(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プラズマ処理が行われる処理容器内の所定の電気的部材に線路を介して電気的に接続される電力系または信号系の外部回路を有し、前記電気的部材から前記外部回路に向かって前記線路に入ってくる所定周波数の高周波ノイズを前記線路上に設けたフィルタによって減衰させ、または阻止するプラズマ処理装置であって、
前記フィルタが、
一定の口径と一定のコイル長を有する空芯コイルと、
前記空芯コイルを収容または包囲し、前記空芯コイルと組み合わさって複数の周波数で並列共振をなす分布定数線路を形成する筒形の外導体と、
前記空芯コイルの各々の巻線ギャップに選択的に挿入される絶縁性の第1および第2の櫛歯と
を有し、
前記第1の櫛歯は、前記空芯コイルの全長に亘って均一な巻線ギャップを与える標準の厚みより小さな厚みを有し、前記フィルタの周波数−インピーダンス特性において特定の1つまたは複数の前記並列共振周波数を低い周波数領域側へシフトさせるために有効な前記空芯コイルのコイル長さ方向で離散的に存在する1つまたは複数の有効区間内に配置され、
前記第2の櫛歯は、前記標準の厚みに等しいかまたはそれより大きな厚みを有し、前記有効区間の内外を問わず、前記第1の櫛歯が挿入されない全ての前記巻線ギャップに挿入される、
プラズマ処理装置。
前記櫛歯は、前記空芯コイルの外周面に隣接して設けられ、コイル長さ方向において前記空芯コイルと平行に延びる複数本の絶縁体からなる棒状部材の内側面に形成されている、請求項4または請求項5に記載のプラズマ処理装置。
前記櫛歯は、前記空芯コイルの内周面に隣接して設けられ、コイル長さ方向において前記空芯コイルと平行に延びる複数本の絶縁体からなる棒状部材の外側面に形成されている、請求項4または請求項5に記載のプラズマ処理装置。
前記棒状部材は、コイル長さ方向において複数個のブロックに分割されており、各々の前記ブロックには前記第1の櫛歯もしくは前記第2の櫛歯のいずれか一方が前記空芯コイルのコイル導体の厚みに等しい隙間を挟んで一定間隔で設けられる、請求項7または請求項8に記載のプラズマ処理装置。
前記櫛歯は、前記空芯コイルの中に設けられ、コイル半径方向では前記空芯コイルの内周面に当たるように放射状に延び、コイル長さ方向では前記空芯コイルと平行に延びる複数枚の絶縁体からなる板状部材の外側端面に形成されている、請求項4または請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。
[プラズマ処理装置全体の構成]
【0023】
図1に、本発明の一実施形態におけるプラズマ処理装置の構成を示す。このプラズマ処理装置は、下部2周波印加方式の容量結合型プラズマエッチング装置として構成されており、たとえばアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属製の円筒型チャンバ(処理容器)10を有している。チャンバ10は接地されている。
【0024】
チャンバ10内には、被処理基板としてたとえば半導体ウエハWを載置する円板形状のサセプタ12が下部電極として水平に配置されている。このサセプタ12は、たとえばアルミニウムからなり、チャンバ10の底から垂直上方に延びるたとえばセラミック製の絶縁性筒状支持部14により非接地で支持されている。この絶縁性筒状支持部14の外周に沿ってチャンバ10の底から垂直上方に延びる導電性の筒状支持部16とチャンバ10の内壁との間に環状の排気路18が形成され、この排気路18の底に排気口20が設けられている。この排気口20には排気管22を介して排気装置24が接続されている。排気装置24は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ10内の処理空間を所望の真空度まで減圧することができる。チャンバ10の側壁には、半導体ウエハWの搬入出口を開閉するゲートバルブ26が取り付けられている。
【0025】
サセプタ12には、第1および第2の高周波電源28,30がマッチングユニット32および給電棒34を介して電気的に接続されている。ここで、第1の高周波電源28は、主としてプラズマの生成に寄与する一定周波数(通常27MHz以上、好ましくは60MHz以上)の第1高周波HFを出力する。一方、第2の高周波電源30は、主としてサセプタ12上の半導体ウエハWに対するイオンの引き込みに寄与する一定周波数(通常13MHz以下)の第2高周波LFを出力する。マッチングユニット32には、第1および第2の高周波電源28,30とプラズマ負荷との間でインピーダンスの整合をとるための第1および第2の整合回路132,134(
図27)が収容されている。
【0026】
給電棒34は、所定の外径を有する円筒形または円柱形の導体からなり、その上端がサセプタ12の下面中心部に接続され、その下端がマッチングユニット32内の上記整合回路132,134の高周波出力端子に接続されている。また、チャンバ10の底面とマッチングユニット32との間には、給電棒34の周りを囲む円筒形の導体カバー35が設けられている。より詳細には、チャンバ10の底面(下面)に給電棒34の外径よりも一回り大きな所定の口径を有する円形の開口部が形成され、導体カバー35の上端部がこのチャンバ開口部に接続されるとともに、導体カバー35の下端部が上記整合器の接地(帰線)端子に接続されている。
【0027】
サセプタ12は半導体ウエハWよりも一回り大きな直径または口径を有している。サセプタ12の上面は、ウエハWと略同形状(円形)かつ略同サイズの中心領域つまりウエハ載置部と、このウエハ載置部の外側に延在する環状の周辺部とに区画されている。ウエハ載置部の上に、処理対象の半導体ウエハWが載置される。環状周辺部の上には、半導体ウエハWの口径よりも大きな内径を有するリング状の板材いわゆるフォーカスリング36が取り付けられる。このフォーカスリング36は、半導体ウエハWの被エッチング材に応じて、たとえばSi,SiC,C,SiO2の中のいずれかの材質で構成されている。
【0028】
サセプタ12上面のウエハ載置部には、ウエハ吸着用の静電チャック38および発熱体40が設けられている。静電チャック38は、サセプタ12の上面に一体形成または一体固着された膜状または板状の誘電体42の中にDC電極44を封入しており、DC電極44にはチャンバ10の外に配置される外付けの直流電源45がスイッチ46、高抵抗値の抵抗48およびDC高圧線50を介して電気的に接続されている。直流電源45からの高圧の直流電圧がDC電極44に印加されることにより、静電力で半導体ウエハWを静電チャック38上に吸着保持できるようになっている。なお、DC高圧線50は、被覆線であり、円筒体の下部給電棒34の中を通り、サセプタ12を下から貫通して静電チャック38のDC電極44に接続されている。
【0029】
発熱体40は、静電チャック38のDC電極44と一緒に誘電体42の中に封入された例えばスパイラル状の抵抗発熱線からなり、この実施形態では
図3に示すようにサセプタ12の半径方向において内側の発熱線40(IN)と外側の発熱線40(OUT)とに2分割されている。このうち、内側発熱線40(IN)は、絶縁被覆された給電導体52(IN)、フィルタユニット54(IN)および電気ケーブル56(IN)を介して、チャンバ10の外に配置される専用のヒータ電源58(IN)に電気的に接続されている。外側発熱線40(OUT)は、絶縁被覆された給電導体52(OUT)、フィルタユニット54(OUT)および電気ケーブル56(OUT)を介して、やはりチャンバ10の外に配置される専用のヒータ電源58(OUT)に電気的に接続されている。この中で、フィルタユニット54(IN),54(OUT)はこの実施形態における主要な特徴部分であり、その内部の構成および作用については後に詳細に説明する。
【0030】
サセプタ12の内部には、たとえば円周方向に延びる環状の冷媒室または冷媒通路60が設けられている。この冷媒室60には、チラーユニット(図示せず)より冷媒供給管を介して所定温度の冷媒たとえば冷却水cwが循環供給される。冷媒の温度によってサセプタ12の温度を下げる方向に制御できる。そして、サセプタ12に半導体ウエハWを熱的に結合させるために、伝熱ガス供給部(図示せず)からの伝熱ガスたとえばHeガスが、ガス供給管およびサセプタ12内部のガス通路62を介して静電チャック38と半導体ウエハWとの接触界面に供給されるようになっている。
【0031】
