(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凝縮面の算術平均表面粗さRa(JIS B 0601−2001)が、1nm以上200μm以下である、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱処理炉装置。
炭素繊維の前駆体繊維束を、熱処理室に連続的に供給して、酸化性物質を含む熱風により200℃以上300℃以下で熱処理して、前記熱処理室から導出して酸化繊維束とする際に、
前記熱処理室から排出された熱風の少なくとも一部から凝縮物を分離して熱風を熱処理室に戻して循環させる酸化繊維束の製造方法であって、
前記凝縮物を、低粘性液体によって保護された0℃以上80℃以下の凝縮面に捕捉して分離する、酸化繊維束の製造方法。
炭素繊維の前駆体繊維束を、熱処理室に連続的に供給して、酸化性物質を含む熱風により200℃以上300℃以下で熱処理して、前記熱処理室から導出して酸化繊維束とする際に、
前記熱処理室から排出された熱風の少なくとも一部から凝縮物を分離して熱風を前記熱処理室に戻して循環させる酸化繊維束の製造方法であって、
前記凝縮物を、表面温度が0℃以上80℃以下の凝縮面に生成、滴下させ、
凝縮物を分離された直後の熱風の温度が前記凝縮面の前記表面温度よりも高い、酸化繊維束の製造方法。
炭素繊維の前駆体繊維束を、熱処理室に連続的に供給して、酸化性物質を含む熱風により200℃以上300℃以下で熱処理して、前記熱処理室から導出して酸化繊維束とする際に、
前記熱処理室から排出された熱風の少なくとも一部から凝縮物を分離して熱風を熱処理室に戻して循環させる酸化繊維束の製造方法であって、請求項1から10のいずれか一項記載の熱処理炉装置を用いて行なう酸化繊維束の製造方法。
請求項11から18のいずれか一項に記載の酸化繊維束の製造方法により酸化繊維束を製造し、前記酸化繊維束を800℃以上の不活性雰囲気下で炭素化する炭素繊維束の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および2に記載の方法は、濾材を用いた方法である。そのため、粉塵のみを含む気体から粉塵を除去することには適するが、ミスト状のタール分を含む気体から粉塵を除去するには効率的な方法とは言えない。濾材の表面に短時間でタール分が付着し、濾材が急速に目詰まりするからである。よって、濾材を用いた特許文献1および2に記載の方法では、長時間安定して種々の不純物を除去することはできない。
また、濾材に付着した粉塵を含むタール分は高粘性であるため、濾材の再生には多大な労力を要する。
【0010】
また、特許文献3に記載の方法も、金網、多孔体、フィルタ等の濾材を用いた場合には、特許文献1および2の場合と同様に、濾材の目詰まりの問題が生じ、濾材の再生には多大な労力が伴う。また、特許文献3に記載の方法において、サイクロンを用いた場合、粒径が小さいミストを除去しようとすると、サイクロンの旋回部の径を小さくする必要がある。この場合、大量の熱風を処理するためには極めて多数のサイクロンが必要となり、現実的ではない。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、炭素繊維の前駆体繊維束を加熱する熱処理炉から排出される熱風に含まれる、ミスト状のタール分、粉塵等が混在する不純物を安定に分離、除去でき、長期間連続稼働が可能な熱処理炉装置および炭素繊維束の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の構成を有する。
[1] 炭素繊維の前駆体繊維束を熱処理するための熱処理炉装置であって、
連続的に供給される前駆体繊維束を熱風により200℃以上300℃以下で処理する熱処理室と、
前記熱処理室から排出された熱風を前記熱処理室に戻す熱風循環路と、
前記熱風循環路を流れる熱風の少なくとも一部が導入され、凝縮物と気体とに分離する凝縮分離装置とを有し、
前記凝縮分離装置は、
前記熱風の少なくとも一部が導入され、気体出口から前記気体が排出される凝縮処理室と、
前記凝縮処理室内に設けられ、前記凝縮物を生成、滴下させる凝縮面を有する凝縮部とを有し、前記凝縮面が低粘性液体によって保護されている、熱処理炉装置。
[2] 炭素繊維の前駆体繊維束を熱処理するための熱処理炉装置であって、
連続的に供給される前駆体繊維束を熱風により200℃以上300℃以下で処理する熱処理室と、
前記熱処理室から排出された熱風を前記熱処理室に戻す熱風循環路と、
前記熱風循環路を流れる熱風の少なくとも一部が導入され、凝縮物と気体とに分離する凝縮分離装置とを有し、
前記凝縮分離装置は、
前記熱風の少なくとも一部が導入される凝縮処理室と、
前記凝縮処理室内に設けられ、前記凝縮物を生成、滴下させる凝縮面を有する凝縮部とを有し、
前記凝縮面の表面温度は、0℃以上100℃以下であり、
前記凝縮処理室に形成された気体出口から排出される前記気体の温度は、前記凝縮面の前記表面温度よりも高い、熱処理炉装置。
[3] 下記式(1)を満足する[1]または[2]に記載の熱処理炉装置。
10≦Y/A≦1000・・・(1)
(式中、Yは、前記熱風循環路から前記凝縮処理室に導入される熱風の気体流量(Nm
3/hr)を意味し、Aは前記凝縮面の表面積A(m
2)を意味する。)
[4] 前記気体出口における前記気体の温度が100℃以上150℃以下である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の熱処理炉装置。
[5] 前記凝縮処理室に形成された熱風入口における前記熱風の温度が100℃以上300℃以下である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の熱処理炉装置。
[6] 前記凝縮処理室の下方には、前記凝縮面から滴下する前記凝縮物を捕集する凝縮物捕集部が配され、
前記凝縮物捕集部の表面温度が0℃以上100℃以下である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の熱処理炉装置。
[7] 前記凝縮処理室の内壁面の表面温度が、前記凝縮面の表面温度および前記凝縮物捕集部の表面温度より高い、[6]に記載の熱処理炉装置。
[8] 前記気体出口から排出された前記気体が前記熱風循環路に戻される返送路を有する、[1]から[7]のいずれか一項に記載の熱処理炉装置。
[9] 下記式(2)を満足する、[1]から[8]のいずれか一項に記載の熱処理炉装置。
1≦(X+Y)/Z≦500・・・(2)
(式中、Xは前記熱処理炉装置に供給される単位時間当たりのフレッシュエアの量(Nm
3/hr)を意味し、Yは前記熱風循環路から前記凝縮処理室に導入される熱風の気体流量(Nm
3/hr)を意味し、Zは前駆体繊維束を前記熱処理室に供給する供給速度(kg/hr)を意味する。)
[10] 前記凝縮面の算術平均表面粗さRa(JIS B 0601−2001)が、1nm以上200μm以下である、[1]から[9]のいずれか一項に記載の熱処理炉装置。
[11] 炭素繊維の前駆体繊維束を、熱処理室に連続的に供給して、酸化性物質を含む熱風により200℃以上300℃以下で熱処理して、前記熱処理室から導出して酸化繊維束とする際に、
