【文献】
化学大辞典編集委員会,「化学大辞典 8 縮刷版」,日本,共立出版株式会社,1976年 9月10日,縮刷版第19刷,p.604
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記含フッ素ホウ酸エステルが、ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、ホウ酸トリス(トリフルオロエチル)及びホウ酸トリス(ペンタフルオロフェニル)からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のリチウムイオン電池。
前記リチウム遷移金属酸化物が、スピネル型リチウム・マンガン酸化物(sp−Mn)、層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)、及びリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LNMO)からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
前記リチウム遷移金属酸化物が、スピネル型リチウム・マンガン酸化物(sp−Mn)と、層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)と、を含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本明細書において組成物中の各成分の粒子径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本明細書において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本明細書において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
【0010】
本実施形態のリチウムイオン電池は、正極と、負極と、非水電解液と、を備えるリチウムイオン電池であって、前記正極は、集電体と前記集電体の少なくとも片面に塗布された正極合材とを有し、前記正極合材は、正極活物質としてリチウム遷移金属酸化物を含み、前記負極は、負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物を含み、前記非水電解液は含フッ素ホウ酸エステルを含有する。
【0011】
本実施形態のリチウムイオン電池は、正極活物質としてリチウム遷移金属酸化物を含み、負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物を含むことで、リチウムチタン複合酸化物がリチウムイオンを挿入脱離する負極電極電位が対リチウム電極で1.55Vとなる。このため、電解液の還元分解や金属Liの析出が発生しにくく安全性に優れる。また、挿入脱離に伴う構造変化が無いため寿命特性にも優れる。
さらに、非水電解液が含フッ素ホウ酸エステルを含有することにより、充放電サイクル特性と高温での保存特性に優れている。その理由は明らかではないが、以下のように推測される。電解質として含まれるリチウム塩(LiPF
6等)は、電解液に含まれる微量水分との反応、負極上での還元等により分解され、LiF、Li
2O等の無機物を生成する。これらの無機物はLTO負極の表面に生成し、抵抗の増大や容量の低下の原因となる場合がある。しかし、非水電解液中に含まれる含フッ素ホウ酸エステルがリチウム塩を安定化させ、上記の分解が抑制されるためと考えられる。
【0012】
<正極>
正極は、リチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質と、導電材とを含み、必要に応じて結着材及び溶剤を含む正極合材を集電体の表面に塗布し、必要に応じてプレス等によって正極合材の密度を高めることによって形成する。
【0013】
リチウム遷移金属酸化物としては、例えば、Li
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMnO
2、Li
xCo
yNi
1−yO
2、Li
xCo
yM
1−yO
z、Li
xNi
1−yM
yO
z、Li
xMn
2O
4及びLi
xMn
2−yM
yO
4(前記各式中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、x=0〜1.2、y=0〜0.9、z=2.0〜2.3である。)が挙げられる。ここで、リチウムのモル比を示すx値は、充放電により増減する。
【0014】
リチウム遷移金属酸化物は、安全性、エネルギー密度及び高容量化の観点から、マンガンを含むリチウム遷移金属酸化物であることが好ましい。
マンガンを含むリチウム遷移金属酸化物としては、安全性をより向上できる観点からは、スピネル型リチウム・マンガン酸化物(sp−Mn)が好ましい。また、高容量化の観点からは、層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)が好ましい。
安全性及び高容量化の両方の観点からは、スピネル型リチウム・マンガン酸化物(sp−Mn)と層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)を併用して用いることが好ましい。
高エネルギー密度化の観点からは、正極の電位を高くすることが可能であるリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LNMO)が好ましい。
【0015】
スピネル型リチウム・マンガン酸化物(sp−Mn)としては、以下の組成式(1)で表されるものが好ましい。
【0016】
Li
(1+η)Mn
(2−λ)M’
λO
4 …(1)
組成式(1)中、−0.2≦η≦0.2、0≦λ≦1である。
【0017】
組成式(1)において、(1+η)はLiの組成比、(2−λ)はMnの組成比、λは元素M’の組成比をそれぞれ示す。O(酸素)の組成比は4である。
