特許第6221563号(P6221563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221563マイコバクテリウム・アビウム検出用オリゴヌクレオチドプローブおよび当該プローブを用いたマイコバクテリウム・アビウムの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221563
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】マイコバクテリウム・アビウム検出用オリゴヌクレオチドプローブおよび当該プローブを用いたマイコバクテリウム・アビウムの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20171023BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/68 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-198866(P2013-198866)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-62382(P2015-62382A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小鮒 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】俵田 隆哉
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−000093(JP,A)
【文献】 x52918,GenBank[online],1991年 9月 4日,[retrieved on 6.7.2017],URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/X52918
【文献】 Ishiguro T et al,Anal Biochem,2003年 3月,Vol. 314,pp. 77-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00− 3/00
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY/WPIDS(STN)
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3、5および7のいずれかに記載の塩基配列またはその相補鎖からなる、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)を特異的に検出するための、オリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項2】
配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドと、
配列番号15に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドと、
請求項1に記載のオリゴヌクレオチドプローブとを含む、
マイコバクテリウム・アビウムを特異的に検出する試薬。
【請求項3】
配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドが、配列番号12から14のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、請求項に記載の試薬。
【請求項4】
(1)第二のプライマーおよびRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)第一のプライマーおよびDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(5)前記RNA転写産物が、前記(1)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、および
(6)生成したRNA転写産物を、当該転写産物の一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると形成前と比較し蛍光特性が変化するオリゴヌクレオチドプローブを用いて検出する工程を含む、
マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを特異的に検出する方法であって、
前記第一のプライマーとして、配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドを、
前記第二のプライマーとして、配列番号15に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドを、
前記オリゴヌクレオチドプローブとして、請求項1に記載のオリゴヌクレオチドプローブを、
それぞれ用いる前記方法。
【請求項5】
前記(1)の工程の前に、または前記(1)の工程と同時に、特定塩基配列中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端側と重複し、かつ当該重複部位から5’末端側に隣接した領域に相補的な切断用オリゴヌクレオチドと、リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素により、前記特定塩基配列の5’末端側を切断する工程を行ない、
かつ前記切断用オリゴヌクレオチドとして、配列番号19から21のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウムを迅速、高感度かつ特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドプローブ、および当該プローブを用いたマイコバクテリウム・アビウムの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非結核性抗酸菌のうち、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)やマイコバクテリウム・イントラセルラー(Mycobacterium intracellulare)は、ヒトに病原性を示すことが知られており、ヒトの肺、リンパ節、皮膚などに感染し、特に肺への感染例が多い。マイコバクテリウム・アビウムやマイコバクテリウム・イントラセルラーは、結核菌のようにヒトからヒトへの感染は起こらないが、結核菌治療に用いる薬剤に対する耐性を有しており、有効な薬剤はほとんどない。このように抗酸菌感染に対する治療法は菌種の違いにより異なることから、抗酸菌の検査では菌種を迅速に同定することが不可欠となる。
【0003】
