(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転磁場が、前記周回経路のいずれの位置においても、前記回転子に対して同等の磁場を与え、前記周回経路上における前記磁場の進行に伴い進行する各位置における磁場の方向が、前記周回経路の平面視における円周上の接線を含む鉛直面内で回転する請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の粘性測定装置。
前記回転磁場制御部が、前記回転磁場の回転軸に垂直な配置面においてN極とS極とが交互に上面となるように永久磁石が複数配列された磁石固定台を回転させることにより、前記回転子に印加する回転磁場を生成する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の粘性測定装置。
前記磁石が永久磁石から構成されており、前記回転軸を中心として、前記配置面に対して平行に回転させて、前記回転子に対して印加する前記回転磁場を生成する請求項8に記載の粘性測定装置。
粘度が予め分かっている複数の基準物質における前記回転子の周回数、及び前記回転磁場の回転数と、前記基準物質の粘性との対応関係を予め標準データとして記憶する標準データ記憶部を更に有し、
前記粘性検出部が測定した測定対象物質における前記回転子の周回数、及び前記回転磁場の回転数を、前記標準データと比較して、前記測定対象物質の粘性を求める請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の粘性測定装置。
粘性を検出する対象の測定対象物質が入れられた容器において、導電性の材料で形成され、前記測定対象物質中に沈められ、かつ前記容器の底部に接触して配置される球状の回転子に対して、磁石により磁場を印加する過程と、
前記磁石によって前記回転子に回転磁場を与え、前記回転子に誘導電流を誘起させ、前記誘導電流と前記回転子に印加される磁場とのローレンツ相互作用により、前記回転子に回転トルクを与え、回転磁場の回転に対応させて、前記回転子に対して円運動及び周回運動をさせる過程と、
前記回転子の周回する周回数を測定する過程と、
検出された前記回転子の周回運動の周回数及び前記回転磁場の回転数により、前記測定対象物質の粘性を検出する過程と
を含む粘性測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した方法の内、上記(1)〜(5)の方法に関しては、数cc以上という多量の試料(測定対象の物質)が必要となる。
特に、上記(2)〜(5)の方法に関しては、試料の粘度(粘性係数、すなわち粘性)が少なくとも10cP以上でないと精度のよい計測が出来ない。そのため、上記(2)〜(5)の方法は、10cP未満よりも低粘度の材料の粘度を正確に測定できない。
さらに上記(6)の方法に関しては、測定装置が大規模である。また、上記(6)の方法は、測定精度を維持できる程度に光を透過する必要があるため、透明試料以外には適用できない。
【0006】
上記(7)の方法に関しては、円筒状の回転子が直立した状態で試料中に配置されることが必須の条件となる。回転子の試料に対する濡れ性が、回転子の表面全体で均一でなければ、試料中において、回転子を直立させることはできない。このため、上記(7)の方法においては、浮力によって回転子を維持して測定を行う場合、回転子における試料に対する濡れ性などが不均一であることによって、回転子を直立した状態に維持することが困難となる。
【0007】
上記(8)の方法に関しては、回転子と試料を入れた容器の底に回転子が接触して回転する。このため、回転子と容器との間の接触点における摩擦が生じ、粘度を測定するための誤差が生じる。したがって、上記(8)の方法に関しては、この摩擦により発生する測定誤差により、上記(2)〜(5)の方法と同様に、少なくとも10cP未満の粘度の試料に対して、高い精度の測定を行うことができない。
また、上記(8)の方法に関しては、容器内の試料中に完全に埋没している回転子の回転を観察するため、測定精度を維持できる程度に光を透過する必要がある。そのため、透明試料以外の試料、例えば黒色の試料を測定することができない。
また、上記(8)の方法に関しては、レーザの散乱を用いて、試料中の回転子の回転を観察する場合がある。しかし、コロイドやスラリーなどの試料は、反射光として強い散乱光を発生するため、レーザの散乱を用いる場合、コロイドやスラリーなどの試料を測定することができない。
【0008】
さらに、上記(7)及び(8)の方法に関しては、回転磁場を生成する磁石が試料を入れた容器の側壁に沿って回転する。このため、容器の側壁の外周部に磁石の回転する領域を確保する必要がある。したがって、容器内の試料温度を制御する温度制御装置や、電場の印加装置などを構成する際に、装置が大型化する。
【0009】
上述した理由により、上記(1)〜(8)に記載した方法では、液体や他のソフトマテリアル(Soft material、あるいはSoft matter:ソフトマター)の粘性及び弾性といった普遍的な物理量、すなわち力学的な物理量を、少量の試料で簡易に測定を行うことが困難である。また、上記(1)〜(8)に記載した方法では、低粘度の試料について高精度で測定を行うことが困難である。加えて、上記(1)〜(8)に記載した方法では、装置を小型化することに制約がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、測定対象の物質である試料の量を従来に比較して少なくすることができ、また装置が従来に比較して小型化でき、かつ10cP程度以下の低粘性の物質の粘度を従来に比較して高精度に測定することが可能な粘性測定装置及びその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様によれば、粘性測定装置は、粘性を検出する対象の測定対象物質が入れられた容器と、導電性の材料で形成され、前記測定対象物質中に
