(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一枚の板状のガラス素材を、チャンバー内に設けた加熱、プレス及び冷却の各ステージへ順次搬送し、前記プレスステージにおいて、上型を複数個有する上型ユニット及び下型を複数個有する下型ユニットからなる成形型ユニットで前記ガラス素材をプレス成形してガラス筐体を得る成形装置において、
前記上型ユニット及び下型ユニットが、前記上型及び下型を各ユニット内で、それぞれ独立して水平移動可能に保持するとともに、プレス時に前記上型及び下型を水平移動させて対応する前記上型及び下型の成形面を所定の位置関係に合わせる位置合わせ手段を有し、
前記一枚の板状のガラス素材に前記上型及び下型の各ユニットにより複数のガラス筐体形状を一度に付与できる、
ことを特徴とするガラス筐体の成形装置。
前記成形装置は、前記加熱、プレス及び冷却の各ステージにおいて前記ガラス素材を載置した下型ユニットを搭載し、搭載された前記ガラス素材に対して、それぞれ加熱、プレス及び冷却の各プロセスを行う加熱手段、プレス手段及び冷却手段と、前記加熱、プレス及び冷却の各プロセスを制御する制御手段と、を備えるとともに、
前記プレス手段は、前記加熱手段から移送される前記下型ユニットをその上面に搭載する下プレスプレートと、その下面に前記上型ユニットが固定された上プレスプレートと、で構成される一対のプレスプレートである請求項1記載のガラス筐体の成形装置。
前記下型ユニットが、複数個の下型と、前記複数個の下型の成形面を上方に向け、前記下型の底面を下方から転動部材により支持する下型支持部材と、を有する請求項1又は2記載のガラス筐体の成形装置。
前記上型ユニットが、複数個の上型と、前記複数個の上型の成形面を下方に向け、前記上型の外周を下方から転動部材により支持する上型支持部材と、を有する請求項3記載のガラス筐体の成形装置。
前記加熱手段は、前記下型を伝熱により加熱する加熱プレートと前記ガラス素材を輻射により加熱するヒータとから構成される請求項2乃至9のいずれか1項記載のガラス筐体の成形装置。
請求項1乃至11のいずれか1項記載のガラス筐体の成形装置を用い、前記下型ユニット上に前記板状のガラス素材を載置し、前記下型ユニット及びガラス素材を加熱ステージにおいて加熱する加熱工程と、
前記加熱され軟化したガラス素材を、前記プレスステージにおいて、一対のプレスプレートからなるプレス手段の少なくとも一方を上下動させて、上型ユニット及び下型ユニットに設けられた上型及び下型の成形面の位置合わせをした後、前記上型及び下型で加圧して成形面形状を転写するプレス工程と、
プレス工程後、前記下型ユニット及び成形面形状が転写されたガラス素材を、前記冷却ステージにおいて冷却し、前記ガラス素材の収縮に合わせて前記下型を水平移動させる冷却工程と、
を有することを特徴とするガラス筐体の成形方法。
前記加熱工程において、前記下型を前記ガラス素材のガラス転移点から軟化点までの温度範囲に、前記ガラス素材を屈伏点から融点の温度範囲に個別に加熱制御する請求項12記載のガラス筐体の成形方法。
請求項1乃至11のいずれか1項記載のガラス筐体の成形装置を用い、前記下型ユニット上に一枚の板状のガラス素材を載置し、前記下型ユニット及びガラス素材を加熱ステージにおいて加熱し、
前記加熱され軟化したガラス素材を、前記プレスステージにおいて、一対のプレスプレートからなるプレス手段の少なくとも一方を上下動させて、上型ユニット及び下型ユニットに設けられた上型及び下型の成形面の位置合わせをした後、前記上型及び下型で加圧して成形面形状を転写し、
前記下型ユニット及び成形面形状が転写されたガラス素材を、前記冷却ステージにおいて冷却し、前記ガラス素材の収縮に合わせて前記下型を水平移動させ、前記一枚の板状のガラス素材に対して複数のガラス筐体形状を付与したガラス素材を得る、ガラス筐体形状を付与したガラス素材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるガラス筐体の成形装置の概略構成図であり、
図2は、
図1の成形装置を平面的に見た概略構成図である(共に、チャンバー2のみ断面で示している。また、
