特許第6217059号(P6217059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6217059有機電界発光素子及び有機電界発光デバイス
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  • 特許6217059-有機電界発光素子及び有機電界発光デバイス 図000043
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6217059
(24)【登録日】2017年10月6日
(45)【発行日】2017年10月25日
(54)【発明の名称】有機電界発光素子及び有機電界発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20171016BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20171016BHJP
   C07D 403/14 20060101ALI20171016BHJP
   C07D 209/86 20060101ALI20171016BHJP
   C07C 211/61 20060101ALN20171016BHJP
   C07C 211/54 20060101ALN20171016BHJP
   H01L 27/32 20060101ALN20171016BHJP
   G09F 9/30 20060101ALN20171016BHJP
【FI】
   H05B33/14 B
   C09K11/06 690
   C09K11/06 660
   C07D403/14
   C07D209/86
   !C07C211/61
   !C07C211/54
   !H01L27/32
   !G09F9/30 365
【請求項の数】7
【全頁数】55
(21)【出願番号】特願2012-154425(P2012-154425)
(22)【出願日】2012年7月10日
(65)【公開番号】特開2014-17389(P2014-17389A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】五郎丸 英貴
(72)【発明者】
【氏名】飯田 宏一朗
(72)【発明者】
【氏名】李 延軍
(72)【発明者】
【氏名】石橋 孝一
(72)【発明者】
【氏名】田中 太
【審査官】 岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/148909(WO,A1)
【文献】 特開2012−033918(JP,A)
【文献】 特開2010−212676(JP,A)
【文献】 特開2010−241801(JP,A)
【文献】 特開2009−246097(JP,A)
【文献】 特開2010−184876(JP,A)
【文献】 特開2010−254671(JP,A)
【文献】 特表2012−505205(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/062636(WO,A1)
【文献】 特開2006−156941(JP,A)
【文献】 特開2011−160003(JP,A)
【文献】 特開2003−068461(JP,A)
【文献】 特開2011−009205(JP,A)
【文献】 特開2005−259472(JP,A)
【文献】 特開2012−097006(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/120714(WO,A1)
【文献】 特開2005−228737(JP,A)
【文献】 特表2013−531883(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/147522(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C07D 209/86
C07D 403/14
C09K 11/06
C07C 211/54
C07C 211/61
G09F 9/30
H01L 27/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも陽極、一層もしくは複数層の発光層及び陰極をこの順に有する有機電界発光素子において、前記発光層の少なくとも一層は電荷輸送材料と燐光発光材料を含み、該電荷輸送材料として下記一般式(1−A)で表される材料、下記一般式(1−B)で表される材料及び下記一般式(1−C)で表される材料を各々1種類以上含むことを特徴とする有機電界発光素子(ただし、該発光層の少なくとも一層が、燐光発光材料と、下記一般式(1−A)と下記一般式(1−B)の両方を満たす化合物の1種類と、下記一般式(1−C)で表される材料とを含む場合は、本発明の規定を満たしているものとする。)
【化1】
(式(1−A)中、Ph〜Phは、各々独立に、置換基を有していてもよい2価のベンゼン環であり、Ar〜Arは、各々独立に、直接結合、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、R〜Rは、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基である。)
【化2】
(式(1−B)中、Ar〜Arは、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基であり、R〜Rは、各々独立に、水素原子、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基であり、Ar〜Ar及びR〜Rの該芳香族環基の芳香族環は、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、又はカルバゾール環であり、添字lは1〜3の整数、m、nは、各々独立に0〜2の整数である。)
【化3】
(式(1−C)中、Ar〜Ar11は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、R〜R10は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、X、Y、Zは、各々独立に炭素原子又は窒素原子であり、少なくともX、Y、Zの何れか1つは窒素原子である。)
【請求項2】
前記燐光発光材料がイリジウム錯体であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記発光層の少なくとも一層が、前記電荷輸送材料を3種以上含むことを特徴とする請求項1または2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
互いに異なる色に発光する有機電界発光素子を2つ以上有する有機電界発光デバイスにおいて、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機電界発光素子を1つ以上有することを特徴とする有機電界発光デバイス。
【請求項5】
互いに異なる色に発光する有機電界発光素子を2つ以上有する有機電界発光デバイスにおいて、該2つ以上の有機電界発光素子が請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機電界発光素子のみから構成されることを特徴とする有機電界発光デバイス。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の有機電界発光デバイスである有機EL表示装置。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の有機電界発光デバイスである有機EL照明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子と、この有機電界発光素子を有する有機電界発光デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子は、簡単な素子構成で様々な色に発光することができることから、近年、ディスプレイや照明などの発光装置を製造するための技術として、盛んに開発が行われている。
【0003】
有機電界発光素子は、陽極及び陰極から正孔及び電子を注入し、発光層に各電荷を到達させ、発光層で電荷を再結合させることで、発光を得るものである。この原理から、例えば、発光層に電荷を留めることにより、発光効率を向上させることが検討されている(特許文献1)。
【0004】
一方で、電荷を発光層に留めることは、有機電界発光素子の電流−電圧特性を悪化させる。一つの層に電荷を留めるには、通常、膜内に電荷のトラップ準位をつくり電荷を留める方法などにより行われる。これらの方法によれば、電荷を発光層に留めることにより、発光効率を上げることが可能であるが、同時に、電流−電圧特性を悪化させることにつながる。例えば、非特許文献1には、発光材料が電荷輸送材料に対する電荷トラップとして働き、高電圧化につながることが記載されている。また、非特許文献2には、電荷輸送材料であるαNPDに同じく電荷輸送材料である1−NaphDATAを添加した場合、電荷トラップの原因となり、高電圧化が起こることが報告されている。
【0005】
このようなことから、有機電界発光素子を発光装置として実用化するためには、電流−電圧特性の更なる向上が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−135295号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】有機EL技術と材料開発(シーエムシー出版)(2010年5月発行)184頁
【非特許文献2】Proc. of SPIE Vil 4800,164−171(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電流−電圧特性の良好な有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題に対し、本発明者らが鋭意検討を行った結果、通常、複数の電荷輸送材料を発光層に用いた場合に、前述の理由から、高電圧化が進行すると考えられていたが、おどろくべきことに、特定の化合物を混合することにより、電流−電圧特性が良好な有機電界発光素子を得ることが可能であることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 基板上に少なくとも陽極、一層もしくは複数層の発光層及び陰極をこの順に有する有機電界発光素子において、前記発光層の少なくとも一層は電荷輸送材料と燐光発光材料を含み、該電荷輸送材料として下記一般式(1−A)で表される材料、下記一般式(1−B)で表される材料及び下記一般式(1−C)で表される材料を各々1種類以上含むことを特徴とする有機電界発光素子(ただし、該発光層の少なくとも一層が、燐光発光材料と、下記一般式(1−A)と下記一般式(1−B)の両方を満たす化合物の1種類と、下記一般式(1−C)で表される材料とを含む場合は、本発明の規定を満たしているものとする。)
