【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ジルコニア焼結過程で形成される焼結体微構造、機械的特性及び耐水熱劣化性の関係について詳細に検討し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)ゲルマニアを0.5〜3重量%を含むイットリア濃度2〜4モル%のジルコニア焼結体であり、該ジルコニア焼結体の相対密度が99%以上、平均粒径が0.3〜0.5μm、かつ、表面粗さが0.1μm以下のジルコニア焼結体。
(2)ジルコニア焼結体の3点曲げ強度が、1100MPa以上である上記(1)記載のジルコニア焼結体。
(3)BET比表面積6〜20m
2/g、平均粒径1μm以下、かつ、ゲルマニアを0.5〜3重量%含有するイットリア濃度2〜4モル%のジルコニア粉末を成形し、該ジルコニア粉末を1350〜1450℃で焼成してジルコニア焼結体を得、次いで、該ジルコニア焼結体の表面粗さが0.1μm以下になるまで鏡面加工することによる上記(1)又は(2)記載のジルコニア焼結体の製造方法。
を要旨とするものである。
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、最初に、本明細書において使用する用語の意味を説明する。
【0012】
ジルコニア焼結体に係わる「ジルコニア」とは、イットリアが安定化剤として固溶しているものをいう。「イットリア濃度」とは、Y
2O
3/(ZrO
2+Y
2O
3)の比率をモル%として表した値をいう。「ゲルマニア濃度」とは、GeO
2/(ZrO
2+Y
2O
3+GeO
2)の比率を重量%として表した値をいう。
【0013】
「相対密度」とは、実験的に求めた実測密度ρと、以下に示す数式1〜4により計算されたイットリア及びゲルマニアを含有するジルコニアの真密度ρ
0を用い、(ρ/ρ
0)×100の比率(%)に換算して表した値のことをいう。
A=0.5080+0.06980X/(100+X) (1)
C=0.5195−0.06180X/(100+X) (2)
ρ
Z=[124.25(100−X)+225.81X]/[150.5(100
+X)A
2C] (3)
ρ
0=100/[(Y/6.239)+(100−Y)/ρ
Z] (4)
ここで、XとYは、それぞれイットリア濃度(モル%),ゲルマニア濃度(重量%)を表す。
【0014】
結晶粒子に係わる「平均粒径」とは、電子顕微鏡を用いてプラニメトリック法により算出されたものの値をいう。
【0015】
「表面粗さ」とは、算術平均粗さ(Ra)のことであり、JIS B0601−1994で定義された計算式を用いて求められた値をいう。
【0016】
「単斜晶率(f
m)」とは、水熱処理した焼結体についてXRD測定を行い、単斜晶の(111)及び(11−1)反射の面積強度、立方晶,正方晶及び菱面体晶の(111)反射の面積強度をそれぞれ求めて、以下の数式5により算出された値(%)をいう。
f
m(%)=[I
m(111)+I
m(11−1)]×100/[I
m(111)+I
m(11−1)+I
t(111)+I(111)
c+I(111)
o] (5)
ここで、Iは各反射の面積強度、添字m,t,c及びoはそれぞれ単斜晶,正方晶,立方晶,菱面体晶を示す。
【0017】
ジルコニア粉末に係わる「BET比表面積」は、吸着分子として窒素を用いて測定したものをいう。
【0018】
「平均粒径」とは、体積基準分布が中央値(メディアン)である粒子と同じ体積の球の直径をいい、マイクロトラック粒度分布測定装置によって測定したものである。
【0019】
本発明のジルコニア焼結体は、ゲルマニア濃度として0.5〜3重量%、イットリア濃度として2〜4モル%を含有するものである。イットリア濃度及びゲルマニア濃度がこの範囲内にあると、イットリアの固溶による正方晶の相安定性悪化が抑制され、ジルコニアに固溶しているゲルマニアによる劣化抑制効果が充分作用して品質信頼性に優れるものとなり、変態強化機構が充分作用し、更に、焼結体中にゲルマニアが析出して悪影響を及ぼすことがないために、強度・靱性が低くなることなく、良好な機械的特性が維持される。
【0020】
さらに、上記のジルコニア焼結体は、相対密度が99%以上、平均粒径が0.3〜0.5μm、かつ、表面粗さが0.1μm以下であることを特徴とする。
【0021】
