特許第6221723号(P6221723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221723
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】X線分析装置及びX線分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/06 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   G01N23/06
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-260482(P2013-260482)
(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公開番号】特開2015-117973(P2015-117973A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2015年9月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】窪内 裕太
【審査官】 比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−159311(JP,A)
【文献】 実開昭60−144403(JP,U)
【文献】 特開2002−198097(JP,A)
【文献】 特開2010−096548(JP,A)
【文献】 国際公開第96/22523(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
H01M 10/00−10/667
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを間に挟んで正極と負極を積層してなる電池要素を、電解液とともに袋状のラミネートフィルムにより密封した薄板状のラミネートセルからなる試料と、
前記試料となるラミネートセルにX線を照射して分析データを得るin−situX線分析に用いられる試料ホルダーと、を備えるX線分析装置であって、
前記試料ホルダーは、
前記ラミネートセルを両側から挟んで支持する一対の支持部材と、
前記一対の支持部材が離間しないように前記一対の支持部材を押さえる押さえ手段とを備え、
前記一対の支持部材の各々は、前記ラミネートセルの主面全体と対向するように配置される支持面と、前記支持面の一部に形成されて前記X線を透過させるX線透過部とを有し、
前記押さえ手段は、前記ラミネートセルの充放電による膨らみを抑制すべく前記一対の支持部材を押さえるものである
ことを特徴とするX線分析装置
【請求項2】
前記X線を透過する性質を有するとともに、前記支持部材の前記支持面に貼り付けられたシート状の窓部材を有し、
前記一対の支持部材は、それぞれ前記窓部材を介して前記ラミネートセルを挟み込むように構成され、
前記X線透過部は、前記支持部材に形成された貫通穴によって構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のX線分析装置
【請求項3】
前記一対の支持部材は、正面視矩形の板状に形成され、
前記押さえ手段は、前記支持部材の四隅を押さえる第1の押さえ手段と、前記第1の押さえ手段よりも前記貫通穴に近い箇所を押さえる第2の押さえ手段とによって構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載のX線分析装置
【請求項4】
前記窓部材は、炭素繊維強化プラスチックによって構成されている
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のX線分析装置
【請求項5】
前記一対の支持部材は、それぞれ絶縁性の材料によって構成されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のX線分析装置
【請求項6】
前記一対の支持部材は、それぞれアクリル樹脂によって構成されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のX線分析装置
【請求項7】
セパレータを間に挟んで正極と負極を積層してなる電池要素を、電解液とともに袋状のラミネートフィルムにより密封した薄板状のラミネートセルを試料とし、前記ラミネートセルにX線を照射して分析データを得るin−situX線分析に際して、
