特許第6207484号(P6207484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207484
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】高リコピン含有ケチャップ
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/60 20160101AFI20170925BHJP
【FI】
   A23L1/24 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-179276(P2014-179276)
(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公開番号】特開2015-146800(P2015-146800A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2015年3月31日
【審判番号】不服2016-721(P2016-721/J1)
【審判請求日】2016年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-2220(P2014-2220)
(32)【優先日】2014年1月9日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 キッコーマン株式会社が、http://kikkoman.co.jp/corporate/news/13033.htmlのアドレスのウェブサイトで公開されているキッコーマン株式会社のウェブサイトにて、新発売のトマトケチャップ大さじ1杯(18g)に、リコピンは5.4mg含まれている旨を公開した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】316010388
【氏名又は名称】日本デルモンテ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】佐野 敦志
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 聖史
(72)【発明者】
【氏名】長井 淳夫
【合議体】
【審判長】 田村 嘉章
【審判官】 井上 哲男
【審判官】 山崎 勝司
(56)【参考文献】
【文献】 デルモンテリコピン・リッチトマトケチャップ(トマトの調味料)デルモンテ(キッコーマン),ひとくちトマトのブログ,2013年10月12日,http://hitokuchi−md.cocolog−nifty.com/blog/2013/10/post−3e8e.html
【文献】 特許庁,周知・慣用技術集,2000年1月14日,148−155,174−183,552−555,574−579,856−871,1030−1035頁
【文献】 販売情報,高リコペン品種「リコボール」,2013年9月,http://lycoball.hamafarm.co.jp/sales.html
【文献】 品種特徴,高リコペン品種「リコボール」,2013年,http://licoball.hamafarm.co.jp/licoball.html
【文献】 完熟トマトを使った無添加の手づくりのケチャップ,AllAbout,2002年,http://allabout.co.jp/gm/gc/56846/
【文献】 Journal of Food Engineering,2012年,109,579−587
【文献】 凛々子ケチャップを作る,2009年1月13日,http://homepage1.nifty.com/takumitsu/taiki/ririko/ririko.html
【文献】 日本食品工業学会誌,1985年,32,4,288−294
【文献】 超ヘルシーグアバのケチャップ,パルパロブログ,2007年6月27日,http://ameblo.jp/titoparupalo/entry−10037954212.html
【文献】 鹿大農学術報告,1987年,37,59−64
【文献】 トマトケチャップ♪,2013年11月13日,http://ameblo.jp/310mayumi/entry−11684144147.html
【文献】 畑田農園 トマトケチャップ(マイルド) 6本セット,ボーヤ・フレンズ,2015年4月28日検索,https://v.rentalserver.jp/boya−club.jp/boya−mart/36_142.html
【文献】 伏木亨,光琳選書1 食品と味,2010年,再版,117−122,133−139
【文献】 カルボン酸エステルの香り,化学=嫁楽,2013年12月15日,図1,http://ameblo.jp/benzen3104/entry−11729421560.html
