特許第6213090号(P6213090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6213090
(24)【登録日】2017年9月29日
(45)【発行日】2017年10月18日
(54)【発明の名称】エアバッグ収納カバー
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/20 20110101AFI20171005BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20171005BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20171005BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20171005BHJP
【FI】
   B60R21/20
   C08L23/10
   C08L53/00
   C08L23/08
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-194196(P2013-194196)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-77128(P2014-77128A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2016年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-206110(P2012-206110)
(32)【優先日】2012年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三上 純也
(72)【発明者】
【氏名】鳩山 直政
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−279030(JP,A)
【文献】 特開2002−283877(JP,A)
【文献】 特開2004−189001(JP,A)
【文献】 特表2008−545016(JP,A)
【文献】 特開平10−060197(JP,A)
【文献】 特開平08−291238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/20
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び(B)を含有し、成分(A)100重量部に対し、成分(B)を10〜300重量部含み、かつ測定温度230℃、測定荷重21.18Nでのメルトフローレートが5〜50g/10分である熱可塑性エラストマー組成物を含むエアバッグ収納カバー。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂
成分(B):エチレンからなる重合体ブロックとエチレン・炭素数4〜8のα−オレフィン共重合体のブロックとを含むオレフィン系ブロック共重合体
【請求項2】
前記成分(B)が、110〜125℃に結晶融解ピークを有し、かつその結晶融解熱量が20〜60J/gのオレフィン系ブロック共重合体である、請求項1に記載のエアバッグ収納カバー。
【請求項3】
前記成分(B)が、エチレンからなる重合体とエチレン−1−オクテン共重合体のブロックとを含むオレフィン系ブロック共重合体である、請求項1又は2に記載のエアバッグ収納カバー。
【請求項4】
前記成分(A)が、第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でプロピレン−エチレン共重合体を重合して得られるポリプロピレンブロック共重合体である、請求項1乃至のいずれか1項に記載のエアバッグ収納カバー。
【請求項5】
前記成分(A)のメルトフローレート(測定温度230℃、測定荷重21.18N)が10〜150g/10分である、請求項1乃至のいずれか1項に記載のエアバッグ収納カバー。
【請求項6】
下記成分(C)をさらに含み、かつ前記成分(A)100重量部に対し、成分(C)を10〜300重量部含む、請求項2乃至のいずれか1項に記載のエアバッグ収納カバー。
成分(C):110℃〜125℃の結晶融解熱量が20J/g未満である非晶性エチレン・α−オレフィン共重合体
【請求項7】
前記成分(A)のメルトフローレート(測定温度230℃、測定荷重21.18N)が10g/10分以上100g/10分以下であり、かつ前記成分(C)のメルトフローレート(測定温度190℃、測定荷重21.18N)が0.01g/10分以上10g/10分未満である、請求項に記載のエアバッグ収納カバー。
【請求項8】
前記成分(A)〜(C)の合計量に対し、成分(A)を30重量%以上含む、請求項又はに記載のエアバッグ収納カバー。
【請求項9】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、JIS K7110に準拠した温度−40℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度が70kJ/m以上である、請求項1乃至のいずれか1項に記載のエアバッグ収納カバー。
【請求項10】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、JIS K6251を参照した80℃での引張り破壊強さが4.0MPa以上である、請求項1乃至のいずれか1項に記載のエアバッグ収納カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温耐衝撃性及び高温強度等に優れたエアバッグ収納カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアバッグシステムは自動車等の衝突の際に運転手や搭乗者を保護するシステムであり、衝突の際の衝撃を感知する装置とエアバッグ装置とからなる。このエアバッグ装置は、ステアリングホイール、助手席前方のインストルメントパネル、運転席及び助手席のシート、フロント及びサイドピラー等に設置される。
【0003】