図2は各ステージの下側のプレートのみを表わし、各ステージにおけるプレートの位置関係を示している。)。
【0015】
本発明のガラス筐体の成形装置1は、ガラス筐体を成形するための成形室となるチャンバー2と、該チャンバー2の内部に設けた、板状のガラス素材50及び該ガラス素材を載置した下型ユニット12を加熱してガラス素材50を軟化させる加熱ステージ3と、加熱軟化した板状のガラス素材50をプレスするプレスステージ4と、プレスによりガラス筐体形状を付与されたガラス素材を冷却する冷却ステージ5と、を有する。
【0016】
ここで、成形室であるチャンバー2は、その内部において、ガラス筐体を成形操作する場を提供する。このチャンバー2には、ガラス素材50及び下型ユニット12を内部に取り入れる取入れ口6と、プレス成形が終了した後、成形されたガラス素材50及び下型ユニット12を取り出す取出し口7が設けられ、この取入れ口6及び取出し口7には、それぞれ取入れシャッター6a及び取出しシャッター7aが設けられている。必要に応じて、これらシャッターを開閉し、下型ユニット12をチャンバー2から出し入れでき、チャンバー2内の雰囲気が維持される。また、この取入れ口6及び取出し口7には、そのチャンバー2外部にそれぞれ下型ユニット12を載置できる成形型載置台8及び9が設けられている。
【0017】
このチャンバー2の内部には、ガラス筐体をプレス成形するために加熱ステージ3、プレスステージ4及び冷却ステージ5が設けられており、これらの各ステージにより順次処理してガラス素材を所望の形状とする。実際には、板状のガラス素材50を載置した下型ユニット12が、取入れ口6からチャンバー2内に取り入れられ、上記の各ステージにおいて所定の処理を施されながら順番に移動し、所定の処理が終了したら下型ユニット12は、取出し口7からチャンバー2の外部に取出される。
【0018】
このチャンバー2の内部は、板状のガラス素材50を軟化して変形を容易にするため、高温に加熱されるので、下型ユニット12及び上型ユニット11が酸化されないように、窒素等の不活性ガス雰囲気に維持されている。不活性ガス雰囲気とするには、チャンバー2を密閉構造として内部雰囲気を置換して達成できるが、チャンバー2を半密閉構造として、不活性ガスを常時チャンバー2内に供給して、チャンバー内を陽圧にしながら外部の空気が流入しないように不活性ガス雰囲気を維持するようにしてもよい。上記した取入れシャッター6a及び取出しシャッター7aは、チャンバー2内部を簡便な構成で半密閉状態とするのに効果的である。なお、これらチャンバー2及びシャッター6a,7aは、ステンレス、合金鋼等の素材で形成し高温下におけるガス、不純物が析出しない素材が好ましい。また、シャッター6a、7aの外周(成形型載置台8、9を含む)を密閉構造にして、チャンバー2への外部からの空気流入をさらに抑えることも可能である。
【0019】
次に、本発明の成形操作を行う各ステージについて説明する。なお、本発明においてガラス素材50のプレス成形に用いる成形型は、上面の筐体形状を形成する上型を複数個有する上型ユニット11と、下面の筐体形状を形成する下型を複数個有する下型ユニット12とで構成される一組の成形型ユニットである。本発明においては、上型ユニット11はプレスステージ4において固定されており、下型ユニット12はガラス素材50を載置したまま各ステージ上を移動するようになっている。ここで、本発明に用いる成形型ユニットは、それぞれ対応する一対の上型及び下型を複数組有し、一度のプレス操作により複数個のガラス筐体を成形可能となっている。さらに、上型及び下型はそれぞれが、水平方向への微小移動が可能なように配置されている。
【0020】
本発明の加熱ステージ3は、下型ユニット12に載置されたガラス素材50を軟化させるため、その内部にヒータ3aが埋め込まれた加熱プレート3bを有する。この加熱プレート3bは、下型ユニット12に接触することで下型ユニット12を加熱し、さらに下型ユニット12上に載置されているガラス素材50も間接的に加熱できる。
【0021】
