(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(β−シクロラバンジュラール)は、民間薬として用いられるインド産キャラウェー(Caraway,Carum carvi Linn.)や真菌から二次代謝産物として単離されている(非特許文献1)。
また、(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(β−シクロラバンジュラール)は、放線菌Streptomycesからテストステロン 5α−リダクターゼの阻害剤として単離されたWS−9659A(Lavanducyanine:ラバンジュシアニン)及びWS−9659Bの構成成分であることが知られている(非特許文献2)。
更に、Vellutiniらは、コルシカ産Peucedanum paniculatum Linn.の葉及び根の精油から、(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセニル)メチル・エステル(一般名:β−シクロラバンジュリルエステル)と4,4,6−トリメチル−1−シクロヘキセニル)メチル・エステル(一般名:β−イソシクロラバンジュリルエステル)を含む計8化合物を単離して構造決定した(非特許文献3)。
【0003】
Odaらは、3,3−ジメチルシクロヘキサノンを出発原料とした(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(一般名:β−シクロラバンジュラール)及び(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノール(一般名:β−シクロラバンジュロール)の合成を報告している。3,3−ジメチルシクロヘキサノンをメトキシカルボニル化し得られたケトエステルをエノールホスフェート誘導体にした後、ジメチルリチウムキュープレートでメチル基を導入し、更に水素化リチウムアルミニウムで還元して、(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノールを得た後、これをピリジニウムクロロクロメート(PCC)で酸化して(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒドを得ている(非特許文献4)。
【0004】
また、Kinoshitaらは、WS−9659A(ラバンジュシアニン)の合成中間体として(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノールを3,3−ジメチルグルタル酸無水物を出発原料として用い、ラクトンへの還元、メチルリチウムによるメチルヘミアセタールへの変換、ヨウ素によるケトヨージドへの変換、トリメチルホスホノアセテートのアルキル化と縮合、ジイソブチルアルミニウムによるアリルアルコールへの還元の5工程、総収率33%での合成を報告している(非特許文献5)。
【0005】
更に、Gandhiらは、(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒドの合成を報告している(非特許文献6)。アブストラクトによれば、彼らは3,3−ジメチルシクロヘキサノンを原料として蟻酸エチルとの縮合により3,3−ジメチル−6−(ヒドロキシメチレン)シクロヘキサノンを得て、これをイソブチルアルコールと酸性条件化に反応させて61%収率で対応するイソブトキシメチレン誘導体を得るとともに、更にこの誘導体をヨウ化メチルマグネシウムで処理した後、希硫酸加水分解して66%収率で目的物を得ている。
酪酸(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセニル)メチル[別名:(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセニル)メチル・n−ブチレート、シクロラバンジュリルブチレート]は、コナカイガラムシ(Mealybug)類の防除のために重要な寄生蜂(Wasp)の誘引物質として単離された。すなわち、Tabataらは、ラバンジュロール(Lavandulol)を酪酸クロリドで処理して、酪酸ラバンジュリルを合成した際の副生成物中からコナカイガラムシに寄生する蜂の一種である
Anagyrus sawadaiを誘引する物質である酪酸(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセニル)メチルを発見し、この活性物質を単離し、構造を決定した(非特許文献7)。そして、ラバンジュロールを出発原料として酪酸クロリドで処理することにより1.2%の収率で酪酸(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセニル)メチルを得ている。また、この酪酸(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセニル)メチルの二重結合の位置異性体である酪酸(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセニル)メチルは、フジコナカイガラムシの性フェロモンとして知られる酪酸2−イソプロピリデン−5−メチル−4−ヘキセン−1−イル(Fujikonyl butyrate,非特許文献8)との極性基からの二重結合の位置が類似しており、寄生蜂に対する誘引活性に興味がもたれていた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の出発原料である2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)は、例えば、エナミン法(G.Storkら、Journal of Organic Chemistry,85,207−221及びY.Chanら、Organic Syntheses,Coll.Vol.6,496−498)でアルデヒド誘導体エナミンとエチルビニルケトンから容易に合成できる。そして、上記出発原料の一炭素(C1)増炭と官能基変換によってそれぞれの目的物へと導くことが可能である。
【0011】
