特許第6208110号(P6208110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許6208110酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208110
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20170925BHJP
   C07C 69/145 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 57/03 20060101ALN20170925BHJP
   C07C 51/353 20060101ALN20170925BHJP
   C07C 33/02 20060101ALN20170925BHJP
   C07C 29/147 20060101ALN20170925BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   C07C67/08
   C07C69/145
   !C07C57/03
   !C07C51/353
   !C07C33/02
   !C07C29/147
   !C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-220414(P2014-220414)
(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公開番号】特開2015-110554(P2015-110554A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2016年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-225425(P2013-225425)
(32)【優先日】2013年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
(72)【発明者】
【氏名】石橋 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】湯本 嘉恭
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−119686(JP,A)
【文献】 特公昭47−030690(JP,B1)
【文献】 特公昭41−019055(JP,B1)
【文献】 米国特許第03781333(US,A)
【文献】 Identification and Synthesis of the Sex Pheromone of the Passionvine Mealybug, Planococcus minor (Maskell),Journal of Chemical Ecology,2007年,v.33,pp.1986-1996
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/08
C07C 69/145
C07B 61/00
C07C 29/147
C07C 33/02
C07C 51/353
C07C 57/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示す2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸を異性化させて下記式(2)に示す(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を得る異性化工程と、
得られた(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)を還元して下記式(3)に示す(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノールを得る還元工程と、
得られた(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)をアセチル化して下記式(4)に示す酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルを得るアセチル化工程と
を少なくとも含む酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法であって、
前記異性化工程が、塩基の存在下での異性化段階を少なくとも含む酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法
【化1】
(式中、Acはアセチル基を示す。)
【請求項2】
前記異性化工程が、前記塩基の存在下での異性化段階と、その後のイオウ試薬の存在下での異性化段階を少なくとも含む請求項1に記載の酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法。
【請求項3】
前記異性化工程が、異性化により得られた異性体混合物を再結晶して(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を単離する再結晶段階をさらに含む請求項1又は請求項2に記載の酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、コナカイガラムシ科の一種であるPlanococcus minor(一般名:Passionvine mealybug)の性フェロモンである、酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昆虫の性フェロモンは、通常雌個体が雄個体を誘引する機能をもつ生物活性物質であり、少量で高い誘引活性を示す。性フェロモンは、発生予察や地理的な拡散(特定地域への侵入)の確認の手段として、また、害虫防除の手段として広く利用されている。害虫防除の手段としては、大量誘殺法(Mass trapping)、誘引殺虫法(Lure & killまたはAttract & kill)、誘引感染法(Lure & infectまたはAttract & infect)や交信撹乱法(Mating disruption)と呼ばれる防除法が広く実用に供されている。性フェロモンの利用にあたっては必要量のフェロモン原体を経済的に製造することが、基礎研究のために、更には、応用のために必要とされる。
【0003】
コナカイガラムシPlanococcus minor(一般名:Passionvine mealybug、以下、「PVMB」と略する。)は、Pacific mealybugやGuava mealybugとも呼ばれ、地理的には世界の温帯域と熱帯域に広く分布し、多くの作物に被害を与え、経済的に重要な害虫である。Hoらは、この害虫の性フェロモンを単離し、その構造を酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルであると決定した(非特許文献1)。
【0004】
性フェロモンは、その構造の炭素骨格だけでなく二重結合の位置や幾何によりその活性が大きく影響を受けることが知られており、実際このPVMBのフェロモンにおいても幾何異性体である酢酸(Z)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルが活性を阻害することが上記Hoらによる文献において報告されている。基礎的な生物学的研究や農学的研究のため、更に、応用や実用に供する目的には十分量のフェロモン原体の供給が必要となり、効率的であり、かつ選択性のよい(異性体の副生が少なく分離の手間がかからない)製造方法が強く望まれている。
【0005】
Hoらは、PVMBの性フェロモンの合成を記述しており、3−メチル−2−オキソブタン酸エチルからWittig反応、還元反応、エステル化反応の3工程で目的物とその幾何異性体である酢酸(Z)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの混合物を合成し、この幾何異性体混合物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分離して、目的物を得ている(非特許文献1)。
【0006】
また、Millarは、プロパルギルアルコール化合物を出発原料として用い、臭化イソプロピルマグネシウムの付加反応による三置換オレフィンの合成を鍵反応として、幾何異性体の混入のないPVMBの性フェロモンの合成を報告している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Chem.Ecol.,33,1986−1996(2007)
