特許第6221817号(P6221817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221817連続電解めっき装置および方法、並びに、金属化樹脂フィルムおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221817
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】連続電解めっき装置および方法、並びに、金属化樹脂フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20171023BHJP
   C25D 5/56 20060101ALI20171023BHJP
   C25D 17/06 20060101ALI20171023BHJP
   C25D 21/00 20060101ALI20171023BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20171023BHJP
   C25D 17/10 20060101ALI20171023BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C25D7/06 P
   C25D7/06 B
   C25D7/06 H
   C25D5/56 Z
   C25D17/06 H
   C25D21/00 G
   C25D21/12 A
   C25D17/10 A
   H05K3/18 N
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-31019(P2014-31019)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155563(P2015-155563A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越智 均
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−245799(JP,A)
【文献】 特開昭61−190096(JP,A)
【文献】 特開2011−058057(JP,A)
【文献】 実開昭57−185769(JP,U)
【文献】 実開平06−073158(JP,U)
【文献】 特開2009−293114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00−9/12
C25D 13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき槽と、該めっき槽の上方に配置された複数の給電ロールと、該めっき槽内に垂直に配置された複数のアノードと、該めっき槽内で該複数のアノードよりも下方に配置された複数の搬送ロールとを備え、長尺の被処理物を、前記複数の給電ロールと前記複数の搬送ロールとを介して、その幅方向を水平方向に保ちつつ、かつ、前記めっき槽内のめっき液内で、前記複数のアノードのそれぞれと平行となるように搬送し、該複数のアノードと、該複数の給電ロールのうちの対応する給電ロールに接触した該被処理物のめっき面とにより電解めっきセルを複数構成して、該被処理物のめっき面に金属めっきを順次積層するように構成されているロール・ツー・ロール方式の連続電解めっき装置であって、
前記複数の電解めっきセルに、前記被処理物の搬送方向に伸長し、伸長方向に対して横断面がU字形状であり、互いに平行な1対のは長方形の形状を有し、該被処理物の両端部を覆うように配置され、該被処理物の両端部を前記複数のアノードのそれぞれの少なくとも一部から遮蔽する遮蔽板を備えるエッジ遮蔽治具が、かぶり量が0mm〜60mmとなるように設けられており、かつ、
前記複数の電解めっきセルのうち、設定電流密度が3.0A/dm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルに、前記エッジ遮蔽治具の少なくともアノードに対向する面に、前記被処理物を遮蔽する領域が、めっき液の液面に近い上端部では広く、液面から遠い下端部では狭くなるように構成された傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具が、該エッジ遮蔽治具の上端部における最大かぶり量が、前記傾斜部を備えないエッジ遮蔽治具のかぶり量よりも大きく、かつ、100mm以下となるように、設けられている、
連続電解めっき装置。
【請求項2】
前記傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具は、少なくとも設定電流密度が最も高い電解めっきセルに設置されている、請求項1に記載の連続電解めっき装置。
【請求項3】
前記設定電流密度が最も高い電解めっきセルが、前記複数の電解めっきセルのうちの最後の電解めっきセルである、請求項2に記載の連続電解めっき装置。
【請求項4】
前記傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具は、前記遮蔽板と、該遮蔽板の長方形の面のうち、少なくともアノードに対向する面に、該遮蔽板の液面から遠い側に設けられた支点を中心に回動可能に付設された可動板とを備えるスロットル遮蔽板から構成され、
前記可動板が、前記遮蔽板に対して回動することにより前記傾斜部が形成される、請求項1に記載の連続電解めっき装置。
【請求項5】
前記可動板は、前記遮蔽板に対して、少なくとも0°〜2°の範囲で回動可能である、請求項4に記載の連続電解めっき装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の連続電解めっき装置を用い、前記長尺の被処理物を、前記複数の給電ロールと前記複数の搬送ロールとを介して、その幅方向を水平方向に保ちつつ、かつ、前記めっき槽内のめっき液内で、前記複数のアノードのそれぞれと平行となるように搬送し、該複数のアノードと、該複数の給電ロールのうちの対応する給電ロールに接触した該被処理物のめっき面とにより電解めっきセルを複数構成して、該被処理物のめっき面に金属めっき層を順次積層するロール・ツー・ロール方式の連続電解めっき方法であって、
前記複数の電解めっきセルに、前記被処理物の搬送方向に伸長し、伸長方向に対して横断面がU字形状であり、互いに平行な1対のは長方形の形状を有し、該被処理物の両端部を覆うように配置され、該被処理物の両端部を前記複数のアノードのそれぞれの少なくとも一部から遮蔽する遮蔽板を備えるエッジ遮蔽治具を、かぶり量が0mm〜60mmとなるように設置し、かつ、
前記複数の電解めっきセルのうち、設定電流密度が3.0A/dm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルに、前記エッジ遮蔽治具の少なくともアノードに対向する面に、前記被処理物を遮蔽する領域が、めっき液の液面に近い上端部では広く、液面から遠い下端部では狭くなるように構成された傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具を、該エッジ遮蔽治具の上端部における最大かぶり量が、前記傾斜部を備えないエッジ遮蔽治具のかぶり量よりも大きく、かつ、100mm以下となるように設置する、
連続電解めっき方法。
【請求項7】
前記傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具を、少なくとも設定電流密度が最も高い電解めっきセルに設置する、請求項6に記載の連続電解めっき方法。
【請求項8】
前記複数の電解めっきセルのうちの最後の電解めっきセルを、前記設定電流密度が最も高い電解めっきセルとする、請求項7に記載の連続電解めっき方法。
【請求項9】
前記傾斜部の開き角度が0.5°〜2°である、請求項4または5を引用する請求項6に記載の連続電解めっき方法。
【請求項10】
絶縁樹脂フィルムの少なくとも片面に接着剤を介することなく乾式めっき法にて下地金属層を成膜する下地金属成膜工程と、該下地金属層に乾式めっき法にて銅薄膜層を積層して金属薄膜付き樹脂フィルムを形成する乾式めっき工程と、該金属薄膜付き樹脂フィルムに電解めっきにて銅めっき層を積層する電解めっき工程とを備える、金属化樹脂フィルムの製造方法であって、
前記電解めっき工程に、該金属薄膜付き樹脂フィルムを前記被処理物とする、請求項6〜9のいずれかに記載の連続電解めっき方法を用いる、金属化樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
記銅めっき層の幅方向の膜厚分布における膜厚の最大値と最小値との差、0.25μm以下にする請求項10に記載の金属化樹脂フィルムの製造方法
