【文献】
中岡広子、市浦英明、大谷慶人、小西孝義、山口正史、亀田範明,オゾンを活用した使用済み紙おむつ中のパルプ成分の回収技術−オゾンによる高吸水性樹脂の脱水処理−,第64回日本木材学会大会研究発表要旨集,日本,一般財団法人日本木材学会,2014年 3月 3日,K14-08-1315
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含む使用済み衛生用品からパルプ繊維を回収し、衛生用品に再利用可能なリサイクルパルプを製造する方法に関する。
【0009】
衛生用品としては、パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含むものであれば、特に限定されず、使い捨ておむつ、失禁パッド、尿取りパッド、生理用ナプキン、パンティーライナー等を例示することができる。なかでも、施設等でまとめて回収される失禁パッドや使い捨ておむつが分別の手間がなくパルプ量が比較的多い点で好ましい。
【0010】
パルプ繊維としては、特に限定するものではないが、フラッフ状パルプ繊維、化学パルプ繊維等を例示することができる。
【0011】
高吸水性ポリマーとは、SAP(Superabsorbent Polymer)とも呼ばれ、水溶性高分子が適度に架橋された三次元網目構造を有するもので、数十倍〜数百倍の水を吸収するが、本質的に水不溶性であり、一旦吸収された水は多少の圧力を加えても離水しないものであり、たとえば、デンプン系、アクリル酸系、アミノ酸系の粒子状または繊維状のポリマーを例示することができる。
【0012】
この明細書においては、本発明の方法によって製造されたパルプを「リサイクルパルプ」と称する。
【0013】
本発明の方法は、使用済み衛生用品またはパルプ繊維をオゾン含有水溶液に浸漬して、使用済み衛生用品中のまたはパルプ繊維に付着した高吸水性ポリマーを分解するオゾン処理工程を含む。
この工程において、高吸水性ポリマーは分解し、低分子量化し、可溶化する。ここで、高吸水性ポリマーが分解し、低分子量化し、可溶化した状態とは、2mmのスクリーンメッシュを通過する状態をいうものとする。すなわち、この工程において、高吸水性ポリマーを、2mmのスクリーンメッシュを通過する程度にまで分解する。
この工程において用いるオゾン含有水溶液とは、オゾンが溶解した水溶液をいう。オゾン含有水溶液は、たとえば、オゾン水発生装置(三菱電機株式会社製オゾン発生装置OS−25V、エコデザイン株式会社製オゾン水曝露試験機ED−OWX−2など)を用いて調製することができる。
【0014】
オゾン含有水溶液のオゾン濃度は、高吸水性ポリマーを分解することができる濃度であれば、特に限定されないが、好ましくは1〜50質量ppmであり、より好ましくは2〜40質量ppmであり、さらに好ましくは3〜30質量ppmである。濃度が低すぎると、高吸水性ポリマーを完全に可溶化することができず、回収したパルプ繊維に高吸水性ポリマーが残存する虞がある。逆に、濃度が高すぎると、酸化力も高まるため、パルプ繊維に損傷を与える虞があるとともに、安全性にも問題を生じる虞がある。
【0015】
オゾン含有水溶液に浸漬する時間は、高吸水性ポリマーを分解することができる時間であれば、特に限定されない。オゾン含有水溶液に浸漬する時間は、オゾン含有水溶液のオゾン濃度が高ければ短くてよく、オゾン含有水溶液のオゾン濃度が低ければ長い時間を要する。
オゾン含有水溶液のオゾン濃度(ppm)とオゾン含有水溶液に浸漬する時間(分)の積(以下「CT値」ともいう。)は、好ましくは100〜6000ppm・分であり、より好ましくは200〜4800ppm・分であり、さらに好ましくは300〜3600ppm・分である。CT値が小さすぎると、高吸水性ポリマーを完全に可溶化することができず、回収したパルプ繊維に高吸水性ポリマーが残存する虞がある。逆に、CT値が大きすぎると、パルプ繊維の損傷、安全性の低下、製造原価の増加につながる虞がある。
オゾン含有水溶液に浸漬する時間は、オゾン含有水溶液のオゾン濃度に依存することは、上述のとおりであるが、好ましくは5〜120分であり、より好ましくは10〜100分であり、さらに好ましくは20〜80分である。
【0016】
オゾン含有水溶液の量は、高吸水性ポリマーを分解することができる量であれば、特に限定されないが、使用済み衛生用品またはパルプ繊維100質量部(乾燥基準)に対し、好ましくは300〜5000質量部であり、より好ましくは500〜4000質量部であり、さらに好ましくは800〜3000質量部である。オゾン含有水溶液の量が少なすぎると、高吸水性ポリマーを完全に可溶化することができず、回収したパルプ繊維に高吸水性ポリマーが残存する虞がある。逆に、オゾン含有水溶液の量が多すぎると、製造原価の増加につながる虞がある。
【0017】
オゾン処理工程において、使用済み衛生用品またはパルプ繊維をオゾン含有水溶液に浸漬する方法は、特に限定されないが、たとえば、容器にオゾン含有水溶液を入れ、そのオゾン含有水溶液の中に使用済み衛生用品またはパルプ繊維を入れればよい。浸漬している間、容器の内容物を攪拌してもよいが、攪拌しなくてもよい。また、容器に入れたオゾン含有水溶液の中にオゾンガスを吹き込み、オゾンガスの泡の上昇によって、オゾン含有水溶液の中に弱い流れを発生させてもよい。オゾン含有水溶液の温度は、高吸水性ポリマーを分解することができる温度であれば、特に限定されない。オゾン含有水溶液を加熱してもよいが、室温のままでもよい。
【0018】
オゾン処理工程では、高吸水性ポリマーがオゾンによる酸化分解作用を受け、高吸水性ポリマーの三次元網目構造が崩れ、高吸水性ポリマーは保水性を失い、低分子量化し、可溶化する。流動性が高くなった高吸水性ポリマーはオゾン含有水溶液中に溶け出す。また、衛生用品の接合等に使用されているホットメルト接着剤もオゾン含有水溶液で酸化劣化し、衛生用品の構成要素間の接合強度が弱くなる。さらに、この工程では、オゾンの消毒作用により、使用済み衛生用品が一次消毒され、またはパルプ繊維が消毒、漂白、消臭される。