元素M’は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Al、Ga、Zn(亜鉛)、Ti、Cr、Fe、Co及びCu(銅)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
【0018】
層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)としては、以下の組成式(2)で表されるものが好ましい。
【0019】
Li
(1+δ)Mn
xNi
yCo
(1−x−y−z)M
zO
2 …(2)
組成式(2)中、−0.15<δ<0.15、0.1<x≦0.5、0.6<x+y+z≦1.0、0≦z≦0.1である。
【0020】
組成式(2)において、(1+δ)はLi(リチウム)の組成比、xはMn(マンガン)の組成比、yはNi(ニッケル)の組成比、(1−x−y−z)はCo(コバルト)の組成比をそれぞれ示す。zは元素Mの組成比を示す。O(酸素)の組成比は2である。
元素Mは、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Al(アルミニウム)、Si(シリコン)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)及びSn(錫)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素である。例えば、LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2等が挙げられる。
【0021】
リチウムマンガンニッケル複合酸化物は、スピネル構造のリチウムマンガンニッケル複合酸化物であることが好ましい。スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物は、LiNi
XMn
2−XO
4(0.1<X<1.1)の組成式で表される化合物である。
【0022】
安定性の観点からは、LiNi
0.5Mn
1.5O
4がより好ましい。スピネル構造のLiNi
0.5Mn
1.5O
4の結晶構造をより安定させるために、スピネル構造リチウムマンガンニッケル複合酸化物のMn/Niサイトの一部を他の金属原子で置換したり、過剰のリチウムを結晶内に存在させたり、Oサイトに欠損を生じさせたものを用いることもできる。
【0023】
Mn/Niサイトを置換可能な他の金属原子としては、例えば、Ti、V、Cr、Fe、Co、Zn、Cu、W、Mg、Al及びRuを挙げることができる。これらの金属原子は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。これらの置換可能な金属元素のうち、結晶構造の安定化の観点からは、Tiが好ましい。
【0024】
上記のリチウムマンガンニッケル複合酸化物は、高エネルギー密度の観点から、充電状態における電位がLi/Li
+に対して、4.5V〜5Vで用いることが好ましく、4.6〜4.9V以下で用いることがより好ましい。
【0025】
層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)及びスピネル型リチウム・マンガン酸化物(sp−Mn)は、粒子状であることが好ましい。これらの正極活物質が粒子状である場合、粒子のBET比表面積の範囲は、例えば0.2m
2/g以上であってよく、好ましくは0.3m
2/g以上であり、より好ましくは0.4m
2/g以上である。また、例えば4.0m
2/g以下であってよく、好ましくは2.5m
2/g以下であり、より好ましくは1.5m
2/g以下である。
【0026】
リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LNMO)は、粒子状であることが好ましい。リチウムマンガンニッケル複合酸化物が粒子状である場合、粒子のBET比表面積は、高温での保存特性をより向上できる観点から、1m
2/g未満であることが好ましく、0.5m
2/g未満であることがより好ましく、0.3m
2/g未満であることが更に好ましい。入出力特性(以下、レート特性という場合もある)を向上できる観点からは、BET比表面積は、0.05m
2/g以上であることが好ましく、0.08m
2/g以上であることがより好ましく、0.1m
2/g以上であることが更に好ましい。
【0027】
BET比表面積は、例えば、JIS Z 8830に準じて窒素吸着能から測定することができる。評価装置としては、例えば、QUANTACHROME社製のAUTOSORB−1(商品名)等を用いることができる。BET比表面積の測定を行う際には、試料表面及び内部に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、加熱による水分除去の前処理を行うことが好ましい。前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却することが好ましい。この前処理を行った後、評価温度を77K(−196.15℃)とし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定することが好ましい。
【0028】
また、リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LNMO)が粒子状である場合のメジアン径D50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、二次粒子のメジアン径D50)は、正極合材への分散性の観点から、0.5μm〜100μmであることが好ましく、1μm〜50μmであることがより好ましい。なお、メジアン径D50は、レーザー回折・散乱法により求めた粒度分布から求めることができる。
【0029】
