無機微粒子の間隙を前記高分子で充填する工程と、を有する請求項1から5のいずれか1項に記載の空気二次電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記三次元規則配列体を形成する工程では、前記無機微粒子の分散液をフィルターで濾過することで前記フィルターに前記三次元規則配列体を形成し、
前記フィルターで濾過する前記無機微粒子の、フィルター単位面積当たりの濾過量を変えることにより、前記三次元規則配列体の厚みを制御する請求項6に記載の空気二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用電極及び空気二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、当該電池外部から正極活物質である酸素が供給され、電池内に正極活物質を収容する必要がないので、電池内に大量の負極活物質を充填することができ、非常に高いエネルギー密度を達成することに期待が寄せられている。
【0003】
空気二次電池として、例えば、特許文献1には、空気極(正極)と、金網などの基板に亜鉛を電着した亜鉛極(負極)とを備える空気二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭50−28640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした空気二次電池は、充放電を繰り返して実行すると、負極として好ましくない形態変化を引き起こしてしまう。具体的には、充放電反応に伴う電極形状の変化による反応有効面積の減少や、負極表面からの樹枝状の金属のデンドライト(以下、単に「デンドライト」ともいう)生成などが発生し、その結果、充放電サイクル特性が低下してしまう問題があった。そのため、従来の空気電池は一次電池としては実用化されているものの、二次電池として実用化されるには至っていない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、充放電サイクル特性が良好である空気二次電池用電極及び空気二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、負極の形状変化の抑制、及び上記デンドライトの成長による正極とのショート(短絡)の抑制を図ることにより、充放電サイクル特性を向上させることができることを見出した。つまり、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の発明を提供する。
[1]連通した空孔を有するとともに、炭素原子を含む多孔質導電体と、前記空孔内に充填された金属及び/又は該金属化合物と、を有する空気二次電池用電極。
[2]前記多孔質導電体の空孔率が40%以上である前記[1]に記載の空気二次電池用電極。
[3]前記空孔の容積に対する前記金属化合物の充填率が50〜99%である前記[1]または[2]に記載の空気二次電池用電極。
[4]前記多孔質導電体の平均孔径が100nm〜5000nmである前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の空気二次電池用電極。
[5]前記多孔質導電体が、多孔質カーボンである前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の空気二次電池用電極。
[6]多孔質導電体に対する金属及び/又は金属化合物の質量比が60%以上である前記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の空気二次電池用電極。
[7]前記金属及び/又は金属化合物の標準酸化還元電位が0V〜−1.3Vである前記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の空気二次電池用電極。
[8])前記金属及び/又は該金属化合物が、亜鉛、鉄、コバルト、錫、鉛、及び/又はそれらの化合物である前記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の空気二次電池用電極。
[9]前記金属及び/又は該金属化合物が、亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、亜鉛合金の群から選ばれる前記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の空気二次電池用電極。
