特許第6213046号(P6213046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6213046
(24)【登録日】2017年9月29日
(45)【発行日】2017年10月18日
(54)【発明の名称】貼り合わせウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20171005BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20171005BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20171005BHJP
【FI】
   H01L27/12 B
   H01L21/265 Q
   H01L21/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-171167(P2013-171167)
(22)【出願日】2013年8月21日
(65)【公開番号】特開2015-41666(P2015-41666A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】横川 功
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正弘
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−170652(JP,A)
【文献】 特開2008−277501(JP,A)
【文献】 特開2007−019303(JP,A)
【文献】 特開2014−138189(JP,A)
【文献】 特表2011−501452(JP,A)
【文献】 特表2008−532317(JP,A)
【文献】 特表2001−525991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/265
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンあるいはこれらの混合ガスイオンをイオン注入してウェーハ内部にイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハの表面とを貼り合わせた後、熱処理炉を用いて貼り合わせたウェーハの剥離熱処理を行うことにより、前記イオン注入層でボンドウェーハを剥離させて貼り合わせウェーハを形成する貼り合わせウェーハの製造方法であって、
前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハとして、切り欠き部を有するウェーハを使用し、前記ボンドウェーハの剥離の際に、貼り合わせた前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置が前記ボンドウェーハの剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲内に位置するように、下記(1)〜(3)から選ばれる1つ以上を行うことを特徴とする貼り合わせウェーハの製造方法。
(1)前記イオン注入の際、前記ボンドウェーハを、前記ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置が、前記イオン注入を行うイオン注入機及びイオン注入条件によって特定されるイオン注入のダメージが前記ボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置となるように前記イオン注入機に配置する。
(2)前記イオン注入の際、前記ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置のイオン注入量を他の位置よりも増やす。
(3)前記イオン注入の際、前記ボンドウェーハをヒートシンク上に配置し、前記ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を、イオン注入時の前記ヒートシンクの熱伝導が前記ボンドウェーハ面内で相対的に低い位置に合わせる。
【請求項2】
前記(3)において、前記ヒートシンクの熱伝導が前記ボンドウェーハ面内で相対的に低い位置が、材質を他の部分よりも熱伝導率の低い材質とした部分であることを特徴とする請求項1に記載の貼り合わせウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記(3)において、前記ヒートシンクの熱伝導が前記ボンドウェーハ面内で相対的に低い位置が、厚さを他の部分よりも厚くした部分であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の貼り合わせウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記剥離熱処理の際、前記貼り合わせたウェーハを、前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置が、前記貼り合わせたウェーハ面内で相対的に高温となる位置となるように前記熱処理炉内に配置することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の貼り合わせウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記切り欠き部がノッチであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の貼り合わせウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入剥離法を用いた貼り合わせウェーハの製造方法に関し、典型的には、水素イオン等を注入したシリコンウェーハを支持基板となる他のウェーハと密着させた後に熱処理を加えて剥離することによって貼り合わせウェーハを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SOIウェーハの製造方法として、イオン注入したウェーハを貼り合わせた後に剥離してSOIウェーハを製造する方法(「イオン注入剥離法」あるいは「スマートカット法(登録商標)」と呼ばれる)が注目されている。