上記リチウム遷移金属酸化物を用いる場合の含有量は、電池容量を向上できる観点から、正極活物質の総量中、50質量%〜100質量%であることが好ましく、60質量%〜100質量%であることがより好ましく、80質量%〜100質量%であることが更に好ましい。
上記リチウム遷移金属酸化物の中でも、上記リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LNMO)を用いる場合の含有量は、電池容量を向上できる観点から、正極活物質の総量中、60質量%〜100質量%であることが好ましく、70質量%〜100質量%であることがより好ましく、85質量%〜100質量%であることが更に好ましい。
【0030】
導電材は、正極の電気導電性を向上できる観点から、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体のうち1種又は2種以上を用いることができる。また、導電材として、カーボンナノチューブ、グラフェン等を少量添加して、正極の電気導電性を高めることもできる。
【0031】
導電材は、レート特性をより向上できる観点からは、アセチレンブラックが好ましい。導電材の含有量は、レート特性の観点から、正極合材の全量を基準として、4質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、5.5質量%以上が更に好ましい。上限は、電池容量の観点から、10質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましく、8.5質量%以下が更に好ましい。
【0032】
結着材は、特に限定されず、分散溶媒に対する溶解性又は分散性が良好な材料が選択される。具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック−1、2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系高分子、ポリアクリロニトリル骨格にアクリル酸及び直鎖エーテル基を付加した共重合体、アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。これらの結着材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。正極の高密着性の観点からは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)又はポリアクリロニトリル骨格にアクリル酸及び直鎖エーテル基を付加した共重合体を用いることが好ましい。
【0033】
結着材の含有量について、正極合材の質量に対する結着材の含有量の範囲は次のとおりである。範囲の下限は、正極活物質を充分に結着して充分な正極の機械的強度が得られ、サイクル特性等の電池性能が安定する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが更に好ましい。上限は、電池容量及び導電性を向上できる観点から、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0034】
正極活物質、導電材、結着材等を分散させる溶剤は特に制限されず、N−メチル−2ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0035】
集電体の材質は特に制限されず、アルミニウム、チタン、ステンレス、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等が挙げられる。さらに、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的でアルミニウム、銅等の金属箔の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等でコーティング等の処理を施したものが使用できる。集電体の厚みは特に制限されず、電極強度とエネルギー密度の観点からは、1μm〜50μmであることが好ましい。
【0036】
正極合材の集電体への塗布量(片面)は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、10g/m
2〜250g/m
2であることが好ましく、50g/m
2〜200g/m
2であることがより好ましい。正極合材の密度は、エネルギー密度及びレート特性の観点から、1.8g/cm
3〜3.2g/cm
3が好ましく、2.0g/cm
3〜3.0g/cm
3がより好ましい。
【0037】
<負極>
負極は、リチウムチタン複合酸化物を含む負極活物質と、導電材とを含み、必要に応じて結着材及び溶剤を含む負極合材を、集電体の表面に塗布し、必要に応じてプレス等によって負極合材の密度を高めることによって形成する。
負極活物質は、リチウムチタン複合酸化物だけで負極活物質を構成することもできるが、リチウムイオン電池の特性改善等を目的として、炭素材料等のその他の負極活物質となる物質を含んでもよい。
【0038】
リチウムチタン複合酸化物(LTO)は、スピネル構造のリチウムチタン複合酸化物であることが好ましい。スピネル構造リチウムチタン複合酸化物の基本的な組成式は、Li[Li
1/3Ti
5/3]O
4で表される。結晶構造をより安定化させるために、スピネル構造リチウムチタン複合酸化物のLi又はTiサイトの一部を他の金属原子で置換したり、過剰のリチウムを結晶内に存在させたり、Oサイトの一部を他の元素で置換したりしたものを用いることもできる。置換可能な他の金属原子としては、F、B、Nb、V、Mn、Ni、Cu、Co、Zn、Sn、Pb、Al、Mo、Ba、Sr、Ta、Mg、Ca等を挙げることができる。これらの金属原子は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0039】
リチウムチタン複合酸化物の含有量は、安全性及びサイクル特性を向上できる観点から、負極活物質の総量中、70質量%〜100質量%であることが好ましく、80質量%〜100質量%であることがより好ましく、90質量%〜100質量%であることが更に好ましい。
