特許第6208495号(P6208495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208495
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】酒精含有調味料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/24 20160101AFI20170925BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20170925BHJP
【FI】
   A23L27/24
   A23L27/10 C
   A23L27/10 H
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-165251(P2013-165251)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2015-33340(P2015-33340A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100125542
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 英之
(72)【発明者】
【氏名】丹 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏子
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−005164(JP,A)
【文献】 特開昭58−005165(JP,A)
【文献】 特開2001−046013(JP,A)
【文献】 特開2012−095596(JP,A)
【文献】 特開2012−187096(JP,A)
【文献】 特開2006−166876(JP,A)
【文献】 特開昭48−022693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/40、27/60
A23L 23/、A23L 19/、A23L5/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマトエキスと、α化米またはみりん粕のうちいずれか一方と、糖化酵素と、食塩を含有する混合液を、酵母で発酵させた発酵物であることを特徴とする酒精含有調味料。
【請求項2】
トマトエキスの添加量が10〜20%(w/v)である請求項1記載の混合液を、酵母で発酵させた発酵物であることを特徴とする請求項1記載の酒精含有調味料。
【請求項3】
α化米またはみりん粕のうちいずれか一方の添加量が10〜22%(w/v)である請求項1記載の混合液を、酵母で発酵させた発酵物であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の酒精含有調味料。
【請求項4】
トマトエキス10〜20%(w/v)と、α化米またはみりん粕のうちいずれか一方を10〜22%(w/v)と、糖化酵素と、食塩を含有する混合液を、酵母で発酵させることを特徴とする酒精含有調味料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンソメスープ等の洋食の調理において、食品の風味や旨味の増強等洋食の調理適性に優れた酒精含有調味料に関する。さらに詳しくは、トマトの好ましい香気を持つ、新規なコンソメスープ等の洋食に適した酒精含有調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
みりん、清酒、酒精含有調味料は、様々な煮物や照焼き等の日本食において、例えば、照焼き等の照りツヤを良くする、煮崩れを防ぐ、煮物等の風味や旨味を増す、魚の生臭み等の嫌な臭いを除去する等、様々な調理効果を高めるために利用されている。しかしながら、これらの酒精含有調味料は、煮物や照焼き等の日本食の加工調理用としての適性には優れているが、コンソメスープ等の洋食の調味料として用いるためには、風味が合わない、あるいは、旨味が足りない等の問題があり、満足いくものではない。ここで、日本食とは、日本料理とも呼ばれ、日本でなじみの深い食材を用い、日本の国土、風土の中で独自に発達した料理をいい、また、洋食とは、フランス料理等の西洋料理及び西洋風の料理をいう。
