特許第6216056号(P6216056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6216056
(24)【登録日】2017年9月29日
(45)【発行日】2017年10月18日
(54)【発明の名称】肩甲骨筋入れ装置
(51)【国際特許分類】
   A22C 21/00 20060101AFI20171005BHJP
【FI】
   A22C21/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-531318(P2016-531318)
(86)(22)【出願日】2015年6月25日
(86)【国際出願番号】JP2015068359
(87)【国際公開番号】WO2016002629
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2016年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-134086(P2014-134086)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-134087(P2014-134087)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-134088(P2014-134088)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 徳幸
(72)【発明者】
【氏名】羽根 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岡 賢一
(72)【発明者】
【氏名】高梨 功史
(72)【発明者】
【氏名】豊田 直紀
(72)【発明者】
【氏名】桜山 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 紀行
【審査官】 西田 侑以
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−125317(JP,A)
【文献】 特開平11−266780(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第1346639(EP,A2)
【文献】 米国特許第6007416(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0275275(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食鳥屠体の肩甲骨と該肩甲骨に付着した肉部とを分離する肩甲骨筋入れ装置であって、
脚部が分離され中抜きされた食鳥屠体を載置固定するための固定冶具と、
前記固定冶具の搬送経路を形成し、前記固定冶具を該搬送経路に沿って搬送するコンベアと、
前記搬送経路の上方に上下動可能に設けられた第1の剥離部材と、
前記第1の剥離部材を上下方向へ移動させるための第1の駆動装置とを備え、
前記固定冶具に固定された前記食鳥屠体が前記第1の剥離部材下方の肉分離位置に来たタイミングに合わせて、前記第1の駆動装置を作動させて前記第1の剥離部材を下降させ前記食鳥屠体の肩甲骨表面に沿わせ前記第1の剥離部材を移動させ、
前記肩甲骨から該肩甲骨に付着した肉部を分離すると共に、
前記第1の剥離部材は、前記搬送経路に沿い前記固定冶具の中心を通る中心線を挟んで該中心線の両側に配置された一対のスクレーパ部材で構成され、
前記一対のスクレーパ部材は前記食鳥屠体の搬送方向下流側に向けてスクレーパ部材間の間隔が徐々に狭まる向きに配置されていることを特徴とする肩甲骨筋入れ装置。
【請求項3】
前記第1の剥離部材の前記固定冶具の搬送方向上流側で前記搬送経路の上方に設けられた第2の剥離部材と、
前記第2の剥離部材を上下方向へ移動させるための第2の駆動装置と、を備え、
前記固定冶具に固定された前記食鳥屠体が前記第2の剥離部材下方の肉分離位置に来たタイミングに合わせて、前記第2の駆動装置を作動させて前記第2の剥離部材を下降させ前記食鳥屠体の鎖骨に付着した肉部を分離することを特徴とする請求項1に記載の肩甲骨筋入れ装置。
【請求項4】
前記コンベアの基準点からの前記固定冶具の搬送距離を検出するための搬送距離検出部と、