【0040】
導電材としては、正極に用いる導電材と同様のものが挙げられ、好ましい導電材も同様である。レート特性をより向上できる観点からは、アセチレンブラックが好ましい。導電材の含有量は、レート特性の観点から、負極合材の全量を基準として、1質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることが更に好ましい。上限は、電池容量の観点から、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0041】
結着材としては、正極に用いる結着材と同様のものが挙げられる。負極合材の全量に対する結着材の含有量は、次のとおりである。範囲の下限は、負極活物質を充分に結着して充分な負極の機械的強度が得られ、サイクル特性等の電池性能が安定する観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。上限は、電池容量及び導電性を向上できる観点から、40質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましい。
【0042】
負極活物質、導電材、結着材等を分散させる溶剤は特に制限されず、N−メチル−2ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0043】
集電体の材質は特に制限されず、銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、アルミニウム−カドミウム合金等が挙げられる。さらに、接着性、導電性、耐還元性向上の目的で銅、アルミニウム等の金属箔の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀等でコーティング等の処理を施したものが使用できる。集電体の厚みは特に制限されず、電極強度とエネルギー密度の観点からは、1μm〜50μmであることが好ましい。
【0044】
負極合材の集電体への塗布量(片面)は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、10g/m
2〜200g/m
2であることが好ましく、50g/m
2〜150g/m
2であることがより好ましい。負極合材の密度は、エネルギー密度及びレート特性の観点から、1.0g/cm
3〜2.8g/cm
3であることが好ましく、1.2g/cm
3〜2.6g/cm
3であることがより好ましい。
【0045】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒に電解質が溶解したものである。本実施形態の非水電解液は、含フッ素ホウ酸エステルを含有する。含フッ素ホウ酸エステルは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
含フッ素ホウ酸エステルとしては、例えば、下記一般式(a)で表される化合物が好ましい。
【0048】
(式(a)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、炭素数が1〜10の炭化水素基を表し、R
1、R
2及びR
3のうち少なくとも1つはフッ素原子を含む。)
【0049】
電解液への溶解性の観点からは、式(a)中のR
1、R
2及びR
3で表される炭化水素基は、それぞれ独立に炭素数が1〜6であることが好ましく、炭素数1〜5であることがより好ましく、炭素数が1〜3であることが更に好ましい。
【0050】
コストの観点からは、式(a)中のR
1、R
2及びR
3で表される炭化水素基に含まれるフッ素原子の数は、それぞれ独立に0〜21であることが好ましく、0〜13であることがより好ましく、0〜11であることが更に好ましく、0〜7であることが更により好ましい。
【0051】
サイクル特性及び高温でのサイクル特性を向上させる観点からは、式(a)中のR
1、R
2及びR
3で表される炭化水素基のうち2つ以上がフッ素原子を含むことが好ましく、3つすべてがフッ素原子を含むことがより好ましい。
【0052】
式(a)中のR
1、R
2及びR
3で表される炭化水素基としては、直鎖状、環状又は分岐した構造を有するアルキル基、アリール基、アルキル基とアリール基とが結合した状態の炭化水素基等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、フェニル基、2−フェニルプロピル等が挙げられる。
【0053】
式(a)中のR
1、R
2及びR
3で表されるフッ素原子を含む炭化水素基の具体例としては、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、モノフルオロエチル基、ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、(2−メチル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基、2−フェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基、テトラフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0054】
式(a)中で表される化合物としては、例えば、ホウ酸トリス(トリフルオロエチル)、ホウ酸メチルビス(トリフルオロエチル)、ホウ酸トリス(テトラフルオロエチル)、ホウ酸トリス(モノフルオロエチル)、ホウ酸トリス(ペンタフルオロプロピル)、ホウ酸トリス(ヘキサフルオロプロピル)、ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、ホウ酸トリス(2−メチル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル)ホウ酸トリス(2−フェニル−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル)及びホウ酸トリス(ペンタフルオロフェニル)が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