【0003】
従来、コンソメスープ等の洋食の加工調理用として用いられている酒精含有調味料としては、ワイン、あるいは、ワインを不可飲処理したワイン風調味料があるが、スープ等の洋食を調理する際に、日本食におけるみりんや清酒等のような旨味付与等の調理効果を期待することができ、汎用性のある酒精含有調味料はないのが現状である。実際、スープやソース等の洋食の調理においては、ブイヨンスープの風味付けのための白ワインやビーフシチューソースの調理における赤ワイン等のように市販の料理本等で、白ワインあるいは赤ワインを用いて調理することが紹介されている。しかし、ワインを酒精含有調味料として用いる場合には、ワイン独特の風味、甘さや色調等から、使用できる洋食の種類が限られてしまうとともに、エキス分、旨味成分等が少ないため、十分な旨味付与等の調理効果を期待できないという問題がある。一方、食塩やアミノ酸等の旨味成分をワインに加え、不可飲処理したワイン風調味料があるが、やはりワイン独特の風味が強いため、様々な洋食に対する汎用性がないのが現状である。
【0004】
これらの問題を解決するために、スープやソース等の洋食の加工調理に汎用されているトマト搾汁やトマトエキスを酵母で発酵させることにより、原料のトマトの風味と旨味を活かした酒精を含有する調味料が提案されている。
【0005】
例えば、トマト等の野菜の搾汁液に、麹と酵母を混合して発酵、熟成した後、固液分離した発酵調味液が提案されている(例えば、特許文献1〜2参照)。しかし、野菜汁に麹を混合して発酵、熟成させた野菜発酵調味料は、麹菌由来の麹臭が強いため、コンソメスープのような香りや風味が重要な洋食に向かないという欠点を有する。また、トマトに食塩を加え、pHを調整し、醤油酵母(例えば、Zygosaccharomyces rouxii等)で発酵・熟成させることにより得られる、醤油の香気成分として特徴的なハイドロキシエチルメチルフラノン(HEMF)の香気が豊かな醤油様調味料が提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、この醤油調味料は、醤油酵母を用いて発酵・熟成することから、醤油香気が非常に強くなり、トマトの風味を生かす調味料としては、トマトの香りが物足りないという課題がある。一方、トマトを酵母発酵させたトマト酒を、酒精含有調味料として洋食の調理に使用することもできる。トマト酒は、トマト搾汁液、あるいは、トマト搾汁液を遠心分離等により固形物を除去したトマト上澄液(トマトエキスともいう)にブドウ糖等を混合して酵母発酵して製造することができる(例えば、特許文献4〜5参照)。しかし、トマト酒を酒精含有調味料として使用する場合、アミノ酸等の旨味成分やエキス分等が少ないため、十分な調理効果が期待できないという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特許第3522599号公報
【特許文献2】特開2005−157号公報
【特許文献3】特許第5101727号公報
【特許文献4】特開昭62−91175号公報
【特許文献5】特開2005−176727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コンソメスープ等の洋食の調理加工の際に、洋食に簡便にトマトの風味を付与でき、さらに、洋食の異臭の除去、味なれ効果、保湿効果等の様々な機能が期待される、コンソメスープ等の洋食の加工調理に適した酒精含有調味料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決する手段として、トマト搾汁を遠心分離して固形分を除去して得られる上澄液(以下、トマトエキスという)に、α化米またはみりん粕、及び、糖化酵素、食塩等を混合し、酵母で発酵することで、旨味成分であるアミノ酸含量やエキス分が多く、呈味性に優れ、しかも、トマトの風味を持つ、スープ等の洋食に適した酒精含有調味料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。また、該酒精含有調味料をコンソメスープ等の洋食に用いた場合、洋食の風味や旨味が増強され、該酒精含有調味料がコンソメスープ等の洋食の加工調理に適していることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)トマトエキスと、α化米またはみりん粕のいずれか一方と、糖化酵素と、食塩を含有する混合液を、酵母で発酵させてなることを特徴とする酒精含有調味料、