前記搬送距離検出部で検出した検出値から前記第1の剥離部材及び前記第2の剥離部材の下降タイミングを決定し、前記第1の駆動装置及び前記第2の駆動装置を作動させて前記第1の剥離部材及び前記第2の剥離部材を下降させるための制御装置と、で構成されている同期装置を備えることを特徴とする請求項3に記載の肩甲骨筋入れ装置。
【請求項5】
前記第2の剥離部材より前記固定冶具の搬送方向上流側の前記搬送経路に設けられた接触子と、
前記接触子が前記食鳥屠体の肩部表面に倣うように前記接触子を弾性的に支持するための弾性支持部と、
前記接触子が前記食鳥屠体に接触したときの前記接触子の位置情報が入力され、前記位置情報から前記食鳥屠体の外形形状を演算するための外形演算部と、を有する外形計測部をさらに備え、
前記制御装置は、前記搬送距離検出部で検出した検出値及び前記外形計測部で求めた前記食鳥屠体の外形形状から前記第1の剥離部材及び前記第2の剥離部材の下降タイミングを決定するものであることを特徴とする請求項4に記載の肩甲骨筋入れ装置。
【請求項6】
前記第1の剥離部材及び前記第2の剥離部材は、単一の支持台に上下動可能に支持されていることを特徴とする請求項3乃至5の何れか1項に記載の肩甲骨筋入れ装置。
【請求項7】
前記第1の剥離部材を上下動可能に支持するための第1の支持台と、
前記第2の剥離部材を上下動可能に支持するための第2の支持台と、
前記第1の支持台と前記第2の支持台との間隔を前記固定冶具の搬送方向で可変とするための移動部と、をさらに備えていることを特徴とする請求項3乃至5の何れか1項に記載の肩甲骨筋入れ装置。
【請求項8】
前記弾性支持部は、前記第1の剥離部材と前記第1の剥離部材を支持する支持部材との間に介設されたエアシリンダで構成されていることを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の肩甲骨筋入れ装置。
【請求項9】
前記弾性支持部は、前記第1の剥離部材と前記第1の剥離部材を支持する支持部材との間に介設されたバネ部材で構成されていることを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の肩甲骨筋入れ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏などの家禽類からなる食鳥屠体の解体処理工程などにおいて、食鳥屠体の肩甲骨と肩甲骨に付着した肉部とを分離する肩甲骨筋入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鶏などの家禽類からなる食鳥屠体を解体し、肉部と骨部を分離する解体処理工程は、食鳥屠体を脱羽放血し、内蔵などの除去(中抜き)等の前処理を行い、その後、解体及び脱骨を行っている。この解体・脱骨処理は人手で行うと作業効率が悪いので、自動化が進められている。本出願人は、長年、食鳥屠体の自動脱骨技術の開発に携わってきている。
脚部が分離され、かつ中抜きされて上半身だけとなった食鳥屠体上半身の自動解体・脱骨処理は、脱骨処理の全工程で正しい食鳥屠体の姿勢を保持するため、「固定冶具」と呼ばれる円錐形の固定冶具に載置固定した状態で、食鳥屠体を複数の処理部に順々に搬送し、解体・脱骨処理を行っている。
【0003】
前記解体・脱骨処理には、「ガラ」と称される骨格部分から手羽付き胸肉を分離する工程が含まれている。そして、この分離工程の前処理として、食鳥屠体の肩甲骨から肉部を分離する肩甲骨筋入れ工程がある。
特許文献1には、4軸制御のロボットアームに装着された切断刃を用いて、肩甲骨筋入れ工程を行う手段が開示されている。
また、特許文献2には、食鳥屠体をキャリアと称される固定冶具に固定した状態で搬送し、この固定冶具の搬送経路に面して固定された剥離部材で、肩甲骨筋入れ工程を行う手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−125317号公報
【特許文献2】特開2013−046632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された手段は、高価なロボットアームを用いるため高コストになると共に、切断刃を複雑な切断経路に沿って動かすため、処理時間が長くなり、多数の食鳥屠体の処理を行う場合、処理効率が低下するという問題がある。
