特許第6221743号(P6221743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221743リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221743
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20171023BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20171023BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/485
   H01M4/131
   H01M4/36 C
   H01M10/052
   H01M10/0566
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-273210(P2013-273210)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-128013(P2015-128013A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】丸橋 豊
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−99251(JP,A)
【文献】 特開2013−206846(JP,A)
【文献】 特開2003−223895(JP,A)
【文献】 特開平9−63590(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/113940(WO,A1)
【文献】 特表2013−518377(JP,A)
【文献】 特開2013−134923(JP,A)
【文献】 特開平8−264185(JP,A)
【文献】 特開2012−234665(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0143206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/131
H01M 4/36
H01M 4/485
H01M 10/052
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質、結着剤及び有機溶媒を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物であって、
前記負極活物質がリチウムチタン酸化物を含み、
前記結着剤が、フッ化ビニリデン単量体単位を80質量%以上含む重合体X、及び共役ジエン水素化物単量体単位を30〜80質量%含む重合体Yを含む、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
【請求項2】
前記負極活物質が炭素材料をさらに含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
【請求項3】
前記負極活物質において、前記リチウムチタン酸化物が、前記炭素材料で被覆された粒子として存在する、請求項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
【請求項4】
導電材をさらに含み、
前記導電材のBET比表面積が35〜3000m/gである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
【請求項5】
前記負極活物質のBET比表面積が、30m/g以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
【請求項6】
集電体、及び負極合材層を備えるリチウムイオン二次電池用負極であって、前記負極合材層は、
前記集電体上に、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を塗布し、スラリー組成物の層を形成し、
前記スラリー組成物の層を乾燥してなる、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液と、セパレーターとを備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、リチウムイオン二次電池の更なる高性能化を目的として、その構成要素の改良が検討されている。例えば、正極、負極等の構成要素を改良して、リチウムイオン二次電池の出力特性、レート特性等の特性を向上することが試みられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池用の負極は、通常、集電体と、集電体上に形成された電極合材層(負極合材層)とを備えている。この負極合材層は、例えば、負極活物質、導電材、結着剤などを分散媒に分散または溶解させてなるスラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成される。
【0004】
スラリー組成物の溶媒としては、環境負荷を低減するため水を用いる場合もあるが、電池への水の混入を出来るだけ低減し電池内でのガスの発生を低減するために、N−メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒を用いることが一般的である。
【0005】
負極活物質としては、種々の化合物が検討されているが、その一つとして、リチウムチタン酸化物(LTO)がある。リチウムチタン酸化物は、充電及び放電においての膨張収縮が少なく、且つリチウムに比べて電位が高いという特徴を有する。そのため、リチウムチタン酸化物は、電池のレート特性を高める上で有利である。また、スラリー組成物に添加する結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−22794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、リチウムチタン酸化物は、アルカリ性が高いため、ポリフッ化ビニリデンと併用した場合、脱フッ酸反応を起こしうる。脱フッ酸して生成するポリエンは、二重結合を有しているため、スラリー組成物中で架橋反応を起こし、スラリー組成物の粘度を、不所望に上昇させうる。さらに、リチウムチタン酸化物は、抵抗が高いため、通常、出力特性を向上させるために導電材と併用される。スラリー組成物に導電材を多量に添加した場合、スラリー組成物中で導電材が良好に分散せず、粘度が不所望に変化しうる。
【0008】
このように、スラリー組成物の粘度が、不所望に変化すると、電池の製造が困難になる。例えば、スラリー組成物の粘度が不所望に上昇すると、均一な塗布が困難となり、電池の性能が低下しうる。また、スラリー組成物の粘度が経時的に変化すると、調製直後のスラリー組成物を用いた場合と、調製後時間が経過した時点でのスラリー組成物を用いた場合とで品質にばらつきが生じる等の不所望な現象が発生する。
【0009】
そこで、本発明の目的は、粘度の経時的変化が少なく、且つレート特性及び出力特性が高い電池を与えうる、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、容易に製造することができ、且つレート特性及び出力特性が高い電池を与えうる、リチウムイオン二次電池用負極、並びに、容易に製造することができ、且つレート特性及び出力特性が高いリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として検討を行った。そして、本発明者は、結着剤として、PVDF等のフッ化ビニリデン単量体単位を含む重合体に加えて、共役ジエン水素化物単量体単位を含む特定の重合体を併せて用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、当該特定の重合体を用いることにより、導電材を容易に分散させることができ、且つフッ化ビニリデン単量体単位の脱フッ酸反応による粘度の上昇をも抑制しうることを見出した。本発明は、上記知見に基づき完成された。
即ち、本発明によれば、下記〔1〕〜〔7〕が提供される。
