特許第6221910号(P6221910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221910
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】金属錯体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 63/26 20060101AFI20171023BHJP
   C07C 51/41 20060101ALI20171023BHJP
   C07F 5/06 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
   C07C63/26 Z
   C07C51/41
   !C07F5/06 D
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-77074(P2014-77074)
(22)【出願日】2014年4月3日
(65)【公開番号】特開2015-196677(P2015-196677A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前浜 誠司
(72)【発明者】
【氏名】小林 渉
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0076220(US,A1)
【文献】 特表2009−506991(JP,A)
【文献】 Microporous and Mesoporous Materials,2012年,164,pp.38-43
【文献】 American Chemical Society,2011年,23,pp.2565-2572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 63/26
C07C 51/41
C07F 5/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムイオンクラスターにテレフタル酸が配位した構造を有し、空間群がFd−3mであることを特徴とする金属錯体。
【請求項2】
BET比表面積が1500m/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
熱分解温度が400℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属錯体。
【請求項4】
アルミニウム源、テレフタル酸及び非プロトン性溶媒を含む原料混合物を反応させる反応工程を有する製造方法であって、前記原料混合物のアルミニウムに対する水のモル比が1.0以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の金属錯体の製造方法。
【請求項5】
前記原料混合物のアルミニウム濃度が0.01mol/L以上であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料混合物のアルミニウムに対するテレフタル酸のモル比が0.20以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記非プロトン性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、及びN−メチル−2−ピロリドンの群からなる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属錯体に関する。より詳しくは、安価、かつ実用的であって、吸着剤、触媒等の用途への適用が期待できる多孔質金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属イオンクラスターと有機配位子から構成される多孔質金属錯体(Metal Organic Framework;MOF)は、ゼオライトや活性炭等と比べ、高い比表面積や細孔容積を有する。そのため、ゼオライト等に代わる多孔質金属錯体はガスの吸着、分離、及び貯蔵、並びに触媒用途、更には、ドラッグデリバリー等の用途への応用が期待されている。
【0003】
テレフタル酸は、多種類の金属イオンと多孔質金属錯体を形成すること、及び、工業的に安価な原料であることから、最も重要な2価の有機配位子のひとつとされている。テレフタル酸を有機配位子として含む多孔質金属錯体として、MIL−53(Cr)、MIL−53(Al)、MIL−53(V)、MIL−68(Al)、MIL−88B(Cr)、MIL−88B(Fe)、MIL−101(Cr)、及びMIL−101(Fe)などが具体的に挙げられる。
