(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6208663
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】セパレータの製造方法、その方法で形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子
(51)【国際特許分類】
H01M 2/16 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
H01M2/16 L
H01M2/16 M
H01M2/16 P
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-529627(P2014-529627)
(86)(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公表番号】特表2014-526776(P2014-526776A)
(43)【公表日】2014年10月6日
(86)【国際出願番号】KR2013003413
(87)【国際公開番号】WO2013157902
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2014年3月11日
【審判番号】不服2016-1353(P2016-1353/J1)
【審判請求日】2016年1月29日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0041456
(32)【優先日】2012年4月20日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2013-0044338
(32)【優先日】2013年4月22日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】510157580
【氏名又は名称】東レバッテリーセパレータフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 健史
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ボ−キョン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジュ−ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン−フン
【合議体】
【審判長】
池渕 立
【審判官】
河本 充雄
【審判官】
宮本 純
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0259505(US,A1)
【文献】
米国特許第2761417(US,A)
【文献】
特開平9−223499(JP,A)
【文献】
特開2007−283293(JP,A)
【文献】
米国特許第2761791(US,A)
【文献】
特開2003−39003(JP,A)
【文献】
Yao−Nan Lin et al.,Minimum Wet Thickness for Double−Layer Slide−Slot Coating of Poly(Vinyl−Alcohol) Solutions,POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,2005年,pp.1590−1599
【文献】
白井達郎,各種コーティング方式の概要とプロセス解析および安定塗工 Part 1,コンバーテック,2010年,第38巻 第4号,pp.68−72
【文献】
物理学辞典,株式会社培風館,1992年,改訂版,p.2143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14- 2/18
JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学素子用セパレータの製造方法であって、
多数の気孔を有する平面状の多孔性基材を用意する段階と、
無機物粒子、第1バインダー高分子及び第1溶媒を含む第1スラリーを、スロット部を通じて前記多孔性基材の少なくとも一面にコーティングして多孔性コーティング層を形成しながら、
第2バインダー高分子及び第2溶媒を含む第2スラリーを、前記スロット部と隣接したスライド部を通じて前記多孔性コーティング層上に連続的にコーティングして電極接着層を形成する段階とを含んでなり、
前記多孔性コーティング層の厚さが0.01μmないし20μmであり、
前記電極接着層の厚さが0.0001μmないし2μmであり、
前記スロット部と前記スライド部とが成す角度(θ)が10゜ないし80゜であり、
前記第1スラリーの吐出速度が前記第2スラリーの吐出速度より速いものであり、
前記第1スラリーの吐出速度が500ml/minないし2,000ml/minであり、
前記第2スラリーの吐出速度が200ml/minないし1,200ml/minであり、