前記ラミネートセルの主面全体と対向するように配置される支持面と、前記支持面の一部に形成されて前記X線を透過させるX線透過部とをそれぞれ有する一対の支持部材により前記ラミネートセルを両側から挟んで支持し、かつ、前記一対の支持部材が離間しないように前記一対の支持部材を押さえることにより、前記ラミネートセルの充放電による膨らみを抑制した状態で、前記ラミネートセルのX線分析を行う
ことを特徴とするX線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電過程における二次電池の電子状態や構造変化などを測定するために用いて好適なX線分析用の試料ホルダーとこれを用いたX線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池のなかでも、特にリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、作動電圧が高い電池として知られている。このため、リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯型の電子機器のほか、ハイブリッド自動車や電気自動車の電源などに広く用いられている。
【0003】
一般に、リチウムイオン二次電池は、正極活物質を主要構成成分とする正極と、負極活物質を主要構成成分とする負極と、正極と負極を分離するセパレータと、非水系電解質などから構成されている。これらの構成材料は、金属缶やアルミラミネートフィルムなどの外装材で封止されている。外装材に金属缶を用いたものはハードパック型と呼ばれ、アルミラミネートフィルムを用いたものはソフトパック型またはラミネートセルとも呼ばれている。
【0004】
電池材料の開発においては、電池材料を評価するためにX線分析が採用されている。X線分析、特にX線回折(X−ray Diffraction:以下、XRD)測定やX線吸収微細構造(X−ray Absorption Fine Structure:以下、XAFSと略す)測定は、結晶構造、構成元素それぞれの価数や局所構造(配位数、原子間距離)といった情報を与える分析手法であり、電池材料の評価に広く利用されている。
【0005】
電池材料の上記X線分析の方法は、大別すると、ex−situ測定と、in−situ測定とに分かれる。ex−situ測定は、充放電を行った電池セルを分解し、正極などの構成材料を取り出してX線分析を行うものである。in−situ測定は、電池を分解せずに充放電を行ったままX線分析を行うものである。リチウムイオン二次電池などの非水系電解質を用いる二次電池の場合、ex−situ測定では、電池の外装材の中から正極などの構成材料を取り出して大気中に暴露すると、正極中の正極活物質の状態が変化してしまう場合がある。このため、近年では、実際の電池反応に近い状態を評価できるin−situ測定が主流になりつつある。
【0006】
in−situでのX線分析に関しては、たとえば非特許文献1に記載されているように、金属ベリリウムを用いたX線分析用の特殊な電気化学セルが開発され、電池材料の評価に利用されている。金属ベリリウムは、導電性があり、かつ、X線の透過率が高いことから、X線を透過する窓部の材料に用いられている。しかしながら、金属ベリリウムを窓部の材料に用いる場合は、(1)ベリリウムの酸化物が毒物であるため取り扱いが難しい、(2)電気化学セルの構造が複雑であるためセルの作製コストが高くなる、といった問題があった。
【0007】
一方、特許文献1に記載されているように、アルミラミネートフィルムなどで外装した薄板状の電池(ラミネートセル)を対象に、直接、X線分析をする手法も採用されている。ラミネートセルは、正極、負極、外装などが十分に薄いため、X線の透過率が高い。このため、ラミネートを分解せずに、そのままX線分析を実施することができる。この手法では、ラミネートセルの取り扱いが簡便であり、かつ、セルの作製コストが低いため、複数のセルを容易に作製できるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−230919号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M. N. Richard et al, J. Electrochem. Soc. 144, 554, (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来においては、in−situでのX線分析に際して、単にラミネートセルを試料台の上に立ててX線を透過させていたため、測定条件によっては次のような不具合が生じることがあった。すなわち、全体的に薄くて形状が変化しやすいラミネートセルを用いて、in−situでのX線分析により二次電池の性能を評価する場合に、たとえば、4.8V程度の高い電圧で充放電を繰り返し行うと、測定の途中で充放電が適切に行えなくなることがあった。具体的には、X線分析の分析データとして、たとえば、ラミネートセルのX線吸光度を示す測定データを取得する場合に、ラミネートセルの充放電を行っても、その充放電の状態が測定データに正しく反映されず、信頼性の高いX線分析を行うことができなくなる。その結果、ある時間以降は、電池の性能を正しく評価できないという不都合があった。