【0019】
オゾン含有水溶液は酸性であることが好ましい。より好ましくは、オゾン含有水溶液のpHは2.5以下であり、さらに好ましくは0.5〜2.5であり、さらに好ましくは1.0〜2.4である。酸性のオゾン含有水溶液を用いることにより、初期の高吸水性ポリマーの吸水膨張を抑制することができ、オゾンによる高吸水性ポリマーの分解除去効果が飛躍的に向上する、すなわち短時間で高吸水性ポリマーを分解することができる。後述の分解工程において、多価金属イオンを含む水溶液を用いたときは、高吸水性ポリマーが多価金属イオンよって脱水されているので、酸性のオゾン含有水溶液を用いなくても高吸水性ポリマーが吸水膨張することはないが、パルプ繊維の表面に付着している多価金属を酸によりを溶解し除去するためにpHが2.5以下の水溶液を用いる。一方、分解工程においてpHが2.5以下の酸性水溶液を用いたときに、オゾン処理工程においてpHが2.5以下の水溶液を用いる理由は、もっぱら高吸水性ポリマーの吸水膨張を抑制するためである。また、酸性のオゾン含有水溶液で処理することにより、酸による消毒効果も付与することができる。ちなみに、高吸水性ポリマーの吸水膨張の抑制の原理は、酸性水溶液に対しては、マイナスに帯電したカルボキシル基がプラスに帯電された水素イオンによって中和されるため、カルボキシル基のイオン反発力が弱まり、吸水力が低下することとなると考えられる。オゾン含有水溶液のpHが低すぎると、得られるリサイクルパルプの吸水能力が低下するおそれがある。pHが低すぎると、得られるリサイクルパルプの吸水能力が低下する理由は定かではないが、パルプ繊維自体が変性するためと考えられる。
【0020】
酸性のオゾン含有水溶液は、オゾン含有水溶液に酸を添加することにより製造することができる。
酸としては、特に限定されるものではなく、無機酸および有機酸を用いることができるが、好ましくは有機酸である。有機酸は弱酸域で機能しかつ環境に優しいので、安全性と環境負荷の観点から有機酸の方が好ましい。有機酸としては、特に限定するものではないが、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、アスコルビン酸等を挙げることができ、なかでもクエン酸が好ましい。
酸性のオゾン含有水溶液のpHは、酸の種類および酸の添加量により、調製することができる。酸性のオゾン含有水溶液中の有機酸の濃度は、pHが所定の範囲内にある限り、限定されないが、好ましくは0.1〜5.0質量%であり、より好ましくは0.2〜3.0質量%であり、さらに好ましくは0.5〜2.0質量%である。
また、有機酸によりpH2.5以下とすることにより、特にオゾンガスが直接触れ難い、紙おむつ内部の消毒効果を高めることができる。
【0021】
後述する分解工程においてアルカリ性のカルシウム化合物を用いたときは、オゾン処理工程に供されるパルプ繊維にはアルカリ性のカルシウム化合物が残留している場合があり、そのパルプ繊維をオゾン含有水溶液に加えると、オゾン含有水溶液のpHが変化する場合がある。オゾン含有水溶液のpHがパルプ繊維を加える前と加えた後で異なる場合は、ここでいうオゾン含有水溶液のpHとは、パルプ繊維を加えた後のオゾン含有水溶液のpHをいう。
pHの調整は、たとえば、処理槽にパルプ繊維とオゾン含有水溶液を入れ、攪拌しながら、そこに酸を添加していき、処理槽内の溶液のpHが所定のpHになったところで酸の添加を止める。
【0022】
オゾン処理工程において用いる酸としては、クエン酸が特に好ましい。
分解工程においてカルシウムイオンを含む水溶液を用いたときは、分離されたパルプ繊維の表面にはカルシウムイオンや種々のカルシウム化合物が付着している。パルプ繊維に付着しているカルシウム化合物は必ずしも水溶性のものとは限らず不溶性や難溶性のものも含まれており、水洗だけでは除去できない。クエン酸はカルシウムとキレートを形成し、水溶性のクエン酸カルシウムとなるので、パルプ繊維の表面に付着している不溶性または難溶性のカルシウム化合物を効果的に溶解除去することができる。クエン酸はカルシウム以外の金属ともキレートを形成することができるので、パルプ繊維の表面にカルシウム化合物以外の不溶性または難溶性の金属化合物が付着している場合には、カルシウム化合物のみならず、カルシウム化合物以外の不溶性または難溶性の金属化合物をも溶解除去することができる。その結果、得られるリサイクルパルプの灰分を低減することができる。
【0023】
オゾン処理が終了したら、オゾン含有水溶液を排出して、高吸水性ポリマーが取り除かれた使用済み衛生用品またはパルプ繊維を回収する。この工程では、オゾン含有水溶液に溶け出した分解した高吸水性ポリマーが、オゾン含有水溶液とともに排出され、使用済み衛生用品またはパルプ繊維には高吸水性ポリマーの固形粒子は残らない。オゾン含有水溶液を排出する方法は、特に限定されないが、たとえば、容器の底部に栓を設けておき、その栓を抜いて、オゾン含有水溶液を排出してもよいし、容器から使用済み衛生用品を取り出し、その後、オゾン含有水溶液を容器から排出してもよい。この工程では、たとえば、分解した高吸水性ポリマーが溶けたオゾン含有水溶液を2mmのスクリーンメッシュに通過させて排出する。オゾン処理により、高吸水性ポリマーは2mmのスクリーンメッシュを通過する程度にまで分解されているので、この工程において、分解した高吸水性ポリマーは、2mmのスクリーンメッシュを通過し、オゾン含有水溶液とともに排出される。
【0024】
本発明の方法は、オゾン処理工程の前に、オゾン処理工程と同時に、またはオゾン処理工程の後に、使用済み衛生用品またはパルプ繊維をカチオン性抗菌剤で処理すること(以下単に「抗菌剤処理」ともいう。)を含む。
【0025】
カチオン性抗菌剤としては、第四級アンモニウム塩、グアニジン系抗菌剤(たとえばグルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン)、ヘキセチジン、メタロニダゾールなどが挙げられるが、第四級アンモニウム塩が好ましい。