前記電極接着層の厚さが前記多孔性コーティング層の厚さの0.1倍以下であることを特徴とする、電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記第1スラリー及び前記第2スラリーの粘度が、相互に独立して5cPないし100cPであることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記多孔性基材が、ポリオレフィン系多孔性膜であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記スロット部及び前記スライド部が、一体型のスライド−スロットダイに形成されるか、又は、相互独立してそれぞれスロットダイ及びスライドダイに形成されることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記無機物粒子の平均粒径が、0.001μmないし10μmであることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項6】
前記無機物粒子が、誘電率が5以上の無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、及びこれらの混合物からなる群より選択された無機物粒子であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記誘電率が5以上の無機物粒子が、BaTiO3、Pb(Zrx、Ti1-x)O3(PZT、0<x<1)、Pb1-xLaxZr1-yTiyO3(PLZT、0<x<1、0<y<1)、(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−xPbTiO3(PMN‐PT、0<x<1)、ハフニア(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO2、Y2O3、Al2O3、SiC、及びTiO2からなる群より選択された一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項6に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子が、リチウムホスフェート(Li3PO4)、リチウムチタンホスフェート(LixTiy(PO4)3、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LixAlyTiz(PO4)3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)xOy系列ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LixLayTiO3、0<x<2、0<y<3)、リチウムゲルマニウムチオホスフェート(LixGeyPzSw、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、リチウムナイトライド(LixNy、0<x<4、0<y<2)、SiS2系列ガラス(LixSiySz、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、及びP2S5系列ガラス(LixPySz、0<x<3、0<y<3、0<z<7)からなる群より選択された一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項9】
前記第1バインダー高分子及び前記第2バインダー高分子が、相互独立して、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン‐クロロトリフルオロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシルメチルセルロース、アクリロニトリルスチレンブタジエン共重合体、及びポリイミドからなる群より選択された一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池のような電気化学素子のセパレータの製造方法、その方法で形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子に関し、より詳しくは、多数の気孔を有する多孔性基材に、多孔性コーティング層が形成されたセパレータの製造方法、その方法で形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子に関する。
【0002】
本出願は、2012年4月20日出願の韓国特許出願第10−2012−0041456号及び2013年4月22日出願の韓国特許出願第10−2013−0044338号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵技術に対する関心が高まりつつある。携帯電話、カムコーダー、及びノートパソコン、さらには電気自動車のエネルギーまで適用分野が拡がるとともに、電気化学素子の研究と開発に対する努力が次第に具体化されている。
【0004】
電気化学素子はこのような面で最も注目される分野であり、その中でも、充放電可能な二次電池の開発に関心が寄せられている。このような電池の開発において、容量密度及び比エネルギーを向上させるために、新たな電極と電池の設計に対する研究開発が行われている。
【0005】
1990年代の初めに開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を使用するニッケル‐マンガン、ニッケル‐カドミウム、硫酸‐鉛電池などの従来型電池に比べて作動電圧が高くエネルギー密度が格段に高いという長所から、現在使用されている二次電池のうち最も脚光を浴びている。しかし、このようなリチウムイオン電池は、有機電解液の使用による発火及び爆発などの安全問題を抱えており、またその製造に手間がかかるという短所がある。近年のリチウムイオン高分子電池は、このようなリチウムイオン電池の短所を改善し、次世代電池の1つとして挙げられているが、未だ電池の容量がリチウムイオン電池と比べて相対的に低く、特に低温における放電容量が不十分であるため、それに対する改善が至急に求められている。
