特許第6209666号(P6209666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6209666導電性接合材料及び半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6209666
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】導電性接合材料及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20170925BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20170925BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20170925BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20170925BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H01B1/22 A
   H01B1/00 H
   B22F1/00 K
   B22F7/08 E
   H01L21/52 D
   H01L21/52 E
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-235326(P2016-235326)
(22)【出願日】2016年12月2日
【審査請求日】2017年3月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古正 力亜
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛史
(72)【発明者】
【氏名】田中 輝樹
【審査官】 柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−207116(JP,A)
【文献】 特開2008−166086(JP,A)
【文献】 特開2013−149566(JP,A)
【文献】 特開2010−257880(JP,A)
【文献】 特開2012−094873(JP,A)
【文献】 特開2014−029897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
B22F 1/00
B22F 7/08
H01B 1/00
H01L 21/52
C09J 9/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤を含み、チップと被着体とを加圧下で接合するための導電性接合材料であって、
前記銀化合物粒子が加熱により少なくとも銀と酸化性物質に分解される化合物粒子であり、
前記銀粒子と前記銀化合物粒子との重量比が30:70〜70:30であり、かつ
前記チップと前記被着体とを、大気下、10MPa280℃で5分間加圧接合した後の導電性接合材料の空隙率が15%以下である導電性接合材料。
【請求項2】
前記空隙率が5%以下である請求項1に記載の導電性接合材料。
【請求項3】
前記銀粒子が平均粒径0.1〜30μm、タップ密度3g/cc以上の球状又はアスペクト比1.0〜100、平均粒径0.1〜10μmかつタップ密度3g/cc以上の鱗片状である請求項1又は2に記載の導電性接合材料。
【請求項4】
前記銀化合物粒子と前記分散剤との重量比が100:0.5〜100:50である請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性接合材料。
【請求項5】
さらに溶剤を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性接合材料。
【請求項6】
前記分散剤が、アルコール類、カルボン酸類及びアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性接合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接合材料及び前記導電性接合材料を用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置において、半導体チップを接着・接合するためのダイアタッチ材として導電性を有する接着・接合材料が用いられている。導電性接着・接合材料には、高い電気伝導性及び抗酸化性を有することから銀粉が一般的に用いられており、銀粉を含む接着剤や焼結により接合するペースト状の接合材に関する報告が多くなされている。