(2)トマトエキスの添加量が10〜20%(w/v)である上記(1)記載の混合液を、酵母で発酵させてなることを特徴とする上記(1)記載の酒精含有調味料、
(3)α化米またはみりん粕のうちいずれか一方の添加量が10〜22%(w/v)である上記(1)記載の混合液を、酵母で発酵させてなることを特徴とする上記(1)または(2)のいずれかに記載の酒精含有調味料、
(4)トマトエキス10〜20%(w/v)と、α化米またはみりん粕のうちいずれか一方を10〜22%(w/v)と、糖化酵素と、食塩を含有する混合液を、酵母で発酵させることを特徴とする酒精含有調味料の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コンソメスープ等の洋食の調理において汎用されるワインやワイン風調味料と比較して、原料トマトの香り等の風味が豊かで、且つ、アミノ酸度、エキス分が高く、甘味、トマトの風味の付与、さらに、脱臭、味なれ等の優れた効果を有する洋食の調理特性に優れた酒精含有調味料を提供することができる。また、トマト搾汁またはトマトエキスを乳酸菌、麹菌、あるいは、酵母で発酵させた調味料やトマト酒と比較して、トマトから由来する青臭み等の嫌な臭いがなく、みりん様の香りとトマトの香りや風味に優れた洋食向けの酒精含有調味料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本発明の酒精含有調味料とは、つゆ・たれ等の日本食の調理に汎用される清酒、みりんのように、コンソメスープのような洋食の風味付けに適した、酒精を含有する発酵調味料である。
具体的には、本発明の酒精含有調味料は、α化米またはみりん粕に、トマトエキス、あるいは、その濃縮物と、糖化酵素、食塩を加えた混合液を酵母で発酵させて得られ、コンソメスープ等の洋食の調味料として好適な、トマトの風味を持つ酒精含有調味料である。
【0012】
本発明でいうトマトエキスとは、トマトから得られるトマト搾汁を、遠心分離等の処理により固形分を除去して得られる上澄液、さらには、その上澄液を精密膜ろ過(MF)して、例えば0.1〜10μm程度の懸濁粒子を分離した透過液、または限外ろ過膜(UF)処理等して得られる透過液のことであり、これらの上澄液、あるいは、透過液を濃縮したものが、トマトエキスの濃縮物である。トマト搾汁とは、例えば、トマト、あるいは、クラッシャー、ミキサー、フードプロセッサー、パルパーフィニッシャー、マイコロイダー等を用いてトマトを破砕/磨砕した破砕/磨砕物を圧搾機等で圧搾して得られる液汁、及び、該液汁を減圧濃縮して得られる濃縮液等である。
【0013】
また、トマト搾汁として、上記で得られるトマトの破砕/磨砕物から食物繊維等の水不溶性成分を除去するために、得られた破砕/磨砕物にセルラーゼ、ペクチナーゼ等の繊維分解酵素を作用させ、更に固形分を除去した酵素処理トマト搾汁を、トマトエキスの原料として用いることもできる。
【0014】
さらに、トマトエキスにタマネギ、人参等の他の野菜搾汁を混合して用いることもできる。例えば、トマトエキスにタマネギ等の搾汁を配合することにより、トマト、及び、タマネギの風味がある酒精含有調味料を製造することができる。
【0015】
本発明の酒精含有調味料を製造する際には、トマトエキスを、酵母発酵前の混合液に10〜20%(w/v)添加して、酵母で発酵することが好ましく、13〜17%(w/v)添加することがより好ましい。トマトエキスの添加量が10%(w/v)未満では、トマトの香りが弱く、アミノ酸等の旨味成分の含量も低くなってしまう。また、20%(w/v)を超えると旨味成分が多くなりすぎるため、風味や香味のバランスが悪くなってしまう。