また、特許文献2に開示された手段は、スクレーパが固定されているため、食鳥屠体を搬送経路に沿って移動させると、スクレーパが肩甲骨が結合されている肩関節部にぶつかり、肩関節部を破壊するおそれがある。そのため、肩甲骨に付着した肉の分離のみを行うことができない。また、破壊された肩関節部の骨片が骨部から分離した肉部に混入し、正肉としての価値を低下させるおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑みなされたものであり、食鳥屠体の肩甲骨と肩甲骨に付着した肉部とを分離する肩甲骨筋入れ作業において、低コスト化でき、肩関節部を破壊せず、かつ分離する肉部の歩留まりを向上できると共に、処理効率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る肩甲骨筋入れ装置は、
食鳥屠体の肩甲骨と該肩甲骨に付着した肉部とを分離する肩甲骨筋入れ装置であって、
脚部が分離され中抜きされた食鳥屠体を載置固定するための固定冶具と、
前記固定冶具の搬送経路を形成し、前記固定冶具を該搬送経路に沿って搬送するためのコンベアと、
前記搬送経路の上方に上下動可能に設けられた第1の剥離部材と、
前記第1の剥離部材を上下方向へ移動させるための第1の駆動装置と、
前記固定冶具に固定された前記食鳥屠体が前記第1の剥離部材下方の肉分離位置に来たタイミングに合わせて、前記第1の駆動装置を作動させて前記第1の剥離部材を下降させ前記食鳥屠体の肩甲骨表面に沿わせ、前記第1の剥離部材を移動させ、
前記食鳥屠体の肩甲骨表面に沿わせ前記第1の剥離部材を移動させ、
前記肩甲骨から該肩甲骨に付着した肉部を分離する。
【0008】
前記構成(1)において、食鳥屠体が第1の剥離部材下方の肉分離位置に来たタイミングに合わせて肩甲骨表面に向けて第1の剥離部材を下降させるので、肩関節部の切断を回避しつつ肩甲骨の肉分離が可能になる。
また、上記構成(1)により肩甲骨の筋入れ作業の自動化が可能となり、これによって、処理効率を向上できる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、前記構成(1)において、
前記第1の剥離部材は、前記搬送経路に沿い前記固定冶具の中心を通る中心線を挟んで該中心線の両側に配置された一対のスクレーパ部材で構成され、
前記一対のスクレーパ部材は前記食鳥屠体の搬送方向下流側に向けてスクレーパ部材間の間隔が徐々に狭まる向きに配置されている。
上記構成(1)によれば、上記一対のスクレーパ部材を食鳥屠体の肩甲骨の位置及び向きに合わせて配置できるため、筋入れ時、肩甲骨の表面に確実に倣わせることができる。これによって、分離された肉部の歩留まりを向上できる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、前記構成(1)又は(2)において、
前記第1の剥離部材の前記固定冶具の搬送方向上流側で前記搬送経路の上方に設けられた第2の剥離部材と、
前記第2の剥離部材を上下方向へ移動させるための第2の駆動装置と、を備え、
前記固定冶具に固定された前記食鳥屠体が前記第2の剥離部材下方の肉分離位置に来たタイミングに合わせて、前記第2の駆動装置を作動させて前記第2の剥離部材を下降させ前記食鳥屠体の鎖骨に付着した肉部を分離する。
上記構成(3)によれば、肩甲骨肉分離工程の前で鎖骨に付着した肉部を鎖骨から分離するので、肩甲骨の肉分離が容易になる。
【0011】
(4)幾つかの実施形態では、前記構成(1)〜(3)の何れかにおいて、
前記コンベアの基準点からの搬送距離を検出するための搬送距離検出部と、
前記搬送距離検出部で検出した検出値から前記第1の剥離部材及び前記第2の剥離部材の下降タイミングを決定し、前記第1の駆動装置及び前記第2の駆動装置を作動させて前記第1の剥離部材及び前記第2の剥離部材を下降させるための制御装置と、で構成されている同期装置を備える。
上記構成(4)によれば、上記搬送距離検出部によりコンベアの基準点(例えば始端)からの各固定冶具の移動距離を検出できるため、この検出値に基づいて第1の剥離部材及び第2の剥離部材の下降タイミングを正確に決定できる。これによって、肩甲骨及び鎖骨の肉分離を確実に行うことができる。
【0012】
(5)幾つかの実施形態では、前記構成(4)において、
前記第2の剥離部材より前記固定冶具の搬送方向上流側の前記搬送経路に設けられた接触子と、
前記接触子が前記食鳥屠体の肩部表面に倣うように前記接触子を弾性的に支持するための弾性支持部と、
