特許第6221529号(P6221529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221529
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂成形材料及び電子部品装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20171023BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20171023BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20171023BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20171023BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20171023BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20171023BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C08G59/40
   C08L63/00
   C08K5/29
   C08K5/09
   C08K5/13
   H01L23/30 R
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-183410(P2013-183410)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-48472(P2015-48472A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 高士
(72)【発明者】
【氏名】小野 雄大
(72)【発明者】
【氏名】古沢 文夫
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−144361(JP,A)
【文献】 特開2013−159746(JP,A)
【文献】 特開2007−231146(JP,A)
【文献】 特開2001−106770(JP,A)
【文献】 米国特許第06562482(US,B1)
【文献】 特開昭58−225118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
H01L 23/28−23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、
1分子中にシアネート基(−OCN)を2個以上有する多官能シアネート樹脂を含むシアネート樹脂と、
芳香族カルボン酸及びフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステル(ただし、前記芳香族カルボン酸エステルのカルボン酸エステル構造を−CO−O−Rと表したとき、前記Rはアルキル基である。)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、
を含有する熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項2】
前記芳香族カルボン酸及び前記フェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物は、カルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基当量が30g/eq〜400g/eqである請求項1に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項3】
前記芳香族カルボン酸は、安息香酸化合物、ベンゼンジカルボン酸化合物、ベンゼントリカルボン酸化合物、ベンゼンテトラカルボン酸化合物、ナフトエ酸化合物、ナフタレンジカルボン酸化合物、ナフタレントリカルボン酸化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、及び、それらの芳香環上に1個以上のOH基が直接結合しているフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(ただし、酸化合物とは、酸と置換基を有する酸との双方を含み、酸エステルを除く化合物であり、前記置換基は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルケニルオキシ基、又は炭素数6〜14のアリール基であり、前記置換基にはさらにカルボキシル基及びヒドロキシル基の少なくとも一方が結合していてもよい。)である請求項1又は請求項2に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項4】
前記フェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルは、安息香酸化合物のエステル、ベンゼンジカルボン酸化合物のエステル、ベンゼントリカルボン酸化合物のエステル、ベンゼンテトラカルボン酸化合物のエステル、ナフトエ酸化合物のエステル、ナフタレンジカルボン酸化合物のエステル、ナフタレントリカルボン酸化合物のエステル、及び、ナフタレンテトラカルボン酸化合物のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の芳香環上に1個以上のOH基が直接結合している化合物(ただし、酸化合物とは、酸と、置換基を有する酸との双方を含み、酸エステルを除く化合物であり、前記置換基は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルケニルオキシ基、又は炭素数6〜14のアリール基であり、前記置換基にはさらにカルボキシル基及びヒドロキシル基の少なくとも一方が結合していてもよい。)である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数に対する、前記芳香族カルボン酸及び前記芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物に含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数の比が、0.10〜0.60である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数に対する、前記シアネート樹脂に含まれるシアネート基数と前記芳香族カルボン酸及び前記芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物に含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数との総数の比が、0.70〜3.50である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項7】
素子と、前記素子を封止する請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂成形材料の硬化物と、を備える電子部品装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂成形材料及び電子部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トランジスタ、IC(Integrated Circuit)等の電子部品の素子封止用の分野ではエポキシ樹脂成形材料が広く用いられている。この理由としては、エポキシ樹脂が電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性等のバランスがとれているためである。特に、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とノボラック型フェノール硬化剤との組合せはこれらのバランスに優れており素子封止用の熱硬化性樹脂成形材料のベース樹脂の主流になっている。近年の電子機器の小型化、軽量化及び高性能化に伴い、実装の高密度化が進み、それに伴って、電子部品の発熱が顕著となってきている。また、高温下で作動する電子部品も増加している。
【0003】
特に、車載用等のパワー半導体は、長時間高温に曝されることが予想される。車載用のパワーモジュールには、ケース型の構造でゲル封止と称されるシリコーンゲルによる封止方法を適用することが主流であるが、量産性向上、耐振動性向上、耐熱温度向上等の観点から、エポキシ樹脂成形材料を用いたトランスファモールドによる封止が検討されている。更にパワー半導体では、電力損失が小さく省エネルギー性能に優れる炭化ケイ素(SiC)デバイスの使用により動作温度は200℃以上になるとされている。そのため、電子部品に使用される素子封止用の熱硬化性樹脂成形材料には高い耐熱性が要求され、硬化物が高いガラス転移温度(Tg)を有することが要求されている。
【0004】
