特許第6209518号(P6209518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6209518マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動用の構成体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6209518
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動用の構成体
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20170925BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   G03F7/20 503
   G02B5/08 Z
【請求項の数】20
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-531111(P2014-531111)
(86)(22)【出願日】2011年9月21日
(65)【公表番号】特表2014-528173(P2014-528173A)
(43)【公表日】2014年10月23日
(86)【国際出願番号】EP2011066425
(87)【国際公開番号】WO2013041134
(87)【国際公開日】20130328
【審査請求日】2014年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム ハルトイェーズ
【審査官】 新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−117048(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01522892(EP,A1)
【文献】 特表2011−512018(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/046955(WO,A1)
【文献】 特開2010−045347(JP,A)
【文献】 特開2005−004145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G02B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動用の構成体であって、
前記ミラー(901)は、光学有効面(901a)と、前記ミラーのうち前記光学有効面に相当しない面から該有効面の方向に延びる少なくとも1つのアクセス通路(910、910’)とを有し、
該構成体は、前記アクセス通路(910)内を伝播する電磁放射線による前記ミラー(901)の熱作動用に設計され、
該構成体は、前記アクセス通路(910、910’)内で伝播する電磁放射線を生成する少なくとも1つの熱放射手段をさらに有し、
該熱放射手段は、前記アクセス通路(910、910’)に沿って作動可能であり、
該構成体は、冷却通路を有し環境へ熱を放散するクーラ(950)をさらに有する構成体。
【請求項2】
請求項1に記載の構成体において、該構成体は、前記アクセス通路(910、910’)に沿って前記熱放射手段の進出位置を変えるマニピュレータを有することを特徴とする構成体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の構成体において、前記熱放射手段は、加熱棒(960)の形態であることを特徴とする構成体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成体において、前記ミラーは複数の前記アクセス通路(910、910’)を有することを特徴とする構成体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の構成体において、配列として配置した複数の前記熱放射手段を有することを特徴とする構成体。
【請求項6】
請求項5に記載の構成体において、前記熱放射手段は選択的に作動可能であることを特徴とする構成体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の構成体において、前記ミラーは複数のミラーファセットからなることを特徴とする構成体。
【請求項8】
請求項7に記載の構成体において、前記ミラーファセットのそれぞれは、少なくとも1つのアクセス通路を有することができ、該アクセス通路に沿って前記熱放射手段を作動可能であることを特徴とする構成体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の構成体において、該構成体は、異なる幾何学的形状の少なくとも2つのアクセス通路(910、910’)を有することを特徴とする構成体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の構成体において、前記少なくとも1つのアクセス通路(910’)は、円錐形の幾何学的形状又は各アクセス通路の直径の段階的変化を有することを特徴とする構成体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の構成体において、前記少なくとも1つの熱放射手段は、前記アクセス通路(910、910’)の方向に対して横方向にも作動可能であることを特徴とする構成体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の構成体において、前記少なくとも1つの熱放射手段を調整可能な加熱デバイスに接続したことを特徴とする構成体。
【請求項13】
マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動の方法であって、前記ミラー(901)は、光学有効面(901a)と、前記ミラーのうち前記光学有効面に相当しない面から該有効面の方向に延びる少なくとも1つのアクセス通路(910、910’)とを有し、前記ミラー(901)の熱作動を熱放射手段により生成され前記アクセス通路(910、910’)内を伝播する電磁放射線により行い、前記熱放射手段が前記アクセス通路(910、910’)に沿って作動可能であり、熱は冷却通路を有するクーラー(950)によって環境へ放散される方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記ミラーの熱作動により達成される逆変形が、前記マイクロリソグラフィ投影露光装置の動作において光源が放出する放射線の吸収に起因した前記ミラーの熱表面変形を少なくとも部分的に補償することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の方法において、前記電磁放射線を選択的に作動される熱放射手段の構成体により生成することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記熱放射手段を前記ミラーの断面に沿って別個に熱作動することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1316のいずれか1項に記載の方法において、前記ミラーは複数のミラーファセットからなることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17及び請求項15又は16に記載の方法において、前記ミラーファセットの少なくとも2つを、前記熱放射手段により別個に熱作動することを特徴とする方法。
