(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)軟化点が100℃以下であるか又は100℃以下で液状となり、エポキシ当量が140以上のエポキシ樹脂または水酸基当量が140以上であるフェノール樹脂を20質量%以上含む熱硬化性樹脂を100質量部、
(b)架橋性官能基をモノマー比率で5〜15%有し、重量平均分子量が10万〜40万でTgが−50〜50℃である第1の高分子量成分、
または前記第1の高分子量成分と、架橋性官能基をモノマー比率で1〜7%有し、重量平均分子量が50万〜80万でTgが−50〜50℃である第2の高分子量成分との混合物であって前記第1の高分子量成分が50質量%以上である混合高分子量成分
のいずれか一方を30〜100質量部、
(c)平均粒径が0.4μm以上の第1のフィラーと平均粒径が0.4μm未満の第2のフィラーとを含み、粒径が0.4μm以上の粒子が30体積%以上を占める無機フィラーを10〜60質量部、及び
(d)硬化促進剤を0〜0.07質量部
を含有し、
前記(a)熱硬化性樹脂が、軟化点が100℃以下であるか又は100℃以下で液状となり、エポキシ当量が140以上の、ビスフェノールE型エポキシ樹脂を変性させた二官能エポキシ樹脂を含む、
フィルム状接着剤。
半導体チップが、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤を介して、段差を有する基板またはワイヤボンディングされた別の半導体チップ上に積層され、段差またはワイヤによる凹凸はフィルム状接着剤内に埋め込まれ、さらに少なくとも半導体チップ及びワイヤは封止材で封止されている半導体装置。
請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤の片面又は請求項4に記載の接着シートにおけるフィルム状接着剤の露出面と、半導体ウエハ又は半導体チップの底面とを貼り合わせるラミネート工程と、
切断又は伸張により、フィルム状接着剤付き半導体チップを得る分断工程と、
前記フィルム状接着剤付き半導体チップを、段差を有する基板の上面又は基板上にワイヤボンディングされた別の半導体チップの上面に圧着して前記フィルム状接着剤内に段差又はワイヤによる凹凸を埋め込むダイボンド工程と、
封止材で封止する工程とを含む半導体装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0022】
本発明のフィルム状接着剤は、半硬化(Bステージ)状態を経て、硬化処理後に完全硬化物(Cステージ)状態となり得る熱硬化性の樹脂組成物から構成される。本発明の接着シートは、前記フィルム状接着剤が基材フィルムの片面に積層されたものである。なお、本明細書における「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味する。
【0023】
本発明のフィルム状接着剤は、(1)硬化前の80℃でのずり粘度が200〜11000Pa・sであること、かつ150℃で1時間加熱した後は、(2)180℃での引っ張り弾性率が20MPa以下、(3)25℃でのが350%以下、(4)破断強度が6.0MPa以下となることが好ましい。
【0024】
上記(1)ずり粘度のより好ましい範囲は200〜8000Pa・sであり、(2)180℃引っ張り弾性率のより好ましい範囲は15MPa以下であり、(3)接着剤破断伸び率のより好ましい範囲は330%以下であり、(4)破断強度のより好ましい範囲は5.7MPa以下である。
【0025】
上記ずり粘度は、ARES(レオメトリック・サイエンティフィック社製)を用い、フィルム状接着剤に5%の歪みを与えながら5℃/分の昇温速度で昇温させながら測定した場合の測定値を意味する。一方、引っ張り弾性率は、動的粘弾性測定装置(UBM社製)を用い、3℃/分の昇温速度で昇温させながら測定した場合の測定値を意味する。また、接着剤破断伸び率および破断強度は、10mm幅、60μm厚の硬化前のフィルム状接着剤をチャック間距離20mmにて引っ張り試験機にセットし50mm/分の速度で引っ張った場合に、試験片が破断するまでの伸び率と引張強度を意味する。
【0026】
(1)80℃でのずり粘度を200〜11000Pa・sとすることにより、ワイヤ下の空隙または基板段差に由来する凹凸を接着剤内に埋め込むことができるようになる。その際の圧着は80℃以上、0.01〜0.50MPa、1〜2秒が好ましい。
【0027】
また、(2)150℃で1時間加熱した後の180℃での引っ張り弾性率を20MPa以下とすることにより、残存する空隙を封止材硬化中に消失させることができる。その際の封止条件は175℃/6.7MPa/90秒が好ましい。
【0028】
(3)25℃での接着剤破断伸び率が350%以下、(4)破断強度が6.0MPa以下とすることにより、エキスパンドなどの分断方法で、極薄チップと一緒に分断可能なフィルム状接着剤とすることができ、極薄チップの損傷を抑えつつ、小片化することができる。
【0029】
本発明のフィルム状接着剤が上記特性(1)〜(4)を有するには、(a)軟化点が100℃以下であるか又は100℃以下で液状となり、エポキシ当量が140以上のエポキシ樹脂または水酸基当量が140以上であるフェノール樹脂を20質量%以上含む熱硬化性樹脂を100質量部、
(b)架橋性官能基をモノマー比率で5〜15%有し、重量平均分子量が10万〜40万でTgが−50〜50℃である第一の高分子量成分単体、または架橋性官能基をモノマー比率で1〜7%有し、重量平均分子量が50万〜80万でTgが−50〜50℃である第二の高分子量成分と第一の高分子量成分とのブレンドにより得られる高分子量成分で、第一の高分子量成分の割合が50質量%以上であることを特徴する高分子量成分のいずれか一方を30〜100質量部、
(c)平均粒径が0.4μm以上の第1のフィラーと平均粒径が0.4μm未満の第2のフィラーからなり、粒径が0.4μm以上の粒子が30体積%以上を占めることを特徴とする無機フィラーを10〜60質量部、
(d)硬化促進剤を0〜0.07質量部含有する接着剤組成物をフィルム状に成形することにより作製することができる。
【0030】
