特許第6221818号(P6221818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6221818-グラビア塗工装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221818
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】グラビア塗工装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/10 20160101AFI20171023BHJP
   B05C 1/08 20060101ALI20171023BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20171023BHJP
   H01M 2/16 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
   C23C4/10
   B05C1/08
   B05C11/10
   !H01M2/16 L
   !H01M2/16 M
   !H01M2/16 P
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-33998(P2014-33998)
(22)【出願日】2014年2月25日
(65)【公開番号】特開2015-157994(P2015-157994A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】前田 聡
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−218053(JP,A)
【文献】 特開昭63−274760(JP,A)
【文献】 特開2009−133240(JP,A)
【文献】 特開2004−167821(JP,A)
【文献】 特開昭64−004275(JP,A)
【文献】 特開2000−107664(JP,A)
【文献】 特開2003−260402(JP,A)
【文献】 特開平03−130644(JP,A)
【文献】 特開昭62−207885(JP,A)
【文献】 特開平08−109834(JP,A)
【文献】 特開昭46−005803(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/023976(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/023971(WO,A1)
【文献】 特開2010−229491(JP,A)
【文献】 特表2010−535288(JP,A)
【文献】 特開昭51−112848(JP,A)
【文献】 特開2006−272270(JP,A)
【文献】 特開2012−102747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
B05C 1/00−3/20
B05C 7/00−21/00
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に塗工液を転写するグラビアロールと、前記グラビアロールに塗工液を塗布するチャンバーを有する塗工ユニットと、を備えるグラビア塗工装置であって、
前記チャンバーの表面には保護層を備え、前記保護層は、前記チャンバーの外側から内側に向かって順に第一保護層と、第二保護層と、を備え、
前記第一保護層は、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244)により測定される硬度が500HV以上、かつ、体積抵抗率が105Ω・cm以上の溶射材料からなる溶射被膜であり、前記第一保護層のJIS Z 8721に基づくマンセル表色系の明度が9.0以上であり、
前記第二保護層は、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244)により測定される硬度が500HV以上、かつ、体積抵抗率が105Ω・cm以上の溶射材料からなる溶射被膜であり、前記第二保護層のJIS Z 8721に基づくマンセル表色系の明度と、前記第一保護層の前記マンセル表色系の明度との差が1.0以上であるグラビア塗工装置。
【請求項2】
前記第一保護層と、前記第二保護層とが隣接する請求項1に記載のグラビア塗工装置。
【請求項3】
前記第一保護層は、前記チャンバーの最外層である請求項1または請求項2に記載のグラビア塗工装置。
【請求項4】
前記第一保護層に用いる溶射材料は、ホワイトアルミナ、ジルコニア、イットリアから選ばれる少なくとも1つである請求項1〜3の何れか一項に記載のグラビア塗工装置。
【請求項5】
