特許第6207995号(P6207995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ADEKAの特許一覧

特許6207995ポリシラザンの処理用溶剤およびこれを用いたポリシラザンの処理方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207995
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ポリシラザンの処理用溶剤およびこれを用いたポリシラザンの処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   H01L21/316 G
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-258570(P2013-258570)
(22)【出願日】2013年12月13日
(65)【公開番号】特開2015-115550(P2015-115550A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】森田 博
(72)【発明者】
【氏名】降幡 泰久
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−100865(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0062599(US,A1)
【文献】 特開2006−216704(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0102211(US,A1)
【文献】 特表2003−535483(JP,A)
【文献】 米国特許第06565920(US,B1)
【文献】 特開2001−055600(JP,A)
【文献】 特開2013−238837(JP,A)
【文献】 特開2013−122034(JP,A)
【文献】 特開2010−225663(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0021127(US,A1)
【文献】 特開2013−015729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジイソブチルケトンと、(B)炭素原子数5〜50の炭化水素化合物と、を含むポリシラザンの処理用溶剤であって、前記処理が、エッジビードリムーブ処理、洗浄および除去のいずれかであることを特徴とするポリシラザンの処理用溶剤。
【請求項2】
前記(B)炭素原子数5〜50の炭化水素化合物が、炭素原子数12〜20の炭化水素化合物成分である請求項1に記載のポリシラザンの処理用溶剤。
【請求項3】
(C)フェノール系酸化防止剤成分を含有する請求項1または2記載のポリシラザンの処理用溶剤。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1項記載のポリシラザンの処理用溶剤をポリシラザンと接触させることを特徴とするポリシラザンの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラザンの処理用溶剤およびこれを用いたポリシラザンの処理方法(以下、それぞれ単に「処理用溶剤」および「処理方法」とも称する)に関し、詳しくは、廃液のゲル化が発生せず、かつ、エッジビードリムーブ処理に好適に用いることができるポリシラザンの処理用溶剤、およびこれを用いたポリシラザンの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリカ質の膜は絶縁膜、誘電体膜、保護膜または親水化膜等として利用することが広く知られている。このようなシリカ質の膜は、例えばLSI(Large Scale Integration)、TFT(Thin Film Transistor)液晶表示装置等の半導体素子の層間絶縁膜、平坦化膜、パッシベーション膜、素子間分離絶縁体等として広く利用されている。
【0003】
このようなシリカ質膜の製造方法としては、PVD法(Physical Vapor Deposition)、CVD法(Chemical Vapor Deposition)、塗布法が知られている。これらの製造方法の中でも、低温焼成によりシリカ質膜を形成する方法として、ポリシラザン溶液を基材上に塗布し、その塗膜を焼成等の方法によりシリカ質の膜に転化する方法が知られている。ポリシラザンを用いた塗布法によって形成されたシリカ質被膜は、膜質が優れていることから、近年特に注目を集めている。
【0004】
ポリシラザンを用いた塗布方法において、ポリシラザン溶液を基板上にスピンコートした際に、基板の周縁にビードが形成されるとともに、基板裏面に溶液が周り込むという問題が発生することが知られている。このビードによる基板周縁部での塗膜の膜厚の不均一化を防ぐため、通常、ポリシラザン溶液を塗布した後、基板表側に形成されたポリシラザン塗膜周縁部に処理用溶剤を塗布または噴射して、周縁部のポリシラザン塗膜を除去するエッジビードリムーブ処理(以下、EBR処理とも称する)が行われ、これとともに基板裏面に周り込んで付着したポリシラザンを除去し、裏面を清浄にするため、バックリンスが行われる。また、ポリシラザン被膜を基板から剥離することが必要とされる場合や、またスピンコーター等の塗布装置に付着したポリシラザンを洗浄、除去することも必要とされる場合もある。
【0005】
