特許第6208475号(P6208475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6208475レーザ周波数測定装置及びレーザ安定化判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208475
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】レーザ周波数測定装置及びレーザ安定化判定方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/00 20060101AFI20170925BHJP
   H01S 3/137 20060101ALI20170925BHJP
   G01J 9/02 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H01S3/00 G
   H01S3/137
   G01J9/02
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-129488(P2013-129488)
(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公開番号】特開2015-5601(P2015-5601A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 和彦
【審査官】 林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−528834(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/151062(WO,A1)
【文献】 特開2012−004426(JP,A)
【文献】 特開2012−038833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
G01J 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数間隔及び所定のオフセット周波数にて複数の縦モードを含む光を出力する光周波数コムと、
前記光周波数コムから出力される前記光と、レーザ装置から出力されたレーザ光と、の干渉光を光電変換した信号を出力する受光部と、
前記受光部からの前記信号に応じて仮のビート周波数を検出し、前記仮のビート周波数に基づいて前記レーザ光が所望の周波数範囲に安定化されているかを判定する演算部と、を備え、
前記レーザ装置では、吸収線のいずれかを基準として前記レーザ光が安定化され、
前記演算部は、前記仮のビート周波数が所定値の範囲である場合に、前記レーザ光が所望の周波数範囲に安定化されていると判定し、前記受光部からの前記信号に応じてビート周波数を測定する、
レーザ周波数測定装置。
【請求項2】
前記レーザ装置では、ヨウ素の吸収線のいずれかを基準として前記レーザ光が安定化される、
請求項1に記載のレーザ周波数測定装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記仮のビート周波数が、前記所定値の範囲ではない場合、仮のビート周波数を再度取得し、
再度取得した前記仮のビート周波数が、前記所定値の範囲である場合に前記レーザ光が所望の周波数範囲に安定化されていると判定し、前記受光部からの前記信号に応じてビート周波数を測定する、
請求項1又は2に記載のレーザ周波数測定装置。
【請求項4】
前記演算部は、所定の期間において前記ビート周波数の値を複数取得し、取得した複数の値の平均値を、前記ビート周波数として算出する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーザ周波数測定装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記ビート周波数の測定に要する時間よりも短い時間で前記仮のビート周波数を検出する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレーザ周波数測定装置。
【請求項6】
前記所定値は、前記レーザ光の安定化の基準となる前記吸収線に対応するビート周波数と、他の吸収線に対応するビート周波数と、の間の周波数差よりも小さい、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のレーザ周波数測定装置。
