(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208599
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】アスベストの処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/00 20060101AFI20170925BHJP
A62D 3/40 20070101ALI20170925BHJP
A62D 101/41 20070101ALN20170925BHJP
【FI】
B09B3/00 303A
A62D3/40ZAB
A62D101:41
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-40593(P2014-40593)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-166052(P2015-166052A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅史
(72)【発明者】
【氏名】古薗 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】永戸 敏博
【審査官】
大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−301546(JP,A)
【文献】
特開平09−105589(JP,A)
【文献】
実開平05−085488(JP,U)
【文献】
特開2007−203154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3、A62D 3、
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有廃棄物を、比重の大きいマットと比重の小さいスラグとに2層分離した廃棄物溶融炉内の前記スラグに投入し、
前記廃棄物溶融炉に設けられ酸素比が0.7以上のバーナを用いて、前記スラグの温度を1100℃〜1400℃に維持し、
前記廃棄物溶融炉における前記スラグの滞留時間の0%を上回り60%以下の期間、前記スラグを攪拌する、ことを特徴とするアスベストの処理方法。
【請求項2】
前記バーナの酸素比を0.7以上1以下にすることを特徴とする請求項1記載のアスベストの処理方法。
【請求項3】
前記廃棄物溶融炉における前記スラグの滞留時間の0%を上回り40%以下の期間、前記スラグを攪拌することを特徴とする請求項1または2記載のアスベストの処理方法。
【請求項4】
前記スラグの鉄含有量が10wt%以下の場合に、前記スラグに酸化鉄を添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のアスベストの処理方法。
【請求項5】
前記バーナの火炎を前記廃棄物溶融炉の投入口から投入される前記アスベストに直接照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のアスベストの処理方法。
【請求項6】
前記バーナは、前記投入口の外縁から30cm〜40cmの範囲に設けられていることを特徴とする請求項5記載のアスベストの処理方法。
【請求項7】
前記バーナとは異なる位置から酸素ランスを挿入し、前記酸素ランスから前記スラグの表面に酸素を吹き付けることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のアスベストの処理方法。
【請求項8】
前記攪拌の際に、前記スラグを断続的に攪拌することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のアスベストの処理方法。
【請求項9】
前記スラグの鉄濃度が10wt%以上になった後に、前記スラグを前記廃棄物溶融炉から排出することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のアスベストの処理方法。
【請求項10】
前記バーナは、前記廃棄物溶融炉に複数設けられていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のアスベストの処理方法。
【請求項11】
前記廃棄物溶融炉において、第1投入口と、前記第1投入口よりもスラグ排出口側に配置された第2投入口とが設けられ、