従来、マイコバクテリウム・アビウムやマイコバクテリウム・イントラセルラーの同定検査は培養法により行なわれていたが、核酸増幅法を利用した迅速同定検査法が開発され、短時間でマイコバクテリウム・アビウムやマイコバクテリウム・イントラセルラーを同定することが可能となった。マイコバクテリウム・アビウムやマイコバクテリウム・イントラセルラーの同定検査法として用いられる核酸増幅法の一例として、PCR法(特許文献1から3)があげられる。しかしPCR法は、急激に反応温度を昇降させる必要があるため、自動化の際の反応装置の省力化や低コスト化のための障壁となっていた。
【0004】
一方で一定温度で核酸を増幅する方法も知られており、LAMP法(非特許文献1)、NASBA法(特許文献4および5)、TMA法(特許文献6)などがある。これらの核酸増幅法では、核酸増幅後、電気泳動または検出可能な標識を結合させたオリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーションなどにより、増幅した核酸を検出するが、これらの検出法は操作が煩雑であるという課題がある。
【0005】
RNAを簡便に増幅および検出する方法としては、標的となるRNAのうち特定塩基配列の5’末端側に対して相同的な配列を有するプライマーおよび3’末端側に相補的な配列を有するプライマー(前記二つのプライマーのいずれかには、その5’末端側にプロモーター配列を有する)、逆転写酵素および必要に応じてリボヌクレアーゼH(RNase H)により、プロモーター配列を含む2本鎖DNAを合成し、RNAポリメラーゼによって特定塩基配列を含むRNAを合成し、当該RNAを引き続きプロモーター配列を含む2本鎖DNA合成の鋳型とする連鎖反応により特定塩基配列を含むRNAを増幅し、増幅した特定塩基配列を含むRNAを当該特定塩基配列とハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いて検出する方法がある(特許文献7および非特許文献2)。ここでオリゴヌクレオチドプローブとして、標的核酸と相補的2本鎖を形成するとインターカレーター性蛍光色素が相補的2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変化するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブを用いると、蛍光特性の変化によりRNA検出を簡便、一定温度(例えば、40℃から50℃)で実施することが可能であり、かつRNA増幅反応と同時に実施することが可能である。
【0006】
以上の各方法はいずれも、標的核酸に対し相同的または相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、増幅した核酸を検出するが、標的核酸がマイコバクテリウム・アビウム16S rRNAまたはその遺伝子の場合、他の抗酸菌の16S rRNA(またその遺伝子)との間で塩基配列の相同性が高いものが多数存在するため、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAまたはその遺伝子を高感度かつ特異的に検出するプローブを設計することは極めて困難であった。特に比較的低温の一定温度(例えば、40℃から50℃)条件下でRNAの増幅が可能な増幅方法を利用する場合、オリゴヌクレオチドプローブが高次構造を形成しやすくなるため、当該プローブの設計はさらに困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4683195号公報
【特許文献2】米国特許第4683202号公報
【特許文献3】米国特許第4965188号公報
【特許文献4】特許2650159号公報
【特許文献5】特許3152927号公報
【特許文献6】特許3241717号公報
【特許文献7】特開2000−014400号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Thai H.T.C.et al.,J.Clin.Microbiol.,42,1956−1961(2004)
【非特許文献2】Ishiguro T.et al.,Anal.Biochem.,314,77−86(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウムを特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドプローブ、および当該プローブを用いたマイコバクテリウム・アビウムの検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明の第一の態様は、配列番号1に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなる、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)を特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドプローブである。
【0012】
また本発明の第二の態様は、配列番号5に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなる、前記第一の態様に記載のオリゴヌクレオチドプローブである。
【0013】
また本発明の第三の態様は、配列番号3、4、5、7のいずれかに記載の塩基配列またはその相補鎖からなる、前記第二の態様に記載のオリゴヌクレオチドプローブである。
【0014】
そして本発明の第四の態様は、
配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドと、
配列番号15に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドと、
前記第一から第三の態様のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブとを含む、
試料中に含まれるマイコバクテリウム・アビウムを特異的に検出する試薬である。
【0015】
また本発明の第五の態様は、配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドが、配列番号12から14のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、前記第四の態様に記載の試薬である。
【0016】
そして本発明の第六の態様は、
(1)第二のプライマーおよびRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)第一のプライマーおよびDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(5)前記RNA転写産物が、前記(1)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、および