【0026】
第四級アンモニウム塩は、第四級アンモニウム塩構造を分子内に有していれば、特に限定されるものではないが、たとえば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などが挙げられ、下記式(1)〜(4)で示される第四級アンモニウム塩が挙げられる。
[R(CH
3)
3N
+]
lX ・・・・式(1)
[R(CH
3)N
+(CH
2CH
2O)
mH[(CH
2CH
2O)
nH]]
lX
・・・・式(2)
[R(CH
3)
2N
+CH
2C
6H
5]
lX ・・・・式(3)
[RPy
+]
lX ・・・・式(4)
(式中、Rは、それぞれ独立して、アルキル基を表し、Xは、それぞれ独立して、1価または2価の陰イオンを表す。lは、それぞれ独立して、1または2の整数を表し、mおよびnは、それぞれ独立して、2〜40の整数を表し、Pyはピリジン環を表す。)
第四級アンモニウム塩において、アルキル基としては、長鎖アルキル基であることにより著しい殺菌力を示すため、炭素数8〜18の飽和炭化水素基であることが好ましく、オクチル基、ラウリル基、ミリスチル基、及びセチル基であることがより好ましく、ラウリル基であることがさらに好ましい。
第四級アンモニウム塩は、F
−、Cl
−、Br
−、I
−等のハロゲン化物イオン、NO
−、およびSO
42−などとの塩であり、電気陰性度が高いCl
−などとの塩であることが好ましい。
第四級アンモニウム塩の好ましい具体例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウムなどが挙げられる。
これらの第四級アンモニウム塩は1種単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
業界基準にて衛生用品への使用が禁止されている次亜塩素酸を使用せずに、リサイクル処理中の消毒と処理後得られたパルプの抗菌性を担保するために、カチオン性抗菌剤を用いて消毒することでアニオン性であるパルプ繊維に選択的に吸着し、パルプ繊維自体に抗菌性を付与することが可能である。また、高吸水性ポリマーの膨潤抑制のために使用しているクエン酸と第四級アンモニウム塩の相性が良く、相乗効果により殺菌力が高まり、第四級アンモニウム塩単独では殺菌が難しいウィルス等に対しても除菌効果を発現可能となる。
カチオン性抗菌剤として、塩化ベンザルコニウムや塩化セチルピリジニウムを用いた場合、処理溶液中に遊離している抗菌剤量が、処理の前後で50〜90%低下し、大部分がアニオン性であるパルプ繊維に吸着し、パルプに抗菌性を付与する。
また、後述の比較例1では石灰と次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌効果、比較例2では、クエン酸とオゾンによる殺菌効果がパルプ繊維に付与され、抗菌効果有りとの結果となっており、抗菌性は付与されているが、湿潤状態で保管した際に短期間でカビの発生が確認され、防カビ効果が低く、完全密封し冷蔵保管または他の防カビ剤を添加しなければ、湿潤状態での保管できない。それに対し、カチオン抗菌剤を付与した、本発明では1か月保管においてカビの発生が見られず、湿潤状態で保管することが可能である。よって、ティッシュ等の湿式抄紙原料として得られたパルプ繊維を使用する場合、乾燥する必要がないため、乾燥設備が不要でコンパクトかつエネルギー、コスト、生産時間、環境影響に優れた処理方法である。
【0028】
オゾンは、残留性が無く直ぐに失活してしまうため、処理中は滅菌されているが、処理後のパルプ繊維は、浮遊菌等の付着により簡単に腐敗してしまうため、乾燥または抗菌剤添加が必要である。カチオン性抗菌剤は、パルプ繊維に吸着されるため、抗菌剤処理を経て得られたパルプ繊維は抗菌性を示し、湿潤状態で保管しても腐敗し難い特徴を有し、多大なエネルギーを要する乾燥処理を必要とせず、低環境負荷、低ランニングコストおよび設備のコンパクト化が実現可能である。また、カチオン性抗菌剤は、大部分がパルプ繊維に吸着されるため、排水中の残留濃度が低くなり、排水処理時の負荷が低い特徴がある。第四級アンモニウム塩は、衛生用品への使用が認められており、本発明の方法で製造されたリサイクルパルプは、衛生用品へ再度使用することが可能である。また、配合量によっては衛生用品に抗菌性を付与することが可能である。
【0029】
抗菌剤処理は、カチオン性抗菌剤を溶解した水溶液に、使用済み衛生用品またはパルプ繊維を浸漬することにより行うことができる。抗菌剤処理をオゾン処理工程と同時に行うときは、オゾン含有水溶液にカチオン性抗菌剤を添加すればよい。
カチオン性抗菌剤を溶解した水溶液中のカチオン性抗菌剤の濃度は、0.002質量%以上が好ましく、より好ましくは0.003質量%以上である。0.002質量%未満の場合、30℃で保管した際に30日未満でカビが発生する可能性がある。ただし、最適濃度は投入する使用済み衛生用品やパルプ繊維の量によって変化するため、処理後の処理液中に遊離している抗菌剤量が処理前の10%以上残る(パルプへの吸着量が90%以下)ようにパルプの吸着可能量より過剰になるように濃度設定する必要がある。対パルプ繊維量としては、0.5質量%以上であることが好ましい。カチオン性抗菌剤の濃度を高くすると、処理液中の殺菌性は高まるが、パルプ繊維が吸着可能な抗菌剤量に限界があり、過剰分は処理排水中に遊離残渣として残り、その濃度が高ければ排水処理に微生物処理を行う場合、微生物が死滅する等の影響が出る虞がある。よって、処理液濃度としては0.03質量%以下であり、対パルプ繊維量では10質量%以下であることが好ましい。ちなみに、対パルプ繊維量は次式により算出される。
対パルプ繊維量(%)=抗菌剤添加量/パルプ繊維処理量×100
式中、パルプ繊維処理量は乾燥基準である。
【0030】
