特許第6215527号(P6215527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6215527
(24)【登録日】2017年9月29日
(45)【発行日】2017年10月18日
(54)【発明の名称】物理量計測装置及び物理量計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 3/028 20060101AFI20171005BHJP
   H03H 21/00 20060101ALI20171005BHJP
   H03H 17/00 20060101ALI20171005BHJP
   G01C 17/38 20060101ALN20171005BHJP
   G01P 21/00 20060101ALN20171005BHJP
   G01L 1/00 20060101ALN20171005BHJP
【FI】
   G01D3/028 Z
   H03H21/00
   H03H17/00 601E
   !G01C17/38 C
   !G01P21/00
   !G01L1/00 K
【請求項の数】24
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-260847(P2012-260847)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2013-178230(P2013-178230A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-20652(P2012-20652)
(32)【優先日】2012年2月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】北浦 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 憲彦
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−108751(JP,A)
【文献】 特開2000−151434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 3/00 −036
H03H 17/00
H03H 21/00
G01C 17/38
G01G 23/37
G01P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を演算する物理量演算装置を備えた物理量計測装置において、
前記物理量演算装置が、
前記物理量信号出力装置が検出する物理量の変動状態を推定する変動状態推定部と、
該変動状態推定部により推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、該フィルタ係数を出力するフィルタ係数出力部と、
該フィルタ係数出力部により出力されたフィルタ係数と前記物理量信号出力装置から出力される出力値とに基づいて、該出力値の補正値を出力する補正信号出力部と
を備え、
前記変動状態推定部が、
複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定する第1の変動状態推定部と、
ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、該測定時刻に近接する測定時刻に得られた物理量に基づく信号とに基づいて物理量の変動状態を推定する第2の変動状態推定部とを有し、
前記フィルタ係数出力部が、前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していると推定された場合には、前記第2の変動状態推定部により推定された物理量の変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部において物理量が変動していると推定された場合には、前記第2の変動状態推定部及び前記第1の変動状態推定部により推定された物理量の変動状態に基づいてフィルタ係数を決定することを特徴とする物理量計測装置。
【請求項2】
前記第2の変動状態推定部が、物理量の変動量が所定の閾値より小さいかどうかを判定する変動状態判定部を有し、前記第1の変動状態推定部が、前記変動状態判定部からの判定結果に基づき、前記複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定することを特徴とする請求項1に記載の物理量計測装置。
【請求項3】
前記フィルタ係数出力部が、
前記第2の変動状態推定部により物理量が変動していると推定された場合には前記フィルタ係数として第3のフィルタ係数を選択し、
前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部において物理量が変動していると推定された場合には、前記フィルタ係数として第2のフィルタ係数を選択し、
前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部においても物理量が変動していないと推定された場合には、前記フィルタ係数として第1のフィルタ係数を選択するフィルタ係数選択部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の物理量計測装置。
【請求項4】
物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を演算する物理量演算装置を備えた物理量計測装置において、
前記物理量演算装置が、
前記物理量信号出力装置が検出する物理量の変動状態を推定する変動状態推定部と、
該変動状態推定部により推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、該フィルタ係数を出力するフィルタ係数出力部と、
該フィルタ係数出力部により出力されたフィルタ係数と前記物理量信号出力装置から出力される出力値とに基づいて、該出力値の補正値を出力する補正信号出力部と
を備え、
前記補正信号出力部が、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、前記測定時刻よりも前に得られた補正信号と、フィルタ係数とに基づいて新たな補正信号とを出力し、
前記変動状態推定部が、前記物理量に基づく信号と前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の大小関係を判定する大小関係判定部を備え、
前記フィルタ係数出力部が、複数の前記大小関係に基づいて第1フィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力部を備えていることを特徴とする物理量計測装置。
【請求項5】
ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の差分値又は互いに異なるタイミングで得られた前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の差分値を算出する差分値算出部と、
該差分値算出部により算出された前記差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力する第2フィルタ係数出力部と、
前記第1及び第2フィルタ係数のいずれか一方を前記フィルタ係数として選択するフィルタ係数選択部とを更に備えたことを特徴とする請求項4に記載の物理量計測装置。
【請求項6】
前記第1フィルタ係数出力部が、前記所望サイクル中において、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係が、相対的にいずれか一方の信号に偏っている場合は、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力し、
前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係に、相対的な偏りがないときは、前記補正信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力することを特徴とする請求項4又は5に記載の物理量計測装置。
【請求項7】
前記第2フィルタ係数出力部が、ある測定時刻に得られた前記物理量に基づく信号と、該測定時刻の直前に得られた補正信号の差分値及びある測定時刻に得られた前記物理量に基づく信号と、該測定時刻の2つ前の時刻に得られた補正信号との差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力することを特徴とする請求項5又は6に記載の物理量計測装置。
【請求項8】
前記第2フィルタ係数出力部が、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に大きい場合は、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力し、
前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値、または、互いに異なる補正信号の差分値が相対的に小さい場合は、前記補正信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力することを特徴とする請求項5,6又は7に記載の物理量計測装置。
【請求項9】
前記フィルタ係数選択部が、第1フィルタ係数及び第2フィルタ係数のうち、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度がより大きくなる一方を選択することを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載の物理量計測装置。
【請求項10】
前記補正信号出力部が、
Snew=a×Sin+(1−a)×Sold ・・・(1)
a=max(a1,a2) ・・・(2)
(Snew:新たな補正信号、Sin:物理量に基づく信号、Sold:補正信号、a:フィルタ係数選択部により選択された係数、a1:第1フィルタ係数、a2:第2フィルタ係数)
の前記(1)式で表される関係式によって新たな補正信号を出力し、前記フィルタ係数選択部は、前記式(2)で表される関係式によって前記フィルタ係数を選択することを特徴とする請求項5乃至9のいずれかに記載の物理量計測装置。
【請求項11】
前記物理量信号出力装置は、目的となる物理量を計測するために必要な物理量信号を出力する物理量計測素子を有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の物理量計測装置。
【請求項12】
物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を計測する物理量計測方法において、
物理量に基づく信号を検出部により検出する検出ステップと、
該検出するステップにより検出された物理量の変動状態を変動状態推定部により推定する変動状態推定ステップと、
該変動状態推定ステップにより推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、該フィルタ係数をフィルタ係数出力部により出力するフィルタ係数出力ステップと、
該フィルタ係数出力ステップにより出力されたフィルタ係数と前記検出部から出力される出力値とに基づいて、該出力値の補正値を補正信号出力部により出力する補正信号出力ステップとを有し、
前記変動状態推定ステップが、
複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定する第1の変動状態推定ステップと、
ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、該測定時刻に近接する測定時刻に得られた物理量に基づく信号とに基づいて物理量の変動状態を推定する第2の変動状態推定ステップとを有し、