【非特許文献2】Tetrahedron Letters,49,315−317(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1の場合、Wittig反応後の中間体の幾何異性体比は1.3:1であり、最終物まで導いた後に幾何異性体を分離しているが、主生成物(Major product)は非天然型異性体であり、選択性および収率の点では優れているとは言えない。
また、非特許文献2の場合、幾何異性体が選択的に得られる点で優れているが、中間体の合成に高価な貴金属触媒を用いたり、中間体の単離や精製の際シリカゲルフラッシュクロマトグラフィーを用いている等の点で工業的合成方法とは言い難い。
このように、これまでの合成例では、選択性や中間体および目的物の分離や精製の手段等の理由で、十分量の原体を工業的に製造するのは非常に困難と考えられた。
【0009】
また、本発明者らは、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸が合成可能であれば、これを還元、次いで、アセチル化することにより、PVMBの性フェロモンである酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルが工業的に製造可能であると考えた。更に、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸は、比較的容易に合成可能な2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(ラバンジュリン酸,Lavandulic acid)と異性体の関係にあるため、合成可能かもしれないと予想した。また、この目的の中間体である(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸は、1−位のカルボニル基(C=O)と2−位の三置換二重結合(炭素−炭素二重結合、C=C)と4−位の三置換二重結合の3つが共役する構造を有するため、他の異性体と比べてより安定であることが期待された。なお、本明細書において、「二重結合」は、特に明記しない限り、炭素−炭素二重結合を意味する。
【0010】
不飽和カルボニル化合物の二重結合の位置および幾何の異性化反応は、酸性、塩基性、ラジカル等の種々の条件下で進行すること、特に、カルボニル基との二重結合が共役していない化合物からカルボニル基との二重結合が共役している化合物への異性化は、エネルギー的に有利であり進行しやすいことが知られている。
【0011】
しかしながら、本発明者らが2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(下記式(1))を出発原料として2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(下記式(2))へと異性化させる場合を考察したところ、まず、β,γ−不飽和カルボン酸である2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(下記式(1))のイソプロペニル基の二重結合がカルボニル基と共役する側に移動して、α,β−不飽和カルボン酸である2−イソプロピリデン−5−メチル−4−ヘキセン酸(下記式(h))に異性化し、次いで、このα,β−不飽和カルボン酸のイソプロピリデン基の二重結合が更に移動して、別のα,β−不飽和カルボン酸である2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(下記式(j)と(k))にまで異性化しなければならないことが推定された。つまり、二重結合の移動が二回連続して起こらなければならない。
【0012】
また、二重結合の異性化反応は、一般に、種々の位置異性体(二重結合の位置の違う異性体)とそれらの幾何異性体[(E)−二重結合と(Z)−二重結合の異性体]や環化による環状異性体(特に、酸性条件下に生成しやすい。)等が存在し得る場合、通常これらの複雑な異性体混合物を与え、精製や単離が困難であると予想された。
理論上考えられる二重結合の位置の違う異性体とそれらの幾何異性体を下記に示す。
【0013】
【化1】
【0014】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、例えば、生物学的研究、農学的研究や実際の応用や利用等に必要な十分量のPVMBフェロモン原体を供給するために、簡便で効率的な酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸を特定の条件下異性化させることにより、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を含むカルボン酸異性体混合物が得られること、また、このカルボン酸異性体混合物から目的の(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸が選択的に再結晶により分離や精製できることを見出し、更に、これを還元、次いで、アセチル化することにより、PVMBの性フェロモンである酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルが工業的に製造可能であることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0016】
本発明の一つの態様では、下記式(1)に示す2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸を異性化させて下記式(2)に示す(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を得る異性化工程と、得られた(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)を還元して下記式(3)に示す(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノールを得る還元工程と、得られた(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)をアセチル化して下記式(4)に示す酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルを得るアセチル化工程とを少なくとも含む酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法であって、前記異性化工程が、塩基の存在下での異性化段階を少なくとも含む酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法を提供する。
【化2】
(式中、Acはアセチル基を示す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、比較的容易に合成可能な2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸を原料として、酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルを選択的、かつ効率的に合成するための工業的製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
出発原料は、下記式(1)で表される2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸である。
【0019】
【化3】
【0020】
2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(1)は、既存の方法、例えば、ApSimon,Total Synthesis of Natural Products,Vol.7,317−320,JOHN WILLEY & SONS,(1988)およびその引用文献で合成できる。具体的には、セネシオ酸2−メチル−3−ブテン−2−イルを塩基性条件下、Claisen型転位反応で2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸を得る方法[Matsui et.al.,Agric.、Biol.Chem.,Vol.32,1246−1249(1968)]の他、セネシオ酸エステルのエノレートをプレニルハライド(1−ハロ−3−メチル−2−ブテン)でアルキル化して2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸エステルを得てこれをカルボン酸に導く方法が挙げられる。