オゾン処理工程の前に、使用済み衛生用品を、多価金属イオンを含む水溶液またはpHが2.5以下の酸性水溶液中で、使用済み衛生用品に物理的な力を作用させることによって、使用済み衛生用品をパルプ繊維とその他の素材に分解する分解工程(以下単に「分解工程」ともいう。)を設けてもよい。
この工程では、使用済み衛生用品に物理的な力を作用させることによって、使用済み衛生用品をパルプ繊維とその他の素材に分解する。
衛生用品は、通常、パルプ繊維、高吸水性ポリマー、不織布、プラスチックフィルム、ゴム等の各素材から構成されている。この分解工程では、使用済み衛生用品を上記各素材に分解する。分解の程度は、パルプ繊維の少なくとも一部が回収できる程度に分解されればよく、必ずしも完全でなくてもよく、部分的であってもよい。
ここで、使用済み衛生用品に物理的な力を作用させる方法としては、限定するものではないが、攪拌、叩き、突き、振動、引き裂き、切断、破砕等を例示することができる。なかでも、攪拌が好ましい。攪拌は、洗濯機のような攪拌機付きの処理槽内で行なうことができる。
【0031】
この分解工程は、多価金属イオンを含む水溶液またはpHが2.5以下の酸性水溶液中で行う。多価金属イオンを含む水溶液またはpHが2.5以下の酸性水溶液を用いることによって、使用済み衛生用品中の水を吸って膨潤した高吸水性ポリマーを脱水する。
高吸水性ポリマーは、親水性基(たとえば−COO
−)を有し、その親水性基に水分子が水素結合により結合することにより、大量の水を吸収することができるものであるが、水を吸収した高吸水性ポリマーを、カルシウムイオン等の多価金属イオンを含む水溶液中に入れると、親水性基(たとえば−COO
−)に多価金属イオンが結合し(たとえば−COO−Ca−OCO−)、親水性基と水分子の水素結合が切れ、水分子が放出され、高吸水性ポリマーが脱水される、また、水を吸収した高吸水性ポリマーを、pH2.5以下の酸性水溶液中に入れると、マイナスに帯電した親水性基(たとえば−COO
−)がプラスに帯電した水素イオン(H
+)によって中和される(たとえば−COOH)ため、親水性基のイオン反発力が弱まり、吸水力が低下し、高吸水性ポリマーが脱水される、と考えられている。
高吸水性ポリマーを脱水することによって、パルプ繊維と高吸水性ポリマーの分離が容易になる。使用済み衛生用品を、通常の水中で分解しようとすると、高吸水性ポリマーが吸水し膨潤して、槽内の固形分濃度が高まり、機械的な分解操作の処理効率が低下するが、多価金属イオンを含む水溶液またはpH2.5以下の酸性水溶液中で行うことによってそれを避けることができる。
【0032】
多価金属イオンとしては、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン等が使用できる。
アルカリ土類金属イオンとしては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムのイオンが挙げられる。好ましいアルカリ土類金属イオンを含む水溶液としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム等の水溶液が挙げられ、なかでも塩化カルシウム水溶液が好ましい。
【0033】
遷移金属イオンとしては、高吸水性ポリマーに取り込まれるものである限り、限定されないが、鉄、コバルト、ニッケル、銅等のイオンが挙げられる。遷移金属イオンを含む水溶液として、遷移金属の無機酸塩、有機酸塩、錯体等の水溶液が挙げられるが、費用や入手容易性等の点から、無機酸塩または有機酸塩の水溶液が好ましい。無機酸塩としては、たとえば、塩化鉄、硫酸鉄、燐酸鉄、硝酸鉄等の鉄塩、塩化コバルト、硫酸コバルト、燐酸コバルト、硝酸コバルト等のコバルト塩、塩化ニッケル、硫酸ニッケル等のニッケル塩、塩化銅、硫酸銅等の銅塩などが挙げられる。有機酸塩類としては、たとえば、乳酸鉄、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、酢酸ニッケル、酢酸銅等が挙げられる。
【0034】
多価金属イオンを含む水溶液を用いる場合は、安全性と価格を考慮し、カルシウム化合物の水溶液が好ましい。カルシウム化合物の中では、後工程で用いるオゾンがアルカリ側では分解してしまう特性があるため、強アルカリの水酸化カルシウムや酸化カルシウムよりも、できるだけ中性に近い弱アルカリ性である塩化カルシウムの水溶液が好ましい。多価金属イオンを含む水溶液のpHは、特に限定されないが、好ましくは11以下である。アルカリ性の化合物を用いる場合は、水溶液のpHは7よりも大きく11以下であることが好ましい。
【0035】
多価金属イオンの量は、高吸水性ポリマー1g(乾燥質量)あたり、好ましくは4ミリモル以上、より好ましくは4.5〜10ミリモル、さらに好ましくは5〜8ミリモルである。多価金属イオンの量が少なすぎると、高吸水性ポリマーの脱水が不十分となる。多価金属イオンの量が多すぎると、余分の多価金属イオンが高吸水性ポリマーに取り込まれないまま処理液中に残るので、多価金属塩の浪費につながり、処理費用を増加させる。
【0036】
多価金属イオンを含む水溶液中の多価金属イオンの濃度は、多価金属イオンが高吸水性ポリマーに取り込まれる濃度であれば特に限定されないが、好ましくは10〜1000ミリモル/リットル、より好ましくは50〜700ミリモル/リットル、さらに好ましくは200〜400ミリモル/リットルである。濃度が低すぎると、高吸水性ポリマーの脱水が不十分となる。濃度が高すぎると、余分の多価金属イオンが高吸水性ポリマーに取り込まれないまま処理液中に残るので、多価金属イオンの浪費につながり、処理費用を増加させる。
多価金属イオンを含む水溶液として塩化カルシウム水溶液を用いるときは、塩化カルシウムの濃度は、1質量%以上であることが好ましいが、10質量%以上に高くしても、効果が変わらなくなるため、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは3〜6質量%である。