【文献】 LWTーFood Science and Technology,1996年,29,7,677−680
【文献】 清水純夫 角田一 牧野正義,光琳選書3 食品と香り,2004年,35−38
【文献】 1−Butanol,2011年,http://webbook.nist.gov/cgi/cbook.cgi?ID=C71363&MASK=200
【文献】 野菜茶業研究所研究報告,2013年,12,81−88,https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/vt_bulletin_12_81−88.pdf
【文献】 (社)日本分析化学会 ガスクロマトグラフィー研究懇談会 編集,役に立つガスクロ分析,株式会社みみずく舎,2010年7月29日,初版第1刷,127−139
【文献】 アジレント・テクノロジー株式会社,MSの基礎−採取したスペクトルの評価[online],2016年2月25日検索,http://www.chem−agilent.com/contents.php?id=51245
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リコピンと、醸造酢由来のエステル類および/またはアルコール類と、を含有するトマトケチャップであって、
該リコピンの含有量が、25mg/100g以上50mg/100g以下であり、
該エステル類が、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、酢酸フェニルエチルエステル、からなる群から選択された少なくとも1種であり、
該アルコール類が、イソアミルアルコール又はフェネチルアルコールであり、
かつ、該エステル類および/または該アルコール類の内部標準物質1ppbに対する相対含量が0.06〜1.0である、
高リコピン含有トマトケチャップ。
【請求項2】
食塩含有量が0.3重量%以上5.0重量%以下である、請求項1に記載の高リコピン含有トマトケチャップ。
【請求項3】
前記リコピンが、生トマト、トマトピューレ、トマトペーストからなる群から選択された1種又は2種以上を由来とするリコピンである、請求項1又は2に記載の高リコピン含有トマトケチャップ。
【請求項4】
日本農林規格(JAS)に適合したトマトケチャップである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高リコピン含有トマトケチャップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高リコピン含有トマトケチャップを収容した、容器詰め調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リコピンを高濃度で含有するケチャップに関し、特に、リコピンを高濃度で含有しながら、香味の良好なケチャップに関する。
【背景技術】
【0002】
トマトから作られるケチャップとは、濃縮トマトを主原料に、液糖等の糖類、食酢、香辛料、玉ねぎ等を混合し味を調えた歴史ある調味料であり、濃く鮮やかな赤色の特徴的な色調を呈し種々の健康機能を有するリコピンを豊富に含む調味料でもある。しかしながら、主原料の濃縮トマト、例えばトマトペーストに含まれるリコピン濃度に限界があるため、一般的なトマトケチャップ100gに含まれるリコピン濃度は10mgから24mgの範囲内であった。
【0003】
近年、食に関する健康志向の高まりから、トマトに特に豊富なリコピン(Lycopene)が注目され、その色調だけでなく、種々の健康機能性が明らかにされるに及び、トマトケチャップに対するリコピン含量の増強はますます注目され続けている。例えば、特表2002−532111号公報には、植物性ステロールと、カロチノイドを含むケチャップが開示されており、カロチノイドの具体例の一つとしてのリコピンが例示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−532111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、トマトケチャップ中のリコピン濃度を高めると、リコピン由来の特有の臭いや濃縮トマト由来の特有の臭い、すなわち、油脂様臭、ムレ臭、焦げ臭等で表現されるような官能特性が認識されるようになるため食品としての香味や嗜好性が低下したり、また溶剤を用いて添加物として調製されたリコピン濃縮物のような製剤を配合すれば日本農林規格(JAS)から外れることから、高リコピン含有トマトケチャップは望まれているにもかかわらず実現できていなかった。
【0006】