沈降させ、かつ前記容器の底部に接触して配置される球状の回転子と、前記回転子に対して磁場を印加する磁石と、前記磁石によって前記回転子に回転磁場を与え、前記回転子に誘導電流を誘起させ、
前記誘導電流と前記回転子に印加される前記磁場とのローレンツ相互作用により前記回転子に回転トルクを与え、前記回転磁場の回転に対応させることにより前記回転子に対して円運動及び周回運動をさせるように前記磁場を制御する回転磁場制御部と、前記回転子の周回する周回数を測定する回転検出部と、前記回転検出部により検出された前記回転子の周回運動の周回数及び前記回転磁場の回転数により前記測定対象物質の粘性を検出する粘性検出部とを有する。
【0012】
本発明の第二の態様によれば、第一の態様に係る粘性測定装置は、
前記回転子
は前記円運動により前記容器の底部を転が
る。
【0013】
本発明の第三の態様によれば、第二の態様に係る粘性測定装置において、前記容器が、前記測定対象物質が充填される領域の底部
に溝として構成された円形状の周回経路を有し、前記回転子が前記周回経路に沿って
前記円運動を行う。
【0014】
本発明の第四の態様によれば、第三の態様に係る粘性測定装置において、前記周回経路が、前記容器の底部に対して設けられた外側及び内側の側壁で囲まれた溝により構成されている。
【0015】
本発明の第五の態様によれば、
第三または第四の態様に係る粘性測定装置において、前記回転子が受ける前記周回経路上における磁場の鉛直成分B
z及び前記周回経路に沿った成分B
θが、ωを前記回転磁場の角速度とし、B
0を前記磁石の磁場とし、θを前記周回経路における任意の点の偏角とし、tを時間、nを自然数とした場合、前記磁場は、以下の式で表される磁場である。
B
z=B
0・cos(ωt−nθ) ・・・(1)
B
θ=B
0・sin(ωt−nθ) ・・・(2)
【0016】
本発明の第六の態様によれば、第三から第五のいずれかの態様に係る粘性測定装置において、前記回転磁場が、前記周回経路のいずれの位置においても、前記回転子に対して同等の磁場を与え、前記周回経路上における前記磁場の進行に伴い、進行する各位置における磁場の方向が、前記周回経路の平面視における円周上の接線を含む鉛直面内で回転する。
【0017】
本発明の第七の態様によれば、第三から第六のいずれかの態様に係る粘性測定装置において、前記容器の底部のうち、前記回転子の前記周回する経路が水平面である。
【0018】
本発明の第八の態様によれば、第一から第七のいずれかの態様に係る粘性測定装置において、前記回転磁場制御部が、前記回転磁場の回転軸に垂直な配置面において、N極とS極とが交互に上面となるように永久磁石が複数配列された磁石固定台を回転させることにより、前記回転子に印加する回転磁場を生成する。
【0019】
本発明の第九の態様によれば、第八の態様に係る粘性測定装置において、前記磁石が永久磁石から構成されており、前記回転軸を中心として、前記配置面に対して平行に回転させて、前記回転子に対して印加する前記回転磁場を生成する。
【0020】
本発明の第十の態様によれば、第一から第七のいずれかの態様に係る粘性測定装置は、前記磁石が電磁石で構成されており、前記回転磁場制御部が、配列された前記電磁石が隣接した他の電磁石と異なる極性となるように、時間毎に極性を変化させるように前記電磁石を駆動して、前記回転磁場を生成する。
【0021】
本発明の第十一の態様によれば、第七又は第八の態様に係る粘性測定装置は、前記磁石が前記容器の上部あるいは下部に、前記測定対象物質の表面に平行に配置されている。
【0023】
本発明の第
十二の態様によれば、
第十一の態様に係る粘性測定装置は、粘度が予め分かっている複数の基準物質における前記回転子の周回数、及び前記回転磁場の回転数と、前記基準物質の粘性との対応関係を予め標準データとして記憶する標準データ記憶部を更に有し、前記粘性検出部が測定した測定対象物質における前記回転子の周回数、及び前記回転磁場の回転数を、前記標準データと比較して、前記測定対象物質の粘性を求める。
【0024】
本発明の第
十三の態様によれば、
第一の態様に係る粘性測定装置において、前記回転検出部が、光学測定により、前記回転子の周回数を検出する。
【0025】
本発明の第
十四の態様によれば、
第一の態様に係る粘性測定装置は、前記回転検出部が、電気測定により、前記回転子の周回数を検出する。
【0026】
本発明の第
十五の態様によれば、第一から第
十四のいずれかの態様に係る粘性測定装置は、前記測定対象物質が、液体あるいはソフトマテリアルである。
【0027】
本発明の第
十六の態様によれば、粘性測定方法は、粘性を検出する対象の測定対象物質が入れられた容器において、導電性の材料で形成され、前記測定対象物質中に沈められ、かつ前記容器の底部に接触して配置される球状の回転子に対して、磁石により磁場を印加する過程と、前記磁石によって前記回転子に回転磁場を与え、前記回転子に誘導電流を誘起させ、前記誘導電流と前記回転子に印加される磁場とのローレンツ相互作用により、前記回転子に回転トルクを与え、回転磁場の回転に対応させて、前記回転子に対して
円運動及び周回運動をさせる過程と、
前記回転子の周回する周回数を測定する過程と、検出された前記回転子の周回運動の周回数
及び前記回転磁場の回転数により、前記測定対象物質の粘性を検出する過程とを含む。
【発明の効果】
【0028】
上記の粘性測定装置及びその測定方法によれば、容器に充填された測定対象物質中に回転子を沈め、この回転子に対して回転磁場を与える。この回転磁場により回転子に誘起される電流と、回転磁場とによるローレンツ相互作用により、回転子を測定対象物質中において周回運動させる。この回転子の単位時間当たりの周回回数により測定対象物質の粘性を測定する。そのため、容器内には、回転子が周回する部分にのみ、測定対象物質が充填されていれば良い。このため、従来に比較して粘性の測定に必要な測定対象物質の量を少なくすることができる。
【0029】
