特許第6221146号(P6221146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6221146-乳化重合用分散剤およびその用途 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221146
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】乳化重合用分散剤およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/30 20060101AFI20171023BHJP
   C08F 18/08 20060101ALI20171023BHJP
   C09J 157/00 20060101ALI20171023BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20171023BHJP
   C08F 16/06 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C08F2/30 Z
   C08F18/08
   C09J157/00
   C09J129/04
   C08F16/06
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-20678(P2014-20678)
(22)【出願日】2014年2月5日
(65)【公開番号】特開2015-147843(P2015-147843A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】森 容子
(72)【発明者】
【氏名】楠藤 健
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−104703(JP,A)
【文献】 特開2009−221461(JP,A)
【文献】 特開2004−210884(JP,A)
【文献】 特開2005−133077(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0015201(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 − 2/60
C08F 16/00 − 16/38
C08F 18/00 − 18/24
C09J 129/00 − 129/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
けん化度が50〜99.99モル%、粘度平均重合度が200〜5000、カルボン酸のアルカリ金属塩の含有量がアルカリ金属の質量換算で0.5質量%以下であるポリビニルアルコールを含有する乳化重合用分散剤であって、
120℃において3時間加熱された前記ポリビニルアルコールをゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定したときの、示差屈折率検出器で測定されるピークトップ分子量(A)と、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)が下記式(1)
(A−B)/A<0.75 (1)
を満たし、かつピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3〜3.00×10−3となることを特徴とする乳化重合用分散剤。
【請求項2】
前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定における、示差屈折率検出器によって求められる、前記ポリビニルアルコールの数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.2〜6.0となる請求項1に記載の乳化重合用分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分散剤の存在下でエチレン性不飽和単量体を乳化重合させてなる水性エマルジョン。
【請求項4】
けん化度が50〜99.99モル%、粘度平均重合度が200〜5000、カルボン酸のアルカリ金属塩の含有量がアルカリ金属の質量換算で0.5質量%以下であるポリビニルアルコールからなる分散剤、およびエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体からなる分散質を含有する水性エマルジョンであって、
120℃において3時間加熱された前記ポリビニルアルコールをゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定したときの、示差屈折率検出器で測定されるピークトップ分子量(A)と、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)が下記式(1)
(A−B)/A<0.75 (1)
を満たし、かつピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3〜3.00×10−3となる水性エマルジョン。
【請求項5】
前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定における、示差屈折率検出器によって求められる、前記ポリビニルアルコールの数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.2〜6.0となる請求項4に記載の水性エマルジョン。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の水性エマルジョンからなる接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のポリビニルアルコールを含有する乳化重合用分散剤に関する。また、本発明は上記特定のポリビニルアルコールを含有する水性エマルジョンに関する。さらに本発明は、上記水性エマルジョンからなる接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある)はエチレン性不飽和単量体、特に酢酸ビニルに代表されるビニルエステル単量体の乳化重合用分散剤として広く用いられている。PVAを含有する乳化重合用分散剤を用いて得られた水性エマルジョンは各種接着剤、バインダー、混和剤、塗料および繊維加工剤などの広範な用途で用いられている。
【0003】
このような水性エマルジョンは、上記の用途で重用されている一方で、従来より、乳化重合時の重合安定性や、水性エマルジョンから得られる皮膜の耐水性が問題となることがあった。このような問題を解決するため、種々の試みがなされている。例えば、エチレン性不飽和単量体の重合安定性の向上を目的に、乳化重合用分散剤として特定のヒドロキシアルキル基を側鎖に有する変性PVAを用いることが提案されている(特許文献1参照)。さらに、エマルジョンからなる皮膜の耐水性向上を目的に、乳化重合用分散剤としてカルボキシル基変性PVA(特許文献2参照)や、スルホン酸変性PVA(特許文献3参照)を用いることが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された乳化重合用分散剤を用いた場合は、いずれも重合安定性と皮膜の耐水性とを同時に満足するものではなかった。さらには、本発明者らの検討により、乳化重合用分散剤の効果として有機粒子の水分散性(エチレン性不飽和単量体の分散性)も重要であることが新たに見出されたが、特許文献1〜3にはこのような効果について何ら記載されておらず、有機粒子の水分散性および重合安定性に優れる乳化重合用分散剤、かつ該乳化重合用分散剤を用いて得られる皮膜の耐水性に優れるエマルジョンが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−325310号公報
【特許文献2】特開平09−241466号公報
【特許文献3】特開平10−060015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、有機粒子の水分散性および重合安定性に優れる乳化重合用分散剤を提供することを目的とする。また、本発明は、皮膜の耐水性に優れる水性エマルジョンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の要件を満足するPVAを含有する乳化重合用分散剤が、有機粒子の水分散性および重合安定性に優れており、かつ水性エマルジョンの皮膜の耐水性が優れることを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、けん化度が50〜99.99モル%、粘度平均重合度が200〜5000、カルボン酸のアルカリ金属塩の含有量がアルカリ金属の質量換算で0.5質量%以下であるポリビニルアルコールを含有する乳化重合用分散剤であって、
120℃において3時間加熱された前記ポリビニルアルコールをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記することがある)測定したときの、示差屈折率検出器で測定されるピークトップ分子量(A)と、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)が下記式(1)
(A−B)/A<0.75 (1)
を満たし、かつピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3〜3.00×10−3となる乳化重合用分散剤を提供することによって達成される。
【0009】
前記分散剤の存在下でエチレン性不飽和単量体を乳化重合させてなる水性エマルジョンが本発明の好適な実施態様である。
【0010】
また、本発明の目的は、けん化度が50〜99.99モル%、粘度平均重合度が200〜5000、カルボン酸のアルカリ金属塩の含有量がアルカリ金属の質量換算で0.5質量%以下であるポリビニルアルコールからなる分散剤、およびエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体からなる分散質を含有する水性エマルジョンであって、