チャンバ10の天井には、サセプタ12と平行に向かい合って上部電極を兼ねるシャワーヘッド64が設けられている。このシャワーヘッド64は、サセプタ12と向かい合う電極板66と、この電極板66をその背後(上)から着脱可能に支持する電極支持体68とを有し、電極支持体68の内部にガス室70を設け、このガス室70からサセプタ12側に貫通する多数のガス吐出孔72を電極支持体68および電極板66に形成している。電極板66とサセプタ12との間の空間SPがプラズマ生成空間ないし処理空間となる。ガス室70の上部に設けられるガス導入口70aには、処理ガス供給部74からのガス供給管76が接続されている。電極板66はたとえばSi、SiCあるいはCからなり、電極支持体68はたとえばアルマイト処理されたアルミニウムからなる。
【0032】
このプラズマエッチング装置内の各部たとえば排気装置24、高周波電源28,30、直流電源45のスイッチ46、ヒータ電源58(IN),58(OUT)、チラーユニット(図示せず)、伝熱ガス供給部(図示せず)および処理ガス供給部74等の個々の動作および装置全体の動作(シーケンス)は、マイクロコンピュータを含む制御部75によって制御される。
【0033】
このプラズマエッチング装置において、エッチングを行なうには、先ずゲートバルブ26を開状態にして加工対象の半導体ウエハWをチャンバ10内に搬入して、静電チャック38の上に載置する。そして、処理ガス供給部74よりエッチングガス(一般に混合ガス)を所定の流量でチャンバ10内に導入し、排気装置24によりチャンバ10内の圧力を設定値にする。さらに、第1および第2の高周波電源28、30をオンにして第1高周波HFおよび第2高周波LFをそれぞれ所定のパワーで出力させ、これらの高周波HF,LFをマッチングユニット32および給電棒34を介してサセプタ(下部電極)12に印加する。また、伝熱ガス供給部より静電チャック38と半導体ウエハWとの間の接触界面に伝熱ガス(Heガス)を供給するとともに、静電チャック用のスイッチ46をオンにして、静電吸着力により伝熱ガスを上記接触界面に閉じ込める。一方で、ヒータ電源58(IN),58(OUT)をオンにして、内側発熱体40(IN)および外側発熱体40(OUT)を各々独立したジュール熱で発熱させ、サセプタ12上面の温度ないし温度分布を設定値に制御する。シャワーヘッド64より吐出されたエッチングガスは両電極12,64間で高周波の放電によってプラズマ化し、このプラズマで生成されるラジカルやイオンによって半導体ウエハW表面の被加工膜が所望のパターンにエッチングされる。
【0034】
この容量結合型プラズマエッチング装置は、サセプタ12にプラズマ生成に適した比較的高い周波数(好ましくは60MHz以上)の第1高周波HFを印加することにより、プラズマを好ましい解離状態で高密度化し、より低圧の条件下でも高密度プラズマを形成することができる。それと同時に、サセプタ12にイオン引き込みに適した比較的低い周波数(通常13MHz以下)の第2高周波LFを印加することにより、サセプタ12上の半導体ウエハWに対して選択性の高い異方性のエッチングを施すことができる。
【0035】
また、この容量結合型プラズマエッチング装置においては、サセプタ12にチラーの冷却とヒータの加熱を同時に与え、しかもヒータの加熱を半径方向の中心部とエッジ部とで独立に制御するので、高速の温度切換または昇降温が可能であるとともに、温度分布のプロファイルを任意または多様に制御することも可能である。
【0036】
また、この容量結合型プラズマエッチング装置においては、プラズマエッチングの最中に、高周波電源28,30よりサセプタ12に印加された第1および第2高周波HF,LFの一部が、サセプタ12に組み込まれている内側発熱線40(IN)および外側発熱線40(OUT)を介して給電導体52(IN),52(OUT) に高周波ノイズとして入り込んでくる。これら2周波の高周波ノイズのどちらかでもヒータ電源58(IN),58(OUT)に突入すれば、ヒータ電源58(IN),58(OUT)の動作ないし性能が害されるおそれがある。
【0037】
この点に関しては、上記のように、ヒータ電源58(IN),58(OUT)と内側発熱線40(IN)および外側発熱線40(OUT)とを電気的に結ぶヒータ給電ライン上にフィルタユニット54(IN),54(OUT)が設けられている。これらのフィルタユニット54(IN),54(OUT)は、以下に詳しく述べるように、内側発熱線40(IN)および外側発熱線40(OUT)からヒータ給電ライン上に入ってくる第1および第2高周波HF,LFのノイズのいずれに対しても、インピーダンスの十分に高いフィルタ遮断機能を低消費電力で効率的にかつ安定確実に発揮する。これにより、この実施形態のプラズマエッチング装置は、ヒータ方式のウエハ温度制御機能を改善するとともに、チャンバ10からサセプタ12内部の発熱体40を介してヒータ給電ライン上に第1および第2高周波HF,LFのパワーが漏れるのを効果的に防止または低減し、プラズマプロセスの再現性・信頼性を向上させている。
[フィルタユニット内の回路構成]
【0038】
次に、このプラズマエッチング装置におけるフィルタユニット54(IN),54(OUT)内の回路構成を説明する。
【0039】
図2に、サセプタ12に設けられる発熱体40に電力を供給するためのヒータ給電部の回路構成を示す。この実施形態では、発熱体40の内側発熱線40(IN)および外側発熱線40(OUT)のそれぞれに対して実質的に同一の回路構成を有する個別のヒータ給電部を接続し、内側発熱線40(IN)および外側発熱線40(OUT)の発熱量または発熱温度を独立に制御するようにしている。以下の説明では、内側発熱線40(IN)に対するヒータ給電部の構成および作用について述べる。外側発熱線40(OUT)に対するヒータ給電部の構成および作用も全く同じである。
【0040】
ヒータ電源58(IN)は、たとえばSSRを用いて商用周波数のスイッチング(ON/OFF)動作を行う交流出力型の電源であり、内側発熱体40(IN)と閉ループの回路で接続されている。より詳しくは、ヒータ電源58(IN)の一対の出力端子のうち、第1の出力端子は第1の給電ライン(電源線)100(1)を介して内側発熱線40(IN)の第1の端子h
1に電気的に接続され、第2の出力端子は第2の給電ライン(電源線)100(2)を介して内側発熱線40(IN)の第2の端子h
2に電気的に接続されている。
【0041】
フィルタユニット54(IN)は、第1および第2の給電ライン100(1),100(2)の途中にそれぞれ設けられる第1および第2のフィルタ102(1),102(2)を有している。両フィルタ102(1),102(2)の回路構成は実質的に同じである。
【0042】
より詳しくは、両フィルタ102(1),102(2)は、コンデンサ106(1),106(2)を介して接地された空芯コイル104(1),104(2)をそれぞれ有している。空芯コイル104(1),104(2)の一方の端子またはフィルタ端子T(1),T(2)は一対の給電導体52(IN)を介して内側発熱線40(IN)の両端子h
1,h
2にそれぞれ接続されており、空芯コイル104(1),104(2)の他方の端子と接地電位の導電性部材(たとえばチャンバ10)との間にコンデンサ106(1),106(2)がそれぞれ接続されている。そして、空芯コイル104(1),104(2)とコンデンサ106(1),106(2)との間の接続点n(1),n(2)は、電気ケーブル(ペアケーブル)56(IN)を介してヒータ電源58(IN)の第1および第2の出力端子にそれぞれ接続されている。
【0043】
かかる構成のヒータ給電部において、ヒータ電源58(IN)より出力される電流は、正極性のサイクルでは、第1の給電ライン100(1)つまり電気ケーブル56(IN)、空芯コイル104(1)および給電導体52(IN)を通って一方の端子h
1から内側発熱線40(IN)に入り、内側発熱線40(IN)の各部で通電によるジュール熱を発生させ、他方の端子h
2から出た後は、第2の給電ライン100(2)つまり給電導体52(IN)、空芯コイル104(2)および電気ケーブル56(IN)を通って帰還する。負極性のサイクルでは、同じ回路を上記と逆方向に電流が流れる。このヒータ交流出力の電流は商用周波数であるため、空芯コイル104(1),104(2)のインピーダンスまたはその電圧降下は無視できるほど小さく、またコンデンサ106(1),106(2)を通ってアースへ抜ける漏れ電流も無視できるほど少ない。
[フィルタユニット内の物理的構成]
【0044】
図4A,
図4Bおよび
図5A(
図5B)に、この実施形態におけるフィルタユニット54(IN)内の物理的な構造を示す。フィルタユニット54(IN)は、
図4Aおよび