【請求項12】
一方向に延伸し、延伸方向に対して横断面がU字形状であり、互いに平行な1対のは長方形の形状を有する遮蔽板と、該遮蔽板の長方形の面の少なくとも一方に、支点を中心に、該遮蔽板に対して0°〜2°の範囲で回動可能に付設された可動板とを備え、連続電解めっき装置を構成する、設定電流密度が3.0A/dm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルにおいて、該電解めっきセルのアノードに平行に搬送される被処理物の両端部を覆うように設置されるスロットル遮蔽板により構成される、連続電解めっき装置用のエッジ遮蔽治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線材料の母材となる金属化樹脂フィルム、および、この金属化樹脂フィルムを製造するために使用される、金属薄膜付き樹脂フィルムや金属ストリップなどの被処理物に対して電解めっきを施すための連続電解めっき装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属化樹脂フィルムの一種である金属化ポリイミドフィルムは、サブトラクティブ法やセミアディティブ法などによる配線加工により、フレキシブルプリント配線板(FPC)となるように、電子機器内の配線材料の母材として広く使用されている。
【0003】
現在、液晶ディスプレイ(LCD)、携帯電話、デジタルカメラ、その他の電子機器において、薄型化、小型化、軽量化、低コスト化が求められており、それらに搭載される電子部品にもこれらの特性が要求されている。この結果、その配線材料であるFPCの配線ピッチもより狭くなっている。特に、LCDのドライバ用配線板などでは、配線ピッチのファイン化が顕著であり、LCD用のドライバICチップの実装には、ファインピッチ実装が可能なFPCであるCOF(Chip on film)が用いられている。このような配線ピッチのさらなるファイン化に伴い、その配線材料の母材としての金属化ポリイミドフィルムには、その金属層表面の平滑化が一層求められている。
【0004】
現在、金属化ポリイミドフィルムにおいては、接着剤を介さず、ポリイミドフィルムに金属層を直接積層した二層金属化ポリイミドフィルムが主流となりつつある。二層金属化ポリイミドフィルムを得る方法としては、特開2003−342787号公報に記載されているように、ポリイミドフィルム表面に、スパッタリング法や蒸着法などの乾式めっき法を用いて、直接、下地金属(シード)層および金属薄膜層を積層させた後、金属薄膜層のめっき面に、ロール・ツー・ロール方式の連続電解めっき方法を用いて、金属めっき層を厚付けする方法がある。
【0005】
この際、電解めっき工程において、めっき面の端部で電流密度が増大することに起因して、端部のめっき量が多くなることが知られている。金属化樹脂フィルムの製造工程においても、長尺の金属薄膜付き樹脂フィルム上に、連続電解めっき方法を用いて金属めっき層の厚付けを行う際に、めっき面の端部でめっき量が多くなる。このため、金属化樹脂フィルムにおいて、電流密度が増大する両端部に、ヤケと呼ばれる外観異常が発生して、光沢性が低下したり、めっき面の凹凸により給電ロールとの接触が不均一になって、給電ロールへの異常析出が生じたり、あるいは、めっき面の凹凸が激しくなったりすることがある。さらに、金属化樹脂フィルムは、連続電解めっき後にロール状に巻き取られるが、めっき面の凹凸が激しくなると位置ずれを起こして、長尺の巻き取りが困難になる場合もある。
【0006】
これに対して、特開2011−58057号公報には、長尺ポリイミドフィルムの片面に乾式めっき法で金属薄膜層を成膜した後、このフィルムを幅方向が略水平方向になるように搬送し、金属薄膜層の表面に、複数の不溶解性アノード(陽極)を用いて、搬送方向に対して、段階的に電流密度を上昇させる湿式めっき法により、銅めっき被膜層を形成することが記載されている。具体的には、銅めっき被膜層を形成する際に、複数の不溶解性アノードの中で、印加される電流による電流密度が35mA/cm2以上となる不溶解性アノードにおいて、不溶解性アノードとフィルムの間に略長方形の遮蔽板を配置し、不溶解性アノードの上端から下端に向かって少なくとも40cmの位置までの部分の幅を、銅めっき被膜層の幅の80%〜90%となるように制御することにより、銅めっき被膜層の厚みの平滑性を向上させている。たとえば470mm幅の銅めっき被膜層を形成する場合に、銅層の膜厚の最大値と最小値の差を0.5μm以下に抑制できることになる。
【0007】
また、ロール・ツー・ロール方式の連続電解めっき方法ではないが、特開2006−316322号公報には、シート状の金属薄膜付き樹脂フィルムが搬送される際に、アノード電極に対向して電解めっきが行われる領域において、金属薄膜付き樹脂フィルムの端部の両側に、金属薄膜付き樹脂フィルムの搬送方向に延伸し、延伸方向に対する横断面がV字形と方形を組み合わせた開口断面形状を有するエッジ遮蔽治具を配置して、めっき面の端部に電流が集中することを防止する技術が記載されている。
【0008】
いずれの文献に記載の技術においても、エッジ遮蔽治具は、金属薄膜付き樹脂フィルムのめっき面を覆う量(かぶり量)が搬送方向に対して一定となるように、金属薄膜付きフィルムに対向して設置される。また、エッジ遮蔽治具は、その延伸方向に平行な面の形状が略長方形となっており、エッジ遮蔽治具と金属薄膜付き樹脂フィルムとは互いに平行となるように設置される。
【0009】
ところで、金属化樹脂フィルムでは、フィルムの一方の面の全面にめっきされるのではなく、その両端部に一定幅のめっきされない部分が設けられる。さらに、ロール・ツー・ロール方式の連続電解めっき方法において、金属化樹脂フィルムを連続的に電解めっきする工程では、連続的に複数の電解めっきセルを通過することで段階的にめっき量を増加させているが、この際、電解めっきセルを経るごとに、電流密度を段階的に大きく設定することが一般的である。
【0010】
このため、かぶり量の設定によっては、めっき面の端部に凸部が、その内側に凹部が形成されてしまうことがある。また、凸部や凹部の位置関係は電流密度などの電解めっき条件やめっき厚などにも左右される。したがって、現状においては、めっき面の端部近傍まで所望のめっき厚が確保され、長手方向に対してめっき面の幅が一定であり、かつ、両端部まで平滑性が良好なめっき面を得るためには、エッジ遮蔽治具の電解めっき装置への取り付け位置を微調整して、電解めっきセル単位でかぶり量を変化させることが必要である。
【0011】
なお、特開2003−342787号公報や特開2011−58057号公報に記載された連続電解めっきを施す装置と同様の装置は、特開2004−99950号公報に記載されているように、銅箔や鋼帯などの金属ストリップに連続電解めっきを施す装置としても利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−342787号公報
【特許文献2】特開2011−58057号公報
【特許文献3】特開2006−316322号公報
【特許文献4】特開2004−99950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、ロール・ツー・ロール方式の連続電解めっき方法において、電解めっきセルごとにかぶり量を調整しても、めっき面の凹凸や外観異常を完全に解消するには至っていない。また、かぶり量の調整には時間と手間を要し、このことがロール・ツー・ロール方式の連続電解めっき方法における金属化樹脂フィルムの生産性を妨げる一因となっている。
【0014】
そこで、本発明は、簡便な手段で効率よくめっき面の平滑性を向上させる連続電解めっき方法および連続電解めっき装置を提供することを目的とする。また、本発明は、電解めっき面の平滑性に優れた金属化樹脂フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するために、エッジ遮蔽治具として、被処理物を遮蔽する領域が、めっき液の液面に近い上端部では広く、液面から遠い下端部では狭くなるように構成したものを用いることにより、効率的に、めっき面の平滑性を向上させることができることを確認し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0016】