【請求項7】
前記演算部は、
前記受光部からの前記信号に基づいて前記仮のビート周波数及び前記ビート周波数を検出するビート周波数検出部と、
前記仮のビート周波数が前記所定の範囲内であるかを判定する判定部と、を備える、
請求項乃至のいずれか一項に記載のレーザ周波数測定装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記所定の周波数間隔及び前記所定のオフセット周波数に基づいて、前記レーザ光の周波数を算出する周波数算出部を更に備える、
請求項に記載のレーザ周波数測定装置。
【請求項9】
前記所定の周波数間隔及び前記所定のオフセット周波数を前記光周波数コム及び前記周波数算出部に設定し、前記レーザ光の周波数を算出するための前記光周波数コムの次数を前記周波数算出部に設定する制御部を更に備える、
請求項に記載のレーザ周波数測定装置。
【請求項10】
前記演算部は、前記次数に前記所定の周波数間隔を乗じた値に前記所定のオフセット周波数を加えて、前記レーザ光の周波数を算出する、
請求項に記載のレーザ周波数測定装置。
【請求項11】
所定の周波数間隔及び所定のオフセット周波数にて複数の縦モードを含む光を、光周波数コムに出力させ、
前記光周波数コムから出力される前記光と、レーザ装置から出力されたレーザ光と、の干渉光を光電変換した信号を生成し、
前記信号に応じて仮のビート周波数を検出し、
前記レーザ装置では、吸収線のいずれかを基準として前記レーザ光が安定化され、
前記仮のビート周波数が前記レーザ光の安定化の基準となる吸収線から所定値の範囲である場合に、前記レーザ光が所望の周波数範囲に安定化されていると判定し、
前記信号に応じてビート周波数を測定する、
レーザ安定化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ周波数測定装置及びレーザ安定化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光周波数コム(光コムとも称される)は、複数の周波数の光が等しい周波数間隔で位相同期して発振するレーザである(特許文献1、非特許文献1)。以下、光周波数コムの縦モードの周波数間隔をfrep、発振スペクトルの周波数を仮想的にゼロまで延長した時に残るオフセット成分であるオフセット周波数をfCEOとする。光周波数コムの発振周波数fcombは、周波数間隔frepとオフセット周波数fCEOとを用いて、以下の式(1)で表される。なお、nは、光周波数コムのモード次数を示す0以上の整数である。
【数1】
【0003】
光周波数コムは、外部のレーザ装置から出力されるレーザ光の絶対周波数を求める場合に、基準周波数を与える手段として用いることができる。以下、光周波数コムを使った周波数測定について、簡単に説明する。図8は、光周波数コムと測定対象となるレーザ光の絶対周波数との関係を示すスペクトル図である。
【0004】
光周波数コムと測定対象のレーザ光とを干渉させてビート周波数fbeatを測定する場合、周波数間隔frepとオフセット周波数fCEOとは図8に示した関係にある。図8では、k(kは、整数)次の周波数成分をνと表示している。そのため、測定対象のレーザ光の絶対周波数νlaserは、以下の式(2)で表される。
【数2】
【0005】
ここで、レーザ周波数を測定する具体的な手順を説明する。まず、測定したいレーザ光と光周波数コムの出力光とを干渉させ、干渉光をフォトディテクタで受光し、ビート信号を得る。この場合、ビート信号は、ビート周波数fbeatの成分だけでなく、周波数間隔frepやビート周波数fbeatと共役な周波数fconなどの周波数成分を含む。そこで、適度な帯域のバンドパスフィルタで周波数間隔frep以外の周波数信号を遮断し、周波数カウンタで周波数スペクトルを得る。このとき、ビート周波数fbeatは、測定対象のレーザ光の絶対周波数と光周波数コムの周波数間隔frepとの値に応じて、その都度変化する。したがって、実際にビート周波数fbeatを測定する場合には、光周波数コムとレーザ光のビート周波数fbeatをスペクトルアナライザなどで観察しながら、ビート周波数fbeatがバンドパス通過帯域に入るように周波数間隔frepを調整する。ビート周波数fbeatは、周波数カウンタにより数値データとして取得される。