【0011】
〔1〕 負極活物質、結着剤及び有機溶媒を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物であって、
前記負極活物質がリチウムチタン酸化物を含み、
前記結着剤が、フッ化ビニリデン単量体単位を80質量%以上含む重合体X、及び共役ジエン水素化物単量体単位を30〜80質量%含む重合体Yを含む、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
〔2〕 前記負極活物質が炭素材料をさらに含む、〔1〕に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
〔3〕 前記負極活物質において、前記リチウムチタン酸化物が、前記炭素材料で被覆された粒子として存在する、〔1〕又は〔2〕に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
〔4〕 導電材をさらに含み、
前記導電材のBET比表面積が35〜3000m/gである、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
〔5〕 前記負極活物質のBET比表面積が、30m/g以下である、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
〔6〕 集電体、及び負極合材層を備えるリチウムイオン二次電池用負極であって、前記負極合材層は、
前記集電体上に、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を塗布し、スラリー組成物の層を形成し、
前記スラリー組成物の層を乾燥してなる、リチウムイオン二次電池用負極。
〔7〕 〔6〕に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液と、セパレーターとを備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、粘度の経時的変化が少なく、且つレート特性及び出力特性が高い電池を与えうる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、容易に製造することができ、且つレート特性及び出力特性が高い電池を与えうる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、容易に製造することができ、且つレート特性及び出力特性が高い電池としうる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
本願において、「(メタ)アクリル」とはアクリル及び/又はメタクリルを意味する。「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。また、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0014】
〔1.リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物〕
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、負極活物質、結着剤及び有機溶媒を含む。
【0015】
〔1.1.負極活物質:LTO〕
本発明のスラリー組成物は、負極活物質として、リチウムチタン酸化物を含む。以下において、リチウムチタン酸化物を「LTO」と略称することがある。
LTOは、リチウム、チタン及び酸素を含む化合物であり、通常、LiTiで示される組成を有する結晶構造を含む化合物である。前記組成式中、x、y及びzはそれぞれ0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6であり、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる元素を表す。LTOにおけるリチウム、チタンの割合は、周知の方法で測定しうる。
【0016】
LTOの好ましい例としては、スピネル型チタン酸リチウム(組成式Li4+xTi12(0≦x≦3)、特に好ましくはLiTi12)が挙げられる。スピネル型チタン酸リチウムは、水酸化リチウムと二酸化チタンとを混合し、焼成することにより合成しうる。
【0017】
本発明のスラリー組成物において、LTOは、通常、その一部又は全部が、粒子の形状で存在する。LTO粒子は、一次粒子で形成された、球状の二次粒子となりうる。二次粒子の粒径は、1〜100μmとしうる。一次粒子の粒径は、通常1μm未満としうる。
【0018】
LTOの粒子の各々は、LTOのみからなってもよく、LTOとそれ以外の物質とからなってもよい。例えば、LTOの粒子は、LTOと、炭素材料とを含みうる。好ましくは、LTOの粒子は、LTOと、LTOを被覆する炭素材料の層とを含む粒子としうる。以下において、LTOの粒子のうち、特にLTOとLTOを被覆する炭素材料の層とを含む粒子を、「炭素材料被覆LTO粒子」と略称することがある。
【0019】
LTOとして炭素材料被覆LTO粒子を用いた場合、重合体YによりLTOの粒子を良好に分散させる効果を発現させうるため、スラリー中のLTOの分散性が良好となる。その結果、出力特性、レート特性等の電池特性を向上させることができる。また、LTOとして炭素材料被覆LTO粒子を用いた場合、重合体YによりLTOの粒子の表面が覆われた状態となり、LTOからのアルカリの溶出を低減しうる。その結果、スラリーの増粘を抑制し、スラリーの保存安定性を高めることができる。
【0020】
炭素材料被覆LTO粒子においては、その表面の少なくとも一部に、炭素材料が存在する。即ち、炭素材料被覆LTO粒子は、必ずしも粒子の表面全体が炭素材料で被覆されていなくてもよく、粒子の表面の一部のみが被覆されていてもよい。
【0021】
炭素材料被覆LTO粒子を製造する方法は、特に限定されず、既知の方法を採用しうる。例えば、LTOの原料であるリチウム塩及び酸化チタンと、炭素含有化合物を混合し、LTO及び炭素含有化合物を含む粒子を形成し、さらにこれを焼成することにより製造を行いうる。より具体的には、(a)リチウム塩、酸化チタン、及び炭素含有化合物を溶媒中で混合するステップと、(b)前記ステップ(a)で得られた混合物を乾燥するステップと、(c)乾燥した前記混合物を焼成するステップとを含む方法により、製造を行いうる。
【0022】
このような製造方法で得られる炭素材料被覆LTO粒子は、通常、炭素被覆一次粒子で形成された、球状の二次粒子となりうる。二次粒子の粒径は、1〜100μmとしうる。一次粒子の粒径は、通常1μm未満としうる。
【0023】
炭素材料被覆LTO粒子は、そのBET比表面積が通常1〜30m/gであり、好ましくは10m/g未満、更に好ましくは8m/g未満、特に好ましくは5m/g未満としうる。特に好適な実施形態において、BET表面積は通常3〜5m/gの範囲としうる。
【0024】
炭素材料被覆LTO粒子の炭素含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、一方好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。炭素材料被覆LTO粒子の炭素含有量は、炭素・硫黄測定装置(商品名「EMIA−520FA」、(株)堀場製作所製)を用いて測定しうる。炭素含有量を前記下限以上とすることにより、重合体Yによる炭素材料被覆LTO粒子の分散等の効果を良好に得ることができる。また、炭素含有量を前記上限以下とすることにより、LTOの、低膨張収縮、高電位等の効果を良好に得ることができる。
【0025】
