【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討した。その結果、四三酸化マンガン粒子上に各種の金属化合物が析出した構造を持つ四三酸化マンガン組成物が、電池特性、特に充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池用のリチウム複合酸化物を与えることを見出した。
【0010】
さらに、このような四三酸化マンガン組成物は、特定の条件下で析出した四三酸化マンガン粒子上に金属酸化物を析出させることで得ることを見出した。
【0011】
以下、本発明の四三酸化マンガン組成物について説明する。
【0012】
本発明の四三酸化マンガン組成物は、表面に金属化合物を有する四三酸化マンガンである。これにより、本発明の四三酸化マンガン組成物を原料として得られるリチウムマンガン系複合酸化物の電池特性、特に充放電サイクル特性が高くなる。
【0013】
金属化合物は四三酸化マンガン粒子の表面に存在する。具体的な存在形態としては、四三酸化マンガン粒子表面に金属化合物が存在する、いわゆるコアシェル構造を挙げることができる。
【0014】
本発明において「組成物」とは、粒子状で複合化された粒子を意味する。また、「粒子状で複合化される」とは、金属化合物と四三酸化マンガンとが、少なくともいずれかの一次粒子が他方の粒子と凝集して二次粒子を形成していることを意味する。したがって、本発明の四三酸化マンガン組成物は、これを溶媒中に分散しても、金属化合物粒子と四三酸化マンガン粒子とが分離することのない二次粒子、いわゆる複合化粒子である。そのため、例えば、四三酸化マンガン粒子と金属化合物粒子を混合するなどの物理混合によって得られた混合物と、本発明の四三酸化マンガン組成物、すわなち、本発明の四三酸化マンガン複合化粒子とは異なる。
【0015】
四三酸化マンガンは、Hausmannite型結晶構造であり、空間群I41/amdに帰属されるものである。
【0016】
金属化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩を挙げることができ、水酸化物であることが好ましい。
【0017】
金属化合物の金属は、マンガン(Mn)以外の金属元素であることが好ましく、マンガン及びリチウム(Li)以外であることがより好ましく、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、シリカ(Si)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、インジウム(In)及びスズ(Sn)の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、上記の群から選ばれる少なくとも2種であることがより好ましい。本発明の四三酸化マンガン組成物がこれらの金属の化合物を含有することで、本発明の四三酸化マンガン組成物を原料として得られるリチウム複合酸化物の電池特性が向上しやすい。
【0018】
リチウム複合酸化物を製造した場合に充放電サイクル特性や高温での電池特性を向上させる観点から、コバルト又はニッケルの少なくともいずれかであることがより好ましく、コバルト及びニッケルであることが好ましい。
【0019】
金属化合物が複数金属からなる複合金属化合物である場合、各金属の割合は任意である。例えば、金属酸化物がニッケル−コバルト複合金属化合物である場合、ニッケル/コバルトのモル比として1/5から5/1、更には4/5〜6/5を挙げることができる。
【0020】
本発明の四三酸化マンガン組成物において、四三酸化マンガンと金属化合物中の金属の比率は、モル比でMn/Meが4/1から、1/4であることが好ましい(Me:金属化合物中の金属)。
【0021】
本発明の四三酸化マンガン組成物は、その平均粒子径が5μmを超えることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。平均粒子径の上限は、最終的に目的とするリチウム複合酸化物の粒子径により任意に設定することができる。平均粒子径の上限として、20μm以下を例示することができる。
【0022】
本発明において、平均粒子径とは、体積基準で50%になる粒子径(所謂D50)である。複合化粒子の粒子径分布が単分散で有る場合、その最頻粒子径と平均粒子径が一致する、この場合、最頻粒子径をもって平均粒子径とすることができる。
【0023】
本発明の四三酸化マンガン組成物は、そのBET比表面積が10m
2/gを超えることが好ましく、15m
2/g以上であることがより好ましい。BET比表面積が10m
2/gを超えることでリチウム化合物との反応性が向上する傾向にある。
【0024】
以下、本発明の四三酸化マンガン組成物の製造方法について説明する。
【0025】
本発明の四三酸化マンガン組成物は、マンガンイオンを含有するマンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる晶析工程、該四三酸化マンガンに金属化合物を析出させる工程を有することを特徴とする四三酸化マンガン組成物の製造方法により得ることができる。
【0026】
