特許第6221434号(P6221434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221434
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】ジルコニア焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   C04B35/488
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-144205(P2013-144205)
(22)【出願日】2013年7月10日
(65)【公開番号】特開2014-55096(P2014-55096A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2016年6月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-181056(P2012-181056)
(32)【優先日】2012年8月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 光二
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−024555(JP,A)
【文献】 特公昭61−021184(JP,B2)
【文献】 特開平04−349172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48− 35/493
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニアを0.5〜3重量%を含むイットリア濃度2〜4モル%のジルコニア焼結体であり、該ジルコニア焼結体の相対密度が99.5%以上、平均粒径が0.3〜0.5μm、かつ、表面粗さが0.1μm以下のジルコニア焼結体。
【請求項2】
ジルコニア焼結体の3点曲げ強度が、1100MPa以上である請求項1記載のジルコニア焼結体。
【請求項3】
BET比表面積6〜20m/g、平均粒径1μm以下、かつ、ゲルマニアを0.5〜3重量%含有するイットリア濃度2〜4モル%のジルコニア粉末を成形し、該ジルコニア粉末を1350〜1450℃で焼成してジルコニア焼結体を得、次いで、該ジルコニア焼結体の表面粗さが0.1μm以下になるまで鏡面加工する請求項1又は請求項2記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密加工部品,光コネクター部品及び粉砕機用部材などの構造部材に使用される、特に耐水熱特性に優れたジルコニア焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イットリア安定化正方晶ジルコニアセラミックスは、機械的特性(強度・靭性)に優れているため、光コネクター部品,精密加工部品,粉砕メディア,粉砕機用部剤,刃物等の幅広い用途で使用されている。高強度・高靭性の発現は、応力集中場で準安定相の正方晶が体積膨張を伴って安定相の単斜晶へ相変態するために、破壊エネルギー吸収と圧縮応力が生じるためにクラックの進展が抑制される、即ち、応力誘起相変態による強化(変態強化)機構で理解されている。
【0003】
一方、このジルコニアセラミックスは、水雰囲気下では、長期間の間に除々に正方晶が単斜晶へ自発的に相変態するために、体積膨張に由来する微細クラックが発生して強度・靭性が低下する劣化現象が起こることが指摘されている。最近では、様々な用途での高性能化の要求が高まってきており、特に使用環境の厳しい条件でも劣化しない品質信頼性の高い、即ち、製品寿命の長いものが求められている。品質信頼性は、水熱処理による劣化加速試験で評価されている。
【0004】
このジルコニア材料の本質的な欠点である劣化を改善するために、出発原料であるジルコニア粉末に様々な添加物を加えて焼結性を改善し、耐水熱特性を向上させようとする研究がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、2.8〜4.5モル%のイットリアで部分安定化されると共に、分散強化型酸化物(4A族(4族)、5A族(5族)、3B族(13族)、4B族(14族)元素)の少なくとも1種を0.1〜2質量%含有するジルコニア系セラミックスが開示されているが、強度につき未だ改善の余地があった。
【0006】
