(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のチョコレートの製造方法は、カカオ分を含み、乳製品含量が1質量%未満のチョコレートの製造方法であって、微粒化工程後のドライ状のチョコレート生地を56℃以上で0.5時間以上コンチングした後、更にペースト状にしたチョコレート生地を56℃以上で0.2時間以上コンチングすることを特徴とする。
【0011】
本発明においてチョコレートとは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、カカオ分(カカオマス、ココアパウダー等)、油脂(ココアバター等)、糖類を主原料とし、必要により香料、乳化剤(レシチン等)等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化(リファイニング)工程、精練(コンチング)工程、調温(テンパリング)工程、成型工程、冷却工程等)を経て製造されたもののことである。なお、本発明においてチョコレート生地とは、製造工程中の精練工程までの原料の混合物のことである。
本発明におけるチョコレートは、好ましくはダークチョコレートである。なお、ダークチョコレートは、ビターチョコレート、ブラックチョコレート、スイートチョコレート、プレーンチョコレートと言われることもある。
本発明におけるチョコレートは、好ましくはテンパリング型チョコレートである。
【0012】
本発明におけるチョコレートは、カカオ豆由来のカカオ分を含むものである。本発明においてカカオ分とは、カカオ豆由来の成分のうちカカオ固形分を含んでいるもののことであり、具体的にはカカオマス、ココアパウダー等である。また、本発明においてカカオ固形分とは、カカオ豆由来の成分から油脂(ココアバター)を除いたもののことである。本発明におけるチョコレートは、カカオ分含量が好ましくは1〜85質量%であり、より好ましくは30〜70質量%であり、さらに好ましくは35〜55質量%である。
【0013】
本発明におけるチョコレートは、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳製品を実質的に含まないものであり、乳製品含量は、1質量%未満であり、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.2質量%未満である。
【0014】
本発明におけるチョコレートは、油脂を含むものである。チョコレートに配合する油脂は、通常チョコレートに配合されるものであれば特に制限はないが、例えば、ココアバター、ココアバター代用脂等が挙げられる。なお、本発明の製造方法は、油脂としてココアバターのみを配合したチョコレートにも適用可能である。
【0015】
本発明におけるチョコレートの油脂含量は、好ましくは25〜70質量%であり、より好ましくは30〜60質量%であり、更に好ましくは30〜50質量%である。なお、チョコレートの油脂含量は、配合される油脂の他に、含油原料に含まれる油脂も含むものである。含油原料としては、例えば、カカオマス(ココアバターを約55質量%含む)、ココアパウダー(ココアバターを約11質量%含む)等が挙げられる。
【0016】
本発明におけるチョコレートは、好ましくはココアバターを含有する。本発明におけるチョコレートは、油脂中のココアバター含量が好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0017】
本発明におけるチョコレートは、好ましくは乳化剤を含むものである。チョコレートに配合する乳化剤は、通常チョコレートに配合されるものであれば特に制限はないが、例えば、レシチン類(レシチン、リゾレシチン等)、合成乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等)等が挙げられる。これらの乳化剤は1種又は2種以上を使用することができる。なお、本発明の製造方法は、乳化剤としてレシチン類のみを配合したチョコレートにも適用可能である。
【0018】
本発明におけるチョコレートは、好ましくはレシチン類を含有する。レシチン類は、好ましくはレシチン、リゾレシチンである。レシチン類は1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
本発明におけるチョコレートの乳化剤含量は、好ましくは0.1〜5質量%であり、より好ましくは0.2〜4質量%であり、更に好ましくは0.3〜3質量%%である。
【0020】
