(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、コイル状スプリング構造を有するNiパイプを備えたコンタクトプローブにおいて、高温環境下でプロービングを繰り返した後の縮み量を低減する方法を検討した。その結果、Niパイプに0.5〜10重量%のP(リン)を含有させることによって、縮み量を低減できることを見出した。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づいて完成された。以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0016】
[コンタクトプローブの構成]
図1は、本発明の一実施形態によるコンタクトプローブ1の側面図である。コンタクトプローブ1は、Niパイプ11と、プランジャ12とを備えている。
【0017】
コンタクトプローブ1は、被検査物に設定される検査点と被検査物を検査する検査装置を電気的に接続する電気接続治具のコンタクトプローブとして好適に用いることができる。電気接続治具は、例えば、ICやLSIを抜き差し可能に収容して電気検査を実施するICソケットや、基板と基板検査装置を電気的に接続する基板検査用治具や、半導体ウェハと半導体検査装置を電気的に接続するプローブカードを例示することができる。
図9に、コンタクトプローブ1を備える電気接続治具の一例として、プローブカード100の構成例を示す。
図9はあくまでも例示であり、コンタクトプローブ1を備える電気接続治具はこれに限定されない。
【0018】
Niパイプ11は、例えば概略円筒形状で、その少なくとも一部にコイル状スプリング構造11aを有している。本実施形態は、これに限定されないが、Niパイプ11が外径32〜500μm、肉厚2〜50μm程度の極細・極薄のパイプである場合に、特に好適である。
【0019】
Niパイプ11は、例えば電解めっきによって形成される。Niパイプ11は、0.5〜10重量%のP(リン)を含有する。Niパイプ11の組成の詳細は後述する。
【0020】
プランジャ12は、導電体で形成され、例えば概略円柱形状を有している。プランジャ12の材質は例えば、白金、ロジウム若しくはそれらの合金、又はニッケルめっきの上に金めっきを施したタングステン若しくはベリリウム・銅合金である。
【0021】
図1に示す例では、プランジャ12の先端はテーパー形状である。しかし、プランジャ12の先端の形状は任意であり、例えば半円形状、平坦形状、王冠形状等、用途に応じて種々の形状にすることができる。
【0022】
Niパイプ11とプランジャ12とは、プランジャ12をNiパイプ11に挿通した状態で、例えば
図1の符号Aで示す部分で接続されている。接続方法は、例えばカシメ、溶接、接着である。
【0023】
この構成によれば、プランジャ12の先端に検体が接触してNiパイプ11方向に押されると、Niパイプ11のコイル状スプリング構造11aの部分が縮み、同部分の復元力によって、プランジャ12の先端と検体とが所定の圧力で接触する。これによって、コンタクトプローブ1と検体とを弾性的に接触させることができる。
【0024】
コンタクトプローブ1は、Niパイプ11の内周に金含有層をさらに備えていてもよい。
【0025】
[コンタクトプローブ1の製造方法]
コンタクトプローブ1は、上述のとおり、Niパイプ11とプランジャ12とを、プランジャ12をNiパイプ11の内部に挿通した状態で接続することで製造することができる。以下、
図2及び
図3A〜
図3Dを参照して、Niパイプ11の製造方法の一例を詳しく説明する。ただし、Niパイプ11の製造方法はこれに限定されない。
【0026】
図2は、Niパイプ11の製造方法の一例を示すフロー図である。この製造方法は、Ni電鋳層を形成する工程(ステップS1)と、Ni電鋳層をパターニングする工程(ステップS2)と、心材を除去する工程(ステップS3)とを備えている。
【0027】
まず、心材15を準備する(
図3Aを参照)。心材15は例えば、ステンレスやアルミニウム等の金属線である。心材15の外周に、電解めっきによってNi電鋳層10を形成する(
図3Bを参照)。Ni電鋳層10の厚さは特に限定されないが、例えば2〜50μmである。電解めっきの方法は特に限定されず、通常の方法を用いることができる。
【0028】
Ni電鋳層10は、0.5〜10重量%のPを含有する。Ni電鋳層10にPを含有させるには、例えば、めっき液にリン酸や亜リン酸等のリン化合物を配合すればよい。具体的な実施例としては、亜リン酸を用いることができ、亜リン酸の配合量は、例えば35.0g/L以下の配合量のものを用いることができる。
【0029】
Ni電鋳層10をパターニングして、コイル状スプリング構造11aを有するNiパイプ11を形成する(
図3Cを参照)。このパターニングは例えば、フォトリソグラフィー技術を用いて行うことができる。具体的には、まず、Ni電鋳層10(
図3B)の外周にレジスト層(不図示)を形成する。そして、心材15を回転させながらレーザーを露光し、レジスト層にらせん状の溝条を形成する。Ni電鋳層10の外周に残っているレジスト層をマスキング材としてNi電鋳層をエッチングする。これによって、コイル状スプリング構造11aが形成される。
【0030】
コイル状スプリング構造11aを形成した後、心材15を除去する(