(6)生成したRNA転写産物を、当該転写産物の一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると形成前と比較し蛍光特性が変化するオリゴヌクレオチドプローブを用いて検出する工程を含む、
マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを特異的に検出する方法であって、
前記第一のプライマーとして、配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドを、
前記第二のプライマーとして、配列番号15に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドを、
前記オリゴヌクレオチドプローブとして、請求項1から3のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブを、
それぞれ用いる前記方法である。
【0017】
また本発明の第七の態様は、
前記(1)の工程の前に、または前記(1)の工程と同時に、特定塩基配列中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端側と重複し、かつ当該重複部位から5’末端側に隣接した領域に相補的な切断用オリゴヌクレオチドと、リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素により、前記特定塩基配列の5’末端側を切断する工程を行ない、
かつ前記切断用オリゴヌクレオチドとして、配列番号19から21のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる、前記第六の態様に記載の方法である。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明は、喀痰、胃液、血液、尿、便、体腔液、組織、気管支洗浄液、気管支肺胞洗浄液等の生体由来試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)を特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドプローブに係る発明である。本発明のオリゴヌクレオチドプローブは、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNA(またはその遺伝子)の部分配列の相補鎖(または相同鎖)からなるオリゴヌクレオチドであり、具体的には、配列番号1に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の143番目から170番目までの領域に相当)のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなるオリゴヌクレオチドである。また本発明のオリゴヌクレオチドプローブの好ましい態様として、配列番号5に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の143番目から164番目までの領域に相当)のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに好ましい態様として、配列番号3(GenBank No.X52918の143番目から161番目までの領域に相当)、配列番号4(GenBank No.X52918の143番目から163番目までの領域に相当)、配列番号5(GenBank No.X52918の143番目から164番目までの領域に相当)、配列番号7(GenBank No.X52918の147番目から164番目までの領域に相当)のいずれかに記載の塩基配列またはその相補鎖からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。また、配列番号1に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなるオリゴヌクレオチドと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドも、本発明のオリゴヌクレオチドプローブに含まれる。ここでいうストリンジェントな条件とは、既知の条件から選定可能で、特に限定されるものではないが、例えば、42℃における50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mM塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム等が共存する条件下でハイブリダイズ可能な条件があげられる。
【0020】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブを用いた検出は、電気泳動や液体クロマトグラフィーを利用した方法で行なうことができる。また本発明のオリゴヌクレオチドプローブに、標識物質を結合した後、ハイブリダイゼーション法により検出してもよい。標識物質としては、酵素、蛍光色素、放射性同位元素、発光色素等の公知のものが利用できる。なお本発明のオリゴヌクレオチドプローブを、molecular beacon(米国特許5925517号公報、米国特許6103476号公報)、TaqManプローブ(米国特許5210015号公報、米国特許5487972号公報)、Q−Probe(特許3437816号公報)、サイクリングプローブ(米国特許5011769号公報、米国特許5403711号公報)、インターカレーター性蛍光色素標識プローブ(INAFプローブ、特許文献7および非特許文献2)等に適用すると、検出操作を簡便に行なえるため好ましい。
【0021】
中でもインターカレーター性蛍光色素で標識され、かつ標的核酸と相補的2本鎖を形成すると当該蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変化するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブは、後述する核酸増幅反応と同時に増幅した核酸の検出を行なうことができ、後述する増幅用プライマーセット、酵素および酵素基質等を含む試薬類とともに容器に投入するだけで、増幅工程と検出工程を実施できるため、特に好ましい。前記特に好ましい態様では、上記の試薬等を予め容器に投入しておき、一定量の試料を分注するという操作のみで増幅・検出操作を迅速に実施可能である。さらに蛍光色素が発する信号を外部から検出可能なように容器の一部を透明な材料で構成すると、試料を分注後、容器を密閉したままの状態で検出工程を行なえるため、試料間のコンタミネーションを防止することもできる。インターカレーター性蛍光色素として特に限定はなく、オキサゾールイエローやアゾールオレンジ等のシアニン色素、ヘミシアニン色素、エチジウムブロマイド、メチルレッド等のアゾ色素、またはこれらの誘導体が例示できる。例えばオキサゾールイエローは、2本鎖DNAにインターカレートすることによって510nmの蛍光(励起波長470nm)が顕著に増加する色素である。このような色素は、本発明のオリゴヌクレオチドプローブの3’末端、5’末端、リン酸ジエステル部または塩基部分に適当なリンカーを介して結合させればよい。なお、増幅工程の過程で検出も行なう場合、3’末端側の水酸基からの伸長を防止する目的で、本発明のオリゴヌクレオチドプローブの3’末端にある水酸基を修飾すると好ましい。