前記フィルタ係数出力ステップが、前記第2の変動状態推定ステップにおいて物理量が変動していると推定された場合には、前記第2の変動状態推定ステップにより推定された物理量の変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、前記第2の変動状態推定ステップにおいて物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定ステップにおいて物理量が変動していると推定された場合には、前記第2の変動状態推定ステップ及び前記第1の変動状態推定ステップにより推定された物理量の変動状態に基づいてフィルタ係数を決定することを特徴とする物理量計測方法。
【請求項13】
前記第2の変動状態推定ステップが、物理量の変動量が所定の閾値より小さいかどうかを判定する変動状態判定ステップを有し、前記第1の変動状態推定ステップが、前記変動状態判定ステップからの判定結果に基づき、前記複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定することを特徴とする請求項12に記載の物理量計測方法。
【請求項14】
前記フィルタ係数出力ステップが、
前記第2の変動状態推定部により物理量が変動していると推定された場合には前記フィルタ係数として第3のフィルタ係数を選択し、
前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部において物理量が変動していると推定された場合には、前記フィルタ係数として第2のフィルタ係数を選択し、
前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部においても物理量が変動していないと推定された場合には、前記フィルタ係数として第1のフィルタ係数を選択するフィルタ係数選択ステップを有することを特徴とする請求項12又は13に記載の物理量計測方法。
【請求項15】
物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を計測する物理量計測方法において、
物理量に基づく信号を検出部により検出する検出ステップと、
該検出するステップにより検出された物理量の変動状態を変動状態推定部により推定する変動状態推定ステップと、
該変動状態推定ステップにより推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、該フィルタ係数をフィルタ係数出力部により出力するフィルタ係数出力ステップと、
該フィルタ係数出力ステップにより出力されたフィルタ係数と前記検出部から出力される出力値とに基づいて、該出力値の補正値を補正信号出力部により出力する補正信号出力ステップとを有し、
前記補正信号出力ステップが、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、前記測定時刻よりも前に得られた補正信号と、フィルタ係数とに基づいて新たな補正信号を出力し、
前記変動状態推定ステップが、前記物理量に基づく信号と前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の大小関係を判定する大小関係判定ステップを有し、
前記フィルタ係数出力ステップが、複数の前記大小関係に基づいて第1フィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力ステップを有することを特徴とする物理量計測方法。
【請求項16】
前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係を判定する大小関係判定ステップと、複数の前記大小関係に基づいて第1のフィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力ステップとに加えて、
前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値又は互いに異なるタイミングで得られた補正信号の差分値を算出する差分値算出ステップと、
前記差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力する第2フィルタ係数出力ステップと、
前記第1及び第2フィルタ係数のいずれか一方を前記フィルタ係数として選択するフィルタ係数選択ステップとにより前記フィルタ係数を求めることを特徴とする請求項15に記載の物理量計測方法。
【請求項17】
前記第1フィルタ係数出力ステップが、
前記所望サイクル中において、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係が、相対的にいずれか一方の信号に偏っている場合は、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力し、
前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係に、相対的な偏りがないときは、前記補正信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力するステップであることを特徴とする請求項15又は16に記載の物理量計測方法。
【請求項18】
前記第2フィルタ係数出力ステップが、
ある測定時刻に得られた前記物理量に基づく信号と、該測定時刻の直前に得られた補正信号の差分値及びある測定時刻に得られた前記物理量に基づく信号と、該測定時刻の2つ前の時刻に得られた補正信号との差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力するステップであることを特徴とする請求項16又は17に記載の物理量計測方法。
【請求項19】
前記第2フィルタ係数出力ステップが、
前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に大きい場合は、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力し、
前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に小さい場合は、前記補正信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力するステップであることを特徴とする請求項16,17又は18に記載の物理量計測方法。
【請求項20】
前記フィルタ係数選択ステップが、
第1フィルタ係数及び第2フィルタ係数のうち、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度がより大きくなる一方を選択するステップであることを特徴とする請求項16乃至19のいずれかに記載の物理量計測方法。
【請求項21】
前記補正信号出力ステップが、
Snew=a×Sin+(1−a)×Sold ・・・(3)
a=max(a1,a2) ・・・(4)
(Snew:新たな補正信号、Sin:物理量に基づく信号、Sold:補正信号、a:フィルタ係数選択部により選択された係数、a1:第1フィルタ係数、a2:第2フィルタ係数)
の前記式(3)で表される関係式によって新たな補正信号を出力し、前記フィルタ係数選択部は、前記式(4)で表される関係式によって前記フィルタ係数を選択するステップであることを特徴とする請求項16乃至20のいずれかに記載の物理量計測方法。
【請求項22】
物理量に基づく信号を出力する物理量信号出力ステップが、目的となる物理量を計測するために必要な物理量信号を物理量計測素子により出力することを特徴とする請求項12乃至21のいずれかに記載の物理量計測方法。
【請求項23】
物理量に基づく信号を出力する物理量信号を用いて、請求項12乃至22のいずれかに記載の物理量計測方法における全てのステップをコンピュータにより実行させるためのプログラム。
【請求項24】
請求項23に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量計測装置及び物理量計測方法に関し、より詳細には、物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を計測する物理量計測装置及び物理量計測方法に関する。特に、電子コンパスに適用できるものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、物理量計測装置としては、例えば、速度センサ、加速度センサ、角速度センサ、磁気センサ、地磁気センサ、方位角センサ、電子コンパス、温度センサ、圧力センサなどがよく知られている。それぞれ外部からの情報を得るための物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号に所定の信号処理を施すことによって目的の物理量を計測している。マイクロフォンも、音すなわち空気の振動を検知するセンサであり、物理量計測装置に含まれる。
【0003】
ここで、物理量信号出力装置から出力される信号には目的の物理量とは関係のないノイズ信号が含まれていることがあり、物理量信号出力装置から出力される信号からノイズ信号を低減する補正を行うことで目的の物理量をより高精度に計測することが可能になる。物理量信号出力装置から出力される信号からノイズ信号を除去する方法としては、例えば第1のフィルタよりも速度の大きい第2のフィルタの出力信号に基づいて第1のフィルタの係数を更新する方法などが知られている。
【0004】
図1は、従来の物理量計測装置を説明するためのブロック図で、特許文献1の図12に記載されているものである。特許文献1に記載の物理量計測装置は、音声認識装置やテレビ会議装置などで音声入力のためにマイクロホンアレイを用いて妨害雑音を抑圧し目的信号の音声を抽出するマイクロホンアレイ処理装置に適した信号処理装置に関するもので、第1の適応フィルタ1は、参照信号xに対してフィルタ演算を行って出力信号y1を得るフィルタ部11−1と、希望応答dからフィルタ部11−1の出力信号を減算して誤差信号e1を得る減算器12−1と、参照信号xと誤差信号e1に基づいてフィルタ部11−1のフィルタ係数を更新する適応モード制御部14−1およびフィルタ更新演算部15−1とからなる。この第1の適応フィルタ1の出力信号が信号処理装置の出力となる。
【0005】
また、第2の適応フィルタ2は、一般的なNLMSアルゴリズムによる適応フィルタの構成であり、参照信号xに対してフィルタ演算を行って出力信号y2を得るフィルタ部11−2と、希望応答dからフィルタ部11−2の出力信号y2を減算して誤差信号e2を得る減算器12−2と、参照信号xと誤差信号eに基づいてフィルタ更新の演算を行うフィルタ更新演算部15−2とからなる。
【0006】
ここで、第2の適応フィルタ2は第1の適応フィルタ1よりも適応速度が高く設定されており、第2の適応フィルタ2の出力信号パワーに基づき、適応モード制御部14−1において第1の適応フィルタ1の適応速度を制御するようにする。
このような構成により、目的信号を歪ませたり、背景雑音に対して適応してしまうことなく、確実な適応動作を可能とした適応フィルタを用いた信号処理装置を実現することができるというものである。
【0007】
また、例えば、特許文献2に記載のものは方位情報装置に関するもので、3次元の磁気センサと該磁気センサの姿勢に対応する姿勢データとを備え、磁気センサデータを取得した時点における前記姿勢データに基づいて、磁気センサデータと姿勢データから導出される方位角のデータを平滑化する平滑化フィルタの平滑化強度を選択するというものである。
【0008】
さらに、特許文献3に記載のものも方位情報装置に関するもので、直前に得た地磁気強度の情報と現在の地磁気強度の情報、もしくは直前に得た方位情報と現在の方位情報に基づいて、方位計算のアルゴリズムを選択するというもので、磁気ノイズの影響を低減するようにした電子コンパスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−124678号公報
【特許文献2】特開2008−164514号公報
【特許文献3】米国特許第7328105号明細書(B1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された適応フィルタを用いた信号処理装置では、第2の適応フィルタがフィルタ更新の演算を行った結果の出力パワーに基づき、系の出力を得る第1の適応フィルタの適応モードを制御する構成のため、第1の適応フィルタの適応のための時間に加え、第2の適応フィルタの適応のための時間が必要となり、急峻な信号変化の場合に応答性の低下が顕在化するという問題がある。