【0003】
例えば特許文献1には、銀微粒子同士の接触抵抗を減ずるために、銀と、酸化銀と、該酸化銀を還元する性質をもった有機化合物とから構成されている導電性ペーストが報告されている。また、特許文献2には銀粒子と、酸化銀粒子と、炭素数30以下で構成される有機物を含む分散剤とを、合計で99.0〜100重量%含む導電性接合材料が開示されている。該導電性接合材料は平均粒径0.1〜100μmの銀粉と酸化銀粉を用いることで接合部のより低温での金属接合を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−267900号公報
【特許文献2】特開2010−257880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の導電性ペーストは還元する性質をもった有機化合物と激しく反応し、該有機化合物の分解ガスや、銀化合物の還元によって発生する酸素ガス等の大量発生により、得られる導電性ペースト中に不規則ボイドが形成され応力集中点となって容易に導電性ペーストが破壊されやすく、取扱い上の危険性もあった。
また特許文献2に記載の導電性接合材料は無加圧で接合されることから接合後の層間がポーラス状で空隙率が高く、200℃以上での高温エイジングにおいて過焼結が起こり、接合層が過疎化するという現象が見られ、耐熱性が不十分であった。
該空隙率を低くするために非常に高い加圧力で接合層の空隙率を低下する方法があるものの、その場合の加圧力は30MPa以上と高く、素子にダメージを与えてしまうおそれがあった。
そこで本発明では、低加圧で空隙率の非常に低い接合層を形成することができ、高い接合強度及び熱伝導性を有する導電性接合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、チップと被着体とを加圧下で接合するための導電性接合材料において、銀粒子と銀化合物粒子との重量比を特定範囲にすることにより、従来の加圧方式の接合よりも低加圧で空隙率の非常に低い接合層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤を含み、チップと被着体とを加圧下で接合するための導電性接合材料であって、
前記銀粒子と前記銀化合物粒子との重量比が30:70〜70:30であり、かつ
前記チップと前記被着体とを、大気下、10MPa280℃で5分間加圧接合した後の導電性接合材料の空隙率が15%以下である導電性接合材料。
[2] 前記空隙率が5%以下である前記[1]に記載の導電性接合材料。
[3] 前記銀粒子が平均粒径0.1〜30μm、タップ密度3g/cc以上の球状又はアスペクト比1.0〜100、平均粒径0.1〜10μmかつタップ密度3g/cc以上の鱗片状である前記[1]又は[2]に記載の導電性接合材料。
[4] 前記銀化合物粒子と前記分散剤との重量比が100:0.5〜100:50である前記[1]〜[3]のいずれか1に記載の導電性接合材料。
[5] さらに溶剤を含む前記[1]〜[4]のいずれか1に記載の導電性接合材料。
[6] 前記分散剤が、アルコール類、カルボン酸類及びアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である前記[1]〜[5]のいずれか1に記載の導電性接合材料。
[7] チップと被着体とが導電性接合材料を介して接合される工程を含む半導体装置の製造方法であって、
前記導電性接合材料は、銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤を含み、前記銀粒子と前記銀化合物粒子との重量比が30:70〜70:30であり、
前記接合される工程において、4〜30MPa、200〜350℃で1〜30分間加圧処理され、かつ
前記接合される工程後の導電性接合材料の空隙率が10%以下である、半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る導電性接合材料は、加熱加圧下で焼結させることで接合層の空隙率が低くなり、バルク(金属結合体)に近くなる。そのため、高い接合強度を有すると共に、高い熱伝導性を実現することができる。高い熱伝導性により、本発明に係る導電性接合材料は放熱性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1の導電性接合材料を、大気下、10MPa280℃で5分間加圧接合した後のSEM写真である。