前記熱処理室から排出された熱風の少なくとも一部から凝縮物を分離して熱風を熱処理室に戻して循環させる酸化繊維束の製造方法であって、
前記凝縮物を、低粘性液体によって保護された0℃以上100℃以下の凝縮面に補足して分離する、酸化繊維束の製造方法。
[12] 炭素繊維の前駆体繊維束を、熱処理室に連続的に供給して、酸化性物質を含む熱風により200℃以上300℃以下で熱処理して、前記熱処理室から導出して酸化繊維束とする際に、
前記熱処理室から排出された熱風の少なくとも一部から凝縮物を分離して熱風を前記熱処理室に戻して循環させる酸化繊維束の製造方法であって、
前記凝縮物を、表面温度が0℃以上100℃以下の凝縮面に生成、滴下させ、
凝縮物を分離された直後の熱風の温度が前記凝縮面の前記表面温度よりも高い、酸化繊維束の製造方法。
[13] 前記凝縮面の表面が熱風から凝縮した低粘度液体によって保護された、[12]に記載の酸化繊維束の製造方法。
[14] 下記式(1)を満足る、[11]から[13]のいずれか一項に記載の酸化繊維束の製造方法。
10≦Y/A≦1000・・・(1)
(式中、Yは、前記熱処理室から排出された熱風の少なくとも一部であって、それから凝縮物が分離される熱風の気体流量(Nm
3/hr)を意味し、Aは前記凝縮面の表面積A(m
2)を意味する。)
[15] 前記凝縮物を分離された直後の熱風の温度が100℃以上150℃以下である、[11]から[14]のいずれか一項に記載の酸化繊維束の製造方法。
[16] 前記凝縮物を分離される直前の熱風の温度が100℃以上300℃以下である、[11]から[15]のいずれか一項に記載の酸化繊維束の製造方法。
[17] 炭素繊維の前駆体繊維束を、熱処理室に連続的に供給して、酸化性物質を含む熱風により200℃以上300℃以下で熱処理して、前記熱処理室から導出して酸化繊維束とする際に、
前記熱処理室から排出された熱風の少なくとも一部から凝縮物を分離して熱風を熱処理室に戻して循環させる酸化繊維束の製造方法であって、[1]から[10]のいずれか一項記載の熱処理装置を用いて行なう酸化繊維束の製造方法。
[18] 前記前駆体繊維束が、ポリアクリロニトリル系繊維からなる、[11]から[17]のいずれか一項に記載の酸化繊維束の製造方法。
[19] [11]から[18]のいずれか一項に記載の酸化繊維束の製造方法により酸化繊維束を製造し、前記酸化繊維束を800℃以上の不活性雰囲気下で炭素化する炭素繊維束の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炭素繊維の前駆体繊維束を加熱する熱処理炉から排出される熱風に含まれる、ミスト状または蒸気状の油剤、ミスト状のタール分、粉塵等が混在する、不純物を安定に分離、除去でき、長期間連続稼働が可能な熱処理炉装置および炭素繊維束の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、前駆体繊維束としてPAN系繊維を用い、PAN系炭素繊維を製造する場合を例示して、本発明を詳細に説明する。本発明の熱処理装置はピッチ系繊維からなる前駆体繊維束からピッチ系炭素繊維を製造する場合にも用いることもできる。
【0016】
〔熱処理炉装置〕
図1は、本実施形態例の熱処理炉装置の構成を示す概略構成図である。
本実施形態例の熱処理炉装置10は、PAN系前駆体繊維束Fを耐炎化処理(熱処理)する際に使用されるものであって、PAN系前駆体繊維束Fを熱処理する熱処理室11と、前記熱処理室11から排出された熱風を前記熱処理室11に戻して循環させる熱風循環路12と、前記熱風循環路12を流れる熱風の少なくとも一部が導入され、導入された熱風を凝縮物と気体とに分離する凝縮分離装置20とを有する。
【0017】
(熱処理室)
熱処理室11には、PAN系前駆体繊維束Fが連続的に導入されるとともに、熱風循環路12から熱風が連続的に供給される。PAN系前駆体繊維束Fは、熱処理室11において、好ましくは200℃以上300℃以下(炉内温度)、より好ましくは220℃以上280℃以下、更に好ましくは230℃以上260℃以下に加熱されて熱処理され、これによりPAN系前駆体繊維束Fは耐炎化処理され、耐炎化繊維束となる。なお、ここで得られる耐炎化繊維束は、耐炎化処理が完全にはなされていない部分耐炎化繊維束であってもよい。以下、部分耐炎化繊維束を含めて耐炎化繊維束という。
熱風としては、酸素、二酸化窒素などの酸化性物質を含む気体であれば特に制限されないが、工業生産面からは、空気を用いることが経済面、安全面で好ましい。また、酸化能力を調整する目的で、熱風中の酸素濃度を変更してもよい。
【0018】
熱処理室11には、給気口(図示略)および排気口(図示略)が形成され、給気口からは、所定温度に加熱されたフレッシュエアが外部から連続的に供給されてもよく、一方、排気口からは、熱処理室11内の熱風が外部に連続的に排出されてもよい。これにより、PAN系前駆体繊維束Fから発生するHCN等のガスの濃度を一定値以下に抑えることができる。
【0019】
図1の例では、複数束のPAN系前駆体繊維束Fは、同一平面上にシート状に並んだ繊維束群の状態で、熱処理室11の外部から内部へと連続的に導入される。その後、PAN系前駆体繊維束Fは、熱処理室11外に配設された複数組の折返しローラによって、複数回折り返され、熱処理室11内を出入りしながら走行する。
たとえば
図1の例では、熱処理室11外には3組の折返しローラ11a,11a、11b,11b,11c,11cが設けられ、これにより、繊維束群は熱処理室11内に7回出入りする。ここで1回の出入りのことを「パス」という。
図1の例では、パス数は「7」であるが、パス数は特に限定されず、熱処理炉装置10の規模等によって適宜設計される。
【0020】
(熱風循環路)
熱風循環路12は、熱処理室11から排出された熱風を熱処理室11に戻すための流路である。熱風循環路12の上流側の端部および下流側の端部は、いずれも熱処理室11に開口状態で接続されている。熱風循環路12の上流側の端部は、熱処理室11から排出された熱風を吸い込む熱風吸込口12aであり、熱風循環路12の下流側の端部は、熱処理室11に戻される熱風が熱処理室11に吹き出される熱風吹出口12bである。
【0021】
熱風吹出口12bの端面(吹き出し面)には、多孔板(図示略)等を配して、圧力損失を高くすることが好ましい。これにより、熱処理室11には、熱風吹出口12bの端面全体から均―な風速で熱風が吹き込まれる。
熱風吸込口12aの端面(吸い込み面)には、熱風吹出口12bの場合と同様に、多孔板(図示略)等を配して圧力損失を生じさせてもよいし、生じさせなくてもよい。熱風吸込口12aにおける圧力損失は、必要に応じて適宜決定される。
【0022】
熱風循環路12の途中には、熱風加熱手段13とファン(送風機)14とが配され、熱風加熱手段13により加熱された熱風が、ファン14により送風される。
熱風加熱手段13としては、たとえば電気ヒータ等の公知の熱風加熱手段を使用でき、特に制限はない。ファン14としても、たとえば軸流ファン等の公知のファンを使用でき、特に制限はない。
