特許第6221310号(P6221310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221310四三酸化マンガン組成物及びその製造方法並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221310
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】四三酸化マンガン組成物及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/02 20060101AFI20171023BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20171023BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20171023BHJP
【FI】
   C01G45/02
   C01G53/00 A
   !H01M4/505
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-78639(P2013-78639)
(22)【出願日】2013年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-230969(P2013-230969A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2016年3月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-86906(P2012-86906)
(32)【優先日】2012年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康浩
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−251390(JP,A)
【文献】 特開2010−137996(JP,A)
【文献】 特開2009−176732(JP,A)
【文献】 特開2001−261343(JP,A)
【文献】 Pattanayak, J. et al,Preparation and thermal stability of manganese oxides obtained by precipitation from aqueous manganese sulphate solution,Thermochimica Acta,NL,Elsevier Science,1989年11月 1日,153,p193-204
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/02
C01G 53/00
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に金属化合物を有し、四三酸化マンガンと金属化合物中の金属の比率(Mn/Me)がモル比で4/1〜1/4(Me:金属化合物中の金属)であり、平均粒子径が5μmを超える四三酸化マンガン組成物。
【請求項2】
金属化合物がMg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Mo、Ag、In、Snの群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の四三酸化マンガン組成物。
【請求項3】
金属化合物がニッケル水酸化物、コバルト水酸化物及びニッケル−コバルト複合水酸化物の群からなる少なくとも1種である請求項1又は2記載の四三酸化マンガン組成物。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の四三酸化マンガン組成物の製造方法であって、マンガンイオンを含有するマンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる晶析工程、該四三酸化マンガンに金属化合物を析出させる工程を有し、マンガン塩水溶液のpHをpH6〜pH9及び標準水素電極電位に対する酸化還元電位を0〜300mVとし、マンガン塩水溶液中のマンガンイオン濃度を1mol/L以上として四三酸化マンガンを晶析させることを特徴とする四三酸化マンガン組成物の製造方法。
【請求項5】