また、トマトケチャップには食塩が約3%含有しているが、食塩含量が多いとトマト由来のグルタミン酸等のアミノ酸由来の呈味が増すが、逆にトマトらしさ(トマト感)やトマト本来のリコピン等の香味が薄れるという問題があった。食塩含量を減らした場合は、原料のトマトペーストやリコピン由来のムレ臭や焦げ臭が目立つようになったり、ケチャップ全体の香味が水っぽく感じられるようになるため、通常のトマトケチャップは約3%の食塩含量となっており、濃い味付けのトマトケチャップだけでなく、減塩志向を満たす低塩タイプのトマトケチャップに対する市場要望に応えられていないという問題点もあった。
【0007】
そこで本発明は、リコピンを高濃度に含有しながら、幅広い塩分濃度の範囲で、香味の良いケチャップを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ケチャップに香気成分であるエステル類および/またはアルコール類を含有することで、リコピンを高濃度に含有しながら、香味の良いケチャップが得られること、また、食塩含量が従来よりも幅広い範囲で含有していても、香味の良いケチャップが得られるとの知見を得た。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、リコピンと、エステル類および/またはアルコール類を含有する高リコピン含有ケチャップを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リコピンを高濃度に含有していても、通常よりも幅広い塩分濃度の範囲で、香味の良いケチャップを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の高リコピン含有ケチャップは、リコピンと、香気成分であるエステル類および/またはアルコール類とを含有し、リコピンを25mg/100g含有するものである。
【0012】
本発明の実施形態において、ケチャップとは、トマトを主原料とし、これに糖質、食酢、食塩を加え必要により加水して味を調えた調味料であって、必要に応じて、玉ねぎ、香辛料を加えても良く、また他の野菜または果物の加工品、着色料、着香料、アミノ酸類、核酸類、微生物発酵物等を加えてもよい。またケチャップの中でもトマトケチャップは、日本農林規格(JAS)の定める規格に適合したものを指し、本実施形態のケチャップにも含まれる。
【0013】
本実施形態において、リコピンとは、リコペンとも表記され英語表記ではLycopene、テトラテルペンであり、水に不溶、カロチノイドの一種で鮮やかな赤色を呈する有機化合物である。リコピンが含まれる代表的なものとして、トマトが挙げられ、その他、ニンジン、スイカ、パパイヤ、赤肉メロン、ガックフルーツ等がある。リコピンはその強力な抗酸化性が着目され種々の健康機能が明らかにされており、トマトジュースではリコピン高含有製品が登場している。また、リコピンの鮮やかな赤色が飲食品において注目されており、リコピンを工業的に濃縮や精製したリコピン製剤(例えばLycoRed社製LycoMate、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製リコピンベース)が着色や日持ち向上、栄養機能強化等の目的で種々の飲食品に用いられている。
【0014】
しかし、リコピンは、例えば従来のトマトケチャップでは10mg/100gから24mg/100g程度が含まれているが、24mg/100gの濃度を超えるとムレ臭やリコピン特有の好ましくない香りが生じるようになる。リコピンを豊富に含む飲食品例としてトマトジュースがあるが、一般的なリコピン含量は10mg/100g程度であり、リコピン高含有を訴求したトマトジュースでも20mg/100g程度となっており、嗜好性の限界が存在する。
【0015】
本実施形態において、エステル類および/またはアルコール類を本実施形態の高リコピン含有ケチャップに含有させることにより、リコピンに由来する特有の臭い、油脂様臭、ムレ臭、焦げ臭を抑制し、リコピンを高濃度で含有するケチャップの香味を向上させることが可能となる。
【0016】
エステル類としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸フェニルエチルエステル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸アミル、酪酸イソアミル、酪酸ヘキシル、酪酸ヘプチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸イソアミル等を挙げることができる。
【0017】
アルコール類としては、例えば、イソアミルアルコール、アミルアルコール、イソブタノール、ブタノール、イソプロパノール、プロパノール、フェネチルアルコール等を挙げることができる。
【0018】
香気成分の含有量は、リコピン由来の臭いを抑制できる程度(ppbレベルの濃度)に含まれていればよく、リコピンの含有量に応じて適宜設定することができるが、例えば、リコピンを25mg/100g〜50mg/100g含有する高リコピン含有ケチャップの場合、相対含量が0.03以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.06〜1.0であることがさらに好ましい。ここで、「相対含量」とは、内部標準物質であるフェナントレン−d10(1ppbまたは0.1μg/100g)のGC−MS分析(スキャン分析)での検出面積を100とした場合の香気成分の検出面積をいう。