この方法では、例えば、2枚のシリコンウェーハのうち、少なくとも一方に酸化膜を形成すると共に、一方のシリコンウェーハ(ボンドウェーハ)の上面から水素イオン又は希ガスイオンを注入し、該ウェーハ内部にイオン注入層(「微小気泡層」ともいう)を形成させる。
【0003】
次いで、イオンを注入した方の面を酸化膜を介して他方のシリコンウェーハ(ベースウェーハ)の表面に貼り合わせる。この貼り合わせた2枚のウェーハに対し、熱処理炉内で10℃/分程度でゆっくり昇温させて設定温度で所定時間滞留させる熱処理を行なうことにより、イオン注入層を劈開面としてボンドウェーハを剥離させて貼り合わせウェーハを形成する。さらに、この貼り合わせウェーハに高温熱処理(結合熱処理)を加えることにより、ボンドウェーハから剥離されたSOI層とベースウェーハを強固に結合し、SOIウェーハとする(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
イオン注入剥離法を用いて貼り合わせウェーハを製造する場合、一般に、薄膜を形成するためのボンドウェーハと支持基板となるベースウェーハの両者は同じ面方位を有するウェーハであり、面方位を示す切り欠き部(ノッチやオリエンテーションフラットと呼ばれる)も同一の位置に形成されたウェーハを用い、酸化膜を介して貼り合わせてSOIウェーハを形成したり、酸化膜を介さずに貼り合わせて直接接合ウェーハを形成したりする。
【0005】
ボンドウェーハとベースウェーハの貼り合わせは、通常は室温で行なわれ、両者の切り欠き部を一致させて貼り合わせた後、剥離熱処理を加えてボンドウェーハをイオン注入層で剥離して貼り合わせウェーハが作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−211128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、剥離熱処理によるイオン注入層での剥離では、剥離開始位置から剥離が始まり、徐々に剥離が進行していくが、剥離途中にノッチのような形状的な変化が存在すると、その位置で剥離の進行速度がずれて、比較的広範囲にわたりスクラッチのように見える断層状の薄膜上の欠陥(以下、巨大断層欠陥)が発生するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、イオン注入剥離法を用いてSOI層などの薄膜を形成する際、剥離した直後の薄膜表面に発生する巨大断層欠陥の発生を低減できる貼り合わせウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、
ボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンあるいはこれらの混合ガスイオンをイオン注入してウェーハ内部にイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハの表面とを貼り合わせた後、熱処理炉を用いて貼り合わせたウェーハの剥離熱処理を行うことにより、前記イオン注入層でボンドウェーハを剥離させて貼り合わせウェーハを形成する貼り合わせウェーハの製造方法であって、
前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハとして、切り欠き部を有するウェーハを使用し、前記ボンドウェーハの剥離の際に、貼り合わせた前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置が前記ボンドウェーハの剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲内に位置するように、前記イオン注入の際に前記イオン注入を行うイオン注入機及びイオン注入条件のいずれか又は両方の設定を行う貼り合わせウェーハの製造方法を提供する。
【0010】
このような貼り合わせウェーハの製造方法であれば、ボンドウェーハへのイオン注入の際に剥離開始位置を意図的に設定し、貼り合わせたボンドウェーハ及びベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置がボンドウェーハの剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲内に位置するようにできるため、剥離の際に剥離途中に切り欠き部が存在することが避けられ、巨大断層欠陥の発生を低減できる。
【0011】
また、前記イオン注入の際、前記ボンドウェーハを、前記ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置が、前記イオン注入を行うイオン注入機及びイオン注入条件によって特定されるイオン注入のダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置となるように前記イオン注入機に配置することが好ましい。
【0012】
このように、イオン注入のダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きくすることによって、ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を剥離開始位置とすることができる。
【0013】
また、前記イオン注入の際、前記ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置のイオン注入量を他の位置よりも増やすことが好ましい。