また、特許文献2には、安定化剤としてイットリアを含み、さらにジルコニウムイオンのイオン半径よりも小さいイオン半径を有する陽イオン及び/又は価数が4価以外の陽イオンの1種以上を含むジルコニア焼結体が開示され、このような焼結体としてイットリア及びゲルマニアを含むジルコニア焼結体が開示されている。この特許文献2に記載の発明の目的は、上記のような陽イオンを含むことにより、成形・焼結する際の緻密化速度を促進し、低い焼結温度で高密度の焼結体を得ることにある(特許文献2[0008]、[0024]段落参照)。しかしながら、得られた焼結体の強度については、更なる高強度化の市場要求を満たすために、より一層の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−163666号公報
【特許文献2】特開2007−332026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、上記のような従来方法における欠点を解消し、強度及び靭性に優れており、これに加えて耐水熱劣化性に優れるジルコニア焼結体の提供;並びにそのジルコニア焼結体を簡易なプロセスにより製造することのできる製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ジルコニア焼結過程で形成される焼結体微構造、機械的特性及び耐水熱劣化性の関係について詳細に検討し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)ゲルマニアを0.5〜3重量%を含むイットリア濃度2〜4モル%のジルコニア焼結体であり、該ジルコニア焼結体の相対密度が99%以上、平均粒径が0.3〜0.5μm、かつ、表面粗さが0.1μm以下のジルコニア焼結体。
(2)ジルコニア焼結体の3点曲げ強度が、1100MPa以上である上記(1)記載のジルコニア焼結体。
(3)BET比表面積6〜20m/g、平均粒径1μm以下、かつ、ゲルマニアを0.5〜3重量%含有するイットリア濃度2〜4モル%のジルコニア粉末を成形し、該ジルコニア粉末を1350〜1450℃で焼成してジルコニア焼結体を得、次いで、該ジルコニア焼結体の表面粗さが0.1μm以下になるまで鏡面加工することによる上記(1)又は(2)記載のジルコニア焼結体の製造方法。
を要旨とするものである。
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、最初に、本明細書において使用する用語の意味を説明する。
【0012】
ジルコニア焼結体に係わる「ジルコニア」とは、イットリアが安定化剤として固溶しているものをいう。「イットリア濃度」とは、Y/(ZrO+Y)の比率をモル%として表した値をいう。「ゲルマニア濃度」とは、GeO/(ZrO+Y+GeO)の比率を重量%として表した値をいう。
【0013】
「相対密度」とは、実験的に求めた実測密度ρと、以下に示す数式1〜4により計算されたイットリア及びゲルマニアを含有するジルコニアの真密度ρを用い、(ρ/ρ)×100の比率(%)に換算して表した値のことをいう。
A=0.5080+0.06980X/(100+X) (1)
C=0.5195−0.06180X/(100+X) (2)
ρ=[124.25(100−X)+225.81X]/[150.5(100
+X)AC] (3)
ρ=100/[(Y/6.239)+(100−Y)/ρ] (4)
ここで、XとYは、それぞれイットリア濃度(モル%),ゲルマニア濃度(重量%)を表す。
【0014】
結晶粒子に係わる「平均粒径」とは、電子顕微鏡を用いてプラニメトリック法により算出されたものの値をいう。
【0015】
「表面粗さ」とは、算術平均粗さ(Ra)のことであり、JIS B0601−1994で定義された計算式を用いて求められた値をいう。
【0016】
「単斜晶率(f)」とは、水熱処理した焼結体についてXRD測定を行い、単斜晶の(111)及び(11−1)反射の面積強度、立方晶,正方晶及び菱面体晶の(111)反射の面積強度をそれぞれ求めて、以下の数式5により算出された値(%)をいう。
(%)=[I(111)+I(11−1)]×100/[I(111)+I(11−1)+I(111)+I(111)+I(111)] (5)
ここで、Iは各反射の面積強度、添字m,t,c及びoはそれぞれ単斜晶,正方晶,立方晶,菱面体晶を示す。
【0017】
ジルコニア粉末に係わる「BET比表面積」は、吸着分子として窒素を用いて測定したものをいう。
【0018】
「平均粒径」とは、体積基準分布が中央値(メディアン)である粒子と同じ体積の球の直径をいい、マイクロトラック粒度分布測定装置によって測定したものである。
【0019】
