特許第6210143号(P6210143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6210143リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
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  • 特許6210143-リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6210143
(24)【登録日】2017年9月22日
(45)【発行日】2017年10月11日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20171002BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20171002BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20171002BHJP
   H01M 4/136 20100101ALN20171002BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALN20171002BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   C01B25/45 Z
   !H01M4/136
   !H01M10/0525
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-192876(P2016-192876)
(22)【出願日】2016年9月30日
【審査請求日】2016年11月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】小山 将隆
(72)【発明者】
【氏名】北川 高郎
【審査官】 式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−069566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
C01B 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiPO(0≦x≦1.1、0.8≦y≦1.1、0≦z≦0.2、但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)で表わされる中心粒子と、前記中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、
ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を5点測定したときの平均値が0.82以上かつ0.98以下、前記R値を5点測定したときの標準偏差が0.004以上かつ0.009以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を5点測定した際ときの平均値が0.83以上かつ0.97以下であり、前記R値を5点測定した際の標準偏差が0.004以上かつ0.009以下、
平均一次粒子径が50nm以上かつ300nm以下、
前記炭素質被膜を形成する炭素量は、前記中心粒子100質量部に対して0.6質量部以上かつ3質量部以下、
天然黒鉛を負極に用いたリチウムイオン二次電池の正極に用いられ、
前記リチウムイオン二次電池を、25℃環境下で、電流値0.1Cにて電池電圧が3.7Vになるまで定電流充電した後、電流値5Cにて電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電した際の放電容量を放電深度100%とし、
前記定電流充電の後に電流値0.1Cにて前記放電深度90%まで定電流放電した際の電池電圧をD1、前記定電流充電の後に電流値5Cにて前記放電深度90%まで定電流放電した際の電池電圧をD2としたとき、(D1−D2)が0.45V以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記中心粒子がLiFe1−zPO(0≦x≦1.1、0≦z≦0.2、但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)で表されること特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記正極合剤層は、請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化、軽量化、高容量化が期待される電池として、リチウムイオン二次電池等の非水電解液系の二次電池が提案され、実用に供されている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する正極および負極と、非水系の電解質とから構成されている。
リチウムイオン二次電池の負極材料の負極活物質としては、一般に炭素系材料またはリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するLi含有金属酸化物が用いられる。そのようなLi含有金属酸化物としては、例えば、チタン酸リチウム(LiTi12)が挙げられる。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池の正極としては、正極材料およびバインダー等を含む正極材料合剤が用いられている。正極活物質としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するLi含有金属酸化物が用いられる。そして、この正極材料合剤を電極集電体と称される金属箔の表面に塗布することにより、リチウムイオン二次電池の正極が形成される。
【0004】
リチウムイオン二次電池の電解液には非水系溶媒が用いられる。非水系溶媒は、高電位で酸化還元する正極活物質や、低電位で酸化還元する負極活物質を適用することができる。これにより、高電圧を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池は、鉛電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等の従来の二次電池と比べて、軽量かつ小型であるとともに、高エネルギーを有している。そのため、リチウムイオン二次電池は、携帯用電話機およびノート型パーソナルコンピューター等の携帯用電子機器に用いられる小型電源のみならず、定置式の非常用大型電源としても用いられている。
【0006】
近年、リチウムイオン二次電池の性能向上が求められ、種々検討されている。例えば、リチウムイオン二次電池を高電流密度領域で使用する場合、性能向上のためには、さらなる電子伝導性の向上が求められる。このような物性要求に対しては、正極活物質の表面に炭素質の材料で被覆(以下、「炭素質被膜」と言うことがある。)する技術が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。正極活物質の表面を炭素質被膜で被覆する方法としては、正極活物質と炭素源とを混合し、その混合物を不活性雰囲気下または還元性雰囲気下で焼成する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−004371号公報
【特許文献2】特開2011−049161号公報
【特許文献3】特開2012−104290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン二次電池を高電流密度領域で利用する場合において、リチウムイオン二次電池の正極内部で、正極面内方向および深さ方向に対してリチウムイオン挿入脱離に関する反応ムラが生じることにより、充放電末期に必要な電流値を得ることが難しくなり、過電圧が増大してしまうという入出力特性に関する課題があった。また、正極活物質の表面を炭素質被膜で被覆したポリアニオン系正極材料(例えば、リン酸鉄リチウムやリン酸マンガンリチウム)を正極材料に採用したリチウムイオン二次電池においても同様の課題があった。
【0009】