【0014】
イオン注入量が多い位置では剥離が促進され短時間の熱処理で剥離が進むため、ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置のイオン注入量を他の位置よりも増やすことで、ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を剥離開始位置とすることができる。
【0015】
また、前記イオン注入の際、前記ボンドウェーハをヒートシンク上に配置し、前記ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を、イオン注入時の前記ヒートシンクの熱伝導が前記ボンドウェーハ面内で相対的に低い位置に合わせることが好ましい。
【0016】
ヒートシンクの熱伝導が低い位置では冷却効率が低下するため、イオン注入時に高温となり、イオン注入のダメージが大きくなる。ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置をヒートシンクの熱伝導がボンドウェーハ面内で相対的に低い位置に合わせることで、この位置をイオン注入時にボンドウェーハ面内で相対的に高温とし、イオン注入のダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置とすることができる。これにより、切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を剥離開始位置とすることができる。
【0017】
またこのとき、前記ヒートシンクの熱伝導が前記ボンドウェーハ面内で相対的に低い位置が、材質を他の部分よりも熱伝導率の低い材質とした部分であることが好ましい。
【0018】
これにより、ヒートシンクに熱伝導がボンドウェーハ面内で相対的に低い位置を形成することができる。
【0019】
またこのとき、前記ヒートシンクの熱伝導が前記ボンドウェーハ面内で相対的に低い位置が、厚さを他の部分よりも厚くした部分であることが好ましい。
【0020】
これにより、ヒートシンクに熱伝導がボンドウェーハ面内で相対的に低い位置を形成することができる。
【0021】
また、前記剥離熱処理の際、前記貼り合わせたウェーハを、前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置が、前記貼り合わせたウェーハ面内で相対的に高温となる位置となるように前記熱処理炉内に配置することが好ましい。
【0022】
剥離熱処理の際、貼り合わせたウェーハ面内で高温となる位置では剥離が進みやすくなるため、ボンドウェーハ及びベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置が、貼り合わせたウェーハ面内で相対的に高温となる位置となるように熱処理炉内に配置することで、ボンドウェーハ及びベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を剥離開始位置とすることができる。
【0023】
また、前記切り欠き部がノッチであることが好ましい。
【0024】
ノッチを有するウェーハであれば、ウェーハ同士の貼り合わせの際の位置の基準とすることができるため貼り合わせが容易となる。また、近年の大直径ウェーハはノッチが主流であり、本発明はこのようなノッチを有する大直径ウェーハの貼り合わせに対応できる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の貼り合わせウェーハの製造方法であれば、ボンドウェーハへのイオン注入の際に剥離開始位置を意図的に操作できるため、貼り合わせたボンドウェーハ及びベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置がボンドウェーハの剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲内に位置するようにすることで、剥離の際に剥離途中に切り欠き部が存在することが避けられ、巨大断層欠陥の発生を低減できる。さらに、剥離熱処理の際に、イオン注入時に形成した剥離開始位置となる位置をウェーハ面内で相対的に高温となる位置とすることで、剥離開始位置をより確実に所望の位置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の貼り合わせウェーハの製造方法の実施態様の一例を示すフロー図である。
図2】ノッチの位置をイオン注入ダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置とする例(実施例1)の模式図である。
図3】ノッチの位置とイオン注入ダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置をずらす例(比較例2)の模式図である。
図4】熱処理炉内の高温領域となる位置にノッチの位置を合わせて剥離熱処理を行う例(実施例2)の模式図である。
図5】バッチ式イオン注入機によってノッチ部のイオン注入量を増やす例(実施例3)の模式図である。
図6】枚葉式イオン注入機によってウェーハ全面にイオン注入(i)を行った後、ノッチ部に追加注入(ii)を行い、ノッチ部のイオン注入量を増やす例(実施例4)の模式図である。
図7】局所的に炭素濃度を低下させたヒートシンクゴム(iii)を用い、炭素濃度が低い位置にノッチを合わせてウェーハを設置する(iv)例(実施例5)の模式図である。
図8】局所的に炭素濃度を低下させたヒートシンクゴム(v)を用い、炭素濃度が低い位置とノッチをずらしてウェーハを設置する(vi)例(比較例2)の模式図である。
