【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。「重合度」は「粘度平均重合度」を意味する。
【0076】
[PVAの重合度およびけん化度]
PVAの重合度およびけん化度は、JIS−K6726に記載の方法により求めた。
【0077】
[酢酸ナトリウム含有量の測定]
PVAの酢酸ナトリウム含有量(ナトリウム換算)は、PVAを灰化した後に、ジャーレルアッシュ社製ICP発光分析装置「IRIS AP」を用いて、得られた灰分中のナトリウム量を測定することにより求めた。
【0078】
[PVAのGPC測定]
(試料の準備)
95℃にて1時間加熱してPVAを水に溶解させた後、室温に冷却して、PVAの2%水溶液を得た。ポリエチレンテレフタレートフィルム上(20cm×20cm)に得られた水溶液を流延し、20℃、65%RHの条件下で1週間乾燥させて、厚さ50μmのPVAフィルムを得た。得られたフィルムをステンレス製の金属型枠(20cm×20cmで幅1cmの金属枠)にクリップで固定し、ギアオーブンにて120℃3時間熱処理した。
【0079】
(測定装置)
VISCOTECH製「GPCmax」を用いてGPC測定を行った。示差屈折率検出器としてVISCOTECH製「TDA305」を用いた。紫外可視吸光光度検出器としてVISCOTECH製「UV Detector2600」を用いた。当該吸光光度検出器の検出用セルの光路長は10mmである。GPCカラムには昭和電工株式会社製「GPC HFIP−806M」を用いた。また、解析ソフトには、装置付属のOmniSEC(Version 4.7.0.406)を用いた。
【0080】
(測定条件)
上記方法で得られた熱処理後のPVAフィルムの中央付近から試料を採取した。当該試料をトリフルオロ酢酸ナトリウム20ミリモル/リットルを含有するHFIPに溶解し、PVAの1.00mg/ml溶液を調製した。当該溶液を0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、測定に用いた。
【0081】
移動相には、20mmol/lのトリフルオロ酢酸ナトリウムを含有するHFIPを用いた。移動相の流速は1.0ml/分とした。試料注入量は100μlとし、GPCカラム温度40℃にて測定した。
【0082】
なお、PVAの粘度平均重合度が2400を超える試料は、適宜希釈した試料(100μl)を用いてGPC測定を行った。実測値から下記式により、試料濃度が1.00mg/mlの場合における吸光度を算出した。α(mg/ml)は希釈された試料の濃度である。
試料濃度1.00mg/mlにおける吸光度=(1.00/α)×吸光度の測定値
【0083】
(検量線の作成)
標品として、Agilent Technologies製のPMMA(ピークトップ分子量:1944000、790000、467400、271400、144000、79250、35300、13300、7100、1960、1020、690)を測定し、示差屈折率検出器および吸光光度検出器のそれぞれについて、溶出容量をPMMA分子量に換算するための検量線を作成した。各検量線の作成には、前記解析ソフトを用いた。
なお、本測定においてはPMMAの測定において、1944000と271400の両分子量の標準試料同士のピークが分離できる状態のカラムを用いた。
【0084】
[ポリ酢酸ビニルの合成]
PVAc−1
撹拌機、温度計、窒素導入チューブ、還流管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに、あらかじめ脱酸素し、アセトアルデヒド(AA)を500ppm、アセトアルデヒドジメチルアセタール(DMA)を50ppm含有する酢酸ビニルモノマー(VAM)2555g;アセトアルデヒドジメチルアセタールを50ppm含有し、アセトアルデヒドの含有量が1ppm未満であるメタノール(MeOH)945g;酢酸ビニルモノマー中の酒石酸の含有量が20ppmとなる量の酒石酸1%メタノール溶液を仕込んだ。前記フラスコ内に窒素を吹き込みながら、フラスコ内の温度を60℃に調整した。なお、還流管には−10℃のエチレングリコール/水溶液を循環させた。ジn−プロピルパーオキシジカーボネートの0.55質量%メタノール溶液を調整し、18.6mLを前記フラスコ内に添加し重合を開始した。このときのジn−プロピルパーオキシジカーボネートの添加量は0.081gであった。ジn−プロピルパーオキシジカーボネートのメタノール溶液を20.9mL/時間の速度で重合終了まで逐次添加した。重合中、フラスコ内の温度を60℃に保った。重合開始から4時間後、重合液の固形分濃度が25.1%となった時点で、ソルビン酸を0.0141g(重合液中に未分解で残存するジn−プロピルパーオキシジカーボネートの3モル当量に相当する)含有するメタノールを1200g添加した後、重合液を冷却し重合を停止した。重合停止時の酢酸ビニルモノマーの重合率は35.0%であった。重合液を室温まで冷却した後、水流アスピレータを用いてフラスコ内を減圧することにより、酢酸ビニルモノマーおよびメタノールを留去し、ポリ酢酸ビニルを析出させた。析出したポリ酢酸ビニルにメタノールを3000g添加し、30℃で加温しつつポリ酢酸ビニルを溶解させた後、再び水流アスピレータを用いてフラスコ内を減圧することにより、酢酸ビニルモノマーおよびメタノールを留去してポリ酢酸ビニルを析出させた。ポリ酢酸ビニルをメタノールに溶解させた後、析出させる操作をさらに2回繰り返した。析出したポリ酢酸ビニルにメタノールを添加し、酢酸ビニルモノマーの除去率99.8%のポリ酢酸ビニル(PVAc−1)の40質量%のメタノール溶液を得た。
【0085】
得られたPVAc−1のメタノール溶液の一部を用いて重合度を測定した。PVAc−1のメタノール溶液に、ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が、0.1となるように水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液を添加した。ゲル化物が生成した時点でゲルを粉砕し、メタノールでソックスレー抽出を3日間行った。得られたポリビニルアルコールを乾燥し、粘度平均重合度測定に供した。PVAc−1の重合度は1700であった。