【0012】
【化1】
【0013】
(式(1−A)中、Ph〜Phは、各々独立に、置換基を有していてもよい2価のベンゼン環であり、Ar〜Arは、各々独立に、直接結合、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、R〜Rは、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基である。)
【0014】
【化2】
【0015】
(式(1−B)中、Ar〜Arは、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基であり、R〜Rは、各々独立に、水素原子、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基であり、Ar〜Ar及びR〜Rの該芳香族環基の芳香族環は、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、又はカルバゾール環であり、添字lは1〜3の整数、m、nは、各々独立に0〜2の整数である。)
【化3】
(式(1−C)中、Ar〜Ar11は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、R〜R10は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、X、Y、Zは、各々独立に炭素原子又は窒素原子であり、少なくともX、Y、Zの何れか1つは窒素原子である。)
【0016】
[2] 前記燐光発光材料がイリジウム錯体であることを特徴とする[1]に記載の有機電界発光素子。
【0017】
[3] 前記発光層の少なくとも一層が、前記電荷輸送材料を3種以上含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の有機電界発光素子。
【0021】
] 互いに異なる色に発光する有機電界発光素子を2つ以上有する有機電界発光デバイスにおいて、[1]ないし[]のいずれかに記載の有機電界発光素子を1つ以上有することを特徴とする有機電界発光デバイス。
【0022】
] 互いに異なる色に発光する有機電界発光素子を2つ以上有する有機電界発光デバイスにおいて、該2つ以上の有機電界発光素子が[1]ないし[]のいずれかに記載の有機電界発光素子のみから構成されることを特徴とする有機電界発光デバイス。
【0023】
] []又は[]に記載の有機電界発光デバイスである有機EL表示装置。
【0024】
] []又は[]に記載の有機電界発光デバイスである有機EL照明。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電流−電圧特性の良好な有機電荷発光素子が提供され、この有機電界発光素子により、発光効率の高いOAコンピューターや壁掛けテレビ等用のフラットパネルディスプレイ、表示板、標識灯及び複写機の光源、液晶ディスプレイ、計器類のバックライト光源等の面発光体としての特徴を生かした光源等を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の有機電界発光素子及び有機電界発光デバイスの実施態様を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0028】
[語句の説明]
炭化水素芳香族環とは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン等のように炭素と水素のみの原子で構成される芳香族環を表す。
複素芳香族環とはピリジン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環等の様に炭素と水素原子の他に酸素原子、硫黄原子、窒素原子、珪素原子等を含んでなる芳香族環を表す。
芳香族環とは、炭化水素芳香族環と複素芳香族環の全てを表す。
芳香族環集合原子団とは、ビフェニル、ターフェニルのように芳香族環同士が連なって形成される原子団である。
【0029】
遊離原子価とは、有機化学・生化学命名法(上)(改定第2版、南江堂、1992年発行)に記載のとおり、他の遊離原子価と結合を形成できるものを言う。すなわち、例えば、「1個の遊離原子価を有するベンゼン環」はフェニル基のことを言い、「2個の遊離原子価を有するベンゼン環」はフェニレン基のことを言う。
【0030】
[本発明の基本構成]
本発明の有機電界発光素子は、基板上に少なくとも陽極、一層もしくは複数層の発光層及び陰極をこの順に有する有機電界発光素子であって、該発光層の少なくとも一層が電荷輸送材料と燐光発光材料を含み、前記電荷輸送材料として下記一般式(1−A)で表される材料及び下記一般式(1−B)で表される材料を各々1種類以上含むことを特徴とする。
【0031】
好ましくは、燐光発光材料がイリジウム錯体であり、さらに好ましくは、電荷輸送材料が式(1−A)で表される材料(以下、(1−A)の化合物と記載)及び式(1−B)で表される材料(以下、(1−B)の化合物と記載)を含む3種類以上の混合物であり、特に好ましくは電荷輸送材料が式(1−A)の化合物、式(1−B)の化合物及び下記一般式(1−C)で表される材料(以下、(1−C)の化合物と記載)を含む3種類以上の混合物である。
【0032】
【化4】
【0033】
(式(1−A)中、Ph〜Phは、各々独立に、置換基を有していてもよい2価のベンゼン環であり、Ar〜Arは、各々独立に、直接結合、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、R〜Rは、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基である。)
【0034】
【化5】
【0035】
(式(1−B)中、Ar〜Arは、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、R〜Rは、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、添字lは1〜3の整数、m、nは、各々独立に0〜2の整数である。)
【0036】
【化6】
【0037】
(式(1−C)中、Ar〜Ar11は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、R〜R10は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基であり、X、Y、Zは、各々独立に炭素原子又は窒素原子であり、少なくともX、Y、Zの何れか1つは窒素原子である。)
【0038】
[(1−A)及び(1−B)の化合物を混合した場合の特徴]
(1−A)の化合物は、窒素原子を中心に据え、その周辺に芳香族環原子団が置換した化合物で、芳香族環原子団がアミンの正電荷を保持安定化させていると考えられる。一方、(1−B)の化合物は、周辺に芳香族環原子団基を有するアミンの窒素原子とカルバゾール環の窒素原子がベンゼン環基を介して共役しており、この部分が正電荷を効率よく受け取り、また放出すると考えられ、(1−A)及び(1−B)の化合物を混合することにより、発光層内の正電荷を効率よく発光材料へと届けることが可能となる。
【0039】
ここで、発光層が、燐光発光材料と、式(1−A)と式(1−B)の両方を満たす化合物を1種類含む場合は、本発明の規定を満たしているものとする。
【0040】
[式(1−A)、(1−B)及び(1−C)中の記号について]
(1−A)の化合物中、Ph〜Phは、各々独立に、置換基を有していてもよい2価のベンゼン環(フェニレン基)であり、1,4−置換体(1,4−フェニレン基)が好ましい。
【0041】
(1−A)の化合物中、Ar〜Arは、各々独立に、直接結合、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基を表す。
【0042】
炭素数3から30までの芳香族環基を形成する芳香族環の例としては、2個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、キナゾリン環などの、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環などが挙げられる。
上記炭素数3から30までの芳香族環の内、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環が化合物の安定性の面から好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環、カルバゾール環が特に好ましい。
【0043】
炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基の例としては、2個の遊離原子価を有する、下記芳香族環集合原子団Aより選ばれるものが挙げられる。
【0044】
【化7】
【0045】
芳香族環集合原子団基の炭素数は、6から40までであることが高純度の化合物を得るのが容易なため好ましく、特に好ましくは炭素数10から36までである。
【0046】
〜Rは、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、若しくは、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基を表す。
【0047】
炭素数1から20までのアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ノニル基などの直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられる。
