【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、テレフタル酸を有機配位子とする多孔質金属錯体であって、高耐熱性及び高比表面積を兼ね備えるものについて検討した。その結果、数ある金属イオンクラスターの中からアルミニウムイオンクラスターに注目し、これとテレフタル酸とからなり、特定の結晶構造を有する多孔質金属錯体が高い耐熱性と高比表面積とを兼ね備えることを見出した。さらに、このような多孔質金属錯体は、原料中の含水量に着目し、なおかつ、これを制御することではじめて得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の要旨は以下に存する。
[1]アルミニウムイオンクラスターにテレフタル酸が配位した構造を有し、空間群がFd−3mであることを特徴とする金属錯体。
[2]BET比表面積が1500m
2/g以上であることを特徴とする[1]に記載の金属錯体。
[3]熱分解温度が400℃以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の金属錯体。
[4]アルミニウム源、テレフタル酸及び非プロトン性溶媒を含む原料混合物を反応させる反応工程を有する製造方法であって、前記原料混合物のアルミニウムに対する水のモル比が1.0以下であることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の金属錯体の製造方法。
[5]前記原料混合物のアルミニウム濃度が0.01mol/L以上であることを特徴とする[4]に記載の製造方法。
[6]前記原料混合物のアルミニウムに対するテレフタル酸のモル比が0.20以上であることを特徴とする[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7]前記非プロトン性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、及びN−メチル−2−ピロリドンの群からなる少なくとも1種であることを特徴とする[4]乃至[6]のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
以下、本発明の多孔質金属錯体について説明する。
【0018】
本発明は、金属錯体であり、より具体的には多孔質金属錯体である。多孔質金属錯体とは、金属イオンクラスターと有機配位子からなる骨格構造を有する結晶性有機金属錯体である。
【0019】
本発明の金属錯体の構造を
図1に示す。本発明の金属錯体は、金属イオンクラスターとしてのアルミニウム(Al)イオンクラスターにテレフタル酸が配位した構造である。より具体的には、本発明の金属錯体は、A1
3−Oからなるアルミニウムイオンクラスター(
図1(a))の各アルミニウムイオン(Al
3+)にテレフタル酸アニオンが配位した四面体を単位骨格とする(
図1(b))。本発明の金属錯体の骨格構造は、当該単位骨格が連続して結合し、MTN型ゼオライトと類似した3次元構造を有する(
図1(c))。なお、当該単位骨格はMTNフレームワークの各頂点に相当する位置に存在する。
【0020】
本発明の金属錯体の空間群はFd−3mである。すなわち、本発明の金属錯体の結晶構造の対称性が、空間群Fd−3mに属する。本発明の金属錯体は、アルミニウムイオンクラスター及びテレフタル酸からなる骨格構造を有し、当該空間群に属する結晶構造を有することにより、高い耐熱性及び高い比表面積を兼ね備える。さらには、細孔容積が多くなりやすい。
【0021】
本発明の金属錯体は、粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)パターンにおいて、2θ=3〜17°の範囲に特徴的なピークを有する。すなわち、本発明の金属錯体のXRDパターンは、少なくともとも2θ=5.10±0.1°、5.85±0.1°、8.40±0.1°、及び9.00±0.1°に中強度のXRDピーク、及び2θ=4.90±0.1°、5.55±0.1°、及び、16.50±0.1°に弱強度のXRDピークを有する。本発明の金属錯体の特徴的なXRDピークを表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明の金属錯体の空間群及び結晶構造は、MIL−101(Cr)のXRDパターンと比較することで同定することができる。MIL−101(Cr)は金属イオンクラスターとしてクロムイオンクラスターを有し、これにテレフタル酸が配位した多孔質金属錯体であり、その空間群がFd−3mである。このように、MIL−101(Cr)と同様な結晶構造及び空間群を有することをもって、本発明の金属錯体の結晶構造及び空間群を同定することができる。
【0024】