前記第1投入口に溶融処理対象物とスラグ形成フラックスとを投入し、
前記第2投入口に前記アスベスト含有廃棄物を投入することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のアスベストの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストは、クリソタイル(白石綿:Mg
3Si
8O
5(OH)
4、融点1521℃)、クロシドライト(青石綿:Na
2Fe
5Si
8O
22(OH)
4、融点1193℃)、及びアモサイト(茶石綿:(FeMg)
6Si
8O
22(OH)
2、融点1399℃)の総称である。アスベストは、微細な繊維状の針状結晶で、人体に吸引されると呼吸器官に癌等の障害を発生させる原因となることが知られている。
【0003】
しかしながら、アスベストは、不燃性、耐薬性、及び断熱性が高いことから、過去に建材として多量に使用された。現在、建築物の老朽化に伴い、建築物が解体されるときにアスベストを含む廃材が大量に生まれている。これまでは、アスベストは、十分な飛散防止処理を施した上で埋め立て処理等によって処分されていた。しかしながら、アスベスト廃材排出量の増加とその強い有害性のため、溶融処理によってアスベストを無害化する処理法を用いることが好ましい。
【0004】
溶融処理とは、一般廃棄物溶融炉でアスベストを溶融処分する方法である。溶融炉では、溶融物が金属成分及びスラグ成分の二層の熔体に分離し、スラグ成分は無害な資材、金属成分は製錬原料となる。アスベストは、上述の通り構成成分に酸化ケイ素を有していることから、融点以上では溶解して無害なスラグとなる。
【0005】
一般廃棄物溶融炉は1000〜1300℃程度で運転されているが、バーナの火炎の直接照射により部分的にクリソタイルを加温して融点1500℃以上の状態を作ってアスベストを溶融することは可能である。一旦アスベストの単位組成が崩壊すれば微細な繊維構造を再構築できず、その有害性は著しく低下し、さらにはスラグ層に溶解して無害で安定な形態になり系外に排出することが可能となる。
【0006】
従来のアスベストの処理方法として、例えば特許文献1に開示された処理方法は、電気炉を利用した溶融法である。電気炉は、炉内温度を部分的に高温に調節することができるので、アスベストの融点以上に温度を上昇させることが容易である。しかしながら、高価な電力が多量に必要となること、電極の浸食等の問題点がある。この点を改善するには、加熱装置を電極ではなくバーナにすることが好ましい。
【0007】
特許文献2では、バーナを用いる溶融炉によるアスベストの処理方法として、焼却灰とアスベストとを混合して溶融処理する方法が記載されている。一方、特許文献3は、産業廃棄物を横型炉に装入し、該炉に設けられたバーナにより溶融し、湯溜り部にスラグ浴を形成するとともに、アスベストをスラグ浴に投入して、スラグ浴中に溶解する、アスベストの無害化処理方法を開示している。特許文献4は、飛灰をアスベストと混合して溶融処理する時にAl
2O
3−CaO−MgO−SiO
2からなる組成のスラグ融点を調整する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許公開平7−171536号
【特許文献2】特許公開平2−303585号
【特許文献3】特許公開2003−181412号
【特許文献4】特許公開2007−275839号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2の方法では、溶融灰と焼却灰との混合比が3:7であればアスベストの効率的な無害化が可能であることを示しているが、生成するスラグの溶融点は1355℃、かつ溶流温度は1375℃である。この比率が4:6になると溶融点は1407℃、かつ溶流温度は1445℃とかなりの高温としなければならない。バーナによる加熱で1400℃以上の高温を達成するのは難しい。
【0010】
特許文献3及び特許文献4の何れの方法でも、バーナによる加熱ではアスベストの融点以上の環境を維持するのは困難であるが、生成したスラグ層が溶剤として働き、アスベストを溶融する。しかしながら、スラグ浴中に溶融してアスベストを処理する方法では、過量のアスベストを投入すると、溶融したアスベストの比重が小さいことから、均質なスラグを得ることが難しい。スラグ層を溶剤とした混合溶融はアスベストを無害化するが、同時にスラグは建築資材やセメント骨材に利用される重要な有価物であり、過度の比重の低下や不均一性はその有用性を減殺する。スラグの均質化には撹拌が容易に想起されるが、一般的に溶融炉では熱対流による自然撹拌が採用され、物理的な強制撹拌は好ましくない。なぜならばメタル層とスラグ層が混合され分離に問題が生じるからである。