エポキシ樹脂とフェノール硬化剤との組合せで高いガラス転移温度(Tg)を発現するには、樹脂の架橋密度を高くすることが有効とされている。しかしながら、架橋密度を高くすると、架橋反応に伴って生成する2級アルコール性水酸基(OH基)の密度も高くなる。この場合、150℃以上の高温において封止材の電気絶縁性の確保が非常に困難になる。
【0005】
高耐熱性の樹脂としてシアネート樹脂が知られている。シアネート樹脂は硬化反応に伴って2級アルコール性水酸基を生成することがないため、素子封止用の熱硬化性樹脂成形材料として利用できれば、高温における封止材の電気絶縁性の確保につながると考えられる。しかしながら、シアネート樹脂とエポキシ樹脂との架橋反応及びシアネート基自身の3量化反応を加熱処理で完結させるには200℃以上の温度が必要であり、シアネート樹脂の熱硬化性樹脂成形材料への適用が困難である。そのため、シアネート樹脂の硬化反応には、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト等の遷移金属錯体が通常用いられる(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0006】
一方、エポキシ樹脂とシアネート樹脂とを含む回路基板用樹脂組成物は高耐熱性を示すことが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−165889号公報
【特許文献2】特開平7−196793号公報
【特許文献3】特開2011−116910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シアネート樹脂の短時間での硬化を実現するために上記のような遷移金属錯体を添加する場合、熱硬化性樹脂成形材料中における金属イオン含有量が増大し、結果として半導体装置の信頼性低下(例えば、絶縁性の低下)につながる場合がある。よって、上記のような遷移金属錯体を用いた熱硬化性樹脂成形材料は、特に過酷な動作環境に曝されるパワー半導体用封止材料として適用することは困難である。加えて、上記の遷移金属錯体の添加量は熱硬化性樹脂成形材料中では相対的に微量であるため、材料中で充分に混錬又は分散させるのは容易でないと考えられる。また、上記の遷移金属錯体を用いる場合、僅かな添加量の変動で、その硬化挙動及び硬化物の諸特性が著しく異なる可能性があり、諸特性の再現性を生産性よく実現するのは困難と考えられる。以上のことから、上記のような遷移金属錯体を用いずにシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂成形材料を、パワー半導体用封止材としても適用可能な熱硬化性樹脂成形材料として提供することは困難を極め、未だ実用化には至っていない。更にパワー半導体封止用封止材には難燃性に優れることも求められている。
【0009】
本発明はかかる状況に鑑みなされたもので、優れた耐熱性及び難燃性を有し、高温における電気絶縁性に優れ、更に高温における金属との接着性に優れる硬化物を形成可能な熱硬化性樹脂成形材料及びこれにより封止された素子を備える電子部品装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1>
1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、
1分子中にシアネート基(−OCN)を2個以上有する多官能シアネート樹脂を含むシアネート樹脂と、
芳香族カルボン酸及びフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、
を含有する熱硬化性樹脂成形材料。
【0011】
<2>
前記芳香族カルボン酸及び前記フェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物は、カルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基当量が30g/eq〜400g/eqである<1>に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【0012】
<3>
前記芳香族カルボン酸は、安息香酸化合物、ベンゼンジカルボン酸化合物、ベンゼントリカルボン酸化合物、ベンゼンテトラカルボン酸化合物、ナフトエ酸化合物、ナフタレンジカルボン酸化合物、ナフタレントリカルボン酸化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、及び、それらの芳香環上に1個以上のOH基が直接結合しているフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である<1>又は<2>に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【0013】
<4>
前記フェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルは、安息香酸化合物のエステル、ベンゼンジカルボン酸化合物のエステル、ベンゼントリカルボン酸化合物のエステル、ベンゼンテトラカルボン酸化合物のエステル、ナフトエ酸化合物のエステル、ナフタレンジカルボン酸化合物のエステル、ナフタレントリカルボン酸化合物のエステル、及び、ナフタレンテトラカルボン酸化合物のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の芳香環上に1個以上のOH基が直接結合している化合物である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【0014】
<5>
前記エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数に対する、前記芳香族カルボン酸及び前記芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物に含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数の比が、0.10〜0.60である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【0015】
<6>
前記エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数に対する、前記シアネート樹脂に含まれるシアネート基数と前記芳香族カルボン酸及び前記芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物に含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数との総数の比が、0.70〜3.50である<1>〜<5>のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂成形材料。
【0016】
<7>
素子と、前記素子を封止する<1>〜<6>のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂成形材料の硬化物と、を備える電子部品装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた耐熱性及び難燃性を有し、高温における電気絶縁性に優れ、更に高温における金属との接着性に優れる硬化物を形成可能な熱硬化性樹脂成形材料及びこれにより封止された素子を備える電子部品装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。更に組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0019】
また、本明細書において、「酸化合物」とは、酸と、置換基を有する酸との双方を含む化合物(但し酸エステルを除く化合物)である。具体的には、例えば、安息香酸化合物とは、安息香酸、及び置換基を有する安息香酸の双方を含む化合物(但し、安息香酸エステルを除く化合物)である。
【0020】
<熱硬化性樹脂成形材料>
本発明の熱硬化性樹脂成形材料は、1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、1分子中にシアネート基(−OCN)を2個以上有する多官能シアネート樹脂を含むシアネート樹脂と、芳香族カルボン酸及びフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、を含有する。前記熱硬化性樹脂成形材料は、必要に応じてその他の成分を更に含んでいてもよい。前記熱硬化性樹脂成形材料は、電子部品封止に好ましく適用することができ、パワー半導体封止に、より好ましく適用できる。
【0021】
1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂及び1分子中にシアネート基(−OCN)を2個以上有する多官能シアネート樹脂に加えて、芳香族カルボン酸及びフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有することで、優れた耐熱性及び難燃性を有し、高温における電気絶縁性に優れ、更に高温における金属との接着性に優れる硬化物を形成可能な電子部品封止用の熱硬化性樹脂成形材料を構成することができる。これは、芳香族カルボン酸及びフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物により、エポキシ樹脂及びシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂成形材料の硬化反応が促進されると考えられるためである。