本発明は、めっき槽と、該めっき槽の上方に配置された複数の給電ロールと、該めっき槽内に垂直に配置された複数のアノードと、該めっき槽内で該複数のアノードよりも下方に配置された複数の搬送ロールとを備え、長尺の被処理物を、前記複数の給電ロールと前記複数の搬送ロールとを介して、その幅方向を水平方向に保ちつつ、かつ、前記めっき槽内のめっき液内で、前記複数のアノードのそれぞれと平行となるように搬送し、該複数のアノードと、該複数の給電ロールのうちの対応する給電ロールに接触した該被処理物のめっき面とにより電解めっきセルを複数構成して、該被処理物のめっき面に金属めっき層を順次積層するように構成されている、ロール・ツー・ロール方式の連続電解めっき装置に関する。なお、本明細書および特許請求の範囲において、「水平」、「垂直」または「平行」とは、完全に水平、垂直または平行である場合のみならず、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の搬送や、めっき面に対する金属めっき層14の形成に影響を及ぼさない限り、完全な水平、垂直または平行とはいえない場合を含む。
【0017】
特に、本発明の連続電解めっき装置には、前記複数の電解めっきセルに、前記被処理物の搬送方向に伸長し、伸長方向に対して横断面がU字形状であり、互いに平行な1対の面は長方形の形状を有し、該被処理物の両端部を覆うように配置され、該被処理物の両端部を前記複数のアノードのそれぞれの少なくとも一部から遮蔽する遮蔽板を備えるエッジ遮蔽治具が、かぶり量が0mm〜60mmとなるように設けられており、かつ、前記複数の電解めっきセルのうち、設定電流密度が3.0A/dm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルに、前記エッジ遮蔽治具の少なくともアノードに対向する面に、前記被処理物を遮蔽する領域が、めっき液の液面に近い上端部では広く、液面から遠い下端部では狭くなるように構成された傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具が、該エッジ遮蔽治具の上端部における最大かぶり量が、前記傾斜部を備えないエッジ遮蔽治具のかぶり量よりも大きく、かつ、100mm以下となるように、設けられていることを特徴とする。なお、本明細書および特許請求の範囲において、「長方形」とは、遮蔽板10を構成する互いに平行な1対の面の形状が、完全な長方形である場合のほか、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の両端部を遮蔽することができる限り、完全な長方形とはいえない場合を含む。
【0018】
前記傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具は、少なくとも設定電流密度が最も高い電解めっきセルに設置されていることが好ましい。なお、通常は、前記設定電流密度が最も高い電解めっきセルを、前記複数の電解めっきセルのうちの最後の電解めっきセルとする。
【0019】
このような本発明の連続電解めっき装置において、前記傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具は、前記遮蔽板と、該遮蔽板の長方形の面のうち、少なくともアノードに対向する面に、該遮蔽板の液面から遠い側に設けられた支点を中心に回動可能に付設された可動板とを備える、スロットル遮蔽板から構成され、前記可動板が、前記遮蔽板に対して回動することにより、前記傾斜部が形成されることが好ましい。なお、前記可動板は、前記遮蔽板に対して、少なくとも0°〜2°の範囲で回動可能であることが好ましい。
【0020】
本発明の連続電解めっき方法は、本発明の連続電解めっき装置を用い、前記長尺の被処理物を、前記複数の給電ロールと前記複数の搬送ロールとを介して、その幅方向を水平方向に保ちつつ、かつ、前記めっき槽内のめっき液内で、前記複数のアノードのそれぞれと平行となるように搬送し、該複数のアノードと、該複数の給電ロールのうちの対応する給電ロールに接触した該被処理物のめっき面とにより電解めっきセルを複数構成して、該被処理物のめっき面に金属めっき層を順次積層するロール・ツー・ロール方式の連続電解めっき方法である。
【0021】
特に、本発明の連続電解めっき方法においては、前記複数の電解めっきセルに、前記被処理物の搬送方向に伸長し、伸長方向に対して横断面がU字形状であり、互いに平行な1対の面は長方形の形状を有し、該被処理物の両端部を覆うように配置され、該被処理物の両端部を前記複数のアノードのそれぞれの少なくとも一部から遮蔽する遮蔽板を備えるエッジ遮蔽治具を、かぶり量が0mm〜60mmとなるように設置し、かつ、前記複数の電解めっきセルのうち、設定電流密度が3.0A/dm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルに、前記エッジ遮蔽治具の少なくともアノードに対向する面に、前記被処理物を遮蔽する領域が、めっき液の液面に近い上端部では広く、液面から遠い下端部では狭くなるように構成された傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具を、該エッジ遮蔽治具の上端部における最大かぶり量が、前記傾斜部を備えないエッジ遮蔽治具のかぶり量よりも大きく、かつ、100mm以下となるように、設置することを特徴とする。
【0022】
前記傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具を、少なくとも設定電流密度が最も高い電解めっきセルに設置することが好ましい。なお、通常は、前記複数の電解めっきセルのうちの最後の電解めっきセルを、前記設定電流密度が最も高い電解めっきセルとする。
【0023】
前記傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具として、前記スロットル遮蔽板から構成されるものを使用する場合、前記傾斜部の開き角度を0.5°〜2°とすることが好ましい。
【0024】
本発明の金属化樹脂フィルムの製造方法は、絶縁樹脂フィルムの少なくとも片面に接着剤を介することなく乾式めっき法にて下地金属層を成膜する下地金属成膜工程と、該下地金属層に乾式めっき法にて銅薄膜層を積層して金属薄膜付き樹脂フィルムを形成する乾式めっき工程と、該金属薄膜付き樹脂フィルムに電解めっきにて銅めっき層を積層する電解めっき工程とを備える、金属化樹脂フィルムの製造方法であって、前記電解めっき工程に、該金属薄膜付き樹脂フィルムを前記被処理物とする、本発明の連続電解めっき方法を用いることを特徴とする。
【0025】
本発明の金属化樹脂フィルムは、本発明の金属化樹脂フィルムの製造方法により得られ、前記銅めっき層の幅方向の膜厚分布における膜厚の最大値と最小値との差が、0.25μm以下であることを特徴とする。
【0026】
本発明のエッジ遮蔽治具は、一方向に延伸し、延伸方向に対して横断面がU字形状であり、互いに平行な1対のが長方形の形状を有する遮蔽板と、該遮蔽板の長方形の面の少なくとも一方に、支点を中心に、該遮蔽板に対して0°〜2°の範囲で回動可能に付設された可動板とを備え、連続電解めっき装置を構成する、設定電流密度が3.0A/cm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルにおいて、該電解めっきセルのアノードに平行に搬送される被処理物の両端部を覆うように設置されるスロットル遮蔽板により構成される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の連続電解めっき方法および連続電解めっき装置によれば、エッジ遮蔽治具のめっき液の液面に近い端部ではかぶり量が大きく、めっき液の液面から遠い端部ではかぶり量を小さくすることが、簡便な手段で効率よく達成され、めっき面の平滑性を従来よりも向上させることができる。また、本発明によれば、このようなかぶり量の調整をきわめて短時間で行うことが可能となる。さらに、本発明を金属化樹脂フィルムの電解めっき工程に適用することにより、電解めっき面の平滑性が向上し、フレキシブル配線板の配線ピッチのファイン化に対してきわめて有用であるばかりでなく、その生産性を大幅に向上させることが可能となる。このため、本発明の工業的意義はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明が適用される連続電解めっき装置の概略図である。
図2図2は、U字形状の横断面を備えた遮蔽板を用いた電解めっきセルついての説明図である。
図3図3は、U字形状の横断面を備えた、可動板付きの遮蔽板を用いた電解めっきセルについての図2と同様の説明図である。