[10]前記[1]〜[9]のいずれか一項に記載の空気二次電池用電極を備えた空気二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空気二次電池の充放電サイクル特性を高めることができる空気二次電池用電極を提供できる。本発明の電極は、特に、空気二次電池の負極に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の空気二次電池の一例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0012】
[空気二次電池用電極]
本実施形態の空気二次電池用電極は、連通した空孔を有するとともに、炭素原子を含む多孔質導電体と、当該空孔内に充填された金属及び/又は金属化合物とを有する。
ここで、前記“連通した空孔”とは空気二次電池における電極内を連通する孔であり、電池反応に関与するイオンが電極内を移動する通路となり得るものである。つまり、電極内に連通した空孔を設けることにより、当該空孔が前記イオン(例えば、OHなど)の通路となりうる。
【0013】
<多孔質導電体>
本実施形態に係る多孔質導電体は、その内部に設けられた空孔内に負極活物質である金属及び/又は金属化合物を保持しているとともに、充放電反応に伴う電子移動の経路となるものである。
金属及び/又は金属化合物は、電池反応に寄与する電極活物質であるため、当該金属または金属化合物が充填される空孔は一定以上確保されることが望ましい。このような観点より、多孔質導電体の空孔率は、40%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。また、空孔率の上限は、電極の形状安定化を図る観点からすると99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、95%以下が特に好ましい。
【0014】
多孔質導電体の空孔率については、仮に、多孔質導電体の形状がシート状(直方体)であるとした場合、以下のようにして算出することができる。
多孔質導電体の空孔率(%)は、(多孔質導電体内の空孔の体積/多孔質導電体の見かけの体積)×100、で定義される値であるが、実用的には下記の式によって得られる。
空孔率(%)=100−{W/(A×L×d)}×100 ・・・ (1)
ここで、Wは多孔質導電体の質量(g)、Aは平面視した場合の多孔質導電体の見かけの面積(cm)、Lは多孔質導電体の厚さ(膜厚)(cm)、dは多孔質導電体の真密度(g/cm)である。なお、多孔質導電体の見かけの体積または面積とは、空孔内が充填されていると仮定した場合の体積または面積である。なお、ここでいう「空孔内が充填されていると仮定した場合の体積または面積」とは、後述する金属及び/又は金属化合物が充填されている場合の体積または面積、というわけではなく、多孔質導電体の形状が直方体であると仮定した場合、つまり「空孔が形成されていないと仮定した場合の多孔質導電体の体積または面積」のことである。
以上のようにして空孔率を求めることができるが、本発明に係る多孔質導電体の形状は上述したようなシート状(直方体)に限定されず、如何なる形状にも適用することが可能である。
また、多孔質導電体の真密度dはピクノメーター法で求めることができる。
なお、空孔率を求める際、多孔質導電体の形状が直方体でない場合は、例えば切断機等などを用いて形状を直方体とした後に、上記式(1)から空孔率を求めることができる。
【0015】
前記多孔質導電体の平均孔径は100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることが更に好ましい。また、平均孔径は5000nm以下であることが好ましく、3000nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることが更に好ましい。
【0016】
(多孔質導電体の平均孔径の求め方)
多孔質導電体の走査型電子顕微鏡写真より、任意の10点以上の空孔について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から下記式(2)に従って孔形状が真円であるとした際の平均直径を、多孔質導電体の平均孔径とする。下記式(2)のSは孔面積の平均値を意味する。
平均孔径=2×(S/π)1/2・・・ (2)
【0017】
本実施形態に係る多孔質導電体は炭素原子を含むものであるため、より軽量な電極を提供することができる。このような観点から、多孔質導電体としては、多孔質カーボン、窒素ドーブ多孔質カーボン、多孔質カーボンナイトライド、多孔質ボロンカーボンナイトライドなどが例示され、より好ましくは多孔質カーボン、窒素ドーブ多孔質カーボン、及びであり多孔質カーボンナイトライド、特に好ましくは多孔質カーボン、及び窒素ドーブ多孔質カーボンである。
【0018】