また、従来、上述のリチウムイオン二次電池の正極内部での反応ムラを簡便に調べる手法がなく、効率的に正極内部での反応ムラを低減していくことが難しかった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、リチウムイオン二次電池の正極内部での反応ムラを低減し、入出力特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極材料、そのリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するリチウムイオン二次電池用電極、および、そのリチウムイオン二次電池用正極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、LiPO(0≦x≦1.1、0.8≦y≦1.1、0≦z≦0.2、但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)で表わされる中心粒子と、前記中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を5点測定したときの平均値が0.82以上かつ0.98以下、前記R値を5点測定したときの標準偏差が0.004以上かつ0.009以下であるリチウムイオン二次電池用正極材料をリチウムイオン二次電池の正極に用いることで、リチウムイオン二次の正極内部での反応ムラを低減し、入出力特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、LiPO(0≦x≦1.1、0.8≦y≦1.1、0≦z≦0.2、但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)で表わされる中心粒子と、前記中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を5点測定したときの平均値が0.82以上かつ0.98以下、前記R値を5点測定したときの標準偏差が0.004以上かつ0.009以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオン二次電池用正極であって、前記正極合剤層は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、リチウムイオン二次電池の正極として用いたときに、入出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極材料を得ることができる。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極によれば、本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有しているため、正極内部での反応ムラが低減され、遷移金属の溶出を大幅に抑制し、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、長期のサイクルの安定性および安全性に優れる。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池によれば、正極として、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、正極内部での反応ムラが低減され、電解液の酸化分解およびガスの発生が抑制され、長期のサイクルの安定性および安全性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1、3および比較例1、3における充放電試験時の電流値5C放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0020】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、LiPO(0≦x≦1.1、0.8≦y≦1.1、0≦z≦0.2、但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)で表わされる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を5点測定したときの平均値が0.80以上かつ1.10以下、前記R値を5点測定したときの標準偏差が0.010以下である。
【0021】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を5点測定したときの平均値が0.80以上かつ1.10以下、前記R値を5点測定したときの標準偏差が0.010以下であるので、中心粒子の表面に被覆されている炭素質被膜の炭化度が均一であり、これにより、正極材料の電子伝導性が均一となり、リチウムイオン二次電池の正極に用いたときに、正極内部での反応ムラを低減することができる。
【0022】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を5点測定した際ときの平均値が0.83以上かつ0.97以下であり、前記R値を5点測定した際の標準偏差が0.010以下、平均一次粒子径が50nm以上かつ300nm以下、炭素質被膜を形成する炭素量は、中心粒子100質量部に対して0.6質量部以上かつ3質量部以下、天然黒鉛を負極に用いたリチウムイオン二次電池の正極に用いられ、リチウムイオン二次電池を、25℃環境下で、電流値0.1Cにて電池電圧が3.7Vになるまで定電流充電した後、電流値5Cにて電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電した際の放電容量を放電深度100%とし、定電流充電の後に電流値0.1Cにて放電深度90%まで定電流放電した際の電池電圧をD1、定電流充電の後に電流値5Cにて放電深度90%まで定電流放電した際の電池電圧をD2としたとき、(D1−D2)が0.45V以下であることが好ましく、0.3V以下であることがより好ましい。
【0023】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、天然黒鉛を負極に用いたリチウムイオン二次電池の正極に用いられ、その正極および負極を備えたリチウムイオン二次電池において、電池内部での反応ムラの程度を反映する(D1−D2)が0.45V以下であると、リチウムイオン二次電池の正極内部での反応ムラを充分に小さく抑えることができ、反応を均一に進行させることが可能となり、入出力特性に優れ、充放電末期に電圧降下が小さいリチウムイオン二次電池を得ることができる。なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池全体の抵抗に対する正極起因の抵抗の割合を勘案すると、(D1−D2)が0.15Vまで低い値となっていれば、正極内の反応ムラを最大限に低減できていると考えられる。
【0024】
「正極材料粒子」
正極材料粒子(リチウムイオン二次電池用正極材料の粒子)は、LiPO(0≦x≦1.1、0.8≦y≦1.1、0≦z≦0.2、但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)で表わされる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む。
【0025】
正極材料粒子の平均一次粒子径は、10nm以上かつ700nm以下であることが好ましく、20nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
正極材料粒子の平均一次粒子径が10nm以上であると、正極材料粒子の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量の増加を抑制し、リチウムイオン二次電池の充放電容量が低減することを抑制できる。一方、正極材料粒子の平均一次粒子径が700μm以下であると、正極材料粒子内でのリチウムイオンの移動または電子の移動にかかる時間が長くなることを抑制できる。これにより、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が増加して出力特性が悪化することを抑制できる。
【0026】
ここで、平均一次粒子径とは、体積平均一次粒子径のことである。中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)で観察した一次粒子を任意に複数個選択し、その一次粒子の平均一次粒子径を算出してもよい。
【0027】
