【文献】
Food Sci. Biotechnol.,2010年,Vol.19, No.6,p.1529-1535
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のパン類の硬化抑制剤に有効成分として用いる及びパン類用ミックス粉に含有させる、損傷でん粉含有量の高い穀粉(以下、「損傷でん粉高含有穀粉」ともいう)は、損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉であるのが好適である。
また、前記損傷でん粉高含有穀粉は、本開示のパン類の硬化抑制方法、本開示のパン類の製造方法及びパン類に用いることが可能である。
【0012】
本開示の「損傷でん粉(「DS」ともいう)含有量」とは、穀粉全量中の、損傷を受けたでん粉の含有量である。当該「損傷でん粉」とは、穀物を粉砕する時の圧力や衝撃等により、でん粉粒が機械的な損傷を受けたでん粉のことをいう。
なお、本開示の「損傷でん粉含有量」は、AACC Method 76−31に従って測定することができる。具体的には、試料中に含まれている損傷でん粉のみをカビ由来α−アミラーゼでマルトサッカライドと限界デキストリンに分解し、次いでアミログルコシダーゼでグルコースにまで分解し、生成されたグルコースを定量することにより測定する。また、市販のキット(例えば、MegaZyme製,Starch Damage Assay Kit)を用いて測定してもよい。
【0013】
本開示の損傷でん粉高含有穀粉の「穀粉」は、大麦粉、ライ麦粉、小麦粉、デュラム小麦粉、トウモロコシ粉、ひえ粉、あわ粉等のイネ科穀粉;そば粉、アマランサス粉等の擬穀粉等から選ばれる1種又は2種以上である。このうち、イネ科穀物が好ましく、そのなかで、デュラム小麦粉及びトウモロコシ粉から選ばれる1種以上のものが好適である。
【0014】
本開示の損傷でん粉高含有穀粉において、損傷でん粉含有量が高い方が、硬化抑制効果に優れるので好適である。
本開示の損傷でん粉高含有穀粉における損傷でん粉含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは35質量%以上の穀粉が、得られたパン類の硬化を良好に抑制するため、好適である。
また、本開示の損傷でん粉含有量が、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下の穀粉であるのが、本開示の穀粉を製造する際の製造上のコストを低減できるので、好適である。
また、本開示の損傷でん粉含有量が20質量%以上の穀粉が、パン類の硬化抑制の点で優れている。一方で、穀粉を製造する際の処理工程を少なくし、穀粉の製造コストを低減できる点において、損傷でん粉含有量が15質量%以上30質量%以下の穀粉が望ましい。
【0015】
本開示で用いられる「損傷でん粉高含有穀粉」は、損傷でん粉含有量が高くなるように穀物又は穀粉を粉砕して粉末化したものである。
前記穀物は、大麦、ライ麦、小麦、デュラム小麦、トウモロコシ、ひえ、あわ等のイネ科穀物;そば、アマランサス等の擬穀類等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
本開示の損傷でん粉高含有穀粉は、公知の粉砕装置を用いて、上記穀物又は穀粉を所望の損傷でん粉含有量になるように粉砕して得ることができる。粉砕処理時間を長くすることや粉砕処理の強度を強めることで損傷でん粉含有量を高めることができる。また、粒子の粗いセモリナ粉をさらに粉砕して、損傷でん粉含有量を所望の範囲に調整してもよい。
【0016】
前記粉砕装置としては、一般的に食品製造等に用いられている粉砕装置であればよく、例えば、ロール粉砕の場合には、ロールミル等;気流粉砕の場合には、ジェットミル等;衝撃式粉砕の場合には、ハンマーミル、ピンミル、ターボミル、ボールミル、ビーズミル、杵及びスタンプミル等;摩擦粉砕の場合には、石臼等を備えた摩擦粉砕機、ローラーミル;せん断粉砕の場合にはカッターミル等が挙げられる。
また、複数の粉砕方法を組み合わせた粉砕装置(例えば、サイクロンミル、フラッシュミル、相対流粉砕機等)を用いることもできる。何れの粉砕装置も乾式で用いるのが、損傷でん粉含有量が上がりやすいため好ましい。
【0017】
従来、製パン業界において、損傷でん粉含有量の低い大麦粉、ライ麦粉、デュラム小麦粉、トウモロコシ粉等の穀粉は、パンに独特の風味や色相、食感を付与する目的で、製パン材料の一部として用いられてきた。しかし、これらの損傷でん粉含有量の低い穀粉を用いてパン類を製造しても、出来上がったパン類の硬化抑制効果は得られなかったので、従来、パン類の硬化を抑制する目的で穀粉を用いる考えはなかった。