【0006】
上記のような電気化学素子は多くのメーカにおいて生産中であるが、それらの安全性特性は相異なる様相を呈している。電気化学素子の安全性の評価及び安全性の確保は最も重要に考慮すべき事項である。特に、電気化学素子の誤作動によりユーザが傷害を被ることはあってはならなく、故に、安全規格は電気化学素子内の発火及び発煙などを厳格に規制している。電気化学素子が過熱し、熱暴走が起きるか又はセパレータが貫通される場合は、爆発が起きる恐れが大きい。特に、電気化学素子のセパレータとして通常使用されるポリオレフィン系多孔性基材は、材料的特性と延伸を含む製造工程上の特性により、100℃以上の温度で甚だしい熱収縮挙動を見せ、正極と負極との間の短絡を起こすという問題点がある。
【0007】
このような電気化学素子の安全性問題を解決するため、多数の気孔を有する多孔性基材の少なくとも一面に、無機物粒子とバインダー高分子との混合物をコーティングして多孔性コーティング層を形成したセパレータが提案された。セパレータにおいて、多孔性基材に形成された多孔性コーティング層内の無機物粒子は、多孔性コーティング層の物理的形態を維持する一種のスペーサ(spacer)の役割をすることで、電気化学素子が過熱したとき、多孔性基材が熱収縮することを抑制する。また、無機物粒子同士の間にはインタースティシャル・ボリューム(interstitial volume)が存在し、微細気孔を形成する。
【0008】
このように、形成されたセパレータは、工程上、積層(stack)及び折畳み(folding)構造で電極との接着が要求されるため、多孔性基材層上に相当量の電極接着層が露出することが接合に有利であるが、電極接着層を形成するバインダー高分子が過量である場合、電気化学素子の性能を低下させるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、セパレータの熱安定性を阻害せず、薄い電極接着層を実現し、組立性に優れて、電極接着層による電気化学素子の性能低下が防止されたセパレータの製造方法、その方法で形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、本発明の一態様によれば、多数の気孔を有する平面状の多孔性基材を用意する段階;及び無機物粒子、第1バインダー高分子及び第1溶媒を含む第1スラリーを、スロット部を通じて前記多孔性基材の少なくとも一面にコーティングして多孔性コーティング層を形成しながら、第2バインダー高分子及び第2溶媒を含む第2スラリーを、前記スロット部と隣接したスライド部を通じて前記多孔性コーティング層上に連続的にコーティングして電極接着層を形成する段階;を含むセパレータの製造方法が提供される。
【0011】
このとき、前記スロット部と前記スライド部とが成す角度(θ)は、10ないし80゜であり得る。
【0012】
また、前記第1スラリー及び前記第2スラリーの粘度は、相互独立して5cPないし100cPであり得る。
【0013】
望ましくは、前記第1スラリーの吐出速度が前記第2スラリーの吐出速度より速い。
【0014】
このとき、前記第1スラリー及び前記第2スラリーの吐出速度は、それぞれ500ml/minないし2,000ml/min及び200ml/minないし1,200ml/minであり得る。
【0015】
また、前記電極接着層の厚さが前記多孔性コーティング層の厚さの0.1倍以下であり得る。
【0016】
また、前記多孔性基材は、ポリオレフィン系多孔性膜であり得る。
【0017】
また、前記スロット部及び前記スライド部は、一体型のスライド−スロットダイに形成されるか、又は、相互独立してそれぞれスロットダイ及びスライドダイに形成され得る。
【0018】
一方、前記無機物粒子の平均粒径は、0.001μmないし10μmであり得、前記無機物粒子は、誘電率定数が5以上の無機物粒子またはリチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子をそれぞれ単独でまたはこれらを混合して使用することができる。
【0019】
ここで、前記誘電率定数が5以上の無機物粒子は、BaTiO
3、Pb(Zr
x、Ti
1−x)O
3(PZT、0<x<1)、Pb
1−xLa
xZr
1−yTi
yO
3(PLZT、0<x<1、0<y<1)、(1−x)Pb(Mg
1/3Nb
2/3)O
3−xPbTiO
3(PMN‐PT、0<x<1)、ハフニア(HfO
2)、SrTiO
3、SnO
2、CeO
2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、SiC、及びTiO
2からなる群より選択されたいずれか1つの無機物粒子またはこれらのうち二種以上の混合物であり得る。
【0020】
また、前記リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子は、リチウムホスフェート(Li
3PO
4)、リチウムチタンホスフェート(Li
xTi
y(PO
4)
3、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(Li
xAl
yTi
z(PO
4)
3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)
xO
y系列ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(Li
xLa
yTiO