【請求項19】
マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動用の構成体であって、
前記ミラー(901)は、光学有効面(901a)と、前記ミラーのうち前記光学有効面に相当しない面から該有効面の方向に延びる少なくとも1つのアクセス通路(910、910’)とを有し、
該構成体は、前記アクセス通路(910)内を伝播する電磁放射線による前記ミラー(901)の熱作動用に設計され、
該構成体は、前記アクセス通路(910、910’)内で伝播する電磁放射線を生成する少なくとも1つの熱放射手段をさらに有し、
該熱放射手段は、前記アクセス通路(910、910’)に沿って作動可能であり、
前記少なくとも1つのアクセス通路(910’)は、円錐形の幾何学的形状又は各アクセス通路の直径の段階的変化を有することを特徴とする構成体。
【請求項20】
マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動用の構成体であって、
前記ミラー(901)は、光学有効面(901a)と、前記ミラーのうち前記光学有効面に相当しない面から該有効面の方向に延びる少なくとも1つのアクセス通路(910、910’)とを有し、
該構成体は、前記アクセス通路(910)内を伝播する電磁放射線による前記ミラー(901)の熱作動用に設計され、
該構成体は、前記アクセス通路(910、910’)内で伝播する電磁放射線を生成する少なくとも1つの熱放射手段をさらに有し、
該熱放射手段は、前記アクセス通路(910、910’)に沿って作動可能であり、
前記少なくとも1つの熱放射手段は、前記アクセス通路(910、910’)の方向に対して横方向にも作動可能であることを特徴とする構成体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動用の構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロリソグラフィは、例えば集積回路又はLCD等の微細構造コンポーネントの製造に用いられる。マイクロリソグラフィプロセスは、照明系及び投影対物系を有するいわゆる投影露光装置で実行される。その場合、照明系により照明されたマスク(レチクル)の像を、投影対物系により、感光層(フォトレジスト)で被覆されて投影対物系の像平面に配置された基板(例えばシリコンウェハ)に投影することで、マスク構造を基板上の感光コーティングに転写するようにする。
【0003】
適当な半透明屈折材料が利用可能でないので、ミラーをEUV領域、すなわち例えば約13nm又は約7nmの波長用に設計した投影対物系での結像プロセスのための光学コンポーネントとして用いる。実際に生じる問題は、EUV光源が放出した放射線の吸収の結果として、EUVミラーに温度上昇が生じ、それに関連して熱膨張又は変形が生じ、その膨張又は変形がさらに光学系の結像特性の悪化をもたらし得ることである。これらの影響を評価し、場合によってはこれらを補償できるように、そのミラー温度上昇の程度をできる限り正確に判定し、場合によっては熱作動の意味でそれを制御する必要がある。その点で、実際に生じ得るさらなる問題は、リソグラフィプロセスで特殊な照明設定(例えば、二重極又は四重極設定等)を用いることにより、またレチクルにより生じる回折次数により、EUV放射線が引き起こす入熱が瞳付近のミラーの光学有効断面にわたって変わり得る、すなわちそれがミラーへの不均一な入熱を伴うことである。さらに、レチクルにおける視野変化及び/又は全視野の部分的なマスクオフ(partial masking off)が、視野付近のミラーにおける不均一な光強度につながり得る。
【0004】
ミラーのミラー温度測定及び/又は作動若しくはその目標通りの変形の手法は、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、及び特許文献5から既知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/018753号明細書
【特許文献2】米国出願公開第2004/0051984号明細書
【特許文献3】国際公開第2008/034636号明細書
【特許文献4】独国特許第2009 024 118号明細書
【特許文献5】国際公開第2009/046955号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、リソグラフィプロセスに悪影響を及ぼすことなく迅速で確実な熱作動を可能にし、且つマイクロリソグラフィ投影露光装置の動作における放射線の吸収に起因したミラーの熱表面変形を少なくとも部分的に補償することを可能にする、上記マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動用の構成体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、独立請求項の特徴に従った構成体により得られる。
【0008】
マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動用の構成体において、ミラーは、光学有効面と、ミラーのうち光学有効面に相当しない面から当該有効面の方向に延びる少なくとも1つのアクセス通路とを有し、当該構成体は、アクセス通路内を伝播する電磁放射線によるミラーの熱作動用に設計され、当該構成体は、アクセス通路内で伝播する電磁放射線を生成する少なくとも1つの熱放射手段をさらに有し、当該熱放射手段は、アクセス通路に沿って作動可能である。
【0009】
本発明によれば、ミラーにおける(特にミラーの光学有効面の領域の)加熱区域と、それに伴う熱作動により最終的に達成される逆変形(counter-deformation)とを変えて、それに関連してミラーの熱作動に関するさらなる自由度を得るようにすることができる。特に、ミラーの熱作動により達成される逆変形は、上記マイクロリソグラフィ投影露光装置の動作において光源が放出する放射線の吸収に起因したミラーの熱表面変形を少なくとも部分的に補償することができる。
【0010】
さらに、本発明によれば、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動は、ミラーの光学有効面以外の面からミラー基板まで延びるアクセス通路により実施される。このアクセス通路により、熱作動に役立つ電磁放射線を、ミラーの光学有効面に悪影響を及ぼすことはないが当該光学有効面の直近でミラー基板材料まで通過させることができる。
【0011】
「熱放射手段はアクセス通路に沿って作動可能である」とする表現は、熱放射手段の位置がアクセス通路の一部に沿ってのみ(例えば、アクセス通路の部分長に沿って熱放射手段の進出位置(advance position)を変えることにより)可変である実施形態も含む。
【0012】
一実施形態では、本構成体は、アクセス通路に沿って熱放射手段の進出位置を変えるマニピュレータを有する。
【0013】