【0011】
以上のことから、バーナによるアスベストの加熱溶融は解決すべき技術的問題を含む。本発明は上記の課題に鑑み、廃棄物溶融炉でバーナにより加熱して、高品質スラグを回収することができるアスベストの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るアスベストの処理方法は、アスベスト含有廃棄物を
、比重の大きいマットと比重の小さいスラグとに2層分離した廃棄物溶融炉内の
前記スラグに投入し、前記廃棄物溶融炉に設けられ酸素比が0.7以上のバーナを用いて、前記スラグの温度を1100℃〜1400℃に維持し、前記廃棄物溶融炉における前記スラグの滞留時間の0%を上回り60%以下の期間、前記スラグを攪拌する、ことを特徴とする。
【0013】
前記バーナの酸素比を0.7以上1以下にしてもよい。前記廃棄物溶融炉における前記スラグの滞留時間の0%を上回り
40%以下の期間、前記スラグを攪拌してもよい。前記スラグの鉄含有量が10wt%以下の場合に、前記スラグに酸化鉄を添加してもよい。前記バーナの火炎を前記廃棄物溶融炉の投入口から投入される前記アスベストに直接照射してもよい。前記バーナは、前記投入口の外縁から30cm〜40cmの範囲に設けられていてもよい。前記バーナとは異なる位置から酸素ランスを挿入し、前記酸素ランスから前記スラグの表面に酸素を吹き付けてもよい。前記攪拌の際に、前記スラグを断続的に攪拌してもよい。前記スラグの鉄濃度が10wt%以上になった後に、前記スラグを前記廃棄物溶融炉から排出してもよい。前記バーナは、前記廃棄物溶融炉に複数設けられていてもよい。
前記廃棄物溶融炉において、第1投入口と、前記第1投入口よりもスラグ排出口側に配置された第2投入口とが設けられ、前記第1投入口に溶融処理対象物とスラグ形成フラックスとを投入し、前記第2投入口に前記アスベスト含有廃棄物を投入してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃棄物溶融炉でバーナにより加熱して、高品質スラグを回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0017】
(実施形態)
以下に、一実施形態に係るアスベストの処理方法について説明する。
図1および
図2は、アスベストの処理方法に用いる廃棄物溶融炉100の模式図である。
図1は、廃棄物溶融炉100の上面の模式図であり、
図2は、廃棄物溶融炉100の正面の模式図である。
【0018】
図1および
図2で例示するように、廃棄物溶融炉100の天井には、複数の一般廃棄物投入口10、アスベスト投入口20、一般廃棄物用の複数の天井バーナ30a、およびアスベスト用の複数の天井バーナ30bが設けられている。天井バーナ30a,30bは、重油などを燃料として使用するバーナである。廃棄物溶融炉100の上流側の側面には、複数のサイドバーナ40が設けられている。廃棄物溶融炉100の下流側の側面には、スラグ排出口50が設けられている。廃棄物溶融炉100の正面下部には、メタル排出口60が設けられている。
【0019】
天井バーナ30aは、一般廃棄物投入口10から投入される原料を加熱できる位置に配置されている。天井バーナ30bは、アスベスト投入口20から投入されるアスベストに火炎を直接照射できる位置に配置されている。アスベストに火炎を直接照射できるためには、天井バーナ30bは、アスベスト投入口20の外縁から30cm〜40cmの位置に配置されていることが好ましい。
【0020】
一般廃棄物投入口10からは、一般廃棄物、溶融飛灰等の溶融処理対象物と、スラグ形成フラックスとが投入される。溶融処理対象対象物は、汚泥、鉱滓、燃え殻、プリント基板、パット屑,廃触媒、金属屑、廃ショット、研削屑、ダストなどを含む。「汚泥」は脱水汚泥、めっき汚泥、研磨汚泥、下水汚泥などである。脱水汚泥はCa,Feを主成分とする。めっき汚泥はCu,Fe,S,Caを主成分とする。燃え殻は焼却残渣等である。プリント基板はCuとプラスチックから構成される。鉱滓はAl
2O