置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基及び、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基は、Ar〜Arと同義である。
【0048】
上記の内、R〜Rとしては、化合物の安定性の面から好ましくは、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基である。
【0049】
(1−B)の化合物中、Ar〜Arの置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基は、Ar〜Arの置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基と同様である。
(1−B)の化合物中、R〜Rの置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基は、R〜Rの置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基と同様である。
(1−C)の化合物中、Ar〜Ar11の置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基は、遊離原子価を1個を有すること以外は、Ar〜Arの置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基と同様である。
(1−C)の化合物中、R〜R10の置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基は、R〜Rの置換基を有していてもよい炭素数1から20までのアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3から30までの芳香族環基、置換基を有していてもよい炭素数3から60までの2つ以上の芳香族環集合原子団基と同様である。
【0050】
[式(1−A)、(1−B)及び(1−C)中の置換基について]
(1−A)の化合物、(1−B)の化合物及び(1−C)の化合物中、Ar〜Ar11及びR〜R10が有していても良い置換基の例としては、特に制限は無いが、例えば、下記置換基群Zから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0051】
(置換基群Z)
メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の、炭素数1から8までの直鎖又は分岐のアルキル基;
ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等の炭素数2から9までのアルケニル基;
エチニル基、プロパルギル基等の炭素数2から9までのアルキニル基;
ベンジル基等の炭素数7から17までのアラルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1から20までのアルコキシ基;
フェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基等の炭素数6から12までのアリールオキシ基;
ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基等の炭素数3から20までの5又は6員環の複素芳香族環を有するヘテロアリールオキシ基;
ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数1から10までのアシル基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数2から10までのアルコキシカルボニル基;
フェノキシカルボニル基等の炭素数7から13までのアリールオキシカルボニル基;
アセトキシ基等の炭素数2から10までのアルキルカルボニルオキシ基;
メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1から8までのアルキルチオ基;
フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基等の炭素数6から12までのアリールチオ基;
トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の炭素数3から30までのシリル基;
1個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環等の、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環などの炭化水素芳香族環からなる基;
1個の遊離原子価を有する、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環等の、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環などの複素芳香族環からなる基
【0052】
上記置換基の内、化合物の安定性の面から、1個の遊離原子価を有する、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環などの炭化水素芳香族環、1個の遊離原子価を有する、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環の複素芳香族環からなる基が好ましい。また、バンドギャップが広いため効率的な電荷の受け渡しができることから、ベンゼン環、ナフタレン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環からなる基が更に好ましく、カルバゾール環からなる基が特に好ましい。
【0053】
上記各置換基は、さらに置換基を有していてもよく、その例としては前記置換基群Zに例示した基が挙げられる。
【0054】
[(1−A)、(1−B)および(1−C)の化合物の分子量]
(1−A)、(1−B)および(1−C)の化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。これら化合物の分子量は、通常5000以下、好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下である。また、通常450以上、好ましくは500以上、更に好ましくは600以上である。
【0055】
(1−A)、(1−B)および(1−C)の化合物の分子量が上記範囲内であると、ガラス転移温度や融点、分解温度等が高く、発光材料及び形成された発光層の耐熱性が良好である点、及び、再結晶化や分子のマイグレーションなどに起因する膜質の低下や、材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇などが起こり難く、素子性能に優れる点、また、精製が容易である点などで好ましい。
【0056】
[発光層中の電荷輸送材料及び燐光発光材料]
本発明においては、発光層中の燐光発光材料は1種類でもよいが、(1−A)の化合物及び(1−B)の化合物を含む電荷輸送材料については2種類以上、好ましくは3種類以上、更に製膜性が良好になることから好ましくは4種類以上である。また、燐光発光材料と電荷輸送材料との合計で3種類以上であり、好ましくは4種類以上、特に好ましくは5種類以上である。
発光層中の燐光発光材料及び電荷輸送材料の種類は、材料の管理、発光層形成用組成物の調製等における手間から、合計で20種類以下であることが好ましく、特に15種類以下であることが好ましい。実用的には、発光層中の燐光発光材料を1種類又は2種類とし、電荷輸送材料を3〜12種類、特に4〜10種類用いることが好ましい。
【0057】
[(1−A)、(1−B)及び(1−C)の化合物の具体例]
(1−A)、(1−B)及び(1−C)の化合物の具体例は以下の通りであるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
【化8】
【0059】
【化9】
【0060】
【化10】
【0061】
【化11】
【0062】
【化12】
【0063】
【化13】
【0064】
【化14】
【0065】
【化15】
【0066】
【化16】
【0067】
【化17】
【0068】
【化18】
【0069】
【化19】
【0070】
【化20】
【0071】
【化21】
【0072】
【化22】
【0073】
[発光層]
本発明の有機電界発光素子が有する発光層は、前述の通り、少なくとも1つ以上の燐光発光材料(燐光発光の性質を有する材料)と、電荷輸送材料として少なくとも(1−A)の化合物及び(1−B)の化合物を含み、好ましくは更に(1−C)の化合物を含む。発光層中の電荷輸送材料及び燐光発光材料の種類の好ましい数は前述の通りである。
【0074】
本発明の発光層中に含まれる(1−A)の化合物の含有量は、好ましくは1.0重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは90重量%以下である。本発明の発光層中に含まれる(1−B)の化合物の含有量は、好ましくは1.0重量%以上、さらに好ましくは2.0重量%以上、特に好ましくは3.0重量%以上であり、好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下、特に好ましくは40重量%以下である。本発明の発光層中に(1−C)の化合物が含まれる場合の含有量は、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1.0重量%以上であり、好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0075】
本発明に係る発光層は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層を形成する場合は、何れも低分子量の材料を使用することが好ましい。溶解性の面から好ましくは分子量3000以下、高純度の化合物が得られるという面から特に好ましくは分子量1500以下の材料である。
【0076】
[燐光発光材料]
燐光発光材料としては、通常、有機電界発光素子の燐光発光材料として使用されている任意の公知の燐光発光材料を適用することができる。
【0077】
なお、湿式成膜法により発光層を形成する際に用いられる、発光層形成用組成物の調製に用いる溶剤への燐光発光材料の溶解性を向上させる目的で、燐光発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
