(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221870
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】排ガスの処理システム
(51)【国際特許分類】
B01D 53/64 20060101AFI20171023BHJP
C04B 7/60 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
B01D53/64 100
C04B7/60
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-56949(P2014-56949)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-178083(P2015-178083A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】目次 康格
(72)【発明者】
【氏名】古屋 一寿
(72)【発明者】
【氏名】門野 壮
【審査官】
松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第07048779(US,B1)
【文献】
特開平04−180817(JP,A)
【文献】
特開2004−190930(JP,A)
【文献】
特開2002−239410(JP,A)
【文献】
特開2001−276568(JP,A)
【文献】
特開2014−024052(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0031515(US,A1)
【文献】
特開平09−308817(JP,A)
【文献】
米国特許第05505766(US,A)
【文献】
特開2011−084425(JP,A)
【文献】
特開2011−207658(JP,A)
【文献】
特開2002−355531(JP,A)
【文献】
米国特許第05264013(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34−53/73
B01D 53/74−53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
F27D 17/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスに含まれるダストを排ガスから分離する集塵装置と、
前記集塵装置により分離されたダストの少なくとも一部が供給され、前記集塵装置によりダストが分離される前の排ガス中に、前記供給されたダストを散布するダスト供給装置とを含み、
前記ダスト供給装置による前記排ガス中へのダストの散布量は、乾燥基準の排ガス1m3N当たり0.1〜60gであり、
前記ダスト供給装置によって供給されるダスト中の乾燥基準の未燃焼炭素の割合は、1〜10質量%であり、
前記ダスト供給装置によって供給されるダストの粒度分布は、0.1〜200μmであり、
前記ダスト供給装置によって供給されるダストは、乾燥基準でハロゲンを0.1〜2.0質量%含む、排ガスの処理システム。
【請求項2】
前記集塵装置によりダストが分離された後の排ガス中の水銀の濃度を測定する水銀濃度測定装置をさらに含み、
前記ダスト供給装置は、前記水銀濃度測定装置により測定された水銀の濃度に基づいて前記排ガス中に散布するダストの量を制御する、請求項1に記載の排ガスの処理システム。
【請求項3】
前記集塵装置により分離された前記ダストから水銀を除去回収する水銀除去回収装置をさらに含む、請求項1又は2に記載の排ガスの処理システム。
【請求項4】
前記ダスト供給装置は、前記水銀除去回収装置により水銀が除去されたダストを散布する、請求項3に記載の排ガスの処理システム。
【請求項5】
前記集塵装置は、供給口側から排ガスが供給され、排出口側へ排ガスを排出し、
前記集塵装置は、後半部分である前記排出口側で集塵したダストを前記ダスト供給装置に供給する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の排ガスの処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダストを含む排ガスから水銀を除去する、排ガスの処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
