(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ボロメータ材料を用いて形成されたボロメータ薄膜(20)を備え、電磁波の吸収による温度変化を、前記ボロメータ薄膜の抵抗値の変化として検出するボロメータ方式の温度センサであって、
前記ボロメータ薄膜は、酸化バナジウム(IV)を主成分とするとともに、バナジウムと合金を形成可能な第1元素および第2元素が添加され、
前記第1元素は、バナジウムよりも価数が大きい元素であり、
前記第2元素は、バナジウムよりも価数が小さい元素であることを特徴とする温度センサ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分に、同一符号を付与する。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態に係る温度センサは、ボロメータ薄膜の温度の変化による電流変化を検出するものであり、特に赤外線センサとして好適なものである。換言すると、温度によって抵抗値が変化するボロメータ材料を用いたボロメータ薄膜を備える温度センサである。
【0018】
温度センサは、例えば、赤外線の吸収を利用した成分分析器に応用することができる。この成分分析器は、赤外線光源とともに用いられる。赤外線光源から発せられた赤外線を受けて、ボロメータ薄膜の温度が変化する。この温度変化の違いから赤外線光源と温度センサの間に存在する分子の成分を同定する。
【0019】
最初に、
図1を参照して、本実施形態に係る温度センサ100の概略構成について説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態における温度センサ100は、半導体基板10と、半導体基板10の一面10a上に形成された絶縁膜11と、絶縁膜11内に埋め込まれたボロメータ薄膜20と、ボロメータ薄膜20に電流を流すための電極30と、外部から入射する赤外線を吸収する赤外線吸収膜40と、を有している。
【0021】
半導体基板10は単結晶シリコン(Si)からなる。半導体基板10には、一面10aと反対の裏面10b側に開口する空洞部10cが形成されている。そして、絶縁膜11における空洞部10cの架橋部分が薄肉部としてのメンブレン12を成している。なお、この絶縁膜11はシリコンの酸化物(SiO
2)である。
【0022】
メンブレン12のうち、半導体基板10における空洞部10cの底面10dに露出する部分には絶縁性基板21が形成されている。そして、絶縁性基板21の露出面と反対の一面21aに、ボロメータ薄膜20が形成されている。なお、この絶縁膜基板21は、例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)であり、絶縁性基板21の一面21aは面方位(0001)に配向している。
【0023】
ボロメータ薄膜20は、ボロメータ材料としての酸化バナジウム(IV)を主成分とする。ボロメータ材料は抵抗値の温度依存性を有する。このため、ボロメータ薄膜20の両端に一定電圧を印加した状態で、ボロメータ薄膜20に流れる電流値を測定することによって、温度を特定することができる。ボロメータ薄膜20は、絶縁性基板21としての酸化アルミニウム上に形成された均一に形成された膜であり、高配向な薄膜である。ボロメータ薄膜20は絶縁膜11内に埋め込まれるようにして配置され、絶縁膜11とともにメンブレン12を構成している。そして、絶縁膜11の厚さ方向に直交する一方向に延びて形成されている。なお、ボロメータ薄膜20を構成するボロメータ材料についての詳細は後述する。
【0024】
絶縁膜11には、ボロメータ薄膜20の両端に位置するように、2つのトレンチ13が形成されている。2つのトレンチ13のうち一方は、正極側トレンチ13aであり、他方は負極側トレンチ13bである。トレンチ13は、絶縁膜11における半導体基板10の界面と反対の一面11aから、絶縁膜11の厚さ方向に形成されている。トレンチ13はボロメータ薄膜20の端部がトレンチ13の内面に露出する位置に達する深さまで形成されている。
【0025】