一実施形態では、熱放射手段は、好ましくは実質的に針状の幾何学的形状の加熱棒の形態である。これは、関与する比較的小さな構造空間に関して特に有利であり、これは例えば、ファセットミラーの個々のファセットに対する熱作動を実現することを可能にする。
【0014】
一実施形態では、ミラーは複数のアクセス通路を有する。また、本構成体の一実施形態では、本構成体は、配列として配置した複数の熱放射手段を有する。さらに、一実施形態では、熱放射手段は選択的に作動可能である。したがって、位置分解可能な熱作動を行うことが可能であり、これは、複数のミラーファセットからなるファセットミラーの上述の熱作動の実現に特に有利である。かかる実施形態では、上記ミラーファセットのそれぞれが、少なくとも1つのアクセス通路を有することができ、当該アクセス通路に沿って熱放射手段を作動可能である。
【0015】
一実施形態では、本構成体は、異なる幾何学的形状の少なくとも2つのアクセス通路を有する。
【0016】
一実施形態では、少なくとも1つのアクセス通路は、円筒形の幾何学的形状とは異なる幾何学的形状を有する。かかる幾何学的形状は、例えば円錐形の幾何学的形状である。しかしながら、本開示はこれに限定されないので、例えば各アクセス通路の直径の段階的変化等の他の幾何学的形状も可能である。かかる幾何学的形状は、例えば、円筒形の幾何学的形状のアクセス通路を用いる場合よりも円錐形のアクセス通路を用いる場合に、ミラーの、例えばファセットミラーの所与の(縁部)領域において所望の効果をより良好に達成できる場合に有利であり得る。
【0017】
一実施形態では、少なくとも1つの熱放射手段は、アクセス通路の方向に対して横方向にも作動可能である。
【0018】
一実施形態では、少なくとも1つの熱放射手段を、調整可能な加熱デバイスに接続する。熱放射手段の進出位置の代替として又はこれに加えて、ミラー基板を加熱するためにこうした調整可能な加熱デバイスにより設定した温度は、ミラーの熱作動の変化のさらなるパラメータを形成する。
【0019】
一実施形態では、本構成体は、環境へ熱を放散するクーラをさらに有する。
【0020】
本発明は、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動の方法であって、ミラーは、光学有効面と、ミラーのうち光学有効面に相当しない面から当該有効面の方向に延びる少なくとも1つのアクセス通路とを有し、ミラーの熱作動をアクセス通路内を伝播する電磁放射線により行い、熱放射手段がアクセス通路に沿って作動可能である方法にも関する。
【0021】
一実施形態では、ミラーの熱作動により達成される逆変形は、上記マイクロリソグラフィ投影露光装置の動作において光源が放出する放射線の吸収に起因したミラーの熱表面変形を少なくとも部分的に補償する。
【0022】
一実施形態では、電磁放射線を、選択的に作動される熱放射手段の構成体により生成する。
【0023】
一実施形態では、ミラーは複数のミラーファセットからなる。
【0024】
本開示のさらに他の態様によれば、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動用の構成体において、ミラーは、光学有効面と、ミラーのうち光学有効面に相当しない面から当該有効面の方向に延びる少なくとも1つのアクセス通路とを有し、当該構成体は、アクセス通路内を伝播する電磁放射線によるミラーの熱作動用に設計される。したがって、本開示は、ミラーの光学有効面以外の面からミラー基板まで延びるアクセス通路により、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの熱作動を実施するという概念に基づく。このアクセス通路により、熱作動に役立つ電磁放射線を、ミラーの光学有効面に悪影響を及ぼすことはないが当該光学有効面の直近でミラー基板材料まで通過させることができる。
【0025】
本開示のさらに別の態様によれば、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーのミラー温度測定及び/又は熱作動用の構成体において、ミラーは、光学有効面と、ミラーのうち光学有効面に相当しない面から当該有効面の方向に延びる少なくとも1つのアクセス通路とを有し、当該構成体は、アクセス通路に沿って伝播する電磁放射線によるミラーのミラー温度測定及び/又は熱作動用に設計され、電磁放射線をアクセス通路内で複数回反射させる。
【0026】
したがって、本発明は、ミラーの光学有効面以外の面からミラー基板まで延びるアクセス通路により、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーのミラー温度測定及び/又は熱作動を実施するという概念に基づく。このアクセス通路により、ミラー温度測定及び/又は熱作動に役立つ電磁放射線を、ミラーの光学有効面に悪影響を及ぼすことはないが当該光学有効面の直近で「読み取る」か(ミラー温度測定の場合)又はミラー基板材料まで通過させる(熱作動の場合)ことができる。
【0027】
その点で、本開示は、アクセス通路内で十分に浅い反射角で、すなわち「斜入射」と称するものを伴う状況で反射された電磁放射線が、アクセス通路内で反射を引き起こす壁又は面の放射率又は吸収がごく僅かな又は無視できる程度の割合でしかないことによって求められることを特に利用する。正確には、アクセス通路内のこのような斜入射での状況は、アクセス通路自体の各反射壁の放射線寄与が僅か又は無視できる程度でしかないようにアクセス通路に沿った電磁放射線の(前方)輸送を実質的に伴う。
【0028】
結果として、ミラー温度測定の場合、電磁放射線を読み取った場所から又はミラーの光学有効面の直近の領域から、アクセス通路によりミラー基板の外部に配置したセンサまで電磁放射線を輸送することで、ミラー基板の外部で行う測定及び評価によりミラーの光学有効面の温度状態に関する情報を得ると共に、場合によってはミラー温度の効果的な調整を行うようにすることができる。
【0029】
逆に、熱作動の場合、電磁放射線をアクセス通路により光学有効面の直近の領域に特に目標通りに制御下で結合することが可能であり、その場合、この特に目標通りの制御下での電磁放射線の導入は、特に、より詳細に後述するように調整手順に関して有利な方法での適当な冷却により、永久放熱と組み合わせることができる。
【0030】
有利な構成では、アクセス通路内の電磁放射線の反射角は20°以下、好ましくは15°以下であり、これが上記「斜入射」を可能にする。
【0031】
その点で、反射角は、以下で反射面に対する入射反射ビームの角度と解釈される。
【0032】
ミラー温度測定又は熱作動に寄与する全電磁放射線が上記角度条件を満たすことを確実にするために、適当な角度判別光学系を用いることで、例えばミラー温度測定に用いるセンサの場所の角度範囲を適切に制限することが可能である。
【0033】
一実施形態では、当該電磁放射線は、ミラーが少なくとも領域的に不透明である波長を有する。特に、電磁放射線は、例えばいわゆる低温放射手段により最高400℃、特に最高200℃の範囲の温度で実施できるように、少なくとも2.5μmの波長、さらに特に少なくとも5μmの波長を有する。
【0034】