ステップ(a)において用いる溶媒は好ましくは水である。ステップ(a)において、Tiに対するLiの原子比は、所望のLTOの組成が得られるよう適宜調整しうる。好ましくはTi:Liの原子比は4:5としうる。ステップ(a)において用いるリチウム塩は、LiOH、LiNO、LiCO、LiO、LiHCO、及び、酢酸リチウムからなる群から選ばれることが好ましい。これら以外の他の出発物質が添加可能な水溶液が特に容易に得られるからである。酸化チタンとしては、アナターゼ型又は非晶質型のTiOを使用することが好ましい。本発明の製造方法に与した際、ルチル型に変化しないため有利である。炭素含有化合物の例としては、多環式芳香族及びその化合物;ペリレン及びその化合物;ポリオレフィン、パウダー状ポリプロピレンコポリマー、スチレン−ポリブタジエンブロックコポリマー等のポリマー及びコポリマー;糖類及びその誘導体、等の炭化水素が挙げられる。特に好ましいポリマーは、ポリオレフィン;ポリブタジエン;ポリビニルアルコール;フェノールの縮合物;フルフリル、スチレン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ナフトールペリレン、アクリロニトリル、及び酢酸ビニル由来のポリマー;ゼラチン;セルロース;スターチ;それらのエステル及びエーテル;及びそれらの混合物である。糖類としては、ラクトース、スクロース、サッカロースが好ましく、ラクトースが特に好ましい。
【0026】
ステップ(b)は、通常、得られた混合物をノズルから微細に噴霧してプレ生成物として沈着させる、いわゆる噴霧乾燥にて行う。また、出発物質を均質に混合した後ガス気流中に導入して乾燥させる他の任意の方法を使用してもよい。噴霧乾燥の他に、例えば、流動床乾燥法(fluid−bed drying)、攪拌造粒法(rolling granulation)、及び乾燥又はフリーズドライ法を単独または組み合わせて行う。噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥は、90〜300℃の温度勾配で通常行う。
【0027】
ステップ(c)での焼成は、好ましくは700〜1000℃で行なう。かかる焼成は、炭素被膜の酸化等の好ましくない結果をもたらしうる焼成中の二次反応を抑制するために、好ましくは保護雰囲気下で行う。好適な保護ガスは、例えば、窒素ガス、アルゴンガス又はその混合ガスである。
【0028】
〔1.2.負極活物質:LTO以外〕
本発明のスラリー組成物は、LTOに加えて、LTO以外の負極活物質を含みうる。例えば、上で述べた通り、LTOの粒子が、LTOとそれ以外の物質とからなってもよい。また、本発明のスラリー組成物は、負極活物質として、LTOの粒子以外の粒子を含んでもよい。
【0029】
本発明のスラリー組成物が、LTOの粒子以外の粒子を含む場合、当該粒子の例としては、炭素活物質の粒子が挙げられる。
【0030】
本願において、炭素活物質は、炭素質材料、黒鉛質材料又はこれらの混合物である。炭素活物質は、通常、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質である。
【0031】
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。
そして、炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0032】
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
そして、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0033】
炭素活物質の粒子の体積平均粒子径は、二次電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。具体的な負極活物質の粒子の体積平均粒子径は、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。ここで、体積平均粒子径は、レーザー回折法で測定された粒度分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を採用する。
【0034】
炭素活物質の粒子等の、炭素材料被覆LTO粒子以外の負極活物質の粒子のBET比表面積は、出力密度向上の観点から、通常0.3m/g以上、好ましくは0.5m/g以上、より好ましくは0.8m/g以上であり、通常20m/g以下、好ましくは10m/g以下、より好ましくは5m/g以下である。
【0035】
本発明のスラリー組成物における、炭素活物質の割合は、任意に設定しうるが、負極活物質全量100質量部中の炭素活物質の割合として、好ましくは1質量%以上であり、一方好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。炭素活物質の割合を前記上限以下とすることにより、相対的にLTOの含有割合を高めることができ、LTOの効果(膨張収縮の抑制、リチウム析出の抑制、等)を良好に得ることができる。一方、炭素活物質の割合を前記下限以下とすると、炭素系活物質の良好な導電性等に基づく効果を得ることができる。
【0036】
〔1.3.結着剤〕
本発明のスラリー組成物は、結着剤として、特定の重合体X及び重合体Yを含む。
【0037】
〔1.3.1.重合体X〕
重合体Xは、フッ化ビニリデン単量体単位を含む重合体である。本願において、ある単量体の単位とは、当該単量体の重合により得られる構造を有する単位である。例えば、フッ化ビニリデン単量体単位とは、フッ化ビニリデンの重合により得られる構造を有する単位である。但し、ある単量体の単位は、当該単量体の重合により得られた単位のみに限られず、当該単位と同じ構造を有し、別の製造方法により得られた単位も含まれる。
重合体Xにおけるフッ化ビニリデン単量体単位の割合は、80質量%以上、好ましくは90質量%以上であり、一方好ましくは100質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0038】
重合体Xは、フッ化ビニリデン単量体単位以外に任意の単量体の単位を含みうる。具体的には、重合体Xは、フッ化ビニリデンと共重合しうる、1種以上の単量体の重合により得られる単位を含みうる。かかる単量体の例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの1−オレフィン;スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸などのカルボキシル基を含有するビニル化合物;アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有不飽和化合物;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノ基含有不飽和化合物;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸などのスルホン酸基含有不飽和化合物;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパン硫酸などの硫酸基含有不飽和化合物;(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸などのリン酸基含有不飽和化合物などが挙げられる。
【0039】
重合体Xの好ましい例としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレン及び/又はフッかビニルとの共重合体、並びにフッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレン及び/又はフッ化ビニルと、その他の任意の単量体との共重合体が挙げられる。重合体Xとしては、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0040】
重合体Xのゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによるポリスチレン換算値の質量平均分子量は、好ましくは100,000〜2,000,000、より好ましくは200,000〜1,500,000、特に好ましくは400,000〜1,000,000である。
重合の条件を適宜調整し、重合体Xの質量平均分子量を上記範囲とすることで、スラリー組成物の粘度調整が容易になる。
【0041】
重合体Xとしては、ポリフッ化ビニリデンとして市販されている各種の重合体を用いうる。または、重合体Xを既知の方法により調製し、これを用いてもよい。重合体Xの製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いうる。
