(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221912
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】はんだ接合用銅合金
(51)【国際特許分類】
C22C 9/06 20060101AFI20171023BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20171023BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
C22C9/06
C22C9/00
B23K35/30 310C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-81198(P2014-81198)
(22)【出願日】2014年4月10日
(65)【公開番号】特開2015-199115(P2015-199115A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】富樫 亮
【審査官】
川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−290543(JP,A)
【文献】
特開昭60−036638(JP,A)
【文献】
特開昭53−045622(JP,A)
【文献】
特開2014−007227(JP,A)
【文献】
特表2012−522138(JP,A)
【文献】
特開昭56−133442(JP,A)
【文献】
特開昭56−058941(JP,A)
【文献】
特開昭62−063633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
B23K 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルが10質量%以上35質量%以下、銀が2質量%以上20質量%以下の割合で含有されてなり、スズの含有量が5.0質量%以下であり、残部が銅及び不可避不純物であることを特徴とするはんだ接合の被接合材である銅合金。
【請求項2】
ニッケルが16質量%以上35質量%以下、銀が1質量%以上20質量%以下の割合で含有されてなり、スズの含有量が5.0質量%以下であり、残部が銅及び不可避不純物であることを特徴とするはんだ接合の被接合材である銅合金。
【請求項3】
ニッケルが16質量%以上28質量%以下、銀が2質量%以上10質量%以下の割合で添加されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅合金。
【請求項4】
245℃で溶融するSn−3.5質量Ag−0.5質量%Cuはんだ浴を用いて、JIS C 60068−2−54に準拠した試験方法にて測定された、熱平衡状態で接している当該銅合金と該はんだ浴との接触角が90度以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の銅合金。
【請求項5】
150℃の大気中で10分間加熱された前記銅合金と、245℃で溶融するSn−3.5質量Ag−0.5質量%Cuはんだ浴とが熱平衡状態で接しているとき、JIS C 60068−2−54に準拠した試験方法にて測定された、当該銅合金とはんだ浴との接触角が90度以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の銅合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子部品や半導体素子の外部電極等をはんだ接合するために用いるはんだ接合用銅合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子部品や半導体素子の外部電極等をはんだ接合する場合の接続先の合金は、はんだとの濡れ性が高まるような状態で行われる。
【0003】
例えば、接続部品の骨格を構成する合金がFe−42質量%Ni合金(42アロイ)の場合には、接続面に金めっきを施したり、Cu−2.4質量%Fe−0.03質量%P−0.12質量%Zn(アロイ194)の場合には、銀めっき上にさらに錫めっきを施したり、あるいはニッケルめっき上にさらにパラジウムめっきを施したり、銅配線基板の場合には、配線材として純銅や添加量の低い銅合金を用いたりと、いずれもはんだ接合時における溶融はんだとの濡れ性を高める工夫を施している。
【0004】
ところで、近年、生産性を高めるためのプロセスの簡略化、部品点数削減、貴金属使用量の低減等、低コスト化要求が強くなっており、電子部品や半導体素子の外部電極をはんだ接合する場合の接続先の合金においても、そのような要求がある。具体的には、リードフレームの銀めっき領域は、ワイヤボンディングに必要な狭小領域に留めるようにし、半導体パッケージをはんだ接合する外部電極部分のめっきは省略したいといった要求である。
【0005】
