特許第6207848号(P6207848)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6207848バイオエタノールの回収方法及び回収システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207848
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】バイオエタノールの回収方法及び回収システム
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/06 20060101AFI20170925BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20170925BHJP
   B01D 3/30 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C12P7/06
   C12M1/00 D
   B01D3/30 Z
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-45474(P2013-45474)
(22)【出願日】2013年3月7日
(65)【公開番号】特開2014-171417(P2014-171417A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 利晴
(72)【発明者】
【氏名】宮地 健
(72)【発明者】
【氏名】八田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】前川 和也
(72)【発明者】
【氏名】山村 忠史
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−182685(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/123223(WO,A1)
【文献】 特開2009−106258(JP,A)
【文献】 特開2010−065001(JP,A)
【文献】 特開平04−193304(JP,A)
【文献】 特表2008−500053(JP,A)
【文献】 特開昭61−274705(JP,A)
【文献】 特開2009−124973(JP,A)
【文献】 特開2001−152180(JP,A)
【文献】 特開平04−193303(JP,A)
【文献】 特開2002−345495(JP,A)
【文献】 Process Biochemistry,1996年,Vol.31, No.7,pp.651-658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00 − 41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールを含む発酵液からエタノールを回収するエタノール回収手段を少なくとも備えたバイオエタノールの回収システムにおいて、
前記エタノール回収手段の前段に、該発酵液から、エタノールより揮発性が高い臭気成分を除去する臭気成分除去手段を有し、更に、前記臭気成分除去手段の前段に、該発酵液から、臭気成分放出源を除去する臭気成分放出源除去手段を有し、
前記臭気成分放出源除去手段は、前記発酵液から前記臭気成分放出源を除去する固液分離手段であり、
前記臭気成分除去手段は、前記臭気成分放出源が除去された前記発酵液から前記臭気成分を除去する第1回転円錐カラムであり、
前記エタノール回収手段は、前記臭気成分放出源及び前記臭気成分が除去された前記発酵液から前記エタノールを回収する第2回転円錐カラムであることを特徴とするバイオエタノールの回収システム。
【請求項2】
前記エタノール回収手段により回収された前記エタノールから不純物を除去して精製するエタノール精製手段を更に備えることを特徴とする請求項記載のバイオエタノールの回収システム。
【請求項3】