多孔質導電体は、充放電反応の際に電子を渡す経路となることから電気抵抗率が小さいことが好ましい。抵抗率として、10Ωcm以下であることが好ましく、10Ωcm以下であることがより好ましく、10−3Ωcm以下であることが特に好ましい。更に、後述する金属及び/又は金属化合物が多孔質導電体の空孔内へ導入されることにより空気二次電池用電極全体としての抵抗率が減少する。
【0019】
<電極活物質(金属及び/又は金属化合物)>
次に、本実施形態における電極活物質であるともに、上述してきた多孔質導電体内の空孔内に充填されている金属及び/又は金属化合物について説明する。
本実施形態の電極において、多孔質導電体と金属及び/又は金属化合物との総質量に対する金属及び/又は金属化合物の質量比は60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。また、上限としては、99.9%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、95%以下が特に好ましい。
前記多孔質導電体と金属及び/又は金属化合物の総質量に対する金属及び/金属化合物の質量比は、元素分析によって測定することができる。また、上述したような質量比とするためには、後述する多孔質導電体の空孔内への金属及び/又は金属化合物の導入方法において、導入する金属及び/又は金属化合物粒子の量、電解析出法における電解時間、蒸着法における蒸着時間、めっき法におけるめっき量、を調節することにより制御することができる。
また、前記多孔質導電体と金属及び/又は金属化合物との総質量に対する金属及び/金属化合物の質量比は、100%放電した状態における値である。
【0020】
本実施形態における金属及び/又は金属化合物としては、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物、金属水酸化物、金属塩が例示され、金属、金属酸化物、金属水酸化物がより好ましい。金属塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、などを用いることができる。
【0021】
前記金属及び/又は金属化合物としては、標準酸化還元電位が0V以下−1.3V以上である金属を用いることが好ましく、コバルト、鉄、クロム、亜鉛、錫、鉛、またこれらの合金、化合物が例示される。
また、前記金属及び/又は金属化合物としては、亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、亜鉛合金の群から選ばれることが好ましい。
上述した金属又は金属化合物群の標準酸化還元電位について説明すると、例えば、錫は−0.1375V、コバルトは−0.28、鉄は−0.447V、亜鉛は−0.7618V、クロムは−0.913V、酸化亜鉛は−1.215Vである。
ここで、正極との標準酸化還元電位差が大きい方が電圧の大きい電池とすることができる。しかしながら、正極との標準酸化還元電位の差が大きすぎると、例えば、電解液の溶媒として水を用いた場合には水が電気分解してしまう。このような観点より、前記金属及び/又は金属化合物としてより好ましくは、亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、亜鉛合金、鉄、酸化鉄、水酸化鉄、鉄合金であり、特に好ましくは、亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、亜鉛合金である。
【0022】
合金としては、例えば亜鉛の場合は、1ppm〜3000ppmのビスマス、好ましくは100ppm〜1000ppmのビスマスとの合金を用いてもよい。亜鉛はまた、1ppm〜3000ppmのインジウム、好ましくは100〜1000ppmのインジウム、あるいは1ppm〜3000ppmのインジウムと1ppm〜3000ppmのビスマス、好ましくは100ppm〜1000ppmのインジウムと100ppm〜1000ppmのビスマスとの合金を用いてもよい。これら亜鉛合金を用いることで、亜鉛の水素過電圧を低減することができ、電池内におけるガス発生を防止できる。
【0023】
本実施形態の電極において、上記多孔質導電体内に設けられた空孔の容積に対する金属化合物の充填率が50〜99%であることが好ましい。
ここで、上述したように、本実施形態にかかる電極を二次電池に用いた場合、電極内に連通した空孔を設けているため、当該空孔がイオンの通路となる。これにより、電池反応が電極内で起こることとなる。そして、例えば空孔内に充填する金属として亜鉛を用いた場合、放電生成物は酸化亜鉛であり、亜鉛と比較し嵩が増大する。また、空孔内は電池反応に寄与するイオンの通路としても機能するため、空孔と金属又は金属化合物の間にはある程度の空隙が必要となる。