なお、トマトエキスの濃縮物等を、本発明の酒精含有調味料の製造に用いる場合は、トマトエキスの濃縮物のBrix値に基づく濃縮倍率に応じて、濃縮物を水等でトマトエキスと同程度のBrix値まで希釈して用いることが好ましい。
【0016】
本発明の酒精含有調味料を製造する際には、トマトエキスに変えて、トマト搾汁、あるいは、トマト搾汁を濃縮したトマトペースト、トマトピューレ等をトマト搾汁と同程度のBrix値に水で希釈して使用することもできる。しかし、トマト搾汁を、トマトエキスと同じ配合割合で酵母発酵すると、トマトエキスの場合よりも、酒精含有調味料の旨味成分であるアミノ酸度や旨味が、物足りないものとなってしまう。したがって、トマトエキスに変えてトマト搾汁を原料とする場合は、トマト搾汁の配合量を多くし、酵母発酵前の混合液に20〜30%(w/v)程度添加して、酵母で発酵することが好ましい。トマト搾汁の添加量が20%(w/v)未満では、アミノ酸等の旨味成分が物足りなく、また、30%(w/v)を超えると旨味成分が多くなりすぎるため、風味や香味のバランスが悪くなってしまう。
【0017】
一方、α化米としては、粒状あるいは粉状のα化された米であれば使用できるが、好適には、膨化処理されたα化米、例えば、パフゲン(キッコーマン社製)が用いられる。
【0018】
本発明において、α化米は、酵母発酵前のα化米を除く混合液に直接添加するか、あるいは、焼酎、みりん、日本酒等の酒類に30分から5時間程度浸漬処理してから用いることもできる。また、酒類にα化米を浸漬処理した後、α化米のみを分離して用いてもよく、また、α化米と酒類の混合物をそのまま用いてもよい。なお、α化米を酒類に浸漬処理する際には、α化米の容積に対して1:1以上の比で酒類を混合して浸漬処理することが好ましい。
【0019】
本発明において、みりん粕とは、一般的な本みりんの製造において、みりんもろ味を固液分離した後に残る搾り粕のことである。具体的には、酒税法(酒税法第十三条第十一項)に記載のみりんの原料である米(うるち米またはもち米)に、米麹と焼酎または醸造アルコール等のアルコールを混合して、糖化、熟成させたもろ味を固液分離して本みりんを製造した後に残る、本みりん独特の風味とさわやかな甘みが特徴の搾り粕のことである。また、みりん粕は、米、米麹及び焼酎またはアルコールに、みりん、及び、糖類等のその他政令で定める添加物を加えて、固液分離した後に残る搾り粕、あるいは、みりんにみりん粕を加えて固液分離した後の搾り粕も、本発明のみりん粕として使用できる。
【0020】
本発明の酒精含有調味料を製造する際には、酵母発酵前、あるいは、酵母発酵とともに、α化米またはみりん粕を糖化(液化)することが必要であり、一般的には、糖化するためにα−アミラーゼ等の糖化酵素が用いられる。
【0021】
みりん粕には、みりん製造時のα−アミラーゼ等の各種酵素活性が残存しているが、みりん粕に残存する酵素だけでは十分にみりん粕を糖化(液化)することができないため、市販の各種酵素剤を合わせて使用することが好ましい。例えば、酵素剤として、液化・糖化酵素剤、繊維(セルロース)分解酵素剤等を併用することができる。
【0022】
糖化するために用いられる糖化酵素としては、α−アミラ−ゼを主要酵素とする酵素剤、あるいは、市販のα−アミラ−ゼ剤等が挙げられる。これらは、バチルス・ズブチリス、アスペルギルス・オリゼ−、アスペルギルス・ニガ−に属する菌株等、微生物の生産するもの、麦芽等植物の生産するもの等が挙げられるが、殊にバチルス・ズブチリスに属する菌株が生産する酵素は、耐熱性が高いため、高温下での澱粉の液化が可能であるので好適に用いられる。また、α−アミラ−ゼの酵素剤としては、上記菌株の培養濾液、抽出液の硫安塩析物、アルコ−ルやアセトン等の有機溶剤沈殿物、限外濾過濃縮物、あるいはその乾燥物、あるいは、更にこれらを精製した酵素等が挙げられる。
【0023】