また、損傷した状態のでん粉(損傷でん粉)が多く含まれる穀粉は、パン類の製造に用いると、パン生地のベタつきを招き作業性が低下する問題点や、パンの膨らみが悪く比容積が減少したり変形(ケービング)もしやすい問題点等が顕著であることが知られている。
よって、得られるパン類の品質、性状や食感を考慮すると、製パン材料としては、損傷でん粉含有量が少ない穀粉を用いることが望ましいと考えられている。そのため、製パン材料として用いられる小麦粉中の損傷でん粉含有量は、通常低く制御されている(例えば、参考文献1:Bread-Making Quality of Wheat: A Century of Breeding in Europe 32頁〜33頁)。
【0018】
ところで、本発明者は、様々なパン類の硬化抑制の素材を種々検討したところ、後記〔実施例〕に示すように、全く意外にも、損傷でん粉含有量を高くした穀粉をパン類に用いれば、一般的なパン類と比較しても、硬化が抑制されたパン類を得ることができることを見出した。そして、本開示の損傷でん粉高含有穀粉を硬化抑制のための有効成分としてパン類の製造に使用すると、製造後時間が経過しても硬化が抑制され、風味が損なわれず食感も良好な優れたパン類が得られることを見出した。さらに、製造後のパン類には変形(ケービング)が見られなかった。
【0019】
従って、本開示の損傷でん粉高含有穀粉は、硬化が抑制されたパン類を得るための、パン類の硬化抑制剤を製造するために使用することができる。また、本開示の損傷でん粉高含有穀粉をそのまま又はこれを含有するパン類の硬化抑制剤を、硬化が抑制されたパン類を得るための、パン類の硬化抑制方法、パン類用生地及びその製造方法、パン類の製造方法、パン類用ミックス粉を提供するために使用することができる。さらに、本開示の損傷でん粉高含有穀粉をそのまま、これを含有する製剤及びこれを用いる方法により良好に硬化が抑制されたパン類を製造することが可能となる。
【0020】
本開示の損傷でん粉高含有穀粉は、パン類の硬化抑制作用を有するため、得られるパン類の硬化抑制を目的として使用することが可能であり、当該損傷でん粉高含有穀粉を含有させて有効成分とするパン類の硬化抑制剤として使用することが可能である。また、上記損傷でん粉高含有穀粉はパン類の硬化抑制剤を製造するために使用することができる。
また、本開示のパン類の硬化抑制剤は、上記損傷でん粉高含有穀粉以外に任意成分を必要に応じて含有させてもよい。当該任意成分としては、特に限定されないが、グルテン、乳成分、卵成分、食物繊維、増粘多糖類、乳化剤、油脂、加工でん粉、酵素製剤等の添加剤を含有させてもよい。
従来のパン類の硬化抑制剤には、有効成分として乳化剤や加工でん粉等の添加剤が用いられている。しかしながら、本開示の損傷でん粉高含有穀粉を、上記の任意成分を使用せずにそのままパン類の硬化抑制を目的として使用した場合であっても、得られたパン類の硬化を良好に抑制することが可能となった。このことは、近年、乳化剤等の食品添加物の使用量の低減や新たな硬化抑制剤を求めている需要者の要望にもマッチする。
【0021】
また、本開示のパン類の硬化抑制方法は、本開示の損傷でん粉高含有の穀粉を配合してパン類を製造する。
上記損傷でん粉高含有穀粉は、下記パン類用ミックス粉等の生地原料及び/又はこれより得られるパン類用生地等に含有させてパン類を製造するのが、パン類の硬化抑制効果が効率良く発揮するので、好適である。
【0022】
本開示の損傷でん粉高含有穀粉のパン類への使用量及び本開示のパン類用ミックス粉の損傷でん粉高含有穀粉の含有量は、特に限定されない。
本開示の損傷でん粉含有量15質量%以上の穀粉含有量は、当該穀粉及び小麦粉の合計量100質量%中、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、さらに好ましくは5〜15質量%であるのが、得られたパン類の硬化を抑制でき、また食感及び風味が良好で、好適である。さらに、本開示の損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉を、当該穀粉及び小麦粉の合計量100質量%中、好ましくは10質量%以下であるのが、パン類の硬化抑制効果が高く、食感が良好であり、製パン時の作業性にも優れ、さらにパン類の膨らみも良好であるので、好適である。
【0023】