図9】巨大断層欠陥が発生するメカニズムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述のように、イオン注入剥離法を用いてSOI層などの薄膜を形成する際、剥離した直後の薄膜表面に発生する巨大断層欠陥の発生を低減できる貼り合わせウェーハの製造方法の開発が求められていた。
【0028】
図9に巨大断層欠陥が発生するメカニズムを示す模式図を示す。剥離熱処理によるイオン注入層での剥離では、剥離開始位置40から剥離が始まり、徐々に剥離が進行していく。しかし、図9のように、剥離途中にノッチ41のような形状的な変化が存在すると、その位置で剥離の進行速度がずれて、その境界線が巨大断層欠陥42になると考えられる。
【0029】
このことから、本発明者らは、ボンドウェーハの剥離の際に、切り欠き部の位置が剥離開始位置又は剥離開始位置から180度回転した位置であれば、剥離の際に剥離途中に切り欠き部が存在しないため、巨大断層欠陥の発生を低減できることに想到した。すなわち、剥離開始位置を意図的に設定することで、剥離途中に切り欠き部が存在しないようにすることができ、巨大断層欠陥の発生を低減できることを見出した。
【0030】
剥離開始位置は、特開2009−170652号公報に記載されているように剥離面のヘイズ測定を行うこと、あるいは、薄膜の膜厚分布を測定しそのマップから確認することができる。これらによる測定から、剥離開始位置はイオン注入のダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置や、剥離熱処理の際に貼り合わせたウェーハ面内で相対的に高温となる位置に形成されやすいことが分かっている。
【0031】
以下、剥離開始位置の形成に特に大きく影響する、イオン注入時のダメージについて説明する。
ターゲット材料となる半導体ウェーハにイオンを注入すると、ターゲット材料を構成する原子が、注入イオンと衝突して、弾き飛ばされる。ターゲット材料の原子が弾き飛ばされることによって生じた欠陥が、ダメージである。
原子を弾き飛ばすためには、原子が持つ結合エネルギー以上の衝突エネルギーが必要であり、これは、イオンの加速エネルギー及びターゲット材料の温度による熱エネルギーが該当する。従って、加速電圧及び注入時のターゲット材料温度が高ければ、ダメージ量が多くなる。また、イオンの注入量が多くなれば多くなるほど、弾き飛ばす原子の数が増えるので、ダメージ量が多くなる。
【0032】
イオン注入機では、良く制御された加速エネルギーにより、深さ方向に対する注入イオンの深さ均一性が非常に高い。このため、ダーゲットとなるウェーハ面内のダメージ分布は、加速電圧の変動の影響はほとんど受けず、ウェーハ面内の注入量分布及び温度分布が強く影響する。注入量分布は、注入時のビームの動かし方、ウェーハの動かし方、ビーム電流値の変動などが影響する。また、注入中のウェーハは、ヒートシンクと呼ばれる台座に載っているが、ウェーハ裏面とヒートシンクの接触状況、ヒートシンク面の平坦度、ヒートシンクとウェーハ裏面間の中間材(例えば、接触面積を向上させるゴム材など)の膜厚、材質の特性バラツキの影響により面内温度分布が生じる。つまり、ウェーハ裏面の接触状況が悪く、ウェーハ裏面からの放熱量が少ないと、その位置での温度が上がり、ダメージ量が多くなる。逆に、ウェーハ裏面の接触状況が良く、ウェーハ裏面からの放熱量が多いと、その位置での温度が下がり、ダメージ量が少なくなる。また、ウェーハを保持するピンとウェーハの接触により、ピンと接触する部分の冷却効率が上がることで、ダメージ量が少なくなる。
【0033】
以上のことから、本発明者らは、ボンドウェーハの剥離の際に、貼り合わせたウェーハの切り欠き部の位置が剥離開始位置又は剥離開始位置から180度回転した位置であれば、剥離の際に剥離途中に切り欠き部が存在しないため、巨大断層欠陥の発生を低減できること、また剥離開始位置はボンドウェーハへのイオン注入時のダメージによる影響を強く受けることから、イオン注入機及びイオン注入条件を設定することでイオン注入の際に剥離開始位置となる位置を意図的に上記の位置に設定することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0034】
すなわち、本発明は、
ボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンあるいはこれらの混合ガスイオンをイオン注入してウェーハ内部にイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハの表面とを貼り合わせた後、熱処理炉を用いて貼り合わせたウェーハの剥離熱処理を行うことにより、前記イオン注入層でボンドウェーハを剥離させて貼り合わせウェーハを形成する貼り合わせウェーハの製造方法であって、
前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハとして、切り欠き部を有するウェーハを使用し、前記ボンドウェーハの剥離の際に、貼り合わせた前記ボンドウェーハ及び前記ベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置が前記ボンドウェーハの剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲内に位置するように、前記イオン注入の際に前記イオン注入を行うイオン注入機及びイオン注入条件のいずれか又は両方の設定を行う貼り合わせウェーハの製造方法である。
【0035】
以下、本発明の貼り合わせウェーハの製造方法について、実施態様の一例として、図1を参照しながら、イオン注入剥離法(スマートカット法(登録商標))により貼り合わせウェーハを製造する場合について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