また、この加熱ステージ3は、ガラス素材50を直接加熱して軟化させるためのヒータ3dを有する。このヒータとしてはカートリッジヒータ、セラミックスヒータ、SiCヒータ、カーボンヒーター等の輻射加熱可能な発熱体が挙げられる。これらヒータを、例えば、ステンレス、アンビロイ等の金属板や石英などのガラス管の内部に埋め込んで構成してもよい。
【0022】
なお、加熱ステージ3において、加熱プレート3bは、プレート自体の熱をそのままチャンバー2に伝えないように断熱板3cを介してチャンバー2の底板に固定されている。
【0023】
本発明のプレスステージ4は、上下一対のプレスプレート4bを有する。これら上下一対のプレスプレート4b間の距離を狭めることにより上型ユニット11と下型ユニット12とを接近させて、下型ユニット12上に載置された板状のガラス素材50を軟化状態のまま押圧して変形させ、上型ユニット11及び下型ユニット12の有する上型及び下型の成形面形状をガラス素材50に転写しガラス筐体を成形する。このプレスステージ4は、具体的構成としては、その内部にヒータ4aが埋め込まれた上下一対のプレスプレート4bから構成される。このプレスプレート4bを用いたプレスは前段階の加熱温度を維持しながら行われる。この上下一対のプレスプレートと断熱板との間には、プレートと成形型の冷却速度を制御できるように(冷却を速くすることができるように)冷却機構を設けてもよい。冷却手段としては、空冷方式または水冷方式等を用いることができる。
【0024】
より具体的には、このプレスステージ4において、上下のプレスプレート4bがシャフト4dと接続され、このシャフト4dは図示しないシリンダーによってプレスプレート4bの上下動を可能とする。このようにプレスプレート4bの上下プレート両方(又は上側及び下側のいずれか一方のプレート)を上下動させることにより、上型ユニット11及び下型ユニット12間の距離を狭めることで成形型によってガラス素材50をプレスできる。このときプレスは所定の圧力で行われ、板状のガラス素材に高精度にガラス筐体形状を付与できる。
【0025】
なお、これら上下のプレスプレート4bは、それ自体の熱をそのままチャンバー2に伝えないように断熱板4cを介して、シャフト4dと接続される。なお、上側又は下側の一方のプレスプレートのみを可動とし、他方をチャンバー2に固定することもでき、その際には、固定するプレスプレート4bは、加熱プレート3bと同様に、プレスプレート4bの熱をチャンバー2にそのまま伝達しないように断熱板4cを介してチャンバー2上に固定すればよい。
【0026】
本発明の冷却ステージ5は、ガラス筐体形状が付与されたガラス素材50を冷却、固化するため、その内部にヒータ5aが埋め込まれた冷却プレート5bを有する。この冷却プレート5bは、プレス処理を経た下型ユニット12に接触させることで下型ユニット12を冷却でき、さらに下型ユニット12上に載置されているガラス素材50も間接的に冷却できる。冷却プレート5b上の下型ユニット12に載置されたガラス筐体の上部は開放状態となり冷却速度が速くなりすぎるケースがあるため、ガラス素材50の上部に加熱ステージで説明したヒータ3dのような加熱源を設けてガラス単体の冷却速度をコントロールすることもできる。
【0027】
なお、冷却ステージ5において、冷却プレート5bは、それ自体の熱をそのままチャンバーに伝えないように断熱板5cを介してチャンバー2の底板に固定されている。
【0028】
この板状のガラス素材50の固化は、その素材のガラス転移点以下、より好ましくは歪点以下に冷却して達成できる。十分に冷却されると、板状のガラス素材のガラス筐体形状は安定し、変形が抑制される。ここで冷却とは、ガラス筐体形状を安定して付与できるように板状のガラス素材50が固化するまで温度を下げることをいう。その温度は、プレスプレートよりも50〜150℃程度低いだけで、依然として高温であるため、この冷却プレート5bにもその内部にヒータ5aが埋め込まれている。
【0029】
また、プレスプレート4bは、上記したように断熱板を介してシャフト4dに固定されており、このシャフト4dがシリンダーに接続されている。ここでシリンダーは、各プレートを上下動できればよく、例えば、電動サーボシリンダー、油圧シリンダー、電動油圧シリンダー等のシリンダーを使用できる。
【0030】