正極材料粒子に含まれる炭素量は、0.1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上かつ3質量%以下であることがより好ましい。
炭素量が0.1質量%以上であると、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、炭素量が10質量%以下であると、正極材料粒子の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下することを抑制できる。
【0028】
正極材料粒子を構成する中心粒子の一次粒子の比表面積に対する炭素担持量(「[炭素担持量]/[中心粒子の一次粒子の比表面積]」;以下「炭素担持量割合」と言う。)は、0.01g/m以上かつ0.5g/m以下であることが好ましく、0.03g/m以上かつ0.3g/m以下であることがより好ましい。
炭素担持量割合が0.01g/m以上であると、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、炭素担持量割合が0.5g/m以下であると、正極材料粒子の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下することを抑制できる。
【0029】
正極材料粒子の比表面積は、5m/g以上であることが好ましく、7m/g以上であることがより好ましい。
比表面積が5m/g以上であると、正極材料粒子の粗大化を抑制して、その粒子内におけるリチウムの拡散速度を速くすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。
また、正極材料粒子の比表面積の上限値は、所望の効果が得られれば特に限定されず、50m/g以下であってもよく、20m/g以下であってもよい。
【0030】
(中心粒子)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子は、LiPO(0≦x≦1.1、0.8≦y≦1.1、0≦z≦0.2、但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)で表される正極活物質からなる。
なお、希土類元素とは、ランタン系列であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの15元素のことである。
【0031】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、5nm以上かつ800m以下であることが好ましく、20nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径が5nm以上であると、中心粒子の一次粒子の表面を炭素質被膜で充分に被覆することができる。そして、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量を高くし、充分な充放電性能を実現することができる。一方、中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径が800nm以下であると、中心粒子の一次粒子の内部抵抗を小さくすることができる。そして、リチウムイオン二次電池の高速充放電における放電容量を高くすることができる。
【0032】
中心粒子の一次粒子の形状は特に限定されないが、球状、特に真球状の二次粒子からなる正極活物質を生成し易いことから、中心粒子の一次粒子の形状は球状であることが好ましい。
中心粒子の一次粒子の形状が球状であることで、リチウムイオン二次電池用正極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶剤とを混合して、正極材料ペーストを調製する際の溶剤量を低減することができる。また、中心粒子の一次粒子の形状が球状であることで、正極材料ペーストの電極集電体への塗工が容易となる。さらに、中心粒子の一次粒子の形状が球状であれば、中心粒子の一次粒子の表面積が最小となり、正極材料ペーストにおけるバインダー樹脂(結着剤)の配合量を最小限にすることができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いた正極の内部抵抗を小さくすることができる。また、中心粒子の一次粒子の形状が球状であれば、正極材料を最密充填し易くなるため、正極の単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなる。その結果、正極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオン二次電池が得られる。
【0033】
(炭素質被膜)
炭素質被膜は、中心粒子の表面を被覆する。
中心粒子の表面を炭素質被膜で被覆することにより、リチウムイオン二次電池用正極材料の電子伝導性を向上させることができる。
【0034】
炭素質被膜の厚みは、0.2nm以上かつ10nm以下であることが好ましく、0.5nm以上かつ4nm以下であることがより好ましい。
炭素質被膜の厚みが0.2nm以上であると、炭素質被膜の厚みが薄すぎるために所望の抵抗値を有する膜を形成することができなくなることを抑制できる。そして、リチウムイオン二次電池用正極材料としての導電性を確保することができる。一方、炭素質被膜の厚みが10nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下することを抑制できる。
また、炭素質被膜の厚みが0.2nm以上かつ10nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料を最密充填し易くなるため、正極の単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなる。その結果、正極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオン二次電池が得られる。
中心粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上かつ95%以下であることが好ましく、80%以上かつ95%以下であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が十分に得られる。
【0035】
本実施形態における、中心粒子の表面に炭素質被膜を有したリチウムイオン二次電池用正極材料のラマンスペクトル分析において、1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を5点測定したときの平均値が0.8以上かつ1.10以下であり、0.83以上かつ1.03以下であることが好ましく、0.83以上かつ0.97以下であることがより好ましい。
【0036】
ここで、ラマン分光スペクトルで測定される1580cm−1を中心としたピークは、黒鉛の六角網面が規則正しく積層された状態を示すピークと、有機半導体由来のピークが重なっている。炭化度が進行するほど有機半導体由来のピーク強度が減少していくので、1580cm−1を中心としたピーク強度は炭化の進行に伴い減少する。一方、1360cm−1を中心としたピークは、黒鉛の六角網面の積層の崩れを示すとされている。
これにより、上記のR値の5点平均値が0.80以上であると、炭素質被膜が黒鉛の六角網面の積層の乱れを適度に有することで、炭素質被膜中をリチウムが容易に移動しやすい。一方、上記のR値の5点平均値が1.10以下であると、炭素質被膜中の炭化度が充分に進行することで、リチウムイオン二次電池用正極材料として必要な電子伝導性を担保することができる。
【0037】
上記のR値を5点測定したときの標準偏差は0.010以下である。リチウムイオン二次電池に、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いた場合、リチウムイオン二次電池用正極材料の炭化度のムラが小さいことにより、正極内部での反応ムラを低減でき、入出力特性に優れたリチウムイオン二次電池が得ることができる。
