【実施例】
【0071】
1.実施例1
ストリップキャスト法により、R−T−B系焼結磁石用原料合金のフレークを作製し、このフレークに水素を吸収(吸蔵)させて水素粉砕を行い、粗粉砕粉し、この粗粉砕粉をジェットミルにより更に粉砕して微粉砕粉(合金粉末)を得た。
そして、この合金粉末から乾式法により成形体を作製し、これを真空炉により1020℃で4時間の焼結を行い、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ3.4mmの焼結体を得た。
焼結体の組成は、Nd:31.7質量%、B:0.95質量%、Co:0.9質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.1質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部であり、焼結体に含まれる酸素、窒素、炭素濃度は、それぞれ、酸素:5000ppm、窒素:300ppm、炭素:700ppmであった。
【0072】
この焼結体を用いて拡散処理を行い、拡散処理後の焼結磁石に対し、21.0mm×16.0mmの両面(2つの面)を0.2mmずつ機械加工を施し(厚さ0.2mmずつ機械加工により除去し)、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ3.0mmの寸法にした。
拡散処理は、処理容器内に焼結体を載置し、21.0mm×16.0mmの両面にプラセオジム供給源としてPrメタルの粉末を散布した。散布したPrメタルの粒径は篩い目で100μm以下であった。
処理温度(プラセオジム供給源と焼結体の温度)と、処理時間と、焼結体に散布したプラセオジム供給源の量であるPr散布量と、拡散処理前後のサンプルについてICP発光分析を行い求めた。Pr増加量と、ICP発光分析により求めた拡散処理後の総希土類量(=Nd+Pr質量%)とを表1に示す。ここで、Pr増加量とは、Prを拡散処理した後の焼結磁石に含まれるPr量からPrを拡散処理する前の焼結体に含まれるPr量を差し引いた量である。
【0073】
【表1】
【0074】
得られたそれぞれのサンプル(ICP発光分析を行ったのと別のサンプル)について、500℃で3時間熱処理し磁石サンプルを得た。
【0075】
さらに比較のため、溶解法によりR−T−B系焼結磁石用原料合金のフレークを作製する際の溶解時にPrを添加したサンプルを作製し、上述の実施例サンプルと同じ方法により、焼結体を作製した。得られた焼結体の組成を表2に示す。表2の試料No.8〜10の比較例サンプルは、実施例サンプルが拡散処理により含有することとなったPr、および総希土類と同じ程度の量を拡散処理をせずに含有させた焼結体である。
【0076】
【表2】
【0077】
これらの焼結体についても試料No.1〜7と同じ熱処理を施して磁石サンプルを得た。
【0078】
次に、TEM観察を行った結果を示す。
図1は、試料No.3のR−T−B系焼結磁石の表層部(表面から深さ50μm)を観察したDF−STEM像を示す。
図1の黒味がかった灰色の部分が粒界多重点であり、白い灰色の部分が結晶粒である。
図1から明らかなように、3つの結晶粒の粒界多重点を観察することができる。さらに
図1の元素マッピング像を
図2に示す。
図2から明らかなように、粒界多重点には、酸素(O)が多く存在する酸化物相(薄い灰色の部分)と、酸素(O)の存在量がほとんどない金属相(
図1における粒界多重点から酸化物相を除いた部分)が存在する。さらに
図2のPrマッピング像から明らかなように、Prは、粒界多重点に濃化していると考えられる(Prマッピング像における白い灰色の部分)。ただし、ここでは酸化物相の中央部(酸化物相の黒色の部分)は、Prがほとんどない存在していない。参考までに、
図3に
図2における金属相と酸化物相の位置を示す。
【0079】
図1〜
図3に示すように、R−T−B系焼結磁石には、粒界多重点が存在する領域があり、さらに粒界多重点には、金属相と酸化物相が存在し、これらを識別できる。
【0080】
図2に示すように金属相内のA点においてTEM−EDXにより組成分析を行い、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、A点を含む金属相に隣接する結晶粒内のB点における希土類元素に占めるPrの質量比率を求めた。ここで、金属相は、粒界多重点においてCoを含む金属相と含まない金属相の存在が確認されたが、Coを含まない金属相を測定した。測定した試料No.3の結果と同様にして、試料No.1、2、4〜10についても上述の定量分析を行った。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すように、拡散処理によりPrを0.3〜2.0質量%導入させた(すなわち、Pr含有量が質量比で0.3〜2.0パーセントポイント増加した)試料No.1〜6は、Pr増加量が増加すると、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が上昇する傾向がある(20%→81%)。さらに、試料No.1〜6は、いずれも金属相(A点)が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒(B点)における希土類元素に占めるPrの質量比率(試料No.1〜6は、いずれも検出されず)よりも20パーセントポイント以上高い。