サイクル特性及び高温でのサイクル特性を向上させる観点からは、式(a)中で表される化合物の中でも、ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、ホウ酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)等のホウ酸トリス(トリフルオロエチル)及びホウ酸トリス(ペンタフルオロフェニル)が好ましく、ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)がより好ましい。
【0056】
非水電解液中の含フッ素ホウ酸エステルの含有量は、非水電解液全量を基準にして、サイクル特性及び高温での保存特性の観点から、0.02質量%〜10質量%であることが好ましく、0.05質量%〜5質量%であることがより好ましく、0.05質量%〜4質量%であることが更に好ましく、0.1質量%〜3質量%であることが特に好ましい。
【0057】
非水電解液に含まれる電解質としては、リチウム塩が挙げられる。リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiFSI(リチウムビスフルオロスルホニルイミド)、LiTFSI(リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド)、LiClO
4、LiB(C
6H
5)
4、LiCH
3SO
3、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2F)
2、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2CF
2CF
3)
2等が挙げられる。これらのリチウム塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
上記のリチウム塩の中でも、溶媒に対する溶解性、リチウムイオン電池とした場合の充放電特性、入出力特性、サイクル特性等を総合的に判断すると、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)が好ましい。
【0059】
電解質の濃度は、非水溶媒に対して0.5mol/L〜1.5mol/Lであることが好ましく、0.7mol/L〜1.3mol/Lであることがより好ましく、0.8mol/L〜1.2mol/Lであることが更に好ましい。リチウム塩の濃度を0.5mol/L〜1.5mol/Lとすることで、充放電特性をより向上することができる。
【0060】
非水溶媒は特に制限されず、環状カーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、鎖状カーボネート(メチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等)、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、酢酸メチルなどが挙げられる。これらの非水溶媒は単独で用いても、2種類以上を併用してもよいが、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することが好ましい。
【0061】
非水溶媒が環状カーボネートを含む場合、環状カーボネートの含有量は、非水溶媒の全量に対して、10体積%〜70体積%であることが好ましく、15体積%〜60体積%であることがより好ましく、20体積%〜55体積%であることが更に好ましい。
【0062】
非水電解液は、高温での保存特性、サイクル特性、入出力特性等の向上のために、含フッ素ホウ酸エステル以外の添加剤を含んでもよい。添加剤の種類は特に制限されず、目的に応じて選択できる。例えば、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選択される少なくとも一方を含有する複素環化合物、環状カルボン酸エステル、フッ素含有環状カーボネート、及びその他の分子内に不飽和結合を有する化合物が挙げられる。
【0063】
非水電解液は、上記の添加剤以外に、求められる機能に応じて過充電防止材、負極皮膜形成材、正極保護材、高入出力材等の他の添加剤を用いてもよい。
【0064】
<セパレータ>
本実施形態のリチウムイオン電池は、正極、負極及び非水電解液に加えて、正極と負極の間に配置されるセパレータを有することが好ましい。
【0065】
セパレータは、正極及び負極間を電子的には絶縁しつつもイオン透過性を有し、かつ、正極側における酸化性及び負極側における還元性に対する耐性を備えるものであれば特に制限はない。このような特性を満たすセパレータの材料(材質)としては、樹脂、無機物、ガラス繊維等が用いられる。
【0066】
上記樹脂としては、オレフィンポリマー、フッ素ポリマー、セルロースポリマー、ポリイミド、ナイロン等が挙げられる。化学的に安定で、保液性に優れるという観点からは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート、不織布等が好ましい。
【0067】
無機物としては、酸化物(アルミナ、二酸化珪素等)、窒化物(窒化アルミニウム、窒化珪素等)、硫酸塩(硫酸バリウム、硫酸カルシウム等)などが挙げられる。例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状の基材に付着させたものをセパレータとして用いることができる。薄膜形状の基材としては、孔径が0.01μm〜1μm、厚さが5μm〜50μmのものが好適に用いられる。また、例えば、繊維形状又は粒子形状の上記無機物を、樹脂等の結着材を用いて複合多孔層としたものをセパレータとして用いることができる。更に、この複合多孔層を、正極又は負極の表面に形成し、セパレータとしてもよい。例えば、90%平均粒径(D90)が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着材として結着させた複合多孔層を、正極若しくは負極の表面又はセパレータの正極若しくは負極と対向する面に形成してもよい。