【0023】
熱風循環路12の熱風吹出口12bからの熱風は、この例では、熱処理室11内を走行するPAN系前駆体繊維束Fの走行方向に対して垂直方向に吹き込んでいるが、走行方向に対して平行に吹き込んでもよく、PAN系前駆体繊維束Fの走行方向と、熱風の吹き込み方向との成す角度には、特に制限はない。
【0024】
熱風循環路12には、前記熱風循環路12内における、PAN系前駆体繊維束Fから発生するHCN等のガスの濃度を一定値以下に抑えるため、熱風循環路12内の熱風を外部に排出する排気口(図示略)を設けてもよい。また、熱風循環路12内に外気を給気する給気口(図示略)を設けてもよい。排気口および給気口は、熱風循環路12における熱風加熱手段13の上流側に設けることが好ましい。
【0025】
(凝縮分離装置)
凝縮分離装置20は、熱風循環路12を流れる熱風の少なくとも一部が導入され、導入された熱風を不純物を含む凝縮物と不純物の少ない気体とに分離する装置である。この例では、分離された気体は熱風循環路12に戻され、熱処理室11へと供給される。
【0026】
熱風循環路12を流れる熱風に含まれる不純物としては、たとえば、PAN系前駆体繊維束Fに付与された油剤に含まれる界面活性剤成分やシリコーン化合物とその変性物および分解物の微小な液滴(ミスト)および蒸気;PAN系前駆体繊維束Fを構成するPAN系ポリマーが部分的に分解して発生する低分子量化合物とその変性物および分解物の微小な液滴(ミスト)および蒸気;PAN系前駆体繊維束Fに付着して熱処理炉装置の外部から持ち込まれる粉塵、熱処理炉装置内に流入する外気(フレッシュエア)に含まれる粉塵およびシリコーン化合物とその変性物および分解物の微小な液滴(ミスト)または蒸気が高温にさらされることによって生成する酸化ケイ素系化合物の粉塵:等が挙げられ、熱風から分離すると、通常、低粘性液体と粉塵等が混在したタール状の高粘性液体に相分離する。ここで低粘性液体とは、PAN系前駆体繊維束Fに付与された油剤に含まれる界面活性剤成分やシリコーン化合物の混合物である。
【0027】
図2は、
図1の熱処理炉装置10が具備する凝縮分離装置20の構成を概略的に示す縦断面図であり、
図3は、
図2におけるI−I’線に沿う横断面図である。
なお、
図2の縦断面図では、理解のしやすさから、符号25で表される多数本の直管のうち、2本を記載している。
【0028】
図2に示す例の凝縮分離装置20は、熱風循環路12からの熱風が導入される凝縮処理室21と、前記凝縮処理室21内に設けられ、導入された熱風を冷却して凝縮物を生成させる凝縮面22aが形成された凝縮部22とを有する。
この例の凝縮処理室21は、径が一定の円筒状であり、その中心線が鉛直方向に一致するように配置されている。凝縮処理室21の下端には、凝縮面22aから、重力により鉛直方向に滴下した凝縮物を受けて捕集するための凝縮物捕集部23が連続して形成されている。凝縮物捕集部23は、漏斗状であり、下端に向けて縮径する縮径部23aと、縮径部23aに連続して形成された径が一定の下部23bとを有する。下部23bの下端は、開閉自在とされている。
【0029】
凝縮処理室21には、熱風入口21aが形成されており、熱風循環路12から分岐した分岐路12cからの熱風が、前記熱風入口21aから凝縮処理室21内に導入される。凝縮処理室21には、気体出口21bが形成されており、凝縮物が分離された後の気体が気体出口21bから排出される。凝縮処理室21において、熱風入口21aおよび気体出口21bが形成される位置には、特に制限はないが、凝縮面22aで凝縮した不純物が下方へ滴下することを促進するためには、
図2、5、6に示す例のように、気体出口21bを熱風入口21aよりも下方に配置することが好ましい。
【0030】
また、この例では、気体出口21bには返送路24が接続され、凝縮物が分離された後の気体が返送路24を通じて熱風循環路12に戻されるようになっている。
このように凝縮分離装置20において、熱風を処理し、各種の不純物を低減させてから、熱風を熱風循環路12に戻すことにより、熱風に含まれる不純物が、熱処理室11においてPAN系前駆体繊維束Fに付着することを抑制でき、耐炎化工程や次の炭素化工程における毛羽の発生や単糸切れの発生起点が生じることを抑制できる。よって、高品質の炭素繊維を安定的に製造することができる。
また、熱風吹出口12bの端面や熱風吸込口12aの端面に多孔板等が配されている場合には、これらの閉塞も抑制できる。
【0031】
熱風循環路12から分岐路12cが分岐する位置は、熱風循環路12において、熱風加熱手段13よりも上流側であることが好ましい。不純物は、熱風加熱手段13のヒータ面等の加熱表面に接触することで化学反応を起こして高分子量化して熱処理室11においてPAN系前駆体繊維束Fに付着し易くなったり、酸化ケイ素系化合物に変性して粉塵を生じたりするため、熱風加熱手段13よりも上流側の熱風から分離することが好ましい。しかしながら、熱風循環路12を流れる熱風の全量から不純物を除去する構成とした場合には、装置が不必要に大きくなり、エネルギー効率としても好ましいとは言えない。そのため、このように熱風加熱手段13よりも上流側に分岐路12c(熱風のバイパス経路)を設け、前記分岐路12cに凝縮分離装置20を接続することが好ましい。
【0032】
返送路24が熱風循環路12に接続する位置は、熱風循環路12において、熱風加熱手段13よりも上流側であることが好ましい。凝縮分離装置20から返送路24を通じて熱風循環路12に戻される気体は、温度が低下しているため、熱処理室11に導入される前に、所定温度まで加熱される必要がある。この点において、熱風加熱手段13よりも上流側において、返送路24が熱風循環路12に接続していると、凝縮分離装置20から戻された気体と熱風循環路12を循環している気体との混合気体に対して、熱風加熱手段13により加熱することができ、温度に斑を生じさせることなく、混合気体を所定温度まで加熱できる。
【0033】
なお、返送路24には、気体を加熱するために、別の熱風加熱手段を設置してもよい。別の熱風加熱手段としては、特に限定されるものではなく、たとえば電気ヒータ等の公知の熱風加熱手段を用いればよい。
また、分岐路12cまたは返送路24には、気体循環用として、たとえば軸流ファン等の公知のファンを設けてもよい。
【0034】
凝縮部22は、熱風を冷却して熱風に含まれる蒸気状、ミスト状、または粉塵の不純物を凝縮するための機構を備えるものである。
図2、5、6に示す例の凝縮部22は、多数本の二重管型の直管25を備えた直管型熱交換器から構成されており、全ての直管25の表面が、後述の冷媒により、0℃以上100℃以下の温度範囲に制御された凝縮面22aとなっている。直管型熱交換器は、直管25の表面が凝縮面22aである単純な形状であるため、凝縮面22aにタール状の高粘性液体等が付着した場合でも、除去しやすく好ましい。また、この例では、各直管25は着脱自在に取り付けられており、必要に応じて、新しいものと交換できるようになっている。
【0035】
凝縮処理室21には、冷媒入口26および冷媒出口27が設けられ、凝縮面22aを冷却するための冷媒が冷媒入口26から各直管25内の外側部25aに入り、内側部25bを経て、冷媒出口27から出るようになっている。