前記接触子が前記食鳥屠体に接触したときの前記接触子の位置情報が入力され、前記位置情報から前記食鳥屠体の外形形状を演算するための外形演算部と、を有する外形計測部をさらに備え、
前記制御装置は、前記搬送距離検出部で検出した検出値及び前記外形計測部で求めた前記食鳥屠体の外形形状から前記第1の剥離部材及び前記第2の剥離部材の下降タイミングを決定するものである。
【0013】
上記搬送距離検出部の検出値に加えて、上記外形計測部で検出した食鳥屠体の外形形状から第1の剥離部材及び第2の剥離部材の下降タイミングを決定することで、各食鳥屠体の大きさを含む外形形状に合わせてこれら剥離部材の下降タイミングを設定できる。
【0014】
(6)幾つかの実施形態では、前記構成(3)〜(5)の何れかにおいて、
前記第1の剥離部材及び前記第2の剥離部材は、単一の支持台に上下動可能に支持されている。
上記構成(6)によれば、第1の剥離部材及び第2の剥離部材を単一の支持台で支持できるため、第1の剥離部材及び第2の剥離部材の支持部を低コスト化できると共に、第1の剥離部材及び第2の剥離部材は一緒に動くため、これら剥離部材の制御が容易になる。そのため、同期装置及び制御装置を簡易かつ低コスト化できる。
【0015】
(7)幾つかの実施形態では、前記構成(3)〜(5)の何れかにおいて、
前記第1の剥離部材を上下動可能に支持するための第1の支持台と、
前記第2の剥離部材を上下動可能に支持するための第2の支持台と、
前記第1の支持台と前記第2の支持台との間隔を前記固定冶具の搬送方向で可変とするための移動部と、をさらに備えている。
前記構成(7)によれば、固定冶具の搬送速度や搬送方向の間隔、さらには、食鳥屠体の外形形状に応じて、上記第1の支持台と上記第2の支持台との搬送方向間隔を変えることで、筋入れのハンドリングが容易になる。
【0016】
(8)幾つかの実施形態では、前記構成(1)〜(7)の何れかにおいて、
前記弾性支持部は、前記第1の剥離部材と前記第1の剥離部材を支持する支持部材との間に介設されたエアシリンダで構成されている。
前記構成(8)によれば、第1の剥離部材から食鳥屠体に付加される弾性力の調整が、筋入れ装置の稼動中でも可能になるため、搬送中の食鳥屠体の大きさ(個体差)に応じて適正な弾性力を発揮できる。
【0017】
(9)幾つかの実施形態では、前記構成(1)〜(7)の何れかにおいて、
前記弾性支持部は、前記第1の剥離部材と前記第1の剥離部材を支持する支持部材との間に介設されたバネ部材で構成されている。
前記構成(9)によれば、弾性支持部を簡易かつ低コスト化できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、肩甲骨筋入れ作業において、低コスト化でき、肩関節部を破壊せず、かつ分離する肉部の歩留まりを向上できると共に、処理効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態に係る肩甲骨筋入れ装置の全体概要図である。
図2】一実施形態に係る肩甲骨筋入れ部の斜視図である。
図3図2中のA―A線に沿う断面図である。
図4】一実施形態に係る肩甲骨筋入れ部の制御系を示すブロック線図である。
図5】一実施形態に係る外形計測部を示す正面図である。
図6】一実施形態に係る肩甲骨筋入れ部の制御系を示すブロック線図である。
図7】前記外形計測部で計測した食鳥屠体の外形形状を示す線図である。
図8】一実施形態に係る肩甲骨筋入れ部の斜視図である。
図9】一実施形態に係る肩甲骨筋入れ部の制御系を示すブロック線図である。
図10】一実施形態に係る肩甲骨筋入れ部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0021】
本発明の幾つかの実施形態に係る肩甲骨筋入れ装置を図1図10に基づいて説明する。肩甲骨筋入れ装置10は、水平方向に配置された無端状のチェーンコンベア12を備えている。チェーンコンベア12は始端で駆動スプロケット14に巻回され、駆動スプロケット14はモータ16によって駆動される。図中、チェーンコンベア12の往路は矢印a方向へ移動する。無端状のチェーンコンベア12の終端は、従動スプロケット(不図示)に巻回されている。
チェーンコンベア12には、「コーン」と呼ばれる複数の固定冶具20が等間隔に装着される。図示した実施形態では、固定冶具20の上半分は円錐形を有し、チェーンコンベア12に対して垂直方向に立設されるが、搬送途中で必要に応じ傾斜可能に構成される。