前記第二保護層に用いる溶射材料は、酸化クロム、グレーアルミナ、アルミナチタニア、炭化ケイ素、窒化シリコン、チタニアから選ばれる少なくとも1つである請求項1〜3の何れか一項に記載のグラビア塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材にリチウム二次電池用の多孔膜を塗工するグラビア塗工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来グラビアロールにより基材にリチウム二次電池用の多孔膜を塗工することが行われている。多孔膜にはアルミナなどの無機粒子を用いているため、長期間にわたり塗工を行っていると無機粒子によりグラビア塗工装置の多孔膜を塗布するチャンバーの表面が削れて、金属粉塵が多孔膜に混入し、電池が短絡するおそれがあった。
【0003】
従来からも塗工チャンバーの表面が削れることを防止するため、アルミニウム製のチャンバーにタフラム(登録商標)被膜を形成する等の表面処理を施し、耐摩耗性を向上させることが行われていた。
【0004】
また、特許文献1には、連続式二軸混練機の構成部品同士の接触により、非金属材料のコーティングが摩耗し、下地の金属の摩耗粉が不純物として混入することを避けるため、金属のチャンバーを比較的厚いセラミックスでコーティングすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−129126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、チャンバー表面にタフラム(登録商標)被膜の保護層を設けたり、チャンバー表面にセラミックスの保護層を設けても、長期に亘るチャンバーの使用により保護層の摩耗は避けることができず、また、摩耗の程度を検知し難かった。
【0007】
本発明の目的は、長期に亘る使用により保護層が摩耗した場合であっても塗工液中に金属粉塵が混入する虞がなく、かつ、保護層の摩耗の程度が目視で容易に検知できるチャンバーを備えたグラビア塗工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、所定の硬度、および、所定の体積抵抗率を有する材料の溶射被膜から成る保護層であって、明度の差が所定の値以上となる2層の保護層をチャンバー表面に積層して形成することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、
(1) 基材の表面に塗工液を転写するグラビアロールと、前記グラビアロールに塗工液を塗布するチャンバーを有する塗工ユニットと、を備えるグラビア塗工装置であって、前記チャンバーの表面には保護層を備え、前記保護層は、前記チャンバーの外側から内側に向かって順に第一保護層と、第二保護層と、を備え、前記第一保護層は、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244)により測定される硬度が500HV以上、かつ、体積抵抗率が105Ω・cm以上の溶射材料からなる溶射被膜であり、前記第一保護層のJIS Z 8721に基づくマンセル表色系の明度が9.0以上であり、前記第二保護層は、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244)により測定される硬度が500HV以上、かつ、体積抵抗率が105Ω・cm以上の溶射材料からなる溶射被膜であり、前記第二保護層のJIS Z 8721に基づくマンセル表色系の明度と、前記第一保護層の前記マンセル表色系の明度との差が1.0以上であるグラビア塗工装置、
(2) 前記第一保護層と、前記第二保護層とが隣接する(1)に記載のグラビア塗工装置、
(3) 前記第一保護層は、前記チャンバーの最外層である(1)または(2)に記載のグラビア塗工装置、
(4) 前記第一保護層に用いる溶射材料は、ホワイトアルミナ、ジルコニア、イットリアから選ばれる少なくとも1つである(1)〜(3)の何れかに記載のグラビア塗工装置、
(5) 前記第二保護層に用いる溶射材料は、酸化クロム、グレーアルミナ、アルミナチタニア、炭化ケイ素、窒化シリコン、チタニアから選ばれる少なくとも1つである(1)〜(3)の何れかに記載のグラビア塗工装置、
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期に亘る使用により保護層が摩耗した場合であっても塗工液中に金属粉塵が混入する虞がなく、かつ、保護層の摩耗の程度が目視で容易に検知できるチャンバーを備えたグラビア塗工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るグラビア塗工装置の構成を示す図である。