【0011】
また、特許文献2のものでは、磁気センサの姿勢に応じて方位角データの平滑化フィルタの平滑化強度が選択されるので、姿勢によっては平滑化の強度を強くする必要があるため信号処理に時間を要し、急峻な信号変化の場合に応答性の低下が顕在化するという問題がある。
さらに、特許文献3のものでは、地磁気強度が小さい場合には、雑音抑圧のために平滑化強度を強い値を選ぶことになり、急峻な信号変化の場合にフィルタの応答性の低下が顕在化するという問題がある。また、磁気センサの向く方向がゆっくりとした連続した変化をする場合、すなわち、直前に得た方位情報と現在の方位情報の差が小さい状況が連続的に発現する場合に、方位情報が変化していないと判定されて平滑化強度が強い値に固定されてしまい、方位の追従性の劣化をまねき、結果として方位角の誤差が観測されてしまうという問題がある。
【0012】
つまり、物理量信号出力装置から出力される信号からノイズ信号を除去する際に、あらゆるノイズを遂次的に完全に除去すれば目的の物理量を高精度に計測することが可能になるが、応答性の低下を招来するという問題がある。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、応答性が良く、かつ、物理量信号出力装置から出力される信号に含まれるノイズ成分を効率的に除去して高精度な物理量計測が可能な物理量計測装置及び物理量計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成要件を有する物理量計測装置及び物理量計測方法に記載の発明により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、物理量信号出力装置(21,41,61)から出力される物理量に基づく信号から物理量を演算する物理量演算装置(22,42,62)を備えた物理量計測装置(20,40,60)において、前記物理量演算装置(62)が、前記物理量信号出力装置(61)が検出する物理量の変動状態を推定する変動状態推定部(71a)と、該変動状態推定部(71a)により推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、該フィルタ係数を出力するフィルタ係数出力部(71b)と、該フィルタ係数出力部(71b)により出力されたフィルタ係数と前記物理量信号出力装置(61)から出力される出力値とに基づいて、該出力値の補正値を出力する補正信号出力部(73)とを備え、前記変動状態推定部が、複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定する第1の変動状態推定部と、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、該測定時刻に近接する測定時刻に得られた物理量に基づく信号とに基づいて物理量の変動状態を推定する第2の変動状態推定部とを有し、前記フィルタ係数出力部が、前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していると推定された場合には、前記第2の変動状態推定部により推定された物理量の変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部において物理量が変動していると推定された場合には、前記第2の変動状態推定部及び前記第1の変動状態推定部により推定された物理の変動状態に基づいてフィルタ係数を決定することを特徴とする。(図9
【0015】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記第2の変動状態推定部が、物理量の変動量が所定の閾値より小さいかどうかを判定する変動状態判定部を有し、前記第1の変動状態推定部が、前記変動状態判定部(71a)からの判定結果に基づき、前記複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記フィルタ係数出力部が、前記第2の変動状態推定部により物理量が変動していると推定された場合には前記フィルタ係数として第3のフィルタ係数を選択し、前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部において物理量が変動していると推定された場合には、前記フィルタ係数として第2のフィルタ係数を選択し、前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部においても物理量が変動していないと推定された場合には、前記フィルタ係数として第1のフィルタ係数を選択するフィルタ係数選択部を有することを特徴とする。
【0017】
また、請求項に記載の発明は、物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を演算する物理量演算装置を備えた物理量計測装置において、前記物理量演算装置が、前記物理量信号出力装置が検出する物理量の変動状態を推定する変動状態推定部と、該変動状態推定部により推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、該フィルタ係数を出力するフィルタ係数出力部と、該フィルタ係数出力部により出力されたフィルタ係数と前記物理量信号出力装置から出力される出力値とに基づいて、該出力値の補正値を出力する補正信号出力部とを備え、前記補正信号出力部(73)が、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、前記測定時刻よりも前に得られた補正信号と、フィルタ係数とに基づいて新たな補正信号とを出力し、前記変動状態推定部(71a)が、前記物理量に基づく信号と前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の大小関係を判定する大小関係判定部(51)を備え、前記フィルタ係数出力部(71b)が、複数の前記大小関係に基づいて第1フィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力部(32,52)を備えていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の差分値又は互いに異なるタイミングで得られた前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の差分値を算出する差分値算出部(54)と、該差分値算出部(54)により算出された前記差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力する第2フィルタ係数出力部(55)と、前記第1及び第2フィルタ係数のいずれか一方を前記フィルタ係数として選択するフィルタ係数選択部(56)とを更に備えたことを特徴とする。
【0019】
また、請求項に記載の発明は、請求項又はに記載の発明において、前記第1フィルタ係数出力部(32,52)が、前記所望サイクル中において、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係が、相対的にいずれか一方の信号に偏っている場合は、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力し、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係に、相対的な偏りがないときは、前記補正信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力することを特徴とする。
【0020】
また、請求項に記載の発明は、請求項又はに記載の発明において、前記第2フィルタ係数出力部(55)が、ある測定時刻に得られた前記物理量に基づく信号と、該測定時刻の直前に得られた補正信号の差分値及びある測定時刻に得られた前記物理量に基づく信号と、該測定時刻の2つ前の時刻に得られた補正信号との差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力することを特徴とする。
【0021】
また、請求項に記載の発明は、請求項又はに記載の発明において、前記第2フィルタ係数出力部(55)が、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に大きい場合は、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力し、
前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値、または、互いに異なる補正信号の差分値が相対的に小さい場合は、前記補正信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力することを特徴とする。
【0022】
また、請求項に記載の発明は、請求項乃至のいずれかに記載の発明において、前記フィルタ係数選択部(56)が、第1フィルタ係数及び第2フィルタ係数のうち、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度がより大きくなる一方を選択することを特徴とする。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、請求項乃至のいずれかに記載の発明において、前記補正信号出力部(33,53,73)が、
Snew=a×Sin+(1−a)×Sold ・・・(1)
a=max(a1,a2) ・・・(2)
(Snew:新たな補正信号、Sin:物理量に基づく信号、Sold:補正信号、a:フィルタ係数選択部により選択された係数、a1:第1フィルタ係数、a2:第2フィルタ係数)の前記(1)式で表される関係式によって新たな補正信号を出力し、前記フィルタ係数選択部は、前記式(2)で表される関係式によって前記フィルタ係数を選択することを特徴とする。
【0024】
また、請求項11に記載の発明は、請求項1乃至10のいずれかに記載の発明において、前記物理量信号出力装置(21,41,61)は、目的となる物理量を計測するために必要な物理量信号を出力する物理量計測素子を有することを特徴とする。
また、請求項12に記載の発明は、物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を計測する物理量計測方法において、物理量に基づく信号を検出部により検出する検出ステップと、該検出するステップにより検出された物理量の変動状態を変動状態推定部により推定する変動状態推定ステップと、該変動状態推定ステップにより推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、該フィルタ係数をフィルタ係数出力部により出力するフィルタ係数出力ステップと、該フィルタ係数出力ステップにより出力されたフィルタ係数と前記検出部から出力される出力値とに基づいて、該出力値の補正値を補正信号出力部により出力する補正信号出力ステップとを有し、前記変動状態推定ステップが、複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定する第1の変動状態推定ステップと、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、該測定時刻に近接する測定時刻に得られた物理量に基づく信号とに基づいて物理量の変動状態を推定する第2の変動状態推定ステップとを有し、前記フィルタ係数出力ステップが、前記第2の変動状態推定ステップにおいて物理量が変動していると推定された場合には、前記第2の変動状態推定ステップにより推定された物理量の変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、前記第2の変動状態推定ステップにおいて物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定ステップにおいて物理量が変動していると推定された場合には、前記第2の変動状態推定ステップ及び前記第1の変動状態推定ステップにより推定された物理量の変動状態に基づいてフィルタ係数を決定することを特徴とする。