【0086】
PVAc−2〜PVAc−20
表1に記載した条件に変更したこと以外は、PVAc−1と同様の方法により、ポリ酢酸ビニル(PVAc−2〜PVAc−20)を得た。なお、表1中の「ND」は1ppm未満を意味する。得られた各ポリ酢酸ビニルの重合度をPVAc−1と同様にして求めた。その結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
実施例1
(PAVの合成)
PVA−1
PVAc−1の40質量%のメタノール溶液に対して、総固形分濃度(けん化濃度)が30質量%となるように、メタノールおよびポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.020となるように水酸化ナトリウムの8%メタノール溶液を撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した時点でゲルを粉砕し、粉砕後のゲルを40℃の容器に移し、けん化反応の開始から60分経過した時点で、メタノール/酢酸メチル/水(25/70/5質量比)の溶液に浸漬し、中和処理した。得られた膨潤ゲルを遠心分離し、膨潤ゲルの質量に対して、2倍の質量のメタノールを添加、浸漬し30分間放置した後、遠心分離する操作を4回繰り返し、60℃1時間、100℃で2時間乾燥してPVA−1を得た。
【0089】
得られたPVA−1の重合度は1700、けん化度は99.1モル%、酢酸ナトリウム含有量0.7%(ナトリウム換算で0.20質量%)であった。これらの物性データを表2にも示す。
【0090】
得られたPVA−1のゲルパーミエーション測定を行った。
図1は、分子量と示差屈折率検出器で測定された値との関係、および分子量と吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定された吸光度との関係を示したグラフである。このときの分子量は、溶出容量から検量線を用いて換算されたもの(PMMA換算分子量)である。
図1から求めた示差屈折率検出器で測定されたピークトップ分子量(A)は100,000であり、吸光光度検出器(280nm)で測定されたピークトップ分子量(B)は53,000であった。得られた値を下記式
(A−B)/A
に代入して得られた値は0.47であった。ピークトップ分子量(B)における吸光度は1.30×10
−3であった。これらの結果を表2にも示す。
【0091】
撹拌機、還流管、滴下漏斗、温度計および窒素導入チューブを備え付けた3Lセパラブルフラスコに、イオン交換水900質量部およびPVA−1を78質量部仕込み、95℃に昇温し、1時間溶解し冷却した。得られたPVA水溶液を窒素置換しながら、撹拌下60℃に昇温し、酒石酸の10質量%水溶液13.2質量部および5質量%過酸化水素水9質量部(酢酸ビニルモノマーに対し、モル比で0.015倍)を一括添加し、酢酸ビニルモノマー78質量部を添加し、初期乳化重合を開始し、30分後に初期乳化重合終了を確認した。
【0092】
初期乳化重合終了にサンプルの一部を採取し、約100倍に水で希釈した後、電気泳動光散乱光度計(大塚電子株式会社製;ELS−800)を用いて、初期のエマルジョン粒子径を測定した。これをモノマー(有機粒子)の水分散性の指標とした。
【0093】
初期乳化重合の後、酒石酸の10質量%水溶液2.7質量部および5質量%過酸化水素水9質量部を一括で追加添加し、酢酸ビニルモノマー702質量部を滴下漏斗から2時間かけて連続的に添加し、乳化重合を行った。
【0094】
添加終了後、得られたエマルジョンを室温まで冷却し、60メッシュのステンレス製金網を用い、ろ過して固形分濃度48.2質量%のエマルジョンを得た。ここで、60メッシュのろ過残分量を重合安定性の指標とした。
【0095】
得られたエマルジョンを20℃、65%RH下で、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、1週間乾燥させることで厚さ450μmのフィルムを得た。そのフィルムの一部を採取して、105℃で2時間乾燥することで、乾燥前後の質量変化からフィルムの固形分質量%(i)を測定した。これとは別に、上記450μmのフィルムからから、10cm×10cmの大きさに切り出し、質量(ii)を測定した。そして、下記式(3)に示ように、質量(ii)に固形分質量%(i)を乗じて、切り出したフィルムにおける固形分の質量(ii’)を求めた。切り出したフィルムを90℃温水に30分浸漬した後室温まで冷却し、遠心分離機(日立工機株式会社製;SCR−20B)にて20000回転で30分間遠心分離した。得られた固形物を回収し、105℃で2時間乾燥して当該固形分の質量(iii)を測定した。そして、下記式(4)により溶出率(%)を算出し、皮膜の耐水性の指標とした。
浸漬前のフィルム質量補正: (ii’)=(ii)×(i)/100 (3)
溶出率(%)={[(ii’)−(iii)]/(ii’)}×100 (4)
【0096】
[エマルジョンの評価]
得られたエマルジョンについて、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性を以下の指標に従って評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0097】
(有機粒子の水分散性)
A:300nm未満
B:300nm以上350nm未満
C:350nm以上400nm未満
D:400nm以上450nm未満
E:450nm以上
粒子径が小さいほど水分散性が優れていることを示す。上記基準で有機粒子の水分散性を評価したところ、評価は「A」であった。
【0098】
(重合安定性)
A:60メッシュろ過残分が見られなかった。
B:60メッシュろ過残分が僅かに見られた。
C:粗粒が見られ、60メッシュのろ過残分も多かった。
D:粗粒が多く、重合が十分に進行しなかった。
60メッシュろ過残分が少ないほど重合安定性に優れていることを示す。上記基準で重合安定性を評価したところ、評価は「A」であった。