【0037】
酸性水溶液を用いる場合、酸性水溶液のpHは2.5以下であり、好ましくは0.5〜2.5であり、より好ましくは1.0〜2.4である。pHが高すぎると、高吸水性ポリマーの脱水が不充分となるおそれがある。pHが低すぎると、強酸のために回収されるパルプ繊維が損傷するおそれがある。
【0038】
pHが2.5以下の酸性水溶液としては、pHが2.5以下である限り、無機酸、有機酸のいずれの水溶液を用いることができるが、どちらかといえば安全性の高い有機酸の水溶液が好ましい。有機酸としては、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、酢酸を挙げることができるが、なかでもクエン酸が好ましい。
【0039】
有機酸の水溶液を用いる場合、pHが2.5以下である限り、水溶液中の有機酸の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.1〜10.0質量%であり、より好ましくは0.5〜8.0質量%であり、さらに好ましくは1.0〜5.0質量%である。濃度が低すぎると、高吸水性ポリマーの脱水が不充分となるおそれがある。濃度が高すぎると、有機酸の浪費につながるおそれがある。
【0040】
分解工程で用いる水溶液の量は、使用済み衛生用品に物理的な力を作用させることができる量であれば、特に限定されないが、汚物を含む使用済み衛生用品1kgに対し、好ましくは3〜50kg、より好ましくは3〜10kgである。水溶液の量が少なすぎると、使用済み衛生用品を水溶液中で効果的に攪拌することができない。水溶液の量が多すぎると、多価金属イオンまたは酸の浪費につながり、処理費用を増加させる。
【0041】
分解工程で用いる水溶液の温度は、高吸水性ポリマーが脱水される温度であれば特に限定されないが、通常、0℃より高く、100℃より低い温度である。室温でも十分であるが、反応速度を速めるために加熱してもよい。加熱する場合は、室温〜60℃が好ましく、室温〜40℃がより好ましく、室温〜30℃がさらに好ましい。
【0042】
分解工程の時間は、使用済み衛生用品が分解されるのに十分な時間であれば特に限定されないが、好ましくは5〜60分であり、より好ましくは10〜50分であり、さらに好ましくは20〜40分である。
【0043】
オゾン処理工程の前に抗菌剤処理を行うときは、この分解工程で用いる水溶液にカチオン性抗菌剤を添加することにより、分解工程において抗菌剤処理を同時に行うことができる。すなわち、オゾン処理工程の前に抗菌剤処理を行うときは、分解工程で用いる水溶液がカチオン性抗菌剤を含有することが好ましい。処理開始時の一次抗菌剤としてカチオン性抗菌剤を用いて消毒することでアニオン性であるパルプ繊維に選択的に吸着し、パルプ繊維自体に抗菌性を付与することが可能である。また、pHが2.5以下の酸性水溶液にクエン酸を用いたときは、クエン酸と第四級アンモニウム塩の相性が良く、相乗効果により殺菌力が高まり、第四級アンモニウム塩単独では殺菌が難しいウィルス等に対しても除菌効果を発現可能となる。
【0044】
分解工程の後に、分解工程において生成したパルプ繊維とその他の素材の混合物からパルプ繊維を分離する工程(以下単に「分離工程」ともいう。)を設けてもよい。
分離工程では、使用済み衛生用品の分解によって生成したパルプ繊維とその他の素材(高吸水性ポリマー、不織布、プラスチックフィルム、ゴム等)の混合物からパルプ繊維を分離する。この工程では、パルプ繊維の少なくとも一部を分離回収する。パルプ繊維の全部が回収されなくてもよい。また、パルプ繊維と一緒にその他の素材が分離回収されてもよい。分離方法にもよるが、通常、高吸水性ポリマーの少なくとも一部は、分離されたパルプ繊維に混入してくる。たとえば、篩分けにより分離する方法において、パルプ繊維を篩下として回収する場合は、高吸水性ポリマーの大部分が分離回収されたパルプ繊維に混入してくる。この工程では、好ましくは、分解された構成素材を、パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含む画分と、不織布、プラスチックフィルムおよびゴムを含む画分に分離する。ただし、パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含む画分に若干の不織布、プラスチックフィルム、ゴムが含まれてもよいし、不織布、プラスチックフィルムおよびゴムを含む画分に若干のパルプ繊維、高吸水性ポリマーが含まれてもよい。
パルプ繊維を分離する方法は、限定するものではないが、たとえば、分解された構成素材の比重差を利用して水中で沈殿分離する方法、分解されたサイズの異なる構成素材を所定の網目を有するスクリーンを通して分離する方法、サイクロン式遠心分離機で分離する方法を例示することができる。
分離されたパルプ繊維には少なからず高吸水性ポリマーが混入している。分離工程の後のオゾン処理工程では、分離されたパルプ繊維に残留している高吸水性ポリマーを、分解し、低分子量化し、可溶化することにより、除去する。
【0045】
オゾン処理工程の後に、使用済み衛生用品を、消毒薬を含む水溶液または水の中で攪拌することにより、使用済み衛生用品を洗浄するとともに使用済み衛生用品を構成要素に分解する工程(以下単に「洗浄・分解工程」ともいう。)を設けてもよい。
【0046】
洗浄・分解工程において使用する水に、消毒薬は必ずしも含まれる必要はないが、消毒薬を含む水溶液を使用してもよい。消毒薬は、特に限定されず、二酸化塩素、酸性電解水、オゾン水等を例示することができる。
消毒薬を含む水溶液を使用する場合、消毒薬を含む水溶液中の消毒薬の濃度は、消毒の効果が発揮される限り、特に限定されないが、好ましくは10〜300質量ppmであり、より好ましくは30〜280質量ppmであり、さらに好ましくは50〜250質量ppmである。濃度が低すぎると、十分な消毒の効果が得られず、回収されたパルプ繊維に細菌等が残存する虞がある。逆に、濃度が高すぎると、消毒薬の浪費につながるばかりでなく、パルプ繊維を傷めたり、安全性の問題を生じたりする虞がある。