前記エタノール精製手段として、膜分離手段を用いることを特徴とする請求項記載のバイオエタノールの回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオエタノールの回収方法及び回収システムに関し、より詳しくは、発酵液からエタノールを回収する際における臭気成分の同伴を防止できるバイオエタノールの回収方法及び回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの化石燃料に依存するエネルギー生産体系は、地球上での炭酸ガスをはじめとした温室効果ガスの増加をもたらし続けている。一方、我が国のみならず地球上には植物など未利用な生物系有機資源であるバイオマスが豊富に存在し、毎年蓄積され続けている。
【0003】
植物は炭酸ガスを吸収することから、バイオマスをエネルギー資源として活用することは、地球上で炭素循環のバランスがとれ、化石資源の使用量を削減できるために、その結果として温室効果ガスを削減可能となることから様々な開発が積極的に進められている。
【0004】
バイオマスから得られるエネルギー資源としては、メタンガス、水素ガス、エタノール、ブタノール等がある。これらの中で、常温・常圧下での酵母などの微生物による発酵反応により生産できるエタノール(バイオエタノール)(特許文献1)は、燃焼に伴う排出ガス中の有害物質の量がガソリンと比較して少ない等、石油代替液体燃料として特に重要視されている。
【0005】
しかしながら、発酵法で生産されるエタノールの濃度は、発酵液中に15質量%程度と希薄であることから、液体燃料として利用するためには、これを発酵液から回収する工程が不可欠となる。
【0006】
図5は、従来技術に係るバイオエタノール回収システムである。
【0007】
発酵槽201において生産されたエタノールを含む発酵液は、もろみ塔202に導入され、蒸留によって発酵液からエタノールが分離・回収される。
【0008】
203は、もろみ塔202の底液(非蒸留物)を導入して、これに含まれるエタノールを蒸留によって回収するエバポレーターであり、回収されたエタノールは、もろみ塔202からの蒸留エタノールに合流される。
【0009】
蒸留されたエタノールは、次いで精留塔204に導入され、更なる蒸留によってエタノールの濃縮が行われる。
【0010】
その後、濃縮されたエタノールは、更に、吸着式脱水塔205に導入され、ここで最終的な精製が行われた後、精製エタノール貯留槽206に貯留される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−011198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は、従来のような蒸留法に依存する回収プロセスでは、蒸留されるエタノールに、アルコール発酵菌や発酵原料などに由来する臭気成分が同伴してしまうことに着目した。精製後のエタノールが、液体燃料等としての仕様純度を満たしていても、このような臭気が存在すると、利用者に不安や不快感を与えることになる。
【0013】
そこで、本発明の課題は、発酵液からエタノールを回収する際における臭気成分の同伴を防止できるバイオエタノールの回収方法及び回収システムを提供することにある。
【0014】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0019】

エタノールを含む発酵液からエタノールを回収するエタノール回収手段を少なくとも備えたバイオエタノールの回収システムにおいて、
前記エタノール回収手段の前段に、該発酵液から、エタノールより揮発性が高い臭気成分を除去する臭気成分除去手段を有し、更に、前記臭気成分除去手段の前段に、該発酵液から、臭気成分放出源を除去する臭気成分放出源除去手段を有し、
前記臭気成分放出源除去手段は、前記発酵液から前記臭気成分放出源を除去する固液分離手段であり、
前記臭気成分除去手段は、前記臭気成分放出源が除去された前記発酵液から前記臭気成分を除去する第1回転円錐カラムであり、
前記エタノール回収手段は、前記臭気成分放出源及び前記臭気成分が除去された前記発酵液から前記エタノールを回収する第2回転円錐カラムであることを特徴とするバイオエタノールの回収システム。
【0024】

前記エタノール回収手段により回収された前記エタノールから不純物を除去して精製するエタノール精製手段を更に備えることを特徴とする前記記載のバイオエタノールの回収システム。
【0025】

前記エタノール精製手段として、膜分離手段を用いることを特徴とする前記記載のバイオエタノールの回収システム。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、発酵液からエタノールを回収する際における臭気成分の同伴を防止できるバイオエタノールの回収方法及び回収システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係るバイオエタノールの回収方法の一例を示す工程図
