特許第6221690号(P6221690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

特許6221690ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法
<>
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000002
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000003
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000004
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000005
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000006
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000007
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000008
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000009
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000010
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000011
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000012
  • 特許6221690-ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221690
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/02 20060101AFI20171023BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20171023BHJP
   C22C 5/08 20060101ALI20171023BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
   H01L23/02 C
   H01L23/02 J
   B23K35/22 310C
   C22C5/08
   !C22C38/00 302Z
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-247723(P2013-247723)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-106630(P2015-106630A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】仁科 順矢
(72)【発明者】
【氏名】浅田 賢
【審査官】 堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−104999(JP,A)
【文献】 特開2007−266040(JP,A)
【文献】 特開2006−049595(JP,A)
【文献】 特開2000−106404(JP,A)
【文献】 特開2003−133449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/02
B23K 35/22
C22C 5/08
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成され、AgとCuとを少なくとも含有するろう材とを備え、
前記ろう材には、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が0.95以上である表面近傍領域が、前記ろう材の表面から深さ方向に1.3μm以上の深さまで形成されている、ろう材付き基材。
【請求項2】
前記ろう材において、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率は、AgとCuとの合計に対するCuの含有質量比率よりも大きい、請求項1に記載のろう材付き基材。
【請求項3】
前記基材と前記ろう材とが互いに接合されることによって形成されたクラッド材からなる、請求項1または2に記載のろう材付き基材。
【請求項4】
電子部品収納用パッケージのシールリングとして用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のろう材付き基材。
【請求項5】
電子部品収納用パッケージの蓋材として用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のろう材付き基材。
【請求項6】
基材上に形成されたAgとCuとを少なくとも含有するろう材に対して、Cuを優先的に除去するためのCu優先除去剤を含むエッチング液を用いてウェットエッチングを行う工程を備え、
前記ウェットエッチングにおいて前記エッチング液の前記Cu優先除去剤により前記ろう材の表面近傍領域におけるCuを優先的に除去することによって、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が0.95以上の前記表面近傍領域を、前記ろう材の表面から深さ方向に1.3μm以上の深さまで形成する、ろう材付き基材の製造方法。
【請求項7】
前記Cu優先除去剤は、強酸を含む、請求項6に記載のろう材付き基材の製造方法。
【請求項8】
前記Cu優先除去剤は、前記強酸である硫酸を含む、請求項7に記載のろう材付き基材の製造方法。
【請求項9】
前記ウェットエッチングを行う工程に先立って、研磨材を用いた研磨を行う工程をさらに備える、請求項6〜8のいずれか1項に記載のろう材付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ろう材付き基材およびろう材付き基材の製造方法に関し、特に、AgとCuとを少なくとも含有するろう材を備えるろう材付き基材およびそのろう材付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ag(銀)とCu(銅)とを少なくとも含有するろう材を備えるろう材付き基材が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、金属からなる基材と、Ag−Cu−Sn(錫)合金、Ag−Cu−In(インジウム)合金またはAg−Cu−Zn(亜鉛)合金からなり、基材の表面に接合されるろう材層とを含むろうクラッド材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−49595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のろうクラッド材では、長期間保管された場合や、高温多湿の環境下に配置された場合などに、ろう材層に含まれるAgよりもイオン化傾向の高い元素が、空気中の酸素および水分や塩化物イオンなどの陰イオンなどからなる外部の腐食因子と反応して腐食することがある。