【0011】
そうした状況のなかで、本発明者は、測定の途中で充放電が適切に行えなくなったラミネートセルの状態を確認してみた。そうしたところ、測定前にくらべてラミネートセルが全体的に少し膨らんでいることに気づいた。この事実から、本発明者は、高い電圧領域で充放電を行った場合は、電解液の分解や、正極活物質からの酸素の放出などにより、ラミネートセル内にガスが発生し、これにともなう電池内の圧力の上昇によってラミネートセルが膨らみ、その結果、正極と負極の相対的な位置関係が変化したのではないかと考えた。すなわち、本発明者は、ラミネートセルを対象としたin−situでのX線分析において、測定の途中で充放電が適切に行えなくなった原因は、セパレータを間に挟んで近接する正極と負極がガスの発生にともなって分離し、それらの電気的な接続状態が悪化したためである、との考えに基づいて本発明を想到した。
【0012】
本発明の主な目的は、ラミネートセルを対象としたX線分析において、ラミネートセル内でガスが発生した場合でも正極と負極の電気的な接続状態を良好に保ち、これによって信頼性の高いX線分析を可能とするX線分析用の試料ホルダーとX線分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、
セパレータを間に挟んで正極と負極を積層してなる電池要素を、電解液とともにラミネートフィルムにより密封した薄板状のラミネートセルを試料とし、前記ラミネートセルにX線を照射して分析データを得るin−situX線分析に用いられる試料ホルダーであって、
前記ラミネートセルを両側から挟んで支持する一対の支持部材と、
前記一対の支持部材が離間しないように前記一対の支持部材を押さえる押さえ手段とを備え、
前記一対の支持部材の各々は、前記ラミネートセルの主面全体と対向するように配置される支持面と、前記X線を透過させるX線透過部とを有する
ことを特徴とする試料ホルダーである。
【0014】
本発明の第2の態様は、
前記X線を透過する性質を有するとともに、前記支持部材の前記支持面に貼り付けられたシート状の窓部材を有し、
前記一対の支持部材は、それぞれ前記窓部材を介して前記ラミネートセルを挟み込むように構成され、
前記X線透過部は、前記支持部材に形成された貫通穴によって構成されている
ことを特徴とする上記第1の態様に記載の試料ホルダーである。
【0015】
本発明の第3の態様は、
前記一対の支持部材は、正面視矩形の板状に形成され、
前記押さえ手段は、前記支持部材の四隅を押さえる第1の押さえ手段と、前記第1の押さえ手段よりも前記貫通穴に近い箇所を押さえる第2の押さえ手段とによって構成されている
ことを特徴とする上記第2の態様に記載の試料ホルダーである。
【0016】
本発明の第4の態様は、
前記窓部材は、炭素繊維強化プラスチックによって構成されている
ことを特徴とする上記第1〜第3の態様のいずれか一つに記載の試料ホルダーである。
【0017】
本発明の第5の態様は、
前記一対の支持部材は、それぞれ絶縁性の材料によって構成されている
ことを特徴とする上記第1〜第4の態様のいずれか一つに記載の試料ホルダーである。
【0018】
本発明の第6の態様は、
前記一対の支持部材は、それぞれ光透過性を有する材料によって構成されている
ことを特徴とする上記第1〜第5の態様のいずれか一つに記載の試料ホルダーである。
【0019】
本発明の第7の態様は、
セパレータを間に挟んで正極と負極を積層してなる電池要素を、電解液とともにラミネートフィルムにより密封した薄板状のラミネートセルを試料とし、前記ラミネートセルにX線を照射して分析データを得るin−situX線分析に際して、
前記ラミネートセルを一対の支持部材により両側から挟んで支持し、かつ、前記一対の支持部材が離間しないように前記一対の支持部材を押さえた状態で、前記ラミネートセルのX線分析を行う
ことを特徴とするX線分析方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ラミネートセルを対象としたX線分析において、ラミネートセル内でガスが発生した場合でも正極と負極の電気的な接続状態を良好に保持することができる。このため、信頼性の高いX線分析を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】X線分析装置の構成の一例を示す概略図である。