図2】本発明に係るバイオエタノールの回収システムの一例を示す説明図
図3】臭気成分分離手段である第1回転円錐カラムの構成例を示す概略断面側面図
図4】エタノール回収手段である第2回転円錐カラムの構成例を示す概略断面側面図
図5】従来技術に係るバイオエタノール回収システム
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、発酵液からエタノールを回収する際に、臭気成分が同伴されることを防止する。
【0029】
本発明により回収エタノールへの同伴が防止され得る臭気成分は、人間により臭いを感知され得る成分のうちエタノールを除いたものであり、例えば、酢酸エチル等のエステル類、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール等の多価アルコール類、穀物臭成分、酵母臭成分等を好ましく例示できる。
【0030】
本発明に用いられる発酵液は、後に詳述するが、発酵槽においてバイオマスをアルコール発酵菌により発酵して生成されたエタノール(バイオエタノール)を含む発酵液であることが好ましい。
【0031】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0032】
図1は、本発明に係るバイオエタノールの回収方法の一例を示す工程図である。
【0033】
図1において、Iは、発酵液から臭気成分放出源を除去する臭気成分放出源除去工程であり、IIは、発酵液から臭気成分を除去する臭気成分除去工程であり、IIIは、臭気成分放出源除去工程I及び臭気成分除去工程IIにより予め臭気成分放出源及び臭気成分が除去された発酵液からエタノールを回収するエタノール回収工程である。
【0034】
図1の例において、発酵液は、まず、臭気成分放出源除去工程Iに供され、ここで該発酵液中から臭気成分放出源が除去される。
【0035】
臭気成分放出源としては、臭気成分を放出し得る放出源であれば格別限定されず、例えば、穀物残渣や、酵母等の微生物などを好ましく例示できる。
【0036】
これら臭気成分放出源は、継続的に臭気成分を放出し得るため、より確実に本発明の効果を奏する観点で、図示したように、臭気成分除去工程IIの前に、臭気成分放出源除去工程Iを行うことが好ましい。つまり、これとは逆に、臭気成分除去工程IIを、臭気成分放出源除去工程Iより先に行う場合は、臭気成分除去工程IIで処理する間に、臭気成分放出源から新たな臭気成分が放出される可能性がある。そのため、臭気成分放出源除去工程Iで臭気成分放出源を除去しても、放出された上記臭気成分が、発酵液に新たな臭気成分として残留してしまう可能性があるため好ましくない。
【0037】
一方、図1(b)に示すように、一つの工程で、臭気成分及び臭気成分放出源を除去する(臭気成分及び臭気成分放出源除去工程V)ことも可能である。つまり、臭気成分の除去処理を行う間に、臭気成分放出源から放出される臭気成分が問題ない量であり、エタノール回収工程IIIに送られる発酵液中の臭気成分が除去できる場合、あるいは、臭気成分の除去と共に臭気成分放出源も除去できる場合は、図1(a)に示したように、臭気成分放出源除去工程I及び臭気成分除去工程IIを別工程として設けなくてもよい。
【0038】
本発明者の知見によれば、臭気成分放出源は、固体分として発酵液に含有されているため、臭気成分放出源除去工程Iにおける臭気成分除去手段として、固液分離手段を好ましく用いることができる。かかる固液分離手段の好ましい構成例については、後に詳述する。
【0039】
臭気成分放出源除去工程Iにおいては、発酵液から、臭気成分放出源と共に、エタノールの一部が除去されてしまう場合がある。そのため、臭気成分放出源と共に除去されたエタノールを分離・回収して、発酵液中に返送するエタノール返送工程(ここでは不図示)を備えることも好ましいことである。
【0040】
臭気成分放出源除去工程Iにより臭気成分が除去された発酵液は、次いで、臭気成分除去工程IIに供され、ここで該発酵液中から臭気成分が除去される。
【0041】
