(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<液状成分の増粘剤>
本発明の「液状成分の増粘剤」(以下、「増粘剤」ともいう)は、以下に説明する油脂組成物を必須成分として含む。
【0010】
<油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種又はそれ以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有し、前記炭素数xは10〜22から選択される整数であり、前記XXX型トリグリセリドが前記油脂成分の含有量100質量%に対して50質量%以上含有することを特徴とする、溶融状態にある液状の油脂組成物である。
また、本発明の油脂組成物は、固体状態にある粉末状の油脂組成物であって、前記油脂成分がβ型油脂を含み、前記粉末油脂組成物の粒子は板状形状を有し、前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05〜0.6g/cm
3であることを特徴とする、上記液状の油脂組成物から製造した、粉末状の油脂組成物(以下、粉末油脂組成物ともいう)でもある。
以下、本発明の増粘剤で用いる油脂組成物(特に粉末状の油脂組成物を中心に)を詳細に説明する。
【0011】
<油脂成分>
本発明の油脂組成物は、液状のものであっても粉末状のものであっても、油脂成分を含有する。当該油脂成分は、少なくともXXX型トリグリセリドを含み、任意にその他のトリグリセリドを含む。
本発明の油脂組成物が粉末状である場合、上記油脂成分はβ型油脂を含む。ここで、β型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるβ型の結晶のみからなる油脂である。その他の結晶多形の油脂としては、β’型油脂及びα型油脂があり、β’型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるβ’型の結晶のみからなる油脂である。α型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるα型の結晶のみからなる油脂である。油脂の結晶には、同一組成でありながら、異なる副格子構造(結晶構造)を持つものがあり、結晶多形と呼ばれている。代表的には、六方晶型、斜方晶垂直型及び三斜晶平行型があり、それぞれα型、β’型及びβ型と呼ばれている。また、各多形の融点はα、β’、βの順に融点が高くなり、各多形の融点は、炭素数xの脂肪酸残基Xの種類により異なるので、以下、表1にそれぞれ、トリカプリン、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、トリアラキジン、トリベヘニンである場合の各多形の融点(℃)を示す。なお、表1は、Nissim Garti et al.、”Crystallization and Polymorphism of Fats and Fatty Acids”、Marcel Dekker Inc.、1988、pp.32-33に基づいて作成した。そして、表1の作成にあたり、融点の温度(℃)は小数点第1位を四捨五入した。また、油脂の組成とその各多形の融点がわかれば、少なくとも当該油脂中にβ型油脂が存在するか否かを検出することができる。
【0013】
これらの多形を同定する一般的な手法は、X線回折法があり、回折条件は下記のブラッグの式によって与えられる。
2dsinθ=nλ(n=1,2,3・・・)
この式を満たす位置に回折ピークが現れる。ここでdは格子定数、θは回折(入射)角、λはX線の波長、nは自然数である。短面間隔に対応する回折ピークの2θ=16〜27°からは、結晶中の側面のパッキング(副格子)に関する情報が得られ、多形の同定を行なうことができる。特にトリアシルグリセロールの場合、2θ=19、23、24°(4.6Å付近、3.9Å付近、3.8Å付近)にβ型の特徴的ピークが、21°(4.2Å)付近にα型の特徴的なピークが出現する。なお、X線回折測定は、例えば、20℃に維持したX線回折装置((株)リガク、試料水平型X線回折装置UItimaIV)を用いて測定される。X線の光源としてはCuKα線(1.54Å)が最もよく利用される。
【0014】
さらに、上記油脂の結晶多形は、示差走査熱量測定法(DSC法)によっても予測することができる。例えば、β型油脂の予測は、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、品番BSC6220)によって10℃/分の昇温速度で100℃まで昇温することにより得られるDSC曲線に基づいて油脂の結晶構造を予測することにより行われる。
【0015】
ここで、本発明の油脂組成物が粉末状である場合、油脂成分はβ型油脂を含むもの、又は、β型油脂を主成分(50質量%超)として含むものあればよく、好ましい態様としては、上記油脂成分がβ型油脂から実質的になるものであり、より好ましい態様は上記油脂成分がβ型油脂からなるものであり、特に好ましい態様は、上記油脂成分がβ型油脂のみからなるものである。上記油脂成分のすべてがβ型油脂である場合とは、示差走査熱量測定法によってα型油脂及び/又はβ’型油脂が検出されない場合である。別の好ましい態様としては、上記油脂成分(又は油脂成分を含む粉末油脂組成物)が、X線回折測定において、4.5〜4.7Å付近、好ましくは4.6Å付近に回析ピークを有し、表1のα型油脂及び/又はβ’型油脂の短面間隔のX線回折ピークがない、特に、4.2Å付近に回折ピークを有さない場合であり、かかる場合も上記油脂成分のすべてがβ型油脂であると判断できる。本発明の更なる態様として、上記油脂成分が全てβ型油脂であることが好ましいが、その他のα型油脂やβ’型油脂が含まれていてもよい。ここで、本発明における油脂成分が「β型油脂を含む」こと及びα型油脂+β型油脂に対するβ型油脂の相対的な量の指標は、X線回折ピークのうち、β型の特徴的ピークとα型の特徴的ピークとの強度比率:[β型の特徴的ピークの強度/(α型の特徴的ピークの強度+β型の特徴的ピークの強度)](以下、ピーク強度比ともいう。)から想定できる。具体的には、上述のX線回折測定に関する知見をもとに、β型の特徴的ピークである2θ=19°(4.6Å)のピーク強度とα型の特徴的ピークである2θ=21°(4.2Å)のピーク強度の比率:19°/(19°+21°)[4.6Å/(4.6Å+4.2Å)]を算出することで上記油脂成分のβ型油脂の存在量を表す指標とし、「β型油脂を含む」ことが理解できる。本発明は、上記油脂成分が全てβ型油脂である(即ち、ピーク強度比=1)ことが好ましいが、例えば、該ピーク強度比の下限値が、例えば0.4以上、好ましくは、0.5以上、より好ましくは、0.6以上、さらに好ましくは、0.7以上、特に好ましくは、0.75以上、殊更好ましくは0.8以上であることが適当である。ピーク強度が0.4以上であれば、β型油脂を主成分が50質量%超であるとみなすことができる。該ピーク強度比の上限値は1であることが好ましいが、0.99以下、0.98以下、0.95以下、0.93以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下等であってもかまわない。ピーク強度比は、上記下限値及び上限値のいずれか若しくは任意の組み合わせであり得る。
【0016】
<XXX型トリグリセリド>
本発明の油脂成分は、液状のものであっても粉末状のものであっても、グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む。当該XXX型トリグリセリドは、グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは10〜22から選択される整数であり、好ましくは12〜22から選択される整数、より好ましくは14〜20から選択される整数、更に好ましくは16〜18から選択される整数である。
脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸であり、さらに好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸であり、殊更好ましくは、パルミチン酸及びステアリン酸である。
当該XXX型トリグリセリドの含有量は、油脂成分の全質量を100質量%とした場合、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは、80質量%以上を下限とし、例えば、100質量%以下、好ましくは、99質量%以下、より好ましくは、95質量%以下を上限とする範囲である。XXX型トリグリセリドは1種類又は2種類以上用いることができ、好ましくは1種類又は2種類であり、より好ましくは1種類が用いられる。XXX型トリグリセリドが2種類以上の場合は、その合計値がXXX型トリグリセリドの含有量となる。
【0017】
<その他のトリグリセリド>
本発明の油脂成分は、液状のものであっても粉末状のものであっても、本発明の効果を損なわない限り、上記XXX型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。合成油脂としては、トリカプリル酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル等が挙げられる。天然油脂としては、例えば、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油等が挙げられる。本発明の油脂成分中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、その他のトリグリセリドは、1質量%以上、例えば、5〜50質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、例えば、0〜30質量%、好ましくは0〜18質量%、より好ましくは0〜15質量%、更に好ましくは0〜8質量%である。