【0021】
次に、2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(1)の(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)への異性化工程について述べる。
【0022】
【化4】
【0023】
本発明によれば、異性化反応(二重結合の位置の異性化反応)によって、例えば、以下の異性体混合物が得られる。
【0024】
【化5】
【0025】
この異性化反応は、既存の種々の酸性、塩基性、ラジカル等の反応条件が適用できるが、特に、塩基による塩基性条件下での反応が好ましい。
異性化反応に用いる塩基としては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−アミロキシド、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムt−ブトキシド、リチウムt−アミロキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、カリウムt−アミロキシド等のアルコキシド類(好ましくは金属アルコキシド、より好ましくはアルカリ金属アルコキシド)、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム等の水酸化物塩類(好ましくは金属水酸化物、より好ましくはアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物)、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸塩類または重炭酸塩(好ましくはアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩)、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、塩化メチルマグネシウム、ジムシルナトリウム等の有機金属試薬、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチルジシラジド、ナトリウムヘキサメチルジシラジド、リチウムジシクロヘキシルアミド等の金属アミド類、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等の水素化金属類、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、キノリン、ピロリジン、ピペリジン、コリジン、ルチジン、モルホリン、ピペラジン等の有機塩基類を挙げることができる。これらの塩基は単独で用いても複数の塩基を混合して用いてもよく、基質の種類や反応性や選択性を考慮して選択できる。これら塩基のうち、アルコキシド類は特に好ましい。
【0026】
異性化反応に用いる塩基の使用量は、基質や塩基の種類によって種々異なるが、基質のカルボン酸化合物1モルに対して、好ましくは0.001モルから大過剰量(2モルから500モル)、より好ましくは0.1モルから小過剰(1モルを超え1.5モル以下)量である。反応の進行が十分に早い場合には、化学量論量(1モル)より少ない量、好ましくは触媒量(0.5モル以下、0.001モルから0.5モル)の使用が経済的な面から好ましい。
【0027】
異性化反応に用いる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類が好ましく、これらを単独または混合して用いることができる。
基質のカルボン酸を目的のカルボン酸にまで一挙に変換したい場合には、水系の溶媒の選択が好ましい。水を含む溶媒を選択するかまたは異性化後に水を添加することもできる。水とアルコール類、特に、水と三級アルコールの組み合わせは特に好ましい。ここで、塩基と溶媒の選択において、水を含む溶媒中塩基としてアルコキシド類を使用する場合とアルコール類を含む溶媒中塩基として水酸化物塩類を使用する場合は、系内で同一の条件となると考えられる。
【0028】
異性化反応における反応温度は、好ましくは−78℃から溶媒の沸点温度、より好ましくは−10℃から100℃である。反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)や薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を追跡して最適化するとよいが、通常5分間から240時間が好ましい。
【0029】
反応は必ずしも目的の方向に進まず、条件により異性体の平衡混合物になる場合があると考えられ、上記の塩基や溶媒や反応条件から、異性体混合物中の目的物の(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)とその(Z)−異性体(j)[この(Z)−異性体は後述の二重結合の幾何の異性化反応で(E)−異性体に変換できる]の合計の比を最大化させる方法を選択するとよい。また、一度に目的の変換を行ってもよいが、一度異性化反応させて得られた異性体混合物を再び異性化反応に供してもよい。一度生成した異性体混合物から特定の異性体を分離した残りの異性体混合物を再度異性化反応に供してもよい(リサイクル)。また、原料の2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸を塩基性条件下で合成する場合、そのまま系内で異性化反応を進行させてもよい。
【0030】
本発明においては、必要に応じて上記のように一度異性化反応させて得られた異性体混合物から特定の異性体を分離し、残りの異性体混合物について、以下のように再度異性化反応(二重結合の幾何異性化反応)を行うことができる。
【0031】
【化6】
【0032】
この再異性化反応は、既存の種々の酸性、塩基性(前記二重結合の位置異性化反応の場合の塩基を含む。)、ラジカル等の反応条件が適用できる。例えば、イオウ、セレン、テルル等のカルコゲン元素の単体とそれらの化合物、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ロジウム等の遷移金属元素を含む化合物を試薬として用いる異性化反応が好ましく、特に、イオウ試薬による異性化は反応の効率や試薬の価格や入手のしやすさの点で好ましい。
通常、イオウ試薬を用い、無溶媒または溶媒中で必要に応じて冷却または加熱して反応を行う。
イオウ試薬としては、例えば、単体のイオウ、硫化水素、チオシアン酸等の無機イオウ化合物類とその塩類、メタンチオール、エタンチオール、ブタンチオール、ベンゼンチオール、チオ硫酸、チオ酢酸、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ブタジエンスルホン、チオアセトアミド、チオアニソール等の有機イオウ化合物類とその塩類等が挙げられる。これらのイオウ試薬は単独で用いても複数の塩基を混合して用いてもよく、基質の種類や反応性や選択性を考慮して選択できる。
【0033】
また、これらのイオウ試薬とハロゲン類、アゾイソブチロニトリル、ジメチルアゾビスイソ酪酸、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物類、過酸化水素、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド等の過酸化物類、トリエチルボラン、ジエチル亜鉛等のラジカル開始剤を共存させてもよい。これらイオウ試薬のうち、メルカプト基を有する化合物およびその塩類、スルフィド類が特に好ましい。
【0034】
イオウ試薬の使用量は、基質やイオウ試薬の種類によって種々異なるが、基質のカルボン酸化合物1モルに対して、例えば触媒量(0.5モル以下、0.001モルから0.5モル)から大過剰(2モルから500モル)まで、好ましくは0.001モルから大過剰量、より好ましくは0.1モルから小過剰量(1モルを超え1.5モル以下)である。反応の進行が十分に早い場合には、化学量論量より少ない量の使用が経済的な面から好ましい。溶媒を用いない無溶媒での反応は経済的な面や反応容器あたりの得られる物質の量(Pot yield)が大きい点で好ましい。
【0035】
溶媒を用いて再異性化反応する場合の溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類が好ましく、これらを単独または混合して用いることができる。
【0036】