【0004】
例えば、非特許文献1にはクロム(Cr)イオンクラスターとテレフタル酸の配位結合で構成された、MIL−101(Cr)が開示されている。MIL−101(Cr)は3000m/g以上のBET比表面積及び、細孔径29Åの細孔、及び細孔径34Åの細孔を有し、なおかつ、300℃程度の耐熱性を有する。
【0005】
非特許文献2には、鉄(Fe)イオンクラスターとテレフタル酸の配位結合で構成された、MIL−101(Fe)が開示されている。MIL−101(Fe)は、BET比表面積が3200m/gであり、なおかつ、細孔容積が1.4cm/gであった。
【0006】
アルミニウムイオンクラスターとテレフタル酸との配位結合で構成された多孔質金属錯体として、MIL−53(Al)が非特許文献3に、MIL−68(Al)が非特許文献4にそれぞれ報告されている。
【0007】
さらに、非特許文献5には、テレフタル酸の類縁化合物を有機配位子とする多孔質金属錯体として、アルミニウム(Al)イオンクラスターと2−アミノテレフタル酸から構成される、NH−MIL−101(Al)が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Science,Vol.309,pp.2040−2042(2005)
【非特許文献2】Chem.Commun.,Issue48,pp.6812−6814(2012)
【非特許文献3】Chem.Commun.,Issue24,pp.2976−2977(2003)
【非特許文献4】J.Mater.Chem.,Vol.22,pp.10210−10220(2012)
【非特許文献5】Chem. Mater.,Vol.23,pp.2565−2572(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
MIL−101(Cr)は、毒性を有するクロムイオン含む多孔質金属錯体であった。そのため、MIL−101(Cr)は環境用途や生体用途で使用することはできない。さらに、MIL−101(Cr)の熱分解温度は300℃であり、熱処理による劣化しやすいだけではなく、適用できる用途が限定される。また更には、MIL−101(Cr)の合成には、200℃以上の高温、及び毒性の高いフッ化水素(HF)の使用を必須とする。そのため、その合成には特殊な装置、管理が必要でありコストが高くなるという問題があった。
【0010】
また、MIL−101(Fe)は、その熱分解温度が180℃程度であり、MIL−101(Cr)よりも熱処理による劣化しやすいだけではなく、適用できる用途がさらに限定される。
【0011】
MIL−53(Al)は、その結晶構造が属する空間群はPnamであり、MIL−68(Al)は、その結晶構造が属する空間群はCmcmである。MIL−53(Al)及びMIL−68(Al)は、比較的高い耐熱性を有するが、このような結晶構造のため比表面積が1500m/g程度と低かった。そのため、吸着剤等の用途とするには、より高い比表面積及び細孔容積を必要とする。
【0012】
NH−MIL−101(Al)は、MIL−101(Cr)に類似した構造を有するため、比表面積及び細孔容積は比較的高い。しかしながら、その熱分解温度は約250℃と低い。そのため、NH−MIL−101(Al)は、MIL−101(Cr)以上に使用される用途が限定される。さらに、2−アミノテレフタル酸は高価な化合物であり、2−アミノテレフタル酸を含むNH−MIL−101(Al)それ自体も高価であった。
【0013】
このように、テレフタル酸を有機配位子とする多孔質金属錯体は、高比表面積を有するが耐熱性の低いもの、又は高い耐熱性を有するが比表面積が小さいものしかなかった。
【0014】
これらの課題に鑑み、本発明はテレフタル酸を配位子とする多孔質金属錯体であって、高い耐熱性及び高比表面積を兼ね備えた多孔質金属錯体を提供することを目的とする。さらには、この様な多孔質金属錯体の簡便な製造方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、テレフタル酸を有機配位子とする多孔質金属錯体であって、高耐熱性及び高比表面積を兼ね備えるものについて検討した。その結果、数ある金属イオンクラスターの中からアルミニウムイオンクラスターに注目し、これとテレフタル酸とからなり、特定の結晶構造を有する多孔質金属錯体が高い耐熱性と高比表面積とを兼ね備えることを見出した。さらに、このような多孔質金属錯体は、原料中の含水量に着目し、なおかつ、これを制御することではじめて得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の要旨は以下に存する。