120℃において3時間加熱された前記ポリビニルアルコールをGPC測定したときの、示差屈折率検出器で測定されるピークトップ分子量(A)と、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)が下記式(1)
(A−B)/A<0.75 (1)
を満たし、かつピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3〜3.00×10−3となる水性エマルジョンを提供することによっても達成される。
【0011】
ただし、前記GPC測定において、
移動相:20mmol/lトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール(以下、ヘキサフルオロイソプロパノールをHFIPと略記することがある。)
試料注入量:1.00mg/ml溶液100μl
カラム:昭和電工株式会社製「GPC HFIP−806M」
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
吸光光度検出器のセル長:10mm
である。
【0012】
前記GPC測定における、示差屈折率検出器によって求められる、前記PVAの数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.2〜6.0となることも好適である。
【0013】
前記水性エマルジョンからなる接着剤も本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の乳化重合用分散剤は、有機粒子の水分散性および重合安定性に優れる。また、本発明の水性エマルジョンは皮膜の耐水性に優れる。したがって、該水性エマルジョンは、各種接着剤、バインダー、混和剤、塗料および繊維加工剤等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1のPVAにおいて、分子量と示差屈折率検出器(RI)で測定された値との関係、および、分子量と吸光光度検出器(UV)(測定波長280nm)で測定された吸光度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[乳化重合用分散剤]
本発明の乳化重合用分散剤に含有されるPVAは、けん化度が50〜99.99モル%、粘度平均重合度が200〜5000、カルボン酸のアルカリ金属塩の含有量がアルカリ金属の質量換算で0.5質量%以下であるPVAであって、120℃において3時間加熱された前記PVAをGPC測定したときの、示差屈折率検出器で測定されるピークトップ分子量(A)と、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)が下記式(1)
(A−B)/A<0.75 (1)
を満たし、かつピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3〜3.00×10−3となるものである。
【0017】
ただし、前記GPC測定において、
移動相:20mmol/lトリフルオロ酢酸ナトリウム含有HFIP
試料注入量:1.00mg/ml溶液100μl
カラム:昭和電工株式会社製「GPC HFIP−806M」
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
吸光光度検出器のセル長:10mm
である。
【0018】
本発明におけるGPC測定では、示差屈折率検出器および吸光光度検出器を有し、これらの検出器による測定を同時に行うことのできるGPC装置を使用する。吸光光度検出器としては、波長280nmにおける吸光度を測定できるものである必要がある。吸光光度検出器の検出部のセルには、セル長(光路長)が10mmのものを使用する。吸光光度検出器は、特定波長の紫外光の吸収を測定するものでもよいし、特定範囲の波長の紫外光の吸収を分光測定するものでもよい。示差屈折率検出器によるシグナル強度は、概ねPVAの濃度(mg/ml)に比例する。一方、吸光光度検出器により検出されるPVAは、所定の波長に吸収を有するもののみである。前記GPC測定により、PVAの各分子量成分ごとの、濃度および所定の波長における吸光度を測定することができる。
【0019】
前記GPC測定において測定されるPVAの溶解に用いる溶媒および移動相として、20mmol/lのトリフルオロ酢酸ナトリウムを含有するHFIPを用いる。HFIPは、PVAおよびポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと略記する)を溶解させることができる。また、トリフルオロ酢酸ナトリウムを添加することにより、カラム充填剤へのPVAの吸着が防止される。前記GPC測定における流速は1ml/分、カラム温度は40℃とする。
【0020】
前記GPC測定において、標品として単分散のPMMAを用いる。分子量の異なる数種類の基準PMMAを測定し、GPC溶出容量と基準PMMAの分子量から検量線を作成する。本発明においては、示差屈折率検出器による測定には当該検出器を用いて作成した検量線を使用し、吸光光度検出器による測定には当該検出器を用いて作成した検量線を使用する。これらの検量線を用いてGPC溶出容量から分子量に換算し、ピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)を求める。
【0021】
前記GPC測定の前に、PVAを120℃において3時間加熱する。本発明においては、以下の方法でPVAを加熱する。PVA粉体を溶解させた水溶液を流延した後、20℃、65%RHにて乾燥させてPVAフィルムを得る。当該PVAフィルムの厚みは、30〜75μmであり、40〜60μmが好ましい。加熱乾燥後の試料の色相の差異を紫外吸収の差異に明確に反映させるために、熱風乾燥機を用いて当該フィルムを120℃において3時間加熱する。試料間の熱処理誤差を抑制する観点から、熱風乾燥機としてギアオーブンが好ましい。
【0022】
加熱されたPVAを前述した溶媒に溶解させて測定試料を得る。測定試料のPVAの濃度は1.00mg/mlとし、注入量は100μlとする。但し、PVAの粘度重合度が2400を超える場合、排除体積が増大するため、PVAの濃度が1.00mg/mlでは再現性良く測定できない場合がある。その場合には、適宜希釈した試料(注入量100μl)を用いる。吸光度はPVAの濃度に比例する。したがって、希釈した試料の濃度と実測された吸光度を用いて、PVA濃度が1.00mg/mlの場合の吸光度を求める。
【0023】
図1は、後述する本発明の実施例において、PVAをGPC測定して得られた、分子量と示差屈折率検出器で測定された値との関係、および、分子量と吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定された吸光度との関係を示したグラフである。図1を用いて本発明におけるGPC測定についてさらに説明する。図1において、RIは、溶出容量から換算したPVAの分子量(横軸)に対して、示差屈折率検出器で測定された値をプロットして得たクロマトグラムである。本発明において当該クロマトグラム中のピークの位置における分子量をピークトップ分子量(A)とする。なお、クロマトグラム中に複数のピークが存在する場合には、ピーク高さが最も高いピークの位置における分子量をピークトップ分子量(A)とする。
【0024】
図1において、UVは、溶出容量から換算したPVAの分子量(横軸)に対して、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定された吸光度をプロットして得たクロマトグラムである。本発明において当該クロマトグラム中のピークの位置における分子量をピークトップ分子量(B)とする。なお、クロマトグラム中に複数のピークが存在する場合には、ピーク高さが最も高いピークの位置における分子量をピークトップ分子量(B)とする。
【0025】
上記PVAは、上述した方法によりGPC測定されたときの、示差屈折率検出器で測定されるピークトップ分子量(A)と、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)が下記式(1)を満たす。
(A−B)/A<0.75 (1)
【0026】
ピークトップ分子量(A)は、PVAの分子量の指標となる値である。一方、ピークトップ分子量(B)は、PVA中に存在する、280nmに吸収を有する成分に由来する。通常、ピークトップ分子量(B)よりもピークトップ分子量(A)のほうが大きいため、(A−B)/Aは正の値になる。ピークトップ分子量(B)が大きくなれば、(A−B)/Aは小さくなり、ピークトップ分子量(B)が小さくなれば、(A−B)/Aは大きくなる。すなわち、(A−B)/Aが大きい場合には、PVA中の低分子量成分に280nm波長の紫外線を吸収する成分が多いことを意味する。
【0027】
(A−B)/Aが0.75以上の場合、上述の通り、低分子量成分に波長280nmの紫外線を吸収する成分が多くなる。この場合には、重合安定性と、有機粒子の水分散性を向上させる効果とのバランスが取れない。(A−B)/Aは、好ましくは0.70未満であり、より好ましくは0.65未満である。
【0028】
上記PVAは、上述した方法によりGPC測定されたときの、ピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3〜3.00×10−3となる必要がある。前記吸光度が0.25×10−3未満の場合には、有機粒子の水分散性を向上させる効果が低下する。また、該PVAを用いて得られる水性エマルジョンから得られる皮膜の耐水性が低下する。一方、前記吸光度が3.00×10−3を超える場合には、重合安定性が不十分となる。吸光度は0.50×10−3〜2.80×10−3が好ましく、0.75×10−3〜2.50×10−3がより好ましい。