再異性化反応における反応温度は、好ましくは−78℃から溶媒の沸点温度、より好ましくは室温(5℃から35℃)から溶媒の沸点温度である。反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)や薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を追跡して最適化するとよいが、通常5分間から240時間が好ましい。
【0037】
イオウ試薬を用いた異性化は二重結合の幾何の異性化に特に適するので、(Z)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を含む異性体混合物を基質として用いて、上記のイオウ試薬や溶媒や反応条件から、目的物の(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸の比を最大化させる方法を選択するとよい。また、一度に目的の変換を行ってもよいが、一度異性化反応させて得られた異性体混合物を再び異性化反応に供してもよい。一度生成した異性体混合物から特定の異性体を分離した残りの異性体混合物を再度異性化反応に供してもよい(リサイクル)。
【0038】
特に好ましい異性化工程の例として、2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸を塩基による異性化反応によって、まず、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸と(Z)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を多く含むような異性体混合物に変換した後、この異性体混合物をイオウ試薬による異性化反応によって、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を多く含むような異性体混合物に変換する工程を挙げることができる。
【0039】
上記のようにして得られた目的の中間体(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよいが、異性体混合物から、目的の中間体(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を精製することができる。精製は、減圧蒸留、再結晶や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から便宜選択して用いることができるが、工業的経済性の観点から、特に再結晶が好ましい。
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸はその結晶性が非常に良好で、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を含む混合物から(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を単離できることを本発明者らが知見したことが、工業的な製法確立の実現に大きく寄与したものである。
【0040】
再結晶に用いられる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類が好ましく、これらを単独または混合して用いることができる。再結晶化は、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を含む異性体混合物を上記から選択した溶媒中に必要に応じてかき混ぜる、または、加熱する等して溶解させた後、放置する、または、冷却する等して結晶を析出させるとよい。なお、ここで言う再結晶には、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を含む異性体混合物が油状物である場合の油状物や異性体混合物の粗結晶を良溶媒に溶解した溶液を貧溶媒中に滴下する等して結晶を得る方法も含まれる。
【0041】
次に、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)を還元反応により、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)に導く。
【0042】
【化7】
【0043】
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)から(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)への変換には、カルボン酸をアルコールへと還元する公知の還元反応を適用できる。還元反応は、通常溶媒中、必要に応じて冷却や加熱等しながら反応基質を還元剤と反応させる。
【0044】
還元剤(reducing agent)としては、例えば、水素、ボラン、アルキルボラン、ジアルキルボラン、ビス(3−メチル−2−ブチル)ボラン等のホウ素化合物、ジアルキルシラン、トリアルキルシラン、アルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウム、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カリウム、水素化カルシウム等の金属水素化物類、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリメトキシホウ素ナトリウム、水素化トリメトキシアルミニウムリチウム、水素化ジエトキシアルミニウムリチウム、水素化トリtert−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム等の錯水素化塩類(Complex hydride)やそれらのアルコキシあるいはアルキル誘導体が挙げられ、反応条件、後処理や生成物の単離の容易さ等の点で錯水素化塩類を使用することが好ましい。
還元剤の使用量は、使用する還元剤、反応条件等によって異なるが、一般的には基質のカルボン酸1モルに対して、好ましくは0.5〜大過剰量(2モルから500モル)、より好ましくは0.9〜8.0モルである。
【0045】
還元反応における溶媒としては、例えば、水、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコルモノメチルエーテル等のアルコール類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類が好ましく、これらの溶媒は単独もしくは混合して使用することができる。
還元反応における溶媒は用いられる還元剤の種類によって適切なものを選択して用いる。例えば、還元剤と溶媒の好ましい組み合わせとしては、還元剤として水素化ホウ素リチウムを用いる場合には、エーテル類、エーテル類とアルコール類との混合溶媒またはエーテル類と炭化水素類との混合溶媒等、還元剤として水素化アルミニウムリチウムを用いる場合には、エーテル類またはエーテル類と炭化水素類との混合溶媒等が挙げられる。
【0046】
還元反応における反応温度または反応時間は、用いる試薬や溶媒により種々異なるが、例えば、還元剤としてテトラヒドロフラン中水素化アルミニウムリチウムを用いる場合は、反応温度を好ましくは−78℃から50℃、より好ましくは−70℃から20℃で行う。反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましく、通常0.5〜96時間である。
【0047】
目的の(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)の単離や精製は、減圧蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができるが、工業的経済性の観点から減圧蒸留が好ましい。また、目的物が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよい。
【0048】
本発明によれば、最終工程は、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)をアセチル化して、目的物の酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニル(4)を得るエステル化反応である。
【0049】
【化8】
【0050】
このアセチル化反応としては、公知のアルコールからの酢酸エステルの製造方法を適用できる。例えば、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)とアセチル化剤との反応、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)と酢酸との反応、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)と酢酸エステルとのエステル交換反応、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)をアルキル化剤に変換した後に酢酸と反応させる方法を挙げることができる。