そして、次数nを特定した後に、ビート周波数fbeatを式(2)に代入することで、レーザ光の絶対周波数νlaserを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−332431号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hajime Inaba et al., “Long-term measurement of optical frequencies using a simple, robust and low-noise fiber based frequency comb”, Optics Express, 12 June 2006, Vol. 14, Issue 12, pp.5223-5231
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、発明者は、上述の手法には以下に示す問題点が有ることを見出した。通常、レーザ光の絶対周波数を測定する場合、数千秒以上の期間のデータを取得して周波数安定度を求めたり、平均値を使って絶対周波数を算出したりする。しかし、レーザ装置の操作ミスや、装置の誤作動、振動などの外乱によって、レーザ装置から出力されるレーザ光が所定の周波数に正しく安定化されていない場合が生じ得る。測定対象のレーザが所定の周波数で正しく安定していない状態で絶対周波数の測定を行ってしまうと、レーザ装置を安定化し直して再度数千秒の期間のデータを再度取得しなければならない。すなわち、上述の手法では、レーザ装置の状態によっては、レーザの絶対周波数測定に多大な時間を要する場合が生じてしまう。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、光周波数コムを用いて、測定対象のレーザが所望の周波数範囲内で安定化しているか否かを簡単に短時間でかつ確実に判定することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様であるレーザ周波数測定装置は、所定の周波数間隔及び所定のオフセット周波数にて出力する光周波数コムと、前記光周波数コムから出力される前記光と、レーザ装置から出力されたレーザ光と、の干渉光を光電変換した信号を出力する受光部と、前記受光部からの前記信号に応じてビート周波数を検出し、前記ビート周波数に基づいて前記レーザ光が所望の周波数範囲に安定化されているかを判定する演算部と、を備えるものである。これにより、光コムの次数を特定して式(2)を使って計算を行わなくても、ビート周波数を確認するだけで、レーザ光の絶対周波数を確認することができ、短時間でレーザ装置の絶対周波数を確実に測定することができる。
【0011】
本発明の第2の態様であるレーザ周波数測定装置は、上記のレーザ周波数測定装置であって、前記演算部は、前記ビート周波数が所定の範囲内である場合に、前記レーザ光が所望の周波数範囲に安定化されていると判定するものである。これにより、光コムの次数を特定して式(2)を使って計算を行わなくても、ビート周波数を確認するだけで、レーザ光の絶対周波数を確認することができ、短時間でレーザ装置の絶対周波数を確実に測定することができる。
【0012】
本発明の第3の態様であるレーザ周波数測定装置は、上記のレーザ周波数測定装置であって、前記レーザ装置は、前記レーザ光をヨウ素の吸収線のいずれかを基準として安定化するものである。これにより、光コムの次数を特定して式(2)を使って計算を行わなくても、ビート周波数を確認するだけで、レーザ光の絶対周波数を確認することができ、短時間でレーザ装置の絶対周波数を確実に測定することができる。
【0013】
本発明の第4の態様であるレーザ周波数測定装置は、上記のレーザ周波数測定装置であって、前記所定の範囲は、前記レーザ光の安定化の基準となる吸収線から所定値の範囲であるものである。これにより、光コムの次数を特定して式(2)を使って計算を行わなくても、ビート周波数を確認するだけで、レーザ光の絶対周波数を確認することができ、短時間でレーザ装置の絶対周波数を確実に測定することができる。
【0014】
本発明の第5の態様であるレーザ周波数測定装置は、上記のレーザ周波数測定装置であって、前記所定値は、前記レーザ光の安定化の基準となる前記吸収線に対応するビート周波数と、他の吸収線に対応するビート周波数と、の間の周波数差よりも小さいものである。これにより、光コムの次数を特定して式(2)を使って計算を行わなくても、ビート周波数を確認するだけで、レーザ光の絶対周波数を確認することができ、短時間でレーザ装置の絶対周波数を確実に測定することができる。