燐光発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0078】
燐光発光材料の例としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を中心金属として含むウェルナー型錯体又は有機金属錯体などが挙げられる。
【0079】
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられ、中でもより好ましくはイリジウム又は白金であり特に好ましくはイリジウムである。
【0080】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0081】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0082】
特に、燐光発光材料の燐光性有機金属錯体としては、好ましくは下記式(III)又は式(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0083】
ML(q−j)L’ (III)
(式(III)中、Mは金属を表し、qは上記金属の価数を表す。また、L及びL’は二座配位子を表す。jは0、1又は2の数を表す。)
【0084】
【化23】
【0085】
(式(IV)中、Mは金属を表し、Tは炭素原子又は窒素原子を表す。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表す。但し、Tが窒素原子の場合は、R94及びR95は無い。)
【0086】
以下、まず、式(III)で表される化合物について説明する。
【0087】
式(III)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属などが挙げられる。
また、式(III)中、二座配位子Lは、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0088】
【化24】
【0089】
上記Lの部分構造において、環A1は、置換基を有していてもよい、芳香族環基を表す。前述の如く、本発明における芳香族環基は、炭化水素芳香族環からなる基でも良いし、複素芳香族環からなる基でも良い。
【0090】
該炭化水素芳香族環基としては、1個の遊離原子価を有する、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環からなる基などが挙げられる。
該炭化水素芳香族環基の具体例としては、1個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環からなる基などが挙げられる。
該複素芳香族環基としては、1個の遊離原子価を有する、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環からなる基などが挙げられる。
該複素芳香族環基の具体例としては、1個の遊離原子価を有する、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環からなる基などが挙げられる。
【0091】
また、上記Lの部分構造において、環A2は、置換基を有していてもよい、含窒素複素芳香族環からなる基を表す。
該含窒素複素芳香族環基としては、1個の遊離原子価を有する、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環などが挙げられる。
該含窒素複素芳香族環基の具体例としては、1個の遊離原子価を有する、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、フロピロール環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環などが挙げられる。
【0092】
環A1又は環A2がそれぞれ有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基;炭化水素芳香族環基等が挙げられる。また、環A1が含窒素複素芳香族環基である場合及び環A2は、炭化水素芳香族環基を置換基として有していてもよい。
【0093】
また、式(III)中、二座配位子L’は、以下の部分構造を有する配位子を示す。但し、以下の式において、「Ph」はフェニル基を表す。
【0094】
【化25】
【0095】
中でも、L’としては、錯体の安定性の観点から、以下に挙げる配位子が好ましい。
【0096】
【化26】
【0097】
式(III)で表される化合物として、更に好ましくは、下記式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)で表される化合物が挙げられる。
【0098】
【化27】
【0099】
(式(IIIa)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい炭化水素芳香族環基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素複素芳香族環基を表す。)
【0100】
【化28】
【0101】
(式(IIIb)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香族環基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素複素芳香族環基を表す。)
【0102】
【化29】
【0103】
(式(IIIc)中、Mは、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、jは、0、1又は2を表し、環A1及び環A1’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族環基を表し、環A2及び環A2’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素複素芳香族環基を表す。)
【0104】
上記式(IIIa)〜(IIIc)において、環A1及び環A1’の芳香族環基の好ましい例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
【0105】
上記式(IIIa)〜(IIIc)において、環A2及び環A2’の含窒素複素芳香族環基の好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジニル基等が挙げられる。
【0106】
上記式(IIIa)〜(IIIc)における環A1及び環A1’の芳香族環基、環A2及び環A2’の含窒素複素芳香族環基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子;アルキル基;アルケニル基;アルコキシカルボニル基;アルコキシ基;アリールオキシ基;ジアルキルアミノ基;ジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アシル基;ハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例には、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、又は、環A1’が有する置換基と環A2’が有する置換基とが結合することにより、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
【0107】
中でも、環A1、環A1’、環A2及び環A2’の置換基として、より好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、炭化水素芳香族環基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基などが挙げられる。
【0108】
また、式(IIIa)〜(IIIc)におけるM〜Mの好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金などが挙げられる。
上記式(III)及び(IIIa)〜(IIIc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるものではない。
【0109】
【化30】
【0110】
【化31】
【0111】
上記式(III)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子L及び/又はL’として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、及び、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
また、国際公開第2005/019373号に記載の化合物も、燐光発光材料として使用することが可能である。
【0112】
次に、式(IV)で表される化合物について説明する。
【0113】
式(IV)中、Mは金属を表す。具体例としては、周期表第7〜11族から選ばれる金属として前述した金属などが挙げられる。Mとしては、中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0114】
また、式(IV)において、R92及びR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族環基を表す。
更に、Tが炭素原子の場合、R94及びR95は、それぞれ独立に、R92及びR93として挙げたものと同様の置換基を表す。また、Tが窒素原子の場合は、R94及びR95は無い。
【0115】
また、R92〜R95は、更に置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、その種類に特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
更に、R92〜R95のうち任意の2つ以上の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0116】
式(IV)で表される有機金属錯体の具体例(T−1、T−10〜T−15)を以下に示すが、下記の例示物に限定されるものではない。また、以下の化学式において、「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表す。
【0117】