より具体的には、80℃でのずり粘度を200〜11000Pa・sとするには、高分子量成分を少なくする、100℃以下で液状となる、または軟化点が100℃以下の樹脂の含有量を増やす、フィラー含有量を下げる、の内のいずれかの組成変更を行えばよい。
【0031】
また、150℃で1時間加熱した後の180℃での引っ張り弾性率を20MPa以下とするには、高分子量成分を増やす、高分子量成分の架橋性官能基のモノマー比率を下げる、フィラー含有量を下げる、エポキシ当量・水酸基当量がより大きな熱硬化性樹脂を使用すればよい。
【0032】
25℃での接着剤破断伸び率が350%以下、破断強度が6.0MPa以下とするには、第一の高分子量成分の割合を上げて第二の高分子量成分の割合を下げる、フィラー含有量を上げる、粒径が0.4μm以上のフィラーの割合を上げる、軟化点が25℃以上である固形のエポキシ樹脂またはフェノール樹脂の割合を上げればよい。
【0033】
本発明のフィルム状接着剤は、半導体チップ表面(配線側)に形成された窒化ケイ素の薄膜へ圧着して硬化した後の接着力が1.0MPa以上であることが好ましい。フィルム状接着剤が上記接着力を有するには、接着剤組成物を上述の構成とすればよい。窒化ケイ素の薄膜は半導体チップに代表的な回路保護材として形成される。
上記接着剤組成物は、十分な接着性を得るという観点から、(e)カップリング剤等の添加剤を更に含んでいてもよい。
また、接着力は、後述のダイシェア強度を測定することで得られる。
【0034】
以下、フィルム状接着剤を得るための接着剤組成物の各成分について説明する。
(a)熱硬化性成分:
(a)熱硬化性成分としては、熱硬化性樹脂が好ましく、半導体素子を実装する場合に要求される耐熱性及び耐湿性を有するエポキシ樹脂及びフェノール樹脂等が好ましい。
【0035】
封止時に残存する空隙を消失させるため、硬化途中及び硬化後の引っ張り弾性率を低くする必要があり、この目的で、上記熱硬化性樹脂は、軟化点が100℃以下であるか又は100℃以下で液状となり(以下、軟化点が100℃以下と総称する。)且つエポキシ当量が140以上であるエポキシ樹脂、または水酸基当量が140以上であるフェノール樹脂を、20質量%以上含有することが必要である。このようなエポキシ樹脂の例としては、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0037】
(式(1)中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に、水素原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、直鎖、分岐または環状アラルキル基、直鎖、分岐または環状アルケニル基、水酸基、アリール基、あるいはハロゲン原子を示し、k及びmは1〜4の整数を示す。)
【0038】
上記式(1)中、好ましいエポキシ樹脂として、R
1〜R
4が水素原子で、k=4、m=4であるエポキシ樹脂(市販品であれば、東都化成(株)製のYDF−8170C等)や、上記式(1)中、R
1〜R
2がメチル基で、R
3〜R
4が水素原子、k=2、m=2であるエポキシ樹脂(市販品であれば、東都化成(株)製のYSLV−80XY等)等が挙げられる。
【0039】
上記一般式(1)以外のエポキシ樹脂としては、軟化点100℃以下且つエポキシ当量140以上であり、硬化して接着作用を有するものであれば特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂等を変性させた二官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂等を使用することができる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂等を変性させた二官能エポキシ樹脂の一例としては、(株)プリンテック製のR710(液状、エポキシ当量170)、R1710(液状、エポキシ当量175)、R2710(液状、エポキシ当量180)等が挙げられる(下記一般式(2)参照)。
【0040】
【化2】
(式(2)中、nは0〜5を示す。)
【0041】
また、軟化点100℃以下且つエポキシ当量140以上のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を(a)熱硬化性樹脂として併用してもよい。そのようなエポキシ樹脂としては、多官能エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂または脂環式エポキシ樹脂等、一般に知られているものを用いることができる。
【0042】
また、いずれのエポキシ樹脂も、Bステージ状態でのフィルムの可撓性を高める観点から、重量平均分子量が1000以下であることが好ましく、さらに好ましくは500以下である。可撓性に優れる重量平均分子量500以下のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0043】
上記熱硬化性樹脂として、軟化点が100℃以下且つ水酸基当量が140以上であるフェノール樹脂の例としては、一般式(3)、(4)で表されるフェノール樹脂が挙げられる。
【0045】
(式(3)中、R
5はそれぞれ独立に、水素原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、直鎖、分岐または環状アラルキル基、直鎖、分岐または環状アルケニル基、水酸基、アリール基、あるいはハロゲン原子を示し、nは1〜4の整数を示し、pは1〜50の範囲の整数を示す。)
【0046】
【化4】
(式(4)中、qは1〜50の範囲の整数を示す。)
【0047】
上記一般式(3)で表されるフェノール樹脂として代表的なものに、三井化学(株)製のミレックスXLC−シリーズとXLシリーズ(例えば、ミレックスXLC−LL(上記一般式(3)中、R
5が水素原子で、n=3である))等がある。
また、一般式(4)で表されるフェノール樹脂として代表的なものに、エア・ウォーター(株)製のHEシリーズ(例えば、HE200C−10)等がある。
【0048】
上記一般式(3)及び(4)で表される以外で、軟化点100℃以下且つ水酸基当量140以上のフェノール樹脂として、上記の他、東都化成(株)製のナフトール樹脂SNシリーズ等を用いても良い。