【0029】
また、上記PVAは、前記GPC測定における、示差屈折率検出器によって求められる、前記ポリビニルアルコールの数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.2〜6.0であることが好ましい。MwおよびMnは、前述したPVAの分子量に対して、示差屈折率検出器で測定された値をプロットして得たクロマトグラムから求められる。本発明におけるMwおよびMnは、PMMA換算の値である。
【0030】
一般にMnは低分子量成分の影響を強く受ける平均分子量であり、Mwは、高分子量成分の影響を強く受ける平均分子量である。Mw/Mnは高分子の分子量分布の指標として一般的に用いられている。Mw/Mnが小さい場合は、低分子量成分の割合が小さい高分子であることを示し、Mw/Mnが大きい場合には、低分子量成分の割合が大きい高分子であることを示す。
【0031】
したがって、本発明において、Mw/Mnが2.2未満の場合、PVAにおいて、低分子量成分の割合が小さいことを示す。Mw/Mnが2.2未満の場合、有機粒子の水分散性を向上させる効果が低下する場合がある。Mw/Mnが2.3以上であることがより好ましい。一方、Mw/Mnが6.0を超える場合、PVAにおいて、低分子量成分の割合が大きいことを示す。Mw/Mnが6.0を超える場合、重合安定性が不十分になる場合がある。Mw/Mnが3.5以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。これらのことから、PVA中の低分子量成分が重合安定性や有機粒子の水分散性を向上させる効果に影響していると考えられる。
【0032】
上記PVAの粘度平均重合度はJIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAをけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](l/g)から次式により求めることができる。
P=([η]×10000/8.29)(1/0.62)
【0033】
上記PVAの粘度平均重合度は200〜5000である。粘度平均重合度が200未満の場合には、実用的な強度が得られない。したがって、本発明の乳化重合用分散剤を用いて得られる水性エマルジョンからなる皮膜の強度が不足する。一方、粘度重合度が5000を超える場合、発明の乳化重合用分散剤を用いて得られる水性エマルジョンの粘度が高くなるなりすぎるため、取り扱いが困難となる。粘度平均重合度は好ましくは250〜4500、より好ましくは300〜4000、更に好ましくは400〜3500である。
【0034】
上記PVAのけん化度はJIS−K6726に準じて測定される。上記PVAのけん化度は50〜99.99モル%である。けん化度が50モル%に満たない場合、PVAの水溶性が著しく低下する。一方、けん化度が99.99モル%を超える場合、PVAを安定に製造することができない。上記PVAのけん化度は好ましくは60〜99.8モル%であり、より好ましくは70〜99.7モル%であり、更に好ましくは80〜99.6モル%である。
【0035】
上記PVAは、カルボン酸のアルカリ金属塩を含有し、その含有量はアルカリ金属の質量換算で0.5質量%以下であり、好ましくは0.37質量%以下、より好ましくは0.28質量%以下、更に好ましくは0.23質量%以下である。カルボン酸のアルカリ金属塩の含有量が0.5質量%を超える場合、エチレン性不飽和単量体の重合安定性が不十分になる。
【0036】
本発明において、カルボン酸のアルカリ金属塩の含有量(アルカリ金属の質量換算)は、PVAを白金ルツボにて灰化したのち、得られた灰分をICP発光分析により測定して得たアルカリ金属イオン量から求めることができる。
【0037】
カルボン酸のアルカリ金属塩としては、後述するけん化工程で使用するアルカリ触媒、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラートなどをカルボン酸で中和して得られるもの、また、後述する重合工程で使用する酢酸ビニルなどの原料ビニルエステルモノマーの加アルコール分解を抑制する目的で添加されるカルボン酸が、けん化工程で中和されて得られるもの、ラジカル重合を停止させるために添加する禁止剤として共役二重結合を有するカルボン酸を用いた場合に、当該カルボン酸がけん化工程で中和されて得られるもの、あるいは意図的に添加されたものもなどが含まれる。具体例としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、グリセリン酸ナトリウム、グリセリン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、マロン酸ナトリウム、マロン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、マレイン酸ナトリウム、マレイン酸カリウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、グルタル酸ナトリウム、グルタル酸カリウム、アビエチン酸ナトリウム、アビエチン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸ナトリウム、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸カリウム、エレオステアリン酸ナトリウム、エレオステアリン酸カリウム、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸ナトリウム、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸カリウム、レチノイン酸ナトリウム、レチノイン酸カリウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
上記PVAの製造に用いられるビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
【0039】
また、上記PVAは、ビニルエステルモノマーを2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で重合させ、得られるポリビニルエステルをけん化することによって製造することもできる。この方法により、チオール化合物に由来する官能基が末端に導入されたPVAが得られる。
【0040】
ビニルエステルモノマーを重合する方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その方法の中でも、無溶媒で行う塊状重合法またはアルコールなどの溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。本発明の効果を高める点では、低級アルコールと共に重合する溶液重合法が好ましい。低級アルコールとしては、特に限定はされないが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなど炭素数3以下のアルコールが好ましく、通常、メタノールが用いられる。塊状重合法や溶液重合法で重合反応を行うにあたって、反応の方式は回分式および連続式のいずれの方式も用いることができる。重合反応に使用される開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの有機過酸化物系開始剤など本発明の効果を損なわない範囲で公知の開始剤が挙げられる。なかでも、60℃での半減期が10〜110分の有機過酸化物系開始剤が好ましく、特にパーオキシジカーボネートを用いることが好ましい。重合反応を行う際の重合温度については特に制限はないが、5℃〜200℃の範囲が適当である。
【0041】
ビニルエステル単量体をラジカル重合させる際には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、共重合可能な単量体を共重合させることができる。このような単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸またはその誘導体;アクリル酸またはその塩もしくはエステル;メタクリル酸またはその塩もしくはエステル;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン基を有する単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン等のシリル基を有する単量体などが挙げられる。これらのビニルエステル単量体と共重合可能な単量体の使用量は、その使用される目的および用途等によっても異なるが、通常、共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で20モル%以下、好ましくは10モル%以下である。
【0042】
上述の方法により得られたポリビニルエステルをアルコール溶媒中でけん化することによりPVAを得る。
【0043】
ポリビニルエステルのけん化反応の触媒としては通常アルカリ性物質が用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、およびナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。アルカリ性物質の使用量は、ポリビニルエステルのビニルエステル単量体単位を基準にしたモル比で0.002〜0.2の範囲内であることが好ましく、0.004〜0.1の範囲内であることが特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加しても良いし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加しても良い。
【0044】