【0038】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、LiPO(0≦x≦1.1、0.8≦y≦1.1、0≦z≦0.2、但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)で表わされる中心粒子(正極活物質粒子)の表面を被覆する炭素質被膜の炭化度を均一とすることにより、このリチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極をリチウムイオン二次電池に適用した場合、正極内部での反応ムラを低減し、入出力特性に優れ、充放電末期の電圧降下が小さいリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0039】
[リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法(以下、単に正極材料の製造方法と言うことがある。)は、LiPO(0≦x≦1.1、0.8≦y≦1.1、0≦z≦0.2、但し、Aは、Fe、Mn、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種)で表わされる正極活物質からなる中心粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法であり、リチウム塩、Feを含む金属塩、Mnを含む金属塩、Mを含む化合物およびリン酸化合物のうち、少なくともリチウム塩、Feを含む金属塩およびリン酸化合物を分散媒中に分散させて分散液を調製し、耐圧容器内で分散液を加熱し、正極活物質の前駆体を得る工程(A)と、正極活物質の前駆体に、炭素質被膜源となる有機化合物を添加して混合物を調製する工程(B)と、混合物を焼成鞘に入れて焼成する工程(C)とを含む。混合物を調製する工程(B)は、正極活物質の前駆体より熱伝導率が高い熱伝導補助物質をさらに添加して混合物を調製する工程である。あるいは、混合物を焼成する工程(C)は、正極活物質の前駆体より熱伝導率が高い熱伝導補助物質を混合物に添加した後、混合物を焼成する工程である。
【0040】
(工程(A))
本実施形態の正極材料の製造方法における工程(A)では、リチウム塩、Feを含む金属塩、Mnを含む金属塩、Mを含む化合物およびリン酸化合物のうち、少なくともリチウム塩、Feを含む金属塩およびリン酸化合物を分散媒中に分散させて分散液を調製し、耐圧容器内で分散液を加熱し、正極活物質の前駆体を得る。
【0041】
以下に示すモル比で、リチウム塩、Feを含む金属塩、Mnを含む金属塩、Mを含む化合物およびリン酸化合物を配合する。なお、リチウム塩、Feを含む金属塩およびリン酸化合物は必須の原料であり、Mnを含む金属塩およびMを含む化合物は所望により添加する原料である。また、Mは、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種である。
Li元素に換算したリチウム塩、Fe元素に換算したFeを含む金属塩、Mn元素に換算したMnを含む金属塩、M元素に換算したMを含む化合物およびリン元素に換算したリン酸化合物のモル比(Li:Fe:Mn:M:P)は、好ましくは1以上かつ4以下:0以上かつ1.5以下:0以上かつ1.5以下:0以上かつ0.2以下:1であり、より好ましくは2.5以上かつ3.5以下:0以上かつ1.1以下:0以上かつ1.1以下:0以上かつ0.1以下:1である。
【0042】
例えば、リチウム塩、Feを含む金属塩、Mnを含む金属塩、Mを含む化合物およびリン酸化合物を、水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌および混合して分散液を調製する。
これらの原料を均一に混合する点を考慮すると、それぞれの原料の水溶液を調製し、それらの水溶液を混合することによって分散液を調製することが好ましい。
高純度であり、結晶性が高くかつ非常に微細な中心粒子を得る必要があることから、この分散液における原料のモル濃度は、1.1mol/L以上かつ2.2mol/L以下であることが好ましい。
【0043】
分散液の調製に用いられるリチウム塩としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物;炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)およびリン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリチウム無機酸塩;酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩;並びに、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
なお、リン酸リチウム(LiPO)は、分散液の調製用のリン酸化合物としても用いることができる。
【0044】
分散液の調製に用いられるFeを含む金属塩としては、例えば、塩化鉄(II)(FeCl)、硫酸鉄(II)(FeSO)および酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))等の鉄化合物またはその水和物;硝酸鉄(III)(Fe(NO)、塩化鉄(III)(FeCl)、クエン酸鉄(III)(FeC)等の3価の鉄化合物;並びにリン酸鉄リチウムからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0045】
分散液の調製に用いられるMnを含む金属塩としては、Mn塩が好ましく、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl)、硫酸マンガン(II)(MnSO)、硝酸マンガ(II)(Mn(NO)、酢酸マンガン(II)(Mn(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0046】
分散液の調製に用いられるMを含む化合物としては、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の原料物質が好適に用いられる。
【0047】
Mgの原料物質としては、例えば、塩化マグネシウム(II)(MgCl)、硫酸マグネシウム(II)(MgSO)、硝酸マグネシウム(II)(Mg(NO)、酢酸マグネシウム(II)(Mg(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0048】
Caの原料物質としては、例えば、塩化カルシウム(II)(CaCl)、硫酸カルシウム(II)(CaSO)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0049】
Coの原料物質しては、Co塩が好ましく、例えば、塩化コバルト(II)(CoCl)、硫酸コバルト(II)(CoSO)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、酢酸コバルト(II)(Co(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0050】
Srの原料物質としては、例えば、炭酸ストロンチウム(SrCO)、硫酸ストロンチウム(SrSO)および水酸化ストロンチウム(Sr(OH))からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0051】
Baの原料物質としては、例えば、塩化バリウム(II)(BaCl)、硫酸バリウム(II)(BaSO)、硝酸バリウム(II)(Ba(NO)、酢酸バリウム(II)(Ba(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0052】
Tiの原料物質としては、例えば、塩化チタン(TiCl、TiCl、TiCl)、酸化チタン(TiO)、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0053】
Znの原料物質としては、Zn塩が好ましく、例えば、塩化亜鉛(II)(ZnCl)、硫酸亜鉛(II)(ZnSO)、硝酸亜鉛(II)(Zn(NO)、酢酸亜鉛(II)(Zn(CHCOO))、および、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0054】
Bの原料物質としては、例えば、ホウ素の塩化物、ホウ素の硫酸化物、ホウ素の硝酸化物、ホウ素の酢酸化物、ホウ素の水酸化物およびホウ素の酸化物等のホウ素化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0055】