相対密度が99%以上であると、強度・靭性の低下要因となる粗大気孔に由来する欠陥や亀裂のサイズが大きくなることを抑制することができる。
【0022】
また、平均粒径が0.3〜0.5μmにあると、相変態に及ぼす粒径効果の寄与が変化しないため、正方晶の安定性に変化がなく、よって変態強化機構が充分作用した結果、強度・靱性の低下が抑制される。
【0023】
表面粗さが0.1μm以下であると、表面欠陥や微細な傷に起因する表面近傍での正方晶の安定性が悪化することなく、かつ、ゲルマニアの劣化抑制効果の低下も抑制されるため、良好な強度・靱性を有するジルコニア焼結とすることができる。表面粗さとしては、0.08μm以下が好ましく、0.07μm以下が更に好ましく、0.03μm以下が特に好ましい。
【0024】
次に、本発明のジルコニア焼結体の製造方法について説明する。
【0025】
本発明のジルコニア焼結体を得るにあたっては、BET比表面積6〜20m
2/g、平均粒径1μm以下、かつ、ゲルマニアを0.5〜3重量%含有するイットリア濃度2〜4モル%のジルコニア粉末を用いることができる。
【0026】
BET比表面積をこの範囲とすることにより、焼結性・成形性が良好であり、本発明の高い相対密度を有する焼結体を得ることができる。
【0027】
また、ジルコニア粉末の平均粒径を1μm以下とすることにより、焼結性が良好となり、本発明の高い相対密度を有する焼結体を得ることができる。ジルコニア粉末の平均粒径としては、0.7μm以下が好ましい。
【0028】
続いて、本発明では、上記のジルコニア粉末を成形して、1350〜1450℃で焼成する。焼成温度が1350℃〜1450℃の温度範囲にあることにより、焼結体の平均粒径を0.3〜0.5μmとし、本発明の高い相対密度を有する焼結体を得ることができる。
【0029】
焼成時の昇温速度は特に限定されないが、生産性の観点から50〜200℃/時間とするのが好ましく、焼成温度の保持時間は2〜5時間程度でよい。ジルコニア粉末を成形する方法としては、加圧成形,射出成形,押出成形等の公知の方法を選択することができる。
【0030】
次いで、上記のジルコニア焼結体を、表面粗さが0.1μm以下、好ましくは0.08μm以下、更に好ましくは0.07μm以下、特に好ましくは0.03μm以下になるまで鏡面加工を行う。鏡面加工の方法としては、例えば、平面研削盤で焼結体表面を削ったあとに、鏡面研磨装置でダイヤモンド砥粒を用いて表面粗さが0.1μm以下になるまで研磨すればよい。
【0031】
上記のジルコニア粉末の製造方法に特に制限はなく、イットリア濃度、ゲルマニア濃度、BET比表面積及び平均粒径を満足しているものであれば、加水分解法や中和共沈法などのいかなる方法で得られたものを用いてもよい。
【0032】
このような粉末としては、例えばイットリウム及びゲルマニウムを含有する水和ジルコニア微粒子を900〜1100℃の温度で仮焼、粉砕して得られるジルコニア粉末や、イットリウム含有水和ジルコニア微粒子を900〜1100℃の温度で仮焼した後ゲルマニウム化合物を加えて湿式粉砕して得られるジルコニア粉末を例示することができる。
【0033】
このイットリウム含有水和ジルコニア微粒子としては、ジルコニウム塩水溶液の加水分解反応により得られる水和ジルコニアゾルに、イットリウム化合物を添加して乾燥させたものを用いればよい。
【0034】
イットリウム及びゲルマニウムを含有する水和ジルコニア微粒子も同様に、ジルコニウム塩水溶液の加水分解反応により得られる水和ジルコニアゾルにイットリウム化合物及びゲルマニウム化合物を添加して乾燥させればよい。
【0035】
また、場合によっては、イットリウム化合物及びゲルマニウム化合物を、ジルコニウム塩水溶液の加水分解反応前に予め所定量添加してから加水分解反応を行って調製した水和ジルコニアゾル含有液を用いてもよい。
【0036】
水和ジルコニアゾルの製造に用いられるジルコニウム塩としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウム,硝酸ジルコニル,塩化ジルコニウム,硫酸ジルコニウムなどを挙げることができるが、この他に水酸化ジルコニウムと酸との混合物を用いてもよい。
【0037】
イットリウム化合物としては、例えば、イットリウムの塩化物,水酸化物,含水酸化物、酸化物などを挙げることができる。
【0038】
また、ゲルマニウム化合物としては、例えば、ゲルマニウムの塩化物,水酸化物,含水酸化物、酸化物などを挙げることができる。