図4図4は、U字形状の横断面を備えた、可動板付きの遮蔽板の模式図およびかぶり量について説明するものであり、図4(a)は、可動板の収納時の平面図、図4(b)は、可動板の収納時の正面図、図4(c)は、可動板の展開時の平面図、図4(d)は、可動板の展開時の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について、「1.連続電解めっき装置および連続電解めっき方法」と、「2.金属化樹脂フィルムの製造方法および金属化樹脂フィルム」に分けて説明する。なお、以下では、金属薄膜付き樹脂フィルムに電解めっきを施す場合を例に挙げて説明しているが、本発明は、これに限定されることはなく、たとえば、銅箔、銅帯などの金属ストリップなどの、ロール・ツー・ロール方式で搬送でき、給電ロールに接触する面とアノードに対向する面との間で電気的導通が得られる長尺材料であれば、いずれに対しても好適に適用可能である。
【0030】
1.連続電解めっき装置および連続電解めっき方法
(1)基本構成
図1図4に、本発明の実施態様の1例である連続電解めっき装置1を示す。連続電解めっき装置1は、図1に示すように、その基本構造は従来と同様であり、長尺の被処理物である金属薄膜付き樹脂フィルムF1を巻き出しロール2より巻き出して、この金属薄膜付き樹脂フィルムF1を、幅方向を水平方向に保って搬送し、液面LLに対して垂直に設置された複数のアノード(陽極)6a〜6lを備えためっき槽4内で、めっき液5に浸漬し、かつ、アノード6a〜6lのそれぞれと平行に対向させて搬送しながら、複数の電解めっきセルC1〜C12により電解めっきを施し、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の金属薄膜層のめっき面に金属めっき層14を順次積層して、金属化樹脂フィルムF2を得て、巻き取りロール3に巻き取るロール・ツー・ロール方式の装置である
【0031】
なお、本例では、金属薄膜付き樹脂フィルムF1とは、樹脂フィルムの少なくとも片面に接着剤を介さずに下地金属層および金属薄膜層を積層させたものである。また、金属めっき層14を形成する金属としては、銅、金、ニッケル、亜鉛などの電解めっきが適用される金属および合金があり、被処理物としては、この金属薄膜付き樹脂フィルムのほか、少なくとも片面に同種金属の電解めっきが施される銅箔、鋼帯などの金属ストリップがある。
【0032】
より具体的には、巻き出された金属薄膜付き樹脂フィルムF1は、複数の給電ロール7a〜7gと、複数の搬送ロール8a〜8fとにより、その幅方向を水平方向に保ちながら、めっき液5への浸漬を繰り返すように搬送される。その間に、電解めっきにより金属薄膜付き樹脂フィルムF1に金属めっき層14が順次積層され、得られた金属化樹脂フィルムF2は巻き取りロール3に巻き取られる。なお、連続電解めっき装置1には、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の張力を制御する制御ロールなどの長尺フィルムや金属ストリップを搬送するために用いられる公知の各種装置や、めっき液5の撹拌や供給などに用いられる公知の各種装置が追加的に設置可能である。
【0033】
めっき液5とアノード6a〜6lは、成膜すべき金属めっき層14に応じて公知のものを用いることができる。たとえば、銅電解めっきを行うのであれば、公知の銅めっき液を用いることができ、アノード6a〜6lも銅製のアノードもしくは公知の不溶解性アノードを用いることができる。ただし、金属めっき層14の膜厚分布を良好にする観点からは、不溶解性アノードを用いることが好ましい。また、アノード6a〜6l、給電ロール7a〜7gおよび搬送ロール8a〜8fの数は、必要に応じて任意に定めることができる。
【0034】
図1に示すように、給電ロール7a〜7gに接触する金属薄膜付き樹脂フィルムF1とアノード6a〜6lの間にそれぞれ、電位差が生じて電解めっきセルC1〜C12が形成される。アノード6a〜6lは、フレーム(図示せず)を介してめっき槽4に設置される。アノード6a〜6lのそれぞれの上端部は、通常、めっき液5の液面LLよりもわずかに上にあり、液面が多少波打ったとしてもアノード6a〜6lの上端部が、液面LLより下方に位置しないように配置される。なお、アノード6a〜6lは、図1図3に示すように単一のアノードにより構成するほか、垂直方向に2分割し、上部アノードと下部アノードとにより構成することも可能である。
【0035】
アノード6a〜6lのそれぞれには、個別に電源装置(図示せず)が接続されており、電解めっきセルC1〜C12の電流密度をそれぞれ個別に設定することが可能となっている。また、上下分割アノードの場合、上部アノードと下部アノードとを個別に電流制御することにより、1つの電解めっきセルにおける電流密度について、より均一化を図ることが可能である。
【0036】
電解めっきセルC1〜C12の電流密度は、すべて同一であってもよいが、通常は、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の搬送方向に沿って段階的に上昇するように制御される。たとえば、図1に示した連続めっき装置1において、アノード6aからアノード6lまで、電解めっきセルC1からC12の順で連続的かつ段階的に電流密度を上昇させるように構成することも可能である。また、アノード6aと6bの電解めっきセルC1とC2において電流密度が最小値となり、アノード6cからアノード6jまでの電解めっきセルC3〜C10において電流密度が段階的に上昇し、アノード6kと6lの電解めっきセルC11とC12において電流密度が最大値となるように制御することもできる。
【0037】
(2)エッジ遮蔽治具
図1に示すような連続電解めっき装置1では、上述したように、金属めっき層14の両端部に電流が集中しやすく、金属めっき層14のめっき面の両端部に凸部が、その幅方向内側に凹部が形成される。また、電解めっきセルC1〜C12のそれぞれにおいて、カソード側の電流が、めっき液5の液面LLの上方に設置された給電ロール7a〜7gにより、金属めっき層14のめっき面に供給されるため、電流密度は垂直方向にも変化し、一般的に、金属めっき層14のめっき面内の給電ロール7a〜7gに近い液面LL近傍では電流密度が高く、液面LLから深さ方向に進むにつれて電流密度が漸減し、搬送ロール8a〜8f近傍が最も電流密度が低くなる傾向がある。特に、この傾向は、電流密度が高い電解めっきセル(通常は、下流側(巻き取りロール3側)の電解めっきセルC11およびC12)で顕著となる。この結果、最終的に得られる金属化樹脂フィルムF2において、その幅方向のみならず、搬送方向(長手方向)においても金属めっき層14の膜厚分布が広くなってしまう。
【0038】
したがって、たとえば、特開2006−316322号公報に記載の技術を応用して、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の両端部をエッジ遮蔽治具によって遮蔽した場合、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の幅方向の膜厚分布のばらつきを抑制することができたとしても、同時に、搬送方向の膜厚分布のばらつきを抑制することはきわめて困難である。すなわち、このようなエッジ遮蔽治具によって、幅方向と搬送方向の膜厚分布のばらつきを同時に抑制するためには、電解めっきセルC1〜C12ごとに、エッジ遮蔽治具のかぶり量を調整する必要があるところ、この調整を行うには、めっき槽4内のめっき液5の一部を槽外に排出し、液面LLの位置を低下させなければならない。このため、電解めっきセルC1〜C12のそれぞれについて、エッジ遮蔽治具のかぶり量を最適なものとするには、エッジ遮蔽板のかぶり量の調整時間に加えて、めっき液5の充填および排出に要する時間が必要となり、生産性が著しく低下する。
【0039】
これに対して、本発明では、図2図4に示すように、電解めっきセルC1〜C12に、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の搬送方向に伸長し、伸長方向に対して横断面がU字形状であり、互いに平行な1対の面は長方形の形状を有し、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の両端部を覆うように配置され、複数のアノード6a〜6lのそれぞれの少なくとも一部から遮蔽する遮蔽板10からなるエッジ遮蔽治具9を設置するとともに(図2)、電解めっきセルC1〜C12のうち、設定電流密度が3.0A/dm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルに、エッジ遮蔽治具として、エッジ遮蔽治具9に、少なくともアノードに対向する面に、金属薄膜付き樹脂フィルムF1を遮蔽する領域が、めっき液5の液面LLに近い上端部では広く、液面LLから遠い下端部では狭くなるように構成された傾斜部が追加されているエッジ遮蔽治具9aを、エッジ遮蔽治具9に代替して設置している(図3および図4)。そして、これらのエッジ遮蔽治具9および傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aのかぶり量を所定の範囲に制御している。ここで、設定電流密度とは、電解めっきセルC1〜C12のそれぞれにおいて、所望の電着量、被電解めっき面の面積、電着時間を達成するために予め設定された電流密度をいう。