【0022】
(エポキシ樹脂)
熱硬化性樹脂成形材料は、エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂(以下、単に「多官能エポキシ樹脂」ともいう)の少なくとも1種を含有する。1分子中にエポキシ基を2個以上有する多官能エポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂成形材料に一般に使用されているものであれば特に制限はなく、通常用いられる多官能エポキシ樹脂から適宜選択して用いることができる。多官能エポキシ樹脂におけるエポキシ基の数は2個以上であればよく、2個〜10個であることが好ましく、2個〜5個であることがより好ましい。
【0023】
多官能エポキシ樹脂として具体的には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格を有するエポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール化合物及びα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したノボラック型エポキシ樹脂;アルキル置換、芳香環置換又は無置換のビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、チオジフェノール等のジグリシジルエーテルであるエポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノール化合物との共縮合樹脂のエポキシ化物であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ナフタレン環を有するエポキシ樹脂;フェノール化合物及びナフトール化合物の少なくとも1種とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルとから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物であるアラルキル型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;テルペン変性エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;脂環族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
中でも、多官能エポキシ樹脂は、硬化性の観点からは、ノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましい。また、耐熱性及び低反り性の観点からは、トリフェニルメタン骨格を有するノボラック型エポキシ樹脂であるトリフェニルメタン型エポキシ樹脂であることが好ましい。一方、低吸湿性及び誘電特性の観点からは、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0025】
熱硬化性樹脂成形材料は、多官能エポキシ樹脂として、ノボラック型エポキシ樹脂及びジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂を含むことが好ましく、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂及びジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0026】
ノボラック型エポキシ樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させることによって容易に得られる。中でも、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂及びトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0027】
オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては市販品としてDIC株式会社の商品名N−660等として入手可能である。オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を使用する場合、その含有率は、その性能を発揮するためにエポキシ樹脂全量中に20質量%以上とすることが好ましく、30質量%以上がより好ましい。
トリフェニルメタン型エポキシ樹脂としては、日本化薬株式会社の商品名EPPN−502H、三菱化学株式会社の商品名1032H60等として入手可能である。トリフェニルメタン型エポキシ樹脂を使用する場合、その含有率は、その性能を発揮するためにエポキシ樹脂全量中に20質量%以上とすることが好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上とすることが更に好ましい。
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂としては、DIC株式会社の商品名HP−7200等が挙げられる。ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を使用する場合、その含有率は、その性能を発揮するためにエポキシ樹脂全量中に20質量%以上とすることが好ましく、30質量%以上がより好ましい。
【0028】
上記に挙げたオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂及びジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、いずれか1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合の含有率は、エポキシ樹脂全量中に合わせて50質量%以上とすることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
【0029】
多官能エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に制限されない。但し、成形性、耐熱性、電気的信頼等の各種特性バランスの観点から、多官能エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100g/eq〜1000g/eqであることが好ましく、150g/eq〜500g/eqであることがより好ましい。ここでエポキシ当量とは多官能エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基1モルあたりの質量(g)である。
【0030】
多官能エポキシ樹脂の軟化点又は融点は特に制限されない。但し、成形性及び耐熱性の観点から、多官能エポキシ樹脂の軟化点又は融点は、40℃〜180℃であることが好ましく、熱硬化性樹脂成型材料の調製時における取扱い性の観点からは50℃〜130℃であることがより好ましい。
【0031】
多官能エポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を1個有する周知の単官能エポキシ樹脂と併用してもよい。但し、多官能エポキシ樹脂と単官能エポキシ樹脂とを併用する場合、多官能エポキシ樹脂の含有率は、エポキシ樹脂全量中85質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0032】
熱硬化性樹脂成形材料におけるエポキシ樹脂の含有率は、成形性及び耐熱性の観点から、3質量%〜15質量%であることが好ましく、5質量%〜12質量%であることがより好ましい。
【0033】
(シアネート樹脂)
熱硬化性樹脂成形材料は、シアネート樹脂を含有する。シアネート樹脂は、1分子中にシアネート基(−OCN)を2個以上有するシアネート樹脂(以下、単に「多官能シアネート樹脂」ともいう)の少なくとも1種を含有する。1分子中にシアネート基を2個以上有する多官能シアネート樹脂は、熱硬化性樹脂成形材料に一般に使用されているものであれば特に制限はなく、通常用いられる多官能シアネート樹脂から適宜選択して用いることができる。多官能シアネート樹脂におけるシアネート基の数は2個以上であればよく、2個〜6個であることが好ましく、2個〜4個であることがより好ましい。
【0034】
多官能シアネート樹脂として具体的には、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、ビス(4−シアナトフェニル)エタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン、α,α’−ビス(4−シアナトフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン等のジシアネート樹脂;フェノールノボラック型シアネート樹脂;ジシクロペンタジエン型シアネート樹脂などが挙げられる。なお、ここで用いられるシアネート樹脂は、予め一部の樹脂のシアネート基が3量体を形成してオリゴマー化されていても構わない。