[1]アルミニウムイオンクラスターにテレフタル酸が配位した構造を有し、空間群がFd−3mであることを特徴とする金属錯体。
[2]BET比表面積が1500m/g以上であることを特徴とする[1]に記載の金属錯体。
[3]熱分解温度が400℃以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の金属錯体。
[4]アルミニウム源、テレフタル酸及び非プロトン性溶媒を含む原料混合物を反応させる反応工程を有する製造方法であって、前記原料混合物のアルミニウムに対する水のモル比が1.0以下であることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の金属錯体の製造方法。
[5]前記原料混合物のアルミニウム濃度が0.01mol/L以上であることを特徴とする[4]に記載の製造方法。
[6]前記原料混合物のアルミニウムに対するテレフタル酸のモル比が0.20以上であることを特徴とする[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7]前記非プロトン性溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、及びN−メチル−2−ピロリドンの群からなる少なくとも1種であることを特徴とする[4]乃至[6]のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
以下、本発明の多孔質金属錯体について説明する。
【0018】
本発明は、金属錯体であり、より具体的には多孔質金属錯体である。多孔質金属錯体とは、金属イオンクラスターと有機配位子からなる骨格構造を有する結晶性有機金属錯体である。
【0019】
本発明の金属錯体の構造を図1に示す。本発明の金属錯体は、金属イオンクラスターとしてのアルミニウム(Al)イオンクラスターにテレフタル酸が配位した構造である。より具体的には、本発明の金属錯体は、A1−Oからなるアルミニウムイオンクラスター(図1(a))の各アルミニウムイオン(Al3+)にテレフタル酸アニオンが配位した四面体を単位骨格とする(図1(b))。本発明の金属錯体の骨格構造は、当該単位骨格が連続して結合し、MTN型ゼオライトと類似した3次元構造を有する(図1(c))。なお、当該単位骨格はMTNフレームワークの各頂点に相当する位置に存在する。
【0020】
本発明の金属錯体の空間群はFd−3mである。すなわち、本発明の金属錯体の結晶構造の対称性が、空間群Fd−3mに属する。本発明の金属錯体は、アルミニウムイオンクラスター及びテレフタル酸からなる骨格構造を有し、当該空間群に属する結晶構造を有することにより、高い耐熱性及び高い比表面積を兼ね備える。さらには、細孔容積が多くなりやすい。
【0021】
本発明の金属錯体は、粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)パターンにおいて、2θ=3〜17°の範囲に特徴的なピークを有する。すなわち、本発明の金属錯体のXRDパターンは、少なくともとも2θ=5.10±0.1°、5.85±0.1°、8.40±0.1°、及び9.00±0.1°に中強度のXRDピーク、及び2θ=4.90±0.1°、5.55±0.1°、及び、16.50±0.1°に弱強度のXRDピークを有する。本発明の金属錯体の特徴的なXRDピークを表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明の金属錯体の空間群及び結晶構造は、MIL−101(Cr)のXRDパターンと比較することで同定することができる。MIL−101(Cr)は金属イオンクラスターとしてクロムイオンクラスターを有し、これにテレフタル酸が配位した多孔質金属錯体であり、その空間群がFd−3mである。このように、MIL−101(Cr)と同様な結晶構造及び空間群を有することをもって、本発明の金属錯体の結晶構造及び空間群を同定することができる。
【0024】
従来のテレフタル酸を有機配位子として含む多孔質金属錯体と比べて、本発明の金属錯体はより高い耐熱性を有する。そのため、本発明の金属錯体の熱分解温度は400℃以上、更には450℃以上である。本発明の金属錯体は400℃以上であっても、有機配位子の熱分解やアルミニウムイオンクラスター中のアルミニウム−酸素間の結合の熱的な解離が生じにくい。このような高い耐熱性を有することで、本発明の金属錯体を高温下で使用する触媒や吸着剤などの用途で使用することができる。熱分解温度が高いほど、使用できる用途が広がるため、本発明の金属錯体の熱分解温度は490℃以上、更には500℃以上であることが好ましい。