従来のテレフタル酸を有機配位子として含む多孔質金属錯体と比べて、本発明の金属錯体はより高い耐熱性を有する。そのため、本発明の金属錯体の熱分解温度は400℃以上、更には450℃以上である。本発明の金属錯体は400℃以上であっても、有機配位子の熱分解やアルミニウムイオンクラスター中のアルミニウム−酸素間の結合の熱的な解離が生じにくい。このような高い耐熱性を有することで、本発明の金属錯体を高温下で使用する触媒や吸着剤などの用途で使用することができる。熱分解温度が高いほど、使用できる用途が広がるため、本発明の金属錯体の熱分解温度は490℃以上、更には500℃以上であることが好ましい。
【0025】
本発明において、金属錯体の熱分解温度は熱重量分析(TG分析)により求めることができる。
【0026】
本発明の金属錯体は高い比表面積を有する。本発明の金属錯体の比表面積は、BET比表面積として1500m
2/g以上、更には2500m
2/g以上、また更には3000m
2/g以上である。比表面積が高いほど適用できる用途が多くなるため、本発明の金属錯体のBET比表面積は3200m
2/g以上であることが好ましい。
【0027】
本発明の金属錯体のBET比表面積は4500m
2/g以下、更には4000m
2/g以下である。好ましいBET比表面積の範囲として、例えば、3200m
2/g以上4500m
2/gを挙げることができる。
【0028】
BET比表面積は窒素吸着法により測定することができる。例えば、乾燥処理した金属錯体を真空脱気した後、77Kで窒素ガスを導入し、その平衡圧と吸着量を測定して吸着等温線を得る。得られた吸着等温線からBET比表面積を求めればよい。
【0029】
本発明の金属錯体は細孔容積が0.9cm
3/g以上、更には1.0cm
3/g以上、また更には1.5cm
3/g以上である。細孔容積が多くなるほど被吸着物質の吸着量が多くなりやすい。
【0030】
本発明の金属錯体を触媒、吸着剤又はドラッグデリバリーシステムなどの用途で使用する場合、例えば、細孔容積は4.0cm
3/g以下、更には3.0cm
3/g以下であればよい。
【0031】
上記の様に、本発明の金属錯体はMIL−101(Cr)と同様な構造を有する。そのため、本発明の金属錯体は細孔径29Åの細孔、及び細孔径34Åの2種類の細孔を有する。
【0032】
次に、本発明の金属錯体の製造方法について説明する。
【0033】
本発明の金属錯体は、アルミニウム源、テレフタル酸及び非プロトン性溶媒を含む原料混合物を反応させる反応工程を有する製造方法であって、前記原料混合物のアルミニウムに対する水のモル比が1.0以下であることを特徴とする製造方法により得ることができる。
【0034】
本発明の製造方法は、アルミニウム源、テレフタル酸及び非プロトン性溶媒を含む原料混合物を反応させる反応工程を有する。非プロトン性溶媒中でアルミニウム源及びテレフタル酸を反応させ、これを結晶化することで本発明の金属錯体を得ることができる。
【0035】
反応工程における原料混合物のアルミニウムに対する水のモル比(mol/mol)(以下、「H
2O/Al」とする。)は1.0以下、更には0.5以下、また更には0.2以下である。H
2O/Alが1.0を超えると、本発明の金属錯体が得られない。例えば、H
2O/Alが1.0を超えた場合、得られる金属錯体は空間群がFd−3m以外の金属錯体、例えば、MIL−53(Al)やMIL−68(Al)、又はこれらを含んだ金属錯体となる。H
2O/Alは1.0以下であればよいが、H
2O/Alは0.1以下、更には0.05以下であってもよい。
【0036】
なお、原料混合物中の水(H
2O)にはアルミニウム源やテレフタル酸、更には非プロトン性溶媒のいずれかに由来する結晶水、吸着水及びその他の水を含む。
【0037】
アルミニウム源は、アルミニウムを含む化合物であり、なおかつ、原料混合物中のH
2O/Alが1.0以下となるものであればよい。アルミニウム源として、塩化アルミニウム、塩化アルミニウム6水和物、フッ化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウム16水和物、硝酸アルミニウム、硝酸アルミニウム9水和物、水酸化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、及びアルミニウムイソプロポキシドの群から選ばれる少なくとも1種、更には塩化アルミニウム、フッ化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、及びアルミニウムイソプロポキシドの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0038】
原料混合物中のH
2O/Alをより低くするため、アルミニウム源は、ハロゲン化アルミニウムの無水物、更には無水塩化アルミニウムであることが好ましい。アルミニウム源は固体であってもよく、非プロトン性溶媒に溶解したアルミニウム源溶液とであってもよい。
【0039】
原料混合物のアルミニウム濃度として、0.01mol/L以上、更には0.03mol/L以上を挙げることができる。また、アルミニウム濃度は、2.0mol/L以下、更には1.0mol/L以下であればよい。