【化32】
【0118】
これらの燐光発光材料は、1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0119】
本発明における燐光発光材料の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。本発明における燐光発光材料の分子量は、好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、更に好ましくは4000以下、特に好ましくは3000以下である。また、本発明における燐光発光材料の分子量は、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上である。
【0120】
燐光発光材料の分子量は、ガラス転移温度や融点、分解温度等が高く、発光材料及び形成された発光層の耐熱性に優れる点、及び、ガス発生、再結晶化及び分子のマイグレーションなどに起因する膜質の低下や材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇などが起こり難い点では大きいことが好ましい。一方、燐光発光材料の分子量は、有機化合物の精製が容易で、溶剤に溶解させやすい点では小さいことが好ましい。
【0121】
本発明に係る発光層に含まれる燐光発光材料の含有量は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上であり、通常35重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。なお、2種以上の燐光発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにするのが好ましい。
【0122】
[電荷輸送材料]
本発明の発光層の少なくとも一層には、前述のとおり、電荷輸送材料として(1−A)の化合物及び(1−B)の化合物が各々1種以上含まれ、好ましくは更に(1−C)の化合物が含まれるが、これら以外の電荷輸送材料を含んでいてもよい。以下、(1−A)の化合物、(1−B)の化合物及び(1−C)の化合物以外の電荷輸送材料について説明する。
【0123】
電荷輸送材料には、正孔輸送性を有する化合物(正孔輸送材料或いは正孔輸送性化合物と称することがある)と、電子輸送性を有する化合物(電子輸送材料或いは電子輸送性化合物と称することがある)がある。発光層は、正孔輸送材料と電子輸送材料の両方を含んでいてもよく、いずれか一方を含んでいてもよい。なお、発光層が、正孔輸送性化合物は含んでいるが、電子輸送性化合物を含んでいない場合は、発光層において、正孔輸送性化合物が電子を輸送すれば良い。同様に発光層が電子輸送性化合物を含んでいるが、正孔輸送性化合物を含んでいない場合は、発光層において、電子輸送性化合物が正孔を輸送すれば良い。
【0124】
ここで、電荷輸送材料の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、チオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン系化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、トリフェニレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピレン系化合物、アントラセン系化合物、フェナントロリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、トリアジン系化合物、オキサジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0125】
電荷輸送材料の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。本発明における電荷輸送材料の分子量は、通常5000以下、好ましくは3000以下、更に好ましくは2000以下である。また、本発明における電荷輸送材料の分子量は、通常400以上、好ましくは500以上、更に好ましくは600以上である。
電荷輸送材料の分子量が上記範囲内であると、ガラス転移温度や融点、分解温度等が高く、発光材料及び形成された発光層の耐熱性が良好である点、及び、再結晶化や分子のマイグレーションなどに起因する膜質の低下や、材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇などが起こり難く、素子性能に優れる点、また、精製が容易である点などで好ましい。
【0126】
本発明に係る発光層には、(1−A)〜(1−C)の化合物を含む全電荷輸送材料を通常65重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは75重量%以上含有することが良い。また、全電荷輸送材料を通常99.99重量%以下、好ましくは99.95重量%以下、さらに好ましくは99.9重量%以下含有することが良い。
【0127】
[発光層の形成]
本発明に係る発光層は、材料の利用効率が高く、また、その陽極側に通常形成される正孔輸送層と適度に混ざることにより正孔の注入性が良好となりやすいことから、湿式成膜法で形成されるのが好ましい。
【0128】
本発明において湿式成膜法とは、成膜方法、即ち、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の湿式で成膜させる方法を採用し、この塗布膜を乾燥させて膜形成を行う方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法などが好ましい。
【0129】
湿式成膜法により発光層を形成する場合は、通常、上述の燐光発光材料、電荷輸送材料、及び必要に応じて用いられる後述のその他の材料を適切な溶剤に溶解させることにより調製した発光層形成用組成物を用いて成膜することにより形成する。
【0130】
発光層の湿式成膜法に用いる溶剤は、燐光発光材料及び電荷輸送材料などの発光層の形成に用いる材料が良好に溶解又は分散する溶剤であれば特に限定されない。
溶剤の溶解性としては、25℃、1気圧下で、燐光発光材料及び電荷輸送材料を、各々、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上溶解することが好ましい。
【0131】
以下に溶剤の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、溶剤は、これらに限定されるものではない。
【0132】
溶剤としては、例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラメチルシクロヘキサノン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
溶剤は、中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0133】
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、溶剤の沸点は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上であることが良い。また、溶剤の沸点は、通常300℃以下、好ましくは270℃以下、より好ましくは沸点250℃以下であることが良い。
【0134】
[発光層形成用組成物の組成]
本発明における発光層形成用組成物中には、燐光発光材料が通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上含有されているのが良い。また、燐光発光材料が通常10重量%以下、好ましくは7重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下含有されていることが良い。なお、2種以上の燐光発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにするのが好ましい。
【0135】
本発明における発光層形成用組成物は、電荷輸送材料を通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上含有しているのが良い。また、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下含有することが良い。発光層の形成に複数種の電荷輸送用材料を用いる場合、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにするのが好ましい。
【0136】
また、発光層形成用組成物中の燐光発光材料と電荷輸送材料との含有量の比(燐光発光材料/電荷輸送材料の重量比)は、通常0.01以上、好ましくは0.03以上であることが良い。また、発光層形成用組成物中の燐光発光材料と電荷輸送材料との含有量の比(燐光発光材料/電荷輸送材料の重量比)は、通常0.5以下、好ましくは0.3以下であることが良い。
【0137】
本発明に係る発光層形成用組成物における溶剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。発光層形成用組成物中の溶剤の含有量が多いと、粘性が低く、成膜の作業性に優れる点で好ましい。一方、溶剤の含有量が少ないと、成膜後に溶剤を除去して得られる膜の厚みを稼ぎやすく、成膜が容易である点で好ましい。具体的には、溶剤の含有量は、発光層形成用組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部以上、より好ましくは50重量部以上、特に好ましくは80重量部以上であることが良い。また、溶剤の含有量は、好ましくは99.95重量部以下、より好ましくは99.9重量部以下、特に好ましくは99.8重量部以下であることが良い。なお、発光層形成用組成物として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにするのが好ましい。
【0138】
本発明における発光層形成用組成物は、成膜性の向上を目的として、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0139】
本発明における発光層形成用組成物中の燐光発光材料、正孔輸送材料、電子輸送材料等の合計量である固形分濃度は、膜厚ムラが生じ難い点では少ないことが好ましいが、また、一方で、膜に欠陥が生じ難い点では多いことが好ましい。具体的には、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下であることがよい。