Alの原料物質としては、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0056】
Gaの原料物質としては、例えば、塩化ガリウム、硫酸ガリウム、硝酸ガリウム、酢酸ガリウムおよび水酸化ガリウム等のガリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0057】
Inの原料物質としては、例えば、塩化インジウム、硫酸インジウム、硝酸インジウム、酢酸インジウムおよび水酸化インジウム等のインジウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0058】
Siの原料物質としては、例えば、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸カリウム等のケイ酸塩、四塩化珪素(SiCl)、並びに有機ケイ素化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0059】
Geの原料物質としては、例えば、塩化ゲルマニウム、硫酸ゲルマニウム、硝酸ゲルマニウム、酢酸ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウムおよび酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0060】
希土類元素の原料物質としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの塩化物、硫酸化物、硝酸化物、酢酸化物、水酸化物および酸化物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0061】
分散液の調製に用いられるリン酸化合物として、例えば、オルトリン酸(HPO)およびメタリン酸(HPO)等のリン酸;リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)およびリン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリン酸塩;並びに、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0062】
水を主成分とする溶媒とは、水単独、あるいは水を主成分とし必要に応じてアルコール等の水性溶媒を含む水系溶媒、のいずれかである。
水性溶媒としては、リチウム塩、Feを含む金属塩、Mnを含む金属塩、Mを含む金属塩、リン酸化合物を溶解させることのできる溶媒であればよく、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらの水性溶媒は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
上記の原料を溶媒に分散させる方法としては、上記の原料が溶媒に均一に分散する方法であれば、特に限定されない。
上記の原料を溶媒に分散させる装置としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカーおよびアトライタ等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置が好適に用いられる。
【0064】
次いで、調製した分散液を耐圧容器に入れ、所定の温度に加熱し、所定の時間反応させる(水熱反応)。
【0065】
この反応条件は、溶媒の種類または合成する物質に応じて適宜選択される。例えば、溶媒として水を用いる場合、加熱温度は、好ましくは80℃以上かつ374℃以下であり、より好ましくは100℃以上かつ350℃以下である。また、反応時間は、好ましくは30分以上かつ24時間以下であり、より好ましくは30分以上かつ5時間以下である。さらに、反応時の圧力は、好ましくは0.1MPa以上かつ22MPa以下であり、より好ましくは0.1MPa以上かつ17MPa以下である。
【0066】
その後、例えば、降温し得られた反応生成物を水洗することで、正極活物質の前駆体が得られる。
【0067】
(工程(B))
本実施形態の正極材料の製造方法における工程(B)では、上記の正極活物質の前駆体に、炭素質被膜源となる有機化合物を添加して混合物を調製する。
【0068】
正極活物質の前駆体に対する有機化合物の配合量は、この有機化合物の全質量を炭素元素に換算したとき、前駆体100質量部に対して、好ましくは0.15質量部以上15質量部以下であり、より好ましくは0.45質量部以上4.5質量部以下である。
前駆体に対する有機化合物の配合量が0.15質量部以上であると、この有機化合物を熱処理することにより生じる炭素質被膜の中心粒子の表面における被覆率を80%以上にすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量を高くすることができ、充分な充放電レート性能を実現できる。一方、前駆体に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、相対的に活物質の配合比が低下してリチウムイオン二次電池の容量が低くなることを抑制できる。また、前駆体に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、中心粒子に対する炭素質被膜の過剰な担持により、リチウムイオン二次電池用正極材料の嵩密度が高くなることを抑制できる。なお、リチウムイオン二次電池用正極材料の嵩密度が高くなると、電極密度が低下し、単位体積当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が低下する。
【0069】
混合物の調製に用いられる有機化合物として、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテルおよび多価アルコール等からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリンおよびグリセリン等が挙げられる。
【0070】
例えば、上記の正極活物質の前駆体と炭素質被膜源となる有機化合物とを溶媒に投入し、前駆体と有機化合物とを溶媒に分散させて、スラリーを調製してもよい。そして、そのスラリーを乾燥することによって、混合物を得てもよい。
【0071】
上記の溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド類;ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中で、好ましい溶媒は水である。
【0072】
上記のスラリーを調製するとき、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0073】
前駆体と有機化合物とを、溶媒に分散させる方法としては、前駆体が均一に分散し、かつ有機化合物が溶解または分散する方法であれば、特に限定されない。このような分散に使用する装置としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置が挙げられる。
【0074】
噴霧熱分解法を用いて、上記のスラリーを高温雰囲気中、例えば、110℃以上かつ200℃以下の大気中に噴霧し、乾燥して、混合物の造粒体を生成してもよい。
この噴霧熱分解法では、速やかに乾燥して略球状の造粒体を生成するためには、噴霧の際の液滴の粒子径は、0.01μm以上かつ100μm以下であることが好ましい。
【0075】
(工程(C))
本実施形態の正極材料の製造方法における工程(C)では、混合物を焼成鞘に入れて焼成する。
【0076】
焼成鞘としては、例えば、カーボン等の熱伝導性に優れる物質からなる焼成鞘が好適に用いられる。
焼成温度は、好ましくは630℃以上かつ790℃以下であり、より好ましくは680℃以上かつ770℃以下ある。
焼成温度が630℃以上であると、有機化合物の分解および反応が充分に進行し、有機化合物を充分に炭化させ、高抵抗の有機物分解物が生成することを抑制できる。一方、焼成温度が790℃以下であると、混合物の一部が炭素で還元されて純鉄、酸化鉄、リン化鉄等の低価数鉄系不純物が生成してしまうことを抑制できる。
【0077】
焼成時間は、有機化合物が充分に炭化する時間であればよく、特に限定されないが、例えば、0.01時間以上かつ20時間以下である。
【0078】