第一工程は、2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)のカルボニル基をアルコキシメチレン基に変換し、2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセニリデンメチル・エーテル化合物(2)に導く工程である。
【0013】
R
1は、炭素数1から8の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソブチル基等の炭素数1から8の一級アルキル基又はベンジル基を例示でき、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0014】
この工程には既知の種々の方法が用いることができるが、Wittig反応が好ましい。具体的には、好ましくは、ハロゲン化トリフェニルアルコキシメチルホスニウムを溶媒中、塩基で処理して調製したリンイリド試薬、すなわち、トリフェニルホスホニウムアルコキシメチリド[(C
6H
5)
3P=CHOR
1](式中、R
1は上記と同様である。)と2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)を反応させる。
リンイリド試薬の調製における原料のハロゲン化トリフェニルアルコキシメチルホスホニウムとしては、例えば、塩化トリフェニルアルコキシメチルホスホニウム、臭化トリフェニルアルコキシメチルホスホニウム、ヨウ化トリフェニルアルコキシメチルホスホニウム等が挙げられる。
リンイリド試薬の調製における溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類を挙げることができ、これらを単独又は混合して用いることができる。
リンイリド試薬の調製における塩基としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、塩化メチルマグネシウム等の有機金属試薬やナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルコキシド類、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチルジシラジド、ナトリウムヘキサメチルジシラジド、リチウムジシクロヘキシルアミド等の金属アミド類、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等の水素化金属類、ジムシルナトリウム等を挙げることができる。塩基の使用量は、ハロゲン化トリフェニルメチルホスホニウム1モルにつき、好ましくは0.5から2モル、より好ましくは1.0から1.5モルである。
リンイリド試薬の調製における反応温度は、好ましくは−78から50℃、より好ましくは−78℃から室温(5から35℃、以下同様。)、更に好ましくは−10℃から室温である。
リンイリド試薬の調製における反応時間は、5分間から18時間が好ましいが、試薬の安定性から5分間から1時間がより好ましい。
【0015】
このようにして調製したリンイリド試薬であるトリフェニルホスホニウムアルコキシメチリドと、ケトンである2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)を反応させる。通常、リンイリド試薬の溶液にケトンを無溶媒で又は溶媒で希釈して滴下する。
希釈に使用する溶媒は、リンイリド試薬の調製に用いるものと同様のものが例示できる。
Wittig反応における反応温度は、好ましくは−78から50℃、より好ましくは−78℃から室温、更に好ましくは−10℃から室温である。
Wittig反応におけるリンイリド試薬の使用量は、基質のケトン1モルにつき、好ましくは0.5から50モル、より好ましくは1.0から10モル、収率や経済性の観点から更に好ましくは1.0から2.5モルである。
Wittig反応における反応時間は、ガスクロマトグラフィー(GC)や薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を追跡して反応を完結させるのがよいが、通常30分間から96時間である。
Wittig反応の後処理、すなわち目的物の単離や精製は、減圧蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から便宜選択して用いることができるが、工業的経済性の観点から減圧蒸留が好ましい。この際、予め反応で生じるトリフェニルホスフィンオキシドを貧溶媒で析出させてろ別する等して除去しておいてもよいし、除去せずそのまま減圧蒸留してもよい。以上のようにして、2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセニリデンメチル・エーテル化合物(2)を得る。また、目的物が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよい。
【0016】
次の工程は、2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセニリデンメチル・エーテル化合物(2)を(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)に変換する工程である。
【0018】
発明者らは、このエノールエーテル化合物である2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセニリデンメチル・エーテル化合物(2)を酸性条件下に加水分解すると、加水分解の直接の生成物と考えられる(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセン)カルバルデヒド(カルボニル基のβ位に二重結合を有するβ,γ−不飽和アルデヒド)ではなく、その異性体(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(カルボニル基のα位に二重結合を有するα,β−不飽和アルデヒド)がほとんど単一生成物(α,β−体:β,γ−体比>99:1)として得られることを見出し、本法が(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)の製法として適することを知見した。
【0019】
加水分解反応は、水の存在下、通常酸性条件で実施する。水の他に補助的に溶媒を用いてもよい。
酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類を例示でき、これらは単独又は混合して用いられる。特に、塩酸は工業的に安価に大量に入手可能で好ましい。
酸の使用量は、R
1の種類に依存するが、エーテル化合物1モルにつき、好ましくは0.001から500モル、より好ましくは0.01から100モルの範囲である。
【0020】
補助的な溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤類、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコルモノメチルエーテル等のアルコール類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類から選択して、単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。
【0021】
加水分解反応における反応温度は、用いる酸や溶媒の種類の他、反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には−20℃から溶媒の沸点が好ましく、−20℃から室温(5から35℃、以下同様。)が更に好ましい。
【0022】
目的の(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)の単離や精製方法としては、減圧蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から便宜選択して用いることができるが、工業的経済性の観点から減圧蒸留が好ましい。
以上のようにして、2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)から収率よく、かつ選択性よく(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)が得られる。
【0023】
次の工程は、上述の方法で得られた(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)のカルボニル基を水酸基に還元反応することにより(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノール(4)を得る工程である。
【0025】
還元反応としては、公知のアルデヒドからアルコールへの変換反応を適用できる。還元反応では、通常溶媒中、必要に応じて冷却や加熱しながら反応基質の(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)と還元剤を反応させる。
還元剤(reducing agent)としては、例えば、水素、ボラン、アルキルボラン、ジアルキルボラン、ビス(3−メチル−2−ブチル)ボラン等のホウ素化合物、ジアルキルシラン、トリアルキルシラン、アルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウム、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等の金属水素化物類、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリメトキシホウ素ナトリウム、水素化トリメトキシアルミニウムリチウム、水素化ジエトキシアルミニウムリチウム、水素化トリtert−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム等の錯水素化塩類(Complex hydride)やそれらのアルコキシあるいはアルキル誘導体を挙げることができるが、反応条件や後処理及び生成物の単離の容易さ等の点で錯水素化塩類を使用することが好ましい。
【0026】
還元剤の使用量は、使用する還元剤、反応条件等によって異なるが、一般的には(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)1モルにつき、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは0.9から8.0モルである。
【0027】
還元反応における溶媒としては、水、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコルモノメチルエーテル等のアルコール類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類を挙げることができ、これらの溶媒は単独もしくは混合して使用することができる。
【0028】
還元反応における溶媒は、用いられる還元剤の種類によって適切なものを選択して用いる。例えば、還元剤と溶媒の好ましい組み合わせとしては、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合には、水、水とエーテル類との混合溶媒、水と炭化水素類との混合溶媒、又は水とアルコール類との混合溶媒等が挙げられ、還元剤として水素化ホウ素リチウムを用いる場合には、エーテル類、エーテル類とアルコール類との混合溶媒、又はエーテル類と炭化水素類との混合溶媒等、還元剤として水素化アルミニウムリチウムを用いる場合には、エーテル類、又はエーテル類と炭化水素類との混合溶媒等が挙げられる。
【0029】
還元反応における反応温度又は反応時間は、用いる試薬や溶媒により種々異なるが、例えば、還元剤としてテトラヒドロフラン中水素化アルミニウムリチウムを用いる場合は、反応温度を好ましくは−78から50℃、より好ましくは−70から20℃で行う。
還元反応における反応時間は、ガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましいが、通常0.5から96時間である。
【0030】
目的の(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノール(4)の単離や精製は、減圧蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができるが、工業的経済性の観点から減圧蒸留が好ましい。以上のようにして、2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)から収率よく、かつ選択性よく(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノール(4)が得られる。