本開示のパン類用ミックス粉に用いられる穀粉類としては、通常パンの製造に用いられている通常の穀粉が挙げられる。通常の穀粉として、例えば小麦粉、デュラム小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、オーツ粉等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。また、通常の穀粉類として、粒子の粗いセモリナ粉を使用することもできる。なお、これら通常の穀粉類は損傷でん粉含有量が10質量%程度以下のものである。このとき、穀粉としては、小麦粉を主体とするのが、食感及び風味、製パン性が良好であるので、好適である。
なお、一般的に、小麦粉は強力粉、中力粉、薄力粉に分類されるが、強力粉は硬質小麦を原料とし、タンパク質の量が多く、水を加えて捏ねた時に生地の中にできるグルテンの量が多く力が強い。中力粉、薄力粉の順にタンパク質の量が少なくなり、グルテンの力も弱くなる。パン類には通常強力粉が好適に用いられている。
【0024】
また、本開示のパン類用ミックス粉には、本開示の効果を妨げない範囲で、一般的にパン類用生地原料に使用されている副材料を適宜含有させてもよい。当該副材料としては、例えば、イースト、イーストフード、食塩、糖類、油脂、グルテン、でん粉、増粘多糖類、乳成分、卵成分、酵素製剤、無機塩類及びビタミン類等から選ばれる1種又は2種以上の成分が挙げられる。
本開示の損傷でん粉高含有穀粉をパン類の硬化抑制を目的として使用する際の利点としては、一般的なパン類用生地原料やパン類用生地に、本開示の損傷でん粉高含有穀粉を含有させても、得られたパン類の硬化を好適に抑制することができるため、従来硬化抑制の目的で使用されていた乳化剤や化学処理された加工でん粉の使用量を低減でき、また食感及び風味を損なうことがない点である。
【0025】
前記イーストは、小麦粉100質量部に対し、1〜7質量部である。
前記食塩は、小麦粉100質量部に対し、0.3〜5質量部である。
前記糖類としては、砂糖、ブドウ糖、果糖、トレハロース、イソマルトオリゴ糖等の単糖類及びオリゴ糖類;水あめ、粉あめ、デキストリン等の多糖類;ソルビトール、マルチトール、パラチノース、還元水あめ等の糖アルコール等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。前記糖類は、小麦粉100質量部に対し、2〜30質量部である。
前記油脂として、例えば、バター、マーガリン、ショートニング、ラード、菜種油、大豆油、オリーブ油等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0026】
前記乳成分として、例えば、粉乳、脱脂粉乳、ホエイタンパク質(WPC、WPI等)等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
前記卵成分として、例えば、卵黄、卵白、全卵その他の卵等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
前記無機塩類として、例えば、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、焼成カルシウム、アンモニウムミョウバン等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。これにより、パン生地を膨化させやすい。
前記ビタミン類として、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンD、ビタミンE、カロチン等が挙げられる。
【0027】
本開示のパン類の製造方法としては、直捏法(ストレート法)、中種法、液種法、サワー種法、酒種法、温捏法、冷凍生地法等の種々の製パン法を採用することができる。また、ホームベーカリーにて本開示のパン類を製造することが可能である。このうち、直捏法、中種法、冷凍生地法が好ましい。
また、通常の製パン工程では、ミキシング、発酵、分割・丸め、ベンチタイム、成形、最終発酵、焼成の順に行われている。直捏法の場合には、分割・丸めの前に、ミキシング、発酵が行われ、中種法の場合には、分割・丸めの前に、中種ミキシング、中種発酵、本生地ミキシング、フロアタイムが行われている。ホームベーカリーでの製パン工程では、ミキシング、発酵、及び焼成が行われ、分割・丸めや成形が省略される場合がある。
ミキシングしてパン類用のドウ生地を形成するが、例えば、小麦粉100質量部に対し45〜90質量部の水を加えて捏ね上げてドウ生地を形成する。
また製パンの際の加熱方法として、焼成(オーブン、鉄板等)、油ちょう、蒸煮等が挙げられる。上記損傷でん粉高含有穀粉を含有させたパン類用生地を焼成させて焼成パン類とするのが、風味及び食感も良好であるので、好適である。一般的な焼成は、150〜240℃程度の焼成温度及び8〜60分程度の焼成時間である。