また、この粘性測定装置及びその測定方法によれば、回転子が容器の底部を転がって周回運動を行うため、機械的損失は、容器の底部に対する回転子の転がり摩擦による軽微な損失に限定される。したがって、機械的損失は、回転子と容器の底部との面接触によるすべり摩擦に比較して十分小さい。このため、上記した粘性/弾性測定装置及び測定方法は、従来に比べ、回転子と容器との接触による回転を抑制する機械的損失を低減させることができ、測定誤差をより小さくすることができる。その結果、上記した粘性/弾性測定装置及び測定方法は、10cP以下の低粘性の物質の粘度を従来に比較して高精度に測定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第一実施形態について説明する。
図1は、この発明の第一実施形態による粘性測定装置の構成例を示す図である。
本実施形態における粘性測定装置は、導体球1(回転子)、試料容器2、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33、第4磁石34、モーター4、回転検出センサ5、試料台6、磁石固定台7及び粘性測定部8を備えている。以下、粘性測定装置により、物質の力学的物性としての粘性、すなわち粘性係数を測定する場合について説明する。
【0032】
試料100は、測定対象の物質であり、例えば、液体、スラリー、あるいはソフトマテリアルである。ソフトマテリアルとは、高分子、液晶、コロイド、生体分子などの一連の分子性物質群である。なお、コロイドは、例えば、乳液、乳剤、ゾルなどのエマルションである。また、生体分子は、例えば、生体膜、蛋白質、DNAなどである。
【0033】
試料容器2は、力学的物性として粘性を測定する測定対象物質としての試料を入れる容器である。試料容器2としては、例えば、小型のシャーレなどを用いることができる。
【0034】
試料容器2に試料100を入れ、導体球1を試料100中に沈めた状態を示す概念図である。
図2(a)は、試料容器2の斜視図である。
図2(b)は、試料容器2の上面図である。
図2(c)は、試料容器2の
図2(b)のA−A線における断面図である。
図2(a)、
図2(b)及び
図2(c)に示すように、試料容器2に上述した測定対象の測定対象物質である試料100を入れる。そして、導電性の球状の回転子である導体球1を試料100中に沈める。
【0035】
図2(a)に示すように、試料容器2は、側壁21(外壁)及び側壁22(内壁)で挟まれた溝状の周回経路23を有している。周回経路23は、導体球1が走行自在な大きさに形成されている。周回経路23は、
図2(b)に示すように、平面視において円形状の経路が形成されている。また、周回経路23は、
図2(c)に示すように、断面構造が略長方形状の溝として構成されている。また、
図2(b)に示すように、周回経路23の幅Lは、試料100に沈める導体球1の直径よりも僅かに大きければ良い。
【0036】
また、周回経路23に溜める試料100は、試料容器2に対して所定の量が注入される。試料容器2に注入される試料100の量は、導体球1が完全に試料100中に沈む量であれば良い。本実施形態の場合、この試料100は、試料容器2に試料100が注入された状態における試料100の深さが導体球1の直径より深くなるような量が注入される。また、周回経路23は、底部24が水平面となるように構成されている。周回経路23は、底部24が、試料容器2に充填される試料100の液面に対して水平となるように構成されている。
【0037】
本実施形態において、周回経路23は、
図2(b)及び
図2(c)に示すように、直径2mmの導体球1に対して、外径r
1(外壁21の周回経路23側の面における半径)が17mm、内径r
2(内壁22の周回経路23側の面における半径)が12mm、すなわち幅Lが5mmであり、深さDが3mmである。本実施形態では、周回経路23は、
図2(c)に示すように、溝の底部24が平面であり、断面形状を長方形状としたが、断面形状をU字形状に形成しても良い。
【0038】
次に、
図3は、本実施形態に係る試料容器2の他の構成例を示す図である。
図3(a)は本実施形態の他の構成例の試料容器2の外形を示す斜視図である。
図3(b)は、
図3(a)におけるA−A線における断面図である。
図3(b)に示すように、円筒500は、円環状に形成され、中空部を有する管状の部材である。
【0039】
また、円筒500には、中空部の下部に試料100が収容されている。この試料100に導体球1が走行可能に浸漬されている。すなわち、
図3(a)及び
図3(b)に示す試料容器2においては、円筒500の内周壁の下部が周回経路23である。このとき、円筒500の内径は、導体球1の外径(直径)より大きい必要がある。
【0040】
導体球1は、例えば直径が2mmのアルミニウムで構成されている。また、試料100の比重がアルミニウムより大きい液体やソフトマテリアルなどである場合、アルミニウムに代えて、この液体より比重の大きな導体、例えば真鍮などの金属の球を、導体球1の材料として選択する。
【0041】
磁石固定台7は、回転磁場を発生させる永久磁石を固定する平板上の部材である。磁石固定台7は、試料容器2に入れられている試料100の表面(試料100が液体であれば液面)と平行となるように配置されている。また、磁石固定台7は、水平方向に回転するように設けられている。具体的には、磁石固定台7は、モーター軸4aを介してモーター4に取り付けられている。また、磁石固定台7が回転した際、この磁石固定台7に固定された永久磁石の各々の上面が形成する平面が、試料容器2に充填された試料の上面(液面)と平行、すなわち水平面となるように、磁石固定台7がモーター4に取り付けられている。
【0042】