冷媒としては、特に限定されず、気体および液体を用いることができ、維持管理が容易な点からは、水を用いることが好ましい。
なお、分岐路12cには、前記凝縮処理室21内におけるPAN系前駆体繊維束Fから発生するHCN等のガスの濃度を一定値以下に抑えるため、給気口(図示略)を設けて外気を凝縮処理室21に給気してもよい。この場合、外気も凝縮処理室21に導入された熱風を冷却する作用を奏する。
【0036】
これらの例で、各直管25は、その軸方向が鉛直方向に一致するように設けられている。そのため、凝縮面22aに付着したタール状の高粘性液体は、凝縮面22aに沿ってスムーズに流動し、下方に滴下しやすい。前記軸方向は、上記の理由から、水平方向に対する角度として、可能な限り90°(鉛直方向)に近いことが好ましく、50°以上90°以下の角度であることが好ましい。50°以上であると、タール状の高粘性液体は凝縮面22a上をスムーズに流動し、滴下せずに凝縮面22a上に固着・堆積するおそれが低減される。
なお、凝縮面は曲面であってもよい。
また、
図5および6に示す例の凝縮分離装置20は、凝縮面22aに積極的に剥離液を供給し、凝縮面へのタール分の固着を防ぐ機構を備えている。
図5に示す例では、剥離液供給口28より供給された剥離液は、二重直管の根本付近に設けられたスリットから膜状に凝集面を流下する。
図6に示す例では、剥離液供給口28より供給された剥離液は、二重直管の根本付近に噴霧されて膜状に凝集面を流下する。
剥離液は
図2に示す凝縮分離装置で凝集面に析出する低粘性液体と同様の作用を有する。剥離液としては高沸点低粘度の液体を用いることができる。剥離液はタール分と相溶する液体であっても、相分離する液体であってもよいが、剥離液とタール分との混合液から剥離液を回収して再利用する観点から、相分離する液体が好ましい。
剥離液として用いることができる液体の具体例としては、PAN系前駆体繊維束の油剤処理に用いる油剤もしくは油剤に含まれるそれぞれの液体成分を単独または混合物として用いることが、本発明の熱処理炉装置で製造する炭素繊維に与える影響が少ないので好ましい。なかでも油剤に含まれる乳化剤成分を用いることが好ましい。
【0037】
凝縮部22として、これらの例では、多数本の直管25を備えた二重直管型熱交換器から構成された例を示したが、凝縮部の形態はこれに限定されず、凝縮面を洗浄しやすい単純な構造のものであって、かつ、必要に応じて交換可能なものが好ましい。
たとえば、二重直管型熱交換器以外には、縦型のU字状熱交換器、遊動管型熱交換器、ケトル型熱交換器、コイル型熱交換器、トロンボン型熱交換器、プレート熱交換器、スパイラル式熱交換器を挙げることができる。熱交換器の形状に応じて、多管型または単管型を選ぶことができる。
【0038】
なかでも、
図2、5、6に図示した二重管型の直管型熱交換器と、縦型のU字状熱交換器(図示略)は、凝縮面22aを洗浄しやすい単純な構造である点で好ましい。U字状熱交換器においては、U字の折り返し部の先端が下向きに、その直管状の部分の軸方向が、水平方向に対する角度として、上記範囲の角度をなすように設けられていることが好ましい。また、各U字状の管も着脱自在に取り付けられており、必要に応じて、新しいものと交換可能であることが好ましい。
【0039】
凝縮面22aは、実質的に水平部分を有しないことが好ましい。凝縮面22aに付着したタール状の高粘性液体は、凝縮面22aに沿って下方に移動するとともに、凝縮面22aの下端から鉛直方向に滴下する。すなわち、凝縮面22aにおいては、高粘性液体の下方への移動と下端からの滴下とが起こる。これらの挙動は、凝縮面22aが実質的に水平部分を有しない方がスムーズに進行する。
【0040】
凝縮面22aは、一般的な熱交換器が有するような、伝熱効率を向上させるためのフィン(突起物)を有しないことが好ましい。フィンが有ると、フィンの根本部分やフィン同士の隙間等にタール状の高粘性液体が溜まって固着しやすくなる。
【0041】
凝縮面22aの表面自由エネルギーは10mN/m以上2000mN/m以下の範囲が好ましい。表面自由エネルギーが2000mN/m以下であると、タール状の高粘性液体と凝縮面22aとの親和性が低く、高粘性液体が凝縮面22a上を流動して落下しやすくなる傾向がある。凝縮面22aの表面自由エネルギーは、凝縮面22aの材質を適宜設定したり、凝縮面22aに表面処理等を行ったりすることにより、上記範囲に制御できる。
【0042】
凝縮面22aの表面の算術平均表面粗さRaは、1nm以上200μm以下であることが好ましく、1nm以上10μm以下であることがより好ましく、1nm以上5μm以下であることが更に好ましい。凝縮面22aの表面の算術平均表面粗さRaが200μm以下であると、表面の凹凸内にタール状の高粘性液体が入り込みにくい。そのため、高粘性液体が凝縮面22aに沿って下方に移動することや、凝縮面22aから滴下することが阻害されにくい。
また、表面の凹凸内に高粘性液体が入り込みにくく、そのため、入り込んだ高粘性液体が熱風にさらされて固着・堆積し、凝縮性能を低下させる等の不都合が生じにくい。一方、表面の算術平均表面粗さRaが1nm以上であれば、凝縮面22aの粗さRaを調整するための表面処理にかかるコストも大きくなりすぎない。
また、
図7および8に例示するように、剥離液の液溜まり29に浸漬された凝集面22aが熱風と接触するように、凝集面22aを循環させることもできる。この場合は、凝集面を構成する板状部材の中に冷媒を通して冷却することも可能であるが、剥離液の液溜まり29中に冷却管を設けることもできる(いずれも図示せず)。凝集面22aが熱風中を移動する間に熱風中のタール分等の不純物が付着する。
図7は凝集面22a上に付着して熱風中のタール分等を捕捉した剥離液が再び剥離液の液溜まり29に返される例を示し、
図8は凝集面22a上に付着して熱風中のタール分等を捕捉した剥離液が、凝集面22aが再び剥離液の液溜まり29に浸漬される前に凝集面22aから掻き取られて回収される例を示す。
【0043】
この例の凝縮物捕集部23は、上述のとおり、漏斗状に形成され、凝縮面22aから鉛直方向に滴下した凝縮物を受けて捕集できる位置に、設けられている。
凝縮物捕集部23には、捕集した不純物の流動性を保持させたまま系外に排出する機構を設けることが好ましい。このような機構については特に制限はないが、たとえば凝縮物捕集部23の下端を開閉可能な開口部とし、その下方に連続して二重バルブ(図示略)を有する配管(図示略)を接続し、前記二重バルブの開閉操作により、捕集した不純物をバッチ式で装置外に排出することができる。このような排出機構を設けると、熱処理炉装置10の稼働を停止しなくても、適宜不純物を排出でき、不純物に含まれる高粘性液体が長期間熱風に晒され、架橋し堆積することを防ぎつつ、熱処理炉装置10を安定かつ継続的に稼働させることができる。
【0044】
なお、凝縮物捕集部23は、必ずしも設けられなくてもよく、たとえば、凝縮処理室21の下端が開放していてもよい。その場合、凝縮面22aから滴下した凝縮物を受けることができる捕集容器等を熱処理炉装置10外に別途設けてもよい。また、凝縮物捕集部23を設けた場合にも、その下端を開放し、別途設けられた捕集容器等に凝縮物が溜まるようにしてもよい。