【0049】
なお、軟化点100℃以下且つ水酸基当量140以上のフェノール樹脂以外のフェノール樹脂を熱硬化性樹脂として併用してもよい。その他のフェノール樹脂としては、硬化して接着作用を有するものであれば特に限定されない。例えば、DIC(株)製のフェノライトLF、KA、TDシリーズ等が挙げられる。
【0050】
軟化点100℃以下且つ水酸基当量140以上のフェノール樹脂及びそれ以外のフェノール樹脂いずれも、耐熱性の観点から、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に48時間投入後の吸水率が2質量%以下で、熱重量分析計(TGA)で測定した350℃での加熱質量減少率(昇温速度:5℃/min、雰囲気:窒素)が5質量%未満のものが好ましい。
【0051】
熱硬化性成分としてエポキシ樹脂及びフェノール樹脂の両方を含む場合、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂の配合量は、それぞれエポキシ当量と水酸基当量の当量比で0.70/0.30〜0.30/0.70となるのが好ましく、0.65/0.35〜0.35/0.65となるのがより好ましく、0.60/0.40〜0.40/0.60となるのがさらに好ましく、0.60/0.40〜0.50/0.50となるのが特に好ましい。
配合比が上記範囲を超えると、作製したフィルム状接着剤が硬化性に劣る、または未硬化フィルム状接着剤の粘度が高く、流動性に劣る可能性がある。
【0052】
なお、軟化点100℃以下且つエポキシ当量140以上であるエポキシ樹脂、その他のエポキシ樹脂、軟化点100℃以下且つ水酸基当量140以上であるフェノール樹脂、その他のフェノール樹脂以外に、(a)熱硬化性成分として、加熱により重合する(メタ)アクリル基等の官能基を有する樹脂を用いることができる。
【0053】
(b)高分子量成分:
(b)高分子量成分としては、架橋性官能基比率が高く分子量が低い高分子成分と、架橋性官能基比率が低く分子量が高い高分子成分との併用が好ましく、併用のうち前者の高分子成分が一定量以上含まれることが好ましい。
すなわち、架橋性官能基をモノマー比率で5〜15%含有し、Tg(ガラス転移温度)が−50℃〜50℃で、重量平均分子量が10万〜40万である第一の高分子量成分と、
架橋性官能基をモノマー比率で1〜7%含有し、Tg(ガラス転移温度)が−50℃〜50℃で、重量平均分子量が50万〜80万である第二の高分子量成分とからなり、第一の高分子量成分の割合が50質量%以上であることが好ましい。
本発明においては、第一及び第二の高分子量成分共にアクリル系樹脂が好ましく、更に、Tg(ガラス転移温度)が−50℃〜50℃で、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレート等のエポキシ基またはグリシジル基を架橋性官能基として有する官能性モノマーを重合して得たエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体等のアクリル系樹脂がより好ましい。
【0054】
このような樹脂として、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ基含有アクリルゴム等を使用することができ、エポキシ基含有アクリルゴムがより好ましい。エポキシ基含有アクリルゴムは、アクリル酸エステルを主成分とし、主として、ブチルアクリレートとアクリロニトリル等の共重合体や、エチルアクリレートとアクリロニトリル等の共重合体等からなるエポキシ基を有しているゴムである。
【0055】
なお、本発明において高分子量成分の架橋性官能基としては、エポキシ基だけでなく、アルコール性またはフェノール性水酸基、カルボキシル基等の架橋性官能基が挙げられる。
【0056】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
ガラス転移温度は、DSC(熱示差走査熱量計)(例えば、(株)リガク製「Thermo Plus 2」)を用いて測定したものをいう。
【0057】
フィルムの成形性、硬化後の接着強度を維持できる程度に上記第一の高分子量成分の分子量が低すぎなければ、第一の高分子量成分単体でも使用可能である。または、より分子量が大きい第二の高分子量成分と併用し、かつ、第一の高分子量成分の割合が50質量%以上とする場合には、さらにフィルムの破断性が良好になる傾向にある。第一の高分子量成分は60質量%以上がより好ましい。
【0058】
また、上記高分子量成分のTgが50℃以下であれば、フィルム状接着剤の柔軟性が充分であり、Tgが−50℃以上であれば、フィルム状接着剤の柔軟性が高すぎないため、ウェハダイシング時にフィルム状接着剤が切断しやすく、ダイシング性に影響するバリの発生を抑制できる。
【0059】
上記第一の高分子量成分の重量平均分子量が10万未満であると、フィルム成膜性の悪化やフィルム状接着剤の接着力と耐熱性の低下を引き起こす場合があり、重量平均分子量が40万を超えると、未硬化フィルム状接着剤の破断性が悪くなる傾向にあり、伸び率と破断強度が高くなる傾向にある。このような観点から、第一の高分子量成分の重量平均分子量は、10万以上40万以下であることが好ましい。
【0060】
また、上記第二の高分子量成分の重量平均分子量が50万以上であると、第一の高分子量成分とブレンドすることによる成膜性を向上させる効果が充分に現れる傾向にあり、重量平均分子量が80万以下であると未硬化フィルム状接着剤の切削性と破断性が低下しないため、ダイシングの品質を維持できる。これらの点で、第二の高分子量成分の重量平均分子量は、50万以上80万以下であることが好ましい。
【0061】
更に、ウェハダイシング時にフィルム状接着剤を切断しやすく樹脂くずが発生し難い点、接着力と耐熱性が高い点、また未硬化フィルム状接着剤の高い流動性を発現させるという点で、(b)高分子量成分は、全体でTgが−20℃〜40℃である高分子量成分が好ましく、Tgが−10℃〜30℃である高分子量成分が好ましい。
【0062】