市販のα−アミラ−ゼ等の糖化酵素は、50〜90℃に作用至適温度を有するもので、例えばスピタ−ゼCP(ナガセ生化学工業社製)、クライスタ−ゼ(大和化成社製)、YA3−5、YA3−6、YA3−7(近畿ヤクルト社製)等が挙げられ、また70〜110℃に作用至適温度を有するもので、例えばスピタ−ゼHS(ナガセ生化学工業社製)、タ−マミル(ノボ社製)、クライスタ−ゼTC3(大和化成社製)、コクゲンT20M(大和化成社製)等が挙げられる。そして、これらの糖化酵素は、単独または組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明の酒精含有調味料の製造に用いる酵母は、清酒用酵母として用いることができる酵母であれば、特にその種類に限定されることはないが、好適には、清酒製造用に一般的に使用されているサッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が利用でき、清酒用酵母は、公益財団法人日本醸造協会から入手することができる。
【0025】
本発明による酒精含有調味料の製造は、α化米またはみりん粕、トマトエキス、糖化酵素、食塩を加えた混合液に、上記の清酒用酵母を接種して、静置あるいは緩やかな攪拌や振盪手段を採用した発酵方法で製造することができる。発酵温度は、清酒用酵母の至適範囲内から適宜選択することができるが、通常、15〜40℃程度、好ましくは30〜37℃程度の範囲である。発酵時間は、トマトエキスや清酒用酵母の種類、発酵温度条件、得られる酒精含有調味料に求められる品質(発酵物のアルコール含量や糖度)等に応じて適宜設定できるが、一般的には、約48〜192時間の範囲から選ばれるのが好ましく、約96〜144時間発酵することがより好ましい。上記発酵温度を高く設定すれば、発酵時間は短縮することができ、逆に発酵温度を低く設定すれば、発酵時間を長くする必要がある。
【0026】
安定して酵母による発酵を行なわせるためには、予め酵母のスターターを用意し、これを酵母発酵前の混合液に接種して発酵させる方法が好ましい。
【0027】
本発明の酒精含有調味料は、アルコール含量や糖度等の酒精含有調味料の規格に応じて、酵母で発酵させる前の混合液に、さらに、糖類、アルコールやみりん等の酒類、乳酸やクエン酸等のpH調整剤を添加して発酵することができる。
また、酵母で発酵させる前の混合液の製造において、トマトエキス、糖類、食塩、pH調整剤、酒造用糖化酵素、及び、α化米またはみりん粕等を配合する場合、製造の効率、あるいは、製造設備等により配合の順番を適宜変更することができる。例えば、酵母による発酵時間を短縮するために、α化米またはみりん粕に酒造用糖化酵素を添加して、十分に糖化してから、他の原料を配合して発酵させることができる。
【0028】
α化米の配合量は、水分含量5%(w/w)のα化米として、酵母発酵前の混合液に占める割合が10〜22%(w/v)の範囲で配合することが好ましい。10%(w/v)未満の場合は、酒精含有調味料のアルコール含量やアミノ酸度が十分ではないため、コンソメスープ等の洋食の調理の際に、トマトの青臭みが残存し、さらに、脱臭、味なれ効果等の調理効果が期待できない。また、22%(w/v)を越える場合は、酵母発酵すべき混合物の粘度が高くなりすぎて、酵母発酵が良好に進行しないあるいは固液分離の際に長時間を要する等の問題がある。なお、α化米の配合量は、α化米の水分含量に応じて、水分含量が5%(w/w)のα化米に換算した配合量に、適宜調整して配合することが必要である。
【0029】
また、みりん粕を原料とする場合は、みりん粕の水分含量を10%(w/w)とした場合、酵母発酵前の混合液に占める割合が10〜22%(w/v)の範囲で混合することが好ましい。みりん粕の配合量が、10%(w/v)を下回る場合は、酒精含有調味料のアルコール含量やアミノ酸度が十分ではないため、洋食の調理の際に、トマトの青臭みが残存し、さらに、脱臭、味なれ効果等の調理効果が期待できない。また、22%(w/v)を越える場合は、酵母発酵すべき混合物の粘度が高くなりすぎて、酵母発酵が良好に進行しない、あるいは、固液分離の際に長時間を要する等の問題がある。なお、みりん粕の配合量は、みりん粕の水分含量に応じて、水分含量が10%(w/w)のみりん粕に換算した配合量に、適宜調整して配合することが必要である。
【0030】