図2】実施の形態に係るグラビア塗工装置のチャンバーの保護層を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係るグラビア塗工装置について説明するが、本発明はこの形態に限定されるものでは無い。以下の説明では、リチウムイオン二次電池用のセパレータを製造するにあたって、基材であるセパレータ基材に、塗工液を塗工することを例に挙げる。
【0013】
図1に示すように、グラビア塗工装置2は、搬送されるセパレータ基材100に塗工液を高速で連続塗工するものであって、セパレータ基材100の表面に接触して塗工液を転写するグラビアロール10と、グラビアロール10に塗工液を塗布する密閉式のチャンバー11aを有する塗工ユニット11と、チャンバー11a内に塗工液を供給する塗工液供給口11bと、チャンバー11a内に塗工液を供給する塗工液供給手段12と、チャンバー11a内の塗工液を返送する塗工液返送口13と、を備えている。なお、塗工液供給口とは、塗工液がチャンバー内に供給される通路において、チャンバーに最も近い開口部を指し、塗工液返送口とは、塗工液をチャンバー内から返送する通路において、チャンバーに最も近い開口部を指す。
【0014】
このグラビア塗工装置2においては、グラビアロール10の上下に、テンションバックアップロール15がグラビアロール10に対向するように設置されており、このテンションバックアップロール15とグラビアロール10との間にセパレータ基材100が導入される。そして、導入されたセパレータ基材100を下方から上方に搬送すると共に、セパレータ基材100の搬送方向と逆方向にグラビアロール10を回転駆動しつつ、グラビアロール10をセパレータ基材100に当接させることにより、セパレータ基材100の表面に塗工液が転写される。
【0015】
グラビアロール10は、例えばスチール製のパイプ等から構成されるロール本体10aと、ロール本体10aの両端部に設けられた回転軸10bを有している。またロール本体10aの周面には、所定のセルパターンが形成されている。ここでグラビアロール10のセルパターンとしては、連続した形状のものが好ましく、例えば、ヘリカル環状である凹部、或いは亀甲型、格子型などの連続幾何学模様の凹部等が形成されたものなど用いることができる。セパレータ基材100の搬送速度が通常20m/min以上、好ましくは50m/min以上、より好ましくは100m/min以上となる高速塗工の場合、グラビアロール10のセルパターンが、基材搬送方向に対し左右対称である亀甲型、格子型などの連続幾何学模様の凹部であると、セパレータ基材100にシワが発生しないため、セパレータ基材100に塗工液を均一に転写することができるため好ましい。
【0016】
塗工ユニット11のチャンバー11a表面には、溶射材料からなる保護層30(第二保護層に相当)がチャンバー11a表面に接するように形成されている。また、保護層30上には、保護層30に隣接して、溶射材料からなる保護層32(第一保護層に相当)が形成されている。
【0017】
本発明の保護層30,32に用いる溶射材料の硬度は、500HV以上、好ましくは800HV以上、より好ましくは1000HV以上であり、通常3000HV以下、好ましくは2000HVである。保護層30,32に用いる溶射材料の硬度がこの範囲にあれば、保護層30,32が摩耗しづらいからである。なお、硬度は、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244)により測定される値である。
【0018】
また、本発明の保護層30,32に用いる溶射材料の体積抵抗率は、105Ω・cm以上、好ましくは107Ω・cm以上、より好ましくは1010Ω・cm以上であり、通常1020Ω・cm以下、好ましくは1017Ω・cm以下である。保護層30,32に用いる溶射材料の体積抵抗率がこの範囲にあれば、保護層30,32が摩耗して発生した摩耗粉がリチウムイオン二次電池用の塗工液に混入した場合であっても、電池の短絡の虞が無いからである。なお、体積抵抗率は、JIS規格(JIS C 2141:1992電気絶縁用セラミック材料試験方法)に示される三端子法を用いて25℃で測定した値である。
【0019】
また、本発明の保護層30,32の色は、JIS Z 8721に基づくマンセル表色系に基づいて表すことができる。
【0020】
色の表示方法としては、無彩色の場合、例えば「N−9.0」では、“N”は無彩色であることを示し、“9.0”は明度を示す。また、有彩色の場合、例えば「10YR 3.0/4.0」では、“10YR”は色相、“3.0”は明度、“4.0”は彩度を表す。
【0021】
明度は、黒を0、白を10と設定し、その間の明るさが知覚的に等間隔となるように、10段階に分割して数値で表す。暗い色ほど数値が小さく、明るい色ほど数値が大きくなり10近くになる。
また、彩度は、白、黒、灰色の無彩色を0とし、色みが増し鮮やかになるにしたがって、数値が増えていく。最も鮮やかな色彩の彩度値は色相によって異なり、例えば、赤の純色(最も鮮やかな色)は彩度14、緑みの青の純色は彩度8となる。
