【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明の第一の態様は、配列番号1に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなる、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)を特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドプローブである。
【0012】
また本発明の第二の態様は、配列番号5に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなる、前記第一の態様に記載のオリゴヌクレオチドプローブである。
【0013】
また本発明の第三の態様は、配列番号3、4、5、7のいずれかに記載の塩基配列またはその相補鎖からなる、前記第二の態様に記載のオリゴヌクレオチドプローブである。
【0014】
そして本発明の第四の態様は、
配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドと、
配列番号15に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドと、
前記第一から第三の態様のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブとを含む、
試料中に含まれるマイコバクテリウム・アビウムを特異的に検出する試薬である。
【0015】
また本発明の第五の態様は、配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドが、配列番号12から14のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、前記第四の態様に記載の試薬である。
【0016】
そして本発明の第六の態様は、
(1)第二のプライマーおよびRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)第一のプライマーおよびDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(5)前記RNA転写産物が、前記(1)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、および
(6)生成したRNA転写産物を、当該転写産物の一部の塩基配列と相補的2本鎖を形成すると形成前と比較し蛍光特性が変化するオリゴヌクレオチドプローブを用いて検出する工程を含む、
マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを特異的に検出する方法であって、
前記第一のプライマーとして、配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドを、
前記第二のプライマーとして、配列番号15に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドを、
前記オリゴヌクレオチドプローブとして、請求項1から3のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブを、
それぞれ用いる前記方法である。
【0017】
また本発明の第七の態様は、
前記(1)の工程の前に、または前記(1)の工程と同時に、特定塩基配列中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端側と重複し、かつ当該重複部位から5’末端側に隣接した領域に相補的な切断用オリゴヌクレオチドと、リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素により、前記特定塩基配列の5’末端側を切断する工程を行ない、
かつ前記切断用オリゴヌクレオチドとして、配列番号19から21のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる、前記第六の態様に記載の方法である。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明は、喀痰、胃液、血液、尿、便、体腔液、組織、気管支洗浄液、気管支肺胞洗浄液等の生体由来試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)を特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドプローブに係る発明である。本発明のオリゴヌクレオチドプローブは、マイコバクテリウム・アビウム16S rRNA(またはその遺伝子)の部分配列の相補鎖(または相同鎖)からなるオリゴヌクレオチドであり、具体的には、配列番号1に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の143番目から170番目までの領域に相当)のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなるオリゴヌクレオチドである。また本発明のオリゴヌクレオチドプローブの好ましい態様として、配列番号5に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の143番目から164番目までの領域に相当)のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに好ましい態様として、配列番号3(GenBank No.X52918の143番目から161番目までの領域に相当)、配列番号4(GenBank No.X52918の143番目から163番目までの領域に相当)、配列番号5(GenBank No.X52918の143番目から164番目までの領域に相当)、配列番号7(GenBank No.X52918の147番目から164番目までの領域に相当)のいずれかに記載の塩基配列またはその相補鎖からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。また、配列番号1に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する18塩基またはその相補鎖からなるオリゴヌクレオチドと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドも、本発明のオリゴヌクレオチドプローブに含まれる。ここでいうストリンジェントな条件とは、既知の条件から選定可能で、特に限定されるものではないが、例えば、42℃における50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、50mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mM塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム等が共存する条件下でハイブリダイズ可能な条件があげられる。