まず、図1の工程(a)では、ボンドウェーハ10及びベースウェーハ20を用意する。これらのウェーハとしては、切り欠き部を有するものであり、例えば鏡面研磨されたシリコン単結晶ウェーハをボンドウェーハ10及びベースウェーハ20として好適に用いることができる。
【0037】
切り欠き部は、ウェーハ面の回転方向の面方位を示すものであるため、貼り合わせの際に貼り合わせ位置の基準として利用することができる。この切り欠き部としては、ノッチであってもよいし、オリエンテーションフラットであってもよいが、近年の大直径ウェーハはノッチが主流であるため、ノッチであることが好ましい。
【0038】
次に、工程(b)では、ボンドウェーハ10とベースウェーハ20の少なくとも一方のウェーハ、ここではボンドウェーハ10を熱酸化し、その表面に例えば約100nm〜2000nm厚の酸化膜12を形成する。また、ベースウェーハ20の表面に酸化膜を形成したり、両ウェーハに酸化膜を形成する場合や、両ウェーハ共に酸化膜を形成しない場合もある。
【0039】
次に、工程(c)では、ボンドウェーハ10の片面に対して水素イオン又は希ガスイオンのうち少なくとも一方、ここでは水素イオンを注入し、イオンの平均進入深さにおいて表面に平行なイオン注入層(微小気泡層)11を形成させる。
【0040】
ここで、本発明では、イオン注入の際にイオン注入機及びイオン注入条件のいずれか又は両方の設定を行うことで、後述する剥離の際のボンドウェーハの剥離開始位置を意図的に操作する。以下、イオン注入機及びイオン注入条件の設定を行うことで、剥離開始位置を意図的に所望の位置とする方法について詳しく説明する。
【0041】
イオン注入剥離法では、例えば、水素イオンのみをボンドウェーハに注入し、土台となる支持基板(ベースウェーハ)と貼り合わせた後、剥離熱処理を行うことで、ベースウェーハ上に半導体薄膜を転写することができる。つまり、ウェーハの剥離は、水素高濃度層に熱エネルギーを与えることで引き起こされる。ダメージが大きい位置は、ダメージが相対的に小さい位置と比較して、注入量が多い、あるいは、注入時の熱負荷をより受けているため、剥離し易い状況にある。また、ウェーハエッジ部は、エッジ部が自由端となるため剥離が起き易いが、ウェーハ中央部は、自由端がなく、周囲の部分で拘束されるので剥離が起きにくい。従って、ウェーハエッジ部で、かつ、相対的にダメージの大きい位置が剥離開始点となりやすい。
【0042】
このことから、イオン注入の際、ボンドウェーハを、ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置が、イオン注入を行うイオン注入機及びイオン注入条件によって特定されるイオン注入のダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置となるようにイオン注入機に配置することで、切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を剥離開始位置とすることができる。イオン注入機では、注入時のノッチ向きを自由に設定することができるため、注入時にダメージ分布が強い位置とノッチ位置を合わせることは容易である。
【0043】
イオン注入時のダメージ量を測定する方法としては、サーマウェーブ法(特開昭61−223543号公報参照)が一般的に使用されている。サーマウェーブ法とは、イオン注入物に対し熱処理を加えず非接触でイオン注入量を測定する方法である。サーマウェーブ法は、イオン注入物の表面に検出用のレーザ光(検出光)を照射し、その測定部に他の励起用のレーザ光(励起光)を照射することによって生じる検出光の反射光の変化を測定する手法である。半導体(イオン注入物)は、そのバンドキャップ以上のエネルギーを有する光(励起光)が照射されると、その照射部においてフリーキャリアとして振る舞う光励起キャリアが発生し、その光励起キャリアの発生及び再結合による消滅に応じて光反射率が変化する。また、半導体における光励起キャリアの発生及び消滅の状況、すなわち、光反射率の変化は、半導体表層における上述のダメージの程度と相関がある。サーマウェーブ法では、半導体表層の光反射率の変化を光学的に測定することにより、ダメージ量を測定することができる。
【0044】
サーマウェーブ法を使用してイオン注入時のダメージ量を測定するほかに、注入量分布を推測することもできる。注入量分布には、注入時の熱分布が強く影響するが、これはウェーハとヒートシンクの接触状況で決まり、接触が強ければ冷却が良く、注入時の温度が低くなる。一方、接触が弱ければ、冷却が弱く、注入時の温度が高くなる。ウェーハ裏面の接触状況は、ウェーハ裏面のパーティクルマップから判断でき、パーティクル数が多ければ、接触が強くて、冷却が良く、また、パーティクル数が少なければ、接触が弱くて、冷却が弱いことが推測できる。これに、ウェーハ保持部のピンの位置を重ね合わせることで、注入時のウェーハ全体の冷却を推測することができる。
【0045】
これらの方法を用いて、イオン注入のダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置とそのときのイオン注入機及びイオン注入条件を特定し、ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置が、イオン注入のダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置となるようにイオン注入機に配置することで、この位置を剥離開始位置とすることができる。
【0046】
ここで、図2にノッチの位置をイオン注入ダメージがボンドウェーハ面内で相対的に大きい位置とする例の模式図を示す。ノッチ41の位置とダメージが大きい位置44を合わせることで、ノッチ位置を剥離開始位置とすることができ、剥離熱処理の際、剥離方向43の方向で剥離が起こるため、剥離の途中でノッチが存在することが避けられる。
【0047】