特に、AgとCuとを少なくとも含有するろう材においては、AgやCuに比べて他のSnなどの占める割合(質量%)が小さいため、ろう材層の表面にAgよりもイオン化傾向の高いCuの腐食に起因する腐食生成物が多く生成される。このため、Cu系の腐食生成物が表面に存在しているろうクラッド材のろう材を融解して基材を他部材に接着することによって、他部材を封止した場合、接着部に腐食生成物が混在した状態になって接着不良によるリーク不良率が増加する、つまり封止性の低下という問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、AgとCuとを少なくとも含有するろう材の表面に腐食生成物が生成されるのを抑制することが可能なろう材付き基材およびそのろう材付き基材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、鋭意検討した結果、ろう材の表面やその近傍領域のAgの含有質量比率に着目することにより上記課題が解決できることを見出した。
【0008】
つまり、この発明の第1の局面によるろう材付き基材は、基材と、基材上に形成され、AgとCuとを少なくとも含有するろう材とを備え、ろう材には、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が0.95以上である表面近傍領域が、ろう材の表面から深さ方向に1.3μm以上の深さまで形成されている。なお、表面近傍領域とは、ろう材の表面と、ろう材の表面から深さ方向に所定の長さまでの領域との両方からなる領域を意味する。
【0009】
この発明の第1の局面によるろう材付き基材は、上記のように、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が0.95以上である表面近傍領域を備える。これによって、外部の腐食因子と反応が生じやすいろう材の表面近傍領域において、Cuよりもイオン化傾向が低く耐食性の高いAgの含有質量比率が十分に大きくなるので、相反的にAgよりもイオン化傾向が高く耐食性の低いCuの含有質量比率が十分に小さくなり、その結果、外部の腐食因子とCuとのろう材の表面近傍領域での反応を十分に抑制することができる。さらに、この発明の第1の局面によるろう材付き基材は、表面近傍領域をろう材の表面から深さ方向に1.3μm以上の深さまで備える。これによって、ろう材の表面から十分な深さまで外部の腐食因子の影響を受け難い状態にすることができるので、外部の腐食因子とCuとのろう材の表面近傍領域での反応を抑制することができる。これらにより、ろう材の表面近傍領域に腐食生成物が生成されるのを抑制することができる。なお、これらの効果は、実験により確認済みである。この結果、腐食生成物に起因する変色によりろう材付き基材の見た目が悪くなるのを抑制することができるとともに、ろう材付き基材を電子部品収納用パッケージの封止部材として用いる場合には、接着部に腐食生成物が混在するのを抑制することができるので、接着不良によるリーク不良率が増加するのを抑制することができ、その結果、ろう材付き基材(封止部材)の封止性が低下するのを抑制することができる。また、上述した構成を有するろう材付き基材であれば、ろう材の表面近傍領域以外の内部領域においてはAgの含有質量比率が0.95以上である必要がないので、ろう材自体のAgの含有量を抑制することができ、その結果、ろう材の融点が大きくなるのを抑制することができるとともに、貴金属であるAgの使用量を低減させることができる。
【0010】
上記第1の局面によるろう材付き基材において、好ましくは、ろう材において、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率(すなわちAg/(Ag+Cu))は、AgとCuとの合計に対するCuの含有質量比率(すなわちCu/(Ag+Cu))よりも大きい。このように構成すれば、たとえば、ろう材の表面近傍領域におけるCuを優先的に除去して、表面近傍領域のAgの含有質量比率を0.95以上にするような場合には、Cuを優先的に除去する前のろう材のAgの含有質量比率がCuの含有質量比率よりも大きいことにより、ろう材の表面近傍領域のAgの含有質量比率を0.95以上に容易に形成することができる。ここで、ろう材の表面近傍領域におけるAgの含有質量比率を高めるには、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が、AgとCuとの合計に対するCuの含有質量比率の1.5倍以上であると容易にAgの含有質量比率を高めることができるので好ましく、2倍以上であるとさらに好ましく、4倍以上であると特段に容易にAgの含有質量比率を高めることができる。
【0011】
上記第1の局面によるろう材付き基材において、好ましくは、基材とろう材とが互いに接合されることによって形成されたクラッド材からなる。このように構成すれば、基材とろう材とを接合することによって、基材とろう材との界面に腐食因子が浸入することを抑制することができる。これにより、ろう材の表面だけでなく基材とろう材との界面に腐食生成物が生成されるのも抑制することができるので、基材とろう材とが分離するのを抑制することができる。その結果、ろう材付き基材の信頼性をより向上させることができる。
【0012】
上記第1の局面によるろう材付き基材において、好ましくは、電子部品収納用パッケージのシールリングとして用いられる。このようにシールリングとして用いられるろう材付き基材において、Agの含有質量比率が0.95以上である表面近傍領域を、ろう材の表面から深さ方向に1.3μm以上の深さまで形成することによって、シールリングのろう材の表面近傍領域に腐食生成物が生成されるのを抑制することができる。
【0013】
上記第1の局面によるろう材付き基材において、好ましくは、電子部品収納用パッケージの蓋材として用いられる。このように蓋材として用いられるろう材付き基材において、Agの含有質量比率が0.95以上である表面近傍領域を、ろう材の表面から深さ方向に1.3μm以上の深さまで形成することによって、蓋材のろう材の表面近傍領域に腐食生成物が生成されるのを抑制することができる。
【0014】
この発明の第2の局面によるろう材付き基材の製造方法は、基材上に形成されたAgとCuとを少なくとも含有するろう材に対して、Cuを優先的に除去するためのCu優先除去剤を含むエッチング液を用いてウェットエッチングを行う工程を備え、ウェットエッチングにおいてエッチング液のCu優先除去剤によりろう材の表面近傍領域におけるCuを優先的に除去することによって、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が0.95以上の表面近傍領域を、ろう材の表面から深さ方向に1.3μm以上の深さまで形成する。
【0015】