【0051】
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)とアセチル化剤との反応では、溶媒中、反応基質の(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノールとアセチル化剤とを塩基または酸の存在下、反応させる。
【0052】
アセチル化反応におけるアセチル化剤としては、例えば、酢酸クロリド、酢酸ブロミド、酢酸無水物、酢酸トリフルオロ酢酸混合酸無水物、酢酸メタンスルホン酸混合酸無水物、酢酸トリフルオロメタンスルホン酸混合酸無水物、酢酸ベンゼンスルホン酸混合酸無水物、酢酸p−トルエンスルホン酸混合酸無水物、酢酸p−ニトロフェニル等が挙げられる。アセチル化剤の使用量は、原料の(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール1モルに対して、好ましくは1モルから40モル、より好ましくは1モルから5モルの範囲である。
【0053】
アセチル化反応における塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等が挙げられ、これらの塩基を順次またはアセチル化剤と同時に加えて反応させる。
【0054】
酸無水物等のアセチル化剤を用いる反応では、塩基の代わりに、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類から選ばれる酸の存在下に反応を行うこともできる。
【0055】
アセチル化反応における溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤類、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒類から選択して、単独あるいは2種類以上を混合して使用できる。
【0056】
アセチル化反応における反応温度は、用いるアセチル化剤の種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には−50℃から溶媒の沸点温度が好ましく、−20℃から室温(5℃から35℃)が更に好ましい。
【0057】
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)と酢酸との反応では、アルコールとカルボン酸との脱水反応であり、酸触媒下に行うのが一般的である。
酢酸との反応における酢酸の使用量は、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)1モルに対して、好ましくは1モルから40モル、より好ましくは1モルから5モルの範囲である。
【0058】
酢酸との反応における酸触媒としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類、三塩化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、酸化チタン(IV)等のルイス酸類が挙げられ、これらは単独または混合して用いられる。酸触媒の使用量は、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール1モル(3)に対して、好ましくは0.001モルから1モル、より好ましくは0.01モルから0.05モルである。
【0059】
酢酸との反応における溶媒としては、上記アセチル化反応に挙げたものと同様のものを例示できる。
【0060】
酢酸との反応における反応温度は、一般的には−50℃から溶媒の沸点温度が好ましく、室温(5℃から35℃)から溶媒の沸点温度が更に好ましい。例えば、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類を含む溶媒を用いて、生じる水を共沸により系外に除去しながら反応を進行させることができる。この場合、常圧で溶媒の沸点で還流しながら水を留去してもよいが、減圧下に沸点より低い温度で水の留去を行ってもよい。
【0061】
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)と酢酸エステルとのエステル交換反応では、酢酸アルキルと(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)とを触媒存在下に反応させ、生じるアルコールを除去することにより実施する。
【0062】
エステル交換反応における酢酸アルキルとしては、例えば、酢酸の一級アルキルエステルが好ましく、特に酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピルが、価格、反応の進行のし易さ等の点から好ましい。この酢酸アルキルの使用量は、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)1モルに対して、好ましくは1モルから40モル、より好ましくは1モルから5モルの範囲である。
【0063】
エステル交換反応における触媒としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸等の無機酸類、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸類、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、4−ジメチルアミノピリジン等の塩基類、青酸ナトリウム、青酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸錫、酢酸アルミニウム、アセト酢酸アルミニウム、アルミナ等の塩類、三塩化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、酸化チタン(IV)等のルイス酸類を挙げることができ、これらは単独または混合して用いられる。触媒の使用量は、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)1モルに対して、好ましくは0.001モルから20モル、より好ましくは0.01モルから0.05モルである。
【0064】
エステル交換反応は、無溶媒(反応試薬である酢酸アルキル自身を溶媒として用いてもよい)で行うことができ、余計な濃縮および溶媒回収等の操作を必要としないので好ましいが、溶媒を補助的に用いることも可能である。溶媒を用いる場合の溶媒としては、例えば、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類の単独または混合使用が好ましい。
【0065】
エステル交換反応における反応温度は、用いる酢酸アルキルの種類や反応条件により適切な反応温度を選択できるが、通常、加熱下に行われ、エステル交換反応で生じる低沸点の低級アルコール、即ち、メタノール、エタノール、1−プロパノール等の沸点付近で反応を行い、生じる低級アルコールを留去しながら行うのがよい結果を与える。減圧下に沸点より低い温度でアルコールの留を行ってもよい。
【0066】
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)をアルキル化剤に変換した後に酢酸と反応させる方法では、例えば、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)を対応するハロゲン化物(塩化物、臭化物、ヨウ化物)やスルホン酸エステル(例えば、メタンスルホン酸エステル、トリフルオロメタンスルホン酸エステル、ベンゼンスルホン酸エステル、p−トルエンスルホン酸エステル等)に変換し、これらと酢酸を、通常溶媒中、塩基性条件下に反応させる。
【0067】
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)をアルキル化剤に変換した後に酢酸と反応させる方法における溶媒、塩基、反応時間、反応温度としては、上記のアルコールとアセチル化剤との反応で述べたものと同様のものや条件を挙げることができる。エステル交換反応における酢酸と塩基の組み合わせの代わりに、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム等の酢酸塩を用いてもよい。