例えば、半導体パッケージ等を構成する銅合金の表面にめっきを施すことなく直接はんだ接合する方法として、例えば、ニッケル、錫、亜鉛等を含む銅合金を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平07−116536号公報
【特許文献2】特許第2858894号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の銅合金は、外観色が銅色であり、大気中で加熱されると表面が酸化して容易に変色してしまうという問題があり、外観が重要視される場合には、別途、金、銀、パラジウム等のめっきを施すことが必要となる。また、特許文献2に記載の銅合金では、ニッケル添加量を15質量%としていることにより酸化による変色は抑制されるものの、大気中で150℃程度に加熱され表面に酸化被膜が生じてしまうと、はんだ濡れ性が著しく低下するという問題がある。
【0008】
ニッケルを10質量%〜30質量%の割合で添加した銅合金は、キュプロニッケルと呼ばれており、耐食性や酸化による変色を抑制できる点から外観や耐候性を重視する場合には使用したい材料の一つである。ところが、例えば大気中において温度150℃10分間程度の加熱を行うと、はんだ濡れ性が著しく悪化して安定しない。キュプロニッケルは、上述のように加熱しても表面色が純銅のように大きくは変化しないため、肉眼での酸化状態の評価に基づくはんだ付け可否の判断を行うことができず、はんだ接合を行う際のプロセス管理上の問題となっていた。
【0009】
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、大気中の加熱酸化等による変色を抑制することができ、また加熱後であっても優れたはんだ濡れ性を示すはんだ接合用銅合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、銅を主成分とするはんだ接合用銅合金において、所定の割合でニッケルを含有させるとともに、所定の割合で銀を含有させることによって、酸化等による変色を抑制することができ、また優れたはんだ濡れ性を示すようになることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、銅を主成分とし、ニッケルが10質量%以上35質量%以下、銀が1質量%以上20質量%以下の割合で含有されてなることを特徴とするはんだ接合用銅合金である。
【0012】
(2)また本発明は、(1)に係る発明において、ニッケルが16質量%以上28質量%以下、銀が2質量%以上10質量%以下の割合で添加されてなることを特徴とするはんだ接合用銅合金である。
【0013】
(3)また本発明は、(1)又は(2)に係る発明において、245℃で溶融するSn−3.5質量Ag−0.5質量%Cuはんだ浴を用いて、JIS C 60068−2−54に準拠した試験方法にて測定された、熱平衡状態で接している当該銅合金と該はんだ浴との接触角が90度以下であることを特徴とするはんだ接合用銅合金である。
【0014】
(4)また本発明は、(1)乃至(3)の何れかに係る発明において、150℃の大気中で10分間加熱された前記銅合金と、245℃で溶融するSn−3.5質量Ag−0.5質量%Cuはんだ浴とが熱平衡状態で接しているとき、JIS C 60068−2−54に準拠した試験方法にて測定された、当該銅合金とはんだ浴との接触角が90度以下であることを特徴とするはんだ接合用銅合金である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るはんだ接合用銅合金によれば、10質量%以上35質量%以下の割合でニッケルを含有するため、金属光沢を有する明るく淡い銅色から銀白色に亘っており、また150℃程度に加熱されても変色がなく、良好な外観となる。また、外観が特に重要視される場合であっても、貴金属等によるめっきを省略することができる。
【0016】
また、本発明に係るはんだ接合用銅合金では、銀を1質量%以上20質量%以下の割合で含有するため、例えば150℃程度に加熱された後であっても、はんだ接合においては安定的に優れたはんだ濡れ性を示し、はんだ接合作業における品質管理が容易となり、且つはんだ接合の信頼性を高めることができる。そのため、はんだ付けのための銀やパラジウム、あるいは錫等によるめっきを施す必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】溶融はんだ浴中へ銅合金を浸漬した場合の接触角(θ)との関係に基づく、その銅合金のはんだ濡れ性の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るはんだ接合用銅合金の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0019】