けん化反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく用いられる。このとき、メタノールの含水率を好ましくは0.001〜1質量%、より好ましくは0.003〜0.9質量%、特に好ましくは0.005〜0.8質量%に調整する。
【0045】
けん化反応は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは20〜70℃の温度で行われる。けん化反応は、好ましくは5分間〜10時間、より好ましくは10分間〜5時間行う。けん化反応は、バッチ法および連続法のいずれの方式によっても行うことができる。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存する触媒を中和しても良い。使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、および酢酸メチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。
【0046】
けん化反応時に添加したアルカリ金属を含有するアルカリ性物質は、通常、けん化反応の進行により生じる酢酸メチルなどのエステルにより中和されるか、反応後添加された酢酸などのカルボン酸により中和される。このとき、酢酸ナトリウムなどのカルボン酸のアルカリ金属塩が生じる。上述のように、PVA中のカルボン酸のアルカリ金属塩の含有量は0.5質量%以下である必要がある。このようなPVAを得るために、けん化後、PVAを洗浄しても良い。
【0047】
この場合に用いる洗浄液として、メタノールなどの低級アルコール、当該低級アルコール100質量部と20質量部以下の水からなる溶液、当該低級アルコールとけん化工程において生成する酢酸メチルなどのエステルからなる溶液などが挙げられる。低級アルコールとエステルからなる溶液中のエステルの含有量は、特に制限はないが、低級アルコール100質量部に対して、1000質量部以下が好ましい。洗浄液の添加量としては、けん化により得られる、アルコールによってPVAが膨潤したゲル100質量部に対して、100質量部〜10000質量部が好ましく、150質量部〜5000質量部がより好ましく、200質量部〜1000質量部が更に好ましい。洗浄液の添加量が100質量部に満たない場合には、カルボン酸のアルカリ金属塩量が上記範囲を超えるおそれがある。一方、洗浄液の添加量が10000質量部を超える場合には、添加量を増やすことによる洗浄効果の改善が見込めない。洗浄の方法としては、特に限定はないが、例えば、槽内にゲル(PVA)と洗浄液を加え、5〜100℃で、5分〜180分程度、攪拌あるいは静置した後、脱液する工程を、カルボン酸のアルカリ金属塩の含有量が所定の範囲になるまで繰り返すバッチ方式が挙げられる。また、おおよそバッチ方式と同温度、同時間で、塔頂からPVAを連続的に添加するとともに、塔底より低級アルコールを連続的に添加し、両者を接触交流させる連続方式などが挙げられる。
【0048】
上記PVAを調製するに際して、ピークトップ分子量(A)、ピークトップ分子量(B)、ピークトップ分子量(B)における吸光度が上述した条件を満たすように調整する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0049】
A)原料ビニルエステルモノマーに含まれるラジカル重合禁止剤を予め取り除いたビニルエステルモノマーを重合に用いる。
【0050】
B)原料ビニルエステルモノマー中に含まれる不純物の合計含有量が、好ましくは1〜1200ppm、より好ましくは3〜1100ppm、さらに好ましくは5〜1000ppmであるビニルエステルモノマーをラジカル重合に用いる。不純物としては、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレインなどのアルデヒド;同アルデヒドが溶媒のアルコールによりアセタール化したアセトアルデヒドジメチルアセタール、クロトンアルデヒドジメチルアセタール、アクロレインジメチルアセタールなどのアセタール;アセトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステルなどが挙げられる。
【0051】
C)アルコール溶媒中にて原料ビニルエステルモノマーをラジカル重合し、未反応モノマーを回収再利用する一連の工程にて、アルコールや微量の水分によるモノマーの加アルコール分解や加水分解を抑制するために、有機酸、具体的にはグリコール酸、グリセリン酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸;マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、シュウ酸、グルタル酸などの多価カルボン酸などを添加し、分解により生じるアセトアルデヒドなどのアルデヒドの生成を極力抑制する。有機酸の添加量としては、原料ビニルエステルモノマーに対して、好ましくは1〜500ppm、より好ましくは3〜300ppm、さらに好ましくは5〜100ppmである。
【0052】
D)重合に用いる溶媒として、不純物の合計含有量が、好ましくは1〜1200ppm、より好ましくは3〜1100ppm、さらに好ましくは5〜1000ppmであるものを用いる。溶媒中に含まれる不純物としては、原料ビニルエステルモノマー中に含まれる不純物として上述したものが挙げられる。
【0053】
E)ビニルエステルモノマーをラジカル重合する際に、ビニルエステルモノマーに対する溶媒の比を高める。
【0054】
F)ビニルエステルモノマーをラジカル重合する際に使用するラジカル重合開始剤として、有機過酸化物を用いる。有機過酸化物としては、アセチルパーオキシド、イソブチルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート、ジn−プロピルパーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(メトキシイソプロピル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどが挙げられ、特に、60℃での半減期が10〜110分のパーオキシジカーボネートを用いることが好ましい。
【0055】
G)ビニルエステルモノマーのラジカル重合後に、重合を抑制するために禁止剤を添加する場合、残存する未分解のラジカル重合開始剤に対して5モル当量以下の禁止剤を添加する。禁止剤の種類としては、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物であって、ラジカルを安定化させて重合反応を阻害する化合物が挙げられる。具体的には、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−メトキシ−1,3−ブタジエン、2−メトキシ−1,3−ブタジエン、1−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−ニトロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素−炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素−炭素二重結合3個の共役構造よりなる共役トリエン;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素−炭素二重結合4個以上の共役構造よりなる共役ポリエンなどのポリエンが挙げられる。なお、1,3−ペンタジエン、ミルセン、ファルネセンのように、複数の立体異性体を有するものについては、そのいずれを用いても良い。さらに、p−ベンゾキノン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2−フェニル−1−プロペン、2−フェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、3,5−ジフェニル−5−メチル−2−ヘプテン、2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,5,7−トリフェニル−5−エチル−7−メチル−2−ノネン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテン、3,5−ジフェニル−5−メチル−3−ヘプテン、1,3,5−トリフェニル−1−ヘキセン、2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−2−ヘプテン、3,5,7−トリフェニル−5−エチル−7−メチル−3−ノネン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン等の芳香族系化合物が挙げられる。
【0056】
H)残存するビニルエステルモノマーが極力除去されたポリビニルエステルのアルコール溶液をけん化反応に用いる。好ましくは残存モノマーの除去率99%以上、より好ましくは99.5%以上、更に好ましくは99.8%以上のものを用いる。
【0057】
A)〜H)を適宜組み合わせることで所望のPVAが得られる。こうして得られるPVAは、加熱による着色が少なく、かつ有機粒子や無機粒子の水分散性を向上させる効果に優れる。
【0058】
本発明の乳化重合用分散剤は、エチレン性不飽和単量体、中でも、オレフィン系単量体、ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリルアミド系単量体、スチレン系単量体、ジエン系単量体およびハロゲン系ビニル単量体より選ばれた少なくとも1種の単量体の乳化重合用分散剤として使用できる。また、本発明の乳化重合用分散剤は、水性エマルジョンの分散剤としても使用できる。
【0059】
[水性エマルジョン]
本発明の水性エマルジョンは、上記PVAを含有する分散剤とエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体からなる分散質とを含有する水性エマルジョンである。ここで、エチレン性不飽和単量体の重合体は2種以上の単量体からなる共重合体であってもよい。