焼成雰囲気は、好ましくは窒素(N)およびアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気または水素(H)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気である。混合物の酸化をより抑えたい場合には、焼成雰囲気は還元性雰囲気であることがより好ましい。
【0079】
工程(C)の焼成により、混合物中の正極活物質の前駆体は、リチウムイオン二次電池用正極材料の中心粒子となる。一方、有機化合物は、焼成により分解および反応して、炭素が生成する。そして、この炭素はリチウムイオン二次電池用正極材料の中心粒子の表面に付着して炭素質被膜となる。これにより、リチウムイオン二次電池用正極材料の中心粒子の表面は炭素質被膜により覆われる。
【0080】
ここで、焼成時間が長くなるにしたがって、中心粒子からリチウムが炭素質被膜に拡散して、炭素質被膜内にリチウムが存在することとなり、炭素質被膜の導電性が一層向上する。
ただし、熱処理時間が長過ぎると、異常な粒成長が生じたり、リチウムが一部欠損した中心粒子が生成したりすることにより、リチウムイオン二次電池用正極材料の特性が悪くなる。そして、このリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池の特性が低下する。
【0081】
(熱伝導補助物質の添加)
本実施形態の正極材料の製造方法では、工程(B)で、正極活物質の前駆体より熱伝導率が高い熱伝導補助物質をさらに添加して混合物を調製するか、または、工程(C)で、正極活物質の前駆体より熱伝導率が高い熱伝導補助物質を混合物に添加した後、混合物を焼成する。すなわち、混合物を調製するとき、熱伝導補助物質を含んだ混合物を調製するか、または、熱伝導補助物質を含まない、もしくは熱伝導補助物質を含んだ混合物に熱伝導補助物質を添加した後、混合物を焼成する。これにより、焼成中の焼成鞘内の温度分布をより均一にすることができる。その結果、焼成鞘内の温度ムラによって有機化合物の炭化が不充分な部分が生じたり、中心粒子が炭素で還元される部分が生じたりすることを抑制できる。
【0082】
熱伝導補助物質は、上記の正極活物質の前駆体より熱伝導度が高い物質であれば特に限定されないが、正極活物質の前駆体および正極活物質と反応し難い物質であることが好ましい。これは熱伝導補助物質が正極活物質もしくはその前駆体と反応することで、焼成後に得られる正極活物質の電池活性を損なうことがあることや、熱伝導補助物質を焼成後に回収して、再利用することができなくなることがあるためである。
【0083】
熱伝導補助物質としては、例えば、炭素質材料、アルミナ質セラミックス、マグネシア質セラミックス、ジルコニア質セラミックス、シリカ質セラミックス、カルシア質セラミックスおよび窒化アルミニウム等が挙げられる。これらの熱伝導補助物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0084】
熱伝導補助物質は、好ましくは炭素質材料である。熱伝導補助物質として使用できる炭素質材料としては、例えば、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェン等が挙げられる。これらの熱伝導補助物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0085】
熱伝導補助物質の寸法は特に限定されないが、熱伝導効率の点で、焼成鞘内の温度分布を充分に均一にすることができ、かつ、熱伝導補助物質の添加量を減少させるために、熱伝導補助物質の長手方向の長さの平均は、好ましくは1mm以上かつ100mm以下であり、より好ましくは5mm以上かつ30mm以下である。また、篩を用いて、リチウムイオン二次電池用正極材料から熱伝導補助物質を分離することが容易になる。
また、熱伝導補助物質は、リチウムイオン二次電池用正極材料より比重が大きいものが、気流式分級機等を用いた分離が容易であるため好ましい。
【0086】
熱伝導補助物質の添加量は、上記の正極活物質の前駆体もしくは混合物を100体積%とした場合、好ましくは1体積%以上かつ50体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上かつ30体積%以下である。熱伝導補助物質の添加量が1体積%以上であると、焼成鞘内の温度分布を充分に均一にすることができる。一方、熱伝導補助物質の添加量が50体積%以下であると、焼成鞘内の熱伝導補助物質の割合が大きくなり過ぎて、焼成鞘内で焼成する正極活物質の前駆体および有機化合物の量が少なくなることを抑制できる。
【0087】
(熱伝導補助物質を分離する工程)
焼成の後、熱伝導補助物質とリチウムイオン二次電池用正極材料との混合物を篩等に通し、熱伝導補助物質とリチウムイオン二次電池用正極材料とを分離してもよい。しかし、熱伝導補助物質が混ざっているリチウムイオン二次電池用正極材料を用いても、リチウムイオン二次電池の特性が劣化しないのであれば、熱伝導補助物質を分離しなくてもよい。
【0088】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極(以下、単に「正極」と言うことがある。)は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む。より詳細には、本実施形態の正極は、金属箔からなる電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備え、正極合剤層が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有するものである。すなわち、本実施形態の正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものである。
本実施形態の正極は、主に、リチウムイオン二次電池用正極として用いられる。
【0089】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むため、遷移金属の溶出を大幅に抑制し、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、長期のサイクルの安定性および安全性に優れる。
【0090】
[リチウムイオン二次電池用正極の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態の正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、正極材料ペーストを調製する。この際、本実施形態における正極材料ペーストには、必要に応じて、カーボンブラック等の導電助剤を添加してもよい。
【0091】
「結着剤」
結着剤、すなわち、バインダー樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0092】
正極材料ペーストを調製するに当たり用いられる結着剤の配合量は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池用正極材料100質量部に対して、1質量部以上かつ30質量部以下であることが好ましく、3質量部以上かつ20質量部以下であることがより好ましい。
結着剤の配合量が1質量部以上であると、正極合剤層と電極集電体との間の結着性を充分に高くすることができる。これにより、正極合剤層の圧延形成時等において正極合剤層の割れや脱落が生じることを抑制することができる。また、リチウムイオン二次電池の充放電過程において、正極合剤層が電極集電体から剥離し、電池容量および充放電レートが低下することを抑制することができる。一方、結着剤の配合量が30質量部以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の内部抵抗が低下し、高速充放電レートにおける電池容量が低下することを抑制できる。
【0093】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF;Vapor Grown Carbon Fiber)およびカーボンナノチューブ等の繊維状炭素からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0094】