【0035】
その中でも、多官能シアネート樹脂は、硬化性と流動性のバランスの観点から、ジシアネート樹脂、ジシアネート樹脂オリゴマー及びフェノールノボラック型シアネート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンオリゴマー及びフェノールノボラック型シアネート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、硬化性と流動性のバランスが特に良好であることから、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンであることが更に好ましい。なお、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンは、コスト及び生産性の点にも優れている。
これらの多官能シアネート樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
多官能シアネート樹脂のシアネート当量は特に制限されない。但し、硬化性、耐熱性、電気的信頼等の各種特性のバランスの観点から、100g/eq〜1000g/eqであることが好ましく、100g/eq〜300g/eqであることがより好ましい。ここでシアネート当量とは多官能シアネート樹脂に含まれるシアネート基1モルあたりの質量(g)である。
【0037】
多官能シアネート樹脂の軟化点又は融点は特に制限されない。但し、硬化性及び耐熱性の観点から、軟化点又は融点は、40℃〜180℃であることが好ましく、熱硬化性樹脂成型材料の調製時における取扱い性の観点からは50℃〜130℃であることがより好ましい。
【0038】
多官能シアネート樹脂は、1分子中にエポキシ基を1個有する周知の単官能シアネート樹脂と併用してもよい。但し、多官能シアネート樹脂と単官能シアネート樹脂とを併用する場合、多官能シアネート樹脂の含有率は、エポキシ樹脂全量中85質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0039】
熱硬化性樹脂成形材料におけるシアネート樹脂の含有率は、硬化性及び耐熱性の観点から、2質量%〜10質量%であることが好ましく、3質量%〜8質量%であることがより好ましい。
【0040】
熱硬化性樹脂成形材料におけるシアネート樹脂の含有量は、硬化性及び耐熱性の観点から、エポキシ樹脂100質量部に対して、20質量部〜300質量部であることが好ましく、40質量部〜200質量部であることがより好ましい。
【0041】
熱硬化性樹脂成形材料におけるエポキシ樹脂とシアネート樹脂との当量比、すなわちエポキシ基数に対するシアネート基数の含有比(シアネート樹脂中のシアネート基数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)は特に制限はない。エポキシ基数に対するシアネート基数の含有比は、0.40〜3.00の範囲に設定されることが好ましく、作業性及び成形性に優れる観点から、0.70〜2.00の範囲に設定されることがより好ましい。前記含有比が0.40以上であると、硬化物のガラス転移温度(Tg)がより向上する傾向があり、3.00以下であると、硬化性がより向上し、硬化物中に未反応のシアネート基が残存することが抑制される傾向がある。またガラス転移温度(Tg)がより向上する傾向がある。
【0042】
(芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステル)
熱硬化性樹脂成形材料は、芳香族カルボン酸及びフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステル(以下、「水酸基含有芳香族カルボン酸エステル」ともいう)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物(以下、「芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステル」ともいう)を含有する。
【0043】
−芳香族カルボン酸−
芳香族カルボン酸は、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香環にカルボキシル基が少なくとも1個結合していれば、特に限定されるものではない。
【0044】
芳香族カルボン酸に結合しているカルボキシル基の数は、1個〜4個が好ましい。
【0045】
芳香族カルボン酸には、その芳香環上に1個以上のOH基が直接結合していることが好ましい。その場合、OH基の数は1個〜4個が好ましい。
【0046】
芳香族カルボン酸としては、安息香酸化合物、ベンゼンジカルボン酸化合物、ベンゼントリカルボン酸化合物、ベンゼンテトラカルボン酸化合物、ナフトエ酸化合物、ナフタレンジカルボン酸化合物、ナフタレントリカルボン酸化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、及び、それらの芳香環上に1個以上のOH基が直接結合しているフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0047】
芳香族カルボン酸は、芳香環上に直接結合するOH基以外に、更に置換基を有していてもよい。芳香族カルボン酸における置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルケニルオキシ基、炭素数6〜14のアリール基等が挙げられる。これらの置換基には、更にカルボキシル基、ヒドロキシル基等が結合してもよい。
【0048】
芳香族カルボン酸として具体的には、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリット酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2,3−ナフタレントリカルボン酸、1,2,6−ナフタレントリカルボン酸、1,2,7−ナフタレントリカルボン酸、1,3,6−ナフタレントリカルボン酸、1,3,8−ナフタレントリカルボン酸、2,3,6−ナフタレントリカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、サリチル酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、o−ピロカテク酸、プロトカテク酸、ゲンチシン酸、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、γ−レゾルシン酸、没食子酸、これら化合物の位置異性体、これら化合物の置換体等が挙げられる。
【0049】
中でも、芳香族カルボン酸は、硬化性及び硬化物の耐熱性向上の観点では、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリット酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2,3−ナフタレントリカルボン酸、1,2,6−ナフタレントリカルボン酸、1,2,7−ナフタレントリカルボン酸、1,3,6−ナフタレントリカルボン酸、1,3,8−ナフタレントリカルボン酸、2,3,6−ナフタレントリカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸サリチル酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、o−ピロカテク酸、プロトカテク酸、ゲンチシン酸、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、γ−レゾルシン酸、及び没食子酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好ましい。
また、芳香族カルボン酸は、流動性の観点では、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、サリチル酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、o−ピロカテク酸、プロトカテク酸、ゲンチシン酸、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、γ−レゾルシン酸、及び没食子酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物がより好ましい。
【0050】
これら芳香族カルボン酸は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
−水酸基含有芳香族カルボン酸エステル−
水酸基含有芳香族カルボン酸エステルは、フェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルであり、芳香族カルボン酸のエステルで、かつその芳香環上に1個以上のOH基が直接結合している化合物であれば特に限定されない。
【0052】