【0040】
すなわち、本発明では、エッジ遮蔽治具9と組み合わせて、金属めっき層14のめっき面のめっき厚を左右する設定電流密度が3.0A/dm2以上の少なくとも1つの電解めっきセルにおいて、エッジ遮蔽治具9に代替して、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aを使用することにより、幅方向のみならず、搬送方向の電流密度の分布に対応してめっき面を遮断することができるため、工業規模の生産において、高い平滑性を有する金属化樹脂フィルムF2を容易に得ることができる。しかも、本発明では、このような電流密度の均一化を、主として、設定電流密度の高い電解めっきセルに設置した、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aのかぶり量を調整することによって実現しているため、その調整時間の削減を図ることができる。特に、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aとして、後述するスロットル遮蔽板を採用した場合には、めっき槽4内からめっき液5を排出することなく、かぶり量を調整することが可能となるため、調整時間を大幅に削減することが可能となる。
【0041】
なお、本発明は、特開2011−58057号公報に記載されるような、アノード6a〜6lの幅を調整するためのエッジ遮蔽治具と併用することもでき、これによって、得られる金属化樹脂フィルムF2のめっき面の平滑性を一段と向上させることが可能となる。
【0042】
[設置位置]
上述したように、本発明では、設定電流密度が3.0A/dm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルに、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aが設置され、その他の電解めっきセルには、エッジ遮蔽治具9が設置される。なお、すべての電解めっきセルC1〜C12において、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aを設置することも可能であるが、設定電流密度がもっと高い電解めっきセルに設置することが好ましい。特に、最下流側(巻き取りロール3側)にある最後の電解めっきセルC12またはC11とC12を、設定電流密度がもっとも高い電解めっきセルとなるように調整して、この電解めっきセルC12またはC11とC12に、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aを設置することが好ましい。このような構成により、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の金属めっき層14のめっき面のめっき厚を左右する、設定電流密度の高い電解めっきセルにおける電着挙動が適切に制御されるばかりでなく、実質的に、かぶり量の調整作業を、電解めっきセルC11またはC11とC12に設置された傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aに対してのみ行えばよいため、調整時間を短縮し、金属樹脂化フィルムF2の生産性を改善することも可能となる。
【0043】
なお、電解めっきによる電着は、金属薄膜付き樹脂フィルムF1がめっき液5に浸漬している面全体で施される。また、電流密度は、めっき液5の液面LL近傍において最も大きくなる。このため、電解めっきセルC1〜C12において、エッジ遮蔽治具9およびエッジ遮蔽治具9aは、少なくともめっき液5の液面LLの位置から配置することが好ましく、めっき液5の液面LLから上方に突出するように配置することがより好ましい。また、エッジ遮蔽治具9および傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aの高さ(長手方向の長さ)は、めっき液5の液面LLの位置から下方に伸長する部分の長さ、すなわち、めっき液5に浸漬している部分の長さが、めっき液5の液面LLの位置から搬送ロール8a〜8fの回転軸までの距離の70%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0044】
[エッジ遮蔽治具の態様]
本発明のエッジ遮蔽治具9および傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aを構成する遮蔽板10は、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の搬送方向に伸長し、伸長方向に対して横断面がU字形状であり、互いに平行な1対の面は長方形の形状を有する。このように、遮蔽板10の横断面の形状がU字形状であることにより、側面や裏面からの電気(めっき被着物)の回り込みを防止することができ、得られる金属化樹脂フィルムF1の平滑性を向上させることができる。
【0045】
なお、遮蔽板10の幅は、後述するかぶり量Dを確保することができれば、使用する電解めっき装置の特性に応じて適宜設定すればよいが、一例として、50mm〜150mm程度とすることができる。また、対向する内側面の間隔は、電気の回り込みを抑えるため、可能な限り狭くすべきである。しかしながら、この間隔が狭すぎると、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の搬送時に、遮蔽板10と干渉するおそれがある。このため、厚さ10μm〜100μm程度の金属薄膜付き樹脂フィルムF1に対して、めっき処理を行う場合には、遮蔽板10の対向する内側面の間隔を、20mm〜50mm程度とすることが好ましい。
【0046】
また、エッジ遮蔽治具9および傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aは、従来のエッジ遮蔽治具に用いられる公知の電気絶縁性プラスチッ製またはセラミック製であり、プラスチックの折り曲げ成形や射出成形、セラミックの金型成形などにより得ることができ、その厚さは2mm〜5mm程度とすることが好ましい。
【0047】
本発明では、特に設定電流密度が3.0A/dm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルにおいて、エッジ遮蔽治具として、エッジ遮蔽治具9の少なくともアノードに対向する面に、金属薄膜付き樹脂フィルムF1を遮蔽する領域が、めっき液5の液面LLに近い上端部では広く、液面LLから遠い下端部では狭くなるように構成された傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aを使用する必要がある。このような傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aの一例として、以下、図3および4に示されるスロットル遮蔽板について説明する。
【0048】
スロットル遮蔽板9aは、エッジ遮蔽治具9と同様の遮蔽板10を有し、遮蔽板10のアノードに対向する面に可動板11を付設した構成を備える。本例では、可動板11も、公知の電気絶縁性プラスチック製またはセラミック製で、その幅を遮蔽板10と同様としている。この際、可動板11の下端部を、遮蔽板10の給電ロール7g側に付設して、可動板11の上端部を、めっき液5の液面LLから上方に突出するように伸長させることが好ましい。これにより電流密度が相対的に高くなるめっき液5の液面LL近傍におけるかぶり量Dを十分に確保できる。
【0049】
また、可動板11の高さ(長手方向の長さ)は、めっき液5の液面LLの位置から下方に伸長する部分の長さが、めっき液5の液面LLの位置から搬送ロール8fの回転軸までの距離の40%以上、好ましくは70%以上となるように設置されるが、スロットル遮蔽板9aのうちアノード6lに対向する面と同様の形状および大きさとすることもできる。より具体的には、スロットル遮蔽板9aの高さが1000mmの場合、可動板11の高さはその50%〜100%とする。可動板11の高さが、めっき液5の液面LLの位置から搬送ロール8fの回転軸の距離の40%を下回ると、液面から搬送ロールに至る電着領域の中央部でのかぶり量Dの調整効果が減少するため、可動板11による効果が得られなくなる可能性がある。
【0050】