マンガン塩水溶液に酸素含有ガスを吹き込むことを特徴とする請求項4に記載の四三酸化マンガン組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の四三酸化マンガン組成物とリチウム化合物とを混合する混合工程、熱処理する加熱工程と、を有するリチウム複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム複合酸化物の原料となるマンガン酸化物組成物及びその製造方法、並びにそれを用いたリチウム複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムマンガン系複合酸化物や、リチウムニッケル複合酸化物などのリチウム複合酸化物は、リチウム二次電池の正極材料として使用されている。より電池性能の高いリチウム二次電池の正極材料として、複合化したリチウム複合酸化物が報告されている。
【0003】
複合酸化物を用いた正極材料として、水酸化リチウム、γ−MnOOH、四三酸化コバルト及び水酸化ニッケルを混合し、これを焼成する方法が報告されている(特許文献1)。
【0004】
また、マンガン、ニッケル及びコバルトを含有する溶液を、錯化剤の共存化で析出させ、これらの元素が均一に分散したコバルトマンガン共沈水酸化ニッケル粒子を得、これを正極材料の原料とすることが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−37007号公報
【特許文献2】特開2002−201028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示されたリチウム、マンガン、ニッケル及びコバルトの各原料を混合する正極材料の製造方法では、均一に原料を混合することは困難であった。そのため、得られる正極材料は電池特性が十分ではないだけではなく、正極材料のロットごとのバラつきも多く、安定して同じ電池特性を有する正極材料を得ることができなかった。
【0007】
一方、特許文献2に開示されたコバルトマンガン共沈水酸化ニッケル粒子は、各種原料を混合して得られたものと比べて、元素が均一になる。しかしながら、均一なコバルトマンガン共沈水酸化ニッケル粒子を得るためには、還元剤としてアンモニアやヒドラジンを必要としており、工業的規模での生産は困難であった。
【0008】
本発明は、電池特性、特に充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用の正極材料を与える四三酸化マンガン組成物、及び、簡便なその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討した。その結果、四三酸化マンガン粒子上に各種の金属化合物が析出した構造を持つ四三酸化マンガン組成物が、電池特性、特に充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池用のリチウム複合酸化物を与えることを見出した。
【0010】
さらに、このような四三酸化マンガン組成物は、特定の条件下で析出した四三酸化マンガン粒子上に金属酸化物を析出させることで得ることを見出した。
【0011】
以下、本発明の四三酸化マンガン組成物について説明する。
【0012】
本発明の四三酸化マンガン組成物は、表面に金属化合物を有する四三酸化マンガンである。これにより、本発明の四三酸化マンガン組成物を原料として得られるリチウムマンガン系複合酸化物の電池特性、特に充放電サイクル特性が高くなる。
【0013】
金属化合物は四三酸化マンガン粒子の表面に存在する。具体的な存在形態としては、四三酸化マンガン粒子表面に金属化合物が存在する、いわゆるコアシェル構造を挙げることができる。
【0014】
本発明において「組成物」とは、粒子状で複合化された粒子を意味する。また、「粒子状で複合化される」とは、金属化合物と四三酸化マンガンとが、少なくともいずれかの一次粒子が他方の粒子と凝集して二次粒子を形成していることを意味する。したがって、本発明の四三酸化マンガン組成物は、これを溶媒中に分散しても、金属化合物粒子と四三酸化マンガン粒子とが分離することのない二次粒子、いわゆる複合化粒子である。そのため、例えば、四三酸化マンガン粒子と金属化合物粒子を混合するなどの物理混合によって得られた混合物と、本発明の四三酸化マンガン組成物、すわなち、本発明の四三酸化マンガン複合化粒子とは異なる。
【0015】
四三酸化マンガンは、Hausmannite型結晶構造であり、空間群I41/amdに帰属されるものである。
【0016】
金属化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩を挙げることができ、水酸化物であることが好ましい。
【0017】
金属化合物の金属は、マンガン(Mn)以外の金属元素であることが好ましく、マンガン及びリチウム(Li)以外であることがより好ましく、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、シリカ(Si)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、インジウム(In)及びスズ(Sn)の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、上記の群から選ばれる少なくとも2種であることがより好ましい。本発明の四三酸化マンガン組成物がこれらの金属の化合物を含有することで、本発明の四三酸化マンガン組成物を原料として得られるリチウム複合酸化物の電池特性が向上しやすい。