臭気成分除去工程IIにおける臭気成分除去手段は、臭気成分を除去し得るものであれば格別限定されないが、エタノールに対して臭気成分除去の選択性が高いものを用いることが好ましい。通常、臭気成分は、エタノールよりも揮発性が高いため、この性質を利用して、一段目に、発酵液中の臭気成分を主成分とする分画を比較的低温(つまりエタノールの揮発が抑制された温度)にて揮発除去し、二段目に、エタノールを高温下で揮発させて抽出する手段を特に好ましく用いることができる。具体的には、後述する2段の回転円錐カラム等を好ましく用いることができる。
【0042】
また、この2段の回転円錐カラムで、臭気成分放出源が2段目のカラムの、水など難揮発物質側の排出ラインに分離され、エタノール製品に悪影響なく分けられるときは、固液分離などの臭気成分放出源除去工程Iを省略できる。
【0043】
次いで、図1(a)の例及び図1(b)の例の場合とも、臭気成分放出源及び臭気成分が除去された発酵液は、エタノール回収工程IIIに供され、ここで、当該発酵液からエタノールが回収される。
【0044】
エタノール回収工程IIIにおけるエタノール回収手段としては、発酵液からエタノールを回収し得るものであれば格別限定されないが、本発明の効果をより顕著に奏する観点で、エタノールを揮発させて回収する手段、特に後述する回転円錐カラムを好ましく用いることができる。
【0045】
エタノールを揮発させて回収する手段、特に回転円錐カラムは、エタノールの回収効率に優れると同時に、エタノール以外の臭気成分を含む揮発成分の回収効率にも優れる。そのため、発酵液中に臭気成分が含まれていると、回収エタノール中に多量の臭気成分が同伴されてしまう短所があった。これに対して、本発明では、発酵液中の臭気成分、更には、臭気成分を継続的に生成し得る臭気成分放出源までもが予め除去されていることにより、エタノールを揮発させて回収する手段、特に回転円錐カラムを用いることで、回収エタノール中に臭気成分が同伴されることが防止された状態で、エタノールの回収効率に優れる長所を引き出す。
【0046】
また、回転円錐カラムは、生産されるエタノールの約半分のエネルギーを消費すると言われるほどのエネルギー多消費型のプロセスである従来の蒸留法と比較して、大幅に省エネルギーである。
【0047】
以上のようにして、エタノール回収工程IIIから、臭気成分の同伴が防止されたエタノールが回収される。
【0048】
本発明では、エタノール回収工程IIIで回収したエタノールを、更に、エタノール精製工程IVに供することが好ましい。
【0049】
エタノール精製工程IVにおけるエタノール精製手段としては、当該エタノールから不純物(ほぼ水である)を除去して精製(エタノール濃度上昇)し得るものであれば格別限定されないが、特に、膜分離手段を好ましく用いることができる。
【0050】
本発明者の知見によれば、発酵液に含まれ得る臭気成分の一部は、膜分離手段が備える分離膜に吸着し易い場合があり、これにより、分離膜の劣化を促進させる懸念があった。これに対して、本発明では、臭気成分が予め除去されていることにより、分離膜の材質選択の自由度を拡張でき、またその耐久性を向上できる。特に、エタノール回収工程IIでのエタノール回収手段として回転円錐カラムを用いた場合は、酢酸等の有機酸も効率的に除去されるため、有機酸による分離膜の劣化も防止できる。
【0051】
また、膜分離手段には、多大な熱エネルギーを要求する蒸留塔などと比較して省エネルギーを実現できる利点もある。かかる膜分離手段の好ましい構成例については、後に詳述する。
【0052】
次に、以上に説明した本発明に係るバイオエタノールの回収方法を実施するためのバイオエタノールの回収システムについて説明する。
【0053】
図2は、本発明に係るバイオエタノールの回収システムの一例を示す説明図である。
【0054】
図2において、1は、発酵槽であり、2は、固液分離手段(臭気成分放出源除去手段)であり、3は、エバポレーター(エタノール返送手段)であり、4は、第1回転円錐カラム(臭気成分分離手段)であり、5は、第2回転円錐カラム(エタノール回収手段)であり、6は、エタノール精製手段であり、7は、精製エタノール貯留槽である。
【0055】
発酵槽1は、導入された発酵原料をアルコール発酵菌により発酵してエタノール(バイオエタノール)を含む発酵液を生成する。
【0056】
発酵槽1に導入される発酵原料としては、格別限定されるものではないが、穀物などに由来するバイオマス等を好ましく例示できる。
【0057】