溶解時にPrを添加した試料No.8〜10は、Pr増加量が増加すると、結晶粒、金属相共に希土類元素に占めるPrの質量比率が上昇している。さらに、試料No.8〜10は、いずれも金属相(A点)が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒(B点)における希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて高いが、大きな差はなく20パーセントポイント未満高いだけである。
【0083】
得られた磁石の磁気特性測定結果を表4に示す。表4における「140℃H
cJ」、「160℃H
cJ」、「180℃H
cJ」、「室温H
cJ」、「室温B
r」は、サンプルをそれぞれ21.0mm×16.0mmの面の中心部から7mm×7mm×3.0mmに加工し、140℃、160℃、180℃、室温(23℃)でBHトレーサにより磁気特性(B
r、H
cJ)を測定した結果である。また、表中の「−」の部分は、測定を行わなかったことを意味している。
【0084】
【表4】
【0085】
表4に示すように、Prを拡散処理により、R−T−B系焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高くし、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下にした本発明である試料No.1〜4は、Prを含有していない磁石(試料No.7)と比べて140℃におけるH
cJが向上している。試料No.5は、試料No.4と同様にPrを1.5質量%(1.5パーセントポイント)拡散処理により導入させているが、140℃におけるH
cJ向上効果が得られていない。これは、試料No.5は、Pr散布量が多いため拡散時にPrが多量に焼結体内へ拡散されてしまい、焼結体の表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超え、その結果、結晶粒界から結晶粒内(とりわけ、結晶粒の外殻部)にPrの濃度が高い領域が広範囲に亘り形成されてしまい、高温での主相の異方性磁界が低下し、高温である140℃におけるH
cJ向上効果が得られなかったと考えられる。
【0086】
試料No.6は、Pr拡散処理により、焼結体の表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超えているため、Prを含有していない磁石(試料No.7)と比べて、140℃におけるH
cJ向上効果が得られていない。また、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が、当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて20パーセントポイント未満高いだけである、溶解時にPrを添加した試料No.8〜10は、Prを含有していない磁石(試料No.7)と比べて140℃におけるH
cJが低下している。さらに、試料No.9、10は、160℃、180℃においてH
cJが顕著に低下している。
これに対し、表4に示すように、本発明の試料はは、160℃、180℃といった更なる高温においても、Prを含有していない磁石(試料No.7)と比べて、同様のH
cJ向上効果が得られている。
【0087】
また、表4に示すように、本発明の試料No.1〜4は、Prを含有していない試料No.7と比べて、B
rの低下なくH
cJを向上させている。一方、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%より高い、試料No.5、6および溶解時にPrを添加した試料No.8〜10は、Prを含有していない試料No.7と比べてB
rは0.01T低下している。
【0088】
さらに、Prを拡散によって導入した試料No.1、3、4と溶解時にPrを添加した試料No.8〜10の焼結体の表層部と中央部におけるPrの濃度(質量%)をそれぞれ測定した。濃度測定は、EPMAを用い電子ビーム径を50μmにして、断面内で結晶粒を10個〜100個含む範囲を測定した。結果を表5に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
表5に示すように、拡散処理によりPrを増加させた試料No.1、3、4は、いずれもPrの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有している。一方、溶解時にPrを添加した試料No.8〜10は、いずれもPrの濃度は、中央部と表層部で差異はない。これは、拡散処理によりPrを増加させた本発明の場合は、磁石表面からPrが導入されるため、Prの濃度は中央部よりも表層部が高くなる。一方、溶解時にPrを添加した比較例の場合は、Prの濃度は、焼結体全体でほぼ均一の濃度になるためであると考えられる。
【0091】