【0026】
また、請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の発明において、前記第2の変動状態推定ステップが、物理量の変動量が所定の閾値より小さいかどうかを判定する変動状態判定ステップを有し、前記第1の変動状態推定ステップが、前記変動状態判定ステップからの判定結果に基づき、前記複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定することを特徴とする。
【0027】
また、請求項14に記載の発明は、請求項12又は13に記載の発明において、前記フィルタ係数出力ステップが、前記第2の変動状態推定部により物理量が変動していると推定された場合には前記フィルタ係数として第3のフィルタ係数を選択し、前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部において物理量が変動していると推定された場合には、前記フィルタ係数として第2のフィルタ係数を選択し、前記第2の変動状態推定部において物理量が変動していないと推定され、かつ前記第1の変動状態推定部においても物理量が変動していないと推定された場合には、前記フィルタ係数として第1のフィルタ係数を選択するフィルタ係数選択ステップを有することを特徴とする
【0028】
また、請求項15に記載の発明は、物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を計測する物理量計測方法において、物理量に基づく信号を検出部により検出する検出ステップと、該検出するステップにより検出された物理量の変動状態を変動状態推定部により推定する変動状態推定ステップと、該変動状態推定ステップにより推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、該フィルタ係数をフィルタ係数出力部により出力するフィルタ係数出力ステップと、該フィルタ係数出力ステップにより出力されたフィルタ係数と前記検出部から出力される出力値とに基づいて、該出力値の補正値を補正信号出力部により出力する補正信号出力ステップとを有し、前記補正信号出力ステップが、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、前記測定時刻よりも前に得られた補正信号と、フィルタ係数とに基づいて新たな補正信号を出力し、前記変動状態推定ステップが、前記物理量に基づく信号と前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の大小関係を判定する大小関係判定ステップを有し、前記フィルタ係数出力ステップが、複数の前記大小関係に基づいて第1フィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力ステップを有することを特徴とする。
【0029】
また、請求項16に記載の発明は、請求項15に記載の発明において、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係を判定する大小関係判定ステップと、複数の前記大小関係に基づいて第1のフィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力ステップとに加えて、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値又は互いに異なるタイミングで得られた補正信号の差分値を算出する差分値算出ステップと、前記差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力する第2フィルタ係数出力ステップと、前記第1及び第2フィルタ係数のいずれか一方を前記フィルタ係数として選択するフィルタ係数選択ステップとにより前記フィルタ係数を求めることを特徴とする。
【0030】
また、請求項17に記載の発明は、請求項15又は16に記載の発明において、前記第1フィルタ係数出力ステップが、前記所望サイクル中において、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係が、相対的にいずれか一方の信号に偏っている場合は、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力し、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の大小関係に、相対的な偏りがないときは、前記補正信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力するステップであることを特徴とする。
【0031】
また、請求項18に記載の発明は、請求項16又は17に記載の発明において、前記第2フィルタ係数出力ステップが、ある測定時刻に得られた前記物理量に基づく信号と、該測定時刻の直前に得られた補正信号の差分値及びある測定時刻に得られた前記物理量に基づく信号と、該測定時刻の2つ前の時刻に得られた補正信号との差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力するステップであることを特徴とする。
【0032】
また、請求項19に記載の発明は、請求項1617又は18に記載の発明において、前記第2フィルタ係数出力ステップが、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に大きい場合は、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力し、前記物理量に基づく信号と前記補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に小さい場合は、前記補正信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力するステップであることを特徴とする。
【0033】
また、請求項20に記載の発明は、請求項16乃至19のいずれかに記載の発明において、前記フィルタ係数選択ステップが、第1フィルタ係数及び第2フィルタ係数のうち、前記物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度がより大きくなる一方を選択するステップであることを特徴とする。
【0034】
また、請求項21に記載の発明は、請求項16乃至20のいずれかに記載の発明において、前記補正信号出力ステップが、
Snew=a×Sin+(1−a)×Sold ・・・(3)
a=max(a1,a2) ・・・(4)
(Snew:新たな補正信号、Sin:物理量に基づく信号、Sold:補正信号、a:フィルタ係数選択部により選択された係数、a1:第1フィルタ係数、a2:第2フィルタ係数)の前記式(3)で表される関係式によって新たな補正信号を出力し、前記フィルタ係数選択部は、前記式(4)で表される関係式によって前記フィルタ係数を選択するステップであることを特徴とする。
【0035】
また、請求項22に記載の発明は、請求項12乃至21のいずれかに記載の発明において、物理量に基づく信号を出力する物理量信号出力ステップが、目的となる物理量を計測するために必要な物理量信号を物理量計測素子により出力することを特徴とする。
また、請求項23に記載の発明は、物理量に基づく信号を出力する物理量信号を用いて、請求項12乃至22のいずれかに記載の物理量計測方法における全てのステップをコンピュータにより実行させるためのプログラムである。
また、請求項24に記載の発明は、請求項23に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、応答性が良く、かつ、物理量に基づく信号に含まれるノイズ成分を効率的に除去して高精度な物理量計測をすることが可能な物理量計測装置及び物理量計測方法を実現することができる。特に、電子コンパスに適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】従来の物理量計測装置を説明するためのブロック図である。
図2】本発明に係る物理量計測装置の実施例1を説明するためのブロック図である。
図3】大小関係判定部の出力より得られる複数の大小関係の判定結果に基づいて第1フィルタ係数を決定する一例を示す図である。
図4】本発明に係る物理量計測装置の実施例2を説明するためのブロック図である。
図5】差分値算出部の出力より得られる補正信号の差分値に基づいて第2フィルタ係数を決定する一例を示す図である。
図6】(a)乃至(c)は、実施例1における補正信号を示す図である。
図7】(a)乃至(c)は、実施例2における補正信号を示す図である。
図8】(a)乃至(c)は、比較例における出力信号を示す図である。
図9】本発明に係る物理量計測装置の実施例3を説明するためのブロック図である。
図10】本発明に係る物理量計測装置の実施例3におけるフィルタ係数を2種用いた場合を説明するためのフローチャートを示す図である。
図11】本発明に係る物理量計測装置の実施例3におけるフィルタ係数を3種用いた場合を説明するためのフローチャートを示す図である。
図12】(a)乃至(c)は、参考例における補正信号を示す図である。
図13】(a)乃至(c)は、実施例3における補正信号の分布・変動状態をもとにフィルタ係数を選択する方法で補正信号を演算した場合の補正信号出力を示す図である。
図14】(a)乃至(c)は、実施例3における測定値の分布・変動状態をもとにフィルタ係数を選択する方法で補正信号を演算した場合の補正信号出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明の各実施例について説明する。
【実施例1】
【0039】
図2は、本発明に係る物理量計測装置の実施例1を説明するためのブロック図で、図中符号20は物理量計測装置、21は物理量信号出力装置、22は物理量演算装置で、31は大小関係判定部、32は第1フィルタ係数出力部、33は補正信号出力部を示している。つまり、本発明に係る物理量計測装置20は、物理量信号出力装置21と物理量演算装置22とから構成され、物理量演算装置22は、物理量計測装置20を構成する物理量信号出力装置21に接続されており、大小関係判定部31と第1フィルタ係数出力部32と補正信号出力部33とから構成されている。なお、各構成要素は必要に応じて一時的に情報を記憶するバッファ機能を備えていてもよい。
【0040】
本発明の物理量演算装置は、物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を計測する物理量演算装置である。
物理量信号出力装置21は、目的となる物理量を計測するために必要な物理量に基づく信号(以下、物理量信号という)を出力することが可能な物理量計測素子を有していれば特に制限されない。
【0041】
物理量計測素子としては、例えば、目的となる物理量が磁気である場合は、ホール素子や磁気抵抗効果素子などが用いられ、目的となる物理量が加速度である場合は、機械式の加速度センサや、光学式の加速度センサや、静電容量型やピエゾ抵抗型の半導体式の加速度センサなどが用いられる。
物理量信号は、物理量計測素子から得られる信号そのものであってもよいし、物理量計測素子から得られる信号を感度補正演算、オフセット補正演算、符号反転演算等の演算処理をしたものであってもよいし、物理量計測素子から得られる信号または演算処理された信号をA/D変換した信号であってもよい。
【0042】
また、目的となる物理量の計測次元に応じて複数の物理量計測素子を物理量信号出力装置の構成要素として用いることも可能であり、例えば、3次元磁気センサであれば、互いに異なる3つの軸にそれぞれ感磁特性を有する3つの物理量計測素子を物理量信号出力装置とすることが可能である。