エアバッグ装置におけるエアバッグ収納カバーは、エアバッグ膨脹時に、それを収納しているカバーの破壊による破片の飛散やカバー取り付け部の破壊によるカバーの飛散が懸念される。このため、低温から高温までの幅広い温度範囲において、カバーが異常な破壊をして飛散するのを防止することを目的として、その構造や材質において種々の提案がなされている。
【0004】
エアバッグ収納カバー向けの材料としては例えば、特許文献1において、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物、ゴム用可塑剤、オレフィン系樹脂及び添加剤からなるものが提案されている。また、特許文献2〜4おいてはプロピレン系樹脂、エチレン・α−オレフィン共重合体及びスチレン系エラストマーからなるものが提案されている。また、特許文献5には、オレフィン系エラストマー、プロピレン系樹脂、エチレン−α・オレフィン共重合体からなるものが提案されている。更に、特許文献6においては多段重合で製造されたプロピレン系樹脂とエチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体ゴムとからなるものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開平5−38996号公報
【特許文献2】日本国特開平10−265628号公報
【特許文献3】日本国特開2000−096752号公報
【特許文献4】日本国特開2000−324901号公報
【特許文献5】日本国特開2002−194088号公報
【特許文献6】日本国特開2008−45037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車の高級化によるインストルメントパネルの柔軟化により、高温での展開試験時にエアバッグ収納カバーとインストルメントパネルが変形する不具合や、エアバッグ展開出力向上による、低温域での助手席用エアバッグ収納カバーの破損が懸念されている。以上のことから、エアバッグ収納カバーについて、安全性の強化、設計の自由度、金属プレートやナイロン生布をインサート成形工程削減によるコストダウン等の観点から、エアバッグ収納カバー、特に助手席用エアバッグ収納カバーの高温強度、低温耐衝撃性の強化された材料の開発が望まれる。しかしながら、前記特許文献1〜6に記載されているような従来のエアバッグ収納カバー向けの材料においては高温強度や低温耐衝撃性が不十分であった。このような状況の中、本発明が解決しようとする課題は、高温強度及び低温耐衝撃性に優れたエアバッグ収納カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ポリプロピレン系樹脂及び特定のエチレン・α−オレフィン共重合体を特定量含む熱可塑性エラストマー組成物からなるエアバッグ収納カバーが低温耐衝撃性及び高温強度に優れることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の要旨は以下の[1]〜[11]に存する。
【0008】
[1] 下記成分(A)及び(B)を含有し、成分(A)100重量部に対し、成分(B)を10〜300重量部含み、かつ測定温度230℃、測定荷重21.18Nでのメルトフローレートが5〜50g/10分である熱可塑性エラストマー組成物を含むエアバッグ収納カバー。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂
成分(B):エチレンからなる重合体ブロックとエチレン・α−オレフィン共重合体のブロックとを含むオレフィン系ブロック共重合体
[2] 前記成分(B)が、110〜125℃に結晶融解ピークを有し、かつその結晶融解熱量が20〜60J/gのオレフィン系ブロック共重合体である、上記[1]に記載のエアバッグ収納カバー。
[3] 前記成分(B)のエチレン・α−オレフィン共重合体のブロックにおけるα−オレフィンの炭素数が4〜8である、上記[1]又は[2]に記載のエアバッグ収納カバー。
[4] 前記成分(B)が、エチレンからなる重合体とエチレン−1−オクテン共重合体のブロックとを含むオレフィン系ブロック共重合体である、上記[1]乃至[3]のいずれか1に記載のエアバッグ収納カバー。
[5] 前記成分(A)が、第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でプロピレン−エチレン共重合体を重合して得られるポリプロピレンブロック共重合体である、上記[1]乃至[4]のいずれか1に記載のエアバッグ収納カバー。
[6] 前記成分(A)のメルトフローレート(測定温度230℃、測定荷重21.18N)が10〜150g/10分である、上記[1]乃至[5]のいずれか1に記載のエアバッグ収納カバー。
[7] 下記成分(C)をさらに含み、かつ前記成分(A)100重量部に対し、成分(C)を10〜300重量部含む、上記[2]乃至[6]のいずれか1に記載のエアバッグ収納カバー。
成分(C):110℃〜125℃の結晶融解熱量が20J/g未満である非晶性エチレン・α−オレフィン共重合体
[8] 前記成分(A)のメルトフローレート(測定温度230℃、測定荷重21.18N)が10g/10分以上100g/10分以下であり、かつ前記成分(C)のメルトフローレート(測定温度190℃、測定荷重21.18N)が0.01g/10分以上10g/10分未満である、上記[7]に記載のエアバッグ収納カバー。
[9] 前記成分(A)〜(C)の合計量に対し、成分(A)を30重量%以上含む、上記[7]又は[8]に記載のエアバッグ収納カバー。
[10] 前記熱可塑性エラストマー組成物が、JIS K7110に準拠した温度−40℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度が70kJ/m以上である、上記[1]乃至[9]のいずれか1項に記載のエアバッグ収納カバー。
[11] 前記熱可塑性エラストマー組成物が、JIS K6251を参照した80℃での引張り破壊強さが4.0MPa以上である、上記[1]乃至[10]のいずれか1項に記載のエアバッグ収納カバー。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエアバッグ収納カバーは、高温強度及び低温耐衝撃性に優れる。このため、本発明のエアバッグ収納カバーは高温環境や低温環境でもいずれも好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、本明細書において“質量%”と“重量%”、及び“質量部”と“重量部”とは、それぞれ同義である。