以上のように、本発明のR−T−B系焼結磁石は、Prの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有し、当該表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、また表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は75%以下となる。これに対し、Prの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有しておらず、表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する前記結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて20パーセントポイント未満だけ高い試料No.8〜10や表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超えている試料No.5、6は、例えば140℃の高温におけるH
cJを向上させることができない。
【0092】
2.実施例2
焼結体の厚さを3.4mmから5.4mmにした以外は、実施例1と同じ条件で焼結体を準備した。
【0093】
この焼結体を用いて拡散処理を行い、拡散処理後の焼結磁石に対し、21.0mm×16.0mmの両面を0.2mmずつ機械加工を施し(厚さ0.2mmずつ機械加工により除去し)、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ5.0mmの寸法にした。
拡散処理は、処理容器内に焼結体を載置し、21.0mm×16.0mmの両面にプラセオジム供給源としてPrメタルを散布した。散布したPrメタルの粒径は篩い目で100μm以下であった。
処理温度(プラセオジム供給源と焼結体の温度)と、処理時間と、焼結体に散布したプラセオジム供給源の量であるPr散布量と、拡散処理前後のサンプルについてICP発光分析を行い求めたPr増加量と、ICP発光分析により求めた拡散処理後の総希土類量(=Nd+Pr質量%)とを表6に示す。
【0094】
【表6】
【0095】
得られたそれぞれのサンプルについて、500℃で3時間熱処理し磁石サンプルを得た。
【0096】
さらに比較のため、溶解法により、R−T−B系焼結磁石用原料合金のフレークを作製する際の溶解時にPrを添加したサンプルを作製し、上述の実施例サンプルと同じ方法により、焼結体を作製した。得られた焼結体の組成を表7に示す。表7の試料No.18〜20の比較例サンプルは、実施例サンプルが拡散処理により含有することとなったPr、および総希土類と同じ程度の量を拡散処理をせずに含有させた焼結体である。
【0097】
【表7】
【0098】
これらの焼結体についても試料No.12〜17と同じ熱処理を施して磁石サンプルを得た。
【0099】
次に、試料No.12〜20について、上述した実施例1と同様に、焼結体の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。結果を表8に示す。
【0100】
【表8】
【0101】
表8に示すように、拡散処理によりPrを0.3〜2.0質量%導入させた(すなわち、Pr含有量が質量比で0.3〜2.0パーセントポイント増加した)試料No.12〜16は、Pr増加量が増加すると、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が上昇している(28%→82%)。さらに、試料No.12〜16は、いずれも金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒における希土類元素に占めるPrの質量比率(試料No.12〜17は、いずれも検出されず)よりも20パーセントポイント以上高い。
溶解時にPrを添加した試料No.18〜20は、Pr増加量が増加すると、結晶粒および金属相共に希土類元素に占めるPrの質量比率が増加している。さらに、試料No.18〜20は、いずれも金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒における希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて20パーセントポイント未満高いだけである。
【0102】
得られた磁石の磁気特性測定結果を表9に示す。表9における「140℃H
cJ」、「160℃H
cJ」、「180℃H
cJ」、「室温H
cJ」、「室温B
r」は、サンプルをそれぞれ21.0mm×16.0mmの面の中心部から7mm×7mm×5.0mmに加工し、140℃、160℃、180℃、室温(23℃)でBHトレーサにより磁気特性(B
r、H
cJ)を測定した結果である。また、表中の「−」の部分は、測定を行わなかったことを意味している。
【0103】
【表9】
【0104】
表9に示すように、Pr拡散処理により、焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高くし、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下にした本発明である試料No.12〜15は、Prを含有していない磁石(試料No.17)と比べて140℃におけるH
cJが向上している。一方、試料No.16は、Pr拡散処理により、焼結磁石の表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超えているため、Prを含有していない磁石(試料No.17)と比べて、140℃におけるH