図2図2は、比較例1の導電性接合材料を、大気下、10MPa280℃で5分間加圧接合した後のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また本明細書において数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
<導電性接合材料>
本発明に係る導電性接合材料は、銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤を含み、チップと被着体とを加圧下で接合するための導電性接合材料であって、前記銀粒子と前記銀化合物粒子との重量比が30:70〜70:30であり、かつ前記チップと前記被着体とを、大気下、10MPa280℃で5分間加圧接合した後の導電性接合材料の空隙率が15%以下であることを特徴とする。
【0012】
(銀粒子、銀化合物粒子)
本発明における銀粒子は導電性と接合特性とを兼ね備えるものである。銀の融点は960℃程度であるのに対し、本発明では銀化合物粒子と分散剤を併用することにより、200〜300℃といった低温で焼結させ、被着体との界面において、金属結合で接合することが可能となる。
【0013】
銀粒子の形状は特に限定されるものではないが、平均粒径0.1〜30μm、タップ密度3g/cc以上の球状又はアスペクト比1.0〜100、平均粒径0.1〜10μmかつタップ密度3g/cc以上の鱗片状が好ましい。
【0014】
銀粒子が球状の場合、平均粒径が30μm以下であると、銀粒子を覆っている分散剤が取れやすく焼結性が高くなることから好ましい。平均粒径が0.1μmより小さくなると、生産性やコストの面で不利となる場合があり、また、焼結時に収縮が大きい大チップには不向きとなる。銀粒子が球状である場合の平均粒径は0.3〜10μmがより好ましい。なお、平均粒径とはレーザー回折にて測定した際の体積積算50%径D50の粒径を意味する。
【0015】
球状の銀粒子のタップ密度が3g/cc以上であると加熱前の空隙率を低くする点から好ましく、タップ密度は4.5g/cc以上がより好ましい。またタップ密度の上限は通常8g/cc以下である。タップ密度とは銀粒子を容器に入れて500回タップした時の密度を意味する。
【0016】
なお、銀粒子が球状とは、真球形状に限らず、鋭角な突起を含まなければ若干歪んだ球状も含み得る。例えば楕円球状や多面体であっても球体に近似できれば、球状に含まれる。球状であるか否かの判断は、走査型電子顕微鏡観察にて測定されるアスペクト比が0.95〜1.05のものであればよい。
【0017】
銀粒子が鱗片状の場合、アスペクト比1.0〜100、平均粒径0.1〜10μmかつタップ密度3g/cc以上であることにより、加熱前の空隙率を低くする点から好ましい。アスペクト比は1.0〜5.0がより好ましく、平均粒径は0.5〜6μmがより好ましく、タップ密度は4.5g/cc以上がより好ましい。タップ密度の上限は通常8g/cc以下である。また、銀粒子が鱗片状の場合、厚みは0.1〜5μmであることが好ましく、0.5〜3μmであることがより好ましい。
【0018】
銀粒子のアスペクト比及び厚みは走査型電子顕微鏡観察にて測定できる。また、平均粒径及びタップ密度は前記と同様の条件で求めることができる。
【0019】
また、銀粒子として、例えば銀ナノ粒子や、ワイヤー状、針状又は毬栗状などの異形銀粒子なども、本発明にかかる導電性接合材料としての特性を妨げない範囲において添加してもよい。
【0020】
銀化合物粒子は加熱により少なくとも銀と酸化性物質に分解される化合物粒子であればよく、例えば酸化銀粒子、炭酸銀粒子、ネオデカン酸銀粒子等を用いることができ、一種または複数種の銀化合物粒子を用いることができる。中でも銀化合物中の銀の含有率が高い点から酸化銀粒子が好ましい。複数種の銀化合物粒子を用いる場合には、形状や大きさが異なる一種の銀化合物を複数用いてもよく、種類が異なる銀化合物を複数用いてもよい。
銀化合物粒子の分解により発生した酸化性物質が、銀粒子を覆っている分散剤の燃焼を促進する。また、銀化合物粒子の分解により発生した銀は微細で表面が無垢なため、銀粒子よりも焼結性がよく、加圧を同時に行うことで還元により発生する空間を低減させ、低加圧で空隙率の非常に低い接合層を形成できる。
【0021】
例えば銀化合物粒子が酸化銀粒子である場合、酸化銀が銀と酸素に分解されると、酸化銀粒子から銀に還元されることで体積が約60%減少する。そのため、酸化銀粒子が存在していた部分には、銀に還元されるのに伴い空隙が形成されていくが、本発明に係る導電性接合材料は加圧下で用いられることから、空隙が形成されると同時に該空隙が圧力により潰され、加圧接合後の空隙率が低い導電性接合材料となる。空隙率が低いことで、金属バルクに近くなることから、接合強度や熱伝導性が高くなる。