複数の物理量計測素子を用いる場合、大小関係判定部と第1フィルタ係数出力部と補正信号出力部は、物理量計測素子の個数に応じてそれぞれが備わっているようにしてもよいし、個数に依らず1つずつ備わっているようにしてもよい。また、図4に基づいて後述する差分値算出部と第2フィルタ係数出力部とフィルタ係数選択部についても、物理量計測素子の個数に応じてそれぞれが備わっているようにしてもよいし、個数に依らず1つずつ備わっているようにしてもよい。
【0043】
また、本発明に係る物理量演算装置では、いずれの演算処理もデジタルに処理が可能であるため、物理量信号出力装置は、デジタル信号を出力することが低消費電力の観点から好ましい。
補正信号出力部33は、ある測定時刻に得られた物理量信号Sinと測定時刻よりも前に得られた補正信号Soldと、フィルタ係数aが入力され、新たな補正信号Snewを出力する。
【0044】
ある測定時刻に得られた物理量信号Sinと測定時刻よりも前に得られた補正信号Soldと、フィルタ係数aに基づく、新たな補正信号Snewの算出方法としては、下記式(1)で表される関係式による方法が挙げられる。
Snew=a×Sin+(1−a)×Sold ・・・(1)
(Snew:新たな補正信号、Sin:ある測定時刻に得られた物理量信号、測定時刻よりも前に得られたSold:補正信号、a:フィルタ係数(0〜1の値))
【0045】
式(1)によれば、補正信号Snewは、フィルタ係数が大きいほどある測定時刻に得られた物理量信号の影響を受け、フィルタ係数が小さいほどある測定時刻に得られた物理量信号の影響を受けず、測定時刻よりも前に得られた補正信号(過去に出力された補正信号)の影響を受ける。すなわち、ある測定時刻に得られた物理量信号の変動が主にノイズに起因する場合は、フィルタ係数を小さくすることで、物理量信号に加わったノイズの影響による物理量の変動を低減することが可能になる。
【0046】
大小関係判定部31は、ある測定時刻に得られた物理量信号と測定時刻よりも前に得られた補正信号の2つの信号の大小関係(以下、「物理量信号と補正信号の大小関係」という)を判定し、その結果を出力する。
ここで、2つの信号の大小関係とは、2つの信号のどちらが大きいか(どちらが小さいか)に関する情報である。測定時刻よりも前に得られた補正信号は、大小関係判定対象となる物理量信号が出力されるよりも前に得られた出力された補正信号であればよい。例えば、物理量信号が物理量演算装置に周期的に入力される場合は、一つ以上前の周期に出力された補正信号であればよい。
【0047】
大小関係判定部31の出力様態としては、物理量信号と、複数の互いに異なる測定時刻に得られた各補正信号との大小関係を一度に判定して出力する方法や、各測定時刻ごとに物理量信号と、補正信号の大小関係の判定結果を遂次出力する方法などが挙げられる。変化に対する追従性の観点から、各測定時刻ごとに物理量信号と補正信号の大小関係の判定結果を遂次出力する方法が好ましい。上述した大小関係の判定結果を遂次出力する場合は、大小関係の判定結果を一時的に記憶する手段を有していることが好ましい。
【0048】
第1フィルタ係数出力部32は、大小関係判定部の出力より得られた複数の大小関係の判定結果に基づいて第1フィルタ係数a1を出力する。一例としては、複数の測定時刻において、物理量信号と補正信号の大小関係が、相対的にいずれか一方の信号に偏っている場合は、物理量信号が新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力し、物理量信号と補正信号の大小関係に、相対的な偏りがないときは、物理量信号が新たな補正信号に与える寄与度を小さくし得る係数を第1フィルタ係数として出力するものが挙げられる。
【0049】
図3は、大小関係判定部の出力より得られる複数の大小関係の判定結果に基づいて第1フィルタ係数を決定する一例を示す図である。大小関係の偏りが大きい場合(極端な例としては、すべてのサイクルにおいて物理量信号の方が大きいまたは補正信号の方が大きい場合)は、大きな値が第1フィルタ係数として出力される。逆に、大小関係の偏りが小さい場合(極端な例としては、物理量信号の方が大きい回数と、補正信号の方が大きい回数が等しい場合)は、小さな値が第1フィルタ係数として出力される。
【0050】
物理量信号と補正信号の大小関係がいずれか一方に偏っている時は、連続して一定の傾向で変化が生じている時、すなわち測定すべき物理量自体が変化している時に顕著に表れる。逆に、物理量信号と補正信号の大小関係に偏りがない時は、ランダムな変化が生じている時、すなわちノイズの影響により物理量信号が変化している時に顕著に表れる。
よって、例えば、上述した式(1)によって新たな補正信号を導出する例の場合、大小関係の差が大きい時はフィルタ係数を大きくして物理量信号の寄与度を大きくし、大小関係の差が小さい時はフィルタ係数を小さくして物理量信号の寄与度を小さくすることで、ノイズの影響が大きい時にはノイズの影響を除去することが可能になる。
【0051】
デジタル信号に基づいて第1フィルタ係数を決定するためには、所望の入出力特性に応じたテーブルを有していれば実現可能である。また、第1フィルタ係数を差分値の関数として演算するように回路を構成することでも実現可能である。
上述した実施例1では、図2に記載の構成の物理量演算装置に、物理量信号として、(1)一定値状の物理量信号(一定値+ノイズ)、(2)正弦波状の物理量信号(正弦波+ノイズ)、(3)方形波状の物理量信号(方形波+ノイズ)、のそれぞれを入力した。それぞれの入力に対する補正信号を図6(a)乃至(c)に示す。
【0052】
(1)一定値状の物理量信号に対する補正信号は、良好なレベルでノイズ成分がキャンセルされている。
(2)正弦波状の物理量信号に対する補正信号は、ノイズ成分がキャンセルされ、かつ、入力信号に対して遅延を生じていない。
(3)方形波状の物理量信号に対する補正信号は、信号が急激に変化する領域において多少の遅延が生じている。
【実施例2】
【0053】
図4は、本発明に係る物理量計測装置の実施例2を説明するためのブロック図で、図中符号40は物理量計測装置、41は物理量信号出力装置、42は物理量演算装置で、51は大小関係判定部、52は第1フィルタ係数出力部、53は補正信号出力部、54は差分値算出部、55は第2フィルタ係数出力部、56はフィルタ係数選択部を示している。つまり、図3に示した物理量計測装置40は、図1に示した物理量計測装置40を構成する物理量演算装置42が、さらに差分値算出部54と第2フィルタ係数出力部55とフィルタ係数選択部56とを更に備えているものである。
【0054】
差分値算出部54は、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の差分値又は互いに異なるタイミングで得られた前記測定時刻よりも前に得られた補正信号の差分値を算出する。入力された信号の差分値を算出することが可能であれば特に制限されない。差分値は正負の情報を含んだ値であってもよいし、絶対値であってもよい。
【0055】
差分値としては、ある測定時刻に得られた物理量信号と測定時刻よりも前に得られた補正信号の差分値であってもよいし、互いに異なるタイミングで得られた測定時刻よりも前に得られた補正信号の差分値であってもよい。応答性の観点からは、ある測定時刻に得られた物理量信号と、測定時刻より前に出力された補正信号の差分値であることが好ましい。また、信号の平滑化の観点からは、物理量に基づく信号が得られた測定時刻より前のそれぞれ異なる時刻で出力された2つの補正信号の差分値であることが好ましい。
【0056】
応答性とノイズ低減の両方の観点からは、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻の直前に得られた補正信号の差分値(第1の差分値という)及びある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻の直前より前の時刻に得られた補正信号の差分値(第2の差分値)の両方に基づいて定まる差分値を用いることがより好ましい。具体的には、第1の差分値と第2の差分値のうち、一方の差分値を選択する方法や、第1の差分値と第2の差分値の一方または両方に所望の係数を乗じてから一方の差分値を選択する方法や、第1の差分値と第2の差分値の平均値を差分値とする方法などが挙げられる。
【0057】
第2フィルタ係数出力部55は、差分値算出部54から入力される差分値に基づいて第2フィルタ係数a2を出力する。
第2フィルタ係数出力部55は、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻の直前に得られた補正信号の差分値及びある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻の2つ前の時刻に得られた補正信号との差分値に基づいて第2フィルタ係数a2を出力する。また、第2フィルタ係数出力部55は、物理量に基づく信号と補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に大きい場合は、物理量に基づく信号が前記新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力し、物理量に基づく信号と補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に小さい場合は、補正信号が新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力する。
【0058】
図5は、差分値算出部の出力より得られる補正信号の差分値に基づいて第2フィルタ係数を決定する一例を示す図である。図5では、差分値が小さい場合に第2フィルタ係数が小さくなり、差分値が大きい場合に第2フィルタ係数が大きくなっている。
デジタル信号に基づいて第2フィルタ係数を決定するためには、所望の入出力特性に応じたテーブルを有していれば実現可能である。また、第2フィルタ係数を差分値の関数として演算するように回路を構成することでも実現可能である。
【0059】
フィルタ係数選択部56は、第1フィルタ係数a1及び第2フィルタ係数a2のうち、物理量に基づく信号が新たな補正信号に与える寄与度がより大きくなる一方を選択する。つまり、所定の基準に基づいて第1フィルタ係数a1又は第2フィルタ係数a2のいずれか一方をフィルタ係数aとして選択する。選択する基準としては、2つの値を比較した時の最大値または最小値を選択する方法や、平均値を選択する方法、積を使用する方法などが挙げられる。一例としては、下記式(2)で表される基準で選択される方法が挙げられ、値が大きい方の係数がフィルタ係数として選択される。
【0060】
a=max(a1,a2) ・・・(2)
(a:フィルタ係数、a1:第1フィルタ係数、a2:第2フィルタ係数)
上述した実施例2では、図4に示した物理量演算装置に、上述した実施例1と同様の3種の物理量信号のそれぞれを入力した。それぞれの入力に対する補正信号を図7(a)乃至(c)に示す。
【0061】
(1)一定値状の物理量信号に対する補正信号は、良好なレベルでノイズ成分がキャンセルされている。
(2)正弦波状の物理量信号に対する補正信号は、ノイズ成分がキャンセルされ、かつ、入力信号に対して遅延を生じていない。
(3)方形波状の物理量信号に対する補正信号は、ノイズ成分はキャンセルされ、かつ、信号が急激に変化する領域においても遅延を生じていない。
【0062】
[比較例]
図8(a)乃至(c)は、比較例における出力信号を示す図である。図8(a)乃至(c)に示す比較例では、図1に示した従来の物理量演算装置に、上述した実施例1と同様の3種の物理量信号のそれぞれを入力した。それぞれの入力に対する出力信号を図8(a)乃至(c)に示す。
【0063】
(1)一定値状の物理量信号に対する補正信号は、ノイズ成分が十分にキャンセルされていない。
(2)正弦波状の物理量信号に対する補正信号は、ノイズ成分はキャンセルされているが、入力信号に対してやや遅延が生じている。
(3)方形波状の物理量信号に対する補正信号は、信号が急激に変化する領域において多少の遅延が生じている。
【0064】
以上のように、実施例1及び2に記載の大小関係判定部と第1フィルタ係数出力部と補正信号出力部とを備える物理量演算装置では、比較例に記載の物理量演算装置と比べて、(1)一定値状の物理量信号に対して、ノイズ成分を良好にキャンセルした補正信号が得られている、(2)正弦波状の物理量信号に対して、遅延を生じることなく理想的な補正信号が得られていることが理解される。