磁石固定台7の上面には、磁石固定台7の周縁に沿って複数個の永久磁石を配置する。永久磁石は、試料固定台7の厚さ方向にN極とS極とが上下に位置するように配置する。また、磁石固定台7を上面側から見たときに、隣り合う永久磁石は、N極とS極とが交互に上面(試料容器2側の面)となるように、交互に複数個配列されている。すなわち、隣り合う永久磁石のN極とS極が交互に上面となるように配置するので、2n個が配列されている。本実施形態においては、例えば、4個の永久磁石、すなわち第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々が磁石固定台7の上面に固定されている。この磁石の数は4個に限らず、2個、6個、8個、2n個など偶数で有れば良く、N極とS極とが上面となる磁石のn組の2n個を、N極とS極とを交互に配列させれば良い。
【0043】
図4は、上面から見た磁石固定台7における磁石の配置例を示す図である。
図4(a)に示す例では、第1磁石31は、磁石固定台7の上面にS極が接し、試料容器2側に位置する面がN極となるように配置されている。
第2磁石32は、磁石固定台7の上面にN極が接し、試料容器2側に位置する面がS極となるように配置されている。
第3磁石33は、磁石固定台7の上面にN極が接し、試料容器2側に位置する面がS極となるように配置されている。
第4磁石34は、磁石固定台7の上面にS極が接し、試料容器2側に位置する面がN極となるように配置されている。
【0044】
したがって、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々は、互いに異なる極性の極が試料容器2側に位置するように配置されている。
また、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々は、磁石固定台7の回転軸に対して交互に対称に配置されている。
【0045】
本実施形態においては、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々の表面近傍(試料容器2と対向している面近傍)における磁束密度は、0.3T(テスラ)である。第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々は、縦10mm、横10mm、高さ5mmのサイズの永久磁石を用いている。
【0046】
次に、
図4(a)は、上面から見た磁石固定台7における第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々の配置関係を示す図である。
図4(a)は本実施形態における平面視での磁石の配置を示している。第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々は、平面視で正方形であり、磁石の上面の磁極がN極とS極とが交互になるように配置されている。
【0047】
図4(b)は、
図4(a)の変形例における磁石の配置を示している。この変形例では、配置された2つの磁石である第5磁石35、第6磁石36の各々が長方形である場合を示している。この
図4(b)の場合においても、磁石固定台7に固定された永久磁石の上面の磁極がN極とS極とが交互になるように、第5磁石35、第6磁石36の各々が配置されている。
【0048】
また、図示はしないが、複数個(N個、N=2n、nはn≧1の整数)の小型の磁石を試料容器2における周回経路23に対応する位置に、磁石の上面の磁極がN極とS極とが交互になるように配置しても良い。また、磁石固定台7は、試料容器2の上部に配置する構成としても良い。すなわち、試料容器2に充填された試料100の液面の上方において、永久磁石の上面が水平となるように、磁石固定台7を配置する構成としても良い。
【0049】
図1に戻り、永久磁石により形成される回転磁場について説明する。N個の永久磁石が、2π/N間隔で配列されたN個の磁石による磁場(回転磁場)については、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々の磁束密度をB
0とした場合、理想的にはその偏角方向成分B
θ、鉛直方向成分B
zは、以下の(1)式及び(2)式で表される。(1)式及び(2)式は、偏角(すなわち周回経路23における任意の地点における角度)θ、時間t、駆動角速度ω(ω=2πf、f:駆動周波数、回転磁場の回転における角速度)を用いて表される。また、nは上述した上面の磁極がN極とS極となる磁石の組の数である。
B
z=B
0・cos(ωt−nθ) …(1)
B
θ=B
0・sin(ωt−nθ) …(2)
【0050】
上述した(1)式及び(2)式においては、偏角方向成分B
θ、鉛直方向成分B
zの各々が表されると仮定している。すなわち、磁場は、強度が一定であり、移動方向が等速円運動を行うと仮定して、導体球1に回転磁場から印加されるトルクの計算を行っている。この回転磁場は、磁石固定台7をモーター4により回転させた際、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34によって空間に発生する磁束密度により生成される。また、周回経路の中心から見た回転磁場の回転方向は、磁石固定台7上面(磁石の固定されている面)を鉛直上方から見た磁石の回転方向と逆方向、すなわちモーター4の回転方向と逆方向となる。
例えば、磁石固定台7の回転方向が、上記鉛直上方から見て時計回りである場合、回転磁場の回転方向は回転子の周回経路の中心から見て反時計回りである。
また、回転磁場は、周回経路23のいずれの位置においても、導体球1に対してほぼ同じ(同等の)磁場を与える。周回経路23上における回転磁場の進行とともに、進行する磁場の各位置において、周回経路23の平面視における円周上の接線を含む鉛直面内で磁場が回転する。
【0051】
ここで、回転磁場の回転方向が等速円運動でなく、例えば楕円運動であったとしても、試料容器2の周回経路23に沿って運動するためのトルクを導体球1に対して印加することができる。
また、詳細は後述するが、この導体球1に働くトルクの大きさあるいは粘性の評価は、粘性が既知の試料による導体球の公転速度の値により校正することで得ることができる。
なお、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の磁石表面から、試料容器2の底部24までの距離を選ぶことにより、周回経路23における導体球1に印加される回転磁場を、上述した(1)式及び(2)式に対して、より近似させることが可能である。