【0022】
銀化合物粒子の形状や大きさは特に制限されないが、大きさとして平均粒径が0.2〜20μmが焼結性の点から好ましい。
【0023】
前記銀粒子と前記銀化合物粒子との重量比は30:70〜70:30であり、好ましくは40:60〜60:40である。
銀粒子と銀化合物粒子との合計に対して銀化合物粒子の割合を30重量%以上とすることにより、銀への還元時に形成される空隙が加圧により同時に潰されていくことから、加圧接合時後の空隙率が低くなり、結果的に銀化合物粒子が少ない場合よりも接合強度及び熱伝導性に優れた接合面が形成される。
接合層中の空隙率が高いと、200℃以上での高温エイジングにおいて過焼結が起こり、接合層が過疎化するという現象が見られ、耐熱性が不十分となる。一方、非常に高い圧力により接合層の空隙率を低下させようとすると、半導体素子にダメージを与えてしまうおそれがある。
【0024】
また、銀粒子と銀化合物粒子との合計に対して銀化合物粒子の割合を70重量%以下とすることにより、銀化合物粒子の分解で発生する空隙およびアウトガスを抑えるという効果が得られる。
【0025】
(分散剤)
本発明における分散剤は滑材とも呼ばれ、銀粒子や銀化合物粒子同士の凝集を防ぐために銀粒子及び/または銀化合物粒子の表面を覆う化合物である。銀化合物粒子の分解により発生した酸化性物質により、分散剤の燃焼が促進される。
分散剤は、銀粒子及び/または銀化合物粒子の表面に先に被覆させても、銀粒子や銀化合物粒子を含む混合物に対して後から添加することで被覆させてもよい。
分散剤は従来一般に用いられるものであればよく、例えば、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。中でも、アルコール類、カルボン酸類及びアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が分散性と易燃焼性の点から好ましい。分散剤は一種を用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
アルコール類としてはヒドロキシル基を有する化合物であればよく、直鎖状又は分枝している炭素数3〜30のアルキルアルコールが挙げられる。アルコール類であれば、1級アルコール、2級アルコール、3級アルコールのいずれでもよく、またジオールや環状型の構造を有するアルコールでもよい。中でもイソステアリルアルコール、オクチルドデカノールが分散性の点からより好ましい。
【0027】
カルボン酸類としてはカルボン酸を含む化合物であればよく、直鎖状又は分枝している炭素数3〜30のアルキルカルボン酸が挙げられる。カルボン酸類であれば、1級カルボン酸、2級カルボン酸、3級カルボン酸のいずれでもよく、またジカルボン酸や環状型の構造を有するカルボキシ化合物でもよい。中でもネオデカン酸、オレイン酸、ステアリン酸が分散性の点からより好ましい。
【0028】
アミン類としては、アミノ基を含む化合物であればよく、炭素数3〜30のアルキルアミンが挙げられる。アミン類であれば、1級アミン型、2級アミン型、3級アミン型のいずれでもよく、また環状型の構造を有するアミンでもよい。中でもステアリルアミン、ラウリルアミンが分散性の点から好ましい。
【0029】
上記アルコール類、カルボン酸類、アミン類からなる分散剤は、アルデヒド基やエステル基、スルファニル基、ケトン基、4級アンモニウム塩等の形であってもよく、例えばカルボン酸が銀粒子及び/または銀化合物粒子表面を被覆する際にはカルボニル塩を形成する。
【0030】
銀粒子及び/または銀化合物粒子が分散剤で被覆されているか否かは、赤外分光スペクトル測定により確認することができる。すなわち、分散剤である化合物の官能基が銀粒子及び/または銀化合物粒子と結合していると、その結合している官能基の種類によって、現れるピーク位置が異なることから、検出されたピークにより、分散剤の種類を特定することが可能である。
【0031】
前記銀化合物粒子と分散剤との重量比は100:0.1〜100:100の範囲が好ましく、100:0.5〜100:50がより好ましい。分散剤が銀化合物粒子100重量部に対して0.1重量部以上であることで、銀粒子及び/または銀化合物粒子の良好な分散状態を維持することができる。また分散剤が銀化合物粒子100重量部に対して100重量部以下であることで、有機物の残存をなくすことができる。