この波長領域は、同時に、極めて低い膨張率又は(ほぼ)ゼロ膨張のガラス材料(「超低膨張」又は「ゼロ膨張」ガラス)等、EUVリソグラフィで用いる通常のミラー材料の主放射成分の関連波長領域に対応する。このようなミラー基板材料は、例えば、商標名Zerodur(登録商標)でSCHOTT Glasにより販売されているガラスセラミックである。使用可能なさらに別の材料は、例えば炭化ケイ素である。
【0035】
少なくとも5μmの上記波長領域では、これは、波長が当該ミラー基板材料の透過窓(4μm未満の波長を通常は含む)の外部にあることを同時に保証する。したがってこれは、外部又は光学系からのバックグラウンド放射線の形態の電磁放射線が、ミラー基板材料を通過してアクセス通路へ入りミラー温度測定又は熱作動に悪影響を及ぼすことを防止する。さらに、約5μmの波長領域では、有利に用いられるのはまさに、本開示によれば特に好都合に用いることができるサーモパイルセンサが応答するか又は最大感度を有する領域である。
【0036】
この状況を図2に概略的に示し、図中、当該「ゼロ膨張ガラス」の透過窓を「I」で示し、サーモパイルセンサの感度窓を「II」で示し、図示の曲線は、20℃〜200℃の温度(20℃刻み)での黒体放射に関するスペクトル放射密度(ワット/(m・m・sr))をそれぞれ与える。
【0037】
一実施形態では、アクセス通路を、厚さが5mm〜20mmの範囲の残りのミラー材料部分により光学有効面から分離する。このようにして、例えばミラー温度測定の場合、良好な調整性能を得るのに十分なほど短い応答時間(入熱とセンサからの対応の反応との間の遅延に相当する)を実施することが可能である。他方では、(小さすぎず好ましくは5mm以上である間隔により)光学有効面における熱負荷の既存の局所変化に関して所望の平均化効果を達成することが可能であり、これにより、対応の望ましくない変動が平均される。
【0038】
一実施形態では、アクセス通路は、ミラーのうち光学有効面の反対側の面から光学有効面の方向に延びる。しかしながら、本開示はそれに限定されず、さらに他の実施形態では、アクセス通路がミラーのうち光学有効面に相当しない別の面からミラーまで延びることもできる(例えば、構造空間上の理由から、光学系におけるミラー位置によりそれが適当である場合)。
【0039】
本開示は、マイクロリソグラフィ投影露光装置の、特にEUV用に設計したマイクロリソグラフィ投影露光装置の照明系又は投影対物系でも用いることができる。
【0040】
一実施形態では、本構成体は調整デバイスをさらに有し、これを用いて、ミラーをミラー温度測定に応じて一定の温度又は時変設定温度に加熱することができる。
【0041】
この温度は、特に22℃〜45℃の範囲、さらに特に25℃〜40℃の範囲であり得る。さらにこの温度は、ミラー基板材料の熱膨張がないか又は無視できる程度のいわゆるゼロ交差温度に相当し得るので、リソグラフィプロセスで生じ不均一な可能性のあるミラー基板材料への入熱が変形にも光学収差現象にもつながらないか、又は収差現象を既存の補正手段でなおも補正できる。
【0042】
一実施形態では、本構成体は上記種類の複数のアクセス通路を有し、それにより、より詳細に後述するように、位置分解ミラー温度測定及び/又は熱作動を行うことが可能である
【0043】
一実施形態では、本構成体は、アクセス通路内を伝播する(特に複数回反射する)電磁放射線を生成する少なくとも1つの熱放射手段をさらに有する。
【0044】
一実施形態では、本構成体は、アクセス通路に沿って熱放射手段の進出位置を変えるマニピュレータをさらに有し得る。このようにして、ミラーにおける(特にミラーの光学有効面の領域の)加熱区域と、それに伴う本開示による熱作動により最終的に達成される(逆)変形とを変えて、それに関連してミラーの熱作動に関するさらなる自由度を得るようにすることができる。
【0045】
熱放射手段は、好ましくは実質的に針状の幾何学的形状の加熱棒の形態とすることができ、これは関与する比較的小さな構造空間に関して特に有利である。
【0046】
一実施形態では、少なくとも1つのアクセス通路は、円筒形の幾何学的形状とは異なる幾何学的形状、特に円錐形の幾何学的形状を有し得る。さらに、本構成体は、異なる幾何学的形状の少なくとも2つのアクセス通路を有し得る。熱放射手段は、調整可能な加熱デバイスに接続することができる。熱放射手段の進出位置の代替として又はこれに加えて、ミラー基板を加熱するためにこうした調整可能な加熱デバイスにより設定した温度は、ミラーの熱作動の変化のさらなるパラメータを形成する。
【0047】
熱放射手段は、低温放射手段(最高400℃の範囲の温度を伴う)又は高温放射手段(約400℃を超える温度を伴う)を含み得る。さらに、単色光源(例えばレーザ又はLEDの形態)を熱放射手段として用いることも可能である。
【0048】
一実施形態では、本構成体は、配列として配置し選択的に作動可能である複数の上記熱放射手段を有する。
【0049】
一実施形態では、本構成体は、環境へ熱を放散するクーラをさらに有する。このクーラは、特に一定温度であり得る。このようなクーラが引き起こす一定の放熱流と、低温熱放射手段の構成体により選択的に制御可能な入熱とを組み合わせることにより、調整手順に関して特に効率的であると共に、低温熱放射手段が放出した熱放射の特に目標通りの変化によるミラーにおける不均一な入熱への高速反応を特に可能にする構成体を提供することが可能である。
【0050】
本発明はさらに、マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーのミラー温度測定及び/又は熱作動の方法に関する。本方法の好ましい構成又は利点については、本開示による構成体に関する上記情報に注目されたい。
【0051】
一実施形態では、電磁放射線を選択的に作動可能な熱放射手段の構成体により生成する。ここでも、熱放射手段は、低温放射手段(最高400℃の範囲の温度を伴う)又は高温放射手段(約400℃を超える温度を伴う)であり得る。単色光源(例えばレーザ又はLEDの形態)を熱放射手段として用いることも可能である。
【0052】
本発明のさらに他の構成は、説明及び添付の特許請求の範囲にある。
【0053】
本発明を、例として添付図面に示す実施形態によって以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明の第1実施形態のミラー温度測定用の本発明による構成体の概略図を示す。
図2】種々の温度に関するスペクトル放射密度(ワット/(m・m・sr))の波長依存性を、通常のミラー基板材料の透過窓及び通常のサーモパイルセンサの感度窓と共に表すグラフを示す。
図3】本発明のさらに別の実施形態によるミラー温度測定用の構成体の概略図を示す。
図4】本発明のさらに別の実施形態によるミラー温度測定用の構成体の概略図を示す。
図5】ミラーの熱作動に関する一概念の概略図を示す。
図6】ミラーの熱作動に関する一概念の概略図を示す。
図7】本発明の一実施形態によるミラーの熱作動用の構成体の概略図を示す。
図8】本発明の一実施形態によるミラーの熱作動用の構成体の概略図を示す。
図9】本発明の一実施形態によるミラーの熱作動用の構成体の概略図を示す。
図10】本発明の一実施形態によるミラーの熱作動用の構成体の概略図を示す。
図11】本発明の一実施形態によるミラーの熱作動用の構成体の概略図を示す。
図12】本発明の一実施形態によるミラーの熱作動用の構成体の概略図を示す。