図4Bに示すように、たとえばアルミニウムからなる円筒形の外導体110の中に第1フィルタ102(1)の空芯コイル104(1)と第2フィルタ102(2)の空芯コイル104(2)とを同軸に収容し、フィルタ端子T(1),T(2)の反対側でたとえばアルミニウムからなるコンデンサボックス112の中に第1フィルタ102(1)のコンデンサ106(1)と第2フィルタ102(2)のコンデンサ106(2)(
図2)とを一緒に収容している。外導体110は接地電位の導電性部材たとえばチャンバ10にネジ止めで接続されている。
【0045】
各々の空芯コイル104(1),104(2)は、電線またはコイル導体を円筒形に巻いた鉄芯無しのソレノイドコイルであり、ヒータ電源52(IN)から内側発熱線40(IN)に十分大きな(たとえば30A程度の)電流を流す給電線の機能に加えて、発熱(パワーロス)を防ぐ観点からフェライト等の磁芯を持たずに空芯で非常に大きなインダクタンスを得るために、さらには大きな線路長を得るために、太いコイル線またはコイル導体と大きなコイルサイズ(たとえば、直径が22〜45mm、長さ130〜280mm)を有している。
【0046】
円筒形の外導体110の内側で、両空芯コイル104(1),104(2)は、絶縁体たとえば樹脂からなる支持部材(図示せず)を介してコンデンサボックス112の上に垂直に立てられている。各空芯コイル104(1),104(2)のコイル導体は、コイルスリーブで覆われていない実質的に裸線の状態で、重なり合って並進しながら各々複数段階に可変の巻線ピッチpで螺旋状に巻かれており、同一のコイル長さSを有している。
【0047】
両空芯コイル104(1),104(2)の周囲には、それらの外周面に隣接して、コイル長さ方向と平行に延びる棒状の櫛歯部材114が周回方向に一定の間隔を置いて複数本たとえば4本設けられている。各々の櫛歯部材114は、絶縁体たとえばPEEKまたはPCTFEのような硬度、加工性および耐熱性にすぐれた樹脂からなり、空芯コイル104(1),104(2)から独立してフィルタユニット54(IN)内で固定されている。
【0048】
図5Aに示すように、各々の櫛歯部材114の内側面には、両空芯コイル104(1),104(2)の各巻線ギャップに挿入される櫛歯Mが形成されている。別な見方をすれば、各空芯コイル104(1),104(2)のコイル導体が、各隣接する2つの櫛歯M
i,M
i+1の間のスリットKに挿入されている。ここで、スリットKのギャップ幅kは、コイル導体の厚みに略等しく、コイルの端から端まで均一または一定である。
【0049】
空芯コイル104(1),104(2)の各位置における巻線ギャップgおよび巻線ピッチpは、その位置における櫛歯M
i,M
i+1の厚みt
i,t
i+1に依存し、g=t
i+t
i+1+k、p=g+k=t
i+t
i+1+2kで与えられる。コイルの全長に亘って均一な巻線ギャップg
Sおよび巻線ピッチp
Sを与える櫛歯Mの標準の厚みをt
Sとすると、g
S=2t
S+k、p
S=2(t
S+k)の関係が成立する。
【0050】
図4Aに示す構成においては、各々の空芯コイル104(1),104(2)の中央部の櫛歯M−は標準の厚みt
Sよりも小さな厚みt−を有し、その両側ないし両端部の櫛歯M+は標準の厚みt
Sに等しいかまたはそれより大きな厚みt+を有している。このように空芯コイル104(1),104(2)の巻線ギャップ位置に応じて櫛歯Mの厚みtをt−<t
Sとt
S≦t+の二通りで選択する技術の意義ないし作用については、後に詳しく説明する。
【0051】
外導体110の上端の開口部には、環状の蓋体116と樹脂製の上部コネクタ118が取り付けられる。上部コネクタ118に、上記の図示しないコイル支持部材および櫛歯部材114の上端が固定される。そして、上部コネクタ118の内部または周囲で両空芯コイル104(1),104(2) の上端がフィルタ端子T(1),T(2)にそれぞれ電気的に接続される。
【0052】
コンデンサボックス112の上面には下部コネクタ120が取り付けられる。この下部コネクタ120に、上記支持部材および櫛歯部材114の下端が固定される。そして、両空芯コイル104(1),104(2) の下端が下部コネクタ120の内部または周囲で接続点n(1),n(2)ないしコンデンサ106(1),106(2)(
図2)にそれぞれ接続される。
【0053】
なお、外導体110には、その中に収容される空芯コイル104(1),104(2)を空冷で冷却するための多数の通気孔(図示せず)が、たとえばパンチング加工により形成されている。
【0054】
図5Bに、櫛歯部材114の別の構成例を示す。この構成例は、櫛歯部材114をコイル長さ方向で複数のブロック・・,BL
i,BL
i+1,BL
i+2,・・に分割している。各ブロックBLは、独立した長さを有してよく、棒状のガイドまたは支持軸115にスライド可能に装着される。これら複数個のブロックBL
1〜BL
nが一列に組み合わさって、コイル104(1),104(2)の全ての巻線ギャップgに櫛歯Mが挿入される。各々のブロックBLには、t<t
Sもしくはt≦t
Sのいずれかの条件を満たす一定の厚みtを有する櫛歯MがスリットKを挟んで一定間隔(t+k)で形成されている。
【0055】
図6に、この実施例における空芯コイル104(1),104(2) 回りの具体例なサブアッセンブリの構成を示す。図示のように、複数本(4本)の棒状の櫛歯部材114が、軸方向の複数箇所(両端および中間の3箇所)でそれらを囲繞するリング状のたとえば樹脂からなる支持体122にボルト124で結合されている。そして、各々の櫛歯部材114が、その内側面に形成されている櫛歯Mを両空芯コイル104(1),104(2) の巻線ギャップgに食い込ませている(挿入している)。
【0056】
両空芯コイル104(1),104(2) の内側には、たとえば断面十字形のコイル支持部材126が挿入されている。このコイル支持部材126は、コイル半径方向ではコイル104(1),104(2) の内周面に当たるように放射状に延び、コイル長さ方向ではコイル104(1),104(2)と平行に延びる複数枚の絶縁体たとえば樹脂からなる板状部材128によって構成されている。
[フィルタユニットの作用]
【0057】
この実施形態のフィルタユニット54(IN)においては、第1および第2フィルタ102(1),102(2)の空芯コイル104(1),104(2)と外導体110との間に分布定数線路が形成される。
【0058】
一般的に、伝送線路の特性インピーダンスZ
oは、無損失の場合には単位長さあたりの静電容量C、インダクタンスLを用いて、Z
o=√(L/C)で与えられる。また、波長λは、次の式(1)で与えられる。
λ=2π/(ω√(LC) ・・・・(1)
【0059】
一般的な分布定数線路(特に同軸線路)では線路の中心が棒状の円筒導体であるのに対して、このフィルタユニット54(IN)では円筒状の空芯コイルを中心導体にしている点が異なる。単位長さあたりのインダクタンスLは主にこの円筒状コイルに起因するインダクタンスが支配的になると考えられる。一方、単位長さあたりの静電容量は、コイル表面と外導体がなすコンデンサの静電容量Cで規定される。したがって、このフィルタユニット54(IN)においても、単位長さあたりのインダクタンスおよび静電容量をそれぞれL,Cとしたときに、特性インピーダンスZ
o=√(L/C)で与えられる分布定数線路が形成されていると考えることができる。
【0060】
このような分布定数線路を有するフィルタユニットを端子T側からみると、反対側が大きな容量(たとえば5000pF)を有するコンデンサで疑似的に短絡されているため、一定の周波数間隔で大きなインピーダンスを繰り返すような周波数−インピーダンス特性が得られる。このようなインピーダンス特性は、波長と分布線路長が同等のときに得られる。
【0061】
このフィルタユニット54(IN)では、空芯コイル104(1),104(2)の巻線長ではなく、軸方向のコイル長さS(
図4A)が分布線路長となる。そして、中心導体に空芯コイル104(1),104(2)を用いたことで、棒状の円筒導体の場合に比べてLをはるかに大きくしてλを小さくすることができるため、比較的短い線路長(コイル長さS)でありながら波長と同等以上の実効長を実現することが可能であり、比較的短い周波数間隔で大きなインピーダンスをもつことを繰り返すようなインピーダンス特性を得ることができる。
【0062】
かかる構成の分布定数線路においては、
図7Aに示すように、空芯コイル104(1),104(2)のコイル全長Sに亘って櫛歯Mの厚みが均一または一定(t
S)で、巻線ピッチが一定(p
s)である場合は、各々のフィルタ102(1),102(2)において