上記(b)高分子量成分は、(a)熱硬化性成分100質量部に対して、30〜100質量部含有することが好ましい。30質量部以上であれば、フィルムの可とう性が充分である。それとともに、加熱後に高弾性化して封止時に空隙を埋め込めなくなるのを防止できる傾向がある。一方、100質量部以下であれば、未硬化フィルムの流動性が充分であって、硬化後の接着力が低下しない傾向にある。より好ましくは、30〜60質量部である。
【0063】
更に、高い接着力を発現させるため、主に用いる第一の高分子量成分のグリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレート等の官能性モノマーのモノマー比率は、(使用した官能性モノマーの重量)/(使用した全モノマーの全重量)で5〜15%が好ましく、150℃/1時間加熱後の引っ張り弾性率を低く維持する観点から、5〜10%がより好ましい。
【0064】
本発明で使用する(b)高分子量成分は、市販品として入手することも可能である。例えば、帝国化学産業(株)製の商品名「アクリルゴムHTR−860P−30B−CHN」等が挙げられる。この化合物は、架橋性官能基としてグリシジル部位を有し、アクリル酸誘導体からなるアクリルゴムをベース樹脂とする化合物であり、重量平均分子量が10万〜30万、ガラス転移温度Tg(−7℃)である。
【0065】
(c)無機フィラー:
(c)無機フィラーとしては、Bステージ状態におけるフィルム状接着剤のダイシング性の向上、フィルム状接着剤の取扱い性の向上、熱伝導性の向上、溶融粘度の調整、チクソトロピック性の付与、接着力の向上等の観点から、シリカフィラーを配合することが好ましい。
【0066】
本実施形態の接着剤組成物においては、未硬化フィルム状接着剤の流動性と破断性、硬化後フィルム状接着剤の引っ張り弾性率と接着力を制御する観点から、(a)熱硬化性成分100質量部に対して、無機フィラーを10〜60質量部配合することが好ましい。上記下限値を下回る無機フィラーを配合した場合、未硬化フィルム状接着剤の破断性およびダイシング性が悪化し、硬化後の接着力の低下することがある。一方、上記上限値を超える無機フィラーを配合した場合、未硬化フィルム状接着剤の流動性が低下し、硬化後の引っ張り弾性率が高くなる傾向がある。より好ましい配合量は15〜50質量部である。
【0067】
無機フィラーは、未硬化フィルム状接着剤の破断性を向上し、硬化後の接着力を十分に発現させる目的で、平均粒径の異なる2種類以上のフィラーを混合することが好ましい。すなわち、未硬化フィルム状接着剤の破断性向上を目的とした平均粒径が0.4μm以上の第1のフィラーと、硬化後の接着力を十分に発現させることを目的とした平均粒径が0.4μm未満の第2のフィラーを含み、粒径が0.4μm以上の粒子が30体積%以上を占めることが好ましい。第1のフィラーの含有量が30体積%未満の場合には、フィルムの破断性が悪化し、未硬化フィルム状接着剤の流動性が悪化する傾向にある。ここで「平均粒径」とはレーザー回折式粒度分布測定装置でアセトンを溶媒として分析した場合に得られる値とする。また、各種類のフィラー同士は、粒度分布測定装置で各平均粒径が判別できる程度に平均粒径の差が大きいことがより好ましい。
【0068】
(d)硬化促進剤:
(d)硬化促進剤としては、反応性の観点からイミダゾール系の化合物が好ましい。
反応性が高すぎる硬化促進剤は、半導体装置の製造工程中で、特にワイヤボンディング工程の熱履歴で、フィルム状接着剤の急激な硬化を引き起こし、150℃/1時間加熱後の引っ張り弾性率が高くなる傾向にある。一方、反応性が低すぎる硬化促進剤は、半導体装置の製造工程内の熱履歴ではフィルム状接着剤が完全には硬化することが困難となり、未硬化のまま製品内に搭載されることとなり、その後の素子不具合を誘発するおそれがある。
【0069】
硬化促進剤の添加量が少なすぎる場合には、半導体装置の製造工程内の熱履歴ではフィルム状接着剤が完全には硬化することが困難となり、未硬化のまま製品内に搭載されることとなり、その後の素子不具合を誘発するおそれがある。一方、硬化促進剤の添加量が多すぎる場合には、半導体装置の製造工程中でフィルム状接着剤の急激な硬化を引き起こし、150℃/1時間加熱後の引っ張り弾性率が高くなる傾向にある。このような観点から、硬化促進剤は熱硬化性樹脂100質量部に対して、0〜0.07質量部含有することが好ましい。
【0070】
(e)その他の成分:
本実施形態の接着剤組成物は、上記(a)〜(d)の以外に、接着性向上の観点から、カップリング剤を含有することが好ましい。カップリング剤としては、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0071】
<フィルム状接着剤の製造方法>
フィルム状接着剤は、上述した接着剤組成物のワニスから作製することができる。
具体的には、まず、上記エポキシ樹脂及び上記フェノール樹脂を含む(a)熱硬化性樹脂、上記(b)高分子量成分、上記(c)無機フィラー、上記(d)硬化促進剤、必要に応じて上記カップリング剤等の他の添加成分を、有機溶媒中で混合、混練してワニスを調製する。
【0072】
次に、得られたワニスを基材フィルム上に塗布することによりワニスの層を形成する。次に、加熱乾燥によりワニス層から溶媒を除去した後、基材フィルムを除去することにより、フィルム状接着剤が得られる。
【0073】
上記の混合、混練は、通常の攪拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を用い、これらを適宜組み合わせて行うことができる。上記の加熱乾燥は、使用した溶媒が充分に揮散する条件であれば特に制限はないが、通常60℃〜200℃で、0.1〜90分間加熱して行うことができる。
【0074】
上記ワニスを作製するための有機溶媒は、上記各成分を均一に溶解、混練または分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。このような溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン、トルエン、キシレン等が挙げられる。乾燥速度が速く、価格が安い点でメチルエチルケトン、シクロヘキサノン等を使用することが好ましい。
【0075】