【0025】
本発明において、金属錯体の熱分解温度は熱重量分析(TG分析)により求めることができる。
【0026】
本発明の金属錯体は高い比表面積を有する。本発明の金属錯体の比表面積は、BET比表面積として1500m/g以上、更には2500m/g以上、また更には3000m/g以上である。比表面積が高いほど適用できる用途が多くなるため、本発明の金属錯体のBET比表面積は3200m/g以上であることが好ましい。
【0027】
本発明の金属錯体のBET比表面積は4500m/g以下、更には4000m/g以下である。好ましいBET比表面積の範囲として、例えば、3200m/g以上4500m/gを挙げることができる。
【0028】
BET比表面積は窒素吸着法により測定することができる。例えば、乾燥処理した金属錯体を真空脱気した後、77Kで窒素ガスを導入し、その平衡圧と吸着量を測定して吸着等温線を得る。得られた吸着等温線からBET比表面積を求めればよい。
【0029】
本発明の金属錯体は細孔容積が0.9cm/g以上、更には1.0cm/g以上、また更には1.5cm/g以上である。細孔容積が多くなるほど被吸着物質の吸着量が多くなりやすい。
【0030】
本発明の金属錯体を触媒、吸着剤又はドラッグデリバリーシステムなどの用途で使用する場合、例えば、細孔容積は4.0cm/g以下、更には3.0cm/g以下であればよい。
【0031】
上記の様に、本発明の金属錯体はMIL−101(Cr)と同様な構造を有する。そのため、本発明の金属錯体は細孔径29Åの細孔、及び細孔径34Åの2種類の細孔を有する。
【0032】
次に、本発明の金属錯体の製造方法について説明する。
【0033】
本発明の金属錯体は、アルミニウム源、テレフタル酸及び非プロトン性溶媒を含む原料混合物を反応させる反応工程を有する製造方法であって、前記原料混合物のアルミニウムに対する水のモル比が1.0以下であることを特徴とする製造方法により得ることができる。
【0034】
本発明の製造方法は、アルミニウム源、テレフタル酸及び非プロトン性溶媒を含む原料混合物を反応させる反応工程を有する。非プロトン性溶媒中でアルミニウム源及びテレフタル酸を反応させ、これを結晶化することで本発明の金属錯体を得ることができる。
【0035】
反応工程における原料混合物のアルミニウムに対する水のモル比(mol/mol)(以下、「HO/Al」とする。)は1.0以下、更には0.5以下、また更には0.2以下である。HO/Alが1.0を超えると、本発明の金属錯体が得られない。例えば、HO/Alが1.0を超えた場合、得られる金属錯体は空間群がFd−3m以外の金属錯体、例えば、MIL−53(Al)やMIL−68(Al)、又はこれらを含んだ金属錯体となる。HO/Alは1.0以下であればよいが、HO/Alは0.1以下、更には0.05以下であってもよい。
【0036】
なお、原料混合物中の水(HO)にはアルミニウム源やテレフタル酸、更には非プロトン性溶媒のいずれかに由来する結晶水、吸着水及びその他の水を含む。
【0037】
アルミニウム源は、アルミニウムを含む化合物であり、なおかつ、原料混合物中のHO/Alが1.0以下となるものであればよい。アルミニウム源として、塩化アルミニウム、塩化アルミニウム6水和物、フッ化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウム16水和物、硝酸アルミニウム、硝酸アルミニウム9水和物、水酸化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、及びアルミニウムイソプロポキシドの群から選ばれる少なくとも1種、更には塩化アルミニウム、フッ化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムエトキシド、及びアルミニウムイソプロポキシドの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0038】
原料混合物中のHO/Alをより低くするため、アルミニウム源は、ハロゲン化アルミニウムの無水物、更には無水塩化アルミニウムであることが好ましい。アルミニウム源は固体であってもよく、非プロトン性溶媒に溶解したアルミニウム源溶液とであってもよい。
【0039】
原料混合物のアルミニウム濃度として、0.01mol/L以上、更には0.03mol/L以上を挙げることができる。また、アルミニウム濃度は、2.0mol/L以下、更には1.0mol/L以下であればよい。
【0040】