マンガン塩水溶液からマンガン水酸化物を経由せずに四三酸化マンガンを晶析させる工程では、マンガン塩水溶液から、マンガン水酸化物の結晶をアルカリ性領域で析出させずに四三酸化マンガンを製造する。
【0027】
したがって、本発明の四三酸化マンガン組成物の製造方法は、マンガン塩水溶液からアルカリ性領域でマンガン水酸化物を析出させ、該マンガン水酸化物を酸化剤によって酸化する工程を経ることなく四三酸化マンガンを製造する工程を有する。
【0028】
なお、本発明の四三酸化マンガン組成物の製造方法は、晶析工程において、マンガン水酸化物の結晶相が全く生成しない態様、及び、水酸化物の微結晶が短時間析出した後、それが六角板状の結晶に成長する前に四三酸化マンガンに転化する態様を含む。すなわち、本発明の四三酸化マンガン組成物の製造方法は、晶析工程において、六角板状のマンガン水酸化物の結晶が生じないことを特徴とする。マンガン水酸化物の結晶が生じないことで、密度が高い四三酸化マンガンを得ることができる。
【0029】
六角板状のマンガン水酸化物の結晶が生じたか否かは、得られた四三酸化マンガンの粒子形状を観察することによって判断できる。
【0030】
本発明の製造方法において、四三酸化マンガンを晶析させる際のマンガン塩水溶液のpH又はスラリーのpHは、マンガン水酸化物が生成し難いpHとすることが好ましく、弱酸性から弱アルカリ性までのpHとすることがより好ましい。
【0031】
具体的には、pHが6以上、9以下であることが好ましく、pH6.5以上、pH8.5以下であることがより好ましい。また、pHの中心値がこの範囲であることが更に好ましい。マンガン塩水溶液又はスラリーのpHをこの範囲とすることで、水酸化マンガンが生成しにくくなる。
【0032】
マンガン塩水溶液又はスラリーのpHは、晶析工程中、上述の範囲にすることが好ましい。晶析工程中のマンガン塩水溶液又はスラリーのpHのばらつきは小さくすることが好ましい。具体的には、pHを中心値±0.5の範囲、より好ましくは中心値±0.3の範囲、更に好ましくは中心値±0.1の範囲に維持する。
【0033】
本発明の製造方法では、晶析工程において、マンガン塩水溶液の標準水素電極に対する酸化還元電位(以下、単に「酸化還元電位」ともいう)を0mV以上、300mV以下とすることが好ましく、30mV以上、150mV以下とすることがより好ましい。マンガン塩水溶液の酸化還元電位をこの範囲とすることで、マンガン水酸化物が生成しにくくなる。さらに、マンガン塩水溶液の酸化還元電位を300mV以下とすることで、針状の粒子形態を有するγ−MnOOHが副生しにくくなり、得られる四三酸化マンガンの充填性がより高くなりやすい。
【0034】
晶析工程におけるマンガン塩水溶液又はスラリーの酸化還元電位は、晶析工程中、上述の範囲にすることが好ましい。晶析工程中のマンガン塩水溶液又はスラリーの酸化還元電位のばらつきを小さくすることが好ましい。具体的には、酸化還元電位を、好ましくは中心値±50mV、より好ましくは中心値±30mV、更に好ましくは中心値±20mVの範囲に維持する。
【0035】
晶析工程において、pH、酸化還元電位、又はその両者を上記の範囲として晶析するとともに、pH、酸化還元電位、又はその両者の変動幅を小さくすることで、粒子径が均一な四三酸化マンガンを得ることができる。このようにして得られる四三酸化マンガンは充填性が高く、なおかつ、リチウム化合物と均一に反応しやすくなる。
【0036】
マンガン塩溶液のマンガン源としては、マンガンの硫酸塩、塩化物、硝酸塩、及び酢酸塩の水溶液、及び、マンガン金属や酸化物等を硫酸、塩酸、硝酸、及び酢酸などの各種の酸水溶液に溶解したものを使用することができる。
【0037】
マンガン塩水溶液中のマンガン濃度は任意とすることができる。マンガンイオン濃度として1mol/L以上であることが例示できる。マンガン塩水溶液のマンガンイオン濃度を1mol/L以上とすることで、四三酸化マンガンを効率よく得ることができる。
【0038】
マンガン塩水溶液のpHを調整する場合、アルカリ性の水溶液(以下、アルカリ水溶液)を使用することが好ましい。アルカリ水溶液の種類に制限はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液が例示できる。
【0039】
アルカリ水溶液のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の濃度は1mol/L以上を例示することができる。
【0040】
本発明の製造方法において、晶析工程では、マンガン塩水溶液の温度は60℃以上、95℃以下、好ましくは70℃以上、80℃以下を例示することができる。晶析をする際のマンガン塩水溶液の温度をこの範囲とすることで、四三酸化マンガン組成物の粒度が均一になりやすくなる。
【0041】
本発明の製造方法において、晶析工程では反応時間が長いことが好ましい。これにより、四三酸化マンガンの充填性が高くなるだけでなく、不純物も低下する傾向にある。
【0042】