本発明におけるチョコレートに配合する油脂、乳化剤以外の原料としては、通常チョコレートに配合する原料であれば特に限定されず、従来公知の原料を配合することができる。例えば、ショ糖(砂糖、粉糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトース、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、デキストリン等の糖類、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末等の各種粉末、ガム類及び澱粉等を挙げることができる。さらに、通常チョコレートに配合する添加剤を配合することもできる。チョコレートの添加剤としては、例えば、酸化防止剤、着色料、および香料(バニラ香料等)等を挙げることができる。
【0021】
チョコレートは、通常、チョコレートの原料をミキシング(混合工程)し、リファイナー(ロール掛け)によるリファイニング(微粒化工程)した後、コンチング(精練工程)を行い、冷却(冷却工程)することにより製造する。また、コンチングを行った後、必要に応じてテンパリング(調温工程)、成型(成型工程)を行うこともある。
通常、微粒化工程に供するチョコレート生地は、生地中の油分含量が高いとリファイナーのロールが滑ってしまいリファイニングを行うことが困難になる。このため、通常、微粒化工程に供するチョコレート生地中の油分含量は、好ましくは20〜35質量%、より好ましくは23〜30質量%となるように調整する。従って、全チョコレート中の油分含量が前記範囲の上限を超える場合、通常、油脂、含油原料(カカオマス、ココアパウダー等)の一部を微粒化工程前のチョコレート生地に配合することで、その油分含量を調整する。微粒化工程前のチョコレート生地に配合されなかった油脂、含油原料は、微粒化工程以降に添加される。微粒化工程後のチョコレート生地に、微粒化工程前に配合されなかった油脂、含油原料を添加せずにコンチングを行うと、チョコレート生地はドライ状(ソボロ状)でコンチングが行われる。チョコレート生地をドライ状でコンチングすることを、ドライコンチングという。なお、本発明においてチョコレート生地がドライ状とは、撹拌していると生地がまとまらず小さい球形に分かれてしまう状態(指で押すと硬く、崩れる。)だが、手で握るとまとまる状態のことである。
【0022】
本発明のチョコレートの製造方法は、微粒化工程後のチョコレート生地をドライ状でコンチングすることを特徴とする。
ドライ状でコンチングを行う時の温度は、56℃以上であり、好ましくは56〜90℃であり、より好ましくは58〜85℃であり、さらに好ましくは68〜80℃である。
ドライ状でコンチングを行う時の時間は、0.5時間以上であり、好ましくは0.5〜48時間であり、より好ましくは0.8〜24時間、さらに好ましくは1〜12時間である。
ドライ状でコンチングを行う時の温度及び時間が前記範囲であると、チョコレートは、流動性が良く、経時的な粘度増加が少ないものとなる。
【0023】
本発明のチョコレートの製造方法は、チョコレート生地をドライ状でコンチングした後、さらにペースト状にしたチョコレート生地でコンチングすることを特徴とする。チョコレート生地をドライ状でコンチングした後、ペースト状にしたチョコレート生地でコンチングを行わずに、粘土状又は液状でコンチングを行っても、流動性が良く、経時的な粘度増加が少ないチョコレートは得られない。なお、本発明においてチョコレート生地がペースト状とは、生地が軟化した状態(指で触ると抵抗は弱く、指につき、生地にツノが立つ。表面にツヤは無い。)であり、撹拌していると器具の底や側面、撹拌翼にべったりと生地がつく状態のことである。また、本発明においてチョコレート生地が粘土状とは、生地がまとまった状態(指で触っても指につかない。指で押すと抵抗があり、指の跡がそのまま残る)であり、撹拌していても生地が器具につかない状態のことである。また、本発明においてチョコレート生地が液状とは、生地が液体のように流動性のある状態(指で触ると抵抗は無く、指につき、生地にツノが立たない。表面にツヤがある。)のことである。
【0024】