図7Bに示すように規則的な周波数間隔でインピーダンスが角(つの)状に上昇するような並列多重共振の周波数−インピーダンス特性が得られる。したがって、サセプタ12ないし発熱体40を介して給電ライン100(1),100(2)上に入ってくる高周波ノイズの周波数が並列多重共振の中のいずれかの並列共振周波数に一致または近似するように設計すれば、フィルタユニット54(IN)においてそのような高周波ノイズを効果的に遮断して、ヒータ電源58を高周波ノイズから安定確実に保護することができる。
【0063】
しかしながら、この実施形態のプラズマ処理装置のように、サセプタ14に周波数の異なる複数の高周波(第1高周波HF,第2高周波LF)を印加する場合は、それら複数の高周波HF,LFのそれぞれの周波数に並列多重共振の中のいずれか2つの並列共振周波数を同時にマッチング(一致または近似)させる必要がある。その場合、上記のように空芯コイル104(1),104(2)の巻線ピッチpまたは巻線ギャップgが全長Sに亘って均一または一定であるフィルタ構成においては、並列共振周波数が規則的な周波数間隔で得られるが故に、プロセスの種類や仕様など様々な観点から任意に選定される両高周波HF,LFの周波数に並列多重共振を同時にマッチングさせることは非常に難しい。
【0064】
この問題に対処するために、上記特許文献1の従来技術は、フィルタユニット54(IN)において空芯コイル104(1),104(2)と外導体110との間にリング部材を設けることにより、局所的に同軸線路のギャップを狭くしてC(単位長さの静電容量)を変化させ、ひいては局所的に特性インピーダンスZ
o=√(L/C)を変化させて、並列多重共振における共振周波数の一部または全部をシフトさせる手法を採っている。
【0065】
これに対して、この実施形態では、フィルタユニット54(IN)において、そのようなリング部材を設ける代わりに、櫛歯部材114の櫛歯Mにt−<t
Sの条件を満たす厚さt−を有する第1の櫛歯M−とt
S≦t+の条件を満たす厚さt+を有する第2の櫛歯M+とを用意し、調整(シフト)対象の共振周波数の次数(N)、シフト方向および必要なシフト量または調整目標値に応じて、第1の櫛歯M−が挿入される巻線ギャップgの位置と第2の櫛歯M+が挿入される巻線ギャップgの位置とを適宜決定するようにしている。
【0066】
たとえば、
図8Aに示すように、1次の並列および/または直列共振周波数(f
1p/f
1s)を低い周波数領域側(図の左側)へシフトする調整(以下、「左シフト調整」と称する。)を想定する。本発明によれば、1次の共振周波数(f
1p/f
1s)について左シフト調整を実現するには、
図8Bに示すように、空芯コイル104(1),104(2)において中心部から出口(OUT)側に延びる1箇所の一定区間つまり有効区間A
1L内で1つまたは複数の巻線ギャップgに第1の櫛歯M−を挿入すればよい。有効区間A
1Lの外の区間つまり非有効区間B
1L内では、全ての巻線ギャップgに第2の櫛歯M+を挿入することが望ましい。もっとも、非有効区間B
1L内に第1の櫛歯M−を適宜混在させることで、左シフト調整の効き目を弱める効果、つまり左シフト量を低減する効果が得られる。後述する2次以上の共振周波数における有効区間A
2L,A
3L・・および非有効区間B
2L,B
3L・・においても同様である。
【0067】
一般に、第1の櫛歯M−の厚みt−が一定であると仮定すると、有効区間A
NL内で櫛歯Mの全部を第1の櫛歯M−にした場合に、当該N次の並列および/または直列共振周波数(f
Np/f
Ns)に対して最大のシフト量が得られる。また、有効区間A
NL内でも、第1の櫛歯M−による左シフト調整の効き目は、各位置の巻線ギャップg毎に独立している。有効区間A
NL内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、N次の共振周波数(f
Np/f
Ns)のシフト量を一定範囲内(最大値以下)で任意に加減または調整することができる。
【0068】
また、第1の櫛歯M−の厚みt−が小さいほど(標準の厚みt
Sとの差が大きいほど)、左シフト調整の効き目(感度あるいはシフト量)が大きくなる傾向がある。さらには、共振周波数の次数(N)が低いほど第1の櫛歯M−による左シフト調整の効き目は小さく、共振周波数の次数(N)が高いほど第1の櫛歯M−による左シフト調整の効き目は大きい傾向がある。
【0069】
逆に、
図9Bに示すように、1次の共振周波数(f
1p/f
1s)を高い周波数領域側(図の右側)へシフトする調整(以下、「右シフト調整」と称する。)を考える。本発明によれば、1次の共振周波数(f
1p/f
1s)に対する右シフト調整では、
図9Bに示すように、第1の櫛歯M−による右シフト調整の効き目が得られる有効区間Aとそれ以外の非有効区間Bとの位置関係が左シフト調整の場合(
図8B)と逆転し、両端部の2箇所に有効区間A
1Rが存在する。このように複数箇所に有効区間A
1Rがある場合は、少なくとも1箇所の有効区間A
1R内で少なくとも任意の1つの巻線ギャップgに第1の櫛歯M−を挿入すれば、効き目の度合いは別にして、一定のシフト効果が得られる。また、中央部の非有効区間B
1Rでは、全ての巻線ギャップgに第2の櫛歯M+を挿入する構成が望ましい。もっとも、非有効区間B
1R内に第1の櫛歯M−を適宜混在させることで、右シフト調整の効き目を弱める効果、つまり右シフト量を低減する効果が得られる。後述する2次以上の共振周波数における有効区間A
2R,A
3R・・および非有効区間B
2R,B
3R・・においても同様である。
【0070】
右シフト調整の場合でも、一般的には、第1の櫛歯M−の厚みt−が一定であると仮定すると、有効区間A
NR内で櫛歯Mの全部を第1の櫛歯M−にした場合に、当該N次の共振周波数(f
Np/f
Ns)に対して最大のシフト量が得られる。また、有効区間A
NR内でも、第1の櫛歯M−による右シフト調整の効き目は、各位置の巻線ギャップg毎に独立している。有効区間A
NR内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、シフト量を最大値以下の一定範囲内で任意に加減または調整することができる。
【0071】
また、第1の櫛歯M−の厚さt−が小さいほど(標準の厚みt
Sとの差が大きいほど)、右シフト調整の効き目は大きくなる傾向がある。さらには、共振周波数の次数(N)が低いほど第1の櫛歯M−による右シフト調整の効き目は小さく、共振周波数の次数(N)が高いほど第1の櫛歯M−による右シフト調整の効き目は大きい傾向がある。
【0072】
次に、
図10Aに示すように、2次の並列および/または直列共振周波数(f
2p/f
2s)に対する左シフト調整を考える。この場合は、
図10Bに示すように、空芯コイル104(1),104(2)において中心部を除くその両側または両端部の2箇所に有効区間A
2Lが存在する。したがって、少なくとも1箇所の有効区間A
2L内で1つまたは複数の巻線ギャップgに第1の櫛歯M−を挿入すれば、左シフト調整の効果が得られる。それら2箇所全部の有効区間A
2L内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、2次の共振周波数(f
2p/f
2s)の左シフト量を最大値以下の一定範囲内で任意に加減または調整することができる。
【0073】
図11Aに示すように2次の共振周波数(f
2p/f
2s)に対する右シフト調整では、
図11Bに示すように有効区間Aと非有効区間Bとの位置関係が左シフト調整の場合(
図10B)と逆転し、中央部の1箇所に有効区間A
2Rが存在する。したがって、この1箇所の有効区間A
2R内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、2次の共振周波数(f
2p/f
2s)の右シフト量を最大値以下の一定範囲内で任意に加減または調整することができる。
【0074】
次に、
図12Aに示すように、3次の並列および/または直列共振周波数(f
3p/f
3s)についての左シフト調整を考える。この場合は、
図12Bに示すように、空芯コイル104(1),104(2)において中心部と両端部を含む3箇所の離散的な有効区間A
3Lが存在する。したがって、これら3箇所全部の有効区間A
3L内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、3次の共振周波数(f
3p/f
3s)の左シフト量を一定範囲内で任意に加減または調整することができる。
【0075】
また、
図13Aに示すように3次の共振周波数(f
3p/f