cJ向上効果がほとんど得られていない。さらに、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と比べて20パーセントポイント未満高いだけである、溶解時にPrを添加した試料No.18〜20は、Prを含有していない磁石(試料No.17)と比べて140℃におけるH
cJが低下している。さらに、試料No.19、20は、160℃、180℃においてH
cJが顕著に低下している。
これに対し、表9に示すように、本発明の試料は、160℃および180℃とより高温においても、Prを含有していない磁石(試料No.17)と比べて、同様のH
cJ向上効果が得られている。
【0105】
また、表9に示すように、本発明の試料No.12〜15は、Prを含有していない試料No.17と比べて、B
rの低下なくH
cJ向上効果が得られている。一方、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%より高い試料No.16、および溶解時にPrを添加した試料No.18〜20は、Prを含有していない試料No.17と比べてB
rは0.01T低下している。
【0106】
さらに、Prを拡散によって導入させた試料No.12、14、15と溶解時にPrを添加した試料No.18〜20の焼結体の表層部と中央部におけるPrの濃度(質量%)をそれぞれ測定した。濃度測定は、EPMAを用い電子ビーム径を50μmにして、断面内で結晶粒を10個〜100個含む範囲を測定した。結果を表10に示す。
【0107】
【表10】
【0108】
表10に示すように、拡散処理によりPrを増加させた試料No.12、14、15は、いずれもPrの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有している。一方、溶解時にPrを添加した試料No.18〜20では、いずれもPrの濃度は、中央部と表層部で差異はない。これは、拡散処理によりPrを増加させた本発明の場合は、磁石表面からPrが導入されるため、Prの濃度は中央部よりも表層部が高くなり、一方、溶解時にPrを添加した比較例の場合は、Prの濃度は、焼結体全体でほぼ均一の濃度になるためであると考えられる。
【0109】
3.実施例3
原料にジジム合金を用いストリップキャスト法により、R−T−B系焼結磁石用原料合金のフレークを作製し、このフレークに水素を吸収(吸蔵)させて水素粉砕を行い、粗粉砕粉し、この粗粉砕粉をジェットミルにより更に粉砕して微粉砕粉(合金粉末)を得た。得られた微粉砕粉を油に分散させてスラリーを作製した。そして、このスラリーから湿式法により成形体を作製し、脱油処理を行った後、真空炉により1020℃で4時間の焼結を行い、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ3.4mmの焼結体を得た。焼結体の組成は、Nd:22.5質量%、Pr:6.3質量%、Dy:0.6質量%、B:0.94質量%、Co:2.0質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.1質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部であり、焼結体に含まれる酸素、窒素、炭素濃度はそれぞれ、酸素:800ppm、窒素:300ppm、炭素:1100ppmであった。
【0110】
この焼結体を用いて拡散処理を行い、拡散処理後の焼結磁石に対し、21.0mm×16.0mmの両面を0.2mmずつ機械加工を施す(厚さ0.2mmずつ機械加工により除去する)ことにより、長さ21.0mm×幅16.0mm×厚さ3.0mmにした。
拡散処理は、処理容器内に焼結体を載置し、厚さ方向の両面(長さ21.0mm×幅16.0mmの2つの面)にプラセオジム供給源としてPrメタルの粉末を散布した。散布したPrメタルの粒径は篩い目で100μm以下であった。
処理温度(プラセオジム供給源と焼結体の温度)と、処理時間と、焼結体に散布したプラセオジム供給源の量であるPr散布量と、拡散処理前後のサンプルについてICP発光分析を行い求めたPr増加量と、ICP発光分析により求めた拡散処理後の総希土類量(=Nd+Pr質量%)とを表11に示す。
【0111】
【表11】
【0112】
得られたそれぞれのサンプルについて、500℃で3時間熱処理し磁石サンプルを得た。
【0113】
次に、試料No.21〜26について、上述した実施例1と同様に、焼結磁石の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。結果を表12に示す。
【0114】
【表12】
【0115】