電極30は、正極31と負極32とを有している。正極31は、2つのトレンチ13のうち正極側トレンチ13aの内部を埋めつつ、絶縁膜11の一面11aの一部を覆うように形成されている。また、負極32は、他方のトレンチ、すなわち、負極側トレンチ13bの内部を埋めつつ、絶縁膜11の一面11aの一部を覆うように形成されている。上記したように、トレンチ13は、その内面においてボロメータ薄膜20の端部が露出するように形成されている。このため、ボロメータ薄膜20は、一端が正極31に電気的に接続され、他端が負極32に電気的に接続されている。正極31と負極32との間に一定電圧を印加することにより、ボロメータ薄膜20に電流を流すことができる。
【0026】
また、温度センサ100は保護膜50を有している。保護膜50はシリコンの窒化物(SiN)から成り、絶縁膜11および電極30を保護するものである。保護膜50は、電極30のうち、外部接続用のパッド31a,32aとなる部分を残して、絶縁膜11の一面11aおよび電極30を覆うように形成されている。
【0027】
赤外線吸収膜40は、外部から入射する赤外線を受光する部分である。赤外線吸収膜40は保護膜50の一面50a上において、ボロメータ薄膜20と対向する位置に形成されている。赤外線吸収膜40は受光した赤外線によって昇温し、これに伴ってメンブレン12の温度を上昇させる。これにより、ボロメータ薄膜20の温度変化を積極的に促すことができる。
【0028】
なお、半導体基板10の裏面10bには、保護膜60が形成されている。保護膜60は、空洞部10cを形成するためのエッチングにおけるマスクであるとともに、半導体基板10を裏面10b側から保護するものである。
【0029】
次に、
図2〜
図5を参照して、ボロメータ薄膜20について、詳しく説明する。
【0030】
ボロメータ薄膜20を形成するボロメータ材料は、4価のバナジウム(V
4+)をもつ酸化バナジウム(VO
2)を主成分としている。そして、本実施形態におけるボロメータ薄膜20は、VO
2に加えて、第1元素として、5価のニオブ(Nb)が添加されている。さらに、第2元素として、3価のクロム(Cr)が添加されている。
【0031】
2元素添加の効果としては、まず、Nb添加により、温度−比抵抗のヒステリシスを低減させることができる。さらに、これにCrを添加することによって、Nb添加に伴うTCRの絶対値(以下、|TCR|と示す)の低下を抑制することができる。すなわち、ヒステリシスとTCRとのトレードオフを抑制することができる。
【0033】
図2は、ノンドープのVO
2から形成されたボロメータ薄膜の、抵抗値の温度依存性を示すグラフである。
図2に示すように、ノンドープのVO
2は、構造転移に起因する金属−半導体転移により、抵抗値の温度依存性が大きい。具体的には、ノンドープのVO
2における|TCR|の最大値は、|TCR|≒140%/Kである。しかしながら、ノンドープVO
2は、構造転移に伴うヒステリシスにより、金属と半導体の間の相転移開始温度が、昇温時と降温時とで異なる。具体的には、昇温時では、略351Kにおいて、半導体から金属に相転移する。一方、降温時では、略341Kにおいて、金属から半導体に相転移する。すなわち、昇温時と降温時とで略10Kのヒステリシス幅が存在する。
【0034】
これに対して、本実施形態におけるボロメータ薄膜20は、VO
2にNbとCrが添加されている。発明者は、実験によって、NbおよびCrの添加量に対するヒステリシス幅の変化を求めた。実験の結果を
図3に示す。
【0035】
図3には、Nbのみを添加した場合、Crのみを添加した場合、および、NbとCrの両方を添加した場合の3つのプロットが示されている。いずれの場合も、ドープする元素の添加量(バナジウム原子に対する原子パーセント濃度)に対するヒステリシス幅の変化は線形性を有しており、添加量の増加に伴ってヒステリシス幅は減少する。Nbのみを添加する場合、ヒステリシス幅の変化量は略−1.3K/at%であり、Crのみを添加する場合の略−0.29K/at%に較べて、ヒステリシス幅の低減効果が高い。
【0036】
NbとCrの両方を添加した場合のプロットは、Crの添加量を8at%として、Nbの添加量を変化させたものである。Nb添加量に対するヒステリシス幅の変化量は、Nbのみを添加した場合の変化量とほぼ同じである。すなわち、添加する元素は、それぞれ独立にヒステリシス幅の低減に寄与している。したがって、VO
2にNbとCrの2元素を添加する系においては、Nbの量をできるだけ多くすることによって、ヒステリシス幅の低減効果を発揮させることができる。例えば、Crの濃度を8at%、Nbの濃度を7at%とすることにより、ヒステリシスをほぼ解消することができる。
【0037】
なお、VO
2に対する不純物ドープによるヒステリシス幅の低減は、不純物によってVO