この発明の第2の局面によるろう材付き基材の製造方法では、上記のように、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が0.95以上の表面近傍領域を形成する。これによって、外部の腐食因子と反応が生じやすいろう材の表面近傍領域において、Cuよりもイオン化傾向が低く耐食性の高いAgの含有質量比率が十分に大きくなるので、相反的にAgよりもイオン化傾向が高く耐食性の低いCuの含有質量比率が十分に小さくなり、その結果、外部の腐食因子とCuとのろう材の表面近傍領域での反応を十分に抑制することができる。さらに、この発明の第2の局面によるろう材付き基材の製造方法では、表面近傍領域をろう材の表面から深さ方向に1.3μm以上の深さまで形成する。これによって、ろう材の表面から十分な深さまで外部の腐食因子の影響を受け難い状態にすることができるので、外部の腐食因子とCuとのろう材の表面近傍領域での反応を抑制することができる。これらにより、ろう材の表面近傍領域に腐食生成物が生成されるのを抑制することができる。この結果、腐食生成物に起因する変色によりろう材付き基材の見た目が悪くなるのを抑制することができるとともに、ろう材付き基材を電子部品収納用パッケージの封止部材として用いる場合には、接着部に腐食生成物が混在するのを抑制することができるので、接着不良によるリーク不良率が増加するのを抑制することができ、その結果、ろう材付き基材(封止部材)の封止性が低下するのを抑制することができる。また、上述したろう材付き基材の製造方法であれば、ろう材の近傍領域以外の内部領域においてはAgの含有質量比率を0.95以上にする必要がないので、ろう材自体のAgの含有量を抑制することができ、その結果、ろう材の融点が大きくなるのを抑制することができるとともに、貴金属であるAgの使用量を低減させることができる。また、ウェットエッチングにおいてエッチング液のCu優先除去剤によりろう材の表面近傍領域におけるCuを優先的に除去することによって、除去されたCuの分、ろう材の表面近傍領域におけるAgの含有質量比率を容易に大きくすることができる。
【0016】
上記第2の局面によるろう材付き基材の製造方法において、好ましくは、Cu優先除去剤は、強酸を含む。このように構成すれば、Agよりもイオン化傾向の高いCuの酸化物などのCu化合物を強酸に容易に溶解させることができる一方、Cuよりもイオン化傾向の低いAgは強酸に溶解されにくいので、確実に、ろう材の表面近傍領域からCuを優先的に除去することができる。
【0017】
この場合、好ましくは、Cu優先除去剤は、強酸である硫酸を含む。このように構成すれば、硫酸の陰イオンである硫酸陰イオンとCu陽イオンとの化合物(硫酸銅)が生成され、生成された化合物は水溶性であり、つまりエッチング液に可溶であるので、ろう材の表面や表面近傍領域におけるCuの酸化物などのCu化合物などを強酸により溶解させつつ、エッチング液内にCu化合物が析出してろう材付き基材に付着するのを抑制することができる。これにより、付着した析出物をろう材付き基材から除去する工程を設ける必要がないので、簡略なろう材付き基材の製造工程にすることができる。
【0018】
上記第2の局面によるろう材付き基材の製造方法において、好ましくは、ウェットエッチングを行う工程に先立って、研磨材を用いた研磨を行う工程を、例えばバレル研磨などの工程を、さらに備える。このように構成すれば、例えばプレス打抜きなどによる機械加工によって形成されたろう材付き基材において、ウェットエッチングによる除去が容易でないバリや異物などを予め除去しておくことができるため、ウェットエッチングにおいてはろう材の表面近傍領域を本発明の作用効果が得られる所定の状態に形成することができる処理条件に調整すればよく、その結果、ろう材付き基材の製造工程を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上記のように、AgとCuとを少なくとも含有するろう材の表面に腐食生成物が生成されるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態によるシールリングを示した平面図である。
図2図1の300−300線に沿ったシールリングの構造を示した断面図である。
図3】本発明の一実施形態によるシールリングまたは蓋材のろう材の表面近傍領域周辺を拡大して示した拡大断面図である。
図4】本発明の一実施形態によるシールリングが用いられた電子部品収納用パッケージを示した断面図である。
図5】本発明の一実施形態によるシールリングの打ち抜き加工後、かつ、バレル研磨前のシールリングを示した断面図である。
図6】本発明の一実施形態によるシールリングのバレル研磨後、かつ、ウェットエッチング前のシールリングを示した断面図である。
図7】本発明の一実施形態による蓋材を示した平面図である。
図8】本発明の一実施形態による蓋材が用いられた電子部品収納用パッケージを示した断面図である。
図9】本発明の効果を確認するために行った85Ag−Cu合金のろう材(銀ろう)を備えるろう材付き基材(シールリング)の測定結果等を示した表である。
図10】本発明の効果を確認するために行った85Ag−Cu合金のろう材(銀ろう)を備えるろう材付き基材(蓋材)の測定結果等を示した表である。
図11】本発明の効果を確認するために行った72Ag−Cu合金のろう材(銀ろう)を備えるろう材付き基材(蓋材)の測定結果等を示した表である。
図12】本発明の効果を確認するために行った67Ag−Cu―Sn合金のろう材(銀ろう)を備えるろう材付き基材(蓋材)の測定結果等を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
まず、図1図3を参照して、本発明の一実施形態によるろう材20が設けられた基材10から構成されるシールリング1の構造を説明する。なお、シールリング1は、本発明の「ろう材付き基材」の一例である。
【0023】
本発明の一実施形態によるシールリング1は、図1に示すように、平面的に見て、長方形の枠状(リング状)に形成されている。また、シールリング1は、図2に示すように、上側(Z1側)に配置された基材10と下側(Z2側)に配置されたろう材20とを含み、シールリング1の4隅(図2に示す略四角形の断面をなす4つの角)は、R面状に形成されている。なお、基材10のZ方向の厚みt1は、約100μm以上約130μm以下であり、ろう材20のZ方向の厚みt2は、約5μm以上約30μm以下である。
【0024】
基材10は、シールリング1の上面1aから基材10とろう材20との界面に向かって(Z2方向に向かって)、主にNiから構成されるNi層11、中間層12、および、主にCuから構成されるCu層13とが順に積層されることにより形成されている。なお、中間層12は、約30質量%のNiと、約17質量%のCoと、Feとから主に構成され、低い熱膨張係数を有するFe-Ni-Co合金からなる。
【0025】