3、0<x<2、0<y<3)、リチウムゲルマニウムチオホスフェート(Li
xGe
yP
zS
w、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、リチウムナイトライド(Li
xN
y、0<x<4、0<y<2)、SiS
2系列ガラス(Li
xSi
yS
z、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、及びP
2S
5系列ガラス(Li
xP
yS
z、0<x<3、0<y<3、0<z<7)からなる群より選択されたいずれか1つの無機物粒子またはこれらのうち二種以上の混合物であり得る。
【0021】
また、前記第1バインダー高分子及び前記第2バインダー高分子は、相互独立して、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン‐クロロトリフルオロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシルメチルセルロース、アクリロニトリルスチレンブタジエン共重合体、及びポリイミドからなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうち二種以上の混合物であり得る。
【0022】
一方、本発明の他の態様によれば、上記のような製造方法で形成されたセパレータが提供される。
【0023】
また、本発明のさらに他の態様によれば、正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在したセパレータを含む電気化学素子において、前記セパレータが上述したセパレータである電気化学素子が提供される。
【0024】
このとき、前記電気化学素子はリチウム二次電池であり得る。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一実施例によれば、スライド部を通じて自然に流れ落ちるバインダー高分子を含む第2スラリーを用いて、スロット部を通じてセパレータに形成される多孔性コーティング層の上面に電極接着層をコーティングすることで、多孔性コーティング層と電極接着層とのインターミキシング(inter−mixing)を防止でき、電極接着層をより効果的に形成することができる。
【0026】
また、セパレータの少なくとも一面に形成される多孔性コーティング層の上面に薄い電極接着層を形成させることで、電極に対する接着力は向上させ、電気化学素子の性能低下は防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施例を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【
図1】本発明の一実施例によってセパレータを製造する方法を概略的に示した工程図である。
【
図2】本発明の一実施例によるスライド−スロットダイのスロット部とスライド部とが成す角度(θ)を示した図である。
【
図3】本発明の比較例による、二重スロットダイからスラリーが吐出されるときの側面を撮影した写真である。
【
図4】本発明の一実施例による、スライド−スロットダイからスラリーが吐出されるときの側面を撮影した写真である。
【
図5】本発明の一実施例によって製造されたセパレータの表面を拡大したSEM写真である。
【
図6】本発明の比較例によって製造されたセパレータの表面を拡大したSEM写真である。
【
図7】本発明の一実施例によって製造されたセパレータの断面を拡大したSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施例及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0029】
本発明の一実施例によるセパレータの製造方法によれば、まず多数の気孔を有する平面状の多孔性基材を用意する。
【0030】
ここで、前記多孔性基材としては、通常電気化学素子に使用される多孔性基材であればすべて使用でき、例えばポリオレフィン系多孔性膜(membrane)または不織布を使用することができるが、これらに特に限定されることはない。
【0031】
前記ポリオレフィン系多孔性膜の例としては、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリペンテンなどのポリオレフィン系高分子をそれぞれ単独でまたはこれらを混合した高分子で形成した膜が挙げられる。
【0032】
前記不織布としては、ポリオレフィン系不織布の外に例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンナフタレンなどをそれぞれ単独でまたはこれらを混合した高分子で形成した不織布が挙げられる。不織布の構造は、長繊維で構成されたスパンボンド(spun−bond)不織布またはメルトブローン(melt−blown)不織布であり得る。
【0033】
多孔性基材の厚さは、特に制限されないが、1μmないし100μm、または5μmないし50μmであり得る。
【0034】
多孔性基材に存在する気孔の大きさ及び気孔度も、特に制限されないが、それぞれ0.001μmないし50μm及び10%ないし95%であり得る。
【0035】
次いで、無機物粒子、第1バインダー高分子及び第1溶媒を含む第1スラリーを、スロット部を通じて前記多孔性基材の少なくとも一面にコーティングして多孔性コーティング層を形成しながら、第2バインダー高分子及び第2溶媒を含む第2スラリーを、前記スロット部と隣接したスライド部を通じて前記多孔性コーティング層上に連続的にコーティングして電極接着層を形成する。