【0022】
通常、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウム16S rRNA(またはその遺伝子)の存在量は微量である。そのため、本発明のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウムを特異的に検出する際は、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウム16S rRNA(またはその遺伝子)を増幅させてから、または増幅させると同時に検出するとよい。
【0023】
マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを増幅させるためのオリゴヌクレオチドは、配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号15に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の167番目から190番目までの領域に相当)のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドとの組み合わせであればよい。配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドの好ましい態様としては、配列番号12、配列番号13(GenBank No.X52918の30番目から52番目までの領域に相当)、配列番号14(GenBank No.X52918の80番目から101番目までの領域に相当)のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。一方配列番号15に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドの好ましい態様としては、配列番号16(GenBank No.X52918の167番目から189番目までの領域に相当)または配列番号17(GenBank No.X52918の174番目から190番目までの領域に相当)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0024】
マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAの増幅方法としては、PCR法(特許文献1から3参照)、LAMP法(非特許文献1参照)、TRC法(特許文献7および非特許文献2参照)、NASBA法(特許文献4および5参照)、TMA法(特許文献6参照)が例示できるが、本発明のオリゴヌクレオチドプローブが高次構造を取りにくい領域に存在する特定塩基配列に向けられたものであることから、一定温度(比較的低温)で簡便かつ迅速に実施可能なTRC法、NASBA法、TMA法が好ましい。
【0025】
特に好ましい増幅法であるTRC法は、
(1)第二のプライマーおよびRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、標的RNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)第一のプライマーおよびDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、および
(5)前記RNA転写産物が、前記(1)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
により標的RNAのうち特定塩基配列のRNAを増幅する方法である。なお、ここで第一のプライマーとは特定塩基配列の一部と相同的な配列を有するオリゴヌクレオチドのことをいい、第二のプライマーとは特定塩基配列の一部と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドのことをいい、第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている。
【0026】
前述した増幅法は、
(A)1本鎖RNAを鋳型とするRNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素(逆転写酵素)、
(B)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素、
(C)1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、および
(D)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素、
により進行する。これらの酵素は、いくつかの活性を合わせ持つ酵素を使用してもよく、それぞれの活性を持つ複数の酵素を使用してもよい。具体的には、前記(A)から(C)の酵素活性を有する逆転写酵素と、前記(D)とを組み合わせた態様が例示できる。もっとも、前記(A)から(C)の酵素活性を有する逆転写酵素および前記(D)に、必要に応じて前記(B)をさらに添加した態様であってもよい。前記(A)から(C)の酵素活性を有する逆転写酵素として、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素またはこれらの誘導体が例示でき、その中でもAMV逆転写酵素またはその誘導体が特に好ましい。前記(D)としては、分子生物学的実験などで汎用されているバクテリオファージ由来のT7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼまたはこれらの誘導体が例示できる。
【0027】
前述した増幅反応を進行させるためには、試料と前記各酵素に加えて、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸およびリボヌクレオシド−三リン酸を添加し、さらに反応効率を調節するために必要に応じて、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジチオスレイトール(DTT)、ウシ血清アルブミン(BSA)、糖等を添加し、適当な条件下で増幅反応を進行させる。例えば、前記(A)から(C)の酵素活性を有する逆転写酵素としてAMV逆転写酵素を、前記(D)としてT7 RNAポリメラーゼを、それぞれ用いる場合、反応温度を35℃から65℃の範囲、好ましくは40℃から50℃の範囲で設定すればよい。