ドライ状でコンチングを行った後のチョコレート生地はドライ状であるため、チョコレート生地をペースト状にする必要がある。チョコレート生地をペースト状にする手段としては、乳化剤や微粒化工程前に配合されなかった油脂、含油原料を添加する方法が挙げられる。チョコレート生地をペースト状にする手段としては、好ましくは乳化剤、より好ましくはレシチン類、さらに好ましくはレシチン、リゾレシチンを添加する。レシチン類(レシチン、リゾレシチン等)等の乳化剤は1種又は2種以上を添加することもできる。チョコレート生地をペースト状にするための乳化剤、油脂、含油原料の添加量は、乳化剤、油脂、含油原料の種類、含油原料の組成によっても異なるため、特に制限させることはないが、例えば、レシチン類の場合、チョコレート生地100質量部に対してレシチン類を好ましくは0.05〜0.30質量部、より好ましくは0.10〜0.25質量部、さらに好ましくは0.10〜0.20質量部添加する。
【0025】
ペースト状でコンチングを行う時の温度は、56℃以上であり、好ましくは56〜90℃であり、より好ましくは58〜85℃であり、さらに好ましくは68〜80℃である。
ペースト状でコンチングを行う時の時間は、0.2時間以上であり、好ましくは0.2〜24時間であり、より好ましくは0.5〜12時間、さらに好ましくは0.8〜3時間である。
ペースト状でコンチングを行う時の温度及び時間が前記範囲であると、チョコレートは、流動性が良く、経時的な粘度増加が少ないものとなる。
【0026】
本発明のチョコレートの製造方法は、ドライ状のチョコレート生地をコンチングした後、ペースト状にしたチョコレート生地でコンチングする前に、粘土状にしたチョコレート生地でコンチングすることもできる。
粘土状でコンチングを行う時の温度は、好ましくは56℃以上であり、より好ましくは56〜90℃であり、さらに好ましくは58〜80℃であり、最も好ましくは58〜70℃である。
粘土状でコンチングを行う時の時間は、好ましくは0.2時間以上であり、より好ましくは0.2〜24時間であり、さらに好ましくは0.5〜12時間、最も好ましくは0.8〜2時間である。
粘土状にしたチョコレート生地でコンチングした後、ペースト状にしたチョコレート生地でコンチングする場合、ペースト状でコンチングを行う時の時間は、好ましくは0.2時間以上であり、より好ましくは0.2〜12時間であり、さらに好ましくは0.2〜3時間である。
ドライ状のチョコレート生地をコンチングした後、ペースト状にしたチョコレート生地でコンチングする前に、粘土状にしたチョコレート生地でコンチングすると、チョコレートは、流動性が良く、経時的な粘度増加がより少ないものとなる。
【0027】
ペースト状にしたチョコレート生地をコンチングした後は、チョコレート生地に残りの原料(残りの含油原料、残りの油脂、残りの乳化剤、香料等)を添加し、均一になるまで混合する。混合時間は均一になるまで行えばよく、特に制限させるものではない。残りの原料を添加したチョコレート生地は、通常、液状となる。
【0028】
本発明の製造方法で得られるチョコレートは、融解させた後、必要に応じてテンパリングを行い(シード剤を使用したシード法によってテンパリングを行うこともできる)、成型、コーティング等の加工を施すことができる。本発明の製造方法で得られるチョコレートは、融解後の流動性が良く、経時的な粘度増加も少ない。本発明の製造方法で得られるチョコレートは、特にテンパリング後の経時的な粘度増加が少ない。従って、本発明の製造方法で得られるチョコレートは、加工時の作業性がよい。
【実施例】
【0029】
次に、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例になんら制限されるものではない。
【0030】
<チョコレートの評価1>
表1の配合のチョコレートを以下の条件で製造した。カカオマス42.5質量部、砂糖43.5質量部を混合し、リファイニングを行った後(リファイニングに供したチョコレート生地中の油脂含量:27.2質量%)、表2の条件でコンチングを行った。コンチングを行った後のチョコレート生地に、残りの原料を添加し、均一になるまで混合した。
得られた各チョコレート400gを完全に融解させた後、チョコレートの品温を30℃にして、チョコレート100質量部に対してシード剤0.2質量部を混合分散させることでテンパリングを行った。チョコレートの流動性を下記評価方法及び評価基準に従って評価した。評価結果を表2に示した。
【0031】
<流動性の評価方法>
テンパリングを行ったチョコレートをステンレス製のボウルに入れ、30℃に保温し、ボウルを傾けたときの状態を目視で評価した。テンパリングを行った直後のチョコレート及び1時間静置後のチョコレートの流動性を評価した。評価は◎又は○の場合、流動性がよいと判断した。
<流動性の評価基準>
◎:非常に流動性が高い
○:流動性がある
△:流動性がほとんどない