【0036】
ここで、前記無機物粒子は電気化学的に安定さえすれば特に制限されない。すなわち、本発明で使用できる無機物粒子は、適用する電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li
+基準で0〜5V)で酸化及び/または還元反応を起こさないものであれば、特に制限されない。特に、無機物粒子として誘電率の高い無機物粒子を使用すれば、液体電解質内の電解質塩、例えばリチウム塩の解離度増加に寄与して電解液のイオン伝導度を向上させることができる。
【0037】
上述した理由から、前記無機物粒子は誘電率定数が5以上、または10以上の高誘電率無機物粒子を含むことが望ましい。誘電率定数が5以上の無機物粒子の非制限的な例としては、BaTiO
3、Pb(Zr
x、Ti
1−x)O
3(PZT、0<x<1)、Pb
1−xLa
xZr
1−yTi
yO
3(PLZT、0<x<1、0<y<1)、(1−x)Pb(Mg
1/3Nb
2/3)O
3−xPbTiO
3(PMN‐PT、0<x<1)、ハフニア(HfO
2)、SrTiO
3、SnO
2、CeO
2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、SiC、及びTiO
2からなる群より選択されたいずれか1つの無機物粒子またはこれらのうち二種以上の混合物であり得る。
【0038】
また、無機物粒子としては、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、すなわちリチウム元素を含有するものの、リチウムを貯蔵せず、リチウムイオンを移動させる機能を有する無機物粒子を使用することができる。リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子の非制限的な例としては、リチウムホスフェート(Li
3PO
4)、リチウムチタンホスフェート(Li
xTi
y(PO
4)
3、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(Li
xAl
yTi
z(PO
4)
3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、14Li
2O‐9Al
2O
3‐38TiO
2‐39P
2O
5などのような(LiAlTiP)
xO
y系列ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(Li
xLa
yTiO
3、0<x<2、0<y<3)、Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4などのようなリチウムゲルマニウムチオホスフェート(Li
xGe
yP
zS
w、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、Li
3Nなどのようなリチウムナイトライド(Li
xN
y、0<x<4、0<y<2)、Li
3PO
4‐Li
2S‐SiS
2などのようなSiS
2系列ガラス(Li
xSi
yS
z、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、LiI‐Li
2S‐P
2S
5などのようなP
2S
5系列ガラス(Li
xP
yS
z、0<x<3、0<y<3、0<z<7)またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0039】
また、無機物粒子の平均粒径は特に制限されないが、均一な厚さの多孔性コーティング層形成及び適切な孔隙率のために、0.001μmないし10μm範囲であり得る。
【0040】
前記無機物粒子の平均粒径が上記の範囲を満す場合、無機物粒子の分散性低下を防止でき、多孔性コーティング層を適切な厚さに調節することができる。
【0041】
また、前記第1バインダー高分子及び前記第2バインダー高分子の非制限的な例としては、ポリフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン‐トリクロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン‐クロロトリフルオロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシルメチルセルロース、アクリロニトリルスチレンブタジエン共重合体、及びポリイミドからなる群より選択されたいずれか1つまたはこれらのうち二種以上の混合物であり得るが、これらに限定されることはない。
【0042】
本発明の第1溶媒はバインダー高分子を溶解させながら無機物粒子を分散させ、第2溶媒はバインダー高分子を分散して溶解できるものであれば特に制限されないが、沸点(boiling point)が低いものがより有利であり得る。これは、以降の溶媒の除去が容易であるためである。使用可能な第1溶媒及び第2溶媒の非制限的な例としては、アセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、水またはこれらの混合体などが挙げられる。
【0043】
一方、
図1及び
図2を参照すれば、スロット部1とスライド部2とを一体型のスライド−スロットダイ10に形成することができるが、これに限定されず、相互独立してそれぞれスロットダイ及びスライドダイに形成することもできる。
【0044】