【0028】
前述した増幅反応において、第一のプライマーにプロモーター配列が付加されている場合、RNA転写産物は鋳型となるRNAと相同の配列を含み、第二のプライマーにプロモーター配列が付加されている場合、RNA転写産物は鋳型となるRNAの相補的配列を含むことになる。プロモーター配列としては、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始し得る配列であればよく、種々のRNAポリメラーゼに特異的な公知のプロモーター配列を使用することができる。例えば、T7プロモーター、SP6プロモーター、T3プロモーター等の分子生物学的実験で通常用いられるプロモーター配列があげられる。なおプロモーター配列に加えて、さらに、エンハンサー配列等の転写効率に関わる付加配列を含んでいてもよい。T7プロモーターおよびエンハンサー配列の一例として、配列番号11に記載の塩基配列があげられる。
【0029】
前記した増幅反応を実施する場合、第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端にプロモーター配列を付加しておけばよいが、第一のプライマーにプロモーター配列を付加する場合には、第二のプライマーおよびRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、標的RNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程(前記(1)の工程)の前に、または前記(1)の工程と同時に、前記特定塩基配列中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端側と重複し、かつ当該重複部位から5’末端側に隣接した領域に相補的な切断用オリゴヌクレオチドと、RNase H活性を有する酵素により、前記特定塩基配列の5’末端側を切断する工程を行なうと好ましい。前記工程により、特定塩基配列の5’末端部位を切断しておくことで、cDNA合成後に、cDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を、cDNAの3’末端を伸長させることで効率的に合成でき、結果として効率的に機能的な2本鎖DNAプロモーター構造を形成することができる。切断方法としては、当該部位を特異的に切断できれば特に限定されないが、標的RNAのうち特定塩基配列の5’末端部位(該特定塩基配列内の5’末端部位を含む部分配列)に重複し、かつ5’方向に隣接する領域に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、「切断用オリゴヌクレオチド」とする)を添加してRNA−DNA2本鎖を形成させ、当該2本鎖中のRNA部分をRNase H活性を有する酵素などにより切断する方法が、切断特異性及び簡便性から好ましい。また切断用オリゴヌクレオチドの3’末端にある水酸基は、伸長反応を防止するために、例えばアミノ化等、適当な修飾を行なうと好ましい。
【0030】
マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAおよび/またはマイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを増幅するために用いる切断用オリゴヌクレオチドの一例として、
第一のプライマーとして配列番号12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる場合は、配列番号19に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが、
第一のプライマーとして配列番号13に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる場合は、配列番号20(GenBank No.X52918の14番目から37番目までの領域に相当)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが、
第一のプライマーとして配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる場合は、配列番号21(GenBank No.X52918の64番目から87番目までの領域に相当)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが、
それぞれあげられる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブはマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)16S rRNAに特異的な配列(特定塩基配列)にハイブリダイズすることが可能なプローブであり、本発明のオリゴヌクレオチドプローブを用いることで試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウムを特異的に検出することができる。さらに本発明のオリゴヌクレオチドプローブは、40℃から50℃という、比較的低温条件でもダイマーやループ等の高次構造を形成しにくいため、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを増幅するためのプライマーセット(オリゴヌクレオチドの組み合わせ)、および核酸増幅試薬(酵素、基質など)を添加することで、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを一定温度で増幅し検出することが可能となる。
【0032】
なお、インターカレーター性蛍光色素で標識した本発明のオリゴヌクレオチドプローブ存在下で、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAの増幅反応を行ない、その過程で蛍光強度を経時的に測定することで、有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、増幅に要する時間を加味しても、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウムの測定を30分程度で終了することが可能である。つまり本発明のオリゴヌクレオチドプローブを用いることで、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウムを迅速、高感度かつ特異的に検出することが可能となる。
【実施例】