本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金(以下、単に「銅合金」ともいう)は、銅を主成分として構成される銅合金であり、ニッケルと、銀とを、それぞれ所定の割合で添加成分として含有する。具体的に、このはんだ接合用銅合金は、銅を主成分として、ニッケルが10質量%以上35質量%以下の割合で含有され、銀が1質量%以上20質量%以下の割合で含有されてなることを特徴としている。なお、主成分とは、その含有割合が51質量%以上であることをいう。
【0020】
ここで、リフロー方式によりはんだ付け処理を行う場合、銅合金を含む基板は、150℃〜180℃程度の高い温度に予備加熱され、その後、230℃〜250℃程度に加熱された溶融はんだ浴内を搬送通過することではんだ付けされる。ところが、従来のはんだ接合用銅合金では、そのリフロー時における加熱時に酸素を含む雰囲気中では容易に酸化して変色し、また表面に形成された酸化被膜によってはんだ濡れ性が著しく低下し、良好にはんだ接合することができず、プロセス管理も困難となっていた。また、錫やインジウムといった低融点金属を使用した金属・合金の場合、250℃程度に加熱されることによって、溶融したり、軟化することもあった。
【0021】
これに対して、本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金によれば、上述したように、所定の割合でニッケルを含有するとともに、所定の割合で銀を含有してなることにより、大気中における加熱酸化等による変色を効果的に抑制することができ、優れた外観を有するようになる。また、このようなはんだ接合用銅合金では、例えばリフローはんだ付け処理における高い温度での予備加熱後であっても、安定的に優れたはんだ濡れ性を維持することができ、良好にはんだ接合を行うことができる。
【0022】
はんだ接合用銅合金は、用途に応じて種々の大きさとすることができ、その大きさは特に限定されるものではない。このはんだ接合用銅合金は、一般的な電気接点材料、電極材料等として用いられる電子部品用材料用途として用いることができる。例えば、詳しくは後述する所定の成分組成からなる溶解鋳塊から、切断、圧延、鍛造、曲げ加工、打抜き、研摩等を行うことによって製造することができ、得られた銅合金を用いて、クラッド、溶着、蒸着、スパッタ等の用途に合わせた方法により加工して電子部品用材料として供することができる。
【0023】
例えば、本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金を原料としてスパッタリングターゲットを作製し、そのターゲットを用いて、電子部品の電極の最表面を構成する銅合金皮膜を形成させるようにする。このようにして形成した銅合金皮膜では、加熱酸化等による変色がなく、また例えばリフローはんだ処理時における150℃程度の予備加熱等を行った後であっても、優れたはんだ濡れ性を示すようになり、信頼性の高いはんだ接合を行うことができる。
【0024】
本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金は、上述したように、ニッケルを10質量%以上35質量%以下の割合で含有する。このはんだ接合用銅合金では、ニッケルを10質量%以上35質量%以下の割合で含有することによって、その色が銅のいわゆる赤銅色ではなく、金属光沢を有する明るく淡い銅色から銀白色に亘るような良好な外観となり、また耐食性や酸化による変色を効果的に抑制することができる。具体的には、例えば、大気中に150℃以上の温度で10分間加熱した状態であっても、外観色の変化を生じさせることなく、外観に優れた銅合金とすることができる。
【0025】
ニッケルの含有量に関して、銅合金中のニッケルの含有量が10質量%未満では、外観色が銅色となり、例えば大気中150℃以上の温度で加熱すると容易に変色して赤みを呈する。一方で、ニッケルの含有量が35質量%を超えると、同じ銀白色を示す純チタンの電気比抵抗の40μΩcmを超えてしまうため、例えば当該銅合金を電極材料等の一部に使用した場合、電気的特性が悪くなる可能性がある。
【0026】
また、ニッケルの含有量としては、16質量%以上28質量%以下であることがより好ましい。ニッケルの含有量がこのような範囲内であることにより、より一層に外観の良好な銅合金とすることができる。
【0027】
さて、ニッケルは、一般的に、はんだへの濡れ性が悪い。そのため、はんだへの濡れ性が高い銅にニッケルを添加していくと、その添加量が増加するに従って次第に濡れにくくなり、はんだをはじくようになる。ここで、
図1に、溶融はんだ浴11中へ銅合金10を浸漬した場合の接触角(θ)との関係に基づく、その銅合金10のはんだ濡れ性の様子を模式的に示す。銅合金をはんだ接合する場合には、
図1(A)及び(B)に示すように、溶融はんだ浴に対して接触角が90度以下(θ≦90度)になることが必要となる。出荷後、はんだ付け作業までに曝露される高温あるいは高湿といった環境にかかわらず接触角が安定して90度未満となるような材料であれば、はんだ付け作業の品質管理が容易になり、はんだ接合の信頼性が向上する。