さらに、可動板11は、めっき液5の液面LLとは反対側の搬送ロール8f側で、かつ、金属薄膜付き樹脂フィルムF1を覆う部分とは反対側の隅(下端部両端側;図4(b)および(d)では向かって左下部)に支点12を、めっき液5の液面LLに近い給電ロール7g側で、かつ、金属薄膜付き樹脂フィルムF1を覆う部分とは反対の隅(上端部両端側;図4(b)および(d)では向かって左上部)に長孔13をそれぞれ設けている。
【0051】
可動板11は、その支点12において、ネジなどの枢支可能な固定治具(図示せず)により、遮蔽板10に枢支されている。このため、スロットル遮蔽板9aは、支点12を中心として、可動板11を、金属薄膜付き樹脂フィルムF1を覆う方向に回動させることで、エッジ遮蔽治具の少なくともアノードに対向する面に、金属薄膜付き樹脂フィルムF1を覆うように遮蔽する領域が、めっき液5の液面LLに近い上端部では広く、めっき液5の液面LLから遠い下端部では狭くなるように構成された傾斜部を形成することが可能となっている。
【0052】
なお、可動板11は、長孔13を介して、ネジなどの固定治具(図示せず)により、任意の位置に固定することが可能となっていることが好ましく、長孔13が、めっき液5の液面LLよりも上方に設けられていることがより好ましい。このような構成を採ることにより、めっき槽4内のめっき液5を槽外に排出することなく、かぶり量Dを調整することが可能となるため、その調整時間を大幅に短縮することができる。
【0053】
また、可動板11の回動範囲は、特に制限されることはないが、電解めっき時における可動板11の開き角度αを後述する範囲で調整可能とするため、遮蔽板10に対して、少なくとも0°〜2°の範囲で回動可能であることが好ましい。
【0054】
以上、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aの一例として、スロットル遮蔽治具について説明したが、本発明においては、電流密度が高い部分のかぶり量Dが相対的に大きくなり、電流密度の低い部分のかぶり量Dが相対的に小さくなることが可能である限り、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具として種々の態様のものを採用することができ、たとえば、1対の遮蔽板10の互いに対向する内側面のうち、中間部から上板部にかけての部分を、互いに近づく方向に傾斜するように構成して、可動板11を省略することも可能である。また、1対の遮蔽板10にそれぞれ付設された1対の可動板11の互いに対向する内側面の形状を、階段状や略円弧状といった直線以外の形状とすることもできる。しかしながら、上述したスロットル遮蔽板9aの構成は、遮蔽板10に回動可能な可動板11を付設させるだけの簡便な手段であり、製作が容易で、かつ、高い調整自由度を有しているため、好ましいといえる。ただし、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aとして、どのような態様のものを用いる場合であっても、かぶり量Dの設定と同様に、設定電流密度が、3.0A/dm2未満となる電解めっきセルにおいては、後述する最大かぶり量Dmaxが過剰に設定されないように留意する必要がある。
【0055】
[かぶり量]
エッジ遮蔽治具9および傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aは、少なくともアノード6a〜6lに対向する面が、金属薄膜付き樹脂フィルムF1の両端部の非めっき部を超えて、内側の金属めっき層14のめっき面を覆うように配置され、金属めっき層14のめっき面と重なる領域が設けられる。この領域の幅方向の寸法をかぶり量Dとし、この領域の面積をかぶり面積とする。エッジ遮蔽治具9および傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aは、電解めっき装置1への取り付け位置を微調整することにより、このかぶり量Dが調整可能な構造であることが好ましく、電流密度などの電解めっき条件やめっき厚に応じて、かぶり量Dを調整することで、金属めっき層14の平滑性を高めることが可能となる。なお、エッジ遮蔽治具9および傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aにおいて、かぶり量Dに影響を与えない範囲内で、電解めっき装置1への取り付け時に干渉しないように、金属薄膜付き樹脂フィルムF1に平行な長方形の面に、切欠き、突起などを設けることは妨げられない。
【0056】
より具体的には、アノード6a〜6lのそれぞれに対向する金属薄膜付き樹脂フィルムF1の両端部を覆うように設置される、エッジ遮蔽治具9および傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aを構成する遮蔽板10のかぶり量Dは、両端部のかぶり量Dの合計で、0mm〜60mm、好ましくは10mm〜60mmの範囲で調整可能とする。遮蔽板10のかぶり量Dを過剰に設定すると、金属めっき層14のめっき面を所望の幅とすることができなかったり、その膜厚を十分なものとすることができなかったり、あるいは、めっき面を十分に平滑なものとすることができなかったりする場合がある。なお、本発明において、遮蔽板10のかぶり量Dは、電解めっきセルC1〜C12ごとに、設定電流密度などの条件に応じて個別に設定されるべきものである。このため、特に設定電流密度の小さい電解めっきセルにおいては、遮蔽板10を設置しなくても、金属めっき層14のめっき面の幅、膜厚および平滑性を十分に確保することができる場合もあり、このような場合には、遮蔽板10のかぶり量Dを0とすることができる。
【0057】
また、設定電流密度が3.0A/dm2以上である少なくとも1つの電解めっきセルに配置される、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aでは、電流密度が高い液面LL近傍のかぶり量(以下、「最大かぶり量」という)Dmaxを相対的に大きく、電流密度が低い搬送ロール8f近傍のかぶり量(以下、「最小かぶり量」という)Dminを相対的に小さくすることが必要となる。これにより、金属めっき層14の両端部において、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aにより遮蔽される範囲を、電流密度に応じて変化させることができ、電着量の調整が可能となるばかりでなく、めっき液5の液面LL近傍における金属めっき層14のめっき面の電流密度を抑制し、ヤケなどの発生を防止することができる。
【0058】
特に、傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具9aとして、上述したスロットル遮蔽板を使用する場合には、可動板11の開き角度αの調整により、最大かぶり量Dmaxを高い自由度で、かつ、容易に制御することができるため、金属めっき層14のめっき面の平滑性を大幅に向上させることが可能となる。ここで、可動板11の開き角度αとは、電解めっき時における、遮蔽板10に対する可動板11の回転角をいう(図4(d)参照)。
【0059】
より具体的には、設定電流密度が最も高い電解めっきセルC12にスロットル遮蔽板9aを設置し、全幅が520mm、金属めっき層14のめっき面の幅が500mmである金属薄膜付き樹脂フィルムF1を電解めっきする場合、可動板11の開き角度αを調整することにより、最大かぶり量Dmaxを、エッジ遮蔽治具のかぶり量D(0mm〜60mm)よりも大きく、かつ、100mm以下、好ましくは、エッジ遮蔽治具のかぶり量Dよりも10mm程度大きく、かつ、100mm以下に制御することが必要となる。最大かぶり量Dmaxが100mmを超えると、スロットル遮蔽板9aの上端部における電着量が過剰に制限され、めっき面を十分に平滑なものとすることができなくなる。
【0060】
なお、可動板11を付設する位置や電流密度などの条件にもよるが、電解めっき時における可動板11の開き角度αは、好ましくは0.5°〜2°、より好ましくは1°〜2°、さらに好ましくは1°〜1.5°の範囲に制御する。開き角度αが0.5°未満では、可動板11を設けた効果が十分に得られない場合がある。一方、開き角度が2°を超えると、最大かぶり量Dmaxが大きくなりすぎて、必要な電着量が得られない場合がある。
【0061】
また、スロット遮蔽板9aにおいては、可動板11の開き角度αが0°のときのかぶり量D、すなわち、スロットル遮蔽板9aを構成する遮蔽板10のかぶり量Dは、上述したように、両端部のかぶり量Dの合計で、0mm〜60mm、好ましくは10mm〜60mmの範囲とする。ただし、このかぶり量Dは、必ずしもエッジ遮蔽治具9を構成する遮蔽板10のかぶり量Dと同量にする必要はなく、可動板11によるかぶり量を考慮した上で、適宜調整することが好ましい。