【0018】
リチウム複合酸化物を製造した場合に充放電サイクル特性や高温での電池特性を向上させる観点から、コバルト又はニッケルの少なくともいずれかであることがより好ましく、コバルト及びニッケルであることが好ましい。
【0019】
金属化合物が複数金属からなる複合金属化合物である場合、各金属の割合は任意である。例えば、金属酸化物がニッケル−コバルト複合金属化合物である場合、ニッケル/コバルトのモル比として1/5から5/1、更には4/5〜6/5を挙げることができる。
【0020】
本発明の四三酸化マンガン組成物において、四三酸化マンガンと金属化合物中の金属の比率は、モル比でMn/Meが4/1から、1/4であることが好ましい(Me:金属化合物中の金属)。
【0021】
本発明の四三酸化マンガン組成物は、その平均粒子径が5μmを超えることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。平均粒子径の上限は、最終的に目的とするリチウム複合酸化物の粒子径により任意に設定することができる。平均粒子径の上限として、20μm以下を例示することができる。
【0022】
本発明において、平均粒子径とは、体積基準で50%になる粒子径(所謂D50)である。複合化粒子の粒子径分布が単分散で有る場合、その最頻粒子径と平均粒子径が一致する、この場合、最頻粒子径をもって平均粒子径とすることができる。
【0023】
本発明の四三酸化マンガン組成物は、そのBET比表面積が10m/gを超えることが好ましく、15m/g以上であることがより好ましい。BET比表面積が10m/gを超えることでリチウム化合物との反応性が向上する傾向にある。
【0024】
以下、本発明の四三酸化マンガン組成物の製造方法について説明する。
【0025】
本発明の四三酸化マンガン組成物は、マンガンイオンを含有するマンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる晶析工程、該四三酸化マンガンに金属化合物を析出させる工程を有することを特徴とする四三酸化マンガン組成物の製造方法により得ることができる。
【0026】
マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる工程では、マンガン塩水溶液から、マンガン水酸化物の結晶をアルカリ性領域で析出させずに四三酸化マンガンを製造する。
【0027】
したがって、本発明の四三酸化マンガン組成物の製造方法は、マンガン塩水溶液からアルカリ性領域でマンガン水酸化物を析出させ、該マンガン水酸化物を酸化剤によって酸化する工程を経ることなく四三酸化マンガンを製造する工程を有する。
【0028】
なお、本発明の四三酸化マンガン組成物の製造方法は、晶析工程において、マンガン水酸化物の結晶相が全く生成しない態様、及び、水酸化物の微結晶が短時間析出した後、それが六角板状の結晶に成長する前に四三酸化マンガンに転化する態様を含む。すなわち、本発明の四三酸化マンガン組成物の製造方法は、晶析工程において、六角板状のマンガン水酸化物の結晶が生じないことを特徴とする。マンガン水酸化物の結晶が生じないことで、密度が高い四三酸化マンガンを得ることができる。
【0029】
六角板状のマンガン水酸化物の結晶が生じたか否かは、得られた四三酸化マンガンの粒子形状を観察することによって判断できる。
【0030】
本発明の製造方法において、四三酸化マンガンを晶析させる際のマンガン塩水溶液のpH又はスラリーのpHは、マンガン水酸化物が生成し難いpHとすることが好ましく、弱酸性から弱アルカリ性までのpHとすることがより好ましい。
【0031】
具体的には、pHが6以上、9以下であることが好ましく、pH6.5以上、pH8.5以下であることがより好ましい。また、pHの中心値がこの範囲であることが更に好ましい。マンガン塩水溶液又はスラリーのpHをこの範囲とすることで、水酸化マンガンが生成しにくくなる。
【0032】
マンガン塩水溶液又はスラリーのpHは、晶析工程中、上述の範囲にすることが好ましい。晶析工程中のマンガン塩水溶液又はスラリーのpHのばらつきは小さくすることが好ましい。具体的には、pHを中心値±0.5の範囲、より好ましくは中心値±0.3の範囲、更に好ましくは中心値±0.1の範囲に維持する。
【0033】
本発明の製造方法では、晶析工程において、マンガン塩水溶液の標準水素電極に対する酸化還元電位(以下、単に「酸化還元電位」ともいう)を0mV以上、300mV以下とすることが好ましく、30mV以上、150mV以下とすることがより好ましい。マンガン塩水溶液の酸化還元電位をこの範囲とすることで、マンガン水酸化物が生成しにくくなる。さらに、マンガン塩水溶液の酸化還元電位を300mV以下とすることで、針状の粒子形態を有するγ−MnOOHが副生しにくくなり、得られる四三酸化マンガンの充填性がより高くなりやすい。