【0028】
なお、
図1(B)は、溶融はんだ浴11に対する銅合金10の接触角(θ)が90度(θ=90度)となるものであり、この場合、θ<90度の場合に比べては若干劣るものの、はんだ濡れ性は良好となる。一方で、
図1(C)は、溶融はんだ浴11に対する銅合金10の接触角(θ)が90度を超える(θ>90度)ものであり、この場合には、はんだ濡れ性が不良であると判断される。
【0029】
上述したように、ニッケルを所定の割合で含む銅合金では、例えば大気中150℃以上の温度で10分間加熱されても外観色の変化は見られないものの、表面は酸化され、はんだ濡れ性が著しく低下する。そこで、本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金では、所定の割合で銀を添加してなることを特徴としている。
【0030】
具体的に、本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金は、銀を1質量%以上20質量%以下の割合で含有する。このはんだ接合用銅合金では、銀を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することによって、はんだ濡れ性を高めることができる。また、このような銀の添加は、はんだ付け作業におけるフラックスによるはんだ濡れ性の改善効果をより高めることに寄与する。
【0031】
銀の含有量に関して、銅合金中の銀の含有量が1質量%未満では、はんだ濡れ性の改善効果が得られない。一方で、銀の含有量が20質量%を超えても、はんだ濡れ性の改善効果は飽和して変わらないものの、コストが高くなり非効率となる。
【0032】
また、銀の含有量としては、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。銀の含有量がこのような範囲内であることにより、後述するように、例えばスズ(Sn)等の元素が少量混入した場合であっても、その高いはんだ濡れ性を確実に維持することができ、より信頼性の高いはんだ接合が可能となる。
【0033】
このように、本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金は、銅を主成分として構成され、ニッケルが10質量%以上35質量%以下、銀が1質量%以上20質量%以下の割合で含有されてなる。このはんだ接合用銅合金によれば、金属光沢のある明るく淡い銅色から銀白色に亘る良好な外観を有し、また150℃程度に加熱されても変色が認められない。そのため、視覚的に良好で外観が重要視される場合でも貴金属等によるめっきを省略することができる。また、より好ましくは、ニッケルを16質量%以上、銀を2質量%以上の割合で含有させることによって、外観色が銀白色系となるため、外観をより優れたものとすることができる。
【0034】
また、本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金では、例えば150℃程度に酸化された後であっても、その後のはんだ接合においては純銅に近い優れたはんだ濡れ性を示す。具体的には、このはんだ接合用銅合金は、245℃で溶融するSn−3.5質量Ag−0.5質量%Cuのはんだ浴を用いて、JIS C 60068−2−54(IEC 60068−2−54)に準拠したはんだ付け性試験方法(はんだ槽平衡法)にて測定された、熱平衡状態で接している当該銅合金とそのはんだ浴との接触角(θ)が90度以下である。また、このはんだ接合用銅合金は、150℃の大気中で10分間加熱された状態において、その銅合金と、245℃で溶融するSn−3.5質量Ag−0.5質量%Cuのはんだ浴とが熱平衡状態で接しているとき、JIS C 60068−2−54に準拠した試験方法にて測定された、当該銅合金とそのはんだ浴との接触角が90度以下である。
【0035】
なお、150℃の大気中での加熱は、例えばリフローはんだ付け処理における予備加熱の条件に近似する。また、150℃の温度条件での10分間の加熱は、試料表面に対する酸化処理の加速試験とみなすことができる。
【0036】
このような高いはんだ濡れ性を有する銅合金によれば、はんだ接合作業における品質管理が極めて容易となり、はんだ接合の信頼性を高めることができる。また、はんだ付けのための銀やパラジウム、あるいは錫等のめっきを施す必要がなく、低いコストで銅配線基板等の電子部材を製造することが可能となる。なお、本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金の、溶融はんだに対する高い濡れ性は、上述したような、245℃で溶融するSn−3.5質量Ag−0.5質量%Cuのはんだ浴に限られるものではなく、例えば、このはんだ浴よりも溶融温度の低いはんだ浴であっても同様に高い濡れ性を示す。
【0037】