【0099】
(皮膜の耐水性)
A:55%未満
B:55%以上60%未満
C:60%以上65%未満
D:65%以上70%未満
E:70%以上
溶出率(%)の値が小さいほど皮膜の耐水性が優れていることを示す。上記基準で皮膜の耐久性を評価したところ、評価は「A」であった。
【0100】
実施例2〜8、比較例1〜5
表2に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、各PVAを合成し、該PVAを乳化重合用分散剤として用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表2に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表2に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2には重合度1700の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られるエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例1〜8)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満である場合(比較例1および3)や、さらにピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)も上記式(1)を満たさない場合(比較例3)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例2および4)には、特に重合安定性が劣っていた。酢酸ナトリウムの含有量(ナトリウム換算)が0.5質量%を超える場合(比較例5)には、酢酸ビニルモノマーの重合が十分進行せず、得られたエマルジョンを用いて皮膜を作製することができなかった。
【0103】
実施例9、比較例6〜8
表3に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表3に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表3に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
表3には重合度300、および重合度150の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られるエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例9)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満である場合(比較例6)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例7)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。重合度が200未満である場合(比較例8)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0106】
実施例10、比較例9および比較例10
表4に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表4に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表4に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
表4には重合度500の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例10)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満である場合(比較例9)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例10)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0109】
実施例11、比較例11および比較例12
表5に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表5に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表5に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表5に示す。
【0110】
【表5】
【0111】
表5には重合度2400の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例11)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満であり、ピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)が上記式(1)を満たさない場合(比較例11)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例12)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0112】
実施例12、比較例13〜15
表6に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表6に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表6に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表6に示す。
【0113】
【表6】
【0114】