上記基材フィルムとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム等)、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム、メチルペンテンフィルム等が挙げられる。
【0076】
<本発明のフィルム状接着剤及び接着シートの実施形態>
フィルム状接着剤の膜厚は、半導体素子接続用のワイヤや、基板の配線回路等の凹凸を十分に充填可能とするため、5〜200μmであることが好ましい。膜厚が5μmより薄いと、接着力が乏しくなる傾向があり、200μmより厚いと、経済的でなくなる上に、半導体装置の小型化の要求に応えることが困難となる。なお、接着性が高く、また、半導体装置を薄型化できる点で、フィルム状接着剤の膜厚は10〜100μmがより好ましく、20〜75μmが更により好ましい。
【0077】
本発明のフィルム状接着剤は、基材フィルムに積層することで接着シートとして用いることができる。また、基材フィルム上に上記ワニスを塗布して乾燥したものをそのまま接着シートとしてもよい。
図1の(a)は、本発明に係る接着シートの一実施形態を示す模式縦断面図である。
図1に示す接着シート100は、基材フィルム2と、これの一方面上に設けられた本発明のフィルム状接着剤1とから構成される。
【0078】
フィルム状接着剤1は、基材フィルム2に、予め得られた本発明に係るフィルム状接着剤を積層することにより設けることができる。また、より厚膜のフィルム状接着剤1を製造する方法の1つとして、予め得られたフィルム状接着剤1と接着シート100のフィルム状接着剤1との貼り合わせにより形成することもできる。
【0079】
図1の(b)は、本発明に係る接着シートの他の一実施形態を示す模式縦断面図である。(b)に示す接着シート110は、基材フィルム2の上に設けられたフィルム状接着剤1の基材フィルム2とは反対側面上に、さらにカバーフィルム3を設けた構造を有する。
【0080】
また、カバーフィルム3としては、例えば、PETフィルム、PEフィルム、OPPフィルム等が挙げられる。
【0081】
本発明のフィルム状接着剤は、それ自体で用いても構わないが、一実施態様として、本発明のフィルム状接着剤を従来公知のダイシングテープ上に積層したダイシング・ダイボンディング一体型接着シートとして用いることもできる。この場合、ウェハへのラミネート工程が一回で済む点で、作業の効率化が可能である。
【0082】
ダイシングテープとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルム等が挙げられる。また、ダイシングテープは、必要に応じて、プライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理等の表面処理が行われていてもよい。
【0083】
更に、ダイシングテープは粘着性を有するものが好ましく、上述のプラスチックフィルムに粘着性を付与したものを用いてもよいし、上述のプラスチックフィルムの片面に粘着剤層を設けてもよい。
【0084】
このようなダイシング・ダイボンディング一体型接着シートとしては、例えば、
図1の(c)及び(d)に示される構成を有するものが挙げられる。(c)に示す接着シート120は、引張テンションを加えたときの伸びを確保できる基材フィルム7上に粘着剤層6が設けられたダイシングテープを支持基材とし、該ダイシングテープの粘着剤層6上に、フィルム状接着剤1が設けられた構造を有している。
(d)に示す接着シート130は、(c)に示す接着シートのフィルム状接着剤1の表面に基材フィルム2が設けられている。
【0085】
基材フィルム7としては、ダイシングテープについて記載した上述のプラスチックフィルムが挙げられる。
また、粘着剤層6は、例えば、液状成分及び高分子量成分を含み適度なタック強度を有する樹脂組成物が挙げられる。粘着剤層6を基材フィルム7上に塗布し乾燥する、または、PETフィルム等の基材フィルムに塗布・乾燥させた粘着剤層を基材フィルム7と貼り合せることでダイシングテープは形成可能である。タック強度は、例えば、液状成分の比率、高分子量成分のTgを調整することにより、所望の値に設定される。
【0086】
ダイシング・ダイボンディング一体型接着シートが半導体装置の製造に用いられる場合、ダイシング時には半導体素子が飛散しない粘着力を有し、その後のピックアップ時にはダイシングテープから容易に剥離できることが必要である。
【0087】
係る特性は、上述したように粘着剤層のタック強度の調整、光反応等によるタック強度を変化させることによって得ることができるが、フィルム状接着剤の粘着性が高すぎるとピックアップが困難になることがある。そのため、本発明のフィルム状接着剤のタック強度を適宜調節することが好ましい。その方法としては、例えば、フィルム状接着剤の室温(25℃)におけるフローを上昇させると粘着強度及びタック強度も上昇する傾向があり、フローを低下させると粘着強度及びタック強度も低下する傾向があることを利用すればよい。
【0088】
例えば、フローを上昇させる場合には、可塑剤として機能する化合物の含有量の増加等の方法が挙げられる。フローを低下させる場合には、例えば、可塑剤として機能する化合物の含有量を減らす方法が挙げられる。上記可塑剤としては、例えば、単官能のアクリルモノマー、単官能エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0089】
ダイシングテープ上に本発明のフィルム状接着剤を積層する方法としては、上述した接着剤組成物のワニスを全面に塗布し乾燥する、または印刷により部分的に塗工する方法のほか、予め作製した本発明のフィルム状接着剤をダイシングテープ上に、プレス、ホットロールラミネートにより積層する方法が挙げられる。本実施形態においては、連続的に製造でき、効率がよい点で、ホットロールラミネートによる方法が好ましい。
【0090】
ダイシングテープの膜厚は、特に制限はなく、フィルム状接着剤の膜厚やダイシング・ダイボンディング一体型接着シートの用途によって適宜、当業者の知識に基づいて定めることができる。ダイシングテープの厚みが60μmを下回ると、取扱い性が悪く、またダイシングにより小片化されたチップをダイシングテープから剥離する工程でのエキスパンドによりダイシングテープが破れる傾向が高い。一方、経済性と取扱い性の良さという観点から、180μm以下が望ましい。以上の観点から、ダイシングテープの膜厚は60〜180μmが好ましい。