【0045】
このような凝縮分離装置20は、0℃以上100℃以下の温度範囲に制御された凝縮面22aが形成された凝縮部22を有しており、凝縮分離装置20の凝縮処理室21に導入された不純物を含む熱風(気体)は、凝縮面22aと接触する。すると、凝縮面22aの表面にて、ミスト状および蒸気状の不純物が凝縮し、タール状の高粘性液体となって凝縮面に付着する。不純物に含まれる粉塵は、粉塵が核となってミスト状および蒸気状の不純物の凝縮を促進することがある。また、粉塵が核とならない場合であっても、凝縮面22aに高粘性液体が付着した後であれば、粉塵は高粘性液体に付着する。したがって、このような凝縮面22aを備えた凝縮分離装置20は、ミスト状のタール、粉塵等が混在する不純物を除去するに当たって、極めて効率的である。
凝縮面22aに凝縮した不純物が液体の状態を保っていると、高粘性液体であるとはいえ、付着量が一定以上となったとき、高粘性液体とともに凝縮面22aに共存する低粘性液体の作用により重力によって下方に流れ出す。そして、凝縮面22aに付着できる限界を越えると、凝縮面22aを離れて鉛直下方に滴下する。
【0046】
このような凝縮分離装置20は、フィルタ等の濾材を備えていないため、圧力損失を小さく設計することができる。また、従来の濾材を用いた方法が有していたような問題、すなわち、粉塵を除去することには適しても、タール分等を含むミストの除去には適さないという問題、濾材の表面には短時間でミストが付着するため、運転の初期には粉塵を除去できたとしても、濾材が次第に目詰まりし、粉塵の除去が困難となるという問題、濾材に付着したミストは高粘性であり除去には多大な労力を要するという問題等が生じない。
さらに、本実施形態例では、濾材を用いていないとともに、凝縮面22aの温度を0℃以上100℃以下に制御している。そのため、従来のミストセパレータでは困難であった、たとえば500Nm
3/hr以上という大風量の場合であっても、問題なく処理を行うことができ、エネルギー効率にも優れる。
なお、熱風循環路12から凝縮分離装置20の凝縮処理室21に導入される気体流量Yは、500Nm
3/hr以上には限定されない。
【0047】
本実施形態例の凝縮分離装置20の凝縮面22aにおいて生成するような粉塵を含む不純物の高粘性液体は、ニュートン流体ではなく、しかも継時的に組成が変化する。そのため、凝縮面22a上に付着した高粘性液体の重力による流動および滴下挙動を解析し、予測することは極めて困難である。これに対して、本発明者らは、上記の構成の凝縮分離装置20を用い、かつ、凝縮面22aの表面温度を0℃以上100℃以下の範囲とすることにより、低粘性液体により凝縮面22aを保護することで凝縮面22a上に付着した高粘性液体の流動および滴下を効果的に行えることを見出した。
【0048】
凝縮面22aが0℃未満であると、熱風中に含まれる水分が凝縮面22a上に凝縮して凍り、熱風中の不純物の凝縮を阻害し、凝縮効率が低下する。100℃を超えると、付着したタール状の高粘性液体が凝縮面22aで熱風に晒されて架橋反応し、凝縮面22aに固着・堆積してしまう。すなわち、凝縮面22aの表面温度を0℃以上100℃以下に制御することで、凝縮面22aに凝縮した不純物は、高粘性液体と低粘性液体が共存する状態を保つことができ、凝縮面22a上に堆積せずに流動し、鉛直方向に滴下する。これにより凝縮面22aの表面は、常に更新され、安定に運転を継続できる。凝縮面22aの表面温度は、より好ましくは0℃以上80℃以下の範囲である。
【0049】
凝縮分離装置20の凝縮物捕集部23の表面温度(内表面温度)は、0℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、0℃以上80℃以下であることがより好ましく、0℃以上50℃以下が更に好ましい。この範囲であれば、捕集した高粘性液体を液状に保つことができ好ましい。なお、凝縮面22aとは異なり、凝縮物捕集部23の表面温度をこの温度範囲とすることは必須ではなく、滞留時間や排出方式によって適宜設計することができる。前記表面温度は、凝縮物捕集部23の周囲にジャケット、ヒータ等を設ける方法により制御できる。
【0050】
本実施形態例の凝縮分離装置20においては、気体出口21bから排出される気体の気体温度を凝縮面22aの表面温度より高く制御している。これにより、たとえば500Nm
3/hr以上という大風量の処理を行っても、気体の温度が下がりすぎることがなく、エネルギー効率に優れる。
【0051】
エネルギー効率と不純物の除去性能を同時に考慮すると、熱風入口21aにおける熱風の温度は、100℃以上300℃以下とすることが好ましく、150℃以上250℃以下がより好ましく、190℃以上230℃以下がさらに好ましい。前記熱風温度が上記範囲の下限値以上であると、熱風が凝縮面22aに到達する前に熱風入口21aの周辺等で不純物が凝縮することが抑制され、不純物を凝縮面22a上に効率よく凝縮し、除去することができる。上記範囲の上限値以下であると、熱風が凝縮面22aに到達した場合に、その温度が充分に下がり、不純物を凝縮面22a上に効率よく凝縮し、除去することができる。
【0052】
気体出口21bにおける気体の温度は、100℃以上150℃以下の範囲であることが好ましく、100℃以上130℃以下がより好ましく、100℃以上120℃以下が更に好ましい。気体出口21bから排出される気体の気体温度が上記範囲の下限値以上であると、気体の中に残存する不純物が凝縮面22a以外の部位、たとえば気体出口21bの周辺等で凝縮して固化・堆積するおそれがない。上記範囲の上限値以下であると、熱風中の不純物が充分に凝縮、除去され、充分な効果が得られる。
【0053】
熱風入口21aおよび気体出口21bにおける気体の温度は、熱風入口21aおよび気体出口21bの周囲にジャケット、ヒータ等を設ける方法により制御できる。
【0054】
熱風循環路12から凝縮処理室21に導入される気体流量Y(Nm
3/hr)と、凝縮面22aの表面積A(m
2)とは、下記の関係式(1)を満足することが好ましい。
なお、凝縮面22aの表面積Aとは、凝縮部22の表面積の合計であり、図示例の場合には、全ての直管25の表面積の合計であり、たとえば、単管型U字状熱交換器を用いた場合には、冷媒が流通する全てのU字状単管の表面積の合計である。
10≦Y/A≦1000・・・(1)
Y/Aが10以上であると、熱風の処理風量に対し凝縮面22aの表面積が大きすぎず、装置コストが嵩むことを抑制できる。Y/Aが1000以下であると、熱風の処理風量に対して凝縮面22aの表面積が充分に大きく、高粘性液体の摘下がスムーズに起こり、固着、堆積の懸念がない。
なお、熱風循環路12から凝縮処理室21に導入される気体流量Y(Nm
3/hr)は3000Nm
3/hr以上500000Nm
3/hr以下であることが好ましい。
【0055】
気体流量Yを制御する方法としては、凝縮分離装置20の上流側、すなわち、分岐路12cに流量調整バルブ(図示略)を設け、前記バルブの操作により制御する方法、凝縮分離装置20の下流側、すなわち、返送路24にダンパー(図示略)および送風ファン(図示略)を設け、前記ダンパーの開閉と送風ファンによる送風量により制御する方法等がある。