【0011】
[エアバッグ収納カバー]
本発明のエアバッグ収納カバーは、下記成分(A)及び(B)を含有し、成分(A)100重量部に対し、成分(B)を10〜300重量部含み、かつ測定温度230℃、測定荷重21.18Nでのメルトフローレートが5〜50g/10分である熱可塑性エラストマー組成物を含む。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂
成分(B):エチレンからなる重合体ブロックとエチレン・α−オレフィン共重合体のブロックとを含むオレフィン系ブロック共重合体
【0012】
なお、本発明において、「エアバッグ収納カバー」とは、エアバッグを収納する容器全般を意味するものであり、例えば、エアバッグが収納されている容器において、エアバッグが展開する際の開口部、又はこの開口部と一体となっている容器全体である。
【0013】
本発明のエアバッグ収納カバーは前記特許文献1〜6等で知られている従来の熱可塑性エラストマーを用いたものと比較して低温耐衝撃性、高温強度等に優れるという特長を有する。本発明のエアバッグ収納カバーは、成分(A)及び成分(B)により高温強度を得ると共に成分(B)により低温耐衝撃性を良好なものとすることができる。
【0014】
<成分(A)>
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)のポリプロピレン系樹脂を含む。成分(A)を含むことにより、本発明のエアバッグ収納カバーの原料に用いる熱可塑性エラストマーに射出成形性を付与し、エアバッグ収納カバーに高温強度の向上、剛性向上等の効果が付与される。なお、成分(A)の「ポリプロピレン系樹脂」とは、その構成単位としてプロピレン単位の含有量が90重量%以上であるものを意味する。
【0015】
成分(A)は、プロピレン単位の含有量が90〜100重量%であるポリプロピレン系樹脂であり、プロピレンの単独重合体であっても、プロピレン単位に加え、プロピレン以外のα−オレフィン単位(ただし、ここでいう「α−オレフィン」には、エチレンも含むものとする。)やα−オレフィン以外の単量体単位を10重量%以下含有するプロピレン系共重合体であってもよい。プロピレン以外のα−オレフィン単位としては、エチレン及び炭素数4〜20のα−オレフィンをあげることができる。炭素数4〜20のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ヘキセン、2,2,4−トリメチル−1−ペンテン等があげられる。プロピレン以外のα−オレフィンとしては、好ましくは、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンであり、より好ましくは、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンである。
【0016】
成分(A)のポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−オクテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、プ
ロピレン−エチレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−エチレン−1−オクテン共重合体等を例示することができる。好ましくは、プロピレン単独重合体、エチレン及び炭素数4〜10のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種の単量体とプロピレンとの共重合体である。また、成分(A)のポリプロピレン系樹脂はポリプロピレンブロック共重合体であってもよく、成分(A)として低温耐衝撃性及び高温強度の観点から特に好ましいのは、第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でプロピレン−エチレン共重合体を重合して得られるポリプロピレンブロック共重合体である。
【0017】
成分(A)のプロピレン単位の含有量は、成分(A)全体に対し、90〜100重量%であり、好ましくは95〜100重量%であり、より好ましくは98〜100重量%である。成分(A)のプロピレン単位の含有量が前記下限値以上であることにより、エアバッグ収納カバーの耐熱性及び剛性が良好となる。なお、成分(A)中のプロピレン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0018】
成分(A)のメルトフローレート(測定温度230℃、測定荷重21.18N)は、限定されないが、通常、0.1g/分以上であり、成形体の外観の観点から、好ましくは10g/10分以上であり、より好ましくは20g/10分以上であり、更に好ましくは30g/10分以上である。また、成分(A)のメルトフローレート(測定温度230℃、測定荷重21.18N)は、通常、200g/10分以下であり、引張り強度の観点から、好ましくは150g/10分以下であり、更に好ましくは100g/10分以下である。成分(A)のメルトフローレートは、JIS K7210(1999年)に従って、測定温度230℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される。
【0019】
成分(A)のプロピレン系樹脂の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた多段重合法をあげることができる。該多段重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせてもよい。
【0020】