本発明の酒精含有調味料を製造する際に、酵母発酵前の混合液の糖度(Brix値)は、8〜22であることが好ましく、12〜20であることがさらに好ましい。糖度が8未満の場合は、本発明によるトマトの風味が充分ではなく、また、アルコールの生成量が少なくなるため、例えば、魚料理における嫌な臭いの除去等の酒精含有調味料としての調理効果が期待できなくなり、逆に22を越える場合は、酵母発酵前の混合液の粘度が高くなりすぎるため、酵母発酵が良好に進行しないおそれがある。さらに、糖度が22を超える場合、酒精含有調味料のアルコール含量が多くなりすぎて、アルコール臭が強く、トマトの香りが弱くなってしまう。
【0031】
なお、酵母発酵前の混合液の糖度が、8未満の場合は、清酒用酵母の生育が十分ではないため、砂糖、液糖、三温糖等の糖類を添加して、糖度を調整することが好ましい。また、糖度が22を超える場合は、清酒用酵母の生育阻害などが生じる可能性があるため水等で希釈して用いることが必要である。
【0032】
本発明の酒精含有調味料のアルコール濃度は、5〜10%(v/v)であることが好ましく、6〜9%(v/v)であることがより好ましい。アルコール濃度が5%未満の場合は、腐敗の恐れがあり、10%を超えるとアルコール臭が強く、酒精含有調味料のトマトの香りが弱くなってしまう。
【0033】
α化米またはみりん粕、及び、トマトエキス等を含む混合液を、清酒用酵母で発酵させた発酵液は、そのまま固液分離することなく、コンソメスープ等の洋食に最適なトマトの好ましい風味を持つ酒精含有調味料として用いることができる。また、該発酵液を、みりんや酒精等の製造に使用される濾布濾過等の一般的な方法を用いて固液分離することで、澄明な酒精含有調味料を得ることができる。これらの酒精含有調味料は、米麹を使用してないことから、麹臭がなく、α化米またはみりん粕、及び、原料のトマトエキスから由来するアミノ酸等の旨味成分や糖分を含み、トマトの豊かな風味を有する、新規な酒精含有調味料である。
【0034】
なお、本発明の酒精含有調味料は、そのままハンバーグソースやコンソメスープ等の洋食の調味液として用いてもよく、また、この調味料に、必要により、液糖等の糖類、酸味料、塩味料、香辛料、旨味調味料、増粘剤、水等を適宜加えて用いてもよく、さらにまた、この調味液に、通常採用されている液体の殺菌方法である加熱等の処理を施してもよい。
【0035】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
<酒精含有調味料の製造におけるトマトエキスの配合量に関する検討>
(トマト搾汁及びトマトエキスの製造)
トマト搾汁の製造は、市販のトマトペースト(デコム社製)7500Kgに水25トンを加えてマイルダー(MDN303V−C型:荏原製作所社製)を用いて1000rpmで破砕処理した後、マイルダー処理したトマトペースト希釈液のBrixを6に調製して、トマト搾汁を得た。
【0037】
トマトエキスは、上記トマト搾汁を、遠心分離機(SB7−06−076型:Far East Westfalia Separator社製)で、6000G、4分間の遠心分離により脱パルプ処理を行い、遠心上澄み液(約28トン)を回収した。この上澄み液を、排除分子量75万MWのUF膜(日東電工社製)で膜処理し、透過液約27トンを得て、この透過液をトマトエキスとした。
【0038】
(α化米またはみりん粕)
α化米としては、市販のα化米であるパフゲン(キッコーマン食品社製)を用いた。
みりん粕は、一般的なみりん製造法によって得られたものを使用した。すなわち、炊飯米と米麹と焼酎を混合した後、常法により糖化・発酵し、次いで、濾布濾過により固液分離して得られるみりん粕(流山キッコーマン社製)を用いた。
【0039】
(トマトエキス、及び、α化米またはみりん粕を用いた酒精含有調味料の製造)
トマトエキス、α化米またはみりん粕、液糖(ぶどう糖液:昭和産業社製)、食塩、酒造用糖化酵素、清酒用酵母培養液を配合した酵母発酵前の混合液は、表1及び2に示す配合割合で作製した。すなわち、容量200mlのステンレス製容器に、α化米またはみりん粕、液糖、食塩、糖化酵素、スターターである酵母培養液(酵母菌数10〜10個/g)を添加した混合液を作成した。さらに、トマトエキスを配合してから水を加えて、容量を100mlとして、酵母発酵前の混合液を得た。次いで、該混合液を30℃で6日間攪拌しながら発酵させた後、常法により小型圧搾機(超小型テスト圧濾圧搾機240型:NSKエンジニアリング社製)を用いて固液分離して、本発明の酒精含有調味料を製造した。また、トマトエキスに変えてトマト搾汁と、みりん粕を用いて、上記と同様に酵母で発酵させることで、トマト搾汁を原料とした酒精含有調味料を製造した。