目的の酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニル(4)の単離や精製は、減圧蒸留や各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができるが、工業的経済性の観点から減圧蒸留が好ましい。
【0068】
以上のようにして、応用や利用等に必要な十分量の原体を供給するために、簡便で、かつ効率的なPVMBの性フェロモン原体である酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニルの製造方法が提供される。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
なお、以下において、「純度」は、特に明記しない限り、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた値である。
合成例1
出発原料2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(1)の合成
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム40.3mmol(60%鉱油懸濁物1.61gをn−ヘキサンで鉱油を除去したもの)とトルエン50mlの混合物をかき混ぜながら加熱還流させ、これにセネシオ酸2−メチル−3−ブテン−2−イル6.76g(96.2%純度)を1時間かけて滴下した。80分間還流を続けた後、ジエチルエーテル50mlを加え、メタノール2mlを滴下した。次いで、水60mlを加え、水層を分離した。分離した水層に20%塩酸を加えて酸性にした後、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、目的物の粗生成物7.69g(収率89%)を得た。
この粗生成物は、GC分析の結果、2−イソプロピリデン−5−メチル−4−ヘキセン酸(α,β-不飽和カルンボン酸)と2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(β,γ−不飽和カルンボン酸)の45.7:54.2の混合物で合わせて78.0%純度であった。
【0070】
合成例2
出発原料2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(1)の合成
窒素雰囲気下、ヘキサメチルジシラザン117gとテトラヒドロフラン600mlの混合物を氷冷し、これに1.65M n−ブチルリチウム n−ヘキサン溶液425mlを1時間かけて滴下し、30分間かき混ぜた。次いで、混合物をかき混ぜながら−60℃まで冷却し、これにセネシオ酸2−メチル−3−ブテン−2−イル118g(97.8%純度)とテトラヒドロフラン100gの混合物を75分間で滴下した。混合物をゆっくりと室温まで上げ6時間かき混ぜ、再び氷冷した。氷冷した混合物に10%水酸化ナトリウム水溶液286gを加え、水層を分離した。分離した水層に20%塩酸400gを加えた後、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、目的物の粗生成物109.1g(94.6%純度、収率90%)を得た。
この粗生成物は、GC分析の結果、2−イソプロピリデン−5−メチル−4−ヘキセン酸(α,β−不飽和カルンボン酸)は含まれず、原料として十分な純度を有しており、このまま次の工程に用いた。
【0071】
合成例3
2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸エチルの合成
窒素雰囲気下、2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(1)200.01g(85.4%純度)、炭酸カリウム89.82g、塩化テトラブチルアンモニウム11.28gとトルエン800gの混合物をかき混ぜながら、95℃から100℃に加熱し、ジエチル硫酸191.8gを35分間で滴下した。2時間加熱を続けた後、室温まで冷却して、水510gを加えた。トルエン溶液を分取し、通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物を得た。得られた粗生成物を減圧蒸留して、目的物193.4g(99.7%純度、収率97%)を得た。
【0072】
実施例1
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(塩基性条件での異性化による合成例)
窒素雰囲気下、カリウムt−ブトキシド106gとテトラヒドロフラン800mlの混合物に、2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(1)145gとテトラヒドロフラン300mlの混合物を室温で加えた。還流下10時間かき混ぜた後、混合物を氷水にあけ、n−ヘキサンで抽出し、抽出液は廃棄した。水層に10%塩酸を加えて中和し、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物135.30g(収率93%)を得た。
この粗生成物をn−ヘキサン65gから再結晶して結晶45.76g(収率32%)と母液(再結晶後、結晶をろ別したろ液の濃縮物、以下同様。)98.64g(収率68%)を得た。出発原料、粗生成物、結晶、母液のキャピラリーGC分析およびガスクロマトグラフィー−マススクトロメトリー(GC−MS)による異性体組成分析の結果を表1に示す。
【0073】
GC条件:Column:DB−WAX(J&W Scientific社製)60mx0.25mmφ、Temp:80℃+2.5℃/分→230℃Max、Inj:230℃、Carrier:He 1ml/分、Split ratio:50:1、Detector:FID、サンプル:1〜10%のn−ヘキサンまたはジエチルエーテル希釈液。
【0074】
【表1】
【0075】
ただし、上記異性体AからGは主要な異性体でこれらの他に微小なピークが存在するため、異性体比の合計は100%とは限らない(以下同様。)。
異性体A:構造未同定 C15COOH
GC−MS(EI,70eV):28、41、55、67、81、91、107(ベースピーク)、125、135、153、168(M)。
異性体B:構造未同定 C15COOH
GC−MS(EI,70eV):27、41、55、69(ベースピーク)、81、91、107、123、135、153、168(M)。
異性体C:2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(1)(出発原料)
GC−MS(EI,70eV):27,41,53,69(ベースピーク),81,100,111,125,135,150,168(M)。
異性体D:2−イソプロピル−5−メチル−3,5−ヘキサジエン酸(2)
GC−MS(EI,70eV):27,43,53,67,81(ベースピーク),91,111,126[(M−C],153,168(M)。
異性体E:2−イソプロピリデン−5−メチル−4−ヘキセン酸(h)
GC−MS(EI,70eV):27,41,55,67,81,95,107(ベースピーク),125,135,153,168(M)。
異性体F:(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)(目的の中間体)
GC−MS(EI,70eV):27,41,55,67,81,91,107,123,135,153(ベースピーク),168(M)。
異性体G:(Z)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(j)
GC−MS(EI,70eV):27,41,55,67,81,91,107,123,135,153(ベースピーク),168(M)。
【0076】
実施例2
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(系内で生成する原料の2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸(1)合成時の塩基性条件のまま異性化させる合成例)
【0077】
【化9】
【0078】
