(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
チャネル層に酸化物半導体を用いた半導体素子では、半導体素子の特性を改善するために、熱処理を用いることが多い。
特許文献1には、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの製造方法において、酸化物半導体層を形成した後に350℃以上1000℃以下の第1の加熱処理を行うこと、薄膜トランジスタを形成した後に150℃以上500℃以下の第2の加熱処理を行うことが記載されている。
特許文献2には、酸化物半導体層を形成した後に400℃以上750℃以下の第1の加熱処理を行うこと、酸化物半導体層に接する、酸素を含む絶縁層を形成した後に200℃以上450℃以下の第2の加熱処理を行うこと、さらに水素を含む絶縁層を形成した後に150℃以上450℃以下の第3の加熱処理を行うことが記載されている。
特許文献3には、酸化物半導体層を形成した後、熱処理を行うことで、酸化物半導体層に含まれる水又は水素を除去することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、酸化物半導体に対する熱処理の温度が高すぎると、酸化物半導体中の酸素の脱離が生じやすくなる。このような脱離が生じた場合、酸化物半導体のキャリアが増加し、抵抗が下がりすぎることによりoff時のリーク電流が増加するという問題が生じる。
また、酸化物半導体としてアモルファスIGZO等、Znを含む酸化物半導体に対して、高温で熱処理を行うと、Znの脱離が生じやすくなる。同様に、12族元素(Cd、Hg、Cn)を含む酸化物半導体を用いる場合でも、若干の温度の違いはあるものの、12族元素の脱離が生じやすくなる。このような脱離が生じた場合、酸化物半導体のキャリアが増加し、抵抗が下がりすぎることによりoff時のリーク電流が増加するという問題が生じる。
特に、アモルファスIGZOに対して高温で熱処理を行うと、IGZOが微結晶化し、表面が粗くなり、面内での特性のばらつきや、IGZO層を被覆する電極や保護絶縁層による被覆性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、酸化物半導体を用いた半導体素子のリーク電流を減らし、特性(スイッチング特性)を良好にすることができる半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、半導体素子の製造方法であって、基板上にゲート電極を形成し、前記ゲート電極上にゲート絶縁膜を形成し、前記ゲート絶縁膜上に酸化物半導体膜を形成し、前記基板から前記酸化物半導体膜までの積層体に対し、350℃以上400℃以下の温度で第1の加熱処理を行い、
前記第1の加熱処理の後、前記酸化物半導体膜をエッチングして酸化物半導体層を形成し、前記
エッチングの後、前記酸化物半導体
層上にソース電極及びドレイン電極を形成し、その後、前記基板から前記ソース電極及び前記ドレイン電極までの積層体に対し、第1の加熱処理よりも低温の温度で第2の加熱処理を行うことを特徴とする。
【0007】
前記第1の加熱処理の温度は、375℃以上400℃以下であることが好ましい。
【0008】
前記酸化物半導体層はIGZO(In−Ga−Zn−O)からなることが好ましい。
【0009】
前記IGZOの組成は、In−Ga
x−Zn
y−O
z(0.8≦x≦1.2、0.8≦y≦1.2、3.2≦z≦4.8)であることが好ましい。すなわち、Inを1としたとき、Gaが0.8以上1.2以下、Znが0.8以上1.2以下、Oが3.2以上4.8以下となる組成が好ましい。
【0010】
前記第1の加熱処理を、酸素濃度が10
vol%以上18
vol%以下の雰囲気において行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の半導体素子の製造方法によれば、リーク電流が少なく、良好な特性(スイッチング特性)を有する半導体素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(半導体素子の構成)
まず、
図1を参照して、本実施形態の半導体素子の構成を説明する。
図1は、本実施形態の半導体素子の一例を示す概略斜視図である。本実施形態の半導体素子10は、基板1の一方の面に形成されており、ゲート電極11Gと、ゲート絶縁膜12と、酸化物半導体膜14と、ソース電極15Sと、ドレイン電極15Dと、ゲート引出電極15Gと、等から概略構成される。なお、以下の説明では、基板1の半導体素子10が形成される面を上面とする。
【0014】
基板1には、導体ではない材料であれば任意の材料を用いることができる。例えば、ガラス基板等の誘電体基板、半導体基板等を用いることができる。特に、耐熱性の高い基板を用いることが好ましい。