【0018】
<その他の成分>
本発明の油脂組成物は、液状のものであっても粉末状のものであっても、上記トリグリセリド等の油脂成分の他、任意に乳化剤、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖、デキストリン等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、0〜70質量%、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは0〜30質量%である。その他の成分は、その90質量%以上が、平均粒径が1000μm以下である紛体であることが好ましく、平均粒径が500μm以下の紛体であることがより好ましい。なお、ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱法(ISO133201及びISO9276-1)によって測定した値である。
但し、本発明の好ましい油脂組成物は、実質的に上記油脂成分のみからなることが好ましく、かつ、油脂成分は、実質的にトリグリセリドのみからなることが好ましい。また、「実質的に」とは、油脂組成物中に含まれる油脂成分以外の成分または油脂成分中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、油脂組成物または油脂成分を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
【0019】
<粉末油脂組成物>
本発明の粉末油脂組成物は、グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物を溶融状態とし、特定の冷却温度に保ち、冷却固化することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕等特別の加工手段を採らなくても、粉末状の油脂組成物(粉末油脂組成物)を得ることができる。より具体的には、(a)上記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物を準備し、任意に工程(b)として、工程(a)で得られた油脂組成物を加熱し、前記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを溶解して溶融状態の前記油脂組成物を得、さらに(d)前記油脂組成物を冷却固化して、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂組成物を得る。なお、冷却後に得られる固形物に対して、ハンマーミル、カッターミル等、公知の粉砕加工手段を適用して、該粉末油脂組成物を生産することもできる。
【0020】
上記工程(d)の冷却は、例えば、溶融状態の油脂組成物を、当該油脂組成物に含まれる油脂成分のβ型油脂の融点より低い温度であって、かつ、次式:
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 ― 68
から求められる冷却温度以上の温度で行われる。このような温度範囲で冷却すれば、β型油脂を効率よく生成でき、細かい結晶ができるので、粉末油脂組成物を容易に得ることができる。なお、前記「細かい」とは、一次粒子(一番小さい大きさの結晶)が、例えば20μm以下、好ましくは、15μm以下、より好ましくは10μmの場合をいう。また、このような温度範囲で冷却しないと、β型油脂が生成せず、溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固形物ができない場合がある。さらに、本発明では、このような温度範囲で冷却することによって、静置した状態でβ型油脂を生成させ、粉末油脂組成物の粒子を板状形状とさせたものであり、冷却方法は、本発明の粉末油脂組成物を特定するために有益なものである。
【0021】
<粉末油脂組成物の特性>
本発明の粉末油脂組成物は、常温(20℃)で粉末状の固体である。
本発明の粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、例えば実質的に油脂成分のみからなる場合、0.05〜0.6g/cm
3、好ましくは0.1〜0.5g/cm
3であり、より好ましくは0.15〜0.4g/cm
3であり、さらに好ましくは0.2〜0.3g/cm
3である。ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm
3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求めることができる。また、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出することもできる。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とす。受器から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めることができる。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行ってその平均値を取ることが好ましい。
【0022】
また、本発明の粉末油脂組成物は、通常、その粒子が板状形状の形態を有し、例えば、5〜200μm、好ましくは10〜150μm、より好ましくは20〜120μm、殊更好ましくは、25〜100μmの平均粒径(有効径)を有する。ここで、当該平均粒径(有効径)は、粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)に基づいて求めることができる。有効径とは、測定対象となる結晶の実測回折パターンが、球形と仮定して得られる理論的回折パターンに適合する場合の、当該球形の粒径を意味する。このように、レーザー回折散乱法の場合、球形と仮定して得られる理論的回折パターンと、実測回折パターンを適合させて有効径を算出しているので、測定対象が板状形状であっても球状形状であっても同じ原理で測定することができる。ここで、板状形状は、アスペクト比が1.1以上であることが好ましく、より好ましくは、1.2以上のアスペクト比であり、さらに好ましくは1.2〜3.0、特に好ましくは、1.3〜2.5、殊更好ましくは1.4〜2.0のアスペクト比である。なお、ここでいうアスペクト比とは、粒子図形に対して、面積が最小となるように外接する長方形で囲み、その長方形の長辺の長さと短辺の長さの比と定義される。また、粒子が球状形状の場合は、アスペクト比は1.1より小さくなる。従来技術である、極度硬化油等の常温で固体脂含量の高い油脂を溶解し直接噴霧する方法では、粉末油脂組成物の粒子が表面張力によって、球状形状となり、アスペクト比は1.1未満となる。そして、前記アスペクト比は、例えば、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などによる直接観察により、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測することによって、計測した個数の平均値として求めることができる。
【0023】
<粉末油脂組成物の製造方法>
本発明の粉末油脂組成物は、以下の工程、
(a)XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物を準備する工程、
(b)工程(a)で得られた油脂組成物を任意に加熱等し、前記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを溶解して溶融状態の前記油脂組成物を得る任意の工程、
(d)前記油脂組成物を冷却固化して、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂組成物を得る工程、
を含む方法によって製造することができる。
また、上記工程(b)と(d)の間に、工程(c)として粉末生成を促進するための任意工程、例えば(c1)シーディング工程、(c2)テンパリング工程、及び/又は(c3)予備冷却工程を含んでいてもよい。さらに上記工程(d)で得られる粉末油脂組成物は、工程(d)の冷却後に得られる固形物を粉砕して粉末状の油脂組成物を得る工程(e)によって得られるものであってもよい。以下、上記工程(a)〜(e)について説明する。
【0024】
(a)準備工程
工程(a)で準備されるXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物は、グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む通常のXXX型トリグリセリド等の油脂の製造方法に基づいて製造され、もしくは容易に市場から入手され得る。ここで、上記炭素数x及び脂肪酸残基Xで特定されるXXX型トリグリセリドは、最終的に得られる目的の油脂成分のものと結晶多形以外の点で同じである。当該油脂組成物にはβ型油脂が含まれていてもよく、例えば、β型油脂の含有量が0.1質量%以下、0.05質量%以下、又は0.01質量%以下含んでいてもよい。但し、β型油脂は、当該油脂組成物を加熱等により溶融状態にすることにより消失するので、当該油脂組成物は溶融状態の油脂組成物であってもよい。当該油脂組成物が、例えば溶融状態である場合に、β型油脂を実質的に含まないことは、XXX型トリグリセリドに限らず、実質的に全ての油脂成分がβ型油脂ではない場合も意味し、β型油脂の存在は、上述したX線回折測定によりβ型油脂に起因する回折ピーク、示差走査熱量測定法によるβ型油脂の確認等によって確認することができる。「β型油脂を実質的に含まない」場合のβ型油脂の存在量は、X線回折ピークのうち、β型の特徴的ピークとα型の特徴的ピークとの強度比率[β型の特徴的ピークの強度/(α型の特徴的ピークの強度+β型の特徴的ピークの強度)](ピーク強度比)から想定できる。上記油脂組成物の当該ピーク強度比は、例えば0.2以下であり、好ましくは、0.15以下であり、より好ましくは、0.10以下である。油脂組成物には、上述したとおりのXXX型トリグリセリドを1種類又は2種以上含んでいてもよく、好ましくは1種類又は2種類であり、より好ましくは1種類である。