【0056】
熱処理炉装置10に供給される単位時間当たりのフレッシュエア(外気)の量X(Nm
3/h)と、気体流量Y(Nm
3/hr)と、PAN系前駆体繊維束Fの供給速度をZ(kg/hr)とは、下記の関係式を満足することが好ましい。
1≦(X+Y)/Z≦500・・・(2)
【0057】
(X+Y)/Zが1以上であると、フレッシュエアの量Xと気体流量Yとが、熱処理炉11に供給されるPAN系前駆体繊維束Fの量に対して多く、不純物を充分に低減することができる。
一方(X+Y)/Zが500以下であると、フレッシュエアの量Xと気体流量Yとが、熱処理室11に供給されるPAN系前駆体繊維束Fの量に対して少なく、熱風の加熱コストを抑制でき、経済効率に優れる。
なお、フレッシュエアは、熱処理炉装置10の装置系内に供給されるかぎり、どこから導入されてもよい。たとえば、上述したように熱風循環路12に給気口を設け、そこから供給してもよいし、熱処理室11に給気口を設け、そこから供給してもよい。また、分岐路12cに給気口を設け、そこから供給してもよい。
【0058】
凝縮処理室21の内壁面温度(内表面温度)は、凝縮面22aおよび凝縮物捕集部23の表面温度より70℃から150℃)程高いことが好ましい。凝縮処理室21の内壁面とは、凝縮分離装置20の凝縮処理室21内において、凝縮面22aおよび凝縮物捕集部23の表面を除く、内部の表面部分であり、凝縮分離装置20に供給された熱風と接触する。凝縮処理室21の内壁面温度が、凝縮面22aおよび凝縮物捕集部23の表面温度より70℃から150℃高いと、熱風中の不純物を凝縮面22a上に効率よく凝縮させることができる。凝縮処理室21の内壁面において、凝縮面22aおよび凝縮物捕集部23の表面温度より低い部分があると、その部分において、不純物が凝縮して、固着、堆積するおそれがある。
凝縮処理室21の内壁面温度は、凝縮処理室21の周囲にジャケット、ヒータ等を設ける方法により制御できる。
【0059】
以上説明した熱処理炉装置10は、炭素繊維の製造工程において複数使用してもよい。具体的には、上記の構成の熱処理炉装置10を直列に複数配置し、各熱処理炉装置10の熱処理室11に、PAN系前駆体繊維束Fを順次導入するようにしてよい。
また、不純物は、その大部分が熱処理(耐炎化処理)の初期において発生する。そのため、複数の熱処理炉を直列に複数配置する場合、少なくとも最初の(最も上段側)の熱処理炉に、凝縮分離装置20を接続した上述の熱処理炉装置10を適用することが好ましい。これによりPAN系前駆体繊維束Fから生じた不純物を効率よく取り除き、耐炎化処理全体としての不純物量を低減できる。このような態様によれば、複数の熱処理炉を使用した場合においても、各熱処理炉を長期間にわたって連続稼働させることが可能となる。
【0060】
なお、以上説明した例では、気体出口21bには返送路24が接続され、凝縮物が分離された後の気体が返送路24を通じて熱風循環路12に戻されるが、熱風循環路12に戻される態様に限定されない。
たとえば、気体を熱風循環路12に戻す態様に代えて、熱処理炉排ガス処理装置(図示略)に供給してもよい。この態様においては、凝縮分離装置20は、熱処理炉排ガス処理装置の前処理装置として機能する。
一般に、炭素繊維の製造に使用される耐炎化炉等の熱処理炉からの排ガスにはHCNが含まれる。そのため、前記HCNを無害化するため燃焼処理を行う。燃焼処理装置については特に限定されるものではないが、一般的には直接燃焼排ガス処理装置、蓄熱式排ガス処理装置、触媒燃焼処理装置などが用いられる。中でも蓄熱式排ガス処理装置はその熱効率の高さから非常に注目されている処理方法である。しかしながら、高い熱効率を維持する際の問題点として、熱処理炉からの排ガスがシリコーンを含有するタール成分等を含んでいた場合等には、蓄熱体の表面にシリカ粒子が晶析して空隙を閉塞し、圧力損失が上昇し、安定運転ができなくなるという問題点があった。これに対して、上述の凝縮分離装置20を前処理装置として用い、凝縮物が分離された後の気体を燃焼処理装置に供給すれば、装置を稼働させながら安定的にシリコーンを含有するタール成分を系外に排出でき、結果として、効率の良い蓄熱式排ガス処理装置を安定的に運転することが可能になる。
【0061】
〔炭素繊維束の製造方法〕
次に、本発明の炭素繊維束の製造方法について説明する。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、炭素繊維の前駆体繊維束を熱処理炉装置10により熱処理して耐炎化繊維束または不融化繊維束とする熱処理工程と、得られた耐炎化繊維束または不融化繊維束を炭素化処理して炭素繊維束を得る炭素化工程とを有する。
熱処理工程では、上述の熱処理炉装置10を用いる。
すなわち、熱処理室11に、PAN系前駆体繊維束F等の前駆体繊維束を連続的に導入し、熱風により200℃以上300℃以下処理する。
一方、熱処理室11から排出された熱風を熱風循環路12を通じて熱処理室11に戻し、その際、熱風循環路12を流れる熱風の少なくとも一部を凝縮分離装置20に導入し、凝縮物と気体とに分離する。
凝縮分離装置20としては、熱風の少なくとも一部が導入される凝縮処理室21と、凝縮処理室21内に設けられ、凝縮物を生成、滴下させる凝縮面22aを有する凝縮部22とを有するものを使用する。また、この際、凝縮面の表面温度は0℃以上100℃以下に制御し、かつ、凝縮処理室21に形成された気体出口21bから排出される前記気体の温度は、凝縮面22aの表面温度よりも高く制御する。
【0062】
(前駆体繊維)
前駆体繊維束としては、PAN系繊維を原料としたPAN系前駆体繊維束の他、ピッチ系前駆体繊維束が挙げられる。これらの前駆体繊維束としては、公知のものを使用できる。たとえばPAN系前駆体繊維束の場合には、公知の組成および重合方法で得られるPAN系重合体を有機溶剤あるいは無機溶剤に溶解し、公知の方法にて紡糸したものを使用できる。
【0063】
(油剤処理)
PAN系前駆体繊維束には、通常、油剤処理が行われ、必要に応じて、さらに延伸処理が行われる。油剤処理においては、シリコーン系化合物を含む油剤(シリコーン系油剤)を用いることが好ましい。シリコーン系油剤は、PAN系前駆体繊維束に対して優れた収束性、柔軟性、平滑性、帯電防止性および工程安定性を与えることができ、さらに耐炎化処理および炭素化処理における優れた通過性を得ることができ、特に炭素化処理での融着防止に顕著な効果を発揮する。
シリコーン系油剤に含まれるシリコーン系化合物としては、アミノ変性シリコーンが好ましく用いられる。アミノ変性シリコーンの中でも、特に側鎖1級アミノ変性シリコーン、側鎖1,2級アミノ変性シリコーン、あるいは両末端アミノ変性シリコーンが好ましく用いられる。
PAN系前駆体繊維束への油剤付与(油剤処理)は、公知の方法により行える。
【0064】
(熱処理工程)
PAN系前駆体繊維束の場合には、油剤処理され、充分に乾燥された後、図示例の熱処理炉装置10により耐炎化処理(熱処理工程)される。耐炎化条件は、200℃以上300℃以下の熱風中、緊張あるいは延伸条件下で、好ましくは耐炎化処理後の耐炎化繊維の密度が1.30g/cm