このようなポリシラザンの処理用溶剤としては、従来、様々なものが知られている。例えば、特許文献1では、キシレン、アニソール、デカリン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、リモネン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、C8−C11アルカン混合物、C8−C11芳香族炭化水素混合物、C8以上の芳香族炭化水素を5質量%以上、25質量%以下含有する脂肪族/脂環式炭化水素混合物、およびジブチルエーテルからなる群から選ばれる一種または二種以上からなる単一または混合溶剤が提案されている。また、特許文献2では、テトラリン、p−メンタン、p−シメン、α−ピネン、1,8−シネオール、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる溶剤からなる処理用溶剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−197611号公報
【特許文献2】特開2006−216704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリシラザンの処理用溶剤に求められる性質としては、ポリシラザンの溶解、リンスまたは剥離が十分に行えること、ポリシラザン廃液(以下、廃液とも称する)のゲル化が発生しないこと、およびEBR処理後のポリシラザン塗膜周縁部の高さ(以下、「Hump高さ」とも称す)が高くならないこと、が挙げられる。特に、廃液のゲル化が早期に起こるような場合には、塗布装置および廃液ラインの清浄作業を頻繁に行う必要があることから、生産性が著しく低下してしまうという問題が発生する。また、EBR処理によって、EBR処理後のHump高さが高くなってしまうと、膜厚が不均一なシリカ質被膜が形成されてしまうという問題が発生する。今日、これらの点で充分に満足し得るポリシラザン処理用溶剤は知られていないのが現状である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、廃液のゲル化が発生せず、かつ、エッジビードリムーブ処理に好適に用いることができるポリシラザンの処理用溶剤、およびこれを用いたポリシラザンの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、所定の溶媒を混合することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のポリシラザンの処理用溶剤は、ジイソブチルケトンと、(B)炭素原子数5〜50の炭化水素化合物と、を含むポリシラザンの処理用溶剤であって、前記処理が、エッジビードリムーブ処理、洗浄および除去のいずれかであることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のポリシラザンの処理用溶剤においては、前記(B)炭素原子数5〜50の炭化水素化合物は、炭素原子数12〜20の炭化水素化合物成分であることが好ましい。また、本発明のポリシラザンの処理用溶剤においては、(C)フェノール系酸化防止剤成分を含有することが好ましい。
【0012】
本発明のポリシラザンの処理方法は、上記本発明のポリシラザンの処理用溶剤をポリシラザンと接触させることを特徴とするものである。
【0013】
ここで、ポリシラザンの処理とは、基材上に形成されたポリシラザン塗膜または被膜を、リンス、溶解あるいは剥離することを意味し、ポリシラザンの処理用溶剤とは、基材上に形成されたポリシラザン塗膜または被膜を、リンス、溶解および剥離するために用いられる溶剤を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃液のゲル化が発生せず、かつ、エッジビードリムーブ処理に好適に用いることができるポリシラザンの処理用溶剤、およびこれを用いたポリシラザンの処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明のポリシラザンの処理用溶剤は、(A)ジイソブチルケトン(以下、「(A)成分」とも称す)と、(B)炭素原子数5〜50の炭化水素化合物(以下、「(B)成分」とも称す)と、を含むものである。(A)成分と(B)成分とを組み合わせて用いることにより、EBR処理の処理用溶剤として優れるとともに、廃液がゲル化することを防ぐことができるという特異的に優れた効果を発現する。以下、(A)成分、および(B)成分について、詳細に説明する。
【0016】
本発明のポリシラザンの処理用溶剤における好ましい(A)成分の濃度は、所望とする被処理材であるポリシラザンの種類や厚みによって適宜調節すればよいが、1〜55質量%、好ましくは10〜50質量%である。1質量%よりも少ない場合は配合効果が十分に見られない場合があるので好ましくない。一方、50質量%よりも多い場合は、廃液のゲル化が発生する場合があるので好ましくない。
【0017】
本発明のポリシラザンの処理用溶剤における(B)成分は、炭素原子数が5〜50であれば、特に限定されるものではなく、直鎖状でも環状でもよく、さらに構造中に分岐を有してもよい。炭素原子数5〜50の炭化水素化合物としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、ヘンイコサン、ドコサン、トリコサン、テトラコサン、ペンタコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、トリアコンタン、ペンタコンタン等に代表される鎖状脂肪族炭化水素や、シクロヘキサン、シクロペンタン等に代表される環状脂肪族炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン等に代表される芳香族炭化水素やパラフィン系液体が挙げられる。
【0018】