【0034】
晶析工程におけるマンガン塩水溶液又はスラリーの酸化還元電位は、晶析工程中、上述の範囲にすることが好ましい。晶析工程中のマンガン塩水溶液又はスラリーの酸化還元電位のばらつきを小さくすることが好ましい。具体的には、酸化還元電位を、好ましくは中心値±50mV、より好ましくは中心値±30mV、更に好ましくは中心値±20mVの範囲に維持する。
【0035】
晶析工程において、pH、酸化還元電位、又はその両者を上記の範囲として晶析するとともに、pH、酸化還元電位、又はその両者の変動幅を小さくすることで、粒子径が均一な四三酸化マンガンを得ることができる。このようにして得られる四三酸化マンガンは充填性が高く、なおかつ、リチウム化合物と均一に反応しやすくなる。
【0036】
マンガン塩溶液のマンガン源としては、マンガンの硫酸塩、塩化物、硝酸塩、及び酢酸塩の水溶液、及び、マンガン金属や酸化物等を硫酸、塩酸、硝酸、及び酢酸などの各種の酸水溶液に溶解したものを使用することができる。
【0037】
マンガン塩水溶液中のマンガン濃度は任意とすることができる。マンガンイオン濃度として1mol/L以上であることが例示できる。マンガン塩水溶液のマンガンイオン濃度を1mol/L以上とすることで、四三酸化マンガンを効率よく得ることができる。
【0038】
マンガン塩水溶液のpHを調整する場合、アルカリ性の水溶液(以下、アルカリ水溶液)を使用することが好ましい。アルカリ水溶液の種類に制限はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液が例示できる。
【0039】
アルカリ水溶液のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の濃度は1mol/L以上を例示することができる。
【0040】
本発明の製造方法において、晶析工程では、マンガン塩水溶液の温度は60℃以上、95℃以下、好ましくは70℃以上、80℃以下を例示することができる。晶析をする際のマンガン塩水溶液の温度をこの範囲とすることで、四三酸化マンガン組成物の粒度が均一になりやすくなる。
【0041】
本発明の製造方法において、晶析工程では反応時間が長いことが好ましい。これにより、四三酸化マンガンの充填性が高くなるだけでなく、不純物も低下する傾向にある。
【0042】
本発明の製造方法では、晶析工程において、酸化剤を使用して晶析を行なうことが好ましい。酸化剤として、酸素含有ガス等の気体酸化剤や、過酸化水素等の液体酸化剤を例示することができる。操作性を簡便にする観点から、酸化剤は気体酸化剤であることが好ましく、酸素含有ガスであることがより好ましく、空気であることが更に好ましい。さらには、気体酸化剤をマンガン塩水溶液に吹き込んで晶析することがより好ましい。これにより、四三酸化マンガンの晶析がより均一に起こりやすくなる。
【0043】
本発明の製造方法では、晶析工程において、マンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を混合することが好ましい。
【0044】
マンガン塩水溶液とアルカリ性の水溶液の混合方法は、両者を均一に混合できれば特に限定されない。混合方法としては、マンガン塩水溶液にアルカリ水溶液を添加して混合する方法、及びマンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を、純水などの溶媒中に添加して混合する方法等が例示できる。マンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を十分かつ均一に反応させる観点から、混合方法はマンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を溶媒に添加して混合する方法が好ましい。
【0045】
本発明の製造方法では、マンガン塩水溶液から四三酸化マンガンを直接晶析する。そのため、反応雰囲気を工程の途中で変更する必要がない。したがって、マンガン塩水溶液から直接、かつ、連続的に四三酸化マンガンを製造することができる。さらには、四三酸化マンガンを直接晶析させるため、得られる四三酸化マンガンは密度が高くなりやすい。
【0046】
本発明の製造方法では、晶析工程において、錯化剤を共存させずに晶析することが好ましい。本明細書における錯化剤とは、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、及びEDTAの他、これらと同様の錯化能を有するものである。
【0047】