「溶媒」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極材料ペーストに用いられる溶媒は、結着剤の性質に応じて適宜選択される。溶媒を適宜選択することにより、正極材料ペーストを、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くすることができる。
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類;並びに、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0095】
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量%とした場合に、50質量%以上かつ70質量%以下であることが好ましく、55質量%以上かつ65質量%以下であることがより好ましい。
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率が上記の範囲内であると、正極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた正極材料ペーストを得ることができる。
【0096】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカーおよびホモジナイザー等の混錬機を用いた混合方法が挙げられる。
【0097】
正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、その後、この塗膜を乾燥し、上記の正極材料と結着剤との混合物からなる塗膜が一主面に形成された電極集電体を得る。
その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、電極集電体の一主面に正極合剤層を有する正極を作製する。
【0098】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備え、正極が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極である。具体的には、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極としての本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、セパレータと、非水電解質と、を備えてなる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、非水電解質およびセパレータは特に限定されない。
【0099】
「負極」
負極としては、例えば、金属Li、天然黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Li合金およびLiTi12、Si(Li4.4Si)等の負極材料を含むものが挙げられる。
【0100】
「非水電解質」
非水電解質としては、例えば、炭酸エチレン(エチレンカーボネート;EC)と、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート;EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、例えば、濃度1モル/dmとなるように溶解したものが挙げられる。
【0101】
「セパレータ」
セパレータとして、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0102】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極として、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、電解液の酸化分解およびガスの発生が抑制され、長期のサイクルの安定性および安全性に優れている。
【実施例】
【0103】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0104】
[実施例1]
「リチウムイオン二次電池用正極材料の合成」
1000molのリン酸リチウム(LiPO)と、1000molの硫酸鉄(II)(FeSO)とに水を加え、全体量が1000Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量2000Lの耐圧密閉容器に収容し、160℃にて24時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質の前駆体を得た。
次いで、この正極活物質の前駆体5kg(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール0.8kgと、媒体粒子としての直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて3時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを180℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒子径が6μmの有機物で被覆された、正極活物質の前駆体の造粒体を得た。
得られた造粒体100体積%に対して30体積%となるように、長手方向の長さの平均が10mmである黒鉛焼結体を熱伝導補助物質として造粒体に添加し混合して、焼成用原料を得た。
この焼成用原料5kgを容積が10Lの黒鉛鞘に敷き詰め、780℃の非酸化性ガス雰囲気下にて5分間焼成した後、40℃にて30分間保持し、焼成物を得た。この焼成物を篩目開き75μmの篩に通し、黒鉛焼結体を取り除いて、実施例1の正極材料A1を得た。
【0105】
「リチウムイオン二次電池の作製」
溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、正極材料A1と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、正極材料A1:AB:PVdF=90:5:5となるように加えて、これらを混合し、正極材料ペースト(正極用)を調製した。
この正極材料ペースト(正極用)を、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した。正極と負極の容量比が1.2(負極/正極)となるように正極合剤層の厚さを調整した。
その後、正極合剤層を、正極密度が2.0g/mLとなるように、所定の圧力にて加圧した後、成形機を用いて正極面積9cmの正方形状に打ち抜き、実施例1の正極を作製した。
【0106】
次いで、溶媒である純水に、負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンラテックス(SBR)と、粘度調整材としてカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、ペーストの質量比で、天然黒鉛:SBR:CMC=98:1:1となるように加えて、これらを混合し、負極材料ペースト(負極用)を調製した。
調製した負極材料ペースト(負極用)を、厚さ10μmの銅箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、銅箔表面に負極合剤層を形成した。負極合剤層の目付量が4.4mg/cmとなるよう塗布厚を調整した。負極密度が1.42g/mLとなるように所定の圧力にて加圧した後、成形機を用いて負極面積9.6cmの正方形状に打ち抜き、実施例1の負極を作製した。
【0107】
作製した正極と負極とを、ポリプロピレンからなる厚さ25μmのセパレータを介して対向させ、電解液としての1MのLiPF溶液0.5mLに含浸させたのち、ラミネートフィルムにて封止して、実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。LiPF溶液としては、炭酸エチレンと、炭酸エチルメチルとを、体積比で1:1となるように混合したものを用いた。
【0108】
「実施例2」
得られた造粒体100体積%に対して10体積%となるように、長手方向の長さの平均が10mmである黒鉛焼結体を熱伝導補助物質として造粒体に添加したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極材料A2を得た。
正極材料A2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0109】