【0019】
本実施形態の高リコピン含有ケチャップが含有する香気成分は、果実香、花様香、醸造香、吟醸香、発酵臭、酵母臭等に代表されるような官能特性を有する。これらの香気成分は、天然には主に果実、酒類、発酵食品等に含まれ、これらをケチャップに添加混合することにより、エステル類および/またはアルコール類を添加した場合と同様の効果を得ることができる。
【0020】
エステル類および/またはアルコール類を添加した場合と同様の効果が得られる食品としては、具体的には、バナナ、リンゴ、パイナップル、イチゴ、メロン、かんきつ類の果実搾汁液(果汁)またはこれらの破砕物;コメ、玄米、黒米、粟、ムギ、ダイズ、黒豆、アズキ、緑豆、発芽ダイズ、小麦、大麦、麦芽等の穀類またはこれらの微細化物;前記果実搾汁液またはこれらの破砕物、前記穀類またはこれらの微細化物等の酵母発酵物、酢酸発酵物またはこれらの蒸留物を挙げることができ、これらを一種または二種以上混合してもよい。なお、本実施形態における香気成分は、上記食品に含まれる香気成分を濃縮や精製したものである香料を用いてもよく、さらに上記食品と香料を適宜組み合わせてもよい。醸造酢を除きこれらの食品をケチャップに配合することは、JAS規格から外れること等の理由により通常行われていないが、上記食品を高リコピン含有ケチャップに添加すれば、リコピン由来の風味を改善することができる。
【0021】
上記食品の添加量は、リコピン由来の臭いを抑制できる程度に含まれていればよく、リコピンの含有量に応じて適宜設定することができるが、上述した香気成分の含有量に相当する量の食品を添加することが好ましい。例えば、リコピンを25mg/100g含有する高リコピン含有ケチャップに先述の香気成分を含む醸造酢を添加する場合、例えば酸度8%の醸造酢であれば、その含有量を1〜150mg/gとすることが好ましい。
【0022】
本実施形態における高リコピン含有ケチャップは、食塩濃度が0.5〜5.0重量%であることが好ましく、0.5〜4.0重量%であることがより好ましく、0.5〜2.5重量%であることがさらに好ましく、0.5〜2.0重量%であることが一層好ましい。従来のケチャップ中の食塩濃度は、3重量%前後であり、3重量%よりも低濃度、例えば2重量%になると水っぽく感じられるようになり、3重量%よりも高濃度、例えば重量5%になると塩味が強くなりトマト感が薄れる。しかし、本実施形態の高リコピン含有ケチャップは、リコピンを高含有することで、前記の水っぽさやトマト感の低減を抑制することができ、とくに食塩が従来よりも低濃度領域でより明確にトマト感の維持増強が実現する。
【0023】
本実施形態の高リコピン含有ケチャップを得るには、従来のケチャップにリコピン製剤を必要量添加するか、生トマトやトマトピューレ、トマトペーストなどのトマトの加工品を目的のリコピン濃度になるように原料として配合し、常法に従ってケチャップを調製する。その際に、香気成分であるエステル類および/またはイソアミルアルコールを必要量添加するか、香気成分のエステル類および/またはイソアミルアルコールを含有する食品を原材として配合する。これらの香気成分を一定量含む高リコピン含有ケチャップは、リコピンが25mg/100g以上と豊富に含まれていながら、リコピン由来の油っぽい特有のムレ臭や焦げ臭が軽減または解消し、従来よりも濃厚で、コクがあり、トマト本来の自然なトマト感が強調された、嗜好性が高く、商品としての適性の高い高リコピン含有ケチャップが提供される。また、食塩濃度も従来の3%前後よりも低い濃度(0.5〜2.5%)に低下させても嗜好性を失わず商品としての適性が維持された高リコピン含有ケチャップが提供される。
【0024】
この時、リコピン製剤や酸味料以外の野菜または果実または穀類等の搾汁液や破砕物、発酵物(醸造酢を除く)を添加する場合は、日本農林規格(JAS)のトマトケチャップではなくなる。なお、JASのトマトケチャップとは、1.濃縮トマトに食塩、香辛料、食酢、砂糖類及びたまねぎ又はにんにくを加えて調味したもので可溶性固形分が25%以上のもの、および、2.1に酸味料(かんきつ類の果汁を含む。)、調味料(アミノ酸等)、糊料等(たまねぎ及びにんにく以外の農畜水産物並びに着色料を除く。)を加えたもので可溶性固形分が25%以上のもの、と規定されている。本実施形態の高リコピン含有ケチャップは、トマト本来の風味の観点から、日本農林規格(JAS)に適合したトマトケチャップであることが好ましい。そのため、日本農林規格(JAS)に適合したトマトケチャップとするために、リコピンは生トマトやトマトピューレ、トマトペーストなどのトマトの加工品を目的のリコピン濃度になるように原料として配合することが好ましく、また、発酵物は醸造酢を配合することが好ましい。