図2】X線分析の対象となる試料の一例となるラミネートセルの構成を示す概略断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る試料ホルダーの構成の一例を示す概略図である。
図4】押さえ手段の押さえ箇所を示す図である。
図5】第1の押さえ手段の構成例を示す図である。
図6】第2の押さえ手段の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.X線分析装置の構成
2.ラミネートセルの構成
3.試料ホルダーの構成
4.X線分析方法
5.実施の形態の効果
6.変形例等
【0023】
<1.X線分析装置の構成>
図1はX線分析装置の構成の一例を示す概略図である。
図1において、モノクロメータ1は、X線分析に用いるX線を単色化するものである。X線分析では、実験室系X線装置または放射光施設から発生するX線を用いることができる。モノクロメータ1で単色化されたX線の出射方向には、入射X線検出器2と、試料台3と、透過X線検出器4とが順に配置されている。試料台3は、X線分析の対象となる試料5がセットされる部分である。本実施の形態においては、後述するラミネートセルを試料5とする。入射X線検出器2は、試料5に入射するX線の強度を検出するものである。透過X線検出器4は、試料5を透過したX線の強度を検出するものである。
【0024】
上記構成からなるX線分析装置においては、試料台3に試料5をセットした後、モノクロメータ1を経由してX線を出射すると、このX線が入射X線検出器2を通して試料5に入射する。このとき、試料5に入射するX線の強度を入射X線検出器2で検出する。一方、試料5を透過したX線は、透過X線検出器4に取り込む。このとき、試料5を透過したX線の強度を透過X線検出器4で検出する。これにより、入射X線検出器2で検出した入射X線強度と透過X線検出器4で検出した透過X線強度との比によって、試料5のX線吸光度を求めることができる。
【0025】
<2.ラミネートセルの構成>
図2はX線分析の対象となる試料の一例となるラミネートセルの構成を示す概略断面図である。図示したラミネートセル10は、正極11と、負極12と、セパレータ13とを含む電池要素14を備えた構成となっている。正極11は、正面視(平面視)矩形のシート状に形成されている。正極11の片面には正極活物質層15が形成されている。正極活物質層15は、たとえば、ニッケル酸リチウムと、導電助剤と、結着剤とを用いて、塗膜形成されている。負極12は、正面視矩形のシート状に形成されている。負極12の片面には負極活物質層16が形成されている。負極活物質層16は、たとえば、グラファイトと、結着剤とを用いて、塗膜形成されている。セパレータ13は、正面視矩形のシート状に形成されている。電池要素14は、セパレータ13を間に挟んで正極11と負極12を積層した構造になっている。この積層構造においては、正極11の正極活物質層15と負極12の負極活物質層16とが、セパレータ13を介して対向する状態に配置されている。
【0026】
また、電池要素14は、図示しない電解液とともにラミネートフィルム17によって密封されている。ただし、正極11につながる端子(不図示)と負極12につながる端子(不図示)は、充放電のための端子(不図示)を接続するために、それぞれラミネートフィルム17の外側に引き出される。ラミネートフィルム17は、正面視矩形の袋状に形成されている。ラミネートフィルム17の内部には、非水系電解液からなる適量の電解液が注入されている。これにより、ラミネートセル10は、ラミネートシート型のリチウムイオン二次電池を構成している。また、ラミネートセル10は、X線分析を行うにあたって、できるだけ多くのX線を透過するように、正極11、負極12およびセパレータ13をそれぞれ単一のシートで構成した薄板状の構造になっている。
【0027】
<3.試料ホルダーの構成>
図3は本発明の実施の形態に係る試料ホルダーの構成の一例を示す概略図である。
図示した試料ホルダー21は、上述したラミネートセル10を試料としてX線分析を行う際に用いられるものである。ここで記述する「X線分析」とは、ラミネートセル10にX線を入射して分析データを得るin−situX線分析をいう。また、「in−situX線分析」とは、リチウムイオン二次電池を構成するラミネートセル10を分解することなくX線分析を行うことをいう。
【0028】
試料ホルダー21は、大きくは、一対の支持部材22と、一対の窓部材23と、押さえ手段24と、を備えた構成となっている。
【0029】
(支持部材)