本発明の製造方法では、晶析工程において、酸化剤を使用して晶析を行なうことが好ましい。酸化剤として、酸素含有ガス等の気体酸化剤や、過酸化水素等の液体酸化剤を例示することができる。操作性を簡便にする観点から、酸化剤は気体酸化剤であることが好ましく、酸素含有ガスであることがより好ましく、空気であることが更に好ましい。さらには、気体酸化剤をマンガン塩水溶液に吹き込んで晶析することがより好ましい。これにより、四三酸化マンガンの晶析がより均一に起こりやすくなる。
【0043】
本発明の製造方法では、晶析工程において、マンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を混合することが好ましい。
【0044】
マンガン塩水溶液とアルカリ性の水溶液の混合方法は、両者を均一に混合できれば特に限定されない。混合方法としては、マンガン塩水溶液にアルカリ水溶液を添加して混合する方法、及びマンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を、純水などの溶媒中に添加して混合する方法等が例示できる。マンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を十分かつ均一に反応させる観点から、混合方法はマンガン塩水溶液とアルカリ水溶液を溶媒に添加して混合する方法が好ましい。
【0045】
本発明の製造方法では、マンガン塩水溶液から四三酸化マンガンを直接晶析する。そのため、反応雰囲気を工程の途中で変更する必要がない。したがって、マンガン塩水溶液から直接、かつ、連続的に四三酸化マンガンを製造することができる。さらには、四三酸化マンガンを直接晶析させるため、得られる四三酸化マンガンは密度が高くなりやすい。
【0046】
本発明の製造方法では、晶析工程において、錯化剤を共存させずに晶析することが好ましい。本明細書における錯化剤とは、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、及びEDTAの他、これらと同様の錯化能を有するものである。
【0047】
これらの錯化剤は、四三酸化マンガンの晶析挙動に影響を及ぼす。そのため、錯化剤の存在下で得た四三酸化マンガンは、錯化剤を用いずに得た四三酸化マンガンが同様の組成を有していても充填性や粒子径などの粉末物性が異なる。
【0048】
本発明の製造方法では、上記の方法で得られた四三酸化マンガンに金属化合物を析出させる。
【0049】
金属化合物の析出は、四三酸化マンガンを含むスラリーと、金属塩水溶液及びアルカリ水溶液とを混合させることが好ましい。
【0050】
金属塩水溶液としては、各種金属の硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等の水溶液が例示される。また、各種金属又はその酸化物等を硫酸、塩酸、硝酸、酢酸などの各種の酸水溶液に溶解したものも好適に使用できる。
【0051】
金属塩水溶液の金属は、マンガン(Mn)以外の金属元素であることが好ましく、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Mo、Ag、In、Snの化合物の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの金属化合物を含有することで、得られる四三酸化マンガン組成物を原料としてするリチウム複合酸化物の電池特性が向上しやすい。
【0052】
リチウム複合酸化物を製造した場合に充放電サイクル特性や高温での電池特性を向上させる観点から、金属塩水溶液の金属はコバルト又はニッケルの少なくともいずれかであることがより好ましく、コバルト及びニッケルであることが好ましい。
【0053】
金属塩水溶液の濃度は、生産性の観点から、金属イオン濃度として1mol/L以上であることが好ましい。
【0054】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の水溶液が例示することができる。簡便であるため、アルカリ水溶液は水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。また、アルカリ水溶液の濃度は、水酸化物濃度として1mol/L以上を例示することができる。
【0055】
本発明の製造方法では、四三酸化マンガンを含むスラリーと、金属塩水溶液及びアルカリ水溶液を混合することで、四三酸化マンガン上に金属化合物を析出させる。
【0056】
金属化合物組成物の充填性を高くするため、混合温度は40℃以上とすることが好ましく、60℃以上とすることがより好ましい。また、反応時間は1時間以上であることが好ましい。
【0057】
四三酸化マンガンに金属化合物を析出させるためのpHは、任意であるが、pHが7.5以上、10以下を例示できる。
【0058】
本発明のリチウム複合酸化物の製造方法は、上述の金属化合物組成物とリチウム及びリチウム化合物の少なくとも一方とを混合する混合工程と、熱処理する加熱工程と、を有する。
【0059】
リチウム化合物は、如何なるものを用いてもよい。リチウム化合物として、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、シュウ酸リチウム、及びアルキルリチウム等が例示される。好ましいリチウム化合物としては、水酸化リチウム、酸化リチウム、及び炭酸リチウムなどが例示できる。