本発明のジルコニア焼結体は、ゲルマニア濃度として0.5〜3重量%、イットリア濃度として2〜4モル%を含有するものである。イットリア濃度及びゲルマニア濃度がこの範囲内にあると、イットリアの固溶による正方晶の相安定性悪化が抑制され、ジルコニアに固溶しているゲルマニアによる劣化抑制効果が充分作用して品質信頼性に優れるものとなり、変態強化機構が充分作用し、更に、焼結体中にゲルマニアが析出して悪影響を及ぼすことがないために、強度・靱性が低くなることなく、良好な機械的特性が維持される。
【0020】
さらに、上記のジルコニア焼結体は、相対密度が99%以上、平均粒径が0.3〜0.5μm、かつ、表面粗さが0.1μm以下であることを特徴とする。
【0021】
相対密度が99%以上であると、強度・靭性の低下要因となる粗大気孔に由来する欠陥や亀裂のサイズが大きくなることを抑制することができる。
【0022】
また、平均粒径が0.3〜0.5μmにあると、相変態に及ぼす粒径効果の寄与が変化しないため、正方晶の安定性に変化がなく、よって変態強化機構が充分作用した結果、強度・靱性の低下が抑制される。
【0023】
表面粗さが0.1μm以下であると、表面欠陥や微細な傷に起因する表面近傍での正方晶の安定性が悪化することなく、かつ、ゲルマニアの劣化抑制効果の低下も抑制されるため、良好な強度・靱性を有するジルコニア焼結とすることができる。表面粗さとしては、0.08μm以下が好ましく、0.07μm以下が更に好ましく、0.03μm以下が特に好ましい。
【0024】
次に、本発明のジルコニア焼結体の製造方法について説明する。
【0025】
本発明のジルコニア焼結体を得るにあたっては、BET比表面積6〜20m/g、平均粒径1μm以下、かつ、ゲルマニアを0.5〜3重量%含有するイットリア濃度2〜4モル%のジルコニア粉末を用いることができる。
【0026】
BET比表面積をこの範囲とすることにより、焼結性・成形性が良好であり、本発明の高い相対密度を有する焼結体を得ることができる。
【0027】
また、ジルコニア粉末の平均粒径を1μm以下とすることにより、焼結性が良好となり、本発明の高い相対密度を有する焼結体を得ることができる。ジルコニア粉末の平均粒径としては、0.7μm以下が好ましい。
【0028】
続いて、本発明では、上記のジルコニア粉末を成形して、1350〜1450℃で焼成する。焼成温度が1350℃〜1450℃の温度範囲にあることにより、焼結体の平均粒径を0.3〜0.5μmとし、本発明の高い相対密度を有する焼結体を得ることができる。
【0029】
焼成時の昇温速度は特に限定されないが、生産性の観点から50〜200℃/時間とするのが好ましく、焼成温度の保持時間は2〜5時間程度でよい。ジルコニア粉末を成形する方法としては、加圧成形,射出成形,押出成形等の公知の方法を選択することができる。
【0030】
次いで、上記のジルコニア焼結体を、表面粗さが0.1μm以下、好ましくは0.08μm以下、更に好ましくは0.07μm以下、特に好ましくは0.03μm以下になるまで鏡面加工を行う。鏡面加工の方法としては、例えば、平面研削盤で焼結体表面を削ったあとに、鏡面研磨装置でダイヤモンド砥粒を用いて表面粗さが0.1μm以下になるまで研磨すればよい。
【0031】
上記のジルコニア粉末の製造方法に特に制限はなく、イットリア濃度、ゲルマニア濃度、BET比表面積及び平均粒径を満足しているものであれば、加水分解法や中和共沈法などのいかなる方法で得られたものを用いてもよい。
【0032】
このような粉末としては、例えばイットリウム及びゲルマニウムを含有する水和ジルコニア微粒子を900〜1100℃の温度で仮焼、粉砕して得られるジルコニア粉末や、イットリウム含有水和ジルコニア微粒子を900〜1100℃の温度で仮焼した後ゲルマニウム化合物を加えて湿式粉砕して得られるジルコニア粉末を例示することができる。
【0033】
このイットリウム含有水和ジルコニア微粒子としては、ジルコニウム塩水溶液の加水分解反応により得られる水和ジルコニアゾルに、イットリウム化合物を添加して乾燥させたものを用いればよい。
【0034】
イットリウム及びゲルマニウムを含有する水和ジルコニア微粒子も同様に、ジルコニウム塩水溶液の加水分解反応により得られる水和ジルコニアゾルにイットリウム化合物及びゲルマニウム化合物を添加して乾燥させればよい。
【0035】
また、場合によっては、イットリウム化合物及びゲルマニウム化合物を、ジルコニウム塩水溶液の加水分解反応前に予め所定量添加してから加水分解反応を行って調製した水和ジルコニアゾル含有液を用いてもよい。
【0036】
水和ジルコニアゾルの製造に用いられるジルコニウム塩としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウム,硝酸ジルコニル,塩化ジルコニウム,硫酸ジルコニウムなどを挙げることができるが、この他に水酸化ジルコニウムと酸との混合物を用いてもよい。