【0033】
以下実施例により本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0034】
実施例1 インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの調製
下記(A)から(H)に示す、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブ(以下、「INAFプローブ」と記載する)を非特許文献2に記載の方法を参照して作製した。
(A)配列番号2に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の138番目から154番目までの領域に相当)からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から9番目のチミンの位置に、市販の試薬(Label−ON Reagents、Clontech製)を用いてアミノ基を導入後、当該アミノ基にオキサゾールイエローを標識し、さらに3’末端をビオチンで修飾して得られた、INAFプローブ。
(B)配列番号3に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の143番目から161番目までの領域に相当)からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から3番目のグアニンと4番目のアデニンとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介してチアゾールオレンジを標識して得られた、INAFプローブ。
(C)配列番号4に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の143番目から163番目までの領域に相当)からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から5番目のグアニンと6番目のアデニンとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介して下記化合物(a)を標識して得られた、INAFプローブ。
【0035】
【化1】
(D)配列番号5に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の143番目から164番目までの領域に相当)からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から6番目のグアニンと7番目のアデニンとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介してオキサゾールイエローを標識して得られた、INAFプローブ。
(E)配列番号6に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の147番目から162番目までの領域に相当)からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から7番目のグアニンと8番目のアデニンとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介してオキサゾールイエローを標識して得られた、INAFプローブ。
(F)配列番号7に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の147番目から164番目までの領域に相当)からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から9番目のグアニンと10番目のアデニンとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介してオキサゾールイエローを標識して得られた、INAFプローブ。
(G)配列番号8に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の147番目から166番目までの領域に相当)からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から8番目のグアニンと9番目のアデニンとの間のリン酸ジエステル部分に、リンカーを介してオキサゾールイエローを標識して得られた、INAFプローブ。
(H)配列番号9に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の152番目から170番目までの領域に相当)からなるオリゴヌクレオチドのうち、5’末端から13番目のアデニンの位置に、市販の試薬(Label−ON Reagents、Clontech製)を用いてアミノ基を導入後、当該アミノ基にオキサゾールイエローを標識し、さらに3’末端をビオチンで修飾して得られた、INAFプローブ。
【0036】
実施例2 マイコバクテリウム・イントラセルラー16S rRNA検出用オリゴヌクレオチドの評価
表1に示した組み合わせに記載のINAFプローブ、第一のプライマー、第二のプライマーおよび切断用オリゴヌクレオチド(以下、「オリゴヌクレオチドの組み合わせ」と記載する)を用いて、(1)から(5)に示す方法で抗酸菌16S rRNAを検出し検出性能および特異性の評価を行なった。
(1)マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)16S rRNA遺伝子、マイコバクテリウム・イントラセルラー(Mycobacterium intracellulare)16S rRNA遺伝子、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)16S rRNA遺伝子、およびマイコバクテリウム・カンサシー(Mycobacterium kansasii)16S rRNA遺伝子をそれぞれクローニングし、インビトロ転写後、転写産物を精製することで、各抗酸菌16S rRNAを調製した(以下、「標準RNA」と記載する)。また特異性評価用として、マイコバクテリウム・マリナム(Mycobacterium marinum)培養液、マイコバクテリウム・フロレンティナム(Mycobacterium florentinum)培養液、マイコバクテリウム・コロンビエンゼ(Mycobacterium colombiense)培養液(OD600nm=0.1)をEXTRAGEN MB(東ソー製)でそれぞれ核酸抽出し得られた、各抗酸菌RNA溶液も用意した。