3以上1.40g/cm
3以下になるまで耐炎化処理する。
なお、耐炎化繊維束を焼成加工して難燃性織布等の耐熱製品を製造する場合は、前記耐炎化繊維束の密度は1.40g/cm
3を超えていても構わない。ただし、1.50g/cm
3を超えると、耐炎化繊維束を焼成加工する時間が長くなるため、経済的に好ましくない。
【0065】
熱処理室11内を満たす熱風としては、酸素、二酸化窒素などの酸化性物質を含む気体であって、酸化性雰囲気に維持できるものであれば特に制限されないが、工業生産面からは、空気を用いることが経済面、安全面で好ましい。また、酸化能力を調整する目的で、熱風中の酸素濃度を変更してもよい。
【0066】
なお、ピッチ系前駆体繊維束を熱処理(不融化処理)し、不融化繊維束を得る熱処理工程も、図示例の熱処理炉装置10により、200℃以上300℃以下の熱風中において行えばよい。
【0067】
(炭素化工程)
炭素化工程では、前炭素化処理と、炭素化処理とを順次行うことが好ましい。
PAN系前駆体繊維束の場合、上述の熱処理工程の後、耐炎化繊維束を炭素化炉に導入し、前炭素化処理を行う。前炭素化処理における最高温度は550℃から800℃が好ましい。300℃から500℃の温度領域においては、500℃/分以下の昇温速度、より好ましくは300℃/分以下の昇温速度で前炭素化処理を行うことが、炭素繊維の機械的特性を向上させるために好ましい。
前炭素化炉内を満たす不活性雰囲気としては、たとえば窒素、アルゴン、ヘリウム等の公知の不活性雰囲気を採用でき、経済性の面からは窒素が好ましい。
【0068】
前炭素化処理によって得られた前炭素化繊維束を炭素化炉に導入し、炭素化処理を行う。炭素繊維の機械的特性を向上させるためには、1200℃から3000℃の温度範囲内の不活性雰囲気中、1000℃から1200℃の温度領域において、500℃/分以下の昇温速度で炭素化処理するのが好ましい。
炭素化炉内を満たす不活性雰囲気については、たとえば窒素、アルゴン、ヘリウム等の公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が好ましい。
【0069】
このようにして得られた炭素繊維束には、必要に応じて、炭素繊維束の取り扱い性や、マトリックス樹脂との親和性を向上させるため、サイジング剤を付与してもよい。サイジング剤の種類としては、所望の特性を得ることができれば特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂を主成分としたサイジング剤が挙げられる。サイジング剤の付与は公知の方法を用いることができる。
炭素繊維束がたとえば繊維強化複合材料に使用される場合には、マトリックス樹脂との親和性および接着性の向上を目的として、電解酸化処理や酸化処理を行った後にサイジング剤を付与してもよい。
なお、ピッチ系前駆体繊維束の炭素化工程は公知の方法で行える。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
(前駆体繊維束Fの製造)
アクリロニトリル系重合体を、濃度が21質量%となるようにジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液とした。この紡糸原液を24000ホールのノズルを用いて濃度70質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出して湿式紡糸して凝固糸を得た。
ついで、前記凝固糸を空気中で1.5倍延伸を行った後、さらに沸水中にて3倍延伸を行い、同時に洗浄および脱溶剤を行ない、膨潤糸を得た。
その後、油剤の水分散液が入った油剤処理槽に、前記膨潤糸を浸漬し、膨潤糸に油剤を付着させた後、140℃の加熱ローラで乾燥し、加圧水蒸気中にて3倍延伸し、単繊維繊度1.0dtex、密度1.18g/cm
3のPAN系繊維束からなる前駆体繊維束Fを得た。前記前駆体繊維束Fに対する前記油剤の含有量は1.0質量%であった。
【0071】
(油剤の水分散液の調製)
上記油剤の水分散液は、以下のように調製した。
油剤主剤として、両末端アミノ変性シリコーン(25℃での粘度500cSt、アミノ当量5700g/モル)を用い、乳化剤としては、ノニオン系乳化剤(ポリオキシエチレンステアリルエーテル)を用いた。これらの混合物にイオン交換水を加え、乳化し、さらに乳化粒径が0.3μmになるように二次乳化を行い、油剤の水分散液を調製した。
【0072】
(耐炎化工程)
凝縮部として縦型の多管型U字状熱交換器から構成されたものを備えた凝縮分離装置を具備している以外は、
図1と同様の構成の熱処理炉装置を用い、耐炎化工程を行った。
まず、熱処理室に前駆体繊維束Fを連続的に供給し、耐炎化処理を行い、密度1.35g/cm
3の耐炎化繊維束を得た。
なお、熱風吹出口および熱風吸込口には、熱風(空気)が前駆体繊維束に均一に接触するよう、孔直径4mmで開口率30%の多孔板を設置した。
耐炎化工程の条件は以下のとおりである。
熱処理室の温度:230℃
熱風循環路の熱風吹出口における風速:3m/s
前駆体繊維束Fの熱処理室への供給速度Z:400kg/hr
前駆体繊維束Fの熱処理室における滞在時間:15分間
気体流量Y:10,000Nm
3/hr
凝縮分離装置の凝縮処理室の熱風入口における熱風の温度:220℃
凝縮分離装置の凝縮処理室の気体出口における気体の温度:120℃
凝縮面の表面温度:50℃
凝縮物捕集部の表面温度:70℃
凝縮処理室の内壁面の表面温度(内壁面温度):100℃
凝縮面の表面積A:50m
2
Y/A=200
凝縮面の表面の算術平均表面粗さRa(JIS B 0601−2001):40nm
多管型U字状熱交換器のU字状の部分(U字管)のうち、直管状の部分の軸方向の水平方向に対する角度:90°(U字のつなぎ部分を下にして配置)
X(熱処理室へフレッシュエア(外気)を供給。):20000Nm
3/hr
(X+Y)/Z=75
【0073】
上記条件にて耐炎化工程を継続したところ、熱処理室および凝縮分離装置は、ともに30日以上にわたり、安定運転を継続できた。
また、耐炎化工程中、下記の方法にて[10%風速低下日数]を求めたところ、30日経過しても風速低下が見られなかった。結果を表1に示す。
【0074】
(炭素化工程)
得られた耐炎化繊維束をさらに窒素雰囲気下700℃、3.0%の伸長率で1.4分間前炭素化処理し、続いて窒素雰囲気下1300℃、−4.0%の伸長率で1.0分間炭素化処理して炭素繊維束を得た。
そして、下記の方法にて[炭素繊維束の毛羽の数]を計測したところ、炭素繊維束の長さ10mあたりに観察される毛羽の数は0から5個の範囲であった。結果を表1に示す。
【0075】
[熱風中の不純物の分析]
分岐路12cを流れる熱風の一部を温度を下げることなく、水冷トラップ(20℃)に導入し、熱風に含まれる不純物を分析した。
水冷トラップに捕捉された不純物の大部分は淡黄色の低粘度液体であり、その低粘度液体の底部に褐色のタール状高粘度液体が相分離して沈殿していた。淡黄色の低粘度液体の質量と褐色のタール状高粘度液体の質量との比率は約5:1であった。