3粉等、パット屑はブレーキパッド等である。廃ショットはショットブラスト用投射粒等の廃材である。ダストは煤塵である。被処理物が有価金属を含有する場合は硫化鉄を添加してマットを生成し、有価金属をマット中に捕捉することができる。なお、上記汚泥等以外にもスラグとして再利用可能な産業廃棄物を処理することができる。これらの投入された原料は、サイドバーナ40および天井バーナ30aの火炎で加熱されて溶融する。それにより、当該原料は、比重の大きいメタルの層(マット)と、比重の小さいスラグの層とに、二層分離する。
【0021】
アスベスト投入口20からは、スラグにアスベスト含有廃棄物が投入される。アスベスト投入口20の設置位置は、上記の原料とフラックスとが溶融後に分層のため静置されている(セットリング部)場所であり、一般廃棄物投入口10よりもスラグ排出口50により近い位置である。アスベスト投入時、アスベスト投入口20の脇に設けられた複数のバーナ30bで火炎をアスベスト含有廃棄物に直接照射することによって、アスベストの溶解を促すことができる。廃棄物溶融炉100内ではすでに溶体は2層に分離しているが、比重の小さいスラグは表層にあり、溶剤としても機能するため、融点以下でもアスベストはスラグに順次溶解する。上記のスラグは、非鉄精錬で一般的なSiO
2−CaO−FeO系スラグもしくはSiO
2−CaO−MgO系スラグが好適である。さらにはAl
2O
3をも成分として含んでいてもよいが、この含有率が高いとスラグの融点は高くなる。
【0022】
天井バーナ30bによる燃焼における酸素比は、0.7以上とすることが好ましい。酸素比が小さいと、天井バーナ30bが不完全燃焼を起こし、十分な温度を得ることができないおそれがあるからである。なお、逆に酸素比が大きすぎると、窒素酸化物が多量に発生して排気ガス処理の脱硝工程への負荷が上昇するおそれがある。そこで、天井バーナ30bによる燃焼における酸素比は、0.7以上1以下とすることが好ましい。
【0023】
また、天井バーナ30a,30bおよびサイドバーナ40と異なる位置から酸素ランスを挿入し、酸素をスラグに直接吹き付けてもよい。この場合、供給される酸素により、廃棄物溶融炉100内の反応熱を高めることができる。また、酸素がスラグに直接吹き付けられると、スラグ中の二価の鉄成分が効果的に酸化されてFe
2O
3になり、スラグの流動性が改善される効果も期待される。スラグは、固化しないことと、排出の際に低粘性で流動性を有していることが好ましい。そのため、スラグの温度は、1100℃〜1400℃に維持される。
【0024】
スラグに溶解したアスベストは、投入量が増えるとスラグ内に比重のさらに小さい相を形成する。このアスベスト溶融相は、熱対流のみでは十分に拡散しないため、物理的に(強制的に)スラグを撹拌することが望ましい。しかしながら、物理撹拌すると、分離したスラグの層とメタルの層とが再度混合されてしまい、この二層の分離が悪化する。そのため、常時撹拌するのではなく、スラグの廃棄物溶融炉100内の滞留時間に対して最大で合計滞留時間の60%以下の時間を撹拌する。言い換えれば、廃棄物溶融炉100におけるスラグの滞留時間の0%を上回り60%以下の期間、スラグを攪拌する。断続的に攪拌することによって、二層分離の悪化を抑制することができる。撹拌方法は、特に指定されることはなく、スラグが均質になればいずれの撹拌方法でもよい。例えば、木材、酸素ランスなどでスラグをかき混ぜる方法を用いてもよい。なお、スラグの均質化を図ることも目的として、廃棄物溶融炉100におけるスラグの滞留時間の0%を上回り40%以下の期間、スラグを攪拌することが好ましい。
【0025】
融解したアスベストが大量に溶け込んだスラグは、比重が小さくなる傾向にある。スラグの比重が小さいと、メタルとの分離性が向上するという長所があるものの、あまりに比重の小さいスラグは建築資材やセメント骨材としての価値が低下してしまう。近年は、ケーソンやセメントの骨材としてスラグの需要は高く、比重の小さいスラグはこれに不向きである。そのため、鉄分の含有量で比重を調整することができるが、廃棄物溶融炉100へ供給される原料の鉄分含有量は、一定ではない。しかも還元剤として働く物質、例えば焼却灰由来の炭素などが多く含まれるので鉄分は還元されてメタル層に分配される量も多くなる。
【0026】
そこで、スラグ排出口50から排出されるスラグの鉄含有量は、10wt%以上が好ましく、この値に達しない場合は酸化鉄をスラグ層に添加して比重を上げる方法が好ましい。ただし、過度の二価の酸化鉄は、スラグの流動性を悪化させるので十分な酸素の供給により鉄分の形態をFe