また、重合の方式としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合等、任意の方式を採り得る。また、重合開始剤としては、既知の重合開始剤を用いうる。
【0042】
本発明のスラリー組成物の製造にあたり、重合体Xは、媒体に分散された分散液または媒体に溶解された溶液の状態で使用しうる。媒体としては、重合体Xを均一に分散または溶解し得るものを適宜選択し用いうる。好ましい媒体の具体例としては、スラリー組成物の有機溶媒の例として挙げられるものと同様のものが挙げられる。さらには、スラリー組成物の有機溶媒と同じ溶媒を好ましく用いうる。
【0043】
〔1.3.2.重合体Y〕
重合体Yは、共役ジエン水素化物単量体単位を含む重合体である。共役ジエン水素化物単量体単位は、共役ジエン単量体の重合により得られる単位をさらに水素化して得られる構造を有する単位である。但し、共役ジエン水素化物単量体単位は、共役ジエン単量体の重合により得られる単位をさらに水素化して得られた単位のみに限られず、当該単位と同じ構造を有し、別の製造方法により得られた単位も含まれる。ここで、共役ジエン単量体の「重合」には、いずれの重合形式によるものをも含む。例えば、1,3−ブタジエンの場合、かかる重合には、1,4−付加重合及び1,2−付加重合の両方を含む。
【0044】
共役ジエン単量体の例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの1分子当り炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。
共役ジエン単量体としては、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0045】
重合体Yにおける共役ジエン水素化物単量体単位の割合は、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、一方80質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。共役ジエン水素化物単量体単位の割合が前記下限以上であることにより、スラリー分散性を良好なものとすることができ、それにより、スラリー粘度安定性及び出力特性を向上させることができる。一方、共役ジエン水素化物単量体単位の割合が前記上限以下とすることにより、スラリー中の、溶媒に溶解しない重合体Y成分の割合を低減し、スラリー粘度安定性を向上させることができる。
【0046】
重合体Yは、共役ジエン水素化物単量体単位に加えて、共役ジエン単量体単位(水素化されていないもの)を含んでいてもよい。例えば、重合体Yの製造において、共役ジエン単量体の重合で得られた単位の一部が水素化されずに、重合体Y中に残存していてもよい。但し、本発明の効果を得る観点からは、重合体Yにおけるかかる水素化されていない単位の割合は、所定以下であることが好ましい。重合体Yにおける共役ジエン単量体単位の割合は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。また、重合体Yのヨウ素価を、水素化されていない単位の割合の指標としうる。重合体Yのヨウ素価は、好ましくは30mg/100mg以下、より好ましくは15mg/100mg以下である。
【0047】
重合体Yは、任意の単位として、ニトリル基含有単量体単位を含みうる。ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体の例としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物を用いうる。その例としては、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;並びにメタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリルが挙げられる。これらの中でも、重合体Yを含む結着剤の結着力を高める観点からは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、及びα−エチルアクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルがより好ましく、アクリロニトリルがさらにより好ましい。ニトリル基含有単量体としては、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0048】
重合体Y中のニトリル基含有単量体単位の割合は、好ましくは10質量%以上であり、一方好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。ニトリル基含有単量体単位の割合が前記下限以上であることにより、NMP等の溶媒との親和性を高めることができる。一方、ニトリル基含有単量体単位の割合が前記上限以下であることにより、共役ジエン水素化物単量体単位の寄与を高め、スラリー組成物の粘度安定性を十分に向上させることができる。
【0049】
重合体Yは、任意の単位として、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含みうる。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成しうる(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;並びに、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、重合体Yの、分散媒として用いられる有機溶媒への溶解性および柔軟性を向上させる観点からは、(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が4〜10のアクリル酸アルキルエステルが好ましく、その中でも、具体的には、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートおよびラウリルアクリレートが好ましく、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0050】
重合体Yは、任意の単位として、親水性基を有する単量体単位を含みうる。親水性基を有する単量体単位を形成しうる、親水性基を有する単量体の例としては、カルボン酸基を有する化合物、スルホン酸基を有する化合物、リン酸基を有する化合物、水酸基を有する化合物が挙げられる。重合体Yを含む結着剤の結着力を高める観点からは、親水性基は、カルボン酸基またはスルホン酸基であることが好ましく、カルボン酸基であることがより好ましい。
【0051】
カルボン酸基を有する化合物としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基を有する化合物としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
その他、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルなどのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステルおよびジエステルも挙げられる。
【0052】
スルホン酸基を有する化合物としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0053】
リン酸基を有する化合物としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
【0054】
水酸基を有する化合物としては、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH=CR−COO−(C2nO)−H(mは2〜9の整数、nは2〜4の整数、Rは水素またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
親水性基を有する単量体としては、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0055】