(2)各抗酸菌標準RNAを、RNA希釈液(1mM EDTA、0.25U/μL リボヌクレアーゼインヒビター、5.0mM DTTを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0))を用いて、それぞれ以下に示す濃度に調整し、これらをRNA試料として用いた。なおマイコバクテリウム・マリナムは、(1)で調製したマイコバクテリウム・マリナムRNA溶液をそのまま、または前記RNA希釈液で10倍希釈したものをRNA試料として用い、マイコバクテリウム・フロレンティナムおよびマイコバクテリウム・コロンビエンゼは、(1)で調製したマイコバクテリウム・フロレンティナムRNA溶液またはマイコバクテリウム・コロンビエンゼRNA溶液を前記RNA希釈液でそれぞれ10倍希釈したものをRNA試料として用いた。
マイコバクテリウム・アビウム標準RNA:10コピー/5μL
マイコバクテリウム・イントラセルラー標準RNA、結核菌標準RNAおよびマイコバクテリウム・カンサシー標準RNA:10コピー/5μL
(3)以下の組成の反応液20μLを市販の0.5mL容量PCR用チューブ(Individual Dome Cap PCR Tube、SSI製)に分注し、これに前記RNA試料5μLを添加した。
【0037】
反応液の組成:濃度は酵素液添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris−HCl緩衝液(pH8.65)
19mM 塩化マグネシウム
61.7mM 塩化カリウム
0.01% コール酸ナトリウム
各0.3mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各3mM ATP、CTP、UTP、GTP
3.4mM ITP
0.08から0.16μM 切断用オリゴヌクレオチド(3’末端の水酸基をアミノ基で修飾)
0.5から1μM 第一のプライマー(各配列番号記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの5’末端側にT7プロモータ(配列番号11)を付加したもの)
0.5から1μM 第二のプライマー
10から100nM INAFプローブ(実施例1で調製したもの)
10.5% DMSO
(4)上記の反応液を43℃または46℃で5分間保温後、予め43℃で2分間保温した酵素液Aまたは酵素液B(組成は下記参照)を5μLを添加した。
【0038】
酵素液Aの組成:反応時(30μL中)の最終濃度
2.0% ソルビトール
5.1から6.4U AMV逆転写酵素
71から142U T7 RNAポリメラーゼ
0.12mg/mL 牛血清アルブミン
酵素液Bの組成:反応時(30μL中)の最終濃度
23% グリセロール
0.4M トレハロース
33.3mM 塩化カリウム
5.1から6.4U AMV逆転写酵素
71から142U T7 RNAポリメラーゼ
0.05mg/mL 牛血清アルブミン
0.01% アジ化ナトリウム
0.003% 青色1号
(5)引き続きPCRチューブを直接検出可能な温調機能付き蛍光分光光度計に供し、43℃または46℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度(励起波長450nm−蛍光波長490nm、励起波長470nm−蛍光波長510nmまたは励起波長500nm−蛍光波長540nm)を経時的に30分間測定した。
【0039】
各オリゴヌクレオチドの組み合わせを用いて、各抗酸菌のRNA試料を測定した結果を表1に示す。表1において、検出性能はRNA試料としてマイコバクテリウム・アビウムRNA試料を用いたときの結果であり、酵素添加時を反応開始時(0分)とし、反応開始後30分以内に反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度値で割った比)が1.80以上に達した場合を陽性判定(「+」と表記)とし、反応開始後30分後の時点で蛍光強度比1.80未満の場合を陰性判定(「−」と表記)としている。また特異性はRNA試料としてマイコバクテリウム・アビウム以外の抗酸菌(マイコバクテリウム・イントラセルラー、結核菌、マイコバクテリウム・カンサシー、マイコバクテリウム・マリナム、マイコバクテリウム・フロレンティナムおよびマイコバクテリウム・コロンビエンゼ)RNA試料を用いたときの結果であり、酵素添加時を反応開始時(0分)とし、反応開始後30分以内に反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度値で割った比)が1.40未満の場合を陰性判定(「−」と表記)、1.15未満を強陰性判定(「−−」と表記)としている。
【0040】
【表1】
表1より、オリゴヌクレオチドの組み合わせ[2]から[4]および[6]から[8]がマイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを特異的に検出しており、特にオリゴヌクレオチドの組み合わせ[2]から[4]および[6]がマイコバクテリウム・アビウム16S rRNAに対する特異性が高いことがわかる。マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを検出しなかった、組み合わせ[1]で使用したINAFプローブ(配列番号2)および組み合わせ[5]で使用したINAFプローブ(配列番号6)と、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを特異性高く検出した、組み合わせ[2]で使用したINAFプローブ(配列番号3)とは、それぞれ12塩基、15塩基一致している。またマイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを検出しなかった、組み合わせ[5]で使用したINAFプローブ(配列番号6)は、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを特異性高く検出した、組み合わせ[6]で使用したINAFプローブ(配列番号7)の5’末端側2塩基を削除したものと同一である。さらにマイコバクテリウム・アビウム16S rRNAに対する特異性があまり高くなかった、組み合わせ[7]で使用したINAFプローブ(配列番号8)の塩基配列は、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを特異性高く検出した、組み合わせ[6]で使用したINAFプローブ(配列番号7)の5’末端側に2塩基(TC)を付加した塩基配列と同一である。つまり、標的核酸(マイコバクテリウム・アビウム16S rRNA)に対する位置が互いに近いINAFプローブを用いても、当該位置の違いにより検出性能と特異性が大きく変化することがわかる。したがって、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを特異的かつ高感度に検出するためには、INAFプローブの標的核酸に対する位置を厳密に設計する必要があることがわかる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]