上記した、加熱プレート3b、プレスプレート4b、冷却プレート5bは、基本的にその成形型との接触面が水平面と平行となっている。特に、プレスプレート4bにおいては、プレスプレート4bの成形型ユニットとの接触面が傾いていた場合、上型及び下型の成形面位置が一致しなくなり、このとき製造されるガラス筐体は形状不良となってしまうことがある。したがって、これら各ステージにおけるプレートの管理、下型ユニット12の位置合わせは厳格に行われる。
【0031】
これらの各ステージにおいて、プレートはステンレス鋼、超硬合金、合金鋼等の素材の内部にカートリッジヒータを挿入し、固定したものである。このカートリッジヒータを加熱してプレートの温度を上昇させ、所望の温度に維持できる。
【0032】
また、各ステージの断熱板3c,4c,5cは、セラミックス、ステンレス鋼、ダイス鋼、高速度鋼(ハイス鋼)等の公知の断熱板を用いればよく、硬度が高くプレス時の圧力等によっても変形しにくく、ズレを生じることが少ないセラミックス製が好ましい。金属系の材料を用いる場合は、表面にCrN、TiN、TiAlNのコーティング処理を施すことが好ましい。
【0033】
以上、説明した加熱ステージ3、プレスステージ4、冷却ステージ5は、それぞれ所定の処理が行われる場(ステージ)を形成する。各ステージによる処理が順次円滑になされるように、下型ユニット12は、搬送手段(図示せず)により所定のタイミングで各ステージに移動、搭載される。この移動のタイミングは制御手段によって制御されている。
【0034】
より具体的には、下型ユニット12を、加熱プレート3b、プレスプレート4b、冷却プレート5bの順序で、各プレート上へと搬送移動させながら順次所定の処理を行う。ここで、下型ユニット12が次のステージに移動すると、処理の終わったステージは空くため、さらに、そこに別の板状のガラス素材を載置した下型ユニット12を搬送すれば、連続的に複数個のガラス筐体の成形操作を同時に進行できる。
【0035】
この処理を行うための上記搬送手段は、図示していないが、例えば、ロボットアーム等が挙げられる。このような搬送手段により、成形型載置台8から加熱ステージ3へ、加熱ステージ3からプレスステージ4へ、プレスステージ4から冷却ステージ5へ、冷却ステージ5から成形型載置台9へ、とそれぞれ移動できるものであればよい。
【0036】
なお、この制御手段は、成形型の移動、加熱・プレス・冷却の各ステージにおけるプレートの温度や、上下移動のタイミング等をも制御し、一連の成形操作を円滑に、かつ、連続的に行えるように制御している。このとき、取入れシャッター6a及び取出しシャッター7aの開閉も制御する。また、チャンバー2内の雰囲気が不活性ガスで満たされるように窒素の供給量やタイミング等を制御することが好ましい。
【0037】
すなわち、このガラス筐体の成形装置1は、1以上のポジションで温度の上げ下げを行いながら所定の処理を行う、成形型の搬送によるガラス筐体の成形装置である。
【0038】
そして、本発明のガラス筐体の成形装置1の特徴部分は、上記の通り、成形型を複数組有する成形型ユニットを用い、成形型についてそれぞれ水平移動可能とし、対応する成形面の位置合わせを可能としたものである。
【0039】
この成形型ユニットの構成について、
図3及び4を参照しながら説明する。
図3は、
図1で用いた下型ユニット12がプレスプレート4b上に載置されているときの平面図であり、
図4は、
図3のA−A断面で見たときの成形型ユニットの断面図を示したものである。
【0040】
まず、下型ユニット12の構成について説明する。下型ユニット12は、複数個の下型12aと、該下型12aをそれぞれ独立して水平移動可能に保持する下型支持部材12bと、で構成されている。
【0041】
下型支持部材12bは、その内部に複数個の下型12aを、それぞれ所定の位置に整列して収容する小室が設けられた構成となっている。この小室は、その小室を仕切る壁が下型12aの水平方向への移動を規制する働きも有し、それぞれの下型12aがある範囲での移動しかできないようにして、上型との位置関係が所定の範囲に収まるようになっている。また、このとき、下型ユニット12は、プレス動作を妨げないように、上方に向いている下型12aの成形面を開放するように開口部を有している。なお、この開口部は、