【0060】
本発明の水性エマルジョンを得る方法としては、例えば、方法(1)上記PVAを含有する分散剤の存在下でエチレン性不飽和単量体を乳化重合させる方法を挙げることができる。このようにして得られた水性エマルジョンは皮膜の耐水性に優れる。
【0061】
上記エチレン性不飽和単量体としては、
エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン;
塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオリド等のハロゲン化オレフィン;
ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル;
アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル;
アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩等のアクリルアミド系単量体;
スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびこれらのナトリウム塩、カリウム塩等のスチレン系単量体;
ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系単量体;
その他、N−ビニルピロリドン等が挙げられ、これらは単独又は二種以上混合して重合に用いられる。上記エチレン性不飽和単量体の中でも、ビニルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、スチレンおよびジエン系単量体が好ましい。乳化重合に際しては、上記ビニルエステルを単独で使用すること、エチレンとビニルエステルとを併用すること、ビニルエステルと(メタ)アクリル酸エステルとを併用することが好ましい。ビニルエステルと他の単量体とを併用する場合、ビニルエステルが51質量%以上であることが好ましい。
【0062】
上記方法(1)において、重合系内へ上記乳化重合用分散剤を仕込む場合、その仕込み方や添加方法については特に制限はない。重合系内に乳化重合用分散剤を初期一括で添加する方法や、重合中に連続的に添加する方法を挙げることができる。なかでも、PVAのエマルジョン分散質へのグラフト率を高める観点から、重合系内に乳化重合用分散剤分散剤を初期一括で添加する方法が好ましい。
【0063】
乳化重合時における、上記乳化重合用分散剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、好ましくは0.2〜40質量部、より好ましくは0.3〜20質量部、更に好ましくは0.5〜15質量部である。本発明の乳化重合用分散剤の使用量が、0.2質量部未満の場合には、水性エマルジョンの分散質粒子の凝集が生じたり、重合安定性が低下する場合がある。また、本発明の乳化重合用分散剤の使用量が、40質量部を超える場合には、重合系の粘度が高くなりすぎることがあり、均一に重合を進行することができなかったり、重合熱の除熱が不十分であったりする場合がある。
【0064】
上記乳化重合用分散剤を用いた乳化重合において、重合開始剤としては、乳化重合に通常用いられる水溶性の単独開始剤あるいは水溶性のレドックス系開始剤が適用される。例えば、単独開始剤としては、過酸化水素、過硫酸塩(カリウム、ナトリウムまたはアンモニウム塩)などが挙げられる。レドックス系開始剤としては、過酸化物と金属イオンを組み合わせたものや、過酸化物、金属イオン、還元性物質を組み合わせたものが挙げられる。上記過酸化物としては、過酸化水素、クメンヒドロキシパーオキサイド、t−ブチルヒドロキシパーオキサイドなどのヒドロキシパーオキサイド、過硫酸塩(カリウム、ナトリウムまたはアンモニウム塩)、過酢酸t−ブチル、過酸エステル(過安息香酸t−ブチル)が挙げられる。上記金属イオンとしては、Fe2+、Cr2+、V2+、Co2+、Ti3+、Cuなどの1電子移動を受けることのできる金属イオンが挙げられる。上記還元性物質としては、ロンガリット、1−エチル−アスコルビン酸が挙げられる。
【0065】
上記乳化重合における分散媒は、水を主成分とする水性媒体であることが好ましい。水を主成分とする水性媒体には、水と任意の割合で可溶な水溶性の有機溶媒(アルコール類、ケトン類など)を含んでいても構わない。ここで、「水を主成分とする水性媒体」とは水を50質量%以上含有する分散媒のことである。コストおよび環境負荷の観点から、分散媒は水を90質量%以上含有する水性媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。
【0066】
乳化重合に際して、本発明の効果を損なわない範囲で他の保護コロイド、例えば、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸およびその塩;ポリビニルアルキルエーテル;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸または無水マレイン酸との共重合物およびそのけん化物;低級アルキルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシメチル澱粉、酸化澱粉などの澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコールなどを重合時もしくは重合後に添加して、エマルジョンに望まれる特性を付与することも有効である。この他、乳化重合の際に従来用いられている液性調節剤、1価または多価のアルコール類、可塑剤、消泡剤などの助剤を重合時または重合後に併用することは、本発明の効果を損なわない範囲で何ら差し支えない。
【0067】
乳化重合に際して、本発明の効果を損なわない範囲で界面活性剤と併用することができる。界面活性剤としては、従来公知の陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤などが挙げられ、これらを1種または2種以上組み合わせ用いてもよい。界面活性剤を併用する場合の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、本発明の乳化重合用分散剤100質量部に対して、10000質量部以下、好ましくは2000質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。10000質量部を超える場合には、本発明の特徴(適度なラジカル反応性)が阻害される場合がある。
【0068】
本発明の水性エマルジョンを得る方法としては、方法(2)エチレン性不飽和単量体を乳化重合させて水性エマルジョンを得てから、当該水性エマルジョンに上記PVAを含有する分散剤を添加する方法を挙げることもできる。このように、水性エマルジョンに上記PVAを含有する分散剤を添加して得られた本発明の水性エマルジョンは、皮膜の耐水性に優れる。また、水性エマルジョンに上記PVAを含有する分散剤を添加することで、水性エマルジョンの安定性や増粘性をより向上させることができる。
【0069】
水性エマルジョンに上記PVAを含有する分散剤を添加する方法としては、当該分散剤を水などの溶媒に溶解させた水溶液を水性エマルジョンに添加する方法を挙げることができる。このとき、水性エマルジョンを室温で撹拌しながら上記水溶液を添加する。また、上記PVAを含有する分散剤をそのまま添加する方法を挙げることもできる。上記PVAを含有する分散剤が粉末の場合、水性エマルジョンを撹拌しながら粉末を添加し、50〜85℃に加温する。上記分散剤の添加量は、エチレン性不飽和単量体を乳化重合させてなる水性エマルジョンの固形分に対して、通常、1〜40質量%であり、好ましくは2〜30質量%である。
【0070】
上記方法(2)における乳化重合に際して、エチレン性不飽和単量体は上記で説明したものを用いることができる。エチレン性不飽和単量体を乳化重合させる際に用いる分散媒も上記で説明したものを用いることができる。エチレン性不飽和単量体を乳化重合するに際して、上記PVAを含有する乳化重合用分散剤を用いても構わないし、従来公知のPVAを含有する乳化重合用分散剤を用いても構わない。
【0071】
上記方法(1)及び(2)で得られる本発明の水性エマルジョンの固形分含有量は特に限定されず、通常、30〜60質量%である。
【0072】
本発明の乳化重合用分散剤は、有機粒子の水分散性および重合安定性に優れる。したがって、該乳化重合用分散剤を用いた乳化重合によって得られる水性エマルジョンは、従来公知のPVAを分散剤に用いた乳化重合によって得られる水性エマルジョンと比較して、PVAのエマルジョン分散質へのグラフト率が高くなるため、水性エマルジョンから得られる皮膜の耐水性に優れる。
【0073】
エチレン性不飽和単量体を乳化重合させて水性エマルジョンを得てから、当該水性エマルジョンに上記PVAを添加しても、皮膜の耐水性に優れる水性エマルジョンを得ることができる。
【0074】
本発明の水性エマルジョンは、この特徴を生かして、種々の用途、例えば、フラッシュパネル、集成材、ツキ板、合板加工用、合板二次加工用(練り合わせ)、一般木工、紙管、製袋などの接着剤;含浸紙製品用バインダー;モルタル等の混和剤;塗料;繊維加工剤などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。「重合度」は「粘度平均重合度」を意味する。
【0076】
[PVAの重合度およびけん化度]
PVAの重合度およびけん化度は、JIS−K6726に記載の方法により求めた。
【0077】
[酢酸ナトリウム含有量の測定]
PVAの酢酸ナトリウム含有量(ナトリウム換算)は、PVAを灰化した後に、ジャーレルアッシュ社製ICP発光分析装置「IRIS AP」を用いて、得られた灰分中のナトリウム量を測定することにより求めた。
【0078】
[PVAのGPC測定]
(試料の準備)