【0015】
本発明の第6の態様であるレーザ周波数測定装置は、上記のレーザ周波数測定装置であって、前記演算部は、前記受光部からの前記信号に基づいて前記ビート周波数を検出するビート周波数検出部と、前記ビート周波数が前記所定の範囲内であるかを判定する判定部と、を備えるものである。これにより、光コムの次数を特定して式(2)を使って計算を行わなくても、ビート周波数を確認するだけで、レーザ光の絶対周波数を確認することができ、短時間でレーザ装置の絶対周波数を確実に測定することができる。
【0016】
本発明の第7の態様であるレーザ周波数測定装置は、上記のレーザ周波数測定装置であって、前記演算部は、前記所定の周波数間隔及び前記オフセット周波数に基づいて、前記レーザ光の周波数を算出する周波数算出部を更に備えるものである。これにより、簡単かつ短時間でレーザ光の絶対周波数を確認した後に、レーザ光の絶対周波数を算出することができる。
【0017】
本発明の第8の態様であるレーザ周波数測定装置は、上記のレーザ周波数測定装置であって、前記所定の周波数間隔及び前記所定のオフセット周波数を前記光周波数コム及び前記周波数算出部に設定し、前記レーザ光の周波数を算出するための前記光周波数コムの次数を前記周波数算出部に設定する制御部を更に備えるものである。これにより、レーザが所定の周波数の範囲内で安定化されているかどうかを短時間かつ簡単に確認した後に、レーザ光の絶対周波数を算出することができる。
【0018】
本発明の第9の態様であるレーザ周波数測定装置は、上記のレーザ周波数測定装置であって、前記演算部は、前記次数に前記所定の周波数間隔を乗じた値に前記所定のオフセット周波数を加えて、前記レーザ光の周波数を算出するものである。これにより、レーザが所定の周波数の範囲内で安定化されているかどうかを短時間かつ簡単に確認した後に、レーザ光の絶対周波数を算出することができる。
【0019】
本発明の第10の態様であるレーザ安定化判定方法は、所定の周波数間隔及び所定のオフセット周波数にて複数の縦モードを含む光を、光周波数コムに出力させ、前記光周波数コムから出力される前記光と、レーザ装置から出力されたレーザ光と、の干渉光を光電変換した信号を生成し、前記信号に応じてビート周波数を検出し、前記ビート周波数に基づいて前記レーザ光が所望の周波数範囲に安定化されているかを判定するものである。これにより、レーザが所定の周波数の範囲内で安定化されているかどうかを短時間かつ簡単に確認した後に、レーザ光の絶対周波数を算出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光周波数コムを用いて短時間でレーザ装置が所望の周波数範囲内で安定化しているか否かを簡単に短時間でかつ確実に判定することができる。
【0021】
本発明の上述及び他の目的、特徴、及び長所は以下の詳細な説明及び付随する図面からより完全に理解されるだろう。付随する図面は図解のためだけに示されたものであり、本発明を制限するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施の形態1にかかるレーザ周波数測定装置100の構成を模式的に示す構成図である。
図2】実施の形態1にかかるレーザ周波数測定装置100の構成をより詳細に示す構成図である。
図3】レーザ周波数測定装置100のレーザ周波数測定を示すフローチャートである。
図4】ヨウ素のd線、e線、f線、g線、h線の吸収線のそれぞれに安定化したヨウ素安定化He−Neレーザと光周波数コムを干渉させた場合に発生するビート周波数の例を示す図である。
図5図4で示した周波数をスペクトルアナライザでスペクトル図として観測される様子を模式的に示す図である。
図6】ヨウ素の吸収線であるa10線近傍のa8線、a9線、a10線、a11線、a12線に安定化したレーザと光周波数コムのビート周波数を示す図である。
図7図6のビート周波数を周波数スペクトルで表した図である。
図8】光周波数コムと測定対象となるレーザの絶対周波数との関係を示すスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面においては、同一要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
【0024】
実施の形態1