水酸基含有芳香族カルボン酸エステルに結合しているカルボキシル基(エステル化されたカルボキシル基も含む)の数は、1個〜4個が好ましい。
【0053】
水酸基含有芳香族カルボン酸エステルの芳香環上に結合しているOH基の数は、1個〜4個が好ましい。
【0054】
水酸基含有芳香族カルボン酸エステルとしては、安息香酸化合物のエステル、ベンゼンジカルボン酸化合物のエステル、ベンゼントリカルボン酸化合物のエステル、ベンゼンテトラカルボン酸化合物のエステル、ナフトエ酸化合物のエステル、ナフタレンジカルボン酸化合物のエステル、ナフタレントリカルボン酸化合物のエステル、及び、ナフタレンテトラカルボン酸化合物のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の芳香環上に1個以上のOH基が直接結合している化合物であることが好ましい。
【0055】
水酸基含有芳香族カルボン酸エステルにおいて、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等の2個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸のエステルは、カルボキシル基の全てがエステルに変換されていなくてもよく、カルボキシル基とエステルとが混在していてもよい。
【0056】
水酸基含有芳香族カルボン酸エステルにおいて、そのカルボン酸エステル構造を−CO−O−Rと表したとき、そのRは、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であることが好ましい。
Rで示される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のいずれであってもよく、直鎖状、又は分岐鎖状が好ましい。炭素数1〜6のアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル等の環状アルキル基などが挙げられる。
【0057】
Rで示される炭素数6〜14の芳香族炭化水素基として具体的には、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0058】
水酸基含有芳香族カルボン酸エステルは、芳香環上に直接結合するOH基以外に、更に置換基を有していてもよい。水酸基含有芳香族カルボン酸エステルにおける置換基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルケニルオキシ基、炭素数6〜14のアリール基等が挙げられる。これらの置換基には、更にカルボキシル基、OH基が結合してもよい。
【0059】
水酸基含有芳香族カルボン酸エステルとしては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリット酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2,3−ナフタレントリカルボン酸、1,2,6−ナフタレントリカルボン酸、1,2,7−ナフタレントリカルボン酸、1,3,6−ナフタレントリカルボン酸、1,3,8−ナフタレントリカルボン酸、2,3,6−ナフタレントリカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸等のカルボキシル基の少なくとも1個がエステル化され、かつそれらの芳香環に1個以上のOH基が結合しているエステル化合物;サリチル酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、o−ピロカテク酸、プロトカテク酸、ゲンチシン酸、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、γ−レゾルシン酸、没食子酸等のカルボキシル基がエステル化されたエステル化合物;これら化合物の位置異性体;これら化合物の置換体などが挙げられる。
【0060】
中でも、水酸基含有芳香族カルボン酸エステルは、硬化性及び硬化物の耐熱性向上の観点では、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリット酸、1,2,3−ナフタレントリカルボン酸、1,2,6−ナフタレントリカルボン酸、1,2,7−ナフタレントリカルボン酸、1,3,6−ナフタレントリカルボン酸、1,3,8−ナフタレントリカルボン酸、2,3,6−ナフタレントリカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、及び2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸の1個のカルボキシル基がエステル化され、かつそれらの芳香環に1個以上のOH基が結合しているモノエステル化合物、並びに、o−ピロカテク酸、プロトカテク酸、ゲンチシン酸、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、γ−レゾルシン酸、及び没食子酸のカルボキシル基がエステル化されたエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
また、水酸基含有芳香族カルボン酸エステルは、流動性の観点では、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、1,2,3−ナフタレントリカルボン酸、1,2,6−ナフタレントリカルボン酸、1,2,7−ナフタレントリカルボン酸、1,3,6−ナフタレントリカルボン酸、1,3,8−ナフタレントリカルボン酸、及び2,3,6−ナフタレントリカルボン酸の1個のカルボキシル基がエステル化され、かつそれらの芳香環に1個以上のOH基が結合しているモノエステル化合物、並びに、o−ピロカテク酸、プロトカテク酸、ゲンチシン酸、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、γ−レゾルシン酸、及び没食子酸のカルボキシル基がエステル化されたエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0061】
これら水酸基含有芳香族カルボン酸エステルは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
なお、芳香族カルボン酸及び水酸基含有芳香族カルボン酸エステルは、いずれか一方を用いてもよいし、双方を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルに含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基当量は特に制限されず、硬化性と耐熱性の観点から、30g/eq〜400g/eqであることが好ましく、40g/eq〜300g/eqであることがより好ましい。ここでOH基当量とは芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルに含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基1モルあたりの質量(g)である。
【0064】
熱硬化性樹脂成形材料における芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルの含有率は、硬化性及び耐熱性の観点から、0.3質量%〜3質量%であることが好ましく、0.5質量%〜2質量%であることがより好ましい。
【0065】
熱硬化性樹脂成形材料における芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルの含有量は、硬化性及び耐熱性の観点から、エポキシ樹脂100質量部に対して、3質量部〜50質量部であることが好ましく、5質量部〜25質量部であることがより好ましい。
【0066】
(各成分の当量比)
熱硬化性樹脂成形材料において、エポキシ樹脂と、芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルとの当量比、すなわちエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数に対する、芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルに含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数の比(芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステル中のカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)は、0.10〜0.60の範囲に設定されることが好ましく、作業性及び成形性により優れる熱硬化性樹脂成形材料を得る観点から、0.10〜0.50の範囲に設定されることがより好ましい。前記当量比が0.10以上であると充分な硬化性が得られる傾向がある。また当量比が0.60以下であると硬化物のガラス転移温度(Tg)がより向上する傾向がある。
【0067】