【0028】
上述の方法により本開示のパン類を得ることができる。
そして、本開示のパン類は、本開示の損傷でん粉高含有穀粉を配合するため、経時的な硬化が抑制され、良好な食感及び風味を有するものである。また、本開示の損傷でん粉高含有穀粉以外の上記硬化抑制剤を配合しなくとも、本開示のパン類は、経時的な硬化が抑制され、食感及び風味も良好なパン類である。なお、本開示の損傷でん粉高含有穀粉と、これ以外の上記硬化抑制剤を配合してもよい。
本開示のパン類の種類は、特に限定されず、膨化パン類及び非膨化パン類の何れでもよい。
また、パン類の実用的な分類として、例えば、食パン、ロールパン、硬焼きパン、菓子パン(日本式又は欧米式)等が挙げられる(社団法人 日本パン工業会分類法)。
【0029】
本技術は以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕 損傷でん粉含有量が15質量%以上(好適には20質量%以上30質量%以下)の穀粉を有効成分とするパン類の硬化抑制剤。
〔2〕 前記穀粉が、デュラム小麦粉及びトウモロコシ粉から選ばれる1種以上である前記〔1〕記載のパン類の硬化抑制剤。
〔3〕 焼成パン類、好ましくは発酵生地を焼成するパン類に使用する前記〔1〕又は〔2〕記載の硬化抑制剤。
【0030】
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項記載のパン類の硬化抑制剤を製造するための、損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉、又は前記〔1〕若しくは〔2〕記載の前記穀粉の使用。
〔5〕 パン類を製造するための、損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉、又は前記〔1〕若しくは〔2〕記載の前記穀粉、又は前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項記載のパン類の硬化抑制剤の使用。
【0031】
〔6〕 損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉、又は前記〔1〕若しくは〔2〕記載の前記穀粉、又は前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項記載のパン類の硬化抑制剤を配合してパンを製造するパン類の硬化抑制方法。
〔7〕 前記〔6〕記載の前記穀粉を、前記損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉と小麦粉との合計量100質量%中0.1〜15質量%配合する前記〔6〕記載のパン類の硬化抑制方法。前記損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉の配合割合は、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは5〜10質量%である。
【0032】
〔8〕損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉、又は前記〔1〕若しくは〔2〕記載の前記穀粉、又は前記〔1〕〜〔3〕の何れか1項記載のパン類の硬化抑制剤を配合するパン類の製造方法。前記穀粉の配合割合は、当該穀粉と小麦粉との合計量100質量%中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは5〜10質量%である。
〔9〕前記〔8〕の前記穀粉又はパン類の硬化抑制剤をパン類生地に配合し、当該パン類用生地を用いるパン類の製造方法。好適には当該パン類生地を焼成する。前記穀粉の配合割合は、当該穀粉と小麦粉との合計量100質量%中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは5〜10質量%である。
〔10〕発酵パン類の製造方法である前記〔8〕又は〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕前記〔8〕〜〔10〕の何れか1項記載のパン類の製造方法にて得られたパン類。
【0033】
〔12〕損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉、又は前記〔1〕若しくは〔2〕記載の穀粉をパン類用硬化抑制剤として含有するパン類用ミックス粉。