95℃にて1時間加熱してPVAを水に溶解させた後、室温に冷却して、PVAの2%水溶液を得た。ポリエチレンテレフタレートフィルム上(20cm×20cm)に得られた水溶液を流延し、20℃、65%RHの条件下で1週間乾燥させて、厚さ50μmのPVAフィルムを得た。得られたフィルムをステンレス製の金属型枠(20cm×20cmで幅1cmの金属枠)にクリップで固定し、ギアオーブンにて120℃3時間熱処理した。
【0079】
(測定装置)
VISCOTECH製「GPCmax」を用いてGPC測定を行った。示差屈折率検出器としてVISCOTECH製「TDA305」を用いた。紫外可視吸光光度検出器としてVISCOTECH製「UV Detector2600」を用いた。当該吸光光度検出器の検出用セルの光路長は10mmである。GPCカラムには昭和電工株式会社製「GPC HFIP−806M」を用いた。また、解析ソフトには、装置付属のOmniSEC(Version 4.7.0.406)を用いた。
【0080】
(測定条件)
上記方法で得られた熱処理後のPVAフィルムの中央付近から試料を採取した。当該試料をトリフルオロ酢酸ナトリウム20ミリモル/リットルを含有するHFIPに溶解し、PVAの1.00mg/ml溶液を調製した。当該溶液を0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、測定に用いた。
【0081】
移動相には、20mmol/lのトリフルオロ酢酸ナトリウムを含有するHFIPを用いた。移動相の流速は1.0ml/分とした。試料注入量は100μlとし、GPCカラム温度40℃にて測定した。
【0082】
なお、PVAの粘度平均重合度が2400を超える試料は、適宜希釈した試料(100μl)を用いてGPC測定を行った。実測値から下記式により、試料濃度が1.00mg/mlの場合における吸光度を算出した。α(mg/ml)は希釈された試料の濃度である。

試料濃度1.00mg/mlにおける吸光度=(1.00/α)×吸光度の測定値
【0083】
(検量線の作成)
標品として、Agilent Technologies製のPMMA(ピークトップ分子量:1944000、790000、467400、271400、144000、79250、35300、13300、7100、1960、1020、690)を測定し、示差屈折率検出器および吸光光度検出器のそれぞれについて、溶出容量をPMMA分子量に換算するための検量線を作成した。各検量線の作成には、前記解析ソフトを用いた。
なお、本測定においてはPMMAの測定において、1944000と271400の両分子量の標準試料同士のピークが分離できる状態のカラムを用いた。
【0084】
[ポリ酢酸ビニルの合成]
PVAc−1
撹拌機、温度計、窒素導入チューブ、還流管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに、あらかじめ脱酸素し、アセトアルデヒド(AA)を500ppm、アセトアルデヒドジメチルアセタール(DMA)を50ppm含有する酢酸ビニルモノマー(VAM)2555g;アセトアルデヒドジメチルアセタールを50ppm含有し、アセトアルデヒドの含有量が1ppm未満であるメタノール(MeOH)945g;酢酸ビニルモノマー中の酒石酸の含有量が20ppmとなる量の酒石酸1%メタノール溶液を仕込んだ。前記フラスコ内に窒素を吹き込みながら、フラスコ内の温度を60℃に調整した。なお、還流管には−10℃のエチレングリコール/水溶液を循環させた。ジn−プロピルパーオキシジカーボネートの0.55質量%メタノール溶液を調整し、18.6mLを前記フラスコ内に添加し重合を開始した。このときのジn−プロピルパーオキシジカーボネートの添加量は0.081gであった。ジn−プロピルパーオキシジカーボネートのメタノール溶液を20.9mL/時間の速度で重合終了まで逐次添加した。重合中、フラスコ内の温度を60℃に保った。重合開始から4時間後、重合液の固形分濃度が25.1%となった時点で、ソルビン酸を0.0141g(重合液中に未分解で残存するジn−プロピルパーオキシジカーボネートの3モル当量に相当する)含有するメタノールを1200g添加した後、重合液を冷却し重合を停止した。重合停止時の酢酸ビニルモノマーの重合率は35.0%であった。重合液を室温まで冷却した後、水流アスピレータを用いてフラスコ内を減圧することにより、酢酸ビニルモノマーおよびメタノールを留去し、ポリ酢酸ビニルを析出させた。析出したポリ酢酸ビニルにメタノールを3000g添加し、30℃で加温しつつポリ酢酸ビニルを溶解させた後、再び水流アスピレータを用いてフラスコ内を減圧することにより、酢酸ビニルモノマーおよびメタノールを留去してポリ酢酸ビニルを析出させた。ポリ酢酸ビニルをメタノールに溶解させた後、析出させる操作をさらに2回繰り返した。析出したポリ酢酸ビニルにメタノールを添加し、酢酸ビニルモノマーの除去率99.8%のポリ酢酸ビニル(PVAc−1)の40質量%のメタノール溶液を得た。
【0085】
得られたPVAc−1のメタノール溶液の一部を用いて重合度を測定した。PVAc−1のメタノール溶液に、ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が、0.1となるように水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液を添加した。ゲル化物が生成した時点でゲルを粉砕し、メタノールでソックスレー抽出を3日間行った。得られたポリビニルアルコールを乾燥し、粘度平均重合度測定に供した。PVAc−1の重合度は1700であった。
【0086】
PVAc−2〜PVAc−20
表1に記載した条件に変更したこと以外は、PVAc−1と同様の方法により、ポリ酢酸ビニル(PVAc−2〜PVAc−20)を得た。なお、表1中の「ND」は1ppm未満を意味する。得られた各ポリ酢酸ビニルの重合度をPVAc−1と同様にして求めた。その結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
実施例1
(PAVの合成)
PVA−1
PVAc−1の40質量%のメタノール溶液に対して、総固形分濃度(けん化濃度)が30質量%となるように、メタノールおよびポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.020となるように水酸化ナトリウムの8%メタノール溶液を撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した時点でゲルを粉砕し、粉砕後のゲルを40℃の容器に移し、けん化反応の開始から60分経過した時点で、メタノール/酢酸メチル/水(25/70/5質量比)の溶液に浸漬し、中和処理した。得られた膨潤ゲルを遠心分離し、膨潤ゲルの質量に対して、2倍の質量のメタノールを添加、浸漬し30分間放置した後、遠心分離する操作を4回繰り返し、60℃1時間、100℃で2時間乾燥してPVA−1を得た。
【0089】
得られたPVA−1の重合度は1700、けん化度は99.1モル%、酢酸ナトリウム含有量0.7%(ナトリウム換算で0.20質量%)であった。これらの物性データを表2にも示す。
【0090】
得られたPVA−1のゲルパーミエーション測定を行った。図1は、分子量と示差屈折率検出器で測定された値との関係、および分子量と吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定された吸光度との関係を示したグラフである。このときの分子量は、溶出容量から検量線を用いて換算されたもの(PMMA換算分子量)である。図1から求めた示差屈折率検出器で測定されたピークトップ分子量(A)は100,000であり、吸光光度検出器(280nm)で測定されたピークトップ分子量(B)は53,000であった。得られた値を下記式
(A−B)/A
に代入して得られた値は0.47であった。ピークトップ分子量(B)における吸光度は1.30×10−3であった。これらの結果を表2にも示す。
【0091】
撹拌機、還流管、滴下漏斗、温度計および窒素導入チューブを備え付けた3Lセパラブルフラスコに、イオン交換水900質量部およびPVA−1を78質量部仕込み、95℃に昇温し、1時間溶解し冷却した。得られたPVA水溶液を窒素置換しながら、撹拌下60℃に昇温し、酒石酸の10質量%水溶液13.2質量部および5質量%過酸化水素水9質量部(酢酸ビニルモノマーに対し、モル比で0.015倍)を一括添加し、酢酸ビニルモノマー78質量部を添加し、初期乳化重合を開始し、30分後に初期乳化重合終了を確認した。
【0092】
初期乳化重合終了にサンプルの一部を採取し、約100倍に水で希釈した後、電気泳動光散乱光度計(大塚電子株式会社製;ELS−800)を用いて、初期のエマルジョン粒子径を測定した。これをモノマー(有機粒子)の水分散性の指標とした。
【0093】
初期乳化重合の後、酒石酸の10質量%水溶液2.7質量部および5質量%過酸化水素水9質量部を一括で追加添加し、酢酸ビニルモノマー702質量部を滴下漏斗から2時間かけて連続的に添加し、乳化重合を行った。
【0094】
添加終了後、得られたエマルジョンを室温まで冷却し、60メッシュのステンレス製金網を用い、ろ過して固形分濃度48.2質量%のエマルジョンを得た。ここで、60メッシュのろ過残分量を重合安定性の指標とした。
【0095】
得られたエマルジョンを20℃、65%RH下で、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、1週間乾燥させることで厚さ450μmのフィルムを得た。そのフィルムの一部を採取して、105℃で2時間乾燥することで、乾燥前後の質量変化からフィルムの固形分質量%(i)を測定した。これとは別に、上記450μmのフィルムからから、10cm×10cmの大きさに切り出し、質量(ii)を測定した。そして、下記式(3)に示ように、質量(ii)に固形分質量%(i)を乗じて、切り出したフィルムにおける固形分の質量(ii’)を求めた。切り出したフィルムを90℃温水に30分浸漬した後室温まで冷却し、遠心分離機(日立工機株式会社製;SCR−20B)にて20000回転で30分間遠心分離した。得られた固形物を回収し、105℃で2時間乾燥して当該固形分の質量(iii)を測定した。そして、下記式(4)により溶出率(%)を算出し、皮膜の耐水性の指標とした。