チェーンコンベア12は固定冶具20の搬送経路を形成し、固定冶具20はこの搬送経路に沿って搬送される。
【0022】
前処理工程で脚部が分離され、かつ中抜きされて上半身だけとなった家禽類、例えば鶏の食鳥屠体(以下「ワーク」と言う。)wが、チェーンコンベア12の始端で作業員によって各固定冶具20に載置固定される。ワークwは胸部が搬送方向上流側又は下流側(図示した実施形態では搬送方向下流側)に向いた状態で固定冶具20に載置される。
例示的な実施形態では、チェーンコンベア12の基準点からの固定冶具20の搬送距離を検出するための搬送距離検出部を備えている。
上記搬送距離検出部は、例えば、モータ16に設けられモータ16の累計回転数を検出するエンコーダ18で構成される。エンコーダ18でモータ16の累計回転数を計測することで、例えばモータ位置を基準点としてモータ位置からの各固定冶具20の移動量(搬送距離)を検出できる。
【0023】
幾つかの実施形態では、図2、8及び10に示すように、チェーンコンベア12の上方に筋入れ部22(22A、22B、22C)が設けられている。
筋入れ部22は、チェーンコンベア12の上方に上下動可能に設けられた第1の剥離部材24と、第1の剥離部材24を上下方向へ移動させるための駆動装置(第1の駆動装置)とを備えている。
上記駆動装置は、例えば、図2に示すように、支持台28に支持されたサーボモータ26で構成される。サーボモータ26は、支持台36を上下に貫通するネジ軸26aを回転させる。ネジ軸26aには、ネジ軸26aの回転によってネジ軸26a上を摺動する可動ブロック30が設けられる。ブラケット32は、一端が軸32aを介して可動ブロック30に回動可能に装着され、他端から第1の剥離部材24が垂下される。
【0024】
例示的な構成では、筋入れ部22は、第1の剥離部材24をワークwの搬送方向下流側に後退可能に弾性的に支持する弾性支持部を備えている。
上記弾性支持部は、図2及び図8に示す筋入れ部22(22A、22B)では、支持台28に固定されたエアシリンダ34で構成され、エアシリンダ34のピストンロッド34aは下方に向けて支持台28を貫通し、第1の剥離部材24が固定された側のブラケット32の端部に結合されている。
上記弾性支持部は、図10に示す筋入れ部22(22C)では、支持台28とブラケット32との間に介装されたコイルバネ36で構成されている。
また、筋入れ部22は、固定冶具20に固定されたワークwが第1の剥離部材下方の肉分離位置に来たタイミングに合わせて、サーボモータ26を作動させて第1の剥離部材24を下降させワークwの肩甲骨表面に沿わせ第1の剥離部材24を移動させるように構成されている。例示的な実施形態では、第1の剥離部材24にかかる動作を可能にする同期装置を備える。
かかる構成により、上記肉分離位置に来たワークwの肩甲骨に付着した肉部を分離する。
【0025】
例示的な実施形態では、第1の剥離部材24は、チェーンコンベア12によって形成される固定冶具20の搬送経路に沿い、固定冶具20の中心を通る中心線C(図3参照)を挟み中心線Cの両側に配置された一対のスクレーパ部材24a及び24bで構成される。スクレーパ部材24a及び24bは例えば長尺板状に形成され、ワークwの搬送方向下流側に向けて互いの間隔が徐々に狭まる向きに配置されている。
かかる形状のスクレーパ部材24a及び24bが下降した時、ワークwの肩甲骨の表面に接触し、肩甲骨の表面に付着した肉部を肩甲骨から歩留まり良く分離できる。
【0026】
例示的な実施形態では、第1の剥離部材24より搬送方向上流側でチェーンコンベア12の上方に設けられた第2の剥離部材40と、第2の剥離部材40を上下方向へ移動させるための駆動装置(第2の駆動装置)とを備えている。第2の駆動装置は、例えばサーボモータ42で構成される。
また、固定冶具20に固定されたワークwが第2の剥離部材下方の肉分離位置に来たタイミングに合わせて、サーボモータ42を作動させて第2の剥離部材40を下降させる同期装置を備える。
かかる構成により、上記肉分離位置に来たワークwに対して第2の剥離部材40を下降させ、鎖骨に付着した肉部を分離する。
上記同期装置は、例えば、図2に示すように、支持台28に支持されたサーボモータ42で構成される。
【0027】