2O
3としてスラグに含ませる。Fe
2O
3は、スラグ流動性を改善する。
【0027】
アスベストを融解したスラグは、所定量に達するとスラグ排出口50から排出される。メタルは、メタル排出口60からも排出されて有価金属回収工程に供される。排出されたスラグは、一部をサンプリングして直ちに鉄含有量を測定し、酸化鉄投入量を調製すると安定した操業が可能となる。測定は、蛍光X線による簡易定量でも使用に耐えうる。一般的に、廃棄物溶融炉100は、溶体を適宜排出しながら連続式に運転されるが、連続式はもちろん、バッチ式の溶融炉においても適用することができる。本発明は一基の炉(容量150〜190m
3)につきアスベスト含有物の処理量が20t/日以上の場合に特に有効である。
【0028】
本実施形態によれば、バーナを用いてスラグを加熱することから、電気炉を用いる場合と比較してコストを抑制することができる。バーナにおける酸素比を0.7以上とすることによって、火炎温度を上げてアスベストの溶解を促進することができる。また、スラグ温度の維持にも効果がある。スラグが溶剤として機能することから、アスベストの溶解を促進することができる。また、スラグの滞留時間の0〜60%の期間に限定して攪拌することによって、スラグ組成の均一化を図ることができ、高融点物質の炉底への堆積を抑制し、スラグ浴を広く保つことができる。また、酸素ランスにより酸素を吹き付けることによって、溶融物中のFe,Sなどを酸化させることができ、高融点物質を溶解させることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
一般廃棄物処理能力が153t/日である溶融炉(容量176m
3)に一般廃棄物とフラックスを原料として装入した。バーナーで原料を1100℃まで加熱し、フラックス成分がスラグ層を形成した後にアスベスト含有廃棄物を投入した。投入時、投入口に設置されたバーナ30bを燃焼させて火炎がアスベスト含有廃棄物を直接照射するよう調整した。スラグ層の温度は、1100〜1400℃を維持するよう天井バーナー30a,30bを燃焼させた。酸素ランスで炉内に酸素を供給し、酸素吹き出し口は、スラグ表面を酸素が直接接触するよう調節した。天井バーナ30a,30bの酸素比は、0.7以上を維持した。
【0031】
アスベストを投入後、炉頂から木製撹拌棒を差し込み、全体を撹拌した。撹拌時間は90分おきに30分間とした。これは、スラグの滞留時間の60%に相当する。十分に溶融処理したスラグ層は、スラグ排出口50から溶体として排出した。排出されたスラグは、一部を分取し蛍光X線分析装置(リガク社製型式 ZSX PrimusII)により検量線法で鉄含有量をオンタイムで決定した。鉄含有量が10wt%に満たない場合は、酸化鉄をスラグ層に供給した。連続溶融処理であるため、処理の継続によりメタル層が増加するが適当な量を適宜排出した。
【0032】
本処理を3日間継続した。平均のスラグ温度と鉄品位との変化を表1に示す。スラグの流動性に関しては問題にならなかった。鉄品位、アスベスト処理量、スラグの温度維持と流動性いずれも問題にはならず、良好なアスベスト処理が達成された。
【表1】
【0033】
(比較例1)
実施例1と同じ条件で酸素比を0.5、酸素ランスからの供給は行わずにアスベストの処理を行った。二日間本条件で操業を行った。二日目に目視によりスラグの流動性の悪化が確認された。平均のスラグ温度と鉄品位の変化を表2に示す。
【表2】
【0034】
一日目の処理ではアスベストの処理量が不十分であり、本条件で処理量を増加させるとスラグの流動性の悪化が見られた。そのため、酸素比と酸素供給位置が処理量の増加に対する方策として効果が高いことが解る。
【0035】
(比較例2)
実施例1と同じ条件で撹拌を行わずアスベスト処理を連続して行った。三日目と四日目に目視によりスラグの流動性の悪化が確認された。平均のスラグ温度と鉄品位の変化結果を表3に示す。
【表3】
【0036】
一日目と二日目では問題ないものの、撹拌のない条件では連続処理により時間の経過と共に次第にスラグの不均一化が生じ、それが温度の低下と流動性の悪化となっている。本条件で22t/日以上のアスベストの連続処理は安定的に行えない。
【0037】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。