図13】本発明の一実施形態によるミラーの熱作動用の構成体の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、最初に図1を参照して、第1実施形態におけるミラー温度測定用の本発明による構成体を説明する。
【0056】
図1は、ミラー101を概略的に示し、その光学有効面を参照符号101aで示し、ミラー基板の側面を参照符号101bで示し、光学有効面101aから離れた面、つまりミラーの裏側を参照符号101cで示す。ミラー101のミラー基板内にアクセス通路110が延び、これは、例えば孔の形態であり、ミラー101の光学有効面101aに面したその端面を参照符号110aで示し、その側面又は壁を参照符号110bで示す。ミラー101の光学有効面101aには反射コーティングを配置する(図1には図示せず)。
【0057】
図1は、他の図と同様に、正確な縮尺ではない概略図を表し、アクセス通路110の純粋に例示的な寸法(本発明を制限しない)は、5mm〜20mmの範囲の孔径と、「d」で示す同じく5mm〜20mmの範囲の光学有効面101aからの端面110aの間隔とを含み得る。ミラー101自体の通常の厚さは、例えば約50mm〜120mmの範囲であり得る(同じくごく一例であり、本発明を制限しない)。
【0058】
図1に示す構成体は、ミラー101の外部の領域からアクセス通路110内に突出した管120をさらに含む。アクセス通路110の端面110aからの管120の端部の「a」で示す間隔(同じく本発明を制限しない)は、例えば少なくとも3mm(作動ミラーの場合)又は少なくとも0.5mm(非作動若しくは固定ミラーの場合)であり得る。例として作動ミラーの場合の少なくとも3mm又は非作動若しくは固定ミラーの場合の少なくとも0.5mmの対応値は、アクセス通路110の側壁110bからの管120の壁の間隔に適用され得る。
【0059】
図1における構成体100は、管120の端部でミラー101の外部に配置したセンサ130をさらに含み、これは図示の実施形態ではサーモパイルセンサの形態である。既知の様式でのこうしたサーモパイルセンサは、照射対象の黒化処理面の形態のレシーバ膜(receiver membrane)と、測定温度差の変換により得られる電圧を増幅するための熱電対素子鎖とを含む。その場合に伴う通常の電圧の振れは、例えば40μV/Kであり得ると共に、前置増幅器140によりさらに増幅させることができる。
【0060】
図1に破線で示すように、ミラー101の光学有効面101aに熱負荷がある場合、光学有効面101aの直近で、より具体的にはアクセス通路110の端面110aで読み取った熱放射は、管120の壁における多重斜入射反射(multiple grazing-incidence reflection)によりセンサ130へ進み、ここで上記負荷が引き起こした温度変化が確認される。
【0061】
斜入射状態で管120の壁で反射した電磁放射線のみが評価されることを確実にするために、センサ130は、それ自体が既知の様式の角度判別光学系を有し得る。さらに、5μmを超える上記波長領域の電磁放射線のみが評価されることを確実にするために、例えば5μm未満の波長(例えば熱膨張がほぼゼロの上記ガラス材料等のミラー材料が依然として透明として挙動する)を完全に遮断する適当なフィルタを用いることが可能である。
【0062】
さらに他の実施形態では、図1に示す構造を、ミラー温度の監視に用いるだけでなく、(適当な調整デバイスを用いて)ミラー温度の能動調整にも用いることができる。その場合(例えば、特殊な照明設定により生じ得るような不均一な熱負荷の結果としての)ミラー表面における温度勾配がミラー基板材料の変形に関して再現されない温度に、特にミラー101を最初から保つことができる。その点で、ミラー基板材料の熱膨張が生じないか又は無視できる程度である領域で、その温度依存性において熱膨張率(単位m/(m・K))がゼロ交差を有することを利用することが可能である。
【0063】
この温度は、ゼロ交差温度とも称する。ゼロ交差温度は、熱設計の要件に従って材料製造業者が設定することができ、通常の値は22℃〜40℃である。この態様は、本発明による熱作動に関連して図5以降を参照してより詳細に後述する。
【0064】
ミラー温度測定のさらに別の実施形態として、図3は、図1と基本的に同様の構造を示し、相互に対応するか又は実質的に同じ機能を伴うコンポーネントを、図1と比べて「200」を足した参照符号で示す。図3における構成体が図1における構成体と異なるのは、センサ330をミラー301の外部ではなくアクセス通路310の端面310aの直近に配置した点である。その目的で、図1における管120の代わりに同様のコンポーネント320を設けることが可能であるが、これにはセンサ310を配置する端部キャリア又はルーフ部320aを設ける。この構造が図1の構造よりも有利なのは、アクセス通路310の端面310aの場所で読み取った電磁放射線の電圧への変換が、端面310aの直近ですでに行われることにより、アクセス通路310を通して電圧のみを輸送すればよいことである。図3に示すように、適当な電線325をその目的で前置増幅器340まで通す。
【0065】
図4は、ミラー温度測定用の本発明による構成体のさらに別の実施形態を示し、図1の構成体と比べて、同様であるか又は実質的に同じ機能を伴うコンポーネントを、「300」を足した参照符号で示す。
【0066】
図4における構成体400が図1における構成体100と異なるのは、アクセス通路410内の管を省いて、その壁410b自体を研磨等により十分に反射性にすることにより、壁410b自体の反射構成によってミラー401のミラー基板が図1における管120により実施した光導波路の機能を果たすようにしたことである。適当な間隔、寸法、及び反射角に関しては、上記実施形態を参照されたい。図4における構成体では、上記実施形態と同様に、センサ430に入射した電磁放射線に関して、アクセス通路410の壁410bからの放出成分は、アクセス通路410に沿って「前方へ」輸送されてアクセス通路410の端面410aにおける放射線読み取り動作の場所から輸送される放射成分と比べて無視できる程度であることを利用するので、測定するのは例えば孔全体にわたる平均温度ではなく、この場合は実質的に端面410a、すなわちミラー410の光学有効面の直近の温度でもある。アクセス通路410の孔の壁からの放射線放出により残留している可能性のあるバックグラウンド成分は、この場合は上記実施形態のように適当な補正モデルにより排除することができる。
【0067】
マイクロリソグラフィ投影露光装置のミラーの作動に関する本発明による態様を以下で説明する。第1に、その点で、熱作動に関する種々の概念を図5及び図6を参照して説明する。
【0068】
図5における概略図は、非動作状態(図5a)及びウェハ露光中の状態(図5b)について矢印で示す、ミラー素子501への各熱流又は入熱を示し、Aは吸収されたEUV光による入熱(投影露光装置の非動作状態では消える)を示し、Bは(例えばレギュレータを用いて、図1図4のミラー温度測定を採用して)導入した加熱パワーを示し、Cはミラー501の光学有効面で得られる全入熱を示し、Dはミラー素子501内の熱流を示し、Eはミラー素子501からクーラ550への放熱流を示す。
【0069】