「実施例3」
得られた造粒体100体積%に対して5体積%となるように、長手方向の長さの平均が10mmである黒鉛焼結体を熱伝導補助物質として造粒体に添加したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極材料A3を得た。
正極材料A3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0110】
「実施例4」
焼成温度を820℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の正極材料A4を得た。
正極材料A4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0111】
「実施例5」
焼成温度を800℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の正極材料A5を得た。
正極材料A5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0112】
「実施例6」
焼成温度を760℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の正極材料A6を得た。
正極材料A6を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0113】
「実施例7」
焼成温度を740℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の正極材料A7を得た。
正極材料A7を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0114】
「実施例8」
焼成温度を720℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8の正極材料A8を得た。
正極材料A8を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0115】
「実施例9」
焼成温度を700℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9の正極材料A9を得た。
正極材料A9を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0116】
「実施例10」
焼成温度を680℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例10の正極材料A10を得た。
正極材料A10を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例10のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0117】
「比較例1」
得られた造粒体に対して黒鉛焼結体を添加していないこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極材料C1を得た。
正極材料C1を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0118】
「比較例2」
焼成温度が840℃であること以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極材料C2を得た。
正極材料C2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0119】
「比較例3」
焼成温度が660℃であること以外は実施例1と同様にして、比較例3の正極材料C3を得た。
正極材料C3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0120】
[リチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池の評価]
実施例1〜10および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池について、以下の通り、評価を行った。
【0121】
(1) 平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)で観察したリチウムイオン二次電池用正極材料の一次粒子を無作為に30個選択し、その30個の一次粒子の平均粒子径を平均一次粒子径とした。
【0122】
(2) 炭素量
リチウムイオン二次電池用正極材料の炭素量は、炭素硫黄分析装置(堀場製作所製、商品名:EMIA−220V)を用いて測定した。
【0123】
(3) ラマンスペクトル
無作為に選択されたリチウムイオン二次電池用正極材料の粉末をラマン分光測定用のプレパラートにスパチュラで耳かき一杯分置き、粉の集合の四隅と中心をそれぞれ測定点の視野として下記条件にて測定を行った。プレパラートに置く測定対象を、別の無作為に選択されたリチウムイオン二次電池用正極材料の粉末に置き換えて、同様の測定を計5回繰り返した。
<測定条件>
機器:NRS−3100
露光時間:50秒
積算回数:10回
中心波数:1300cm−1
スリット:0.01mm×6mm
対物レンズ倍率:100倍
減光器:光学濃度(OD)3
【0124】
(4)充放電試験
リチウムイオン二次電池を、25℃環境下で、電流値0.1Cにて電池電圧が3.7Vになるまで定電流充電した後、電流値5Cにて電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電した際の放電容量を放電深度100%としたとき、定電流充電の後に電流値0.1Cにて放電深度90%まで定電流放電した時の電池電圧をD1とし、定電流充電の後に電流値5Cにて放電深度90%まで定電流放電した時の電池電圧をD2とした時の(D1−D2)を正極内部の反応ムラを示すパラメータとして評価した。
【0125】
「評価結果」
実施例1〜10および比較例1〜3のリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池の評価結果を表1および表2に示す。
また、実施例1、3および比較例1、3における充放電試験時の電流値5C放電曲線を図1に示す。図1に示す曲線は、縦軸を電池電圧〔V〕、横軸を放電容量とした曲線である。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
表1および表2の結果から、実施例1〜10と、比較例1とを比較すると、R値(I1580/I1360)の5点標準偏差が0.010以下である実施例1〜10は、(D1−D2)が0.45V以下と小さく、正極内部の反応ムラの小さい良好な入出力特性を有することが確認された。
また、実施例1〜10と、比較例2および3とを比較すると、R値(I1580/I1360)の5点平均値が0.80以上かつ1.10以下である実施例1〜10は、(D1−D2)が0.45V以下と小さく、良好な入出力特性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、入出力特性に優れるので、移動体用途を初めとするリチウムイオン二次電池の信頼性の進歩に大きく貢献することができる。
【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池の正極内部での反応ムラを低減し、入出力特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極材料を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料は、LiPOで表わされる中心粒子と、前記中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含み、ラマンスペクトル分析の1580±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1580)の1360±50cm−1の波数帯域におけるスペクトルのピーク強度(I1360)に対する比であるR値(I1580/I1360)を5点測定したときの平均値が0.80以上かつ1.10以下、前記R値を5点測定したときの標準偏差が0.010以下である。
【選択図】なし
図1