【0068】
<リチウムイオン二次電池の全体構造>
本実施形態のリチウムイオン電池の形状は特に制限されず、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状から選択できる。いずれの形状のリチウムイオン電池も、正極と負極とが積層(必要に応じて正極と負極との間にセパレータを配置する)した構造を有する電極体が非水電解液とともに電池ケースに密閉された構造を有している。なお、正極の集電体及び負極の集電体から外部に通ずる正極端子及び負極端子までの間は、集電用リード等を用いて接続されている。
【0069】
以下、実施形態の一例として、正極と負極とをセパレータを介して積層した電極体を有する積層型リチウムイオン電池について図面を参照して説明する。なお、
図1及び
図2に示された各部材の大きさ、形状等は任意に選択でき、
図1及び
図2に示される具体例に限定されるわけではない。また、本実施形態は図面に示す態様に制限されず、例えば、正極と負極とをセパレータを介して積層した電極体がロール状に巻回された状態の巻回形リチウムイオン電池等であってもよい。
【0070】
図1は、積層型のリチウムイオン電池の全体構造を概略的に示す斜視図である。リチウムイオン電池10は、ラミネートフィルム6から形成された電池容器内に電極体と非水電解液が収容され、正極に接続している正極集電タブ2と負極に接続している負極集電タブ4が電池容器の外部に延びた構造を有している。
【0071】
図2は、電極体の構造を概略的に示す斜視図である。電極体20は、正極集電タブ2を取り付けた正極1と、セパレータ5と、負極集電タブ4を取り付けた負極板3とがこの順に積層したものである。
【0072】
<負極と正極の容量比>
本実施形態において、負極と正極の容量比(負極容量/正極容量)は、安全性とエネルギー密度の観点から、0.7以上、1.5未満であることが好ましく、0.75〜1.2であることがより好ましく、0.90〜1.1であることが更に好ましい。
上記のリチウムマンガンニッケル複合酸化物を正極活物質として用いる場合には、正極と負極の容量比(負極容量/正極容量)が0.7以上1未満とすることが好ましい。正極と負極の容量比が0.7以上である場合は、電池容量が向上し、高エネルギー密度が得られる傾向にある。また、正極と負極の容量比が1未満である場合は、正極が高電位になることに起因する含フッ素ホウ酸エステルの分解反応が生じにくくなり、リチウムイオン電池のサイクル特性が良好となる傾向にある。
【0073】
上記の「正極容量」及び「負極容量」とは、それぞれ、対極を金属リチウムとする電気化学セルを構成して定電流定電圧充電−定電流放電を行ったときに得られる、可逆的に利用できる最大の容量を意味する。
例えば、正極活物質にはLNMOを、負極活物質にはLTOをそれぞれ用いた場合には、「正極容量」及び「負極容量」は、上記電気化学セルにおいて、電圧範囲をそれぞれ4.95V〜3.5V及び2V〜1Vとし、定電流充電及び定電流放電時の電流密度を0.1mA/cm
2とする条件で上記充放電を行って評価した場合に得られる容量とする。
正極活物質にsp−Mn及びNMCの混合物を、負極活物質にLTOをそれぞれ用いた場合には、「正極容量」及び「負極容量」は、上記電気化学セルにおいて、電圧範囲をそれぞれ3.0V〜4.3V及び2V〜1Vとし、定電流充電及び定電流放電時の電流密度を0.1mA/cm
2とする条件で上記充放電を行って評価した場合に得られる容量とする。
【0074】
以上、本発明のリチウムイオン電池の実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎず、当業者の知識に基づいて上記実施形態に対して種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づき本実施形態を更に詳細に説明する。尚、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0076】
<実施例1〜3、比較例1〜4>
(正極の作製)
正極活物質である層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)とスピネル型リチウム・マンガン酸化物(sp−Mn)とを質量比3/7(NMC/sp−Mn)で混合して得た正極活物質混合物を90質量部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)を5質量部、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量部混合し、適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加して混練することで、ペースト状の正極合材を調製した。この正極合材を、正極用の集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、195g/m
2の量で塗布した。その後、乾燥処理を施し、密度が2.55g/cm
3になるまでプレス処理により圧密化し、シート状の正極を作製した。作製した正極を幅31mm、長さ46mmの長方形に切断し、
図2に示すような位置に正極集電タブを取り付けた。
【0077】
(負極の作製)