具体的には、例えば、上記XXX型トリグリセリドは、脂肪酸または脂肪酸誘導体とグリセリンを用いた直接合成によって製造することができる。XXX型トリグリセリドを直接合成する方法としては、(i)炭素数Xの脂肪酸とグリセリンとを直接エステル化する方法(直接エステル合成)、(ii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基がアルコキシル基と結合した脂肪酸アルキル(例えば、脂肪酸メチル及び脂肪酸エチル)とグリセリンとを塩基性または酸性触媒条件下にて反応させる方法(脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成)、(iii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基の水酸基がハロゲンに置換された脂肪酸ハロゲン化物(例えば、脂肪酸クロリド及び脂肪酸ブロミド)とグリセリンとを塩基性触媒下にて反応させる方法(酸ハライド合成)が挙げられる。
XXX型トリグリセリドは前述の(i)〜(iii)のいずれの方法によっても製造できるが、製造の容易さの観点から、(i)直接エステル合成又は(ii)脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成が好ましく、(i)直接エステル合成がより好ましい。
【0025】
XXX型トリグリセリドを(i)直接エステル合成によって製造するには、製造効率の観点から、グリセリン1モルに対して脂肪酸Xまたは脂肪酸Yを3〜5モルを用いることが好ましく、3〜4モルを用いることがより好ましい。
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成における反応温度は、エステル化反応によって生ずる生成水が系外に除去できる温度であればよく、例えば、120℃〜300℃が好ましく、150℃〜270℃がより好ましく、180℃〜250℃がさらに好ましい。反応を180〜250℃で行うことで、特に効率的にXXX型トリグリセリドを製造することができる。
【0026】
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成においては、エステル化反応を促進する触媒を用いても良い。触媒としては酸触媒、及びアルカリ土類金属のアルコキシド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応原料の総質量に対して0.001〜1質量%程度であることが好ましい。
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成においては、反応後、水洗、アルカリ脱酸及び/又は減圧脱酸、及び吸着処理等の公知の精製処理を行うことで、触媒や原料未反応物を除去することができる。更に、脱色・脱臭処理を施すことで、得られた反応物をさらに精製することができる。
【0027】
上記油脂組成物中に含まれるXXX型トリグリセリドの量は、例えば、当該油脂組成物中に含まれる全トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、100〜50質量%、好ましくは95〜55質量%、より好ましくは90〜60質量%である。さらに殊更好ましくは85〜65質量%である。
【0028】
<その他のトリグリセリド>
XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物となるその他のトリグリセリドとしては、上記XXX型トリグリセリドの他、本発明の効果を損なわない限り、各種トリグリセリドを含めてもよい。その他のトリグリセリドとしては、例えば、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つが脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリド、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの2つが脂肪酸残基Yに置換したXY2型トリグリセリド等を挙げることができる。
上記その他のトリグリセリドの量は、例えば、XXX型トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、0〜100質量%、好ましくは0〜70質量%、より好ましくは1〜40質量%である。
【0029】
また、本発明の油脂組成物としては、上記XXX型トリグリセリドを直接合成する代わりに、天然由来のトリグリセリド組成物に対し水素添加、エステル交換又は分別を行ったものを使用してもよい。天然由来のトリグリセリド組成物としては、例えば、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、サフラワー油、パームステアリン及びこれらの混合物等を挙げることができる。特に、これらの天然由来のトリグリセリド組成物の硬化油、部分硬化油、極度硬化油が好ましいものとして挙げられる。さらに好ましくは、ハードパームステアリン、ハイオレイックヒマワリ油極度硬化油、菜種極度硬化油、大豆極度硬化油が挙げられる。
【0030】
さらに、本発明の油脂組成物としては、市販されている、トリグリセリド組成物又は合成油脂を挙げることができる。例えば、トリグリセリド組成物としては、ハードパームステアリン(日清オイリオグループ株式会社製)、菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、大豆極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)を挙げることができる。また、合成油脂としては、トリパルミチン(東京化成工業株式会社製)、トリステアリン(シグマアルドリッチ製)、トリステアリン(東京化成工業株式会社製)、トリアラキジン(東京化成工業株式会社製)トリベヘニン(東京化成工業株式会社製)を挙げることができる。その他、パーム極度硬化油は、XXX型トリグリセリドの含量が少ないので、トリグリセリドの希釈成分として使用できる。
【0031】
<その他の成分>
上記油脂組成物としては、上記トリグリセリドの他、任意に部分グリセリド、脂肪酸、抗酸化剤、乳化剤、水などの溶媒等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、XXX型トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、0〜5質量%、好ましくは0〜2質量%、より好ましくは0〜1質量%である。
【0032】
上記油脂組成物は、成分が複数含まれる場合、任意に混合してもよい。混合は、均質な反応基質が得られる限り公知のいかなる混合方法を用いてもよいが、例えば、パドルミキサー、アジホモミキサー、ディスパーミキサー等で行うことができる。
当該混合は、必要に応じて加熱下で混合してもよい。加熱は、後述の工程(b)における加熱温度と同程度であることが好ましく、例えば、50〜120℃、好ましくは60〜100℃、より好ましくは70〜90℃、さらに好ましくは80℃で行われる。
【0033】
(b)溶融状態の前記油脂組成物を得る工程
上記(d)工程の前に、上記工程(a)で準備された油脂組成物は、準備された時点で溶融状態にある場合、加熱せずにそのまま冷却されるが、準備された時点で溶融状態にない場合は、任意に加熱され、該油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の油脂組成物を得る。
ここで、油脂組成物の加熱は、上記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドの融点以上の温度、特にXXX型トリグリセリドを融解できる温度、例えば、70〜200℃、好ましくは、75〜150℃、より好ましくは80〜100℃であることが適当である。また、加熱は、例えば、0.1〜3時間、好ましくは、0.3〜2時間、より好ましくは0.5〜1時間継続することが適当である。
【0034】
また、本発明の増粘剤の1つである溶融状態にある液状の油脂組成物は、工程(a)又は(b)によって製造される。本発明のもう1つの増粘剤である固体状態にある粉末状の油脂組成物は、さらに以下の工程(d)によって製造される。なお、粉末油脂組成物を製造するためには、下記冷却温度で冷却することが必要である。
【0035】
(d)溶融状態の油脂組成物を冷却して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(a)又は(b)で準備された溶融状態の油脂組成物は、さらに冷却固化されて、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂組成物を形成する。