まず、実施の形態1にかかるレーザ周波数測定装置100について説明する。図1は、実施の形態1にかかるレーザ周波数測定装置100の構成を模式的に示す構成図である。レーザ周波数測定装置100は、光周波数コム1、受光部5、演算部6を有する。光周波数コム1は、n次の周波数が前述の式(1)で示される光を出力する。ここでは、複数の縦モードを含む光周波数コム1の出力光を、光L1とする。
【0025】
レーザ装置2は、周波数測定の対象となるレーザ光L2を出力する。レーザ光L2は光L1と干渉し、光L3として受光部5に入射する。受光部5は、受光した光を光電変換し、電気信号SIGを出力する。演算部6は、受光部5からの電気信号SIGに基づいて、ビート周波数fbeatを測定する。そして、演算部6は、ビート周波数fbeatが所定の範囲内であるかを判定し、判定結果に応じてレーザ光L2の絶対周波数νlaserを算出する。
【0026】
続いて、レーザ周波数測定装置100の構成をより詳細に説明する。図2は、実施の形態1にかかるレーザ周波数測定装置100の構成をより詳細に示す構成図である。レーザ周波数測定装置100は、光周波数コム1、ミラー3、ビームスプリッタ4、受光部5、演算部6及び制御部7を有する。
【0027】
ビームスプリッタ4は、光周波数コム1と受光部5との間に配置される。光L1の一部は、ビームスプリッタ4を透過し、受光部5へ向けて伝搬する。レーザ光L2は、ミラー3で反射され、ビームスプリッタ4に入射する。レーザ光L2の一部は、ビームスプリッタ4で反射され、受光部5へ向けて伝搬する。これにより、ビームスプリッタ4と受光部5との間では、光L1とレーザ光L2とが干渉し、光L3となる。
【0028】
演算部6は、ビート周波数測定部61、判定部62及び周波数算出部63を有する。ビート周波数測定部61は、受光部5からの電気信号SIGに基づいて、ビート周波数を測定する。ビート周波数測定部61には、周波数フィルタfbeatやレベル調整手段を有しており、ビート周波数測定に不要な高調波などを除去し、ビート周波数fbeatを高精度に測定できる構成としてもよい。ビート周波数測定部61は、ビート周波数fbeatを判定部62に出力する。判定部62は、ビート周波数測定部61から入力する仮のビート周波数fbeat_rが所定の範囲内であるかを判定する。判定部62は、判定結果を、制御信号CON1によりビート周波数測定部61へ通知し、制御信号CON2により周波数算出部63へ通知する。周波数算出部63は、判定部62での判定結果を示す制御信号CON2に応じて、レーザ装置2が出力するレーザ光L2の絶対周波数νlaserを算出する。
【0029】
演算部6は、コンピュータなどのハードウェア資源を用いて構成することができる。この場合、ビート周波数測定部61、判定部62及び周波数算出部63が行う動作を規定するプログラムをコンピュータに実行させることで、演算部6を実現できる。
【0030】
制御部7は、光周波数コム1及び周波数算出部63に、必要なパラメータを出力する。 制御部7は、コンピュータなどのハードウェア資源を用いて構成することができる。この場合、制御部7が行う動作を規定するプログラムをコンピュータに実行させることで、制御部7を実現できる。
【0031】
続いて、レーザ周波数測定装置100のレーザ周波数測定について説明する。図3は、レーザ周波数測定装置100のレーザ周波数測定を示すフローチャートである。
【0032】
ステップS1
制御部7は、光周波数コム1を起動する。そして、制御部7は、光周波数コム1にビート周波数fbeatとオフセット周波数fCEOとを設定し、光L1の出力を安定化させる。また、制御部7は、ビート周波数fbeat、オフセット周波数fCEO及び絶対周波数νlaserの算出に用いる次数nを、演算部6の周波数算出部63に出力する。
【0033】
ステップS2
制御部7は、レーザ装置2を起動し、レーザ光L2の出力を安定化させる。
【0034】
ステップS3
演算部6のビート周波数測定部61は、受光部5からの電気信号SIGを用いて、ビート周波数を確認する。ビート周波数測定部61は、電気信号SIGが示すスペクトルから、仮のビート周波数fbeat_rを取得する。この際、ビート周波数fbeat_rを取得する精度は、ビート周波数fbeat_rが±100[kHz]程度の範囲に収まっているかを確認できる程度でよい。
【0035】
ステップS4