【0025】
本実施形態は、上述した高リコピン含有ケチャップを収容した、容器詰め調味料を提供するものである。上述した高リコピン含有ケチャップを収容するための容器としては、酸素バリア性とオレフィンの水分バリア性を備えている容器であれば特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ラミコンボトル等の合成樹脂製の容器、ガラス製のビン、金属製の缶などを挙げることができる。本実施形態の容器詰め調味料は、上述した高リコピン含有ケチャップを容器に充填する前または充填して密封した後、熱交換機や温水等で80〜100℃で殺菌することにより製造することができる。
【0026】
以下、実施例を示して本発明の効果をより具体的に説明する。
【実施例】
【0027】
1.リコピン含有量の異なるケチャップの調製
(1)調製方法
トマトペースト(LosGatos社製)280g、ぶどう糖・果糖液糖240g、ホワイトビネガー42g、食塩30g、玉ねぎエキス適量、香辛料適量に、飲料用水を加えて全量を1.0kgとし、定法によりトマトケチャップ(対照例1)を調製した。この対照例1に、リコピンとしての添加量が5mg/100g、15mg/100g、30mg/100gとなるようリコピン製剤(LycoRed社製LycoMate)を添加し、定法により殺菌し、容器に充填し、容器詰めリコピン含有ケチャップ(製造例1、製造例2、製造例3)を調製した。
【0028】
(2)分析方法
リコピンの分析は、ヘキサンとアセトンからなる有機溶剤を用いて試料からリコピンを抽出し、吸光度法により測定した(トマト加工品・ソース類・食酢関係PART1、分析便覧、8−10頁、昭和56年、財団法人全国トマト加工品・調味料検査協会発行、新・食品分析法、643−647頁、平成8年、日本食品科学工学会発行)。
【0029】
(3)官能評価
リコピンを添加していない対照例1のトマトケチャップを対照として、上記調製したリコピン含有量の異なるリコピン含有ケチャップのリコピンに由来する油っぽいムレ臭の強さについて、3名のパネラーにより以下の基準に基づき評価した。
<リコピンに由来する油っぽいムレ臭>
◎:感じられない(対照例1と同じ)
○:わずかに感じる
△:感じる
×:強く感じる
【0030】
また、香味全体を総合的に勘案して、商品としての適性を総合評価として、以下の基準に基づき評価した。
<総合評価>
◎:商品としての適性が非常に良い
○:商品としての適性が良い
△:商品としての適性は標準的である
×:商品としての適性に劣っている
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示した結果から、ケチャップのリコピン含有量が25mg/100g以上となると、リコピン由来のムレ臭が感じられるようになり、さらにリコピン含有量が増すと、ケチャップとしての品質や嗜好性、商品としての適性が悪くなることがわかる。
【0033】
2.香気成分の含有量の異なるリコピン高含有ケチャップの調製
(1)調製方法
濃縮トマト(トマトペースト、LosGatos社製)280g、ぶどう糖・果糖液糖240g、ホワイトビネガー適量、食塩30g、玉ねぎエキス適量、香辛料適量に、飲料用水適量を加えて、食塩濃度約3%のケチャップベース液を調製した。次にこのケチャップベース液に、リコピン含有量が18〜107mg/100gとなるように濃縮トマトの配合量を調節し又はリコピン製剤(LycoRed社製LycoMate、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製リコピンベース)を適宜配合し、香気成分量が1ppbの内部標準物質(フェナントレン−d10)のGC−MS分析での検出面積に対する相対含量で0.03〜1.89となるように香料(高砂香料工業株式会社製アップルエッセンス、長谷川香料株式会社製バナナエッセンス、小川香料株式会社製パイナップルエッセンス)または醸造酢(キユーピー醸造株式会社製純粋麦芽酢、横井醸造工業株式会社製純りんご酢、横井醸造工業株式会社製真黒酢、日本デルモンテ株式会社製パイナップルビネガー、株式会社ミツカン製白ワインビネガー)を適宜添加して、全量を1.0kgとした後、定法により殺菌し、容器に充填し、各成分の含有量の異なる容器詰め高リコピン含有ケチャップを調製した(製造例4〜9)。
【0034】
(2)分析方法
リコピンの分析は、上記1(2)の分析方法に従って行った。
香気成分の分析は、スターバー抽出加熱脱着ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により、実施した。
機種:6890N/5973(Agilent Technologies社製)
カラム:InertCap−WAX(30m、0.25mm、0.25μm、GL science社製)