図4に示したように、下型12aを区画する壁12eにより形成され、その壁12eの上部を断面T字形として、下型12aを小室内に保持できるようにしている。この形状とすることで、プレス後、下型12aとガラス素材50とが密着したままの状態となるのを防ぎ、確実に離型できる。
【0042】
そして、下型支持部材12bは、転動部材12cを介して下型12aを下方から支持する。この転動部材12cは、直径が均一な球状部材とすることが好ましい。転動部材12cとしては、ベアリング鋼と呼ばれる高炭素高クロム鋼材や、窒化ケイ素(SiN)、炭化ケイ素(SiC)、ジルコニア(ZrO)、アルミナ(Al
2O
3)等のセラミックス、又は炭化タングステン(WC)等を含むサーメット、その他の金属などの高硬度の素材によって形成された、直径0.1mm〜5mmの真球状の部材が用いられる。
【0043】
これらの素材からなる転動部材12cは、上記したもののうち1種を用いて構成することが好ましいが、下型12aを水平に固定された状態を維持できるものであれば異なる種類の素材からなる複数種を混合して構成してもよい。
【0044】
なお、転動部材12cの形状は、真球状のほかに、円柱状、扁平球状などとしてもよいが、転動部材12cの加工の容易性、高さ(直径)精度の出し易さ、転がり易さの点から、真球状のものが最も好ましい。
【0045】
なお、本実施形態では、水平移動を可能とするために、転動部材12cによる構成を説明したが、下型12aをそれぞれ独立して水平移動可能とする構成であればよい。水平移動を可能とするには、例えば、下型12aと下型支持部材12bとの接触面に、摩擦係数を小さくして互いの滑りを良好にする素材で薄膜を形成してもよい。このとき、薄膜の素材としては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アモルファスSiC、SiC、窒化炭素等が挙げられる。
【0046】
この水平移動は、360度いずれの方向にも移動可能なようにしておくと、ガラスの収縮方向に合わせて移動が可能となり好ましい。すなわち、ガラスの収縮は、ガラス素材50の中心(成形型ユニットの中心部分でもある)付近が一番少なく、ガラス素材50の外周へ行くほど収縮量が長くなり、また、成形型ユニットの中心部へ向かって収縮する傾向が大きくなるというように、成形面の位置によって収縮方向が異なるためである。
【0047】
下型12aの移動は、下型12aとこれを収容する下型ユニット12の小室の壁12eとの間に設けた隙間の分だけ可能となる。ここで、隙間の大きさは、ガラス素材50の収縮量よりも大きくして下型12aがガラスの収縮に十分に追従可能とするものである。追従が不十分となると、ガラスに不要の応力がかかってしまい形状不良の原因となる恐れがある。
【0048】
また、上型ユニット11は、上記した下型ユニット12と類似の構造を有し、複数個の上型11aと、該上型11aを水平移動可能に保持する上型支持部材11bと、で構成されている。なお、上型ユニット11は、上型11aと下型12aの成形面が互いに対向するように配置されるため、下型ユニット12とは逆に、開口部を下方に向け、その内部に収容される上型11aの成形面も下方を向くよう支持する。すなわち、上型ユニット11は、丁度、下型ユニット12を表裏逆にしたようにして使用される。
【0049】
上型支持部材11bは、その内部に複数個の上型11aを、それぞれ所定の位置に整列して収容する小室が設けられた構成となっている。この小室は、その小室を仕切る壁が上型11aの水平方向への移動を規制する働きも有し、それぞれの上型11aがある範囲での移動しかできないようにして、下型12aとの位置関係が所定の範囲に収まるようになっている。また、このとき、上型ユニット11は、プレス動作を妨げないように、上型11aの成形面を開放するように開口部を有している。なお、この開口部は、
図4に示したように、上型11aを区画する壁11eにより形成され、その壁11eの下部を断面T字形として、上型11aを小室内に保持できるようにしている。この形状とすることで、上型11aが落下しないように小室内に保持できる。