重合体Y中の、共役ジエン水素化物単量体単位及びニトリル基含有単量体単位以外の単位の割合は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。当該単位の割合が前記上限以下であることにより、共役ジエン水素化物単量体単位の効果を十分に得ることができ、スラリー組成物の分散性等の所望の効果を得ることができる。但し、重合体Yがフッ化ビニリデン単量体単位を含む場合は、その割合は多くても20質量%未満であり、より好ましくは5質量%未満であり、さらにより好ましくは、フッ化ビニリデン単量体単位を含まない。
【0056】
重合体Yのゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによるポリスチレン換算値の質量平均分子量は、好ましくは10,000〜700,000、より好ましくは50,000〜500,000、特に好ましくは100,000〜300,000である。
重合の条件を適宜調整し、重合体Yの質量平均分子量を上記範囲とすることで、負極に柔軟性を持たせることができ、更にスラリー組成物の粘度調整が容易になる。
【0057】
重合体Yの製造方法は、特に限定されないが、共役ジエン水素化物単量体単位を構成するための共役ジエン単量体、及び必要に応じてその他の任意の単量体を重合して未水素化重合体を製造し、その後、未水素化重合体を水素化することにより行いうる。未水素化重合体の製造は、上に述べた単量体を用いて、重合体Xの製造方法で説明した製造方法と同様の製造方法により製造することができる。
【0058】
未水素化重合体を水素化する方法としては、既知の任意の方法を適宜選択しうる。例えば、水素の存在下において適切な触媒を用いて未水素化重合体を処理し、水素化する方法が挙げられる。触媒としては、パラジウム等の白金族元素を含む触媒を用いうる。水素化反応の反応温度及び反応時間は、所望の重合体が得られる限り任意である。水素化反応の際の、反応温度は、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは150℃以下である。また、水素圧は、通常0.1MPa以上、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは1MPa以上であり、通常30MPa以下、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下である。さらに、反応時間は、反応温度、水素圧及び目標の水素化率を勘案して選定され、1時間〜10時間が好ましい。さらに、水素化を十分に行なうため、このような反応条件での水素化反応を2回以上行ってもよい。
【0059】
本発明のスラリー組成物の製造にあたり、重合体Yは、媒体に分散された分散液または媒体に溶解された溶液の状態で使用しうる。媒体としては、重合体Yを均一に分散または溶解し得るものを適宜選択し用いうる。好ましい媒体の具体例としては、スラリー組成物の有機溶媒の例として挙げられるものと同様のものが挙げられる。さらには、スラリー組成物の有機溶媒と同じ溶媒を好ましく用いうる。
【0060】
〔1.3.3.重合体X及び重合体Yの比率〕
本発明のスラリー組成物において、負極活物質100質量部に対する重合体Xの割合は、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、一方好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。また、重合体Xと重合体Yの合計に対する重合体Xの割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、一方好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。負極活物質100質量部に対する重合体Xの割合、及び重合体Xと重合体Yの合計に対する重合体Xの割合を、前記下限以上とすることにより、重合体Xの寄与を高め、出力特性を向上させることができる。一方、負極活物質100質量部に対する重合体Xの割合、及び重合体Xと重合体Yの合計に対する重合体Xの割合を、前記上限以下とすることにより、重合体Yの寄与を高め、スラリー組成物の分散性を向上させることができる。
【0061】
本発明のスラリー組成物において、負極活物質100質量部に対する重合体Yの割合は、好ましくは0.025質量部以上であり、一方好ましくは1.25質量部以下である。負極活物質100質量部に対する重合体Yの割合を前記下限以上とすることにより、重合体Yの寄与を高め、スラリー組成物の粘度安定性を向上させることができる。一方、負極活物質100質量部に対する重合体Yの割合を前記上限以下とすることにより、重合体Xの寄与を高め、出力特性を向上させることができる。
【0062】
〔1.4.導電材〕
本発明のスラリー組成物は、導電材を含みうる。一般的に、LTOは、充電及び放電においての膨張収縮が少なく且つ電位が高いという有利な特徴を有する一方、抵抗が高く、導電性が低いという不利な特徴をも有する。そこで、LTOと導電材を併用することにより、前記LTOの有利な特徴による効果を享受し、且つ、導電性を向上させることができる。
【0063】
導電材は、負極において、負極活物質の粒子間に位置し、負極活物質の粒子同士の電気的接触を向上させうる材料である。導電材としては、既知の導電材を用いうる。用いうる導電材の例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)等の導電性炭素材料;並びに各種金属のファイバー、箔などが挙げられる。これらの中でも、リチウムイオン二次電池の電池容量を維持しつつ出力特性を十分に向上させる観点からは、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、及びグラファイトが好ましく、アセチレンブラック及びケッチェンブラックがさらに好ましい。導電材としては、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0064】
導電材のBET比表面積は、好ましくは35m/g以上、より好ましくは400m/g以上であり、一方好ましくは3000m/g以下、より好ましくは2000m/g以下である。BET比表面積を前記下限以上とすることにより、導電材の寄与を高め、出力特性を向上させることができる。一方、BET比表面積を前記上限以下とすることにより、導電材に対する結着剤Yの影響を高め、スラリー組成物の分散性を向上させることができる。
【0065】
このような好ましいBET比表面積を有する導電材としては、BET比表面積既知の市販の製品の中から、所望のBET比表面積を有するものを単に選択しうる。また、複数種類の、異なるBET比表面積を有する製品を組み合わせて、加重平均としてのBET比表面積が所望の範囲となるよう調整してもよい。
【0066】
本発明のスラリー組成物において、負極活物質100質量部に対する導電材の割合は、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、一方好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。導電材の割合を前記下限以上とすることにより、導電材の寄与を高め、出力特性を向上させることができる。一方、導電材の割合を前記上限以下とすることにより、導電材に対する重合体Yの影響を高め、スラリー組成物の粘度安定性を向上させることができる。
【0067】
〔1.5.有機溶媒〕
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、有機溶媒を含む。有機溶媒としては、上に述べた、重合体X、重合体Yを溶解又は分散しうる有機溶媒を適宜選択しうる。
【0068】
有機溶媒の例としては、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルホルムアミド、メチルエチルケトン、フルフラール、及びエチレンジアミンが挙げられる。これらの中でも、取扱い易さ、安全性、合成の容易さなどの観点から、N−メチルピロリドンが最も好ましい。有機溶媒は、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0069】