負極活物質としてチタン酸リチウム(LTO)を91質量部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)を4質量部、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量部混合し、適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加して混練することで、ペースト状の負極合材を調製した。この負極合材を、負極用の集電体である厚さ10μmの銅箔の片面に、85g/m
2の量で塗布した。その後、乾燥処理を施し、密度が1.9g/cm
3になるまでプレス処理により圧密化し、シート状の負極を作製した。作製した負極を幅30mm、長さ45mmの長方形に切断し、
図2に示すような位置に負極集電タブを取り付けた。
【0078】
(電極体の作製)
作製した正極と、セパレータとしての厚さ30μm、幅35mm、長さ50mmのポリエチレン微多孔膜と、作製した負極とをこの順で積層して電極体を作製した。
正極及び負極は、正極の正極活物質が塗布された面と、負極の負極活物質が塗布された面とがセパレータを介して対向するように配置した。
【0079】
(非水電解液の調製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートを体積比(エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート)が3:7となる割合で混合して非水溶媒とした。次いで、電解質としてLiPF
6を非水溶媒に溶解した。電解質濃度は1.0mol/Lとなるように調節した。これに表1に示す添加剤を添加して、非水電解液を調製した。添加剤の量は、表1に示す含有率(非水電解液全体を100質量%とする)となるように調節した。
【0080】
(リチウムイオン電池の作製)
上記で作製した電極体を、
図1に示すような電池容器に収容し、さらに上記で調製した非水電解液を1ml注入した。その後、電極体の正極集電タブと負極集電タブの端部が電池容器の外部に出ている状態で電池容器の開口部を閉じ、リチウムイオン電池を作製した。電池容器としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム/アルミニウム箔/シーラント層(ポリプロピレン等)の積層体であるラミネートフィルムから形成されたものを使用した。なお、リチウムイオン電池は後述するサイクル特性評価と高温での保存特性評価のために各実施例及び比較例につき2個ずつ作製した。
【0081】
(サイクル特性)
上記のリチウムイオン電池に対し、充放電装置(BATTERY TEST UNIT、株式会社IEM製)を用いて、25℃において電流値0.2C、充電終止電圧3.1Vで定電流充電を行い、次いで充電電圧3.1Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。尚、電流値の単位として用いた「C」は「電流値(A)/電池容量(Ah)」を意味する。15分間の休止後、電流値0.2C、放電終止電圧1.5Vで定電流放電を行った。前記の充放電条件で充放電を3回繰り返した。その後、25℃において電流値1C、充電終止電圧3.1Vで定電流充電を行い、次いで充電電圧3.1Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、電流値1C、放電終止電圧1.5Vで定電流放電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とした。さらに、上記の操作を500回繰り返した際の放電容量(500サイクル後の放電容量)を測定した。そして、以下の式からサイクル特性(500サイクル後の劣化率)を算出した。表1に測定結果を示す。
サイクル特性(%)=(500サイクル後の放電容量/初期放電容量)×100
【0082】
(高温での保存特性)
上記のリチウムイオン電池に対し、充放電装置(BATTERY TEST UNIT、株式会社IEM製)を用いて、25℃において電流値0.2C、充電終止電圧3.1Vで定電流充電を行い、次いで充電電圧3.1Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、電流値0.2C、放電終止電圧1.5Vで定電流放電を行った。前記の充放電条件で充放電を3回繰り返した。その後、25℃において電流値1C、充電終止電圧3.1Vで定電流充電を行い、次いで充電電圧3.1Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、電流値1C、放電終止電圧1.5Vで定電流放電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とした。
次いで、充電終止電圧3.1Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。その後、前記リチウムイオン電池を50℃の恒温槽に70日間保存した。保存後のリチウムイオン電池を、25℃の環境で1時間保存した。その後、25℃において電流値0.2C、終止電圧1.5Vの定電流放電を行った。15分間の休止後、25℃において電流値0.2C、充電終止電圧3.1Vで定電流充電を行い、次いで、充電終止電圧3.1Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、25℃で電流値1C、終止電圧1.5Vの定電流放電を行い、放電容量を測定した(70日間保存後の放電容量)。そして、以下の式から保存特性を算出した。表1に測定結果を示す。
高温での保存特性(%)=(70日保存後の放電容量/初期放電容量)×100
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、非水電解液中に含フッ素ホウ酸エステル(ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル))を含む実施例1〜3では、含フッ素ホウ酸エステルを含まない比較例1〜4と比べて充放電サイクル特性と高温での保存特性とに優れていることが確認できる。