さらに、溶解鋳造時においてニッケル及び銀の不可避不純物以外の意図しない元素が少量混入したとしても、銀を1質量%以上20質量%以下の割合で、好ましくは2質量%以上10質量%以下の割合で含有していることにより、高いはんだ濡れ性を維持することができる。具体的には、例えば、スズ(Sn)を5.0質量%以下の割合で含むものであっても、高いはんだ濡れ性を維持することができる。このことにより、使用できる金属原料の範囲が広まり、組成によってはスクラップ金属等の純度の低い安価な金属を原材料として使用することができる。
【0038】
なお、このように、銅合金中にSnを含有する場合、Snの含有量としては5.0質量%以下であることが好ましい。また、このようにSnが5.0質量%以下の割合で含まれる場合においては、銀の含有量としては2質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましい。これにより、Snが含有されている場合であっても、より効果的に、高いはんだ濡れ性を維持することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
<実施例及び比較例の銅合金の製造>
実施例及び比較例において、下記表1に示すような成分組成となるようにして銅合金溶湯を調製して銅合金試料を製造した。なお、表1に示すように、成分としては、ニッケル、銀、及び錫をそれぞれ所定の割合で含有する。
【0041】
具体的には、高周波真空溶解炉を用いて、下記表1に示される成分組成を有する銅合金溶湯を真空中で作製し、その真空で10分間保持した後にアルゴンガス雰囲気で黒鉛鋳型に鋳込んで鋳塊を作製した。そして、作製した鋳塊を、厚さ0.3mm、幅5.0mm、長さ15.0mmの短冊状に切り出して銅合金試料とし、以下に示す評価に供した。
【0042】
<評価>
作製した銅合金試料に対して、外観色の評価と、はんだ濡れ性の評価を行った。
【0043】
外観色の評価は、肉眼により行い、色の濃い順に、4N純度銅を大気中150℃で加熱した酸化銅の色である暗橙色を『5』、酸化していない4N純度銅の銅色を『3』、百円硬貨のような銀白色を『1』、それぞれの中間を『4』、『2』として、5色の中から最も近い色を判定した。また、外観色は、切り出した直後(非加熱外観色)と、大気中150℃の温度で10分間加熱後(加熱後外観色)との2つの段階基準で評価した。
【0044】
はんだ濡れ性の評価は、株式会社レスカ製のソルダーチェッカ(SAT−5200)を使用して評価した。はんだ濡れ性の試験では、フラックスとして、ロジン25%、イソプロパノール75%からなる溶液へ塩化ジメチルアンモニウムを添加した活性化ロジンフラックスを用いた。また、はんだ浴としては、Sn−3質量%Ag−0.5質量%Cuを溶解して245℃に保持した溶融はんだ浴を用いた。なお、銅合金試料のはんだ浴への浸漬速度は5mm/s、浸漬深さは2mm、浸漬時間は30秒とした。
【0045】
ここで、ソルダーチェッカは、銅合金試料に働く浮力Bと表面張力Sとの差を濡れ力F(F=S−B)とし、その濡れ力Fを経時観測するものである。そこで、銅合金試料のはんだ濡れ性については、濡れ力Fの最大値がゼロ以上の場合を『良』、ゼロ未満の場合を『不良』として評価した。
【0046】
<結果>
下記表1に、外観色の評価結果と、はんだ濡れ性の評価結果を示す。なお、表1には、上述したように、各実施例、比較例における銅合金の成分組成についても併せて示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1の結果に示すように、実施例1では、外観色は完全には銀白色ではないものの、加熱前後で外観変化が全く見られず変色を効果的に抑制することができた。また、この実施例1の銅合金は、はんだ濡れ性が極めて良好であり、加熱後であっても優れたはんだ濡れ性を示した。
【0049】
また、実施例2〜7では、外観色が加熱前後で銀白色を示し、また加熱前後で外観変化が観察されず変色を効果的に抑制することができた。また、この実施例2〜7の銅合金も、はんだ濡れ性が極めて良好であり、加熱後であっても優れたはんだ濡れ性を示した。
【0050】
一方で、比較例1、3、5、6では、加熱前後のはんだ濡れ性は良好であったものの、外観色が銅色であり加熱後の変色が容易に観察された。また、比較例2、4、7では、外観色は銀白色を示して加熱前後での変化が無かったものの、銀を含有していない、あるいは、極微量の添加(1質量%未満)であったことから、加熱前後又は加熱後のはんだ濡れ性は著しく不良なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本実施の形態に係るはんだ接合用銅合金によれば、例えば150℃程度に加熱されても外観色の変化を効果的に抑制することができ、視覚的に良好な外観を有する。また、加熱前後のはんだ濡れ性が高く維持されるため、はんだ接合の作業性が容易で、信頼性も高くなり、外観が重要視される場合のはんだ接合用合金として特に好ましい。また、金、パラジウム、銀よりも金属価格が安価であり、電子部品業界での利用価値は極めて大きい。
【符号の説明】
【0052】
10 銅合金
11 溶融はんだ