Ni層11は、シールリング1の上面1aにおける耐食性を向上させる機能を有している。中間層12は、低い熱膨張係数を有することにより、後述する電子部品収納用パッケージ100の基台101を構成するセラミックスとの熱膨張差を小さくする機能を有している。Cu層13は、柔軟性を有しており、中間層12と基台101との熱膨張差に起因する熱応力や歪を吸収する機能を有している。また、Cu層13は、熱伝導性がよいことにより、溶着(ろう付け)箇所付近の熱を効率的に伝熱することによって、溶着箇所付近の熱応力が大きくなるのを抑制する機能も有している。
【0026】
ろう材20は、AgとCuとを主に含有するろう材により構成されている。なお、ろう材20を構成する元素としては、AgおよびCu以外に、Sn、Al、Zn、Cd、Ni、PおよびMnのうちのいずれか1種以上を含有していてもよい。なお、AgおよびCu以外にSnを含むろう材(銀ろう)は、ろう材20の固相線を小さくすることができるので、ろう付け温度を低くすることが可能である。ここで、ろう材20にSnを含むろう材(銀ろう)を用いる場合には、後述するクラッド材を形成する際の接合において圧延が困難になることを抑制するために、Snを約6質量%以下で含有するように構成することが好ましい。
【0027】
また、ろう材20の全体(後述する表面近傍領域21および内部領域22の両方の領域、図3参照)において、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率(すなわちAg/(Ag+Cu))は、AgとCuとの合計に対するCuの含有質量比率(すなわちCu/(Ag+Cu))よりも大きくなるように構成されている。つまり、Agの含有質量比率は、0.5よりも大きくなるように構成されている。なお、ろう材20の全体におけるAgの含有質量比率は、おおよそ、0.64以上であるのが好ましい。また、ろう材20を構成する銀ろうでは、Agの含有質量比率は、通常0.85以下である。ここで、Agの含有質量比率が全体において0.95以上になる金属は、一般的にシルバー950や純Ag(シルバー1000)であり、これらの融点は約930℃以上である。つまり、融点が高すぎることに起因して、シルバー950や純Agは、溶着目的のろう材(銀ろう)としては適さない。
【0028】
ろう材20は、図3に示すように、ろう材20の表面20aとろう材20の表面20aから深さ方向に近接する近傍領域との両方からなる表面近傍領域21と、表面近傍領域21以外の内部領域22とを含んでいる。なお、ろう材20の表面20aは、シールリング1の下面(Z2側の面)1bと、シールリング1の側面1cのうちのろう材20が位置する下部(Z2側の部分)とに位置しており、その表面20aの全域に亘って表面近傍領域21が形成されている。
【0029】
ここで、本実施形態では、表面近傍領域21のCuが優先的に除去されることによって、表面近傍領域21において、ろう材20のAgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が0.95以上になるように形成されている。つまり、ろう材20の表面近傍領域21におけるろう材20のAgの含有質量比率が内部領域22におけるAgの含有質量比率(Cuが優先的に除去される前のろう材のAgの含有質量比率)よりも大きくなる。また、表面近傍領域21は、ろう材20の表面20aから深さ方向に1.3μm以上の深さLまで形成されている。つまり、表面近傍領域21は、シールリング1の下面(Z2側の面)1bにおいてZ1方向(深さ方向)に1.3μm以上の深さLまで形成されているとともに、シールリング1の側面1cにおいてZ方向と直交するX方向またはY方向(深さ方向、図1参照)に1.3μm以上の深さLまで形成されている。
【0030】
なお、表面近傍領域21の深さL1は、深いほど腐食抑制の効果が高まるため、ろう材20の表面20aから深さ方向におおよそ1.5μm以上の深さであるのが好ましく、より好ましくは、おおよそ2.0μm以上の深さである。また、表面近傍領域21を深さ方向に大きくしようとするとAgがろう材20の表面20aから溶出してろう材20が薄厚化する可能性があることや、融点の高いAgが豊富な表面近傍領域21の深さL1が必要以上に大きくなると、ろう材20が融解し難くなってろう付け接合に不都合を生じる可能性があるため、表面近傍領域21の深さL1は、ろう材20の表面20aから深さ方向におおよそ4.0μm以下の深さであることが好ましい。
【0031】
また、シールリング1は、図2に示すように、基材10を構成するNi層11、中間層12およびCu層13と、ろう材20とが、上面1aから下面1bに向かって厚み方向(Z方向)にこの順で積層された状態で互いに接合されている。つまり、シールリング1は、4層のクラッド材から構成されている。この結果、シールリング1を構成する各々の層は、互いに強固に接合されており、4層のいずれの界面においても、層同士が剥がれるのを抑制することが可能であるとともに、界面に腐食因子が浸入するのを抑制するのが可能である。
【0032】
また、図4に示すように、シールリング1は、電子部品収納用パッケージ100に用いられるように構成されている。具体的には、電子部品収納用パッケージ100は、本実施形態のシールリング1と、シールリング1の下方(Z2側)でシールリング1に接合される基台101と、シールリング1の上方(Z1側)でシールリング1に接合される蓋部材102とを備えている。そして、シールリング1と基台101とが接合されるとともに、シールリング1と蓋部材102とが接合されることにより、水晶振動子などの電子部品103がバンプ104を介して取り付けられる収納部101aが気密状態になるように構成されている。
【0033】
基台101は、アルミナなどのセラミックスにより形成されているとともに、蓋のない箱状に形成されている。また、箱状の基台101は、基台101の中央部に形成された収納部101aと、基台101の枠状の壁部の上面に形成され、シールリング1と接合される四角形の枠状の溶着面101bとを有している。また、シールリング1と基台101の枠状の溶着面101bとは、シールリング1の溶融されたろう材20により接合されている。ここで、基台101の溶着面101bとろう材20との密着性を向上させるために、基台101の溶着面101bにW層、Ni層およびAu層がこの順で積層されたメタライズ層を設けてもよい。
【0034】
蓋部材102は、Fe-Ni-Co合金により形成された平板状の部材からなる。また、蓋部材102とシールリング1の基材10の上面1aとはシーム溶接などにより接合されている。ここで、蓋部材102と基材10の上面1aとの密着性を向上させるために、蓋部材102の少なくとも基材10の上面1aに接合される領域にNi層およびAu層がこの順で積層されたメッキ層を設けてもよい。
【0035】
次に、図2図3図5および図6を参照して、本発明の一実施形態によるシールリング1の製造プロセスを説明する。
【0036】
まず、主にNiから構成されるNi板、Fe-Ni-Co合金からなる中間板、および、主にCuから構成されるCu板(図示せず)と、AgとCuとを主に含有するろう材(銀ろう)120とを準備する。なお、この時点(Cuを優先的に除去する前)のろう材120には、表面近傍領域21は形成されておらず、ろう材120全体としてAgの含有質量比率が略一定である。また、ろう材120におけるAgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率(すなわちAg/(Ag+Cu))は、AgとCuとの合計に対するCuの含有質量比率(すなわちCu/(Ag+Cu))よりも大きい。