これらの錯化剤は、四三酸化マンガンの晶析挙動に影響を及ぼす。そのため、錯化剤の存在下で得た四三酸化マンガンは、錯化剤を用いずに得た四三酸化マンガンが同様の組成を有していても充填性や粒子径などの粉末物性が異なる。
【0048】
本発明の製造方法では、上記の方法で得られた四三酸化マンガンに金属化合物を析出させる。
【0049】
金属化合物の析出は、四三酸化マンガンを含むスラリーと、金属塩水溶液及びアルカリ水溶液とを混合させることが好ましい。
【0050】
金属塩水溶液としては、各種金属の硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等の水溶液が例示される。また、各種金属又はその酸化物等を硫酸、塩酸、硝酸、酢酸などの各種の酸水溶液に溶解したものも好適に使用できる。
【0051】
金属塩水溶液の金属は、マンガン(Mn)以外の金属元素であることが好ましく、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Mo、Ag、In、Snの化合物の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの金属化合物を含有することで、得られる四三酸化マンガン組成物を原料としてするリチウム複合酸化物の電池特性が向上しやすい。
【0052】
リチウム複合酸化物を製造した場合に充放電サイクル特性や高温での電池特性を向上させる観点から、金属塩水溶液の金属はコバルト又はニッケルの少なくともいずれかであることがより好ましく、コバルト及びニッケルであることが好ましい。
【0053】
金属塩水溶液の濃度は、生産性の観点から、金属イオン濃度として1mol/L以上であることが好ましい。
【0054】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の水溶液が例示することができる。簡便であるため、アルカリ水溶液は水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。また、アルカリ水溶液の濃度は、水酸化物濃度として1mol/L以上を例示することができる。
【0055】
本発明の製造方法では、四三酸化マンガンを含むスラリーと、金属塩水溶液及びアルカリ水溶液を混合することで、四三酸化マンガン上に金属化合物を析出させる。
【0056】
金属化合物組成物の充填性を高くするため、混合温度は40℃以上とすることが好ましく、60℃以上とすることがより好ましい。また、反応時間は1時間以上であることが好ましい。
【0057】
四三酸化マンガンに金属化合物を析出させるためのpHは、任意であるが、pHが7.5以上、10以下を例示できる。
【0058】
本発明のリチウム複合酸化物の製造方法は、上述の金属化合物組成物とリチウム及びリチウム化合物の少なくとも一方とを混合する混合工程と、熱処理する加熱工程と、を有する。
【0059】
リチウム化合物は、如何なるものを用いてもよい。リチウム化合物として、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、シュウ酸リチウム、及びアルキルリチウム等が例示される。好ましいリチウム化合物としては、水酸化リチウム、酸化リチウム、及び炭酸リチウムなどが例示できる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の金属化合物組成物は、リチウムイオン二次電池用の正極活物質であるリチウム複合酸化物の原料として使用できる。このリチウム複合酸化物を製造する際に錯化剤、還元剤、雰囲気制御等が必要としないため簡易な方法でリチウム複合酸化物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】実施例1のニッケル−コバルト水酸化物含有四三酸化マンガン組成物のXRD図
図2】実施例1のニッケル−コバルト水酸化物含有四三酸化マンガン組成物の粒子径分布
図3】実施例1の四三酸化マンガンのXRD図
図4】実施例1のリチウム複合酸化物のXRD図
図5】比較例2のリチウム複合酸化物のXRD図
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0063】
(化学組成の測定)
化学組成はICP発光分析を用いて測定した。
【0064】
(結晶相の同定)
結晶相は、一般的なX線回折装置(マックサイエンス社製MXP−3)を使用して評価した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒、および測定範囲は2θとして5°から100°の範囲で測定した。
【0065】
(粒子径分布測定)
原料として使用した四三酸化マンガンおよび四三酸化マンガン組成物の粒度分布は以下の様に測定した。試料0.5gをアンモニア水50mL中に投入し、10秒間超音波照射して分散スラリーとした。分散スラリーをマイクロトラックHRA(HONEWELL製)に所定量投入し、レーザー回折法で体積分布の測定を行なった。得られた体積分布から、体積粒子径を求めて粒度分布を評価し最頻粒子径を求め、これを平均粒子径とした。