【0140】
発光層の形成は、通常、このような発光層形成用組成物を発光層の下層となる層(通常は後述の正孔注入層又は正孔輸送層)上に湿式成膜後、得られた塗膜を乾燥し、溶剤を除去することにより形成される。
【0141】
発光層の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜に欠陥が生じ難い点では厚いことが好ましいが、また、一方で、駆動電圧が低くなりやすい点では薄いことが好ましい。具体的には、発光層の膜厚は通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0142】
なお、有機電界発光素子には、発光層は2層以上設けてもかまわない。発光層が2層以上の場合、各層の条件は上述の通りである。
【0143】
発光層を2層以上設けた場合、いずれか一層の発光層において前述の規定を満たしていればよいが、全ての発光層について前述の規定を満たしていることが好ましい。
【0144】
[有機電界発光素子の層構成と形成方法]
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成及びその一般的形成方法等の実施の形態の一例を、図1を参照して説明する。
【0145】
図1は本発明の有機電界発光素子10の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
即ち、本発明の有機電界発光素子は、陽極、発光層及び陰極を必須の構成層とするが、必要に応じて、図1に示すように陽極と発光層及び陰極との発光層との間に他の機能層を有していてもよい。
【0146】
<基板>
基板1は、有機電界発光素子の支持体となるものである。基板1としては、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板;ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合には、ガスバリア性に留意するのが好ましい。基板のガスバリア性は、基板を通過した外気による有機電界発光素子の劣化が起こり難いので、大きいことが好ましい。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0147】
<陽極>
陽極2は、発光層5側の層への正孔注入の役割を果たす電極である。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の方法により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、これらの微粒子などを適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより、陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成することもできる。また、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0148】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0149】
陽極2の厚みは、必要とする透明性などに応じて適宜選択すればよい。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。また、この場合、陽極2の厚みは、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は、陽極2の厚みは任意である。陽極2の機能を兼ね備えた基板1を用いてもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0150】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
【0151】
<正孔注入層>
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層である。正孔注入層3は、本発明の有機電界発光素子に必須の層ではないが、正孔注入層3を設ける場合は、正孔注入層3は、通常、陽極2上に形成される。
【0152】
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はない。正孔注入層3は、ダークスポット低減の観点から湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0153】
(湿式成膜法による正孔注入層の形成)
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層3形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0154】
(正孔輸送材料)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層3の構成材料として正孔輸送材料及び溶剤を含有する。
正孔輸送材料は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層3に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0155】
正孔輸送材料としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送材料の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキ
ノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0156】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
【0157】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送材料は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送材料を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送材料1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0158】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0159】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(3−1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0160】
【化33】
【0161】
(式(3−1)中、Ar21〜Ar25は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。Zは、下記の連結基群Wの中から選ばれる連結基を表す。また、Ar21〜Ar25のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0162】
【化34】
【0163】
(上記各式中、Ar26〜Ar36は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。R15及びR16は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表す。))
【0164】
Ar21〜Ar36の芳香族環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、1個又は2個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環が好ましく、1個又は2個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環がさらに好ましい。
【0165】
Ar21〜Ar36の芳香族環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族環基などが好ましい。
【0166】
15及びR16が任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族環基などが挙げられる。
【0167】
式(3−1)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号に記載のものが挙げられる。
また、正孔輸送材料としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4−ethylenedioxythiophene(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0168】
尚、正孔輸送材料は、下記(正孔輸送層)の項に記載の架橋性化合物であってもよい。該架橋性化合物を用いた場合の成膜方法についても同様である。
【0169】
正孔注入層形成用組成物中の正孔輸送材料の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。正孔注入層形成用組成物中の正孔輸送材料の濃度は、膜厚の均一性の点から、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上であり、また、一方、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度は、膜厚ムラが生じ難い点では小さいことが好ましい。また、この濃度は、成膜された正孔注入層に欠陥が生じ難い点では大きいことが好ましい。
【0170】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は、正孔注入層3の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
【0171】
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送材料から1電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子受容性化合物としては、電子親和力が4.0eV以上である化合物が好ましく、5.0eV以上の化合物がさらに好ましい。