なお、スターターの酵母培養液は、市販の清酒用酵母(きょうかい酵母、公益財団法人日本醸造協会製)を、一般的な酵母用培養液(酵母エキス10g、ポリペプトン20g、グルコース20gを1Lに溶解して滅菌した混合液)に接種して、30℃で24時間培養して準備した。
【0040】
(酵母発酵前の混合液の糖度の測定)
酵母発酵前のα化米またはみりん粕を配合した混合液の糖度は、糖度計(SMART−1:アタゴ社製)を用いて、Brix値として測定した。
【0041】
(酒精含有調味料のアミノ酸度の測定)
一般的に、調味料に含まれる各種アミノ酸は、調味料の旨味成分であり、アミノ酸量が多い場合、旨味や風味が強くなることが知られている。そこで、酒精含有調味料の旨味成分の指標としてアミノ酸度を測定した。アミノ酸度の測定は、国税庁所定分析法の清酒のアミノ酸測定法を用いた。
【0042】
(酒精含有調味料のアルコール濃度の測定)
酒精含有調味料に含まれるアルコール濃度は、酒類用振動密度計(DA−105:京都電子工業社製)を用いて、測定した。
【0043】
(酒精含有調味料の官能評価)
本発明の酒精含有調味料のトマトの香りは、該調味料を、100mlのビーカーに50ml採取し、数回攪拌した後、香りの強さを評価した。トマトの香りが強い場合を評点5として、やや強い場合を4、どちらともいえない場合を3、やや弱い場合を2、弱い場合を1とする5段階で評価した。5名のパネルの平均評点において、3.0以上を○、1.0以上〜3.0未満を△、1.0未満を×とした。
また、該調味料の旨味は、調味液を5mlスプーンに取り、口に含んで評価した。すなわち、α化米またはみりん粕を除いて、トマトエキス、液糖、食塩、酒造用糖化酵素の混合液を清酒用酵母で発酵した表1の比較例1を対象として、旨味が比較例1より、強い場合を評点5として、やや強い場合を4、どちらともいえない場合を3、やや弱い場合を2、弱い場合を1とする5段階で評価した。5名のパネルの平均評点において、3.0以上を○、1.0以上〜3.0未満を△、1.0未満を×とした。
アミノ酸度の評価は、アミノ酸度が2.5以上を○、1.5以上〜2.5未満を△、1.5未満を×とし、さらに、アルコール濃度の評価は、アルコール濃度が5%以上を○、4%以上〜5%未満を△、4%未満を×とした。
酒精含有調味料の総合評価は、上記の評価項目のすべてが○の場合を○、ひとつでも△がある場合は△、ひとつでも×がある場合を×とした。
みりん粕を原料として用いた場合の結果を表1、α化米を原料として用いた場合の結果を表2に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
トマトエキスの配合量は、表1の試験例3〜7、及び、表2の試験例12〜15に示すように、酵母発酵前の混合液100mlに対して10〜20g、すなわち、10〜20%(w/v)のトマトエキスを配合した後、清酒用酵母で発酵させることにより、青臭みがないトマトの香りを有し、旨味が強く風味が豊かな酒精含有調味料を製造できることがわかった。なお、表1の試験例3〜7、及び表2の試験例12〜15のアルコール含量は、5〜10%(v/v)であった。
【0047】
また、表1の試験例9〜10にトマト搾汁及びみりん粕を配合した混合液を、酵母発酵させて製造した酒精含有調味料のアミノ酸度、アルコール含量、及び、官能検査の結果を示した。その結果、トマト搾汁を18%程度配合して製造した酒精含有調味料では、トマトエキスを原料とした場合と異なり、アミノ酸度や旨味が物足りないことがわかった。また、27%程度配合することで、トマトエキスと同様のアミノ酸度や旨味を示す酒精含有調味料が得られることがわかった。
【実施例2】
【0048】
<酒精含有調味料の製造におけるα化米またはみりん粕の配合量に関する検討>
(α化米またはみりん粕を用いた酒精含有調味料の製造)