〔1.6.その他の成分〕
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上に述べた成分の他に、例えば、粘度調整剤、補強材、酸化防止剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの成分を含有していてもよい。これらの他の成分は、公知のものを使用することができる。
【0070】
〔1.7.スラリー組成物の物性等〕
本発明のスラリー組成物の粘度は、負極の形成に適した粘度に適宜調整しうる。粘度の調整は、固形分割合の調整等により適宜行うことができる。本発明のスラリー組成物の粘度は、好ましくは3000mPa・s以上、より好ましくは4000mPa・s以上であり、一方好ましくは8000mPa・s以下、より好ましくは7000mPa・s以下である。
【0071】
本発明のスラリー組成物は、特定の結着剤を含むことにより、導電材及び負極活物質の分散性に優れ、その結果粘度安定性に優れる。本願において粘度安定性とは、本願実施例において示した条件で、3日間放置した前後の粘度の変化を測定した際の粘度の変化が少ない特性をいい、具体的には調製直後の粘度η0に対する3日後の粘度η1の変化の割合である粘度変化率Δη=((η1−η0)/η0)×100(%)の絶対値が、好ましくは25%未満、より好ましくは10%未満である。かかる優れた粘度安定性を有することにより、薄く均質な負極の製造を簡易に安定して行うことが可能となる。
【0072】
〔1.8.リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の製造方法〕
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上記各成分を溶媒又は分散媒としての有機溶媒に溶解または分散させることにより製造することができる。
上記各成分と有機溶媒との混合には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの既知の混合機を用いることができる。
【0073】
〔2.リチウムイオン二次電池用負極〕
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体、及び負極合材層を備える。本発明の負極における負極合材層は、集電体上に、前記本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を塗布し、スラリー組成物の層を形成し、これを乾燥してなる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、このように本発明のスラリー組成物より得られる負極合材層を備えることにより、容易に製造することが出来、且つ、電池において使用した場合、レート特性及び出力特性の向上等の効果を達成することができる。
【0074】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造は、具体的には、集電体上に、前記本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を乾燥して集電体上に負極合材層を形成する工程(乾燥工程)と、任意に、負極合材層を更に加熱する工程(加熱工程)とを含む方法により行いうる。
【0075】
〔2.1.塗布工程〕
スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる負極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0076】
集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料を適宜選択しうる。具体的には、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料からなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。前記の材料は、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0077】
〔2.2.乾燥工程〕
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に負極合材層を形成し、集電体と負極合材層とを備える二次電池用負極を得ることができる。
【0078】
〔2.3.その他の工程〕
乾燥工程の後、好ましい負極合材層の物性を得る、溶媒をさらに揮発させるなどの目的で、さらに加熱の工程を行うことができる。また、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、負極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、負極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
【0079】
〔3.二次電池〕
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記本発明のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液と、セパレーターとを備える。本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いているので、安定なスラリー組成物による製造の容易化により、その製造工程を容易なものとすることができ、且つレート特性及び出力特性が高いリチウムイオン二次電池としうる。本発明の二次電池は、例えば、スマートフォン等の携帯電話、タブレット、パソコン、電気自動車、定置型非常用蓄電池などに好適に用いることができる。
【0080】
〔3.1.正極〕
二次電池の正極としては、リチウムイオン二次電池用正極として用いられる既知の正極を用いうる。具体的には、正極としては、例えば、正極合材層を集電体上に形成してなる正極を用いることができる。
【0081】
集電体としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる集電体を用い得る。この際、アルミニウムとアルミニウム合金とを組み合わせて用いてもよく、種類が異なるアルミニウム合金を組み合わせて用いてもよい。アルミニウムおよびアルミニウム合金は耐熱性を有し、電気化学的に安定であるため、優れた集電体材料である。
【0082】
正極合材層としては、正極活物質と、導電材と、結着剤とを含む層を用いることができる。
【0083】
正極活物質としては、特に限定されることなく、既知の正極活物質を用いることができる。正極活物質の例としては、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、Li1+xMn2−x(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O、LiNi0.5Mn1.5等が挙げられる。中でも、電池容量の向上等の観点から、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O及びLiNi0.5Mn1.5が好ましい。
【0084】
導電材及び結着剤としては既知のものを適宜選択して用いうる。例えば、導電材の例としては負極用の導電材の例として示したものと同様のものを挙げうる。また、結着剤の例としては、重合体Xの例として示したものと同様のものを挙げうる。
【0085】
正極活物質、導電材、及び結着剤の配合量や、粒子状の形状である場合におけるその粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0086】
〔3.2.電解液〕