発酵槽1における発酵温度は、30℃〜45℃の範囲であることが好ましい。かかる発酵温度では、エタノールの生成が促進されると同時に、臭気成分乃至臭気成分放出源の発生量も多くなる。そのため、本発明の効果がより顕著に奏され易い。
【0058】
発酵槽1で生成された発酵液は、臭気成分放出源除去手段である固液分離手段2に導入される。
【0059】
図示の例において、固液分離手段2は、連続ストレーナー21、遠心分離機22、油層分離機23及び膜分離手段24により順次発酵液を固液分離するように構成されている。
【0060】
発酵液は、まず、連続ストレーナー21に導入され、ここで比較的大型の臭気成分放出源が固形分として除去される。
【0061】
連続ストレーナー21を経た発酵液は、次いで、遠心分離機22に導入される。
【0062】
遠心分離機22としては、格別限定されないが、連続式遠心分離機を用いることが好ましく、具体的には、竪型遠心分離機や横型遠心分離機(デカンター)を好ましく例示でき、特に臭気成分放出源である酵母等の微生物を高度に除去する観点から竪型遠心分離機が好適である。
【0063】
遠心分離機22において臭気成分放出源が除去された発酵液は、次いで、油層分離機23に導入される。ここでは、遠心分離でも取り除けない浮遊物(油分等)として存在する臭気成分放出源(あるいは臭気成分)を発酵液から除去する。
【0064】
油層分離機23を経た発酵液は、次いで、膜分離手段24に導入され、更なる臭気成分放出源(比較的小型)の除去が行われる。
【0065】
膜分離手段24が備える分離膜としては、格別限定されないが、精密ろ過膜(MF膜)や、NF膜、限外ろ過膜(UF膜)等を適宜選択して用いることができ、特にMF膜が好適である。
【0066】
連続ストレーナー21、遠心分離機22、油層分離機23及び膜分離手段24において除去された臭気成分放出源を含む固形分側の分画は、エタノール返送手段であるエバポレーター3に導入される。
【0067】
エバポレーター3は、かかる固形分側の分画からエタノールを蒸留により回収する。回収されたエタノールは、返送配管31により発酵液中に返送される。
【0068】
返送配管31による返送位置は、固液分離手段2の後段、且つ第1回転円錐カラム(臭気成分分離手段)4の前段であることが好ましい。一方、エバポレーター3における蒸留後の残渣は、例えば飼料乃至飼料用添加材等として好適に用いられる。
【0069】
固液分離手段2は、必ずしも、連続ストレーナー21、遠心分離機22、油層分離機23及び膜分離手段24により構成される必要はなく、これらの1又は複数を組み合わせて構成することもできる。また、連続ストレーナー21に代えて、沈殿槽などを用いることも好ましいことである。
【0070】
固液分離手段2により臭気成分放出源が除去された発酵液は、次いで、臭気成分分離手段である第1回転円錐カラム4に導入される。
【0071】
第1回転円錐カラム4は、導入された発酵液を、キャリアガスと向流気液接触させ、該キャリアガス中に臭気成分を揮発させて除去する。
【0072】
本発明において第1回転円錐カラム4として用いられる回転円錐カラムの構成例について、図3を参照して説明する。
【0073】
図3は、第1回転円錐カラム4の概略断面側面図である。
【0074】
41は回転円錐カラム装置であり、密封可能な塔型の本体101内にハウジング102が設けられている。
【0075】
ハウジング102は、上部に、発酵液を導入するための液体入口110aと、キャリアガスを排出するためのガス出口120bと、を有し、下部には、処理後の発酵液を排出する液体出口110bと、キャリアガスを導入するためのガス入口120aと、を有している。
【0076】
103は、ハウジング102内の上部側から下部側に架け渡された回転自在の中心軸であり、103aは、該中心軸103を回転させるためのモーターである。
【0077】
中心軸103には、該中心軸103の回転に伴って回転自在の第1反転円錐104が取り付けられている。
【0078】
第1反転円錐104は、上下反転させた円錐、つまり頂点を下に向けた円錐の底面ではない曲面部の板状の円錐面により構成されている。第1反転円錐104の回転軸は、中心軸103と同軸である。
【0079】
第1反転円錐104は、ハウジング102の内壁との間に液体の流通を可能とする間隙を残すように延長されている。
【0080】