ここで、「溶融状態の油脂組成物を冷却固化」するためには、冷却温度の上限値として、溶融状態の油脂組成物を、当該油脂組成物に含まれる油脂成分のβ型油脂の融点より低い温度に保つことが必要である。「油脂組成物に含まれる油脂成分のβ型油脂の融点より低い温度」とは、例えば、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドの場合、β型油脂の融点は74℃であるので(表1)、当該融点より1〜30℃低い温度(即ち44〜73℃)、好ましくは当該融点より1〜20℃低い温度(即ち54〜73℃)、より好ましくは当該融点より1〜15℃低い温度(即ち59〜73℃)、特に好ましくは、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃または10℃低い温度である。
より好ましくは、β型油脂を得るためには、冷却温度の下限値として、以下の式から求められる冷却温度以上に保つことが適当である。
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 ― 68
(式中、炭素数xは、油脂組成物中に含まれるXXX型トリグリセリドの炭素数x)
このような冷却温度以上とするのは、XXX型トリグリセリドを含有するβ型油脂を得るために、当該油脂の結晶化の際、冷却温度をβ型油脂以外のα型油脂やβ’型油脂が結晶化しない温度に設定する必要があるためである。冷却温度は、主にXXX型トリグリセリドの分子の大きさに依存するので、炭素数xと最適な冷却温度の下限値との間には一定の相関関係があることが理解できる。
例えば、油脂組成物に含まれるXXX型トリグリセリドが、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドである場合、冷却温度の下限値は50.8℃以上となる。従って、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドの場合、「溶融状態の油脂組成物を冷却固化」する温度は、50.8℃以上72℃以下がより好ましいこととなる。
また、XXX型トリグリセリドが2種以上の混合物である場合は、炭素数xが小さい方の冷却温度に合わせてその下限値を決定することができる。例えば、油脂組成物に含まれるXXX型トリグリセリドが、炭素数が16のパルミチン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドと炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドとの混合物である場合、冷却温度の下限値は小さい方の炭素数16に合わせて37.6℃以上となる。
【0036】
別の態様として、上記冷却温度の下限値は、XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物の、当該β型油脂に対応するα型油脂の融点以上の温度であることが適当である。例えば、油脂組成物に含まれるXXX型トリグリセリドが、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドである場合、当該ステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドのα型油脂の融点は55℃であるから(表1)、かかる場合の「溶融状態の油脂組成物を冷却固化」する温度は、55℃以上72℃以下が好ましいこととなる。
【0037】
さらに別の態様として、溶融状態にある油脂組成物の冷却は、例えばxが10〜12のときは最終温度が、好ましくは−2〜46℃、より好ましくは12〜44℃、更に好ましくは14〜42℃の温度になるように冷却することによって行われる。冷却における最終温度は、例えばxが13又は14のときは、好ましくは24〜56℃、より好ましくは32〜54℃、更に好ましくは40〜52℃であり、xが15又は16のときは、好ましくは36〜66℃、より好ましくは44〜64℃、更に好ましくは52〜62℃であり、xが17又は18のときは、好ましくは50〜72℃、より好ましくは54〜70℃、更に好ましくは58〜68℃であり、xが19又は20のときは、好ましくは62〜80℃、より好ましくは66〜78℃、更に好ましくは70〜77℃であり、xが21又は22のときは、好ましくは66〜84℃、より好ましくは70〜82℃、更に好ましくは74〜80℃である。上記最終温度において、例えば、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、更に好ましくは6時間以上であって、好ましくは2日間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは12時間以下、静置することが適当である。
【0038】
(c)粉末生成促進工程
さらに、工程(d)の前、上記工程(a)又は(b)と(d)との間に、(c)粉末生成を促進するための任意工程として、工程(d)で使用する溶融状態の油脂組成物に対し、シーディング法(c1)、テンパリング法(c2)及び/又は(c3)予備冷却法による処理を行ってもよい。これらの任意工程(c1)〜(c3)は、いずれか単独で行ってもよいし、複数の工程を組み合わせて行ってもよい。ここで、工程(a)又は(b)と工程(d)との間とは、工程(a)又は(b)中、工程(a)又は(b)の後であって工程(d)の前、工程(d)中を含む意味である。
シーディング法(c1)及びテンパリング法(c2)は、本発明の粉末油脂組成物の製造において、溶融状態にある油脂組成物をより確実に粉末状とするために、最終温度まで冷却する前に、溶融状態にある油脂組成物を処置する粉末生成促進方法である。
ここで、シーディング法(c1)とは、粉末の核(種)となる成分を溶融状態にある油脂組成物の冷却時に少量添加して、増粘化を促進する方法である。具体的には、例えば、工程(b)で得られた溶融状態にある油脂組成物に、当該油脂組成物中のXXX型トリグリセリドと炭素数が同じXXX型トリグリセリドを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む油脂粉末を核(種)となる成分として準備する。この核となる油脂粉末を、溶融状態にある油脂組成物の冷却時、当該油脂組成物の温度が、例えば、最終冷却温度±0〜+10℃、好ましくは+5〜+10℃の温度に到達した時点で、当該溶融状態にある油脂組成物100質量部に対して0.1〜1質量部、好ましくは0.2〜0.8質量部添加することにより、油脂組成物の増粘化を促進する方法である。
また、テンパリング法(c2)とは、溶融状態にある油脂組成物の冷却において、最終冷却温度で静置する前に一度、工程(d)の冷却温度よりも低い温度、例えば5〜20℃低い温度、好ましくは7〜15℃低い温度、より好ましくは10℃程度低い温度に、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜90分間程度冷却することにより、油脂組成物の増粘化を促進する方法である。
さらに、予備冷却法(c3)とは、前記工程(a)又は(b)で得られた溶融状態の油脂組成物を、工程(d)にて冷却する前に、前記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物を準備した時の温度と前記油脂組成物の冷却時の冷却温度との間の温度で一旦冷却する方法、言い換えれば、工程(a)又は(b)の溶融状態の温度よりも低く、工程(d)の冷却温度よりも高い温度で一旦予備冷却する方法である。(c3)予備冷却法に続いて、工程(d)の油脂組成物の冷却時の冷却温度で冷却することが行われる。工程(d)の冷却温度より高い温度とは、例えば、工程(d)の冷却温度よりも2〜40℃高い温度、好ましくは3〜30℃高い温度、より好ましくは4〜30℃高い温度、さらに好ましくは5〜10℃程度高い温度であり得る。前記予備冷却する温度を低く設定すればするほど、工程(d)の冷却温度における本冷却時間を短くすることができる。すなわち、予備冷却法とは、シーディング法やテンパリング法と異なり、冷却温度を段階的に下げるだけで油脂組成物の増粘化を促進できる方法であり、工業的に製造する場合に利点が大きい。
【0039】
(e)固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(d)の冷却によって粉末油脂組成物を得る工程は、より具体的には、工程(d)の冷却によって得られる固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程(e)によって行われてもよい。
詳細に説明すると、まず、上記油脂組成物を融解して溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。空隙を有する固形物となった油脂組成物は、軽い衝撃を加えることで粉砕でき、固形物が容易に崩壊して粉末状となる。
ここで、軽い衝撃を加える手段は特に特定されないが、振る、篩に掛ける等により、軽く振動(衝撃)を与えて粉砕する(ほぐす)方法が、簡便で好ましい。
なお、該固形物を公知の粉砕加工手段により粉砕してもよい。このような粉砕加工手段の一例としては、ハンマーミル、カッターミル等が挙げられる。
【0040】
<油脂組成物中の任意成分>
本発明で用いる油脂組成物(液状と粉末状の二態様がある)は、実質的に油脂のみからなることが好ましい。ここで油脂とは、実質的にトリグリセリドのみからなるものである。また、「実質的に」とは、油脂組成物中に含まれる油脂以外の成分または油脂中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、油脂組成物または油脂を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
【0041】
<増粘剤>
本発明の増粘剤は、前述の油脂組成物(液状と粉末状の二態様がある)を必須成分として含む。