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム125mmol(60質量%鉱油懸濁物5.00gをn−ヘキサンで鉱油を除去したもの)とトルエン30mlの混合物をかき混ぜながら加熱還流させ、これにセネシオ酸2−メチル−3−ブテン−2−イル20.0g(96.9%純度)を1時間かけて滴下した。22時間還流を続けた後、室温まで冷却してメタノール10ml、水40mlを滴下した。有機層を水で抽出した後に廃棄し、合わせた水層に20%塩酸を加えて酸性にした後、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、目的物の粗生成物20.0g(目的物3.6%純度、収率定量的)を得た。粗生成物について、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析およびGC−MSによる異性体組成分析の結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
実施例3
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(系内で生成する原料の2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸合成時の塩基性条件のまま異性化させる合成例と再結晶による単離例)
【0081】
【化10】
【0082】
窒素雰囲気下、合成例3の2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン酸エチルと2−イソプロピリデン−5−メチル−4−ヘキセン酸エチル18.2:81.8の混合物38.3gとテトラヒドロフラン150mlの混合物に室温でカリウムt−ブトキシド3.5gを加え、室温で終夜かき混ぜた。この反応混合物に25%水酸化ナトリウム水溶液60gと99.5%エタノール38gを加えた後、かき混ぜながら加熱して7.5時間還流した。25%水酸化ナトリウム水溶液100gを加え、更に15時間かき混ぜ、還流した。反応混合物を氷水にあけ、n−ヘキサンで抽出し、抽出液は廃棄した。水層に10%塩酸を加えて中和し、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物31.47g(収率95.9%)を得た。
この粗生成物をn−ヘキサンから再結晶して結晶Iを8.72g(目的物85.5%純度、収率27%)と母液Iを23.16g(収率71%)得た。得られた結晶Iを更に再結晶して、結晶II4.75g(目的物100%純度、収率15%)と母液II4.05g(収率12%)を得た。出発原料、粗生成物、結晶I、母液I、結晶II、母液IIについて、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析およびGC−MSによる異性体組成分析の結果を表3に示す。表3の出発原料は対応するエチルエステルである。また、表3の異性体AからGは、表1に記載された異性体と同じである。
【0083】
【表3】
【0084】
また、再結晶により得られた目的物、すなわち、結晶IIの物性およびスペクトルデータを下記に示す。
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)
無色結晶
融点:111.3℃
GC−MS(EI,70eV):27,41,55,67,81,91,107,123,135,153(ベースピーク),168(M)。
IR(D−ATR):ν=2959,2927,2870,2638,2574,2516,1667,1634,1586,1418,1323,1273,995cm−1
H−NMR(500MHz,CDCl):δ=1.22(6H,d,J=7.3Hz),1.89(3H,d,J=0.8Hz),1.91(3H,s),3.02−3.11(1H,m),6.26(1H,dt,J=11.8,1.2Hz),7.50(1H,d,J=11.8Hz)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=18.82,20.93(2C),27.05,27.10,120.47,133.13,135.96,146.03,174.07ppm。
【0085】
実施例4
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(異性体混合物の塩基での再異性化による合成例と再結晶による精製単離例)
【0086】
【化11】
【0087】
窒素雰囲気下、(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)を30.2%含む異性体混合物(異性体比は表4に示す。)21.0gとテトラヒドロフラン200mlの混合物を室温でかき混ぜながら、カリウムt−ブトキシド28.0gとテトラヒドロフラン100mlの混合物を加えた。混合物を加熱して還流させながら5時間かき混ぜ、室温に冷却した後に氷水にあけ、n−ヘキサンで抽出し、抽出液は廃棄した。水層に10%塩酸を加えて中和し、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物18.22g(収率87%)を得た。
この粗生成物をn−ヘキサンから再結晶して結晶1.53g(目的物96.7%純度、収率7.3%)と母液14.93g(収率71%)を得た。出発原料、粗生成物、結晶、母液について、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析およびGC−MSによる異性体組成分析の結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
実施例5
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(異性体混合物の塩基でのリサイクル再異性化による合成例)
窒素雰囲気下、実施例1で得た母液の異性体混合物(異性体比は表5に示す。)4.00gとテトラヒドロフラン20mlの混合物に室温でカリウムt−ブトキシド25.0gを加えた。反応混合物をかき混ぜながら加熱して12時間還流させた。室温まで冷却した後に氷水にあけ、n−ヘキサンで抽出し、抽出液は廃棄した。水層に10%塩酸を加えて中和し、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物3.73g(収率93%)を得た。出発原料、粗生成物について、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析およびGC−MSによる異性体組成分析の結果を表5に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
実施例6
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(異性体混合物の塩基での再異性化による合成例)
窒素雰囲気下、実施例2と同様な方法で得た異性体混合物(異性体比は表6に示す。)10.0gと99.5%エタノール40mlの混合物に室温で25%水酸化ナトリウム水溶液15.0gを加えた。反応混合物をかき混ぜながら加熱して18時間還流させた。室温まで冷却した後、反応混合物を減圧濃縮してエタノールを留去した後に氷水にあけ、n−ヘキサンで抽出し、抽出液は廃棄した。水層に10%塩酸を加えて中和し、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物9.46g(収率95%)を得た。出発原料、粗生成物について、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析およびGC−MSによる異性体組成分析の結果を表6に示す。
【0092】
【表6】
【0093】
目的の(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)およびその幾何異性体の増加はあまり進行しない、または、反応の進行が非常に遅いことが示され、異性化反応に用いる試薬の種類や条件の選択が重要であることが示された。
【0094】
実施例7
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(異性体混合物からの再結晶による精製単離例)
窒素雰囲気下、実施例4で得た母液の異性体混合物(異性体比は表7に示す。)14.93gをイソプロピルアルコール50mlから再結晶して結晶0.25g(収率2%)と母液14.18g(収率95%)を得た。出発原料、結晶、母液について、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析およびGC−MSによる異性体組成分析の結果を表7に示す。
【0095】
【表7】
【0096】
実施例8
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(イオウ試薬による異性化による合成例)
【0097】