【0050】
そして、上型支持部材11bは、転動部材11cを介して上型11aの外周を下方から支持する。転動部材11cは、下型ユニット12で使用する転動部材と同様である。なお、上型11aは、その成形面を下方に向けるため、支持位置は、成形を妨げないように成形面と重ならない外周部分とする。
【0051】
そして、上記した上型ユニット11及び下型ユニット12に収容されている上型11a及び下型12aには、それぞれ対応する成形面の位置が合うように、一方に位置合わせ用の凹部が、他方に位置合わせ用の凸部が設けられている。
図3及び4では、上型11aに位置合わせ用の凸部11dが、下型12aに位置合わせ用の凹部12dが設けられた図を示しているが、この凹凸は逆に設けてもよい。
【0052】
この位置合わせ用の凹部12dと凸部11dは、互いの成形面を合わせるためのもので、それぞれ対応した位置に設けられる。例えば、
図3に示したように、矩形状の成形面に対して対向する両辺の外側にそれぞれ2箇所ずつ設けられる。なお、凹部及び凸部を設ける位置はこれに限られず、隣接する辺に2箇所ずつ設ける場合や、それ以外でも成形面の位置を合わせられる配置であれば、どのような配置でもよい。
【0053】
この凹部12dと凸部11dは、プレスの際に、上型ユニット11と下型ユニット12を接近させたときに、ガラス素材50のプレス前に嵌合して、上型11a及び下型12aの成形面の位置を所定の配置とする。なお、凹部12dと凸部11dとの嵌合を容易に、かつ、確実にするために、凹部12dの凸部11d挿入側の開口部に傾斜を設けて広げ、挿入していくほど狭まるようにした傾斜を設けるのが好ましい。
【0054】
凹部12dは、上型11aと下型12aの成形面について、十分に位置合わせができればよく、下型12aに貫通孔として設けた例を
図4に示しているが、これに限られるものではない。例えば、下型12aに貫通してない孔として形成してもよいし、さらに十分に位置合わせをするために、下型支持部材12bにまで凹部を設け、上型11aの位置合わせ用の凸部11dを、十分に長く設けてもよい。なお、下型保持部材12bにまで凹部を設け、凸部をそこまで挿入させて位置合わせを行う場合、転動部材12cは、その凸部11dの挿入を妨げないよう、その通過部分を除いて敷き詰めるようにするのが好ましい。
【0055】
なお、上型11a及び下型12aからなる成形型は、超硬合金、セラミックス、ステンレス鋼、カーボン等の素材で構成される。また、上型11a及び下型12aは、成形するガラス筐体の面形状を転写するための成形面をそれぞれ有しており、この成形面の形状は製品の筺体とできる形状であれば特に限定されない。この筐体の形状としては、特に、自由曲面を有する形状が好ましく、さらに、得られる筐体が軸非対称の形状が好ましい。従来の研磨等による製造によっては、このような複雑な形状の筐体の製造は困難であったり、高コストになったりしていたが、本発明においては、プレス成形により容易に、低コストで製造できる。
【0056】
また、上型支持部材11b及び下型支持部材12bも、超硬合金、セラミックス、ステンレス鋼、カーボン等の素材で構成される。
【0057】
次に、このガラス筐体の成形装置1を用いたガラス筐体の成形方法について説明する。
【0058】
まず、取入れ口6側の成形型載置台8に下型ユニット12を載置し、この下型ユニット12の上部に板状のガラス素材50を載置する。取入れシャッター6aを開けて取入れ口を開口させ、この下型ユニット12を搬送手段により加熱プレート3b上に搬送する。搬送されると、下型ユニット12は下側の加熱プレート3bに接触するため加熱プレート3bと同じ温度まで昇温される。これと同時に、加熱ステージにおいて搬送された下型ユニット12の上方にはヒータ3dが配置されており、下型ユニット12に載置されたガラス素材50を、このヒータ3dで輻射加熱により加熱する。
【0059】