本発明の増粘剤として、粉末状の油脂組成物を用いる場合は、平均粒径が10〜1000μmである紛体であることが好ましく、平均粒径が20〜200である紛体であることがより好ましく、50〜100μmの紛体であることがさらに好ましい。前記の平均粒径を有する粉体を用いると、液状成分と増粘剤とが均一に分布した、滑らかな粉末組成物を得ることができる。なお、ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱法(ISO133201及びISO9276-1)によって測定した値である。
また、上記の平均粒径を有する粉体は、油脂の製造に一般的に用いられている公知の粉砕手段、例えば噴霧や粉砕機等を用いて製造することができる。
【0042】
本発明の増粘剤は、油脂組成物のみからなることが好ましい。
但し、本発明の増粘剤は、上記の油脂組成物の他、増粘剤としての機能を損なわない範囲で任意成分を含んでいてもよい。ここでいう任意成分とは、後述する液状成分(増粘の対象)以外の成分をいう。任意成分としては、乳化剤、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖やデキストリン等が挙げられる。
任意成分の配合量は、例えば、増粘剤の全質量を100質量%とした場合、0〜70質量%、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは0〜30質量%である。
任意成分は、その90質量%以上が、平均粒径が1000μm以下である紛体であることが、液状成分と増粘剤とが均一に分布した滑らかな粉末組成物を得ることができる点で好ましく、平均粒径が500μm以下の紛体であることがより好ましい。なお、ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱法(ISO133201及びISO9276-1)によって測定した値である。
【0043】
次に、本発明の増粘剤を用いて液状成分を増粘する方法(換言すれば、液状成分の増粘化により増粘組成物を製造する方法)について説明する。
【0044】
<液状成分>
液状成分とは、後述する製品中に含まれる機能性物質を含んだ液体をいう。
また、液状成分とは、常温(20℃)において液体である成分をいう。
また、本発明の増粘剤は、1〜300mPa・S(mPa・s=ミリパスカル×秒、例えば、B型粘度計、20℃、60rpm、No.1又は2、以下別に定義する場合を除き、粘度値はこの条件下でのものをいう。なお、1mPa・s=1cP(センチポアズ)である。)、好ましくは2〜200mPa・s、より好ましくは3〜180mPa・s、更に好ましくは4〜150mPa・sの粘度を有する液状成分に対して好適に使用することができる。液状成分の粘度は、常温(20℃)下におけるB型粘度計を用いて測定することができる。
機能性物質は、製品へ何らかの機能を付与することができるものを特に制限なく用いることができる。
また、機能性物質は、製品の主機能を付与する物質(例えば、医薬や機能性食品における有効成分)であってもよく、製品の副機能を付与する物質(例えば、食品における色素や香料)であってもよい。
機能性物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせてもよい。
【0045】
機能性物質は、疎水性物質と親水性物質とに分類することができる。
【0046】
<疎水性物質>
疎水性物質としては、後述する製品中に機能性物質として配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、香料、色素、ビタミン、脂質やタンパク質(疎水性ペプチド)等が挙げられる。これらの中でも、香料、色素、ビタミンやレシチンに、本発明の好適に適用することができる。
香料としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、メントール、ココア類(パウダー、エキス等)、エステル類(例えば、酢酸イソアミル、酢酸リナリル、プロピオン酸イソアミル、酪酸リナリル等)、天然精油類(植物性精油として、例えば、バニラエキス、スペアミント、ペパーミント、カシア、ジャスミン等;動物性精油として、例えば、ムスク、アンバーグリス、シベット、カストリウム等)、単体香料(例えば、アネトール、リモネン、リナロール、オイゲノール、バニリン等)、油性調味料(ローストエビオイル、オニオンオイル等)が挙げられる。より具体的には、リモネン、バニリン、ローストエビオイルや、オニオンオイル等が挙げられる。
色素としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、オレンジ色素、イエロー色素、マゼンタ色素やシアン色素等が挙げられる。
ビタミンとしては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、ビタミンE、ビタミンA、ビタミンDやビタミンK等が挙げられる。
脂質としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、トリグリセリド、脂肪酸、リン脂質(例えば、レシチン、リゾレシチン、ホスファチジン酸やリゾホスファチジン酸等)やトリエチルヘキサノイン等が挙げられる。
タンパク質としては、疎水性ペプチドが挙げられ、ペプチドとは3以上のアミノ酸が連なったものであり、疎水性とは水への溶解度が低いことを意味し、ここでは水1mlあたり1μg未満しか溶解しないものを疎水性と定義する。
疎水性物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて混合物として用いてもよい。
【0047】
液状成分は、疎水性物質の溶液であってもよい。溶液を構成する溶媒としては、疎水性物質を溶解することができるものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、液油、アルコールや有機溶剤等が挙げられる。前記疎水性物質の溶液については、当該溶液自体が疎水性であることが好ましい。
液油としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、菜種油(キャノーラ油)、オリーブ油、米油、ゴマ油、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、大豆油、ひまわり油、紅花油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、MCT油(但し、前述の増粘剤を構成するXXX型トリグリセリドを除く)や、MLCT油等の食用油脂が挙げられる。
アルコールとしては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、又はブチルアルコール等の低級アルコール等が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチルエーテル、メチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、アセトン又はクロロホルム等が挙げられる。
溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて混合物として用いてもよい。
【0048】
溶液における疎水性物質含量は特に制限されないが、例えば、溶液の総質量に対して1〜99質量%、好ましくは5〜80質量%であり、さらに好ましくは10〜60質量%である。
【0049】
液状成分は、疎水性物質のエマルジョンであってもよい。エマルジョンを構成する分散媒としては、疎水性物質を分散させることができるものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、水、グリセリン、糖アルコールや液油等が挙げられ、好ましくは水、グリセリン及び液油であり、より好ましくは水及びグリセリンである。
分散媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせてもよい。
【0050】
エマルジョンは、乳化剤を含んでいてもよい。乳化剤としては、疎水性物質を分散させることができるものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルベタイン、レシチン、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、プルラン、サイクロデキストリン、アルギン酸及びその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、でん粉、澱粉の誘導体等が挙げられ、好ましくはグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン及びソルビタン脂肪酸エステルであり、より好ましくはグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンである。
乳化剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせてもよい。
【0051】
エマルジョンにおける疎水性物質の含量は特に制限されないが、例えば、溶液の総質量に対して1〜99質量%、好ましくは5〜80質量%であり、さらに好ましくは10〜60質量%である。
【0052】
なお、液状成分は、疎水性物質自体が溶融したもの(溶融物)であってもよい。この場合、液状成分は疎水性物質のみから構成される。溶融物として用いることができる疎水性物質としては、例えば、ビタミンE、リモネンやバニリン等が挙げられる。
【0053】
<親水性物質>