2013年10月に「水銀に関する水俣条約外交会議及び準備会合」が開催され、同条約の採択・署名が行われた。今後、環境中への水銀の排出量の削減とその適正管理に向けた取組が強化されていくと思われる。セメント製造では、水銀を微量に含有する天然および廃棄物系の原料を使用しているため、セメントの焼成工程で使用されるセメントキルンから排出されるセメントキルン排ガスには水銀が含まれている。水銀による環境負荷を低減するには、セメントキルン排ガスから水銀を除去して回収する必要がある。しかし、セメントキルン排ガスに低濃度で含まれている水銀を、大量に発生するセメントキルン排ガスから除去することは難しい。このため、従来から、セメントキルン排ガスから水銀を除去する様々な方法が提案されてきた(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のキルン排ガスの処理方法では、100〜500μmの平均粒径の活性炭および粉炭などの吸着材を排ガス中に散布するように投入して排ガス中の水銀を吸着材に吸着させ、フィルタ装置を使用して水銀を吸着した吸着材を捕捉することにより、排ガス中の水銀を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−202106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のキルン排ガスの処理では、活性炭および粉炭などを吸着材として使用する目的で、吸着材を用意するためには、外部から吸着材を調達しなければならない。このため、排ガスから水銀を除去するためのコストが高くなる場合がある。そこで、本発明は、低コストで排ガスに含まれる水銀の含有量を低減できる排ガスの処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、排ガスから捕集したダストを排ガスに供給して、排ガス中のダストの含有量を増やし、その後、排ガス中のダストを集塵することによって排ガス中の水銀の含有量を低減させることができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]排ガスに含まれるダストを排ガスから分離する集塵装置と、集塵装置により分離されたダストの少なくとも一部が供給され、集塵装置によりダストが分離される前の排ガス中に、供給されたダストを散布するダスト供給装置とを含む、排ガスの処理システム。
[2]集塵装置によりダストが分離された後の排ガス中の水銀の濃度を測定する水銀濃度測定装置をさらに含み、ダスト供給装置は、水銀濃度測定装置により測定された水銀の濃度に基づいて排ガス中に散布するダストの量を制御する、上記[1]に記載の排ガスの処理システム。
[3]集塵装置により分離されたダストから水銀を除去回収する水銀除去回収装置をさらに含む、上記[1]に記載の排ガスの処理システム。
[4]ダスト供給装置は、水銀除去回収装置により水銀が除去されたダストを散布する、上記[3]に記載の排ガスの処理システム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低コストで排ガスに含まれる水銀の含有量を低減できる排ガスの処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態における、排ガスの処理システムを含むセメント製造設備を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例の試験の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態における排ガスの処理システムは、集塵装置によって排ガスから分離されたダストを、集塵装置によってダストが分離される前の排ガスに散布して、排ガス中に元々存在しているダストに吸着できなかった水銀を散布したダストに吸着させることにより、排ガス中の水銀の除去率を向上させている。
【0010】
[セメント製造設備]
本発明の一実施形態における排ガスの処理システムを説明する前に、
図1を参照して、セメント製造設備を説明する。
図1は、本発明の一実施形態における、排ガスの処理システムを含むセメント製造設備1を示す模式図である。原料混合・供給システム2からセメント焼成工程(予熱器、セメントキルンおよびエア・クエンチング・クーラー)3へ送られる送窯原料に含まれる水銀は、セメント焼成工程3で排ガス中に揮発する。しかし水銀およびその化合物は沸点が低いので、セメント焼成工程3から煙突に至る排ガス経路の途中で、排ガス温度の低下とともに、ドライヤー4中の原料および排ガス中のダストにその多くが吸着される。排ガス中のダストは、集塵装置110で排ガスから分離され、分離した集塵ダストは原料混合・供給システム2でセメント原料と混合されてセメント焼成工程3へ供給される。なお、