またここで、ウェーハ面内のイオンの注入量分布に着目すると、上述のように、イオン注入量が多ければ多いほど、剥離が促進し、短時間の熱処理で剥離が進むようになる。従って、ウェーハエッジ部で、かつ、相対的にイオン注入量が多い位置を形成すれば、イオン注入量の多い位置が剥離開始点となる。すなわち、イオン注入の際、ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置のイオン注入量を他の位置よりも増やすことで、切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を剥離開始位置とすることができる。
【0048】
通常、イオン注入機は、注入イオンをウェーハ面内に均一に注入することを目的としているが、ウェーハやビームのスキャン動作を工夫することで、局所的に注入量を増やすことができる。
図5にバッチ式イオン注入機によってノッチ部のイオン注入量を増やす例の模式図を示す。バッチ式イオン注入機であれば、例えば回転体45にホイールの内側、あるいは、外側にノッチ41を向けてボンドウェーハ10を設置し、イオンビーム46によってビームスキャンの軌道47で横方向にスキャンする際、ノッチ41の位置のスキャンスピードを落とす、あるいは、エッジ部のみスキャンを行うことで、ノッチ部の注入量を相対的に増やすことが可能となる。また、ウェーハの中心とスキャンの中心をずらすことで、スキャン方向に注入量増加、あるいは、減少する分布を形成することができるので、注入量が多くなる位置にノッチを向けることでノッチ部の注入量を増やすことができる。
また、図6に枚葉式イオン注入機によってノッチ部のイオン注入量を増やす例の模式図を示す。枚葉式イオン注入機であれば、例えば(i)のようにボンドウェーハ10の全面をイオンビーム46によってビームスキャンの軌道47でスキャンした後、(ii)のようにノッチ41の位置に多くイオンビーム46を当てることで追加注入を行い、ノッチ部の注入量を増やすことができる。
このように、例えばノッチ位置の注入量を増やすことで、剥離開始位置をノッチ位置にすることができる。また、ノッチ位置+180度の位置に同様の操作を行うことで、ノッチ位置+180度の位置を剥離開始位置とすることもできる。
【0049】
またここで、注入時のウェーハ温度に着目すると、ウェーハの面内温度は、ウェーハとヒートシンクの接触及びウェーハ保持部品(ピンなど)との接触で決めることができる。ウェーハとヒートシンクの間には、ウェーハとヒートシンクの接触性を高める為、中間材として、ヒートシンクゴムがある。このヒートシンクゴムの接触性、熱伝導率を調整し、ノッチ部の冷却効率が悪くなる様にすれば、ノッチ部が剥離開始位置となる。すなわち、ボンドウェーハの切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を、イオン注入時のヒートシンクの熱伝導がボンドウェーハ面内で相対的に低い位置に合わせることで、この位置を剥離開始位置とすることができる。
【0050】
ヒートシンクの熱伝導を低く設定する方法として、ヒートシンクゴム自体の熱伝導を落とす方法が挙げられる。例えば、ヒートシンクゴムに炭素、アルミナなどの添加剤を加えて、熱伝導率が変わる場合、例えば、炭素の添加量を局所的に変えることで、冷却効率を落とすことができる。図7に局所的に炭素濃度を低下させたヒートシンクを用いる例の模式図を示す。図7のようにヒートシンク48の一部に炭素濃度が低い位置49を形成し(iii)、そこにノッチ41を合わせるようにボンドウェーハ10を設置して(iv)イオン注入を行うことで、ノッチ位置のイオン注入時のダメージを大きくすることができる。
また、ヒートシンクゴムの面粗さを粗くすることによって、ヒートシンクゴムとウェーハの接触面積を減らし、局所的に冷却効率を落とすことができる。ヒートシンクゴム表面に特殊な凹凸形状がある場合、ウェーハ接触面の面積を小さくすることによって、局所的に冷却効率を落とすことができる。また、ヒートシンク台座の平坦度を局所的に悪くし、冷却効率を落としたい位置のみ、台座を凹ませると、ウェーハ裏面との接触面積が落ち、ウェーハの冷却効率を落とすことができる。
さらに、ヒートシンクゴムの一部の厚さを厚くすることで、その部分の熱伝導を低下させ、ウェーハの冷却効率を落とすこともできる。
【0051】
これらの方法により、ヒートシンクに熱伝導がボンドウェーハ面内で相対的に低い位置を形成することができ、このようにして冷却効率を落とした位置と、切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置を合わせることで、この位置を剥離開始位置とすることができる。
【0052】
上述のようにイオン注入の際にイオン注入機及びイオン注入条件のいずれか又は両方の設定を行うことで、剥離開始位置を意図的に所望の位置とすることができる。
【0053】
次に、図1の工程(d)は、水素イオン注入したボンドウェーハ10の水素イオン注入面に、ベースウェーハ20を酸化膜12を介して重ね合わせてり合わせる工程であり、常温の清浄な雰囲気下で2枚のウェーハの表面同士を接触させることにより、接着剤等を用いることなくウェーハ同士が貼り合わされる。
【0054】
このとき、ボンドウェーハ10とベースウェーハ20の切り欠き部同士を合わせて貼り合わせることが好ましいが、切り欠き部をずらして貼り合わせることもできる。
その場合、ずらした角度が30度以下であれば、両方の切り欠き部が剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲に入るように設定することが好ましい。ずらした角度が30度より大きい場合には、巨大断層欠陥の発生要因が大きい方のウェーハの切り欠き部が剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲に入るように設定することが好ましい。このとき、どちらの切り欠き部が巨大断層欠陥の発生に大きく影響するのかについては定性的に特定することはできないが、製造条件を固定して実験すれば、統計的に把握することができる。