親水性物質としては、後述する製品中に機能性物質として配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、香料、色素、ビタミン、糖質やタンパク質(親水性ペプチド)あるいは核酸等が挙げられる。これらの中でも、香料、色素やビタミンに、本発明の好適に適用することができる。
香料としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、水性香料(例えば、えびフレーバー)、天然植物性香料(例えば、リコリス、セントジョンズブレッド、スモモエキス、ピーチエキス等)、酸類(例えば、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、酪酸等)等が挙げられる。
色素としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、アジン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、スチリル系色素、ピリリウム系色素、アゾ系色素、キノン系色素、テトラサイクリン系色素、フラボン系色素、ポリエン系色素、BODIPY(登録商標)系色素や、インジゴイド系色素等が挙げられる。
ビタミンとしては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、ビタミンB1、B2、B6、ニコチン酸、パントテン酸、ビタミンB12やビタミンC等が挙げられる。
糖質としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、デンプン、デキストリン、α−シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、アラビアゴム、トラガント、カンテン等の多糖類、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類、オリゴ糖類が挙げられる。
タンパク質としては、親水性ペプチドが挙げられ、ペプチドとは3以上のアミノ酸が連なったものであり、親水性とは水への溶解度が高いことを意味し、ここでは水1mlあたり1μg以上溶解するものを親水性と定義する。
核酸としては、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、DNA−RNAハイブリッド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、アプタマー、ペプチド核酸(PNA)などが挙げられる。
親水性物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて混合物として用いてもよい。
【0054】
液状成分は、親水性物質の溶液であってもよい。溶液を構成する溶媒としては、親水性物質を溶解することができるものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、水、アルコールや有機溶剤等が挙げられ、好ましくは水及びアルコールであり、より好ましくは水である。前記親水性物質の溶液については、当該溶液自体が親水性であることが好ましい。
アルコールとしては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールや、n−ブタノール等の1価低級アルコール;1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールや、プロピレングリコール等の2価アルコール;ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコールや、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトーやル、ソルビトール等の多価アルコール等が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品や医薬品等に配合されているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、グリコール類、エステル類、エーテル類や、ケトン類などである。グリコール類としては、例えばエチレングリコールや、プロピレングリコールが挙られる。エステル類としては、前記アルコール類およびグリコール類のギ酸、酢酸、プロピオン酸などのエステル、具体的にはギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルや、プロピオン酸エチルなどを例示できる。エーテル類としては、前記アルコール類およびグリコール類のアルキルエーテルなど、具体的にはジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテルや、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンや、アセトフェノン等が挙げられる。
溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて混合物として用いてもよい。
【0055】
溶液における親水性物質の含量は特に制限されないが、例えば、溶液の総質量に対して1〜99質量%、好ましくは5〜80質量%であり、さらに好ましくは10〜70質量%である。
【0056】
液状成分は、親水性物質のエマルジョンであってもよい。エマルジョンを構成する分散媒としては、親水性物質を分散させることができるものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、水、グリセリン、糖アルコールや液油等が挙げられ、好ましくは水、グリセリン及び液油であり、より好ましくは水及びグリセリンである。
分散媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせてもよい。
【0057】
エマルジョンは、乳化剤を含んでいてもよい。乳化剤としては、親水性物質を分散させることができるものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルや、リゾレシチン等が挙げられ、好ましくはショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルであり、より好ましくはショ糖脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルである。
乳化剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせてもよい。
【0058】
エマルジョンにおける親水性物質含量は特に制限されないが、例えば、溶液の総質量に対して1〜99質量%、好ましくは5〜80質量%であり、さらに好ましくは10〜60質量%である。
【0059】
また、液状成分は、親水性物質自体が溶融したもの(溶融物)であってもよい。この場合、液状成分は親水性物質のみから構成される。溶融物として用いることができる親水性物質としては、例えば水や糖アルコール(例えば、エリスリトールやマルチトール等)等が挙げられる。
【0060】
また、液状成分は、疎水性物質及び/又は親水性物質を含むもの、例えば液状食品であってもよい。液状食品の具体例としては、牛乳、ワイン、果汁、飲料、ヨーグルトや出汁等が挙げられ、好ましくは牛乳、果汁である。なお、前記「果汁」は、オレンジジュース等の果汁100%のジュースを含む。また、前記液状食品については、当該食品自体が親水性であることが好ましい。
【0061】
なお、液状成分には、水を機能性物質として含む溶液やエマルジョンや、水自体(機能性物質のみ)が包含される。
【0062】
<液状成分の増粘方法(増粘組成物の製造方法)>
本発明では、増粘剤と液状成分とを混合工程に付することにより液状成分を増粘化して、増粘化された液状成分を含む増粘組成物(以下、単に「増粘組成物」ともいう)を製造する。増粘組成物の製造に用いる増粘剤は溶融状態(液状)であってもよく、固体状態(粉末状)であってもよいが、溶融状態のもの用いた場合には、次に説明する冷却工程が必要である。なお、固体状態(粉末状)である増粘剤を用いれば、この冷却工程を省略することができる。
以下、増粘剤を用いた増粘組成物の製造方法を説明する。
【0063】
<混合工程>
混合工程に付される増粘剤は溶融状態(液状)であってもよく、固体状態(粉末状)であってもよいが、溶融状態で用いることが好ましい。溶融状態で用いることにより、増粘剤と液状成分との混合を良好なものとし、より均質な増粘組成物を得ることができる。
混合工程における増粘剤と液状成分との質量比(増粘剤:液状成分)に特に制限はない。
また、液状成分の使用量は、増粘組成物(最終生成物)の総質量に対して、例えば30質量%超(すなわち、30質量%を含まない)〜99質量%であってもよく、好ましくは40〜97質量%、より好ましくは50〜95質量%である。上記の使用量であると液状成分をより十分に増粘化することができる。
混合は、均質な混合物が得られる限り公知のいかなる混合手段を用いてもよいが、例えば、パドルミキサー、アジホモミキサー、ディスパーミキサー等で行うことができる。
混合は、必要に応じて加熱下で行ってもよい。混合温度は、溶融状態の増粘剤を用いる場合、例えば5〜120℃、好ましくは50〜100℃、より好ましくは55〜90℃である。粉末状の増粘剤を用いる場合、例えば5〜40℃、好ましくは10〜30℃、より好ましくは15〜25℃である。但し、熱に特に敏感な液状成分(例えば、香料、色素、ビタミン等)を増粘化する場合、混合温度は、当該液状成分の分解や変性が起きない温度とする。