【0065】
さらに、図4に示した実施例2の差分値算出部54と第2フィルタ係数出力部55とフィルタ係数選択部56とを更に備える物理量演算装置では、(3)信号が急激に変化するような方形波状の入力信号に対しても遅延を生じていないことが理解される。
本発明の物理量計測装置は、目的となる物理量を計測するために必要な物理量信号を出力する物理量計測素子を有する物理量信号出力装置と、上述した各物理量演算装置とを備えたものである。
【実施例3】
【0066】
図9は、本発明に係る物理量計測装置の実施例3を説明するためのブロック図で、本発明を実施するための構成の一例となるセンサ装置のブロック構成図である。図中符号60は物理量計測装置、61は検出部(物理量信号出力装置)、62は物理量演算装置、63は制御部、71は演算部、71aは変動状態推定部、71bはフィルタ係数出力部、72は記憶部、73は補正信号出力部を示している。
つまり、本発明に係る物理量計測装置60は、検出部61と物理量演算装置62と制御部63とを備え、物理量演算装置62は、変動状態推定部71aとフィルタ係数出力部71bとからなる演算部71と、記憶部72と補正信号出力部73とを備えている。
【0067】
本実施例3の物理量計測装置60は、物理量信号出力装置61から出力される物理量に基づく信号から物理量を演算する物理量演算装置62を備えた物理量計測装置60である。物理量演算装置62は、物理量信号出力装置61が検出する物理量の変動状態を推定する変動状態推定部71aと、この変動状態推定部71aにより推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、このフィルタ係数を出力するフィルタ係数出力部71bと、このフィルタ係数出力部71bにより出力されたフィルタ係数と物理量信号出力装置61から出力される出力値とに基づいて、出力値の補正値を出力する補正信号出力部73とを備えている。
【0068】
本発明において変動状態推定部71aが物理量の変動状態の推定に用いることのできる信号としては、1.物理量信号出力装置から出力された物理量に基づく信号、たとえばセンサ等により測定された物理量に基づく信号と、2.物理量信号出力装置から出力された信号をフィルタにより補正した補正信号とのいずれか一方または、その両方を用いることができる。
【0069】
また、変動状態推定部71aは、複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定する第1の変動状態推定部(判定法Bに相当;準静止状態を検出)と、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻に近接する測定時刻に得られた物理量に基づく信号とに基づいて物理量の変動状態を推定する第2の変動状態推定部(判定法Aに相当;変動状態を検出)とを有し、フィルタ係数出力部71bは、第1の変動状態推定部又は第2の変動状態推定部により推定された物理量の変動状態に基づいて、フィルタ係数を決定し、このフィルタ係数を出力する。なお、ここでいう物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定するとは、上述したように、物理量信号出力装置から出力された物理量に基づく信号の分布と、物理量信号出力装置から出力された信号をフィルタにより補正した補正信号とのいずれか一方または、その両方を用いることができる。
【0070】
また、第2の変動状態推定部は、物理量の変動量が所定の閾値より小さいかどうかを判定する変動状態判定部を有し、第1の変動状態推定部は、変動状態判定部71aからの判定結果に基づき、複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定する。
また、フィルタ係数出力部71bは、第1の変動状態推定部に基づいて第1フィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力部32,52と、第2の変動状態推定部に基づいて第2フィルタ係数を出力する第2フィルタ係数出力部55と、第1及び第2フィルタ係数のいずれか一方を前記フィルタ係数として選択するフィルタ係数選択部56とを有する。
【0071】
また、上記第1フィルタ係数を用いて、物理量に基づく信号を補正する構成として、例えば、以下の構成を用いることができる。補正信号出力部73は、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻よりも前に得られた補正信号と、フィルタ係数とに基づいて新たな補正信号とを出力し、変動状態推定部71aは、物理量に基づく信号と測定時刻よりも前に得られた補正信号の大小関係を判定する大小関係判定部51を備え、フィルタ係数出力部71bは、複数の大小関係に基づいて第1フィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力部32,52を備えている。
【0072】
また、検出部61は、物理量を検出して増幅してA/D変換を行うものである。また、記憶部72は、検出部が検出した物理量(測定値とする)のデジタル値を所定の検出回数分だけ記憶するものである。また、演算部71は、測定値及び記憶部62に記憶された測定値に対して演算処理を行うものである。演算部71にて演算処理を施されたデータは、補正信号出力部73より外部に出力される。また、制御部63は、検出部61を選択したり、検出部61が物理量を検出するタイミングや周期を制御したり、補正信号出力部73からの出力方法を選択したりなどセンサ装置全体の動作を制御するものである。また、制御部63は、外部装置との通信などの機能も司るものである。
【0073】
以下に、各機能部の動作について説明する。
<検出部>
検出部61は、物理量計測素子、すなわち、目的となる物理量を検出し、電気信号に変換する機能を有する。例えば、目的となる物理量が磁気である場合は、ホール素子や磁気抵抗効果素子などが用いられ、目的となる物理量が加速度である場合は、機械式の加速度センサや、静電容量型やピエゾ抵抗型のMEMS(微小電気機械構造素子)の加速度センサ等が用いられる。物理量を検出し電気信号に変換する機能のほかに、増幅する機能、アナログ信号をデジタル信号に変換する機能を含んでいる。また、目的となる物理量の計測次元に応じて複数の物理量検出素子を検出部の構成要素として用いることも可能であり、例えば、3次元磁気センサであれば、互いに異なる3つの軸にそれぞれ感磁特性を有する3つの磁気センサを検出部が有することでもよい。
【0074】
また、検出部61は異なる物理量検出素子を備え、複数種類の物理量を測定できるような構成でもよい。複数の物理量検出素子を用いる場合、演算部71は、物理量検出素子の個数に応じて複数備わっているようにしてもよいし、物理量検出素子の種類ごとに複数備えてもよい。物理量検出素子の種類や個数に依らず1つが備わっていて、例えば、時分割処理で複数種類、複数個の物理量信号を処理できるようにしてもようにしてもよい。物理量検出素子から得られる測定値に対して補正処理を行うことは通常行われている。感度補正処理、オフセット補正処理、これ以外にも様々な処理があり得るが、本発明において、これらの機能は、検出部61が備えてもよいし、演算部71が備えてもよい。また、補正機能を持つ補正部を新たに持つなどは設計者の自由である。また、検出部61は、制御部63によって調整される測定タイミングごとに物理量を検出し、測定値として通常はデジタルデータに変換される。測定タイミングは任意だが、所定の周期ごとに測定を制御することが好ましい。測定値は、逐次もしくは制御部63により調整された任意の時期に1個もしくは複数の測定データをまとめ記憶部72へと出力され、保存される。
【0075】
<演算部>
演算部71は、記憶部72に保存された測定値に対してフィルタ処理を行うものである。フィルタ処理を行うために、演算部71は、さらにフィルタ係数出力部71bとデータ変動状態推定部(単に「変動状態推定部」ともいう)71aを有し、それらの動作は、制御部63によって制御される。
【0076】
フィルタ係数出力部71bは、重畳されるノイズの性質により適切なものを選択できる。ノイズが熱雑音のように周波数帯域として広域に分布する場合は低域透過特性を持つローパスフィルタが好ましい。ローパスフィルタの実現形態としては様々な方式のフィルタを用いることが可能だがここではデジタルフィルタとしてよく知られているラグフィルタを用いた例で説明する。
【0077】
ある測定時刻に得られた測定値Sinと測定時刻以前にフィルタを適用して得られた原補正測定値Soldを用いた新たな補正測定値を求めるラグフィルタは、上述した式(1)のように定義できる。
式(1)によれば、新たな補正測定値Snewは、フィルタ係aが大きい、すなわち、1に近いほどSinの影響をより強く受け、フィルタ係数が小さい、すなわち、0に近いほどSoldの影響をより強く受ける。Soldはある測定時刻よりも前に得られた測定値の平均のような意味合いをもち、フィルタ係数aが小さいほど平均する過去の測定値の数が多いことに相当し、平均により熱雑音などの影響が低減されている。したがって、小さなフィルタ係数を設定することで、Sinにノイズが重畳している場合に、Snewに対するSinに重畳されたノイズの寄与を低減する。フィルタ係数は、後述するデータ変動状態推定部が算出するデータ変動状態の情報に基づき設定される。フィルタ係数出力部71bは、記憶部72に保存された複数の測定データから最新の測定データ(Sinに相当)を取り出し、また、記憶部72に保存されている原補正測定値(Soldに相当)を取り出し、上述したフィルタ演算を行う。得られた新たな補正測定値(Snewに相当)は、記憶部72に保存されるとともに、補正信号出力部73に送られて外部に出力される。
【0078】
<データ変動状態推定部>
測定値が得られる都度、測定値は記憶部72に保存される。測定値は所定の測定回数分だけ保存されるが、その所定の測定回数は固定値もしくは動的な値として制御部63が調整する。データ変動状態推定部71aは、記憶部72に保存された複数回数分の測定データのなかのいくつかの測定データもしくは記憶部72に保存された補正測定値のデータ分布状態からデータの変動に関する情報をある指標に基づき推定し、その結果をフィルタ係数出力部71bに出力する。推定されたデータ分布状態に関する情報に基づき、フィルタ係数出力部71bは、フィルタ係数を設定する。データが大きく変動している場合は、追従性をよくするようなフィルタ係数を設定し、データの変動が小さい場合は、ノイズの寄与を下げるためのフィルタ係数を設定する。ラグフィルタの場合で言えば、追従性をよくするためにはフィルタ係数aを大きく、ノイズの寄与を下げるためにはフィルタ係数aを小さくする。
【0079】
また、データ変動状態推定部71aの判定するデータ分布から推定されるデータの変動とは、判定に用いる複数データを構成するデータの大きさのばらつきや、データの大きさの時間的推移を含む概念であり、本発明において変動状態を推定するとは、データ変動状態推定部が、検出部が検出する物理量の分布状態もしくは時間的変化傾向に基づきこの物理量の変動状態を推定するということである。変動状態推定手法の実現方法としては様々なものが選択できるが、例えば、下記のようなデータ分布判定手法やその組み合わせがあげられる。
センサ装置が測定した測定値が、パルス的もしくは矩形波的に急激に変動する場合には、追従性をよくし、かつデータ変化がない場合はノイズの寄与を低減することが望まれる。
【0080】