浸漬前のフィルム質量補正: (ii’)=(ii)×(i)/100 (3)
溶出率(%)={[(ii’)−(iii)]/(ii’)}×100 (4)
【0096】
[エマルジョンの評価]
得られたエマルジョンについて、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性を以下の指標に従って評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0097】
(有機粒子の水分散性)
A:300nm未満
B:300nm以上350nm未満
C:350nm以上400nm未満
D:400nm以上450nm未満
E:450nm以上
粒子径が小さいほど水分散性が優れていることを示す。上記基準で有機粒子の水分散性を評価したところ、評価は「A」であった。
【0098】
(重合安定性)
A:60メッシュろ過残分が見られなかった。
B:60メッシュろ過残分が僅かに見られた。
C:粗粒が見られ、60メッシュのろ過残分も多かった。
D:粗粒が多く、重合が十分に進行しなかった。
60メッシュろ過残分が少ないほど重合安定性に優れていることを示す。上記基準で重合安定性を評価したところ、評価は「A」であった。
【0099】
(皮膜の耐水性)
A:55%未満
B:55%以上60%未満
C:60%以上65%未満
D:65%以上70%未満
E:70%以上
溶出率(%)の値が小さいほど皮膜の耐水性が優れていることを示す。上記基準で皮膜の耐久性を評価したところ、評価は「A」であった。
【0100】
実施例2〜8、比較例1〜5
表2に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、各PVAを合成し、該PVAを乳化重合用分散剤として用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表2に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表2に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2には重合度1700の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られるエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例1〜8)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満である場合(比較例1および3)や、さらにピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)も上記式(1)を満たさない場合(比較例3)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例2および4)には、特に重合安定性が劣っていた。酢酸ナトリウムの含有量(ナトリウム換算)が0.5質量%を超える場合(比較例5)には、酢酸ビニルモノマーの重合が十分進行せず、得られたエマルジョンを用いて皮膜を作製することができなかった。
【0103】
実施例9、比較例6〜8
表3に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表3に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表3に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
表3には重合度300、および重合度150の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られるエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例9)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満である場合(比較例6)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例7)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。重合度が200未満である場合(比較例8)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0106】
実施例10、比較例9および比較例10
表4に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表4に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表4に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
表4には重合度500の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例10)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満である場合(比較例9)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例10)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0109】
実施例11、比較例11および比較例12
表5に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表5に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表5に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表5に示す。
【0110】
【表5】
【0111】
表5には重合度2400の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例11)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満であり、ピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)が上記式(1)を満たさない場合(比較例11)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例12)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0112】
実施例12、比較例13〜15
表6に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表6に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表6に示す。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表6に示す。
【0113】
【表6】
【0114】
表6には重合度3600および重合度5500の完全けん化PVA、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例12)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満であり、ピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)も上記式(1)を満たさない場合(比較例13)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例14)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。重合度が5000を超える場合(比較例15)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0115】
実施例13〜19、比較例16〜比較例19
表7に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表7に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表7に示す。そして、有機粒子の水分散性、皮膜の耐水性の評価の指標を以下に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてエマルジョンの評価を実施した。その結果を表7に示す。
【0116】
[エマルジョンの評価]
(有機粒子の水分散性)
A:200nm未満
B:200nm以上220nm未満
C:220nm以上240nm未満
D:240nm以上260nm未満
E:260nm以上
【0117】
(皮膜の耐水性)
A:45%未満
B:45%以上50%未満
C:50%以上55%未満
D:55%以上60%未満
E:60%以上
【0118】
【表7】
【0119】
表7には重合度1700の部分けん化PVA(けん化度約88モル%)の評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例13〜19)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満である場合(比較例16および18)や、さらにピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)も上記式(1)を満たさない場合(比較例18)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例17および19)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0120】