3s)に対する右シフト調整では、
図13Bに示すように有効区間Aと非有効区間Bとの位置関係が左シフトの場合(
図12B)と逆転し、中央部と両端部に挟まれた2箇所の中間部に有効区間A
3Rが存在する。これら2箇所全部の有効区間A
3R内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、3次の共振周波数(f
3p/f
3s)の右シフト量を一定範囲内で任意に加減または調整することができる。
【0076】
次に、
図14Aに示すように4次の並列および/または直列共振周波数(f
4p/f
4s)についての左シフト調整では、
図14Bに示すように空芯コイル104(1),104(2)において両端部の2箇所を含む4箇所の離散的な有効区間A
4Lが存在する。これら4箇所全部の有効区間A
4L内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、4次の共振周波数(f
4p/f
4s)の左シフト量を一定範囲内で任意に加減または調整することができる。
【0077】
また、
図15Aに示すように4次の共振周波数(f
4p/f
4s)に対する右シフト調整では、
図15Bに示すように有効区間Aと非有効区間Bとの位置関係が左シフトの場合(
図14B)と逆転し、中央部を含み両端部を含まない離散的な3箇所の有効区間A
4Rが存在する。これら3箇所全部の有効区間A
4R内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、4次の共振周波数(f
4p/f
4s)の右シフト量を一定範囲内で任意に加減または調整することができる。
【0078】
さらに、この実施形態においては、任意の異なる共振周波数についてそれぞれ独立に左シフト調整または右シフト調整を行うこともできる。
【0079】
一例として、
図16Aに示すように、2次の共振周波数(f
2p/f
2s)および4次の共振周波数(f
4p/f
4s)ついてそれぞれ左シフト調整を行う場合を考える。この場合は、2次の共振周波数(f
2p/f
2s)に対する左シフト調整のための有効区間A
2Lの分布位置(
図10B)と、4次の共振周波数(f
4p/f
4s)に対する左シフト調整のための有効区間A
4Lの分布位置(
図14B)とをAND条件で重ね合わせると、
図16Bに示すように両端部の2箇所に有効区間A
2L/4Lが存在する。これら2箇所全部の有効区間A
2L/4L内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、2次の共振周波数(f
2p/f
2s)および4次の共振周波数(f
4p/f
4s)の左シフト量をそれぞれ一定範囲内で任意に加減または調整することができる。
【0080】
別の例として、
図17Aに示すように、2次の共振周波数(f
2p/f
2s)について右シフト調整を行い、4次の共振周波数(f
4p/f
4s)について左シフト調整を行う場合を考える。この場合は、2次の共振周波数(f
2p/f
2s)に対する右シフト調整のための有効区間A
2Rの分布位置(
図11B)と、4次の共振周波数(f
4p/f
4s)に対する左シフト調整のための有効区間A
4Lの分布位置(
図14B)とをAND条件で重ね合わせると、
図17Bに示すように中心部と両端部を除く離散的な2箇所に有効区間A
2R/4Lが存在する。これら2箇所全部の有効区間A
2L/4R内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、2次の共振周波数(f
2p/f
2s)の右シフト量および4次の共振周波数(f
4p/f
4s)の左シフト量をそれぞれ一定範囲内で任意に加減または調整することができる。
【0081】
もっとも、異なる共振周波数について独立したシフト調整を同時に行う場合は、それぞれ固有の有効区間Aと非有効区間Bが競合し合う巻線ギャップgが存在する。たとえば、
図17Aの例では、専ら2次の共振周波数(f
2p/f
2s)について右シフト調整を行う場合は有効区間A
2Rに属し、専ら4次の共振周波数(f
4p,f
4s)について左シフト調整を行う場合は有効区間A
4Lに属する巻線ギャップgが存在する。上記のようにAND条件で重ね合わせた場合は、この巻線ギャップgは非有効区間B
2R/4Lに属することになる。
【0082】
しかし、たとえば、4次の共振周波数(f
4p/f
4s)の左シフト調整よりも2次の共振周波数(f
2p/f
2s)の右シフト調整を優先させる場合は、この巻線ギャップgの位置を有効区間A
2R/4Lにすることも可能である。したがって、
図17Bの配置パターンでは非有効区間B
2R/4Lとなっている中心部の区間を有効区間A
2R/4Lに変更することも可能である(
図25A参照)。
【0083】
上記のように、本発明によれば、空芯コイル104(1),104(2)に上記構成の櫛歯部材114を装着することで、つまり空芯コイル104(1),104(2)の各巻線ギャップgにt−<t
Sの条件を満たす厚さt−を有する第1の櫛歯M−もしくはt
S≦t+の条件を満たす厚さt+を有する第2の櫛歯M+のいずれかを挿入し、空芯コイル104(1),104(2)のコイル長さ方向で離散的に分布する1つまたは複数の所定の有効区間A内に第1の櫛歯M−を少なくとも1つ以上配置することによって、任意のN次の並列および/または直列共振周波数(f
Np/f
Ns)について左シフト調整または右シフト調整のいずれも一定範囲内の任意にシフト量で行うことができる。ここで、有効区間Aの分布する位置は、上記のように各N次の共振周波数(f
Np/f
Ns)毎にパターン化されているので(
図8B,
図9B,・・
図17B)、これらの基本パターンを目安に櫛歯部材114および櫛歯Mを設計・製作することも可能である。
【0084】
しかし、上述したように、有効区間A内でも第1の櫛歯M−によるシフト調整の効き目は各位置の巻線ギャップg毎に独立しているので、実際には試作品または実製品の空芯コイル104(1),104(2)を用いて各巻線ギャップgに第1の櫛歯M−を挿入してシフト調整の効き目を測定し、巻線ギャップg毎にシフトの有無、シフト方向およびシフト量をデータベース化することが望ましい。
【0085】
具体的には、ブロック組み合わせ方式(
図5B)を用いて、たとえば
図18Aおよび
図18Bに示すように解像度の面から数個以内(最も好ましくは1個)の連続する巻線ピッチ(つまり巻線ギャップ)においてのみp−<p
S(g−<g
S)の条件を満たすための第1の櫛歯M−を有する単一の検査ブロックXBL
iと、いずれの巻線ピッチ(巻線ギャップ)においてもp
S≦p+(g
S≦g+)の条件を満たすための第2の櫛歯M+を有する1つまたは複数のブロック・・,BL
i−1,BL
i+1,・・とを組み合わせて実験用の櫛歯部材114EXを組み立てる。 なお、
図18Aの検査ブロックXBL
iと、
図18Bの検査ブロックXBL
iとは、空芯コイル104(1),104(2)の中心軸線を基準にして互いに反対側(点対称)の位置関係つまり周回方向で180°離れた位置関係にある。
【0086】
最初に、検査ブロックXBL
iを先頭に配置して組み立てた実験用の櫛歯部材114EXを空芯コイル104(1),104(2)に装着して、インピーダンスアナライザまたはネットワークアナライザによりフィルタ102(1),102(2)のいずれか一方の周波数−インピーダンス特性を取得し、各N次の共振周波数(f
Np/f
Ns)を測定する。次いで、各N次の共振周波数(f
Np/f
Ns)の測定値を標準の巻線ギャップg
sまたは巻線ピッチp
Sの場合に得られた各N次の共振周波数(f
Np/f
Ns)の測定値つまり比較基準値と比較して、シフトの有無、シフト方向およびシフト量を求める。
【0087】
そして、
図19に示すように、検査ブロックXBL
iの配置位置を空芯コイル104(1),104(2)の先端から終端まで1単位(この場合は1巻線ギャップ単位)ずつ移動させて、上記の実験操作を先頭(No.1)の巻線ギャップgから末尾(No.n)の巻線ギャップgまで巻線ギャップの個数nだけ繰り返し行うことで(i=1,2,・・n)、空芯コイル104(1),104(2)の各巻線ギャップg単独に第1の櫛歯M−を挿入した場合のシフトの有無、シフト方向およびシフト量の実測値データを取得し、データベースを構築することができる。
【0088】
これにより、所与のフィルタユニット54(IN)ないしフィルタ102(1),102(2)に対して、上記データベースを基に、特定の1つまたは複数のN次の並列および/または直列共振周波数(f
Np/f