このような場合は、少数のデータを判定に用い、その少数のデータの中での最大値と最小値の差分や、最新データと最も古いデータとの差分などを利用する方法が有用である(判定法Aとよぶ)。例えば、最新に測定されたデータと一回前に測定されたデータとの差分を判定し、その差分が所定の閾値以上であった場合は、データの変動が大きいとして追従性の良いフィルタ係数を設定し、閾値以下の場合は、ノイズをより抑制するフィルタ係数を設定する。例示したラグフィルタの場合に、変動が少ない状態ではフィルタ係aは小さな値が、変動が大きい状態では大きなフィルタ係数aが選択される。信号に重畳されるノイズの寄与を少なくするためには、データの変動があると判定する閾値として大きな値を選択するのがよい。閾値がノイズによる測定値の変動よりも大きければ、フィルタによりノイズによる出力値の変動は抑えられ、測定値が変化する領域では変化量が閾値以上になるので、フィルタ出力は測定値に追従することになる。しかしながら、測定値の変動があると判定する閾値としてあまり大きな値を選択すると、矩形信号の立ち上がり、立下りでは、フィルタ係数aが小さな値である状態が長く保持されるために矩形の信号追従性が悪くなる。したがって、閾値はノイズの値と追従すべき波形を加味して選択される。
【0081】
しかしながら、この手法は、センサが測定した測定値がゆっくりと変動する場合には問題が生ずる。測定値がゆっくりと変動する場合、一回ごとの測定値間では変化量が小さく、ノイズによる変動との差が少ないか、かえってノイズのほうが大きい場合がある。その場合、センサ装置が測定した測定値が変動しているにもかかわらず、フィルタ係数aは小さなままなので追従性がわるく、測定値Sinと新たな補正測定値Snewの誤差が大きくなってしまい、フィルタ出力データの信頼性に欠けることになる。このような場合は、他のデータ分布の変動の判定手法を用いる。例えば、所定測定回数分の複数データの標準偏差を演算し、所定の閾値と比較する(判定法Bとよぶ)。閾値を通常期待されるノイズ値に相当する値としておけば、該標準偏差値が閾値より大きければ、何らかの変動状態にあるといえる。判定法Aでは変動していないと判定されたにも関わらず、判定法Bによりデータが変動していると判定された場合は、フィルタ部は、判定法Bに基づいてフィルタ係数を設定する。
【0082】
この場合、例えば、判定法Aでデータ変動が大である場合に設定するフィルタ係数と、データ変動が小である場合に設定するフィルタ係数の中間のフィルタ係数を設定すればよい。
判定法Aで変動状態と推定されれば、判定法Bでデータ変動がいかように判定されようとも、判定法Aでデータ変動が大である場合に設定するフィルタ係数を用いればよい。したがって、判定法Aと判定法Bを組み合わせることで、測定値が大きく変動している状態(変動状態)か、ゆっくりと変動している状態(準静止状態)か、それとも変動していない状態か(静止状態)の判断ができることになる。
【0083】
この方法を適用することにより、矩形変動をする測定値に対しての追従性も向上する。例えば、矩形変動の波形の立ち上がり(変動状態)から変化がない状態(静止状態)に変わる部分において、判定法Aを適用した場合には静止状態ではフィルタ係数kが小さな値を選ぶので、過去の測定値の影響をより受けやすくなるために、波形の追従が悪くなるが、判定法Bにより準静止状態の判定を入れることで、判定法Aの結果から設定する2つのフィルタ係数の中間的なフィルタ係数を選択でき、過去の測定値の寄与を少なくしつつ、ノイズの寄与もある程度削減できるようなフィルタ処理を行うことができるので、追従性をより改善しながらもノイズ低減の能力を維持できる。
【0084】
判定法Aの一例としては、上述したように、最新に測定された測定値と一回前に測定された測定値との差分を判定し、その差分が所定の閾値以上であった場合は、変動が大きいとして追従性の良いフィルタ係数を設定し、閾値以下の場合は、ノイズの寄与を下げるフィルタ係数を設定する方法が典型例であるが、そのほかにも以下の方法を用いることができる。
【0085】
最新に測定された測定値と複数測定回前に測定された測定値との差分値
最新に測定された測定値と最新の補正測定値との差分値
最新に測定された測定値と複数回以前に演算された補正測定値との差分値
判定法Aは、最新の測定値と、時間的に近傍の少数の測定値もしくは補正測定値を比較して、短時間での変動を判定するなどの手法で、急峻な測定値の変化を時間遅れなしに判定するのに適する方法であり、上記に挙げた例以外の方法を適用することも可能である。
【0086】
必ずしも最新の測定値ではなく、最新の測定よりも適当な期間分だけ過去に取得された測定値と、その測定値に近接した過去の測定データもしくは補正測定値との差分を用いることがよい場合がある。この方法をもちいることで遅延制御となり急峻な変化のオーバーシュートを抑制するなどの効果が得られるからである。
次に、判定法Bの例について説明する。
【0087】
複数データの時間的な変化である時間的変動状態に基づいてデータ変動状態の推定を行う方法の一例としては、例えば、以下の様な判定指標やその組み合わせを用いることができる。複数データはその取得時間が時間的に近接し、連続的に取得された一群のデータであることが好ましい。
【0088】
1.判定に用いる複数データの中で、時間的に連続するデータ間の差分値が所定の回数連続して閾値を越えているかどうか。
2.判定に用いる複数データの中で、ある時点における複数データの平均値と、最新測定値との差分。
3.判定に用いる複数データの中で、ある時点における複数データの平均値と、ある時点とは異なる時点における複数データの平均値との差分。例えば、判定に用いる複数データの中で時間的に古い複数データの平均値と時間的に新しい複数データの平均値の差分。
【0089】
4.判定に用いる複数データの移動平均値の時間的な傾き(微分値)。
また、判定法Bとして複数データの分布状態に基づいてデータ分布判定を行う場合の例としては、以下の様な判定指標を用いることができる。複数データはその取得時間が時間的に近接し、連続的に取得された一群のデータであることが好ましい。
5.判定に用いる複数データの最大値と最小値の差分。
6.判定に用いる複数データの標準偏差または分散。
7.判定に用いる複数データの平均値と各データとの差分の絶対値の総和。
【0090】
ここで述べているデータとしては、記憶部に記憶された過去の測定値もしくは過去の補正測定値を含んでいる。
判定法Bは、判定法Aよりも時間的に広い時間幅で、複数個の測定値や補正測定値を用いてその分布状態や時間的変動状態を判定することで、判定法Aでは判断できないゆっくりとした測定値の変化(準静止状態)を判断するのに適する。
【0091】
実施例1,2に述べたような、判定に用いる複数データの大小関係、すなわち時間的に連続する複数の測定値または補正値における測定値と補正値との差分の総和を用いて判定することももちろん構わない。
上述した判定方法をどのように選択するかは、本発明を適用する態様において、目標とする出力特性や信号の性質、装置の演算性能等から適切なものを選択すればよい。
【0092】
時間的に連続する複数データによるデータの差分値の連続的変化を用いる方法は簡便である。標準偏差や、平均値間の差や傾きを用いる場合は、ゆっくりとした変動を見る場合などにより適しており、演算量やメモリに余裕がある場合には適当である。
本発明においては、対象とする装置の制約や実際のデータの変動状態に応じて、変動状態の判定に用いる手法を選択し、それを組み合わせることが効果的である。
【0093】
データ変動状態の判定に用いる複数データは、必ずしも最新に得られたデータを用いる必要はなく、何回か以前に測定されたデータとそれ以前に測定された単数、複数のデータを用いた判定を行うことも場合によっては有用である。
ここで、組み合わせる判定法はここで述べた判定法Aや判定法Bの具体例に限らず他の手法でもよいが、追従性を重視した判定法Aと、ゆっくりとした変動を判定するための判定法Bの組み合わせに例示されるように、相互に別の視点で判定する方法や相互に補完できる判定法の組み合わせが望ましい。
【0094】
フィルタ係数の決め方は、上述した例に縛られることなく、使用するときと場合により最適なものを検討し採用すればよい。組み合わせる判定法は2つに限らず3つ、4つを組み合わせてもよいことは明らかである。
図10は、本発明に係る物理量計測装置の実施例3におけるフィルタ係数を2種用いた場合を説明するためのフローチャートを示す図である。新規データが入力されると(ステップS1)、その新規データがデータバッファに追加され(ステップS2)、分布状態を判定し(ステップS3)、静止状態か変動状態かのデータ変動状態を推定し(ステップS4;判定法B)、フィルタ係数の選択を行う(ステップS5)。選択されたフィルタ係数に応じて、フィルタ係数1にて演算し(ステップS6)、あるいはフィルタ係数2にて演算し(ステップS7)、それぞれのフィルタ演算結果を出力する(ステップS8)。また、補正後のデータを用いて分布状態を判定する場合は、フィルタ係数1乃至フィルタ係数2にて演算された結果をデータバッファに追加してもよい(ステップS9)。
【0095】
図11は、本発明に係る物理量計測装置の実施例3におけるフィルタ係数を3種用いた場合を説明するためのフローチャートを示す図で、上述した判定法Aと判定法Bとを組み合わせた場合を示している。新規データが入力されると(ステップS11)、その新規データがデータバッファに追加され(ステップS12)、静止状態か、準定常状態か(判定法B)、変動常態か(判定法A)のデータ変動状態を推定し(ステップS13)、データ変動状態を推定し(ステップS14;判定法B)、フィルタ係数の選択を行う(ステップS15)。選択されたフィルタ係数に応じて、フィルタ係数1にて演算し(ステップS16)、あるいはフィルタ係数2にて演算し(ステップS17)、あるいはフィルタ係数3にて演算し(ステップS18)、それぞれのフィルタ演算結果を出力する(ステップS19)。また、補正後のデータを用いて分布状態を判定する場合は、フィルタ係数1,フィルタ係数2又はフィルタ係数3にて演算された結果をデータバッファに追加してもよい(ステップS20)。
【0096】
図13(a)乃至(c)は、実施例3における補正信号の分布・変動状態をもとにフィルタ係数を選択する方法で補正信号を演算した場合の補正信号出力を示す図で、ノイズが重畳された定常的な信号、正弦波的な信号及び矩形波信号に対して、判定法Aと判定法Bを併用する図11の手法を適用した場合の、フィルタ演算後の補正信号を示す図である。
判定法Aとしては直近に演算出力された補正値と最新に得られた測定値の差分を用いて変動状態を推定し、判定法Bとしては、直近6回出力された補正値の平均値と最新に得られた測定値との差分を閾値判定する。判定閾値は信号に重畳されているノイズと、想定する応答特性により適宜選択する。
【0097】
フィルタ演算としては、上述した式(1)に示したラグフィルタを用いる。判定法Aにより変動していると推定した場合には、フィルタ係数a=0とし、最新に得られた測定値をそのまま出力する。判定法Aでは変動していないと推定されたが、判定法Bにより変動していると推定した場合は準静止の変動であると判断し、フィルタ係数としては0.5を選ぶ。判定法Aでも判定法Bでも変動していないと推定した場合にはフィルタ係数=1/32とした。
【0098】
一方、図10の変動状態推定の手法に判定法Aを適用した場合のフィルタ処理された補正信号出力を、参考例として図12(a)乃至(c)に示す。
図12(a)乃至(c)は、参考例における補正信号を示す図である。
変動状態の推定には、直近に演算出力された補正値と最新に得られた測定値の差分を用いる。判定閾値は信号に重畳されているノイズと、想定する応答特性により適宜選択する。フィルタ演算としては、上述した式(1)に示したラグフィルタを用い、変動していると推定した場合には、フィルタ係数a=0.5とする。変動していないと推定した場合は、フィルタ係数=1/32を選択した。
【0099】
参考例の場合、変動していると推定した場合にフィルタ係数を0とすると、ノイズの影響を受けやすくなるので、0.5を選択する。
図13(a)乃至(c)は、実施例3における補正信号の分布・変動状態をもとにフィルタ係数を選択する方法で補正信号を演算した場合の補正信号出力を示す図である。
先行技術を適用した参考例である図12(a)乃至(c)に対して、本発明を適用した図13(a)乃至(c)では、
【0100】
(1)一定値状の物理量信号に対する補正信号は、両者とも良好にノイズ成分が抑圧されている。
(2)正弦波状の物理量信号に対する補正信号は、参考例よりも遅延が少なく、また、波形のノイズの抑圧も良好である。
(3)方形波状の物理量信号に対する補正信号は、ノイズ成分が参考例よりも良好に抑圧され、信号が急激に変化する領域においても遅延を生じていない。