演算部6の判定部62は、仮のビート周波数fbeat_rが、最小値fminから最大値fmaxの範囲に入っているか(fmin≦fbeat_r≦fmax)を判定する。fmin>fbeat_r又はfbeat_r>fmaxの場合、NG判定として、レーザ装置2が想定した周波数の範囲内で正しく発振しているかどうかを確認し、ステップS3を再試行する。判定部62は、制御信号CON1を用いて、ビート周波数測定部61に仮のビート周波数fbeat_rを再度取得させることができる。
【0036】
ステップS5
min≦fbeat_r≦fmaxの場合、判定部62は、レーザ装置2が想定した周波数の範囲内で正しく発振しているものとして、制御信号CON1を用いて、ビート周波数測定部61にビート周波数fbeatを算出させる。ビート周波数測定部61は、高精度の測定を行うため、数千秒以上の期間で複数の値を取得し、取得した値の平均値を使ってビート周波数fbeatを算出する。
【0037】
ステップS6
演算部6の周波数算出部63は、制御信号CON2を受けて、式(2)を用いて、レーザ装置2が出力するレーザ光の絶対周波数νlaserを算出する。そして、周波数算出部63は、算出した絶対周波数νlaserを、外部の表示装置(不図示)などに出力する。
【0038】
以上説明したように、レーザ周波数測定装置100では、ステップS4で仮のビート周波数fbeat_rが最小値fminからfmaxの範囲に入っているかを判定することで、レーザ装置2が想定される周波数範囲内で発振しているかどうかを判断している。以下、この判定の原理について説明する。
【0039】
光周波数コムで周波数を測定するレーザとしては、一般に、発振周波数の不確かさが比較的小さい分子吸収線に安定化させたレーザが用いられる。具体的には、長さ標準用のレーザに着目すると、国際度量衡委員会(CIPM:Comite International des Poids et Mesures)の勧告にあるように、ヨウ素の吸収線であるf線に安定化されたHe−Neレーザなどが挙げられる。よって、ここでは、レーザ装置2がヨウ素安定化He−Neレーザである場合について説明する。
【0040】
ヨウ素安定化He−Neレーザの安定化に用いられる吸収線であるf線の周波数は、CIPMの1997年勧告によれば、473,612,353,597[kHz]である。f線に安定化されたレーザの周波数は、温度やレーザ出力、調整の具合等で勧告値の周波数からずれることがあるが、その量は大きくてもせいぜい数百kHz程度である。
【0041】
図4は、ヨウ素のd線、e線、f線、g線、h線の吸収線のそれぞれに安定化したヨウ素安定化He−Neレーザと光周波数コムを干渉させた場合に発生するビート周波数の例を示す図である。図5は、図4で示した周波数をスペクトルアナライザでスペクトル図として観測される様子を模式的に示す図である。図4及び図5では、周波数間隔frepを98,399,985[Hz]、オフセット周波数fCEOを10,194,010[Hz]に設定した場合の例である。
【0042】
上述したように、吸収線に安定化した際に生じる誤差は大きくても数百kHzである。したがって、ビート周波数信号を周波数カウンタに入力して得られる数値や、スペクトアナライザで観測されるスペクトルを見れば、どの吸収線に安定化されて発振しているかを識別することができる。
【0043】
図4及び図5に示すように、f線に安定化されたレーザ光に対応するビート周波数fbeatは30,000,000[Hz]である。f線に正しく安定化されたレーザを測定する場合には、30[MHz]を中心とした±100[kHz]程度の範囲内のビート周波数を測定することになる。
【0044】
一方、f線の近傍には、複数の他の吸収線が存在する。たとえば、f線に隣接する吸収線であるe線の周波数は473,612,366,960[kHz]、g線の周波数は473,612,400,399[kHz]である。レーザ装置2が誤ってd線、e線、g線、h線のいずれかに安定化された場合には、d線、e線、g線、h線に対応するビート周波数は、それぞれ42,175,985[Hz]、43,363,000[Hz]、16,802,000[Hz]、11,446,985[Hz]となる。これらはすべて、30,000,000 ±100,000[Hz]の範囲外である。したがって、たとえ誤って別の吸収線に安定化されていたとしても、ビート周波数の数値から簡単に検出することができる。
【0045】