【0037】
そして、Ni板、中間板、Cu板およびろう材120を厚み方向にこの順で積層させた状態で接合する。これにより、Ni層11、中間層12、Cu層13およびろう材120が接合されたクラッド材(図5参照)が形成される。なお、このクラッド材では、基材10の厚みおよびろう材120の厚みを、それぞれ、完成品のシールリング1における基材10の厚みt1(約100μm以上約130μm以下、図2参照)およびろう材20の厚みt2(約5μm以上約30μm以下、図2参照)よりも後述するバレル研磨およびウェットエッチングによる除去分だけ、若干大きく形成する。
【0038】
そして、図示しないプレス機を用いて、クラッド材を四角形の枠状(リング状)に打ち抜く(打ち抜き加工)。この際、クラッド材をろう材120側(Z2側)から厚み方向(Z方向)に沿って打ち抜く。これにより、図5に示すように、リング状に打ち抜かれたシールリング201aが形成される。なお、シールリング201aには、鋭角状に突出する微小突起1dが打ち抜きの際に形成されている。また、図5および図6では、シールリングの一部の断面だけを拡大して示す。
【0039】
その後、シールリング201aに形成された微小突起1dを除去するために、バレル研磨を行う。具体的には、複数のシールリング201a、セラミックスなどからなるメディア(研磨材)、化学粉末などからなるコンパウンドおよび水などをバレル(図示せず)に投入する。そして、バレルを所定の速度で所定の時間回転させる。これにより、微小突起1dにメディアが衝突することなどによって、図6に示すように、微小突起1dが除去されたシールリング201bが形成される。この際、シールリング201bの4隅がR面状に形成される。一方、シールリング201bのろう材120を形成する銀ろうは硬度が小さいため、メディアの残渣などからなる異物2がろう材120の露出する表面120aに埋め込まれるように付着する。なお、このバレル研磨は、後述するウェットエッチングを行う工程に先立って行われる。また、バレル研磨は、本発明の「研磨材を用いた研磨」の一例である。
【0040】
ここで、本実施形態の製造方法では、シールリング201bに対してウェットエッチング(酸洗)を行う。具体的には、複数のシールリング201bと、約10℃以上約30℃以下のエッチング液とを図示しないバレルに投入する。
【0041】
このウェットエッチングに用いられるエッチング液は、過酸化水素を含む酸化剤と、水とが所定の割合で混合された原液か、または、水をさらに加えて原液を所定の割合で希釈した希釈液に、希硫酸からなる強酸が添加された溶液から構成されている。前記酸化剤は、ろう材120に含まれるAgおよびCuを酸化させて、それぞれ、酸化銀および酸化銅にする機能を有する。なお、ろう材120は除去されやすく、かつ、基材10は除去されにくいように、上述したエッチング液は構成されている。
【0042】
また、前記希硫酸からなる強酸は、硫酸の濃度が約90質量%未満の硫酸水溶液である。ここで、硫酸の濃度がエッチング液全体の約0.5質量%以上約1.0質量%以下の濃度になるように、希硫酸がエッチング液に添加されるのが好ましい。さらに、硫酸の濃度がエッチング液全体の約0.7質量%以上約1.0質量%以下の濃度になるように、希硫酸がエッチング液に添加されるのがより好ましい。ここで、前記希硫酸からなる強酸は、前記酸化剤に含まれる過酸化水素により生成されるろう材120の酸化物(酸化銀および酸化銅)のうち、酸化銅を優先的に除去する機能を有している。これにより、ろう材120の表面120aにおいて、酸化銀よりも優先的に酸化銅を除去することができる。この結果、ろう材120の表面および表面近傍の表面近傍領域21(図3参照)から、Cuが優先的に除去される。なお、希硫酸は、本発明の「Cu優先除去剤」の一例である。また、上述したエッチング液に対し、酢酸またはアンモニアを含む酸化物除去剤をさらに混合してもよく、このような酸化物除去剤はろう材の酸化銀や酸化銅を溶解させて除去する機能を有し、前記酸化剤により生成される酸化銀を除去することができるとともに、酸化銅を除去する機能を高めることができる。
【0043】
そして、バレルを所定の速度で所定の時間だけ回転させる。このウェットエッチングにより、ろう材120が等方的に除去される一方、基材10はほとんど除去されない。この結果、図2に示すように、ろう材20の露出する表面20aに埋め込まれたメディアの残渣などからなる異物2(図6参照)が除去される。さらに、図3に示すように、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が0.95以上の表面近傍領域21が、ろう材20の表面20aおよび表面20aから深さ方向に1.3μm以上の深さLまで形成される。その後、水洗等を行うことにより、ろう材20の表面20aに残った残渣を除去することによって、図1および図2に示すシールリング1が製造される。
【0044】
次に、図3および図7および図8を参照して、本発明の一実施形態によるろう材20を用いた蓋材3の構造を説明する。なお、蓋材3は、本発明の「ろう材付き基材」の一例である。
【0045】
本発明の一実施形態による蓋材3は、図7に示すように、平面的に見て、四角形の平板状に形成されている。また、蓋材3は、図8に示すように、上記シールリング1と同様に、上側(Z1側)に配置された基材10と下側(Z2側)に配置されたろう材20とを含むとともに、基材10を構成するNi層11、中間層12およびCu層13と、ろう材20とが、上面3aから下面3bに向かって厚み方向(Z方向)にこの順で積層された状態で互いに接合されている。つまり、蓋材3は、上記シールリング1と同様に、4層のクラッド材から構成されている。
【0046】
また、蓋材3のろう材20は、シールリング1のろう材20と同様に、図3に示すように、表面近傍領域21のCuが優先的に除去されることによって、表面近傍領域21において、ろう材20のAgの含有質量比率が0.95以上になるように形成されている。また、表面近傍領域21のCuが優先的に除去されることによって、表面近傍領域21におけるろう材20のAgの含有質量比率が内部領域22におけるAgの含有質量比率よりも大きくなるように構成されている。また、表面近傍領域21は、ろう材20の表面20aから深さ方向に1.3μm以上の深さLまで形成されている。なお、図8には、蓋材3に形成された表面近傍領域21および内部領域22については、図示を省略している。また、蓋材3の基材10およびろう材20のその他の構成は、シールリング1と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