【0091】
<本発明のフィルム状接着剤または接着シートを用いて得た半導体装置>
本発明のフィルム状接着剤及び接着シートは、好ましくは半導体装置の製造に用いられる。より好ましくはウェハに、接着シート及びダイシングテープまたは、ダイシング・ダイボンディング一体型接着シートを貼り合わせる工程、その後、回転刃、レーザーあるいは伸張による分断で接着剤付きチップを得る工程、当該接着剤付きチップを、ワイヤで接続された半導体素子または段差を有する基板に圧着し、ワイヤや段差による凹凸を充てんして接着剤内に埋め込むダイボンド工程、封止材により封止する工程を含む半導体装置の製造に用いられる。なお、ウェハをダイシングし、研削によりウェハを薄型化して小片化チップを得た後、接着シートと貼り合わせてもよい。
本発明の半導体装置の製造において、ダイボンド工程と封止工程との間、例えばワイヤボンディング工程における熱履歴が150℃/1時間以下であることが好ましい。また、前記貼り合わせは0℃〜90℃が好ましい。
【0092】
「熱履歴が150℃/1時間以下」とは、ダイボンド工程から封止工程の間において熱処理の温度が150℃を超えず、かつ熱処理時間が1時間以下であることを示す。例えば、150℃未満であっても1時間を超えることは好ましくない場合がある。
【0093】
本発明において、ダイボンド工程の圧着条件における荷重は0.01〜0.50MPaであることが好ましく、0.02〜0.2MPaであることがより好ましい。荷重が0.01MPa未満であると未充填部位が過度に存在し、封止時の圧力によりチップが動いてしまい、半導体装置の品質を悪化させる危険性がある。一方、圧着荷重が0.50MPaを超えるとチップが破損する傾向がある。また、フィルム状接着剤付きチップを、凹凸を有する基板に圧着する際には、被着体あるいはフィルム状接着剤付きチップ、またはその両方を加熱することが望ましい。
【0094】
圧着条件における加熱温度は、80〜180℃であることが好ましく、80〜160℃であることがより好ましい。80℃未満であると凹凸の埋込性が低下する傾向があり、180℃を超えると基板が変形し、反りが大きくなる傾向がある。加熱方法としては、基板を加熱した熱板に接触させる、赤外線またはマイクロ波を照射する、熱風を吹きかける等の方法が挙げられる。
圧着時間は、0.5〜2.0秒が好ましい。
【0095】
ウェハとしては、単結晶シリコンの他、多結晶シリコン、各種セラミック、ガリウム砒素等の化合物半導体等が挙げられる。
【0096】
本発明のフィルム状接着剤を単体で用いる場合には、ウェハにフィルム状接着剤を貼り合わせ、次いで、フィルム状接着剤面にダイシングテープを貼り合わせればよい。
【0097】
フィルム状接着剤をウェハに貼り付ける温度、即ちラミネート温度は、通常、0〜90℃であり、好ましくは15〜80℃であり、さらに好ましくは40〜80℃である。90℃を超えるとフィルム状接着剤の過度な溶融による厚みの変化が顕著となる場合がある。ダイシングテープまたはダイシング・ダイボンディング一体型接着シートを貼り付ける際にも、上記温度で行うことが好ましい。
【0098】
封止工程における封止条件は、170〜180℃/6.0〜10.0MPa/90秒が好ましい。封止工程後に、さらに封止材を硬化させるための加熱処理工程を実施してもよい。
【0099】
本発明のフィルム状接着剤の用途として、フィルム状接着剤を備える半導体装置について図面を用いて具体的に説明する。なお、近年は様々な構造の半導体装置が提案されており、本発明のフィルム状接着剤の用途は、以下に説明する構造の半導体装置に限定されるものではない。
【0100】
図2の(a)は、本発明の半導体装置の一実施形態を示す模式縦断面図である。
(a)に示す半導体装置200において、一段目の半導体素子9aは本発明のフィルム状接着剤の硬化物1a(接着部材)により、端子13が形成された半導体素子搭載用支持部材10に接着され、一段目の半導体素子9aの上に更に本発明のフィルム状接着剤の硬化物1a(接着部材)により二段目の半導体素子9bが接着されている。一段目の半導体素子9a及び二段目の半導体素子9bの接続端子(図示せず)は、ワイヤ11を介して外部接続端子と電気的に接続され、封止材12によって封止されている。このように、本発明のフィルム状接着剤は、半導体素子を複数重ねる構造の半導体装置にも好適に使用できる。
【0101】
また、
図2の(b)は、本発明の半導体装置の別の実施形態を示す模式縦断面図である。
(b)に示す半導体装置210において、半導体素子9は本発明のフィルム状接着剤の硬化物1a(接着部材)により半導体素子搭載用支持部材10に接着され、半導体素子9の接続端子(図示せず)はワイヤ11を介して外部接続端子(図示せず)と電気的に接続され、封止材12によって封止されている。
【0102】
図2に示す半導体装置(半導体パッケージ)は、例えば、上述のフィルム状接着剤付きチップを半導体素子搭載用支持部材または半導体素子に加熱圧着して接着させ、その後、ワイヤボンディング工程と封止材による封止工程等の工程を経ることにより得ることができる。
【0103】
本発明のフィルム状接着剤または接着シートを用いて半導体装置を製造することで、圧着時にワイヤ下の空隙または基板段差に由来する凹凸を埋め込むことができ、また圧着後に空隙が残っても、フィルム状接着剤は150℃で1時間加熱した後の180℃での引っ張り弾性率が低弾性であることから、封止時に空隙が消失される。
【0104】
なお、本発明が提供するフィルム状接着剤は、ワイヤ埋込用途に限定されず、配線などに起因する凹凸を有する基板、リードフレームなどの金属基板などへ半導体素子を接着する用途でも同様に使用可能である。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜5及び比較例1〜2)