一対の支持部材22は、X線分析の試料となるラミネートセル10を両側から挟んで支持するものである。各々の支持部材22は、互いに同じ材料を用いて、同じ形状および寸法に形成されている。具体的に記述すると、支持部材22は、ラミネートセル10よりも一回り大きい正面視矩形の板状に形成されている。支持部材22の一方の主面は、ラミネートセル10を押さえる支持面25となっている。一対の支持部材22は、支持面25どうしを対向するように配置される。このため、一対の支持部材22の間にラミネートセル10を配置した場合は、一方の支持部材22の支持面25がラミネートセル10の一方の主面全体と対向し、かつ、他方の支持部材22の支持面25がラミネートセル10の他方の主面全体と対向するように配置される。
【0030】
各々の支持部材22は、機械的には高い剛性を有し、電気的には絶縁性を有し、光学的には高い光透過性を有する材料によって構成されている。ここで記述する「高い剛性」とは、一対の支持部材22でラミネートセル10を挟んで支持した場合に、ラミネートセル10内でのガスの発生に伴う圧力に屈して変形しない程度の剛性をいう。また、「高い光透過性」とは、支持部材22の厚み方向の一方から他方を透かして見たときに、他方側に存在する物を目視で確認できる程度の光透過性をいう。上記の性質を満足する支持部材22の構成材料としては、たとえばアクリル樹脂を挙げることができる。支持部材22には貫通穴26が形成されている。貫通穴26は、X線を透過させるX線透過部として支持部材22に設けられたものである。貫通穴26は、支持部材22の厚み方向に貫通する状態で、支持部材22の中央部に一つ形成されている。
【0031】
(窓部材)
一対の窓部材23は、上述した一対の支持部材22でラミネートセル10を挟んだ場合に、ラミネートセル10に直接、接触するものである。各々の窓部材23は、互いに同じ材料を用いて、同じ形状および寸法に形成されている。さらに記述すると、窓部材23は、支持部材22よりも薄く、かつ、支持部材22よりも一回り小さい平面視矩形のシート状に形成されている。窓部材23は、所定のX線透過率と剛性とを併せ持つ材料で構成されている。窓部材23の材料としては、後述する理由により、炭素繊維強化プラスチックを用いることが好ましい。
【0032】
一対の窓部材23は、それぞれに対応する支持部材22の支持面25に貼り付けられている。すなわち、一方の窓部材23は、一方の支持部材22の支持面25に貼り付けられ、他方の窓部材23は、他方の支持部材22の支持面25に貼り付けられている。これにより、支持部材22の貫通穴26の一端は、窓部材23によって塞がれている。また、一対の支持部材22の間にラミネートセル10を配置した場合は、一方の支持部材22に貼り付けられた窓部材23がラミネートセル10の一方の主面に対向し、かつ、他方の支持部材22に貼り付けられた窓部材23がラミネートセル10の他方の主面に対向するように配置される。各々の窓部材23は、ラミネートセル10の主面全体に接触(密着)するように、ラミネートセル10の主面と同じ大きさか、それよりも少し大きい外形寸法(縦横寸法)を有している。
【0033】
ここで、ラミネートセル10の寸法例とこれに対応する支持部材22及び窓部材23の寸法例について記述する。
ラミネートセル10の寸法は、たとえば、長手寸法=80mm、短手寸法=60mm、厚み寸法=1mmであるとする。そうした場合、支持部材22をアクリル板で構成するものとすると、この支持部材22の各部の寸法は、たとえば、長手寸法=100mm、短手寸法=40mm、厚み寸法=10mm、貫通穴26の直径=5mmに設定することができる。また、窓部材23を炭素繊維強化プラスチックフィルムで構成するものとすると、この窓部材23の各部の寸法は、たとえば、長手寸法=80mm、短手寸法=20mm、厚み寸法=0.2mmに設定することができる。
【0034】
(押さえ手段)
押さえ手段24は、一対の支持部材22の間にラミネートセル10を挟んで支持する場合に、一対の支持部材22が離間しないように一対の支持部材22を押さえるものである。押さえ手段24は、支持部材22の貫通穴26を通過するX線と干渉しないように、貫通穴26の形成部位以外の箇所で一対の支持部材22を押さえる。ここでは一例として合計6箇所で一対の支持部材22を押さえる構成について説明する。
【0035】
押さえ手段24は、図4に示すように、支持部材22の四隅(P1,P2,P3,P4)を押さえる第1の押さえ手段と、この第1の押さえ手段よりも貫通穴26に近い箇所(P5,P6)を押さえる第2の押さえ手段とによって構成されている。
【0036】