図示した実施形態では、図2に示すように、サーボモータ42は、支持台28を上下に貫通するネジ軸42aを回転させる。ネジ軸42aには、ネジ軸42aの回転によってネジ軸42a上を摺動する可動ブロック44が設けられる。可動ブロック44の下面にはL型ブロック46が結合され、L型ブロック46から第2の剥離部材40が垂下されている。
図2及び図3に図示した実施形態では、第2の剥離部材40は、スクレーパ部材40a、40b、40c及び40dで構成されている。搬送方向上流側に配置された一対のスクレーパ部材40a及び40bは、中心線Cに対し平行でかつ対称に配置され、搬送方向下流側に配置された一対のスクレーパ部材40c及び40dは、中心線Cに対し直角でかつ対称に配置されている。
上記構成のスクレーパ部材40a〜40dによって、ワークwの鎖骨の両外側にスクレーパ部材40a〜40dが入り込み、鎖骨に付着した肉部を分離できる。
【0028】
図示した実施形態では、図2に示すように、スクレーパ部材24a、24b、40a〜40dは、平坦な長尺板状に形成され、ブラケット32又はL型ブロック46から下方に垂下されている。また、一対のスクレーパ部材24a及び24bに隣接して補強棒48が併設されている。スクレーパ部材24a及び24bの先端は、尖塔形状に形成され、かつ先端辺は鎬50が両スクレーパ部材の対向面に形成された片刃を形成している。
【0029】
例示的な実施形態では、上記同期装置は、図4に示すように、チェーンコンベア12の基準点(モータ16の位置)からの各固定冶具20の移動量(搬送距離)を検出するためのエンコーダ18(搬送距離検出部)と、エンコーダ18の検出値が入力される制御装置52とを備えている。
上記同期装置は、エンコーダ18で検出した検出値から、制御装置52によって第1の剥離部材24の下降タイミングを決定し、サーボモータ26を作動させ、第1の剥離部材24を下降させる。筋入れ部22(22A、22B)では、第1の剥離部材24と同時にエアシリンダ34を作動させ、ブラケット32を水平に保ったまま下降させる。これによって、第1の剥離部材24を構成するスクレーパ部材24a及び24bを垂直方向のまま下降できる。
また、上記同期装置は、エンコーダ18で検出した検出値から、制御装置52で第2の剥離部材40の下降タイミングを決定し、サーボモータ42を作動させて第2の剥離部材40を下降させる。
【0030】
例示的な実施形態では、図5及び図6に示すように、筋入れ部22より搬送方向上流側のチェーンコンベア12の上方に、ワークwの外形形状を計測するための外形計測部60が設けられている。
外形計測部60は、搬送経路上方に設けられた接触子66と、接触子66がワークwの肩部表面に倣うように接触子66を弾性的に支持するための弾性支持部と、接触子66がワークwに接触したときの接触子66の位置情報が入力される外形演算部76とを備えている。外形演算部76は制御装置74に内蔵され、入力された接触子66の位置情報からワークwの外形形状を演算する。
制御装置74は、エンコーダ18で検出した検出値及び外形計測部60で求めたワークwの外形形状から第2の剥離部材24又は第2の剥離部材40の下降タイミングを決定する。
【0031】
図示した実施形態では、図5に示すように、固定冶具20の搬送経路の上方に設けられた支持フレーム61に計測ブロック62が取り付けられている。計測ブロック62には支軸64が回動自在に支持されており、支軸64に棒状の接触バー66の一端が結合されている。接触バー66は支軸64を中心に回動可能に支持される。
計測ブロック62には、上記弾性支持部としてエアシリンダ68が設けられ、エアシリンダ68のピストンロッド68aはアーム70を介して支軸64に接続されている。接触バー66の他端は、固定冶具20の搬送経路上を接近してくるワークwの肩部sに接触するように位置決めされている。接触バー66がワークwの肩部sに接触した時、エアシリンダ68の付勢力(弾性力)が接触バー66に付加され、これによって、接触バー66は肩部sの表面を倣うことができる。支軸64には支軸64の回転角度を計測する角度計測センサ72が設けられている。
【0032】
図6は、本実施形態の制御系を示す。図6において、制御装置74でモータ16を制御し、固定冶具20の搬送速度を制御する。角度計測センサ72の計測信号は制御装置74の外形演算部76に入力される。外形演算部76では、極座標を用い、接触バー66の軸方向長さと、ワークwと接触中の接触バー66の基準線に対する角度とからワークwとの接触位置を演算する。この演算値に、エンコーダ18から入力された固定冶具20の位置情報を含めて外形形状(プロファイル)を求める。