【0062】
2.金属化樹脂フィルムの製造方法および金属化樹脂フィルム
(1)金属化樹脂フィルムの製造方法
本発明の連続電解めっき方法は、金属化樹脂フィルムF2の電解めっき工程に好適に適用可能である。金属化樹脂フィルムF2の製造方法は、順に、絶縁樹脂フィルムの少なくとも片面に、接着剤を介することなく、乾式めっき法により下地金属(シード)層を成膜する下地金属成膜工程、下地金属層へ乾式めっき法により銅薄膜層を積層する乾式めっき工程、下地金属層および銅薄膜層を介して給電して、電解めっきにより、銅薄膜層のめっき面に銅めっき層を積層する電解めっき工程を備える。
【0063】
このように銅めっき層が形成された金属化樹脂フィルムF2は、セミアディティブ法やサブトラクティブ法などによるパターニングを経て配線層が形成され、フレキシブルプリント配線板として電子機器内の配線材料として広く利用される。
【0064】
[下地金属成膜工程]
金属化樹脂フィルムF2の基材となる絶縁樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフィニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられるが、ポリイミド系フィルムは、はんだリフローなどの高温の接続が必要な用途にも適用できる点で好適である。なお、配線材料としての用途では、絶縁樹脂フィルムとしては、その厚みが8μm〜75μm程度のものが好適である。
【0065】
下地金属層の材料には、ニッケルまたはニッケルを含む合金が好適に用いられる。また、耐食性を向上させる目的で、その他の金属を添加させることも可能である。添加金属としては、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、コバルト、タングステンなどを用いることができる。
【0066】
下地金属層の形成工程に用いる乾式めっき法は、特に限定されないが、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のいずれかであることが好ましく、スパッタリング法であることがより好ましい。たとえば、巻き取り式スパッタリング装置を用いて下地金属層を形成する場合、所望の下地金属層の組成を有する合金ターゲットをスパッタリング用カソードに装着し、絶縁樹脂フィルムをセットし、装置内を真空排気後、アルゴンガスを導入して、装置内を0.13Pa〜1.3Pa程度に保持した状態で、カソードに接続したスパッタリング用直流電源より電力を供給して、スパッタリング放電を行い、絶縁樹脂フィルム上に、所望の下地金属層を連続成膜することができる。また、乾式めっきを行う前に、絶縁樹脂フィルムの表面に、プラズマ処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、イオンビーム処理、フッ素ガス処理などの公知の種々の処理を施してもよい。
【0067】
下地金属層の膜厚は、3nm〜50nmとすることが好ましい。この下地金属層の膜厚が3nm未満では、配線部以外の金属被膜層(下地金属層、銅薄膜層、銅めっき層)をエッチングなどで除去して最終的に配線を作製したときに、エッチング液が下地金属層を浸食して、絶縁樹脂フィルムと下地金属層の間に染み込み、配線が浮いてしまう場合がある。一方、下地金属層の膜厚が50nmを超えると、エッチングなどで最終的に配線を作製する場合に、下地金属層が完全に除去されず、残渣として配線間に残るため、配線間の絶縁不良を発生させる可能性がある。
【0068】
[乾式めっき工程]
銅薄膜層は、下地金属層の製造工程と同様に、銅ターゲットをスパッタリング用カソードに装着したスパッタリング装置を用い、乾式めっき法により形成することができる。この場合、下地金属層と銅薄膜層を、同一の真空室内で連続して形成することが好ましい。銅薄膜層の膜厚は、特に限定されるものではないが、10nm〜0.3μmであることが好ましい。銅薄膜層の膜厚が10nm未満では、導電性が低く、電解銅めっき処理を行う際に十分な給電量を確保できないので好ましくない。一方、銅薄膜層の膜厚が0.3μmを超えると、成膜時の生産性が低下するので好ましくない。
【0069】
[電解めっき工程]
本発明の金属化樹脂フィルムF2は、銅薄膜付き絶縁樹脂フィルムF1の銅薄膜層の上に、本発明の連続電解めっき方法により、銅めっき層を積層することにより形成される。本発明の連続電解めっき方法が用いられることを除き、電解めっき方法の条件は、特に限定されるものではなく、めっき浴の構成、電流密度、搬送速度などは、公知の諸条件を採用することができる。
【0070】
下地金属層上に形成された銅薄膜層と、この銅薄膜層の上に電解めっき方法で形成された銅めっき層を合わせた銅被膜の膜厚は、2層フレキシブル基板を用いて製造されるプリント配線板の製造手法に応じて適宜設定されるものであるが、概ね、0.5μm〜18μmとすることが好ましい。なお、プリント配線板の製造手法には、主にセミアディティブ法とサブトラクティブ法があるが、セミアディティブ法には、銅被膜の膜厚が比較的薄い2層フレキシブル基板が、サブトラクティブ法には銅被膜の膜厚が比較的厚い2層フレキシブル基板が、それぞれ用いられる。銅被膜の膜厚が0.5μmよりも薄い場合、セミアディティブ法で配線を形成する際に、電気めっき法による銅めっき層の形成が困難となるため好ましくない。また、膜厚が18μmよりも厚い場合、サブトラクティブ法で配線を形成する際に、エッチング時間が長くなり、生産性が低下するため好ましくない。
【0071】
(2)金属化樹脂フィルム
本発明の連続電解めっき方法が適用された金属化樹脂フィルムF2の製造方法によれば、得られる金属化樹脂フィルムF2の銅被膜の幅方向にわたる膜厚分布における膜厚の最大値と最小値との差を、0.25μm以下、好ましくは0.20μm以下とすることができる。このように、本発明の連続電解めっき方法およびこれを用いた金属化樹脂フィルムF2の製造方法により、銅被膜層のめっき面の平滑性を、従来よりもさらに向上させることが可能となる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
スパッタリング法により、ポリイミドフィルムの片面に下地金属層および銅薄膜層が積層された金属薄膜付きポリイミドフィルムF1に対して、図1と同様の構成を備えた連続電解めっき装置1を用いて、金属薄膜層に銅を連続電解めっきにより積層して、銅めっき層を備えた金属化ポリイミドフィルムF2を製造した。なお、ポリイミドフィルムには、東レ・デュポン株式会社製のポリイミドフィルム(厚さ38μm、幅524mm、商品名:150EN−F)を用いた。また、下地金属層としては、7質量%クロムを含有したニッケル合金薄膜層(膜厚7.5nm)を成膜し、かつ、このニッケル合金薄膜層の上に銅薄膜層(膜厚100nm)を形成した。下地金属層および銅薄膜層の幅は510mmであった。
【0074】
アノード6a〜6lには、いずれも酸化イリジウム系の不溶解性アノード6a〜6lを使用し、電気絶縁性フレームを介して、その上端部が、めっき液5の液面LLからわずかに突出するように設置した。この際、アノード6a〜6l側に設置した遮蔽板(図示せず)を用いて、アノード6a〜6lの、金属薄膜付きポリイミドフィルムF1のめっき面に対向する面の幅(以下、「アノード幅」という)が、金属薄膜付きポリイミドフィルムF1の幅に対して85%となるように調整した。
【0075】
また、エッジ遮蔽治具として、電気絶縁性プラスチック製で、高さ1280mm、幅105mm、厚さ4mm、対向する内側面の間隔が40mmであり、U字形状の横断面を有し、長方形の遮蔽板10を備えるエッジ遮蔽治具9と、遮蔽板10に、高さ975mm、幅105mm、厚さ3mmの可動板11をネジによって枢支し、このネジを中心として、遮蔽板10に対して0°〜2°の範囲で回動可能に付設したスロットル遮蔽板9aを用意した。なお、可動板11は、開き角度αが0°の位置で、その上端が遮蔽板の上端と一致するように、その下端から295mm、水平方向外端から90mmの位置で枢支されており、その上端から25mm、水平方向外端から100mmの位置に、長さ45mm、幅10mmの長円形状の長孔が設けられたものであった。
【0076】