熱硬化性樹脂成形材料において、エポキシ樹脂と、シアネート樹脂及び芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルの総量との当量比、すなわち、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数に対する、シアネート樹脂に含まれるシアネート基数と芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルに含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数との総数の比((シアネート樹脂中のシアネート基数+芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステル中のカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数)/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)は、0.70〜3.50の範囲に設定されることが好ましく、作業性及び成形性により優れる熱硬化性樹脂成形材料を得る観点から、0.80〜2.50の範囲に設定されることがより好ましい。前記当量比が0.70以上であると充分な硬化性が得られる傾向がある。また当量比が3.50以下であると硬化物のガラス転移温度(Tg)がより向上する傾向がある。
【0068】
(その他の成分)
熱硬化性樹脂成形材料は、シラン化合物の少なくとも1種を更に含有してもよい。ここで、シラン化合物としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン;γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;メチルトリメトキシシラン等のアルキルシラン;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネートシラン;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシランなどが挙げられる。これらのシラン化合物は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
熱硬化性樹脂成形材料がシラン化合物を含む場合、シラン化合物の総含有率は、成形性及び流動性の観点から、熱硬化性樹脂成形材料に対して、0.06質量%〜2質量%が好ましく、0.1質量%〜0.75質量%がより好ましく、0.2質量%〜0.7質量%が更に好ましい。シラン化合物の総含有率が0.06質量%以上であると流動性がより向上する傾向にある。シラン化合物の総含有率が2質量%以下であるとボイド等の成形不良の発生がより抑制される傾向がある。
【0070】
熱硬化性樹脂成形材料は、硬化促進剤の少なくとも1種を更に含有してもよい。硬化促進剤としては、熱硬化性樹脂成形材料で一般に使用されているもので特に限定はない。硬化促進剤としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、5,6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のシクロアミジン化合物;これらのシクロアミジン化合物に無水マレイン酸、1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン等のキノン化合物;ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の三級アミン化合物及びこれらの誘導体;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2―フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール化合物及びこれらの誘導体;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;これらの有機ホスフィン化合物に無水マレイン酸、上記キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムエチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムテトラブチルボレート等のテトラ置換ホスホニウムテトラ置換ボレート;2−エチル−4−メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N−メチルモルホリンテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩及びこれらの誘導体などが挙げられる。これらの硬化促進剤は1種を単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0071】
有機ホスフィン化合物(第三ホスフィン)とキノン化合物との付加物に用いられる有機ホスフィンとしては特に制限はない。有機ホスフィン化合物としては、ジブチルフェニルホスフィン、ブチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−エチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−プロピルフェニル)ホスフィン、トリス(4−ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフィン、トリス(t−ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,4−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6−トリメチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,6−ジメチル−4−エトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−エトキシフェニル)ホスフィン等のアリール基を有する有機ホスフィンが挙げられる。中でも有機ホスフィン化合物は、成形性の点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0072】
有機ホスフィン化合物(第三ホスフィン)とキノン化合物との付加物に用いられるキノン化合物としては特に制限はない。キノン化合物としては、o−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン、ジフェノキノン、1,4−ナフトキノン、アントラキノン等が挙げられる。中でもキノン化合物は、耐湿性又は保存安定性の観点からはp−ベンゾキノンが好ましい。
【0073】
熱硬化性樹脂成形材料が硬化促進剤を含む場合、硬化促進剤の含有量は、硬化促進効果が達成される量であれば特に限定されるものではない。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、及び芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルの合計量100質量部に対して0.1質量部〜10質量部が好ましく、0.3質量部〜6質量部がより好ましい。硬化促進剤の含有量が0.1質量部以上であるとより短時間で硬化させることが容易になる傾向がある。硬化促進剤の含有量が10質量部以下であると、硬化速度が早くなりすぎず、より良好な成形品が得られる傾向がある。
【0074】
熱硬化性樹脂成形材料は、無機充てん剤の少なくとも1種を更に含有してもよい。無機充てん剤を更に含むことで、吸湿性の低減、線膨張係数の低減、熱伝導性向上及び強度向上がより効果的に達成される。無機充てん剤としては、熱硬化性樹脂成形材料に一般に使用されているものであれば特に制限されるものではない。無機充てん剤としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、これらを球形化したビーズ、ガラス繊維などが挙げられる。これらの無機充てん剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカが好ましく、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましい。また無機充てん剤の形状は、成形時の流動性及び金型摩耗性の点から球形が好ましい。特にコストと性能のバランスの観点から、無機充てん剤は球状溶融シリカが好ましい。
【0075】
熱硬化性樹脂成形材料が無機充てん剤を含む場合、無機充てん剤の含有率は、難燃性、成形性、吸湿性、線膨張係数低減及び強度向上の観点から、熱硬化性樹脂成形材料に対して70質量%〜95質量%が好ましい。無機充てん剤の含有率が70質量%以上であると、充分に難燃性が向上する傾向がある。無機充てん剤の含有率が95質量%以下であると、より良好な流動性が得られる傾向がある。
【0076】
熱硬化性樹脂成形材料は、必要に応じて、陰イオン交換体、離型剤、難燃剤、着色剤等のその他の添加剤を更に含有してもよい。
【0077】