また、各々の第1反転円錐104の下面には、該下面から延長された少なくとも1つのひれ104aが設けられていることが好ましい。
【0081】
中心軸103には、このような第1反転円錐104が、上下方向(中心軸103の軸方向)に所定のピッチで複数設けられている。
【0082】
105は、ハウジング102の内壁から第1反転円錐104の下側に隣接するように延長された第2反転円錐である。
【0083】
第2反転円錐105もまた、上下反転させた円錐、つまり頂点を下に向けた円錐の底面ではない曲面部の板状の円錐面により構成されている。第2反転円錐105は、ハウジング102側に固定され、上側に配置されている第1反転円錐104との間に液体の流通を可能とする間隙を保持して、該第1反転円錐104と略平行に配置されている。
【0084】
第2反転円錐105の頂点近傍は切欠されており、これにより、中心軸103との間に液体の流通を可能とする間隙を形成している。
【0085】
ハウジング102の内壁には、このような第2反転円錐105が、上下方向に、第1反転円錐104と同じ所定のピッチで複数設けられている。
【0086】
図示の例では、複数の第1反転円錐104と、複数の第2反転円錐105とが、上下方向に沿って、液体の流通を可能とする間隙を介して、1つずつ交互に配置されている。
【0087】
130は、ハウジング102内の温度を所定温度に保持するためのジャケット(温度調節手段)であり、該ジャケット130は、冷水又は温水の入口130aと出口130bを有している。
【0088】
使用時には、発酵液を、液体入口110aを通じて、本体101のハウジング102内の上部に供給すると共に、該発酵液からの臭気成分を回収するためのキャリアガスを、ガス入口120aを通じて、ハウジング102内の下部に供給する。
【0089】
供給された発酵液の少なくとも一部が、ハウジング102内に滞留している間に、中心軸103は、モーター103aの動力により回転させられる。
【0090】
ハウジング102内において、液体入口110aから液体出口110bへ向かう発酵液は、第1反転円錐104の中心軸103側の表面に流れ込むと、該第1反転円錐104の回転により外方(中心軸103と反対方向)に分散させられる。次いで、外方に分散された発酵液は、下側の第2反転円錐105の中心軸103と反対側の表面に流れ込み、該表面が有するテーパに沿って内方(中心軸103の方向)に流下させられる。
【0091】
流下された発酵液は、更に下側に設けられた第1反転円錐104の中心軸103側の表面に流れ込み、上記と同様の過程を繰り返しながら、ハウジング102内を下降し、下方の液体出口110bへ向かう。
【0092】
一方、ハウジング102内の下部に供給されたキャリアガスは、複数の第1反転円錐104及び第2反転円錐105の間を通過しながら、つまり、上述した発酵液の流れと同様の経路を逆行しながら、ハウジング102内を上昇し、上方のガス出口120bへ向かう。
【0093】
このような過程において、発酵液の流れは、逆方向に向かうキャリアガスの流れと向流接触させられ、発酵液中の臭気成分をガス中に抽出する。
【0094】
臭気成分が除去された発酵液と、発酵液からの臭気成分を含有させたキャリアガスは、それぞれ、液体出口110bと、ガス出口120bより回収される。
【0095】
臭気成分の除去をより高度に行う等の観点で、液体出口110bからの発酵液を、第1回転円錐カラム1に返送する返送機構を設け、繰り返し処理を行ってもよい。
【0096】
本発明において、第1回転円錐カラム4の運転条件は、ハウジング102内の温度が、20℃以上40℃未満の範囲であることが好ましく、また、圧力が、−90kPaG〜+10kPaGの範囲であることが好ましい。また、温度・圧力調節を格別行わず、ハウジング102内を、略常温(室温)・略常圧(大気圧)とすることも好ましいことである。
【0097】
ハウジング102内の温度の設定は、例えば、上述したジャケット(温度調節手段)130等により行うことができる。また、圧力の設定は、例えば、キャリアガスを流通させるための真空ポンプ43の動力等により調節できる。
【0098】
ガス出口120bからのキャリアガスは凝縮器42に導入され、これを冷却することで、液体状の臭気成分をトラップする。
【0099】
特に、図示したように、キャリアガスを循環して使用する場合は、ハウジング102内に返送されるキャリアガスを導入して、該ガス中に残留する臭気成分を除去するための臭気除去手段44を備えることも好ましいことである。臭気除去手段44としては、格別限定されないが、例えば、脱臭材カラム等を好ましく用いることができる。