【0066】
(電池性能評価)
リチウム複合酸化物の正極としての電池特性試験を行った。
【0067】
リチウム複合酸化物と導電剤のポリテトラフルオロエチレンとアセチレンブラックとの混合物(商品名:TAB−2)とを重量比で4:1の割合で混合し、1ton/cmの圧力でメッシュ(SUS316製)上にペレット状に成型した後、150℃で減圧乾燥し電池用正極を作製した。得られた電池用正極と、金属リチウム箔(厚さ0.2mm)からなる負極、およびエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dmの濃度で溶解した電解液を用いて電池を構成した。当該電池を用いて定電流で電池電圧が4.3Vから2.5Vの間室温下で充放電させた。初回および10回充放電時の放電容量を評価した。
【0068】
実施例1
[複合酸化物の製造]
硫酸マンガン(和光純薬製,試薬特級)を純水に溶解し、2mol/Lの硫酸マンガンを含有する原料溶液を得た。
【0069】
得られた原料溶液を80℃の純水に添加し、これによりマンガン酸化物を晶析させた反応スラリーを得た。なお、原料溶液の添加は、反応スラリーの酸化還元電位が100mVとなるように空気を吹き込み、また、反応スラリーのpHが8.0で一定となるように2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加しながら行った。原料溶液の添加後、反応スラリーの攪拌を1時間行った。
【0070】
攪拌後、反応スラリーの一部を採取し、これをろ過、洗浄、乾燥することでマンガン酸化物を得た。得られたマンガン酸化物は、結晶相がスピネル構造に相当するJCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のパターンであり、組成がMnOxで表した場合のx=1.33であった。これにより、当該マンガン酸化物は四三酸化マンガンであることが分かった。
【0071】
次いで、硫酸ニッケル(和光純薬製,試薬特級)及び硫酸コバルト(和光純薬製,試薬特級)を純水に溶解し、2mol/Lの硫酸ニッケル及び2mol/Lの硫酸コバルトを含む複合原料溶液を調製した。なお、複合原料溶液中のNi/Coモル比は1であった。
【0072】
上記の四三酸化マンガンを含む攪拌後の反応スラリーに、複合原料溶液67.2gを添加することで、組成物を得た。なお、複合原料溶液の添加は、反応スラリーのpHが7.5で一定となるように2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を反応スラリーに添加しながら行った。
【0073】
複合原料溶液の添加後、反応スラリーを1時間攪拌した後、当該反応スラリーをろ過、洗浄し、得られた組成物を110℃で乾燥することで実施例1の四三酸化マンガン組成物とした。
【0074】
実施例1の四三酸化マンガン組成物は、金属元素としてNiを21.1重量%、Coを21.6重量%、Mnを20.4重量%含有し、Ni/Co/Mnモル比=1.0/1.0/1.0であった。
【0075】
さらに、当該四三酸化マンガン組成物は、結晶相が四三酸化マンガン(Hausmannite、空間群I41/amd)とニッケルコバルト複合水酸化物(層状構造、空間群P −3 m 1)を含んでいた。
【0076】
これらの結果より、実施例1の四三酸化マンガン組成物は、Ni0.5Co0.5(OH)及び、Mnからなるニッケル−コバルト水酸化物含有四三酸化マンガン組成物であることがわかった。さらに、当該ニッケル−コバルト水酸化物含有四三酸化マンガン組成物では、四三酸化マンガン粒子上にニッケル−コバルト水酸化物の一次粒子が凝集した、凝集化粒子であることが分かった。
【0077】
実施例1のニッケル−コバルト水酸化物含有四三酸化マンガン組成物の評価結果を表1に、XRD図を図1に、粒子径分布を図2示す。また、実施例1で得られた四三酸化マンガンのXRD図を図3に示す。
【0078】
[リチウム複合酸化物の製造]
得られたニッケル−コバルト水酸化物含有四三酸化マンガン組成物と、平均粒子径0.3μmの炭酸リチウムとをLi/(Ni+Co+Mn)モル比=1.05となるように混合した後、大気中900℃で24時間焼成してリチウム複合酸化物を得た。
【0079】
得られたリチウム複合酸化物は、組成がLi1.04Ni0.33Co0.33Mn0.342.0、結晶相が層状岩塩型構造(空間群R−3m)の単一相であった。
【0080】
得られたリチウム複合酸化物の電池特性評価の結果、初回放電容量は150.0mAh/g、10回目の放電容量は148.5mAh/gであった。初回および10回目の容量比率は99.0%であった。