【0032】
(溶剤)
本発明に係る導電性接合材料には、さらに導電性接合材料をペースト状にするために溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては導電性接合材料がペースト状になるものであれば特に限定されないが、沸点350℃以下のものが、後述する半導体装置の製造において、チップと被着体とを接合する際に溶剤が揮発しやすいことから好ましく、沸点300℃以下がより好ましい。
具体的にはアセテート、エーテル、炭化水素等が挙げられ、より具体的には、ジブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ミネラルスプリット等が好ましく用いられる。
【0033】
溶剤は導電性接合材料に対して通常3〜20重量%であり、5〜10重量%が作業性の点から好ましい。
【0034】
(その他)
本発明に係る導電性接合材料には、本発明の効果を損なわない範囲において、脂肪酸化合物や導電性粒子、無機充填剤、沈降抑制剤、レオロジーコントロール剤、ブリード抑制剤、消泡剤等を添加してもよい。
【0035】
脂肪酸化合物を添加することにより、銀化合物粒子がより分解されやすくなる。脂肪酸化合物としては例えばネオデカン酸化合物やステアリン酸化合物が好ましい。脂肪酸化合物は1種を添加しても複数種を添加してもよく、導電性接合材料に対して合計で0.01〜5重量%含むことが好ましい。
【0036】
導電性粒子としては、白金、金、パラジウム、銅、ニッケル、スズ、インジウム、これらの合金、グラファイト、カーボンブラックおよびこれらの金属メッキを施したもの、もしくは金属メッキを施した無機、有機粒子等が挙げられる。導電性粒子は1種を添加しても複数種を添加してもよく、導電性接合材料に対して0.01〜5重量%含むことが好ましい。
【0037】
無機充填剤としては、シリカ、炭化ケイ素等が挙げられる。無機充填剤は1種を添加しても複数種を添加してもよく、導電性接合材料に対して0.01〜5重量%含むことが好ましい。
【0038】
沈降抑制剤としては、ヒュームドシリカ、増粘剤等が挙げられる。沈降抑制剤は1種を添加しても複数種を添加してもよく、導電性接合材料に対して0.01〜5重量%含むことが好ましい。
【0039】
レオロジーコントロール剤としては、ウレア系、ベントナイト等が挙げられる。レオロジーコントロール剤は1種を添加しても複数種を添加してもよく、導電性接合材料に対して0.01〜5重量%含むことが好ましい。
【0040】
ブリード抑制剤としては、フッ素系等が挙げられる。ブリード抑制剤は1種を添加しても複数種を添加してもよく、導電性接合材料に対して0.01〜5重量%含むことが好ましい。
【0041】
消泡剤としては、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。ブリード抑制剤は1種を添加しても複数種を添加してもよく、導電性接合材料に対して0.01〜5重量%含むことが好ましい。
【0042】
本発明に係る導電性接合材料は銀粒子と銀化合物粒子を上記チップと被着体とを、大気下、10MPa280℃で5分間加圧接合した後の導電性接合材料の空隙率が15%以下となる。
【0043】
具体的には、銀メッキした銅リードフレームに導電性接合材料を設置し、その上に3mm×3mmの銀スパッタリングシリコンチップをマウントしたものを、ダイボンダーDB500LS(株式会社アドウェルズ製)を用いて10MPa280℃で5分間大気下の条件で加圧接合を行い、加圧接合後の導電性接合材料の空隙率を接合層断面のSEM写真を2値化することにより測定することができる。詳細には、SEM写真上の接合層内の20μm×50μmの領域を2値化し空隙部位の面積比率を算出できる。該空隙率は5%以下がより好ましく、1%以下がより好ましい。
【0044】
また、本発明に係る導電性接合材料は、空隙率を低くすることができるため、優れた接合強度及び熱伝導性を有する。
【0045】
接合強度の測定方法は特に制限されないが、例えば、実施例で後述するように、ダイシェア強度を測定する方法が挙げられる。接合されたチップにせん断方向に荷重をかけ、破壊した際の強度を接合強度とする。測定強度測定器としては、例えば、Dage社製のSeries4000を用いて、25℃、200mm/sec.のテストスピードで測定を行う。
上記と同様の条件で加圧接合をした場合の接合強度は、25℃、200mm/sec.のテストスピードで測定を行った場合、好ましくは40MPa以上であり、より好ましくは50MPa以上である。