混合時間に特に制限はないが、増粘剤と液状成分とが十分均一になるまで混合すればよく、例えば5〜60分間、好ましくは10〜50分間、より好ましくは20〜40分間である。
【0064】
<冷却工程>
増粘剤と液状成分との混合物は、続いて冷却工程に付して、増粘化を行うこともある。特に前記増粘剤として溶融状態(液状)の油脂組成物を用いた場合、前記混合物の状態は液状であるので、一般的には冷却工程に付して増粘化を行う。なお、前記増粘剤として固体状態(粉末状)の油脂組成物を用いた場合は、冷却工程は必要に応じて行う任意の工程となる。
冷却工程とは、増粘剤と液状成分との混合物を所定の最終温度まで冷却する工程をいい、例えば、液状成分が親水性物質を含む場合は、溶融状態の油脂組成物を、当該油脂組成物に含まれる油脂成分のβ型油脂の融点より低い温度であって、かつ、次式:
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 ― 68
から求められる冷却温度以上の温度で行われる。このような温度範囲で冷却すれば、β型油脂を効率よく生成でき、細かい結晶ができるので、増粘組成物を容易に得ることができる。
また、液状成分が親水性物質を含む場合、混合物の冷却は、例えばxが10〜12のときは最終温度が、好ましくは−2〜46℃、より好ましくは12〜44℃、更に好ましくは14〜42℃の温度になるように冷却することによって行われる。冷却における最終温度は、例えばxが13又は14のときは、好ましくは24〜56℃、より好ましくは32〜54℃、更に好ましくは40〜52℃であり、xが15又は16のときは、好ましくは36〜66℃、より好ましくは44〜64℃、更に好ましくは52〜62℃であり、xが17又は18のときは、好ましくは50〜72℃、より好ましくは54〜70℃、更に好ましくは58〜68℃であり、xが19又は20のときは、好ましくは62〜80℃、より好ましくは66〜78℃、更に好ましくは70〜77℃であり、xが21又は22のときは、好ましくは66〜84℃、より好ましくは70〜82℃、更に好ましくは74〜80℃である。上記最終温度において、例えば、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、更に好ましくは6時間以上であって、好ましくは2日間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは12時間以下、静置することが適当である。
【0065】
他方、液状成分が疎水性物質を含む場合は、増粘剤が液状成分に溶け込んで均質化するため、液状成分の含有量が多くなるほど、最適な最終温度は低くなる傾向がある。
液状成分が疎水性物質を含む場合、混合物の冷却は、液状成分の含有量が30〜50質量%であって、例えば、x(脂肪酸残基Xの炭素数)が10〜12のときは、最終温度が、好ましくは−32〜29℃、より好ましくは−22〜27℃、更に好ましくは−20〜25℃の温度になるように冷却することによって行われる。冷却における最終温度は、例えばxが13又は14のときは、好ましくは−6〜39℃、より好ましくは2〜37℃、更に好ましくは10〜35℃であり、xが15又は16のときは、好ましくは6〜49℃、より好ましくは14〜47℃、更に好ましくは22〜45℃であり、xが17又は18のときは、好ましくは20〜55℃、より好ましくは24〜53℃、更に好ましくは28〜51℃であり、xが19又は20のときは、好ましくは32〜63℃、より好ましくは36〜61℃、更に好ましくは40〜60℃であり、xが21又は22のときは、好ましくは36〜67℃、より好ましくは40〜65℃、更に好ましくは44〜63℃である。なお、液状成分の含有量が50〜75質量%であるときは、上述した温度をさらに5℃下げた温度が最適な最終温度であり、液状成分の含有量が75〜9質量%であるときは、上述した温度をさらに10℃下げた温度が最適な最終温度である。
上記温度において、例えば、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは4時間以上であって、好ましくは2日間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは12時間以下、静置することが適当である。
【0066】
<増粘化促進工程(シーディング法、テンパリング法及び/又は予備冷却法>
混合工程と冷却工程との間に、増粘化を促進するための任意工程として、シーディング法、テンパリング法及び/又は予備冷却法を行ってもよい。ここで、「混合工程と冷却工程との間」とは、混合工程中、混合工程の後であって冷却工程の前、冷却工程中を含む意味である。
【0067】
シーディング法としては、増粘剤を構成する粉末油脂組成物の製造に関して前述したシーディング法(c1)を用いることができる。
テンパリング法としては、増粘剤を構成する粉末油脂組成物の製造に関して前述したテンパリング法(c2)を用いることができる。
予備冷却法としては、増粘剤を構成する粉末油脂組成物の製造に関して前述した予備冷却法(c3)を用いることができる。
【0068】
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の増粘剤を用いることで液状成分を簡単に増粘化できるのは、増粘剤に含まれる油脂組成物の特徴にあると考えられる。具体的には、XXX型トリグリセリドが、適切な温度条件に整えると、非常に疎な状態(体積が増えて空隙ができた状態)で結晶化し、その際、空隙中に液状成分が取り込まれ、固形物になり、増粘化が達成されると考えられる。空隙中に液体成分が取り込まれるのは、粉末状の増粘剤を液状成分に加えることでも同様に達成されると考えられる。
【0069】
<増粘組成物の特性>
本発明の増粘剤を液状成分へ適用して得られた増粘組成物は、増粘化前の液状成分よりも粘度が増加しているものすべてを指す。流動性のあるもの(例えば、ペースト状のもの)や可塑性のあるものも、本発明でいう増粘組成物の中に含まれる。但し、本発明の増粘組成物は、粉末状の組成物ではない。
本発明の増粘組成物は、液状成分の粘度の1倍よりも大きい粘度を有する。例えば、1.5〜100倍の粘度を有する。好ましくは2〜75倍。さらに好ましくは5〜50倍の粘度を有する。増粘組成物の粘度(常温20℃)は、B型粘度計を用いて測定することができる。
本発明の増粘組成物自体の粘度は、出発点である液体成分の粘度に依存するため、特に制限されないが、取扱いの利便性を考慮すると流動性のある状態の方が好ましく、例えば、1〜30000mPa・S(mPa・s=ミリパスカル×秒、B型粘度計、20℃、6〜60rpm、No.1〜4)、好ましくは2〜25000mPa・s、より好ましくは5〜15000mPa・s、殊更に好ましくは7〜1000mPa・sの粘度である。
【0070】
<増粘組成物の用途>
本発明の増粘剤を液状成分へ適用して得られた増粘組成物は、増粘化された液状成分中に含まれる機能性物質が奏する機能に応じて、特に制限なく様々な製品に用いることができる。
製品の具体例としては、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品、日用品、飼料、雑貨、農薬及び化学工業品等が挙げられる。
また、増粘組成物は、それ自体を製品(例えば、ゲル状食品)として用いてもよく、前述の製品の原料又は中間体として用いてもよい。
【0071】
<飲食品>
本発明は、特に上記増粘組成物を含む飲食品にも関する。飲食品としては、特に制限されないが、例えば、嗜好性食品が挙げられる。
尚、本発明の飲食品は、増粘組成物自体であってもよく、増粘組成物を他の飲食品へ配合した者であってもよい。
嗜好性食品としては、本発明の増粘組成物を配合可能なものを特に制限なく用いることができる。例えば、調理用素材、加工食品や、調理済食品等が挙げられる。具体例としては、油脂又は加工油脂(例えば、業務用又は家庭用の揚げ油、炒め油、離型油、天板油、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、フラワーペースト、クリーム類、粉末油脂類、乳化油脂類等)、即席食品(例えば、即席麺、カップ麺、即席スープ・シチュー類等)、レトルト食品や缶詰類(例えば、カレー、スープ、シチュー類、パスタソース、中華食品の素、どんぶりの素等)、機能食品(例えば、高カロリー飲料、流動食、栄養バランス食、栄養補助食品や、特定保健用食品等)、小麦粉又はデンプン食品(例えば、パン、マカロニ・スパゲティ等のパスタ類、ピザパイ、麺類、ケーキミックス、加工米飯、シリアル等)、菓子やデザート(例えば、キャラメル、キャンディ、チューインガム、チョコレート、クッキー・ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、ゼリー、プリン等)、基礎調味料(例えば、しょうゆ、みそ、ソース類等)、複合調味料(カレー又はシチュー用ルー、たれ、ドレッシング、マヨネーズ風調味料、麺つゆ、鍋料理用つゆ、ラー油、マスタード、からし、わさび、おろししょうが、おろしにんにく、キムチの素、デミグラスソース、ホワイトソース、トマトソース等)、乳製品(例えば、乳、加工乳、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、チーズ、アイスクリーム類、調整粉乳、クリーム類等)、水産加工品(例えば、水産缶詰、魚肉のハムやソーセージ、水産練り製品、油漬け魚肉缶詰等)、農産加工品(例えば、ピーナツバター、ジャム、マーマレード、チョコレートクリーム、メンマ加工品、ザーサイ加工品、ねりごま、ごまペースト等)、畜産加工品(例えば、畜肉ハム・ソーセージ、畜産缶詰、ペースト類、ハンバーグ、ミートボール、味付け畜肉缶詰等)、調理済み・半調理済み食品(例えば、冷凍食品、冷蔵食品、パック入り総菜や店頭販売用惣菜等)が挙げられる。また、本発明の増粘組成物を含む飲食品は、人間以外に用いられる飲食品、例えば、愛玩動物用ペットフードや家畜用飼料であってもよい。