このとき加熱プレート3bの温度は、下型ユニット12をガラス素材50のガラス転移点から軟化点の温度範囲、及びヒータ3dの温度は、ガラス素材50を屈伏点から融点の温度範囲に加熱できる温度に設定する。このように加熱する温度範囲を、それぞれ異なる範囲に個別に制御することで、ガラス素材50は、加熱工程からプレス工程において、プレスするのに十分な軟化状態でありながら、だれることなく搬送可能となる。そして、下型ユニット12は次のプレス工程で、安定してプレス動作を行うことができるため、所望の形状のガラス筐体が得られる。このとき、昇温速度は5〜200℃/分程度が好ましい。
【0060】
このようにして加熱ステージ3で十分に加熱された下型ユニット12及び板状のガラス素材50は、搬送手段により、下側のプレスプレート4b上に搬送され載置される。このとき、プレスプレート4bも加熱プレート3bと同程度の温度に加熱されており、すぐにプレスできるようになっている。
【0061】
上側のプレスプレート4bを下降させてプレスプレート4b間の距離を狭めると、まず、上型11aの位置合わせ用の凸部11dが、下型12aの凹部12dに挿入される。このとき、凸部11dと凹部12dとは、プレスプレートに載置された時点で大体の位置は合っているが、少なからずずれている場合が少なくない。しかしながら、凹部12dの開口部はテーパ状の開口となっているため、多少のずれがあっても位置を合わせられる。そして、さらに凸部11dを挿入していくと、凸部11dと凹部12dが嵌合するようになっており、互いの成形面の位置が正確に合うようにでき、個々の成形型における形状精度が高められる。
【0062】
さらに、上型ユニット11と下型ユニット12との距離を狭め、下型ユニット12の上部に載置された板状のガラス素材50に、上型11a及び下型12aで圧力をかけて変形させる。このプレス工程では、上記したように上型ユニット11及び下型ユニット12を接近させ、ガラス素材50の上下から圧力をかけることでプレスを行う。このプレスにより板状のガラス素材50には上型11a及び下型12aの成形面形状が転写され、複数のガラス筐体形状が一度に付与される。なお、ガラス素材50が、凸部11d及び凹部12dに対応した位置に被っている場合には、ガラス素材50には貫通孔を形成し、成形面の位置合わせを妨げないようにする。ガラス素材50に貫通孔を設ける場合、位置合わせ用の凸部11dが水平移動しても触れないように、大きさに余裕をもたせて形成する必要がある。
【0063】
また、このプレス工程におけるプレスは、上型11a及び下型12aの温度をガラス転移点から屈伏点の間、輻射加熱により軟化したガラス素材50の温度を軟化点程度の温度にすることが望ましい。また、プレス時の板状のガラス素材にかかる圧力は0.01kN/mm
2〜2kN/mm
2が好ましく、ガラス素材の厚さ、成形形状、変形量などを考慮して適宜決定する。
【0064】
そして、このようなプレス工程で、上型ユニット11と下型ユニット12を所定の位置まで接近させたら、成形したガラス素材50が上型ユニット11から離型するように、上下のプレスプレート4bの温度を下げて伝熱により上型ユニット11及び下型ユニット12の温度を低下させる。プレスプレート4bの温度はヒータ4aにより変動でき、プレスした後、ガラス素材50を上型ユニット11から離型させるには、プレスプレート4bの温度を、使用したガラス素材50の屈伏点未満に下げて上型11aの温度も同程度に低下させる。この温度の低下により、主に、上型11aとガラス素材50の収縮率の差を利用して離型させる。また、強制的に離型させる機構を上型ユニット11側に設け、離型させてもよい。
【0065】
離型したガラス素材50は、下型ユニット12上に再び載置され、下型ユニット12と共に搬送手段によりプレスプレート4bから冷却プレート5bへと搬送される。この搬送手段は、上記した搬送手段と同様のものである。
【0066】
次に、冷却プレート5bにより下型ユニット12を冷却するが、これは、上記加熱工程と同様に、下型ユニット12を下側の冷却プレート5bと接触させることで冷却する。この下型ユニット12の冷却により、プレスされて下型ユニット12の成形面との接触面積が増大したガラス素材50は、下型ユニット12と共に冷却される。
【0067】
この冷却のときに、ガラス素材50の収縮量が一番大きいが、本発明で用いる下型ユニット12の有する複数の下型12aは、それぞれが独立して水平移動を可能としているため、ガラスの収縮に追従して下型12aが移動しながら冷却される。