テレフタル酸は吸着水などの水分が少ないものであればよく、原料混合物中のHO/Alが1.0以下となるものであればよい。テレフタル酸は、1位と4位にカルボン酸基を有するベンゼン環からなる芳香族化合物であり、カルボン酸基以外の置換基を有さない芳香族化合物である。したがって、アミノテレフタル酸やメチルテレフタル酸など、カルボン酸基以外の置換基を有するテレフタル酸は含まない。テレフタル酸は、その純度が90重量%以上、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上であることが好ましい。テレフタル酸は固体であってもよく、非プロトン性溶媒に溶解されたテレフタル酸溶液であってもよい。
【0041】
原料混合物中のテレフタル酸濃度は、原料混合物中のアルミニウムに対するテレフタル酸のモル比(mol/mol)(以下、「TA/Al」とする)として、0.2以上、更には0.4以上を挙げることができる。TA/Alが0.2以上であることで、本発明の金属錯体の収率が高くなる傾向がある。TA/Alは1.2以下、更には1.0以下であれば、十分な収率で本発明の金属錯体が得られる。
【0042】
非プロトン性溶媒は、プロトン供与性を有さない極性又は非極性の溶媒であり、なおかつ、原料混合物中のHO/Alが1.0以下となるものであればよい。具体的な非プロトン性溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、及びN−メチル−2−ピロリドンの群からなる少なくとも1種を挙げることができる。本発明の金属錯体が得られやすくなることから、非プロトン性溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN,N−ジエチルホルムアミドの群から選ばれる少なくとも1種、更にはN,N−ジメチルホルムアミドであることが好ましい。
【0043】
反応工程における反応は、例えば、アルミニウム源、テレフタル酸、及び非プロトン性溶媒を混合して原料混合物を得た後に当該原料混合物を所定の反応温度として結晶化させること、アルミニウム源又はテレフタル酸のいずれか一方の原料と非プロトン性溶媒とを混合した後、所定の反応温度としてから、テレフタル酸又はアルミニウム源の他方の原料をこれに混合して原料混合物とし、当該原料混合物を結晶化させること、並びに、非プロトン性溶媒を所定の反応温度とした後、アルミニウム源、テレフタル酸、又はこれらの混合物を非プロトン性溶媒に混合して原料混合物とし、当該原料混合物を結晶化させることが挙げられる。
【0044】
反応工程においては、原料混合物を加熱することでこれを結晶化して本発明の金属錯体を得る。反応工程では上記の原料混合物を使用するため、高い反応温度を必要としない。
そのため、反応工程における反応温度は200℃未満、更には170℃以下、また更には160℃以下、また更には130℃以下とすることができる。反応温度は90℃以上、更には100℃以上、また更には110℃以上であれば、原料混合物の結晶化が促進されやすくなる。反応時間との兼ね合いから、反応温度は90℃以上、150℃以下であることが好ましい。
【0045】
反応中に反応温度を変化させてもよい。例えば、上記の温度範囲であれば、反応中の温度を反応開始温度より高い温度としてもよく、反対に、反応開始温度より低い温度としてもよい。
【0046】
反応工程における反応時間は温度が高くなるほど反応に要する時間が短くなる傾向がある。反応時間として、0.5時間以上、36時間以下、更には1時間以上、24時間以下を挙げることができる。
【0047】
反応工程は1気圧以上、2気圧以下で行うことができる。一般的な反応装置を使用することができるため、反応工程は開放系、例えば、大気中で行うことが好ましい。一方、反応工程はオートクレーブ等の密閉型反応器を用いてさらに高い圧力で反応させてもよい。
【0048】
反応工程において、反応は原料混合物を静置して行ってもよいが、原料混合物を攪拌しながら反応させてもよく、攪拌した後にこれを停止し、静置しながら反応させてもよい。反応の初期段階、例えば、テレフタル酸とアルミニウム源とが反応温度にて反応を開始してから1時間以内、において原料混合物を攪拌しながら反応させることにより、本発明の金属錯体が得られやすくなる。
【0049】
本発明の製造方法において、反応工程の後に洗浄工程又は焼成工程を含んでいてもよい。
【0050】
洗浄工程では、金属錯体に付着した不純物を除去することができる。洗浄方法は任意であるが、原料混合物に含まれる非プロトン性溶媒と同じ種類の溶媒や、アルコールなどにより洗浄することが挙げられる。
【0051】