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましく、LiPFが特に好ましい。電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0087】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができ、例えば0.5〜15質量%することが好ましく、2〜13質量%とすることがより好ましく、5〜10質量%とすることが更に好ましい。また、電解液には、既知の添加剤、例えばフルオロエチレンカーボネートやエチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
【0088】
〔3.3.セパレーター〕
セパレーターとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。また、セパレーターとして、非導電性粒子を既知の粒子状重合体で結着してなる多孔膜を備えるセパレーターを使用してもよい。
【0089】
〔3.4.リチウムイオン二次電池の製造方法〕
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレーターを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0090】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
実施例および比較例において、諸物性の評価は、それぞれ以下の方法で行った。
【0091】
<ヨウ素価>
重合体YのNMP溶液100グラムをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥した。乾燥したポリマーのヨウ素価をJIS K6235;2006に従って測定した
【0092】
<スラリー粘度安定性>
実施例及び比較例において調製した直後のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物について、B型粘度計を用いて、温度25℃、回転速度60rpmでの粘度η0を測定した。粘度を測定したスラリーを、常温で3日間静置した。静置後のスラリー組成物について、B型粘度計を用いて、温度25℃、回転速度60rpmでの粘度η1を再び測定した。これらの値に基づき、粘度変化率Δη=((η1−η0)/η0)×100(%)を算出し、以下の基準に従いスラリー組成物の粘度安定性を評価した。粘度変化率の絶対値が小さいほど、スラリー組成物の粘度安定性が優れていることを示す。
A:粘度変化率の絶対値|Δη|が10%未満
B:粘度変化率の絶対値|Δη|が10%以上25%未満
C:粘度変化率の絶対値|Δη|が25%以上
D:初期粘度測定不可能
【0093】
<出力特性>
得られたリチウムイオン二次電池について、25℃環境下において、以下の手順で出力特性を評価した。
充電レート0.2Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート0.2Cにて、3.0Vまで放電することにより、0.2C放電時の電池容量を求めた。次いで、充電レート0.2Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート2Cにて、3.0Vまで放電することにより、2C放電時の電池容量を求めた。同様の測定を10個のリチウムイオン二次電池について行い、0.2C放電時の電池容量の平均値と、2C放電時の電池容量の平均値とを求め、0.2C放電時の平均電池容量Cap0.2Cと、2C放電時の平均電池容量Cap2Cとの比((Cap2C/Cap0.2C)×100%)である2C放電時容量維持率を求めた。得られた2C放電時容量維持率に基づき、以下の基準にて、出力特性を評価した。2C放電時容量維持率が高いほど、ハイレート(2C)放電時の放電容量が高く、出力特性に優れると判断できる。
A:2C放電時容量維持率85%以上
B:2C放電時容量維持率75%以上85%未満
C:2C放電時容量維持率70%以上75%未満
D:2C放電時容量維持率70%未満
【0094】
〔実施例1〕
(1−1.重合体X)
重合体Xとしては、ポリフッ化ビニリデン(#7208 (株)クレハ製、8%NMP溶液)を用いた。
【0095】
(1−2.重合体Yの製造)
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル20部、ブチルアクリレート35部をこの順で入れ、オートクレーブ内を窒素で置換した後、1,3−ブタジエン45部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、ニトリル基を有する重合単位、(メタ)アクリル酸エステル重合単位、共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280mg/100mgであった。
【0096】
前記重合体に水を加え、全固形分濃度12質量%の溶液とした。この溶液400ミリリットル(全固形分48グラム)を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して重合体中の溶存酸素を除去した。水素添加反応触媒の溶液(酢酸パラジウム75mgを、パラジウムに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mlに溶解したもの)を重合体の溶液に添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応させた(第一段階の水素添加反応)。第一段階の水素添加反応後の重合体のヨウ素価は35mg/100mgであった。
【0097】
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、追加の水素添加反応触媒の溶液(酢酸パラジウム25mgを、パラジウムに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mlに溶解したもの)を添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応させた(第二段階の水素添加反応)。
【0098】
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮して重合体Y水分散液を得た。また、重合体Y水分散液100部にNMP320部を加え、減圧下に水を蒸発させて、重合体YのNMP溶液を得た。該NMP溶液100グラムをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥し、乾燥体を得、NMRで分析したところ、重合体Yは、重合体全量に対して、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単量体単位)を20質量%、1,3−ブタジエン由来の単量体単位を45質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(ブチルアクリレート単量体単位)を35質量%含んでいた。ここで、前記1,3−ブタジエン由来の単量体単位は炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位38.8質量%と未水添ブタジエン重合単位2.1質量%と1,2−付加重合単位(1,3−ブタジエンの二重結合の一つが1,2−付加重合し、さらに水添又は架橋反応等の反応によりもう一つの二重結合が単結合に変化してなる単位)4.1質量%とから形成されていた。また重合体Yのヨウ素価は10mg/100mgであった。
【0099】
(1−3.炭素材料被覆LTO粒子の作製)
9.2kgのLiOH・HOを水45Lに溶解し、次いで20.8kgのTiOを添加した。さらに、ラクトースを、LiOH+TiOの合計1kgに対して150gの割合で添加し、混合液を調製した。この混合液を、開始温度約300℃、終了温度100℃の条件でスプレードライヤー(Nubilosa社製)を用いて噴霧乾燥したところ、初めに、数μmサイズの多孔性球状凝集体が形成した。
次いで、得られた多孔性球状凝集体を、窒素雰囲気下、800℃で1時間焼成することにより、炭素材料被覆LTO粒子が得られた(LTOの組成はLiTi12、全炭素量0.5質量%)。
【0100】
(1−4.リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製)