【0047】
洗浄・分解工程における攪拌は、衛生用品の残渣が洗浄され構成要素に分解される限り、特に限定されないが、たとえば洗濯機を用いて行うことができる。攪拌の条件も、衛生用品の残渣が洗浄され構成要素に分解される限り、特に限定されないが、たとえば、攪拌時間は、好ましくは5〜60分であり、より好ましくは10〜50分であり、さらに好ましくは20〜40分である。
【0048】
洗浄・分解工程では、高分子吸収材が取り除かれた衛生用品の残渣が洗浄されるとともに、衛生用品が構成要素にばらばらに分解される。前記のオゾン水浸漬工程において、衛生用品の接合等に使用されているホットメルト接着剤がオゾン水で酸化劣化し、衛生用品の構成要素間の接合強度が弱くなっているので、この洗浄・分解工程において、攪拌により簡単に衛生用品を構成要素に分解することができる。消毒薬を含む水溶液を使用した場合には、消毒薬による消毒も行われる。
【0049】
オゾン処理工程の後に抗菌剤処理を行うときは、洗浄・分解工程において使用する消毒薬を含む水溶液または水にカチオン性抗菌剤を添加することにより、洗浄・分解工程において抗菌剤処理を同時に行うことができる。すなわち、オゾン処理工程の後に抗菌剤処理を行うときは、洗浄・分解工程において使用する消毒薬を含む水溶液または水がカチオン性抗菌剤を含有することが好ましい。カチオン性抗菌剤はパルプ繊維に吸着し、パルプ繊維はアニオン性なので、パルプ繊維に吸着したカチオン性抗菌剤は、容易には脱着しないので、最終的に得られるリサイクルパルプにカチオン性抗菌剤が残存する。とはいえ、最終工程までの間に多くの工程を経たときは各工程においてカチオン性抗菌剤は少しずつ脱着し、最終的に得られるリサイクルパルプ中のカチオン性抗菌剤の含有量が減少する。したがって、リサイクルパルプ中のカチオン性抗菌剤の含有量の観点からは、抗菌剤処理はできるだけ最終工程に近い段階で実施することが好ましい。
【0050】
洗浄・分解工程の後に、分解された使用済み衛生用品の構成要素からパルプ繊維を分離する工程(以下単に「パルプ繊維分離工程」という。)を設けてもよい。
パルプ繊維を分離する方法は、限定するものではないが、たとえば、分解された構成素材の比重差を利用して水中で沈殿分離する方法、分解されたサイズの異なる構成素材を所定の網目を有するスクリーンを通して分離する方法、サイクロン式遠心分離機で分離する方法を例示することができる。
【0051】
パルプ繊維分離工程の後に、分離したパルプ繊維を洗浄する工程(以下「パルプ繊維洗浄工程」という。)を設けてもよい。
分離したパルプ繊維を洗浄する方法は、限定するものではないが、たとえば、分離したパルプ繊維をメッシュ袋に入れ、水ですすぎ洗いをすることにより行うことができる。
【0052】
パルプ繊維洗浄工程の後に、洗浄したパルプ繊維を脱水する工程(以下「パルプ繊維脱水工程」という。)を設けてもよいが、設けなくてもよい。
洗浄したパルプ繊維を脱水する方法は、限定するものではないが、たとえば、メッシュ袋に入った洗浄したパルプ繊維を、脱水機で脱水することにより行うことができる。
パルプ繊維洗浄工程とパルプ繊維脱水工程は、1回ずつでもよいが、交互に複数回繰り返してもよい。
【0053】
パルプ繊維脱水工程の後に、脱水したパルプ繊維を乾燥する工程(以下「パルプ繊維乾燥工程」という。)を設けてもよいが、設けなくてもよい。本発明の方法によって得られるパルプ繊維は湿潤状態においてもカビが発生しにくいので、乾燥せずに湿潤状態で保管することが可能なので、乾燥工程は必ずしも設ける必要はない。
【0054】
本発明の方法は、さらに、プラスチック素材を分離回収する工程(以下「プラスチック素材分離回収工程」という。)を含むことができる。ここで、プラスチック素材とは、不織布素材、フィルム素材、エラストマー素材等をいう。プラスチック素材分離回収工程は、前記の洗浄・分解工程の後、パルプ繊維分離工程と並列して行うことができる。プラスチック素材分離回収工程では、前記のパルプ繊維洗浄工程、パルプ繊維脱水工程およびパルプ繊維乾燥工程と同様の洗浄工程、脱水工程および乾燥工程を含むことができる。回収されたプラスチック素材は、たとえば、RPF化処理して、固形燃料として利用することができる。
【0055】
本発明の方法を用いて使用済み衛生用品からリサイクルパルプを製造する工程フローの代表例としては、次のものが挙げられる。ただし、本発明は以下の例に限定されない。
【0056】
[工程フロー例1]
(1)使用済み衛生用品を、カチオン性抗菌剤を含有する多価金属イオンを含む水溶液またはpHが2.5以下の酸性水溶液中で、使用済み衛生用品に物理的な力を作用させることによって、使用済み衛生用品をパルプ繊維とその他の素材に分解する分解工程
(2)パルプ繊維をオゾン含有水溶液に浸漬して、パルプ繊維に付着した高吸水性ポリマーを分解するオゾン処理工程
(3)パルプ繊維を洗浄し回収する工程
【0057】
[工程フロー例2]
(1)使用済み衛生用品を、多価金属イオンを含む水溶液またはpHが2.5以下の酸性水溶液中で、使用済み衛生用品に物理的な力を作用させることによって、使用済み衛生用品をパルプ繊維とその他の素材に分解する分解工程
(2)カチオン性抗菌剤を含有するオゾン含有水溶液にパルプ繊維を浸漬して、パルプ繊維に付着した高吸水性ポリマーを分解するオゾン処理工程
(3)パルプ繊維を洗浄し回収する工程
【0058】
[工程フロー例3]
(1)使用済み衛生用品を、カチオン性抗菌剤を含有するオゾン含有水溶液に浸漬して、使用済み衛生用品中の高吸水性ポリマーを分解するオゾン処理工程
(2)使用済み衛生用品を、消毒薬を含む水溶液または水の中で攪拌することにより、使用済み衛生用品を洗浄するとともに使用済み衛生用品を構成要素に分解する工程
(3)パルプ繊維を分離回収する工程
【0059】
[工程フロー例4]