また、(B)成分として、周知一般の有機溶剤として販売されている商品を用いることもできる。例えば、EM3000(ジャパンエナジー社製:芳香族炭化水素混合物)、ソルベッソ100、ソルベッソ150(エクソン化学社製:C8−C11芳香族炭化水素混合物)、ペガソールAN45(エクソンモービル社製:あるいはC8以上の芳香族炭化水素を5質量%以上、25質量%以下含有する脂肪族/脂環式炭化水素混合物)等が挙げられる。
【0019】
なかでも(B)成分が炭素原子数12〜50である場合はHump高さを低くする効果が高いことから好ましく、なかでも炭素原子数12〜50の鎖状脂肪族炭化水素である場合は効果が高いことから特に好ましい。炭素原子数12〜20の鎖状脂肪族炭化水素である場合は精製が容易であることから生産性が高く特に好ましく、炭素原子数12〜16の鎖状脂肪族炭化水素である場合は20℃で安定して液体状態を保つことができることから扱いやすく、さらに廃液のゲル化を抑制する効果が高いことから特に好ましい。(B)成分は1種類の炭化水素化合物のみを用いてもよいし、複数の炭化水素化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明のポリシラザンの処理用溶剤における好ましい(B)成分の濃度は、所望とする被処理材であるポリシラザンの種類や厚みによって適宜調節すればよいが、45〜99質量%、好ましくは50〜95質量%である。45質量%よりも少ない場合は廃液のゲル化が発生する場合があるので好ましくない。99質量%よりも多い場合は、Hump高さを低減させる効果を奏さない場合があるので好ましくない。
【0021】
本発明のポリシラザンの処理用溶剤においては、(C)フェノール系酸化防止剤(以下、(C)成分とも称す)を含有させることができる。(C)成分を(A)成分および(B)成分と組み合わせることによりHump高さをさらに低減させることができる。(C)成分の濃度は、所望とする被処理材であるポリシラザンの種類や厚みによって適宜調節すればよいが、(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して、1〜70質量部、好ましくは1〜50質量部である。1質量部よりも少ない場合は配合効果が十分に見られない場合があるので好ましくない。一方、70質量部よりも多い場合は、ポリシラザン塗膜を除去できない場合があるので好ましくない。
【0022】
本発明のポリシラザンの処理用溶剤に用いられる(C)成分は特に限定されるものではなく、例えば、2,6−ジ−第三ブチル−4−エチルフェノール、2−第三ブチル−4,6−ジメチルフェノール、スチレン化フェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−第三ブチルフェノール)、2,2’−チオビス−(6−第三ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−メチル−4,6−ビス(オクチルスルファニルメチル)フェノール、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド、2,2’−オキサミド−ビス[エチル−3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−エチルヘキシル−3−(3’,5’−ジ−第三ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−エチレンビス(4,6−ジ−第三ブチルフェノール)、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパン酸およびC13−15アルキルのエステル、2,5−ジ−第三アミルヒドロキノン、ヒンダードフェノールの重合物(アデカパルマロール社製商品名AO.OH998)、2,2’−メチレンビス[6−(1−メチルシクロヘキシル)−p−クレゾール]、2−第三ブチル−6−(3−第三ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−第三ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−第三ペンチルフェニルアクリレート、6−[3−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−第三ブチルベンズ[d,f][1,3,2]−ジオキホスフォビン、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス[モノエチル(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネートカルシウム塩、5,7−ビス(1,1−ジメチルエチル)−3−ヒドロキシ−2(3H)−ベンゾフラノン、とo−キシレンとの反応生成物、2,6−ジ−第三ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、DL−a−トコフェノール(ビタミンE)、2,6−ビス(α−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、ビス[3,3−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−フェニル)ブタン酸]グリコールエステル、2,6−ジ−第三ブチル−p−クレゾール、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、ステアリル(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジステアリル(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、トリデシル−3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシベンジルチオアセテート、チオジエチレンビス[(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、4,4’−チオビス(6−第三ブチル−m−クレゾール)、2−オクチルチオ−4,6−ジ(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)−s−トリアジン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)、ビス[3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、4,4’−ブチリデンビス(2,6−ジ−第三ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−第三ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−第三ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン、ビス[2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェニル]テレフタレート、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−第三ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリス[(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−アクロイルオキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェノール、3,9−ビス[2−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルヒドロシンナモイルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリエチレングリコールビス[β−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]等を挙げることができる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。ポリシラザンを硬化させるために用いられる工程は150〜200℃で行われることが多いことから、(C)成分の沸点が150℃未満である場合は硬化後のポリシラザン中に残留する炭化水素等の残渣を少なくすることができることから好ましい。なかでも2,6−ジ−第三ブチル−4−エチルフェノールである場合は、Hump高さを低減させる効果が十分に高く、経済的であることから特に好ましい。
【0023】
本発明のポリシラザンの処理用溶剤は、その他の溶剤を本発明の効果を損なわない範囲で周知一般の有機溶剤と混合することもできる。例えば、酢酸エステル類、エーテル類はポリシラザンの溶解性を高める効果を有することが知られている。酢酸エステル類の有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等が挙げられ、エーテル類の有機溶剤としては、ジ−n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これら有機溶剤の添加量は、本発明の処理用溶剤の1〜75質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0024】
本発明のポリシラザンの処理用溶剤は、一般に任意のポリシラザンに適用することができるが、ポリシラザンの種類に応じて、すなわち、処理対象となるポリシラザンがどのような構造、または組成のものであるかによって、最適な処理用溶剤は変化する。これは、ポリシラザンの溶解性は、処理用溶剤として同じものが用いられたとしても、ポリシラザンが無機のポリシラザンであるか、有機のポリシラザンであるか、単一重合体か共重合体か、共重合体であれば共重合されたものがなにか、重合体中に環状構造を有するか有しないか、ポリシラザンがさらに化学的に変性されているかどうか、添加剤として何が別途加えられているかどうか等種々の条件により異なるし、また、同じポリシラザンに対する溶解性も溶剤により異なるからである。したがって、処理されるポリシラザンの構造、または組成に応じ、上記溶剤から適宜最適のものを選択するようにすればよい。
【0025】
本発明のポリシラザンの処理用溶剤が適用されるポリシラザンは、無機ポリシラザンまたは有機ポリシラザンのいずれであってもよい。これらポリシラザンのうち、無機ポリシラザンとしては、例えば、下記一般式(1)で示される構造単位を有する直鎖状構造を包含し、690〜2,000の分子量を有し、一分子中に3〜10個のSiH基を有し、化学分析による元素比率がSi:59〜61、N:31〜34およびH:6.5〜7.5の各質量%であるペルヒドロポリシラザン、およびポリスチレン換算平均分子量が1,000〜20,000の範囲にあるペルヒドロポリシラザンを挙げることができる。
【0026】
【0027】
これらペルヒドロポリシラザンは、任意の方法により製造することができ、基本的には分子内に鎖状部分と環状部分を含むもので、下記一般式(2)で表すことができるものである。なお、下記一般式(2)中のa、b、cは、a+b+c=1の関係を満足する。
【0028】
【0029】