ということがわかる。
【0101】
図14(a)乃至(c)は、実施例3における測定値の分布・変動状態をもとにフィルタ係数を選択する方法で補正信号を演算した場合の補正信号出力を示す図で、ノイズが重畳された定常的な信号、正弦波的な信号及び矩形波信号に対して、判定法Aと判定法Bを併用する図11の手法を適用した場合のフィルタ演算後の補正信号で、判定法として測定値のみを用いた場合の例を示す図である。
【0102】
判定法Aとしては最新に得られた測定値と、最新を含まない直近に得られた測定値の差分を用いて変動状態を推定し、判定法Bとしては、最新に得られた測定値と、最新を含まない直近6回に得られた測定値の平均値との差分を閾値判定する。判定閾値は信号に重畳されているノイズと、想定する応答特性により適宜選択する。
フィルタ演算としては、上述した式(1)に示したラグフィルタを用いる。判定法Aにより変動していると推定した場合には、フィルタ係数a=0とし、最新に得られた測定値をそのまま出力する。判定法Aでは変動していないと推定されたが、判定法Bにより変動していると推定した場合は準静止の変動であると判断し、フィルタ係数としては0.5を選ぶ。判定法Bでも変動していないと推定した場合にはフィルタ係数=1/32とした。
【0103】
本方法を用いても、図13(a)乃至(c)の例と同様に参考例に対して良好なノイズ抑圧、および遅延特性が得られ、本発明の効果が示されているが、図13(a)乃至(c)の例に対して、図14(a)乃至(c)では、一定値状の物理量信号でのノイズ抑圧は同等であり、正弦波状の物理量信号に対する補正信号はより滑らかになり、ノイズ抑圧と追従性がより向上していることがわかる。方形波上の物理信号に対してのノイズ抑圧は同等で応答性は優れるが、急峻な変化でのオーバーシュートが観察される。
【0104】
このように、本発明を応用するには、補正値を得るためのフィルタリングの方法として様々な方法を応用することができ、応用目的に最適なものを用いればよい。
このように、複数データの分布や時間的変動などからデータの変動状態を推定し、その結果に基づいて適切なフィルタ係数を設定することで、測定値の追従性と、ノイズの低減を両立することができる。複数データは補正信号算出時点から見て直近の過去に取得されたものを用いることが一般的だが、本発明の応用によっては、補正信号を算出する時点の未来の信号を用いる概念もあり得る。実時間上での測定ではない応用の場合などでは実用的である。
【0105】
これに対し、上述した特許文献3にて開示されている技術は、地磁気センサにより直前に得た方位情報と現在の方位情報に基づいて、方位計算のアルゴリズムを選択するのであり、取得されたデータの分布状態を推定し、その結果に基づいてフィルタ係数を設定することをしていない。このとき、直前に得た方位情報と現在の方位情報の差分を評価する閾値は、地磁気センサの固有の雑音による方位情報の変動分以上である必要がある。地磁気センサの固有の雑音が大きな場合は、地磁気センサの向きがゆっくりと変化した場合には、方位の変化による測定値の変化分が雑音の値よりも小さいような状況が発生し、そのようなゆっくりとした変化(準静止状態)は静止状態である場合との区別が難しく、過度に強い平滑化のアルゴリズムを適用してしまい、応答性が劣化し、結果として方位角の追従性が劣化してしまう。
【0106】
一方、本発明を応用した地磁気センサを用いた方位計測装置を想定してみると、地磁気センサの向きがゆっくりと変化した場合においても、取得された複数データの分布から求める測定データの変化分は地磁気センサ固有の雑音よりも大きくなることから、ゆっくりではあるがセンサの状態は変化していると推定することができ、また変化状態とも静止状態とは異なる適切なフィルタ係数を設定することができ、ノイズを削減しながらも適切な応答性を維持することができるので、センサ固有の雑音よりも微小な測定値の変化をもたらすようなゆっくりとした変化の場合でも方位角の追従性を良好に維持することが可能であり、また急峻な変化に対しても適した変動状態の推定を併用することで、方位角の追従性を良好に維持することができる。固有雑音が大きな測定系においても、ゆっくりとした測定値の変動や急峻な測定値の変化に対しても、雑音抑圧と応答追従性を両方とも良好に保つことができる技術である。
【0107】
【表1】
【0108】
このように、データの変動状態を推定し、その結果に基づいて適切なフィルタ係数を設定することで、測定値の追従性と、ノイズの低減を両立することができる。またデータの変動状態を推定する際に、複数の指標に基づきデータの変動、準静止、静止などを判定することで、様々な測定値の変化において、適切なフィルタ係数を選択することが可能となる。
【0109】
また、本発明の物理量演算方法は、物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を計測する物理量計測方法である。物理量に基づく信号を検出部により検出する検出ステップと、この検出するステップにより検出された物理量の変動状態を変動状態推定部により推定する変動状態推定ステップと、この変動状態推定ステップにより推定された変動状態に基づいてフィルタ係数を決定し、このフィルタ係数をフィルタ係数出力部により出力するフィルタ係数出力ステップと、このフィルタ係数出力ステップにより出力されたフィルタ係数と検出部から出力される出力値とに基づいて、この出力値の補正値を補正信号出力部により出力する補正信号出力ステップとを有する。
【0110】
また、変動状態推定ステップが、複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定する第1の変動状態推定ステップと、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻に近接する測定時刻に得られた物理量に基づく信号とに基づいて物理量の変動状態を推定する第2の変動状態推定ステップとを有し、フィルタ係数出力ステップが、第1の変動状態推定ステップ又は第2の変動状態推定ステップにより推定された物理量の変動状態に基づいて、フィルタ係数を決定し、このフィルタ係数を出力する。
【0111】
また、第2の変動状態推定ステップが、物理量の変動量が所定の閾値より小さいかどうかを判定する変動状態判定ステップを有し、第1の変動状態推定ステップが、変動状態判定ステップからの判定結果に基づき、複数の測定時刻に得られた物理量の分布状態に基づいて物理量の変動状態を推定する。
また、フィルタ係数出力ステップが、第1の変動状態推定ステップに基づいて第1フィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力ステップと、第2の変動状態推定ステップに基づいて第2フィルタ係数を出力する第2フィルタ係数出力ステップと、第1及び第2フィルタ係数のいずれか一方をフィルタ係数として選択するフィルタ係数選択ステップとを有する。
【0112】
また、補正信号出力ステップが、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻よりも前に得られた補正信号と、フィルタ係数とに基づいて新たな補正信号を出力し、変動状態推定ステップが、物理量に基づく信号と測定時刻よりも前に得られた補正信号の大小関係を判定する大小関係判定ステップを有し、フィルタ係数出力ステップが、複数の大小関係に基づいて第1フィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力ステップを有する。
【0113】
また、物理量に基づく信号と補正信号の大小関係を判定する大小関係判定ステップと、複数の大小関係に基づいて第1のフィルタ係数を出力する第1フィルタ係数出力ステップとに加えて、物理量に基づく信号と補正信号の差分値又は互いに異なるタイミングで得られた補正信号の差分値を算出する差分値算出ステップと、差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力する第2フィルタ係数出力ステップと、第1及び第2フィルタ係数のいずれか一方をフィルタ係数として選択するフィルタ係数選択ステップとによりフィルタ係数を求める。
【0114】
また、第1フィルタ係数出力ステップは、所望サイクル中において、物理量に基づく信号と補正信号の大小関係が、相対的にいずれか一方の信号に偏っている場合は、物理量に基づく信号が新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力し、物理量に基づく信号と補正信号の大小関係に、相対的な偏りがないときは、補正信号が新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第1フィルタ係数として出力するステップである。
【0115】
また、第2フィルタ係数出力ステップ部は、ある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻の直前に得られた補正信号の差分値及びある測定時刻に得られた物理量に基づく信号と、測定時刻の2つ前の時刻に得られた補正信号との差分値に基づいて第2フィルタ係数を出力するステップである。
【0116】
また、第2フィルタ係数出力ステップは、物理量に基づく信号と補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に大きい場合は、物理量に基づく信号が新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力し、物理量に基づく信号と補正信号の差分値又は互いに異なる補正信号の差分値が相対的に小さい場合は、補正信号が新たな補正信号に与える寄与度を大きくし得る係数を第2フィルタ係数として出力するステップである。
また、フィルタ係数選択ステップは、第1フィルタ係数及び第2フィルタ係数のうち、物理量に基づく信号が新たな補正信号に与える寄与度がより大きくなる一方を選択するステップである。
【0117】
また、補正信号出力ステップは、
Snew=a×Sin+(1−a)×Sold ・・・(3)
a=max(a1,a2) ・・・(4)
(Snew:新たな補正信号、Sin:物理量に基づく信号、Sold:補正信号、a:フィルタ係数選択部により選択された係数、a1:第1フィルタ係数、a2:第2フィルタ係数)
【0118】
式(3)で表される関係式によって新たな補正信号を出力し、フィルタ係数選択部は、式(4)で表される関係式によってフィルタ係数を選択するステップである。
また、物理量に基づく信号を出力する物理量信号出力ステップと、上述した物理量演算方法のステップとを有する物理量測定方法の可能である。
また、物理量に基づく信号を出力する物理量信号を用いて、コンピュータにより上述した各演算ステップを実行させるためのプログラムも可能である。また、上述した各演算ステップを実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体の可能である。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、物理量信号出力装置から出力される物理量に基づく信号から物理量を計測する物理量計測装置及び物理量計測方法が実現できる。特に、電子コンパスに適用できるものである。
【符号の説明】
【0120】
1 第1の適応フィルタ
2 第2の適応フィルタ
11−1,11−2 フィルタ部
12−1,12−2 減算器
14−1 適応モード制御部
15−1,15−2 フィルタ更新演算部
20,40,60 物理量計測装置
21,41,61 物理量信号出力装置(検出部)
22,42,62 物理量演算装置
31,51 大小関係判定部
32,52 第1フィルタ係数出力部
33,53,73 補正信号出力部
54 差分値算出部
55 第2フィルタ係数出力部
56 フィルタ係数選択部
63 制御部
72 記憶部
71 演算部
71a 変動状態推定部
71b フィルタ係数出力部
図1
図2
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図5
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