表12に示すように、拡散処理によりPrを0.3〜2.0質量%導入させた(すなわち、Pr含有量が質量比で0.3〜2.0パーセントポイント増加した)試料No.21〜25は、Pr増加量が増加すると、結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は同じ(22%)で変わらず、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が上昇している(質量47%→82%)。さらに、試料No.21〜25は、いずれも金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、当該金属相に隣接する結晶粒における希土類元素に占めるPrの質量比率(いずれも22%)よりも20パーセントポイント以上高く、一方、溶解時にPrを添加した試料No.26は、わずかに11パーセントポイント(20パーセントポイント未満)高いだけである。
【0116】
得られた磁石の磁気特性測定結果を表13に示す。表13における「140℃H
cJ」、「160℃H
cJ」、「180℃H
cJ」、「室温H
cJ」、「室温B
r」は、サンプルをそれぞれ21.0mm×16.0mmの面の中心部から7mm×7mm×3.0mmに加工し、140℃、160℃、180℃、室温(23℃)でBHトレーサにより磁気特性(B
r、H
cJ)を測定した結果である。また、表中の「−」の部分は、測定を行わなかったことを意味している。
【0117】
【表13】
【0118】
表13に示すように、Pr拡散処理により、焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高くし、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下にした本発明である試料No.21〜24は、Prを拡散処理していない磁石(試料No.26)と比べて140℃におけるH
cJが向上している。一方、試料No.25は、Pr拡散処理により、焼結磁石の表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%を超えているため、Prを拡散処理していない磁石(試料No.26)と比べて、140℃におけるH
cJ向上効果が得られていない。
さらに、表13に示すように、本発明は、160℃および180℃のさらなる高温においても、Prを拡散処理していない磁石(試料No.26)と比べて、同様のH
cJ向上効果が得られている。
【0119】
また、表13に示すように、本発明の試料No.21〜24は、Prを拡散処理していない試料No.26と比べて、B
rの低下なくH
cJを向上させている。一方、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%より高い、試料No.25は、Prを拡散処理していない試料No.26と比べて、B
rは0.01T低下している。
【0120】
さらに、Prを拡散によって導入した試料No.21〜25と溶解時にPrを添加した試料No.26の焼結体の表層部と中央部におけるPrの濃度(質量%)をそれぞれ測定した。濃度測定は、EPMAを用い電子ビーム径を50μmにして、断面内で結晶粒を10個〜100個含む範囲を測定した。結果を表14に示す。
【0121】
【表14】
【0122】
表14に示すように、拡散処理によりPrを増加させた試料No.21〜25は、いずれもPrの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有している。一方、溶解時にPrを添加した試料No.26のPr濃度は、中央部と表層部で差異はない。これは、拡散処理によりPrを増加させた本発明の場合は、焼結磁石表面からPrが導入されるため、Prの濃度は中央部よりも表層部が高くなる。一方、溶解時にPrを添加した比較例の場合は、Pr濃度は、焼結体全体でほぼ均一の濃度になるためであると考えられる。
【0123】
以上のように、本発明は、拡散処理する前の焼結体にPrを含む場合であっても、Prの濃度が中央部よりも高くなっている表層部を有し、当該表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下であれば、高温におけるH
cJ向上効果を得ることができる。
【0124】
4.実施例4
表15に示す組成(ICPにより測定した組成)および酸素、窒素、炭素濃度を含有する焼結体を準備した。
そして、表16の条件でPrメタル粉末を用いPr拡散処理を行った。さらに460℃〜560℃で3時間熱処理を行い、得られた焼結磁石の140℃におけるH
cJを測定した。また、表15に示す組成および酸素、窒素、炭素濃度を含有する焼結体を別に用意してPr拡散処理を行わずに460℃〜560℃で3時間熱処理を行い、得られた焼結体の140℃におけるH
cJを測定した。なお、焼結体の寸法、磁気特性測定サンプルの寸法および磁気特性測定方法は実施例1と同じにした。測定結果を表17に示す。
【0125】
【表15】
【0126】
【表16】
【0127】
【表17】
【0128】
表17に示すように、何れの焼結磁石についても高温におけるH
cJが向上していることが分かる。また、試料No.31〜40に示したPr拡散処理した焼結磁石の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるプラセオジウム(Pr)の質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。その結果、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より25〜37パーセントポイント高く、金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率は、46%〜58%であり、上述した本発明の範囲内であった。