よって、ステップS4において、仮のビート周波数fbeatが30,000,000±100,000[Hz]内に収まっているかを判定することで、レーザ装置2がヨウ素のf線に安定化されているかを判定できることが理解できる。
【0046】
一般に行われるレーザの周波数測定と同様に、本実施の形態ステップS5でもビート周波数fbeatを数千秒程度の時間において、測定する。しかし、手前のステップS4にてレーザの安定化状態を判定しているので、レーザが不安定な状態で長時間を要するビート周波数fbeatを算出してしまう事態を防止できる。
【0047】
上述のように、一般的なレーザ光の絶対周波数測定では、初期の光周波数コムの次数が不明である。そのため、仮の絶対周波数値と測定したビート周波数の値を使って式(2)の演算を行って光周波数コムの次数を決定し、レーザが所望の吸収線に安定化されているかを確認する必要が有った。これに対し、本構成によれば、仮の絶対周波数値と測定したビート周波数値を使って光コムの次数を決定せずとも、周波数測定の対象となるレーザ装置が所望の周波数領域に安定化されているかを判定することができる。つまり、ビート周波数の値を確認するだけでよいので、短時間でレーザの安定化状態を判定することができる。
【0048】
実施の形態2
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態1ではレーザ装置2がヨウ素安定化He−Neレーザである例について説明したが、本実施の形態では、レーザ装置2がヨウ素安定化Nd;YAGレーザである場合について説明する。この場合、ヨウ素安定化Nd;YAGレーザは、ヨウ素の吸収線であるa10線に対し安定化され、波長532nmかまたはその基本波の1064nmのレーザ光を出力する。
【0049】
図6は、ヨウ素の吸収線であるa10線近傍のa8線、a9線、a10線、a11線、a12線に安定化したレーザと光周波数コムのビート周波数を示す図である。図7は、図6のビート周波数を周波数スペクトルで表した図である。図6及び図7では、周波数間隔frepを98,399,980[Hz]、オフセット周波数fCEOを11,996,800[Hz]に設定した場合の例である。
【0050】
図6及び図7に示すように、a10線に対応するビート周波数fbeatは、理想的には30,000,000[Hz]である。このときの光周波数コムの次数nは5,724,190である。a10線に安定化されたレーザの周波数は、測定環境は装置自身の誤差要因によってずれることになるが、その量は大きくても±100[kHz]程度である。
【0051】
従って、a10線に安定化したNd:YAGレーザの周波数を測定する場合には、その時に得られたビート周波数が30MHzか否かを確認することで、レーザが正しい吸収線に安定化されているかどうかを瞬時に判断することができる。もし、ビート周波数が30 MHzでない場合には、他の吸収線に誤って安定化されている可能性が高いため、レーザの安定化の状態を再度確認することになる。
【0052】
なお、本実施の形態ではヨウ素安定化Nd;YAGについて説明したが、ヨウ素安定化Nd;YVOレーザをヨウ素のa10線に安定化したレーザであっても、所定の吸収線に安定化されているかどうかを同様に識別することができる。
【0053】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。上述の原点信号発生回路は例示に過ぎない。例えば、上述の実施の形態では、演算部6及び制御部7を別々の構成として説明したが、1つのハードウェアとして構成してもよい。
【0054】
また、上述では、レーザ装置2が出力するレーザ光をf線又はa10線に安定化させる例について説明したが、他の吸収線に安定化させることを妨げるものではない。
【0055】
また、上述では、レーザ装置2として、ヨウ素安定化He−Neレーザ、ヨウ素安定化Nd;YAG、ヨウ素安定化Nd;YVOレーザについて説明したが、これは例示に過ぎない。レーザ周波数の安定化の対象となる離散した複数の吸収線を有する限り、他のレーザ装置を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0056】
100 レーザ周波数測定装置
1 光周波数コム
2 レーザ装置
3 ミラー
4 ビームスプリッタ
5 受光部
6 測定部
7 制御部
61 ビート周波数測定部
62 判定部
63 周波数算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8