【0052】
次に、試料台6は、試料100を入れる試料容器2を固定する平板上の部材である。試料台6は、上面が磁石固定台7の上面と平行となるように配置されている。
これにより、試料容器2の底部24の上面と、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々が回転した際における、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々の上面とがなす平面とは平行となる。
上述した試料台6、磁石固定台7、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々の配置から、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34により、導体球1の配置される試料容器2の底部24上面に対して垂直(鉛直)方向の磁場を発生させることができる。また、底部24上面に対して水平方向の磁場を発生させることもできる。
【0053】
モーター4は、磁石固定台7を、磁石固定台7の表面に平行な回転方向で回転させる駆動機構である。モーター4は、モーター軸4aが磁石固定台7の上面に対して軸方向が垂直に固定されている。例えば、モーター4は、本実施形態において、毎分50回転から4000回転までの間で、任意に回転数を設定できる。
また、平面視において、導体球1が試料容器2の底部24における周回経路23を周回するように、モーター軸4aと試料容器2とモーター4との各々の配置が設定されている。すなわち、平面視において、試料容器2の中心と、モーター軸4aとが重なるように、試料容器2とモーター4とが配置されている。
【0054】
図5は、本実施形態における磁石固定台7、この磁石固定台7に配置された第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34と、試料容器2における周回経路23との位置関係を示す平面図である。
図5における白抜きの矢印Wは、基準面における磁場の大きさと方向とからなる磁場ベクトルを表している。
【0055】
回転検出センサ5は、試料容器2の試料100に沈んでいる導体球1が検出可能な位置に、試料容器2の上部方向に配置される。回転検出センサ5は、導体球1の位置を光学的に検出する。すなわち、回転検出センサ5は、光照射部からレーザ光を出射し、導体球1の上面からの反射光を受光部で入射し、入射光の強度に対応した検出電気信号を出力する。
また、回転検出センサ5の代わりに、レンズとCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子を顕微鏡に付加した撮像装置を設け、導体球1の周回経路23における移動状態を拡大して撮像した撮像画像を出力し、画像処理から回転数を検出するように構成しても良い。この場合、周回経路23を回る周回数を検出し、周回経路23を1周した場合に周回数を1とする。
さらに、試料容器2の底部24の下部において、平面視で周回経路23と重なる位置に静電容量センサを配置し、この静電容量センサを通過する回数を回転数として求める構成としても良い。
【0056】
ここで、モーター4で磁石固定台7を回転させることにより、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々が回転し、時間毎に変動する磁場として回転磁場が磁石固定台7の上面側の空間に形成される。この回転磁場により、導体球1に対してトルクを与えて、試料容器2における試料100が溜められた周回経路23に沿って、導体球1を転がして等速円運動をさせる。そして、導体球1の試料100内における移動速度から試料の粘性を計測する。
導体球1の試料100内における移動速度から試料の粘性を計測する方法について、以下に説明する。
【0057】
粘性測定部8は、回転検出部81、粘性検出部82、回転磁場制御部83、標準データ記憶部84及び装置制御部85を有している。
回転検出部81は、回転検出センサ5から供給される検出電気信号により、導体球1の検出を行う。回転検出部81は、単位時間(例えば、1秒)当たりの検出回数を、単位時間当たりの回転数(rpm:revolutions per minute)として、公転角速度Ω
sを求めて出力する。また、回転検出部81は、導体球1の検出において、回転検出センサ5の検出電気信号を用いる代わりに、撮像装置の撮像画像を用いることもできる。撮像装置の撮像画像を用いて導体球1を検出する場合、撮像装置が撮像して出力する撮像画像から、導体球1を画像処理により検出し、単位時間当たりの回転数として公転角速度Ω
sを求めるようにしても良い。
【0058】
回転磁場制御部83は、設定された回転数でモーター4が回転するように、モーター4に対する回転制御を行う。これにより、モーター軸4aを介して磁石固定台7が所定の回転数で回転し、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々により発生する磁場が回転する。このようにして、導体球1を周回経路23内において等速円運動により回転させる回転磁場を発生させる。
【0059】
標準データ記憶部84は、モーター4の回転数と、粘度が判っている標準試料に浸漬された導体球1の回転数との比と、粘性(cP)との関係を示す粘性検出テーブルが記憶されている。
この粘性検出テーブルは、以下の様に作成されている。本実施形態の粘性測定装置において、粘度が予め判っている標準試料を試料容器2に充填し、標準試料に導体球1を浸漬させる。予め設定した複数の回転数Ω
Mによりモーター4を回転させた場合に、各モーター4の回転数Ω
Mに対応した導体球1の公転角速度Ω
sを、上述した回転検出部81により測定する。この標準試料に対する公転角速度Ω
sの測定を、複数の異なる粘性を有する標準試料に対して行う。標準試料は、予め粘性の判っている試料である。