図3Dを参照)。心材15の除去は例えば、心材15を一方又は両方から引っ張って心材15の断面積が小さくなるように変形させ、この状態で心材15を引き抜けばよい。
【0031】
以上の工程によって、コイル状スプリング構造11aを有し、0.5〜10重量%のPを含有するNiパイプ11を製造することができる。
【0032】
なお、Ni電鋳層10を形成する前に、心材15の外周にめっき等によって薄く金含有層(不図示)を形成しておくことが好ましい。金含有層の厚さは、例えば0.2〜1μmである。すなわち、心材15の外周に金含有層を形成し、金含有層の外周にNi電鋳層10を形成することが好ましい。金含有層を形成することによって、パターニング(ステップS2)する際、Ni電鋳層10の内周にエッチング液がまわりこむのを抑制することができる。また、心材15がステンレス製の場合、ステンレスと金含有層との密着性が悪いことによって、心材を除去(ステップS3)する際、心材15を引き抜くのが容易になる。
【0033】
心材15の外周に金含有層を形成する場合、心材15としてナイロン、ポリエチレン等の合成樹脂線を使用してもよい。この場合、無電解めっきによって金含有層を形成すればよい。また、心材15の除去(ステップS3)は、強アルカリ液等に浸漬することによって行うことができる。
【0034】
以上、Niパイプ11の製造方法の一例を説明した。この例では、電鋳によってNiパイプ11を製造する場合を説明した。しかし、Niパイプ11は、電鋳以外の方法によって製造されたものであってもよい。
【0035】
[コンタクトプローブ1の効果]
Niパイプ11は、0.5〜10重量%のP(リン)を含有する。0.5〜10重量%のPを含有させることで、高温環境下でプロービングした後のコンタクトプローブ1の縮みを抑制することができる。
【0036】
Niパイプ11のP含有量は、Niパイプ11の表面をエネルギー分散型X線分析(EDX)によって測定する。この測定方法は、Niパイプ11の所定のポイントを設定し、複数のポイントの平均により算出する。所定のポイントは、特に限定されるものではないが、例えば、Niパイプ11の長さ方向に等間隔で定めたポイントに設定することもできる。また、
図1で示される如く、コイル状スプリング構造11aと、このコイル状スプリング構造11aを挟んで形成されている二つの筒状部から1又はそれ以上のポイントを夫々設定することもできる。具体的には、Ni層が露出した状態で表面をEDX測定する。測定前に、対象物の表面をエタノール洗浄する。測定は例えば、SEMとEDXとを組み合わせた装置を使用することができる。電子ビームは、25kV、80μAとする。P含有量は、長さ方向(パイプ軸方向)に5ポイント測定し、その平均値として算出する。
【0037】
Niパイプ11のP含有量は、好ましくは1〜5重量%である。P含有量をこの範囲にすることによって、縮み量をさらに低減することができる。Niパイプ11のP含有量は、さらに好ましくは2〜4重量%である。
【0038】
Niパイプ11のP含有量を0.5〜10重量%にすれば、125℃以上の環境で使用可能なコンタクトプローブとすることができる。Niパイプ11のP含有量を1〜5重量%にすれば、150℃以上の環境で使用可能なコンタクトプローブとすることができる。Niパイプ11のP含有量を2〜4重量%にすれば、220℃以上の環境で使用可能なコンタクトプローブとすることができる。P含有量と使用可能温度との関係は、実施例の欄において詳述する。
【0039】
製造工程で混入する不純物等は、少ない方が好ましい。ただし、追加的な元素を添加してもよい。
【0040】
以上、本発明の一実施形態によるコンタクトプローブ1の構成、製造方法、及び効果について説明した。コンタクトプローブ1の構成によれば、高温環境下での縮み量を低減することができる。
【0041】
[コンタクトプローブ1の変形例]
図4は、コンタクトプローブ1の変形例によるコンタクトプローブ2の側面図である。コンタクトプローブ2は、コンタクトプローブ1のNiパイプ11(
図1)に代えて、Niパイプ13を備えている。Niパイプ13も、Niパイプ11と同様に、0.5〜10重量%のPを含有している。Niパイプ13は、2つのコイル状スプリング構造13aを有している点で、Niパイプ11と異なる。コイル状スプリング構造13aの数は、3つ以上であってもよい。
【0042】
コンタクトプローブ2によっても、コンタクトプローブ1と同様の効果が得られる。このように、Niパイプのコイル状スプリング構造の数や位置は任意である。また、Niパイプの全体がコイル状スプリング構造であってもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0044】
実施形態で説明した方法によって、コイル状スプリング構造を有する外径70μm、内径54μm、全長3850μmのNiパイプを製造した。より具体的にはまず、ステンレスの心材の外周に金含有層として金めっき層を形成した。金含有層の厚さは0.2μmとした。次に、金含有層の外周に電解めっきによってNi電鋳層を形成した。Ni電鋳層をフォトリソグラフィーによってパターニングした後、金含有層をNi電鋳層の内面に残したまま心材を引き抜いて、Niパイプとした。コイル状スプリング構造の部分はNiパイプの長さ方向中央に設けた。Niパイプの両端部分を円筒形状とした。コイル状スプリング構造の長さは2136μm、設計上の最大ストローク量は330μm、バネ巻き数は24、バネの帯幅は54μm、バネの厚みは8μmとした。