【0085】
<実施例4〜6、比較例5>
正極の作製と非水電解液の調製を下記のようにして行った以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池を作製した。その後、後述する方法でサイクル特性と高温での保存特性の評価を行った。
【0086】
(正極の作製)
正極活物質であるスピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物を93質量部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)を5質量部、結着材としてポリアクリロニトリル骨格にアクリル酸及び直鎖エーテル基を付加した共重合体(日立化成株式会社製、商品名:LSR7)を2質量部混合し、適量のN−メチル−2−ピロリドンを添加して混練することで、ペースト状の正極合材を調製した。この正極合材を、正極用の集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、140g/m
2の量で塗布した。その後、乾燥処理を施し、密度が2.3g/cm
3になるまでプレス処理により圧密化し、シート状の正極を作製した。作製した正極を幅31mm、長さ46mmの長方形に切断し、
図2に示すような位置に正極集電タブを取り付けた。
【0087】
(非水電解液の調製)
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートを体積比(エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート)が1:3となる割合で混合して非水溶媒とした。次いで、電解質としてLiPF
6を非水溶媒に溶解した。電解質濃度は1.0mol/Lとなるように調節した。これに表2に示す添加剤を添加して、非水電解液を調製した。添加剤の量は、表2に示す含有率(非水電解液全体を100質量%とする)となるように調節した。
【0088】
(サイクル特性)
上記のリチウムイオン電池に対し、充放電装置(BATTERY TEST UNIT、株式会社IEM製)を用いて、25℃において電流値0.2C、充電終止電圧3.4Vで定電流充電を行い、次いで充電電圧3.4Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、電流値0.2C、放電終止電圧2Vで定電流放電を行った。前記の充放電条件で充放電を2回繰り返した。その後、25℃において電流値0.2C、充電終止電圧3.8Vで定電流充電を行い、次いで充電電圧3.8Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、電流値0.2C、放電終止電圧2Vで定電流放電を行った。
次いで、50℃において電流値1C、充電終止電圧3.8Vで定電流充電を行い、次いで充電電圧3.8Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、電流値1C、放電終止電圧2Vで定電流放電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とした。さらに、上記の操作を250回繰り返した際の放電容量(250サイクル後の放電容量)を測定した。そして、以下の式からサイクル特性(250サイクル後の劣化率)を算出した。表2に測定結果を示す。
サイクル特性(%)=(250サイクル後の放電容量/初期放電容量)×100
【0089】
(高温での保存特性)
上記のリチウムイオン電池に対し、充放電装置(BATTERY TEST UNIT、株式会社IEM製)を用いて、25℃において電流値0.2C、充電終止電圧3.4Vで定電流充電を行い、次いで充電電圧3.4Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、電流値0.2C、放電終止電圧2Vで定電流放電を行った。前記の充放電条件で充放電を2回繰り返した。その後、25℃において電流値0.2C、充電終止電圧3.8Vで定電流充電を行い、次いで充電電圧3.8Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、電流値0.2C、放電終止電圧2Vで定電流放電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とした。
次いで、25℃において電流値0.2C、充電終止電圧3.8Vで定電流充電を行い、充電電圧3.8Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。その後、前記リチウムイオン電池を50℃の恒温槽に30日間保存した。保存後のリチウムイオン電池を、25℃の環境で1時間保存した。その後、25℃において電流値0.2C、終止電圧2Vの定電流放電を行った。15分間の休止後、25℃において電流値0.2C、充電終止電圧3.8Vで定電流充電を行い、次いで、充電終止電圧3.8Vで電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った。15分間の休止後、25℃で電流値1C、終止電圧2Vの定電流放電を行い、放電容量(30日間保存後の放電容量)を測定した。そして、以下の式から保存特性を算出した。表2に測定結果を示す。
保存特性(%)=(30日間保存後の放電容量/初期放電容量)×100
【0090】
【表2】
【0091】
表2に示すように、非水電解液中に含フッ素ホウ酸エステル(ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル))を含む実施例4〜6では、含フッ素ホウ酸エステルを含まない比較例5と比べて充放電サイクル特性と高温での保存特性とに優れていることが確認できる。
【0092】
日本国特許出願第2014−212599号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。