熱硬化性樹脂成形材料は、陰イオン交換体を必要に応じて更に含有することができる。陰イオン交換体を含むことで、ICの耐湿性及び高温放置特性をより向上させることができる。陰イオン交換体としては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。陰イオン交換体としては、ハイドロタルサイト化合物、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及びビスマスからなる群より選ばれる金属元素の含水酸化物等が挙げられる。これらの陰イオン交換体は1種を単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
熱硬化性樹脂成形材料が陰イオン交換体を含む場合、陰イオン交換体の含有量は、ハロゲンイオン等の陰イオンを捕捉できる充分量であれば特に限定されるものではない。陰イオン交換体の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1質量部〜30質量部が好ましく、1質量部〜5質量部がより好ましい。
【0079】
熱硬化性樹脂成形材料は、必要に応じて離型剤の少なくとも1種を更に含有してもよい。離型剤としては、酸化型又は非酸化型のポリオレフィンであるクラリアントジャパン株式会社の商品名PE及びPEDシリーズ等の数平均分子量が500〜10000程度の低分子量ポリエチレン等が挙げられる。また、これ以外のその他の離型剤としては、カルナバワックス、モンタン酸エステル、モンタン酸、ステアリン酸等が挙げられる。これらの離型剤は1種を単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0080】
熱硬化性樹脂成形材料が離型剤として酸化型又は非酸化型のポリオレフィンを含む場合、その含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.01質量部〜10質量部が好ましく、0.1質量部〜5質量部がより好ましい。含有量が0.01質量部以上であると充分な離型性が得られる傾向がある。含有量が10質量部以下であると接着性がより向上する傾向がある。
【0081】
熱硬化性樹脂成形材料が離型剤として酸化型又は非酸化型のポリオレフィンに加えてその他の離型剤を含有する場合、離型剤の総含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部〜10質量部が好ましく、0.5質量部〜3質量部がより好ましい。
【0082】
熱硬化性樹脂成形材料は、従来公知の難燃剤の少なくとも1種を必要に応じて更に含有してもよい。難燃剤としては、ブロム化エポキシ樹脂、三酸化アンチモン、赤リン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の無機物、及び、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂等の少なくとも一方で被覆された赤リン、リン酸エステル等のリン化合物;メラミン、メラミン誘導体、メラミン変性フェノール樹脂、トリアジン環を有する化合物、シアヌル酸誘導体、イソシアヌル酸誘導体等の窒素含有化合物;シクロホスファゼン等のリン及び窒素含有化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、錫酸亜鉛、硼酸亜鉛、酸化鉄、酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛、ジシクロペンタジエニル鉄等の金属元素を含む化合物などが挙げられる。これらの難燃剤は1種を単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。
【0083】
熱硬化性樹脂成形材料が難燃剤を含む場合、その含有量は特に制限されない。難燃剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部〜30質量部が好ましく、2質量部〜15質量部がより好ましい。
【0084】
熱硬化性樹脂成形材料は、カーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等の着色剤を更に含有してもよい。更に、熱硬化性樹脂成形材料は、その他の添加剤として、シリコーンオイル、シリコーンゴム粉末等の応力緩和剤などを必要に応じて含有してもよい。
【0085】
熱硬化性樹脂成形材料は、各種成分を分散混合できるのであれば、いかなる手法を用いても調製できる。一般的な手法として、所定の配合量の成分をミキサー等により充分混合し、ミキシングロール、押出機等を用いて溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。熱硬化性樹脂成形材料は、所定の配合量の成分を撹拌、混合し、予め70℃〜140℃に加熱してあるニーダー、ロール、エクストルーダー等で混練した後、冷却し、粉砕する等の方法でも得ることができる。また熱硬化性樹脂成形材料は、成形条件に合うような寸法及び質量でタブレット化すると使いやすい。
【0086】
<電子部品装置>
本発明の電子部品装置は、素子と、素子を封止する本発明の熱硬化性樹脂成形材料の硬化物とを備える。熱硬化性樹脂成形材料により封止した素子を備えた電子部品装置としては、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ等の支持部材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子などの素子を搭載し、必要な部分を本発明の熱硬化性樹脂成形材料で封止した電子部品装置等が挙げられる。特に本発明の熱硬化性樹脂成形材料は、耐熱性、電気絶縁性等の観点から、過酷な動作環境に曝されるパワー半導体用途に好適に使用することができる。
本発明の熱硬化性樹脂成形材料を用いて素子を封止する方法としては、低圧トランスファ成形法が最も一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法等を用いてもよい。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
<実施例1〜24、比較例1〜26>
以下に示す各材料を、それぞれ下記表1〜7に示す質量部で配合し、混練温度80℃、混練時間10分の条件でロール混練を行い、実施例1〜24(表1〜3)及び比較例1〜26(表4〜7)の熱硬化性樹脂成形材料を調製した。なお、表中の空欄は配合していないことを表す。
【0089】
ここで、表1〜表7中、「エポキシ基数」はエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数を示す。「シアネート基」はシアネート樹脂に含まれるシアネート基数を示す。「カルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数」は芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルに含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数を示す。
つまり、「シアネート基数/エポキシ基数」は、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数に対する、シアネート樹脂に含まれるシアネート基数の比を示す。「OH基数/エポキシ基数」は、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数に対する芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルに含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数の比を示す。「(シアネート基数+OH基数)/エポキシ基数」は、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基数に対するシアネート樹脂に含まれるシアネート基数と芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルに含まれるカルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数との総数の比を示す。
但し、シアネート樹脂に替えてフェノール樹脂を使用した比較例では、「シアネート基数」は「フェノール樹脂の水酸基数」を示すものとする。また、芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルに替えてフェノール化合物を使用した比較例では、「OH基数」は「フェノール化合物の水酸基数」を示すものとする。
【0090】
以下、各例で使用した各材料の詳細を示す。
【0091】
(多官能エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1: エポキシ当量170g/eq、軟化点67℃のトリフェニルメタン型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社の商品名EPPN−502H)
・エポキシ樹脂2: エポキシ当量200g/eq、軟化点60℃のオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC化学工業株式会社の商品名N−660)