【0072】
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
増粘剤の調製
下記の増粘剤A及びA’を調製した。
【0074】
増粘剤
市販の菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)を油脂組成物とした。
当該油脂組成物は、全トリグリセリド含有量(油脂成分の含有量)を100質量%とした場合、
1位〜3位に炭素数x(x=18)の脂肪酸残基Xを有する、XXX型トリグリセリドを79.1質量%を含有する油脂組成物であった。
また、この油脂組成物の融点は約67℃であり、常温で固体状態であった。この油脂組成物は加熱溶融すれば液体状態となる。
この油脂組成物を以下増粘剤Aとして用いた。
さらに、この油脂組成物25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで固体状態(粉末状)の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6(板状形状)、平均粒径54μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å(β型油脂に特徴的なピーク)、ピーク強度比:0.89)を得た。
この油脂組成物を以下増粘剤A’として用いた。
【0075】
各増粘剤のゆるめ嵩密度及び平均粒径は下記の方法で測定した。
ゆるめ嵩密度
ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出した。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とした。続いて、受器から盛り上がった試料をすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めた。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行って、その平均値を測定値とした。
【0076】
平均粒径
平均粒径は日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)に基づいて測定した。
【0077】
各実施例において、液状成分の粘度及び増粘組成物の粘度は、B型粘度計(東京計器(株)製、20℃、6〜60rpm、ローターNo.1〜4)を用いて測定した。
【0078】
実施例1〜6では、液体成分としてキャノーラ油(粘度:71.2mPa・s)を使用した。
実施例1〜6で使用したキャノーラ油(日清オイリオグループ株式会社製)は、疎水性物質として脂質(特にトリグリセリド)を含み、疎水性物質自体が溶融したもの(溶融物)であるといえる。
【0079】
<実施例1>
増粘剤A’ 40.0gとキャノーラ油40.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ20℃で混合し、増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、増粘組成物(増粘剤A’+液状成分)の総質量に対して50質量%であった。
得られた増粘組成物は流動性のある状態(ペースト状)であったが(
図2)、上述した測定条件では測定できず、その粘度は100000mPa・s以上であると推定された。
【0080】
<実施例2>
増粘剤A’ 20.0gとキャノーラ油60.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ20℃で混合し、増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、増粘組成物(増粘剤A’+液状成分)の総質量に対して75質量%であった。
得られた増粘組成物の粘度は560.0mPa・s(20℃、6rpm、No.1)であった。
【0081】
<実施例3>
増粘剤A’ 8.0gとキャノーラ油72.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ20℃で混合し、増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、増粘組成物(増粘剤A’+液状成分)の総質量に対して90質量%であった。
得られた増粘組成物の粘度は110.4mPa・s(20℃、30rpm、No.1)であった。
【0082】
<実施例4>
増粘剤A’ 4.0gとキャノーラ油76.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ20℃で混合し、増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、増粘組成物(増粘剤A’+液状成分)の総質量に対して95質量%であった。
得られた増粘組成物の粘度は85.5mPa・s(20℃、60rpm、No.1)であった。
【0083】
<実施例5>
増粘剤A 8.0gとキャノーラ油72.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ混合し、80℃にて0.5時間維持して完全に融解して混合した。次に、混合物を、30℃恒温槽にて12時間冷却し増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、増粘組成物(増粘剤A+液状成分)の総質量に対して90質量%であった。
得られた増粘組成物の粘度は128.3mPa・s(20℃、60rpm、No.2)であった。
【0084】
<実施例6>
増粘剤A 4.0gとキャノーラ油76.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ混合し、80℃にて0.5時間維持して完全に融解して混合した。次に、混合物を、30℃恒温槽にて12時間冷却し増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、増粘組成物(増粘剤A+液状成分)の総質量に対して95質量%であった。
得られた増粘組成物の粘度は92.3mPa・s(20℃、60rpm、No.1)であった。
【0085】
以下の表2に、増粘化前のキャノーラ油の粘度と、増粘剤A又はA’を用いて得られた増粘組成物の粘度とを示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表2は、本発明の増粘剤を用いて、キャノーラ油を増粘化することができたことを示している。また、増粘剤は液体状態のものだけでなく、固体状態(粉末状)のものも好適に使用できることを示している。なお、固体状態のものを用いる場合、冷却工程は不要であった。
【0088】
次に、実施例7〜10では、液状成分としてトリエチルヘキサノイン(粘度:39.5mPa・s)を使用した。
実施例6〜8で使用したトリエチルヘキサノイン(日清オイリオグループ株式会社製、商品名:T.I.O)は、疎水性物質としてトリエチルヘキサノインを含み、疎水性物質自体が溶融したもの(溶融物)であるといえる。
【0089】
<実施例7>
増粘剤A’ 40.0gとトリエチルヘキサノイン 40.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ20℃で混合し、増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、粉末組成物(増粘剤A’+液状成分)の総質量に対して50質量%であった。
得られた増粘組成物は流動性のある状態(ペースト状)であったが(
図4)、上述した測定条件では測定できず、その粘度は100000mPa・s以上であると推定された。
【0090】
<実施例8>
増粘剤A’ 20.0gとトリエチルヘキサノイン 60.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ20℃で混合し、増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、粉末組成物(増粘剤A’+液状成分)の総質量に対して75質量%であった。
得られた増粘組成物の粘度は384.5mPa・s(20℃、12rpm、No.1)であった。
【0091】
<実施例9>
増粘剤A’ 8.0gとトリエチルヘキサノイン 72.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ20℃で混合し、増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、粉末組成物(増粘剤A’+液状成分)の総質量に対して90質量%であった。
得られた増粘組成物の粘度は62.4mPa・s(20℃、60rpm、No.1)であった。
【0092】
<実施例10>
増粘剤A’ 4.0gとトリエチルヘキサノイン 76.0gをマルエムスクリュー管No.8(株式会社マルエム社製)の中に入れ20℃で混合し、増粘組成物を得た。ここで、液状成分の使用量は、粉末組成物(増粘剤A’+液状成分)の総質量に対して95質量%であった。
得られた増粘組成物の粘度は48.8mPa・s(20℃、60rpm、No.1)であった。
【0093】
以下の表3に、増粘化前のトリエチルヘキサノインの粘度と、増粘剤A又はA’を用いて得られた増粘組成物の粘度とを示す。
【0094】
【表3】
【0095】
表3は、本発明の増粘剤を用いて、トリエチルヘキサノインを増粘化することができたことを示している。粉末状態のものを用いる場合、冷却工程は不要であった。
【0096】
上記実施例の結果は表4にまとめる。
【表4】