【0172】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、電子受容性化合物としては、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開2005/089024号);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0173】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送材料を酸化することにより正孔注入層3の導電率を向上させることができる。
【0174】
(その他の構成材料)
正孔注入層3の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送材料や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。
【0175】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層3の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。
【0176】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
【0177】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0178】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イソプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。
【0179】
中でも好ましくは、芳香族エステル、芳香族エーテルである。
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0180】
(真空蒸着法による正孔注入層3の形成)
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、例えば、以下のようにして正孔輸送層3を形成することができる。正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送材料、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気する。この後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板1の陽極2上に正孔
注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0181】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されない。蒸着時の真空度は、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されない。蒸着速度は、通常0.1Å/秒以上、5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されない。蒸着時の成膜温度は、好ましくは10℃以上、50℃以下で行われる。
【0182】
<正孔輸送層>
正孔輸送層4は、陽極2から発光層5へ輸送する層である。正孔輸送層4は、本発明の有機電界発光素子に必須の層ではないが、正孔輸送層4を設ける場合は、通常、正孔輸送層4は、正孔注入層3がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。
【0183】
正孔輸送層4の形成方法は、真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はない。正孔輸送層4は、ダークスポット低減の観点から湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0184】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、正孔輸送層4を形成する材料は、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、正孔輸送層4は、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0185】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層4の構成材料として用いられている材料であればよい。正孔輸送層4の材料としては、例えばアリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0186】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0187】
中でも、正孔輸送層4の材料としては、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
【0188】
ポリアリールアミン誘導体及びポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0189】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送材料の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は、上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
真空蒸着法により正孔輸送層4を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0190】
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0191】
<発光層>
発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。発光層5は、通常、正孔輸送層4がある場合には正孔輸送層4の上に、正孔輸送層4が無く、正孔注入層3がある場合には正孔注入層3の上に、正孔輸送層4も正孔注入層3も無い場合は、陽極2の上に形成することができる。
発光層5の構成材料及び形成方法等については、前述の通りである。
【0192】
<正孔阻止層>
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、電子輸送層のうち、更に陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割をも担う層である。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。本発明の有機電界発光素子においては、正孔阻止層は必須の構成層ではない。
【0193】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項エネルギー準位(T1)が高いことなどが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005/022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0194】
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、正孔阻止層6は、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。正孔阻止層6の膜厚は、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0195】
<電子輸送層>
電子輸送層7は、発光層5と陰極9の間に設けられた電子を輸送するための層である。なお、本発明の有機電界発光素子においては、電子輸送層は必須の構成層ではない。
【0196】
電子輸送層7の電子輸送材料としては、通常、陰極9又は陰極9側の隣接層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体やリチウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、トリアジン化合物誘導体、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0197】
また、該電子輸送層7に用いられる電子輸送材料としては、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される電子輸送性有機化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープさせることにより(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)、電子注入輸送性と優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。また、上述の電子輸送性有機化合物にフッ化リチウムや炭酸セシウムなどのような無機塩をドープすることも有効である。
【0198】
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
電子輸送層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0199】
<電子注入層>
陰極9から注入された電子を効率良く発光層5に注入するために、電子輸送層7と後述の陰極9との間に電子注入層8を設けてもよい。電子注入層8は、無機塩などからなる。なお、本発明の有機電界発光素子においては、電子注入層は必須の構成層ではない。
【0200】
電子注入層8の材料としては、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(CsCO)等が挙げられる(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70、 pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0201】