【化12】
【0098】
窒素雰囲気下、(E)−および(Z)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を含む異性体混合物(異性体比は表8に示す。)131.1gとベンゼンチオール2.17gの混合物を100℃から120℃に加熱しながら11時間かき混ぜた。反応混合物を室温に戻して得られた粗結晶を、n−ヘキサン80gから再結晶して、結晶I64.5g(収率49%)と母液I66.42g(収率51%)を得た。得られた結晶Iをジイソプロピルエーテル100gから再び再結晶して、結晶II37.18g(収率28%)と母液II30.40g(収率23%)を得た。
出発原料、反応混合物、結晶I、母液I、結晶II、母液IIについて、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析およびGC−MSによる異性体組成分析の結果を表8に示す。
【0099】
【表8】
【0100】
実施例9
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(異性体混合物のイオウ化合物による再異性化による合成例と異性体混合物からの再結晶による精製単離例)
【0101】
【化13】
【0102】
窒素雰囲気下、実施例5で得られた粗生成物と、実施例8で得られた母液Iと母液IIとを混合して得られた(E)−および(Z)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)を含む異性体混合物(異性体比は表9に示す)100.5gとベンゼンチオール0.5gの混合物を110℃に加熱しながら7.5時間かき混ぜた。反応混合物を室温に戻して得られた粗結晶を、n−ヘキサン70mlとジイソプロピルエーテル20mlの混合物から再結晶して、結晶48.49g(収率48%)と母液53.96g(収率54%)を得た。出発原料、反応混合物、結晶、母液について、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析およびGC−MSによる異性体組成分析の結果を表8に示す。
【0103】
【表9】
【0104】
実施例10
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(異性体混合物からの再結晶による精製単離例)
(E)−および(Z)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸を含む異性体混合物(異性体比は表10に示す)41.29gをジイソプロピルエーテルから再結晶して、結晶I11.03g(収率27%)と母液I29.07g(収率70%)を得た。得られた母液Iを更にジエチルエーテルから再結晶して、結晶II3.50g(出発原料からの収率9%)と母液II25.38g(出発原料からの収率62%)を得た。出発原料、結晶I、母液I、結晶II、母液IIについて、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析およびGC−MSによる異性体組成分析の結果を表10に示す。
【0105】
【表10】
【0106】
実施例11
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)の合成
窒素雰囲気下、水素化アルミニウムリチウム20.0gとテトラヒドロフラン500mlの混合物に、氷冷下かき混ぜながら、2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)48.1g[98.0%純度、(E)−異性体純度98.1%]とテトラヒドロフラン300mlの混合物を70分間で滴下した。反応混合物を氷冷下30分間、室温で17.5時間かき混ぜた後、かき混ぜながら、順に酢酸エチル50g、水20.7g、25%水酸化ナトリウム水溶液12.42g、水70.38gを注意深く加え、生じた結晶をろ別した。ろ液を乾燥、濃縮して目的物の粗生成物54.99g[76.8%純度(溶媒を16.4%含む)、収率98%]を得た。
この粗生成物は、中間体として十分な純度を有しており、このまま次の工程に用いた。分析用サンプルとして濃縮により溶媒を除去し、得られた目的物の物性およびスペクトルデータを下記に示す。
【0107】
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)
無色液体
GC−MS(EI,70eV):27,43,55,69,81,93,111(ベースピーク),123,139,154(M)。
IR(D−ATR):ν=3326,2962,2924,2871,1652,1615,1447,1379,1362,1077,1060,1043,996cm−1
H−NMR(500MHz,CDCl):δ=1.08(6H,d,J=7.3Hz),1.77(3H,s),1.81(3H,s),2.95−3.04(1H,m),4.16(2H,s),6.08(1H,dt,J=11.5,1.3Hz),6.20(1H,d,J=11.5Hz)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=18.10,21.38(2C),26.49,28.07,64.36,119.90,121.15,135.81,143.18ppm。
【0108】
実施例12
酢酸(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニル(4)の合成
窒素雰囲気下、実施例11で得られた2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエノール(3)54.9g(76.8%純度)、ピリジン56.0g、アセトニトリル300mlの混合物に、氷冷下かき混ぜながら、無水酢酸60.0gを5分間で滴下した。反応混合物を氷冷で1時間、室温で17.5時間かき混ぜた。反応混合物に氷水を加え、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル溶液を洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により目的物の粗生成物55.84gを得た。
この粗生成物を減圧蒸留して、目的物47.70g[93.4−96.6%純度(GC中で酢酸の脱離が起こるため実際の純度は、これらの値より大きい)、(E)−異性体純度98.0〜99.2%、収率75%]を得た。得られた目的物の物性およびスペクトルデータを下記に示す。
【0109】
酢酸2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエニル(4)
沸点:101−102℃/665Pa
EI−MS(70eV):27,43,55,67,77,93,105,121(ベースピーク),136,196(M)。
CI−MS(70eV,イソブタン):137[ベースピーク、(M−AcOH+H)]。
IR(D−ATR):ν=2964,2929,2873,1739,1651,1449,1375,1357,1232,1020cm−1
H−NMR(500MHz,CDCl):δ=1.05(6H,d,J=6.9Hz),1.76(3H,s),1.81(3H,s),2.05(3H,s),2.96−3.04(1H,m),4.59(2H,s),6.07(1H,dt,J=11.5,1.3Hz),6.21(1H,d,J=11.5Hz)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=18.16,21.16,21.21(2C),26.49,28.07,66.57,119.78,125.10,137.19,137.55,170.84ppm。
【0110】
比較例1
(E)−2−イソプロピル−5−メチル−2,4−ヘキサジエン酸(2)の合成
(イオウ化合物による異性化による合成例)
窒素雰囲気下、2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキサセン酸(1)5.0g(異性体純度99.5%)とベンゼンチオール40mgの混合物を100℃から120℃に加熱しながら5時間かき混ぜた。反応混合物について、実施例1と同様の条件でのキャピラリーGC分析の結果、反応混合物は2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキサセン酸の異性体比が99.6%であり、異性化はほとんど進行しない、または、反応の進行が非常に遅いことが示され、上記のように塩基による異性化とイオウ化合物により異性化を順次組み合わせることが重要であることが示された。