また、図8に示すように、蓋材3は、電子部品収納用パッケージ200に用いられるように構成されている。具体的には、電子部品収納用パッケージ200は、本実施形態の蓋材3と、蓋材3の下方(Z2側)で蓋材3に接合される基台101とを備えている。そして、蓋材3と基台101とが接合されることにより、電子部品103が取り付けられる収納部101aが気密状態になるように構成されている。なお、蓋材3と基台101の枠状の溶着面101bとは、蓋材3の溶融されたろう材20により接合(溶着)されている。なお、基台101の構成は、シールリング1が用いられる電子部品収納用パッケージ100と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
また、本実施形態による蓋材3の製造プロセスは、打ち抜き加工時にクラッド材を四角形の平板状に打ち抜く点を除いて、上記シールリング1の製造プロセスと同様であるため、説明を省略する。
【0049】
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0050】
本実施形態では、上記のように、表面近傍領域21において、ろう材20のAgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率を0.95以上にすることによって、外部の腐食因子と反応が生じやすいろう材20の表面20aを含む表面近傍領域21において、Cuよりもイオン化傾向が低く耐食性の高いAgの含有質量比率が大きくなるので、相反的にAgよりもイオン化傾向が高く耐食性の低いCuの含有質量比率を十分に小さくくなり、その結果、外部の腐食因子(空気中の酸素および水分や塩化物イオンなどの陰イオンなど)とCuとのろう材20の表面20aを含む表面近傍領域21での反応を十分に抑制することができる。さらに、表面近傍領域21をろう材20の表面20aから深さ方向に1.3μm以上の深さLまで形成することによって、ろう材20の表面20aから十分な深さLまで外部の腐食因子の影響を受け難い状態になるので、外部の腐食因子とCuとのろう材20の表面20aを含む表面近傍領域21での反応を抑制することができる。これらにより、ろう材20の表面近傍領域21に腐食生成物が生成されるのを抑制することができる。この結果、腐食生成物に起因する変色によりシールリング1(蓋材3)の見た目が悪くなるのを抑制することができるとともに、接着部に腐食生成物が混在するのを抑制することができるので、接着不良によるリーク不良率が増加するのを抑制することができるだけでなく、腐食生成物に起因する凹凸が生じるのも抑制することができるので、シールリング1(蓋材3)の封止性が低下するのを抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、ろう材20の表面近傍領域21以外の内部領域22においてはAgの含有質量比率を0.95以上にする必要がないので、ろう材20自体のAgの含有量を抑制することができ、その結果、ろう材20の融点が大きくなるのを抑制することができるとともに、貴金属であるAgの使用量を低減させることができる。
【0052】
また、本実施形態では、ろう材20の全体(表面近傍領域21および内部領域22の両方の領域)において、Agの含有質量比率をCuの含有質量比率よりも大きくすることによって、ろう材20の表面近傍領域21におけるCuを優先的に除去して、表面近傍領域21のAgの含有質量比率を0.95以上にする際に、Cuを優先的に除去する前のろう材120のAgの含有質量比率がCuの含有質量比率よりも大きいことにより、容易に、ろう材20の表面近傍領域21のAgの含有質量比率を0.95以上にすることができる。
【0053】
また、本実施形態では、基材10を構成するNi層11、中間層12およびCu層13と、ろう材20とを、上面1a(3a)から下面1b(3b)に向かって厚み方向(Z方向)にこの順で積層された状態で接合した4層のクラッド材からシールリング1(蓋材3)を構成する。これにより、基材10とろう材20との界面に腐食因子が浸入することを抑制することができるので、ろう材20の表面20aだけでなく基材10とろう材20との界面に腐食生成物が生成されるのも抑制することができる。この結果、基材10とろう材20とが分離するのを抑制することができる。その結果、ろう材付き基材(シールリング1および蓋材3)の信頼性をより向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態では、電子部品収納用パッケージ100のシールリング1または電子部品収納用パッケージ200の蓋材3として用いられるろう材付き基材において、Agの含有質量比率が0.95以上である表面近傍領域21を、ろう材20の表面20aから深さ方向に1.3μm以上の深さまで形成することによって、シールリング1または蓋材3のろう材20の表面近傍領域21に腐食生成物が生成されるのを抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態の製造方法では、ウェットエッチングにおいてエッチング液の過酸化水素水および硫酸によりろう材20の表面近傍領域21におけるCuを優先的に除去することによって、除去されたCuの分、ろう材20の表面近傍領域21におけるAgの含有質量比率を容易に大きくすることができる。
【0056】
また、本実施形態の製造方法では、Cu優先除去剤として、強酸である希硫酸を添加することによって、イオン化傾向の高いCuの酸化物を強酸に容易に溶解させることができる一方、イオン化傾向の低いAgの酸化物は強酸に溶解させにくいので、確実に、Cuを優先的に除去することができる。また、硫酸の陰イオンである硫酸陰イオンとCu陽イオンとの化合物(硫酸銅)が生成され、生成された化合物は水溶性であり、つまりエッチング液に可溶であるので、強酸である硫酸により、ろう材120の表面120aや表面近傍領域21におけるCuの酸化物を強酸により溶解させつつ、エッチング液内にCuの酸化物が析出してシールリング1(蓋材3)に付着するのを抑制することができる。これにより、付着した析出物をシールリング1(蓋材3)から除去する工程を設ける必要がないので、簡略なシールリング1(蓋材3)の製造工程にすることができる。
【0057】
また、本実施形態の製造方法では、ウェットエッチングを行う工程に先立って、例えばバレル研磨などの研磨材による研磨を行うことが好ましい。これにより、例えばプレス打抜きなどによる機械加工によって形成されたろう材付き基材において、ウェットエッチングによる除去が容易でないバリや異物などを予め除去しておくことができるため、ウェットエッチングにおいてはろう材20の表面近傍領域21を本発明の作用効果が得られる所定の状態に形成することができる処理条件に調整すればよく、その結果、シールリング1(蓋材3)の製造工程を簡略化することができる。
【0058】
[実施例]
次に、図3図9図12を参照して、本発明の効果を確認するために行ったシールリングおよび蓋材の確認実験(表面組成分析、表面近傍領域の深さ測定および耐食性試験)について説明する。
【0059】