2の結晶性が乱れ、半導体−金属転移の相変化が緩慢になることに起因するものと推察される。
【0038】
また、発明者は、実験によって、NbおよびCrの添加量に対する|TCR|の変化を求めた。実験の結果を
図4に示す。
【0039】
図4には、Nbのみを添加した場合、Crのみを添加した場合、および、NbとCrの両方を添加した場合の3つのプロットが示されている。ドープする元素の添加量(バナジウム原子に対する原子パーセント濃度)に対する|TCR|の変化は指数関数的であり、添加量の増加に伴って、|TCR|は減少する。
図4に示す結果によれば、Crのみを添加した場合は、Nbのみを添加した場合に較べて、|TCR|の減少を抑制することができる。
【0040】
NbとCrの両方を添加した場合のプロットは、Crの添加量を8at%として、Nbの添加量を変化させたものである。Nb添加量に対する|TCR|の変化量は、Crのみを添加した場合のプロットにほぼ重なる。すなわち、VO
2中にCr原子がドープされた状態において、Nbを添加したとしても、Nbのみ添加した場合のような|TCR|の大きな変化を生じることがない。換言すれば、Crの添加によって|TCR|の低下を抑制しつつ、Nbの添加量を増加させることができる。
【0041】
なお、VO
2に対する不純物ドープによる|TCR|の減少は、結晶性の乱れ、および、電子濃度の増大に起因すると推察される。CrおよびNbのいずれを添加してもVO
2の結晶性が乱れるため、|TCR|は減少する傾向を示す。その減少割合は、上記したように、Nbのみを添加した場合に較べて、Crのみを添加した場合のほうが小さい。そして、
図4に示すように、NbとCrの両方を添加した2元素系では、添加量に対する|TCR|の変化がCrのみを添加したプロット寄りになる。このことから、3価であるCrの添加が、5価であるNbの添加による電子濃度の増加を相殺し、電子濃度に起因する|TCR|の減少を抑制しているものと推察される。
【0042】
上記した2つの実験結果によれば、ヒステリシス幅の低減を目的として第1元素を添加する。この第1元素は、バナジウムよりも価数の大きいものとしておく。そして、第1元素添加による電子濃度の増加を相殺する目的で、バナジウムよりも価数の小さい第2元素を添加する。これにより、|TCR|の低減を抑制することができる。すなわち、バナジウムよりも価数の大きい第1元素と、価数の小さい第2元素を、両方とも添加することにより、ヒステリシス幅と|TCR|のトレードオフを低減することができる。
【0043】
電子濃度の増加を相殺する効果を奏するために、第1元素を添加したことによる電子数の増加量に較べて、第2元素を添加したことによる電子数の減少量が大きくすることが好ましい。定量的には、第1元素の価数が4+N(Nは正の整数)であり、第2元素の価数が4−M(Mは正の整数)であるとき、第1元素の添加量は、第2元素の添加量のM/N倍を超えないようにすることが好ましい。
【0044】
具体的な例を示す。本実施形態において、第1元素としてのNbは5価であり、N=1である。第2元素としてのCrは3価であり、M=1である。したがって、Nbの添加量がCrの添加量の1倍を超えないようにすることが好ましい。また、別の例として、第1元素として、例えば6価のタングステンを採用し、第2元素として、3価のCrを採用した場合、N=2、M=1であるから、タングステンの添加量は、Crの添加量の1/2倍を超えないようにすることが好ましい。
【0045】
なお、ボロメータ薄膜20において、VO
2を主成分とし、Crの濃度を8at%、Nbの濃度を7at%とすることにより、
図3に示すように、ヒステリシスをほぼ解消することができる。また、このような構成においては、
図4に示すように、|TCR|も略5%/Kとすることができる。これは、ボロメータ材料としてシリコン(Si)を用いてボロメータ薄膜20を形成する場合(|TCR|≒1.5%/K)に較べて大きい。
【0046】
Crの濃度を8at%、Nbの濃度を7at%としたボロメータ薄膜20を有する温度センサ100を成分分析器に採用すれば、呼気中のエタノール濃度や、車両燃料中の軽油濃度、さらには、排ガス中の二酸化炭素や窒素酸化物の濃度を測定するために十分な|TCR|、つまり感度、を確保することができる。
【0047】
また、ボロメータ薄膜20において、VO
2を主成分とし、Crの濃度を8at%、Nbの濃度を4at%とすることにより、