また、本発明のエアバッグ収納カバーに用いる成分(A)は市販の該当品を用いることも可能である。市販のポリプロピレン系樹脂としては下記に挙げる製造者等から調達可能であり、適宜選択することができる。入手可能な市販品としては、プライムポリマー社のPrim Polypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標)、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)、ExxonMobil社のExxonMobil PP、Formosa Plastics社のFormolene(登録商標)、Borealis社のBorealis PP、LG Chemical社のSEETEC PP、A.Schulman社のASI POLYPROPYLENE、INEOS Olefins&Polymers社のINEOS PP、Braskem社のBraskem PP、SAMSUNG TOTAL PETROCHEMICALS社のSumsung Total、Sabic社のSabic(登録商標)PP、TOTAL PETROCHEMICALS社のTOTAL PETROCHEMICALS Polypropylene、SK社のYUPLENE(登録商標)等がある。
【0021】
<成分(B)>
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物を構成する成分(B)は、エチレンからなる重合体ブロックとエチレン・α−オレフィン共重合体のブロックとを含むオレフィン系ブロック共重合体である。成分(B)は110〜125℃に結晶融解ピークを有し、かつその結晶融解熱量が20〜60J/gであることが好ましい。ここで、成分(B)において、110〜125℃結晶融解ピークにおける結晶融解熱量が20〜60J/gであるこ
とは、成分(B)が、結晶性のエチレンからなる重合体ブロックを有することを表す指標である。また、成分(B)は、エチレンからなる重合体ブロックに基づく結晶性に加え、エチレン・α−オレフィン共重合体のブロックに基づく非晶性を有する。成分(B)がこのような構造を有することにより、本発明のエアバッグ収納カバーに高温強度及び低温耐衝撃性の効果が付与される。成分(B)の結晶融解熱量は、高温強度の観点から好ましくは20J/g以上であり、より好ましくは30J/g以上である。また、成分(B)の結晶融解熱量は、低温耐衝撃性の観点から好ましくは60J/g以下であり、より好ましくは50J/g以下である。
【0022】
成分(B)における結晶性の重合体ブロックとしては、エチレンを主体とするものであるが、エチレンに加え他の単量体単位を有していてもよい。他の単量体単位としては1−プロピレン、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等を例示することができる。好ましくは、1−プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の末端の炭素原子に炭素間二重結合を有する炭素数3〜8のα−オレフィンである。成分(B)におけるα−オレフィンは1種のみがエチレンと共重合したものであっても、2種以上がエチレンと共重合したものであってもよい。また、成分(B)は1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
成分(B)のエチレン・α−オレフィン共重合体のブロックは、エチレン単位に加え、α−オレフィンとして1−プロピレン、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等を構成単位として有するものを例示することができる。好ましくは、1−プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の末端の炭素原子に炭素間二重結合を有する炭素数4〜8のα−オレフィンである。成分(B)におけるα−オレフィンは1種のみがエチレンと共重合したものであっても、2種以上がエチレンと共重合したものであってもよい。また、成分(B)は1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
成分(B)のエチレン単位の含有量は、エチレン単位の含有量とα−オレフィン単位の含有量との合計量に対し、50重量%以上80重量%以下であることが好ましい。成分(B)のエチレン単位の含有量は、成分(B)のブロッキングによる融着防止のためには多い方が好ましく、本発明の熱可塑性エラストマーを成形したときの低温耐衝撃性の観点では少ない方が好ましい。成分(B)のエチレン単位の含有量は、より好ましくは55重量%以上であり、更に好ましくは60重量%以上である。また、エチレン単位の含有量は、より好ましくは75重量%以下である。なお、成分(B)におけるエチレン単位の含有量及び炭素数4〜8のα−オレフィン単位の含有量は、それぞれ赤外分光法により求めることができる。
【0025】
成分(B)のエチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレン単位及び炭素数3〜8のα−オレフィン単位に加え、非共役ジエンに基づく単量体単位(非共役ジエン単位)等の他の単量体単位を有していてもよい。該非共役ジエンとしては、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンのような鎖状非共役ジエン;シクロへキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネンのような環状非共役ジエン等があげられる。好ましくは、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエンである。
【0026】
また、成分(B)が非共役ジエン単位等の他の単量体単位を有する場合、その含有量は
成分(B)全体に対して、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。非共役ジエン単位やプロピレン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0027】
本発明に用いる成分(B)として具体的には、結晶性エチレンの重合体ブロックと、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−プロピレン−1−オクテン共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体ブロックとを含むブロック共重合体を例示することができる。これらは1種で用いられてもよく、2種以上組み合わせ用いられてもよい。これらの中でも、成分(B)は、エチレンの重合体ブロックとエチレン−1−オクテン共重合体のブロックとを含むブロック共重合体、すなわち成分(B)は、エチレンからなる重合体とエチレン−1−オクテン共重合体のブロックとを含むオレフィン系ブロック共重合体であることが最も好ましい。