また、本発明のポリシラザンの処理用溶剤が適用されるペルヒドロポリシラザン構造としては、例えば、下記一般式(3)で表すユニットを有する構造を挙げることができる。
【0030】
【0031】
さらに、本発明のポリシラザンの処理用溶剤が適用される有機ポリシラザンの例として、例えば、主として下記一般式(4)で表される構造単位からなる骨格を有する数平均分子量が約100〜50,000のポリシラザンまたはその変性物を挙げることができる。ここで、下記一般式(4)中の、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、もしくはこれらの基以外でフルオロアルキル基等のケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。ただし、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。
【0032】
【0033】
本発明によるポリシラザン処理用溶剤を適用できるポリシラザンの例としては、上記一般式(4)でRおよびRに水素原子、Rに有機基を有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザン、−(RSiHNH)−を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するもの、(RSiHNH)〔(RSiH)1.5N〕1−X(0.4<X<1)の化学式で示される分子内に鎖状構造と環状構造を同時に有するもの、上記一般式(4)でRに水素原子、R、Rに有機基を有するポリシラザン、またRおよびRに有機基、Rに水素原子を有し−(RSiNR)−を繰り返し単位として、主に重合度が3〜5の環状構造を有しているものもある。
【0034】
また、上記一般式(4)以外の有機ポリシラザンとしては、例えば、下記一般式(5)で表わされる架橋構造を分子内に有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザン(式中のRはメチル基を示す)、RSiX(X:ハロゲン)のアンモニア分解によって得られる架橋構造を有するポリシラザンRSi(NH)、あるいはRSiXおよびRSiXの共アンモニア分解によって得られる、下記一般式(6)の構造を有するポリシラザンを挙げることができる。
【0035】
【0036】
【0037】
その他、繰り返し単位が〔(SiH(NH)〕および〔(SiHO〕(これら式中、n、m、rはそれぞれ1、2または3である)で表されるポリシロキサザン、ペルヒドロポリシラザンにメタノールのようなアルコール、またはヘキサメチルジシラザンを末端N原子に付加して得られた変性ポリシラザン、金属、例えばアルミニウム、を含有する金属含有ポリシラザン等を挙げることができる。
【0038】
なお、上記一般式(6)中の、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、もしくはこれらの基以外でフルオロアルキル基等のケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。
【0039】
その他にも、ポリボロシラザン、無機シラザン高重合体や改質ポリシラザン、共重合シラザン、ポリシラザンにセラミックス化を促進するための触媒的化合物を付加または添加した低温セラミックス化ポリシラザン、ケイ素アルコキシド付加ポリシラザン、グリシドール付加ポリシラザン、アセチルアセトナト錯体付加ポリシラザン、金属カルボン酸塩付加ポリシラザンのようなポリシラザン、ならびに上記のごとき種々のポリシラザンまたは変性物に、アミン類または/および酸類を添加してなるポリシラザン組成物を挙げることができる。
【0040】
本発明の処理用溶剤が適用されるポリシラザンの形態は、被膜状のものであることが通常であるが、被膜状のものに限られるものではない。また、ポリシラザンを基材上に被覆する方法としては、例えば、スピンコート、スプレーコート、フローコート、ローラーコート、ディップコート、布拭き法、スポンジ拭き法等従来知られた方法のうち何れの方法であってもよく、何ら限定されるものではない。また基材の形状も板状、フィルム状等いずれの形状でもよく、表面状態も平坦でも凹凸状であっても、曲面であってもよい。基材の材質も半導体、ガラス、金属、金属酸化物、プラスチック等いずれのものでもよい。
【0041】
また、本発明の処理用溶剤をポリシラザンと接触させる方法も何等限定されるものではなく、基材上のポリシラザンへのノズルからの処理用溶剤の噴射あるいは噴霧、ポリシラザンが被覆された基材の処理用溶剤中への浸漬、溶剤によるポリシラザンの洗い流し等任意の方法であってよい。
【0042】
例えば、半導体基板(シリコンウエハ)にポリシラザン溶液を被覆し、半導体基板上に層間絶縁膜、平坦化膜、パシベーション膜あるいは素子間分離膜等を形成する場合を例として、本発明の溶剤を用いてEBR処理を行う方法を説明すると、スピンコーターに、必要に応じ半導体、配線等が形成された8インチシリコンウエハを取り付け、例えば500〜4,000rpmの回転速度で回転するシリコンウエハにポリシラザン溶液をスピンコート法により塗布し、次いでこのポリシラザンが塗布されたシリコンウエハを回転させた状態で塗膜のエッジ部分にノズルから本発明の溶剤を洗浄液(リンス液)として噴射することにより、溶剤とポリシラザンの接触が図られ、シリコンウエハのエッジ部のビードの除去がなされる。一般的なスピンコーターを用いてシリコンウエハに塗布を行った後に引き続いてEBR処理を行う場合には、以下のような条件で行うことが好ましい。
【0043】
EBR処理時のコーター回転数:1,000〜6,000rpm
処理用溶剤をノズルから噴射するときの流量:2〜100mL/min.