【0100】
第1回転円錐カラム4により臭気成分が除去された発酵液は、液体出口110bから回収された後、エタノール回収手段である第2回転円錐カラム5に導入される。
【0101】
本発明において第2回転円錐カラム5として用いられる回転円錐カラムの構成例を図4に示す。
【0102】
図4は、第2回転円錐カラム5の概略断面側面図であり、図3と同符号は同一構成を指す。
【0103】
第2回転円錐カラム5は、基本的には、第1回転円錐カラム1と同様の構成を備えているが、第1回転円錐カラム1で回収対象とした臭気成分に代えて、ここではエタノールが回収対象となる。
【0104】
つまり、第2回転円錐カラム5は、導入された発酵液を、真空ポンプ53により導入されたキャリアガスと向流気液接触させ、該キャリアガス中にエタノールを揮発させることにより、エタノールを凝縮器52に分離・回収する。
【0105】
本発明において、第2回転円錐カラム5の運転条件は、ハウジング102内の温度が、40℃以上79℃以下の範囲であることが好ましく、また、圧力が、−90kPaG〜+10kPaGの範囲であることが好ましい。
【0106】
本発明においては、発酵液中の臭気成分放出源及び臭気成分が、固液分離手段2及び第1回転円錐カラム4により予め除去されているため、第2回転円錐カラム5において回収されるエタノールに、臭気成分が同伴することが高度に防止される。
【0107】
第2回転円錐カラム5において回収されたエタノールは、次いで、エタノール精製手段6に導入され、不純物(ほぼ水である)が除去される。
【0108】
図示の例において、エタノール精製手段6は、膜分離手段を備えており、具体的には、浸透気化脱有機膜装置61及び脱水膜装置63により順次エタノールを精製するように構成されている。
【0109】
浸透気化脱有機膜装置61は、エタノールを選択的に透過可能な脱エタノール膜を備えており、該脱エタノール膜の透過側の領域は、真空ポンプ65に接続され、減圧状態に維持されている。
【0110】
浸透気化脱有機膜装置61が備える脱エタノール膜としては、膜表面への水の接近を拒むと共に、エタノールの接近を許容することにより、エタノールを選択透過させる機能を発現し得る膜が用いられ、例えば、疎水性のゼオライト分離膜を好ましく用いることができる。
【0111】
疎水性のゼオライト分離膜としては、例えば、天然のゼオライトより、人工のシリカライトにより構成された膜が好ましく挙げられ、これらは必要があれば更に適宜表面を疎水化処理して用いられる。
【0112】
疎水化処理されたゼオライト分離膜としては、疎水性のゼオライト、例えばシリカライトの膜表面に脂肪族炭化水素等の高分子やチタン等を導入したものを好ましく用いることができ、中でもシリカライト膜組成のシリカの一部をチタンで置換してなるチタノシリケート膜を用いると、エタノールの分離効率に優れると共に、あらかじめ臭気成分が除去されたことによる耐久性向上効果を顕著に発揮することができる。
【0113】
脱エタノール膜の形態は、格別限定されず、例えば、中空糸膜状や平膜状のものを好ましく用いることができる。
【0114】
エタノールを浸透気化脱有機膜装置61に供することにより、脱エタノール膜を介した透過側に、エタノールが気化した状態で分離される。
【0115】
本発明において、浸透気化脱有機膜装置61は、脱エタノール膜の透過側に、エタノール濃度が好ましくは85質量%以上の範囲に精製された精製物を生成する。
【0116】
エタノールの分離を促進するために、透過側をキャリアガスで置換することも好ましいことである。
【0117】
62は、ベーパーコンプレッサーであり、浸透気化脱有機膜装置61の透過側に生成したエタノール蒸気を断熱圧縮することにより、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上まで加熱することで、後段の脱水膜装置63が備える脱水膜における脱水効率を向上する。ベーパーコンプレッサー62を用いれば、少ないエネルギー消費量で加熱を行うことができ、本発明において好ましいことである。
【0118】
ベーパーコンプレッサー62を経たエタノールは、不純物としての水を含んだ混合蒸気の状態で脱水膜装置63が備える脱水膜に供される。
【0119】