【0028】
成分(B)は結晶性を有するエチレンからなる重合体ブロックを有することに加え、エチレン・α−オレフィン共重合体のブロックによる非晶性を有する。この非晶性はガラス転移温度により表現され、DSC法によるガラス転移温度が好ましくは−80℃以上であり、より好ましくは−75℃以上であり、一方、好ましくは−50℃以下であり、より好ましくは−60℃以下である。
【0029】
成分(B)のメルトフローレート(測定温度190℃、測定荷重21.18N)は限定されないが、通常、10g/10分以下であり、強度の観点から、好ましくは8g/10分以下であり、より好ましくは5g/10分以下であり、更に好ましくは3g/10分以下である。また、成分(B)のメルトフローレートは、通常、0.01g/10分以上であり、流動性の観点から、好ましくは0.05g/10分以上であり、更に好ましくは0.10g/10分以上である。成分(B)のメルトフローレートは、ASTM D1238に従い、測定温度190℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される。
【0030】
成分(B)の密度は低温耐衝撃性の観点から、好ましくは0.88g/cm以下であり、より好ましくは0.87g/cm以下である。一方、その下限については特に制限されないが、通常0.85g/cm以上である。
【0031】
成分(B)の製造方法としては、日本国特表2007−529617号公報、日本国特表2008−537563号公報、日本国特表2008−543978号公報に開示された方法にしたがって合成することができる。例えば、第1のオレフィン重合触媒と、同等の重合条件下で第1のオレフィン重合触媒によって調製されるポリマーとは化学的性質又は物理的性質が異なるポリマーを調製可能な第2のオレフィン重合触媒と、鎖シャトリング剤と、を組み合わせて得られる混合物又は反応生成物を含む組成物を準備し、上記エチレンとα−オレフィンとを、付加重合条件下で、該組成物と接触させる工程を経て製造することができる。
【0032】
成分(B)の重合には、好ましくは連続溶液重合法が適用される。連続溶液重合法は、触媒成分、鎖シャトリング剤、モノマー類、ならびに場合により溶媒、補助剤、捕捉剤および重合助剤が反応ゾーンに連続的に供給され、ポリマー生成物はそこから連続的に取り出される。また、ブロックの長さは、前記触媒の比率および種類、鎖シャトリング剤の比率および種類、重合温度等を制御することによって変化させることができる。
【0033】
なお、ブロック共重合体の合成方法において、その他の条件は日本国特表2007−529617号公報、日本国特表2008−537563号公報、日本国特表2008−543978号公報に開示されている。また、市販の該当品としては例えばダウ・ケミカル
社製Engage(登録商標)−XLTシリーズやINFUSE(登録商標)シリーズ等が挙げられる。なお、成分(B)のうち、エチレン・オクテン共重合体ブロックを有するものについては、INFUSE(登録商標)シリーズが2007年に、Engage(登録商標)−XLTシリーズが2011年に、それぞれダウ・ケミカル社に商業的に生産開始されるまで、製品として入手することができなかったものである。
【0034】
<成分(C)>
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物は、成分(C)として、110〜125℃の結晶融解熱量が20J/g未満である非晶性エチレン・α−オレフィン共重合体を含むことが好ましい。成分(C)において、110〜125℃の結晶融解熱量が20J/g未満であることは、成分(C)の結晶性が低く、非晶性であることを表すものである。成分(C)を含むことにより、本発明の熱可塑性エラストマーに低温耐衝撃性改善を更に良好なものとすることができる。
【0035】
成分(C)は、少なくともエチレン単位とα−オレフィン単位とを含む共重合体である。成分(C)に用いられるα−オレフィンとしては、1−プロピレン、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等を例示することができる。成分(C)に用いられるα−オレフィンは好ましくは、1−プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の末端の炭素原子に炭素間二重結合を有する炭素数3〜8のα−オレフィンである。成分(C)におけるα−オレフィンは1種のみがエチレンと共重合したものであっても、2種以上がエチレンと共重合したものであってもよい。また、成分(C)は1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
成分(C)のエチレン単位の含有量は、エチレン単位の含有量とα−オレフィン単位の含有量との合計量に対し、50重量%以上80重量%以下であることが好ましい。成分(C)のエチレン単位の含有量は、成分(C)のブロッキングによる融着防止のためには多いほうが好ましく、本発明の熱可塑性エラストマーを成形したときの低温耐衝撃性の観点では少ない方が好ましい。成分(C)のエチレン単位の含有量は、より好ましくは55重量%以上であり、更に好ましくは60重量%以上である。また、エチレン単位の含有量は、より好ましくは75重量%以下である。なお、成分(C)におけるエチレン単位の含有量及び炭素数3〜8のα−オレフィン単位の含有量は、それぞれ赤外分光法により求めることができる。
【0037】
成分(C)の非晶性エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレン単位及び炭素数3〜8のα−オレフィン単位に加え、非共役ジエンに基づく単量体単位(非共役ジエン単位)等の他の単量体単位を有していてもよい。該非共役ジエンとしては、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンのような鎖状非共役ジエン;シクロへキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネンのような環状非共役ジエン等があげられる。好ましくは、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエンである。