前記スライド部2は、前記スロット部1と隣接して位置し、第2スラリーが別途の外力なく重力だけで、前記スライド部2の上面を滑り落ちるように地面と傾斜を成して形成される。このとき、第2スラリーを、別途のスロット部を通じてコーティングする場合、強い剪断応力が作用し、ダイの吐出部で第1スラリーと第2スラリーとが混合され得る。しかし、上述したように、第2スラリーをスライド部2を通じてコーティングすれば、第2スラリーに重力以外の別途の外力が加えられず、多孔性コーティング層と電極接着層とのインターミキシングを防止することができる。
【0045】
ここで、前記スロット部1と前記スライド部2とが成す角度(θ)は、10゜ないし80゜、または30゜ないし60゜であり得る。上記の数値範囲を満す場合、第1スラリー及び第2スラリーが低粘度である場合でも、コーティング厚さの調節が容易になる。一方、角度が小さ過ぎれば、スライド部2が長くなり過ぎて第2スラリーが揮発する問題が生じ、それによって電極接着層の厚さが不均一になり得る。
【0046】
前記スロット部1を通じて無機物粒子が第1溶媒に分散して溶解された第1スラリーが供給される。また、前記スライド部2を通じてバインダー高分子が第2溶媒に分散して溶解された第2スラリーが供給される。回転するローラーに多孔性基材5が供給されれば、多孔性基材5上に第1スラリーがコーティングされて多孔性コーティング層3を形成し、連続的に多孔性コーティング層3上に第2スラリーがコーティングされて電極接着層4を形成する。
【0047】
ここで、前記第1スラリーの粘度は5cPないし100cP、または10cPないし20cPであり得、前記第2スラリーの粘度は5cPないし100cP、または10cPないし20cPであり得る。
【0048】
一方、前記第1スラリーの吐出速度は、前記第2スラリーの吐出速度より速く、このとき、前記第1スラリーの吐出速度は500ml/minないし2,000ml/min、または1,000ml/minないし1,500ml/minであり得、前記第2スラリーの吐出速度は200ml/minないし1,200ml/min、または500ml/minないし900ml/minであり得る。上記の数値範囲を満す場合、2つの層がインターミキシングすることなく、薄い電極接着層を形成することができる。
【0049】
図1には、多孔性基材の一面のみにコーティング層を形成する方法が示されているが、これに限定されず、本発明は多孔性基材の両面共にコーティング層を形成してセパレータを製造することもできる。
【0050】
ここで、前記電極接着層の厚さは、例えば前記多孔性コーティング層の厚さの0.1倍以下、または0.001倍ないし0.05倍であり得る。過量の高分子バインダーがセパレータにコーティングされていれば、電気化学素子の性能が低下することがあり得るため、電極接着層は薄く形成される。
【0051】
前記多孔性コーティング層の厚さは0.01μmないし20μmであり得、前記電極接着層の厚さは0.0001μmないし2μm、または0.0005μmないし1μmであり得るが、これらに限定されることはない。
【0052】
上述した方法で製造したセパレータを正極と負極との間に介在させてラミネーティングすることで、電気化学素子に使用される電極組立体を製造することができる。電気化学素子は電気化学反応を行うあらゆる素子を含み、具体的には、あらゆる種類の一次、二次電池、燃料電池、太陽電池またはスーパーキャパシタ素子のようなキャパシタなどが挙げられる。特に、前記二次電池のうちリチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が望ましい。
【0053】
本発明のセパレータと共に適用される正極と負極の両電極としては、特に制限されず、当業界で周知の通常の方法で電極活物質を電極電流集電体に結着した形態で製造することができる。前記電極活物質のうち正極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の正極に使用される通常の正極活物質が使用でき、特にリチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物、またはこれらを組み合わせたリチウム複合酸化物を使用することができる。負極活物質の非制限的な例としては、従来電気化学素子の負極に使用される通常の負極活物質が使用でき、特にリチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コーク(petroleum coke)、活性化炭素、グラファイトまたはその他炭素類などのようなリチウム吸着物質などを使用することができる。正極電流集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケル、またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがあり、負極電流集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケル、銅合金、またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがある。
【0054】
本発明の電気化学素子で使用できる電解液は、A
+B
−のような構造の塩であり、A
+はLi
+、Na
+、K
+のようなアルカリ金属陽イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含み、B
−はPF
6−、BF
4−、Cl
−、Br
−、I
−、ClO
4−、AsF
6−、CH
3CO
2−、CF
3SO
3−、N(CF
3SO
2)
2−、C(CF
2SO
2)