【0037】
イットリウム化合物としては、例えば、イットリウムの塩化物,水酸化物,含水酸化物、酸化物などを挙げることができる。
【0038】
また、ゲルマニウム化合物としては、例えば、ゲルマニウムの塩化物,水酸化物,含水酸化物、酸化物などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0039】
以上、詳述したとおり、本発明のジルコニア焼結体は、ゲルマニア添加量、平均粒径、相対密度及び焼結体表面の表面粗さを制御することにより、曲げ強度・靭性を低下させることなく、耐水熱劣化性にも優れている焼結体である。また、本発明の製造方法により、上記のジルコニア焼結体を簡易なプロセスにより製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何等限定されるものではない。
【0041】
実施例・比較例中、ジルコニア微粉末の平均粒径は、マイクロトラック粒度分布計を用いて測定した。試料の前処理条件としては、粉末を蒸留水に懸濁させ、超音波ホモジナイザーを用いて3分間分散させた。
【0042】
ジルコニア粉末の成形は、金型プレスにより予備成形を行ったあとに、成形圧力200MPaで冷間静水圧プレス(CIP)を行った。ついで得られた成形体を所定温度(保持時間;2時間)に設定して焼結させた。
【0043】
焼結体の鏡面加工は、平面研削盤で焼結体表面を削ったあとに、鏡面研磨装置で平均粒径9μm,6μm,1μmのダイヤモンド砥粒を用いて鏡面研磨した。
【0044】
ジルコニア焼結体の密度は、アルキメデス法により測定した。
【0045】
表面粗さは、走査型レーザー顕微鏡(キーエンス製,型番:VK−9500/VK−9510)を用いて、倍率150(標準レンズ),測定面積70.29×93.75μmの条件で測定した。
【0046】
結晶粒子の平均粒径は、熱エッチング処理を行ったあとに、電界放出形走査型電子顕微鏡を用いてプラニメトリック法により算出した。具体的には、顕微鏡画像上に円を描いたとき、円内の粒子数nと円周にかかった粒子数Nの合計が少なくとも200個となるような円を描いて、または200個に満たない画像の場合には、粒子数の合計(n+N)が少なくとも200個となるように数視野の画像を用いて複数の円を描き、プラニメトリック法により平均粒径を求めた。
【0047】
焼結体中のゲルマニウム分布は、波長分散型電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて観察した。
【0048】
曲げ強度は、JIS R1601に準じた3点曲げ試験で評価した。
【0049】
劣化加速試験は、焼結体を140℃の熱水中に所定時間浸漬させ、生成する単斜晶の比率を求めることによって評価した。単斜晶率は、浸漬処理した焼結体についてX線回折測定を行い、前記の数式5により算出した。実施例6,実施例7,実施例8及び比較例5以外では、菱面体晶の(111)反射は観測されなかったのでI(111)=0とした。
実施例1
2モル/リットルのオキシ塩化ジルコニウム水溶液2.5リットルに2モル/リットルのアンモニア水1.4リットルを混合し、蒸留水を加えてジルコニア換算濃度0.5モル/リットルの溶液を調製した。この溶液を還流器付きフラスコ中で攪拌しながら加水分解反応を煮沸温度で180時間行った。
【0050】
得られた水和ジルコニアゾルに、塩化イットリウムをイットリア濃度が3モル%になるように添加して乾燥させ、980℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼粉を水洗処理したあとに、ゲルマニア濃度が0.8重量%になるように二酸化ゲルマニウム粉末を添加し、振動ミルで湿式粉砕して乾燥させた。得られたジルコニア粉末の特性を表1に示す。
【0051】
次いで、上記で得られたジルコニア粉末を成形して1400℃の条件で焼結させ、焼結体表面を鏡面加工した。鏡面加工条件は、平面研削盤で焼結体表面を削ったあとに、鏡面研磨装置でポリッシュ用研磨パッドを用い9→6→1μmのダイヤモンド砥粒の順に鏡面研磨した。EPMA観察の結果、ゲルマニウムの凝集は認められず、均一に分散固溶していることが確認された。
【0052】
得られた焼結体の特性(相対密度,平均粒径,表面粗さ,曲げ強度)と劣化加速試験(エージング時間:25時間,60時間)後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が2%であることから、劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
実施例2