以上の観点から、空孔の容積に対する金属化合物の充填率は99%以下とすることが好ましい。また、50%未満であると、上記金属及び/又は金属化合物の質量比を十分に確保することが困難となり、電極としての機能を十分に発揮させることができなくなるおそれがあるため、充填率を50以上とすることが好ましい。
【0024】
以上説明したように、本実施形態に係る空気二次電池用電極によれば、多孔質導電体に設けられた空孔が電池反応に寄与するイオンの通路となるため、電極と電解液との界面上ではなく、電極内で電池反応を発生させることができる。その結果、電極表面からのデンドライトの成長を抑制することができる。
なお、電極内に連通した空孔を設けた場合、デンドライトは電極表面からではなく、電極内、つまり連通した空孔内において成長するため、正極側へは成長しにくくなる。つまり、本実施形態の場合、デンドライトが正極まで到達するまでには当該空孔を通過して行かなければならず、従来の電池構造と比較して、その距離が長くなり、その結果、正極とのショートを抑制することが可能となる。
【0025】
次に、本実施形態に用いることのできる多孔質導電体の製造方法について説明する。
【0026】
本実施形態に用いる多孔質導電体は、例えば、多孔質導電体前駆体となる高分子を含む溶液と無機微粒子と混合し、溶媒を除去した後、加熱処理を行い、無機微粒子を除去することで得られる。
【0027】
多孔質導電体前駆体を製造するのに好適な有機材料としては、分子中に芳香族環を1つもしくは複数有し重合化のための官能基を有するベンゼンやナフタレン誘導体が挙げられる。重合化のための官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロシキル基、スルホ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、アルデヒド基、ケトン基、エステル基などが例示される。
【0028】
好ましい多孔質導電体前駆体としては、ポリアミド酸、ポリイミド、レゾルシノール、フェノール樹脂(フェノール/ホルムアルデヒド樹脂)、メラミン樹脂(メラミン/ホルムアルデヒド樹脂)、尿素樹脂(尿素/ホルムアルデヒド樹脂)、ポリフルフリルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、砂糖、石油ピッチ等が例示される。
【0029】
無機微粒子としては、好ましくはコロイダルシリカ、単分散球状シリカ粒子であり、シリカ粒子の粒径は、100nm〜5000nm(平均直径)のものを用いることが好ましい。
【0030】
無機微粒子と多孔質導電体前駆体は、任意の割合で混合することができるが、無機微粒子/多孔質導電体前駆体の質量比が、2〜6であることが好ましく、3〜5であるとより好ましい。
【0031】
また、本実施形態においては連通した空孔をより多く有する多孔質導電体を用いることが好ましく、そのために、以下に示した方法で多孔質導電体前駆体を製造してもよい。
【0032】
まず、上記無機微粒子を溶媒に分散させ、この分散液をフィルターで濾過することによって、フィルター上に単分散球状無機微粒子を集積し、無機微粒子の三次元規則配列体を作製する。次いで、必要であれば無機微粒子の三次元規則配列体をフィルターから剥離し、焼成し焼結する(焼成処理)。なお、前記溶媒としては、無機微粒子およびフィルターを溶解しないものであればどのようなものでもよく、一般的には蒸留水が用いられる。また、濾過する無機微粒子のフィルター単位面積当たりの濾過量を変えることにより、堆積する無機微粒子の厚み、すなわち多孔質導電体前駆体の膜厚を制御することができる。
【0033】
次に、こうして得られた三次元規則配列体の焼結体、もしくは未焼結の三次元規則配列体の無機微粒子間隙を、多孔質導電体前駆体となる高分子で充填した後、前記無機微粒子は溶解するが前記高分子は溶解しない溶液に浸漬して、無機微粒子を溶解・除去する。その後、必要に応じ、洗浄、乾燥することにより、多孔質導電体前駆体が形成される。
【0034】
また、前記焼成処理は、無機微粒子の三次元規則配列体の強度を高めるために行われる。すなわち、焼成処理により、無機微粒子が焼結され、無機微粒子間の溶融接続がなされて、無機微粒子の三次元規則配列体の強度が高められる。また、これにより、連通する空孔の形成を確実にすることができる。焼成処理の温度は、使用される無機微粒子の焼結を行うことができる温度以上の温度であればよく、また焼成時間も、適宜設定すればよい。
【0035】
次に、多孔質導電体を得るための多孔質導電体前駆体の加熱処理について説明する。
【0036】