焼成工程では、未反応のテレフタル酸や、金属錯体に吸着する溶媒を除去する。焼成方法は任意で得あるが、種々のガス雰囲気や減圧下における加熱処理を挙げることができる。加熱処理の条件としては、例えば、乾燥空気、乾燥窒素気流下及び減圧下のいずれか任意の雰囲気中、100〜500℃で1〜100時間加熱処理する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0052】
本発明により、テレフタル酸を配位子とする多孔質金属錯体であって、高い耐熱性及び高比表面積を兼ね備えた多孔質金属錯体を提供することができる。さらには、本発明の金属錯体は毒性を示す金属を含まないため、ドラッグデリバリー等の用途にも適用できる金属錯体を提供することができる。
【0053】
さらに、本発明の金属錯体は窒素吸着剤として使用することができ、なおかつ、これ以外の吸着剤、触媒とすることが期待できる。
【0054】
本発明の製造方法により、この様な多孔質金属錯体の簡便な製造方法を提供することができる。さらには、本発明の製造方法により、アルミニウム源とテレフタル酸という安価な原料から金属錯体が得られるため、安価な金属錯体及びその製造方法として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明の金属錯体の構造((a)アルミニウムイオンクラスター、(b)単位骨格、(c)骨格構造)
図2】実施例1の金属錯体のXRDパターン(上:実施例1、下:対象サンプル)
図3】実施例1の金属錯体の窒素吸着等温線(●:実施例1、■:対象サンプル)
図4】実施例1の金属錯体のTGチャート(実線:実施例1、破線:対象サンプル)
図5】実施例2の金属錯体のXRDパターン
図6】実施例3の金属錯体のXRDパターン
図7】比較例1の金属錯体のXRDパターン
図8】比較例2の金属錯体のXRDパターン
図9】比較例3の金属錯体のXRDパターン
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではない。以下、評価方法及び評価条件を示す。
【0057】
(結晶構造の同定)
試料の結晶構造はXRD測定により測定した。得られた試料のXRDパターンと、対象サンプルのXRDパターンとを対比することで、その結晶構造及び空間群を同定した。XRD測定の測定装置及び測定条件は以下のとおりである。
【0058】
装置 :M03XHF、マックサイエンス社製
X線源 :Cu−Kα線
測定範囲 :2θ=3〜43°
ステップ幅:0.02°/sec
なお、対象サンプルは、以下に示した方法で合成したMIL−101(Cr)を使用した。
【0059】
(BET比表面積および細孔容積)
試料のBET比表面積及び細孔容積はBET多点法により測定した。BET比表面積及び細孔容積の測定装置及び測定条件は以下のとおりである。
【0060】
装置 :BELSORP 28SA、日本ベル株式会社製
解析ソフトウェア:BELMaster バージョン5.3.3.0
前処理 :200℃、6.5時間、脱気処理
吸着ガス :窒素
吸脱着温度 :−196℃(窒素の沸点)
比表面積の算出に用いた平衡相対圧:0.05<p/p<0.15。
【0061】
(熱分解温度の評価)
試料の熱分解温度をTGにより測定した。TG測定の測定装置及び測定条件は以下のとおりである。
【0062】
装置 :TG/DTA6300、SEIKO社製
温度範囲 :20〜600℃
昇温速度 :10℃/min
ガス雰囲気 :乾燥空気
TG測定により得られた重量減少曲線の変曲点における接線と基線との延長線との交点に対応する温度を熱分解温度とした。
【0063】
(対象サンプルの合成)
本発明の金属錯体の結晶構造及び空間群を同定するために、対象サンプルとしてMIL−101(Cr)を合成した。MIL−101(Cr)は、非特許文献1のMIL−101(Cr)の合成方法に準じた方法で合成した。
【0064】
すなわち、テフロン(登録商標)内筒密閉容器に硝酸クロム9水和物1.20g(3mmol)、テレフタル酸0.498g(3mmol)、フッ化水素3mmol、及び脱イオン水15mLを混合し、これを220℃で8時間加熱した。自然放冷後、粗いグラスフィルターで未反応のテレフタル酸を取り除いた後、アセトンでリンス洗浄した。洗浄後、窒素気流下、100℃で3時間乾燥させることで淡緑色固体1.21gを得、これを対象サンプルとした。また、対象サンプルのBET比表面積は3370m/g、また細孔容積は1.84cm/gであった。
【0065】