実施例20、比較例20および21
表8に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表8に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表8に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表8に示す。
【0121】
実施例21
PVAc−3のポリ酢酸ビニルの55質量%のメタノール溶液に対して、総固形分濃度(けん化濃度)が40質量%、ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.005となるように、メタノールおよび水酸化ナトリウムの8%メタノール溶液を撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。なお、この際の系容器内の水分率を1.2%となるよう蒸留水を添加してけん化反応を行った。水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してから1時間後、1%酢酸水を水酸化ナトリウムの0.8モル等量および多量の蒸留水を添加し、けん化反応を停止した。得られた溶液を乾燥機に移し、65℃で12時間乾燥した後、100℃で2時間乾燥してPVAを得た。得られたPVAを用いて実施例1と同様にしてエマルジョンを作製した。
【0122】
得られたPVAの重合度は300、けん化度は60.2モル%、酢酸ナトリウム含有量1.3%であった。得られたPVAの物性データを表8に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表8に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表8に示す。
【0123】
比較例22
PVAc−3のポリ酢酸ビニルの55質量%のメタノール溶液に対して、総固形分濃度(けん化濃度)が40質量%、ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.005となるように、メタノールおよび水酸化ナトリウムの8%メタノール溶液を撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。なお、この際の系内の水分率を3.0%となるよう蒸留水を添加してけん化反応を行った。水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してから1時間後、1%酢酸水を水酸化ナトリウムの0.8モル等量および多量の蒸留水を添加し、けん化反応を停止した。得られた溶液を乾燥機に移し、65℃で12時間乾燥した後、100℃で2時間乾燥して比較PVAを得た。
【0124】
得られたPVAの重合度は300、けん化度は45.3モル%、酢酸ナトリウム含有量1.2%であった。なお、得られたPVAは水に対して不溶であったことから、GPC測定のためのフィルムが準備できず、GPC測定およびPVAの評価ができなかった。また、実施例1と同様の方法ではエマルジョンを作製することができず、エマルジョンの評価もできなかった。
【0125】
【表8】
【0126】
表8には重合度300の部分けん化PVAの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例20および21)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満である場合(比較例20)には、皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例21)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0127】
実施例22、比較例23および24
表9に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表9に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表9に示す。
【0128】
【表9】
【0129】
表9には重合度500の部分けん化PVA(けん化度約88モル%)、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例22)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満である場合(比較例23)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例24)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0130】
実施例23、比較例25および26
表10に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表10に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表10に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表10に示す。
【0131】
【表10】
【0132】
表10には重合度2400の部分けん化PVA(けん化度約88モル%)、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例23)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満であり、ピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)が上記式(1)を満たさない場合(比較例25)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例26)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0133】
実施例24、比較例27および28
表11に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして各PVAを合成し、該各PVAを用いてエマルジョンを作製した。得られたPVAの物性データを表11に示す。実施例1と同様にしてゲルパーミエーション測定を行った。その結果を表11に示す。得られたエマルジョンについて、実施例13と同様にして有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性の評価を実施した。その結果を表11に示す。
【0134】
【表11】
【0135】
表11に重合度3600の部分けん化PVA(けん化度約88モル%)、および該PVAを乳化重合用分散剤として用いて得られたエマルジョンの評価を示した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値が本発明で規定した条件を満たす場合(実施例24)、有機粒子の水分散性、重合安定性および皮膜の耐水性が全て優れていた。一方、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)における吸光度が0.25×10−3未満であり、ピークトップ分子量(A)およびピークトップ分子量(B)が上記式(1)を満たさない場合(比較例27)には、有機粒子の水分散性および皮膜の耐水性が劣っていた。ピークトップ分子量(B)における吸光度が3.00×10−3を超える場合(比較例28)には、重合安定性および皮膜の耐水性が劣っていた。
【0136】
実施例25
酢酸ビニルモノマーに代えて、ブタジエンモノマーを用いたこと以外は実施例1と同様にしてエマルジョンを得た。得られたエマルジョンについて、実施例1と同様に評価したところ、有機粒子の水分散性、重合安定性、および皮膜の耐水性の全てについて評価は「A」であった。
【0137】
実施例26
撹拌機、還流管、滴下漏斗、温度計および窒素導入チューブを備え付けた3Lセパラブルフラスコに、イオン交換水900質量部およびPVA(株式会社クラレ製の「PVA205」)を78質量部仕込み、95℃に昇温し、1時間溶解し冷却した。得られたPVA水溶液を窒素置換しながら、撹拌下60℃に昇温し、酒石酸の10質量%水溶液13.2質量部および5質量%過酸化水素水9質量部(酢酸ビニルモノマーに対し、モル比で0.015倍)を一括添加し、酢酸ビニルモノマー78質量部を添加し、初期乳化重合を開始し、30分後に初期乳化重合終了を確認した。
【0138】
初期乳化重合の後、酒石酸の10質量%水溶液2.7質量部および5質量%過酸化水素水9質量部を一括で追加添加し、酢酸ビニルモノマー702質量部を滴下漏斗から2時間かけて連続的に添加し、乳化重合を行った。添加終了後、得られたエマルジョンにPVA−1の5%水溶液970質量部を添加し、続いて60メッシュのステンレス製金網を用いてろ過した。このようにして、PVA−1が添加されたエマルジョンを得た。PVA−1が添加されたエマルジョンについて、実施例1と同様に評価したところ、皮膜の耐水性は「B」であった。
【0139】
以上の結果から、特定のPVAを含有する本発明の乳化重合用分散剤は、有機粒子の水分散性および重合安定性において優れるうえに、性能のバランスにも優れていることが明らかである。また、該乳化重合用分散剤を用いた乳化重合によって得られる水性エマルジョンは、皮膜の耐水性に優れる。さらに、エチレン性不飽和単量体を乳化重合させて水性エマルジョンを得てから、当該水性エマルジョンに上記特定のPVAを添加しても、皮膜の耐水性に優れる水性エマルジョンを得ることができる。したがって、該水性エマルジョンは特に接着剤等に好適に用いられる。
図1