Ns)について所望のシフト方向で所望のシフト量が得られるように、第1の櫛歯M−と第2の櫛歯M+とを最適な分布で混在させている櫛歯部材114を一体成形型(
図5A)またはブロック連結型(
図5B)の試作品または実製品として構成することができる。
[実施例]
【0089】
本発明者は、上述した本発明の技術思想および技法を実験によって検証した。この実験では、内径50mm、外径62mm、巻線数31ターン、コイル導体の厚み(k)1mm、コイル長さ(S)124mmの空芯コイル104(1),104(2)を用いた。この空芯コイル104(1),104(2)に対して、
図20Aに示すようにコイルの一端から他端まで均一の巻線ピッチp
S(4mm)を与える標準の厚みt
S(1mm)の櫛歯Mを有する櫛歯部材114を装着し、インピーダンスアナライザを用いて一方のフィルタユニット102(1)の周波数−インピーダンス特性を取得した。
図20Bに、この比較基準(標準)の周波数−インピーダンス特性を示す。
【0090】
すなわち、第1〜第6の並列共振周波数f
1P〜f
6Pは、f
1P=9.7MHz、f
2P=33.98MHz、f
3P=57.98MHz、f
4P=81.38MHz、f
5P=105.78MHz、f
6P=130.4MHzであった。また、第2〜第6の直列共振周波数f
2S〜f
6Sは、f
2S=31.0MHz、f
3S=56.4MHz、f
4S=80.38MHz、f
5S=104.88MHz、f
6S=129.48MHzであった。
【0091】
この検証実験では、
図21Aに示すように連続する2つの巻線ピッチp(つまり連続する2つの巻線ギャップg)においてのみp−<p
S(g−<g
S)の条件を満たす厚みt−(0.5mm)の櫛歯M−を有する1つの検査ブロックXBL
iを使用し、この検査ブロックXBL
iといずれの巻線ピッチ(巻線ギャップ)においてもp
S≦p+(g
S≦g+)の条件を満たす厚みt+(1mm)の櫛歯M+を有する多数のブロック・・,B
Li-1,B
Li+1,・・とを組み合わせて、実験用の櫛歯部材114EXを組み立てた。
【0092】
そして、
図21Bに示すように、検査ブロックXBL
iの配置位置を空芯コイル104(1),104(2)の先頭(No.1)の巻線ギャップから末尾(No.31)の巻線ギャップまで2ギャップ(2g)単位で移動させて、上記と同様の実験操作を繰り返し行い、空芯コイル104(1),104(2)の各2巻線ギャップ(2g)単独に第1の櫛歯M−を挿入した場合のシフトの有無、シフト方向およびシフト量を実測した。その結果、
図22の表に示すようなデータベースが得られた。ただし、この実験で使用した空芯コイル104(1),104(2)の巻線数は31t(ターン)なので、最後(16回目)の実験操作では末尾の1つ(No.31)の巻線ギャップにおいてのみp−<p
S(g−<g
S)の条件を満たす
図18に示すような単一巻線ギャップ用の検査ブロックXBL
16を用いた。
【0093】
図22に示すように、各N次の共振周波数(f
NP/f
SP)について左シフト調整および右シフト調整が可能であり、各々のシフト調整において有効区間Aと非有効区間Bが離散的に1つまたは複数存在することがわかる。
【0094】
たとえば、4次の並列および/または直列共振周波数(f
4p/f
4s)に着目すると、空芯コイル104(1),104(2)上で離散的に分布する4つの区間[No.1〜4],[No.9〜14],[No.19〜22],[No.29〜31]は、各区間内の任意の位置の巻線ギャップgに第1の櫛歯M−を挿入することによって共振周波数(f
4P/f
4S)を負の方向つまり低い周波数領域側へシフトできる左シフト調整用の有効区間A
4Lであることがわかる。この場合、これら4箇所の有効区間A
4Lに挟まれた残りの3つの区間[No.5〜8],[No.15〜18],[No.23〜28]は非有効区間B
4Lである。
【0095】
4次の共振周波数(f
4p/f
4s)について右シフト調整を考えると、上記とは反対に離散的な3つの区間[No.5〜8],[No.15〜18],[No.23〜28]は、その区間内の任意の位置の巻線ギャップgに第1の櫛歯M−を挿入することによって共振周波数(f
4p/f
4s)を正の方向つまり高い周波数領域側へシフトできる右シフト調整用の有効区間A
4Rとなる。そして、残りの4つの区間[No.1〜4],[No.9〜14],[No.19〜22]、[No.29〜31]が非有効区間B
4Rとなる。
【0096】
このように、4次の共振周波数(f
4p/f
4s)の左シフト調整および右シフト調整について
図22のデータベースから決定される有効区間A
4L,A
4Rの分布形態は、
図14Bおよび
図15Bの分布形態にそれぞれ似通っている。
【0097】
同様に、1次の並列共振周波数f
1Pの左シフト調整および右シフト調整について
図22のデータベースから決定される有効区間A
1L,A
1Rの分布形態は、
図8Bおよび
図9Bの分布形態に似通っている。また、2次の並列および/または直列共振周波数(f
2p/f
2s)の左シフト調整および右シフト調整について
図22のデータベースから決定される有効区間A
2L,A
2Rの分布形態は、
図10Bおよび
図11Bの分布形態に似通っている。3次の並列および/または直列共振周波数(f
3p/f
3s)の左シフト調整および右シフト調整について
図22のデータベースから決定される有効区間A
3L,A
4Rの分布形態は、
図12Bおよび
図13Bの分布形態に似通っている。また、4次の並列および/または直列共振周波数(f
4p/f
4s)の左シフト調整および右シフト調整について
図22のデータベースから決定される有効区間A
4L,A
4Rの分布形態は、
図14Bおよび
図15Bの分布形態に似通っている。
【0098】
さらに、本発明者は、各N次の並列および/または直列共振周波数(f
Np/f
Ns)について最大の左シフト量または最大の右シフト量を得るために、全ての有効区間A
NL,A
NR内の全ての巻線ギャップgに第1の櫛歯M−を挿入するとともに、全ての非有効区間B
NL,B
NR内の全ての巻線ギャップgに第2の櫛歯M+を挿入して、インピターダンスアナライザにより一方のフィルタ102(1)の周波数−インピーダンス特性を取得した。そして、各N次の並列共振周波数f
NPの左シフト量および右シフト量について、上記データベース(
図22)から重ね合わせの理に基づいて得られる推定値(合計値)δf
NPと、周波数−インピーダンス特性の測定値から得られた実測値Δf
NPとを対比した。その結果、各N次の並列共振周波数f
NPについて、左シフト調整および右シフト調整のいずれにおいても推定値(合計値)δf
NPと実測値Δf
NPとの間に大きな差は見られなかった。
【0099】
一例として、
図23Aに4次の並列共振周波数f
4pの左シフト量を最大化するために行った実験で用いた櫛歯部材114EXのブロック組立て構造(BL
1〜BL
9)および櫛歯M(M−,M+)の配置パターンを示し、
図23Bにその櫛歯部材114EXを空芯コイル104(1),(2)に装着したフィルタ102(1)の周波数−インピーダンス特性を示す。
【0100】
図23Aに示すように、この実験では、空芯コイル104(1),104(2)の31t(ターン)の巻線ギャップNo.1〜No.31のうち、第1〜第4の巻線ギャップNo.1〜4(有効区間A
4L)には0.7mmの厚みt−を有する第1の櫛歯M−を挿入し、第5〜第8の巻線ギャップNo.5〜8(非有効区間B
4L)には1.3mmの厚みt+を有する第2の櫛歯M+を挿入し、第9〜第14の巻線ギャップNo.9〜14(有効区間A
4L)には0.7mmまたは0.6mmの厚みt−を有する第1の櫛歯M−を挿入し、第15〜第18の巻線ギャップNo.15〜18(非有効区間B
4L)には1.3mmの厚みt+を有する第2の櫛歯M+を挿入し、第19〜第22の巻線ギャップNo.19〜22(有効区間A
4L)には0.7mmの厚みt−を有する第1の櫛歯M−を挿入し、第23〜第28の巻線ギャップNo.23〜28(非有効区間B
4L)には1.3mmまたは1.2mmの厚みt+を有する第2の櫛歯M+を挿入し、第29〜第31の巻線ギャップNo.29〜31(有効区間A
4L)には0.6mmの厚みt−を有する第1の櫛歯M−を挿入した。
【0101】
この場合、上記データベース(
図22)を参照すると、有効区間A
4Lである4箇所の区間[No.1〜4],[No.9〜14],[No.19〜22]、[No.29〜31]内で各2巻線ギャップ単位の左シフト量を全て足し合わせた合計値つまり推定値δf