当該対象サンプルのXRDパターンは、非特許文献1のFig.4に記載された空間群Fd−3mのMIL−101(Cr)のXRDパターン、及び参考文献(Chem.Commun.,pp.4192−4194(2008))のFig.S3に記載された計算によるMIL−101(Cr)のXRDパターンと同様なパターンを示した。これより、対象サンプルは空間群Fd−3mのMIL−101(Cr)であることが確認できた。
【0066】
実施例1
<合成>
200mLのナスフラスコに無水塩化アルミニウム0.67g(5.0mmol)、テレフタル酸0.50g(3.0mmol)及び、含水量が10重量ppm以下のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」とする。)120mLを混合して原料混合物を得た。原料混合物のHO/Alは検出限界(0.02)以下、TA/Alは0.6、及びアルミニウム濃度は0.042mol/Lであった。
【0067】
当該原料混合物を撹拌しながら20分で110℃まで加熱し、攪拌を継続したまま110℃で3時間保持した。その後、撹拌を停止し、110℃で12時間静置することで白色固体状の金属錯体を得た。
【0068】
当該金属錯体をろ過して回収し、20mLのDMFで洗浄した後に、20mLのエタノールでリンス洗浄した。洗浄後の金属錯体を、窒素気流下、100℃で3時間乾燥することで0.66gの粗製物を得た。当該粗製物0.50gをエタノール25mLに分散させ、80℃で12時間洗浄した。洗浄後、ろ過後、乾燥窒素流通下、100℃で6時間加熱することで本実施例の金属錯体とした。
【0069】
<評価>
本実施例の金属錯体のXRDパターンは、対象サンプルのXRDパターンと同一であった。これより、本実施例の金属錯体は、空間群Fd−3mであり、MIL−101(Cr)と同一の結晶構造を有することが確認できた。本実施例の金属錯体のXRDパターンを図2に示し、主なXRDピークを表2に示した。
【0070】
【表2】
【0071】
本実施例の金属錯体は、比表面積が3030m/g、及び細孔容積が1.56cm/gであった。これにより当該金属錯体は高い比表面積と細孔容積を有していることが確認できた。
【0072】
当該金属錯体および対象サンプル(MIL−101(Cr))の窒素吸着等温線を図3に示した。当該金属錯体は、その吸着等温線はMIL−101(Cr)と同様な吸着挙動を示すことが確認できた。これにより、当該金属錯体がMIL−101(Cr)と同様な細孔構造を有すること、すなわち、細孔径29Åの細孔、及び細孔径34Åの2種類の細孔を有することが示唆された。また、本発明の金属錯体が窒素吸着剤として適用できることが確認できた。
【0073】
本実施例の金属錯体及び対象サンプルの熱分解挙動を図4に示した。本実施例の金属錯体の熱分解温度は500℃であったのに対し、MIL−101(Cr)の熱分解温度は310℃であった。これより、MIL−101(Cr)と有機配位子、結晶構造及び空間群が同じであるにも関わらず、本実施例の金属錯体はMIL−101(Cr)と比べて著しく高い熱分解温度を有することが確認できた。結果を表3に示した。
【0074】
実施例2
<合成>
200mLのナスフラスコに無水塩化アルミニウム0.67g(5.0mmol)、テレフタル酸0.50g(3.0mmol)、及び、含水量が250重量ppmのDMF60mLを混合し、原料混合物を得た。当該原料混合物のHO/Alは0.16、TA/Alは0.6、及びアルミニウム濃度は0.083mol/Lであった。
【0075】
当該原料混合物を撹拌しながら20分で130℃まで加熱し、攪拌を継続したまま130℃で3時間保持した。その後、撹拌を停止し、130℃で12時間静置することで白色固体状の金属錯体を得た。
【0076】
当該金属錯体をろ過して回収し、20mLのDMFで洗浄した後に、20mLのエタノールでリンス洗浄した。洗浄後の金属錯体を、窒素気流下、100℃で3時間乾燥することで0.87gの粗製物を得た。
【0077】
当該粗製物0.50gをエタノール25mLに分散させ、80℃で12時間洗浄した。洗浄後、ろ過後、乾燥窒素流通下、100℃で6時間加熱することで本実施例の金属錯体とした。
<評価>
本実施例の金属錯体のXRDパターンから、本実施例の金属錯体はMIL−101(Cr)と同等なXRDパターンを有することが確認できた。XRDパターンを図5に、結果を表3に示した。
【0078】
実施例3
<合成>
200mLのナスフラスコに無水塩化アルミニウム0.67g(5.0mmol)、テレフタル酸0.50g(3.0mmol)および含水量が125重量ppmのN,N−ジメチルホルムアミド60mLを混合し、原料混合物を得た。当該原料混合物のHO/Alは0.08、TA/Alは0.6、及びアルミニウム濃度は0.083mol/Lであった。