【0060】
次に、
図6は、複数の異なる粘性を有する標準試料におけるトルクに関係した量と、導体球1の公転角速度Ω
sとの対応を示すグラフである。
ここで、トルクに関係した量とは、「nΩ
M+(1−R/r)・Ω
s」である。回転磁場の角周波数nΩ
Mと、導体球1の公転角速度Ω
sに対して(1−R/r)を乗算した結果を加算して求めている。ここで、Rは、導体球1の公転の円軌道の半径、すなわち円形状の周回経路23の半径である。また、rは導体球1の半径である。ここで、
図2(b)に示すように、周回経路23の内径の側壁と外径の側壁との間における中央の位置Qと、周回経路23の中心Pとの距離を半径Rとする。ここでnはすでに述べたとおり磁石のS極およびN極のそれぞれの個数であり、
図6の測定に際してはn=1である。
【0061】
図6に示すグラフにおいて、使用した標準試料の粘性は、それぞれ異なる。例えば、系列1の試料が1mPa・sであり、系列2の試料が2mPa・sであり、系列3の試料が5mPa・sである。そして、n=1ゆえ、この
図6から粘性の異なる標準試料毎のトルクに関係した量「Ω
M+(1−R/r)・Ω
s」と、導体球1の公転角速度Ω
sとの関係、すなわち傾き「(Ω
M+(1−R/r)・Ω
s)/Ω
s」の対応を示す直線を最小二乗法などにより求める。この傾きは、粘性と比例する。
【0062】
次に、
図7は、粘性の異なる標準試料毎に、粘性(mPa・s)と、傾き「(Ω
M+(1−R/r)・Ω
s)/Ω
s」との対応関係を示すグラフである。
図1に示す標準データ記憶部84には、粘性と、傾き「(Ω
M+(1−R/r)・Ω
s)/Ω
s」との対応を示す粘性検出テーブルが記憶されている。この他、粘性検出テーブルに代えて、粘性と、傾き「(Ω
M+(1−R/r)・Ω
s)/Ω
s」との対応を示す実験式が記憶されていても良い。
【0063】
粘性検出部82は、回転磁場制御部83に対して、異なる複数の角周波数Ω
Mでモーター4を回転させる制御を行う。粘性検出部82は、回転数を変更する毎に制御信号を回転検出部81へ出力する。
回転検出部81は、粘性検出部82から制御信号が供給される毎に、角周波数Ω
Mにおいて試料容器2に入れた試料100内に沈んでいる導体球1の周回経路23における公転角速度Ω
sを回転検出センサ5から入力する。
そして、回転検出部81は、検出した公転角速度Ω
sを、制御信号に対応して粘性検出部82へ出力する。
【0064】
粘性検出部82は、上述した標準試料の場合と同様に、試料100に対して、導体球1の公転角速度Ω
sと「Ω
M+(1−R/r)・Ω
s」との傾きとして、傾き「(Ω
M+(1−R/r)・Ω
s)/Ω
s」を算出する。
そして、粘性検出部82は、標準データ記憶部84に予め書き込まれて記憶されている粘性検出テーブルから、試料100の「(Ω
M+(1−R/r)・Ω
s)/Ω
s」に対応する粘性η(mPa・s)を読み出し、これを試料100の粘性ηとして出力する。
また、標準データ記憶部84に実験式が予め記憶されている場合、粘性検出部82は、標準データ記憶部84から実験式を読み出し、この実験式に対して傾き「(Ω
M+(1−R/r)・Ω
s)/Ω
s」を代入し、粘性を算出して求める。
【0065】
次に、導体球1に対して回転トルクを与え、導体球1を周回経路23に沿って転がして周回運動をさせる方法について、
図8を用いて説明する。
図8は、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の4個の磁石が回転することで生成する回転磁場により、導体球1に対して回転トルクを与える方法を説明する概念図である。
【0066】
第1磁石31のN極と、第2磁石32のS極と、第3磁石33のS極と、第4磁石34のN極とが、
図5に示すように、周回経路23に対して磁石固定台7に配置されている場合、ある基準面に対して垂直な磁場が発生する。ここでは、試料容器2に入れた回転子の中心を通り、試料100の上面、試料100が液体の場合、液面に平行な面を基準面とする。この基準面を、x軸及びy軸からなる基準2次元平面(試料100の液面)とし、試料100中において周回経路23を周回運動する導体球1の回転軸をz軸とする。
【0067】
図8においては、
図5に示す周回経路23の中心、すなわち導体球1の回転中心から、周回経路23の外側方向に対して、周回経路23上の磁石の発生する磁場を示してある。ここで、偏角θは、周回経路23上における1点を取り、この1点とz軸を回転軸として、x軸及びy軸からなる2次元座標系におけるx軸から、反時計回り方向への導体球1の回転角度を示している。したがって、偏角θは、0から増加して2π[ラジアン]となり、この2πで周回経路23を一周する。
【0068】
すなわち、
図5における周回経路23に沿って、導体球1が反時計回り方向へ周回した場合、第1磁石31、第2磁石32、第4磁石34、第3磁石33の順に通過する。このとき、偏角θが0からπ/2までが第1磁石31の配置領域となる。偏角θがπ/2からπまでが第2磁石32の配置領域となる。偏角θがπから3π/2までが第4磁石34の配置領域となる。偏角θが3π/2から2πまでが第3磁石33の配置領域となる。
【0069】
この
図8において、z軸は、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々の表面からなる平面(x軸及びy軸からなる2次元平面)の鉛直方向に平行な座標軸である。
図8における白抜きの矢印Wは、基準面における磁場の大きさと方向とからなる磁場ベクトルを表している。
ここで、モーター4により磁石固定台7を時計回り方向(
図5における矢印A方向)に回転させると、第1磁石31、第2磁石32、第4磁石34及び第3磁石33の各々も、時計回り方向に回転する。
図8においては、第1磁石31、第2磁石32、第4磁石34及び第3磁石33の各々は、θが0から2πに向かって、すなわち図の右方向に向かって移動する。
【0070】