【0031】
得られた(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノール(4)は、エステル化されて(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセニル)メチル・エステル化合物(5)に変換することができる。
【0033】
Rは、水素又は炭素数1から10、好ましくは炭素数1から5の炭化水素基を表す。Rの種類によって種々のエステル化合物になり得る。例えば、Rが水素の場合のエステル化合物としてはギ酸エステルとなる。
Rの炭化水素基の具体例としては、メチル基(エステル化合物としては酢酸エステルとなる)、エチル基(エステル化合物としてはプロピオン酸エステルとなる)、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロプロピル基、ジメチルシクロプロピル基(すべてのメチル基の置換位置を含む、以下同じ。)、メチルシクロブチル基、ジメチルシクロブチル基、トリメチルシクロブチル基、テトラメチルシクロブチル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、テトラメチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、トリメチルシクロヘキシル基等の直鎖状、分岐状もしくは環状の飽和炭化水素基、又は、ビニル基(エステル化合物としてはアクリル酸エステルとなる。)、1−プロペニル基(エステル化合物としてはクロトン酸エステルとなる。)、2−プロペニル基(エステル化合物としてはメタクリル酸エステルとなる。)、2−メチル−1−プロペニル基(エステル化合物としてはセネシオ酸エステルとなる。)、エチニル基(エステル化合物としてはプロピオール酸エステルとなる。)、プロピニル基、1−ブチニル基、シクロペンテニル基(すべての二重結合の位置を含む、以下同じ。)、シクロヘキセニル基、ジクロヘキサジエニル基、メチルシクロヘキセニル基等の直鎖状、分岐状もしくは環状の不飽和炭化水素基又はこれらと異性体の関係にある炭化水素基が挙げられる。
【0034】
エステル化反応としては、公知のエステルの製造方法、例えば、アシル化剤との反応、カルボン酸との反応、エステル交換反応を適用できる。
【0035】
エステル化反応としてアシル化剤との反応を用いる場合、溶媒は、好ましくは、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤類、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類から選択でき、単独あるいは2種類以上を混合して使用できる。
アシル化剤は、好ましくは、酸ハロゲン化物、又は混合酸無水物を含む酸無水物である。酸ハロゲン化物としては、好ましくは、酸クロリド(式(5)中のRの炭化水素基に対応したRCOCl)、酸ブロミド(式(5)中のRに対応したRCOBr)等が挙げられる。混合酸無水物を含む酸無水物として、好ましくは、式(5)中のRに対応したRCOOXが挙げられ、ここで、Xは、R
2C=O(R
2は、水素又は炭素数1から10の炭化水素基、好ましくは炭素数1から5の炭化水素基であり、Rと同じであっても異なってもよいが、好ましくはRと同じであり、上述したRと同じ具体例が挙げられる。)、トリフルアセチル基、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、又はp−ニトロフェニル基等の脱離基を表す。
アシル化剤との反応では、上記溶媒中、反応基質の(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセン)メタノール(4)と、アシル化剤と、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等の塩基類を順次又は同時に加えて反応させる。酸無水物等のアシル化剤を用いる反応では、塩基の代わりに塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類から選ばれる酸触媒下に反応を行うこともできる。
アシル化剤の使用量は、反応基質の構造に依存するが、原料のアルコール化合物1モルにつき、好ましくは1から40モル、より好ましくは1から5モルの範囲である。
【0036】
アシル化反応温度は、用いるアシル化剤の種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には−50℃から溶媒の沸点が好ましく、−20℃から室温が更に好ましい。
【0037】
エステル化反応としてカルボン酸との反応を用いる場合、対応するカルボン酸と原料のアルコール化合物(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセン)メタノール(4)との脱水反応となり、酸触媒下に行うのが一般的である。
【0038】
カルボン酸の使用量は、反応基質の構造に依存するが、原料のアルコール化合物1モルにつき、好ましくは1から40モル、より好ましくは1から5モルの範囲である。
カルボン酸との反応に用いる酸触媒の例として、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類を挙げることができ、これらは単独又は混合して用いられる。酸触媒の使用量は、原料のアルコール化合物1モルにつき、好ましくは0.001から1モル、より好ましくは0.01から0.05モルの触媒量である。
カルボン酸との反応に用いる溶媒としては、上記アシル化剤との反応に挙げたものと同様のものを例示できるが、一般的には−50℃から溶媒の沸点が好ましい。へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類を含む溶媒を用いて、生じる水を共沸により系外に除去しながら反応を進行させてもよい。この場合、常圧で溶媒の沸点で還流しながら水を留去してもよいが、減圧下に沸点より低い温度で水の留去を行ってもよい。