図4に示すように、|TCR|も10%/K以上とすることができる。また、このような構成においては、
図3に示すように、ヒステリシス幅を略5Kとすることができる。
【0048】
Crの濃度を8at%、Nbの濃度を4at%としたボロメータ薄膜20を有する温度センサ100を成分分析器に採用すれば、検出に高い感度を必要とする、呼気中のアセトン濃度を測定するために十分な|TCR|、つまり感度、を確保することができる。同時に、ヒステリシス幅を、従来に較べて抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態に係る温度センサ100が有するボロメータ薄膜20は、|TCR|と低抵抗のトレードオフも抑制することができる。以下に説明する。
【0050】
特許文献1には、酸化バナジウム膜を還元する際に、所定の還元温度で熱処理することにより、酸化バナジウム膜の比抵抗を制御する方法が記載されている。この方法を採用する場合、比抵抗と|TCR|はトレードオフの関係にある。例えば、比抵抗として1Ωcm以下を達成するためには、還元温度を略350℃以上にしなければならない。この条件では、|TCR|は略2%/K以下になってしまう。
【0051】
発明者は、上記したような、Crの濃度を8at%、Nbの濃度を7at%としたボロメータ薄膜20について、|TCR|の比抵抗依存性を調べた。その結果を
図5に示す。
図5によれば、|TCR|の極大値を、1Ωcmより小さい比抵抗において実現可能である。すなわち、従来に較べて、|TCR|と低抵抗のトレードオフを抑制することができる。
【0052】
次に、
図6〜
図11を参照して、本実施形態に係る温度センサ100の製造方法について説明する。なお、ボロメータ薄膜20を除く部分は、よく知られた製造方法に準ずるものであるため、簡単に説明する。
【0053】
まず、半導体基板10として、一面10aが所定方位に配向した単結晶シリコンウェハを用意する。ここで、所定方位とは、絶縁性基板21が一面10aにおいてエピタキシャル成長可能な面方位であり、本実施形態では(001)方位である。そして、半導体基板10の一面10a上に酸化膜70を形成する。その後、酸化膜70のうち、後にボロメータ薄膜20を形成する部分をエッチングにより除去する。そして、
図6に示すように、エッチングにより除去した部分に、物理気相成長法(PVD)あるいは化学気相成長法(CVD)を用いて、Al
2O
3をエピタキシャル成長させることにより、絶縁性基板21を形成する。これにより、絶縁性基板21の一面21aは、面方位(0001)に配向する。
【0054】
次いで、
図7に示すように、酸化膜70および絶縁性基板21を覆うようにしてボロメータ材料を堆積する。酸化膜70上に堆積したボロメータ材料は、非晶質のアモルファス膜80となる。一方、Al
2O
3からなる絶縁性基板21は、格子定数がVO
2に近い。また、ボロメータ材料が堆積する一面21aが(0001)に配向している。したがって、絶縁性基板21に堆積したボロメータ材料は、高配向成長する。これにより、ボロメータ薄膜20が形成される。
【0055】
ボロメータ材料の堆積には、PVDやCVDを用いることができる。例えば、PVDの一つであるパルスレーザー堆積法(PLD)によって堆積を行う例について、詳細に説明する。
【0056】
まず、密閉されたチャンバ内に、絶縁性基板21が形成された試料を配置する。また、ボロメータ材料を堆積するべき一面21aと対向する位置にターゲットを配置する。ターゲットは、V
2O
5とCr
2O
3とNb
2O
5を混合して焼結させたペレットである。なお、Cr
2O
3とNb
2O
5の混合量は、バナジウム原子に対して、Cr原子が8at%、Nb原子が7at%となるように調製する。なお、ここで説明する例は、Cr原子が8at%、Nb原子が7at%のものであるが、VO
2に混合するCr
2O
3とNb
2O
5の量を調整することにより、Cr原子およびNb原子の量は調整可能である。
【0057】
その後、チャンバ内を、酸化バナジウムのうち、組成として、VO
2が安定となる酸素濃度に保持する。また、絶縁性基板21を、ヒータを用いて350℃以上(好ましくは略500℃)とする。そして、例えばKrFレーザをターゲットに照射して昇華させ、絶縁性基板21の一面21a上に堆積する。これにより、
図7に示すように、ボロメータ薄膜20とアモルファス膜80を形成することができる。ボロメータ薄膜20としては、例えば100nm堆積する。その後、降温して室温とする。