このとき、周回経路23における任意の点における磁場、すなわち、導体球1に印加される磁場は、反時計回りの方向を回転方向とする回転磁場となる。
この結果、導体球1には、回転磁場による磁場の変動により、表面に誘導電流が誘起される。このため、導体球1には、表面に発生した誘導電流と、回転磁場とのローレンツ相互作用により、トルクが発生する。このローレンツ相互作用によるトルクが回転磁場と同一方向に対して発生するため、導体球1は、回転磁場の回転方向に追随して反時計回りに回転する。すなわち、導体球1は、第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の各々の回転方向である時計回りと逆方向に、周回経路23を周回する。
【0071】
このローレンツ相互作用によるトルクの大きさTは、以下の(3)式により表すことができる。
T=(2π/15)・n・σ・r
5・B
2・Ω
M …(3)
この(3)式において、導体球1の半径をrとし、回転磁場の大きさ(磁束密度)をBとし、回転磁場の回転の角周波数をn・Ω
Mとし、導体球1を構成する材料の電気伝導率をσとする。
【0072】
上述したように、
図5において、第1磁石31、第2磁石32、第4磁石34及び第3磁石33の各々が時計回り(矢印A方向)に回転する場合、導体球1には、周回経路23に沿って反時計回りに回転するトルクが印加される。
このとき、導体球1は、周回経路23を周回する際、この周回経路23の底部において試料容器2と接触している。このため、導体球1は、上記トルクにより反時計回りに回転(自転)しながら周回経路23を周回する。
試料容器2には、容器の中央を中心とした円軌道である周回経路23が溝として形成されている。このため、磁石固定台7の回転中心を中心として導体球1が周回する際、印加されるトルクによって周回経路23を転がりながら移動する円運動を行う。
【0073】
ここで、導体球1が周回経路23を周回している際、この導体球1に印加されるトルクを考える。例えば、導体球1が固定されている場合、回転磁場の回転の角速度Ω
Mに比例して、上記(3)式に示すトルクが導体球1に対して印加される。
そして、導体球1は、回転磁場によって印加されるトルクにより、周回経路23に沿って周回する公転運動を開始し、印加されるトルクに対して定常状態に達する。この定常状態における導体球1の周回における回転運動の角速度をΩ
sとする。このとき、導体球1の中心部において感じる回転磁場の回転角速度は、nΩ
M+Ω
sとなる。すなわち、
図4(a)、あるいは
図8に示す通りN極、S極の数がそれぞれ2であり、よってn=2である場合には、導体球1の中心部において感じる回転磁場の回転角速度は、2Ω
M+Ω
sである。また
図4(b)に示されるようにN極、S極の数がそれぞれ1であり、よってn=1である場合には、導体球1の中心部において感じる回転磁場の回転角速度は、Ω
M+Ω
sである。
【0074】
一方、導体球1は、周回経路23に沿って周回する際、回転磁場の回転によって自転しているとみなすことができる。
この自転の角速度である自転角速度Ω
Rは、導体球1の半径をrとし、公転の円軌道(周回経路23)の半径をRとすると、以下の(4)式として表せる。
Ω
R=(R/r)・Ω
s …(4)
【0075】
また、導体球1が印加されるトルクに対して定常状態となった場合、この導体球1に印加されるトルクに比例する角速度Ω
stは、以下の(5)式により表すことができる。
Ω
st=nΩ
M+Ω
s−(R/r)・Ω
s=nΩ
M+(1−(R/r))・Ω
s …(5)
【0076】
次に、導体球1の周回運動における角速度から粘性を求める方法について説明する。
導体球1が粘性流体である試料100中に存在する場合、この試料100中における移動速度は、一定値で印加されるトルクにおいて、試料100の粘性に反比例する。
すなわち、定常状態における導体球1の角速度Ω
stと粘性との関係は、以下の(6)式により表せる。
Ω
st=nΩ
M+(1−(R/r))・Ω
s=A・η・Ω
s …(6)
この(6)式においては、粘性をηとし、定数をAとしている。
したがって、標準データ記憶部84に記憶されている粘性検出テーブルにおいては、「(nΩ
M+(1−(R/r))・Ω
s)/Ω
s」と粘性η(mPa・s)との対応を求めることができる。
【0077】
すでに述べたように、回転磁場は、基準2次元平面に対して垂直な面内にあり、z軸に依存しないと仮定している。しかし、z軸に依存しても以下の説明に支障はない。また、基準2次元平面に対して垂直な面内で回転する磁場の成分があれば、他に基準2次元平面に対して垂直でない磁場の成分が存在しても、導体球1に対して回転トルクを与えることに支障とならない。
【0078】
また、
図9は、電磁石を示す図である。
図9に示す電磁石は、ヨーク10と、このヨーク10から突出したティース10a、10b、10c、10dとが基準2次元平面上に配置されて構成されている。ティース10aと10cとには各々異なる巻方向に巻線CL1が巻かれている。同様に、ティース10bと10dとには各々異なる巻方向に巻線CL2が巻かれている。
図1におけるモーター4で磁石固定台7を回転させ、永久磁石である第1磁石31、第2磁石32、第3磁石33及び第4磁石34の放射する磁場から回転磁場を生成する替わりに、上述した
図9の電磁石の構成を用いて回転磁場を生成しても良い。
【0079】
すなわち、巻線CL1及び巻線CL2に電流を流し、基準2次元平面に対して垂直な磁場を生成させる。そして、巻線CL1及び巻線CL2に流す電流の向きを周期的に変化させ、基準2次元平面に対して垂直な磁場を回転させて回転磁場を形成しても良い。すなわち、円周上に配列された各電磁石が隣接する他の電磁石と異なる極性となるように、それぞれの電磁石を駆動する。この電磁石を駆動させる際、時間毎に各電磁石の極性を変化させることで、回転磁場を生成するように構成しても良い。
この場合、回転磁場制御部83が
図9の電磁石における巻線CL1及びCL2に対して電流を流し、この流す電流の向きを周期的に変えて、回転磁場を生成させる処理を行う。