【0039】
エステル化反応としてエステル交換反応を用いる場合、対応するカルボン酸と低級アルコールとのカルボン酸エステル化合物と、原料のアルコール化合物とを触媒存在下に反応させ、生じる低級アルコールを除去することにより実施する。
カルボン酸エステル化合物としては、第一級アルキルエステルが好ましく、特にメチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステルが価格、反応の進行のし易さ等の点から好ましい。このカルボン酸エステル化合物の使用量は、反応基質の構造に依存するが、原料のアルコール化合物1モルにつき、好ましくは1から40モル、より好ましくは1から5モルの範囲である。
【0040】
エステル交換反応に用いる触媒としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、4−ジメチルアミノピリジン等の塩基類、青酸ナトリウム、青酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸錫、酢酸アルミニウム、アセト酢酸アルミニウム、アルミナ等の塩類、三塩化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、酸化チタン(IV)等のルイス酸類を挙げることができ、これらは単独又は混合して用いられる。
【0041】
エステル交換反応に用いる触媒の使用量は、原料のアルコール化合物1モルにつき、好ましくは0.001から20モル、より好ましくは0.01から0.05モルの触媒量である。反応は無溶媒(反応試薬であるカルボン酸エステル自身を溶媒として用いてもよい。)で行うことができ、余計な濃縮や溶媒回収等の操作を必要としないので好ましいが、目的物や反応試薬の重合を防ぐ等の目的で溶媒を補助的に用いることも可能である。
【0042】
エステル交換反応に用いる溶媒として、例えば、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類の単独又は混合使用が好ましい。
【0043】
エステル交換反応の反応温度は、用いるカルボン酸エステル化合物の種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、通常、加熱下に行われ、エステル交換反応で生じる低沸点の低級アルコール、即ち、メタノール、エタノール、1−プロパノール等の沸点付近で反応を行い、生じる低級アルコールを留去しながら行うのがよい結果を与える。減圧下に沸点より低い温度でアルコールの留去を行ってもよい。
【0044】
目的の(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセニル)メチル・エステル化合物(5)の単離や精製は、減圧蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができるが、工業的経済性の観点から減圧蒸留が好ましい。
以上のようにして、2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)から収率よく、かつ選択性よく(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセニル)メチル・エステル化合物(5)が得られる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
合成例1
2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)の合成
出発原料2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)は、以下の反応経路により、具体的には下記の方法によって合成された。
【0046】
【化8】
【0047】
窒素雰囲気下、氷冷したイソブチルアルデヒドピロリジンエナミン68.5gにエチルビニルケトン40.4gを10分かけて滴下した。滴下後、反応混合物を徐々に室温まで上げ、更に室温で17時間かき混ぜた。反応混合物を再び氷冷した後、20%塩酸400mlを滴下した。滴下後、反応混合物を徐々に室温まで上げ、更に室温で30時間かき混ぜた。反応混合物をジエチルエーテルで抽出し、ジエチルエーテル層を分離し、水層を炭酸水素ナトリウムで中和した後、更にジエチルエーテルで抽出した。合わせたジエチルエーテル層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮して得られた粗生成物を減圧蒸留して目的物53.9g(収率82%)を得た。
【0048】
2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)
無色の液体
沸点 76℃/1.9kPa
IR(D−ATR):ν=2958,2925,2867,1676,1448,1362cm
-1。
EI−MS(70eV):m/z=27,41,55,67,81,95,110,123,138(M
+)。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ=1.11(6H,s),1.70(3H,d,J=1.5Hz),1.81(2H,dt様,J=0.8,6.9Hz),2.42(2H,t様,J=7.0Hz),6.37−6.39(1H,m)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl
3):δ=15.91,27.93(2C),32.89,34.44,36.33,132.47,155.07,199.73ppm。
【0049】
実施例1
(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)の合成