また、基板1として、一方の面に絶縁層が形成された導体板を用いてもよい。この場合、基板1の絶縁層が形成された面上にゲート電極11Gを形成すればよい。
ゲート電極11Gは、基板1上に形成されている。ゲート電極11Gには、高融点(例えば2000℃以上)の導体材料を用いることができる。特に、高温強度に優れた金属、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、モリブデンタングステン(MoW)等を用いることが好ましい。
【0015】
ゲート絶縁膜12は、ゲート電極11Gを被覆するように基板1の全面に形成されている。ゲート絶縁膜12には、任意の絶縁体を用いることができ、例えば、Al
2O
3、HfO
2等の金属酸化物、金属窒化物、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。特に、耐熱性の高い絶縁材料を用いることが好ましい。
また、ゲート絶縁膜12には、ゲート電極11Gと重なる位置であって、酸化物半導体膜14、ソース電極15S、及びドレイン電極15Dから離間した位置に、コンタクトホール12Cが設けられている。コンタクトホール12C内及びコンタクトホール12Cの近傍のゲート絶縁膜12の上面には、ゲート引出電極15Gが設けられている。
【0016】
酸化物半導体膜14は、ゲート絶縁膜12の上面であって、ゲート電極11Gと重なる位置に形成される。酸化物半導体膜14には、例えばアモルファス酸化物半導体を用いることができる。例えば、アモルファスIGZO(In−Ga−Zn−O)等を用いることができる。アモルファスIGZOの組成は、In−Ga
x−Zn
y−O
z(0.8≦x≦1.2、0.8≦y≦1.2、3.2≦z≦4.8)であることが好ましい。すなわち、Inを1としたとき、Gaが0.8以上1.2以下、Znが0.8以上1.2以下、Oが3.2以上4.8以下となる組成が好ましい。この組成であると、酸化物半導体層のキャリア数が適切な範囲となり、良好な特性の半導体素子が得られる。
【0017】
ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、上面から見たときに、ゲート電極11を挟むように、酸化物半導体膜14の上面に離間して設けられている。
ゲート引出電極15G、ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、導体であれば任意の材料(例えば金属等)を用いることができる。ゲート引出電極15G、ソース電極15S及びドレイン電極15Dに用いる導体は、ゲート電極11Gに用いる導体よりも融点が低くてもよい。例えば、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、金(Au)、白金(Pt)、スズドープ酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)等を用いることができる。
【0018】
(半導体素子の製造方法)
次に、
図2〜
図7を参照して、本実施形態の半導体素子10の形成方法について説明する。
【0019】
1.ゲート電極の形成
まず、
図2に示すように、基板1の上面全体にゲート層11を形成する。ゲート層11は、例えばEB(Electron Beam)蒸着、スパッタ等の任意の気相堆積法により形成することができる。
次に、ゲート層11をパターニングすることにより、
図3に示すようにゲート電極11Gを形成する。ゲート電極11Gのパターニングは、ドライエッチング、ウェットエッチング等により行うことができる。
なお、基板1の上面全体にゲート層11を形成する代わりに、マスク蒸着により直接、ゲート電極11Gのパターンを基板1の上面に形成してもよいし、リフトオフによりゲート電極11G以外の部分のゲート層11を剥離してもよい。
【0020】
2.ゲート絶縁膜の形成
次に、
図4に示すように、基板1の上面及びゲート電極11Gを覆うゲート絶縁膜12を形成する。ゲート絶縁膜12は、例えばスパッタリング等の物理蒸着法(PVD:Physical Vapor Deposition)、化学気相蒸着法(CVD:Chemical Vapor Deposition)、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)等の任意の気相堆積法により形成することができる。
【0021】
3.酸化物半導体層の形成
次に、
図5に示すように、ゲート絶縁膜12上に酸化物半導体層13を形成する。酸化物半導体層13は、例えばCVD、蒸着等の任意の気相堆積法により形成することができる。
【0022】
4.第1アニーリング(第1の加熱処理)