【0040】
テレフタル酸は吸着水などの水分が少ないものであればよく、原料混合物中のH
2O/Alが1.0以下となるものであればよい。テレフタル酸は、1位と4位にカルボン酸基を有するベンゼン環からなる芳香族化合物であり、カルボン酸基以外の置換基を有さない芳香族化合物である。したがって、アミノテレフタル酸やメチルテレフタル酸など、カルボン酸基以外の置換基を有するテレフタル酸は含まない。テレフタル酸は、その純度が90重量%以上、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上であることが好ましい。テレフタル酸は固体であってもよく、非プロトン性溶媒に溶解されたテレフタル酸溶液であってもよい。
【0041】
原料混合物中のテレフタル酸濃度は、原料混合物中のアルミニウムに対するテレフタル酸のモル比(mol/mol)(以下、「TA/Al」とする)として、0.2以上、更には0.4以上を挙げることができる。TA/Alが0.2以上であることで、本発明の金属錯体の収率が高くなる傾向がある。TA/Alは1.2以下、更には1.0以下であれば、十分な収率で本発明の金属錯体が得られる。
【0042】
非プロトン性溶媒は、プロトン供与性を有さない極性又は非極性の溶媒であり、なおかつ、原料混合物中のH
2O/Alが1.0以下となるものであればよい。具体的な非プロトン性溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、及びN−メチル−2−ピロリドンの群からなる少なくとも1種を挙げることができる。本発明の金属錯体が得られやすくなることから、非プロトン性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN,N−ジエチルホルムアミドの群から選ばれる少なくとも1種、更にはN,N−ジメチルホルムアミドであることが好ましい。
【0043】
反応工程における反応は、例えば、アルミニウム源、テレフタル酸、及び非プロトン性溶媒を混合して原料混合物を得た後に当該原料混合物を所定の反応温度として結晶化させること、アルミニウム源又はテレフタル酸のいずれか一方の原料と非プロトン性溶媒とを混合した後、所定の反応温度としてから、テレフタル酸又はアルミニウム源の他方の原料をこれに混合して原料混合物とし、当該原料混合物を結晶化させること、並びに、非プロトン性溶媒を所定の反応温度とした後、アルミニウム源、テレフタル酸、又はこれらの混合物を非プロトン性溶媒に混合して原料混合物とし、当該原料混合物を結晶化させることが挙げられる。
【0044】
反応工程においては、原料混合物を加熱することでこれを結晶化して本発明の金属錯体を得る。反応工程では上記の原料混合物を使用するため、高い反応温度を必要としない。
そのため、反応工程における反応温度は200℃未満、更には170℃以下、また更には160℃以下、また更には130℃以下とすることができる。反応温度は90℃以上、更には100℃以上、また更には110℃以上であれば、原料混合物の結晶化が促進されやすくなる。反応時間との兼ね合いから、反応温度は90℃以上、150℃以下であることが好ましい。
【0045】
反応中に反応温度を変化させてもよい。例えば、上記の温度範囲であれば、反応中の温度を反応開始温度より高い温度としてもよく、反対に、反応開始温度より低い温度としてもよい。
【0046】
反応工程における反応時間は温度が高くなるほど反応に要する時間が短くなる傾向がある。反応時間として、0.5時間以上、36時間以下、更には1時間以上、24時間以下を挙げることができる。
【0047】
反応工程は1気圧以上、2気圧以下で行うことができる。一般的な反応装置を使用することができるため、反応工程は開放系、例えば、大気中で行うことが好ましい。一方、反応工程はオートクレーブ等の密閉型反応器を用いてさらに高い圧力で反応させてもよい。
【0048】
反応工程において、反応は原料混合物を静置して行ってもよいが、原料混合物を攪拌しながら反応させてもよく、攪拌した後にこれを停止し、静置しながら反応させてもよい。反応の初期段階、例えば、テレフタル酸とアルミニウム源とが反応温度にて反応を開始してから1時間以内、において原料混合物を攪拌しながら反応させることにより、本発明の金属錯体が得られやすくなる。
【0049】
本発明の製造方法において、反応工程の後に洗浄工程又は焼成工程を含んでいてもよい。
【0050】
洗浄工程では、金属錯体に付着した不純物を除去することができる。洗浄方法は任意であるが、原料混合物に含まれる非プロトン性溶媒と同じ種類の溶媒や、アルコールなどにより洗浄することが挙げられる。
【0051】
焼成工程では、未反応のテレフタル酸や、金属錯体に吸着する溶媒を除去する。焼成方法は任意で得あるが、種々のガス雰囲気や減圧下における加熱処理を挙げることができる。加熱処理の条件としては、例えば、乾燥空気、乾燥窒素気流下及び減圧下のいずれか任意の雰囲気中、100〜500℃で1〜100時間加熱処理する方法が挙げられる。