4P'は次のとおりである。
f
4P'=−(1.0+0.5+0.7+2.1+0.3+1.1+2.1+0.2+0.6)MHz=−8.6MHz
【0102】
一方、
図23Bに示すように、
図23Aの櫛歯部材114EX(BL
1〜BL
9)を空芯コイル104(1),(2)に装着したフィルタ102(1)の周波数−インピーダンス特性においては、4次の並列共振周波数f
4pは標準値の81.38MHzから72.18MHzに変化した。すなわち、左シフト量の実測値Δf
4P'は次のとおりである。
Δf
4P'=( 72.18−81.38)MHz=−9.2MHz
【0103】
このように、推定値δf
4P'(−8.6MHz)と実測値Δf
4P'(−9.2MHz)との間に大きな差はなかった。
【0104】
別の例として、
図24Aに4次の並列共振周波数f
4pの右シフト量を最大化するために行った実験で用いた櫛歯部材114EXのブロック組立て構造(BL
1〜BL
9)および櫛歯M(M−,M+)の配置パターンを示し、
図24Bに櫛歯部材114EXを空芯コイル104(1),(2)に装着したフィルタ102(1)の周波数−インピーダンス特性を示す。
【0105】
図24Aに示すように、この実験では、空芯コイル104(1),104(2)の31t(ターン)の巻線ギャップNo.1〜No.31のうち、第1〜第4の巻線ギャップNo.1〜4(非有効区間B
4R)には1.2mmの厚みt+を有する第2の櫛歯M+を挿入し、第5〜第8の巻線ギャップNo.5〜8(有効区間A
4R)には0.6mmの厚みt−を有する第1の櫛歯M−を挿入し、第9〜第14の巻線ギャップNo.9〜14(非有効区間B
4R)には1.2mmの厚みt+を有する第2の櫛歯M+を挿入し、第15〜第18の巻線ギャップNo.15〜18(有効区間A
4R)には0.6mmの厚みt−を有する第1の櫛歯M−を挿入し、第19〜第22の巻線ギャップNo.19〜22(非有効区間B
4R)には1.2mmの厚みt+を有する第2の櫛歯M+を挿入し、第23〜第28の巻線ギャップNo.23〜28(有効区間A
4R)には0.5mmまたは0.6mmの厚みt−を有する第1の櫛歯M−を挿入し、第29〜第31の巻線ギャップNo.29〜31(非有効区間B
4R)には1.3mmの厚みt+を有する第2の櫛歯M+を挿入した。
【0106】
この場合、上記データベース(
図22)を参照すると、有効区間A
4Rである3つの区間[No.5〜8],[No.15〜18],[No.23〜28]内で各2巻線ギャップ単位の左シフト量を全て足し合わせた合計値つまり推定値δf
4P"は次のとおりである。
f
4P"=(1.4+2.0+2.0+1.3+0.1+2.2+0.8)MHz=9.8MHz
【0107】
一方、
図24Bに示すように、
図24Aの櫛歯部材114EX(BL
1〜BL
9)を空芯コイル104(1),(2)に装着したフィルタ102(1)の周波数−インピーダンス特性においては、4次の並列共振周波数f
4pが標準値の81.38MHzから91.5MHzに変化した。すなわち、右シフト量の実測値Δf
4P"は次のとおりである。
Δf
4P"= (91.5−81.38)MHz=10.12MHz
【0108】
このように、推定値δf
4P'(9.8MHz)と実測値Δf
4P'(10.12MHz)との間に大きな差はなかった。
【0109】
さらに、異なる共振周波数に対してそれぞれ独立したシフト調整を同時に行うモードとして、2次の並列共振周波数f
2pの右シフト調整と4次の並列共振周波数f
4pの左シフト調整を同時に行う検証実験を行った。
【0110】
図25Aに示すように、この実験では、空芯コイル104(1),104(2)の31t(ターン)の巻線ギャップNo.1〜No.31のうち、第1〜第8の巻線ギャップNo.1〜8(非有効区間B
2R/4L)には1.3mmの厚みt+を有する第2の櫛歯M+を挿入し、第9〜第22の巻線ギャップNo.9〜22(有効区間A
2R/4L)には0.7mmの厚みt−を有する第1の櫛歯M−を挿入し、第23〜第31の巻線ギャップNo.23〜31(非有効区間B
2R/4L)には1.3mmまたは1mmの厚みt+を有する第2の櫛歯M+を挿入した。
【0111】
この場合、上記データベース(
図22)を参照すると、有効区間A
2R/4Lである1箇所の区間[No.9〜22]内でf
2pおよびf
4pの各2巻線ギャップ単位の右シフト量または左シフト量を全て足し合わせた合計値つまり推定値δf
2P" ,δf
4P'は次のとおりである。
δf
2P"=(-0.1+0.2+0.0+0.7+0.8+0.7+0.5)MHz=2.8MHz
δf
4P'= (-0.7)+(-2.1)+(-0.3)+2.0+1.3+(-1.1)+(-2.1) MHz=−3.0MHz
【0112】
一方、
図25Bに示すように、
図25Aの櫛歯部材114EX(BL
1〜BL
9)を空芯コイル104(1),(2)に装着したフィルタ102(1)の周波数−インピーダンス特性においては、2次の並列共振周波数f
2pは標準値の3.98MHzから36.78MHzに変化し、4次の並列共振周波数f
4pは標準値の81.38MHzから78.28MHzに変化した。すなわち、2次の並列共振周波数f
2Pの右シフト量の実測値Δf
2P'および4次の並列共振周波数f
4Pの左シフト量の実測値Δf
2P"は次のとおりである。
Δf
2P'= (36.78−33.98)MHz=2.8MHz
Δf
4P"= (78.28−81.38)MHz=−3.1MHz
【0113】
このように、2次の並列共振周波数f
2pの右シフト調整においては推定値δf
4P'(2.8MHz)と実測値Δf
4P'(2.8MHz)との間に差がなく、4次の並列共振周波数f
4pの左シフト調整においても推定値δf
4P'(−3.0MHz)と実測値Δf
4P'( −3.1MHz)との間に殆ど差がなかった。
【0114】
なお、この実施形態のプラズマ処理装置において、たとえば、プラズマ生成用の第1高周波HFの周波数が80MHzである場合は、4次の並列共振周波数f
4Pを左シフト調整により80MHzより少し低い値(約79MHz)に調整すればよい。あるいは、第1高周波HFの周波数が60MHzである場合は、3次の並列共振周波数f
4Pを右シフト調整により60MHzより少し低い値(約59MHz)に調整すればよい。同様に、イオン引き込み用の第2高周波LFの周波数についても、1次の並列共振周波数f
1Pを左シフト調整または右シフト調整により最適な値に調整することができる。さらには、第1高周波HFまたは第2高周波LFの高調波に対しても、いずれかの高次の並列共振周波数f
NPを左シフト調整または右シフト調整により最適な値に調整することができる。
【0115】
このように、上記データベース(
図22)から、特定の1つまたは複数のN次の共振周波数について、有効区間A内で第1の櫛歯M−を挿入する巻線ギャップgの個数および/または組み合わせを選定することにより、各N次の共振周波数のシフト方向およびシフト量をそれぞれ一定範囲内(最大値以下)で任意に加減または調整することができる。
【0116】
別な見方をすれば、第1の櫛歯M−と第2の櫛歯M+とを一定の分布パターンで混在させた櫛歯部材114を実製品の空芯コイル104(1),(2)に装着することにより、特定の1つまたは複数のN次の共振周波数が必ず設定値付近に現れる再現性が高くて個体差のない所望の周波数−インピーダンス特性またはフィルタ特性を得ることができる。この実施形態のプラズマ処理装置においては、上記構成の櫛歯部材114を用いることにより、空芯コイル104(1),(2)の製作上のばらつきまたは個体差を吸収または補償することが可能であり、両高周波HF,LFの周波数に並列多重共振を同時にマッチングさせるフィルタ設計の簡略化・高精度化・信頼性を容易に達成することができる。
【0117】
また、空芯コイル104(1),104(2)の巻線間には櫛歯Mを除く部分にエアギャップが形成されているので、コイルで発生する熱がエアギャップを介して速やかに放出される。したがって、櫛歯部材114により空芯コイル104(1),104(2)を効率よく冷却できる利点もある。
【0118】
さらに、この実施形態のフィルタユニット54(IN)は、空芯コイル104(1),104(2)と外導体110との間にリング部材を備えていないので、フィルタユニット54(IN)に入ってきた高周波ノイズが空芯コイル104(1),104(2)を下る途中で半径方向外側つまり外導体110にバイパスしてグランドへ抜けるようなことはない。したがって、高周波ノイズに対してインピーダンス機能や耐電圧特性が低下するようなことはない。