表1または表2に示す品名及び組成比(単位:質量部)の(a)熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂及びフェノール樹脂、(c)無機フィラーからなる組成物にシクロヘキサノンを加え、撹拌混合した。これに、表1または表2に同様に示す、(b)高分子量成分としてのアクリルゴムを加えて撹拌し、更に表1または表2に同様に示すカップリング剤及び(d)硬化促進剤を加えて各成分が均一になるまで撹拌してワニスを得た。
【0106】
なお、表1及び表2中の各成分の記号は下記のものを意味する。
【0107】
(エポキシ樹脂)
R710:(商品名、(株)プリンテック製、ビスフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量170、常温で液状、重量分子量約340)。なお、上記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂である。
YDCN−700−10:(商品名、東都化成(株)製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210、軟化点75〜85℃)。
【0108】
(フェノール樹脂)
ミレックスXLC−LL:(商品名、三井化学(株)製、フェノール樹脂、水酸基当量175、軟化点77℃、吸水率1質量%、加熱質量減少率4質量%)。なお、上記一般式(3)中、R
5が水素原子で、n=3であるフェノール樹脂である。
HE200C−10:(商品名、エア・ウォーター(株)製、フェノール樹脂、水酸基当量200、軟化点65〜76℃、吸水率1質量%、加熱質量減少率4質量%)。なお、上記一般式(4)で表されるフェノール樹脂である。
HE910−10:(商品名、エア・ウォーター(株)製、フェノール樹脂、水酸基当量101、軟化点83℃、吸水率1質量%、加熱質量減少率3質量%)。下記、一般式(5)で表されるフェノール樹脂である。一般式(5)中、m、nはそれぞれ0〜20である。好ましくはm、nは1〜5である。
【0109】
【化5】
【0110】
(無機フィラー)
SC2050−HLG:(商品名、アドマテックス(株)製、シリカフィラー分散液、平均粒径0.50μm)。
SC1030−HJA:(商品名、アドマテックス(株)製、シリカフィラー分散液、平均粒径0.25μm)。
アエロジルR972:(商品名、日本アエロジル(株)製、シリカ、平均粒径0.016μm)。
【0111】
(高分子量成分)
アクリルゴムHTR−860P−30B−CHN:(サンプル名、帝国化学産業(株)製、重量平均分子量23万、グリシジル官能基モノマー比率8%、Tg:−7℃)。
アクリルゴムHTR−860P:(サンプル名、帝国化学産業(株)製、重量平均分子量80万、グリシジル官能基モノマー比率3%、Tg:−7℃)。
【0112】
(カップリング剤)
NUC A−1160:(商品名、GE東芝(株)製、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン)。
NUC A−189:(商品名、GE東芝(株)製、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)。
【0113】
(硬化促進剤)
キュアゾール2PZ−CN:(商品名、四国化成工業(株)製、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール)。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
次に、得られたワニスを100メッシュのフィルターでろ過し、真空脱泡した。真空脱泡後のワニスを、基材フィルムとしての、厚さ38μmの離型処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布した。塗布したワニスを、90℃で5分間、続いて140℃で5分間の2段階で加熱乾燥した。こうして、基材フィルムとしてのPETフィルム上に、Bステージ状態にある厚み60μmのフィルム状接着剤を備えた接着シートを得た。
【0117】
<各種物性の評価>
得られた接着シートのフィルム状接着剤について、25℃での伸び率・破断強度、極薄ウェハ貼り付け品での分断性、80℃でのずり粘度、ワイヤ埋込性、150℃/1時間熱処理後の引っ張り弾性率、モールド埋込性、接着強度の測定、並びに、耐リフロー性の評価を行った。
【0118】
[伸び率・破断強度測定]
フィルム状接着剤の伸び率・破断強度は下記の方法により評価した。
厚みが60μmの上記接着シートを幅10mm、長さ50mmの短冊状に切り出し、カバーフィルムと基材フィルムを剥離除去した。これを引張圧着試験機(製品名:SL−2001、(株)今田製作所製)にチャック間距離が20mmとなるようにしてセットし、25℃で50mm/分の引張速度で引っ張り試験を行った。フィルム状接着剤が破断した時の引張強度を破断強度とした。また、伸び率は、破断するまでのフィルム状接着剤の伸び量をチャック間距離20mmで割ることにより算出した。測定は4サンプル実施し、その平均値を測定値として記録した。
【0119】
[極薄ウェハ貼り付け品での分断性評価]
極薄ウェハ貼り付け品での分断性を下記の方法により評価した。
625μm厚みの半導体ウェハ(12インチ)を10mm角サイズでハーフカットし、ウェハ表面にBGテープを貼り付けた後、ウェハ裏面を研磨することで50μmまで厚みを薄くした。こウェハ裏面に上記で得られた接着シートのフィルム状接着剤(厚み60μm)を70℃で貼り付けた。当該ウェハ貼り付け品を0℃、突き上げ速度200mm/秒、突き上げ量6mmの条件下、エキスパンド分断装置(製品名:DDS2300、Disco社製)にて処理し、フィルム状接着剤の分断を試みた。ウェハ3枚を評価し、フィルム状接着剤が問題なく分断されている場合に分断性が良好として「○」とし、良好に分断されていない部分が5%を超える場合は「×」とした。
【0120】
[ずり粘度測定]
フィルム状接着剤の80℃でのずり粘度は下記の方法により評価した。
上記接着シート3枚から、基材フィルムを剥離除去した後、3枚のフィルム状接着剤を70℃で3枚貼り合わせて厚み180μmの積層体を得た。次いで、その積層体を、厚み方向に10mm角に打ち抜き、10mm角、厚み180μmの四角形の積層体を得た。動的粘弾性装置ARES(レオメトリック・サイエンティフィック社製)に直径8mmの円形アルミプレート治具をセットし、更にここに打ち抜いたフィルム状接着剤の積層体をセットした。その後、35℃で5%の歪みを与えながら5℃/分の昇温速度で昇温させながら測定し、80℃のずり粘度の値を測定値として記録した。