ゲルマニア濃度が0.6重量%及び焼成温度が1350℃以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が1%であることから、劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
実施例3
ゲルマニア濃度が2重量%及び焼成温度が1450℃以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が5%であることから、劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
実施例4
仮焼温度が1060℃,ゲルマニア添加量が1.5重量%及び焼成温度が1420℃以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。エージング60時間での単斜晶率が8%であることから、劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
実施例5
塩化イットリウム粉末と共に二酸化ゲルマニウム粉末を水和ジルコニアゾルに添加して乾燥させ、980℃の温度で2時間仮焼した以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が1%であることから、劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
実施例6
鏡面研磨装置で9→6μmのダイヤモンド砥粒の順に鏡面研磨した以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が12%であることから、劣化しにくい焼結体であることが確認された。
実施例7
鏡面研磨装置で9μmのダイヤモンド砥粒のみで鏡面研磨した以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が15%であることから、劣化しにくい焼結体であることが確認された。
実施例8
鏡面研磨装置でラップ用研磨パッドを用いた以外は、実施例7と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が21%であることから、劣化しにくい品質信頼性の高い焼結体であることが確認された。
比較例1
焼結体表面を鏡面加工しない以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が70%であることから、劣化しやすい焼結体であることが確認された。
比較例2
ゲルマニア濃度が0.3重量%及び焼結温度が1300℃以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。曲げ強度が780MPaと低く、機械的特性に劣る焼結体であることが確認された。
比較例3
焼成温度が1500℃以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が71%であることから、劣化しやすい焼結体であることが確認された。
比較例4
ゲルマニア濃度が5重量%以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。EPMA観察の結果、ゲルマニウムの凝集が観察された。
【0053】
得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。曲げ強度が820MPaと低く、機械的特性に劣る焼結体であることが確認された。
比較例5
鏡面加工条件が鏡面研磨装置で鏡面研磨しなかった以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体の特性と劣化加速試験後の単斜晶率を表2に示す。エージング60時間での単斜晶率が37%であることから、劣化しやすい焼結体であることが確認された。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1及び表2から明らかなように、本発明のジルコニア焼結体は、3点曲げ強度の値として、1100MPa以上、好ましくは1200MPa以上、更に好ましくは1230MPa以上の高強度を示し、併せて、劣化加速試験では、25時間経過後の単斜晶率が少なくとも6%以下、好ましくは3%以下であり、60時間経過後の単斜晶率が少なくとも21%以下、好ましくは10%以下という、優れた耐水熱劣化特性を有する焼結体である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のジルコニア焼結体は、精密加工部品,光コネクター部品及び粉砕機用部材などの構造部材に有用である。