図5bから分かるように、ミラー501における不均一な熱負荷(例えば、特定の照明設定に関係する)が、ミラー素子501内の局所的な温度不均一性又は勾配につながることは認めざるを得ないが、その点で、加熱パワーBを用いてゼロ交差温度の領域の適当な温度に熱制御を行う限り、これらの温度不均一性は、すでに前述したように、構成体のミラー変形現象にも光学特性にも大きな影響を及ぼさない。
【0070】
しかしながら、記載したようにミラー501で設定した温度勾配がゼロ交差温度付近で依然として許容可能である範囲から逸脱している場合、ミラー501の変形及び光学収差現象が結果として生じ得る。それを補償するために、図6bに示すように、吸収されたEUV光による不均一な入熱Aと相補的な入熱プロファイルBを2次元加熱デバイスにより発生させる結果として、全体的に得られる状態Cが(ミラー601で温度勾配を伴わず)均一な入熱に再度対応する。その目的で、図5とは異なり、図7を参照して以下で説明するように、2次元的に可変に又は位置分解的に作動可能な熱アクチュエータを用いる。
【0071】
ミラーの熱作動用の本発明による構成体の種々の実施形態を、図7及び図8を参照して以下で説明する。
【0072】
図7は、最初に、図1及び図3におけるアクセス通路110及び310と同様にミラーの裏側からミラー701の光学有効面701aに向かう方向にそれぞれ延びる複数のアクセス通路710、711、712、…を有する、ミラー700の概略図を示す。ミラーの光学有効面701aの領域における反射層を、図7(及び図8)では斜線で示し、誇張した縮尺で概略的にしか示さない。
【0073】
同じく図1及び図3の実施形態に対応する様式で、アクセス通路710、711、712、…内へ各管720、721、722、…が延びる。例としてミラー701の光学有効面701aからのアクセス通路710、711、712、…の適当な寸法又は間隔に関しては、図1及び図3それぞれに関する説明を参照されたい。
【0074】
ミラー温度測定を意図した図1以降の実施形態とは異なり、図7に示すように、ミラー701の外部でアクセス通路710、711、712、…の端部にセンサを配置せず、それぞれに低温放射手段760、761、762、…があり、これらは、最高400℃の範囲、通常は100℃〜200℃の範囲の温度を伴う黒体放射手段として、5μm〜10μmの範囲で最大放射密度を有する熱放射を生成する。さらに他の実施形態では、低温放射手段の代わりに、高温放射手段(400℃を超える温度を伴う)又は単色光源(例えばレーザ又はLEDの形態)も熱放射手段として用いることも可能である。
【0075】
低温放射手段760、761、762、…が生成した熱放射は、各アクセス通路710、711、712、…を(図1図3、及び図4と同様だがここでは逆方向に)通過し、光学有効面701aに面した各アクセス通路710、711、712、…の端面710a、711a、712a、…へ至り、上記実施形態のように、低反射角(好ましくは20°以下、さらに好ましくは15°以下)の斜入射でアクセス通路710、711、712、…の各壁で反射する。その点で、反射角は、以下で反射面に対する入射反射ビームの角度と解釈される(図7において「α」で示す)。
【0076】
この場合、一方では、斜入射により、熱放射の大部分が各アクセス通路710、711、712、…の上記端面710a、711a、712a、…に達する一方で、各アクセス通路710、711、712、…の壁における吸収部分は無視できる程度に僅かであるようになる。他方では、この場合も、熱放射の波長の有利な範囲は、熱膨張が(ほぼ)ゼロのミラー基板材料、例えば上記ガラス材料が事実上不透明であることにより、熱放射を光学有効面701aの直近でミラー基板材料に効果的に入射結合させることができる範囲である。
【0077】
同じく図7から分かるように、別個の作動手段760a、761a、…を各低温放射手段760、761、…に関連付けることにより、低温放射手段760、761、…の(行列状の配列の形態で構成した)構成体全体が選択的に作動可能であることで、図6と同様の(但し、ミラーの裏側からの)ミラー700への2次元位置分解的な入熱を提供し、そのようにしてミラー701上の温度分布の上記局所的不均一性(例えば所与の照明設定により生じる)を考慮するようにする。
【0078】
さらに、図7における構成体700の構成部品は、それぞれが各冷却媒体752を流す複数の冷却通路751を有するクーラ750である。クーラ750は、環境への永久放熱に役立ち、一定の温度である(この点で、本発明を制限することなく、温度値は例として、22℃〜例えば77ケルビン等の通常の極低温(例えば液体窒素を用いる場合)の範囲であり得る)。そのようにして、すなわち一定の放熱流を提供するクーラ750と低温放射手段760、761、…の構成体による制御可能な入熱との組み合わせの結果として、調整手順に関して特に効率的な構成体が具現され、これは特に、低温放射手段760、761、…が放出した熱又は赤外放射の対応の変化によるミラー701における不均一な入熱に対して、調整手順に関して高速の反応を可能にする。
【0079】
上記実施形態のように、図7の構成体は、ミラー701と共に用いるコンポーネントの機械的接触も回避する。さらに、熱作動が構成体700内でのみ行われるか又はクーラ750(温度が一定である)のみが外部から認識され、その点で特に迷光がシステムに入らないことにより、ミラー周囲の外乱が回避される。
【0080】
図7における構成体のコンポーネント、すなわち一方ではクーラ750、他方では低温放射手段760、761、…を含む構成体は、一方では同時に動作させることができる。しかしながら、クーラ750及び低温放射手段760、761、…を含む構成体は、相互に独立して動作させるか、又は停止させることもできる。換言すれば、同時に冷却せずにアクセス通路の端面711a、…への加熱又は熱放射の供給のみを実施することも可能であり、又は図9以降を参照してより詳細に後述するように、アクセス通路の端面711a、…から外部クーラ又はリザーバへの熱放射の放散のみを実施することが可能である。
【0081】
外部に対する熱的中立性の上記特性と、ミラー701の光学有効面701aの妨害の回避とにより、図7に示す構造がいわばモジュールとして、製造時に通常用いる(干渉)測定構造(「計測ツール」)に結合するのに適していることにより、製造時にかかる構造により行われるミラー701の測定を、ミラー701を後続の実際のリソグラフィプロセスでも動作させる熱条件ですでに実施することができる。その点で、後続のリソグラフィプロセスにおいてミラー701で(例えば所与の照明設定により)生じる対応の温度勾配をすでに実施することで、製造から動作への移行時に対応の転写誤差を回避するようにすることも可能である。
【0082】
熱作動に関して前述したように、図7を参照して説明した複数のアクセス通路710、711、712、…の概念を、図1図3、及び図4を参照して説明したミラー温度測定でも用いることができることにより、これを位置分解関係で(例えば、それぞれ関連するセンサを有するアクセス通路の2次元配列で)実施することもできる。
【0083】
さらに他の実施形態では、図3と同様の加熱原理を、低温放射手段760、761、…を各アクセス通路710、711、712、…の端面710a、711a、712a、…の直近に配置した図7の変更形態で用いることもできる。