【0022】
本発明においては、チャンバー11aの外側の保護層32のJIS Z 8721に基づくマンセル表色系の明度は、9.0以上が好ましい。外側の保護層32の明度が9.0以上であることにより、保護層32が摩耗したことの検知を容易にすることができる。また、チャンバー11a表面に接する保護層30のJIS Z 8721に基づくマンセル表色系の明度と、外側の保護層32との明度差が1.0以上、好ましくは2.0以上、より好ましくは5.0以上、さらに好ましくは6.0以上である。
【0023】
また、本発明において、チャンバー11a表面に接する保護層30、及び、外側の保護層32のJIS Z 8721に基づくマンセル表色系の彩度は、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.0以下である。
【0024】
この際、保護層32と保護層30とが隣接していることにより、保護層32の摩耗の検知を一層し易くなる。
【0025】
また、本発明において、保護層32はチャンバー11aの最外層であることが好ましい。リチウム二次電池用の多孔膜は、通常白色であり、保護層32が摩耗したとしても摩耗した粉塵は異物とはならず、生産の歩留まりを向上させることができるからである。
【0026】
本発明の保護層30,32である溶射被膜を形成するにあたり、プラズマ溶射法、爆発溶射法、高速ガス溶射法、低速ガス溶射法等を用いることができる。このような溶射法の中でも、フレーム温度が高く、高融点のセラミックスに対しても良好な被膜が形成できることから、プラズマ溶射法が好ましい。
【0027】
チャンバー11aの外側の保護層32に用いる溶射材料としては、ホワイトアルミナ、ジルコニア及びイットリアが好ましい。これらの材料は2種以上混合して用いてもよい。なお、ホワイトアルミナとは、Al23の純度が99.6%以上であるアルミナをいう。これらの溶射材料は、硬度が大きいため摩耗し難く、仮に摩耗して摩耗粉が塗工液に混入した場合であっても体積抵抗率が大きいため電池短絡の原因とならないからである。さらに、保護層32が摩耗して内側の保護層30が露出した場合には、保護層32はマンセル表色系の明度が9.0以上の白色に近い溶射材料を用いているため、保護層30との明度差を所定値以上とし易く、その結果、保護層32が摩耗したことが目視で確認しやすいからである。これらの溶射材料は、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
チャンバー11a表面に接する保護層30に用いる溶射材料としては、酸化クロム、グレーアルミナ、アルミナチタニア、炭化ケイ素、窒化シリコン及びチタニアが好ましい。これらの材料は2種以上混合して用いてもよい。なお、グレーアルミナとは、Al23 とTiO2の混合物であって、TiO2の含有割合が2〜3wt%のアルミナをいう。また、アルミナチタニアとは、Al23 とTiO2の混合物であって、TiO2の含有割合が10〜50wt%のアルミナをいう。これらの溶射材料は、硬度が大きいため摩耗し難く、仮に摩耗して摩耗粉が塗工液に混入した場合であっても体積抵抗率が大きいため電池短絡の原因とならないからである。さらに、保護層30は、外側の保護層32に対して明度差が1.0以上あり、黒や灰色等の有色であるため、外側の保護層32が摩耗して保護層30が露出した場合にも、目視で確認しやすいからである。これらの溶射材料は、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
チャンバー11a表面に接する保護層30、及び、外側の保護層32の厚みとしては、特に制限されないが、通常0.01mm〜5mmである。
【0030】
溶射被膜は、一般には多孔質であるため、溶射被膜の性能の劣化を抑えるために、例えば、特開平6−212391に開示されているような封孔処理を施しても良い。
【0031】
塗工ユニット11のチャンバー11aには、グラビアロール10の周面に対向する面に、グラビアロール10の軸方向に延びる開口部が形成されている。グラビアロール10の回転方向下流のチャンバー11aの開口端部には、例えばPETなどの樹脂製のドクターブレード20がグラビアロール10の周面に当接するように配置され、グラビアロール10の回転方向上流のチャンバー11aの開口端部には、例えばPETなどの樹脂製のシールプレート22がグラビアロール10の周面に当接するように配置されている。
【0032】
ドクターブレード20の先端部およびシールプレート22の先端部は、それぞれグラビアロール10の周面に圧接されることにより、開口部の上端部および下端部をシールしてチャンバー11aを密閉状態に維持するように構成されている。
【0033】