【0079】
当該原料混合物を撹拌しながら20分で110℃まで加熱し、攪拌を継続したまま110℃で1時間保持した。その後、160℃に加熱して原料混合物を還流させながら、2時間反応させることで白色固体状の金属錯体を得た。
【0080】
当該金属錯体をろ過して回収し、20mLのDMFで洗浄した後に、20mLのエタノールでリンス洗浄した。洗浄後の金属錯体を、窒素気流下、100℃で3時間乾燥することで0.75gの粗製物を得た。
【0081】
当該粗製物0.50gをエタノール25mLに分散させ、80℃で12時間洗浄した。洗浄後、ろ過後、乾燥窒素流通下、100℃で6時間加熱することで本実施例の金属錯体とした。
【0082】
<評価>
本実施例の金属錯体のXRDパターンから、本実施例の金属錯体はMIL−101(Cr)と同等なXRDパターンを有することが確認できた。XRDパターンを図6に、結果を表3に示した。
【0083】
【表3】
【0084】
比較例1
<合成>
DMFとして、含水量が1000重量ppmのDMFを使用したこと以外は実施例2と同様な方法により、本比較例の金属錯体を得た。本比較例において、原料混合物のHO/Alは1.05、TA/Alは0.6、及びアルミニウム濃度は0.083mol/Lであった。得られた粗製物は0.72gの白色固体であった。
【0085】
<評価>
実施例1と同様にして本比較例の金属錯体を評価した。得られたXRDパターンは2θ=5.82°のXRDピークを有していなかった。また、当該XRDパターンより、本比較例の金属錯体はMIL−53(Al)であり、その空間群はPnamであることが確認できた。また、BET比表面積は1100m/、及び、細孔容積は0.62cm/gであった。XRDパターンを図7に、結果を表4に示した。
【0086】
比較例2
<合成>
アルミニウム源として塩化アルミニウム6水和物1.21g(5.0mmol)を使用したこと以外は実施例2と同様な方法により、本比較例の金属錯体を得た。本比較例において、原料混合物はアルミニウム源の水和物に由来する水(HO)を含むため、そのHO/Alは6.0以上である。また、原料混合物のTA/Alは0.6、及びアルミニウム濃度は0.083mol/Lであった。得られた粗製物は0.68gの白色固体であった。
【0087】
<評価>
実施例1と同様にして本比較例の金属錯体を評価した。得られたXRDパターンは2θ=5.82°のXRDピークを有していなかった。また、当該XRDパターンより、本比較例の金属錯体はMIL−53(Al)であり、その空間群はPnamであることが確認できた。また、BET比表面積は1030m/、及び、細孔容積は0.60cm/gであった。XRDパターンを図8に、結果を表4に示した。
【0088】
比較例3
<合成>
DMFを120mLとしたこと、及び、反応温度を120℃としたこと以外は比較例2と同様な方法により、本比較例の金属錯体を得た。本比較例において、原料混合物はアルミニウム源の水和物に由来する水(HO)を含むため、そのHO/Alは6.0以上である。また、原料混合物のTA/Alは0.6、及びアルミニウム濃度は0.042mol/Lであった。得られた粗製物は0.80gの白色固体であった。
【0089】
<評価>
実施例1と同様にして本比較例の金属錯体を評価した。得られたXRDパターンは2θ=5.82°のXRDピークを有していなかった。また、当該XRDパターンより、本比較例の金属錯体はMIL−68(Al)であり、その空間群はCmcmであることが確認できた。また、BET比表面積は1420m/、及び、細孔容積は0.87cm/gであった。XRDパターンを図9に、結果を表4に示した。
【0090】
【表4】
【0091】
これらの比較例より、HO/Alが0.50を超えた原料混合物を用いた場合、MIL−53(Al)またはMIL−68(Al)が得られることが確認できた。特に、比較例1は、実施例2とHO/Al以外は同じである。このように、原料混合物中の水の量に着目し、これを制御することで本発明の金属錯体が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の金属錯体は、高い耐熱性及び高比表面積を兼ね備え、さらには高い細孔容積を有する。そのため、本発明の金属錯体は、水素、二酸化炭素、窒素、並びにメタン及びプロパン等の炭化水素やこれらの混合ガスのガス吸着、分離、又は貯蔵に適用できる。さらに、本発明の金属錯体は、これをそのまま触媒として適用することや、白金やパラジウム等の貴金属を表面に固定化した上で触媒として適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9