【0055】
次に、工程(e)は、イオン注入層11を境界として剥離することによって、剥離ウェーハ31と、ベースウェーハ20上に酸化膜12を介してSOI層32が形成された貼り合わせウェーハ30に分離する剥離工程で、例えば不活性ガス雰囲気下約500℃以上の温度で熱処理を加えれば、結晶の再配列と気泡の凝集とによって剥離ウェーハ31と貼り合わせウェーハ30(SOI層32+酸化膜12+ベースウェーハ20)に分離される。
【0056】
本発明では、この剥離の際に、貼り合わせたボンドウェーハ及びベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置がボンドウェーハの剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲内に位置することで、剥離の際に剥離途中に切り欠き部が存在することが避けられ、巨大断層欠陥の発生を低減できる。
【0057】
この貼り合わせたボンドウェーハ及びベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置としては、剥離開始位置から0±20度又は180±20度の範囲内に位置することが好ましく、剥離開始位置から0±10度又は180±10度の範囲内に位置することがより好ましい。
【0058】
また、通常、注入時のダメージ分布が同じ場合、熱処理炉内で温度が高い位置で剥離が進み易くなる。熱処理炉内の温度分布は、完全に均一ではなく、例えば、炉の上側の方が、相対的に温度が高いなど、温度分布を持つ場合がある。従って、ボンドウェーハ及びベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置又は切り欠き部の位置+180度の位置が、貼り合わせたウェーハ面内で相対的に高温となる位置となるように熱処理炉内に配置することで、より確実にこの位置を剥離開始位置とすることができる。
【0059】
ここで、図4に熱処理炉内の高温領域となる位置にノッチの位置を合わせて剥離熱処理を行う例の模式図を示す。図4のウェーハの外周に示した濃淡は熱処理炉内の温度分布を示し、淡色で示されているのが高温側、濃色で示されているのが低温側である。図4のようにノッチ41の位置が高温となるように配置して剥離熱処理を行うことで、ノッチ位置をより確実に剥離開始位置とすることができ、剥離熱処理の際、剥離方向43の方向で剥離が起こるため、剥離の途中でノッチが存在することが避けられる。
【0060】
熱処理炉内の温度分布は、熱電対、熱酸化、ドーパント注入ウェーハのシート抵抗値分布から判断することが可能である。
また、単に、剥離熱処理内の温度分布だけではなく、熱処理炉ヒーターのパワーバランスを調整して、故意に温度分布を作り出すことも可能である。
【0061】
また、剥離のための熱処理炉としては、横型炉であることが好ましい。横型炉であれば、ボンドウェーハの剥離開始位置が炉ごとに比較的一定であるため本発明の実施がより確実にできる。
【0062】
以上のように、本発明の貼り合わせウェーハの製造方法であれば、ボンドウェーハへのイオン注入の際に剥離開始位置を意図的に調整することができるため、貼り合わせたボンドウェーハ及びベースウェーハのいずれか又は両方の切り欠き部の位置がボンドウェーハの剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲内に位置するようにすることで、剥離の際に剥離途中に切り欠き部が存在することが避けられ、巨大断層欠陥の発生を低減できる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
<ノッチ位置をイオン注入のダメージが大きい位置に合わせた例>
(ボンドウェーハ)
直径300mm、結晶方位<100>、ノッチ方位<011>のボンドウェーハの表面に厚さ200nmとなるように熱酸化膜を形成した。次に、60keV、7×1016/cmでドーズ量分布が面内均一となるようにイオン注入を行った。
予め上記イオン注入条件でイオン注入を行ったウェーハのダメージ分布(面内マップ)を、サーマウェーブ(KLA−Tencor社製)により測定することによって、ウェーハ周辺部でダメージが最も大きな位置を見出し、その位置がノッチ部と一致するように他のウェーハをイオン注入機に配置してイオン注入を行い、そのウェーハを実施例1のボンドウェーハとして用いた(図2参照)。
(ベースウェーハ)
直径300mm、結晶方位<100>、ノッチ方位<011>のベースウェーハを用意した。
(貼り合わせ)
上記のボンドウェーハとベースウェーハのノッチを合わせて室温で貼り合わせた。
(剥離熱処理)
横型炉、500℃、30分、Ar100%雰囲気の条件で面内温度分布が面内均一(500±1℃)となるように剥離熱処理を行った。
(巨大断層欠陥観察)
剥離後の貼り合わせウェーハを集光灯下目視で観察し、巨大断層欠陥の発生したウェーハ枚数を調べた。その結果、巨大断層欠陥発生率は実施例1では1%(2/200枚)であった。
【0065】
[比較例1]
<ノッチ位置とイオン注入のダメージが大きい位置をずらした例>
実施例1と同様にウェーハ周辺部でダメージが最も大きな位置を見出し、ノッチ部から45度ずれた位置のダメージが最も大きくなるようにイオン注入機に配置して実施例1と同様の条件でイオン注入を行ったウェーハを比較例1のボンドウェーハとして用いた(図3参照)。
実施例1と同様のベースウェーハを用意し、実施例1と同様に貼り合わせ及び剥離熱処理を行った。
剥離後の貼り合わせウェーハを集光灯下目視で観察し、巨大断層欠陥の発生したウェーハ枚数を調べた。その結果、巨大断層欠陥発生率は比較例1では30%(60/200枚)であった。
【0066】
[実施例2]