図1の符号5はミルを示し、符号6はスタビライザーを示し、符号120はダスト供給装置を示し、符号130は水銀濃度測定装置を示す。ダスト供給装置120および水銀濃度測定装置130の詳細は後述する。また、点線の領域100は、本発明の排ガスの処理システムが設けられる領域である。
【0011】
[排ガスの処理システム]
次に、
図1を参照して本発明の一実施形態における排ガスの処理システムを説明する。なお、本発明の一実施形態の排ガスの処理システムは、本発明の排ガスの処理システムの一例であり、本発明の排ガスの処理システムは、本発明の一実施形態の排ガスの処理システムに限定されない。本発明の一実施形態における排ガスの処理システム100は、集塵装置110とダスト供給装置120とを含む。所望により、本発明の一実施形態における排ガスの処理システム100は水銀濃度測定装置130をさらに含んでもよい。
【0012】
(集塵装置)
集塵装置110は、排ガスに含まれるダストを排ガスから分離する。集塵装置110は、セメント製造設備で集塵装置として通常用いられるものであればとくに限定されない。たとえば、集塵装置110には、電気集塵装置、バグフィルタおよびマルチクロンなどが挙げられる。
【0013】
集塵装置110により排ガスから分離されたダストの少なくとも一部はダスト供給装置120に移送され、残りは原料混合・供給システム2に移送される。また、ダストが除去された排ガスは煙突7を通して大気中へ排出される。
【0014】
(ダスト供給装置)
ダスト供給装置120は、集塵装置110により排ガスから分離されたダストの少なくとも一部が供給され、集塵装置110によりダストが分離される前の排ガス中に、供給されたダストを散布する。これにより、排ガス中のダストに吸着されなかった水銀は、散布されたダストに吸着するので、集塵装置110によってダストが分離された後の排ガスに含まれる水銀の含有量をさらに低減できる。しかも、ダストは、セメント製造設備で生成するものであり、排ガス中の水銀を除去するための吸着材を新たに購入することなく排ガスに含まれる水銀の含有量を低減できる。排ガス中へのダストの散布量は、たとえば、乾燥基準の排ガス1m
3N当たり0.1〜60gである。
【0015】
たとえば、ダスト供給装置120はダストを貯蔵する貯蔵タンクを備え、供給されたダストを貯蔵タンクに貯蔵してもよい。そして、貯蔵しているダストを、排ガスを集塵装置110に供給するためのダクトの中に散布することにより、排ガス中にダストを散布するようにしてもよい。
【0016】
排ガス中の水銀を効果的に除去するために、ダスト供給装置120によって供給されるダスト中の未燃焼炭素(乾燥基準)の割合は、1〜10質量%であることが好ましく、4〜10質量%であることがより好ましい。また、供給されるダストの粒度分布は、好ましくは0.1〜200μmである。さらに、供給されるダストは、ハロゲン(乾燥基準)を好ましくは0.1〜2.0質量%含む。
【0017】
(水銀濃度測定装置)
水銀濃度測定装置130は、集塵装置110によりダストが分離された後の排ガス中の水銀の濃度を測定する。水銀濃度測定装置130が水銀の濃度を測定する方法には、たとえば、冷原子吸光法が挙げられる。
【0018】
ダスト供給装置120は、水銀濃度測定装置130により測定された水銀の濃度に基づいて排ガス中に散布するダストの量を制御してもよい。たとえば、ダスト供給装置120は、水銀の濃度が所定範囲よりも高い場合は、排ガス中に散布するダストの量を増加させ、水銀の濃度が所定範囲よりも低い場合は、排ガスに散布するダストの量を減少させ、水銀の濃度が所定範囲内にある場合は、排ガスに散布するダストの量を一定に保つようにしてもよい。
【0019】
本発明の一実施形態における排ガスの処理システムを次のように変形することができる。
[変形例1]
本発明の一実施形態における排ガスの処理システムは、集塵装置により排ガスから分離されたダストから水銀を除去回収する水銀除去回収装置をさらに含んでもよい。水銀除去回収装置は、たとえば、ダストを加熱することによりダスト中の水銀を揮発させ、揮発した水銀を吸着材に吸着させることによって、集塵装置により集塵されたダストから水銀を除去回収してもよい。ダストを加熱する温度は、たとえば250〜600℃である。揮発した水銀を吸着させる吸着材は、たとえば活性炭である。
【0020】
また、水銀を除去したダストの少なくとも一部をダスト供給装置に供給し、ダスト供給装置は、集塵装置によりダストが分離される前の排ガス中に、水銀除去回収装置により水銀を除去したダストを散布するようにしてもよい。
【0021】
[変形例2]