表6には重合度3600および重合度5500の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例12)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満であり、ピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)も上記式(1)を満たさない場合(比較例13)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例14)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。重合度が5000を超える場合(比較例15)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0115】
実施例13〜19、比較例16〜比較例19
表7に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表7に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表7に示す。そして、有機粒子の水分散性、皮膜の耐水性の評価の指標を以下に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてエマルジョンの評価を実施した。その結果を表7に示す。
【0116】
[エマルジョンの評価]
(有機粒子の水分散性)
A:200nm未満
B:200nm以上220nm未満
C:220nm以上240nm未満
D:240nm以上260nm未満
E:260nm以上
【0117】
(皮膜の耐水性)
A:45%未満
B:45%以上50%未満
C:50%以上55%未満
D:55%以上60%未満
E:60%以上
【0118】
【表7】
【0119】
表7には重合度1700の部分けん化PVA(けん化度約88モル%)の評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例13〜19)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満である場合(比較例16および18)や、さらにピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)も上記式(1)を満たさない場合(比較例18)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例17および19)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0120】
実施例20、比較例20および21
表8に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表8に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表8に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表8に示す。
【0121】
実施例21
PVAc−3のポリ酢酸ビニルの55質量%のメタノール溶液に対して、総固形分濃度(けん化濃度)が40質量%、ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.005となるように、メタノールおよび水酸化ナトリウムの8%メタノール溶液を撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。なお、この際の系容器内の水分率を1.2%となるよう蒸留水を添加してけん化反応を行った。水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してから1時間後、1%酢酸水を水酸化ナトリウムの0.8モル等量および多量の蒸留水を添加し、けん化反応を停止した。得られた溶液を乾燥機に移し、65℃で12時間乾燥した後、100℃で2時間乾燥してPVAを得た。得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてエマルジョンを作製した。
【0122】
得られたPVAの重合度は300、けん化度は60.2モル%、酢酸ナトリウム含有量1.3%であった。得られたPVAの物性データを表8に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表8に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表8に示す。
【0123】
比較例22
PVAc−3のポリ酢酸ビニルの55質量%のメタノール溶液に対して、総固形分濃度(けん化濃度)が40質量%、ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.005となるように、メタノールおよび水酸化ナトリウムの8%メタノール溶液を撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。なお、この際の系内の水分率を3.0%となるよう蒸留水を添加してけん化反応を行った。水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してから1時間後、1%酢酸水を水酸化ナトリウムの0.8モル等量および多量の蒸留水を添加し、けん化反応を停止した。得られた溶液を乾燥機に移し、65℃で12時間乾燥した後、100℃で2時間乾燥して比較PVAを得た。
【0124】
得られたPVAの重合度は300、けん化度は45.3モル%、酢酸ナトリウム含有量1.2%であった。なお、得られたPVAは水に対して不溶であったことから、GPC測定のためのフィルムが準備できず、GPC測定およびPVAの評価ができなかった。また、実施例1と同様の方法ではエマルジョンを作製することができず、エマルジョンの評価もできなかった。
【0125】
【表8】
【0126】