脱水膜装置63が備える脱水膜は、水を選択的に透過することで、該膜の透過側に水を脱水する。この透過側の領域は、真空ポンプ67に接続されることにより、減圧状態に保持されている。
【0120】
脱水膜としては、格別限定されず、例えば親水処理が施されたゼオライト膜等を好ましく用いることができる。
【0121】
脱水膜に供されるエタノールは、通常はエタノール濃度が十分に高いことが要求されるが、本発明においては、上述したように、浸透気化脱有機膜装置61からのエタノールは、エタノール濃度が好ましくは85質量%以上の範囲に精製されているため、脱水膜を好適に適用できる。
【0122】
脱水膜装置63を経た精製エタノールは、真空ポンプ65に吸引されることで冷却器64に導入され、凝縮された後、精製エタノール貯留槽7に貯留される。
【0123】
脱水膜装置63によって分離された水は、真空ポンプ67に吸引されることで冷却装置66に導入され、凝縮された後、必要に応じて分離水タンク(不図示)に貯留される。
【0124】
なお、上述した脱水膜装置63に代えて、脱水塔を用いることも好ましいことである。
【実施例】
【0125】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。
【0126】
(実施例1)
図2に示したバイオエタノール回収システムを用いて、発酵液からエタノールを回収し、更に精製を行った。
【0127】
下記A〜Hで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表1に示した。なお、下記A〜Hで示した箇所は、図2中に符号A〜Hで示した箇所に対応する。
【0128】
A:発酵槽1後の発酵液
B:臭気成分放出源除去手段2後の発酵液
C:エバポレーター3後の返送配管31における返送液
D:臭気成分除去手段4後の発酵液
E:エタノール回収手段5後の回収エタノール分画
F:浸透気化脱有機膜装置61後のエタノール分画
G:脱水膜装置63前のエタノール分画
H:脱水膜装置63後のエタノール分画(精製エタノール)
【0129】
(比較例1)
図5に示した従来技術に係るバイオエタノール回収システムを用いて、実施例1と同様の発酵液からエタノールを回収し、更に精製を行った。
【0130】
下記A’〜D’で示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表1に示した。なお、下記A’〜D’で示した箇所は、図5中に符号A’〜D’で示した箇所に対応する。
【0131】
A’:発酵槽201後の発酵液
B’:もろみ塔202後の蒸留エタノール分画
C’:精留塔204後の蒸留エタノール分画
D’:吸着式脱水塔205後のエタノール分画(精製エタノール)
【0132】
【表1】
【0133】
表1において、臭気成分は、酢酸エチル等のエステル類、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール等の多価アルコール類、穀物臭成分、酵母臭成分等の総量であり、有機酸は、酢酸等の有機酸の総量である。
【0134】
<評価>
表1より、実施例1では、エタノール回収手段5後の回収エタノール分画(上記箇所E)における臭気成分の同伴が高度に防止されることがわかる。
【0135】
実施例1と比較例1との対比より、本発明によれば、最終製品(精製エタノール)中に含まれる臭気成分の濃度を、大幅に減少できることがわかる。
【0136】
また、実施例1では、臭気成分除去手段4及びエタノール回収手段5として回転円錐カラムを用い、更に、エタノール精製手段として膜分離手段(精製浸透気化脱有機膜装置61及び脱水膜装置63)を用いることにより、比較例1に比べて熱エネルギーを大幅に削減でき、省エネルギー化を達成できることが確認された。
【符号の説明】
【0137】
1:発酵槽
2:固液分離手段(臭気成分放出源除去手段)
21:連続ストレーナー
22:遠心分離機
23:油層分離機
24:膜分離手段
3:エバポレーター(エタノール返送手段)
31:返送配管
4:第1回転円錐カラム(臭気成分除去手段)
5:第2回転円錐カラム(エタノール回収手段)
6:エタノール精製手段
61:浸透気化脱有機膜装置
62:ベーパーコンプレッサー
63:脱水膜装置
7:精製エタノール貯留槽
I:臭気成分放出源除去工程
II:臭気成分除去工程
III:エタノール回収工程
IV:エタノール精製工程
図1
図2
図3
図4
図5