次に、基板1から酸化物半導体層13までの積層体に対して第1アニーリングを行う。第1アニーリングは、例えば、酸素濃度が10〜18%以上の雰囲気、好ましくは酸素濃度が10〜15%、大気圧以上の圧力(大気圧は1013.25hPa)において、350℃〜400℃、好ましくは375℃〜400℃に加熱し、所定の期間、例えば5分〜120分、好ましくは30分〜80分、特に好ましくは60分、維持する。これにより、酸化物半導体層13の緻密性が高まり、キャリアの移動度が高まるとともに、キャリア密度を適切にすることができる。
【0023】
なお、酸素濃度が10%よりも低くなると、酸化物半導体中の酸素の脱離が生じやすくなる。このような脱離が生じた場合、酸化物半導体のキャリアが増加しすぎ、キャリアの移動度は増加するものの、抵抗が下がりすぎ、off時のリーク電流が増加するという問題が生じる。
一方、酸素濃度が18%よりも高くなると、酸化物半導体中の酸素が多くなりすぎ、酸化物半導体層のキャリア数が減少し、抵抗が上がりすぎるおそれがある。また、18%よりも高い酸素濃度において第1アニーリングを行った酸化物半導体は酸素リッチであるため、酸素の脱離が生じやすい。このため、後述する第2アニーリングにおいて酸素が脱離することで電気特性が大きく変化したり、製造された半導体素子を組み込んだデバイスの動作時の信頼性が低下したりするおそれがある。
【0024】
アニーリングによって半導体素子の特性を良好にするために、アニーリング温度を350℃以上とすることが好ましい。アニーリング温度が350℃未満であると、キャリアの移動度が小さく、抵抗が大きくなりすぎるという問題がある。
なお、アニーリング温度が400℃を超えると、酸化物半導体中の酸素の脱離が生じやすくなる。このような脱離が生じた場合、酸化物半導体のキャリアが増加しすぎ、キャリアの移動度は増加するものの、抵抗が下がりすぎ、off時のリーク電流が増加するという問題が生じる。このため、アニーリング温度は400℃以下であることが好ましい。
また、酸化物半導体としてアモルファスIGZO等、Znを含む酸化物半導体では、450℃以上ではZnの脱離が生じやすくなる。同様に、12族元素(Cd、Hg、Cn)を含む酸化物半導体を用いる場合でも、若干の温度の違いはあるものの、12族元素の脱離が生じやすくなる。このような脱離が生じた場合、酸化物半導体のキャリアが増加しすぎ、キャリアの移動度は増加するものの、抵抗が下がりすぎ、off時のリーク電流が増加するという問題が生じる。
特に、酸化物半導体としてアモルファスIGZOを用いる場合、アニーリング温度が500℃以上で行うと、IGZOが微結晶化し、表面が粗くなる。それに伴い、面内での特性がばらつくおそれがある。また、後述する電極層15や保護絶縁層による被覆性が低下するおそれがある。
【0025】
5.酸化物半導体層のパターニング
次に、
図6に示すように、酸化物半導体層13をパターニングし、酸化物半導体膜14を形成する。酸化物半導体層13は、ウェットエッチング、ドライエッチング等によりパターニングすることができる。なお、第1アニーリングの後に酸化物半導体層13をパターニングする場合、酸化物半導体13が第1アニーリングにより安定化しており、ウェットエッチングを行う際に水分による特性の変化が生じにくい。また、ドライエッチングを行う際にも、プラズマによるダメージを受けにくく、特性の変化が生じにくい。このため、酸化物半導体層13のエッチングを行ってから第1アニーリングを行う場合と比較して、酸化物半導体層13のエッチングを行う前に第1アニーリングを行う場合、エッチングによる特性の変化を低減することができるという利点がある。
次に、
図7に示すように、ゲート絶縁膜12に、ゲート電極11Gを露出させるコンタクトホール12Cを形成する。コンタクトホール12Cは、ウェットエッチング、ドライエッチング等により形成することができる。
【0026】
6.電極の形成
次に、
図8に示すように、コンタクトホール12Cから露出するゲート電極11G、ゲート絶縁膜12、及び酸化物半導体膜14を覆うように、全面に電極層15を形成する。次に、電極層15をパターニングすることにより、
図1に示すように、ソース電極15S、ドレイン電極15D、及び、ゲート引出電極15Gを形成する。電極層15のパターニングは、ドライエッチング、ウェットエッチング等により行うことができる。
なお、電極層15をパターニングしてソース電極15S、ドレイン電極15D、及び、ゲート引出電極15Gを形成する代わりに、マスク蒸着により直接、ソース電極15S、ドレイン電極15D、及び、ゲート引出電極15Gを形成してもよい。また、リフトオフにより、ソース電極15S、ドレイン電極15D、及び、ゲート引出電極15G以外の部分の電極層15を剥離してもよい。
【0027】
7.第2アニーリング(第2の加熱処理)