第1の押さえ手段は、支持部材22の四隅P1,P2,P3,P4でそれぞれ一対の支持部材22を結合することにより、一対の支持部材22を押さえる。第1の押さえ手段は、たとえば図5に示すように、支持部材22に形成された穴22aに挿入されるネジ27と、このネジ27に螺合するナット28とを用いて構成することができる。この構成においては、ネジ27に螺合するナット28を締め付けることにより、一対の支持部材22を互いに結合するように押さえることができる。
【0037】
第2の押さえ手段は、支持部材22の貫通穴26の近傍の2箇所P5,P6でそれぞれ一対の支持部材22を互いに接近する方向に加圧することにより、一対の支持部材22を押さえる。第2の押さえ手段は、たとえば図6に示すように、一対の加圧子29a,29bを有する締め付け具を用いて構成することができる。貫通穴26の近傍の2箇所P5,P6は、貫通穴26を中心として、支持部材22の上側と下側に均等な距離を隔てた位置に設定されている。締め付け具は、たとえば、金属によって構成されるものである。一対の加圧子29a,29bは、たとえば締め付け具が備えるネジ式の操作棒を回転操作することにより、互いに接近又は離間する方向に移動可能になっている。この構成においては、締め付け具の操作棒を適宜回転操作して、一対の加圧子29a,29bをそれぞれに対応する支持部材22の外側の面に接触させ、その状態でさらに操作棒を回転させるように締め付けることにより、一対の加圧子29a,29bによって一対の支持部材22を加圧するように押さえることができる。
【0038】
<4.X線分析方法>
次に、本発明の実施の形態に係る試料ホルダーを用いたX線分析方法について説明する。本実施の形態においては、X線分析方法の一例として、あらかじめ決められた測定条件でラミネートセル10の充放電を繰り返し行うとともに、この充放電を行ったまま、ラミネートセル10の厚み方向の一方から他方にX線を透過させて、ラミネートセル10のX線吸光度に関する分析データを得る方法について説明する。
【0039】
まず、試料ホルダー21にラミネートセル10をセットする。このとき、一対の窓部材23をそれぞれに対応するラミネートセル10の主面に接触させるようにして、一対の支持部材22の間にラミネートセル10を挟む。また、一対の窓部材23の相対向する面が、それぞれに対応するラミネートセル10の主面の全面を覆うように、ラミネートセル10と窓部材23の位置を合わせる。このとき、光透過性を有する材料(典型的には透明な材料)で支持部材22を構成しておけば、一対の支持部材22の間にラミネートセル10を挟んだ状態でも、支持部材の外側からラミネートセル10と窓部材23の位置関係を把握することができる。
【0040】
次に、第1の押さえ手段で一対の支持部材22を押さえる。具体的には、各々の支持部材24の四隅P1,P2,P3,P4に、それぞれネジ27とナット28を装着する(図4及び図5を参照)。このとき、各々の支持部材22の四隅にそれぞれにネジ27とナット28を取り付けて仮締めしてから、4つのナット28を徐々に締め付けて本締めする。これにより、一対の支持部材22の四隅を均等な力で締め付けることができる。また、各々の支持部材22の支持面25に貼り付けられた窓部材23でラミネートセル10全体を挟み込むことができる。なお、ナット28による締め付け力は、少なくとも、一対の支持部材22の間に挟んだラミネートセル10が落下しない程度の大きさであり、支持部材22が歪まない程度の大きさとする。
【0041】
次に、第2の押さえ手段で一対の支持部材22を押さえる。具体的には、各々の支持部材22の2箇所P5,P6に、それぞれ一対の加圧子29a,29bを接触させ、その状態で締め付け具の操作棒を回転させて締め付けることにより、一対の加圧子29a,29bで一対の支持部材22を両側から挟み込む(図4及び図6を参照)。その際、支持部材22の貫通穴26から均等な距離を隔てた位置に加圧子29a,29bを接触させて、一対の支持部材22を押さえるようにする。また、各々の箇所P5,P6では、それぞれに対応する一対の加圧子29a,29bにより、均等な力で一対の支持部材22を締め付けるようにする。このとき、支持部材22の外側の面に、加圧子29a,29bで押さえるべき箇所P5,P6を示す目印を付しておき、この目印の位置に合わせて加圧子29a,29bを接触させる構成としてもよい。
【0042】