表8には重合度300の部分けん化PVAの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例20および21)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満である場合(比較例20)には、皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例21)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0127】
実施例22、比較例23および24
表9に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表9に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表9に示す。
【0128】
【表9】
【0129】
表9には重合度500の部分けん化PVA(けん化度約88モル%)、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例22)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満である場合(比較例23)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例24)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0130】
実施例23、比較例25および26
表10に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表10に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表10に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表10に示す。
【0131】
【表10】
【0132】
表10には重合度2400の部分けん化PVA(けん化度約88モル%)、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例23)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満であり、ピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)が上記式(1)を満たさない場合(比較例25)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例26)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0133】
実施例24、比較例27および28
表11に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表11に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表11に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表11に示す。
【0134】
【表11】
【0135】
表11に重合度3600の部分けん化PVA(けん化度約88モル%)、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例24)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10
−3未満であり、ピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)が上記式(1)を満たさない場合(比較例27)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10
−3を超える場合(比較例28)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0136】
実施例25
酢酸ビニルモノマーに代えて、ブタジエンモノマーを用いたこと以外は実施例1と同様にしてエマルジョンを得た。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様に評価したところ、有機粒子の水分散性、重合安定性、および皮膜の耐水性の全てについて評価は「A」であった。
【0137】
実施例26
撹拌機、還流管、滴下漏斗、温度計および窒素導入チューブを備え付けた3Lセパラブルフラスコに、イオン交換水900質量部およびPVA(株式会社クラレ製の「PVA205」)を78質量部仕込み、95℃に昇温し、1時間溶解し冷却した。得られたPVA水溶液を窒素置換しながら、撹拌下60℃に昇温し、酒石酸の10質量%水溶液13.2質量部および5質量%過酸化水素水9質量部(酢酸ビニルモノマーに対し、モル比で0.015倍)を一括添加し、酢酸ビニルモノマー78質量部を添加し、初期乳化重合を開始し、30分後に初期乳化重合終了を確認した。
【0138】
初期乳化重合の後、酒石酸の10質量%水溶液2.7質量部および5質量%過酸化水素水9質量部を一括で追加添加し、酢酸ビニルモノマー702質量部を滴下漏斗から2時間かけて連続的に添加し、乳化重合を行った。添加終了後、得られたエマルジョンにPVA−1の5%水溶液970質量部を添加し、続いて60メッシュのステンレス製金網を用いてろ過した。このようにして、PVA−1が添加されたエマルジョンを得た。PVA−1が添加されたエマルジョンについて、実施例1と同様に評価したところ、皮膜の耐水性は「B」であった。
【0139】
以上の結果から、特定のPVAを含有する本発明の乳化重合用分散剤は、有機粒子の水分散性および重合安定性において優れるうえに、性能のバランスにも優れていることが明らかである。また、該乳化重合用分散剤を用いた乳化重合によって得られる水性エマルジョンは、皮膜の耐水性に優れる。さらに、エチレン性不飽和単量体を乳化重合させて水性エマルジョンを得てから、当該水性エマルジョンに上記特定のPVAを添加しても、皮膜の耐水性に優れる水性エマルジョンを得ることができる。したがって、該水性エマルジョンは特に接着剤等に好適に用いられる。