【0038】
また、成分(C)の非共役ジエン単位等の他の単量体単位は、成分(C)全体に対して、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。非共役ジエン単位やプロピレン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0039】
本発明に用いる成分(C)として具体的には、エチレン−1−ブテン共重合体ゴム、エ
チレン−1−ヘキセン共重合体ゴム、エチレン−1−オクテン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−1−オクテン共重合体ゴム等を例示することができる。これらは1種で用いられてもよく、2種以上組み合わせ用いられてもよい。中でも、エチレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−1−オクテン共重合体ゴムが好ましい。
【0040】
成分(C)のメルトフローレート(測定温度190℃、測定荷重21.18N)は限定されないが、通常、10g/10分未満であり、強度の観点から、好ましくは8g/10分以下であり、より好ましくは5g/10分以下であり、更に好ましくは3g/10分以下である。また、成分(C)のメルトフローレートは、通常、0.01g/10分以上であり、流動性の観点から、好ましくは0.05g/10分以上であり、更に好ましくは0.10g/10分以上である。成分(C)のメルトフローレートは、ASTM D1238に従い、測定温度190℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される。
【0041】
成分(C)の密度は低温耐衝撃性の観点から、0.88g/cm以下であり、好ましくは0.87g/cm以下である。一方、その下限については特に制限されないが、0.85g/cm以上である。
【0042】
成分(C)の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、オレフィン重合用触媒として、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の錯体系触媒を用いることができ、重合方法としてはスラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等があげられる。また、市販の該当品を用いることも可能である。市販の該当品としては例えばダウ・ケミカル社製Engage(登録商標)シリーズ、三井化学社製タフマー(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
【0043】
<配合量>
成分(B)の含有量は、成型体の低温耐衝撃性の観点から、成分(A)100重量部に対し、10重量部以上であり、好ましくは30重量部以上、より好ましくは50重量部、更に好ましくは60重量部以上である。また、成分(B)の含有量は、成型体の剛性の観点から、成分(A)100重量部に対し、300重量部以下であり、好ましくは200重量部以下であり、より好ましくは150重量部以下であり、更に好ましくは120重量部以下である。
【0044】
成分(C)の含有量は、成型体の低温耐衝撃性の観点から、成分(A)100重量部に対し、好ましくは10重量部以上であり、より好ましくは30重量部以上、更に好ましくは50重量部以上、特に好ましくは60重量部以上である。また、成分(C)の含有量は、成型体の剛性の観点から、成分(A)100重量部に対し、好ましくは300重量部以下であり、より好ましくは200重量部以下であり、更に好ましくは150重量部以下であり、特に好ましくは120重量部以下である。
【0045】
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物において、高温のエアバッグ展開性能の観点から成分(A)〜(C)の合計量に対し、成分(A)を30重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましく、45重量%以上含むことが更に好ましい。一方、低温耐衝撃性の観点から成分(A)〜(C)の合計量に対し、成分(A)を70重量%以下含むことが好ましく、65重量%以下含むことがより好ましく、60重量%以下含むことが更に好ましい。
【0046】
また、成分(A)〜(C)の合計量に対し、低温と高温のエアバッグ展開性能の観点から成分(B)を15重量%以上含むことが好ましい。この効果を高める観点からより好ま
しく、30重量%以上含むことがより好ましく、更に好ましくは40重量%以上含むことが更に好ましい。一方、射出成型性の観点から成分(A)〜(C)の合計量に対し、成分(B)を70重量%以下含むことが好ましく、65重量%以下含むことがより好ましく、60重量%以下含むことが更に好ましい。
【0047】
<その他の成分>
更に、本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物には、上記の成分以外に本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて以下の添加剤や成分(A)〜(C)以外の樹脂(以下、「その他の樹脂」と称する。)等の任意成分を配合することができる。
【0048】
任意成分としては、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防雲剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、難燃剤、分散剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性剤、分子量調整剤、防菌剤、蛍光増白剤等の各種添加物を挙げることができる。例えば、酸化防止剤は成分(A)〜(C)の合計量100重量部あたり、0.01〜0.5重量部の範囲で用いられる。
【0049】