ドクターブレード20は、チャンバー11a内においてグラビアロール10の周面に塗布された余分な塗工液をグラビアロール10の回転に応じて掻き取ることにより、グラビアロール10の周面に塗工される塗工液の厚みを均一に設定する機能を有している。シールプレート22は、グラビアロール10の周面に存在する気泡をグラビアロール10の回転に応じて掻き出し、チャンバー11a内に気泡が浸入するのを効果的に防止する機能を有している。
【0034】
塗工液供給手段12は、塗工液が収容された供給タンク12aと、供給液タンク12a内の塗工液をチャンバー11a内に給送する定量ポンプ12bと、金属異物の除去を行うマグネットフィルター12cと、塗工液に含まれている凝集物の除去を行うカートリッジフィルター12dと、塗工液の比重の計測を行う質量流量計12eとを備えている。ここで供給タンク12aは、所定の速度で回転することにより塗工液の撹拌を行うパドル12fを備えている。
【0035】
また塗工液供給手段12は、定量ポンプ12bから吐出された塗工液をチャンバー11aの塗工液供給口11bに供給する供給通路12gを備えている。またチャンバー11aから排出された塗工液を供給タンク12aに戻す返送通路12hを備えている。
【0036】
なお、供給タンク12aには、塗工液が収容されたストレージタンク14がポンプ16を介して接続されている。供給タンク12における塗工液の減少分がストレージタンク14から供給される。
【0037】
セパレータ基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や芳香族ポリアミド樹脂を含む微多孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;など公知のものを用いることができる。
【0038】
セパレータ基材に塗工する塗工液の粘度は、セパレータ基材に均一に塗工できる観点から、好ましくは2cP以上、より好ましくは5cP以上、特に好ましくは10cP以上であり、好ましくは500cP以下、より好ましくは100cP以下、特に好ましくは50cP以下である。塗工液の粘度は、粘度・粘弾性測定装置(レオストレスHAAKE RS6000、英弘精機株式会社製)を用いて、温度23℃、せん断速度領域1000(1/s)時の粘度である。
【0039】
塗工液には、セパレータに機能性を付与する物質、及び溶媒、必要に応じてその他物質を含む。セパレータに機能性を付与する物質は、二次電池用セパレータに付与したい機能
に応じて適宜選択でき、例えば、セパレータに耐熱性を付与したい場合には、塗工液に耐熱性の物質を含む塗工液を選択する。
【0040】
耐熱性の物質としては、例えば無機粒子、有機粒子を使用することができる。 無機粒子としては、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、BaTiO2、ZrO、アルミナ−シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子等が用いられる。これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等されていてもよく、また単独でも2種以上の組合せからなるものでもよい。これらの中でも、非水系電池を製造した際の電解液中での安定性と電位安定性の観点から酸化物粒子であることが好ましい。
【0041】
有機粒子としては、その溶融温度は、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、特に好ましくは180℃以上である。具体的には、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド等の耐熱性高分子粒子などが例示できる。また、これらの有機粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。
【0042】
セパレータに機能性を付与する物質の平均粒子径(体積平均のD50平均粒子径)は、通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上であり、通常5μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。平均粒子径を前記範囲とすることにより、分散状態の制御と均質な所定の厚さの膜が得られ易くなる。
【0043】
溶媒としては、塗工液中の固形分を均一に分散し得るものであれば特に制限されない。溶媒としては、水および有機溶媒のいずれも使用できる。有機溶媒としては、トルエン、キシレン、メチレンクロライド、クロロホルム、ピリジン、アセトン、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、n−ブチルフタレート、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチルアセテート、二硫化炭素、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロヘキサン、N−メチルピロリドン等が例示される。これらの溶媒は単独でも混合溶媒でも使用することができる。