3−のような陰イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含む塩を、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ‐ブチロラクトンまたはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解または解離したものであるが、これらに限定されることはない。
【0055】
前記電解液の注入は、最終製品の製造工程及び求められる物性に応じて、電池製造工程のうち適宜な段階において行えばよい。すなわち、電池組立ての前または電池組立ての最終段階などにおいて注入すればよい。
【0056】
本発明の一実施例によるセパレータを電池に適用する工程は、一般的な工程である巻取(winding)の外、セパレータと電極との積層(lamination、stack)及び折り畳み(folding)工程を用いることができる。
【0057】
以上の説明は、本発明の技術思想の例示的な説明に過ぎず、本発明が属する技術分野で通常の知識を持つ者であれば本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で多様な修正及び変形が可能であろう。したがって、本発明に開示された実施例は本発明の技術思想を説明するためのものであって、実施例によって本発明の技術思想の範囲が限定されることはない。本発明の保護範囲は請求範囲によって解釈すべきであり、同等な範囲内にある全ての技術思想は本発明の権利範囲に含まれると解釈せねばならない。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形され得、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0059】
(1)第1スラリーの製造
無機物粒子として酸化アルミニウム(Al
2O
3)、第1バインダー高分子としてポリフッ化ビニリデン‐クロロトリフルオロエチレン(PVdF‐CTFE)とシアノエチルプルランとの混合物、及び第1溶媒としてアセトンを18:2:80の重量比で混合して第1スラリーを製造した。このとき、第1スラリーの粘度は10cPであった。
【0060】
(2)第2スラリーの製造
第2バインダー高分子としてポリフッ化ビニリデン‐クロロトリフルオロエチレン(PVdF‐CTFE)とシアノエチルプルランとの混合物、及び第2溶媒としてアセトンを3:97の重量比で混合して第2スラリーを製造した。このとき、第2スラリーの粘度は10cPであった。
【0061】
(3)セパレータの製造
厚さ16μmのポリオレフィン膜(セルガード(Celgard)社製、C210)を多孔性基材として使用し、スライド−スロットダイを用いてスライド部には第2スラリーを、スロット部には第1スラリーを供給して、前記多孔性基材にコーティングした。第1スラリーは多孔性基材の上面に直接コーティングして多孔性コーティング層を形成しながら、第2スラリーは多孔性コーティング層の上面に連続的にコーティングして電極接着層を形成した。このとき、前記スライド部と前記スロット部とは45゜の角度を成して位置し、第1スラリーの吐出速度は1,200ml/min、第2スラリーの吐出速度は700ml/minに調節した。
【0062】
比較例
二重スロットダイを用いて、それぞれのスロット部に第1スラリー及び第2スラリーを供給することで、第1スラリーは多孔性基材の上部面に直接コーティングして多孔性コーティング層を形成しながら、連続的に第2スラリーは多孔性コーティング層の上面にコーティングして電極接着層を形成する点を除き、実施例と同様の方法でセパレータを製造した。
【0063】
特性評価
実施例及び比較例において、それぞれのダイからスラリーが吐出されるときの側面を観察した。
【0064】
図3は比較例による、二重スロットダイからスラリーが吐出されるときの側面を撮影した写真である。また、
図4は本発明の一実施例による、スライド−スロットダイからスラリーが吐出されるときの側面を撮影した写真である。
【0065】
図3及び
図4を見れば、比較例によって二重スロットダイを用いて多孔性基材にスラリーをコーティングすれば、第1スラリー及び第2スラリーがインターミキシングすることが確認できる。しかし、本発明の実施例によってスライド−スロットダイを用いて多孔性基材にコーティングすれば、第1スラリーと第2スラリーとのインターミキシングが防止されることが確認できる。
【0066】
一方、実施例及び比較例によって製造されたセパレータの物性を測定し、下記の表1に示した。
【0067】
【表1】
表1から分かるように、実施例及び比較例はほぼ同じ電極接着層のローディング量を示すものの、実施例によるセパレータの接着力が約2倍ほど高い。これは、実施例が比較例よりインターミキシングが防止されることで、セパレータの表面層に存在する第2バインダー高分子が多いということを意味し、電極接着層が均一に形成されたことを意味する。
【0068】
図5及び
図6は、それぞれ本発明の実施例及び比較例によって製造されたセパレータの表面を拡大したSEM写真である。
【0069】
以下、
図5及び
図6を参照して説明すれば、暗い部分は電極接着層が形成された部分であるが、実施例の場合が電極接着層がより均一で、広くコーティングされていることが分かる。
【0070】
一方、
図7は本発明の一実施例によって製造されたセパレータの断面を拡大したSEM写真である。
図7を見れば、多孔性コーティング層の上面に薄く形成された電極接着層を確認できる。これにより、電極に対する接着力は向上させながら、電気化学素子の性能低下を防止することができる。