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物が含有し得るその他の樹脂としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、前記以外の各種エラストマー等が挙げられる。上記で挙げたその他の樹脂は1種のみを含有しても2種以上を含有してもよい。なお、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いる場合には、更に炭化水素系ゴム用軟化剤を用いることが好ましい。
【0050】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(A)及び(B)、必要に応じて成分(C)及び/又はその他の成分を通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を押出機等で混練して製造する際には通常160〜240℃、好ましくは180〜220℃に加熱した状態で溶融混練することによって製造することができる。更に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に、下記の架橋剤や架橋助剤を配合して動的に熱処理することにより、部分的に架橋させてもよい。
【0051】
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物を部分的に架橋させるための架橋剤としては、有機過酸化物を用いることが好ましく、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(パーオキシベンゾイル)ヘキシン−3、ジクミルパーオキサイド等を挙げることができる。
【0052】
これらの有機過酸化物により部分的に架橋させる際に用いられる架橋助剤としては、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、トルイレンビスマレイミド等を有する化合物、P−キノンジオキシム、ニトロベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等ラジカル重合性の炭素間二重結合を有する化合物等と、成分(B)及び/又は成分(C)の炭素直鎖の部分と反応する官能基をもった化合物を挙げることができる。
【0053】
<物性>
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物は、前記成分(A)及び(B)を特定量含むことにより、射出成形性、高温強度、低温耐衝撃性等に優れるものである。
【0054】
本発明において、JIS K7210(1999年)に準拠した温度230℃、測定荷重21.18Nでのメルトフローレート(MFR)を熱可塑性エラストマー組成物の射出成形性の指標とする。本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物は、射出成形性に優れたものとするため、5〜50g/10分であることが必要である。熱可塑性エラストマー組成物のMFRが5g/10分より小さいと流動性に乏しく射出成形に不適となり、また、50g/10より大きいと射出成形時にバリ等の原因となることがある。流動性の観点からは、好ましくは7g/10分以上であり、より好ましくは10g/10分以上である。一方、射出成形時にバリ等を抑える観点からは、熱可塑性エラストマー組成物のMFRは好ましくは40g/10分以下であり、より好ましくは30g/10分以下であり、特に好ましくは20g/10分以下である。なお、本発明の熱可塑性エラストマーのMFRは流動性の高い成分である成分(A)を多くすると高くなる傾向にあり、また、流動性の低い成分(B)を多くするほど低くなる傾向にある。また、成分(C)を含む場合、熱可塑性エラストマー組成物のMFRは成分(C)を多くするほど低くなる傾向にある。
【0055】
本発明において、JIS K7110(1999年)による−40℃におけるアイゾット衝撃強度を低温耐衝撃性の指標とする。このため、アイゾット衝撃強度は、好ましくは70kJ/m以上であり、より好ましくは80kJ/m以上であり、更に好ましくは90kJ/m以上である。一方、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のアイゾット衝撃強度の上限は特に制限されないが、通常150kJ/m以下である。
【0056】
本発明に用いる熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K6251(1993年)を参照した80℃での引張り破壊強さが高温強度の観点から、好ましくは4.0MPa以上であり、より好ましくは4.5MPa以上、更に好ましくは5.0MPa以上の物性を有するものが好ましい。80℃での引張り破壊強さが、上記範囲未満のものを用いた場合には、高温強度が劣るためにエアバッグ収納カバーの高温展開性が低下する傾向がある。なお、本発明は従来のエアバッグ収納カバー用途の熱可塑性エラストマー組成物に比べ、低温耐衝撃性を維持したまま高温強度に優れる点に特長がある。このため、本発明においては高温強度を高めることが特に重要である。
【0057】
上記熱可塑性エラストマー組成物を用いて、一般に、通常の射出成形法、又は、必要に応じ・BR>ト、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成
形法等の各種成形法を用いて成形体とすることによりエアバッグ収納カバーとして用いることができる。特に、本発明のエアバッグ収納カバーは射出成形により製造することが好ましく、射出成形を行う際の成形条件は以下の通りである。エアバッグ収納カバーを射出成形する際の成形温度は一般に150〜300℃であり、好ましくは180〜280℃である。射出圧力は通常、5〜100MPaであり、好ましくは10〜80MPaである。また、金型温度は通常0〜80℃であり、好ましくは20〜60℃である。この様にして得られたエアバッグ収納カバーは、自動車等の高速移動体が衝突事故等の際に、その衝撃や変形を感知することにより作動し、膨張展開によって乗員を保護するエアバッグシステムのエアバッグ収納カバーとして好適に用いられる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0059】