<ノッチ位置が熱処理炉内の高温領域となるように配置した例>
ボンドウェーハ、ベースウェーハは実施例1と同様のものを用意した。
(貼り合わせ)
上記のボンドウェーハとベースウェーハのノッチを合わせて室温で貼り合わせた。
(剥離熱処理)
横型炉、500℃、30分、Ar100%雰囲気の条件で、炉内上部が5℃高い温度分布を有する熱処理炉内に、ノッチを高温部に向けて配置し剥離熱処理を行ったものを実施例2とした(図4参照)。
(巨大断層欠陥観察)
剥離後の貼り合わせウェーハを集光灯下目視で観察し、巨大断層欠陥の発生したウェーハ枚数を調べた。その結果、巨大断層欠陥発生率は実施例2では0.5%(1/200枚)であった。
【0067】
[実施例3及び実施例4]
<ノッチ部のイオン注入量を増やした例>
(ボンドウェーハ)
直径300mm、結晶方位<100>、ノッチ方位<011>のボンドウェーハの表面に厚さ200nmとなるように熱酸化膜を形成した。次に、バッチ式イオン注入機を用いて、60keV、7×1016/cmでドーズ量分布が面内均一になるようにイオン注入を行った後、ノッチ部近傍(エッジから1cmまでの間)に2%の追加注入を行ったものを実施例3のボンドウェーハとした(図5参照)。また、熱酸化膜形成後、枚葉式イオン注入機を用いて、60keV、7×1016/cmでドーズ量分布が面内均一になるようにイオン注入を行った後、ノッチ部近傍(2cm)に2%の追加注入を行ったものを実施例4のボンドウェーハとした(図6参照)。
(ベースウェーハ)
直径300mm、結晶方位<100>、ノッチ方位<011>のベースウェーハを用意した。
(貼り合わせ)
上記のボンドウェーハとベースウェーハのノッチを合わせて室温で貼り合わせた。
(剥離熱処理)
横型炉、500℃、30分、Ar100%雰囲気の条件で面内温度分布が面内均一(500±1℃)となるように剥離熱処理を行った。
(巨大断層欠陥観察)
剥離後の貼り合わせウェーハを集光灯下目視で観察し、巨大断層欠陥の発生したウェーハ枚数を調べた。その結果、巨大断層欠陥発生率は実施例3では1%(2/100枚)、実施例4では1%(2/100枚)であった。
【0068】
[実施例5]
<ノッチ部をヒートシンクの熱伝導率が低い位置に合わせてイオン注入を行った例>
(ボンドウェーハ)
直径300mm、結晶方位<100>、ノッチ方位<011>のボンドウェーハの表面に厚さ200nmとなるように熱酸化膜を形成した。次に、60keV、7×1016/cmでドーズ量分布が面内均一となるようにイオン注入を行った。また、イオン注入の際、ボンドウェーハを配置するヒートシンクのヒートシンクゴムに添加する炭素濃度を、局所的(2cmの面積)に10%少なくし、ヒートシンクの熱伝導率を低減させたものを用いた。ヒートシンクの局所的に炭素濃度が10%低い位置にノッチを合わせてイオン注入を行ったものを実施例5のボンドウェーハとした(図7参照)。
(ベースウェーハ)
直径300mm、結晶方位<100>、ノッチ方位<011>のベースウェーハを用意した。
(貼り合わせ)
上記のボンドウェーハとベースウェーハのノッチを合わせて室温で貼り合わせた。
(剥離熱処理)
横型炉、500℃、30分、Ar100%雰囲気の条件で面内温度分布が面内均一(500±1℃)となるように剥離熱処理を行った。
(巨大断層欠陥観察)
剥離後の貼り合わせウェーハを集光灯下目視で観察し、巨大断層欠陥の発生したウェーハ枚数を調べた。その結果、巨大断層欠陥発生率は実施例5では0.5%(1/200枚)であった。
【0069】
[比較例2]
<ノッチ部とヒートシンクの熱伝導率が低い位置をずらしてイオン注入を行った例>
実施例5と同様にヒートシンクの熱伝導率を低減させたものを用い、ヒートシンクの局所的に炭素濃度が10%低い位置から45度傾けた位置にノッチを向けて、実施例5と同様の条件でイオン注入を行ったものを比較例2のボンドウェーハとした(図8参照)。
実施例5と同様のベースウェーハを用意し、実施例5と同様に貼り合わせ及び剥離熱処理を行った。
剥離後の貼り合わせウェーハを集光灯下目視で観察し、巨大断層欠陥の発生したウェーハ枚数を調べた。その結果、巨大断層欠陥発生率は比較例2では27%(54/200枚)であった。
【0070】
上述のように、剥離途中にノッチが存在する比較例1及び比較例2では、巨大断層欠陥発生率は27%以上であった。一方、剥離開始位置をノッチの位置とした実施例1〜5では、剥離途中にノッチが存在しないため、巨大断層欠陥発生率は1%以下であった。
【0071】
さらに、貼り合わせたウェーハのノッチ位置が剥離開始位置から0度、10度、20度、30度、45度、90度、135度、150度、180度となるようにして剥離熱処理を行った際の、各貼り合わせウェーハでの巨大断層欠陥発生率を以下の表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示されるように、ノッチ位置が剥離開始位置から0±30度又は180±30度の範囲内に位置するようにすることで、巨大断層欠陥の発生を低減することができた。
【0074】
以上のことから、本発明の貼り合わせウェーハの製造方法であれば、イオン注入剥離法を用いて剥離した際に発生する巨大断層欠陥の発生を低減できることが明らかとなった。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0076】
10…ボンドウェーハ、 11…イオン注入層、 12…酸化膜、
20…ベースウェーハ、 30…貼り合わせウェーハ、 31…剥離ウェーハ、
32…SOI層、 40…剥離開始位置、 41…ノッチ、 42…巨大断層欠陥、
43…剥離方向、 44…ダメージが大きい位置、 45…回転体、
46…イオンビーム、 47…ビームスキャンの軌道、 48…ヒートシンク、
49…炭素濃度が低い位置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9