前記加熱処理は、水素、一酸化炭素等の還元ガス雰囲気;酸素、二酸化炭素、水蒸気等の酸化ガス雰囲気;窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、等の不活性ガス雰囲気;アンモニア、アセトニトリル等の含窒素化合物又はその蒸気等のガス雰囲気下;二種以上のこれらガスからなる混合ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
なかでも、例えば、還元ガス雰囲気下であれば、水素、又は水素及び前記不活性ガスの混合ガス雰囲気下、酸化ガス雰囲気下であれば、酸素、又は酸素及び前記不活性ガスの混合ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下であれば、窒素、ネオン、アルゴン、又は二種以上のこれらガスからなる混合雰囲気下が好ましい。
【0037】
前記加熱処理時の圧力は、限定されないが、50.7〜152.0kPa(0.5〜1.5気圧)等、常圧又はその近傍圧力が好ましい。
【0038】
前記加熱処理時の温度は、好ましくは600℃以上、より好ましくは700℃以上、更に好ましくは800℃以上、特に好ましくは900℃以上である。また、かかる温度は、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1500℃以下、特に好ましくは1200℃以下である。
【0039】
前記加熱処理時の時間は、前記ガスの種類、温度等に応じて設定できる。例えば、前記ガスを充填して密閉した環境下、又は前記ガスを通気させた環境下では、室温から徐々に昇温させて目的温度に到達させた後、すぐに降温させてもよい。ただし、目的温度に到達させた後、当該温度又はその近傍温度を所定時間維持することで、徐々に加熱することが好ましい。こうすることで、得られる触媒の耐久性をより向上させることができる。この時、前記温度を維持する時間は、好ましくは1時間〜100時間、より好ましくは1〜40時間、更に好ましくは2〜10時間、特に好ましくは2〜3時間である。
【0040】
前記加熱処理を行う装置としては、オーブン、ファーネス(管状炉等)が例示できる。
【0041】
多孔質導電体を得るためには、前記加熱処理後に、無機微粒子を除去する必要があり、無機微粒子としてシリカ粒子を用いた場合、フッ化水素水溶液やアルカリ水溶液に浸漬することで除去することができる。フッ化水素水溶液としては、0.1mol/L以上のフッ化水素水溶液を用いることが好ましく、アルカリ水溶液としては、0.1mol/L以上の水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液を用いることが好ましい。
【0042】
上記処理の時間は、無機微粒子を除去するために任意に設定することができ、1時間以上処理することが好ましい。処理温度は、特に制限はないが、室温付近〜60℃が好ましい。
【0043】
また、本実施形態に用いる多孔質導電体の製造において、上記示した無機微粒子を用いる代わりに、非イオン性の固体界面活性剤を用いてもよく、例えばプルロニックF−127が例示される。かかる非イオン性の固体界面活性剤は、前記熱処理時において、二酸化炭素、水素、水などの気体となることから、無機微粒子を用いる方法よりも簡便に多孔質導電体を得ることができる。
【0044】
多孔質導電体の厚さは、電極に要求される寸法や充放電容量に応じて適宜決定すればよい。
【0045】
以上説明したような製造方法を採用することにより、孔径が均一な、かつ規則的に配列された空孔を有する多孔質導電体を製造することができる。
【0046】
次に、多孔質導電体の空孔内への金属及び/又は金属化合物の導入方法を説明する。
まず、溶媒中において上記製造方法により得られた多孔質導電体と金属及び/又は金属化合物粒子を混合した後、溶媒を除去する方法や、電解析出法、蒸着法、めっき法、などが例示される。また、金属塩を含んだ水溶液へ多孔質導電体を含浸したものを乾燥後、アルカリ水溶液に浸漬することで、金属水酸化物あるいは金属酸化物として導入したものを電極として用いてもよい。
【0047】
また、多孔質導電体を製造する際の無機微粒子として、金属及び/又は金属化合物粒子を用いて、加熱処理を行ったものを、電極として用いてもよい。
【0048】
以上のようにして、多孔質導電体と、多孔質導電体内に充填された金属及び/又は該金属化合物と、を有する本実施形態に係る空気二次電池用電極を製造することができる。
本実施形態の電極は、特に、水系電解質を用いる空気二次電池に好適である。
【0049】
<空気二次電池>
本実施形態の空気二次電池は、上記本実施形態の電極を負極(負極活物質層)として用い、酸素還元活性及び水の酸化活性を有する正極触媒を正極触媒層に含むものである。
【0050】
図1は、本実施形態に係る空気二次電池の一実施形態を例示する概略断面図である。