負極活物質として、工程(1−3)で得られた炭素材料被覆LTO粒子を100部、導電材としてケッチェンブラック(比表面積:800m/g)を2.0部、重合体Xを1.6部(固形分相当、8%NMP溶液20質量部)、工程(1−2)で得た重合体Yを0.4部(固形分相当、8%NMP溶液5質量部)、及び適量のNMPをプラネタリーミキサーに加え、撹拌することでスラリー(初期粘度値η0=6500mPa・s)を作製した。これを減圧下で脱泡処理して、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物とした。この負極用スラリー組成物について、スラリー粘度安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0101】
(1−5.リチウムイオン二次電池用負極の作製)
工程(1−4)で得られたリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を、調製後3日間静置してから、厚さ20μmのアルミニウム箔集電体上に、コンマコーターを用いて塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミニウム箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、電極原反(負極原反)を得た。得られた負極原反をロールプレスで圧延し、負極合材層の密度:2.0g/cm、厚み:50μmに制御されたリチウムイオン二次電池用負極を作製した。
【0102】
(1−6.リチウムイオン二次電池用正極の作製)
正極活物質として体積平均粒子径20μmで層状構造を有するLiCoOを100部と、正極活物質層用結着剤としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン、#7208 (株)クレハ製)を3部(固形分相当)加え、さらに、アセチレンブラック2部及び適量のN−メチルピロリドンを加えて、プラネタリーミキサーで混合し、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を得た。
上記で得たリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミニウム箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、正極活物質を有する正極を得た。得られた正極原反をロールプレスで圧延し、正極合材層の密度:3.5g/cm、厚み:28μmに制御されたリチウムイオン二次電池用正極を作製した。
【0103】
(1−7.リチウムイオン二次電池の作製)
単層のポリプロピレン製セパレーター(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm;乾式法により製造;気孔率55%)を用意し、5cm×5cmの矩形に切り出し、矩形のセパレーターを得た。
工程(1−5)で作製した負極を、4.0cm×3.0cmの矩形に切り出し、矩形の負極を得た。
工程(1−6)で作製した正極を、3.8cm×2.8cmの矩形に切り出し、矩形の正極を得た。
電解液として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)の混合溶媒(添加剤としてビニレンカーボネートを2体積%(溶媒比)、および1.0MのLiPFを含む)を用意した。
また、電池の外装として、アルミ包材外装を用意した。
矩形の正極を、その集電体側の表面がアルミ包材外装に接するように、アルミ包材外装内に配置した。次に、矩形の正極の正極合材層側の表面上に、矩形のセパレーターを配置した。さらに、矩形の負極を、セパレーター上に、負極合材層側の表面がセパレーターに接するよう配置した。その後、アルミ包材外装内に電解液を充填した。さらに、150℃のヒートシールをしてアルミ包材外装を閉口し、ラミネートセル型のリチウムイオン二次電池を製造した。
作製したリチウムイオン二次電池について、出力特性を評価した。結果を表1に示す。
【0104】
〔実施例2〕
工程(1−4)の負極用スラリー組成物の調製において、導電材としてケッチェンブラックに代えてアセチレンブラック(比表面積:40m/g)を用いた他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。
【0105】
〔実施例3〕
アセチレンブラックの使用量を5質量部に変更した他は、実施例2と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。
【0106】
〔実施例4〕
工程(1−3)のLTO粒子の作製において、ラクトースを添加しなかった他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。
【0107】
〔実施例5〕
工程(1−4)の負極用スラリー組成物の調製において、重合体Xの添加量(固形分相当)を1.8部に変更し、重合体Yの添加量(固形分相当)を0.2部に変更し、重合体X及びYの合計に対する重合体Xの量を90質量%とした他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。
【0108】
〔実施例6〕
工程(1−4)の負極用スラリー組成物の調製において、重合体Xの添加量(固形分相当)を1部に変更し、重合体Yの添加量(固形分相当)を1部に変更し、重合体X及びYの合計に対する重合体Xの量を50質量%とした他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。
【0109】
〔実施例7〕
工程(1−4)の負極用スラリー組成物の調製において、LTO粒子の添加量を95部に変更し、さらに、天然黒鉛(BET比表面積3.0m/g)5部を加えた他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。
【0110】
〔実施例8〕
工程(1−2)の重合体Yの製造において、1,3−ブタジエンの添加量を65部に変更し、アクリロニトリルの添加量を35部に変更し、ブチルアクリレートの添加量をゼロ部とした他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。
重合体Yの製造において、第一段階の水素添加反応後の重合体のヨウ素価は20mg/100mgであった。また重合体Yのヨウ素価は5mg/100mgであった。重合体Yは、重合体全量に対して、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単量体単位)を34.8質量%、1,3−ブタジエン由来の単量体単位を65.2質量%含んでいた。ここで、前記1,3−ブタジエン由来の単量体単位は炭素数4以上の直鎖アルキレン重合単位57.6質量%と未水添ブタジエン重合単位1.7質量%と1,2−付加重合単位5.9質量%とから形成されていた。
【0111】
〔比較例1〕
工程(1−4)の負極用スラリー組成物の調製において、重合体Xの添加量(固形分相当)を2部に変更し、重合体Yの添加量をゼロ部に変更し、重合体X及びYの合計に対する重合体Xの量を100質量%とした他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池を作製して評価した。結果を表1に示す。
【0112】
〔比較例2〕
工程(1−2)の重合体Yの製造において、アクリロにトリルの添加量を10部、1,3−ブタジエンの添加量を90部、ブチルアクリレートの添加量をゼロ部(添加せず)に変更した他は、実施例1と同様にして、負極用スラリー組成物の調製を試みたが、重合体が溶媒に溶解せず、スラリーを作製することができず、粘度を測定することができず、また電池を製造することも出来なかった。
【0113】
【表1】
【0114】
表1の結果から明らかな通り、本発明の要件を満たす結着剤を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物では、重合体Yを含まない比較例1に比べて、スラリーの粘度安定性及び出力特性のいずれにおいても良好な結果が得られた。