まず、確認実験に用いる試験材を作製した。具体的には、上記実施形態と同様に、Ni層11、中間層12、Cu層13およびろう材120(Cuが優先的に除去される前のろう材、図5参照)が接合されたクラッド材を準備した。この際、Cuが優先的に除去される前のろう材として、Agを85質量%含む他、Cuおよび微量元素を含んでなる85Ag−Cu合金のろう材(銀ろう)を用いた。そして、図示しないプレス機を用いてクラッド材をリング状に打ち抜くことによって、シールリング201a(図5参照)を形成した。その後、上記実施形態と同様に、シールリング201aに対してバレル研磨を行った。
【0060】
ここで、実施例1として、シールリング201b(図6参照)に対してウェットエッチング(酸洗)を行った。この際、エッチング液として、酢酸を25質量%含有する酢酸水と、過酸化水素を35質量%含有する過酸化水素水と、水とを1:5:4の体積比で混合した原液を準備した。その後、原液と水との体積比が1:1となる1:1希釈液に強酸の希硫酸を添加したものをエッチング液として用いた。その際、硫酸の濃度がエッチング液全体の0.7質量%になるように調整した。そして、25℃の温度条件下で、複数のシールリングとエッチング液とをバレルに投入して、バレルを所定の速度で20分回転させた後に、水洗等を行った。つまり、実施例1では、ウェットエッチングを20分間行った。これにより、実施例1のシールリングを得た。
【0061】
一方、比較例1として、ウェットエッチングを行っていないシールリングをそのまま用いた。また、比較例2、3および4として、それぞれ、ウェットエッチングを1分間、5分間および10分間に変えて行った点以外は実施例1と同様にして作製したシールリングを用いた。
【0062】
また、シールリングとは別に、Cuが優先的に除去される前のろう材として85Ag−Cu合金のろう材(銀ろう)を用いた上記のクラッド材をプレス機を用いて平板状に打ち抜くことによって、蓋材を形成した。その後、蓋材に対してバレル研磨を行った。そして、実施例2として、実施例1と同様の条件でウェットエッチング(酸洗)を行った。つまり、実施例2では、ウェットエッチングを20分間行った。これにより、実施例2の蓋材を得た。
【0063】
一方、比較例5として、ウェットエッチングを行っていない蓋材をそのまま用いた。また、比較例6、7および8として、それぞれ、ウェットエッチングを1分間、5分間および10分間に変えて行った点以外は実施例2と同様にして作製した蓋材を用いた。
【0064】
また、Cuが優先的に除去される前のろう材として、Agを72質量%含む他、Cuおよび微量元素を含んでなる72Ag−Cu合金のろう材(銀ろう)を用いた点以外は、実施例2と同様のクラッド材を準備した。そして、図示しないプレス機を用いてクラッド材を平板状に打ち抜くことによって、蓋材を形成した。その後、蓋材に対してバレル研磨を行った。
【0065】
そして、実施例3として、ウェットエッチング(酸洗)を10分間行った点以外は、実施例2におけるウェットエッチングと同様の条件でウェットエッチングを行って作製した蓋材を用いた。また、実施例4として、実施例2と同様の条件でウェットエッチングを行って作製した蓋材を用いた。つまり、実施例4では、ウェットエッチングを20分間行った。
【0066】
一方、比較例9として、ウェットエッチングを行っていない蓋材をそのまま用いた。また、比較例10および11として、それぞれ、ウェットエッチングを1分間および5分間に変えて行った点以外は実施例3および4と同様にして作製した蓋材を用いた。
【0067】
また、Cuが優先的に除去される前のろう材として、Agを67質量%含む他、Cu、若干のSnおよび微量元素を含んでなる67Ag−Cu−Sn合金のろう材(銀ろう)を用いた点以外は、実施例2と同様のクラッド材を準備した。そして、図示しないプレス機を用いてクラッド材を平板状に打ち抜くことによって、蓋材を形成した。その後、蓋材に対してバレル研磨を行った。
【0068】
そして、実施例5として、ウェットエッチング(酸洗)を5分間行った点以外は、実施例2におけるウェットエッチングと同様の条件でウェットエッチングを行って作製した蓋材を用いた。
【0069】
一方、比較例12として、ウェットエッチングを行っていない蓋材をそのまま用いた。また、比較例13として、ウェットエッチングを1分間行った点以外は実施例5と同様にして作製した蓋材を用いた。
【0070】
その後、作成したシールリングおよび蓋材のろう材の表面組成を電子線マイクロアナライザ(Electron Probe MicroAnalyser:EPMA)を用いて観察した。また、シールリングおよび蓋材を所定の断面で切断した後に、深さ方向のAgおよびCuの存在量を走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置(SEM−EDX)を用いて観察した。そして、Agの含有質量比率が0.95以上である表面近傍領域の深さをろう材の表面から深さ方向に計測した。
【0071】
次に、耐食性試験を行った。この耐食性試験では、上記した実施例1および比較例1〜4のシールリングと、実施例2〜5および比較例5〜13の蓋材とを、85℃および85%Rh(相対湿度)の恒温恒湿条件下で470時間放置する恒温恒湿試験を行った。そして、恒温恒湿試験後のシールリングおよび蓋材のろう材の表面組成を、電子線マイクロアナライザを用いて観察した。また、耐食性試験後の実施例1および比較例1〜4のシールリングと、実施例2〜5および比較例5〜13の蓋材との腐食度合いを目視にて観察することによって、シールリングおよび蓋材の耐食性について判断した。なお、図9図12では、図中での明確化を意図し、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が0.95以上であるものと、表面近傍領域の深さが1.3μm以上であるものとに関しては、実線の太枠で囲むとともに、耐食性が良好であったもののO(酸素)の質量%を点線の太枠で囲んだ。
【0072】
図9図12に示す実験結果としては、耐食試験前の結果から、ウェットエッチング(酸洗)を行うことによって、ろう材の表面において、AgとCuとの合計に対するAgの含有質量比率が大きくなることが確認できた。また、少なくとも1分間ウェットエッチングを行うこと(実施例1〜5、比較例2〜4、6〜8、10、11および13)により、ろう材の表面においてAgの含有質量比率が0.9以上に大きくなったとともに、5分間以上ウェットエッチングを行うこと(実施例1〜5、比較例3、4、7、8および11)により、ろう材の表面においてAgの含有質量比率が0.95以上に大きくなった。これにより、5分間以上ウェットエッチングを行うことによって、少なくともろう材の表面におけるAgの含有質量比率を0.95以上にすることができ、本発明の表面近傍領域を形成することが可能であることが判明した。
【0073】