【0044】
塗工液の固形分濃度は、塗工液を塗工可能な粘度となる濃度であれば特に限定されないが、通常10質量%以上60質量%以下である。
【0045】
塗工液を均一に混合調整する混合装置は、上記成分を均一に混合できる装置であれば特に限定はされず、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどを使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものでは無い。
【0047】
(実施例1)
[溶射被膜の作成]
アルミニウム製(材質A5052)のグラビア塗工装置のチャンバー内面に、第二保護層として硬度1300HV、体積抵抗率107Ω・cm、マンセル値10YR 3.0/4である酸化クロムの溶射被膜をプラズマ溶射法によって形成したのち、第一保護層として硬度1500HV、体積抵抗率1015Ω・cm、マンセル値N−9.5であるホワイトアルミナの溶射被膜をプラズマ溶射法によって形成した。処理面に対してはホワイトアルミナの溶射後にSiO2水溶液を塗布して、無機封孔処理を施した。
[摩耗状態の確認]
表面処理を施したチャンバー面に対し、摩耗促進試験としてガードナー式落砂摩耗試験機を用いて、「建築材料及び建築構成部分の摩耗試験方法(落砂法) JIS A 1452(1972)」に準じた試験方法によって耐傷性試験を行い、以下の判定基準に従って、チャンバーの表面処理層の摩耗状態の判断のし易さを評価した。結果を表1に示す。
(落砂試験条件)
砥粒の材質:SiC
砥粒の粒度:425μm
砥粒の噴射量:400g/min
(判定基準)
A:目視によって容易に第二保護層が露出したことを判断できた。
B:目視によって母材の摩耗前に第二保護層が露出したことを判断できた。
C:目視によって母材の摩耗前に第二保護層が露出したことを判断できなかった。(母材が摩耗した。)
【0048】
(実施例2)
第二保護層として硬度800HV、体積抵抗率1012Ω・cm、マンセル値N−2.0であるチタニアの溶射被膜を形成した以外は、実施例1と同様に溶射被膜の作成を行ない、摩耗状態の判断のし易さを評価した。
【0049】
(実施例3)
第二保護層として硬度1000HV、体積抵抗率1014Ω・cm、マンセル値N−7.0であるグレーアルミナの溶射被膜を形成した以外は、実施例1と同様に溶射被膜の作成を行ない、摩耗状態の判断のし易さを評価した。
【0050】
(実施例4)
第二保護層として硬度800HV、体積抵抗率1012Ω・cm、マンセル値N−2.0であるチタニアの溶射被膜を形成し、第一保護層として硬度900HV、体積抵抗率1012Ω・cm、マンセル値N−9.0であるジルコニアの溶射被膜を形成した。処理面に対しては、ジルコニアの溶射後にSiO2水溶液を塗布して、無機封孔処理を施した。実施例1と同様に摩耗状態の判断のし易さを評価した。
【0051】
(実施例5)
第一保護層として硬度600HV、体積抵抗率1013Ω・cm、マンセル値N−9.0であるイットリアの溶射被膜を形成した以外は、実施例1と同様に溶射被膜の作成を行ない、摩耗状態の判断のし易さを評価した。
【0052】
(比較例1)
第二保護層として硬度1500HV、体積抵抗率1015Ω・cm、マンセル値N−9.5であるホワイトアルミナの溶射被膜を形成し、第一保護層は形成しなかった。処理面に対してはホワイトアルミナの溶射後にSiO2水溶液を塗布して、無機封孔処理を施した。実施例1と同様に摩耗状態の判断のし易さを評価した。
【0053】
(比較例2)
第二保護層として硬度1500HV、体積抵抗率1015Ω・cm、マンセル値N−9.5であるホワイトアルミナの溶射被膜を形成し、第一保護層として硬度600HV、体積抵抗率1013Ω・cm、マンセル値N−9.0であるイットリアの溶射被膜を形成した。処理面に対してはイットリアの溶射後にSiO2水溶液を塗布して、無機封孔処理を施した。実施例1と同様に摩耗状態の判断のし易さを評価した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、チャンバーに形成された第一保護層のマンセル表色系の明度が9.0以上であり、第二保護層のマンセル表色系の明度と第一保護層のマンセル表色系の明度差が1.0以上であるグラビア塗工装置のチャンバーの表面処理層の摩耗試験後の目視判定結果は良好であった。
【符号の説明】
【0056】
2…グラビア塗工装置、10…グラビアロール、11…塗工ユニット、11a…チャンバー、11b…塗工液供給口、12…塗工液供給手段、13…塗工返送給口、20…ドクターブレード、22…シールプレート、30,32…保護層、100…セパレータ基材
図1
図2