・エポキシ樹脂3: エポキシ当量258g/eq、軟化点60℃のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC株式会社の商品名HP−7200)
・エポキシ樹脂4: エポキシ当量250g/eq、軟化点58℃のナフタレン変性ノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社の商品名HP−5000)
・エポキシ樹脂5: エポキシ当量286g/eq、軟化点104℃のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC株式会社の商品名HP−7200HHH)
・エポキシ樹脂6: エポキシ当量209g/eq、軟化点96℃のオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社の商品名YDCN−704A)
【0092】
(多官能シアネート樹脂)
・シアネート樹脂1: シアネート当量139g/eq、シアネート基数2、融点80℃の2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ロンザジャパン株式会社の商品名Primaset BADCy)
・シアネート樹脂2: シアネート当量240g/eq、軟化点95℃の2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンのオリゴマー(ロンザジャパン株式会社の商品名Primaset BA−200)
・シアネート樹脂3: シアネート当量131g/eq、軟化点80℃のフェノールノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン株式会社の商品名Primaset PT−60)
【0093】
(フェノール樹脂:比較例でシアネート樹脂の替わりに使用したフェノール樹脂)
・フェノール樹脂1: 水酸基当量103g/eq、軟化点88℃のヒドロキシベンズアルデヒド型フェノール樹脂(明和化成株式会社の商品名MEH−7500)
・フェノール樹脂2:水酸基当量175g/eq、軟化点70℃のフェノールアラルキル樹脂(明和化成株式会社の商品名MEH−7800)
【0094】
(芳香族カルボン酸)
・芳香族カルボン酸1: 没食子酸(カルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数4)
・芳香族カルボン酸2: テレフタル酸(カルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数2)
【0095】
(フェノール水酸基を有する芳香族カルボン酸エステル)
・芳香族カルボン酸エステル誘導体1: γ−レゾルシン酸メチル(カルボキシル基由来及びフェノール性水酸基由来のOH基数2)
【0096】
(フェノール化合物及び金属錯体:比較例で芳香族カルボン酸又は水酸基含有芳香族カルボン酸エステルの替わりに使用したフェノール化合物及び金属錯体)
・フェノール化合物1: フェノール(水酸基数1)
・フェノール化合物2: カテコール(水酸基数2)
・フェノール化合物3: レソルシノール(水酸基数2)
・フェノール化合物4: ヒドロキノン(水酸基数2)
・金属錯体1: ナフテン酸コバルト((水酸基当量0、水酸基数0)
【0097】
(その他の添加成分)
・シラン化合物1: γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・硬化促進剤1: トリフェニルホスフィンとp−ベンゾキノンとのベタイン型付加物
・無機充てん剤1: 平均粒径17.5μm、比表面積3.8m/gの球状溶融シリカ
・離型剤1: モンタン酸エステル(クラリアントジャパン株式会社の商品名HW−E)
・着色剤1: カーボンブラック(三菱化学株式会社の商品名MA−600)
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
【表5】
【0103】
【表6】
【0104】
【表7】
【0105】
<評価>
上記で得られた実施例及び比較例の熱硬化性樹脂成形材料を、次の(1)〜(5)の各種特性試験により評価した。評価結果を下記表8〜14に示す。なお、熱硬化性樹脂成形材料の成形は、明記しない限りトランスファ成形機により、金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件で行った。また、後硬化は180℃で6時間行った。
【0106】
(1)熱時硬度(硬化性)
熱硬化性樹脂成形材料を上記条件で直径50mm×厚さ3mmの円板に成形し、成形後直ちにショアD型硬度計(株式会社上島製作所のHD−1120(タイプD))を用いて測定した。
【0107】
(2)ガラス転移温度(Tg)測定(動的粘弾性)
熱硬化性樹脂材料を上記条件で長さ80mm×幅10mm×厚さ3mmの大きさに成形し、後硬化した。次いで、ダイヤモンドカッターで幅5mm、長さ55mmに切断し、粘弾性測定装置RSA3(TAインスツルメンツ社)を用い、3点曲げモードで昇温速度5℃/min、周波数6.28rad/sの条件で測定した。この動的粘弾性測定で得られる損失正接(tanδ)の極大値(ピークトップ)を示したときの温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0108】
(3)体積抵抗率
熱硬化性樹脂材料を上記条件で直径100mm×厚さ2mmの円板に成形し、後硬化して試験片とした。次いでJIS K 6911(1995年)規格に基づき、この試験片に絶縁抵抗測定器の電極を取り付け、500Vの電圧を印加して1分間の電流値を測定し、以下の式によって体積抵抗率を算出した。測定は、150℃及び180℃で実施した。
Rv=500/Iv
ρv=(πd2/4t)×Rv
ここで、Iv:測定された電流値(A)、ρv:体積抵抗率(Ωcm)、d:主電極の内円の外径(cm)、t:試験片の厚さ(cm)、Rv:体積抵抗(Ω)、π:円周率(3.14)をそれぞれ示す。
【0109】
(4)難燃性評価
UL−94規格に基づき、熱硬化性樹脂材料を上記条件で長さ127mm×幅12.5mm×厚さ6.35mmの大きさに成形し、後硬化して試験片とした。次いで、この試験片をクランプに垂直に吊るし、高さ19mmの炎に10秒間かざした後、炎を遠ざけ試験片の残炎時間を測定し、消火と共に再び10秒間炎にかざした後の残炎時間を測定した。これを1サンプルにつき5本行なった。火がクランプにまで達した場合は、表中に「クランプ」と記載した。1回の残炎時間の最大値(最大残炎時間)が10秒以下かつ5本全部の残炎時間の合計(総残炎時間)が50秒以下のときV−0とし、最大残炎時間が30秒以下かつ総残炎時間が250秒以下のときV−1とし、それ以外を規格外と判定した。
【0110】
(5)200℃及び250℃における金属との接着力測定
熱硬化性樹脂成形材料を上記条件で、銅板上、銀メッキした銅板上又はニッケルメッキした銅板上にそれぞれ底面4mmφ、上面3mmφ、高さ4mmのサイズに成形し、後硬化して試験片とした。ボンドテスター(デイジジャパン株式会社のシリーズ4000)によって、各種銅板の温度を200℃又は250℃に保ちながら、せん断速度50μm/sでせん断接着力を測定した。
【0111】
【表8】
【0112】
【表9】
【0113】
【表10】
【0114】
【表11】
【0115】
【表12】
【0116】
【表13】
【0117】
【表14】
【0118】
上記評価結果から、いずれの実施例も、ガラス転移温度、難燃性、せん断接着力、及び体積抵抗率が比較例よりも優れていた。
【0119】
なお、表11の比較例5〜8及び表13の比較例17〜24の「−」は、硬化性が悪く、試験片が成形できなかったためにデータ取得できなかったことを示している。これらは、例えば、芳香族カルボン酸又はフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルを含有していないために硬化性が悪く、成形物を得ることができなかったと考えられる。
【0120】
また、芳香族カルボン酸又はフェノール性水酸基を有する芳香族カルボン酸エステルの替わりに金属錯体1(ナフテン酸コバルト)を使用した表14の比較例25と26については、所定の評価が実施できなかったため、表14には熱時硬度以外「−」と記載した。比較例25はロール混練後に取り出した混錬物の性状が飴状になり、粉砕不可であった。これを180℃で2分以上加熱したが硬化は進まず、所定の成形物を得るどころか、熱時硬度を測定することも不可能であった。一方、比較例26はロール混錬時に混錬物の硬化が急速に進行した。取り出した混錬物を180℃で加熱したが、溶融せず、ほぼ完全硬化に近い状態であったため、これも所定の成形物を得ることができなかった。
金属錯体の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、比較例25で0.5質量部、比較例26で0.7質量部であるが、わずか0.2質量部の違いで上記のように硬化挙動が著しく変化した。このため、仮に金属錯体を用いて成形可能な封止材が得られても、その硬化性及び他の特性の再現性を確保するのは困難と考えられる。