〔13〕損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉、又は前記〔1〕若しくは〔2〕記載の前記穀粉を含有するパン類用ミックス粉。
〔14〕損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉、又は前記〔1〕若しくは〔2〕記載の前記穀粉を、当該損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉と小麦粉との合計量100質量%中、0.01〜15質量%配合するパン類用ミックス粉。前記穀粉の配合割合は、当該穀粉と小麦粉との合計量100質量%中、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは5〜10質量%である。
〔15〕前記〔12〕〜〔14〕の何れか1項記載のパン類用ミックス粉を用いて得られるパン類。好適なパン類は、焼成パン類、発酵パン類である。
【0034】
〔16〕損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉を配合するパン類。
〔17〕損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉、又は前記〔1〕若しくは〔2〕記載の穀粉をパン類用硬化抑制剤として配合するパン類。
〔18〕前記〔1〕又は〔2〕記載の前記穀粉を配合するパン類。
〔19〕損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉、又は前記〔1〕若しくは〔2〕記載の前記穀粉を、当該損傷でん粉含有量が15質量%以上の穀粉と小麦粉との合計量100質量%中、0.1〜15質量%配合するパン類。前記穀粉の配合割合は、当該穀粉と小麦粉との合計量100質量%中、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは5〜10質量%である。好適なパン類は、焼成パン類、発酵パン類である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明(本開示)を詳細に説明するが、本発明(本開示)はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
<試験1:損傷でん粉高含有トウモロコシ粉配合パン>
下記の表1に示す配合の製パン原料を用いて、ホームベーカリー(ナショナル製SD−BT−113)にて、食パン・早焼きモードで食パンを製造した。小麦粉は、強力粉(キングスター、昭和産業株式会社製)を用いた。
試験例1、7は、配合1の製パン原料にてパンを得た。
試験例2−6は、配合3の製パン原料にてパンを得た。
試験例8、9、10及び11は、それぞれ配合2、3、4及び5の製パン原料にてパンを得た。
【0037】
〔ホームベーカリーでの食パンの製造条件〕
ミキシング:20分間
発酵:10分間
ミキシング:5分間
最終発酵:30分間
焼成:55分間
【0038】
【表1】
【0039】
<損傷でん粉高含有トウモロコシ粉の調製方法>
試験例2のトウモロコシ粉:トウモロコシ(デントコーン)を、ハンマーミルで粉砕して、損傷でん粉含有量5質量%のトウモロコシ粉を得た。
試験例3のトウモロコシ粉:試験例2のトウモロコシ粉を、さらにハンマーミルで粉砕して、損傷でん粉含有量11質量%のトウモロコシ粉を得た。
試験例4の損傷でん粉高含有トウモロコシ粉:トウモロコシ(デントコーン)を、サイクロンミルで粉砕して、損傷でん粉含有量18質量%のトウモロコシ粉を得た。
試験例5の損傷でん粉高含有トウモロコシ粉:トウモロコシ(デントコーン)を、サイクロンミルで粉砕する際に、試験例4よりもインペラの回転数を高くすることにより、粉砕処理の強度を強めて、損傷でん粉含有量23質量%のトウモロコシ粉を得た。
試験例6、8−11の損傷でん粉高含有トウモロコシ粉:トウモロコシ(デントコーン)を、ボールミルで粉砕して損傷でん粉含有量30質量%のトウモロコシ粉を得た。
【0040】
なお、本実施例での「損傷でん粉含有量」は、AACC Method 76−31に従って測定した。
<穀粉の損傷でん粉含有量の測定方法>
各実験で使用した穀粉の損傷でん粉含有量は、市販のキット(MegaZyme製,Starch Damage Assay Kit)を用いて測定した。