このように試料ホルダー21にラミネートセル10をセットしたら、これをX線分析装置の試料台3に載せてin−situX線分析を行う。このとき、ラミネートセル10の外側に引き出されている端子に、充放電のための端子を接続する。そして、あらかじめ決められた条件でラミネートセル10の充放電を繰り返す。また、ラミネートセル10の厚み方向の一方から他方にX線を透過させて所望の分析データを得る。その際、モノクロメータ1から出射されたX線は、入射X線検出器2を経由して、一方の支持部材22の貫通穴26を通過した後、一方の窓部材23を透過してラミネートセル10に入射する。また、ラミネートセル10を透過したX線は、他方の窓部材23を透過して他方の支持部材22の貫通穴26を通過した後、透過X線検出器4に取り込まれる。したがって、入射X線検出器2の検出結果と透過X線検出器4の検出結果から、ラミネートセル10のX線吸光度を示す分析データ(測定データ)を得ることができる。
【0043】
<5.実施の形態の効果>
本発明の実施の形態によれば、次のような効果が得られる。
最初に、本発明の実施の形態に係る試料ホルダー21を用いてラミネートセル10を支持した場合と、試料ホルダー21を用いずに単にラミネートセル10を立てて支持した場合で、充放電の繰り返しによるX線分析の分析データにどのような違いが生じるかという観点から効果を述べる。
【0044】
まず、単にラミネートセル10を立てて支持した場合は、たとえば通常の電圧(たとえば、4.2V)よりも高い電圧(たとえば、4.8V)で充放電を繰り返したときに、ラミネートセル10内に発生するガスによって電池内の圧力が上昇し、ラミネートセル10が膨らむ可能性がある。このとき、セパレータ13を間に挟んで近接する正極11と負極12がガスの発生にともなって分離し、それらの電気的な接続状態が悪化すると、ラミネートセル10の充放電が適切に行われなくなる。その結果、ラミネートセル10のX線分析によって得られる分析データが、ラミネートセル10の充放電の状態を正しく反映したものとならず、信頼性の高いX線分析を行うことができなくなる。
【0045】
これに対して、ラミネートセル10を試料ホルダー21で支持した場合は、充放電の繰り返しによってラミネートセル10内にガスが発生しても、ラミネートセル10の両面を一対の支持部材22によって押さえているため、ラミネートセル10の膨らみが抑制される。したがって、正極11と負極12の相対的な位置関係がほとんど変化せず、両者の電気的な接続状態が良好に保たれる。これにより、測定中にラミネートセル10内にガスが発生するような条件であっても、ラミネートセル10の充放電を適切に行うことができる。したがって、ラミネートセル10のX線分析によって得られる分析データが、ラミネートセル10の充放電の状態を正しく反映したものとなる。その結果、ガス発生後においても、その影響をほとんど受けることなく、信頼性の高いX線分析を行うことが可能となる。また、試料ホルダー21は、低コストで、かつ、簡便に作製することができるため、工業的価値が非常に高いという利点も得られる。
【0046】
また、本発明の実施の形態においては、試料ホルダー21の構成上、一対の支持部材22で直接ラミネートセル10を挟むのではなく、各々の支持部材22の支持面25に貼り付けた窓部材23で直接ラミネートセル10を挟むようにしている。このため、支持部材22の貫通穴26を塞ぐ窓部材23がラミネートセル10の主面全体に接触し、この窓部材23を介してラミネートセル10が挟み込まれる。したがって、窓部材23を設けない場合は、ラミネートセル10内で発生したガスが貫通穴26の部分に溜まり、ラミネートセル10が局所的に膨れるおそれがあるのに対して、窓部材23を設けた場合は、そのようなおそれがなくなる。このため、ラミネートセル10の局所的な膨らみにともなう充放電の異常を防止することができる。
【0047】
また、窓部材23でラミネートセル10の局所的な膨れを抑制するうえでは、窓部材23の剛性を高めるために、たとえば、窓部材23を金属で構成する、あるいは窓部材23の厚み寸法を大きくする、などの手法が考えられる。しかし、X線分析を行う場合は、窓部材23にX線を透過させる必要があるため、前述のような手法を採用すると、窓部材23のX線透過率が著しく低下してしまう。その結果、X線分析そのものが不可能になるおそれがある。そのため、窓部材23の構成材料としては、X線の透過率が高く、かつ、高い剛性を持つものでなければならない。そのような性質を有する窓部材23の構成材料としては、上述した炭素繊維強化プラスチックが挙げられる。炭素繊維強化プラスチックは、X線の窓材の一種であるカプトンフィルムと比べた場合、同じ厚みでも高い剛性を有しており、かつ、同等のX線透過率を有する。また、炭素繊維強化プラスチックは、金属ベリリウムのような取り扱い上の難点もない。
【0048】