【0020】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブを用いた検出は、電気泳動や液体クロマトグラフィーを利用した方法で行なうことができる。また本発明のオリゴヌクレオチドプローブに、標識物質を結合した後、ハイブリダイゼーション法により検出してもよい。標識物質としては、酵素、蛍光色素、放射性同位元素、発光色素等の公知のものが利用できる。なお本発明のオリゴヌクレオチドプローブを、molecular beacon(米国特許5925517号公報、米国特許6103476号公報)、TaqManプローブ(米国特許5210015号公報、米国特許5487972号公報)、Q−Probe(特許3437816号公報)、サイクリングプローブ(米国特許5011769号公報、米国特許5403711号公報)、インターカレーター性蛍光色素標識プローブ(INAFプローブ、特許文献7および非特許文献2)等に適用すると、検出操作を簡便に行なえるため好ましい。
【0021】
中でもインターカレーター性蛍光色素で標識され、かつ標的核酸と相補的2本鎖を形成すると当該蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることによって蛍光特性が変化するように設計されたオリゴヌクレオチドプローブは、後述する核酸増幅反応と同時に増幅した核酸の検出を行なうことができ、後述する増幅用プライマーセット、酵素および酵素基質等を含む試薬類とともに容器に投入するだけで、増幅工程と検出工程を実施できるため、特に好ましい。前記特に好ましい態様では、上記の試薬等を予め容器に投入しておき、一定量の試料を分注するという操作のみで増幅・検出操作を迅速に実施可能である。さらに蛍光色素が発する信号を外部から検出可能なように容器の一部を透明な材料で構成すると、試料を分注後、容器を密閉したままの状態で検出工程を行なえるため、試料間のコンタミネーションを防止することもできる。インターカレーター性蛍光色素として特に限定はなく、オキサゾールイエローやアゾールオレンジ等のシアニン色素、ヘミシアニン色素、エチジウムブロマイド、メチルレッド等のアゾ色素、またはこれらの誘導体が例示できる。例えばオキサゾールイエローは、2本鎖DNAにインターカレートすることによって510nmの蛍光(励起波長470nm)が顕著に増加する色素である。このような色素は、本発明のオリゴヌクレオチドプローブの3’末端、5’末端、リン酸ジエステル部または塩基部分に適当なリンカーを介して結合させればよい。なお、増幅工程の過程で検出も行なう場合、3’末端側の水酸基からの伸長を防止する目的で、本発明のオリゴヌクレオチドプローブの3’末端にある水酸基を修飾すると好ましい。
【0022】
通常、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウム16S rRNA(またはその遺伝子)の存在量は微量である。そのため、本発明のオリゴヌクレオチドプローブを用いて、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウムを特異的に検出する際は、試料中に存在するマイコバクテリウム・アビウム16S rRNA(またはその遺伝子)を増幅させてから、または増幅させると同時に検出するとよい。
【0023】
マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを増幅させるためのオリゴヌクレオチドは、配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号15に記載の塩基配列(GenBank No.X52918の167番目から190番目までの領域に相当)のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドとの組み合わせであればよい。配列番号10に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する22塩基からなるオリゴヌクレオチドの好ましい態様としては、配列番号12、配列番号13(GenBank No.X52918の30番目から52番目までの領域に相当)、配列番号14(GenBank No.X52918の80番目から101番目までの領域に相当)のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。一方配列番号15に記載の塩基配列のうち少なくとも連続する17塩基からなるオリゴヌクレオチドの好ましい態様としては、配列番号16(GenBank No.X52918の167番目から189番目までの領域に相当)または配列番号17(GenBank No.X52918の174番目から190番目までの領域に相当)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0024】
マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAの増幅方法としては、PCR法(特許文献1から3参照)、LAMP法(非特許文献1参照)、TRC法(特許文献7および非特許文献2参照)、NASBA法(特許文献4および5参照)、TMA法(特許文献6参照)が例示できるが、本発明のオリゴヌクレオチドプローブが高次構造を取りにくい領域に存在する特定塩基配列に向けられたものであることから、一定温度(比較的低温)で簡便かつ迅速に実施可能なTRC法、NASBA法、TMA法が好ましい。
【0025】
特に好ましい増幅法であるTRC法は、
(1)第二のプライマーおよびRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、標的RNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)第一のプライマーおよびDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列または特定塩基配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、および
(5)前記RNA転写産物が、前記(1)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
により標的RNAのうち特定塩基配列のRNAを増幅する方法である。なお、ここで第一のプライマーとは特定塩基配列の一部と相同的な配列を有するオリゴヌクレオチドのことをいい、第二のプライマーとは特定塩基配列の一部と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドのことをいい、第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加されている。