【0046】
熱伝導率の測定方法も特に制限されないが、例えば、実施例で後述する、レーザーフラッシュ法により、下記式により求めることができる。
熱伝導率λ=熱拡散率a×比重d×比熱Cp
接合サンプルにレーザーパルス光を照射し、裏面側の温度変化を測定し、この温度変化挙動から熱拡散率aを求める。この熱拡散率aと、比重dおよび比熱Cpから、上記式により熱伝導率λ(W/m・K)を算出する。熱拡散率aは、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置を用いて測定でき、例えば、ULVAC−RIKO社製のTC−7000を使用できる。比熱Cpは、示差走査熱量測定装置を用いて測定でき、例えば、セイコー電子工業社製のDSC7020を使用して、JIS−K7123に準拠して室温での比熱Cpを測定できる。
上記と同様の条件で加圧接合をした場合の熱伝導率は、好ましくは、250W/m・K以上であり、より好ましくは300W/m・K以上であり、さらに好ましくは350W/m・K以上である。
【0047】
<導電性接合材料の製造方法>
銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤の混合を行うことで、本発明に係る導電性接合材料を得ることができる。分散剤は先に添加しても後から添加してもよく、それにより、該銀粒子及び銀化合物粒子の少なくともいずれか一方は分散剤で覆われている。
混合は乾式でも溶剤を用いる湿式でもよく、乳鉢や遊星ボールミル、ロールミル、プロペラレスミキサー等を用いることができる。
【0048】
<半導体装置の製造方法>
本発明に係る導電性接合材料は、チップと被着体とが接合された半導体装置の製造方法に好適に用いることができる。すなわち、該半導体装置の製造方法は、チップと被着体とが本発明に係る導電性接合材料を介して接合される工程を含む。
被着体としてはリードフレームやDBC基板、プリント基板等が挙げられる。
【0049】
前記接合される工程において、4〜30MPa、200〜350℃で1〜30分間加圧処理され、かつ前記接合される工程後の導電性接合材料の空隙率が10%以下となる。
加圧接合は大気下、窒素雰囲気下、水素等の還元雰囲気下等、あらゆる雰囲気下で行うことができるが、生産性の点から大気下が好ましい。
【0050】
接合される工程における圧力は空隙率の点から4MPa以上が好ましく、10MPa以上がより好ましい。また圧力の上限はチップへのダメージの点から30MPa以下が好ましく、20MPa以下がより好ましい。
接合される工程における温度は空隙率の点から200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。また温度の上限は周辺部材へのダメージの点から350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
接合される工程における加圧・加熱の処理時間は空隙率の点から1分以上が好ましく、周辺部材へのダメージおよび生産性の点から30分以下が好ましい。
【0051】
本発明に係る導電性接合材料を用いた接合では、加圧と加熱とが必須である。加熱することにより銀化合物粒子が還元分解して銀と酸化性物質を含む分解物になる。その酸化性物質が分散剤の燃焼を促進する。また銀化合物粒子の還元により生成した銀は微細で表面が無垢なため、銀粒子よりも焼結性がよい。そのため、銀粒子単独時に比べ、銀の焼結性がよく、チップと被着体とが良好に接合される。
また、導電性接合材料中の銀粒子と銀化合物粒子との重量比が30:70〜70:30と、銀化合物粒子の割合が多いことで、先述した銀の焼結性の向上に加え、銀化合物粒子の分解に伴う体積収縮による影響も大きくなる。体積収縮により形成された空隙が4〜30MPaといった比較的低圧でも即座に潰されていき、空隙率10%以下という低い空隙率を達成することができる。
この低い空隙率により、接合後の導電性接合材料は金属バルクに近くなり、接合強度、熱伝導性が共に高く、放熱性に優れた半導体装置を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0053】
[空隙率]
接合サンプルの接合層断面のSEM観察を行う。画像解析ソフトImage Jを用いて、得られたSEM写真上の接合層内の20μm×50μmの領域を2値化し空隙部位の面積比率から空隙率を算出した。
【0054】
[接合強度]
接合サンプルを、接合強度測定器〔Dage社製、「Series4000」(製品名)〕を用い、200mm/sec.のテストスピードで25℃でのダイシェア強度を測定した。