具体的には、各穀粉試料100mgに、予め40℃で10分間プレインキュベートしたα−アミラーゼ溶液(Aspergillus oryae由来,50unit/ml)を1ml添加して、撹拌した後、40℃で10分間処理した。次いで、クエン酸−燐酸水溶液(pH2.5)を5ml添加して反応を停止させ、遠心分離(1,000g,5分)して上清を得た。この上清0.1mlにアミログルコシダーゼ溶液(Aspergillus niger由来,2unit/0.1ml)を添加して40℃で20分間処理した後、510nmで吸光度を測定し、得られた吸光度から生成したグルコース量を算出し、穀粉試料中に含まれる損傷でん粉量を算出した。
【0041】
得られた食パンの硬さ及び膨らみの評価は、以下の方法にて行った。その評価結果を表2及び表3に示す。
<経時的な硬さの評価>
焼成1日及び3日後のパンを、厚さ16mmにスライスし、クラム部分を3.5cm四方にカットしたものを、厚さ8mmまで圧縮した時の応力(g)を、SUN SCIENTIFIC社製sunレオメーターCOMPAC-100にて測定した。
【0042】
<膨らみの評価>
焼成後のパンの高さを測定することによりパンの膨らみを評価した。
【0043】
<食感>
得られた食パンの焼成3日後の食感を以下の評価基準に従い10名のパネラーによって評価した。その評価結果を表2及び表3に示す。
1:パンを喫食した際にパサつきが強い。
2:パンを喫食した際にパサつきがある。
3:パンを喫食した際にパサつきが少ない。
4:パンを喫食した際にパサつきがなくしっとりとしている。
5:パンを喫食した際にパサつきがなく非常にしっとりとしている。
【0044】
表2に示すように、損傷でん粉高含有トウモロコシ粉を配合することで焼成後のパンの硬化を抑制することができた。当該損傷でん粉高含有トウモロコシ粉のパンの硬化抑制効果は、損傷でん粉含有量が高いほど顕著であり、18質量%以上になったときに良好であり、23質量%以上になったとき特に顕著であった。表3に示すように、損傷でん粉高含有トウモロコシ粉の含有量は、当該損傷でん粉高含有トウモロコシ粉と小麦粉の合計量100質量%中、5〜15質量%のときにパンの硬化抑制効果が特に顕著であり、さらに、5〜10質量%の時にパンの膨らみが特に良好であった。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
<試験2:損傷でん粉高含有デュラム小麦粉配合パン>
上記の表1に示す各配合の製パン原料を用いて、上記<試験1>に準じてホームベーカリー(ナショナル製SD−BT−113)にて、食パンを製造した。
試験例12、18は、配合1の製パン原料にてパンを得た。
試験例13−17は、配合3の製パン原料にてパンを得た。
試験例19、20、21及び22は、それぞれ配合2、3、4及び5の製パン原料にてパンを得た。
得られた食パンの硬さ及び膨らみの評価は、上記<試験1>の評価方法に準じて行った。その評価結果を表4及び5に示す。
【0048】
<損傷でん粉高含有デュラム小麦粉の調製方法>
試験例13のデュラムセモリナ粉:デュラムセモリナ粉(昭和産業株式会社製:損傷でん粉含有量5質量%)
試験例14のデュラム小麦粉:上記デュラムセモリナ粉を、ボールミルで粉砕して損傷でん粉含有量9質量%のデュラム小麦粉を得た。
試験例15の損傷でん粉高含有デュラム小麦粉:試験例14のデュラム小麦粉をさらにボールミルで粉砕して、損傷でん粉含有量16質量%のデュラム小麦粉を得た。
試験例16の損傷でん粉高含有デュラム小麦粉:上記デュラムセモリナ粉を、サイクロンミルで粉砕して損傷でん粉含有量24質量%のデュラム小麦粉を得た。
試験例17、19−22の損傷でん粉高含有デュラム小麦粉:上記デュラムセモリナ粉を、サイクロンミルで粉砕する際に、試験例16よりもインペラの回転数を高くすることにより、粉砕処理の強度を強めて、損傷でん粉含有量32質量%のデュラム小麦粉を得た。
【0049】
表4に示すように、損傷でん粉高含有デュラム小麦粉を配合することで焼成後のパンの硬化を抑制することができた。当該損傷でん粉高含有デュラム小麦粉のパンの硬化抑制効果は、損傷でん粉含有量が高いほど顕著であり、16質量%以上になったときに良好であり、より24質量%以上になったとき特に顕著であった。表5に示すように、損傷でん粉高含有デュラム小麦粉の含有量は、当該損傷でん粉高含有デュラム小麦粉と小麦粉の合計量100質量%中、5〜15質量%のときにパンの硬化抑制効果が特に顕著であり、さらに、5〜10質量%の時にパンの膨らみが特に良好であった。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
<製造例1:ストレート法>