(1)使用済み衛生用品を、オゾン含有水溶液に浸漬して、使用済み衛生用品中の高吸水性ポリマーを分解するオゾン処理工程
(2)使用済み衛生用品を、カチオン性抗菌剤を含有する消毒薬を含む水溶液または水の中で攪拌することにより、使用済み衛生用品を洗浄するとともに使用済み衛生用品を構成要素に分解する工程
(3)パルプ繊維を分離回収する工程
【0060】
上述の工程フロー例1をより詳細に示すと、次のとおりである。
(1)使用済み紙おむつを計量する(計量工程)。
(2)洗浄機に使用済みおむつと、クエン酸を1質量%および塩化ベンザルコニウムを0.003質量%含む水溶液(pH2.2)を投入し(一次殺菌および抗菌剤のパルプ繊維への吸着)、縦型洗濯機の要領で洗浄しながら攪拌衝撃でおむつを分解する(分解工程)。
(3)パルプ繊維および高吸水性ポリマーを含む画分と、不織布、プラスチックフィルムおよびゴムを含む画分に分離する(分離工程)。
(4)回収されたパルプ繊維および高吸水性ポリマーを脱水する(脱水工程)。
(5)脱水後のパルプ繊維および高吸水性ポリマーをpHが2.5以下の有機酸(たとえばクエン酸)水溶液に浸漬(カルシウム除去および酸性化)し、オゾンが失活し難い酸性でオゾン処理(高吸水性ポリマー溶解、二次殺菌、漂白および消臭)する(オゾン処理工程)。
(6)脱水、水洗浄、pH調整
(7)パルプ繊維回収
(8)脱水工程
(9)乾燥工程(三次消毒)
三次消毒は無くても抗菌性を有するパルプ繊維のため、湿潤状態で保管可能である。
【0061】
本発明の方法により得られるリサイクルパルプは、好ましくは灰分が0.65質量%以下である。また、pHが2.5以下のオゾン含有水溶液で処理することにより、未使用パルプ中に含まれる異物をも除去することができるので、未使用パルプの灰分よりも低い灰分のリサイクルパルプを得ることもできる。本発明の方法により得られるリサイクルパルプは、より好ましくは灰分が0.11質量%以下であり、さらに好ましくは灰分が0.05〜0.11質量である。
なお、灰分の測定方法は、次のとおりである。
【0062】
[灰分]
灰分とは、有機質が灰化されてあとに残った無機質または不燃性残留物の量をいう。灰分は、生理処理用品材料規格の「2.一般試験法」の「5.灰分試験法」に従って測定する。すなわち、灰分は、次のようにして測定する。
あらかじめ白金製、石英製または磁製のるつぼを500〜550℃で1時間強熱し、放冷後、その質量を精密に量る。試料2〜4gを採取し、るつぼに入れ、その質量を精密に量り、必要ならばるつぼのふたをとるか、またはずらし、初めは弱く加熱し、徐々に温度を上げて500〜550℃で4時間以上強熱して、炭化物が残らなくなるまで灰化する。放冷後、その質量を精密に量る。再び残留物を恒量になるまで灰化し、放冷後、その質量を精密に量り、灰分の量(%)とする。
【0063】
本発明の方法により得られるリサイクルパルプは、好ましくは2.0以上の抗菌活性値を有する。リサイクルパルプの抗菌活性値は、より好ましくは4.5以上であり、さらに好ましくは5.5以上である。抗菌活性値はJIS Z 2801に従って測定する。
【0064】
本発明の方法により得られるリサイクルパルプは、灰分が少なくかつ抗菌活性値が高いので、衛生用品に再利用可能なリサイクルパルプである。
【0065】
本発明の方法により得られたリサイクルパルプは、好ましくは、衛生用品を構成する吸収体、ティッシュおよび不織布の少なくとも1つに使用される。
【実施例】
【0066】
以下の実施例および比較例において、次のオゾン水発生装置、生理用食塩水を用いた。
[オゾン水発生装置]
製造元: 三菱電機株式会社
名称: オゾン発生装置
型番: OS−25V
オゾン水濃度可変範囲: 1〜80mg/m
3
オゾン水曝露槽容積: 30L
[生理用食塩水]
濃度0.9%の食塩水。
【0067】
実施例1
市販の紙おむつ(ユニ・チャーム株式会社製「ムーニー」(登録商標)Mサイズ)を、生理用食塩水3Lに10分間浸漬吸水させた後、クエン酸を1質量%および塩化ベンザルコニウムを0.003質量%溶解した水溶液(pH2.2)3Lに10分間浸漬し、紙おむつ中の高吸水性ポリマーが膨潤阻害され、パルプ繊維に塩化ベンザルコニウムが吸着した状態とした。紙おむつを取り出し、メッシュ袋(30cm四方、株式会社NBCメッシュテック製N−No.250HD)に入れ、2槽式小型洗濯機(アルミス社製「晴晴」AST−01)の脱水槽で5分間脱水することにより、パルプが保水している余剰水分が除去されるとともに、紙おむつが破壊され、吸収体部分が分離された状態とした後、1質量%クエン酸水溶液(pH2.2)20L中に入れて、80mg/m
3のオゾンガスを30分間吹き込み処理を行った。30分後の処理水の溶存オゾン量は30質量ppmで、pHは2.4であった。目開き2mm×2mmのメッシュにて、処理水を漉しとった結果、高吸水性ポリマーはなくなり、パルプとその他プラ素材等を回収することができた。この回収されたパルプを、メッシュ袋(30cm四方、株式会社NBCメッシュテック製N−No.250HD)に入れて15分間水道水で流水すすぎ後、脱水槽で5分間脱水し、リサイクルパルプを得た。
このリサイクルパルプの灰分を、生理処理用品材料規格の「2.一般試験法」の「5.灰分試験法」により分析した結果、0.12%にまで低減することができていた。なお、実施例および比較例に用いた市販の紙おむつにもともと含まれていたパルプ(以下「未使用パルプ」ともいう。)の灰分は0.18質量%であった。この処理により、未使用パルプがもともと含んでいた微小な残留異物までも除去することが可能で、未使用パルプよりも灰分の少ないリサイクルパルプを得ることができた。
得られたリサイクルパルプの抗菌性をJIS Z 2801に従って評価した結果、大腸菌NBRC3972抗菌活性値は6.08以上、黄色ブドウ球菌抗菌NBRC12732抗菌活性値は5.74以上であった(抗菌活性値2.0以上で抗菌効果があるとされる。)。また、上記脱水後のリサイクルパルプをタッパー容器(ナカヤ化学産業株式会社製「しっかりパックR」)に入れ30℃の恒温槽で30日間保管した結果、目視でのカビの発生は確認されなかった。