電子注入層8は、電荷輸送性を伴わない場合が多いため、電子注入を効率よく行なうには、極薄膜として用いることが好ましく、その膜厚は、通常0.1nm以上、好ましくは5nm以下である。
【0202】
<陰極>
陰極9は、発光層5側の層に電子を注入する役割を果たす電極である。
【0203】
陰極9の材料としては、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。これらのうち、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金などが用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数の合金電極などが挙げられる。
【0204】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0205】
陰極9の膜厚は、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陰極9の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陰極9の厚みは任意であり、陰極は基板と同一でもよい。また、さらには、上記の陰極9の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0206】
さらに、例えば、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウム等のアルカリ土類金属等からなる低仕事関数の金属からなる陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0207】
<その他の層>
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。具体的には、例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、上記説明にある層のうち必須でない層が省略されていてもよい。
【0208】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
【0209】
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0210】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0211】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0212】
[有機電界発光デバイス]
本発明の有機電界発光デバイスは、互いに異なる色に発光する有機電界発光素子を2つ以上有する有機電界発光デバイスであって、そのうちの少なくとも1つが本発明の有機電界発光素子であることを特徴とするものである。また、この有機電界発光デバイスにおいて、すべての有機電界発光素子が本発明の有機電界発光素子であることが好ましい。その理由は有機電界発光デバイスの駆動電圧が下がり、省電力化になることによる。本発明の有機電界発光デバイスとしては、有機EL表示装置及び有機EL照明などが挙げられる。
【0213】
<有機EL表示装置>
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いた表示装置である。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0214】
<有機EL照明>
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いた照明である。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0215】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0216】
〔特性評価用素子の作製〕
[実施例1]
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
まず、ガラス基板1上に、ITO透明導電膜を70nmの厚さに堆積し、2mm幅のストライプにパターニングして、ITOの陽極2を形成した。陽極2を形成したITO成膜基板(ジオマテック社製、スパッタ成膜品)の成膜面に対して、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄を行い、更に圧縮空気で乾燥させ、紫外線オゾン洗浄を施した。
【0217】
次に、下記(P1)で表される繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子化合物を2.0重量%と、下記(A1)で表される4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートを0.8重量%含む安息香酸エチル溶液(正孔注入層形成用組成物)を調製した。
【0218】
【化35】
【0219】
この正孔注入層形成用組成物を、下記に示す成膜条件でスピンコート法により上記ITO基板上に成膜し、さらに下記に示すベーク条件にてベークすることにより、膜厚40nmの正孔注入層3を得た。
【0220】
<成膜条件>
スピンコート雰囲気 大気雰囲気下
ベーク条件 大気雰囲気下,230℃,1時間
【0221】
その後、下記(H−1)で表される正孔輸送性高分子化合物の1重量%シクロヘキシルベンゼン溶液(正孔輸送層形成用組成物)を調製し、これを下記に示す成膜条件で正孔注入層3上にスピンコートにて成膜し、下記に示すベーク条件にてベークによる架橋処理を行うことで、膜厚10nmの正孔輸送層4を形成した。
【0222】
【化36】
【0223】
<成膜条件>
スピンコート雰囲気 窒素雰囲気下
ベーク条件 窒素雰囲気下,230℃,1時間
【0224】
次に、発光層5を形成するにあたり、以下に示す燐光発光材料(D−1)と、電荷輸送材料(h−1)〜(h−3)を、(D−1)を0.72重量%、(h−1)を0.12重量%、(h−2)を3.24重量%、(h−3)を0.36重量%含有させたシクロヘキシルベンゼン溶液(発光層形成用組成物)を調製した。
【0225】
【化37】
【0226】
この発光層形成用組成物を用いて、以下に示す条件で正孔輸送層4上にスピンコート法にて成膜し、下記に示すベーク条件でベーク処理を行うことで、膜厚50nmの発光層5を形成した。
【0227】
<成膜条件>
スピンコート雰囲気 窒素雰囲気下
ベーク条件 窒素雰囲気下,120℃,10分
【0228】
次に、正孔注入層3、正孔輸送層4及び発光層5を成膜した基板を真空蒸着装置内に搬入し、粗排気を行った後、クライオポンプを用いて装置内の真空度が3.0×10−4Pa以下になるまで排気した。発光層5の上に、真空度を2.2×10−4Pa以下に保った状態で、正孔阻止材料として([1、1’−ビフェニル]−4−オラト)ビス(2−メチル−8−キノリノラト−κN、κO)アルミニウム(BAlq)を、蒸着速度0.6〜1.2Å/秒で膜厚10nm成膜することにより正孔阻止層6を形成した。
【0229】
次いで、真空度を2.2×10−4Pa以下に保った状態で、正孔阻止層6の上に、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(Alq)を加熱して、蒸着速度0.7〜1.3Å/秒で膜厚20nm成膜することにより電子輸送層7を形成した。
【0230】
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った基板を、有機層蒸着用チャンバーから金属蒸着用チャンバーへと搬送した。陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプと直交するように基板に密着させて設置した。有機層蒸着時と同様にして、装置内を真空度が1.1×10−4Pa以下になるまで排気した。
【0231】
その後、真空度を1.0×10−4Pa以下に保った状態で、電子輸送層7の上に、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて加熱し、蒸着速度0.07〜0.15Å/秒で膜厚0.5nm蒸着することにより電子注入層8を形成した。次に、同様にして、真空度を2.0×10−4Paに保った状態で、アルミニウムを、モリブデンボートを用いて加熱し、蒸着速度0.6〜10.0Å/秒で膜厚80nm蒸着することにより、陰極9を形成した。以上の電子注入層8及び陰極9の蒸着時の基板温度は、室温に保持した。
【0232】
引き続き、有機電界発光素子が、保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、1mmの幅で光硬化性樹脂「30Y−437」(スリーボンド社製)を塗布し、中央部に水分ゲッターシート(ダイニック社製)を設置した。この上に、上述の陰極9の形成まで終了した基板を搬入し、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
【0233】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する実施例1の有機電界発光素子が得られた。
【0234】
[実施例2,3、比較例1]
発光層形成用組成物に用いる燐光発光材料と電荷輸送材料を、表1に示す組み合わせで調製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2、3、比較例1の有機電界発光素子を作成した。表1においては、各実施例あるいは比較例に対し、発光層形成用組成物に用いた材料の欄に、該材料の含有率(重量%)を記載している。
【0235】
〔特性評価用素子の評価〕
各実施例及び比較例の有機電界発光素子に、2mA/cmの電流密度で電流を流した場合の電圧を測定し、比較例1における電圧との差(ΔV(V))を表1に記した。
実施例及び比較例において使用した(D−1)は燐光発光材料である。(h−1)は(1−C)の化合物に、(h−2)は(1−A)の化合物に、(h−3)は(1−B)の化合物に相当する。いずれの実施例においても、(1−A)の化合物と(1−B)の化合物とを組み合わせて用いることにより、(1−B)の化合物を用いない比較例1よりも低電圧化していることがわかる。
【0236】
【表1】
【符号の説明】
【0237】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子
図1