×:流動性が全くない
【0032】
【表1】
カカオマス中のココアバター含量:55質量%
チョコレート中のカカオ分含量:42.5質量%
チョコレート中の乳製品含量:0質量%
チョコレート中の油脂含量:36.9質量%
チョコレートの油脂中のココアバター含量:100質量%
【0033】
【表2】
【0034】
ドライ状でコンチングを行った後、ペースト状でコンチングを行った実施例1は、流動性が高く、経時的な粘度増加も少なかった。一方、ドライ状でコンチングを行っていない比較例1、2は、経時的に粘度が増加した。
【0035】
<チョコレートの評価2>
表3の配合のチョコレートを以下の条件で製造した。カカオマス40.4質量部、砂糖44.3質量部を混合し、リファイニングを行った後(リファイニングに供したチョコレート生地中の油脂含量:26.2質量%)、表4の条件でコンチングを行った。コンチングを行った後のチョコレート生地に、残りの原料を添加し、均一になるまで混合した。
得られた各チョコレート400gを完全に融解させた後、チョコレートの品温を30℃にして、チョコレート100質量部に対してシード剤0.2質量部を混合分散させることでテンパリングを行った。チョコレートの流動性を<チョコレートの評価1>と同じ評価方法及び評価基準で評価した。評価結果を表4に示した。
【0036】
【表3】
カカオマス中のココアバター含量:55質量%
チョコレート中のカカオ分含量:40.4質量%
チョコレート中の乳製品含量:0質量%
チョコレート中の油脂含量:37.0質量%
チョコレートの油脂中のココアバター含量:100質量%
【0037】
【表4】
【0038】
ドライ状でコンチングを行った後、ペースト状でコンチングを行った実施例2〜4は、流動性が高く、経時的な粘度増加も少なかった。一方、ドライ状でコンチングを行った後、ペースト状でコンチングを行っていない比較例3〜8は、経時的に粘度が増加した。
【0039】
<チョコレートの評価3>
表5の配合のチョコレートを以下の条件で製造した。カカオマス39質量部、砂糖44質量部を混合し、リファイニングを行った後(リファイニングに供したチョコレート生地中の油脂含量:25.8質量%)、表6の条件でコンチングを行った。コンチングを行った後のチョコレート生地に、残りの原料を添加し、均一になるまで混合した。
得られた各チョコレート400gを完全に融解させた後、チョコレートの品温を30℃にして、チョコレート100質量部に対してシード剤0.2質量部を混合分散させることでテンパリングを行った。チョコレートの流動性を<チョコレートの評価1>と同じ評価方法及び評価基準で評価した。評価結果を表6に示した。
【0040】
【表5】
カカオマス中のココアバター含量:55質量%
チョコレート中のカカオ分含量:44質量%
チョコレート中の乳製品含量:0質量%
チョコレート中の油脂含量:35.3質量%
チョコレートの油脂中のココアバター含量:100質量%
【0041】
【表6】
【0042】
ドライ状でコンチングを行った後、ペースト状でコンチングを行った実施例5、6は、流動性が高く、経時的な粘度増加も少なかった。一方、ドライ状でコンチングを行った後、ペースト状でコンチングを行っていない比較例9は、経時的に粘度が増加した。
【0043】
<チョコレートの評価4>
表7の配合のチョコレートを以下の条件で製造した。カカオマス36.5質量部、砂糖43質量部を混合し、リファイニングを行った後(リファイニングに供したチョコレート生地中の油脂含量:25.3質量%)、表8の条件でコンチングを行った。コンチングを行った後のチョコレート生地に、残りの原料を添加し、均一になるまで混合した。
得られた各チョコレート400gを完全に融解させた後、チョコレートの品温を30℃にして、チョコレート100質量部に対してシード剤0.2質量部を混合分散させることでテンパリングを行った。チョコレートの流動性を<チョコレートの評価1>と同じ評価方法及び評価基準で評価した。評価結果を表8に示した。
【0044】
【表7】
カカオマス中のココアバター含量:55質量%
チョコレート中のカカオ分含量:43質量%
チョコレート中の乳製品含量:0質量%
チョコレート中の油脂含量:37.2質量%
チョコレートの油脂中のココアバター含量:100質量%
【0045】
【表8】
【0046】
ドライ状でコンチングを行った後、ペースト状でコンチングを行った実施例7、8は、流動性が高く、経時的な粘度増加も少なかった。なお、ペースト状でコンチングを行う前に粘土状でコンチングすると経時的な粘度増加がより少なくなった。