【0068】
実施例2
市販の紙おむつ(ユニ・チャーム株式会社製「ムーニー」(登録商標)Mサイズ)を、生理用食塩水3Lに10分間浸漬吸水させた後、クエン酸を1質量%およびで塩化セチルピリジニウムを0.003質量%溶解した水溶液(pH2.2)3Lに10分間浸漬し、紙おむつ中の高吸水性ポリマーが膨潤阻害され、パルプ繊維に塩化セチルピリジニウムが吸着した状態とした。紙おむつを取り出し、メッシュ袋(30cm四方、株式会社NBCメッシュテック社製N−No.250HD)に入れ、2槽式小型洗濯機(アルミス社製「晴晴」AST−01)の脱水槽で5分間脱水することにより、パルプが保水している余剰水分が除去されるとともに、紙おむつが破壊され、吸収体部分が分離された状態とした後、1質量%クエン酸水溶液(pH2.2)20L中に入れて、80mg/m
3のオゾンガスを30分間吹き込み処理を行った。30分後の処理水の溶存オゾン量は30質量ppmで、pHは2.4であった。目開き2mm×2mmのメッシュにて、処理水を漉しとった結果、高吸水性ポリマーはなくなり、パルプとその他プラ素材等を回収することができた。この回収されたパルプを、メッシュ袋(30cm四方、株式会社NBCメッシュテック製N−No.250HD)に入れて15分間水道水で流水すすぎ後、脱水槽で5分間脱水し、リサイクルパルプを得た。
このリサイクルパルプの灰分を、生理処理用品材料規格の「2.一般試験法」の「5.灰分試験法」により分析した結果、0.11%にまで低減することができていた。この処理により、未使用パルプもともと含んでいた微小な残留異物までも除去することが可能で、未使用パルプよりも灰分の少ないリサイクルパルプを得ることができた。
得られたパルプ繊維の抗菌性をJIS Z 2801に従って評価した結果、大腸菌NBRC3972抗菌活性値は6.08以上、黄色ブドウ球菌抗菌NBRC12732抗菌活性値は5.74以上であった。また、上記脱水後のリサイクルパルプをタッパー容器(ナカヤ化学産業株式会社製「しっかりパックR」)に入れ30℃の恒温槽で30日間保管した結果、目視でのカビの発生は確認されなかった。
【0069】
比較例1
市販の紙おむつ(ユニ・チャーム株式会社製「ムーニー」Mサイズ)に生理用食塩水200mLを吸水させた後、紙おむつを2槽式小型洗濯機(アルミス社製「晴晴」AST−01)の洗濯層に8個投入し、続けて酸化カルシウム(CaO)(和光純薬工業株式会社製)を80gを投入し、その後、濃度250質量ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製次亜塩素酸ナトリウムを水道水で希釈したもの)6.5Lを加えた。15分間洗濯後に洗濯槽内の液を排水し、濃度250質量ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製次亜塩素酸ナトリウムを水道水で希釈したもの)6.5Lを新たに投入した。15分間洗濯後、水洗濯層内の液中に浮遊するパルプのみをすくい取り、メッシュ袋(25cm四方、株式会社NBCメッシュテック製N−No.250HD)に入れ、脱水槽で5分間脱水した。回収したパルプはメッシュ袋ごと水道水で15分間すすぎ洗いを行い、再び脱水槽で5分間脱水した。回収したパルプは105℃の熱風乾燥機で24時間乾燥させた。
得られたリサイクルパルプの抗菌性をJIS Z 2801に従って評価した結果、大腸菌NBRC3972抗菌活性値は4.05、黄色ブドウ球菌抗菌NBRC12732抗菌活性値は3.02であった。また、上記脱水後のリサイクルパルプをタッパー容器(ナカヤ化学産業株式会社製「しっかりパックR」)に入れ30℃の恒温槽で30日間保管した結果、目視で3日後にカビの発生が確認され、30日後にはカビの大量発生が確認された。比較例1でも、安全性(衛生性)は担保可能であるが、湿潤状態で保管すると直ぐにカビが発生してしまうことが問題である。
【0070】
比較例2
市販の紙おむつ(ユニ・チャーム株式会社製「ムーニー」Mサイズ)を生理用食塩水3Lに10分間浸漬吸水させた後、濃度1質量%のクエン酸水溶液(pH2.2)3Lに10分間浸漬し、紙おむつ中の高吸水性ポリマーが膨潤阻害された状態とした。紙おむつを取り出し、メッシュ袋(30cm四方、株式会社NBCメッシュテック製N−No.250HD)に入れ、2槽式小型洗濯機(アルミス社製「晴晴」AST−01)の脱水槽で5分間脱水することにより、パルプが保水している余剰水分が除去されるとともに、紙おむつが破壊され、吸収体部分が分離された状態とした後、1質量%クエン酸水溶液(pH2.2)20L中に入れて、80mg/m
3のオゾンガスを30分間吹き込み処理を行った。30分後の処理水の溶存オゾン量は30質量ppmで、pHは2.4であった。目開き2mm×2mmのメッシュにて、処理水を漉しとった結果、高吸水性ポリマーはなくなり、パルプとその他プラ素材等を回収することができた。この回収されたパルプを、メッシュ袋(30cm四方、株式会社NBCメッシュテック製N−No.250HD)に入れて15分間水道水で流水すすぎ後、脱水槽で5分間脱水し、リサイクルパルプを得た。このリサイクルパルプの灰分を、生理処理用品材料規格の「2.一般試験法」の「5.灰分試験法」により分析した結果、0.13%にまで低減することができていた。得られたパルプ繊維の抗菌性をJIS Z 2801に従って評価した結果、大腸菌NBRC3972抗菌活性値は4.25、黄色ブドウ球菌抗菌NBRC12732抗菌活性値は3.74であった。また、上記脱水後のリサイクルパルプをタッパー容器(ナカヤ化学産業株式会社製「しっかりパックR」)に入れ30℃の恒温槽で30日間保管した結果、目視で7日後にカビの発生が確認され、30日後にはカビの大量発生が確認された。比較例2でも、安全性(衛生性)は担保可能であるが、湿潤状態で保管するとカビが発生してしまうことが問題である。