こうして求めたワークwの外形形状を表示する表示部(不図示)が筋入れ部22に設けられる。該表示部はワークwの外形形状を表示するディスプレイ78を有している。
【0033】
図7にディスプレイ78の表示を示す。図7において、ラインAは接触バー66で計測したワークwの肩部sの外形形状である。図中、X軸は矢印a方向(搬送方向)の座標軸であり、Z軸は上下方向の座標軸である。図において、例えば、ワークwの外形形状に凹部gがあっても、外形形状(プロファイル)を明瞭にディスプレイ78に表示できる。
エンコーダ18、外形計測部60及び制御装置74で、第1の剥離部材24及び第2の剥離部材40の下降タイミングを決定する同期装置を構成している。
この実施形態では、エンコーダ18から制御装置74に入力される各固定冶具20の位置情報に加えて、ディスプレイ78に表示される外形形状プロファイルに基づいて、第1の剥離部材24及び第2の剥離部材40の下降タイミングを決定する。
【0034】
例示的な実施形態では、図2に示すように、第1の剥離部材24及び第2の剥離部材40は、単一の支持台28に上下動可能に支持されている。
【0035】
図8に示す筋入れ部22(22B)は、第2の剥離部材24を上下動可能に支持するための第1の支持ブロック80と、第2の剥離部材40を上下動可能に支持するための第2の支持ブロック82と、第1の支持ブロック80と第2の支持ブロック82との間隔を固定冶具20の搬送方向で可変とするための移動部84とをさらに備えている。
この実施形態では、サーボモータ86及び88を稼動させ、ネジ軸86a及び88aを回転させることで、第1の支持ブロック80と第2の支持ブロック82との搬送方向の間隔を可変とすることができる。
【0036】
図8に図示した例示的な構成では、移動部84は、支持フレーム86と、支持フレーム86に固定されたサーボモータ86及び88と、サーボモータ86及び88によって回転するネジ軸86a及び88aと、ネジ軸86a及び88aの他端を支持する軸受90及び92とを備えている。支持フレーム86は搬送経路の上方で水平方向に且つ搬送経路に沿って配置され、ネジ軸86a及び88aは支持フレーム86に沿って直列に配置されている。
第1の支持ブロック80の底壁を構成する支持板80aには、図2に示す筋入れ部22(22A)と同様に、サーボモータ26及びエアシリンダ34が固定されると共に、ネジ軸26a及びピストンロッド34aには、可動ブロック30、ブラケット32及び第1の剥離部材24が装着されている。
また、第2の支持ブロック82の底壁を構成する支持板82aには、サーボモータ42が固定されると共に、ネジ軸42aには、図2に示す筋入れ部22(22A)と同様に、可動ブロック44及びL型ブロック46を介して第2の剥離部材40が装着されている。
【0037】
図9は筋入れ部22(22B)の制御系を示す。制御装置74は、ディスプレイ78に表示されるワークwの外形形状プロファイルに基づいて、移動部84に設けられたサーボモータ86及び88を制御し、第1の支持ブロック80と第2の支持ブロック82との間隔を調整する。
【0038】
例示的な実施形態では、第1の剥離部材24を弾性的に支持する弾性支持部は、図2及び図8に示す筋入れ部22(22A、22B)のように、支持台28に固定されたエアシリンダ34で構成されている。
例示的な実施形態では、上記弾性支持部は、図10に示す筋入れ部22(22C)のように、支持台28とブラケット32との間に介設されたコイルバネ36で構成される。
【0039】
幾つかの実施形態によれば、第1の剥離部材24は、上記同期装置により、ワークwが第1の剥離部材24下方の肉分離位置に来たタイミングに合わせて第1の剥離部材24を下降させるので、肩関節部の切断を回避しつつ肩甲骨の肉分離が可能になる。
また、第1の剥離部材24は上記弾性支持部によって弾性的に支持されるため、ワークwから第1の剥離部材24に一定以上の反力が加わると、第1の剥離部材24は搬送方向下流側(矢印b方向)へ逃げることができる。そのため、第1の剥離部材24によってワークwに過剰の力が付加されず、ワークwの骨部などの破壊を防止できると共に、第1の剥離部材24をワークwの表面に沿って倣わせることができ、これによって、分離後の肉部の歩留まりを向上できる。
また、筋入れ部22によって肩筋入れ工程を自動化できるため、処理効率を向上できる。