ここに示す空気二次電池1は、前記正極触媒を含む正極触媒層11、正極集電体12、負極活物質層13、負極集電体14、電解質15、及びこれらを収容する容器(図示略)を備える。なお、負極括物質層13には、上記本実施形態に係る電極を採用することができる。
正極集電体12は正極触媒層11に接触して配置され、これらにより正極が構成されている。また、負極集電体14は負極活物質層13に接触して配置され、これらにより負極が構成されている。また、正極集電体12には正極端子(リード線)120が接続され、負極集電体14には負極端子(リード線)140が接続されている。
正極触媒層11及び負極活物質層13は、対向して配置され、これらの間にこれらに接触するように電解質15が配置されている。
なお、本実施形態に係る空気二次電池は、ここに示すものに限定されず、必要に応じて一部構成が変更されていてもよい。
【0051】
本実施形態の空気二次電池において、前記正極触媒とは、酸素還元活性及び水の酸化活性を有する触媒であり、金属ポルフィリンや金属フタロシアニンなどの単核金属錯体、1つの分子内に複数の金属原子または金属イオンを有する多核金属錯体、ペロブスカイト型酸化物などの無機酸化物粒子、白金や銀などの貴金属粒子を用いることができる。
【0052】
正極触媒層11は、前記正極触媒以外に、導電材及び結着材を含むものが好ましい。
前記導電材は、正極触媒層11の導電性を向上させることができるものであればよいが、カーボンが好ましい。
【0053】
ここでカーボンとは、前記その他の成分として説明及び例示したカーボンと同じである。
前記カーボンとしては、「ノーリット」(NORIT社製)、「ケッチェンブラック」(Lion社製)、「バルカン」(Cabot社製)、「ブラックパールズ」(Cabot社製)、「アセチレンブラック」(電気化学工業社製)(いずれも商品名)等のカーボンブラック;C60、C70等のフラーレン;カーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブ、ダブルウォールカーボンナノチューブ、シングルウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のカーボン繊維、グラフェン、グラフェンオキシドが例示でき、カーボンブラックが好ましい。
前記カーボンは、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子と組み合わせて用いてもよい。
【0054】
前記結着材は、前記正極触媒、導電材等を正極集電体12に接着するものであり、例えば、電解質15として使用する電解液に溶解しないものが挙げられ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素樹脂が好ましい。
【0055】
正極触媒層11の前記正極触媒、導電材及び結着材の含有量は、限定されない。前記正極触媒の触媒活性をより向上させることができるので、導電材の配合量は、前記正極触媒1質量部に対して0.5〜30質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましく、1〜15質量部であることが特に好ましく、結着材の配合量は、前記正極触媒1質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましく、0.5〜3質量部であることが特に好ましい。
【0056】
正極触媒層11において、前記正極触媒、導電材及び結着材等の各構成成分は、それぞれ一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0057】
正極集電体12の材質は、導電性であればよい。好ましい正極集電体12としては、金属メッシュ、金属焼結体、カーボンペーパー、カーボンクロスが例示できる。
前記金属メッシュ及び金属焼結体における金属としては、ニッケル、クロム、鉄、チタン等の金属の単体;二種以上のこれら金属を含む合金が例示でき、ニッケル、ステンレス(鉄−ニッケル−クロム合金)が好ましい。
【0058】
負極集電体14は、正極集電体12と同様のものでよい。
【0059】
電解質15は、水系溶媒又は非水系溶媒に溶解されて電解液として用いることが好ましい。
水系溶媒に対する電解質は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化アンモニウムが好ましい。この場合、電解液中の電解質の濃度は1〜99質量%であることが好ましく、5〜60質量%であることがより好ましく、5〜40質量%であることが特に好ましい。
【0060】
発明の二次電池における電解液へ、デンドライトの発生を抑制することを目的としてクエン酸、コハク酸、酒石酸などを、添加剤として加えてもよい。また、電解液を吸収させた固体状の吸水性ポリマーを電解質として用いてもよい。