【0058】
次いで、アモルファス膜80および酸化膜70をエッチングにより除去する。そして、
図8に示すように、半導体基板10の一面10aに、絶縁性基板21およびボロメータ薄膜20を覆うように、SiO
2の絶縁膜11を形成する。
【0059】
次いで、
図9に示すように、絶縁膜11にトレンチ13を形成する。トレンチ13は、絶縁膜11の一面11aから、絶縁膜11の厚さ方向に延びつつ、半導体基板10に到達しない深さまで形成する。また、トレンチ13の内面にボロメータ薄膜20の端部が露出するような深さとする。なお、
図9においては、
図1と同様に、ボロメータ薄膜20の端部のうち一端が露出するトレンチ13の符号を13aとし、他方が露出するトレンチ13の符号を13bとしている。
【0060】
次いで、
図10に示すように、絶縁膜11の一面11a上に、Alを選択的に堆積して電極30を形成する。トレンチ13aを埋めるようにAlを堆積して、正極31を形成する。また、トレンチ13bを埋めるようにAlを堆積して、負極32を形成する。なお、言うまでもないが、正極31と負極31は、互いに電気的に絶縁するように形成する。
【0061】
次いで、
図11に示すように、SiNの保護膜50を形成する。保護膜50は、電極30のうち、外部接続用のパッド31a,32aとなる部分を残して、絶縁膜11の一面11aおよび電極30を覆うように形成する。
【0062】
次いで、図示しないが、半導体基板10の裏面10bを研削および研磨して平坦化した後、SiNからなる保護膜60を形成する。その後、空洞部10cの形成位置に対応する保護膜60を除去する。そして、絶縁性基板21が外部に露出するように、半導体基板10の裏面10bを、保護膜60をマスクとしてエッチングする。これにより、半導体基板10に空洞部10cが形成される。そして、ボロメータ薄膜20が形成された部分を含む絶縁膜11の一部がメンブレン12となる。
【0063】
最後に、保護膜50の一面50a上であって、ボロメータ薄膜20と対向する位置にカーボンペーストからなる赤外線吸収膜40を塗布する。
【0064】
以上の工程を経て、
図1に示す温度センサ100を形成することができる。
【0065】
なお、この温度センサ100は、外部から入射する赤外線以外では温度変化が生じにくいように、真空環境下に配置されて用いられる。そして、例えばマイクロヒータによって温度センサ100が所定温度に保たれるようにする。そして、正極31と負極32の間に一定の電圧を印加しておく。
【0066】
この状態で、赤外線吸収膜40に赤外線が入射すると、赤外線吸収膜40が赤外線を吸収する。これにより、メンブレン12の温度が上昇する。すなわち、一定に保たれた所定温度から、赤外線の吸収量に対応した温度上昇が起きる。この温度上昇により、ボロメータ薄膜20の抵抗値が低下する。ボロメータ薄膜20の抵抗値の変化を検出することによって、赤外線の吸収量を測定することができる。
【0067】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0068】
上記した第1実施形態では、第1元素としてニオブ(Nb)を採用し、第2元素としてクロム(Cr)を採用する例を示したが、この限りではない。第1元素は、4価のバナジウムに対して価数の大きいものであって、バナジウムと合金を形成するものであればよい。第1元素には、例えば、タングステン(W),モリブデン(Mo),タンタル(Ta)を採用することができる。また、第2元素は、4価のバナジウムに対して価数の小さいものであって、バナジウムと合金を形成するものであればよい。第2元素には、例えば、ガリウム(Ga),チタン(Ti),アルミニウム(Al),鉄(Fe)を採用することができる。
【0069】
また、上記した第1実施形態では、絶縁性基板21として、Al
2O
3を採用する例を示したが、この限りではない。絶縁性基板21には、例えばTiO
2を採用することもできる。TiO
2も、その格子定数がVO
2に近く、半導体基板10としてのシリコン上で高配向成長して、面方位が(110)に配向する。したがって、TiO
2上においてボロメータ薄膜20を均一な薄膜として成長させることができる。ひいては、高配向成長させることができる。なお、絶縁性基板21としてTiO
2を採用する場合、TiO
2の格子定数がVO
2の格子定数に極めて近いため、絶縁性基板21の面方位によらず、ボロメータ薄膜20を高配向成長させることができる。