【0129】
5.実施例5
Prメタルと電解Feを用いて急冷法によりPr−Fe合金薄帯を作製し、スタンプミルで粉砕してPr−Fe合金の粉末を得た。実施例1で用いた組成の焼結体(試料No.7)に対して、得られたPr−Fe粉末を80mg散布し、700℃で4時間熱処理することで、Pr拡散処理を行い、試料No,41〜43を得た。散布したPr−Fe合金粉末の粒径は篩い目で150μm以下であった。試料No,41〜44に対し500℃で3時間熱処理を行った後、室温(23℃)および140℃のH
cJを測定した。用いたPr−Fe合金の組成とPr増加量および室温(23℃)、140℃のH
cJを表18に示す。なお、焼結体の寸法、磁気特性測定サンプルの寸法および磁気特性測定方法は実施例1と同様に行った。また、試料No.41〜43について、上述した実施例1と同様に、焼結磁石の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。結果を表19に示す。
【0130】
【表18】
【0131】
【表19】
【0132】
表18に示すように、Pr−Fe合金をPr供給源として用いた場合でも、拡散処理前後で磁石のPr含有量が増加していることから、Prの拡散が認められ、それに伴い、140℃のH
cJが向上していることが分かる。さらに表19に示すように、Pr−Fe合金をPr供給源として用いた場合でも、焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、かつ表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下となる。
【0133】
6.実施例6
組成がNd:30.0質量%、Dy:1.0質量%、B:0.95質量%、Co:2.0質量%、Al:0.1質量%、Cu:0.1質量%、Ga:0.1質量%、Fe:残部からなる焼結体が得られるように原料合金を準備した。原料合金はストリップキャスト法で作製した0.3mm〜0.4mmの鋳片で、これを水素粉砕により大きさ約500μm以下の粉末に粗粉砕した後、ジェットミルによる微粉砕を行い、粉末の平均粒径が約4.0μmの微粉末を作製した。
【0134】
得られた微粉末を油中に回収してスラリー化し、このスラリーから湿式法により成形体を作成した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮成形を行った。そして、脱油処理を行った後、真空炉により1000℃で4時間の条件で焼結して、上記の組成を有する焼結体を得た。焼結体に含まれる酸素、窒素、炭素濃度は、それぞれ、酸素:1000ppm、窒素:400ppm、炭素:1000ppmであった。この焼結体を研削加工して、4.0×10×10(単位はmm)の焼結体を用意した。
【0135】
次にPrメタルとAlメタルとを用いて高周波溶解炉で溶解した後、ロール表面速度が20m/秒で回転する銅製の水冷ロールに前記溶湯を接触させ急冷凝固合金薄帯を作製した。次いで、これらをボールミルで粉砕し、Pr−Al合金の粉末を得た。これら合金粉末の組成は、Pr:98質量%、Al:2質量%(試料No.44用)およびPr:90質量%、Al:10質量%(試料No.45用)であり、いずれも篩い目で200メッシュ(75μm)以下であった。
【0136】
用意した焼結体をバインダーとなるヒドロキシプロピルセルロース2%水溶液中にディッピングした後、試料No.44用の合金粉末を40mg、試料No.45用の合金粉末を25mgそれぞれの焼結体表面に付着させた。これらを680℃で4時間加熱することで、Prの拡散処理を行った。ここで比較例として、合金粉末を用いずに680℃で4時間の加熱を施したものを試料No.46とする。いずれの試料も磁石特性向上を目的として行う熱処理を施した後、それぞれの焼結体を0.5mmづつ研削し、3.0mm×9mm×9mmの焼結磁石を得た。これら焼結体のPr増加量および140℃のH
cJの結果を表20に示す。また、上述した実施例1と同様に、焼結磁石の表層部における、粒界多重点の金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率と、当該金属相に隣接する結晶粒の質量比率をTEM−EDX分析により求めた。結果を表21に示す。
【0137】
【表20】
【0138】
【表21】
【0139】
表20に示すように、Pr−Al合金をPr供給源として用いた場合でも、磁石のPr含有量が増加していることから、Prの拡散が認められ、それに伴い、140℃のH
cJが向上していることが分かる。さらに表21に示すように、Pr−Al合金をPr供給源として用いた場合でも、焼結磁石の表層部において、結晶粒の粒界多重点における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率を当該金属相に隣接する結晶粒が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率より20パーセントポイント以上高く、かつ表層部における金属相が含有する希土類元素に占めるPrの質量比率が75%以下となる。