小麦粉95質量部、〔試験例5の損傷でん粉高含有トウモロコシ粉(損傷でん粉含有量23質量%)〕5質量部、グラニュー糖5質量部、食塩2質量部、脱脂粉乳2質量部、イースト2質量部、イーストフード0.1質量部及び水71質量部を加えて低速で2分間、中速で3.5分間ミキシングした後、ショートニング5質量部を加え、さらに低速で1分間、中速で3分間、ミキシングした(捏ね上げ温度27℃)。得られた生地を27℃、湿度75%で90分間発酵させ、440g/個に分割して丸めた。20分間ベンチタイムをとった後、U字型に成形して1斤型につめ、38℃、湿度85%で45分間ホイロをとった後、200℃で30分間焼成して山形食パンを得た。
また、試験例5の損傷でん粉高含有トウモロコシ粉を、試験例17の損傷でん粉高含有デュラム小麦粉(損傷でん粉含有量32質量%)に代えた以外は、上記と同様の方法にて山形食パンを得た。
また、損傷でん粉高含有穀粉を添加せず、小麦粉を100質量部、水を69質量部に変えて同様の方法で山形食パンを得た。
試験例5、17の損傷でん粉高含有穀粉(損傷でん粉含有量23質量%〜32質量%)を添加して製造した山形食パンは、損傷でん粉高含有穀粉を添加しなかったものと比較して、焼成後3日が経過しても、十分に硬化が抑制され、品質に優れたものであった。
【0053】
<製造例2:中種法> 小麦粉70質量部、イースト1質量部、水40質量部を低速で3分間、中速で2分間ミキシングした生地を28℃、湿度85%で4時間発酵させる。発酵させた生地に小麦粉25質量部、〔試験例5の損傷でん粉高含有トウモロコシ粉(損傷でん粉含有量23質量%)〕5質量部、グラニュー糖9質量部、食塩2質量部、イースト2質量部、イーストフード0.1質量部、水25質量部を加え、低速3分間、中速5分間ミキシングした後、ショートニング7.5質量部を加え、さらに低速2分間、中速2分間ミキシングした(捏ね上げ温度27℃)。得られた生地を27℃、湿度85%で20分間発酵させ440gに分割して丸めた。25分間ベンチタイムをとった後U字型に成型して1斤型に詰め、38℃、湿度85℃で45分間ホイロをとった後、200℃、40分間焼成して山形食パンを得た。
また、試験例5の損傷でん粉高含有トウモロコシ粉を、試験例17の損傷でん粉高含有デュラム小麦粉(損傷でん粉含有量32質量%)に代えた以外は、上記と同様の方法にて山形食パンを得た。
また、損傷でん粉高含有穀粉を添加せず小麦粉に代えて同様の方法で山形食パンを得た。
試験例5、17の損傷でん粉高含有穀粉(損傷でん粉含有量23質量%〜32質量%)を添加して製造した山形食パンは、損傷でん粉高含有穀粉を添加しなかったものと比較して、焼成後3日が経過しても、十分に硬化が抑制され、品質に優れたものであった。
【0054】
<製造例3:パン用ミックス>
小麦粉90質量部、〔試験例5の損傷でん粉高含有トウモロコシ粉(損傷でん粉含有量23質量%)〕10質量部、グラニュー糖7質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩1質量部、を混合しパン用ミックスを作製した。
パン用ミックス100質量部に、ドライイースト3質量部、水60質量部を加えて、7分間ミキシングした後、バター12質量部を加え、8分間ミキシングしてロールパン生地を得た。得られた生地を発酵後、分割し、ベンチタイムを取った後、成形し、ホイロを取って210℃のオーブンで10分間焼成することによりロールパンを得た。
また、試験例5の損傷でん粉高含有トウモロコシ粉を、試験例17の損傷でん粉高含有デュラム小麦粉(損傷でん粉含有量32質量%)に代えた以外は、上記と同様の方法にてロールパンを得た。
また、損傷でん粉高含有穀粉を添加せず、小麦粉を100質量部、水を69質量部に変えて同様の方法でロールパンを得た。
試験例5、17の損傷でん粉高含有穀粉(損傷でん粉含有量23質量%〜32質量%)を添加して製造したロールパンは、損傷でん粉高含有穀粉を添加しなかったものと比較して、焼成後3日が経過しても、十分に硬化が抑制され、品質に優れたものであった。
【0055】
以上のように、損傷でん粉含有量15質量%以上の穀粉を添加してパン類を製造した場合(ホームベーカリー、ストレート法及び中種法等)、得られたパン類の硬化が抑制された。また、これら得られたパン類の高さ及び食感も良好であった。
特に、損傷でん粉含有量18質量%以上の穀粉を使用することにより得られたパン類の硬化抑制効果が高く、さらに損傷でん粉含有量23質量%以上の穀粉を使用した場合により顕著にパン類の硬化が抑制された。
また、損傷でん粉高含有穀粉の使用量は、当該穀粉及び小麦粉100質量%中、1〜15質量%、より好ましくは10質量%以下であるのが、良好なパン類が得られるので、好適である。