この回転磁場により、すでに磁石を用いた場合と同様に、導体球1を周回経路23に沿って周回する円運動を、試料100内で行わせて、試料100の粘性を求める。
【0080】
また、導体球1の回転数(回転角速度)の観察は、すでに述べたように、光学センサあるいはCCD等の撮像素子を用い、周回経路23における導体球1の周回を検出することで行っている。
しかし、導体球1の上面に対して、レーザを照射して回転による反射及び干渉パターンの変化を光学的に測定する構成としても良い。
また、導体球1の一部を誘電体で置き換え、電極間に導体球1が挟まれる電極を、
図1などの磁石固定台7の回転の邪魔にならない位置に配置し、コンデンサを構成しても良い。そして、回転検出部81は、マークとしての誘電体が電極間を通過する際、電極で構成したコンデンサの容量変化を検出し、所定の期間(たとえば、1秒)におけるこの容量変化の回数を検出し、導体球1の周回における回転数を検出し、回転角速度を求めるように構成しても良い。上述したように、回転検出部81は、電気測定による回転角速度を求めるようにしても良い。
【0081】
また、回転磁場制御部83は、導体球1に対し、印加する回転磁場の回転周期、および回転方向を任意に変化させるようにしても良い。
例えば、回転磁場の回転方向と、回転速度とを周期的に掃引することにより、導体球1に対して、周期的に変化する回転トルクを与えることができる。
【0082】
次に、
図1に示す粘性測定装置(力学物性測定装置)における具体的な応用例について説明する。
本実施形態における粘性測定装置により、この予め粘性の判っている標準試料としては、1mPa・s、2mPa・s、5mPa・sの3種類の標準粘度液を用いた。
そして、回転磁場の角速度Ω
Mを変化させつつ、導体球1の公転における角速度Ω
sを測定した結果を
図6に示す。この測定においては、磁石のN極およびS極の数はそれぞれ1であって、すなわち
図4(b)の構成であり、n=1である。この
図6は、すでに述べたように、トルクに比例する量「Ω
M+(1−(R/r))・Ω
s」を縦軸、導体球1の回転速度に比例する量「角速度Ω
s」を横軸として、標準試料の測定した結果をプロットしたグラフである。また、すでに説明したように、この傾き「(Ω
M+(1−(R/r))・Ω
s)/Ω
s」は、粘性ηに比例する量である。
【0083】
この傾き「(Ω
M+(1−(R/r))・Ω
s)/Ω
s」と粘性ηとの比例関係において、ナビエストークス方程式における非線形項の影響により、レイノルズ数が大きくなるほど、すなわち、角速度Ω
sが大きくなるほど、直線からのずれが大きくなる。
したがって、レイノルズ数が大きい低粘性の試料においては、「(Ω
M+(1−(R/r))・Ω
s)/Ω
s」と粘性ηとの比例関係が、線形な関数の近似からずれる。
【0084】
このため、本実施形態では、
図6に示す「(Ω
M+(1−(R/r))・Ω
s)/Ω
s」と粘性ηとの関係において、x=Ω
sとし、y=Ω
M+(1−(R/r))・Ω
sとして得られたデータを、以下に示す(7)式により近似させた。
y=a・x+b・x
2 …(7)
この(7)式において、a及びbは、
図6に示すそれぞれの近似式である多項式における、xとx
2との係数である。
【0085】
そして、(7)式を微分し、以下の(8)式を求める。
y’=a+2b・x …(8)
この(8)式において、b=0、すなわち角速度Ω
s=0における係数aと、粘性とを対応させてプロットして、
図7に示すグラフを作成した。すなわち、多項式における1次の項の係数を多項式の傾きとして近似させている。
この
図7から、10mPa・s以下(図においては6mPa・s以下)の低粘性の領域においても、「(Ω
M+(1−(R/r))・Ω
s)/Ω
s」と粘性ηとの関係を示す関数が直線の線形関数となり、かつこの直線が原点を通り、十分な分解能を有する粘性の測定が実現されていることが解る。
【0086】
したがって、試料100の粘性を測定する場合にも、粘性検出部82は、回転磁場制御部83を介して角速度Ω
sを、標準試料を測定する際と同様に変化させ、
図6のように「(Ω
M+(1−(R/r))・Ω
s」と「Ω
s」とを予め決められた角速度Ω
s毎に測定する。
【0087】
次に、粘性検出部82は、この角速度Ω
s毎に測定した「(Ω
M+(1−(R/r))・Ω
s」と「Ω」とに対応する多項式を求める。
そして、粘性検出部82は、求めた多項式の一次の項の係数aを求める。この係数aに対応する粘性ηを、標準データ記憶部83に記憶されている粘性検出テーブルから読み出し、試料100の粘性ηの測定値として出力する。
【0088】
また、
図1における粘性測定部8の機能を実現するためのプログラムをコンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより粘性測定の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含む。
【0089】
また、「コンピュータシステム」は、WWW(World Wide Web)システムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含む。
また、「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持する記憶媒体を含む。また、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持している記憶媒体も含む。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのプログラムであっても良い。また、上記プログラムは、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるプログラムであっても良い。
【0090】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。