処理用溶剤をノズルから噴射するときの圧力:0.01〜1MPa
処理用溶剤を噴射する時間:0.01〜60秒
【0044】
また、このときに同時に基板の裏面にポリシラザン処理用溶剤を噴射してバックリンスを同時に行うこともできる。EBR処理とバックリンスはそれぞれ独立に行うこともできるが、同時に行うことにより工程の省略ができるので好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
<実施例1〜17、および比較例1〜3>
表1に示す配合で各処理用溶剤を調製し、実施例1〜17および比較例1〜3の処理用溶剤を得た。
【0046】
【表1】
※1:ポリシラザンを溶解させることができず、エッジリンスできなかった。
【0047】
[評価例1:Hump高さの評価]
<ポリシラザン溶液Aの製造>
内容積3,000mLのガラス製四つ口フラスコにガス吹き込み管、メカニカルスターラー、ジュワーコンデンサーを装着した。反応器内部を脱酸素した乾燥窒素で置換した後、四つ口フラスコに脱気した乾燥ピリジン1646g(20.8モル)を仕込み、撹拌しながら、ジクロロシラン310g(3.1モル)を反応温度0〜5℃で1時間かけて導入管からフィードし、ジクロロシランのピリジンアダクツを生成させた。アンモニア180g(10.6モル)を反応温度0〜5℃で1時間かけて導入管からフィードし、さらに10℃で1.5時間撹拌を行い、反応を完結させた。反応液を10℃に加熱した後、窒素雰囲気中、生成した塩化アンモニウムを濾過し、過剰のアンモニアを減圧除去してから、溶媒をピリジンからジ−n−ブチルエーテルに溶媒交換をした。得られた溶液を窒素雰囲気下、濾過径0.1μmのPTFE製カートリッジフィルターにて濾過を行い、GPCによる質量平均分子量が4,000となる、無機ポリシラザン含量が20.0%のポリシラザン溶液Aを得た。
【0048】
<Hump高さ評価用サンプルの作製>
シリコンウエハ上にポリシラザン溶液Aを2mL滴下し、スピンコート法によって塗布することで、Hump高さ評価用サンプルAを得た。スピンコート条件は下記の通りである。
【0049】
(スピンコート条件)
ウエハサイズ:4インチ
温度:23±1℃
湿度:50±20%
回転数(時間):1,000rpm(20秒)
【0050】
Hump評価用サンプルAの端部に対して自動溶液滴下装置付きスピンコーター(MS−A200:ミカサ(株)製)を用いて、下記の条件でエッジリンスを行い、さらにこれを150℃で加熱乾燥させることで、得られた各サンプルのHump高さを、原子間力顕微鏡を用いて測定した。結果を表1に併記する。
【0051】
(エッジリンス条件)
処理用溶剤:実施例1〜17および比較例1〜3
ウエハサイズ:4インチ
温度:23±1℃
湿度:50±20%
回転数(時間):2,000〜3,000rpm(5秒)した後、乾燥目的で3,000〜4,000rpm(5秒)
吐出口直径:1mm
吐出速度:60mL/min.
吐出圧力:0.05MPa
吐出位置:シリコンウエハの表面から5mm高い位置
エッジリンス幅:シリコンウエハの端部から5mm
【0052】
表1の結果より、実施例1〜17は比較例1および2よりもHump高さが大幅に低くなっているということがわかった。なかでも、実施例1〜13はHump高さが特に低くなっており、実施例13はHump高さを0にすることができるということがわかった。
【0053】
[評価例2:ゲル化試験]
100mLのガラス瓶にポリシラザン溶液Aを1gと実施例5〜8および比較例1〜3の処理用溶剤30gを入れて混合し、5mmの穴を開けた蓋で閉めた後、大気中、22〜23℃、湿度43〜48%RHで10日間放置し、ゲル化が発生するか目視にて観察した。結果を表2に示す。なお、全ての試験結果について、脱ガスに起因する発泡は目視で認められなかった。
【0054】
【表2】
※2 沈降性の粒子が発生していた。
【0055】
表2の結果より、比較例1〜3は10日間以内にゲル化が発生することがわかった。実施例5〜8は沈降性の粒子が発生していたが、ゲル化は発生していなかった。この沈降性の粒子は非常に流動性が高く、塗布装置および廃液ラインの詰まりの原因とはならない。このことにより、本発明の処理用溶剤はポリシラザンの処理に優れていることがわかった。
【0056】
<実施例18〜20>
表3に示す配合で実施例18〜20の処理用溶剤を調製した。なお、表中の「BHT」とは、2,6−ジ−第三ブチル−4−エチルフェノールを意味する。
【0057】
【表3】
【0058】
[評価例3:Hump高さの評価]
評価例1における処理用溶剤を実施例18〜20の処理用溶剤としたこと以外は評価例1と同様の方法を用いてHump高さを測定した。結果を表3に併記する。また、参考値として実施例7の結果も表3に併記した。
【0059】
表3の結果より、実施例18〜20は実施例7よりもHump高さを大きく低減することができるということがわかった。なかでも実施例18は、Hump高さを0にすることができており、特に優れたポリシラザンの処理用溶剤であることがわかった。