【0121】
[ワイヤ埋込性の評価]
フィルム状接着剤のワイヤ埋込性を下記の方法により評価した。
上記で得られた接着シートのフィルム状接着剤(厚み60μm)を、厚み50μmの半導体ウェハ(8インチ)に70℃で貼り付けた。次に、それらを7.5mm角にダイシングしてチップを得た。
【0122】
個片化したチップの接着剤を、
図3(a)に示す評価用基板300に120℃、0.10MPa、1秒間の条件で圧着して
図3の(b)に示すサンプル310を得た。なお、(a)に示す評価用基板300は、一段目の半導体素子9aが、一般的な従来の半導体用フィルム状接着剤1b(日立化成工業(株)製のFH−900−20)により、半導体素子搭載用支持部材10に接着されている。なお、半導体素子9aには、ワイヤ11が接続されている。
(b)に示すサンプル310は、評価用基板300に、個片化したチップ(二段目の半導体素子9b+フィルム状接着剤1(硬化前))を圧着したものである。
【0123】
得られたサンプルについて、全てのワイヤの下部を
図4のようにSEMにより観察した。全ワイヤ本数(合計64本)の内90%以上のワイヤで、その下部が(b)のようにフィルム状接着剤で良好に充填されている場合にワイヤ埋込性が良好として「○」とし、良好に充填されているワイヤが90%に満たない場合は「×」とした。良好に充填されていない例を(a)に示す。
【0124】
[150℃/1時間加熱後の引っ張り弾性率の測定]
フィルム状接着剤の150℃/1時間加熱後の引っ張り弾性率は下記の方法により評価した。
上記接着シート2枚から、基材フィルムを剥離除去した後、2枚のフィルム状接着剤を70℃で2枚貼り合わせて厚み120μmの積層体を得た。次いで、その積層体を、厚み方向に4mm幅、長さ30mmに切り出し、150℃のオーブンで1時間加熱した。得られたサンプルを動的粘弾性装置(製品名:Rheogel−E4000、(株)UMB製)にセットし、引張り荷重をかけて、周波数10Hz、昇温速度3℃/分で測定し、180℃での測定値を150℃/1時間加熱後の引っ張り弾性率として記録した。
【0125】
[モールド埋込性の評価]
フィルム状接着剤のモールド埋込性を下記の方法により評価した。
上記[ワイヤ埋込性の評価]で得たサンプルと同様に、上記で得られた接着シートのフィルム状接着剤60μmを厚み50μmの半導体ウェハに70℃で貼り付けた。次に、それらを7.5mm角にダイシングしてチップを得た。個片化したチップの接着剤を、
図3(a)に記載の評価用基板300に120℃、0.10MPa、1秒間の条件で圧着してサンプル310(
図3(b))を得た。
【0126】
得られたサンプルを125℃で60分間加熱し、更にホットプレートを用いて、ワイヤボンディングと同等の熱履歴(150℃、1時間)をサンプルに与えた。次いで、モールド用封止材(日立化成工業(株)、商品名「CEL−9750ZHF10)を用いて、175℃/6.7MPa/90秒の条件で樹脂封止し、175℃、5時間の条件で封止材を硬化させてパッケージを得た。
【0127】
得られたパッケージの一部を超音波映像装置 SAT(日立建機製、品番FS200II、プローブ:120MHz)にて分析し、封止後の埋込性を確認した。埋め込み性の評価基準は以下の通りである。
○:ボイドの割合が15%未満。
×:ボイドの割合が15%以上。
【0128】
[接着強度の測定]
フィルム状接着剤のダイシェア強度(接着強度)を下記の方法により測定した。
まず、上記で得られた接着シートのフィルム状接着剤60μmを厚み400μmの半導体ウェハに70℃で貼り付けた。次に、それらを5.0mm角にダイシングしてチップを得た。個片化したチップのフィルム状接着剤側を窒化ケイ素で表面処理した厚み625μmの半導体チップ上に120℃、0.1MPa、5秒間の条件で熱圧着してサンプルを得た。その後、得られたサンプルの接着剤を125℃で1時間、150℃で1時間、170℃で3時間の順のステップキュアにより硬化した。更に、接着剤硬化後のサンプルを85℃、60RH%条件の下、168時間放置した。その後、サンプルを25℃、50%RH条件下で30分間放置し、250℃でダイシェア強度を測定し、これを接着強度とした。
【0129】
[耐リフロー性の評価]
フィルム状接着剤の耐リフロー性を下記の方法により評価した。
上記[ワイヤ埋込性の評価]で得たサンプルと同様に、上記で得られた接着シートのフィルム状接着剤60μmを厚み50μmの半導体ウェハに70℃で貼り付けた。次に、それらを7.5mm角にダイシングしてチップを得た。個片化したチップの接着剤を、
図3(a)に記載の評価用基板300に120℃、0.10MPa、1秒間の条件で圧着してサンプル310(
図3(b))を得た。
【0130】
得られたサンプルを125℃で60分間加熱し、更にホットプレートを用いて、ワイヤボンディングと同等の熱履歴(150℃、1時間)をサンプルに与えた。次いで、モールド用封止材(日立化成工業(株)製、商品名「CEL−9750ZHF10」)を用いて、175℃/6.7MPa/90秒の条件で樹脂封止し、175℃、5時間の条件で封止材を硬化させてパッケージを得た。
【0131】
上記のパッケージを24個準備し、これらをJEDECで定めた環境下(レベル3、30℃、60RH%、192時間)に曝して吸湿させた。続いて、IRリフロー炉(260℃、最高温度265℃)に吸湿後のパッケージを3回通過させた。パッケージの破損や厚みの変化、フィルム状接着剤と半導体素子との界面での剥離等が1個も観察されない場合を「○」、1個でも観察された場合を「×」と評価した。結果を表3に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
表3に示した結果から明らかなように、実施例1〜2の接着シートは、比較例1〜2の接着シートと比較して、ワイヤ埋込性に優れ、150℃/1時間以下の熱履歴後でも、175℃/6.7MPa/90秒の封止条件で封止することにより空隙が消失し、耐リフロー性にも優れることが確認された。