なお、85Ag−Cu合金からなるろう材よりもろう材の全体におけるAgの含有質量比率が低いろう材(72Ag−Cu合金および67Ag−Cu−Sn合金)であっても、85Ag−Cu合金と同様に、5分間以上ウェットエッチングを行うこと(実施例3〜5および比較例11)によって、ろう材の表面においてAgの含有質量比率が0.95以上に大きくなった。これにより、ろう材の全体におけるAgの含有質量比率が低い場合であっても、ウェットエッチングを行うことによって、ろう材の表面におけるAgの含有質量比率を0.95以上に十分に大きくすることができることが判明した。なお、ろう材の全体におけるAgの含有質量比率が0.67未満の場合であっても、適切にウェットエッチングを行うことにより、ろう材の表面におけるAgの含有質量比率を0.95以上に十分に大きくすることができると考えられる。ここで、ろう材の表面におけるAgの含有質量比率を0.95以上に容易に大きくするためには、Cuの除去量を小さくするために、Cuを優先的に除去する前のろう材の組成において、Agの含有質量比率がCuの含有質量比率よりも大きい方が好ましい。
【0074】
また、耐食試験後の結果から、ウェットエッチング(酸洗)が行われることによりろう材の表面近傍領域が1.5μmよりも大きな深さまで形成されている場合(実施例1〜5)には、ウェットエッチング(酸洗)を行わない場合(比較例1、5、9および12)と比べて、耐食試験後のろう材の表面における酸素量が70%(=5.5(実施例2)/7.9(比較例5)×100(%))以下になった。つまり、ウェットエッチング(酸洗)によって、ろう材の表面における酸素量(質量%)を十分に小さくすることができることが確認できた。また、耐食性評価においても、ろう材の表面の腐食(腐食生成物の形成)は略確認できず、耐食性が良好であることが確認できた。
【0075】
一方、ウェットエッチングが行われることによりろう材の表面近傍領域が1.2μm以下の深さまで形成されている場合(比較例2〜4、6〜8、10、11および13)には、ウェットエッチングを行わない場合(比較例1、5、9および12)と比べて、耐食試験後のろう材の表面における酸素量が81%(=7.2(比較例3)/8.8(比較例1)×100(%))以上になった。つまり、ウェットエッチング(酸洗)の処理時間によっては、ろう材の表面における酸素量を十分に小さくすることができないことが確認できた。また、耐食性評価においても、ろう材の表面近傍領域が1.2μmの深さまで形成されている場合(比較例11)を除き(比較例2〜4、6〜8、10および13)、ろう材の表面において腐食(腐食生成物の形成)が確認でき、耐食性が良好ではないことが確認できた。これは、比較例2〜4、6〜8、10および13においては、ウェットエッチング(酸洗)が不十分であり、ろう材の表面近傍領域が十分な深さまで形成されなかったからであると考えられる。
【0076】
また、ろう材の表面近傍領域が1.2μmの深さまで形成されている場合(比較例11)には、耐食試験後のろう材の表面の腐食度合いは小さいものの、ウェットエッチングを行わない場合(比較例9)と同様の酸素量(3.7wt%)になっており、耐食性が不十分であると考えられる。
【0077】
これらの結果から、Agの含有質量比率が0.95以上である本発明の表面近傍領域を、ろう材の表面から深さ方向に1.2μmよりも大きな1.3μmの深さまで形成することによって、ろう材の表面の腐食(腐食生成物の形成)を抑制でき、耐食性を良好にすることが可能である。さらに、Agの含有質量比率が0.95以上である本発明の表面近傍領域を、ろう材の表面から深さ方向に1.5μm以上の深さまで形成することによって、ろう材の表面の腐食(腐食生成物の形成)を確実に抑制でき、耐食性を良好にすることが可能であることが判明した。
【0078】
なお、ウェットエッチング(酸洗)を行っていない比較例1、5、9および12におけるAgの質量%(78.7、79.0、67.4および60.9)が、それぞれ、用いられたろう材におけるAgの質量%(85、85、72および67)よりも小さくなった理由としては、クラッド材形成時(接合時)やバレル研磨などにおいて生じた熱により、Ag−Cu(−Sn)合金内で拡散しやすいCuが表面側に拡散した分、相反的にAgの質量%が小さくなったからであると考えられる。
【0079】
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0080】
たとえば、上記本実施形態では、バレル研磨の後にウェットエッチングを行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、バレル研磨は行わなくてもよい。これにより、バレル研磨用の設備が不要になるとともに、製造工程を簡略化することが可能である。また、研磨材を用いた研磨として、バレル研磨以外の研磨を行ってもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、基材10がNi層11、中間層12およびCu層13の3層からなる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、基材は、1層(単一材)からなるように構成してもよいし、2層または4層以上の複数層からなるように構成してもよい。また、基材は、金属に限られず、たとえば、セラミックスや耐熱樹脂などから構成されていてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、シールリング1(蓋材3)が基材10とろう材20とが互いに接合されたクラッド材から構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、基材とろう材とをクラッド材のように接合しなくてもよい。たとえば、ろう材を基材の一方表面に塗布してもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、本発明のろう材付き基材の例として、電子部品収納用パッケージ100および200にそれぞれ用いられるシールリング1および蓋材3を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電子部品収納用パッケージ以外の用途に用いられるろう材付き基材に本発明の構成を適用してもよい。たとえば、熱交換器に用いられるろう材付き基材に本発明の構成を適用してもよい。
【0084】
また、上記実施例では、Cuが優先的に除去される前のろう材として、85Ag−Cu合金、72Ag−Cu合金および67Ag−Cu−Sn合金の銀ろう(ろう材)を用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ろう材として他の組成のろう材を用いてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、Cu優先除去剤として、希硫酸からなる強酸を含む例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、塩酸などの希硫酸とは別の強酸をCu優先除去剤として含めてもよい。また、Cuを優先的に除去することが可能であれば、強酸以外の溶液(たとえば、強アルカリ性の溶液)をCu優先除去剤として含めてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 シールリング(ろう材付き基材)
3 蓋材(ろう材付き基材)
10 基材
20 ろう材
21 表面近傍領域
100、200 電子部品収納用パッケージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12