【0045】
めっき液の組成を変えて、P含有量の異なるNiパイプを製造した。具体的には、めっき液(スルファミン酸ニッケル浴)に配合する亜リン酸の量を適宜調整して、P含有量がそれぞれ1.5重量%、2重量%、3重量%、8重量%のNiパイプを製造した。また、比較例として、亜リン酸を配合しないめっき液を用いて製造したP含有量が検出限界未満(以下、「0重量%」と標記することがある。)(純Ni)のNiパイプを製造した。なお、NiパイプのP含有量の測定には、SEM(日立ハイテク製SU−1500)とEDX(アメテック製APEX2A10+60)とを組み合わせた装置を使用した。比較例のNiパイプは、P含有量がEDXによる検出限界未満であった。
【0046】
上記のNiパイプに、外径48μm、全長5800μmのプランジャを挿入した。プランジャの一方の端部は概略円錐形状とした。次に、プランジャの円錐形状の端部に近い側に位置するNiパイプの一方の円筒部分とプランジャとを抵抗溶接によって接続してコンタクトプローブを製造した。製造されたコンタクトプローブのバネ定数は、いずれも約0.125N/mmであった。
【0047】
製造したコンタクトプローブの高温環境下での耐久性を、次のように評価した。
【0048】
図5は、高温環境下での耐久性の評価試験に用いる治具(ハウジング)50の斜視図である。
図6は、試験中の状態を模式的に示す図である。
図7A及び
図7Bは、
図6のVII−VII線に沿った断面図である。
【0049】
図5に示すように、ハウジング50は、金属製で箱形の形状を有し、一つの面にコンタクトプローブ1を収容するための穴51が複数形成されている。
図7Aに示すように、コンタクトプローブ1をプランジャ12が開口側になるように穴51に収容する。このとき、プランジャ12の先端は穴51から突出する。
【0050】
穴51の開口部を下側にして、ハウジング50を所定の評価温度に設定したホットプレート60に乗せる。穴51から突出する長さは、Niパイプ11がほぼ最大ストローク量(すなわち、330μm)だけ縮むように設定されている。これによって、例えばハウジング50の上に所定の重さの重り(不図示)を乗せておくことで、
図7Bに示すように、コンタクトプローブ1を最大ストローク量だけ縮ませた状態で保持しておくことができる。
【0051】
この状態で20時間保持する。保持後、コンタクトプローブ1を常温環境で取り出し、無負荷水平状態でコンタクトプローブ1の全長を測定する。保持前のコンタクトプローブの全長との差を、その評価温度における「縮み量」と定義する。縮み量が小さいほど、高温での耐久性が高いことを意味する。
【0052】
各評価温度における縮み量は、30本のコンタクトプローブについて測定を行い、その平均値として求めた。本評価試験では、縮み量が50μm以下(0.05mm以下)となることを目標とし、縮み量が50μmを超えると、通電検査の検体の電極との接触荷重が下がり、電気的なコンタクトが不安定になる為、50μm以下であれば当該評価温度で使用可能と判断した。
【0053】
表1及び
図8に、評価温度と縮み量との関係を示す。なお、表1の空欄は、該当する測定を実施していないことを示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1及び
図8に示すように、NiパイプがPを含有するコンタクトプローブは、Pの含有量がEDXによる検出限界未満のコンタクトプローブと比較して、測定したすべての評価温度において縮み量が小さかった。Pを含有するコンタクトプローブは、評価温度125℃での縮み量を50μm以下にすることができた。
【0056】
Pを含有するコンタクトプローブとPの含有量がEDXによる検出限界未満のコンタクトプローブとの間の縮み量の差は、評価温度が高くなることでより顕著になった。すなわち、Pの含有量がEDXによる検出限界未満のコンタクトプローブでは、評価温度が高くなるにつれて縮み量が急激に増加した。これに対して、Pを含有するコンタクトプローブでは、評価温度の上昇に伴う縮み量の増加が穏やかであった。P含有量が1.5重量%のコンタクトプローブは、評価温度160℃でも、縮み量を50μm以下とすることができた。P含有量が2重量%及び3重量%のコンタクトプローブは、評価温度220℃でも、縮み量を50μm以下とすることができた。
【0057】
これらの結果より、Pを適量含有することで、コンタクトプローブの高温環境下での耐久性を向上できることを確認した。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。たとえば、コンタクトプローブの外形形状を角柱形状とすることができる。また、プランジャの形状を角柱、円錐、角錐などの形状にすることができる。
【解決手段】ステンレスの心材の外周に金含有の金めっき層を形成し、金めっき層の外周に電解めっきによってNi電鋳層を形成し、Ni電鋳層は、0.5〜10重量%のPを含有する。Ni電鋳層をフォトリソグラフィーによってパターニングした後、金含有層をNi電鋳層の内面に残したまま心材を引き抜いて、Niパイプ11とし、Niパイプ11は、コイル状スプリング構造11aを有する