【0040】
また、第1の剥離部材24は一対のスクレーパ部材24a及び24bで構成され、これらスクレーパ部材は中心線Cの両側に中心線Cに対して対称に配置され、かつ搬送方向下流側に向けて互いの間隔が徐々に狭まる向きに配置されているので、肩甲骨の表面に確実に倣わせることができる。これによって、分離後の肉部の歩留まりを向上できる。
また、第1の剥離部材24の搬送方向上流側に第2の剥離部材40を備えているので、肩甲骨肉分離工程の前で鎖骨に付着した肉部を鎖骨から分離でき、これによって、肩甲骨の肉分離が容易になる。
また、エンコーダ18でチェーンコンベア12の基準点からの各固定冶具20の搬送距離を検出し、その位置情報に基づいて、第1の剥離部材24及び第2の剥離部材40の下降タイミングを決定するので、肩甲骨及び鎖骨の肉分離を確実に行うことができる。
【0041】
また、例示的な実施形態によれば、図5及び図6に示すように、エンコーダ18の位置情報に加えて、外形計測部60において、筋入れ部22の搬送方向上流側に設けられた接触子66をワークwに接触させ、その時の接触子66の位置情報から、制御装置74の外形演算部76でワークwの外形形状を演算するので、第1の剥離部材24及び第2の剥離部材40の下降タイミングを正確に把握できる。そのため、鎖骨及び肩甲骨から歩留まり良く肉部を分離できると共に、スクレーパ部材をワークwの所望の位置に挿入できるので、肩関節部の破壊を防止できる。
さらに、接触子66はワークwの肩部表面に倣うように弾性的に支持されるので、ワークwの肩部表面に確実に倣わせることができる。
【0042】
また、図2に示す筋入れ部22(22B)では、第1の剥離部材24及び第2の剥離部材40は単一の支持台28で支持されるため、これら剥離部材の支持手段を低コスト化できると共に、第1の剥離部材24及び第2の剥離部材40は一緒に動くため、これら剥離部材の制御が容易になる。そのため、上記同期装置及び制御装置52又は74を簡易かつ低コスト化できる。
また、図8及び図9に示す筋入れ部22(22C)では、第2の剥離部材24及び第2の剥離部材40は、夫々別個の第1の支持台80及び第2の支持台82に支持され、第1の支持台80と第2の支持台82とは、移動部84によって搬送方向の間隔を調整可能であるので、固定冶具20の搬送速度や搬送方向の間隔、さらには、各ワークの大きさ及び外形形状に合わせて筋入れしやすい最適な間隔に調整できる。
【0043】
また、図2に示す筋入れ部22(22A)では、第2の剥離部材24をエアシリンダ34で弾性的に支持するので、筋入れ装置の稼動中でも第2の剥離部材24からワークwに付加される弾性力の調整が可能になる。そのため、稼動中でもワークw食鳥屠体の大きさ(個体差)に応じて適正な弾性力を付加できる。
また、図10に示す筋入れ部22(22C)では、第2の剥離部材24はコイルバネ36で弾性的に支持されるので、弾性支持部を簡易かつ低コスト化できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、食鳥屠体の肩甲骨筋入れ装置を低コスト化でき、かつ処理効率を向上できると共に、肩関節部を破壊せず、肉部の歩留まりを向上できる。
【符号の説明】
【0045】
10 肩甲骨筋入れ装置
12 チェーンコンベア
14 駆動スプロケット
16 モータ
18 エンコーダ(搬送距離検出部)
20 固定冶具
22(22A、22B、22C) 筋入れ部
24 第1の剥離部材
24a、24b スクレーパ部材
26、42、86,88 サーボモータ
26a、42a、86a、88a ネジ軸
28 支持台
30、44 可動ブロック
32 ブラケット
34 エアシリンダ(弾性支持部)
34a ピストンロッド
36 コイルバネ(弾性支持部)
40 第2の剥離部材
40a、40b、40c、40d スクレーパ部材
46 L型ブロック
48 補強棒
50 鎬
52,74 制御装置
60 外形計測部
61 支持フレーム
62 計測ブロック
64 支軸
66 接触バー(接触子)
70 アーム
72 角度計測センサ
76 外形演算部
78 ディスプレイ
80 第1の支持ブロック
80a 支持板
82 第2の支持ブロック
82a 支持板
84 移動部
90、92 軸受
C 中心線
s 肩部
w ワーク(食鳥屠体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10