【0081】
実施例1のリチウム複合酸化物の評価結果を表2に、XRD図を図4に示した。
【0082】
比較例1
硫酸ニッケル(和光純薬製,試薬特級)及び硫酸コバルト(和光純薬製,試薬特級)を純水に溶解し、2mol/Lの硫酸ニッケル及び2mol/Lの硫酸コバルトを含む原料溶液を調製した。原料溶液中のNi/Coモル比は1であった。
【0083】
得られた原料溶液67.3gを80℃の純水に添加して共沈化合物を析出させ、反応スラリーを得た。なお、原料溶液の添加は、純水(反応スラリー)のpHが8.0となるように2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を純水(反応スラリー)に添加しながら行った。原料溶液の添加後、反応スラリーの攪拌を1時間行った。
【0084】
攪拌後、ろ過、洗浄、乾燥することで、共沈化合物の乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末は、組成がNi/Coモル比=1:1、結晶相が層状構造(空間群P−31m)であり、Ni0.5Co0.5(OH)で表されるニッケルコバルト複合水酸化物であることがわかった。また、SEM観察の結果、当該ニッケルコバルト複合酸化物は板状の形態をしていることが分かった。
【0085】
得られたニッケルコバルト複合水酸化物、Mn粉末(商品名:ブラウノックス、東ソー株式会社製)及び炭酸リチウムを、Li/(Ni+Co)/Mnモル比=1.05/(0.33+0.33)/0.34となるように混合し、大気中900℃で24時間焼成してリチウム複合酸化物を得た。
【0086】
得られたリチウム複合酸化物は、組成がLi1.03Ni0.33Co0.33Mn0.34であった。また、当該リチウム複合酸化物は、結晶相が層状岩塩型構造(空間群R−3m)を主相とし、なおかつ、LiMnO(空間群C2/m)及びNiOを含有する混合物であることがわかった。
【0087】
得られたリチウム複合酸化物の電池特性評価の結果、初回放電容量は126.0mAh/g、10回目の放電容量は70.7mAh/gであった。初回および10回目の容量比率は56.1%であった。
【0088】
比較例1のリチウム複合酸化物の評価結果を表2に、XRD図を図4に示した。
【0089】
比較例2
塩化ニッケル(和光純薬製、試薬特級)、塩化コバルト(和光純薬製、試薬特級)、及び塩化マンガン(和光純薬製、試薬特級)を純水に溶解し、0.5mol/Lの塩化ニッケル、0.5mol/Lの塩化コバルト、及び0.5mol/Lの塩化マンガンを含有する原料溶液を得た。
【0090】
得られた原料溶液を60℃の純水に添加し、これにより共沈水酸化物を析出させた反応スラリーを得た。なお、原料溶液の添加は、純水(反応スラリー)のpHが9.0で一定となるように3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を純水(反応スラリー)に添加しながら行った。
【0091】
得られた共沈化合物スラリーをろ過した後、純水で洗浄し、乾燥し、比較例2の共沈化合物を得た。
【0092】
得られた共沈化合物は、組成がNi:Co:Mnモル比=1:1:1であり、結晶相が層状構造であった。これらの結果より、当該共沈化合物は、Ni1/3Co1/3Mn1/3(OH)で表される、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物であることがわかった。粒度分布曲線はシャープな単一ピークを示し、最頻粒子径は13μmであった。また、タップ密度は1.5g/ccであった。
【0093】
[リチウム複合酸化物の製造]
得られたニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物と炭酸リチウムとを、Li/(Ni+Co+Mn)モル比=1.05/1となるように混合し、大気中900℃で12時間焼成してリチウム複合酸化物を得た。
【0094】
得られたリチウム複合酸化物は、組成がLi1.04[Ni0.33Mn0.34Co0.33]Oであり、その結晶構造は層状岩塩構造(空間群R−3m)の単相であった。
【0095】
得られたリチウム複合酸化物の電池性能評価の結果、初回放電容量は150mAh/g、10回目の放電容量は148.0mAh/gであった。初回および10回目の容量比率は98.7%であった。
【0096】
比較例2のリチウム複合酸化物の評価結果を表2に、XRD図を図5に示した。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
実施例及び比較例の結果より、本発明の四三酸化マンガン組成物を使用して得られたリチウム系複合酸化物は、固相混合や、共沈法により得られたリチウム複合酸化物と比較しても初期放電容量が大きいだけでなく、充放電サイクル寿命が高かった。
図1
図2
図3
図4
図5