電解めっきセルC1〜C10においては、アノード6a〜6jに平行に対向して搬送される金属薄膜付きポリイミドフィルムF1の両端部にエッジ遮蔽治具9を設置した。一方、電解めっきセルC11およびC12においては、アノード6kおよび6lに平行に対向して搬送される金属薄膜付きポリイミドフィルムF1の両端部にスロットル遮蔽板9aを設置した。エッジ遮蔽治具9とスロットル遮蔽板9aのいずれにおいても、それぞれの上端部がめっき液5の液面LLよりも40mm上方に位置し、上端部およびスロットル遮蔽板9aの長孔13がめっき液5の液面LLから突出するように配置し、所望の電着量と電着した金属化ポリイミドフィルムF2の銅めっき層14の表面ができるだけ平滑になるようにかぶり量Dを調整して設置した。具体的には、電解めっきセルC1〜C10においては、かぶり量Dを、30mmを基準として、電解めっきセルC1〜C10を通過した後のめっき面が十分に平滑となるように微調整した。この結果、電解めっきセルC1〜C10におけるかぶり量Dは、すべて27mm〜33mmの範囲内にあった。同時に、電解めっきセルC11およびC12においては、スロットル遮蔽板9aの可動板11の開き角度αをいずれも2°とし、最大かぶり量Dmaxが88mmとなるように調整した。なお、電界めっきセルC11および12においては、可動板11により液面LL近傍の電流密度が抑制されることを考慮して、遮蔽板10のかぶり量Dが20mmとなるように調整した。
【0077】
連続電解めっきで得られる銅めっき層の膜厚を8μmとし、電解めっきセルC1〜C12におけるアノード6a〜6lに対する電流密度を表1の通り設定し、搬送速度を調整して上記の膜厚の銅めっき層を得た。めっき液5は硫酸濃度100g/L、硫酸銅180g/L、塩素濃度50mg/Lとし、これに銅めっき層の平滑性などを確保する目的で、有機系の添加剤を所定量添加した。また、めっき液5の温度は27℃に設定した。
【0078】
得られた金属化ポリイミドフィルムF2の銅層(銅薄膜層+銅めっき層)の膜厚を、蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、型式:SFT9250)により測定した。測定は金属化ポリイミドフィルムF2の長手方向中心線から80mm以内の中央部、中心線から左側に230mm〜80mmの左部、中心線から右側に230mm〜80mmの右部の3ヵ所に分割して、それぞれの箇所で最大値と最小値との差を指標とした。また、本実施例において、エッジ遮蔽治具9、スロットル遮蔽板9aおよびアノード6a〜6l側の遮蔽板の調整に要した時間を測定し、これを連続電解めっき処理の効率性の指標とした。これらの結果を表2に示す。
【0079】
(実施例2)
電解めっきセルC1〜C11にエッジ遮蔽治具9を使用し、電解めっきセルC12のみにスロットル遮蔽板9aを使用するとともに、これらのかぶり量Dを表2の数値のように設定したこと以外は、実施例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムF2を作製し、その銅層の膜厚、並びに、エッジ遮蔽治具9、スロットル遮蔽板9aおよびアノード6a〜6l側の遮蔽板の調整に要した時間を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0080】
(実施例3)
電解めっきセルC1〜C8にエッジ遮蔽治具9を使用し、電解めっきセルC9〜C12にスロットル遮蔽板9aを使用するとともに、これらのかぶり量Dを表2の数値のように設定したこと以外は、実施例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムF2を作製し、その銅層の膜厚、並びに、エッジ遮蔽治具9、スロットル遮蔽板9aおよびアノード6a〜6l側の遮蔽板の調整に要した時間を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0081】
(実施例4)
電解めっきセルC11およびC12において、スロットル遮蔽板9aの可動板11の開き角度αをいずれも0.5°とし、最大かぶり量Dmaxが40mmとなるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムF2を作製し、その銅層の膜厚、並びに、エッジ遮蔽治具9、スロットル遮蔽板9aおよびアノード6a〜6l側の遮蔽板の調整に要した時間を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0082】
(比較例1)
電解めっきセルC1〜C12にエッジ遮蔽治具9を使用し、これらのかぶり量Dを、30mmを基準として、電解めっきセルC1〜C12を通過した後のめっき面が十分に平滑となるように微調整したこと以外は、実施例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムF2を作製し、その銅層の膜厚、並びに、エッジ遮蔽治具9およびアノード6a〜6l側の遮蔽板の調整に要した時間を測定した。これらの結果を表2に示す。なお、本比較例においては、電解めっきセルC1〜C12におけるかぶり量Dは、すべて27mm〜33mmの範囲内にあった。
【0083】
(比較例2)
電解めっきセルC11およびC12において、スロットル遮蔽板9aの可動板11の開き角度αをいずれも2.5°とし、最大かぶり量Dmaxが105mmとなるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムF2を作製し、その銅層の膜厚、並びに、エッジ遮蔽治具9、スロットル遮蔽板9aおよびアノード6a〜6l側の遮蔽板の調整に要した時間を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0084】
(比較例3)
設定電流密度が3.0A/dm2未満の電解めっきセルC1〜C8のうち、電解めっきセルC5〜C8において、エッジ遮蔽治具9のかぶり量Dを65mm〜75mmの範囲とし、この範囲で、電解めっきせるC5〜C8を通過した後のめっき面が十分に平滑となるように微調整したこと以外は、実施例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムF2を作製し、その銅層の膜厚、並びに、エッジ遮蔽治具9、スロットル遮蔽板9aおよびアノード6a〜6l側の遮蔽板の調整に要した時間を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0085】
(比較例4)
電解めっきセルC11およびC12において、アノード6kおよび6l側の遮蔽板を、めっき面の平滑性が最も良好になるように調整したこと以外は、比較例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムF2を作製し、その銅層の膜厚、並びに、エッジ遮蔽治具9、スロットル遮蔽板9aおよびアノード6a〜6l側の遮蔽板の調整に要した時間を測定した。これらの結果を表2に示す。なお、本比較例では、アノード6kおよび6lのアノード幅は、金属薄膜付きポリイミドフィルムF1の幅に対して80%であった。
【0086】
(参考例)
アノード6a〜6l側に遮蔽板を使用しなかったこと以外は、比較例1と同様にして、金属化ポリイミドフィルムF2を作製し、その銅層の膜厚およびエッジ遮蔽治具9の調整に要した時間を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
[評価]
表1および表2より、実施例1〜4の金属化ポリイミドフィルムF2は、左部、中央部および右部のいずれの位置においても、膜厚の最大値と最小値の差が0.25μm以下であり、めっき面の平滑性に優れていることが確認される。また、実施例1〜4では、かぶり量の調整に要した時間も70分以内に収まっており、めっき面の平滑性に優れた金属化ポリイミドフィルムを、比較的短時間で製造できたことが確認される。
【0090】
これに対して、エッジ遮蔽治具9のみを使用した比較例1、スロットル遮蔽板9aの開き角度αおよび最大かぶり量Dmaxが本発明から外れる比較例2、設定電流密度が3.0A/dm2未満である電解めっきセルの一部においてかぶり量が60mmを超える比較例3では、めっき面の平滑性を十分に向上させることができなかった。また、アノード側の遮蔽板のかぶり量を調整した比較例4では、めっき面の平滑性は比較的良好であるが、この調整に2時間以上の時間を要した。
【符号の説明】
【0091】
1 連続電解めっき装置
2 巻き出しロール
3 巻き取りロール
4 めっき槽
5 めっき液
6a〜6l アノード
7a〜7g 給電ロール
8a〜8f 搬送ロール
9 エッジ遮蔽治具
9a 傾斜部を備えるエッジ遮蔽治具(スロットル遮蔽板)
10 遮蔽板
11 可動板
12 支点
13 長孔
14 金属(銅)めっき層
F1 金属薄膜付き樹脂(ポリイミド)フィルム
F2 金属化樹脂(ポリイミド)フィルム
C1〜C12 電解めっきセル
LL めっき液の液面
W めっき面の幅
D かぶり量
Dmax 最大かぶり量
Dmin 最小かぶり量
α 開き角度
図1
図2
図3
図4