窒素雰囲気下、氷冷した塩化メトキシメチルトリフェニルホスホニウム51.4gとカリウムtert−ブトキシド16.8gからテトラヒドロフラン245mlとトルエン105mlの混合溶媒中で調製したリンイリド溶液に、合成例1の方法で合成した2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセノン(1)13.8gを30分間かけて滴下した。混合物を氷冷のまま1時間、室温で終夜かき混ぜた後、氷水にあけ有機層を分取した。水層をジエチルエーテルで抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。残渣にn−ヘキサンを加え生じたトリフェニルホスフィンオキシドを濾別した。濾液を減圧濃縮して得た粗生成物を減圧蒸留して、(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセン)カルバルデヒドメチルエノールエーテルの粗生成物20.43gを得た。ガスクロマトグラフィー分析の結果、幾何異性体17:83の混合物であった。
この粗生成物18.4gとジエチルエーテル100mlの混合物に20%塩酸20mlを加え、室温で2時間かき混ぜた。反応混合物をn−ヘキサンで抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、次いで飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。残渣を減圧蒸留して目的物12.6g(収率95%)を得た。
この目的物は92.2−97.8%のガスクロマトグラフィー純度を有しており、各種クロマトグラフィー及びスペクトル分析において異性体(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセン)カルバルデヒドは痕跡量(trace amount)で、二重結合が2位から1位(アルデヒドのカルボニル基と共役する位置)に異性化が進行していた。
【0050】
(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)
無色の液体
沸点 88−91℃/1.06kPa
EI−MS(70eV):m/z=29,41,56,67,81,95,109,123,137,152(M
+)。
IR(D−ATR):ν=2951,2922,2865,1668,1636,1379,1365,1247,754cm
-1。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ=0.89(6H,s),1.35(2H,t,J=6.5Hz),1.97(2H,br.s),2.10(3H,quint−様,J=0.8Hz),2.17−2.23(2H,m),10.14(1H,s)ppm。
13C−NMR(150MHz,CDCl
3):δ=18.48,19.98,28.03(2C),28.79,34.38,48.13,132.31,155.13,190.84ppm。
【0051】
実施例2
(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノール(4)の合成
の合成
実施例1の方法で合成した(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)カルバルデヒド(3)12.67gと95%エタノール50mlの混合物を氷冷下、水素化ホウ素ナトリウム2.50gと25%水酸化ナトリウム水溶液0.1mlと水25mlとテトラヒドロフラン25mlの混合物に10分間かけて滴下した。室温で1時間かき混ぜた後、反応混合物をジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して粗生成物12.79g(ガスクロマトグラフィー純度95.1%、純度換算収率98%)を得た。
この粗生成物の各種クロマトグラフィー及びスペクトル分析において、異性体(2,4,4−トリメチル−2−シクロヘキセン)メタノールは痕跡量であり、シクロヘキセン環内二重結合の移動は起こらず、選択的に合成できたことが示された。この粗製生物は中間体として十分な純度を有しており、このまま次の工程に用いた。
【0052】
(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノール(4)
無色の液体
EI−MS(70eV):m/z=29,41,55,69,79,93,107,121,139,154(M
+)。
IR(D−ATR):ν=3324,2949,2911,2865,1450,1363,997cm
-1。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ=0.87(6H,s),1.35(2H,t,J=6.5Hz),1.67(3H,br.s),1.73(3H,br.s),2.10−2.26(2H,m),4.11(2H,s)ppm。
【0053】
実施例3
式(5)においてRがn−プロピル基である酪酸(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセニル)メチルの合成
窒素雰囲気下、氷冷しながら実施例5の方法で合成した(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセン)メタノール(4)12.54g、ピリジン9.20g、アセトニトリル150mlの混合物に、酪酸クロリド9.90gを10分間で滴下した。氷浴をとり室温で4.5時間かき混ぜた後、反応混合物を氷水にあけ、n−ヘキサンで抽出した。分取した有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣を減圧蒸留して目的物14.86g(収率86%)を得た。
【0054】
酪酸(2,4,4−トリメチル−1−シクロヘキセニル)メチル
無色の液体
沸点 72−74℃/530Pa
EI−MS(70eV):m/z=27,43,55,79,93,107,121,136、224(M
+)。
IR(D−ATR):ν=2951,2912,2875,1734,1455,1364,1174cm
-1。
1H−NMR(500MHz,CDCl
3):δ=0.87(6H,s),0.94(3H,t,J=7.3Hz),1.34(2H,t,J=6.5Hz),1.61−1.69(5H,m),1.76(2H,br.s),2.01−2.06(2H,m),2.28(2H,t−様,J=7.2Hz),4.58(2H,s)ppm。
13C−NMR(150MHz,CDCl
3):δ=13.65,18.52,19.24,25.54,28.12(2C),28.97,35.43,36.26,45.97,64.33,123.70,132.15,173.94ppm。