化学分析により、淡黄色の低粘度液体の主成分は油剤として用いた両末端アミノ変性シリコーンとノニオン系乳化剤(ポリオキシエチレンステアリルエーテル)であり、褐色のタール状高粘度液体の主成分はアミノ変性シリコーンが酸化されて高分子化した化合物と酸化ケイ素微粒子であることが判明した。
[10%風速低下日数]
熱風循環路の途中に設けたファンの周波数を一定とし、熱風循環路の熱風吹出口にピトー管を設置して、熱風の風速を測定した。
初期の風速に対して、風速が10%低下するまでの日数(10%風速低下日数)を観察し、下記に示す4段階で評価した。
凝縮分離装置で、熱風中の不純物が充分に除去されない場合、熱風循環路内で粉塵やタール等が滞留して、熱風吹出口の閉塞が起こるため、10%風速低下日数が短くなる。
A:30日経過しても風速低下が見られなかった。
B:8から29日で10%の風速低下が観察された。
C:2から7日で10%の風速低下が観察された。
D:1日で10%の風速低下が観察された。
【0076】
[炭素繊維束の毛羽の数]
得られた炭素繊維束をLEDライトで照らし、炭素繊維束の長さ10mあたりに観察される毛羽の数を測定し、下記に示す4段階で評価した。
A:毛羽の数が0から5個。
B:毛羽の数が6から15個。
C:毛羽の数が16から100個。
D:毛羽の数が101個以上。
[凝縮面へのタール分および粉塵の付着・固着]
10日間運転後、熱風循環路から凝縮分離装置を切り離して分解し、凝集面への凝縮物の固着の有無を観察し、下記に示す4段階で評価した。この評価によりAと判定される場合に、凝縮面が低粘性液体により保護されていると判定した。
A:凝縮面に低粘性液体と高粘度のタール分および粉塵が付着しているが、高粘度のタール分および粉塵は乾いた布で容易に拭き取ることができる。
B:凝縮面に高粘度のタール分および粉塵が付着しており、乾いた布で拭っても一部が凝縮面に残る(低粘性液体の付着の有無は問わない)。
C:凝縮面に高粘度のタール分および粉塵が固着しており、乾いた布で拭っても取り除くことができない(低粘性液体の付着の有無は問わない)。
D:凝縮面に高粘度のタール分および粉塵が混じった氷が付着している。
【0077】
[実施例2]
熱風循環路から凝縮分離装置へ送る気体流量Yを6100Nm
3/hrに変更した以外は実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。評価結果を表1に示す。
【0078】
[比較例1]
凝縮面の表面温度を130℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。その結果、運転開始後1日で風速の低下が見られた。そこで、凝縮面を観察したところ、表面に凝縮物の固着が認められた。装置停止までの炭素繊維束の毛羽の数を測定し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0079】
[比較例2]
凝縮面の表面温度を110℃に変更し、U字管を増設して凝集面の面積を135m
2にして、凝縮分離装置の気体出口から排出される気体の温度を120℃とした以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。その結果、運転開始後1日で風速の低下が見られた。そこで、凝縮面を観察したところ、表面に凝縮物の固着が認められた。装置停止までの炭素繊維束の毛羽の数を測定し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0080】
[実施例3]
凝縮面の表面温度を90℃に変更し、U字管を増設して凝集面の面積を83m
2にして、凝縮分離装置の気体出口から排出される気体の温度を120℃とした以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。評価結果を表1に示す。
【0081】
[実施例4]
凝縮面の表面温度を10℃に変更し、U字管の一部を閉塞させて凝集面として働く面積を37m
2にして、凝縮分離装置の気体出口から排出される気体の温度を120℃とした以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。評価結果を表1に示す。
【0082】
[比較例3]
凝縮面の表面温度を−10℃に変更し、U字管の一部を閉塞させて凝集面として働く面積を32m
2にして、凝縮分離装置の気体出口から排出される気体の温度を120℃とした以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。その結果、運転開始後1日で風速の低下が見られた。そこで、凝縮面を観察したところ、表面に水分の凍結が見られた。装置停止までの炭素繊維束の毛羽の数を測定し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0083】
[実施例5]
U字管の一部を閉塞させて凝集面として働く面積を25m
2にして、凝縮分離装置の気体出口から排出される気体の温度を160℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。評価結果を表1に示す。
【0084】
[実施例6]
U字管の一部を閉塞させて凝集面として働く面積を30m
2にして、凝縮分離装置の気体出口から排出される気体の温度を150℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例7]
U字管を増設して凝集面の面積を82m
2にして、凝縮分離装置の気体出口から排出される気体の温度を90℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。その結果、運転開始後7日で風速の低下が見られた。そこで、凝縮処理室内を観察したところ、凝縮物捕集部に大量の水分が捕集されていた。また、ファンの偏心による異音が認められた。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例4]
実施例1で用いた凝縮分離装置に代えて、
図4に示すような一般的な波板型ミストセパレータを用いた以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。結果を表1に示す。
ミストセパレータについては、温度制御を行っていないため、その波板の部分の温度は、導入される熱風とほぼ同程度の温度である。そのため、不純物を充分に除去できず、10%風速低下日数が短く、得られた炭素繊維束の品質も実施例1に比べて低下した。
なお、
図4中、符号31は熱風入口、符号32は気体出口、符号33はドレン排出部である。
【0087】
[実施例8]
U字管の一部を閉塞させて凝縮面の面積A(m
2)を小さくし、気体流量Y(Nm
3/hr)との比「Y/A」を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の条件で炭素繊維束を製造した。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】