トマトエキス、及び、α化米またはみりん粕、液糖(ぶどう糖液:昭和産業社製)、食塩、酒造用糖化酵素、清酒用酵母培養液を配合した混合液は、表3に示す配合割合で作成した。すなわち、容量200mlのステンレス製容器に入れたトマトエキス、液糖、食塩、酒造用糖化酵素、スターターである酵母培養液(酵母菌数10〜10個/g)を添加した混合液に、α化米またはみりん粕を加えた後、水で容量を100mlとした酵母発酵前の混合液を作製した。次いで、該混合液を30℃で6日間攪拌しながら発酵させた後、常法により小型圧搾機(超小型テスト圧濾圧搾機240型:NSKエンジニアリング社製)を用いて固液分離して、本発明の酒精含有調味料を製造した。アミノ酸度、アルコール濃度の分析及び官能評価は、実施例1と同様に行った。
結果を表3に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
α化米を原料として用いた場合、表3の試験例18〜19に示すように、水分含量5%のα化米を、混合液100ml中に10〜22g、すなわち、10〜22%(w/v)を配合した後、清酒用酵母で発酵させることにより、青臭みがないトマトの香りを有し、旨味が強く風味が豊かな酒精含有調味料を製造できることがわかった。なお、試験例18〜19のアルコール含量は、5〜10%(v/v)であった。
【0051】
みりん粕を原料として用いた場合、表3の試験例22〜23に示すように、みりん粕を混合液100ml中に10〜22g、すなわち、10〜22%(w/v)を配合した後、清酒用酵母で発酵させることにより、青臭みがないトマトの香りを有し、旨味が強く風味が豊かな酒精含有調味料を製造できることがわかった。なお、試験例22〜23のアルコール含量は、5〜9%(v/v)であった。
【実施例3】
【0052】
(酒精含有調味料を用いたコンソメスープの官能評価)
試験例5、及び、試験例14に記載の酒精含有調味料を用いて、コンソメスープを表4の配合で調理した後、コンソメスープのトマトの香りと旨味を評価した。比較として、トマトエキス、米麹、液糖、食塩、酒造用糖化酵素の混合液を清酒用酵母で発酵させた表1の比較例2に示す米麹を用いて製造した米麹由来酒精含有調味料、及び、試験例5、及び、試験例14に記載の配合により、トマトエキスを除いて酵母発酵させて作成した発酵液に、試験例5と試験例14に記載のトマトエキスと同じ量のトマトエキスを混合した酒精含有調味料(比較例3、及び、比較例4)を用いてコンソメスープを作製した。次いで、コンソメスープのトマトの香りの強さとスープの旨味を評価した。
【0053】
コンソメスープのトマトの香りは、コンソメスープを100mlのビーカーに50ml採取し、数回攪拌した後、トマトの香りの強さを評価した。トマトの香りが強い場合を評点5として、やや強い場合を4、どちらともいえない場合を3、やや弱い場合を2、弱い場合を1とする5段階で評価した。5名のパネルの平均評点において、3.0以上を○、1.0以上〜3.0未満を△、1.0未満を×とした。
旨味は、コンソメスープを5mlスプーンに取り、口に含んで評価した。旨味が強い場合を評点5として、やや強い場合を4、どちらともいえない場合を3、やや弱い場合を2、弱い場合を1とする5段階で評価した。5名のパネルの平均評点において、3.0以上を○、1.0以上〜3.0未満を△、1.0未満を×とした。
結果を、表4に示した。
【0054】
【表4】
【0055】
その結果、α化米またはみりん粕に代えて、米麹を用いて製造した比較例2の酒精含有調味料を用いてコンソメスープを作成した場合は、米麹の麹臭が強く、トマトの香りが感じられなかった。また、比較例3と4に記載のトマトエキスを除いて酵母発酵させた発酵液に、トマトエキスを混合した酒精含有調味料においては、トマトの青臭みが強いためトマトの香りが非常に弱く、また、スープの旨味も弱いことが判明した。
一方、トマトエキスに、α化米またはみりん粕を配合して、清酒用酵母で発酵させた本発明の酒精含有調味料を利用して調理したコンソメスープでは、原料のトマトの香りが立ち、また、旨味が豊かなコンソメスープが調理できることがわかり、洋食の調理に適した酒精含有調味料であることがわかった。