【0068】
ガラス素材50が充分に冷却されたところで、チャンバー2から取出しシャッター7aを開けて取出し口7を開口させ、この下型ユニット12を搬送手段により装置外部へ取出し、取出し口7側の成形型載置台9に載置する。
【0069】
このとき、冷却は、板状のガラス素材のガラス転移点(Tg)以下に冷却させることが好ましく、板状のガラス素材の歪点以下の温度にまで冷却させることがより好ましい。このとき、降温速度は5〜150℃/分程度が好ましい。
【0070】
以上説明したように、ガラス素材50は、加熱、プレス、冷却の各プロセスからなる一連の動作を経て、ガラス筐体形状に成形されるものであり、特に、本発明は複数個の成形型をそれぞれ独立して水平移動可能とした点に特徴を有する。これによりプレスの際には位置合わせが容易で、冷却時には、ガラス素材の収縮に追従してガラス素材にかかる応力を減じて、ガラス筐体のワレ等の形状不良の発生を抑制できる。
【0071】
なお、上記した加熱工程及び冷却工程は、それぞれ段階的に温度を変化させることが好ましく、加熱工程において1以上の加熱ステージを設けることにより、段階的に板状のガラス素材の温度を上昇させて、プレスステージの直前の加熱ステージで、成形温度にまで加熱する。また、冷却工程においても1以上の冷却ステージを設けることにより、段階的に板状のガラス素材の温度を下降させて、200℃以下の温度とする。このように、加熱及び冷却を段階的に行うことで、板状のガラス素材の急激な温度変化を抑制できる。この温度変化の抑制により、ワレや歪の発生を抑制する等のガラス筐体の特性を悪化させないようにできる。
【0072】
このような、加熱工程及び冷却工程を実施するために、それぞれ複数の加熱ステージ及び冷却ステージを有するガラス筐体の成形装置の一例を
図5に示した。この
図5に示したガラス筐体の成形装置21は、チャンバー22、第1の加熱ステージ23、第2の加熱ステージ24、第3の加熱ステージ25、プレスステージ26、第1の冷却ステージ27、第2の冷却ステージ28、第3の冷却ステージ29を有する装置構成となっている。さらに、チャンバー22にはガラス筐体の成形装置1と同様に、下型ユニット12の取入れ口30とそれを開閉可能とする取入れシャッター30a、取出し口31とそれを開閉可能とする取出しシャッター31a、それら取入れ口30及び取出し口31の外側には成形型載置台32及び33が設けられている。
【0073】
このガラス筐体の成形装置21は、加熱ステージを3つ、冷却ステージを3つ設けて、段階的に加熱及び冷却する以外は、
図1のガラス筐体の成形装置1の構成と同様である。
【0074】
第1の加熱ステージ23では、板状のガラス素材をガラス転移点以下、好ましくはガラス転移点よりも50〜200℃程度低い温度に一旦加熱する予備加熱を行い、第2の加熱ステージ24ではガラス転移点と屈伏点の間の温度にまで、第3の加熱ステージ25ではガラスの屈伏点以上、好ましくは軟化点または軟化点よりも5〜150℃程度高い温度にまで加熱する。また、プレスステージ26では成形温度を維持しながら、成形型による成形操作を行ってガラス筐体形状を付与する。そして、第1の冷却ステージ27では成形素材のガラス転移点以下、好ましくは歪点以下まで冷却し、第2の冷却ステージ28では、さらに200℃以下の成形型が酸化されない温度にまで冷却し、第3の冷却ステージ29では、室温にまで冷却する。
【0075】
ここで、第3の冷却ステージは、用いるプレートを、他のステージにおけるヒータの代わりに冷却水が循環するように配管を設けた水冷プレートとすることで、効率的に冷却できる。
【0076】
その後、冷却して得られたガラス素材は、ガラス筐体形状が複数整列して転写されており、個々のガラス筐体形状とするために、切断、研磨等の加工処理を施して最終的な製品とされる。
【0077】
以上に示したように、本発明のガラス筐体の成形装置及び成形方法により、プレス成形という簡易な操作で形状精度の高いガラス筐体を、一度のプレス成形により複数個得られるため、成形品の生産性を向上でき、最終製品であるガラス筐体を安定して低コストで製造できる。