集塵装置110の後半部分で集塵したダストをダスト供給装置120に供給し、集塵装置110の前半部分で集塵したダストを原料混合・供給システム2に供給するようにしてもよい。ここで、集塵装置110の前とは、排ガスの供給口側であり、後ろとは排ガスの排出口側である。集塵装置110によりダストが集塵される前の排ガスに、集塵装置110の後半部分で集塵した、粒子径が小さく、未燃炭素を多く含んだダストを供給することにより、より多くの水銀をダストに吸着させることができる。たとえば、集塵装置の集塵するダストを後ろから前へ累積した場合、集塵装置110で集塵するダストの全量に対して、好ましくは0.2〜35質量%、より好ましくは5〜15質量%のダストをダスト供給装置120に供給するようにしてもよい。
【0022】
[変形例3]
集塵装置110の煙突7側にバグフィルタを設置し、バグフィルタで捕集したダストをダスト供給装置120に供給し、バグフィルタで捕集したダストを、集塵装置110によりダストが集塵される前の排ガスに散布してもよい。これにより、粒子径がさらに小さく、未燃炭素を多く含んだダストを供給することができ、より多くの水銀をダストに吸着させることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
【0024】
[ダストの水銀吸着試験]
以下の実施例の試験により、排ガスから集塵したダストにより水銀を吸着できるかを調べた。実施例の試験における構成を
図2に示す。
【0025】
セメント製造設備のセメントキルンから排出された排ガスから集塵したダスト210を実施例の試験に使用した。内径φ23mmの石英カラム220の中に30gのダスト210を充填した。石英カラム220の中でダスト210が充填されている部分の長さは120mmであった。このダストを充填した石英カラム220を管状電気炉230にセットし、120℃に加熱した。
【0026】
水銀ガス発生器240と石英カラム220の入口とは配管L1により接続している。水銀ガス発生器240は水銀の蒸気を発生させる装置である。水銀ガス発生器240には、日本インスツルメンツ社製水銀標準ガス発生器MGS−1を使用した。水銀ガス発生装置240は、エアポンプ250および窒素ボンベ260と接続している。エアポンプ250は10L/分の流量の空気を水銀ガス発生装置240へ供給していた。また、窒素ボンベ260は4ml/分の流量の窒素ガスを水銀ガス発生装置240へ供給していた。水銀ガス発生器240は、50℃の水銀飽和濃度の窒素ガスを発生させる。これをエアポンプからの空気で希釈し、水銀濃度が60μg/m
3Nの水銀含有ガスとする。水銀ガス発生器240から供給されている水銀含有ガスのうち0.5L/分の流量の水銀含有ガスを分取し、分取した水銀含有ガスを石英カラム220に供給した。石英カラム220の出口には、石英カラム220に供給された水銀含有ガスを排出するための配管L2が設けられている。配管L2には流量計270が設けられている。
【0027】
水銀ガス発生器240と石英カラム220の入口との配管L1に流れる、水銀含有ガスの一部を採取して水銀分析計280(日本インスツルメンツ社製、型番:EMP−2)を使用して、石英カラム220に供給される水銀含有ガス中の水銀濃度を測定した。また、石英カラム220から排出される水銀含有ガスの一部を採取して水銀分析計290(日本インスツルメンツ社製、型番:EMP−2)を使用して、石英カラムから排出される水銀含有ガス中の水銀濃度を測定した。
【0028】
実施例の試験の試験条件を以下の表1に示す。
【表1】
【0029】
石英カラム220に供給される水銀含有ガス中の水銀濃度および石英カラム220から排出される水銀含有ガス中の水銀濃度を以下の表2に示す。
【表2】
【0030】
石英カラム220から排出された水銀含有ガス中の水銀濃度は、石英カラム220に供給した水銀含有ガス中の水銀濃度に比べて低いことから、排ガスから分離したダストは、排ガスの温度が集塵装置で排ガスからダストを分離するときの温度である場合も、排ガス中の水銀を吸着できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の排ガスの処理システムは、廃棄物を原料として利用するセメント製造設備に有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 セメント製造設備
2 原料混合・供給システム
3 セメント焼成工程
4 ドライヤー
5 ミル
6 スタビライザー
7 煙突
100 排ガスの処理システム
110 集塵装置
120 ダスト供給装置
130 水銀濃度測定装置
210 ダスト
220 石英カラム
230 管状電気炉
240 水銀発生器
250 エアポンプ
260 窒素ボンベ
270 流量計
280,290 水銀分析計