【0055】
[熱伝導率]
熱伝導率λ(W/m・K)は、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(TC−7000、ULVAC−RIKO社製)を用いてASTM−E1461に準拠して熱拡散率aを測定し、ピクノメーター法により室温での比重dを算出し、示差走査熱量測定装置(DSC7020、セイコー電子工業社製)を用いてJIS−K7123に準拠して室温での比熱Cpを測定して以下の式により算出した。結果を表1に示す。
熱伝導率λ=熱拡散率a×比重d×比熱Cp
【0056】
[実施例1]
銀粒子として、粒子形状が球状であり、平均粒径が1.0μmで、タップ密度が5g/ccの田中貴金属工業(株)製の銀粉末を用意した。
また、銀化合物粒子として、粒子形状が粒状であり、平均粒径が10μmの田中貴金属工業(株)製、製品名AY6059の酸化銀粉末を用意した。
導電性接合材料中の銀粒子の含有量に対する銀化合物粒子の含有量の比を表1に記載の比となるように、銀粒子と酸化銀粒子との混合比を調整し混合した。
【0057】
前記した銀粒子と酸化銀粒子と、溶剤としてジブチルカルビトールと、分散剤としてネオデカン酸とをそれぞれ表1に記載の含有量で混合した後、三本ロールミルを用いて混練して導電性接合材料を作製した。
得られた導電性接合材料を12×12mmの銀メッキした銅リードフレームに塗布し、塗布面に3mm×3mmの銀スパッタリングシリコンチップを戴置後、大気下、10MPaで3mm×3mmの銀スパッタリングシリコンチップに垂直に加圧しながら、280℃で5分加熱し、半導体装置の銀接合体を作製した。
得られた銀接合体の空隙率、接合強度、及び熱伝導率を測定した結果を表1に示す。またSEM写真を図1に示す。
【0058】
[実施例2]
銀粒子を、粒子形状が鱗片状であり、アスペクト比が4であり、平均粒径が2.2μmで、タップ密度が6.2g/ccの田中貴金属工業(株)製の銀粉末としたことを除いては、実施例1と同様にして半導体装置の銀接合体を作製した。得られた銀接合体の空隙率、接合強度、及び熱伝導率を表1に示す。
【0059】
[実施例3]
銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤の配合量を表1の実施例3に示す量に変更したことを除いては、実施例1と同様にして半導体装置の銀接合体を作製した。得られた銀接合体の空隙率、接合強度、及び熱伝導率を測定した結果を表1に示す。
【0060】
[実施例4]
銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤の配合量を表1の実施例4に示す量に変更したことを除いては、実施例1と同様にして半導体装置の銀接合体を作製した。得られた銀接合体の空隙率、接合強度、及び熱伝導率を測定した結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1]
銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤の配合量を表1の比較例1に示す量に変更したことを除いては、実施例1と同様にして半導体装置の銀接合体を作製した。得られた銀接合体の空隙率、接合強度、及び熱伝導率を測定した結果を表1に示す。またSEM写真を図2に示す。
【0062】
[比較例2]
銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤の配合量を表1の比較例2に示す量に変更したことを除いては、実施例1と同様にして半導体装置の銀接合体を作製した。得られた銀接合体の空隙率、接合強度、及び熱伝導率を測定した結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
以上の結果から、実施例の銀接合体は、比較例の銀接合体と比べて、空隙率が顕著に低く、接合強度及び熱伝導率も高いことがわかる。
【要約】
【課題】低加圧で空隙率の非常に低い接合層を形成することができ、高い接合強度及び熱伝導性を有する導電性接合材料を提供する。
【解決手段】銀粒子、銀化合物粒子及び分散剤を含み、チップと被着体とを加圧下で接合するための導電性接合材料であって、前記銀粒子と前記銀化合物粒子との重量比が30:70〜70:30であり、かつ前記チップと前記被着体とを、大気下、10MPa280℃で5分間加圧接合した後の導電性接合材料の空隙率が15%以下である導電性接合材料。
【選択図】図1
図1
図2