次に、基板1からソース電極15S、ドレイン電極15D、及び、ゲート引出電極15Gまでの積層体に対して第2アニーリングを行う。第2アニーリングは、例えば、酸素濃度が10%未満の不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気)、大気圧において、第1アニーリングよりも低温(例えば、200℃〜300℃)に加熱し、所定の期間、例えば5分〜2時間、好ましくは1時間、維持する。これにより、酸化物半導体膜14とソース電極15S、ドレイン電極15Dとの間のショットキー接合がオーミック接合となるが形成される。なお、200℃よりも低い温度では、ショットキー障壁が消失せず、オーミック接合が充分に形成されない。一方、300℃よりも高温では、ソース電極15S、ドレイン電極15Dの材料と酸化物半導体膜14との拡散が生じ、酸化物半導体膜14中の酸素によりソース電極15S、ドレイン電極15Dの材料が酸化されて抵抗が増大するおそれがある。
なお、以上の工程は、同一の成膜装置内において連続的に行うことができる。
【0028】
その後、必要に応じて配線や保護絶縁層(パッシベーション層)の形成、ダイシング、パッケージングが行われる。以上により半導体素子が形成される。
【0029】
本発明によれば、酸化物半導体膜を形成した後、350℃以上400℃以下の温度で第1アニーリングを行うことで、酸化物半導体膜の特性を改善し、リーク電流が少なく、スイッチング特性が良好な半導体素子を得ることができる。また、第1アニーリングの後、電極を形成してから第1アニーリングよりも低温の温度で第2アニーリングを行うことで、酸化物半導体膜と電極とのオーミック接合が形成され、さらに電流−電圧特性を良好にすることができる。
【0030】
〔実施例1〕
以下、本発明の実施例についてさらに詳細に説明する。
ガラス基板上にMoからなるゲート電極、SiO
2からなるゲート絶縁膜を形成した。
次に、スパッタリングにより、IGZOからなる酸化物半導体層を形成した。ターゲットとして、In:Ga:Zn:O=1:1:1:4の組成比を有する酸化物半導体用ターゲットを用い、5%酸素と95%希ガスの混合雰囲気、0.4Paの圧力においてターゲットに13.56MHzの高周波(RF:Radio Frequency)200Wを印加してスパッタリングを行い、膜厚60nmのアモルファスIGZO層を形成した。
次に、酸素濃度10%の雰囲気、大気圧において、1時間の第1アニーリングを行った。温度は350℃、375℃、400℃、425℃、又は450℃に加熱した。
次に、酸化物半導体層をエッチングによりパターニングし、Tiからなるソース電極、ドレイン電極、及びゲート引出電極を形成した。
次に、窒素雰囲気、大気圧において、300℃、1時間の第2アニーリングを行った。
その後、配線及び保護絶縁層(パッシベーション層)の形成、ダイシング、パッケージングを行い、半導体素子を形成した。
【0031】
〔Id−Vg特性の評価〕
製造した半導体素子のソース−ドレイン間に5Vの電圧(Vds)を印加し、ゲート電圧(Vg)とソース−ドレイン間電流(Id)を計測した。結果を
図9に示す。
【0032】
図9に示すように、第1アニーリングの温度が450℃であった半導体素子では、しきい値電圧が−20Vであり、Id−Vg特性が良好ではなかった。
第1アニーリングの温度が350℃〜425℃であった半導体素子では、しきい値電圧が0V以上であり、Id−Vg特性が良好であった。さらに、第1アニーリングの温度が350℃〜375℃であった半導体素子では、しきい値電圧が0V〜2Vであり、さらにId−Vg特性が良好であった。
なお、475℃以上で第1アニーリングを行った半導体素子についても、Id−Vg特性の評価を行ったが、良好な結果は得られなかった。
【0033】
〔実施例2〕
第1アニーリングの条件以外は実施例1と同様にして、半導体素子を製造した。
第1アニーリングにおいて、酸素濃度が0%、10%、20%、50%、又は100%の雰囲気において、1時間の第1アニーリングを行った。温度は375℃に加熱した。
【0034】
〔Id−Vg特性の評価〕
実施例1と同様に、製造した半導体素子のソース−ドレイン間に5Vの電圧(Vds)を印加し、ゲート電圧(Vg)とソース−ドレイン間電流(Id)を計測した。結果を
図10に示す。
【0035】
図10に示すように、酸素濃度が0%の雰囲気で第1アニーリングを行った半導体素子では、しきい値電圧が約+8Vであり、Id−Vg特性が良好ではなかった。酸素濃度が10%の雰囲気で第1アニーリングを行った半導体素子では、しきい値電圧が0Vであり、Id−Vg特性が良好であった。
酸素濃度が20%、50%、100%の雰囲気で第1アニーリングを行った半導体素子では、いずれもしきい値電圧が−3Vであり、Id−Vg特性が良好ではなかった。
【0036】
以上、本発明の半導体素子の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。