[他の実施形態または変形例]
【0119】
上記の実施形態では、空芯コイル104(1),104(2)に装着される櫛歯部材114の櫛歯Mの中で、標準の厚みt
Sより小さな厚みt−を有する櫛歯M−が、第1の櫛歯として有効区間A内に分布するプロファイルにより、特定のN次の共振周波数に対する左シフト調整または右シフト調整のシフト量を左右した。この場合、標準の厚みt
Sに等しいかまたはそれより大きな厚みt+を有する櫛歯M+は第2の櫛歯として主に非有効区間Bに配置された。
【0120】
しかし、容易に理解されるように、空芯コイル104(1),104(2)に装着される櫛歯部材114の櫛歯Mとして、標準の厚みt
Sより大きな厚みt+'を有する櫛歯M+'と、標準の厚みt
Sに等しいかまたはそれより小さな厚みt−'を有する櫛歯M−'の2種類を設けても上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。この場合は、相対的に大きな厚みt+'を有する櫛歯M+'が、第1の櫛歯として、有効区間A内に分布するプロファイルにより、特定のN次の共振周波数に対する左シフト調整または右シフト調整のシフト量を左右することになる。そして、相対的に小さな厚みt−'を有する櫛歯M−'が、第2の櫛歯として主に非有効区間Bに配置されることになる。
【0121】
図26に、一変形例における空芯コイル104(1),104(2) 回りの具体的なサブアッセンブリ構造を示す。この変形例は、上記コイル支持部材126を構成している板状部材128の外側端面に櫛歯M(M−,M+)を形成しており、板状部材128の櫛歯M(M−,M+)が各空芯コイル104(1),104(2)の巻線ギャップgにコイル半径方向の内側から食い込んで(入って)いる。この場合は、コイル支持部材126を構成する板状部材128が櫛歯部材を兼ねるので、上記のような棒状の櫛歯部材114を空芯コイル104(1),104(2)の周囲に設ける必要がなくなる。なお、
図26において、コイル支持部材126およびフィルタ端子T(1),T(2)を保持している板状の部材130は、このサブアッセンブリを組み立てる際に用いられる治具である。
【0122】
別の変形例として、
図26のように空芯コイル104(1),104(2)の内側に配置される板状部材128の外側端面に櫛歯M(M−,M+)を形成するとともに、
図6のように内側面に櫛歯M(M−,M+)が形成されている棒状の櫛歯部材114を空芯コイル104(1),104(2)の周囲に配置することにより、空芯コイル104(1),104(2)の巻線ギャップgに周回方向の異なる位置でコイル半径方向の内側および外側双方から櫛歯M(M−,M+)を挿入する構成も可能である。また、更に別の変形例として、空芯コイル104(1),104(2)の内側に棒状の櫛歯部材114を複数本配置し、各々の櫛歯部材114の外側面に形成されている櫛歯M(M−,M+)をコイル104(1),104(2)の巻線ギャップgに挿入する構成も可能である。
【0123】
上述した実施形態では、1つの外導体110の中で第1フィルタ102(1)の空芯コイル104(1)および第2フィルタ102(2)の空芯コイル104(2)をそれぞれ構成するコイル導体が重なり合って並進しながら螺旋状に巻かれている。かかるコイル巻線構造は、両空芯コイル104(1),102(2)の間で、自己インダクタンスが互いに等しく、かつ最大の相互インダクタンスを得ることができる。これによって、フィルタユニット54(IN)におけるRF電力損失が低減し、さらにはRFパワー損失の機差が低減するという利点がある。もっとも、図示省略するが、第1フィルタ102(1)の空芯ドコイル104(1)と第2フィルタ102(2)の空芯コイル104(2)とを別々の外導体110内に収容する構成も可能である。なお、単一の空芯コイル104に櫛歯部材114を装着する場合は、空芯コイル104の各位置における巻線ギャップg、巻線ピッチp、櫛歯M
iの厚みt
iおよびスリットKのギャップ幅kの間に、g=t
i、p=g+k=t
i+kの関係が成立する。
【0124】
上記の実施形態では、並列多重共振の周波数−インピーダンス特性を有するフィルタ102(1),102(2)の空芯コイル104(1),104(2)に上記構成の櫛歯M(M−,M+)を有する櫛歯部材114を装着して、特定の1つまたは複数の共振周波数について左シフト調整または右シフト調整を行うようにした。
【0125】
しかし、本発明は、ヒータ給電線等の電源線用のフィルタに限定されるものでは決してなく、チャンバ内に設けられる所定の電気的部材とチャンバの外に設けられる電力系または信号系の外部回路とを電気的に接続する一対の線路または単一の線路上に設けられる任意のフィルタまたは伝送回路に適用可能である。
【0126】
特に、実施形態のプラズマ処理装置においては、共振周波数の調整を必要とする他の任意のコイルに対しても、上記と同様の櫛歯M(M−,M+)を有する櫛歯部材114を装着して、共振周波数の左シフト調整または右シフト調整を行うことができる。
【0127】
たとえば、
図27に示すように、高周波電源28,30とチャンバ10内のサセプタ14との間の高周波給電ライン上にはマッチングユニット32内の整合回路132,134が設けられている。たとえば、第1高周波HF用の第1の整合回路132は、第1の高周波電源28の出力端子と負荷との間で直列に接続されるコンデンサ136およびコイル138と、コンデンサ136の入力側端子と接地電位部材(図示せず)との間に接続されるコンデンサ140とからなるL型の整合回路として構成されている。また、第2高周波LF用の第2の整合回路134も、第2の高周波電源30の出力端子と負荷との間で直列に接続されるコンデンサ142およびコイル144と、コンデンサ142の入力側端子と接地電位部材(図示せず)との間に接続されるコンデンサ146とからなるL型の整合回路として構成されている。さらに、両整合回路132,134の出力端子間には、第2高周波LFを通して第1高周波HFを遮断するためのコイル148が接続されている。
【0128】
これらのコイル138,144,148に空芯コイルを使用することができる。通常、それらの空芯コイル138,144,148は、集中定数素子として機能し、固有の自己インダクタンスを持つだけでなく、その周囲に存在する寄生容量と自己インダクタンスとの間で等価的に並列LC回路が形成されることで、自己共振周波数を持っている。したがって、これらの空芯コイル138,144,148の少なくとも1つにおいて、その自己共振周波数付近に得られる高いインピーダンスを線路上の不所望な高周波たとえば高調波を遮断するのに利用することができる。
【0129】
その場合、高調波の遮断に用いられるたとえば全部の空芯コイル138,144,148に上記構成の櫛歯M(M−,M+)を有する櫛歯部材114を装着し、それぞれの自己共振周波数について左シフト調整または右シフト調整を行うことにより、空芯コイル138,144,148の製作上のばらつきや個体差を吸収または補償して、自己共振周波数の調整を要するコイル設計の簡略化・高精度化・信頼性を容易に実現することができる。
【0130】
上記実施形態は、チャンバ10内のサセプタ12にプラズマ生成用の第1高周波HFとイオン引き込み用の第2高周波LFとを重畳して印加する下部2周波印加方式の容量結合型プラズマエッチング装置において、サセプタ12に組み込まれる発熱体40とチャンバ10の外に設置されるヒータ電源58とを電気的に接続する一対のヒータ給電ライン100(1),ライン100(2)上に両周波数のノイズを減衰させるためのフィルタに係わるものであった。しかしながら、上部電極64にプラズマ生成用の第1高周波HFを印加し、サセプタ12にイオン引き込み用の第2高周波LFを印加する上下部2周波印加方式の容量結合型プラズマエッチング装置、あるいはサセプタ12に単一の高周波を印加する下部1周波印加方式の容量結合型プラズマエッチング装置においても、上記実施形態のフィルタまたはフィルタユニットをそのまま好適に適用することができる。
【0131】
本発明は、容量結合型のプラズマエッチング装置に限定されず、マイクロ波プラズマエッチング装置や、誘導結合プラズマエッチング装置、ヘリコン波プラズマエッチング装置等にも適用可能であり、さらにはプラズマCVD、プラズマ酸化、プラズマ窒化、スパッタリングなどの他のプラズマ処理装置にも適用可能である。また、本発明における被処理基板は半導体ウエハに限るものではなく、フラットパネルディスプレイ、有機EL、太陽電池用の各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等も可能である。