【0084】
図8は、図7と比べて対応の要素又は実質的に同じ機能を伴う要素を、「100」を足した参照符号で示すさらに別の実施形態を示す。構成体800が図7における構成体700と異なるのは、複数の低温放射手段760、761、…の代わりに単一の低温放射手段860しかない点であるが、低温放射手段860は、対応して大きな表面積を有すると共に熱的に作動可能又は加熱可能なプレート(この場合も黒体の形態)であり、これが放出した熱放射は、ミラー801によりその裏側801cで分配されたアクセス通路810、811、…へ入り、この点で図7と同様に、管820、821、…の壁での斜入射反射後にアクセス通路810、811の各縁部810a、811a、…へ進み、したがってミラー801の光学有効面801aの直近でミラー基板材料に入射結合される。ここでも、さらに他の実施形態において、低温放射手段860の代わりに、高温放射手段(400℃を超える温度を伴う)又は単色光源(例えばレーザ又はLEDの形態)も熱放射手段として用いることも可能である。
【0085】
さらに別の態様では、本発明に従ってミラー内にあるアクセス通路を用いて、熱放射の放出を指向させることによりミラーの光学有効面の受動冷却を実施することができる。図9はその原理を示し、これは、図示の実施形態では複数のミラーファセット910、902、903からなるファセットミラーの形態であるミラー900をさらに示し、アクセス通路911、912、913が設けられている(本実施形態では、ミラーファセットのそれぞれにある)。この構成体では、ミラーは、本発明による他の実施形態と同様の構成であり得ると共に、個別ミラー(例えば、光学投影系における結像ミラー)の形態であり得る。ミラーファセットは、図9に示す両矢印P1及びP2で示すように、本発明を制限することなく、個別に作動可能に構成することができる。
【0086】
図9に概略的に示すように、ミラー900の光学有効面901a、902a、903aの加熱時に生成される(通常は0.8μm〜1000μmの範囲の波長を有する)赤外放射線は、アクセス通路911、912、913に沿って伝播し、赤外放射線を放散させるリザーバ940へ至る。これは、アクセス通路911、912、913に係合する冷却フィンガなしに、すなわち赤外放射線の導波路として働くアクセス通路911、912、913に沿った赤外放射線の放出の指向を利用するだけで、図9に示すように行われる。したがってこれは、比較的低い構造複雑性での受動冷却をもたらす。
【0087】
例としてアクセス通路911、912、913に適した寸法及びサイズに関しては(特に、アクセス通路の横方向範囲と、ミラーファセット901、902、903の各光学有効面901a、901a、903aに対する、各光学有効面901a、901a、及び903aに面したアクセス通路911、912、913の端面の間隔とに関して、また赤外放射線の得られる反射角に関して)、図1図8を参照して前述した実施形態に注目されたい。受動冷却の効率は、一方ではリザーバ940の温度に応じて(温度が低いほどそれに対応して受動冷却の効率が高くなる)、他方ではアクセス通路が占める面積に応じて変わる。単なる例として、ミラーの裏側の全断面積に対する全てのアクセス通路911、912、913の断面積の割合を約50%と仮定し、さらに単なる例として、光学有効面901を温度約40℃に加熱し、リザーバ温度が0℃であると考えた場合、受動冷却により、1時間当たりおよそ1℃〜2℃の値の温度低下を達成することが可能である。
【0088】
図10aに示すように、アクセス通路911、912、913の内側又は壁は反射性とすることができ、すなわち、反射コーティング又はミラーリング911b、912b、913bを設けることができる。
【0089】
さらに、アクセス通路は、(例えば、アクセス通路の端面を黒化処理し、アクセス通路の側面又は壁を例えば銀又はヨウ化銀によりミラー化することにより)その端面及び側面又は壁の領域で程度の異なる放射率を有し得る。したがって、アクセス通路911、912、913の端面は、例えば赤外放射線に適した反射防止層(すなわち、10μm〜20μmの範囲で最大吸収スペクトルを有する高吸収層)により、1に近い放射率を有するよう設計することができる一方で、アクセス通路の側面又は壁は、0に近い透過率を有し得る。好ましくは、さらに、ミラー材料と低温のリザーバ940との間の放射交換の結果としてミラーの裏側が冷却されすぎることを防止するために、また望ましくない温度勾配がミラー材料で生じることを防止するために、ミラー裏側(すなわち、光学有効面の反対側の面)をミラー化する。
【0090】
上記構成は、例えば、熱放射の放出を実質的に又は主にアクセス通路の端面のみから指向させる(又は光学有効面については熱をこれら端面に伝達する)がアクセス通路の側面又は壁からは全く又はごく僅かにしか指向させないことにより、ミラーの光学有効面の上記受動冷却を行うのに寄与することができる。換言すれば、そのようにして、側面又は壁の領域におけるミラー材料の局所冷却が過剰になることも各アクセス通路の周囲の材料に応じて変わることもないことにより、冷却が実質的にアクセス通路の端面の領域のみで、したがってミラーの光学有効面付近のみで行われることを確実にすることが可能である。
【0091】
図10bに概略的に示すように、複数のアクセス通路911、912、913、…を2次元配列で配置することができる。アクセス通路911、912、913、…は、基本的に任意の幾何学的形状(例えば、丸形又は矩形)の断面とすることができる。図10bの実施形態では、アクセス通路911、912、913、…はハニカム(例えば六角形)の幾何学的形状であり、これは、各ミラーファセット901、902、903の全体積に対して比較的大きな割合となるアクセス通路911、912、913、…でさえもミラーファセット901、902、903に十分な強度を達成することが依然として可能なので、機械的強度又は安定性に関して有利である。図10cに示すように、各ミラーファセット901、902、903は、平面図では、平滑で一定に延びる面又は光学有効面を有し得る。
【0092】
本発明のさらに別の実施形態を、図11を参照して以下で説明する。図11の構成が図9に示す構成と異なるのは、赤外放射線の放散用のリザーバ940の代わりに、赤外ダイオードレーザアレイの形態の熱放射手段を含む構成体945(好ましくはこの場合も配列又は行列の形態)がある点である。構成体945のダイオードレーザ946が発生した熱放射は、図7と同様に、各アクセス通路911、912、913を通過して光学有効面701aに面した各アクセス通路911、912、913の端面に至り、アクセス通路911、912、913の各壁で上記実施形態のように斜反射される(grazinglyreflected)。
【0093】
図11の実施形態は、図7の実施形態と実質的に同様の構成とすることができ、特に図7と同様に、構成体945の個々の熱放射手段又は赤外ダイオードレーザは、関与する各特定因子に応じて各ミラーファセット901、902、903への局所的な目標通りの可変入熱を提供するために選択的に作動可能であり得る。しかしながら、図11で実施したファセットミラーへの適用以外に、図11の構成が図7に示す構成と異なるのは、図11に示すように、(クーラ750により図7における構成体で行ったように)本構成体に同時冷却が伴わない、すなわち本構成体に各ミラーファセット901、902、903の加熱のみが伴う点である。他の点では、例としてアクセス通路911、912、913に適した寸法及びサイズと、赤外放射線の得られる反射角とに関して、図1図10を参照して前述した実施形態に注目されたい。