【0026】
前述した増幅法は、
(A)1本鎖RNAを鋳型とするRNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素(逆転写酵素)、
(B)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素、
(C)1本鎖DNAを鋳型とするDNA依存DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、および
(D)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素、
により進行する。これらの酵素は、いくつかの活性を合わせ持つ酵素を使用してもよく、それぞれの活性を持つ複数の酵素を使用してもよい。具体的には、前記(A)から(C)の酵素活性を有する逆転写酵素と、前記(D)とを組み合わせた態様が例示できる。もっとも、前記(A)から(C)の酵素活性を有する逆転写酵素および前記(D)に、必要に応じて前記(B)をさらに添加した態様であってもよい。前記(A)から(C)の酵素活性を有する逆転写酵素として、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素またはこれらの誘導体が例示でき、その中でもAMV逆転写酵素またはその誘導体が特に好ましい。前記(D)としては、分子生物学的実験などで汎用されているバクテリオファージ由来のT7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼまたはこれらの誘導体が例示できる。
【0027】
前述した増幅反応を進行させるためには、試料と前記各酵素に加えて、緩衝剤、マグネシウム塩、カリウム塩、ヌクレオシド−三リン酸およびリボヌクレオシド−三リン酸を添加し、さらに反応効率を調節するために必要に応じて、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジチオスレイトール(DTT)、ウシ血清アルブミン(BSA)、糖等を添加し、適当な条件下で増幅反応を進行させる。例えば、前記(A)から(C)の酵素活性を有する逆転写酵素としてAMV逆転写酵素を、前記(D)としてT7 RNAポリメラーゼを、それぞれ用いる場合、反応温度を35℃から65℃の範囲、好ましくは40℃から50℃の範囲で設定すればよい。
【0028】
前述した増幅反応において、第一のプライマーにプロモーター配列が付加されている場合、RNA転写産物は鋳型となるRNAと相同の配列を含み、第二のプライマーにプロモーター配列が付加されている場合、RNA転写産物は鋳型となるRNAの相補的配列を含むことになる。プロモーター配列としては、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始し得る配列であればよく、種々のRNAポリメラーゼに特異的な公知のプロモーター配列を使用することができる。例えば、T7プロモーター、SP6プロモーター、T3プロモーター等の分子生物学的実験で通常用いられるプロモーター配列があげられる。なおプロモーター配列に加えて、さらに、エンハンサー配列等の転写効率に関わる付加配列を含んでいてもよい。T7プロモーターおよびエンハンサー配列の一例として、配列番号11に記載の塩基配列があげられる。
【0029】
前記した増幅反応を実施する場合、第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端にプロモーター配列を付加しておけばよいが、第一のプライマーにプロモーター配列を付加する場合には、第二のプライマーおよびRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、標的RNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程(前記(1)の工程)の前に、または前記(1)の工程と同時に、前記特定塩基配列中の第一のプライマーとの相同領域の5’末端側と重複し、かつ当該重複部位から5’末端側に隣接した領域に相補的な切断用オリゴヌクレオチドと、RNase H活性を有する酵素により、前記特定塩基配列の5’末端側を切断する工程を行なうと好ましい。前記工程により、特定塩基配列の5’末端部位を切断しておくことで、cDNA合成後に、cDNAにハイブリダイズした第一のプライマーのプロモーター配列に相補的なDNA鎖を、cDNAの3’末端を伸長させることで効率的に合成でき、結果として効率的に機能的な2本鎖DNAプロモーター構造を形成することができる。切断方法としては、当該部位を特異的に切断できれば特に限定されないが、標的RNAのうち特定塩基配列の5’末端部位(該特定塩基配列内の5’末端部位を含む部分配列)に重複し、かつ5’方向に隣接する領域に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、「切断用オリゴヌクレオチド」とする)を添加してRNA−DNA2本鎖を形成させ、当該2本鎖中のRNA部分をRNase H活性を有する酵素などにより切断する方法が、切断特異性及び簡便性から好ましい。また切断用オリゴヌクレオチドの3’末端にある水酸基は、伸長反応を防止するために、例えばアミノ化等、適当な修飾を行なうと好ましい。
【0030】
マイコバクテリウム・アビウム16S rRNAおよび/またはマイコバクテリウム・アビウム16S rRNAを増幅するために用いる切断用オリゴヌクレオチドの一例として、
第一のプライマーとして配列番号12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる場合は、配列番号19に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが、
第一のプライマーとして配列番号13に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる場合は、配列番号20(GenBank No.X52918の14番目から37番目までの領域に相当)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが、
第一のプライマーとして配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いる場合は、配列番号21(GenBank No.X52918の64番目から87番目までの領域に相当)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが、
それぞれあげられる。