<原料>
成分(A)(ポリプロピレン系樹脂)
(a−1):ポリプロピレンブロック共重合体(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン−プロピレン共重合体を重合して得られたもの。)
MFR(JIS K7210(1999年)):60g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))、ポリプロピレンブロック共重合体中、プロピレン単独重合の含有量:92重量%、エチレン−プロピレン共重合の含有量:8重量%、エチレン−プロピレン共重合におけるエチレン単位含有量:43重量%、融解温度:163℃。
【0060】
成分(B)(オレフィン系ブロック共重合体)
(b−1):ダウ・ケミカル社製 XLT8677(エチレンからなる結晶性の重合体ブロックとエチレン・オクテン共重合体のブロックとを有するもの。)
結晶融解ピーク:119度、結晶融解熱量:37J/g、MFR(ASTM D1238):1.3g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))(カタログ値)、密度:0.87g・cm、ガラス転移温度(DSC法):−67℃。
【0061】
成分(C)(非晶性エチレン・α−オレフィン共重合体)
(c−1):三井化学社製 タフマー(登録商標)A0550S(エチレン−ブテン共重合体)
結晶融解ピーク:110℃〜125℃にピークなし、結晶融解熱量:0、MFR(ASTM D1238):0.5g/10分(測定条件:190℃、荷重21.18N(2.16kgf))(カタログ値)、密度:0.86g/cm
(c−2):ダウ・ケミカル社製 Engage(登録商標)8180(エチレン−オクテン共重合体)
結晶融解ピーク:110℃〜125℃にピークなし、結晶融解熱量:0、MFR(ASTM D1238):0.5g/10分(測定条件:190℃、荷重21.18N(2.16kgf))(カタログ値)、密度:0.86g/cm
(c−3):ダウ・ケミカル社製 Engage(登録商標)8100(エチレン−オクテン共重合体)
結晶融解ピーク:110℃〜125℃にピークなし、結晶融解熱量:0、MFR(ASTM D1238):1.0g/10分(測定条件:190℃、荷重21.18N(2.16kgf))(カタログ値)、密度:0.87g/cm
【0062】
<評価方法>
1)射出成形性:メルトフローレート(単位:g/10分)
JIS K7210(1999年)に従って、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定した。
【0063】
2)低温耐衝撃性:アイゾット衝撃強さ(単位:kJ/m
インラインスクリュウタイプ射出成形機(東芝機械社製「IS130」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃にて、アイゾット衝撃強さ用の試験片をノッチの付いた厚さ4mm×幅12.7mm×長さ64mmとした試験片に成形した。JIS K7110(1999年)に従って、温度−40℃で測定した。アイゾット衝撃強さの値が大きいものほど、低温耐衝撃性に優れるものと評価した。
【0064】
3)高温強度:引張破壊試験(JIS−3号ダンベル、引張速度500mm/min)
インラインスクリュウタイプ射出成形機(東芝機械社製「IS130」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃にて、引張り試験の試験片は
シート(厚さ2mm×幅120mm×長さ80mm)を成形した後にJIS K6251(1993年)準拠(JIS−3号ダンベル)で打ち抜いた。JIS K6251(1993年)を参照して、引張破壊強さ(単位:MPa)と引張り破壊伸び(単位:%)を80℃雰囲気下にて測定した。引張破壊強さ及び引張り破壊伸びのそれぞれの値が大きいほど高温強度に優れるものと評価した。
【0065】
<実施例/比較例>
[実施例1]
(a−1)100重量%、(b−1)110重量%、酸化防止剤(BASFジャパン社製 商品名イルガノックス(登録商標)1010)0.1重量部をヘンシェルミキサーにて1分間ブレンドし、同方向2軸押出機(神戸製鋼製「TEX30α」、L/D=45、シリンダブロック数=13)へ20kg/hの速度で投入し、180−210℃の範囲で昇温させ溶融混練を行い、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、前記1)〜3)の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
【0066】
[実施例2〜4及び比較例1〜6]
表1に示す配合にした以外は実施例1と同様にしてエアバッグ収納カバー用熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。また、実施例1と同様、前記1)〜3)の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
[評価結果]
本発明に該当する実施例1〜4はいずれも低温耐衝撃性及び高温強度に優れたものであることがわかる。一方、比較例1は実施例1に対し、本発明における成分(B)を用いず、代わりに成分(C)を用いたものであるが、高温強度が不十分であることがわかる。また、比較例2は実施例2に対し、本発明における成分(B)を用いず、代わりに成分(C)を用いたものであるが、低温耐衝撃性が不十分であることがわかる。また、比較例5は実施例3に対し、本発明における成分(B)を用いず、代わりに成分(C)を用いたものであるが、低温耐衝撃性が不十分であることがわかる。また、比較例6は実施例4に対し、本発明における成分(B)を用いず、代わりに成分(C)を用いたものであるが、高温強度が不十分であることがわかる。更に、比較例3は成分(B)の使用量を少なくしたものであるが、低温耐衝撃性が悪かった。一方、比較例4は成分(B)の使用量を多くしたものであるが、高温強度が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のエアバッグ収納カバーは低温耐衝撃性及び高温強度等に優れ、エアバッグ収納カバーとして非常に有用である。