【0094】
ミラーの熱特性に関するアクチュエータのさらに他の実施形態を、図12及び図13を参照して以下で説明する。この点でも同じく、図8と比べてその機能に関して同等の対応の要素を、「100」を足した参照符号で示す。
【0095】
ミラー901は、個別ミラー(例えば、光学投影系における結像ミラー)又は複数のミラー素子からなるファセットミラーでもあり得る。さらに、複数の熱放射手段/アクセス通路を、複数のミラー素子からなるファセットミラー及び単一のミラー(例えば、比較的大きなサイズのミラー)の両方で実現することができる。
【0096】
図12の実施形態では、加熱棒960が熱放射手段(temperature radiating means)としての役割を果たし、この加熱棒は、図示の実施形態では実質的に針状であり(したがって、小さな空間しか占めない)、ミラー901のアクセス通路910に沿って、つまり図示の座標系におけるz軸に沿って、変位可能に取り付けられる。加熱棒960の変位により、ミラー901における(特に、複数のミラー素子からなるミラー901の光学有効面901aの領域の)加熱区域、ひいては本発明による熱作動により最終的に達成される(逆)変形を変えることができる。したがって、例えば、アクセス通路910のうちミラー910の光学有効面901aから離れた初期部分に加熱棒960を配置すると、アクセス通路910の端面910aの直近へのその進出移動とは異なる温度勾配が、ミラー基板材料で生じる。したがって、加熱棒960の変位性は、それに関連するミラー901の熱作動に関してさらなる自由度をもたらす。
【0097】
加熱棒960の変位は、アクセス通路910の端面910aの直近の位置からアクセス通路910の外部の領域へなすことができる。通常の変位運動(本発明を制限しない)は、およそ0mmから30mmとすることができ、値0mmは、光学有効面910aから離れた側のアクセス通路910の開始に相当する。その点で、加熱棒960の変位運動は、特に、アクセス通路910の端部910aの前に(例えばそこから1mmの距離まで)直接延びることができ、その場合、上記実施形態のように、ミラー901に望ましくない機械的変形を加えないように、ミラー材料に関する機械的な直接接触が回避される。
【0098】
加熱棒960は、加熱デバイス970により加熱され、全空間方向に熱を放出する黒体放射体として働く。加熱棒960の加熱温度は、例えば60℃〜350℃の範囲であり得る(本発明を制限しない)。例えば適当なセラミック材料製であり得る絶縁体プレート980が、加熱デバイス970からミラー901への熱放射の望ましくない透過を防止する。加熱棒960の進出位置に加えて、ミラー基板を加熱するために加熱デバイス970が設定した温度は、ミラー901の熱作動の変化のさらなるパラメータを形成する。
【0099】
図12の構成体の可能な動作モードを次に説明する。
【0100】
図12の構成体を用いて、ミラー901の可変加熱での熱作動によりミラー901の結像特性に影響を及ぼすことができる。この場合に用いる測定技術は、ミラー901から生じる波面を直接測定する測定デバイスを伴い得る。複数のミラー素子で構成したファセットミラーの形態のミラー901の場合、得られる波面は、これらミラー素子の個別寄与の重複により生じる。加熱が生じる際のミラー901の挙動が分かっていれば、本発明による熱作動による視野における波面の変化に対応することが可能である。
【0101】
実際には、その点で、加熱時の図12の構成体の挙動をミラー基板の複数の(例えば200個の)異なる加熱プロセスについてシミュレーション又は測定により特徴付けるために、いずれの場合も、ミラー901から生じる波面を求めることで、当該加熱によりそれぞれ達成される波面の変化を確認することが可能である。ミラー基板のこれらの加熱プロセスは、その場合、加熱デバイス970が設定した温度に関して且つ/又は加熱棒960の進出位置に関して前述したように相互に異なり得る。その場合、ミラー基板材料で生じる温度勾配の時間依存性又はミラー901に関して最終的に生じる変形の時間的変化も、考慮に入れて評価することができる。
【0102】
この較正動作で得られる結果を、例えば適当な表に記憶することができ、システムの動作で用いて、どの加熱プロセスが所与の測定波面に最も適しているかを確認し、適当な逆変形をもたらすことができる。
【0103】
ここで、システムの動作におけるミラー901に関する所与の放射線負荷で、その場合に熱作動なしで時間的に生じる光学有効面901aの変形の場合、較正動作で記録したデータに基づき、逆の作用又は補償効果を得ることができるような特定の方法で所与の加熱又は作動モードを正確に選択することが可能である。
【0104】
ミラー901の熱挙動を、特にFEMシミュレーション動作(FEM=「有限要素法」)により特徴付けることで、一方では、システムの動作におけるミラーに対する所与の放射線負荷がどの変形を引き起こすかと、どの熱作動が(「熱を抑制する」という意味で)かかる変形現象を補償するのに適しているかを確認することができる。例えば、システムの動作において行う波面測定から望ましくない三重うねり(triple-waviness)が得られた場合、その三重うねりをなくすのに適した加熱を較正プロセスで以前に記録したデータから確認することができる。
【0105】
さらに他の実施形態では、アクセス通路の他の幾何学的形状、例えば図13に概略的に示すようにアクセス通路910’の円錐形の幾何学的形状を選択することで、ミラー基板材料又の温度勾配又はそれに伴う材料膨張の異なる時間的挙動を達成するようにすることも可能である。
【0106】
さらに、ファセットミラーの個別ミラーを、異なる幾何学的形状のアクセス通路で構成することもできる。例として、本発明の実施形態では、ファセットミラーの個別ミラーによっては、それぞれが円錐形の幾何学的形状のアクセス通路910’を伴うものもあれば(例えば、円筒形のアクセス通路910を用いる場合よりも円錐形のアクセス通路910’を用いる場合の方がファセットミラーの所与の(縁部)領域で所望の効果を得ることができる場合)、円筒形の幾何学的形状のアクセス通路を伴うものもあり得る。例えば、各アクセス通路に沿って直径が段階的に変化するもの等の他の幾何学的形状も可能である。
【0107】
特定の実施形態を参照して本発明を説明していても、例えば個々の実施形態の特徴の組み合わせ及び/又は交換により、多くの変形形態及び代替的な実施形態が当業者には明らかとなるであろう。したがって、かかる変形形態及び代替的な実施形態も本発明に包含され、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲及びその等価物の意味でのみ限定されることが、当業者には理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5a)】
図5b)】
図6a)】
図6b)】
図7
図8
図9
図10a)】
図10b)】
図10c)】
図11
図12
図13