GCオーブン温度:40℃(3分保持)→5℃/分昇温→240℃
注入方法:スプリットレス
注入量:2.0μL
ガス流量:ヘリウム 0.8mL/分
イオン源温度:230℃
イオン化法:EI
内部標準物質:フェナントレン−d10(m/z 188)
スターバー:Twister(膜厚0.5mm、直径10mm、GERSTEL社製)
香気成分量は、使用した内部標準物質フェナントレン−d10(1ppb)に対する、各成分の主要な質量フラグメントピークの面積の相対面積から相対含量として求めた。
【0035】
(3)官能評価
3名の健常者をパネラーとして、以下の各項目について官能評価を実施し、パネラーの評価の平均を表した。すなわち、リコピン製剤を添加していない対照例1のトマトケチャップを対照として、上記調製した香気成分含有量の異なるケチャップのリコピンに由来する油っぽいムレ臭の強さについて、以下に示す基準で評価した。
<リコピンに由来する油っぽいムレ臭>
◎:感じられない
○:わずかに感じる
△:感じる
×:強く感じる
【0036】
<総合評価>
各評価項目を総合的に勘案して、商品としての適性を評価した。
◎:商品としての適性に優れている
○:商品としての適性は良い
△:商品としての適性は標準的である
×:商品としての適性に劣っている
【0037】
【表2】
【0038】
表2の結果より、香気成分を相対含量で0.03以上含有させることで、リコピン由来のムレ臭を低減することができ、リコピンを高濃度に含有しながら、香味の良いケチャップを得ることができることがわかる。また、製造例8のようにリコピン濃度が59mg/100gとなると、香気成分が一定量含有しても、リコピン由来のムレ臭や濃縮トマト由来のコゲ臭等を抑制することに限界があり、製造例9のようにリコピン濃度が107mg/100gとなると、香気成分を豊富に含有してもリコピン由来のムレ臭や濃縮トマト由来のコゲ臭等を抑制できず、さらにケチャップとしての香味バランスが崩れ商品としての適性が低下する。
【0039】
3.食塩含有量の異なるリコピン高含有ケチャップの調製
(1)調製方法
濃縮トマト(トマトペースト、LosGatos社製)280g、ぶどう糖・果糖液糖240g、ホワイトビネガー適量、玉ねぎエキス適量、香辛料適量に、飲料用水適量を加えて、ケチャップベース液を調製した。次にこのケチャップベース液に、リコピン含有量が30mg/100g前後となるように濃縮トマトの配合量を調節し又はリコピン製剤(LycoRed社製LycoMate、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製リコピンベース)を適宜配合し、香気成分量が0.08前後となるように香料(小川香料株式会社製パイナップルエッセンス)または醸造酢(横井醸造工業株式会社製純りんご酢、日本デルモンテ株式会社製パイナップルビネガー)、または果汁(キッコーマン飲料株式会社販売パイナップルジュース)を適宜添加し、食塩含有量が0.3〜4.7重量%となるように食塩配合量を調節して、飲料用水にて全量を1.0kgとし、定法により殺菌し、容器に充填し、各成分の含有量の異なる容器詰め高リコピン含有ケチャップを調製した(製造例10〜16)。
【0040】
(2)分析方法
リコピン、香気成分の測定は、上記2(2)と同様に実施した。
食塩含量(食塩濃度)の測定は、既知の方法である、分析便覧[トマト加工品・ソース類・食酢関係]PART1、(財)全国トマト加工品・調味料検査協会、昭和56年刊に記載のモール法により実施した。
【0041】
(3)官能評価
試料の官能評価試験は、各項目を以下に示す基準で評価した。
【0042】
<リコピンに由来する油っぽいムレ臭>
◎:感じられない
○:わずかに感じる
△:感じる
×:強く感じる
【0043】
<コクまたは濃厚感>
◎:十分に感じる
○:感じる
△:わずかに感じる
×:あまり感じられない
【0044】
<トマト感>
◎:好ましく感じる
○:やや好ましく感じる
△:やや不自然に感じる
×:不自然に感じる
【0045】
<総合評価>
各評価項目を総合的に勘案して、商品としての適性を評価した。
◎:商品としての適性に優れている
○:商品としての適性は良い
△:商品としての適性は標準的である
×:商品としての適性に劣っている
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果より、一般的なトマトケチャップの食塩濃度3%よりも少ない食塩濃度であって、かつ、リコピン含量が25mg/100g以上であっても、リコピンを含有していない一般的なトマトケチャップ(対照例1)と同様、リコピンに由来する油っぽいムレ臭は感じられないことが判明した。食塩濃度が0.3%(製造例14)であっても、リコピン由来のムレ臭は感じられず、特に食塩濃度1.6%(製造例12)では、適度な香気成分が含まれることにより、優れた評価が得られた。