窓部材23の厚み寸法に関しては、X線分析に用いるX線のエネルギーによって適切な寸法が変わってくる。たとえば、一般的なX線分析に用いられる8000eV付近のエネルギーを持つX線を使用し、かつ、窓部材23を炭素繊維強化プラスチックで構成する場合は、窓部材23の厚み寸法が0.2mmであることが望ましい。ちなみに、8000eV付近のエネルギーを持つX線を、厚さ0.2mmの炭素繊維強化プラスチック製の窓部材23に入射したときのX線透過率は80%以上となる。このため、貫通穴26を塞ぐように支持部材22の支持面25に窓部材23を貼り付けた構成にしても、ラミネートセル10のX線分析を行うことが可能である。また、炭素繊維強化プラスチック製の窓部材23は十分な剛性を有しているため、高電圧での充放電によってガスが発生してもラミネートセル10の膨らみを抑制し、信頼性の高いX線分析を行うことが可能である。
【0049】
また、本発明の実施の形態においては、支持部材22の四隅を押さえる第1の押さえ手段(27,28)と、支持部材22の貫通穴26の近傍を押さえる第2の押さえ手段(29a,29b)とによって、押さえ手段24を構成している。このため、次のような効果が得られる。
すなわち、第1の押さえ手段だけで一対の支持部材22を押さえた場合は、支持部材22の四隅P1〜P4から離れた支持部材22の中央部(貫通穴26が形成されている部分)に十分な押さえ力が作用せず、そこで押さえ力の不足が生じるおそれがある。特に、貫通穴26が形成された部分では、窓部材23が支持部材22によって裏打ちされないため、押さえ力の不足が起こりやすくなる。一方、第2の押さえ手段だけで一対の支持部材22を押さえた場合は、貫通穴26から離れた支持部材22の四隅に十分な押さえ力が作用せず、そこで押さえ力の不足が生じるおそれがある。
【0050】
これに対して、第1の押さえ手段と第2の押さえ手段の両方で一対の支持部材22を同時に押さえた場合は、上述した押さえ力の不足が相互に補われる。このため、一対の支持部材22を介してラミネートセル10全体をバランス良く押さえることができる。また、支持部材22を厚くしてその剛性を必要以上に高くしなくても済む。また、第2の押さえ手段による押さえ箇所を、貫通穴26の形成部位から均等な距離を隔てた2箇所P5,P6に設定すれば、貫通穴26の近傍を均一な力でバランス良く押さえることができる。
【0051】
また、一対の支持部材22をそれぞれ絶縁性の材料によって構成しておけば、たとえば、充放電のための端子をラミネートセル10に接続する作業中に、万一、この端子が支持部材22に接触してもショートするおそれがない。このため、作業の安全性を確保することができる。
【0052】
ちなみに、本発明者は、ラミネートセル10のX線分析として、高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設の放射光から得られるX線を用いて、XAFSの測定を行ってみた。また、このXAFSの測定では、試料ホルダー21でラミネートセル10を両側から挟んで固定し、入射X線検出器2と透過X線検出器4との間にセットした。そして、ラミネートセル10に入射する入射X線の強度と、ラミネートセル10を透過したX線の強度を検出した。そうしたところ、高電圧によるラミネートセル10の充放電を長時間にわたって繰り返しても、測定の途中で充放電の異常が認められず、充放電の状態を正しく反映した測定データが継続的に得られた。
【0053】
<6.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0054】
たとえば、上記実施の形態においては、好ましい態様として、押さえ手段24を、第1の押さえ手段(27,28)と第2の押さえ手段(29a,29b)とによって構成したが、これに限らず、第1の押さえ手段又は第2の押さえ手段だけで押さえ手段24を構成してもかまわない。また、第2の押さえ手段による押さえ箇所を2箇所としたが、これに限らず、3箇所以上であってもよい。また、押さえ手段24で一対の支持部材22を押さえる場合の押さえ力は、ラミネートセル10内にガスが発生した場合でも、一対の支持部材22の離間を制限し、ラミネートセル10の膨らみを抑制し得る大きさであればよい。
【0055】
また、上記実施の形態においては、好ましい態様として、一対の支持部材22の支持面25にそれぞれ窓部材23を貼り付け、この窓部材23を介してラミネートセル10を両側から挟み込む構成としたが、本発明はこれに限らず、一対の支持部材22の支持面25で直接、ラミネートセル10を挟み込む構成としてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…ラミネートセル
21…試料ホルダー
22…支持部材
23…窓部材
24…押さえ手段
25…支持面
26…貫通穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6