【0061】
容器は、正極触媒層11、正極集電体12、負極活物質層13、負極集電体14及び電解質15を収容するものである。容器の材質としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂等の樹脂や、前記正極触媒層11等の収容物とは反応しない金属が例示できる。
【0062】
空気二次電池1においては、別途、酸素拡散膜を設けてもよい。酸素拡散膜は、正極集電体12の外側(正極触媒層11の反対側)に設けることが好ましい。こうすることで、酸素拡散膜を介して正極触媒層11に酸素(空気)が優先的に供給される。
前記酸素拡散膜は、酸素(空気)を好適に透過できる膜であればよく、樹脂製の不織布又は多孔質膜が例示でき、前記樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂が例示できる。
【0063】
空気二次電池1においては、正極と負極との接触による短絡を防止するために、これらの間にセパレータを設けてもよい。
セパレータは、電解質15の移動が可能な絶縁材料からなるものであればよく、樹脂製の不織布又は多孔質膜が例示でき、前記樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂が例示できる。また、電解質15を水溶液として用いる場合には、前記樹脂として、親水性化されたものを用いることが好ましい。
【0064】
本発明の二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、扁平型、角型などが挙げられる。
【0065】
本実施形態の空気二次電池は、例えば、電気自動車用電源や家庭用電源など大型なものなどに有用であり、また、携帯電話又は携帯用パソコン等のモバイル機器用小型電源としても有用である。
【実施例】
【0066】
<多孔質カーボンの製造>
まず、剥離用界面活性剤(JFEケミカル)をメタノールに溶解させ、5質量%剥離剤メタノール溶液(剥離剤液)を調製し、スプレーによりガラス基板上に均一に塗布した。次に、シリカ粒子(粒径280nm、シーホスターP30、日本触媒社製)を剥離剤液に分散させ、5質量%のシリカ剥離剤液分散液を調製し、剥離剤液を塗布したガラス基板(剥離剤付ガラス基板)上に約1ml滴下し、150μmのドクターブレードで展開した。
次に、シリカ粒子(粒径280nm、シーホスターP30、日本触媒社製)をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に分散させ、50質量%シリカDMFc分散液とし、ホモジナイザーで分散させた。そして、50mlサンプル瓶に、18質量%ポリアミック酸DMAc(JFEケミカル)を5.5gと得られた50質量%シリカDMAc分散液を10g加え(体積比率シリカ:ポリアミック酸=3:1)、さらに粘度調整のためDMAcを4g加えた後、自転公転ミキサー(泡取り練太郎)で自転2000rpm5分、公転2200rpm5分の攪拌を行い、ポリアミック酸―シリカ混合液とした。
これを、シリカ剥離剤液分散液を滴下した上記剥離剤付ガラス基板上に150μmドクターブレードで展開し、その後すぐに30℃の乾燥機にて半日乾燥させた。
こうして得られたポリアミック酸-シリカ複合膜をガラス基板から剥離後、メタノールで洗浄することで、剥離剤と剥離剤中の分散シリカを除去した。320℃度で1時間熱処理することで、熱イミド化を行った後、10質量wt%フッ化水素水溶液に半日浸漬させ、鋳型であるシリカ粒子を溶出させ多孔質カーボン前駆体とした。これを、管状炉内に設置し、3%水素/アルゴンを100ml/分の速度で30分間通気した後、5℃/分の速度で980℃まで昇温し2時間保持、自然冷却した後、多孔質カーボンを取り出した。該多孔質カーボンの空孔率は76%であった。なお、空孔率は上記(1)式より求めた。また、走査型電子顕微鏡写真より該多孔質カーボンの平均孔径は、約250nmであり、複数の孔が連通していることを、確認した。
【0067】
<多孔質カーボンへの亜鉛の導入>
硫酸亜鉛7水和物(和光純薬)を用いて1mol/Lの硫酸亜鉛水溶液を調製し、電極を取り付けた前記多孔質カーボンを浸し、対極に白金ワイヤーを用いて、−3Vの電位を印加することで多孔質カーボンへ亜鉛を導入した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の電極を用いた空気二次電池は、エネルギー分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…空気二次電池、11…正極触媒層、12…正極集電体、120…正極端子、13…負極活物質層、14…負極集電体、140…負極端子、15…電解
図1